【シンポジウム】「開放と革新 中国都市高品質発展」シンポジウム、北京で開催

 中国インターネットニュースセンター(中国網)と雲河都市研究院による「開放と革新 中国都市高品質発展」シンポジウムが2019年6月11日、北京市で開催された。国務院新聞弁公室元主任の趙啓正氏、全国政協常務委員、経済委員会副主任の楊偉民氏、国家発展改革委員会発展戦略計画司副司長の周南氏らが出席し、スピーチを行った。中国網編集長の王暁輝氏がシンポジウムを主宰。雲河都市研究院長の周牧之氏が、「中国中心都市&都市圏発展指数2018」を発表した。

 国家発展改革委員会は今年2月19日に「現代化都市圏の育成・発展に関する指導意見」(以下「同意見」)を発表した。同意見は、現代化都市圏の建設は新型都市化を推進する重要な手段であり、人口及び経済の空間構造の改善を促し、効果的な投資と潜在的な消費の需要を引き出し、内在的な発展の動力を強化すると指摘した。現代化都市圏の育成を手がかりとし都市の発展品質を高め、高品質の都市化により中国経済の高品質発展を促進することは、現在の中国経済にとって重大な意義を持つ。来賓はこのテーマをめぐり優れたスピーチを行い、白熱した議論を展開した。

 

 国務院新聞弁公室元主任の趙啓正氏
国務院新聞弁公室元主任の趙啓正氏

 国務院新聞弁公室の元主任の趙啓正氏は主旨演説で、20年以上前に上海浦東新区の開発建設に参与した際の経験と体験を語った。趙啓正氏は、浦東の開発当初、「地球儀の縁に立ち浦東の開発を考える」という理念を持っていたと話した。具体的には、開発目標の設定時に浦東の上海における立場、上海の世界経済構造における立場を考える必要があった。趙啓正氏は、「機能計画と形態計画を含む我々の計画を、十分に高い国際レベルにする必要がある。我々は世界の資金と技術を吸収するだけでなく、世界の経済の知恵も吸収しなければいけない」と述べた。また趙啓正氏によると、浦東の開発は経済開発だけでなく、社会開発でもあり、社会の全面的進歩を追求する必要がある。新区は計画実行において、厳格な土地管理、投資密度と効果に重視するなどの措置を採用した。また、「勤政廉政」も重要な投資環境であり、新区において一流の党組織が一流の開発を牽引した。趙啓正氏は、「浦東新区の開発の経験を総括すると、目に見え手で触れられるGDP、税収、輸出入額などのハード面の成果より、経済成長、社会進歩、都市インフラ建設、国家間協力、政府の職能移転、人材育成などの思考と経験の方が貴重」だと話した。

 

全国政協常務委員、経済委員会副主任の楊偉民氏
全国政協常務委員、経済委員会副主任の楊偉民氏

 楊偉民氏は「空間的発展理念を樹立し、都市化の高品質発展を推進する」と題した基調演説の中で、次のように指摘した。工業化の高品質発展と都市化の高品質発展は、経済高品質発展を促す2大任務だ。互いに関連し、互いに促進し、どちらも不可欠だ。都市化の高品質発展の意義は、都市の経済・人口・自然環境のバランスの取れた発展の実現にある。その上で重要になるのは「空間均衡発展」という理念を樹立することだ。これはつまり一定の空間内で、「経済発展、人の全面的な発展、持続可能な発展」という3つの発展のバランスを取ることだ。富が増え、すべての人に公平に分配され、自然再生を維持する。都市化の高品質発展については、戸籍の規制をさらに緩和し、農村建設用地財産権制度を改善し、住宅用地の供給を拡大できる。都市圏を範囲とし、計画、要素流動、インフラ、生態環境、観光、エネルギー、ビッグデータなどの一体化を実現する。また「一枚の青写真」で最後まで推進できる空間計画を策定する。

 

国家発展改革委員会発展戦略計画司副司長の周南氏
国家発展改革委員会発展戦略計画司副司長の周南氏

 周南氏は「メカニズムの革新、現代化都市圏の育成・発展」と題した特別報告の中で、都市圏の概念は何の根拠もなく生じたわけではなく、国際的な経験と国内の実験の結果を合わせ形成された「客観的な法則」であると表明した。同意見は、2035年までに現代化都市圏の構造がさらに成熟し、世界的な影響力を持つ都市圏を形成するとした。周氏は次のように指摘した。現代化都市圏の育成・発展で必要になるのは、インフラ一体化の推進の加速、都市間の分業と協力の強化、統一的な市場の建設の加速、公共サービスの共同建設・共有の推進の加速、生態環境の共同保護・ガバナンスの強化、都市部・農村部融合発展の実現だ。公共サービスの共同建設・共有、生態環境の共同保護・ガバナンスは、現代化都市圏の成熟度を示す重要なものさしだ。政府は都市圏内の社会保障及び公共サービス一体化・均等化の推進を加速し、公共サービス及びインフラの量・構造・配置を調整することで人口増に伴う効果的な需要に適応し、高品質の公共サービス資源の共有により都市圏内の人口移動をけん引するべきだ。

 

東京経済大学教授、雲河都市研究院長の周牧之氏
東京経済大学教授、雲河都市研究院長の周牧之氏

 周牧之氏はシンポジウムにて、雲河都市研究院による中国中心都市&都市圏発展指数2018を発表した。同報告書は科学的な指標体系により中国の地級以上298都市の「身体検査」を行った。かつ都市の地位、都市圏の実力、影響力、広域ハブ、開放・交流、文化教育、ビジネス環境、革新・創業、生態資源環境、生活の質など10のメイン項目と30のサブ項目から順位を確定した。

 同報告書の総合ランキングのうち、北京市、上海市、深セン市がトップ3を占めた。4−10位は広州市、天津市、成都市、杭州市、重慶市、南京市、武漢市。

 経済規模、都市圏の品質、企業集約などで形成された都市圏の実力ランキングを見ると、北京市、上海市、深セン市がトップ3を占めている。4−10位は広州市、天津市、重慶市、杭州市、武漢市、成都市、南京市。製造業、IT産業、金融、科学技術、高等教育、生活文化サービスなどの影響力のランキングを見ると、やはり北京市、上海市、深セン市がトップ3を占めており、成都市が4位につけている。5−10位は広州市、杭州市、南京市、西安市、武漢市、天津市。

 貨物貿易、実行ベース外資導入額、域外観光客、国際会議などの指標からなる開放・交流項目のランキングを見ると、上海市が首位で、北京市と深セン市が後に続いている。4−8位は天津市、広州市、重慶市、杭州市、成都市。青島市と寧波市がトップ10入りしている。ビジネス環境のランキングを見ると、上海市、北京市、広州市が優れており、アモイ市が8位につけている。生態資源環境のランキングを見ると、上海市が北京市を抑え1位で、3位は深セン市。革新・創業のトップ3は北京市、深セン市、上海市。

 周牧之氏は同報告書について、次のように説明した。都市圏政策の要義は、過度に高い人口密度を下げ、人口集中地区(DID)を強化し、中心都市と周辺中小都市の相互発展構造の形成を推進し、都市圏の影響力を拡大することにある。特に国際交流の場としての能力を強化し、世界の都市による大規模な交流と競走の時代により良く参与する。

 

 長江デルタG60科学技術イノベーション回廊連席会議弁公室常務副主任の陸峰氏はシンポジウムにて、同回廊の模索と実践について紹介した。ドイツ、フランス、メキシコ、バングラデシュなどの外国からの出席者は、中国の都市発展の勢いに関する印象を語った。朝陽区長補佐の馮文氏は、中国は古都保護など海外の先進的な経験に学ぶ必要があり、中国の都市建設及び発展の道も世界にその参考事例を提供したと述べた。

 

中国網編集長の王暁輝氏
中国網編集長の王暁輝氏がシンポジウムの司会者を担当。

「中国網日本語版(チャイナネット)」 2019年6月12日


【シンポジウム】「交流経済」×「地域循環共生圏」が新たな時代を創り出す

岡本英男学長と森本英香環境事務次官
開会挨拶する岡本英男学長と森本英香環境事務次官

NOTE:年間訪日外国人数が2018年に初めて3000万人を超え、そこで培われる交流交易は日本の地域活性化の可能性をも広げている。地球規模では、温暖化を主原因とする災害の発生が相次ぎ、循環型社会の構築が人類共通の緊急課題となって久しい。創立120周年を迎えた東京経済大学は2019年1月26日、「交流経済」×「地域循環共生圏」—都市発展のニューパラダイム−と題したシンポジウムを東京・国分寺の同大学キャンパスで開催した。


 楊偉民中国人民政治協商会議常務委員を始めとする中国の政策実務担当者らを招き、日本の中央官庁、地方行政責任者、有識者らと意見を交わした。環境・経済・社会の統合的向上を目指す新しい成長モデルについて、それぞれの立場から今後の多様な方向性が示された。学生、市民、研究者ら約200人が熱心に聴講した。

 冒頭、岡本英男東京経済大学学長が開会挨拶し、同大学創設者で実業家の大倉喜八郎が孫文の支援者として辛亥革命を助けたエピソードに触れ、同大学と中国との深い結びつきを紹介。日中両国の発展にとってプラスになる事業を今後も進め「狭い学問、学内だけに閉じ込もらず行政官そして民間企業とも広く連携したい」と表明した。

