【論文】周牧之:比較研究:ゼロコロナ政策とウイズコロナ政策(Ⅰ)2020 ―感染抑制効果と経済成長の双方から検証―

A comparative study on zero-case policy and coexistence policy from perspectives of COVID-19 control and economic development

周牧之 東京経済大学教授

■ 編集ノート: 
 突如勃発した新型コロナパンデミックは人類社会に大きな災難をもたらした。各国はこのパンデミックにどう対応したのか?それぞれの政策の有効性について、周牧之東京経済大学教授がパンデミック初期から比較研究を行ってきた。本論文はコロナパンデミックの3年間における主要各国の政策を、ゼロコロナ政策とウイズコロナ政策という軸で比較した。前半では、初期の2020年の各国のパフォーマンスについて、感染抑制効果と経済成長の双方から、詳細のデータで検証した。


始めに


 日本はいまなお新型コロナウイルス感染が猛威を振るっている。筆者が暮らす東京都での累積感染者数は本稿締切直前の2022年8月31日現在で約276万人[1]に及び、都の全人口約1,404万人[2]の約19.7%が新型コロナウイルスに罹患したことになる。さらに6月末から始まった第7波の新規感染者数は、新型コロナウイルスが流行して以来の東京都における感染者数の45.4%%を占めた。しかし、第7波の真最中、政府は敢えて行動規制の緩和を進めた。岸田文雄首相は8月27日、自らのコロナ療養中にも関わらず、「無症状者の外出容認」まで検討していることを認めた。無症状者も感染力を持つことを完全に無視している。

 岸田政権がウイズコロナ政策の色彩を強める中、ゼロコロナ政策を取る中国への批判的報道も数多い。これに対して本稿では、感染抑制と経済パフォーマンスの両面から中国のゼロコロナ政策の有効性について改めて検証を行い、新型コロナウイルス・パンデミックに見舞われた3年間に主要各国が採ったゼロコロナ政策とウイズコロナ政策を比較検証する[3]

1.2020年中国での新型コロナウイルス感染対策の経緯


 2019年末から世界は新型コロナウイルスの脅威に曝された。中国の状況を時系列に追っていくと、2019年12月31日に中国疾病預防控制中心(CCDC)が専門家を湖北省武漢市に派遣し、同市で起こった感染症に関する調査を始めた。2020年1月3日に中国政府は世界保健機構(WHO)に通報、1月20日に新型コロナウイルス感染症を『中華人民共和国伝染病防治法』[4]に適用した。

(1)ロックダウンが武漢から全土へ

 上記法律の適用により、1月23日に武漢市をロックダウン(都市封鎖)した[5]。WHOが「パンデミック」宣言を行ったのは武漢ロックダウンから48日後の3月11日であった。

 中国は武漢ロックダウン翌日の1月24日、湖北省全域に対して「緊急対応(Emergency response)レベル」1級を発令した。緊急対応レベルとは、『国家突発公共衛生事件応急預案』に基づく対応レベルであり、1級(4段階の最高レベル)とは、休業、休校を要請し、交通を遮断し、移動と接触を極力避ける措置である。「預案」とは日本語でマニュアルを意味する。つまり、1級対応で湖北省全域がロックダウンとなった。

 さらに、1月末までに、中国の31省・直轄市・自治区すべてが同1級対応となり、中国全土が実質上、ロックダウンされた。

(2)感染症対策における法整備およびマニュアル化

 中国の感染症対策における法整備は『中華人民共和国伝染病防治法』に基づいている。2002年〜2003年に起きた重症急性呼吸器症候群(SARS)の経験を踏まえ、2003年5月に中国政府は『突発公共衛生事件応急条例』を公布した。2006年1月8日には『国家突発公共事件総体応急預案』を公布した。これは、法律、条例、総体応急預案に基づき、公共衛生に関わる突発的な事態に対して整備されたマニュアルである。2007年8月には『中華人民共和国突発事件応対法』を公布し、上記の法律、条例、応急預案をさらに法的に体系化した。なお、「突発事件」とは、自然災害、 事故災難、公衆衛生事件及び社会の安全に関する事件を意味する。

 中国の新型コロナウイルス対策を議論する場合、感染症対策関連の法整備やマニュアル化がSARS以降体系的に整備されていたことに注目すべきである。こうした体制的な整備がなされていた故に迅速かつ徹底した対応が取れたと言えよう。

(3)「4月周レポート」

 武漢ロックダウン解除直後の4月20日、筆者は「新型コロナパンデミック:なぜ大都市医療能力はこれほど脆弱に?」と題したレポートの中国語版(以下「4月周レポート」と略称)を発表、世界に先駆けて武漢で何が起こり、どのような対策が取られたかについて検証した[6]。「4月周レポート」の英語版[7]。と日本語版[8]。も4月21日、5月12日に公表され、中国国務院新聞弁公室HP、チャイナ・デイリーなど多くの内外メディアに転載された。

4月周レポート(※画像をクリックすると当該記事に移動します)

 武漢市は、東京都と同様に約1,400万の人口を抱える大都市である。「4月周レポート」がまず注目したのは同市の医療資源の豊かさである。

 前述の『中国都市総合発展指標』は、多くの都市評価指標を有し、その中に都市医療能力を評価する「医療輻射力[9]。という指標がある。『中国都市総合発展指標2019』における医療輻射力で、武漢市は全国で第6位と高順位にある。

 海外から見ると武漢市は中国の一地方都市に映るかもしれないが、実際は、先進国の大都市と比較しても医療資源が豊富である。武漢の人口1千人当たりの医師数は4.9人で、東京都の同3.3人、ニューヨーク州の同4.6人より多い。また、人口1千人当たりの病床数でも、武漢市はニューヨーク州の5.1床よりも多く9.5床に達し、病床を多く抱える東京都の12.8床に迫る。つまり、武漢市は世界的に見ても極めて高水準の医療リソースを有する。

1 中国都市医療輻射力2019

出所:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2019』より作成。

(4)武漢医療崩壊の三大原因

 「4月周レポート」は、医療資源の豊富な武漢市が、なぜ新型コロナウイルスでたちまち医療崩壊に陥ったのかに着目した。さらに、新型コロナウイルスによる医療崩壊の三大原因として、①医療現場がパニックに陥った、②院内感染による医療従事者の大幅減員、③病床不足という仮説を立て、その原因を検証した。

 仮説1「医療現場がパニックに陥った」については、感染拡大初期に感染を疑う人々がこぞって医療機関に駆け込み、医療現場が大混乱した経緯を指す。その結果、医療リソースを重症患者に振り向けられなくなり、致死率が上昇するオーバーシュートが発生した。さらに、大勢の人々の病院への駆け込みは院内感染という大災害へ発展していった。2020年における中国の新型コロナウイルス感染死亡者数の累計83.3%が武漢に集中していることから、初期の現場でのパニック被害の甚大さが伺える。

 仮説2「院内感染による医療従事者の大幅減員」は武漢だけでなく、その後世界中で発生した。国際看護師協会(ICN)は、2020年5月6日までに報告された30カ国のデータを元に、医療従事者の大幅減員についてレポートを公表した[10]

 同報告は、少なくとも9万人の医療従事者が新型コロナウイルスに感染したと公表した。個々の状況では、スペインでは5月5日までに、4万3956人(全感染者の18%)の医療従事者が感染した。イタリアでは、4月26日までに、1万9,942人の医療従事者が感染し、150人の医師と35人の看護師が亡くなった。日本では4月末までに、院内感染者は新型コロナウイルス感染者の1割近くにも達し、その中には多くの医療従事者が含まれていた。

 「4月周レポート」は、強力な感染力を持つ新型コロナウイルスは、医療従事者の安全を脅かし、医療能力を弱め、都市の医療システムを崩壊の危機に陥れていると警鐘を鳴らし、医療従事者の安全を如何に最優先に守って行くかが、新型コロナウイルス対策の肝心要であると強調した。

 仮説3「病床不足」については、新型コロナウイルス感染拡大後、マスク、防護服、消毒液、PCR検査薬、呼吸器、人工心肺装置(ECMO)などの医療リソースの枯渇状況が各国で発生し、特に深刻なのは病床の著しい不足であった。感染症用の病床は一般病床と違い、感染力の強いウイルスの拡散防止のため患者は隔離治療しなければならない。とりわけ、重症患者は集中治療室(ICU)での治療が不可欠だ。病床不足が武漢で致死率を高めた主因の一つとなった。

 実際、病床不足はその後各国が悩まされる大きな問題となった。

(5)即効性があった武漢対策

 「4月周レポート」は中国政府が武漢の状況を打開するために取り組んだ対策についても検証した。まず武漢の医療従事者大幅不足を解消するため、中国は全土から武漢へ救援医療従事者を迅速に派遣した。ロックダウン翌日に上海からの救援医療チームが到着した。全土から駆けつけた医療従事者の総数は4万2,000人にまで達した。

 この措置は、武漢の医療崩壊の食い止めに繋がった。しかし、医療従事者の大規模な動員は、日本をはじめ各国ではほとんど実施できなかった。実際、感染拡大地域に迅速かつ有効な救援活動を施せるか否かが、新型コロナウイルス制圧を占う一つの鍵になる。

 次に、病床不足への対策として中国が取り組んだのは、患者を重症者と軽症者とに分けることであった。これによって、医療リソースが重症者に中心的に振り向けられたのである。重軽症者分離収容措置は、後に他の国でも参照されている。

 さらなる取り組みは、ハイスピードで重症者向けと軽症者向けの仮設病院を建設することであった。こうした措置は、SARSの経験が活かされた。

 1月23日のロックダウン開始からたった10日という短期間で、重症者向け仮設病院が建設され、1000床を持つ「火神山病院」の使用が開始された。その3日後、二つ目の重症者向けの「雷神山病院」が稼働した。両病院で病床数は計2,600床に達し[11]、一気に重症患者の治療キャパシティが上がった。また、武漢は体育館などを16カ所の軽症者収容の「方舱病院」へと改装し、2月3日から順次患者を受け入れ、1万3,000床の抗菌抗ウイルスレベルの高い病床を素早く提供し、軽症患者の分離収容を実現させた[12]

 「4月周レポート」が検証した武漢モデルは、後の新型コロナウイルス対策には大きな参考意義を持つ。

(6)オゾン利用

 オゾン利用も、新型コロナウイルス感染対策として挙げられる。この対策には筆者も関わっている。筆者は、新型コロナウイルスの感染拡大初期、オゾンが新型コロナウイルス対策に有効ではないかと考え研究を始めた。武漢がロックダウンされて1カ月足らずの2020年2月18日、筆者は新型コロナウイルス対策としてオゾン利用を提唱するレポート(以下「2月周レポート」と略称)[13]を公表、英語版[14]と日本語版[15]も2月26日、3月19日に公表され、多くの内外メディアに転載された。

2月周レポート(※画像をクリックすると当該記事に移動します)

 「2月周レポート」は3つの仮説で構築される。仮説1は、「自然界の低濃度オゾンが、地球上の細菌やウイルスといった微生物の過度な繁殖と拡散を防いだファクターではないか」という内容である。仮説2は、「強い酸化力を持つオゾンこそが、真の“神の手”である」という内容である。例えば、インフルエンザは季節性があり、要因として主に温度や湿度が論じられてきたが、決定的な要因とは結論付けられていなかった。筆者は、オゾンこそが主要因との仮説を立てた。仮説3は、仮説1と仮説2の上に成り立ち、「自然界と同レベルの低濃度オゾンでも新型コロナウイルスに対して相当の不活性化力を持つ」という仮説である。

 「2月周レポート」はこの3つの仮説を持って、新型コロナウイルスを制圧するため低濃度のオゾンを広く有人空間で使用するよう提唱した。

 筆者の故郷である中国湖南省に本社を置く世界的空調メーカー「遠大科技集団」のオーナー張躍氏がこの説に賛同し、武漢の多くの病院にオゾン発生機能付き空気清浄機を寄付した。特に、武漢青山方艙病院、武漢楠姆方艙病院には、オゾン発生機能付き空気清浄機が大量に導入された。結果として、これら病院では、医療従事者に二次感染は発生しなかった。

 「2月周レポート」公表3カ月後の2020年5月14日には、公立大学法人奈良県立医科大学等研究グループより、世界で初めてオゾンガス曝露による新型コロナウイルスの不活化が確認された[16]。さらに「2月周レポート」公表半年後の同年8月26日には、学校法人藤田医科大学等研究グループより、低濃度(0.05 ppmまたは0.1ppm)のオゾンガスでも新型コロナウイルスに除染効果があるとの実験結果が公表された[17]。実験結果の報告により「2月周レポート」で出した3つ目の仮説「自然界と同じレベルの低濃度のオゾンであっても新型コロナウイルスに対して相当の不活性化力を持つ」について科学的に実証された[18]

(7)状況に即した行動制限レベルの調整

 中国政府は、状況に即して行動制限のレベルの調整を図った。甘粛省は、2020年2月21日に「公衆衛生上の緊急事態対応レベル」を3級に引き下げた。その後、各地域は状況に即して相次ぎ対応レベルの引き下げを行った。

 武漢ではゼロコロナ政策が徹底的に実行された。3月18日に新規感染者がゼロになった後もさらに14日間ロックダウンが継続された。4月8日の解除で、ロックダウン期間は最終的に77日間に及んだ。2020年武漢の感染者数は、51,042人、死亡者数は3,869人、致死率は7.6%に至った。

 6月13日には、中国全土のすべての地域が「公衆衛生上の緊急事態対応レベル」3級になった。中国は世界に先駆けて日常生活を取り戻すことに成功した。

 その後、感染事例が発生した地域には、再度、緊急事態対応レベルを引き上げる措置も行っている。例えば、2020年6月16日には、北京で感染クラスターが発生し、同市の「公衆衛生上の緊急事態対応レベル」を3級から2級に引き上げて対応、1カ月後の7月20日に3級に引き下げた。

図2 武漢ロックダウン期間における新規感染者数・死亡者数

出所:中国湖北省衛生健康委員会HPより作成。

(8)2020年中国各都市における新型コロナウイルス感染状況

 新型コロナウイルス感染抑制を優先する中国は、まず武漢を始めとするホットスポットを迅速に抑え込み、さらに全国にも強い行動制限をかけた。その後状況が沈静化した地域で制限を順次緩和した。再び感染事例が発生すると、同地域に行動制限をかけ、モグラ叩きのように感染を局所に封じ込めて全国への拡大を阻止してきた。

 こうした状況について、『中国都市総合発展指標2020』は、中国各都市の新型コロナウイルス新規感染者数(海外輸入感染症例と無症状例を除く)をモニタリングし、評価した。

 図3が示すように、2020年に最も新型コロナウイルス感染者数が多かった10都市は、武漢とその周辺に集中した。同10都市は、武漢、孝感、黄岡、荊州、鄂州、随州、襄陽、黄石、宜昌、荊門で、すべて湖北省の都市であった。

 最も感染者数が多かった11位から30位都市の中には、中国GDP規模トップ10都市である上海、北京、深圳、広州、成都、重慶、杭州のほか、ハルビン、長沙、南昌、合肥、ウルムチ、寧波、温州などの省都や地域経済の中心都市[19]が含まれた。経済や社会活動の中心都市は感染度合いが比較的高かった。

 2020年の新規感染者数は、武漢市1都市に中国の62.8%、最も多かった10都市が中国の80.8%、同30都市が中国の90.1%を占めた。また、中国全土新規感染者数の82.5%が、湖北省全12都市に集中した。これらの数字は、中国が迅速なロックダウン措置とゼロコロナ政策で流行を逸早く収束させ、湖北省以外の都市で爆発的な感染拡大が起きなかったことを示している。結果、湖北省以外の都市では、局地的に感染者が時折出るものの感染爆発はなく、生産活動や市民生活は早期に回復している。

図3 中国都市新規感染者数2020ランキング トップ30

出所:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

2.2020年各国感染抑制パフォーマンスの比較


(1)ロックダウン政策に関する先行研究

 ロックダウン措置に対して、2020年3月16日に発表された理論疫病学者ニール・ファーガソン英国インペリアル・カレッジ・ロンドン教授等のレポート『Report 9』[20]が大きな話題を呼んだ。

 同レポートは、イギリスで何も対策を講じない場合、4カ月で人口の約8割が感染し、51万人の死者が出ると予測した。また、対策として、ロックダウンを実施した場合は、死者は2万人まで抑え込むことが可能と分析した。ファーガソン教授は、下院科学技術委員会で、ある程度の感染を許しながら経済と医療のバランスを保てるか、については否定的で、長期のロックダウン以外の選択肢はないと明言した。レポート発表1週間後の3月23日、イギリス政府は事実上の外出禁止令、すなわち、ロックダウン政策に踏み切った。

 また、同レポートはアメリカについても最大220万人の死者が出ると予測した。トランプ政権は同レポートの影響を受け、連邦政府により国民に社会距離を保つためのガイドラインを4月30日まで延長した。

 世界各地域で2020年1月末〜3月にかけて多くの国が次々と非常事態を宣言し、ロックダウン措置が実施されていった。

 ロックダウン政策の効果について、経済学者ソロモン・ハシアン米カリフォルニア大学教授等のレポートがある[21]。このレポートは、中国、韓国、イタリア、イラン、フランスそして米国の6カ国で実施されたウイルス封じ込め政策の効果を分析し、(1)旅行制限、(2)イベント・教育・商業・宗教行事の停止、(3)隔離とロックダウン、(4)緊急事態宣言等の封じ込め政策で、2020年1月〜4月6日の3カ月弱で、6カ国だけでも億単位の人のCOVID-19感染を防いだと試算した。

 しかし、ロックダウンなどの厳しい行動制限政策の有効性が明確であったにも関わらず、社会経済にかけるストレスの大きさから反発も大きく、多くの国ではこうした政策は途中で緩めざるを得なかった。

11月周レポート(※画像をクリックすると当該記事に移動します)

(2)ウイズコロナ政策に関する先行研究

 欧米の対コロナ政策に影響を与えた研究として、ドイツのIFO経済研究所とヘルムホルツ感染研究センターが公表したレポートがある[22]。同レポートは、前述した2つの研究とは真逆の方向性を示している。同レポートでは、経済と感染拡大制御との両立を論じた。実効再生産数Rt(1人の感染者から何人に感染が広がるかを示す数値)を0.75に抑えれば、経済への影響を最小限に留めながら感染を早期に終息できると結論づけた。

 これは、いわゆるウイズコロナ政策の提唱である。しかし、感染力が極めて強い新型コロナウイルスに対してどうRtを0.75に抑え、維持するのか、具体的な施策にまで論じていない。同レポートが提唱した黄金のバランスの実現の保障がないまま、欧米諸国では、同レポートのような学術的な「お墨付き」を得た形で、感染拡大の再来という禍根を残しながら、ウイズコロナへと政策を切り替えた。

 その結果、ウイズコロナ政策を取った諸国は、ロックダウン措置を繰り返しながら感染拡大状況に喘ぐこととなった。

(3)ゼロコロナ政策とウイズコロナ政策の比較研究

 筆者は、2020年11月11日に『ゼロ・COVID-19感染者政策 Vs. ウイズ・COVID-19政策』というレポートの中国語版(以下「11月周レポート」と略称)を公表し、ゼロコロナ政策とウイズコロナ政策を取った国の比較分析を行った[23]。このレポートは、後に日本語版が11月13日に[24]、英語版が12月3日に公表され[25]、多くの内外メディアに転載された。

 「11月周レポート」最大の特徴は、感染抑制効果と経済成長の双方から検証し、ゼロコロナ政策とウイズコロナ政策における国際比較研究を行ったことである[26]。本稿では、「11月周レポート」の延長線で、2020年、2021年そして2022年の各年における中国と日本をはじめ各国コロナ政策のパフォーマンスを比較する。

 2020年世界で新型コロナウイルス累計感染者数は約8,375万人、累計死亡者数は約188万人に及んだ。致死率は約2.2%であった。まさに致死率の高いパンデミックである。

図4 2020年世界新型コロナウイルス新規感染者数・死亡者数の日別推移

出所:Our World in Dataデータセットより作成。

 2020年中国の新型コロナウイルス累計感染者数は87,071人、累計死亡者数は4,634人に及んだ。致死率は約5.3%であった。武漢で初期に大勢の死亡者を出したことが致死率の高さにつながった。幸い、中国は、ロックダウンにより感染者数を抑え込むことに成功した。

図5 2020年中国新型コロナウイルス新規感染者数・死亡者数の日別推移

出所:中国国家衛生健康委員会HPなどにより作成。

 2020年、日本では緊急事態宣言が4月7日から5月25日の合計49日間発出され、初期の感染拡大は抑え込んだ。しかし、新規感染者がゼロにならないうちに宣言を解除してしまった。同年後半には「Go Toトラベル」キャンペーンに代表される人流の活性化を促す施策が講じられ、新型コロナウイルスの感染再拡大につながった。結果、2020年日本での累積感染者数は約24万人、累積感染死亡者数は約0.35万人に及んだ。保健所による入院整理で医療崩壊を辛うじて防いだ。致死率は1.5%と世界平均を下回った。

図6 2020年日本新型コロナウイルス新規感染者数・死亡者数の日別推移

出所:厚生労働省HP『新型コロナウイルス感染症について・陽性者データセット』、NHK『特設サイト新型コロナウイルス・日本国内の死亡者数』などにより作成。

 表1は、2020年末までの国・地域別および都市別における累積感染者数、累積死亡者数、致死率、人口10万人当たり累積死亡者数を比較した。ゼロコロナ政策を取った中国では、2020年累積感染者数および累積死亡者数は低く抑えられ、人口10万人当たり累積死亡者数も欧米各国と比較して非常に少なかった。

 一方、欧米諸国はロックダウン措置を講じたものの、ゼロコロナには拘らなかった。その結果、非常に大勢のコロナ犠牲者を出し、致死率も高かった。日本は、欧米各国と同じくゼロコロナには拘らなかったものの被害は相対的に抑えられた。

 都市別にみると、東京都とニューヨーク州に比べ、武漢の致死率の高さは際立った。新型コロナウイルス感染拡大初期の被害に見舞われた武漢の混乱状況が、そのまま致死率に表れた。また、世界で最も累積感染者数および累積死亡者数が多かったアメリカで、特に被害が大きかったニューヨーク州は、致死率がアメリカ平均の2倍以上にも上った。武漢とニューヨークに比べ、東京都は医療崩壊を懸命に食い止めた結果、致死率を1%に抑え込んだ。

表1 2020年中国、日本、欧米主要諸国新型コロナウイルス被害比較

出所:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』、 Our World in Dataデータセットより作成。

 図7は、人口で平準化した各国の新型コロナウイルス被害状況を示したグラフである。2020年末まで百万人当たりの新型コロナウイルス累積感染者数および累積死亡者数を国別にプロットし、各国の新型コロナウイルスによる被害を表している。同図では、2020年名目GDP規模の上位30カ国・地域に二重丸をつけ、色分けして地域区分している。グラフの右上に位置する程、人口当たりの感染者数が多く、死亡者数が多い。

 同図から分かるように2020年、欧米地域はアジア地域と比べて新型コロナウイルス被害が突出している。同図が対数ベースのグラフであることからすれば、その差は甚大である。

 国別で、人口当たりの感染者数および死亡者数が多かったのは、ベルギー、イギリス、イタリア、スペイン、アメリカ等欧米諸国であった。

 2020年末迄の累積の感染者数および死亡者数で最も被害が大きかった国は、人口規模の大きいアメリカ、ブラジル、インドであった。

 一方、名目GDP規模の上位30カ国・地域の中で、新型コロナウイルス被害が最も小さかったのは上位から順に台湾、タイ、中国であった。

 2020年アジア地域では、中国だけでなく台湾、韓国などもゼロコロナ政策を取った。こうした政策が、欧米諸国との被害差を生んだ大きな理由と考えられる。とくに感染蔓延初期で甚大な被害を出した中国が、人口大国でありながらここまで新型コロナウイルスの被害を食い止めたのはゼロコロナ政策が奏功した故である。

図7  国別百万人当たりの累積感染者数及び累積死亡者数
(2020年末まで)

出所:Our World in Dataデータセットより作成。

3.2020年各国経済パフォーマンスの比較


 新型コロナウイルス対策における政策評価には、感染症抑制効果だけではなく、経済へのショックをどれだけ食い止められたかについての評価も必要である。本稿は、「11月周レポート」が感染抑制効果と経済成長の双方から検証したスタンスを引き継ぎ、中国と主要国との経済パフォーマンスを年次ごとに検証する。

(1)2020年各国名目GDPの比較[27]

 新型コロナウイルスパンデミックは、世界経済に大きく影を落とした。2020年の世界経済の成長率は2018年の6.3%、2019年の1.6%から、一気に-2.6%とマイナス成長に転じた。

 図8が示すように、2020年国別名目GDPランキングトップ10は、アメリカ、中国、日本、ドイツ、イギリス、インド、フランス、イタリア、カナダ、韓国と続く。世界名目GDPの67.7%を占めるこれら10カ国が、中国を除き、軒並みマイナス成長に陥った。逆風の中で中国が3.6 %の成長率を実現したのは、ゼロコロナ政策によるものが大きい。