 森本英香環境事務次官は、地球温暖化、保護主義、情報化・グローバル化を今の時代の3大不安定要因とし、新しい安定を見出す必要性を述べた上で「地域の資源、文化、人材を活かした交流が必要だ。日中双方の有識者の交流で新しい視点、アイディア、そして未来が生まれる」とシンポジウムの議論に期待した。

 

楊偉民氏と中井徳太郎氏
基調講演をする楊偉民氏と中井徳太郎氏 

 基調講演では、八年ぶりに来日した楊氏が、「巨大な中国、多様性のある中国における空間発展」をテーマに、中国政府が推進する「生態文明」の概念と、今後の発展の道筋について説明した。「中国は、空間の特徴と生態バランスにおける各地域の役割に配慮し、均一的発展モデルを取りやめ、発展すべきところは発展、保護すべきところは保護する考えで“主体功能区”政策に取り組んでいる」と紹介し、中国の目指す空間構造について展望した。

 中井徳太郎環境省総合環境政策統括官は、昨年4月に閣議決定した第5次環境基本計画が、環境だけでなく経済、社会を含め統合的に課題解決を図るビジョンだと説明。具体的には、「自然の恵み、森里川海を見つめ直し、地域の住民、自治体政府、金融、建設など各業界が協力して新技術を活用し、豊かな食、水、空気を確保する。そうした地域資源利用により地産地消を進め、さらに他地域とも連携することがビジネスにもつながる。草の根の国民運動として広げることで、コミュニテイが出来、災害に強いエコシステムが成り立ち、高齢化にも対応できる」と力説した。

 「交流経済」をテーマとしたセッション1では、司会の周牧之同大学経済学部教授が、自ら責任者として開発し日中両国で出版した中国都市総合発展指標(日本語版は「中国都市ランキング」)を使い、1980年代以降今日までの日本、中国そして世界で、大都市に人口が急激に集中した現象を分析。グローバリゼーションと交流交易経済に最も適した場所として成長を謳歌しているのが、日本では東京大都市圏、中国では長江デルタ、珠江デルタ、京津冀の三大メガロポリスだと指摘した。 

 

周牧之教授
問題提起する周牧之教授

 また、周教授は日本と中国で経済成長を実現させた要因が共に「輸出及び都市化の進展」であったとした上で、従来の製造業に代わってリーディング産業として台頭したIT業界を事例に解説。中国では、香港、上海、深圳の三つのメインボードに上場するIT関連企業の94%が、TOPランキング30都市に集中して立地している。都市のIT輻射力は、空港、海外旅行客数、国際会議数はもちろん、科学技術、ホテル・飲食、高等教育などの輻射力との相関係数が高く、グローバル化を進め、人材、資金、生活レベルを不断に高める都市に集中する。日本のIT業界もほぼ同じ様相を見せている。「日本と比べて中国の都市は、市街地の面積が拡大しても都市人口はさほど増えていない。またCO2排出量が膨らみ、環境を著しく悪化させた点で、ロークオリティ成長であった」とし、環境、経済、社会が共に発展するハイクオリティな成長を目指すための方向性について問題提起した。

 これを受けて、前田泰宏中小企業庁次長は、一人ひとりが我が事として環境問題を捉える事が重要であるとし、「日本人も中国人も現在最もお金を払うのはストレス解消への投資だ。自らの生きる環境を改善する事こそが生きる意欲に繋がり、またSDGsの実現に繋がる」と呼びかけた。街づくりの改善で人の往来を増やしたイタリア・ベネチアや東京・谷中の取り組みを事例に、「観光客ら訪問人口の回転率を増やす事で、人口減による経済の落ち込みも補える。交流経済の質の向上が欠かせない」と述べた。

 次いで元IMF理事の小手川大助キャノングローバル戦略研究所研究主幹が、世界でいま海外観光客の最も多い都市はフランスのパリで、その数が年間8000万人である事に比べると、「日本の3000万人はまだ少ない。人口から見ても中国や他の新興国にはまだ圧倒的な成長の余力と市場がある」と述べた。健康食品事業に携わった自らの経験を紹介しながら、「新たな時代の経済成長には新しい製品作りや、それに伴う海外との共同投資、共同研究の拡がりが必須だ」とし、来日時の一人当たり観光消費額がいま最も多いロシアなどへの日本ビザ発給の緩和で、海外との交流交易が一層進展するよう期待した。

 元中国国家統計局長の邱暁華マカオ都市大学経済研究所所長は、中国経済が生産主導から消費主導へ移向する新常態にあ るとし、「中国経済の最も大きな変化は、中間層の拡大による消費動向の変化だ」と説明した。健康、娯楽、文化など新しい需要の拡大が経済を牽引していくに当たり、対外的には一層開放し、国内的には「製品開発などの分野で研究及び経営努力を奨励すべきだ」と述べた。

 続いて、周教授が指標データを使い、西暦2000年以降の東京大都市圏と北京の都市のパフォーマンスを比較した。北京は東京と比べて都市面積が1.2倍、人口が6割、一人当たりGDPは同半分まで追いついたものの、一人当たりCO2排出量は同2.1倍、単位当たりエネルギー消費が同4.7倍に及んだ現状を提示。環境への配慮が都市づくりの今日の最重要課題であるとした上で、さらに東京が、海外観光客数で北京の5.6倍、国際会議開催数で同17.4倍、国際評価トップレストラン数で同10倍と、開放性でも差を広げたことに触れ、「東京は、観光、娯楽、仕事、衣食住全般で訪れる人の多目的行動を満足させ、加えて交流経済のシンボルであるIT輻射力も集中していることから、交流経済の場として極めて秀でた」と分析した。

 

パネリストの前田泰宏氏、小手川大助氏、邱暁華氏
セッション1のパネリストの前田泰宏氏、小手川大助氏、邱暁華氏

 この分析を受けて、前田氏は、「人がITツールを用い、様々なライフスタイルを分割所有できる時代になった。求心力のある人物が色々な地域に住んで交流し、発信し、仕事をする。そうした人をベースにさらに人が集まるような交流経済が量を増やす」と述べた。小手川氏は、東京そして日本の役割を展望し、「貿易、軍事、ITの3つが、米中間の大問題となっている中、日本は、中国への理解を米国に促すなど、米中関係をつなぐ橋渡し役を務めることが肝心だ」と訴えた。また、中国に対して、「経済発展のポテンシャルを大きく持つにもかかわらず、金融面が内向きに閉じている国内の現状を改善してほしい」と投げかけた。邱氏は、「交流交易はすなわち人と人との関係構築である」と述べ、大陸、香港、台湾、マカオを含めると約1500万人もの華人が日本を訪れている一方、日本人の中国渡航が未だ少ない実情を取り上げ、「百聞は一見に如かずだ。実際に訪れてみる事で、中国への認識と実情との隔たりを埋められる。一方通行でない交流交易を進めるためにも、大勢の日本人の中国訪問を歓迎したい」と呼びかけた。

 

尾崎寛直氏、和田篤也氏、小林一美氏、張仲梁氏
セッション2に登壇する尾崎寛直氏、和田篤也氏、小林一美氏、張仲梁氏。

 周教授は、「多様性と開放こそが交流経済の必要条件」とし、マサチューセッツ工科大学(MIT)に赴任していた2007年当時、エネルギー革命に向けてMITが世界中から国籍、出身、背景の異なるエネルギーの専門家をハイスピードで集めたことを目の当たりにした経験を紹介、「MIT自体に大きな魅力があったからこそ人材が集まった。多様性と開放に加えて、都市も拠点も個人も、自分自身を魅力ある存在として高めていくことが、交流経済を形作る」と総括した。

 「地域循環共生圏」がテーマのセッション2では、司会の尾崎寛直同大学准教授が、「地域が自らもつ風土、食、文化を売りにし、イノベーションを続け、外の社会に繋がりグローバルに繋がることを、どう引っ張るのか」と問題提起した。

 和田篤也環境省大臣官房政策立案総括審議官は、グローバルリスクである地球温暖化問題の、50年後100年後を見据えた解決構想として、環境省が描いた大絵図を示しながら説明。地域循環共生圏について、「住民が自分たちの目線でオーダーメードの計画を作り、自律分散型再生可能エネルギーシステムの構築、防災、観光、交通、健康など様々な分野で、独自のビジネスを行う。資源・資金・人の循環と自然との共生をコンセプトにし、得意不得意分野を他地域とのネットワークで補い、技術で支えることを目指す。そうしたステージに今後入っていく」と展望した。

 神奈川県横浜市は、2015年のパリ協定、国連の持続可能な開発目標SDGsを受け、日本の大都市としては初めて地球温暖化対策実行計画「Zero Carbon Yokohama」を掲げ、街づくりに取り組んでいる。同市の小林一美副市長は、「地域循環共生圏」の大都市モデルの事例を紹介。具体的には、持続可能なライフスタイルを子供達に伝えるエコスクールの開催、新横浜一帯に集積するIT企業と連携した次世代のエネルギー自給システムの構築、小・中学校での蓄電池設置による災害時非常用電源の確保など「モデル活動を相次いで実施し、CO2削減を具体的に示している。これを継続して行うことが大事だ」と述べた。また、再生可能エネルギーに関する横浜市と東北の自治体との取り組みを紹介し、国や他の自治体との防災、福祉、教育面での実践的連携の重要性に言及。横浜市が石油精製、火力発電などいわばCO2排出産業に税収、雇用とも支えられている実情のなかで、「脱炭素経済に向けてどう新しい産業構造や市民社会を作っていくか、また、税金を環境対策にどう回すかが課題だ」と述べた。