図8 2020年国別名目GDPランキング

出所:IMFデータセットより作成。

 『中国都市総合発展指標2020』で見た「中国都市GDP2020」ランキングでは、上から順に上海、北京、深圳、広州、重慶がトップ5を飾った。この5都市の経済規模は他都市を大きく引き離している。6位から10位は、順に蘇州、成都、杭州、武漢、南京の5都市であった。新型コロナウイルス蔓延で激震した武漢は9位にランクインした。

 「中国都市GDP2020」ランキングにおけるトップ10都市は、中国全国GDPの23.3%を占め、同トップ30都市のシェアはさらに43%に達している。ゼロコロナ政策で逸早く日常生活を取り戻したお蔭で、トップ30都市のうち武漢だけが-4.7%のマイナス成長であったが、他の都市はすべてプラス成長を実現した。中国経済の上位都市への集中が鮮明になると同時に、中国主要都市の強靭さが中国経済成長を支えている。

図9 中国都市GDP2020ランキング トップ30

出所:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

(2)2020年各国輸出額の比較[28]

 新型コロナパンデミックは、世界貿易にも大きな影響を及ぼした。2020年の世界の輸出総額は、前年比-7.2%もの大幅なマイナス成長に陥った。

 コロナ禍によるロックダウンや米中貿易摩擦の激化で、中国の輸出産業も大きな打撃を被った。中国の輸出産業は、2020年前半には輸出額が落ち込んだが、後半には力強い回復を見せた。その結果、中国の輸出総額はドルベースで前年比3.6%増を実現した。

 図10が示すように、2020年における世界の輸出額をドルベースで国別にみると、上位10カ国・地域は、中国、アメリカ、ドイツ、オランダ、日本、香港、韓国、イタリア、フランス、ベルギーの順になる。これらトップ10カ国・地域の世界輸出総額に占める割合は52.1%にのぼる。2020年トップ10カ国・地域のうち、輸出がプラス成長できたのは、中国と香港のみであった。これは、中国におけるグローバルサプライチェーン型産業集積の強靭さとゼロコロナ政策の成功を象徴している。ちなみに第1位の中国と第6位の香港の合計が、世界輸出総額の17.8%のシェアを占め、アメリカの2.2倍の規模にも相当する。

図10 2020年国別輸出額ランキング

出所:UNCTADデータセットより作成。

 『中国都市総合発展指標2020』で見た「中国都市製造業輻射力2020」ランキングのトップ10都市は、上から順に深圳、蘇州、東莞、上海、寧波、仏山、成都、広州、無錫、杭州となった。輻射力とは都市の広域影響力の評価指標である。製造業輻射力は都市における工業製品の移出と輸出そして、製造業の従業者数を評価した。同10都市のうち、蘇州、東莞、無錫の3都市の輸出額が若干マイナス成長だったのに対して、他の都市は輸出増を実現した。コロナショックの中で、これら製造業スーパーシティの輸出力の強靭さが際立った。

 「中国都市製造業輻射力2020」のトップ10都市が中国全体の輸出総額に占める割合は44.2%、さらにトップ30都市の割合は71.7%にも達している。中国の輸出産業はこれら製造業スーパーシティに高度に集中している。

図11 中国都市製造業輻射力2020ランキング トップ30

出所:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

(3)2020年各国コンテナ輸送の比較[29]

 新型コロナウイルス・パンデミックで海運は世界的に大きな混乱を生じ、現在に至ってなお収まってはいない。その影響で2020年世界のコンテナ取扱量は-1.2%減であった。これに対して、中国はゼロコロナ政策が奏功し、社会活動がいち早く正常に戻ったことでコンテナ取扱量も1.2%のプラス成長を実現させた。

 図12が示すように、2020年の国別港湾コンテナ取扱量ランキングで見ると中国は圧倒的な第1位である。同2位から10位までは順に、アメリカ、シンガポール、韓国、マレーシア、日本、アラブ首長国連邦、トルコ、ドイツ、香港と続いた。

 これら10カ国・地域の港湾コンテナ取扱量は世界に占めるシェアが59.8%に達した。とりわけ中国は、世界港湾コンテナ取扱量におけるシェアが30.1%に達し、群を抜いている。第1位の中国と10位の香港を合わせたコンテナ取扱量は、香港を除いた2位から12位の10カ国合計を上回り、世界シェアは32.3%に達する。この数字は中国がグローバルサプライチェーンの中核的な存在である実態を捉えている。

図12 2020年国別港湾コンテナ取扱量ランキング

出所:UNCTADデータセットより作成。

   『中国都市総合発展指標2020』で見た「中国都市港湾コンテナ取扱量2020」ランキングのトップ10都市は、上から順に上海、寧波、深圳、広州、青島、天津、廈門、蘇州、営口、大連となり、第1位の上海の突出ぶりが著しい。

 2020年には、上記トップ10都市で唯一、大連のコンテナ取扱量がマイナス成長に陥った。新型コロナウイルス禍にあっても、中国の大多数の港湾都市がコンテナ取扱量のプラス成長を実現させた背景には、製造業輸出力の強靭さがある。

 図13が示すように、「中国都市港湾コンテナ取扱量2020」のトップ10都市が中国全体の港湾コンテナ取扱量に占める割合は70.8%、同トップ30都市の割合は92.6%にも達している。中国のコンテナ輸送が特定の港湾都市に高度に集中している実態が浮き彫りになった。

図13 中国都市港湾コンテナ取扱量2020ランキング トップ30

出所:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

(4)2020年各国映画興行成績の比較[30]

 新型コロナウイルスパンデミックで最も打撃を受けた分野の1つは映画興行であった。中国では、2020年の映画興行収入が前年比68.2%も急落した。だが幸いなことに、中国では新型コロナウイルスの蔓延を迅速に制圧したことで、映画市場は急速に回復した。

 一方、これまで世界最大の興行収入を誇ってきた北米(米国+カナダ)は、新型コロナウイルスの流行を効果的に抑えることができず、2020年には映画興行収入が前年比80.7%も急減した。その結果、中国の映画市場が、映画興行収入で世界トップに躍り出た。

 2020年は、中国映画の躍進が非常に目を引く年であった。「Box Office Mojo」[31]によると、2020年の世界興行ランキングで中国映画『八佰(The Eight Hundred)』が首位を獲得した。また、同ランキングのトップ10には、第4位にチャン・イーモウ監督の新作『我和我的家郷(My People, My Homeland)』、第8位に中国アニメ映画『姜子牙(Legend of Deification)』、第9位にヒューマンドラマ『送你一朶小紅花(A Little Red Flower)』の中国4作品がランクインした。また、歴史大作『金剛川(JingangChuan)』も第14位と好成績を収めた。中国映画市場の力強い回復により、多くの中国映画が世界の興行収入ランキングの上位にランクインした。

図14 2020年映画世界興行収入ランキング

出所:BoxOfficeMojo.comデータセットより作成。

 『中国都市総合発展指標2020』で見た「中国都市映画館・劇場消費指数2020」ランキングのトップ10都市は、上海、北京、深圳、広州、成都、重慶、杭州、武漢、蘇州、西安となっている。これら中国で最も映画興行収入が多かった都市は、9位の蘇州を除き、すべて直轄市、省都、計画単列市からなる中心都市である。同ランキングの第11位から第30位の都市は、鄭州、南京、長沙、東莞、天津、仏山、寧波、合肥、無錫、瀋陽、昆明、青島、温州、南通、南昌、長春、石家荘、ハルビン、済南、南寧で、ほとんどが中心都市である。中国の映画興行は若者が集まる中心都市や製造業スーパーシティに集中している。

 映画館・劇場興行収入について、「中国都市映画館・劇場消費指数2020」ランキングのトップ10都市が全国に占める割合は32.1%、トップ30都市は53.9%を占めている。上位10都市に興行収入数の3分の1が集中し、上位30都市に半分以上が集中している。

 注目すべきは、中国では新型コロナウイルスパンデミック下も、スクリーン数や映画館数が減るどころか増えていたことである。2019年10月から2021年5月にかけて、全国297都市のうち203都市で映画館の数が増加、この間、映画館は中国全土で826館も純増した。

図15 中国都市映画館・劇場消費指数2020ランキング トップ30

出所:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

(5)2020年中国IT産業の成長[32]

 IT産業は21世紀のリーディング産業である。世界経済を牽引しグローバリゼーションや社会の変革を推し進めている。2020年末の企業世界時価総額トップ10ランキングはまさにこれを反映している。同トップ10に、ネットビジネスをベースにしたIT企業は、アップル、マイクロソフト、アマゾン、グーグル、フェイスブックといったアメリカのGAFAM5社と、中国のテンセントとアリババで、7社も含まれている。

図16  2020年末企業世界時価総額ランキング トップ10

出所: value.todayデータセット、各社WEBサイトより作成。

 2020年は、中国のIT業界にとって大発展の年であった。デジタル感染症対策、在宅勤務、オンライン授業、遠隔医療、オンライン会議、オンラインショッピングなどが当たり前になり、新型コロナウイルス禍で産業や生活のあらゆる分野のデジタル化が一気に進んだ。

 『中国都市総合発展指標2020』で見た「中国都市IT産業輻射力2020」ランキングのトップ10都市は、北京、上海に、テンセントの本社所在地である深圳、アリババの本社所在地である杭州が続き、広州、成都、南京、重慶、福州、武漢が後を追う。IT産業輻射力は都市におけるIT企業の集積や上場状況、従業者数を評価した。これら中国のIT産業スーパーシティは、すべて直轄市、省都、計画単列市からなる中心都市である。同ランキングの上位11〜30都市もほとんどが中心都市である。

 「中国都市IT産業輻射力2020」ランキングを分析することで、特定都市におけるIT産業の凄まじい集中度がわかる。IT産業従業者数で、「中国都市IT産業輻射力2020」ランキングのトップ5都市が全国に占める割合は41.9%、トップ10都市は58.3%、トップ30都市は76.4%をも占める。

図17 中国都市IT産業輻射力2020ランキング トップ30

出所:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

(5)2020年各国別自動車産業の比較[33]

 新型コロナウイルスパンデミックにより、世界の自動車産業も大きな打撃を受けた。2020年の世界自動車生産台数は前年比-15.8%の約7,762万台にまで大幅に落ち込んだ。

 図18が示すように、世界自動車生産台数ランキングトップ10の国は2020年、すべてマイナス成長に陥った。但、他9カ国が二桁のマイナス成長だったのに対して、中国は−1.9%に留まった。

 現在、世界の自動車産業における中国の存在は大きい。2020年国別自動車生産台数ランキングをみると、中国の生産台数は2,523万台に及び、圧倒的なトップを飾った。中国の生産台数は、世界の約約32.5%に当たり、2位アメリカの約約2.9倍の規模である。これは、2〜5位のアメリカ、日本、インド、韓国の合計よりも多い。

図18 2020年国別自動車生産台数ランキング

出所:国際自動車工業連合会(OICA)データセットより作成。
注:インドは一部メーカーの生産台数が含まれていない。ドイツは乗用車・小型商用車のみ。

 『中国都市総合発展指標2020』で見た「中国都市自動車産業輻射力2020」ランキングトップ10都市は、上海、長春、重慶、広州、武漢、蘇州、北京、十堰、天津、襄陽となった。特に、トップ3都市の上海、長春、重慶の輻射力は抜きん出ている。同ランキング上位11〜30都市は、瀋陽、柳州、無錫、成都、南京、蕪湖、寧波、南昌、常州、杭州、揚州、長沙、深圳、済南、温州、西安、青島、仏山、合肥、鎮江である。これら都市には中国の自動車メーカの本社機能や主要工場が立地している。

 「自動車産業輻射力」は都市における自動車産業の従業員・企業集積状況や企業資本・競争力を評価した[34]。同ランキングの分析で、自動車産業における特定都市への集中集約が浮かび上がる。

 図19が示すように、自動車産業従業者数において、「中国都市自動車産業輻射力2020」ランキングトップ10都市が全国に占める割合は39.5%、トップ30都市は70.6%を占める。

 自動車産業営業収入で、同ランキングのトップ10都市が全国に占める割合は51.3%、トップ30都市は81.1%を占める。従業者数と比較して営業収入の集中度が高いことは、ランキングトップの都市に収益力の高い企業が多く集積していることを裏付ける。

図19 中国都市自動車産業輻射力2020 トップ30

出所:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

(7)2020年各国鉄鋼産業の比較[35]

 世界の鉄鋼産業も新型コロナウイルスパンデミックの影響を受けている。世界粗鋼生産量成長率は、2018年が5.3%、2019年が2.7%だったことに対して、2020年は0.3%にまで減速した。図20が示すように、2020年国別粗鋼生産量ランキングトップ10の国の中で、第1位の中国が7%の成長を維持した。これに対して、第2位のインド、第3位の日本、第4位のアメリカ、第5位のロシア、第6位の韓国、第8位のドイツ、第9位のブラジルがマイナス成長となり、なかでもインド、日本、アメリカ、ドイツは二桁の落ち込みであった。

 世界の鉄鋼生産における中国の存在は圧倒的である。中国の粗鋼生産量はいまや10.3億トンにも達している。これは、世界粗鋼生産量の約52.9%に当たり、2〜30位の国・地域の合計値の約1.2倍に達している。かつて「鉄は国家なり」という格言があり、鉄鋼産業が国力を表した。時代は変われども中国の圧倒的な粗鋼生産量は、現在の中国における経済規模とその活力を如実に表している。

図20 2020年国別粗鋼生産量ランキング

出所:世界鉄鋼協会(WSA)データセットより作成。

 図21より、『中国都市総合発展指標2020』で見た「中国都市鉄鋼産業輻射力2020」ランキングのトップ10都市は、唐山、邯鄲、天津、蘇州、無錫、済南、常州、本渓、包頭、武漢となった。特に、トップの唐山の輻射力は抜きん出ている。同ランキングの上位11〜30都市は、太原、馬鞍山、安陽、上海、中衛、嘉峪関、攀枝花、日照、新余、営口、ウルムチ、石家荘、南京、運城、廊坊、柳州、玉溪、許昌、漳州、仏山である。これらの都市には中国主要鉄鋼メーカの本社や主力工場が立地している。

 「鉄鋼産業輻射力」は都市における同産業の従業員・企業集積状況や企業資本・競争力を評価したものである[36]。同ランキングを分析することで、鉄鋼産業における特定都市への集中集約が浮かび上がる。

 鉄鋼産業従業者数において、「中国都市鉄鋼産業輻射力2020」ランキングのトップ10都市が全国に占める割合は34.3%、トップ30都市は58.4%に達している。

 また、鉄鋼産業営業収入において、同ランキングのトップ10都市が全国に占める割合は38.1%、トップ30都市は63.5%に達している。

 従業者数と比べ、営業収入におけるトップ都市の集中度がさらに高いことが、トップの都市に収益力の高い大企業が多く集積していることを窺わせる。

図21 中国都市鉄鋼産業輻射力2020 トップ30

出所:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

 新型コロナウイルスパンデミックによって2020年は世界経済にとって大変ショッキングな年となった。主要国の中で中国は、GDP及び輸出で唯一成長を実現させた。他の主要国が深刻なマイナス成長に陥った中、中国は世界経済を力強く支えた。最も早く新型コロナウイルスに叩かれた中国がこれ程の経済パフォーマンスを見せたことは、ゼロコロナ政策によるところが大きい。この事実は、ゼロコロナ政策と経済成長とを対立的にとらえる考え方を根底から覆す。(続)

(※論文後半はこちらから)


(本論文では栗本賢一、甄雪華、趙建の三氏がデータ整理と図表作成に携わった)


 本論文は、周牧之論文『比較研究:ゼロコロナ政策とウイズコロナ政策』より抜粋したものである。『東京経大学会誌 経済学』、315号、2022年。


[1] YAHOO! JAPAN「東京都新型コロナ関連情報」2022年8月31日(https://news.yahoo.co.jp/pages/article/covid19tokyo)(最終閲覧日:2022年9月1日)より計算。

[2] 東京都HP「東京都の人口(推計)」(https://www.toukei.metro.tokyo.lg.jp/jsuikei/js-index.htm)(最終閲覧日:2022年9月12日)による。

[3] 本稿で中国の分析は、データシステム『中国都市総合発展指標』を活用する。同指標は、雲河都市研究院と中国国家発展改革委員会発展戦略和計画司(局)が共同開発した都市評価指標である。2016年以来毎年、内外で発表してきた同指標は、環境・社会・経済という3つの軸(大項目)で中国の都市発展を総合的に評価している。評価対象は、中国297地級市以上都市(日本の都道府県に相当)全てをカバーし、評価基礎データは882個に及ぶ。『中国都市総合発展指標』は2016年以来毎年、中国都市ランキングを内外で発表してきた。同指標は環境・社会・経済という3つの軸(大項目)で中国の都市発展を総合的に評価している。同指標の構造は、各大項目の下に3つの中項目があり、各中項目の下に3つの小項目を設けた「3×3×3構造」で、各小項目は複数の指標で構成される。これらの指標は、合計882の基礎データから成り、内訳は31%が統計データ、35%が衛星リモートセンシングデータ、34%がインターネットビッグデータである。その意味で、同指標は、異分野のデータ資源を活用し、「五感」で都市を高度に知覚・判断できる先進的なマルチモーダル指標システムである。現在、中国語(『中国城市総合発展指標』人民出版社)、日本語(『中国都市ランキング』NTT出版)、英語版(『China Integrated City Index』Pace University Press)が書籍として出版されている。『中国都市総合発展指標』について詳しくは、周牧之ら編著『環境・経済・社会 中国都市ランキング2018―大都市圏発展戦略』、NTT出版、2020年10月10日を参照。

[4] 『中華人民共和国伝染病防治法』は、1989年2月21日に制定された後、SARSが大流行した翌年の2004年12月1日に改定された。詳しくは、中国中央人民政府HP(http://www.gov.cn/banshi/2005-05/25/content_971.htm)(最終閲覧日:2022年9月6日)を参照。

[5] 中国交通運輸部(省)『交通运输部关于做好进出武汉交通运输工具管控全力做好疫情防控工作的紧急通知』、2020年1月23日を参照。

[6] 周牧之「新冠疫情冲击全球化:强大的大都市医疗能力为何如此脆弱?」、中国網(China.com.cn)、2020年4月20日(http://www.china.com.cn/opinion/think/2020-04/17/content_75944655.htm)(最終閲覧日:2022年9月6日)。

[7] Zhou Muzhi, “COVID-19: Why is the medical system in metropolises so vulnerable?” In China.org.cn, 21 April 2020(http://www.china.org.cn/opinion/2020-04/21/content_75957964.htm?from=singlemessage&isappinstalled=0)(最終閲覧日:2022年9月6日)。

[8] 周牧之「新型コロナパンデミック:なぜ大都市医療能力はこれほど脆弱に?」、In Japanese.China.org.cn、2020年5月12日(http://japanese.china.org.cn/business/txt/2020-05/12/content_76035553.htm)(最終閲覧日:2022年9月6日)。

[9] 『中国都市総合発展指標』で使用する「輻射力」とは広域影響力の評価指標であり、都市のある業種の周辺へのサービス移出・移入量を、当該業種従業者数と全国の当該業種従業者数の関係、および当該業種に関連する主なデータを用いて複合的に計算した指標である。

[10] レポートの詳しくはICNのHP(https://www.icn.ch/news/new-icn-report-shows-governments-are-failing-prioritize-nurses-number-confirmed-covid-19-nurse)(最終閲覧日:2022年9月6日)を参照。

[11] 重症患者専門病院が武漢で迅速に建設され、火神山病院(1,000床)で2月3日に、雷神山病院(1,600床)で2月8日に使用開始。

[12] 武漢は体育館を16カ所の軽症者収容病院へと改装し、素早く1.3万床の抗菌抗ウイルスレベルの高い病床を提供し、軽症患者の分離収容を実現した。この病院は「方艙(方舟)病院」と呼ばれた。

[13] 周牧之《这个“神器”能绝杀新冠病毒》中国網(China.com.cn),2020年2月18日(http://opinion.china.com.cn/opinion_84_217684.html)(最終閲覧日:2022年9月6日)。

[14] 「2月周レポート」の英語版:Zhou Muzhi, “Ozone: a powerful weapon to combat COVID-19 outbreak” In China.org.cn, 26 February 2020(http://www.china.org.cn/opinion/2020-02/26/content_75747237.htm)(最終閲覧日:2022年9月6日)。

[15] 「2月周レポート」の日本語版:周牧之「オゾンパワーで新型コロナウイルス撲滅を」、In Japanese.China.org.cn、2020年3月19日(http://japanese.china.org.cn/business/txt/2020-03/19/content_75834590.htm)(最終閲覧日:2022年9月6日)。

[16] 詳しくは、奈良県立医科大学プレスリリース(https://www.naramed-u.ac.jp/university/kenkyu-sangakukan/oshirase/r2nendo/documents/press_2.pdf)(最終閲覧日:2022年8月18日)を参照。また、実験結果の詳細は、Hisakazu Yano, Ryuichi Nakano, et al., “Inactivation of severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 (SARS-CoV-2) by gaseous ozone treatment”, in Journal of Hospital Infection, 106(4), 5 Oct 2020, pp.837-838を参照。

[17] 詳しくは、藤田医科大学プレスリリース(https://www.fujita-hu.ac.jp/news/j93sdv0000007394.html)(最終閲覧日:2022年8月18日)を参照。また、実験結果の詳細は、Takayuki Murata, Satoshi Komoto, et al., “Reduction of severe acute respiratory syndrome coronavirus-2 infectivity by admissible concentration of ozone gas and water”, in MICROBIOLOGY and IMMUNOLOGY, 65(1), 24 Nov 2020, pp.10-16を参照。

[18] 「2月周レポート」はその後、「オゾン利用で新型コロナウイルス対策を」と題した論文としてまとめ、『東京経大学会誌 経済学』第307号、2020年12月に掲載。

[19] 中心都市とは、中国にある4つの直轄市、22の省都、5つの自治区首府、5つの計画単列市、合計36都市を指す。

[20] Ferguson NM, Laydon D, Nedjati-Gilani G, et al., “Report 9: Impact of non-pharmaceutical interventions (NPIs) to reduce COVID-19 mortality and healthcare demand”, in Imperial College London HP , 16 Mar 2020

[21] Solomon Hsiang, et al, “The effect of large-scale anti-contagion policies on the COVID-19 pandemic”, in Nature, 08 June 2020

[22] Wohlrabe Klaus, Peichl Andreas, Link Sebastian ,Leiss Felix, Demmelhuber Katrin, “Die Auswirkungen der Coronakrise auf die deutsche Wirtschaft”, in ifo Schnelldienst Digital, No.7, 18 May 2020

[23] 周牧之「全球抗击新冠政策大比拼:零新冠感染病例政策 Vs. 与新冠病毒共存政策」、中国網(China.com.cn)、2020年11月11日(http://www.china.com.cn/opinion/think/2020-11/11/content_76899914.htm)(最終閲覧日:2022年9月6日)。

[24] 周牧之「ゼロ・COVID-19感染者政策 Vs. ウイズ・COVID-19政策」、In Japanese.China.org.cn、2020年11月13日(http://japanese.china.org.cn/life/2020-11/13/content_76908703.htm)(最終閲覧日:2022年9月6日)。

[25] Zhou Muzhi, “Global COVID-19 responses: ‘Zero COVID-19 Case Policy’ vs. ‘Coexisting with COVID-19 Policy’” In China.org.cn, 3 December 2020(http://www.china.org.cn/china/2020-12/03/content_76974524_5.htm)(最終閲覧日:2022年9月6日)。

[26] 「11月周レポート」はその後、「新型コロナパンデミック:ゼロ・COVID-19感染者政策 Vs ウイズ・COVID-19政策」と題した論文としてまとめ、『東京経大学会誌 経済学』第309号、2021年2月に掲載。

[27] 2020年各国経済成長パフォーマンスについて、詳しくは雲河都市研究院「中国で最も経済規模の大きい都市はどこか?〜2020年中国都市GDPランキング」(https://cici-index.com/3524/)(最終閲覧日:2022年9月6日)を参照。

[28] 2020年各国輸出パフォーマンスについて、詳しくは雲河都市研究院「中国で最も輸出力の高い都市はどこか?〜2020年中国都市製造業輻射力ランキング」(https://cici-index.com/3888/)(最終閲覧日:2022年9月6日)を参照。

[29] 2020年各国港湾コンテナ取扱量比較について、詳しくは雲河都市研究院「世界で最も港湾コンテナ取扱量が多い都市はどこか?〜2020年中国都市コンテナ港利便性ランキング」、In Japanese.China.org.cn、2020年7月12日(http://japanese.china.org.cn/business/txt/2022-07/12/content_78319078.htm)(最終閲覧日:2022年9月6日)を参照。

[30] 2020年各国映画興行収入パフォーマンスについて、詳しくは雲河都市研究院「映画大国中国で最も映画好きな都市はどこか?〜2020年中国都市映画館・劇場消費指数ランキング」、In Japanese.China.org.cn、2020年8月31日(http://japanese.china.org.cn/business/txt/2022-08/31/content_78398350.htm)(最終閲覧日:2022年9月6日)」を参照。

[31] Box Office Mojo「2020 Worldwide Box Office」(https://www.boxofficemojo.com/year/world/2020/)(最終閲覧日:2022年9月6日)。

[32] 2020年各国IT産業パフォーマンスについて、詳しくは雲河都市研究院「中国IT産業スーパーシティはどこか?〜2020年中国都市IT産業輻射力ランキング」(https://cici-index.com/3957/)(最終閲覧日:2022年9月6日)を参照。

[33] W9992020年各国自動車産業パフォーマンスについて、詳しくは雲河都市研究院「自動車大国中国の生産拠点都市はどこか?〜2020年中国都市自動車産業輻射力ランキング」、In Japanese.China.org.cn、2020年7月29日(http://japanese.china.org.cn/business/txt/2022-07/29/content_78347946.htm)(最終閲覧日:2022年9月6日)を参照。

[34] W999「中国都市自動車産業輻射力2020」は、2019年から2020年にかけて中国各都市で公表された「第4回全国経済センサス(第四次全国経済普査)」をベースに算出した。

[35] W9992020年各国鉄鋼産業パフォーマンスについて、詳しくは雲河都市研究院「鉄鋼大国中国の生産拠点都市はどこか?〜2020年中国都市鉄鋼産業輻射力ランキング(https://cici-index.com/4107/)(最終閲覧日:2022年9月6日)」を参照。

[36] 「中国都市鉄鋼産業輻射力2020」は、2019年から2020年にかけて中国各都市で公表された「第4回全国経済センサス」をも参照し算出した。

【講義】志田崇・中井徳太郎・周牧之:竜宮礁で海を再び豊かに

2024年11月21日、東京経済大学の進一層館前で、左から周牧之教授、志田崇氏、中井徳太郎氏

■ 編集ノート:

 志田崇氏は、青森で建設業を営みながら、海でアマモの保全活動をしている。昨夏、志田氏の案内で青森の海に潜った。大変に豊かな海で、アワビが獲れた。アマモは、ブルーカーボンとしてCO2を吸収し、豊かな海を育む。東京経済大学の周牧之ゼミは2024年11月21日、志田氏をゲストに迎え、中井徳太郎元環境事務次官に加わっていただき、海における脱炭素と環境保全の取り組みについて語り合った。


八甲田山のミネラルでホタテ養殖


志田崇:青森県陸奥湾でアマモという海草の保全をやっている。青森県は本州の最北端にあり、大間のマグロ、夏のねぶた祭、世界遺産となった縄文の三内丸山遺跡や、都市伝説だがキリストの墓もある。温泉が豊かで、海産物、畜産も豊富、コメも日本酒もいい。野菜は人参、牛蒡が沢山獲れる。

 私は青森市内で建築や土木工事、砕石を行う建設業を営みながら、サステナブル事業室で豊かな海作りや、アマモの保全活動をしている。

 青森県は三方に四つの海域を持つ。まず日本海だ。潮の流れが早い津軽海峡、太平洋、そして陸奥湾がある。海岸線の距離は約796kmで、陸奥湾は、津軽半島と下北半島に囲まれているため閉鎖的で、穏やかな海域となっている。2016年にはホタテの養殖で日本一になった。八甲田山から川を伝って森のミネラルがたっぷり陸奥湾に注がれるためホタテ養殖が栄え、漁業の中心となった。ミネラルで植物プランクトンがよく育ち、ホタテの餌になっているためだ。

2024年11月21日、東京経済大学でゲスト講義をする志田崇氏

ブルーカーボンを担う海藻類


志田:アマモ保全のきっかけは、26歳で青森に帰り家業の建設業を継いで漁港の整備に携わり、漁業者からアマモの重要性を聞き知ったことだ。

 子供のころ海水浴に行くと足に絡んで邪魔な奴だと思っていたアマモが、とても重要だと気づいた。陸奥湾は波が穏やかで、栄養が堆積しアマモが沢山生い茂っている。

 アマモは、昆布やワカメとは違う海草(うみくさ)で、種子植物だ。根があり、茎があり葉がある。生殖花を年に1回出し、雄花と雌蕊が花になり、種をつけて種子を作る。茎の部分を噛むと甘いからアマモと言われ、白い花を咲かせている。

 種は米粒かゴマのような形をしている。昔はアマモの種をネイティブアメリカンが食べていたとの伝説もある。アマモの種類は四つ。陸奥湾に多く分布しているアマモはコアマモで、幅がマッチ棒ぐらいの細い草だ。スゲアマモは、草むらや小砂利によく生息している。アマモは茎が横に伸びるのに対してスゲアマモは縦方向に伸びて繁殖していくので、斑状(むらじょう)に生育する。タチアマモは高さ7mを超えるような世界で最長級のものが陸奥湾に生えている。

 これらアマモがまとまって生えているのがアマモ場だ。光合成をするので、二酸化炭素を吸って酸素を供給する役割を持つ。最近ようやく耳にするようになったブルーカーボンの役割を果たしている。ブルーカーボンは、海洋の生物によって大気中の二酸化炭素が取り組まれ、海域に貯蔵された炭素のことを言う。

 大気中の二酸化炭素が海に溶け込み、それをアマモが吸い海中に溜め込むことをブルーカーボンという。アマモに限らず昆布、わかめ、マングローブ等、海草藻類全てがブルーカーボンの対象となる。森など陸上でCO2を吸収するのがグリーンカーボン、海の海草藻類が吸収するのがブルーカーボンと言われる。

2024年夏のねぶた祭

ブルーカーボンが最も二酸化炭素を吸収


志田:二酸化炭素が1年間で95億トン排出されるうち、陸上のグリーンカーボンが約20億トン、海洋のブルーカーボンが約28億トン吸収する。海洋の方が、より多くの二酸化炭素を吸収している。中でも浅い海域の海底で貯蔵されるブルーカーボンは海洋全体の約80%で、海藻がよく生える浅瀬の海が、CO2を沢山吸収してくれている。

 海藻類は光合成をして生育する際に、葉や根に二酸化炭素を溜め込む。海藻や昆布はヌルヌルしている。それはポリフェノールで、分解されにくい物質になりCO2を溜め込む。

 吸収係数の研究によると、アマモは1年間1ヘクタールで4.9トンのCO2を吸収する。ブルーカーボンは2050年のカーボンニュートラルに貢献できると今期待されている。水質浄化の効果もあり、生活排水の栄養があるアンモニア、リン酸、窒素などを栄養分として吸収し、赤潮を防いでくれる。小魚たちの住処にもなっている。

ゲスト講義にて中井徳太郎氏、周牧之教授、志田崇氏(左から)

■ アマモ場は漁業生産基地を支援


志田:私がアマモの活動を始めたのは生物多様性の漁業支援からだ。漁港を整備し漁港が賑わうため何が出来るか考えた時に、アマモを増やし、イシダイ、クロダイなど好きな魚を増やして食べられるようにし、漁港を盛り上げたいというのがアマモ活動の始まりだった。

 アマモ場にはマコガレイ、カワハギ、ハゼ類、アイナメ、キヌバリ、クロダイ、マダイ、カラスミにして食べるとうまいボラ、コウイカ、シャコ、石ガニ、ウスメバルの稚魚、クロソイの幼魚たちも沢山いる。

 アマモは、小さな魚が大きな魚に食べられないよう隠れる場所になり、また、アマモ自体が波を揺らせてとても居心地の良い場所となり、海のゆりかごと呼ばれている。餌を食べる場所にもなっていて、スゲアマモにナマコは張り付くように生息している。卵を産む場でもあり、アオリイカはアマモに卵を産む。ホタテが発生する場所として、ホタテの稚貝が、アマモの葉について発生している。

 アマモ場が多いほど、カレイやアイナメの漁獲量が多いという研究のデータもある。アマモ場は、漁業生産の基地支援になっている。漁業者にとって、そして我々魚を食べる人の生活にとっても、大変重要な場所である。

陸奥湾沿いの海鮮食堂

■ 陸奥湾のアマモ場が急減


志田:陸奥湾のアマモ場は環境省の1990年の調査では、海域が日本最大規模で、6,862ヘクタールあった。但し1978年の調査に比べて369ヘクタール消滅しており、消滅面積も日本一だった。

 2020年の環境省の調査では、陸奥湾は2,068ヘクタール減ってしまった。調査方法が違うので何とも言えないが確かに減少している。1990年の調査より4,794ヘクタール減ってしまったことになる。アマモの吸収係数は、前述のように年間、1ヘクタール毎に4.9トン吸収してくれる。2,068ヘクタールの面積でCO2の吸収量を換算すると、年間約1万133トン、CO2を吸収してくれていることになる。

 2023年、1世帯あたりCO2が2.52トン発生するとのデータで換算すれば、大体4,021世帯分のCO2を陸奥湾のアマモが吸収してくれていることになる。但し1990年にアマモ場が6,862ヘクタールあった時は、1万3342世帯分ものCO2を吸収してくれていた。

釜臥山展望台からの陸奥湾の眺め

■ アマモを保全するコンクリート構造物「竜宮礁」を開発


志田:アマモが減った原因は、東京と同様に埋立地を作り砂地がなくなったことにある。港湾、漁港に海岸工事をする建設業者としては耳が痛いが、これで潮流や水質が変化し砂地がなくなり、濁りが出来て光合成ができずに、消滅した。

 水温が高くなったのも原因だ。水温が30度を超えるとアマモは枯れて死んでしまう。

 また陸奥湾で特徴的なのが、ホタテの桁引き操業でアマモを刈り取ってしまうことだ。桁引き網は底曳網で、爪を常に引っ掛けてナマコやホタテを浮かせ、後から追ってくるかごに入れる漁法だ。ナマコやホタテを取るのと同時にアマモも削ってしまう。ナマコとアマモが混合して取れるため、漁師さんたちも仕分けるのは大変だ。

 とはいえ私が青森に帰って2、3年後の平成19年、漁獲量が大きく増え漁獲金額が30億円以上になった。漁師さんたちはお金を稼ぎたい、獲りたい。当時の青森県の漁獲金額のデータで、スルメイカが漁獲金額の28.1%を占めて第1位。次いで帆立貝、3番手はナマコの5.9%で、マグロに勝っている。

 問題解決のため、桁引き操業の邪魔にならないようスゲアマモの地下茎をほぐし、ナマコの育成場にもなるような堅牢な構造物の開発を2007年からスタートした。

 出来上がったのが穴開きのドーム型のコンクリート構造物だ。特許も取り、「竜宮礁」と名付けて商標登録した。最初に潜って調査したときに魚やナマコが沢山来て、まるで竜宮城のようだったから付けた名だ。

ゲスト講義で竜宮礁の仕組みを紹介する志田崇氏

■ モニタリングで効果を実証し事業化を推進


志田:竜宮礁は直径1.5m、高さ30センチで、流体の抵抗を受けにくいドーム型にした。流れを可視化し、陸奥湾内に150基ぐらい設置し、実証実験を2年かけて行った。ナマコは夏に寝るので、その仮眠場となり、冬は動きが活発になるので表面に付いた。1カ所からナマコが最大23個体出て、小さいナマコも見られた。スゲアマモを穴の中に移植し桁引きをしたところ、底引網の通った爪跡の残る中でスゲアマモがきちんと守られていた。様々なメバル、アイナメなどが見られている。

 この成果が県に認められ、青森県の水産環境整備事業に2013年度から取り入れられ、これまで4万機以上、陸奥湾に設置されている。1機当たり5万5000円で販売し、22億円以上になった。設置しただけでなく、実際に効果が出て、仕事として続けていけることが重要だ。私も潜り、ナマコ、アワビが生息し住み替えしているのを確認し、きちんとモニタリングして効果を確かめている。

 さらに面白いことにヤリイカが、竜宮礁の天井裏に産卵しており、多機能な効果を生むことが確認できた。その他にも、アマモの保全だけでなく、表面に昆布、アワビ、サザエの餌になるフシスジモクがついて、アマモ場の効果も確認した。

 陸奥湾のアマモ場の動向は、1990年から2020年まで約2,000ヘクタールで、2010年が最少だった。竜宮礁設置を2013年にスタートしてからアマモ場が増えてきたのは、漁師さんたちが竜宮礁の場所を禁漁区にするなど工夫しアマモ場を守ることに協力してくれるおかげでもある。

 竜宮礁は、閉鎖的で波が穏やかという波浪条件が優しい陸奥湾用なので、直径1.5m高さ30センチだった。実際の効果を踏まえ、日本海、津軽海峡、太平洋に持っていくために大型化をした。

 直径4.5m高さ1.1mで15トンの重いものを、青森県の津軽海峡と日本海に設置し、実証したところ、見る影もなかった昆布が付着し、水ダコがいて、ヤリイカが産卵し、シマダイが1機あたり30匹いた。日本海の方は、マダイや、10センチ程のサビハゼが3,000匹ぐらい上にいて、それを捕食しようとヒラメ、マダイ、ウマヅラハギがいる効果を実証した。

獲れたての陸奥湾アワビ

■ 風力発電で揚水し、アマモを育成


志田:青森の日本海の南側ではいま洋上風力の公募が行われている。洋上風車が立つと恐らく禁漁区になり、安全の面から漁ができなくなる。それなら、魚礁をおき、藻場を増やし、生物を増やし、ブルーカーボンの効果が出るようにしたい。事業者が決まったらアプローチしていきたい。

 2008年から魚礁をつくるだけでなく、実際にアマモ移植を実施してきた。

 ドームに入れるアマモの種子を生産し、漁師さんと一緒に種ができるものを取り陸上の水槽で保管、選別し、砂を敷いた陸上水槽で種を植え、種苗を作り、青森駅前干潟にも移植した。

 移植1年後に、アマモがすくすくと成長して伸び、3年後には2メーター程のアマモ棚を作り、5年後には2.5m〜4mぐらいの広さのアマモ棚を形成し、その脇にカレイが生息するようになった。このような取り組みをしていたところ、5年前の2019年、日本テレビ「鉄腕DASH」のロケ地になり話題を呼んだ。

 ブルーカーボン効果がある種苗を生産するのに、化石燃料で発電された電気を使うことに疑問を感じていたため、再生可能エネルギーの風力エネルギーである垂直軸の風車を利用し、漁港内の海水をくみ上げ、陸上の水槽に入れ、スゲアマモの種を育てて生産した。出来た種苗は漁港内の海底に移植した。移植後の9カ月後、生育を確認し、3年後にはスゲアマモの群落を作ることができた。出来た種苗は竜宮礁の中にも移植している。

ゲスト講義で洋上風力との連携構想を紹介する志田崇氏

■ 民間のブルーカーボンクレジットを活用


志田:人が介入し、アマモ場を作り、海藻養殖をし、吸収したCO2を定量化して売買することが可能になった。ジャパンブルーエコノミー技術研究組合JBE は、独自の Jブルークレジットを創設した。

 国が主体となったJクレジット制度は2013年に開設されたが、取引は、省エネ設備の導入、再生可能エネルギーの導入、適切な森林管理が主体で、海草藻場の造成保全が入っていない。

 これに対してJブルークレジットは国主体ではなく、ボランタリークレジットつまり民間のクレジット制度だ。創設した者、使う者にとって互いに良い取引となっている。

 NPO市民団体等が、アマモ場の造成保全をし、どの大きさの藻場でどの程度CO2を減らし吸収しているかの算定を、 JBEにプロジェクトとして申請する。一方、企業団体等クレジット購入者、とくに大企業はCO2を削減しろと社会的責任を問われているものの、工夫してもなかなか全部ゼロにはできない。そうした時、プロジェクトで創出したクレジットを買うことが、CO2削減になる仕組みだ。

 市民団体が活動するためにはボランティアだと長続きしない。ある程度買ってもらいお金に換えて活動することで、持続的なアマモ場、海藻の造成ができる。売る方も買う方もCO2の削減を担うことになり、互いにウィンウィンの制度になっている。

ゲスト講義でブルーカーボンについて解説する志田崇氏

■ 暮らしの真ん中に海を


志田:青森駅前干潟が拡大し、2021年4月に青森駅前ビーチという海浜公園が開園した。そこでもJブルークレジットを利用し、アマモ場を作った。規模は小さく、砂浜3,500平方メートル、干潟が1,500平方メートル、海中2,000平方メートルで、端から端まで100m程の小さなビーチだが、青森駅前ビーチは青森駅から走って30秒の近さと、青森ウォーターフロントエリアという観光施設、クルーズ客船の停泊場の一角であることが魅力だ。

 昔の青森港は、明治末期には家があり、子供たちが海で戯れる場所だった。大正末期も漁業者が魚を捕ってくると100人200人の人だかりができ、漁獲されたものを見ている風景があり、まさに海に寄り添った暮らしをしていた。それが、昭和になり北海道の函館と青森を結ぶ青函連絡船、人と物を運ぶ重要な連絡船ができたことで、岸壁が増え、砂地を壊し、人よりは船にとって良い場所になった。1940年頃には青函連絡船で貨車をそのまま船に乗せて行く形になった。当時は岸壁が三つあった。

 1988年に青函トンネルができ青函連絡船は廃止された。岸壁があり柵があり、ただ眺めるだけの海で、利用価値が全くない海になった。そこで県が2014年から2015年にかけて、青森港を元のように人が行き交い潤いのある空間にしようと、第1岸壁を干潟に造成した。

 さらに、魚が住む砂浜を作ろうということになり、海洋専門家の木村尚さんの助言を受け、青森駅前ビーチを作った。キャッチコピーは、「暮らしの真ん中に海を」となった。

 2021年7月にオープンし、私たちが県からの要請で管理している。キャッチフレーズは「人と水生生物が共存する居心地の良い空間作り」にした。陸奥湾の中でも風向きによってゴミが溜まり、海草藻類が流れ着く場なので、日常的に海岸を清掃している。保全活動してきた中でアマモが増え、青森駅前ビーチにはアマモに寄り添うカレイの幼魚、ハゼ類、ボラなど魚も増えてきた。

 アマモの移植活動には大人だけでなく子供たちも巻き込み、アマモの種を上から撒いてもらっている。針のない注射器のシリンジでアマモの種を海底に打ち込むやり方だ。子供たちには網を引かせ、生物調査をやり、アマモの大切さを座学でも行っている。

ゲスト講義でアマモ場を紹介する志田崇氏

■ 地域の課題をクリアしながら持続展開


志田:2021年7月から活動を続け2023年6月、ベイブリッジの上から撮った写真を見るとアマモが沢山生息しているのを確認できた。200平方メートル以上ある同地の面積でJブルークレジット認証を申請することにし、ドローンで空撮し、正確な面積を把握し、どのくらいの密度でアマモが生えているか調べた。Jブルークレジット申請の手引きにあった計算式に、調査から得られた数字を当て、1年間で0.3トンのCO2を吸収していることがわかった。

 JBSに申請したところ、確実性の評価で、いろいろ差し引かれ、青森駅前ビーチでは1年間で0.2トンのCO2を吸収していると証明された。

 津軽海峡の青森と函館を結ぶ青函カーフェリーが購入してくれた。クレジットの1トンあたりの取引金額は約7万円で結構高い。私達は0.2トンなので1万4000円換算になるところを、0.1トンを5万円、すなわちトン当たり50万円で購入してくれた。我々の行動活動を応援してくれた。

 Jブルークレジットで実感したのが、同制度ができて、購入者から資金を得ると、持続可能な活動が展開できることだ。二酸化炭素の取引以外に、生物多様性の創出、水産振興、食料供給、水質浄化につながった。   

 ビーチには子供から大人まで観光客もいろいろ訪れる。人と人のコミュニティの場として、新たな価値が取引価格にも反映されている。創出者も購入者もこの制度によってカーボンニュートラルに貢献し、気候変動対策をし、豊かな海作りに貢献できる。地域の課題をクリアしながらお金を回していける。

議論する中井徳太郎氏、周牧之教授、志田崇氏(左から)

■ 自然共生サイトに登録し生物多様性向上を


志田:青森駅前ビーチは、生物多様性のポイントの自然共生サイトに登録を申請している。自然共生サイトは、2021年G7サミットで日本が国内外に向けて約束した2030年までに国土の30%以上を自然環境エリアとして保存する「30by30」という取り組みがある。海も陸上もどちらも30%以上、自然環境エリアとして保全する。

 国が認定した自然共生サイトは、OECMすなわち「民間の取り組み等によって生物多様性の保全が図られる」と国が認定する区域だ。認定区域は、国立公園などを除いた地域で、保護地域との重複を除き、「OECM」として国際データベースに登録される。

 国立公園などの保護区ではない地域のうち、生物多様性を効率的かつ長期保全を集中して行う地域を、国際的に登録する。国際的なデータベースに載せる。例えば青森駅前ビーチが自然共生サイトそしてOECMになると、環境保全エリアとして世界的に発信できる。Jブルークレジットとは違い、まだクレジットにはなっていないが企業や団体が、生物多様性の取り組みを明示化することで、企業の投資家や一般消費者、利用者にPRでき、事業の価値を高めるメリットがある。

 青森駅前ビーチも価値を高めていきたい。自然共生サイトのポイントは、生物多様性の向上であるため青森駅前ビーチでリストを作り実践している。

 ブルーカーボン、自然共生サイトへの登録を通じて、地域の自然環境を保全することで様々な価値を上げていきたい。と同時に、継続的な活動をするために資金を回していきたい。地域の環境問題対策、地域経済、豊かな自然、幸せな未来に向けて、歯車が合えばいいと思う。

青森駅前ビーチ

■ 海を豊かにする再生事業


周牧之:アマモを選んだ理由を伺いたい。砂地や温度が関係してくるということだが、成長のスピードは? 

志田:多年草なので成長は早い。定着してくると地下茎を通って繁殖していく。生育地は砂地、砂利場が多く、昔は青森の海が日本一のアマモ場だったポテンシャルもあって、アマモを選んだ。アマモが生物多様性に貢献していることで、造成を進めた。 

周:アマモと昆布やワカメとの棲み分けは?

志田:昆布やワカメは硬い所に吸着し生育していくので砂地ではない。竜宮礁は表面が硬いコンクリートなので、胞子が吸着し、昆布が増えているところもある。日本製鉄でもやっていると思うが、着底気質を持つものを入れ、昆布やワカメを増やすことも可能だ。 

周:竜宮礁を作ったことで海が豊かになった。その点、漁業者としてのメリットは数値化されているのか?例えばナマコがものすごく増えたとか、

志田:何とも言えない。藻場があると密漁があって獲られたりすることもある。青森のナマコは輸出できていない。

周:中国人はナマコが大好きだ。高く売れる。

志田:いまは原子力排水の問題があり、輸出は出来ない。

中井徳太郎:ナマコを獲る桁引き網はいまもやっているのか?

志田:やっているところもある。潜って獲ることもある。竜宮礁を作ったところは桁引きの邪魔にならない。実際、漁師さんたちは、竜宮礁を保護区にするため漁はしない。海藻類もついているので発生場として保護しようということだ。

周:ナマコは養殖しているのか?

志田:していない。種苗は生産している。完全養殖は中国でやっていると思うが日本はまだやっていない。

中井:青森の人はナマコをよく食べるか?

志田:買って食べることはしない。貰って食べる。青森ではりんご、ホタテ、ナマコは貰って食べる。買うことはしない。

周:ナマコはアマモの落ちた枯葉を食べる?

志田:相性がいい。ムラ状に生えるので、ナマコは木の下で寄り添っているような形で枯葉を食べている。 

周:ナマコも美味しく食べられる。レシピ次第かもしれない(笑)。アマモ場を活用し、今の手法で、養殖場として使えるのか?先日実際に潜ってみて、陸奥湾が実に豊かな海だと実感した。今後、漁業よりは養殖のウエイトが大きくなるのでは?海の再生の話と、養殖のことを絡めていくのも一つの筋ではないか?

志田:海の使い方、漁業経営のあり方が違う。海岸線は自由に使えない。

周:藻場を入れる場所はどのように決めているのか? 

志田:業者さんと、どこに入れるかをヒアリングし、ここに設置してほしいという希望のあった場所に入れる。

中井:そこは本来、漁場だったのか?漁業者が魚を獲っていた場所か?

志田:そうだ。漁場だったのが、桁引きをし過ぎて砂地になってしまったところなどがある。

中井:それを漁場に戻す必要がある。 

志田:竜宮礁を入れた結果を漁師さんに見てもらい、また入れようという話になる。それが漁獲量と、漁獲金額にどれだけ反映されているのかわからない部分もあるが、評判はいい。

ゲスト講義で議論する中井徳太郎氏

■ 竜宮礁の更なる展開と課題


周:地方自治体の意識の高さも影響しそうだ。他の地域でやっているのか?

中井:酒田でやった?

志田:酒田で竜宮礁を設置した。アカモクの母藻を表面に付けた。アマモも移植したが根付かなかた。

中井:アカモクは根付いて広がったのか?

志田:全部で6基入れた中で、なぜか一つだけに付いた。徐々に広がっている。他の竜宮礁のところにも広がってくる。他の単体の方にも流れていっているかもしれない。

中井:陸奥湾以外でやっているのは?

志田:酒田と佐渡でやった。佐渡もとてもいい結果が出ている。ナマコが豊富で、ナマコのために設置してくれと言われて設置した。マメタワラ、ホンダワラが表面に付いた。

中井:全国展開のポテンシャルがある。海の状態に合わせて、バリエーションのある展開を考えていける。

周:アマモは海を再生する力を持っている。竜宮礁は陸奥湾だけでなく、全国展開、世界展開もできそうだ。特許は取ったのか?