 中国国家統計局元司長の張仲梁南開大学教授は、京津冀メガロポリスを事例に中国の現状について説明した。同メガロポリスは北京、天津といった巨大で近代的な都市がある一方、周辺の河北省は経済的に遅れを取っている。「北京や天津からの経済的な波及効果が望めないことにより河北省は鉄鋼産業に特化し、深刻な大気汚染を発生させた。結果、北京にも多大な環境被害をもたらした」とし、メガロポリスの発展が中国都市化政策の基本となっている中で、今後目指すべきは「メガロポリス内部の協調発展である」と力説した。

 横浜など大都市と比べ人口や財源が少ない小さな自治体の現状をどう考えるかについて、和田氏は「地域循環共生圏の芽が小さな自治体にも様々出ている」とした上で、「共生圏を支える地域の人材育成を図るため、プラットフォーム作りを環境省で立ち上げる」と宣言した。

 海外との交流激増の時代に即した都市作りに関しては、小林氏が「魅力ある街、環境に配慮した街作りをすれば、観光客が来る。企業が来て、雇用も増え、税収も増す良い循環ができる。そうした循環と、従来から市を支えて来た基幹産業との関係作りを、市民とともに考える。脱炭素を目指す動きを提示しながら課題解決に向けて、国と連携して実施していく」と決意を述べた。小林氏はまた、20年前に実施したゴミ削減30%運動により、当初予想の半分の年月で目標を超える43%削減を実現し、ゴミ焼却工場を二カ所閉鎖、年間20億円のコスト削減と、大きな成果をあげた横浜市の事例を紹介、「のべ1万回に及ぶ住民説明会を開き、市民や企業がゴミ問題を我が事として行動するようになった。私たちはできる、という意識が結果に繋がった」と振り返った。

 張氏は、「中国での環境政策に携わる仲間が、海外の実情から学び、国内の取り組みに生かしている。中国人の海外渡航が増え、実際の交流から優れた思考を受け入れることが、変革をもたらしている」と力説、和田氏も「交流がキーワードだ。交流を契機にプロジェクトを作り、地域の銀行と手をつないで財源不足を補い、現場に密着した技術を導入するアプローチで、動き出すことができる」と強調した。

 

懇親会
懇親会での交流

 シンポジウム終了後は、日中双方のパネリストを囲み、参加者による懇親会が開かれた。

 席上、楊偉民氏は、「私の仕事は生態環境保護につながりのあるものが増えた。本日のシンポジウム参加で、人と人との交流を増やしたいと思った。自分のふるさと、そして世界を美しいものにして行きましょう」と呼びかけた。元環境事務次官の南川秀樹日本環境衛生センター理事長は、「日中が世界の環境政策をリードする時代が来る」と展望し、乾杯の挨拶をした。

 歓談に次いで挨拶した大西隆豊橋技術科学大学学長は、「中国で大都市の時代が幕開けた約20年前に出会って以来のお付き合いの楊さんの話しを聞きたいと駆けつけた」と歓迎し、環境、グローバリゼーション、都市化の課題への日中間協力の重要性を述べた。西正典元防衛次官は、シンポジウムの席上議論された「米中関係の通訳として日本が役割を果たす」意義に改めて言及し、日中合作の進展に期待した。駐日中国大使館を代表して阮湘平公使参事官が、「生態文明重視を掲げる中国と日本との環境保護の面での交流を続けて行きましょう」と述べた。横山禎徳東京大学EMP特任教授は、「交流経済は観光客だけでなく、日常で人が行き来できるようになると一層効果が上がる」と提起し、小島明政策研究大学院大学理事は、環境問題解決は日中共同のミッションであり、「パッション(情熱)とアクション(行動)で共同作業していこう」と続けた。

 シンポジウムで分析資料として多用された中国都市総合発展指標の日本語版『中国都市ランキング』の出版元、NTT出版の長谷部敏治社長は、周教授が責任者となって日中共同で開発した同書の内容について、「中国の都市分析に留まらず、東京大都市圏を始め日本の都市の分析を盛り込んでいる」と、アピールした。前多俊宏エムティーアイ社長は、「中国と日本の人と人との交流から生まれるものの大きさを実感した」と、シンポジウムの成功を祝った。

 閉会挨拶に立った周教授は、楊氏、中井氏とともに肩を並べて立ち「私たち3人は義兄弟と言ってもいいほど大切な仲間。20年間度々顔を合わせ、大きな問題について膝付き合わせて議論し合い、実践してきた」と力説、環境、経済、社会問題の統合的解決の土台は個人と個人の交流にこそある、と述べて会を締めくくった。関口和代同大学教授が総合司会を務めた。

 

中国網日本語版(チャイナネット)2019年1月31日

 


【出版パーティ】「中国都市総合発展指標」日本語版が出版。中国指標の海外初デビュー

 中国国家発展改革委員会発展計画司と雲河都市研究院が共同編纂した中国都市総合発展指標(以下、〈指標〉)日本語版が2018年6月、日本全国で発売された。指標の中国語版はすでに2016年版と2017年版が出版後、各界から高く評価されており、本書は中国の都市を評価する指標としては、国際社会初登場となる。

 〈指標〉日本語版中国都市ランキング−中国都市総合発展指標(NTT出版社)は、全カラーで、中国295の地級市以上都市を全て網羅した巨大な情報量を、グラフィックに再現している。指標は「3×3×3」項目で構成されている。すなわち環境、社会、経済の3つの軸を立て、それぞれまた3つの中項目に分け、さらにそれを3つの小項目に細分化した。最新の統計データだけではなく、衛星リモートセンシングデータやビッグデータも活用、133項目の指標データをもとに都市を全面的に分析している。

■ 各界第一人者が大勢来場


 中国都市ランキング−中国都市総合発展指標出版に伴い、記念パーティが7月19日、東京で行われた。海江田万里衆議院議員・民主党元党首杉本和行公正取引委員会委員長・元財務事務次官福川伸次東洋大学理事長・元通産事務次官森本英香環境事務次官ら、日本の官界・政界、産業界・学術界の第一人者が大勢お祝いに駆けつけた。

 開会挨拶をした南川秀樹元環境事務次官は、周教授の指標作成への情熱とリーダーシップを讃え、指標出版を祝った。

開会挨拶をする南川秀樹元環境事務次官

 安斎隆セブン銀行特別顧問・元会長は、「都市は多角的に、分度器で図るようにして見なければならない。この指標を元に競い合うことが都市の発展を支えるだろう」と展望した。

乾杯挨拶をする安斎隆セブン銀行特別顧問・元会長

 中国からは3人の祝辞が代読された。楊偉民中国人民政治協商会議常務委員・中国共産党中央財経領導小組弁公室元副主任が、「指標は、日中両国学術研究の結晶。環境、社会、経済の三つの角度から中国の都市を捉え、その発展の成果と代価を評価した点で、また中国の都市化の経験と教訓を論理的にまとめ、総括した点で、更に中国と世界の都市化の道のりを探索した点で重要な意義を持つ」とし、「中国の都市化への理解はすなわち中国を理解することだ。日本語版出版で日本の皆さまが中国の都市化を理解し、中国の数十年来の変遷への認識を深める上で、一つの道筋が与えられる」と述べた。

 徐林中国城市和小城鎮改革発展センター主任・中国国家発展改革委員会発展計画司元司長は、「周教授と私の二人で発起人となって作成した指標の目的は、都市の発展状況をGDPだけでなく全面的に評価し、それにより各都市が活路を見出し易くすることにあった」と紹介。「今後20年、中国は更に2億人を超える人びとが農村から都市部に入り、多くの都市がメガシティ、そしてメガロポリスになる。このプロセスで、中国は日本の成功に誠実に学ぶことが必要だ」と述べた。

 杜平中国第13次五カ年計画専門委員会秘書長・中国国家信息センター元常務副主任は、「従来の中国の都市化について、今まさに客観的に総括する時だ」とし、「中国は都市化によりもたらされた環境汚染など深刻な大問題に果敢に取り組んでいく必要があり、この点、中国国家発展改革委員会発展計画司と雲河都市研究院が共同で作り上げた指標は、非常に大きな意味がある。本書の客観性、国際性、学術性、権威性は中国の今後の都市発展に、絶えず大きな影響力を示していく。大勢の日本の皆さんが中国都市をより理解し、日中協力の機会が広がることを確信している」と述べた。

 メッセージではまた山本和彦森ビル元副社長が、「この指標に関わった者の一人として、指標が今後更に進化、発展し日本、中国にとってより良い都市とは何か、どうしたら作れるのかの研究と実践が進むことを長年都市開発、まちづくりに関わる者として期待している」と述べた。