志田:あと5年くらいで切れる。

周:私は若い時、政府開発援助(ODA)に携わった。20数年前に東南アジアで調査した時に、養殖が海岸に深刻なダメージを与えたのを目にした。

志田:養殖で海が汚れる。

周:竜宮礁で、海が修復できるのではないか。

志田:ナマコはホタテの下にいて、糞を食べてくれると言われている。 

周:竜宮礁を使い海の環境がかなりの面積で改善されるかもしれない。

学生:竜宮礁は太平洋に置いているか?

志田:置いてない。太平洋は岩盤が多いからだ。震災前は昆布など海草も生い茂っていたが、震災でそれらがなくなってしまった。竜宮礁を設置してみないかという話もあったが、太平洋は岩盤が多く起伏があるため、置いても安定しないことから設置してない。砂地に置いて、海藻の付着や魚のすみかを作っている。

学生:脱炭素化を目指す上で、洋上の風力風車をしている海に竜宮礁を設置する際の課題はなにか?

志田:洋上風車をしているところは風がいい。風が強いので波も立ち、海底の砂も移動してしまう。置いた竜宮礁が、砂の移動で埋没することもあるため、身長を高くするといった課題がある。

ゲスト講義で学ぶ周牧之ゼミ学生

■ 竜宮礁事業を支える仕組み


周:竜宮礁事業は地方自治体が資金を出して実施している?

志田:そうだ。公共事業で、水産庁と青森県の資金が入っている。 

周:アマモは1年間1ヘクタールで4.9トンものCO2を吸収する。それが大きな宣伝効果を生むはずだ。海上風力とのセットでやるのはいいアイディアだ。標準化すればよいのでは? 

志田:海草が生えるところなので10〜15mぐらいの水深だ。水深が浅い所の風車とセットにするのがいい。 

中井:アマモは多年草だから、一度認定された0.2トンのクレジットは、毎年続くのか? 

志田:毎年続く。毎年1年間で吸収したCO2の量をクレジット化する。

中井:1回申請して認定されたら、毎年買ってもらえるのか?

志田:毎年買ってもらえるかどうかは、わからない。津軽海峡フェリーが来年また買ってくれたとしても金額が低くなるかも知れない。

中井:ブルークレジットを取ったとき申請事業主体はどこか?

志田:私が所属しているNPO団体として私の会社も入って出した。

中井:竜宮礁として展開するのと、地道にアマモ場を作って再生していくのと、両方やっている? 

志田:そうだ。竜宮礁の設置にお金がかかるので民間団体だけでは難しい。

中井:4.5mの外海洋の竜宮礁は、志田内海が製品化しているのか?

志田:製品化している。 

中井:日本海側と津軽海峡側で出したのは?

志田:自前でやったのも洋上風車の事業者のスポンサーがついたのもある。

中井:竜宮礁は、真ん中のところにアマモを付ければそれを保全できるが、アマモだけではない? 

志田:昆布は自然に付いたが、昆布の補草を他から持ってきて付けて促すこともした。竜宮礁の中はアマモで、表面に他の生物がつく。

中井:まさに森里川海的だ。陸奥湾は鉄分の問題などはないのか。 

志田:ミネラルが流れてきていると思う。陸奥湾の外海はわからない。鉄分が不足しているかもしれない。

中井:鉄分が原因で、藻場が枯れているところもある。そこは竜宮礁と合わせてやればいい。

 JブルークレジットはCO2を金に変えてくれる点で非常にいいことだ。志田さんが元々、生物多様性を戻そう、自然を戻そうという問題意識を持っている。それはいま世の中の潮流になっている。脱炭素のカーボンニュートラルが大きなテーマであると同時に、もう一つ、ネイチャーポジティブで自然を戻そうということが世界的潮流になっている。

 ネイチャーポジティブ的なことで何ができるか考えたときに、海の再生にとって藻場の話はド真ん中だ。CO2をカウントしたクレジットが高く売れるのは二つの意味合いがある。単に削減する価値のクレジットは、買う側の企業からしても、自分が削減するのが本来だが、削減しきれないから他の人の分を買うという話で捉えられる。

 一方で吸収は、自然を戻すという付加価値になっている。CO2を吸収してくれるのでお金になるというわかりやすい世界がある。海の再生に企業が協力しているという企業イメージを出すことが重要だ。

 森林再生も同様で、森林吸収クレジットも4、5万円で高額だ。森林吸収への取り組みを説明したい大企業のニーズがある。

カーボンニュートラルは2050年までにゼロという目標が立っている。サーキュラーエコノミーとネイチャーポジティブとの三つを全部統合する青森のアマモは、大事なプロジェクトだ。

議論する周牧之教授、中井徳太郎氏、志田崇氏(左から)

プロフィール

志田崇(しだ たかし)/志田内海株式会社代表取締役会長

 1980年生まれ。青森県青森市出身。建設業に携わる一方、海の環境保全活動に尽力している。コンクリート製の海草アマモ増殖礁「竜宮礁」を開発して特許を取得。弘前大学大学院理工学研究科の社会人大学院で学んだ。
 2022年第10回 環境省グッドライフアワード環境大臣賞受賞。

中井 徳太郎(なかい とくたろう)/日本製鉄顧問、前環境事務次官

 1962年生まれ。大蔵省(当時)入省後、主計局主査などを経て、富山県庁へ出向中に日本海学の確立・普及に携わる。財務省広報室長、東京大学医科学研究所教授、金融庁監督局協同組織金融室長、財務省理財局計画官、財務省主計局主計官(農林水産省担当)、環境省総合環境政策局総務課長、環境省大臣官房会計課長、環境省大臣官房環境政策官兼秘書課長、環境省大臣官房審議官、環境省廃棄物・リサイクル対策部長、総合環境政策統括官、環境事務次官を経て、2022年より日本製鉄顧問。

【北京】政治・文化・科学技術でひときわ輝く「帝都」【中国都市総合ランキング】第1位

中国都市総合発展指標2022〉第1位


 北京は7年連続で総合ランキング第1位を獲得した。 首都としての強みをもつ北京は、「社会」大項目がダントツ全国第1位である。「社会」大項目の「ステータス・ガバナンス」「伝承・交流」「生活品質」の3つの中項目は、北京は他の都市と比べ、 飛び抜けて優れている。

 同大項目の9つの小項目の中で北京は、「都市地位」「人口資質」「歴史遺産」「文化娯楽」「居住環境」「生活サービス」の実に6項目で第1位を獲得している。「社会」大項目では58の指標データを採用しており、北京はそのうち24の指標データにおいて全国第1位であった。

 北京の「経済」大項目は、2020年度と同様、第2位である。中項目で見ると、「発展活力」は第1位を獲得した。「経済品質」「都市影響」ではともに上海に遅れ第2位であった。9つの小項目のうち、「経済構造」「ビジネス環境」「イノベーション・起業」「広域輻射力」の4つが第1位となっている。

 「環境」大項目で北京は2020年度と同様、第9位を獲得している。3つの中項目の中で「空間構造」が第3位、「環境品質」が第37位となったものの「自然生態」が依然として遅れをとり 第235位に甘んじている。これは北京が環境保全においていまだ多くの課題を抱えていることを示している。

 中国都市総合発展指標2022について詳しくは、中心都市がメガロポリスの発展を牽引:中国都市総合発展指標2022を参照。


■ 行政副都心計画と人口抑制政策


 首都・北京市は、中国の政治、経済、教育、文化の中心地であり、四大直轄市の1つである。元、明、清の三大王朝の都として、万里の長城、故宮、頤和園、天壇、明・清王朝の皇帝墓群、周口店の北京原人遺跡、京杭大運河といった7つの世界遺産をもつ北京では、胡同と呼ばれる明・清時代の路地を残した街区等、多くの歴史的建造物が存在している。一方では現代的な高層ビルが次々と建設され、新旧が入り交じった独特の街並みを形成している。2008年には夏季オリンピック、2022年には冬季オリンピックが相次ぎ開催された。北京市の常住人口は2,152万人で、2010年からの4年間で約191万人も増加した。世界屈指のメガシティである。

 世界的に本社機能が最も集中している都市の一つとして北京市は改革開放以降、繁栄を極めてきた。一方で、膨らむ人口が慢性的な交通渋滞や水不足、大気汚染等「大都市病」をもたらした。2017年9月に発表された「北京市総体計画(2016—2035年)」では、人口抑制政策を大々的に打ち出し、市内から一部の人口を市外へ転出させ、同市の常住人口を2,300万人に抑えるとしている。北京市政府は、自ら行政機能を郊外の「行政副都心」に移転させた。

 2017年11月、北京市は、出稼ぎ労働者が多数住むエリアでの火災事件を契機に、違法建築を取り壊すなどして10万人単位の出稼ぎ労働者らを市外へ追い出し、物議を醸した。結果、2017年末の北京市の常住人口は1997年以来、20年ぶりに減少した。その後も北京市の人口抑制政策は引き続いている。

■ 世界三大科学技術クラスターの一つ


 世界知的所有権機関(WIPO)は2022年9月、「グローバル・イノベーション・インデックス(以下、GII)」報告書を公開し、世界の科学技術クラスター(以下、クラスター)のランキングを発表した。これは、各国・地域における技術革新の集積を評価するものである。同年、東京-横浜、広州-深圳-香港、そして北京がこの評価でトップ3に名を連ねたことは、アジア地域の技術革新における力の増大を物語る。

 GIIによる「科学技術クラスター」評価は2017年に始まり、以来、毎年公表されている。東京-横浜、広州-深圳-香港の2つのクラスターは、これまでのランキングでも常に1位と2位を維持してきた。一方、北京は2017年の7位から2021年の3位へと大きく順位を上げている。

 GIIランキングは、PCT出願件数と科学論文出版数という2つの指標に基づいている。

 GIIランキングは、発明者や科学論文著者の所在地情報から各科学技術クラスターを評価しているのが特徴である。具体的には、WIPOの「特許協力条約(PCT)」下の特許出願件数と、クラリベイト・アナリティクスが提供する「Science Citation Index Expanded」ウェブサイトに掲載されている科学論文数が主要な指標として使用されている。

 GII の2017年版では、PCT出願件数のみが評価の基準として採用されていた。2018年から科学論文の指標が追加された。

 首都としての北京は、中国のイノベーションセンターであり、科学論文の発表において圧倒的な強みを持っている。

 2018年には、北京の科学論文発表数が197,175件に達し、2.5%の世界シェアで、東京-横浜の1.4倍であり、世界第1位だった。2022年には、北京の科学論文発表数は2018年に比べて24%増加し、世界シェアを3.7%に伸ばし、世界第1位を維持した。

 これに対して、北京の特許申請はまだ追い上げ途上にある。2018年のPCT出願件数は18,041件で、1.9%の世界シェアで、世界第8位だった。2022年には世界シェアを2.8%に伸ばし、世界第6位に上昇した。

 中国科学院、清華大学、北京大学など一流の大学と研究機関が、北京の科学論文力の強固な基盤となっている。科学論文発表数の持続的な増加が、北京の世界的な科学技術クラスターとしての地位を固めている。

 

■ 研究開発強度は北京が最大


 国や地域の経済規模が異なるため、研究開発費を比較する際、研究開発費とGDPの比率、即ち「研究開発強度」という指標が利用されることが多い。研究開発強度とは、国や企業が研究開発に投じる資金の規模を示す指標である。具体的には、研究開発費をGDPや売上高などの経済指標で割った値として表される。この指標は、研究開発への投資意欲や技術革新への取り組みの度合いを示すものとして、企業の競争力や国の技術力を評価する際の参考とされる。高い研究開発強度を持つ企業や国は、新しい技術や製品の開発に積極的であると言える。

 世界三大科学技術クラスターの中で、北京の研究開発費の総額は最も少ないにも関わらず、その研究開発強度は6.5%と最も高く、東京-横浜をわずかに上回り、広州-深圳-香港を1.2ポイント上回る。

 研究開発を推進する上で、人員の投入は非常に重要な要素である。世界三大科学技術クラスターの中で、広州-深圳-香港と東京-横浜の研究開発人員数はそれぞれ643,000人、629,000人と、大きな差は見られない。北京の同人員数は473,000人で、他の2つのクラスターの四分の三に過ぎない。

 研究開発人員1人当たり研究開発費から見ると、東京-横浜が最も多い1,684万円(約84.2万元)である。広州-深圳-香港の約1,368万円(68.4万元)が続き、北京は約1,112万円(55.6万元)と最も少なく、東京-横浜の66%にすぎない。

図 三大クラスター研究開発人員・研究開発費・研究開発強度比較

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2021』より作成。

■ アジア随一の大学を持ちながら大学数と大学生数は北京が最少


 大学はイノベーション人材を育成する“ゆりかご”であり、同時に研究開発の重要な拠点である。世界三大科学技術クラスターの大学リソースには下記の特色がある。

(1)大学数:東京-横浜が最多
 東京-横浜には、大学が159校あり、世界三大科学技術クラスターの中で大学数が最も多い。次いで広州-深圳-香港が113校、北京は92校で東京-横浜の58%に過ぎない。

(2)大学生数:広州-深圳-香港が最多
 広州-深圳-香港は、在籍する大学生数が170.2万人と最も多い。東京-横浜は85.1万人、北京は59万人で広州-深圳-香港の35%に過ぎない。これは、中国が北京での大学設置と定員数を厳しく制約していることを反映している。

(3)北京:トップ500の大学数は最少 
 タイムズ・ハイアー・エデュケーションが2022年に発表した「世界大学ランキング」によれば、トップ500にランクインした大学数では、東京-横浜が42校で、広州-深圳-香港の16校、北京の14校を圧倒した。

 北京は同ランキング内でアジアトップ10大学第1位の清華大学と第2位の北京大学を有している。東京-横浜は、同アジアトップ10大学に東京大学が第6位と1校がランクインしている。広州-深圳-香港は、第4位に香港大学、第7位に香港中文大学、第9位に香港科技大学の3校が入った。

 すなわちアジアトップ10大学には世界三大科学技術クラスターから6校も占めている。

図 三大クラスター大学数・在籍大学生数・世界トップクラス大学数比較

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2021』等より作成。

■ 北京のフォーチュン・グローバル500企業数:広州-深圳-香港の8倍


 世界三大科学技術クラスターに立地する2022年版「フォーチュン・グローバル500」企業には下記の特色がある。

 フォーチュン・グローバル500の企業数は、北京が最も多く、56社にのぼる。広州-深圳-香港は20社で、二つのクラスターの同企業数は中国全体145社の半分を占めている。

 一方、東京-横浜の同企業数は36社で、日本全体47社の77%を占めている。

 すなわち、三大クラスターの中で、北京のフォーチュン・グローバル500企業数は最多である。

 

■ 北京のユニコーン企業数:東京-横浜の12倍


 ユニコーンとは、企業の評価額が10億ドル以上に達する、上場していないスタートアップ企業を指す。ユニコーン企業の数は、地域が新興企業やベンチャーキャピタルを引き付ける能力を示す指標として注目されている。

 世界三大科学技術クラスターに立地するユニコーン企業には下記の特色がある。

 ユニコーン企業数では、北京が圧倒的に多く、61社に達している。広州-深圳-香港地域は30社である。両クラスターが、中国のユニコーン企業全168社の約54%を占めている。東京-横浜のユニコーン企業は5社にとどまり、北京の8%に過ぎない。


■ 中国で最も映画におカネを掛ける都市


 中国の映画市場は、いま世界最大となっている。〈中国都市総合発展指標〉に基づき、雲河都市研究院は中国全297地級市以上の都市(日本の都道府県に相当)をカバーする「中国都市映画館・劇場消費指数」を毎年モニタリングしている。

 『中国都市総合発展指標2021』で見た「中国都市映画館・劇場消費指数2021」ランキングのトップ10都市は、上海、北京、深圳、成都、広州、重慶、杭州、武漢、蘇州、長沙となっている。長沙が西安を抜いてトップ10入りを遂げた。同ランキングの上位11〜30都市は、西安、南京、鄭州、天津、東莞、仏山、寧波、合肥、無錫、青島、瀋陽、昆明、温州、南通、南昌、福州、済南、金華、南寧、長春となっている。

 なかでも最も映画におカネを掛ける都市、即ち一人当たりの映画興行収入トップ10都市は、北京、上海、深圳、杭州、珠海、南京、武漢、広州、三亜、海口である(詳しくは【ランキング】世界で最も稼ぐ映画大国はどこか?を参照)。

図 2021中国で最も映画におカネを掛ける都市ランキング トップ30
(一人当たり映画興行収入)

■ 中国で最も科学技術輻射力が高い都市・北京


 現在、世界で最も研究者を抱えているのは中国である。中国で最も研究者の多い都市は北京である。〈中国都市総合発展指標〉に基づき、雲河都市研究院は中国全297地級市(地区級市、日本の都道府県に相当)以上の都市をカバーする「中国都市科学技術輻射力」をモニタリングしている。輻射力とは特定産業における都市の広域影響力を評価する指標である。科学技術輻射力は都市における研究者の集積状況や国内外特許出願数、商標取得数などで評価した。

 図より、〈中国都市総合発展指標2020〉で見た「中国都市科学技術輻射力2020」ランキングのトップ10都市は、北京、深圳、上海、広州、蘇州、杭州、東莞、南京、寧波、成都となった。特に、トップ2の北京、深圳両都市の輻射力は抜きん出ている。同ランキングの上位11〜30都市は、天津、仏山、西安、武漢、無錫、合肥、長沙、青島、鄭州、紹興、温州、廈門、済南、嘉興、重慶、福州、台州、南通、大連、珠海である。これらの都市には中国の名門大学、主力研究機関、そしてイノベーションの盛んな企業が立地している(詳しくは『【ランキング】科学技術大国中国の研究開発拠点都市はどこか?』を参照)。

図 中国都市科学技術輻射力ランキング2020 トップ30

■ IT産業スーパーシティ


 IT産業は21世紀のリーディング産業である。世界経済を牽引するだけでなくグローバリゼーションや社会の変革を推し進めている。

 中国でIT産業の輻射力が最も高い都市は北京である。

 〈中国都市総合発展指標〉に基づき、雲河都市研究院は中国全297地級市(地区級市、日本の都道府県に相当)以上の都市をカバーする「中国都市IT産業輻射力」を毎年モニタリングしている。輻射力とは広域影響力の評価指標である。IT産業輻射力は都市におけるIT企業の集積状況や企業力、そして、IT産業の従業者数を評価したものである。

 2020年は、IT業界にとって大発展の年であった。デジタル感染症対策、在宅勤務、オンライン授業、遠隔医療、オンライン会議、オンラインショッピングなどが当たり前になり、新型コロナウイルス禍で産業や生活のあらゆる分野におけるデジタル化が一気に進んだ。

 〈中国都市総合発展指標2020〉で見た「中国都市IT産業輻射力2020」ランキングのトップ10都市は、北京、上海、深圳、杭州、広州、成都、南京、重慶、福州、武漢となった。これら中国のIT産業スーパーシティは、すべて直轄市、省都、計画単列市からなる中心都市である。同ランキングの上位11〜30都市もほとんどが中心都市である(詳しくは『【ランキング】中国IT産業スーパーシティはどこか?』を参照)。

図 2020年中国都市IT産業輻射力ランキングトップ30都市

冬季オリンピック開催により、ウィンタースポーツ人口が3億人に


 2022年冬、ゼロコロナ政策の中で北京冬季オリンピックが開催された。〈中国都市総合発展指標2022〉で「文化・スポーツ・娯楽輻射力」全国第1位に輝く北京市では、市民のウィンタースポーツ熱がさらにヒートアップした。

 北京冬季オリンピックは北京だけでなく中国全土でウィンタースポーツの普及に火をつけた。元々ウィンタースポーツが余り普及されなかった中国で、いまやウィンタースポーツを楽しむ人口が3億を超えた。一度の五輪開催によりこれほど多くのウィンタースポーツ人口を増やしたことはかつてなかっただろう。

 中国のウィンタースポーツ産業の全体的な規模は2015年の2,700億元(約5.4兆円、1元=20円で計算)から2020年には6,000億元(約12兆円)と2倍以上の規模に増加し、2025年には1兆元にまで拡大する見込みである。

 2021年初めの時点で、全国には標準的なスケート場が654箇所あり、2015年に比べて3倍以上増加した。屋内外の様々なスキー場も803箇所に上り、2015年に比べて4割増加している。

北京第二国際空港が竣工


 首都・北京では現在、世界最大級の国際ハブ空港の建設が進められている。新国際空港は「北京大興国際空港」、または「北京第二国際空港」と呼ばれる。2019年7月末に完工し、同年9月末に運営を開始した。

 新国際空港は北京市の大興区と河北省廊坊市広陽区との間に建設され、天安門広場から直線距離で46 km、北京首都国際空港から67 km、天津浜海空港から85 kmの位置にある。総投資額は約800億元(約1.3兆円)にのぼる。

 計画では、2040年には利用客は年間約1億人、発着回数は同80万の規模となり、7本の滑走路と約140万 m2のターミナルビル(羽田国際空港の約6倍)が建設される。2050年には旅客数は年間約1.3億人、発着回数は同103万、滑走路は9本にまで拡大予定である。空港には高速鉄道や地下鉄、都市間鉄道など、5種類の異なる交通ネットワークが乗り入れ、新空港が完成すれば、中国最大規模の交通ターミナルになる。空港の設計は、日本の新国立競技場のコンペティションで話題となったイギリスの世界的建築家、ザハ・ハディド氏(2016年没)が設立したザハ・ハディド・アーキテクツが担当しており、空港の規模だけではなく、ヒトデのような斬新なデザイン案も国内外から大きな注目を集めている。

 新国際空港が建設されたのは、北京の空港の処理能力が限界に達していることが背景にある。中国中心都市総合発展指標2022によれば、現在、北京の「空港利便性」は全国第2位であり、旅客数も第2位である。新空港が完成すれば北京は上海から同首位の奪取も視野に入る。京津冀(北京・天津・河北)エリアの一体化的な発展を推進する起爆剤ともなるだろう。

ユニバーサル北京リゾートが開業


 2021年9月、「ユニバーサル北京リゾート」(Universal Beijing Resort)がオープンした。同リゾートは通州文化観光区の中心部に位置している。中心エリアの面積は120ヘクタール、リゾートエリア全体の面積は280ヘクタールにおよぶ世界最大規模のユニバーサルスタジオである。リゾート内にはテーマパーク、デパートやレストラン、ホテルなどの様々なエンターテインメントコンテンツが整備されている。また、中国の豊かな文化遺産を反映したユニークなテーマパークも設けられている。

 2015年11月に起工式が行われ、新型コロナウイルス禍の影響で工事が一時中断していたものの、2021年のオープンに向け急ピッチで工事が進められた。建設ゴミの削減や中水の再利用など、環境に配慮したインフラが設けられたことも注目を集めている。ユニバーサル北京リゾートに直通する地下鉄2路線も開通し、交通利便性も良い。

 2018 年5月付のウォール・ストリート・ジャーナル紙は、中国のテーマパーク産業が米国を抜いて世界一の市場になる時期を2020年と予測した。実際はまだアメリカに及ばないものの、2021年には中国テーマパーク産業の市場規模は367.1億元(約7,342億円、1元=20円)に達した。

 中国中心都市総合発展指標2022では、「社会」大項目中の中項目「文化娯楽」において北京は全国第1位である。ユニバーサル北京リゾートのオープンによって、その地位は、ますます揺るぎないものとなるだろう。

市庁舎が副都心に正式移転


 2019年1月、北京市政府の庁舎が市の中心部から通州区の行政副都心に正式に移転した。副都心は天安門広場から南西約25キロに位置し、すでに市政府の一部機能が移転を終えており、新たな所在地では、移転した当日に業務が始まった。

 北京では首都機能および市の行政機能の一極集中が課題とされ、その是正が議論されてきたが、この度、副都心の建設によって市政府行政機能の分散化が実現した。河北省で建設が進む「雄安新区」もその流れを後押ししている。北京都心、通州副都心、雄安新区、の3エリアを核とし、京津冀(北京・天津・河北)メガロポリスの一体化的な発展を目指している。

 問題は本来、北京市民のための市政府機能が人口集中地区から離れた遠隔地に移され、大きな弊害が起こり得ることである。また、市政府に勤務する人々も、長い通勤時間を強いられる。

 2019年末には通州副都心に直結する地下鉄も試験営業を開始し、2020年3月には、「2020年北京副都心重大工程行動計画」が発表され、総投資額約5,225億元(約7.8兆円、1元=15円として計算、以下同)を費やし、インフラや生活環境の整備など197の重大プロジェクトを推し進めると発表された。 

 北京では人口抑制政策が行われており、〈中国都市総合発展指標2018〉では、北京の「常住人口規模」は全国第3位であったが、2018年の常住人口データでは、2017年に比べて人口は16.5万人減少した。

 現在、東京、ロンドン、パリ、ニューヨークなど世界の大都市の中心部が、再開発によって大きく変貌し「再都市化」が進む中、北京では逆行するように「反都市化」の動きを見せている。

2018年は227日が青空に


 北京市の大気汚染が改善しつつある。北京市は2018年、年間で計227日、大気質が基準値をクリアし、青天だった。「重度汚染」の基準を超えた日数は15日まで減少し、3日以上連続で「重度汚染」の日が続かなかったのは、大気汚染の悪化が著しくなった2013年以降、初めてのことであった。