左から竹岡倫示・日本経済新聞社専務執行役員、横山禎徳・東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム特任教授、大西隆・豊橋技術科学大学学長、周牧之・東京経済大学教授

■ セミナーで指標解説


 続いて、「中国都市総合発展指標は何故必要なのか?」と題したセミナーが開かれ、大西隆豊橋技術科学大学学長・日本学術会議元会長は、「指標は想像を絶する勢いで進む中国都市化を分析した処方箋である」と紹介し、「経済、環境、社会のバランス良い発展、新旧の文化を大切にした発展への知恵袋になって欲しい」と期待した。

 指標の経済、環境、社会の3×3×3構造の原案を考えた横山禎徳東京大学EMP特任教授は、「都市は、生活、産業、学問などのインターリンケージの集積である」と述べ、それを示すのが指標であり、都市をどうデザインするかが重要で、指標が大いに活用できると述べた。

 指標編著者の周牧之東京経済大学教授は、膨大なデータから整合性ある使えるデータを見極め、整理した指標作成の苦労の一端を披露した。その上で指標の、「人口密度」「水資源」「輻射力」など数多くの情報を盛り込み作成した図表を示しながら中国都市のパフォーマンスを解説。「中国のメガロポリス化が進む中、指標で、中国の都市のビヘイビア(Behavior)の変革を促したい」と述べた。

 司会を務めた竹岡倫示日本経済新聞社専務執行役員は、以前自身が関わった日本経済新聞社による企業評価指標が、「利益追究にのみ傾いた経営でバブルをもたらした日本企業の在り方を変えた」と紹介しつつ、「この中国都市ランキングは、中国経済の細胞たる都市の改革を促すであろう」と強調した。

周牧之・東京経済大学教授による閉会挨拶

■ 指標への絶賛と期待


 席上、挨拶に立った福川伸次は「指標には今後、お笑いや美術市場、美味しいレストランなど文化分野で、都市の状況を盛り込み、AI技術を駆使して分析し、都市の魅力の多様化に繋げて欲しい」と期待した。

祝辞を述べる福川伸次東洋大学理事長・元通産事務次官

 杉本和行氏は「指標には中国の都市の持つ課題が提示された」と高く評価した。

祝辞を述べる杉本和行公正取引委員会委員長・元財務事務次官

 森本英香氏は、「膨大なデータを一枚の図にして多数提供した。中国の行方を見定める指標として学ぶところが多い。これは世界の環境問題の解決を、日中でリンクして進めるきっかけになる」と力説した。

祝辞を述べる森本英香環境事務次官

 中国大使館の阮湘平公使参事官は、「改革開放40周年、日中平和友好条約40周年の節目に出版された、さながら人間ドックの“都市版”とも言えるこの指標が、定期的に中国の都市発展上、警鐘を鳴らす存在であって欲しい」と述べた。

祝辞を述べる阮湘平・中国大使館公使参事官

 古川実日立造船相談役・元会長は、「先日、深圳市を訪問したところ連日素晴らしい青空が広がっていた。深圳はまさに中国都市ランキング環境No.1の通りの都市であった」とし、同社のゴミ焼却炉、肥料製造など環境関連技術を紹介し、「引き続き中国の環境改善に貢献したい」と決意を表明した。

祝辞を述べる古川実日立造船相談役・元会長

 新井良亮ルミネ相談役は、「指標は、環境、経済、社会の三つの視点で都市を見たときの、人びとや企業が考えるべきことを提示した」と述べた。

祝辞を述べる新井良亮・ルミネ相談役

 宮島和美ファンケル副会長執行役員・元会長は「中国の広大さを実感させられる295都市を全て網羅した」と、同指標の重要さと有益性に言及した。

祝辞を述べる宮島和美・ファンケル副会長執行役員・元会長

 武田信二東京放送ホールディングス会長は、「この指標は、現代中国の都市思想の拠り所になりうる」と絶賛。

祝辞を述べる武田信二・東京放送ホールディングス会長

 森本章倫早稲田大学教授は、「指標を使い、共に中国と日本の役に立つ研究を周先生と一緒に進めて行きたい」と述べた。

祝辞を述べる森本章倫・早稲田大学教授

 島田明日本電信電話副社長は、「中国語版指標を手に取った時、これの日本語版があるといいねという話になった。それが実現した」と喜びを語り、「データ解析などの手段で、日本と中国が一緒に発展する手伝いをさせて頂きたい」と語った。

祝辞を述べる島田明・日本電信電話副社長

 前多俊宏エムティーアイ社長は、「周教授は10数年前からメガロポリス発展戦略、都市化など今の中国の状態や課題を言い当ててきた。指標のランキングそのものがメッセージであり、これから10年後の中国、そして世界に色々な影響を与えるとものとなる」と讃えた。

祝辞を述べる前多俊宏・エムティーアイ社長

 中井徳太郎環境省総合環境政策統括官は、「地球全体と人間とが折り合いの付いていない現在、持続可能性をどう追求するかを見極めて実行する時期にきている。この視点で、指標が3×3×3の構造で可視化した中国の都市発展を日中協同で進めていきたい」とパーテイを締めくくった。

祝辞を述べる中井徳太郎・環境省総合環境政策統括官

中国網日本語版(チャイナネット)」2018年7月23日

中国都市総合発展指標2018

1. 総合ランキング


北京が3年連続で総合ランキング第1位、上海が第2位、深圳が第3位

 2016年、2017年と同様に総合ランキングトップ5都市は依然として北京、上海、深圳、広州、天津となった。首位の北京は、社会ランキングにおいて圧倒的に優勢で、空気環境の質がさらに改善されたことで、「環境」大項目のパフォーマンスも向上した。総合ランキング第2位の上海は、経済ランキングにおいて首位の座を保持した。「環境」大項目の「空間構造」中項目指標も上海が全国第1位を維持した。総合ランキング第3位の深圳は、「環境」「社会」「経済」の3つのランキングにおいて、それぞれ全国第1位、第8位、第3位となり、比較的バランスのとれた発展をしている。総合ランキング第4位の広州は、社会ランキングにおいて第3位で深圳よりも順位が高くなっている。第5位の天津は、「環境」大項目が第21位で2017年に比べて改善されている。杭州は2017年より順位を1つ上げ全国第6位、重慶は第7位に後退した。成都は2017年の第10位から順位を上げ2018年は第8位、南京は第10位であった。武漢は第9位に返り咲き、蘇州は2017年の第8位から第11位に転落した。

中国都市総合発展指標2018 総合ランキングトップ30都市
中国都市総合発展指標2018 総合ランキング1位 – 30位
中国都市総合発展指標2018 総合ランキング31位 – 150位
中国都市総合発展指標2018 総合ランキング151位 – 298位

2. 環境大項目ランキング


深圳は3年連続で環境ランキング第1位、三亜は第2位、海口は第3位を保持

 深圳は3年連続で環境ランキング第1位を獲得し、三亜と海口は2017年と同様、それぞれ第2位、第3位を保った。

 環境ランキング第4位の普洱と第5位の北京は、いずれも2017年と比べ大きく順位を上げている。特に北京の「空間構造」中項目が全国第3位となったと同時に、2017年に比べて空気汚染が大幅に改善された。北京だけではなく、空気の質が大幅に改善された他の都市、例えば福州や広州なども「環境」大項目でのパフォーマンスが、各々相対的に向上した。

 廈門は第6位を維持している。広州と上海は第7位、第8位であり、2017年と比較していずれも3つ順位を落としている。福州と重慶は第9位、第10位となり、2017年より各々1つ順位を下げている。2017年にトップ10都市に入っていた蘇州と珠海は第15位、第18位と2018年は残念ながらトップ10都市にランクインできなかった。

中国都市総合発展指標2018 環境ランキングトップ30都市
中国都市総合発展指標2018 環境ランキング1位 – 30位
中国都市総合発展指標2018 環境ランキング31位 – 65位
中国都市総合発展指標2018 環境ランキング66位 – 100位

3. 社会大項目ランキング


北京、上海が3年連続で第1位、第2位、広州は第3位を保持

 北京と上海は3年連続で第1位、第2位を獲得し、広州は2017年と同様に第3位であった。

 首都という性質上、北京は、「社会」大項目の「ステータス・ガバナンス」「伝承・交流」「生活品質」の3つの中項目指標でいずれも他の都市と比類ない優位性をもっている。上海は「社会」大項目の3つの中項目指標で第2位を獲得している。広州の「生活品質」中項目は第3位、「ステータス・ガバナンス」中項目は第5位となった。

 社会ランキングの第4位は杭州、第5位は天津であり、2017年に比べそれぞれ1つ順位を上げた。逆に、重慶は2つ順位を落とし第6位となった。成都は第7位で「伝承・交流」中項目指標は2017年より2つ順位を上げた。深圳は同中項目で1つ順位を後退させ第8位であった。武漢の「生活品質」中項目指標が向上し、これに伴い社会ランキングは2017年より2つ順位を上げ、第9位となった。第10位は南京で2017年と比べ2つ順位を下落させた。前年度第10位であった西安は残念ながら2018年は第11位となり、トップ10都市にランクインできなかった。

中国都市総合発展指標2018 社会ランキングトップ30都市
中国都市総合発展指標2018 社会ランキング1位 – 30位
中国都市総合発展指標2018 社会ランキング31位 – 65位
中国都市総合発展指標2018 社会ランキング66位 – 100位