 〈中国都市総合発展指標2018〉では、「空気質指数(AQI)」は第50位で前年度から213位上昇、「PM2.5指数」は第42位で前年度から224位上昇した。

 「PM2.5指数」は、2018年度に年平均濃度が減少したトップ20都市のうち、第1位は北京であり、前年比で40.4%濃度が減少した。第5位の天津は濃度が8.3%改善した。北京に隣接する河北省においても同様の傾向がみられ、河北省は10都市中、4都市が20位以内にランクインした。

 北京に大気汚染をもたらす要因の1つは、周辺の工場群や発電所などから発生する大気汚染物質である。中国当局は工場移転を促し取り締まりを強化し、また燃料の石炭から天然ガスへのシフトを進めることで、以上の成果を上げた。ただし、大気汚染のもう1つの原因は自動車の排気ガスである。排気ガス削減の道のりは依然として遠く、問題はまだ解決の途上にある。

京津冀エリアの大動脈「北京大七環」が全線開通


 北京首都エリアの高速環状線、通称「北京大七環(北京七環路)」が2018年に全線開通した。東京の環状七号線は全長約53 kmであるのに対して、「北京大七環」はなんと全長940 kmにものぼる。「北京大七環」の完成によって、北京市内で深刻化する渋滞問題の緩和が期待される。河北省の発表では、全線開通後は、1日あたりの通行量は2.5万台に達した。同環状線の開通は、京津冀エリア、特に北京市の郊外エリアや衛星都市とのネットワークを大いに強化し、物流や人の流れを促進させる。〈中国都市総合発展指標2017〉では、北京市の「道路輸送量指数」は全国第4位であり、「都市幹線道路密度指数」は全国第12位であるが、今後この順位は上がっていくであろう。

京津冀協同発展、新首都経済圏、雄安新区


 中国政府は三大国家戦略のひとつとして「(北京・天津・河北)協同発展」を打ち出している。北京の都市輻射力を発展のエンジンとした「新首都経済圏」の構築を目指す構想である。

 2017年4月、中国政府はその一環として、河北省の雄県、容城県、安新県の3県とその周辺地域に「雄安新区」の設立を決定した。雄安新区は中国における19番目の「国家級新区」となり、「千年の計」と位置づけられた習近平政権肝いりのプロジェクトである。雄安新区は北京市から南西約100km、天津市から西へ約100kmに位置し、その計画範囲は、初期開発エリアが約100km2、最終的には約2,000km2(東京都の面積と同程度)にまで達するとされている。雄安新区は北京市の「非首都機能」を移転することで、同市の人口密度の引き下げ、さらには京津冀地域の産業構造の高度化等を目指している。

北京市の突出した本社機能とスタートアップ機能


 米『フォーチュン』誌が毎年発表する世界企業番付「フォーチュン・グローバル500」の2017年度版によると、500社にランクインした企業のうち、北京市に本社を置いている企業数は56社もあった。

 企業の内訳を見ると、第三次産業の企業が4分の3を占め、そのうち国有企業は52社、民営企業は4社であった。中国全体では前年より7社多い105社がランクインしており、その半数以上が北京市に本社を置いていることになる。第2位の上海市が8社、第3位の深圳市が6社ということからみても、北京市の本社機能は突出している。

 また、中国フォーチュン(財富)が発表した「フォーチュン・チャイナ500(中国500強企業)」ランキングの2017年度版によると、第1位の北京市には100社、第2位の上海市には31社、第3位の深圳市には25社が本社を置いている。北京市政府は2017年に本社機能をより強くする方針を打ち出しており、同市への本社機能の集約は今後さらに進むであろう。

 また、北京市政府はスタートアップ機能の促進にも力を入れており、同市は今や中国最大のベンチャー企業集積地となっている。2017年に市内で新たに上場した企業数は1450社にのぼり、第2位の上海市の878社と第3位の深圳市の686社の合計にほぼ相当する。北京市政府発表によれば、同市内に拠点を構えるネット系ベンチャー企業の数は、中国全土の約40%を占めている。


【上海】中国最大の経済規模を誇る「魔都」【中国都市総合ランキング】第2位

中国都市総合発展指標2022〉第2位


 上海は7年連続で総合ランキング第2位を獲得した。

 上海の「経済」大項目は7年連続で第1位を保持している。中項目で見ると、「経済品質」「都市影響」の2つが堂々の第1位であった。「発展活力」は第2位であった。小項目では「経済規模」「開放度」「広域中枢機能」の3つが2016年から連続で全国第1位の好成績を収めている。

 「社会」大項目で上海は7年連続で第1位を保持している。「生活品質」「伝統・交流」「ステータス・ガバナンス」の3つの中項目は、2017年から引き続き第2位であった。小項目から見ると、「人的交流」「社会マネジメント」「消費水準」は北京を越え第1位を勝ち取った。「都市地位」「文化娯楽」「居住環境」「生活サービス」の4つの小項目指標では、第2位となっている。

 「環境」大項目で上海は2年連続で第2位を保持している。3つの中項目指標の中で「空間構造」は首位の座を守ったが、「環境品質」「自然生態」は、それぞれ第14位と第123位であった。小項目指標から見ると、「環境努力」「コンパクトシティ」「都市インフラ」は第2位、「交通ネットワーク」は第3位となった。一方で「水土賦存」「気候条件」「自然災害」「汚染負荷」などの小項目のパフォーマンスは芳しくなかった。

 中国都市総合発展指標2022について詳しくは、中心都市がメガロポリスの発展を牽引:中国都市総合発展指標2022を参照。


■ 世界に誇る一大商業都市


 上海市は中国四大直轄市の1つで、長江デルタメガロポリスの中枢都市である。同市の面積は約6,340平方キロメートルで群馬県とほぼ同じ大きさであり、常住人口は約2,489万人と東京都の人口の約1.8倍の規模を誇る。GDPは4.32兆元(約86.4兆円、1元=20円)で中国の地級市以上の297都市の中で堂々第1位、国別で比較すればそのGDP規模は世界25位であるベルギー一国のGDPを超えている。

 世界有数の金融センターに成長した上海浦東エリアは、ほんの20数年前まではのどかな田舎だった。1992年に「浦東新区」に指定されたことを契機として摩天楼が次々と建設され、「中国の奇跡」と讃えられるほど急速に発展していった。

 現在、上海市内には証券取引所、商品先物取引所、そして合計8カ所の国家級開発区と、自由貿易試験区、重点産業基地、市級開発区等が設置されている。〈中国都市総合発展指標2021〉の「金融輻射力」においても、上海市は第2位の座に輝いている。

 同市の広域インフラ機能も突出しており、本指標の「空港利便性」、「コンテナ港利便性」において上海は第1位となっている。上海虹橋国際空港と上海浦東国際空港を合わせた2021年の旅客輸送者数は約6,500万人に達し、航空貨物は約437万トン取り扱われ、いずれも中国随一の処理能力を持つ。港湾機能では、コンテナ取扱量が世界で12年連続第1位に輝き、その規模は4,703万TEU(20フィートコンテナ1個を単位としたコンテナ数量)(2021年)に達している。

 上海市の流動人口(戸籍のない常住人口)は約987.3万人に達し、常住人口の約4割が外からの流入人口となっている。本指標の「人口流動」項目で、上海市は第1位となっている。2015年末時点では、外国人は約17.8万人、日本人は約4.6万人が居留している。短期滞在者も含めると約10万人もの日本人が暮らしており、日系企業も約1万社が上海に居を構えている。

 2018年1月、市政府は「上海市都市総体計画(2017—2035年)」を発表した。計画の特徴の1つに人口抑制政策が挙げられる。人口集中による弊害を懸念する同市政府は人口を厳しく抑制し、2020年までに常住人口を2,500万人にまで抑え、2040年までその水準を保つことを打ち出した。上海市政府は以前から人口抑制政策を進めており、同市政府発表によると、2017年末の市内の常住人口は2016年末に比べ約1万人減少した。

■ ラグジュアリーブランド消費を牽引


 過去20年間、グローバリゼーションは世界の富を急速に増やし、国際的な高級品消費も前例のない成長を遂げた。2022年、世界の個人向け高級品市場は2000年の3倍に膨れ上がった。なかでも中国の経済成長による高級品消費益は際立っている。2019年には、中国が世界の個人向け高級品市場の33%を占めた。新型コロナウイルスのパンデミック下ではそのシェアが若干減少したものの、中国のシェアは2030年までに世界の40%に達すると予測されている。

 中国都市総合発展指標に基づき、雲河都市研究院は毎年、全国297の地級市以上の都市を対象にした「中国都市ラグジュアリーブランド指数」を発表している。この指数は、エルメス、ルイ・ヴィトン、グッチ、カルティエ、プラダ、フェンディ、コーチ、シャネル、ディオール、バーバリー、ブルガリの、世界の11のラグジュアリーブランドをサンプルとし、これらのブランドが中国各都市で持つ店舗数を指数化し分析を行っている。

 「中国都市ラグジュアリーブランド指数2022」のトップ10都市は、上海北京成都杭州西安深圳天津重慶瀋陽武漢で、同10都市の国際的なトップブランド店舗数は全国の53.8%を占める。特に上海と北京の店舗数の多さが目立っている。両都市は中国のラグジュアリーブランド消費を牽引している(詳しくは『【ランキング】誰がラグジュアリーブランドを消費しているのか?』を参照)。

図 中国都市ラグジュアリーブランド指数2022ランキング

■ 映画大国の先頭に立つ


 中国が世界最大の映画市場になる中、上海は映画観客動員数と映画興行収入の先頭を走っている。

 中国都市総合発展指標に基づき、雲河都市研究院は中国全297地級市以上の都市(日本の都道府県に相当)をカバーする「中国都市映画館・劇場消費指数」を毎年モニタリングしている。

 『中国都市総合発展指標2021』で見た「中国都市映画館・劇場消費指数2021」ランキングのトップ10都市は、上海、北京、深圳、成都、広州、重慶、杭州、武漢、蘇州、長沙となっている。長沙が西安を抜いてトップ10入りを遂げた。同ランキングの上位11〜30都市は、西安、南京、鄭州、天津、東莞、仏山、寧波、合肥、無錫、青島、瀋陽、昆明、温州、南通、南昌、福州、済南、金華、南寧、長春となっている。

 ゼロコロナ政策で市民生活を取り戻したおかげで、映画観客動員数において、同トップ30都市は、軒並み2〜3桁台の高い回復力を見せた。結果、映画観客動員数は中国全土で前年度より倍増した。

図 2021中国都市映画館・劇場消費指数ランキング トップ30

 「中国都市映画館・劇場消費指数2021」からは、さらに次のような都市と映画興行の関係が見えてくる。

 中国で映画興行収入の最多都市:映画興行収入のトップ10都市は、上海、北京、深圳、成都、広州、重慶、杭州、武漢、蘇州、長沙である。

 中国で映画鑑賞者数の最多都市:映画鑑賞者数が多いトップ10都市は、上海、北京、成都、深圳、広州、重慶、武漢、杭州、蘇州、西安である(詳しくは『【ランキング】世界で最も稼ぐ映画大国はどこか?』を参照)。

図 2021中国で最も映画好きな都市ランキング トップ30
(一人当たり映画館での鑑賞回数)

2021映画興行収入世界ランキングトップ10入り中国映画

■ エンターテインメント産業が爆発


 所得水準が向上したことにより、中国の消費者の関心はモノ消費からコト消費に向かっている。一例として中国のテーマパーク産業の急激な発展がある。現在、国内には2,500カ所以上のテーマパークがあり、とりわけ5,000万元(約8.5億円)以上を投資したテーマパークは約300カ所もある。2016年6月、中国で初のディズニーパークとなる「上海ディズニーランド」が開園した。総工費は「東京ディズニーシー」の約2倍となる約55億ドル(約6,500億円)、面積は約390ヘクタールで、これも「東京ディズニーランド」(200ヘクタール)の約2倍の広さを誇る。入場者数は開業1年で1,100万人を動員、黒字を実現し、現在も拡張工事が進められている。

■ 自動車産業


 中国は現在、世界最大の自動車生産大国、消費大国、そして輸出大国となっている。上海は中国の自動車大国を牽引している。

 中国都市総合発展指標に基づき、雲河都市研究院は中国全297地級市(地区級市、日本の都道府県に相当)以上の都市をカバーする「中国都市自動車産業輻射力」をモニタリングしている。輻射力とは特定産業における都市の広域影響力を評価する指標である。自動車産業輻射力は都市における自動車産業の従業員・企業集積状況や企業資本・競争力を評価したものである。「2020年中国都市自動車産業輻射力」は、2019年から2020年にかけて中国各都市で公表された「第4回全国経済センサス(第四次全国経済普査)」をベースに算出した。

 中国都市総合発展指標2020で見た「2020年中国都市自動車産業輻射力」ランキングの上位10都市は、上海、長春、重慶、広州、武漢、蘇州、北京、十堰、天津、襄陽となった。特に、トップ3都市の上海、長春、重慶の輻射力は抜きん出ている。

 同ランキングの上位11〜30都市は、瀋陽、柳州、無錫、成都、南京、蕪湖、寧波、南昌、常州、杭州、揚州、長沙、深圳、済南、温州、西安、青島、仏山、合肥、鎮江である。これらの都市には中国自動車メーカの本社機能や主要工場が立地している。

図 2020年中国都市自動車産業輻射力ランキング

 近年、環境問題が世界的な課題となる中で、電気自動車(EV)が注目を集めている。自動車大国となった中国では、猛烈な勢いでEVの普及と生産に官民一体となって取り組んでいる。

 2023年、中国は世界のEV販売台数と生産台数のダントツ1位である。中国の自動車輸出もEVの貢献度が高い。世界的なEV大手テスラの最初のメイン工場も上海にある(詳しくは『【ランキング】自動車大国中国の生産拠点都市はどこか?』を参照)。

■ 世界で最も港湾コンテナ取扱量が多い都市


 2020年世界における都市港湾コンテナ取扱量ランキングのトップ30には、アジアの都市が21も含まれている。特に中国は、香港、高雄を含み12都市もランキングされている。アジアの時代を彷彿とさせる同順位のトップに立つのが上海である。

 ランキングのトップ10は、順に上海、シンガポール、寧波―舟山、深圳、広州、青島、釜山、天津、香港、ロッテルダムとなり、トップ10都市のうち、中国は香港を含み7都市(寧波と舟山をひとつにカウント)がランクインしている。コンテナ輸送における中国の圧倒的なパワーが浮かび上がる。

 同ランキングトップ30の中で、中国以外には唯一アメリカが複数の都市をランクインさせている。それは17位のロサンゼルス、19位のロングビーチ、20位のニューヨーク―ニュージャージーである。なお、日本は21位の京浜港(東京―横浜―川崎をひとつにカウント)だけがランクインした。

図 2020年世界における都市港湾コンテナ取扱量ランキング

 グローバリゼーションが加速する中、サプライチェーンの根幹である港湾機能は、国や都市にとって極めて重要な機能である。中国都市総合発展指標では、港湾機能を評価する「コンテナ港利便性」を採用し、毎年各都市でモニタリングを実施している。

 「コンテナ港利便性」は、都市における港湾へのアクセスおよび港湾処理機能を指数化した指標であり、都市中心部から港湾までの直線距離やコンテナ取扱量等のデータを合成し、独自に利便性を算出している。

 「2020年中国都市コンテナ港利便性」のトップ10都市は、順に、上海、深圳、寧波、青島、天津、広州、廈門、日照、蘇州、舟山となり、第1位の上海の突出ぶりが著しい。

 2020年には、上記トップ30都市で唯一、大連のコンテナ取扱量がマイナス成長に陥った。新型コロナウイルス禍で、中国の大多数の港湾都市がコンテナ取扱量のプラス成長を実現させた背景には、製造業輸出力の強靭さが窺える(詳しくは『【ランキング】世界で最も港湾コンテナ取扱量が多い都市はどこか?』を参照)。

図 2020年中国都市コンテナ港利便性ランキングトップ30都市

■ 中国で最も空港利便性が高い都市


 交通ハブ機能は、都市にとって極めて重要な機能であり、他の中枢機能を強化・増幅する基盤となる。中国都市総合発展指標では、空港機能を評価する「空港利便性」を採用し、例年各都市でモニタリングを実施している。

 「空港利便性」は、その都市における空港のアクセスおよび空港処理機能を指数化した指標であり、都市中心部から空港までの直線距離、空港旅客数、空港貨物取扱量、年間フライト数、遅延率、滑走路距離等のデータを合成し、独自に利便性を算出している。

 「2020年中国都市空港利便性ランキング」上位10都市は、上海、北京、広州、深圳、成都、重慶、昆明、西安、杭州、廈門であり、いずれも中心都市である。同上位10都市の順位は、2019年度から不動であった。

 「2020年中国都市空港利便性ランキング」の11位から30位都市は、鄭州、南京、海口、貴陽、長沙、青島、天津、三亜、瀋陽、武漢、ウルムチ、ハルビン、大連、済南、南昌、太原、寧波、フフホト、蘭州、南寧であり、海南島のリゾート地・三亜を除き、すべて中心都市であった。東京経済大学の周牧之教授は「コロナ禍の影響により国際旅行が中断され、国内旅行が中心となり、観光名所を抱える鄭州、貴陽、長沙、三亜等の都市が順位を上げた」と見ている(詳しくは『【ランキング】中国で最も空港利便性が高い都市はどこか?』を参照)。

図 2020年中国都市空港利便性ランキングトップ30都市

■ G60科学技術イノベーション回廊(G60上海松江科創走廊)で産業振興を


 現在、上海をはじめとした長江デルタエリアでは、G60科学技術イノベーション回廊(G60上海松江科創走廊)という目玉プロジェクトが進行している。2016年に発足した同プロジェクトは、米国ボストン周辺のルート128にハイテク企業を集積させたことに因み、高速道路G60の上海市松江区から浙江省金華市までの区間沿いに、イノベーション関連企業を集積させる試みである。その後、構想はさらに松江区から外側へ延びる他の高速道路や高速鉄道の沿線に広がった。現在、同プロジェクトに参加する都市は、上海(松江)、嘉興、杭州、金華、蘇州、湖州、宣城、蕪湖、合肥の9都市に及ぶ。

 この9都市の人口、GDPの合計は、それぞれ約5,672万人、約7.4兆元(約147.5兆円、2021年)にも達する。同構想は、9都市における環境、ロボット、自動車部品など基幹産業の連帯的な発展を促すために、産業パークの設置や、金融サービスの提携、人材の交流などの施策を打ち出した。また、長江デルタメガロポリスにおける地域協力のモデルとして、9都市間の通勤、通学、物流などを推し進めるインフラ整備や制度整備なども行っている。

 雲河都市研究院は同プロジェクトから要請を受け、「長江デルタG60科学技術イノベーション回廊ハイクオリティ発展指数」、「長江デルタG60科学技術イノベーション回廊一体化発展指数」の両指標を開発、プロジェクトの進捗状況を明らかにすると同時に、その方向性づくりに協力している。

中国各都市の科学技術発展の実態について詳しくは、【ランキング】科学技術大国中国の研究開発拠点都市はどこか?」を参照されたい。

■ 66日間に及んだ長期ロックダウン


 上海にとって2022年は新型コロナウイルスに苦しめられた一年であった。3月28日〜6月1日の間ロックダウン(都市封鎖)が実施され、その封鎖期間は66日間に及んだ。2020年の武漢のロックダウンに11日短いだけの長期戦であった。

 上海は中国最大の経済規模を誇る国際都市である。その上海で新型コロナウイルスの流行は、2022年1月中旬に始まった。最初は毎日数人の新規感染者が出る程度で、それが2月末まで続いた。しかし、3月初めからは、日々の新規感染者が数十人から数百人にまで急増し、3月下旬には1日あたり千人を超えた。ピークに達した4月28日は、1日で5,487人もの新規感染者が出た。

 ロックダウン期間の66日間、上海市でのべ57,486人の陽性感染者が報告され、1日あたり平均871人の新規感染者が出た計算になる。また中国では症状のある新規感染者と別途に、無症状感染者数の集計をしている。上海のロックダウン期間の無症状感染者数は773.7万人に達し、1日あたりでは平均11.7万人となった。

 全域でロックダウンを実施した武漢とは違い、上海のロックダウンは部分的に実施された。3月27日に上海市新型コロナ感染予防抑制活動指導グループ弁公室が通知を発表し、3月28日から4月5日まで、黄浦江を境に地区を分割し、PCRスクリーニング検査を実施するとした。公告によると、最初の封鎖地域には浦東、奉賢、金山、崇明の4地区と、閔行区が管轄する2つの街道、松江区が管轄する4つの町が含まれた。その時点での対象面積は約4,000平方キロメートルで、上海市全体の面積の60%以上を占め、対象人口は800万人まで広がった。

 その後、ロックダウンはさらに2カ月ほど伸び、6月1日まで長期に至った。ロックダウンの実施により新型コロナ感染状況は一時沈静化されたものの、年末のゼロコロナ政策の解除で再び感染が爆発して医療崩壊も起こり、人的損害が膨らんだ。

 結果、新型コロナ感染症は2022年の上海経済に大きな負の影響を及ぼした。

■ 上海自由貿易試験区臨港新片区


 上海で進む1つの目玉プロジェクトは「上海自由貿易試験区臨港新片区」(以下、新片区)開発プロジェクトである。2019年8月に発足した新片区は、上海中心部から南東へ約70キロメートルに位置し、総面積873平方キロメートルの巨大国家プロジェクトである。

 新片区は投資・貿易・資本・輸送・人材の自由化を進め、質の高い外資を誘致し、産業と都市の融合発展を目指す。まずは、スタートエリアとして120平方キロメートルの開発を計画中だ。

 新片区には、すでに、テスラ(Tesla)、シーメンス(Siemens)、キャタピラー(Caterpillar)、そして日本からYKKなどの国際的に名高い企業が進出している。

 なお、新片区は、上海臨港経済発展(集団)有限公司が開発を担っているが、2019年11月下旬、雲河都市研究院は当該集団と戦略提携を結び、同プロジェクトを支援している。

■ 改革開放40周年を迎える中国と上海


 中国は2018年、改革開放40周年を迎えた。この40年間で、中国経済の規模は世界第2位に躍進し、1978年に世界11位だった経済規模が、2009年には日本を抜いて堂々世界第2位に達した。2017年のGDPは12.3兆ドル(約1,381兆円)に膨れ上がり、世界経済全体の約15%を占めるまでに成長した。

 改革開放の象徴的な都市は何と言っても「GDP規模」で全国第1位の上海であろう。その上海の中でもとりわけ経済発展を牽引したのが、上海浦東新区である。

 1990年から建設が始まった浦東新区は、わずか28年間で、何もなかっただだっ広い畑が高層ビルの立ち並ぶ国際金融センターへと様変わりした。また、全国ではじめて保税区、自由貿易試験区、保税港区が設置され、浦東新区の経済規模は設立以来およそ160倍にまで拡大した。

 今後も上海は対外開放拡大の牽引役として、またグローバルシティとして、絶えず新しい活力を放出し続けるだろう。

■ 第15回上海書展(上海ブックフェア)が開催


 上海市民に人気の恒例「第15回上海書展(上海ブックフェア)」が2018年8月、上海市政府主催により「上海展覧中心」で開催された。展示面積2.3万 m2という巨大規模で、参加した出版社は500社以上、15万冊の書籍展示に加えて読書イベントが1,000回以上行われ、展覧会での売上は5,000万元(約8.1億円)を記録した。このブックフェアは年々評判を増し、今年は30万人以上の来場者があった。

 中国の出版産業は好調である。2016年、中国の書籍小売り市場の規模は701億元(約1.1兆円)で前年比12.3%増の成長であった。そのうち、実店舗での販売規模は336億元(約5,438億円)で前年比2.3%減、 オンラインでの販売規模は365億元(約5,907億円)で前年比30%増であった。2016年に、はじめてオンラインでの書籍販売が実店舗での販売額を超え、特に大型サイトでの書籍販売は年々増加の一途をたどっており、今後もこの勢いは続いていくとみられている。

 大手オンライン書籍販売サイト「当当網」の2017年度書籍販売のフィクション部門トップ10には、海外の翻訳書が7作品ランクインした。第1位には太宰治『人間失格』の翻訳本、第2位には東野圭吾『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の翻訳本、第10位には同じく東野圭吾の『白夜行』の翻訳本が入り、日本人作家の人気の高さを示した。近年、村上春樹、綾辻行人、新海誠など日本の人気小説が次々と中国語に翻訳され出版されている。中でも東野圭吾は絶大な人気があり、『容疑者Xの献身』『ナミヤ雑貨店の奇蹟』は中国で映画化もされているほどである。マンガやアニメに小説が加わり、日本のコンテンツには中国から熱い視線が送られている。

■ 第1回中国国際輸入博覧会


 2018年11月、第1回中国国際輸入博覧会が上海市政府ほかの主催により市内「国家会展中心」で開催された。この博覧会は習近平国家主席肝煎りの一大イベントであり、貿易の自由化と経済のグローバル化を推進させ、世界各国との経済貿易交流・協力の強化を促進するための見本市と位置づけられている。博覧会には100数カ国・地域から出品され、中国内外から15万社のバイヤーが参加した。