4. 経済大項目ランキング


上海が3年連続第1位を保持、北京は第2位、深圳は第3位

 上海は疑いの余地なく、3年連続で経済ランキングの首位に輝いた。北京が第2位、深圳は第3位となった。

 上海は「経済」大項目の「経済品質」と「発展活力」の両中項目指標で全国第1位に輝いた。北京は「都市影響」中項目指標で全国第1位を獲得した。深圳は「経済品質」と「発展活力」の両中項目指標で全国第3位、「都市影響」中項目指標では全国第4位になった。

 広州、天津、蘇州は、それぞれ第4位、第5位、第6位であり、2017年のランキングと変化がない。成都と杭州は第7位、第8位となり、いずれも2017年より順位を1つ上げている。重慶は第9位で2017年と比べると順位を2つ落とした。武漢は第10位で経済ランキングのトップ10位内に舞い戻った。2017年の経済ランキングトップ10都市にランクインしていた南京は第11位となり、残念ながら今回は追いつけなかった。

中国都市総合発展指標2018 経済ランキングトップ30都市
中国都市総合発展指標2018 経済ランキング1位 – 30位
中国都市総合発展指標2018 経済ランキング31位 – 65位
中国都市総合発展指標2018 経済ランキング65位 – 100位

中国都市総合発展指標2017

1. 総合ランキング


総合ランキングで北京が首位、上海が第2位、深圳が第3位

 北京、上海、深圳はそれぞれ「社会」「経済」「環境」の三大項目において全国のトップを占めている。
 北京は「社会」大項目において「生活品質」「伝統・交流」「ステータス・ガバナンス」の3つの中項目で第1位を誇る。上海は、「経済」大項目中「経済品質」「都市影響」および「環境」大項目中「空間構造」の3つの中項目で第1位である。深圳は「環境」「経済」「社会」の三大項目が、それぞれ第1位、第3位、第7位で比較的バランスの取れたパフォーマンスを見せている。しかし、北京と上海は「環境」大項目において多くの解決すべき課題があることが、各指標から見られる。
 広州と天津は総合ランキング第4位、第5位で昨年と同位である。両都市は「経済」「社会」2つの大項目で各々特色があるが、天津は「環境」大項目で奮わず、広州の下位に帰した。重慶、杭州、蘇州、南京、成都は、それぞれ第6位から第10位となった。

中国都市総合発展指標2017 総合ランキングトップ30都市
中国都市総合発展指標2017 総合ランキング1位 – 30位
中国都市総合発展指標2017 総合ランキング31位 – 150位

2. 環境大項目ランキング


環境ランキングは深圳が第1位を保持、三亜、海口がそれぞれ第2位、第3位

 深圳の「環境」大項目が第1位の理由として、高水準の都市化、都市交通の利便性の高さ、高密度な人口、コンパクトな空間構造が挙げられる。新興臨海型大都市として、深圳は「環境」「社会」「経済」の三大項目で相対的にバランスがとれている。
 「環境」大項目の第2位から第10位までの都市は、三亜、海口、広州、上海、廈門、珠海、福州、重慶、蘇州である。「環境」大項目ランキングトップ10都市の中で重慶と蘇州は、長江沿いの都市であり、その他8都市は臨海都市である。臨海、そして長江沿いの都市は、改革開放後の大交流、大交易時代に急速な経済発展を遂げただけでなく、交通の利便性と生態資源にも恵まれ、開放と交流、そして空間構造と環境品質のパフォーマンスが優れている。

中国都市総合発展指標2017 環境ランキングトップ30都市
中国都市総合発展指標2017 環境ランキング1位 – 30位
中国都市総合発展指標2017 環境ランキング31位 – 150位

3. 社会大項目ランキング


社会ランキングでは北京は首位、上海、広州がそれぞれ第2位、第3位

 北京は首都ということもあり、「社会」大項目の優位は他の都市とは比べることができないほど明確だ。上海は、「社会」大項目において「生活品質」「伝統・交流」「ステータス・ガバナンス」の3つの中項目ですべて第2位である。広州は「生活品質」中項目の第3位を除き、他の中項目は第4位となっている。
 重慶、杭州、天津、深圳、南京、成都、西安は、「社会」大項目でそれぞれ第4位から第10位である。
 「社会」大項目上位10都市は、直轄市、省都、計画単列市に集中している。深圳は改革開放によって経済特区として発展した新興都市であり、その他9都市は悠久の歴史を湛え、なかでも北京、杭州、南京、西安の4都市が、かつて王朝の古都であった。
 注目すべきは、珠江デルタメガロポリス、長江デルタメガロポリス、京津冀メガロポリスと成渝メガロポリスの4大メガロポリスの中心都市が「社会」大項目の上位9位を占めていたことである。

中国都市総合発展指標2017 社会ランキングトップ30都市
中国都市総合発展指標2017 社会ランキング1位 – 30位
中国都市総合発展指標2017 社会ランキング31位 – 150位

4. 経済大項目ランキング


経済ランキングでは上海、北京、深圳がそれぞれ第1位、第2位、第3位

 上海は長江デルタメガロポリスと長江経済ベルトのエンジンとして、「経済」大項目の首位の座を堅持した。北京は「経済品質」と「都市影響」の2つの中項目を上海に譲ったが、「発展活力」中項目では第1位である。「経済」大項目第3位の深圳は「経済品質」「発展活力」「都市影響」の3つの中項目が各々第3位となった。広州、天津、蘇州、重慶、成都、杭州、南京は、「経済」大項目でそれぞれ第4位から第10位である。
 珠江デルタメガロポリス、長江デルタメガロポリス、京津冀メガロポリスと成渝メガロポリスの4大メガロポリスの中心都市が「経済」大項目の上位10位を総嘗めにした。

れに対して成都は二位下げて第9位へと滑落、武漢はトップ10外の第11位へと下がった。

中国都市総合発展指標2017 経済ランキングトップ30都市
中国都市総合発展指標2017 経済ランキング1位 – 30位
中国都市総合発展指標2017 経済ランキング31位 – 150位

中国都市総合発展指標2016

1. 総合ランキング


総合ランキングで北京が首位、上海が第2位、深圳が第3位

  北京が総合ランキングで上海を抑えて第1位となったのは、「社会」大項目のパフォーマンスで上海を大きく上回ったことによる。しかし、北京は「経済」大項目で上海と比べてやや遜色があり、「環境」大項目のパフォーマンスでは上海より大きく下回っている。
 深圳は総合ランキングで北京、上海に続く第3位となった。深圳の優位性は「環境」大項目と「経済」大項目に表れている。特に「環境」大項目では深圳がランキング第1位を獲得した。新興都市である深圳は、「社会」大項目のパフォーマンスでやや遜色がある。
 広州は総合ランキングで第4位、天津は第5位となった。両都市は「社会」大項目と「経済」大項目で各々特色があり、広州は「環境」大項目のパフォーマンスで天津に秀でている。
 蘇州、杭州、重慶、南京と武漢は第6位から第10位であり、「社会」大項目と「経済」大項目において、5都市はほぼ上位10位内に入っている。しかし「環境」大項目では、最も順位の高い蘇州でも、ランキングは第20位に留まっている。

中国都市総合発展指標2016 総合ランキングトップ20都市
中国都市総合発展指標2016 総合ランキング1位 – 20位

2. 環境大項目ランキング


環境ランキングは深圳が堂々第1位、寧徳、フルンボイルがそれぞれ第2位、第3位

  深圳は「環境」大項目で首位となった。環境の各中項目指標のパフォーマンスでは、「空間構造」は第3位、「環境品質」は第10位、「自然生態」は第26位である。
 寧徳は「環境」大項目で第2位である。福建省にある寧徳はあまり知られていない都市ではあるが、気候は穏やかで、「水資源量」や「森林面積率」、「空気質指数」のいずれの指標も飛び抜けて高い。
 内モンゴル自治区フルンボイルは「環境」のランキングで第3位である。北部全域で「環境」大項目の上位20位入りした唯一の都市。森林、草原、空気の清々しさが際立っている。
 三亜、上海、南平、三明、汕尾、麗江、福州がそれぞれ第4位から第10位までの都市である。
 注目すべきは、総合ランキング上位10都市で、深圳と上海だけが「環境」大項目のトップ10に入ったことである。

中国都市総合発展指標2016 環境ランキングトップ20都市
中国都市総合発展指標2016 環境ランキング1位 – 20位

3. 社会大項目ランキング


社会ランキングでは北京は首位、上海、天津がそれぞれ第2位、第3位

 北京と上海は「社会」大項目で第1位と第2位であった。「伝承・交流」中項目では北京は上海に秀で、「社会ガバナンス」中項目では上海が北京を超えている。「生活品質」中項目では両都市は伯仲している。
 天津、杭州、広州、重慶、南京、蘇州、武漢と成都が、「社会」ランキングで第3位から第10位までの都市である。この8都市の偏差値の差はそれほど大きくはなく、偏差値が最大の天津が69.4で、最小の成都が65.5となっている。
 「伝承・交流」中項目指標は天津、広州、重慶が優勢で、「生活品質」中項目では杭州、蘇州が秀でている。

中国都市総合発展指標2016 社会ランキングトップ20都市
中国都市総合発展指標2016 社会ランキング1位 – 20位

4. 経済大項目ランキング


経済ランキングは上海首位、北京と深圳がそれぞれ第2位、第3位

 上海と北京が「経済」大項目で第1位、第2位。「経済品質」と「発展活力」の2つの中項目では上海が秀でているが、「都市影響」指標では、北京が突出した首位である。
 深圳、広州、天津と蘇州は「経済」大項目で第3位から第6位である。深圳は「経済品質」と「発展活力」の両中項目指標で上位であり、広州は「都市影響」指標でのパフォーマンスが目をひく。
 杭州、重慶、南京、成都は「経済」大項目で第7位から第10位となった。この4都市の偏差値に大きな違いはないが「経済品質」中項目では重慶がより優れて第4位である。「都市影響」指標では杭州と成都が比較的よく、各々第5位、第9位となった。

中国都市総合発展指標2016 経済ランキングトップ20都市
中国都市総合発展指標2016 経済ランキング1位 – 20位

【フォーラム】〈中国都市総合発展指標2018〉 フォーラム

〈中国都市総合発展指標2018〉フォーラムにて

 中国国家発展委員会発展戦略和計画司と雲河都市研究院が主催する「中国都市総合発展指標2018フォーラム」が2018年12月27日、北京・中国科学院学術会堂で開催された。フォーラムでは中国都市総合発展指標2018報告書が発表された。報告書は環境・社会・経済という3つの軸から、298にのぼる中国のすべての地級市以上の都市を評価した。

 同指標は中国国家発展委員会発展戦略和計画司と雲河都市研究院が共同で開発した。報告書の特徴の1つは、中国の都市化の現状に鑑み、毎年メインテーマを定めて報告書を公表することにある。2016年のテーマはメガロポリス発展戦略、2017年は中心都市発展戦略、2018年は大都市圏発展戦略に焦点を絞った。2016年から中国都市総合発展指標におけるすべての地級市以上の都市のランキングは公表している。

 フォーラムではまず、中国都市総合発展指標2018総合ランキング、そして「環境」、「社会」、「経済」三大項目ランキングを発表した。


中国都市発展の質的向上のキーはDID


 中国都市総合発展指標専門家委員長の周牧之東京経済大学教授は、報告書を発表し、中国都市化の特徴として、各機能が高度に大都市に集中していることを取り上げ、解説した。

 周牧之氏はさらに、報告書が独自に導入した「人口集中地区(DID)」という概念を使用し、中国都市発展の質を分析した。「中国では人口規模・密度が都市の環境およびインフラに及ぼす負荷を過度に強調しており、高密度人口が都市発展活力の重要な基礎であるとの認識に欠けている。中国は今後この誤った認識を正し、DIDの規模と質の向上を通じて都市の活力を高めるべきだ」と指摘した。

 報告書は2000〜2016年の中国都市化の重要指標を分析した。これによると、同期間に中国の実質GDPは約4.3倍に、都市部市街地面積は約2.8倍に膨らんだ。しかし、DID人口は僅か20%しか増加しなかった。周牧之氏は「土地の都市化のスピードが人口の都市化のそれをはるかに上回っていた」と説明した。

 またこの期間中、中国の1人当たり実質GDPは約3.9倍となった。GDP単位当たりのエネルギー消費量は40%減少し、GDP単位当たりのCO2排出量は30%減少した。しかし1人当たりのエネルギー消費量が大幅に増加し、1人当たりの電力消費量は4.3倍になった。その結果、CO2排出量が約3.1倍に激増し、中国は世界最大のCO2排出国になった。周牧之氏は「中国は経済発展と都市建設のクオリティを高める必要がある」と指摘した。

北京 VS 東京


 中国都市総合発展指標のもう1つの特徴は、都市の国際比較を可能としたことにある。

 報告書は人口、GDP、CO2排出量、PM2.5など指標について、東アジア2大都市圏である北京都市圏(北京)と東京都市圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)を比較分析した。それによると、北京市の面積は、東京都市圏の約1.2倍であるが、常住人口とDID人口はいずれも東京都市圏の約60%に留まる。北京のGDP規模は東京都市圏の3割程度で、1人当たりGDPも半分前後となっている。しかし北京のGDP当たりエネルギー消費量は東京都の7.4倍で、単位当たりGDPのCO2排出量は東京都市圏の4.7倍となっている。その結果、人口とGDPの規模で東京都市圏を大きく下回る北京だが、CO2排出量はその1.2倍となった。

 周牧之氏は「東京都市圏と比べると、北京は都市圏発展戦略の実施を通じ、DID空間構造、経済構造、ライフスタイルを改善し、資源効率を高めるべきである」と話した。

都市を理解するフレームワーク


 上海浦東新区管理委員会で初の主任を務めた趙啓正中国国務院新聞弁公室元主任はフォーラムへメッセージを寄せた。「報告書は都市を理解する新たな理念とフレームワークを提供した。これは中国の市長にとって極めて役立つ参考書だ」と評価した。

 趙啓正氏はまたメッセージの中で、人の健康を多くの重要指標で測るのと同じように、都市という「大きな体」も指標で測るべきだとした。

 趙啓正氏はまた、「今日の中国都市建設は、中国都市総合発展指標が提供する理念、合理性と総合性の枠組みを必要としている。これは時代の要請だ」と述べた。

都市のハイクオリティ発展を促す指標へ


 中国都市総合発展指標専門家委員会の首席専門家、中国共産党中央財経領導小組弁公室元副主任の楊偉民氏がフォーラムに出席し、基調講演した。楊偉民氏は、環境・社会・経済という3つの軸から都市の発展を評価する同指標を、中国都市の健康状況を見極める総合的な「健診報告」にたとえ、「どの都市が比較的健康で、どの都市がどういった問題を抱えているかが分かる。その意味では指標は、都市の進むべきディレクションを示した」と述べた。

 楊偉民氏は、中国におけるハイクオリティ発展を論じた上で、ハイクオリティ発展を目指した都市間の競争を促す指標が必要とされ、中国都市総合発展指標はすでにこうした機能を備えている」と述べた。楊氏はさらに、同指標を中国都市のハイクオリティな発展を検証する指標体系として明確に位置付けなければならないとし、中国国家発展改革委員会発展戦略和計画司に、そのことを上級指導機関へ報告すると同時に、各都市へも中国都市総合発展指標を推薦すると指示した。

「楽譜」の特徴と今後の展開


 周其仁北京大学教授は、中国都市総合発展指標を都市発展の「楽譜」にたとえ、各都市の市長らはこの「楽譜」を読み込む力を高めることが大切だと指摘した。

 中国統計局元局長の邱暁華氏は、同指標を中国都市発展の羅針盤、年鑑、成績表そして診断表でもあるとし、指標の製作と発表を続けていくことの意義を強調した。

 中国国土資源部(省)元副部長の胡存智氏は、「3×3×3構造」に着目し、指標体系の簡潔さを評価した。また同指標のデータの中で、衛星リモートセンシングデータやビッグデータを取り入れたことの意義を力説した。

 中国国家戦略新興産業発展委員会秘書長の杜平氏も、中国都市総合発展指標を指標構造、データ選定、指標開発、国際比較など4つの特徴から分析した。同指標を先見性と戦略性を持ち、ハイクオリティの発展を求める中国の都市にとって実用性の高い政策・計画ツールであると讃えた。

 さらに、中米グリーンファンド会長の徐林氏、中国科学院創新発展研究センター主任の穆栄平氏、人民出版社副社長の李春生氏、中国国家統計局社会科学技術文化産業司司長の張仲梁氏北京政治協商会議副秘書長の李昕氏らが、同指標の今後の展開について議論した。

 中国国家発展委員会発展戦略和計画司副司長の周南氏が司会を務め、各省庁関係者、都市問題専門家およびメディア関係者ら約50人がフォーラムに出席した。

【フォーラム】北京、上海、深圳がトップ3 中国都市総合発展指標2018が北京にて発表

 中国国家発展改革委員会発展計画司と雲河都市研究院が主催する「中国都市総合発展指標2018フォーラム」が2018年12月27日、北京市で開催された。会議では中国都市総合発展指標2018報告書が発表された。報告書は環境・社会・経済という3つの軸から、中国のすべての地級市以上の都市(298都市)を評価した。
 同報告書は中国国家発展改革委員会発展計画司と雲河都市研究院が共同作成。2016年の「メガロポリス発展戦略」、2017年の「中心都市発展戦略」というテーマに続き、2018年の報告書は「大都市圏発展戦略」に焦点を絞った。中国の大都市圏の発展の現状、直面している課題を整理し、論じた。

 


<中国都市総合発展指標2018> 都市ランキング発表


中国都市総合発展指標2018総合ランキング
中国都市総合発展指標2018総合ランキング

 報告書によると、〈中国都市総合発展指標2018〉総合ランキングでは、昨年同様、北京、上海、深圳がトップ3となった。4−10位は広州、天津、杭州、重慶、成都、南京、武漢となった。