 世界最大の人口を持ち世界第2位の経済体にまで成長した中国は、消費と輸入が急伸し、すでに世界の第2位の輸入と消費を誇るまでに成長している。今後さらに5年間で10兆ドル以上の商品・サービスを輸入する巨大市場にまで成長することが見込まれている。

 その巨大市場の中心地の一つが上海である。上海は世界最大クラスのメガロポリス「長江デルタ」の中心都市であり、巨大な人口と経済規模を兼ね備え、中国国内で最もサービス業が発達している都市の一つであり、いまや世界中の資源が上海に集中していると言っても過言ではない。上海港のコンテナ取扱量は7年連続世界一を記録し、〈中国都市総合発展指標2017〉では「コンテナ港利便性」は全国第1位を獲得。空港の旅客数は1億人を超え、直行便は世界282都市にまで広がり、「空港利便性」も全国第1位を獲得している。内需主導型経済への移行を目指す中国にとって、上海市での同イベントの成功は、今後の中国にとって一つのシンボルとなるだろう。


【深圳】中国シリコンバレーになった新興メガシティ【中国都市総合発展指標】第3位

中国都市総合発展指標2022〉第3位



 深圳は7年連続で総合ランキング第3位を獲得した。

 大項目で深圳のパフォーマンスが最も優れているのは、第1位を獲得した「環境」であった。3つの中項目の中で「空間構造」「環境品質」は第1位、「自然生態」では第16位となっている。総合ランキングトップ10都市の多くは、「環境」大項目のパフォーマンスが芳しくない中、深圳は「環境」「社会」「経済」の3つの大項目でバランスの取れた発展パターンを示した。「環境」大項目の小項目を見ると、「コンパクトシティ」「資源効率」は第1位、「交通ネットワーク」は第2位、「環境努力」は第3位であった。なお、人口集積は高い一方、利用可能国土面積が小さいため、「水土賦存」が第293位であった。

 「経済」大項目で深圳は7年連続で第3位を獲得した。中項目の「経済品質」「発展活力」「都市影響」いずれもで第3位であった。小項目から見ると、「経済効率」「広域中枢機能」が第2位を勝ち取り、「経済規模」「経済構造」「開放度」「イノベーション・起業」「都市圏」「広域輻射力」は第3位、「ビジネス環境」は第4位となり、9つの小項目はすべてトップ4位に入っている。

 「社会」大項目で深圳は、2年連続で第5位を維持した。中項目の中で「生活品質」のパフォーマンスは良好で第5位、「ステータス・ガバナンス」「伝承・交流」は第7位となった。「社会」大項目の9つの小項目の中で、深圳は、8つの小項目指標が全国平均を上回っているが、新興都市であるが故「歴史遺産」だけが第248位と引き離された。


■「世界の工場」から「中国のシリコンバレー」へ


 深圳市は広東省の南部に位置し、香港に隣接する新興都市である。面積は約1,997平方キロメートルで大阪府と同規模、2021年の常住人口は約1,768万人で中国第6位である。

 深圳市はかつて人口規模わずか3万人の漁村だったが、1980年に中国初の「経済特区」に指定されたことをきっかけに、「中国のシリコンバレー」と呼ばれるまでに飛躍的な発展を遂げた。わずか40年間強で人口は600倍近くに拡大。その世界史上類を見ない発展ぶりは「深圳速度」と称される。2021年のGDPは約3.1兆元(約62兆円、1元=20円換算)に達し、中国国内では第3位の規模となった。国別で比較すれば、これは世界32位のナイジェリアを上回る経済規模である(詳しくは、【ランキング】世界で最も経済リカバリーの早い国はどこか? 中国で最も経済成長の早い都市はどこか?を参照)。

 経済特区に指定されて以来、深圳市は輸出加工拠点として急速に発展し「世界の工場」と称されるまでになった。「中国都市製造業輻射力2021」で深圳は第1位となっている(詳しくは、【ランキング】中国で最も輸出力の高い都市はどこか?を参照)。

 「中国都市製造業輻射力」のトップ10都市は成都を除き、すべて大型コンテナ港を利用できる立地優位性を誇る。深水港、すなわち、大型コンテナ港は、グローバルサプライチェーンを支える基盤である。深圳はコンテナ港の発展も著しく、中国都市総合発展指標2022における「コンテナ港利便性」においても第2位となっている(詳しくは、【ランキング】世界で最も港湾コンテナ取扱量が多い都市はどこか?を参照)。2022年の深圳港のコンテナ取扱量は前年比4.4%増の約3,004万TEUに達し、開港以来最高の取扱量を記録した。世界の港湾別コンテナ取扱量ランキングでも第4位に輝いた。

 「世界の工場」としての地位を築き上げてきた深圳だが、現在では新興ハイテク企業が次々と生まれるイノベーション都市へと脱皮している。「中国都市IT産業輻射力2022」で深圳は第3位に上り詰めた。深圳にはアメリカの対中制裁で有名になった企業が数多く本社を構える。例えば、通信機器の中興通訊(ZTE)と華為技術(ファーウェイ)、そしてウィチャットの親会社の騰訊(テンセント)、ドローンの世界トップシェアを持つDJIである。これらは全て深圳発のITベンチャー企業である。これら企業の群生は、深圳が「世界の工場」たる製造業スーパーシティから、IT産業スーパーシティへと脱皮していることを示している(詳しくは、【ランキング】中国IT産業スーパーシティはどこか?を参照)。

■ “移民都市”


 深圳市は典型的な“移民都市”である。2021年に同市の戸籍を持たない常住人口、いわゆる「流動人口」は、約1,137万人にも達し、その規模は中国の都市の中で最大である。ちなみに流動人口規模の2位は上海、3位は広州、4位は北京であった。上海と広州では流動人口の常住人口に占める割合は4〜5割前後なのに対し、深圳の同シェアは64.4%に達している。 

 深圳の人口を年齢別で見ると、15歳未満人口(年少人口)は15.1%、15歳以上65歳未満人口(生産年齢人口)は79.5%、65歳以上人口(老年人口)はわずか7.4%である。外部から大量の生産年齢人口を受け入れているゆえに、このような若い人口構成となっている。若い人口構成と“移民都市”としてのバイタリティーが深圳の奇跡をもたらした。

■ 経済規模で広州、香港を超え


 深圳の経済規模は2018年に広州を超え、2019年には香港を超えた。いまや「アジアの奇跡」とも呼ばれる一大IT都市となった。

 しかし、「1人当たりGDP」で見ると、2022年に深圳は約18.3万元(約366万円、1元=20円換算)であるのに対して、香港は約35.3万元(約706万円)となっている。深圳と香港の格差はまだ大きい。なお、深圳は広州の同約15.4万元(約308万円)を抜いている。

 2017年に「粤港澳大湾区(広東省・香港・マカオのビッグベイエリア)構想」が公表され、深圳、広州、香港の「3都物語」の展開に注目が集まっている。米中競争ムードがヒートアップする中で、国際大交流をベースとするビッグベイエリア構想の行方が取り沙汰されている。

IT産業スーパーシティ


 中国都市総合発展指標に基づき、雲河都市研究院は中国全297地級市(地区級市、日本の都道府県に相当)以上の都市をカバーする「中国都市IT産業輻射力」を毎年モニタリングしている。輻射力とは広域影響力の評価指標である。IT産業輻射力は都市におけるIT企業の集積状況や企業力、そして、IT産業の従業者数を評価したものである。

 2020年は、IT業界にとって大発展の年であった。デジタル感染症対策、在宅勤務、オンライン授業、遠隔医療、オンライン会議、オンラインショッピングなどが当たり前になり、新型コロナウイルス禍で産業や生活のあらゆる分野におけるデジタル化が一気に進んだ。

 中国都市総合発展指標2022で見た「中国都市IT産業輻射力2022」ランキングのトップ10都市は、北京、上海、深圳、杭州、広州、成都、南京、重慶、福州、武漢となった。これら中国のIT産業スーパーシティは、すべて直轄市、省都、計画単列市からなる中心都市である。同ランキングの上位11〜30都市もほとんどが中心都市である(詳しくは【ランキング】中国IT産業スーパーシティはどこか?を参照)。

図1 2022年中国都市IT産業輻射力ランキングトップ30都市

■ 研究開発大国を牽引


 現在、世界で最も研究者を抱えているのは中国である。2020年国・地域別研究者数ランキングをみると、トップとしての中国の存在が圧倒的である。中国の研究者数(FTE)は2位のアメリカ、3位の日本と比較すると、それぞれ約1.4倍、約3.3倍の規模にまで達している。さらに8.1%という驚異的な伸び率のもと中国の研究者数は増え続けている。

 科学技術発展の実力を示すアウトカム指標として、科学論文数が挙げられる。2020年の国・地域別科学論文数ランキングでは、1位中国、2位アメリカと続く。両国の論文数は3位以下を突き放し、論文総数は両国で世界論文数の38.3%を占め、3位インドから15位イランの総論文数に相当する。中国の論文数は、世界論文数の22.8%を占めるまでに増えた。論文数の伸び率も9.7%と驚異的である。このままでは今後さらに他国・地域との差が拡大していくに違いない。

 なお、2003年までは論文数で世界2位を誇った日本は、いまや同6位に後退し、且つ論文数は伸び悩んでいる。

 科学技術発展の国際的な実力を示すアウトカム指標として、国際特許出願件数も挙げられる。2020年の国・地域別国際特許出願件数ランキングでは、1位中国、2位アメリカ、3位日本と続く。国際特許出願件数は、このトップ3が他国・地域を突き放し、3国で世界シェア64.7%を占める。なかでも、中国はその世界シェアが25.1%に達した。さらに、中国は16.5%という驚異的な伸び率でそのシェアを拡大し続けている。

 日本はこれに対して、国際特許出願件数が−4.0%とマイナス成長に陥っている。国際特許出願件数トップ10では、ドイツ、フランス、オランダも同様にマイナス成長にある。

 〈中国都市総合発展指標〉に基づき、雲河都市研究院は中国全297地級市(地区級市、日本の都道府県に相当)以上の都市をカバーする「中国都市科学技術輻射力」をモニタリングしている。輻射力とは特定産業における都市の広域影響力を評価する指標である。科学技術輻射力は都市における研究者の集積状況や国内外特許出願数、商標取得数などで評価した。

 〈中国都市総合発展指標2020〉で見た「中国都市科学技術輻射力2020」ランキングのトップ10都市は、北京、深圳、上海、広州、蘇州、杭州、東莞、南京、寧波、成都となった。特に、北京、深圳両都市の輻射力は抜きん出ている。深圳は民間企業をベースに巨大な研究開発力を持ったことが特記される。

同ランキングの上位11〜30都市は、天津、仏山、西安、武漢、無錫、合肥、長沙、青島、鄭州、紹興、温州、廈門、済南、嘉興、重慶、福州、台州、南通、大連、珠海である。これらの都市には中国の名門大学、主力研究機関、そしてイノベーションの盛んな企業が立地している(詳しくは【ランキング】科学技術大国中国の研究開発拠点都市はどこか?を参照)。

図 中国都市科学技術輻射力ランキング2020 トップ30

■ 輸出大国をリード


 2000年以降、中国の輸出は10倍以上も伸び世界第一位の輸出大国となっている。〈中国都市総合発展指標〉に基づき、雲河都市研究院は中国全297地級市(地区級市、日本の都道府県に相当)以上の都市をカバーする「中国都市製造業輻射力」を毎年モニタリングしている。輻射力とは都市の広域影響力の評価指標である。製造業輻射力は都市における工業製品の移出と輸出そして、製造業の従業者数を評価したものである。

 〈中国都市総合発展指標2020〉で見た「中国都市製造業輻射力2020」ランキングのトップ10都市は、深圳、蘇州、東莞、上海、寧波、仏山、成都、広州、無錫、杭州となった。深圳を始めとするこれら製造業スーパーシティの輸出力が世界的に見ても際立っている。特にこれらトップ10都市のうち、深圳、蘇州、東莞、寧波、仏山、無錫の6都市は改革開放前は、工業の蓄積を殆ど持たない小さな町であった。とりわけ深圳は、都市ですらない村であった。これらの町を製造業スーパーシティに仕立てたのは、グローバルサプライチェーンの躍動であった(詳しくは【ランキング】中国で最も輸出力の高い都市はどこか?を参照)。

図 2020年中国都市製造業輻射力ランキングトップ30都市

■ 米中貿易摩擦で逆風


 2018年から顕在化した米中貿易摩擦が深圳を直撃している。中国都市総合発展指標2022によると、深圳は「フォーチュントップ500中国企業」第3位、「中国トップ500企業」第3位、「中国民営企業トップ500」第3位、「中国都市製造業輻射力2022」第1位を誇る中国を代表する経済都市である。

 深圳は中国における加工貿易の先駆けの都市であり、輸出額ランキングで20年以上全国第1位の座を守り抜いている。深圳にとって米国は2番目に大きい輸出先であった。輸出型経済で成長してきた深圳は、昨今の米中貿易摩擦や新型コロナウイルスショックの逆風を受けている。

 しかし、こうした危機は、新たなチャンスの訪れとも捉えられる。それは、よりオープンな国際都市になることで実現可能だ。

 深圳が特区になってから40年間、その成果は抜きん出ていた。中国都市総合発展指標2022で同市は「経済」の「ビジネス環境」中項目では第4位、「開放度」中項目で第3位、「社会」の「人的交流」中項目で第4位を勝ち取り、高い開放性や国際性を誇る。

 広域インフラ整備についてもコンテナ港だけでなく「空港利便性」も中国で第3位の立場を築き上げた(詳しくは【ランキング】中国で最も空港利便性が高い都市はどこか?を参照)。

 深圳の、隣接する香港との国際都市としての競演が楽しみである。

■ イノベーション都市を目指して


 近年、深圳はアジアを代表するイノベーション都市としても名声が上がっている。中国都市総合発展指標2022において、「経済」の「イノベーション・起業」小項目は北京、上海に続いて全国第3位であった。大学や研究機関のストックが少ない新興都市にしては快挙である。

 しかしながら、トップ2都市と比較すると同項目の成績には、まだ大きな開きがある。その原因の1つは、やはり大学にある。中国の名門大学のほとんどは、改革開放以前に創立された。一漁村から加工貿易で身を起こし、爆発的な成長を遂げてきた深圳はこれまで、高等教育機関との縁が薄かった。現在は財力を駆使し、大学誘致に励んでいるが、旺盛な人材需要と高等教育キャパシティとのギャップはまだ大きい。「中国都市高等教育輻射力2022」ランキングにおいて同市は36位に甘んじている。

 また、国立の研究機関もあまり立地がなく、北京中関村に国の研究機関が林立するような風景は深圳では見られない。

 それにしても、経済特区としての開放感の中で、全国から集まった人々が研究に励み、次から次へと起業している。ファーウェイや、中興通訊はその代表格だ。深圳のイノベーションは、民間企業中心で進んでいる。

 優秀な人材は成功をつかもうとするだけでなく、生活のクオリティも求める。豊かになったいま、生活の質における深圳の後進性が際立つ。例えば「中国都市医療輻射力2022」のランキングは第21位と、深圳の医療態勢はかなり遅れを取っている。

 新興都市深圳は、これから都市アメニティ(都市の魅力や快適さ)でも勝負に出なければならない(都市アメニティについて詳しくは【対談】アフターコロナの時代、国際大都市は何処へ向かう? 周牧之 VS 横山禎徳対談、また【コラム】都市のアメニティを参照)。

■ 広深港高速鉄道と港珠澳大橋が開通


 2018年9月、広州・深圳と香港を結ぶ初の高速鉄道「広深港高速鉄道」の香港域内区間が正式に開通した。深圳から香港までは最速で14分、広州から香港までの走行時間も以前の100分から48分へと半分に短縮された。香港は中国本土の高速鉄道網と直接連結し、北京までの所要時間は9時間に短縮した。中国都市総合発展指標2022では深圳の「鉄道利便性」は全国第9位だが、第2位の広州に順位が近づいていくだろう。

 広深港高速鉄道の全面開通により、中国政府が進めている巨大ベイエリア構想「粤港澳大湾区(広東・香港・マカオビックベイエリア)計画」に内包される深圳、広州、香港といった主要都市がすべて高速輸送ネットワークでつながった。これにより、今後エリア内外の人的交流がさらに加速していく。

 同高速鉄道の開通に加え、「港珠澳大橋(香港・珠海・マカオ大橋)」も2018年10月23日開通した。これでベイエリア内の交通ネットワークがさらに強化され、ヒト・モノ・カネ・情報の流れが増大している。中国都市総合発展指標2022ではすでに「広域中枢機能」は深圳が全国第2位、広州が第3位であり、この順位は今後も揺るがないだろう。大ベイエリアでは、「奇跡の発展」を遂げた深圳が牽引役となっている。


【広州】世界に誇る交易都市【中国都市総合発展指標】第4位

中国都市総合発展指標2022
第4位



 広州は7年連続で総合ランキング4位を獲得した。

 「社会」大項目で、広州は6年連続中国第3位であった。中項目の「ステータス・ガバナンス」「伝承・交流」「生活品質」は、いずれも第3位となった。小項目から見ると、「都市地位」「文化娯楽」「人的交流」「消費水準」「生活サービス」は揃って第3位、「人口資質」「居住環境」は第4位と、9つの小項目のうち、7つの指標がトップ5に入った。なお、「歴史遺産」は第21位、「社会マネジメント」は第22位と、全国平均を上回るものの、順位は他の7項目と比較すると目立たない。

 広州の「経済」大項目は、7年連続で中国第4位を維持した。3つの中項目の中で「経済品質」「発展活力」「都市影響」は、いずれも第4位となった。9つの小項目のうち、8つの指標がトップ10に入り、その中でも「ビジネス環境」「広域中枢機能」が第3位と優れ、「イノベーション・起業」は第4位、「経済規模」「経済構造」「開放度」「広域輻射力」は第5位となった。なお、「都市圏」は第6位、「経済効率」は第29位となっている。

 「環境」大項目で広州は、2年連続で第3位を維持した。3つの中項目指標 の中で「空間構造」は第4位を維持したものの、「環境品質」は第15位となり、「自然生態」は第21位に甘んじた。小項目から見ると、「コンパクトシティ」は第3位、「資源効率」「交通ネットワーク」は第4位、「都市インフラ」は第10位と、4項目はトップ10入りしているものの、「環境努力」は第19位、「気候条件」は第20位、「汚染負荷」は第89位に留まった。「自然災害」は第163位、「水土賦存」は第227位と、いずれも全国平均を下回った。

 広州は、ごく一部の小項目が全国平均を下回っているものの、環境・経済・社会の各項目の成績は非常に高く、トリプルボトムラインのバランスもよく取れている。


■ 開放感溢れる貿易都市


 広東省の省都である広州は、同省の東南部、珠江デルタに位置し2000年以上にわたり交易の中心地として繁栄してきた。特に明朝と清朝では数百年にわたって中国対外貿易の唯一の窓口で、世界最大の貿易大国を支えた。

 新中国建国後もその交易機能を活かし、厳しい国際環境のなか1957年に始まった広州交易会(中国輸出商品交易会)は一時、中国の輸出の半分までを稼いでいた。

 広州の2022年GDPは2.88兆元(約57.6兆円、1元=20円換算)に達し、前年比1.0%の伸びを実現した。これは、北京、上海、深圳、重慶に続き中国第5の経済規模である(詳しくは、【ランキング】世界で最も経済リカバリーの早い国はどこか? 中国で最も経済成長の早い都市はどこか?を参照)。

 2022年広州の常住人口は約1,873万人で、中国第5位となっている。改革開放後、広州は外部から多くの人口を受け入れてきた。広州の戸籍を持たない常住人口、いわゆる「流動人口」は約870万人に達し、中国第3位の規模である。

■ 珠江デルタメガロポリスの交通ハブ


 中国政府は広州を中国の重要な総合交通ターミナルと位置づけている。中国都市総合発展指標2022における陸・海・空の交通パフォーマンスはいずれも全国トップクラスの成績を収めている。

 鉄道・道路において、「鉄道利便性」は中国で第2位、「道路輸送指数」は同第5位である。なかでも、広州南駅は中国最大クラスの旅客輸送量を誇る鉄道駅であり、北京―広州高速鉄道、広州―深圳―香港高速鉄道をはじめとした鉄道網の重要なハブ駅となっている。中国の国家戦略「一帯一路」は、広州を国際貨物輸送ハブとし、粤港澳ビッグベイエリアはもちろん、東南アジア、中東、さらには欧州向けの一大交通拠点になることを目指している。

 市内の交通インフラ整備は進み、2021年末には市の地下鉄営業距離が合計622キロメートルに達した。この距離は中国で第4位である。

 港湾では、「コンテナ港利便性」が中国で第6位、「コンテナ取扱量」が年間2,460万TEU(20フィートコンテナ1個を単位としたコンテナ数量)で、中国第6位、世界第5位である(詳しくは、『【ランキング】世界で最も港湾コンテナ取扱量が多い都市はどこか?を参照)。

 2018年4月には、広州白雲国際空港の第二ターミナルが運用開始した。同新ターミナルの総面積は65.9万平方メートル(羽田国際空港の約2.8倍)、カウンター数は339カ所。2022年に広州白雲国際空港の利用客2,611万人にのぼり、北京首都国際空港、上海浦東国際空港を抜いて中国第1位となった。郵便貨物取扱量は188万トンに達し、中国で第2位である。中国都市総合発展指標2022でも広州の「空港利便性」は全国第2位である(詳しくは【ランキング】中国で最も空港利便性が高い都市はどこか?を参照)

■ ずば抜けた都市輻射力


 省都としての広州市は、文化、生活、教育などの面で周辺地域にさまざまな都市機能を提供している。珠江デルタメガロポリスの二大中心都市である広州と深圳の「輻射力」を比較すると、広州の優位性が明らかである。

 例えば、「医療輻射力」では広州が中国第2位であるのに対して深圳は同21位である(詳しくは【レポート】新型コロナパンデミック:なぜ大都市医療能力はこれほど脆弱に?を参照)。

 また、「高等教育輻射力」では、広州が中国第4位に対して深圳は同36位。文化・スポーツ・娯楽輻射力」では、広州が中国4位、深圳が同7位となっている。いずれの分野でも広州がより高い順位を獲得している(詳しくは【レポート】中日比較から見た北京の文化産業を参照)。

 このように、広州は交通インフラ、経済規模、人口規模、教育文化輻射力などの面で優れ、珠江デルタメガロポリスの発展を牽引している

■ 粤港澳ビッグベイエリア発展が加速


 中国政府は2019年2月に、現在推進中の粤港澳大湾区(広東省・香港・マカオ・ビッグベイエリア)構想の発展計画綱要を発表した。これは中国で初めて香港とマカオを国の地域発展計画に組み入れたものである。同計画は2035年までの長期計画で、対象都市は香港・マカオの2特別行政区と広東省9都市(広州、深圳、珠海、佛山、惠州、東莞、中山、江門、肇慶)の合計11都市となっている。

 ビックベイエリアの総面積は5.6万平方キロメートルで、ニューヨーク、サンフランシスコ、東京大都市圏の3つの都市圏を合わせた面積よりも大きい。ビッグベイエリアのGDP総額は2022年、約13.0兆元(約260兆円)に達し、その経済力はすでにイタリアの名目GDPを上回り、世界第8位の規模に当たる。

 ビッグベイエリアは「世界の工場」として、中国で最も開放的で活気に満ちた地域である。産業の発展が加速する中、人口集積も進み、現在の総人口は約8,600万人を超えている。

 同計画における広州、深圳、香港、マカオの4つの中心都市の位置づけはそれぞれ異なる。広州は、「国際経済センター」「総合交通ハブ」「科学技術・教育・文化センター」として位置づけられている。

 世界最大のベイエリア構想がどう実現していくか、その行方を世界が注目している。

■ 広仏都市圏の形成


 中国都市総合発展指標2022総合ランキング第4位の広州と同23位の仏山は、地理的に隣接し、その人口密集エリアもかなり絡み合っている。行政区画は異なっていても人口密集エリアにつながりのある点で、東京都と千葉、神奈川、埼玉各県との関係に似ている。

 中心都市として発展してきた広州と、製造業を中心に成長してきた仏山との一体化は現在進んでいる。

 周牧之教授は、早くから広州と仏山を1つの都市圏として整備していくべきだと提唱していた。しかし、つい最近まで中国では都市圏の概念もなく、そういった政策もなかった。

 中国国家発展改革委員会は2019年2月19日、「現代化都市圏の育成発展に関する指導的意見」を公布し、初めて都市圏政策を打ち出した。これを追い風に、広州と仏山は行政区域を超えた1つの都市圏としての形成が期待される。

 広州と仏山を「広仏都市圏」として捉えた場合、その面積は11,232平方キロメートルで、東京大都市圏(一都三県)の8割程度の大きさになる。その経済規模は、2022年で約4.15兆元(約83.0兆円)となり、深圳を超えて北京とほぼ同等の中国第3位となる。また、常住人口規模は約2,829万人となり、上海と北京を超えて第1位になる。