中国都市総合発展指標2018環境ランキング
中国都市総合発展指標2018環境ランキング

 「環境」大項目のトップ3は、これも昨年同様に深圳、三亜、海口。4−10位は普洱、北京、アモイ、広州、上海、福州、重慶となった。北京はPM2.5の状況改善により順位を上げた。

中国都市総合発展指標2018社会ランキング
中国都市総合発展指標2018社会ランキング

 「社会」大項目のトップ3は、やはり昨年同様北京、上海、広州。4−10位は杭州、天津、重慶、成都、深圳、武漢、南京であった。

中国都市総合発展指標2018経済ランキング
中国都市総合発展指標2018経済ランキング

 「経済」大項目のトップ3も昨年同様で、上海、北京、深圳となった。4−10位は広州、天津、蘇州、成都、杭州、重慶、武漢であった。

 

各機能が高度に大都市に集中


 中国都市総合発展指標専門家委員長の周牧之東京経済大学教授は、報告書を発表するにあたり「各指標を総合的に見ると、中国では、各種機能が大都市に高度に集中する傾向があり、都市の二極化が非常に顕著だ」と指摘した。
 GDP規模で見ると、上位30都市が全国GDPに占める比率は42.5%となっている。メインボード上場企業数を見ると、上位30都市が全国に占める比率は69.7%で、うち上位3都市は全国の39.6%を占めている。製造業輻射力を見ると、上位30都市の貨物輸出が全国に占める比率は74.9%に達している。空港利便性を見ると、上位30都市の旅客取扱量は81.3%にのぼる。コンテナ港利便性を見ると、上位30都市のコンテナ取扱量は97.8%に達した。高等教育輻射力を見ると、上位30都市の“211大学”・“985大学”(中国トップ校)の数は全国の92.8%をも占めている。医療輻射力を見ると、上位30都市の“三甲病院”(トップ級病院)の数は全国の約50.2%にのぼる。

 

中国都市発展の質的向上のキーはDID


 報告書の大きな特色の一つは、「人口集中地区(DID)」という概念を導入し、中国都市発展の質を分析した。報告書は人口が1平方キロメートル当たり5000人以上の地区をDIDと定義し、DID人口と主要指標との相関関係を分析した。その結果、DID人口と都市発展の活力及び品質の間に、極めて高い関連性があることを確認した。
 周牧之氏は「中国では人口規模・密度が都市の環境及びインフラに及ぼす負荷を過度に強調しており、高密度人口が都市発展活力の重要な基礎であるとの認識に欠けている。中国は今後この誤った認識を正し、DIDの規模と質の向上を通じて都市の活力を高めるべきだ」と指摘した。

 

中国では人口の都市化より都市エリアの拡張が速い


 周牧之氏は「中国経済の真の大発展は21世紀以降に起きた。その大発展を促した2つの原動力は、WTO加盟後の国際貿易と都市化だ」と述べた。
 報告書は2000−16年の中国都市化の重要指標を分析した。分析によると、この期間に中国の実質GDPは約4.3倍に、都市部市街地面積は約2.8倍に膨らんだ。しかし、DID人口は僅か20%しか増加しなかった。周牧之氏は「土地の都市化のスピードが人口の都市化のそれをはるかに上回っていた」と説明した。
 またこの期間中、中国の一人当たり実質GDPが約3.9倍になった。GDP単位あたりのエネルギー消費量は40%減少し、GDP単位あたりのCO2排出量は30%減少した。しかし1人あたりのエネルギー消費量が大幅に増加し、1人あたりの電力消費量は4.3倍になった。その結果、CO2排出量が約3.1倍に激増し、中国は世界最大のCO2排出国になった。周牧之氏は「中国は経済発展と都市建設のクオリティを高める必要がある」と指摘した。

 

北京 VS 東京


 報告書は人口、GDP、CO2排出量、PM2.5など指標について、東アジア2大都市圏である北京都市圏(北京)と東京都市圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)を比較分析した。それによると、北京市の面積は東京都市圏の約1.2倍であるが、常住人口とDID人口はいずれも東京都市圏の約60%に留まる。北京のGDP規模は東京都市圏の3割程度で、1人あたりGDPも半分前後となっている。しかし北京のGDPあたりエネルギー消費量は東京都の7.4倍で、単位当たりGDPのCO2排出量は東京都市圏の4.7倍となっている。その結果、人口とGDPの規模で東京都市圏を大きく下回る北京だが、CO2排出量はその1.2倍となっている。
 周牧之氏は「東京都市圏と比べると、北京は都市圏発展戦略の実施を通じ、DID空間構造、経済構造、ライフスタイルを改善し、資源効率を高めるべきである」と話した。

 

中国の都市を理解する枠組み


 上海浦東新区管理委員会で初の主任を務めた中国国務院新聞弁公室元主任の趙啓正氏はフォーラムへのメッセージの中で、「報告書は都市を理解する新たな理念と枠組みを提供した。これは中国の市長にとって極めて役立つ参考書だ」と指摘した。
 趙啓正氏はまたメッセージの中で、人の健康を多くの重要指標で測るのと同じように、都市という「大きな体」も指標で測るべきだとした。
 趙啓正氏はまた、「今日の中国都市建設は、中国都市総合発展指標が提供する理念、合理性と総合性の枠組みを必要としている。これは時代の呼び声だ」と述べた。
 中国都市総合発展指標専門家委員会の首席専門家、中国共産党中央財経領導小組弁公室元副主任の楊偉民氏がフォーラムに出席した。楊偉民氏は、「報告書は環境・社会・経済という3つの軸から都市の発展を評価し、どの都市が比較的健康で、どの都市がどういった問題を抱えているかが分かる。その意味では指標は、都市の進むべきディレクションを示した」と述べた。
 北京大学教授の周其仁氏、中国国土資源部(省)元副部長の胡存智氏、中国統計局元局長の邱暁華氏中国国家戦略新興産業発展委員会秘書長の杜平氏中米グリーンファンド会長の徐林氏国家統計局社会科学技術文化産業司司長の張仲梁氏中国国家発展改革委員会発展計画司副司長の周南氏など、都市問題専門家及びメディア関係者50人以上がフォーラムに出席した。

 中国都市総合発展指標の2016年版と2017年版の日本語版は、すでに各々中国都市ランキングー中国都市総合発展指標中国都市ランキング2017―中心都市発展戦略のタイトルで、NTT出版から刊行された。


「中国網日本語版(チャイナネット)」2018年12月30日

【メインレポート】中心都市発展戦略

『環境・社会・経済 中国都市ランキング2017 〈中国都市総合発展指標〉』掲載

周牧之 東京経済大学教授

1. メガシティ時代


 1980年以降、世界で大都市の人口は爆発的に増大した。1980年から2015年の35年間で、世界の都市人口は、中国の人口に当たる12.7億人増えた。この間、人口が100万人以上増えた都市は世界で274にも上った。なかでも人口が250万人以上増えた都市は92に達し、500万人以上増えた都市は35となり、さらに1,000万人以上増えた都市は11もある(図1を参照)。

図1 都市人口が250万人以上増加した世界の都市(1980−2015年)
出典:国連経済社会局編『世界都市化予測2014(World Urbanization Prospects: The 2014 Revision)』および『世界人口予測2015改訂版(World Population Prospects: 2015 Revision)』より作成。

 注目すべきは、上記92都市における人口の増加分が5億人に達し、同時期、世界の都市人口増加数の約40%をも占めたことだ。こうした数字からうかがえるのは、世界が急激な大都市化、メガシティ化の時代に入ったということだ。

 大都市化、メガシティ化に火をつけたのはグローバリゼーションである。大都市は世界中から人材、企業、資金を引き寄せ、急激に膨張し、地域、国家ないしは世界経済を引っぱり、それを変貌させている。

 閉鎖的な産業構造で成り立つ伝統的な国民経済体制は、一般的には内包的なサプライチェーンを持って営まれていた。急激に進むグローバリゼーションは、このような局面を打ち崩した。

 グローバリゼーションを推し進める最大の原動力は情報革命である。情報革命とは、半導体技術とインターネット技術によって起爆した知識経済の発展を指す。

 情報技術の発展はIT産業を世界経済のリーディング産業に仕立てただけではなく、同時にIT技術はその他の領域にまで浸透し、学術専門領域間の、そして産業技術間の融合を促し、多くの産業を知識集約型のものに変貌させた。

 2001年から2016年までの15年間で、世界の実質GDPは1.5倍に拡大したのに対して、情報・通信サービス業の付加価値額[1]と知識・技術集約型産業[2]の付加価値額はそれぞれ2.1倍と2.3倍に拡大した。IT産業と知識集約型産業が世界経済を牽引していることが見て取れる。

 さらに情報革命は、国民経済の中に閉じこもっていたサプライチェーン、技術チェーン、資金チェーンをグローバル的に再構築した。輸送革命は、こうした生産活動の地理的な再構築を可能にした。

 輸送革命とは、大型ジェット機に代表される高速航空輸送システムと、大型コンテナ船に代表される大規模海運システムの発展を指す。輸送革命は、国際間における人的往来と物流の利便性およびスピードを高めただけでなく、そのコストも大幅に低下させ、グローバリゼーションを促す一大原動力となった。