 広仏都市圏の一体化は、地域経済の活性化やインフラ整備、産業の高度化に寄与し、広東省や粤港澳ビックベイエリア構想の重要な要素となると期待されている。

■ 一大国際コンベンションシティ


 1957年から始まった「広州交易会(中国輸出入商品交易会)」は、当時中国の輸出の半分を稼ぎ出し、新中国経済の救手になっていた。

 広州は今も中国でコンベンション経済が最も活発な都市の1つである。中国都市総合発展指標2022で、広州は「社会」大項目の「国際会議」「コンベンション産業発展指数」で中国第3位の成績を誇っている。

 コンベンション産業は、様々なコンテンツを網羅した高収益の交流経済である。会議、イベント、展示会、フェスティバルは、都市にさまざまな利益をもたらす。

 しかし、新型コロナウイルスパンデミックは、国際コンベンションの開催に大きな影響を与えた。2020年以降、多くの国際会議が延期、中止、またはオンライン開催へと切り替わった。国際会議協会(ICCA)によると、2019年に世界で13,269件開催された国際会議は、2020年は763件、2021年は534件と急激に縮小した。

 「広州交易会」も例外ではなかった。2020年はオンライン開催となった。ハイテクを駆使し、仮想現実(VR)の展示が世界各地で閲覧できたことで、出展者を維持した。こうした新しい試みは、広州交流経済の新たな展開にもつながるだろう。

■ ECの一大拠点都市


 広東省の越境EC(電子商取引)市場は、持続的かつ急速な成長を遂げている。2015年から2022年にかけて、広東省の越境EC取引の輸出入額は148億元(約2,960億円)から6,454億元(約12.9兆円)へと増加し、その規模は約43倍にも拡大した。また、この期間の年平均成長率は72%に達し、全国の越境EC取引規模の31%を占めるに至った。

 この急成長の中心にあるのが、広州である。2013年に「国家越境電子商取引サービス試験都市」としての指定を受けて以来、広州の越境EC取引の輸出入額は93倍に増加し、2022年には1,376億元(約2.8兆円)に達し、初めて千億元の大台を突破した。

 現在、広州に位置する白雲国際空港や南沙港は、天猫、京東、唯品会、アマゾン、小紅書、得物、洋葱など、一流の越境EC企業を引き寄せており、越境EC関連企業は1,200社を超え、世界的に見ても顕著な越境EC産業の集積地を形成している。

 2022年、広州の「卸売・小売業輻射力」は中国で第5位となったが、特にECを通じた小売総額は2,518億元(約5.0兆円)に達し、前年比で13.4%の増加を見せている。このECの急速な発展は、広州の宅配業にも大きな影響を与えており、2022年の宅配業務量は101.31億件に達し、浙江省金華(義烏を含む)に次ぐ国内第2位の成果を上げている。

 ECが地域経済に与える影響は顕著であり、広州は今後も中国、さらには世界の越境EC市場におけるリーダーシップを拡大していくことが期待されている。


【成都】美食とエンタメを満喫できる内陸メガシティ【中国都市総合発展指標】第5位

中国都市総合発展指標2022
第5位



 成都は3年連続で総合ランキング第5位を維持した。

 「社会」大項目で成都は第4位であり、前年度の順位を維持した。3つの中項目の 中で「伝承・交流」は第5位、「ステータス・ガバナンス」は第6位、「生活品質」は第7位であった。小項目から見ると、成都の「居住環境」は第3位、「社会マネジメント」は第4位、「文化娯楽」「人的交流」は第5位、「生活サービス」は第6位、「都市地位」は第9位と、9つの小項目のうち、半数以上の6項目がトップ10位内にある。なお、「人口資質」「消費水準」は第12位、「歴史遺産」は第16位であった。

 「経済」大項目で成都は第5位であり、前年度より1つ順位を上げた。3つの中項目の中で「都市影響」は第5位、「発展活力」は第7位、「経済品質」は第8位であった。小項目では、「広域輻射力」は第4位、「ビジネス環境」「都市圏」は第5位、「開放度」は第6位、「経済規模」「広域中枢機能」は第7位、「経済構造」「イノベーション・起業」は第8位と、9つの小項目のうち、1項目を除いた8項目がトップ10位内にある。なお、「経済効率」は第63位であった。

 「環境」大項目で成都は第13位とり、前年度より順位を大きく上げる結果となった。3つの中項目の中で「空間構造」は第10位と良好であるが、「環境品質」は第51位、「自然生態」は第94位と順位が落ち込んでいる。小項目では、「交通ネットワーク」「都市インフラ」は第7位、「環境努力」「資源効率」は第9位と、9つの小項目のうち、4項目がトップ10位内にある。トップ10以下は、「コンパクトシティ」が第14位、「自然災害」が第58位、「気候条件」は第112位であった。第103位の「水土賦存」、第224位「汚染負荷」は、いずれも全国平均を下回った。

 成都は、社会や経済と比較すると環境の成績は少し劣るものの、西部地域で最も成長する都市として近年順調に総合順位を上げてきている。


■ 西部大開発の拠点都市


 四川省の省都・成都は、四川盆地西部に位置し、快適な気候と自然資源に恵まれ、四川省の政治、経済、文化、教育の中心地となっている。2300年の歴史を持ち、古くから「天府の国」と呼ばれている。成都は、四川料理の本場、パンダの生息地、「三国志」の蜀漢の都として日本でも知られている。

 同市の面積は約1.2万 平方キロメートルで新潟県とほぼ同じ大きさである。同市は、現在は「西部大開発」の主要な拠点都市と位置付けられ、「一帯一路」や「長江経済ベルト」など国家戦略の重要な拠点として期待されている。

 ここで、「西部大開発」とは、中国政府が2000年に策定した国家戦略であり、中国の内陸部に位置する西部地域の経済発展を促進し、東部沿海部との経済・社会格差を縮小することを目的としている。この政策は、中国西部の12省・自治区・直轄市を対象としており、「西電東送」、「南水北調」、「西気東輸」、「青蔵鉄道」の四大プロジェクトが主体となっている。この政策により、西部地域のインフラ整備や投資環境の整備、科学教育の発展などが進められ、現在でも継続している。また、大開発は経済発展を沿海部から内陸部へ及ぼす内需振興と同時に、内陸部の余剰雇用の吸収、少数民族地域の安定など社会不安を解消するねらいがあるとされている。

 西部開発政策の下でインフラ整備を進めた結果、成都は「空港利便性」が中国第5位(詳しくは【ランキング】中国で最も空港利便性が高い都市はどこか?〜2020年中国都市空港利便性ランキングを参照)、「鉄道利便性」は第15位となっている。近年の成都の躍進は、インフラ整備が1つの大きな要因となっている。高速道路、鉄道や空港の整備により、広域アクセスが向上し、観光客やビジネス客が容易に訪れることができ、交流経済が活発化しただけでなく、都市間や国際間の物流・貿易も容易にしている。上海等に代表される臨海都市とは異なる内陸メガシティ発展パターンを見せる。

 2022年に成都の常住人口は約2,127万人に達し、中国第4位の規模を誇るメガシティである。「農民工(出稼ぎ労働者)」の主要な流出地である四川省は、同省に属する地級市の18都市中、実に16都市が「人口流出都市」である。その純流出人口は、2021年で合計約1,249万人以上にのぼる。これに対して、同省成都は中国第6位の「人口流入都市」であり、現在約574万人もの非戸籍人口を外部から受け入れている。成都のGDPは四川省全体のGDPのおよそ4割を占め、同省の経済・人口ともに成都に一極集中している。四川省の将来は成都が担っていると言っても過言ではない(中国の人口移動について詳しくは【ランキング】中国メガロポリスの実力:〈中国都市総合発展指標〉で評価を参照)。

■ 都市ブランド構築アクションプラン「三城三都」


 成都は独自の都市ブランドアクションプラン「三城三都」を推し進めている。「三城」とは文化都市、観光都市、スポーツ産業都市を指す。「三都」とは、グルメ都市、音楽都市、コンベンション都市である。2017年に発表されたこのプランは、ソフトパワーを向上させるものである。

 「三都」のひとつ、グルメといえば中国四大料理の「四川料理」であり、これは日本でもなじみが深い。成都は四川料理の発祥地であり、ユネスコに「アジア初めてのグルメ都市」と称された美食の街である。中国都市総合発展指標2022によると、「経済」大項目の指標「レストラン・ホテル輻射力」において中国第4位の成績に輝いている。また、四川料理以外にもマクドナルド、ケンタッキー、ピザハット、スターバックス、ハーゲンダッツなど海外の飲食チェーン店も多く、同指標の「海外飲食チェーン指数」でも中国第9位にランクインした。

 成都は時間が止まったような、ゆったりとした都市である。喫茶店でお茶を飲みながら雑談や麻雀を楽しむ光景がいたるところで見られる。喫茶店は1万軒を超え、スターバックスの数も中西部地区で一番多い。

■ スポーツ産業都市


 上記「三城」の1つ、スポーツ産業も好調である。中国都市総合発展指標2022によると、「経済」大項目の指標「文化・スポーツ・娯楽輻射力」は、中国第3位にランクインした。

 同市では、スポーツ産業の発展を加速させるために、「成都サッカー改革発展実施計画」、「成都万人フィットネス実施計画」などの政策を相次いで発表し、資金提供、選手の育成、有名スポーツ企業の誘致など、様々な施策を打ち出している。

 また、「成都スポーツ産業活性化発展計画(2020−2025年)」では、同市のスポーツ産業の規模をさらに現行の倍以上の1,500億元(約3兆円、1元=20円換算)へと目標を定めている。

 成都に限らず、中国ではスポーツやフィットネスに対する意識は大幅に高まっている。スポーツ産業は、都市経済はもちろん、都市の魅力やライフクオリティ向上の面でもその重要性を増している。

■ 国際コンベンション都市


 「三城三都」のうち、「三都」の1つはコンベンション都市だ。中国都市総合発展指標2022によると、成都は、「社会」大項目の指標「国際会議」ランキングは、前年度とより順位を上げ中国第1位に輝いている。同項目の指標「コンベンション産業発展指数」ランキングも、前年度と引き続き中国5位を維持している。

 この躍進ぶりは「三城三都」の政策効果が大きい。現代の経済・文化交流において、コンベンション産業は非常に重要な役割を担っており、経済発展に大きな影響を与えている。成都市政府は、同市を国際コンベンション都市にするため、さまざまな政策を打ち出している。

 同市博覧局は2020年、全国初となる「展示活動管理規範の協調防疫対策」を発表し、大規模展示会の開催における感染症対策マニュアルを示した。2021年には、展示会開催に大規模な補助金を設け、2022年の「国際会議展覧都市成都建設第14次5カ年計画」では、2025年までに、成都を世界に冠たる国際コンベンション都市に成長させると明言している。市政府は、コンベンション産業市場を1,600億元(約3.2兆円)にまで成長させる目標を定めている。主要な展示活動の数は1,200以上、総展示面積は1,450万平方メートル以上との数値目標を掲げている。

■ 成都ハイテク産業開発区(高新区)


 「西部大開発」の拠点都市として成都は重慶と同様、市内に国家級のハイテク産業開発区や経済技術開発区などが置かれ、中央政府関係部門からのさまざまなサポートを受け重点的に産業が集積されている。重慶は従来から自動車、石油化学、重電などの重厚長大型産業が集中している。これに対して成都には電子産業、製薬・バイオ産業、IT関連産業などが集積している。

 「成都ハイテク産業開発区」が1988年に発足し、1991年には国家級開発区に認定された。同開発区は成都市の西部と南部に位置する二つの地域からなり、総面積は130平方キロメートル(山の手線内の面積の約2倍)で、そのうち南部地域が87平方キロメートル、西部地域が43平方キロメートルである。南部地域には金融、ソフトウェア開発、BPO関連のサービスを提供する企業が集積し、西部地域はエレクトロニクス産業、バイオ医学産業、IT関連産業などの企業が進出している。同開発区の域内総生産はすでに成都市の約30%を占めている。

 同開発区に支えられた成都の発展は、本指標でその成果を見ることができる。中国都市総合発展指標2022では、「科学技術輻射力」は中国第10位、「IT産業輻射力」は第6位、「創業板・新三板上場企業指数」は第7位、「特許取得数指数」は第13位となっている。

■ 宵越しの金は持たない一大消費都市


 成都は歴史的に消費が盛んな都市である。「宵越しの金は持たない」という成都人気質は、本指標にも顕著に表れている。中国都市総合発展指標2022では、成都の「平均賃金(都市・農村部全体)」は中国第38位(都市部は第10位)であり、決して突出した状況ではないにもかかわらず、「映画館消費指数」は第4位(詳しくは【ランキング】世界で最も稼ぐ映画大国はどこか? 〜2021年中国都市映画館・劇場消費指数ランキングを参照)、「卸売・小売輻射力」に至っては第3位である。また、「美食の都」と評されるような豊かな食の文化と消費力が合わさった結果、「トップクラスレストラン指数」は第4位、「飲食・ホテル輻射力」も第4位となっている。成都人はファッション感覚にも優れ、世界から相次ぎ同市に進出した高級ブランドにも飛びつき、「海外高級ブランド指数」では上海、北京に次ぐ第3位に躍り出ている。

 豊かな土地にゆったりと過ごす価値観を持つ成都の人々は、蓄えることより消費を好む社会を築いている。この旺盛な消費市場を狙い、日系を含む外資サービス産業の進出が相次いでいる。 


【杭州】歴史とハイテクが交差する古都【中国都市総合発展指標】第6位

中国都市総合発展指標2022
第6位



 杭州は2年連続で総合ランキング第6位を維持した。

 「社会」大項目では第7位であり、前年度より1つ順位を下げた。3つの中項目の「生活品質」では第4位、「伝承・交流」は第6位、「ステータス・ガバナンス」は第10位であり、3項目ともトップ10入りを果たした。小項目で見ると、「生活サービス」は第4位、「人口資質」「歴史遺産」「消費水準」は第5位、「都市地位」「文化娯楽」「居住環境」は第6位、「人的交流」は第8位と、9つの小項目のうち、9項目がトップ10位内にある。なお、「社会マネジメント」は第21位であった。「社会」の成績は、全体的に極めて高く、バランスも良い。 

 「経済」大項目は第7位であり、前年度より1つ順位を上げた。3つの中項目の中で「発展活力」は第6位、「経済品質」「都市影響」は第7位であり、3項目ともトップ10入りを果たした。小項目では、「経済構造」は第4位、「イノベーション・起業」は第5位、「広域輻射力」は第6位、「ビジネス環境」は第7位、「経済規模」は第8位、「開放度」は第9位、「広域中枢機能」は第10位と、9つの小項目のうち、7項目がトップ10入りを果たした。なお、「都市圏」は第12位、「経済効率」は第16位であった。「経済」の成績は、各項目ともに全体的に極めて高い結果となった。

 「環境」大項目は第12位となり、前年度より順位を上げる結果となった。3つの中項目の中で「空間構造」は第11位と良好であるが、「環境品質」は第43位、「自然生態」は第66位であった。小項目では、「都市インフラ」は第6位、「交通ネットワーク」は第8位と、9つの小項目のうち、トップ10入りを果たしたのは2項目のみであった。トップ10以下は、「資源効率」は第11位、「環境努力」は第13位、「コンパクトシティ」は第22位、「気候条件」は第71位、「水土賦存」は第92位であった。また、第87位の「自然災害」、第180位の「汚染負荷」は、いずれも全国平均を下回った。

 杭州は、社会や経済と比較すると環境の成績は少し劣るものの、三者のバランスは相対的によく取れている。


長江デルタメガロポリスの中核を担う「地上の楽園」


浙江省の北部に位置する杭州は同省の省都であり、西安、洛陽、南京、北京、開封、安陽、鄭州と並ぶ「中国八大古都」の1つである。「地上の楽園」と称賛されるほど美しい風景が広がり、古くから繁栄している。世界遺産の西湖や京杭大運河をはじめとする有名な観光地が点在し、国内外から多くの観光客を惹きつける観光都市である。中国都市総合発展指標2022の「国内旅行客数」項目では中国第26位、「国内旅行収入」は第16位であった。杭州は長江デルタメガロポリスの主要都市として、GDPは2015年に1兆元の大台を突破し、いわゆる「1兆元クラブ」都市に仲間入りした。2022年に同市のGDPは18,753億元(約37.5兆円、1元=20円換算)に達し、中国では第9位となった。

アリババグループのホームタウン


 中国は現在、世界で最も「キャッシュレス生活」が進んでいると言われ、その牽引役は「Alipay(支付宝)」と「WeChat Pay(微信支付)」の二大サービスである。「Alipay」は、杭州に本拠地を置くアリババグループ(阿里巴巴集団)が提供するオンライン決済サービスである。

 世界最大規模の電子取引で知られるアリババグループは、1999年の設立当時から杭州市内に本社を置き、同市の経済発展を牽引している。

 毎年11月11日に同社が開催するEC販促イベント「独身の日(双十一)」の売上は、1日で約1.1兆元(約22.2兆円)にも上る。同社は、杭州を拠点に世界中の企業や消費者にITサービスを提供し、同市を一大イノベーションシティへと押し上げた。

 アリババは地元のITインフラにも力を入れており、杭州でスマートシティプロジェクト「ETシティブレイン(城市大脳)計画」を推進する。これにより、都市の交通、公共サービス、環境保護などの分野でデジタル技術を活用し、市民の生活の質を向上させている。

メガシティへと成長


 都市経済の成長は全国から多くの若者を惹きつけている。杭州の常住人口は、2019年に1,000万人台に達し、メガシティへの仲間入りを果たした。同市の常住人口は2022年、1,220万人に達し、中国第12位となった。なお、中国には現在、メガシティが17都市存在している(詳しくは、【ランキング】メガシティの時代:中国都市総合発展指標2021ランキング」『中心都市がメガロポリスの発展を牽引:「中国都市総合発展指標2022」を参照。)。

 2019〜2022年の4年間の常住人口の純増は、それぞれ55.4万人、157.6万人、26.8万人、17.2万人と急成長している。また、「流動人口(非戸籍常住人口)」も中国第10位の385.9万人に達した。

 こうした杭州の人口増には、北京、上海が人口抑制政策を取るのに対して、杭州市が人材獲得に積極的である背景がある。

 また、中国都市総合発展指標2022によると、トップクラス人材の集積を表す「傑出人物輩出指数」「中国科学院・中国工程院院士指数」は中国第6位となり、人材の量も質も兼ね備えている。膨大な人口と高度人材の集積が進む杭州は、今後どのような発展を遂げてくのか、国内外の注目を集めている。


スタートアップ都市


 アリババグループホームタウンの効果で、杭州には企業の本社機能が集積している。中国都市総合発展指標2022によると、本社機能を示す「メインボード上場企業」で杭州は広州を抜いて第4位である。同じく、「フォーチュントップ500中国企業」も前年度に引き続き中国第4位を獲得、とりわけ、中国を代表する民営大企業の集積を示す「中国民営企業トップ500」においては前年度同様、全国トップを堅守した。

 背景にあるのは、スタートアップの活力である。中国のスタートアップ都市といえば、北京、上海、深圳というイメージが強い。しかし、杭州の活気はそれらの都市に劣らない。

 ユニコーン企業の集積を示す「ユニコーン企業指数」で杭州は、北京、上海、深圳に続いて広州と同順位の中国第4位という好成績を収めている。ここで、ユニコーン企業とは、評価額10億米ドルを超える未上場企業のことである。2023年、ユニコーン企業は北京に最も多く79社が所在し、第2位の上海には66社、第3位の深圳には33社、第4位の杭州および広州には22社ある。なお、企業価値では第1位の北京に続き、杭州は中国第2位となっている。

 杭州のスタートアップ熱には、アリババの存在が大きい。世界最大級のユニコーン企業「アント・フィナンシャル」を筆頭に、杭州にはアリババが出資する数々のベンチャーが、一大IT経済圏を形成している。その結果、2022年の「メインボード上場企業」で、杭州のIT企業数は中国第4位と高い成績を誇っている(詳しくは【ランキング】中国IT産業スーパーシティはどこか?を参照)。

幸福感溢れる「茶の都」


 杭州は「茶の都」としても名高い。西湖周辺の龍井村を産地とする最高級緑茶「龍井茶」は古くから中国十大銘茶の一つに数えられている。清の乾隆帝が西湖で龍井茶を賞味し、その味を絶賛したエピソードが有名である。毛沢東も周恩来も龍井茶を愛飲し、外国の賓客へのプレゼントにしばしば選んだことで、世界に名を広げた。

 杭州のお茶がおいしい理由の一つは、同地の「水」にある。杭州には西湖に代表されるように水源が豊かで、泉も多い。地元の「虎跑」泉などの名水で入れた龍井茶が贅沢の極みとされている。中国都市総合発展指標2022によると、杭州の年間降水量は約1,500ミリで、「降雨量」は中国第40位である。また、年間平均気温は16℃、茶樹の成長には適した気候である。茶葉が芽を出し続け、摘み取り時期も長く、摘み取り頻度が高いとされる。中でも、春の「清明節」(春分の日から15日後にあたる祝日)の直前に摘む一番茶が最高級で、時の皇帝への献上品とされていた。

 杭州は古くは南宋の都として栄え、江南の美と贅沢を育んだ。国内有数の美術大学の1つ「中国美術学院」がある。美食都市としても名高い。中国都市総合発展指標2022によると、杭州は、「社会」大項目のうち、「世界遺産」は第2位、「海外高級ブランド指数」は第4位、「無形文化財」「海外飲食チェーンブランド指数」「1万人当たり社会消費財小売消費額」は第5位と好成績を誇る(詳しくは【ランキング】誰がラグジュアリーブランドを消費しているのか?を参照)。「経済」大項目においても、「トップクラスレストラン指数」が第6位となっている。

 中国国家統計局と中国中央電視台(CCTV)は毎年、全国から「中国幸福感都市」を10都市選んでいる。杭州はその中で選出累積回数が最多で、中国の「幸福感」ナンバー1都市である。

2023年・第19回杭州アジア競技大会が開催


 アジアのスポーツの祭典「アジア競技大会(アジア大会)」が、2023年9〜10月に杭州で開催された。当初、当大会は2022年に開催される予定であったが、新型コロナウイルスパンデミックの影響で、開催予定が引き伸ばされた。中国では1990年の北京、2010年の広州に次いで3度目の開催となる。

 杭州では2017年から大会組織委員会が本格的に稼働しはじめ、「グリーン・スマート・節約・マナー」の開催理念のもと、インフラ整備をはじめ、大会準備が着々と進行している。

 中国都市総合発展指標2022によると、「スタジアム指数」は中国で第21位、「文化・スポーツ・娯楽輻射力」は第6位となっている。杭州はアジア大会を契機にスポーツ都市としての飛躍を目指している。

 2018年のアジア大会で話題となった競技は多数あったが、特に注目されたのは「eスポーツ」であった。eスポーツとはオンラインゲームの総称であり、格闘ゲーム、シューティング、戦略ゲーム、スポーツゲームなど、ジャンルは多種多様である。2018年大会ではあくまで公開競技としてのみの採用だったが、2023年の杭州大会では、eスポーツの公式種目化が実現し、大会の一つの目玉となっている。アリババホームタウンの杭州で、eスポーツの新たな歴史の幕が開ける。

G20杭州サミットと進むコンベンション産業


 2016年9月、20カ国・地域(G20)首脳会議「G20杭州サミット」が杭州で開催された。2日間にわたり、「革新、活力、連動、包摂の世界経済構築」をテーマに、多岐にわたった議論が各国の参加者の間で交わされた。

 コンベンション産業の経済波及効果は大きく、現在では世界各国がその産業育成に力を入れている。中国政府も、同国を国際コンベンション大国にまで成長させる目標を掲げている。「G20杭州サミット」の開催はその最たる動きである。

 国際見本市連盟(UFI)のレポート『UFI World Map Of Exhibition Venues 2022 Edition』によると、中国の施設屋内展示面積はすでに米国を抜いて世界第1位になった。施設屋内展示面積(2022年末)において、中国は213施設で約1,022万平方メートルとなり世界シェアは25.2%である。アメリカは305施設で約694万平方メートルとなり世界シェア17.1%となっている。中国の面積規模はアメリカの約1.5倍となっている。上位5カ国(中国、米国、ドイツ、イタリア、フランス)が、世界の屋内展示場面積の60%以上を占める。なお、日本は、13施設で約45万平方メートルと世界ランキングで第16位で、中国と日本の規模は約22.7倍の差が開いている。一方、中国のコンベンション産業の発展には会場施設の過剰、低稼働率などの問題も指摘されている。

 中国都市総合発展指標2022によると、杭州の「展示会業発展指数」は中国第6位、「国際学術会議」は第11位となっている。

 杭州市政府は、「第19回アジア競技大会」開催を契機に、観光、レジャー、コンベンションをツーリズム産業発展の三大エンジンとする政策を打ち出し、コンベンション都市としての発展を目指している。


【シンポジウム】索継栓・岩本敏男・石見浩一・小手川大助・周牧之:GXが拓くイノベーションインパクト

■ 編集ノート:東京経済大学は11月30日、国際シンポジウム「グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来」を開催した。後援:北京市人民政府参事室、China REITs Forum。メディア支援:中国インターネットニュースセンター。セッション2「GXが拓くイノベーションインパクト」では、周牧之東京経済大学教授、索継栓北京市人民政府参事・中国科学院ホールディングス元会長、岩本敏男NTTデータグループシニアアドバイザー・元社長、石見浩一エレコム社長・トランス・コスモス元共同社長、小手川大助大分県立芸術文化短期大学理事長兼学長・IMF元日本代表理事が両国企業の取り組みと成果を報告し、GX分野での日中協力について展望した。

国際シンポジウム「グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来」セッション2会場

■ ムーアの法則駆動時代を駆け抜ける


 司会の周牧之東京経済大学教授は、いまの激動の時代を「ムーアの法則駆動時代」と定義した。インテルの創業者でもあったゴードン・ムーアが1965年、同法則を発表し、半導体集積回路の集積率が18カ月ごとに2倍になり、価格が半減するとした。その後60年間、半導体はほぼ同法則通りに進化し、人類社会を大きく変える数々の新しい製品やサービスを誕生させた。この時代、ハイテク技術を基盤にしたイノベーションが社会発展の原動力となり、産業発展を牽引した。今日議論するテーマGX(グリーントランスフォーメーション)も同様に、テクノロジーの影響を受けて進行していく。これからの社会は、イノベーションが一層重要な役割を果たし、環境負荷の低減やエネルギー効率の向上など、持続可能な社会の実現に向けた技術的な解決策が求められると述べた。

周牧之 東京経済大学教授

 ビデオ動画で参加した索継栓北京市人民政府参事・中国科学院ホールディングス元会長は、中国政府は炭素排出量のピークアウトと炭素ニュートラルの実現を戦略的に進めていると説明した。中国科学院は低炭素技術の開発など、多くの施策を講じてきた。特に注力しているのが、ゼロからイノベーションを生み出す技術の開発だ。二酸化炭素削減に向けて、既存技術の改善だけでなく、新たな技術を創造し、飛躍的に進歩することが求められる。

 中国科学院は、研究機関と企業との連携強化も非常に重視している。基礎技術の開発から重要技術のブレークスルー、さらにはその技術の実証まで、総合的な開発体制を築いてきた。これにより、化石エネルギーの転換、新エネルギー技術、再生可能エネルギー技術の進展など、さまざまな分野で顕著な成果を上げてきた。

索継栓 北京市人民政府参事、中国科学院ホールディングスシニアディレクター、元会長

 索氏は、数々の中国科学院の研究成果を紹介した。例えば、石炭を原料とした合成油という技術開発により、石炭資源の効率的な利用が可能となり、環境への負荷を低減できた。また、リチウム電池をはじめとするエネルギー貯蔵技術の研究に長年取り組んだ結果、現在のリチウム電池産業の発展に大きな影響を与えた。特に、固体リチウム電池の開発は、EV(電気自動車)や電動船舶、ドローン等さまざまな分野での利用が期待される。さらに、ナノ粒子電池の研究も、将来的にエネルギー貯蔵の分野で広く応用されることが予想されている。

 岩本敏男NTTデータグループシニアアドバイザー・元社長は、NTTデータが1988年に独立し、現在では売上高約4.4兆円、従業員数約20万人の規模に成長し、50カ国以上に拠点を持つと述べた。NTTデータの取り組むイノベーションとして、JAXAの衛星データを活用した全世界デジタル3D地図の技術と、バチカン図書館のデジタルアーカイブプロジェクトを紹介した。これらの技術はGX、自然災害復興、インフラ整備、人類の遺産の保全と活用などに役立っている。

岩本敏男 NTTデータグループシニアアドバイザー、元社長

 石見浩一エレコム社長は、同社が創業から38年を迎え、現在ではPCやモバイル周辺機器だけでなく、調理家電やペット家電など、多岐にわたる製品を開発していると詳述。製品の93%が中国で生産されているのに対し、マーケットとしての海外シェアはまだ3%であり、この3年間で20%を達成したいと力説した。そのためには何よりも「人」が大事で良い人材を育成し、企業のビジョンを実現するための取り組みを続けたいと述べた。

 エレコムが取り組むGX活動については、森林再生プロジェクトや太陽光発電の活用、石油由来プラスチックの削減などを説明。また、新ブランド「think ecology」を立ち上げ、環境に優しい素材や再生可能な素材を使用した製品を提供していると紹介した。

パネリストの岩本敏男氏、石見浩一氏

■ 環境対策と産業競争力の両立が鍵


 小手川大助大分県立芸術文化短期大学理事長兼学長・IMF元日本代表理事は環境問題に関連するドイツの政権破綻について解説した。ドイツのリントナー財務大臣が、環境予算とウクライナ支援の継続に強く反対したため、ショルツ首相は11月6日に同財務大臣を解任せざるを得なくなった。その結果、ドイツ政府は機能しなくなり総選挙が行われることになった。しかし現在、勢いがある極右・極左政党は共通してウクライナへの支援に強く反対し、行き過ぎた環境政策を即時に中止すべきだと訴えている。ドイツ主要企業の多くは環境政策が原因で他国へ移転してしまっている。今後ドイツは、環境政策とウクライナ支援よりも、経済の安定を最優先する方向へ進んでいく可能性が高い。その影響が欧州全体、ひいては世界にどのように波及するのかに注視することが必要だ、と強調した。

 これに対して、周氏は、環境対策と国内産業の競争力を両立できるかどうかが、現在、ヨーロッパやアメリカで大きな課題となっているとした。中国では、EVや再生可能エネルギーなど、環境関連産業が急速に発展し、国際競争力を高めることに成功している。これにより、環境対策と産業の競争力が両立できる形になったと述べた。

小手川大助 大分県立芸術文化短期大学理事長兼学長、IMF元日本代表理事

起業家精神が時代を牽引


 続いて周氏は、資本市場における企業評価の変遷を解説した。1989年の世界時価総額ランキングトップ10では銀行、通信、電力などを中心に日本企業が多く占めていたが、2024年現在は、マイクロソフト、アップル、エヌビディア、テスラ、アルファベット、メタ、アマゾンなどテック企業が主導する形になっている。これらテック企業7社すべてがスタートアップ企業だった。その時価総額が現在12兆ドルを超え、「マグニフィセント7」と呼ばれ、圧倒的な存在感を持つ。ムーアの法則に基づく成功は、創造力に支えられたスタートアップ企業が、リスクを取りながら成長していくパターンだ。対照的に、大企業はリスクを取ることが苦手で、新技術の開発や新規事業の立ち上げに消極的になりがちであると指摘する。

 周氏は、アメリカと中国の時価総額トップ100企業の中では1980年代以降に創業した企業が多く、創業者がリーダーシップを発揮して産業の変革を牽引していると言及した。技術力と企業家精神が企業の発展を左右し、特にGX時代においては企業家精神が成長と変革の鍵となると述べた。

 索氏は1984年に設立されたレノボを挙げ、中国科学院と密接に連携し成長した事例を紹介した。レノボは英語のオペレーティングシステムを中国語に変換するイノベーションや、IBMのPC部門の買収、Googleからのモトローラ事業の取得などを通じて世界的な企業に成長した。この成功は、企業家精神とイノベーションへの挑戦を象徴し、中国の産業転換を促進する重要なステップとなった。

 石見氏は過去に200社以上の企業の面倒を見た経験から、成功する経営は「実行」に他ならないと強調した。実行するために必要なのは、計画段階で目標を定めることであり、目標達成に向けどう行動するかを考え続けることだとした。

 具体的には、企業のビジョンの明確化が最重要で、10年後、20年後にどんな企業になりたいかを考えることが、企業の方向性を決定づける。ビジョンがないと、企業文化や戦略も定まらない。マーケットやテクノロジーの変化を意識し、変化に対応できる戦略や戦術を立てることが、企業化精神の一部だと述べた。

 実行力にはリーダーシップが求められる場面も多く、決断が速かったことが成功の鍵となった。特に、ベンチャー企業はスピードが重要で、新製品やサービスを開発し、市場の動向に迅速に対応し、変化し続ける力が不可欠だとし、失敗後の回復力を強くし、失敗を恐れず、復活するために必要なエネルギーと強い意志を持ち続けることだと力説した。

司会の周牧之氏とコメンテーターの小手川大助氏

IOWNで究極のデータセンターGXを


 岩本氏はAIの進化により、データセンターの電力消費はますます増加するとした。AIの学習には大量の電力が必要で、特にエヌビディアのようなGPUを使う処理は非常に高い消費電力を伴う。これに対して、NTTグループは、AI向けのデータセンターの効率化を進める技術を導入している。エネルギー効率を向上させる「IOWN(アイオウン)」という計画がある。これは、光通信技術を使い、従来の電気を使った通信インフラを光に置き換える。光通信は非常に低消費電力であり、遅延が少なく、大容量のデータを効率的に扱うことができるため、今後の通信インフラにおいて大きな役割を果たす。この技術を使うことで、さらにカーボンニュートラルに向けた効率化が進む。これが、GXの将来に向けて重要な役割を果たすと強調した。

 これについて周氏は、今、世界はAIブームで沸騰中だ。しかし、AIは膨大なエネルギーを必要とし、さらにそのエネルギーで発生する熱を冷却するために非常に高いコストがかかる。この問題が驚くべき規模で進行している。すでに「原子力」の復活の議論にまでつながり、原子力ブームを再来させる可能性もある問題だとした。この問題の解決には、IOWNプロジェクトが非常に重要なイノベーションとなる。同プロジェクトは、光技術を活用し、エネルギー消費を最小限に抑え、究極のデータセンターGXを実現できる。この大きなインパクトを持つビッグイノベーションが成功すれば、NTTは再び世界時価総額トップ企業に返り咲くと期待を述べた。

GXにおける日中の協力


 岩本氏は百数十回にわたる中国訪問歴があり現在、NTTデータは中国に約10カ所の拠点を構え、4千人以上の従業員を擁している。中国企業と信頼を持って協力し合えると述べた。将来的にも、中国との関係を深め、ビジネスや文化、そしてGXの交流を促進していく意向を示した。

 石見氏は、中国の製造能力と技術に依存している現実を認識し、中国と協力して世界市場を開拓する必要性を強調し、新たにR&Dセンターを設立して製品検証を進めていると紹介した。GXを進めるうえで、最も大事だと思うのは「協同」だとし、グループ会社や中国の製造パートナーとの協力が不可欠で、目的や具体的な取り組みを共有し、一緒に進めていくことが成功への鍵だとした。アジア市場では、中国と共に新しいビジネスモデルを構築し成長していくことが必要だとし、日中両国が協力してバリューチェーンを構築し、グローバル市場でも競争力を発揮する努力が、最終的にGXの実現に繋がると展望した。

パネリストの石見浩一氏

 小手川氏は、日中関係は地理的に隣接し、経済的にも非常に深い結びつきがあるため、今後も友好的な関係を築いていくことが必要不可欠だとした。日本の背後にはアメリカという大きな影響力を持つ国が存在し、その政治的な立場や方針には、時に理解し難い面もあると述べた。アメリカは常に自国の利益を最優先に考え、ルールや倫理より自国の経済的利益を追求する。これを鑑みれば、今後の日中米関係では、単に表面的な外交政策や交渉にとどまらず、各国の実際の行動と戦略の見極めが求められると述べた。特に、日本と中国、アメリカとの関係は非常に微妙であり、いかにして互いに利益を得るための協力を深めていくかが、今後の鍵となると語った。

 周氏はアメリカという国は、ユーラシア大陸から見て「島国」として位置づけられる。アメリカが行うユーラシア政策は、まさにイギリスのユーラシアパワーを叩くマッキンダーのハートランド論的なものを踏襲している。と同時にアメリカには孤立主義も根深い。トランプの大統領としての再登板は、まさしくそうしたぶれを反映している。GX政策で重要なのは、私たちが何をすべきかをしっかり見据え、そのようなぶれの影響を受けずに実行し続けることだと強調した。

 現在、日本には中国の人々が大勢訪れている。今年だけでも1,000万人前後の中国人観光客が来日している。人と人との交流が続く中で、日中関係に対する憂慮や懸念は自然と薄れていくと信じる。毎年3,000万人、そして5,000万人という規模の中国人の訪日が近い将来に実現すれば、日中関係に関する困難な問題は、全部吹き飛んでしまうだろうと期待した。

シンポジウム当日の東京経済大学キャンパス

■ シンポジウム掲載記事


GX政策の競い合いで地球環境に貢献
http://japanese.china.org.cn/business/txt/2024-12/30/content_117632819.htm

気候変動対策を原動力にGXで取り組む
http://japanese.china.org.cn/business/txt/2025-01/02/content_117641894.htm

GXが拓くイノベーションインパクト
http://japanese.china.org.cn/business/txt/2025-01/02/content_117641551.htm

■ 登壇者関連記事(登壇順)


【コラム】福川伸次:日中関係、新次元への昇華の途を探る 〜質の高い経済社会の実現と新グローバリズムの形成に向けて〜

【フォーラム】鑓水洋:地域活性化策には明確なコンセプトが求められる

【刊行によせて】楊偉民:都市のハイクオリティ発展を促す指標システム

【刊行によせて】楊偉民:全く新しい視点で中国都市の発展状況を評価する

【講演】中井徳太郎:カーボンニュートラル、循環経済、自然再生の三位一体のイノベーション—地域循環共生圏構想

【フォーラム】中井徳太郎:分散型自然共生社会を目指して

【刊行によせて】中井徳太郎:生態環境社会への移行に寄与

【ディスカッション】中井徳太郎・大西隆・周牧之:コロナ危機を転機に 

【ディスカッション】中井徳太郎・安藤晴彦・和田篤也・周牧之:省エネ・再生可能エネルギー社会への挑戦と自然資本

【フォーラム】南川秀樹:コミュニケーションの場としてのエンタメを

【刊行によせて】南川秀樹:中国大都市の生命力の源泉は何か

【コラム】邱暁華:高度成長からハイクオリティ発展へシフトする中国経済

【ディスカッション】小島明・田中琢二・周牧之(Ⅰ):誰がグローバリゼーションをスローダウンさせた?

【ディスカッション】小島明・田中琢二・周牧之(Ⅱ):ユーラシア大陸を視野に入れた米中関係

 【専門家レビュー】周其仁:生態都市建設と都市総合発展指標

【刊行によせて】周牧之:新型コロナウイルス禍と国際大都市の行方

【論文】周牧之:二酸化炭素:急増する中国とピークアウトした日米欧

【論文】周牧之:アメリカ vs. 中国:成長と二酸化炭素排出との関係から見た異なる経済水準

【論文】周牧之:世界の二酸化炭素排出構造と中国の課題

【刊行によせて】徐林:中国の発展は都市化のクオリティ向上で

【対談】小手川大助 vs 周牧之:(Ⅰ)転換点で激動の国際情勢を見つめる

【対談】小手川大助 vs 周牧之:(Ⅱ)複雑な国際情勢をどう見極めるか?

【シンポジウム】南川秀樹・邱暁華・徐林・田中琢二・周其仁:気候変動対策を原動力にGXで取り組む

国際シンポジウム「グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来」セッション1会場

■ 編集ノート:東京経済大学は11月30日、国際シンポジウム「グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来」を開催した。後援:北京市人民政府参事室、China REITs Forum。メディア支援:中国インターネットニュースセンター。セッション1「GXにおける日中の取り組み」では、南川秀樹日本環境衛生センター理事長・元環境事務次官、邱暁華マカオ都市大学教授・中国統計局元局長、徐林中米グリーンファンド会長・中国国家発展改革委員会発展戦略和計画司元司長、田中琢二IMF元日本代表理事、周其仁北京大学国家発展研究院教授が日中両国のGX分野での政策と成果を報告し、今後の展開について議論した。


南川秀樹・邱暁華・徐林・田中琢二・周其仁:東京経済大学国際シンポジウム「グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来」セッション1「GXにおける日中の取り組み」2024年11月30日

■ 「グリーン化」が中国を世界で最も多くの再生可能エネルギー設備を持つ国に


 シンポジウムのセッション1「GXにおける日中の取り組み」は南川秀樹日本環境衛生センター理事長・元環境事務次官の司会で、パネリストの邱暁華氏マカオ都市大学教授・中国国家統計局元局長、徐林中米グリーンファンド会長・中国国家発展改革委員会発展戦略和計画司元司長、田中琢二IMF元日本代表理事と、コメンテーターの周其仁北京大学国家発展研究院教授が登壇した。

 東京経済大学で客員教授を務めていた南川秀樹氏はまず以下の問題提起をした。気候変動の問題は、従来の環境問題とは異なる点がある。過去の環境問題は、誰かが原因を作り、特定の人々が影響を受ける形だった。しかし、気候変動問題は、CO2やメタンを排出する国があれば、その影響は全ての国に均等に及ぶ特徴がある。つまり、原因者と被害者が直接的に結びついておらず、プレッシャーをかけにくい。このような背景下、先日のCOPで発展途上国からは、「CO2を多く排出して経済成長している国々が、なぜ自分たちを支援してくれないのか」という不満の声が上がった。もちろん、中国や日本も積極的に取り組んでいるが、まず中国や日本が排出削減や適応対策をどう進めているのかを世界に向けて発信する必要がある、と述べた。

南川秀樹 日本環境衛生センター理事長、元環境事務次官

 邱暁華氏は中国経済が歩んできた歴史的な変遷について、特に中国が現在直面する「三大変化」に焦点を当てた。三大変化を「デジタル化」「スマート化」「グリーン化」と定義し、各々の中国経済の発展への寄与について説明した。これらの変化が、中国経済の成長に新たなダイナミズムをもたらしていると強調した。

 中国経済が直面する地政学的な課題については特に、アメリカや西洋諸国との経済的・政治的な対立が経済成長に与える影響に関して、発展途上国が直面する地政学的な影響を無視できないとした。

シンポジウム当日の東京経済大学キャンパス

 中国の「グリーン化」について、邱氏は具体的なデータを用いて解説した。中国政府は、2030年にCO2排出のピークを迎え、2060年までに排出量の実質ゼロを目指すと発表し、同目標を実現するためにさまざまな取り組みが進んでいると述べた。特に、再生可能エネルギーの導入拡大、産業構造の転換、循環型経済が促進し、これらの施策が中国の経済成長と環境保護を両立させる鍵となるとした。

 2024年8月末時点で、中国の再生可能エネルギーの発電設備の規模は、全発電能力の40%以上を占めるようになったと紹介し、中国の再生可能エネルギーへの積極的な取り組みが会場に強い印象を与えた。

邱暁華 マカオ都市大学教授、中国統計局元局長

■ 中国ではイノベーションで太陽光発電コストが下がり、政府補助金が不要に


 徐林氏は、中国は、低炭素への転換を「生態文明」という高い政策次元にまで引き上げた国であると強調し、具体的なデータを示しながらその取り組みを紹介した。例えば、過去40年間中国で100万平方キロメートルの緑地が増加した。この面積は、日本の国土面積の約3倍に相当し、中国の環境保護活動がいかに大規模であるかを示している。

 再生可能エネルギーの拡大については、特に風力、太陽光、原子力の発電容量が急増し、中国が世界で最も多くの再生可能エネルギー設備を持つ国になったと述べた。徐は、この進展が中国経済の成長を支え、同時に環境保護に大きな貢献をしていると強調した。

 徐氏は、中国の太陽光発電技術の進歩でコストも下がり、同分野で政府の補助金が不要になり、商業投資の機会が増えていると紹介。従来低炭素への移行はプレッシャーとなっていたが、現在では技術の進展とグリーン電力への投資の成果が相まって経済成長の原動力となり、もはやプレッシャーではなくなっていると力説した。

徐林 中米グリーンファンド会長、中国国家発展改革委員会発展戦略和計画司元司長

 田中琢二氏はIMFでの経験を基に、気候変動問題に対する国際的なアプローチを説明した。日本が直面する環境問題と、その取り組みについては、日本が掲げる温室効果ガス削減目標について言及し、2030年の温室効果ガス削減目標を達成するため2013年の14億トンの CO2を7.6億トンに削減する必要がある。この中で、エネルギー起源のCO2削減が最も重要な部分を占め、特に電力由来のCO2削減が重要なポイントとなっている。電力由来のCO2削減は全体の半分を占めており、再生可能エネルギーの導入が進むことで、この目標を達成することが可能になるとした。

田中琢二 IMF元日本代表理事

 田中氏は、国際的に日本と中国をはじめとする国々が気候変動対策に貢献しつつ、経済成長を実現するため連携を深めていると述べた。特に、日中間では再生可能エネルギー技術の輸出や、カーボンプライシング制度の連携が進み、中国が同分野で実施する非常に先進的な取り組みの経験を参考にしながら、日本も国際的な気候変動対策に貢献することが求められていると、強調した。

 田中氏はまた、日本は再生可能エネルギーの導入拡大や次世代技術の研究開発、特に洋上風力や水素技術、蓄電池製造サプライチェーンの強化や次世代型太陽電池の開発などが重要だとした。さらに、カーボンプライシングや新しい金融手法がGX(グリーントランスフォーメーション)の進展を支える重要な要素であると指摘し、これらの政策が民間投資を引き出し、経済成長と脱炭素化を同時に実現する道筋だと示した。社会的公平性の確保にも触れ、特に影響を受けやすい労働者や地域経済への支援が不可欠であると強調した。気候変動対策が経済的な格差を広げない配慮が、持続可能な社会の実現にとって重要だと述べた。

パネリストの邱暁華氏、徐林氏、田中琢二氏

気候変動対策はやれることからどんどんやっていくことが大事


 コメンテーターの周其仁氏は、中国は環境保護に大きな努力をしているが、その道のりは決して簡単ではないと指摘。中国は経済成長の過程で、大量のエネルギーを消費し、環境を犠牲にしてきたが、今はその成長を持続可能にするために環境重視にシフトしなければならない。それに伴って発展途上国特有の課題をどう乗り越えるかが重要であると強調した。経済的な発展と環境保護のバランスを取るためには、各国が独自の状況を考慮した政策を採る必要があるとした。

周其仁 北京大学国家発展研究院教授

 司会の南川氏は、アメリカの「インフレ抑制法」実施とEU(欧州連合)「国境環境税」の導入議論について取り上げ、環境対策における経済的な保護主義に対して懸念を示した。

 これに対して周氏は、大国のリーダーの中に、気候変動の進行を信じていない人がいるが、それでもなお全球的な協議の実現に向けて、まず大国間で協力の道を模索することが重要だと力説した。人類はこれまで、大きな問題を協議で解決することがなかなか出来なかった。軍事的な問題でも、解決には時間がかかり、多くの命が失われている。気候変動のような長期的で大規模な問題は、さらに難しい課題であり、全球的な協議に対する期待を過度に高く持つのは現実的ではないかもしれない。地道に現実的な解決策を見つけどんどんやっていくことが大切だと述べた。

司会の南川秀樹氏とコメンテーターの周其仁氏

■ シンポジウム掲載記事


GX政策の競い合いで地球環境に貢献
http://japanese.china.org.cn/business/txt/2024-12/30/content_117632819.htm

気候変動対策を原動力にGXで取り組む
http://japanese.china.org.cn/business/txt/2025-01/02/content_117641894.htm

GXが拓くイノベーションインパクト
http://japanese.china.org.cn/business/txt/2025-01/02/content_117641551.htm

■ 登壇者関連記事(登壇順)


【コラム】福川伸次:日中関係、新次元への昇華の途を探る 〜質の高い経済社会の実現と新グローバリズムの形成に向けて〜

【フォーラム】鑓水洋:地域活性化策には明確なコンセプトが求められる

【刊行によせて】楊偉民:都市のハイクオリティ発展を促す指標システム

【刊行によせて】楊偉民:全く新しい視点で中国都市の発展状況を評価する

【講演】中井徳太郎:カーボンニュートラル、循環経済、自然再生の三位一体のイノベーション—地域循環共生圏構想

【フォーラム】中井徳太郎:分散型自然共生社会を目指して

【刊行によせて】中井徳太郎:生態環境社会への移行に寄与

【ディスカッション】中井徳太郎・大西隆・周牧之:コロナ危機を転機に 

【ディスカッション】中井徳太郎・安藤晴彦・和田篤也・周牧之:省エネ・再生可能エネルギー社会への挑戦と自然資本

【フォーラム】南川秀樹:コミュニケーションの場としてのエンタメを

【刊行によせて】南川秀樹:中国大都市の生命力の源泉は何か

【コラム】邱暁華:高度成長からハイクオリティ発展へシフトする中国経済

【ディスカッション】小島明・田中琢二・周牧之(Ⅰ):誰がグローバリゼーションをスローダウンさせた?

【ディスカッション】小島明・田中琢二・周牧之(Ⅱ):ユーラシア大陸を視野に入れた米中関係

 【専門家レビュー】周其仁:生態都市建設と都市総合発展指標

【刊行によせて】周牧之:新型コロナウイルス禍と国際大都市の行方

【論文】周牧之:二酸化炭素:急増する中国とピークアウトした日米欧

【論文】周牧之:アメリカ vs. 中国:成長と二酸化炭素排出との関係から見た異なる経済水準

【論文】周牧之:世界の二酸化炭素排出構造と中国の課題

【刊行によせて】徐林:中国の発展は都市化のクオリティ向上で

【対談】小手川大助 vs 周牧之:(Ⅰ)転換点で激動の国際情勢を見つめる

【対談】小手川大助 vs 周牧之:(Ⅱ)複雑な国際情勢をどう見極めるか?