 1980年から2016年まで世界の実質GDPは6.8倍となった。同時期に世界の港湾コンテナ取扱量[3]は18.9倍に拡大し(図2、図3、図4を参照)、世界の国際旅客数も4.4倍となった。国際間における人的往来や物流の急激な拡大は、世界経済の発展を促した。

図2 各主要国コンテナ取扱量(2016年)
出典:世界銀行(World Bank Open Data)、国際港湾協会(IAPH)『国際コンテナ年鑑(Containerisation International Yearbook)』、国連貿易開発会議(UNCTAD)『世界海運報告(Review of Maritime Transport)』および『Lloyd’s List & Containerisation International(CI-Online)』より作成。
図3 コンテナ取扱量トップ20カ国・地域(2016年) 図4 コンテナ取扱量純増トップ20カ国・地域(1980-2016年)
出典:世界銀行(World Bank Open Data)、国際港湾協会(IAPH)『国際コンテナ年鑑(Containerisation International Yearbook)』、国連貿易開発会議(UNCTAD)『世界海運報告(Review of Maritime Transport)』および『Lloyd’s List & Containerisation International(CI-Online)』より作成。

 1980年代以降、情報革命と輸送革命は凄まじい勢いで産業活動のグローバルな展開を推し進めた。

 学問領域、業界領域そして国境を超えた産業活動の再構築は、イノベーションと創業などの形で行われている。これにより新興産業、新興企業は猛烈に成長し、1980年代以降の世界経済の繁栄を主導した。こうしたなかで旧来型の国民経済は崩れ始めている。交流交易をベースにした経済活動の再構築は、世界経済を急激に変貌させている。大都市は交易交流経済のハブとなって世界経済の新しい主体として台頭してきた。

 もちろん、交易交流経済を推進する関連制度の確立と変革も、グローバリゼーションを後押ししている。もし1995年の世界貿易機関(WTO)設立以前の国際貿易体系を、グローバリゼーションの1.0バージョンとするなら、WTOの時代はグローバリゼーション2.0だと言えよう。

 WTOは交易交流経済を積極的に押し進め、中国の発展に大きく貢献した。中国は2001年にWTOに加盟したことを契機に、一躍「世界の工場」に、そして世界で最大の貿易国となり、中国の沿海都市も爆発的発展を見せた。

 オバマ政権時代のアメリカは環太平洋パートナーシップ協定(Trans-Pacific Partnership Agreement:TPP)を推進した。TPPはWTOと比べ、知的所有権の強化とサービス業、そして金融業の開放をさらに重視し、ISDS条項をもって企業権益保護を図ることを特徴とする。その意味ではグローバリゼーション2.1と言えよう。オバマ政権はTPPを通して、アメリカの知識産業、サービス業、金融業などの領域で優位性を強化しようと目論んだ。

 日本も目下、工業製品輸出大国から投資大国、知的所有権輸出大国へと転換をはかろうとしている。また、実際にこれらの領域で、すでに大きな収益を上げている。日米両国はこの点、利益が一致しており、TPPの提唱者となった。

 グローバリゼーション2.0時代、とりわけ中国がWTOに加盟してから、工業生産メカニズムと分布の世界的なパラダイムシフトが起こった。そうした中で、アメリカの産業資本はより高い利益を得たものの、国内の伝統的な工業地帯は工場倒産や労働者の失業など厳しい状況に陥った。グローバリゼーション2.0はアメリカを受益者と被害者という二つの集団に分け、その分裂を引き起こした。都市の角度から見ると、前者は沿海部の大都市に集中し、後者の大半はさびれた古い工業地帯と内陸部の中小都市に集中している。2016年のアメリカ大統領選挙で、民主党のヒラリー・クリントン候補を支持したのは前者であり、これに対して、共和党のドナルド・トランプ候補を支持したのは後者であった。

 2016年のアメリカ大統領選挙は、グローバリゼーション2.0の受益者と被害者との間の、言い換えれば、沿海大都市と内陸部中小都市の間の政治経済的利益の争奪戦であったと言っても過言ではない。これは、トランプ氏がいくら醜聞や失言を繰り返しても、その支持基盤が揺らがなかった原因でもある。グローバリゼーションによるパラダイムシフトや大都市のストロー効果で、古い工業地帯や内陸部中小都市および農村地域が資本、人材そして活力を吸い取られ苦しめられて久しい。それらの地域で蓄積された不満の大爆発がトランプ氏の勝利につながった。

 2016年には、もう一つ世界を驚かせる出来事があった。それはイギリスが6月23日に行った国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を決めたことである。この投票もまたメガシティのロンドンと地方中小都市との対峙が背景にあった。結果、「EU残留」派の大ロンドン地区は、「脱EU」派として不満をぶつけた広大な中小都市および農村地域に敗れた。

 2017年1月23日、トランプ氏がアメリカ大統領となった当日に発令したのが、アメリカのTPP正式離脱であった。トランプ氏は関税と貿易障壁に焦点を当てるTPPを退け、法人税率を大幅に下げてグローバリゼーションを一気に3.0にバージョンアップさせた[4]。これによってアメリカは再び産業資本の新天地となり、事業のアメリカ回帰の流れが出来上がった。

 トランプ大統領は関税と貿易障壁を限りなく低くすることも忘れなかった。このために中国との貿易戦争をも辞さない姿勢を見せている。さらに、国内法人税まで下げることにより、企業が産業活動をより展開しやすくする環境作りに向けて、国際競争をしかけた。企業家出身のトランプ大統領は恐らく、企業活動にとってより低い関税と貿易障壁、より低い国内法人税率、そしてより少ない政府関与を目指しているのであろう。「アメリカ第一」を叫ぶトランプ大統領が結果的にグローバリゼーションを深化させ、加速させたことは、いかにも面白い現象である。

 グローバリゼーションはこれからも失速することなく、さらに加速していくであろう。

 猛烈に進展する交流交易は、大都市化とメガシティ化を促す。巨大都市は世界中から人口、企業、資金を大量に吸い上げると同時に、各国内部の社会経済構造の変革をも誘発する。大都市は世界変革の主役として膨張し続けていく。

 大都市の膨張には、以下の要因が考えられる。

(1)交流交易経済における優位性

 航空、海運、インターネットに代表される人的、物流、情報、金融などグローバルネットワークが高速化し拡大する中で、世界にまたがるサプライチェーンの構築がますます活発化してきた。交流交易経済には港を持つ沿海都市と、行政中心都市が優位である。

 世界史を振り返ると、まず大航海が臨海都市の発展を始動した。その後、そもそも海運の基礎の上で成り立った産業革命は、原材料生産、工業製品生産、そして販売などのプロセスを世界に分担させた。それによって、大陸経済の主導的地位はくつがえされ、産業と人口の臨海港湾都市への集中を引き起こした。数多くの臨海都市は貿易港や工業港を基礎に、すさまじい発展を遂げた。ニューヨーク、ロンドン、東京は、これらの典型である。1980年代以来のグローバリゼーションはさらに人材、企業、情報、資金を臨海都市へと集約させ、たくさんの都市を膨張させた。

 もちろん、今日の臨海大都市の「港」は、もはや狭義の海運港のみを指すものではなくなった。例えばロンドンやサンフランシスコなど先進国の臨海都市は、港湾機能のすでに半分以上を失っている。しかしながら港町としての開放性と寛容性とで、これらの都市はグローバル時代における経済、情報、科学技術、文化芸術の「交流港」として成功を収め、交流交易経済発展の新しいモデルを立ち上げている。こうしたことから見てとれるのは、開放性と寛容性こそが、交流交易経済発展の最も根本的な条件であるということだろう。

 この点では、臨海都市と同じように、首都に代表される行政中心都市の巨大化の要因も、国家あるいは地域の政治経済文化センターが持つ開放性と寛容性にある。そして行政中心都市の巨大化のもう一つの原因は、政治、経済、文化、交通、情報などのセンター機能が持つ威力である。

 世界に29ある人口1,000万人以上のメガシティの分布を見ると、うち19都市が沿海都市であり、8都市が内陸部に立地する首都であり、2都市が内陸部の地域中心都市である。これはまさしく上記の分析に合致する。

(2)大都市の吸引力の拡大

 いわゆるストロー効果とは都市が外部から人口、企業、資金などを吸い取る現象を指す。人的交流、物流、情報、金融などのネットワークが加速かつ拡大するなか、ネットワーク中枢都市のパワーは絶え間なく増強されることで起こる。ますますパワーアップする中枢機能は、大都市の吸引力を強化し、巨大なストロー効果をもたらす。

 大都市の吸引力拡大のもう一つの原因は、知識経済とサービス経済の属性によるものである。1980年以降、急激に発展した知識経済とサービス経済は、寛容性と多様性のある社会環境と、一定の人口規模、人口密度を必要とした。これが中心都市と沿海都市が、知識経済とサービス経済の発展を主導する所以である。経済発展はこれら都市に人口をさらに呼び寄せ、その規模と密度をますます上げる良い循環を生む。

 知識経済とサービス経済は巨大なエンジンとなって、急速な大都市化、メガシティ化を推し進めている。

(3)都市積載力の向上

 インフラ整備水準とマネジメント能力アップにより、都市は人口とその密度に対する積載力を向上させてきた。東京大都市圏を例にすると、1950年前後に1,000万人口を超えた同大都市圏は、環境汚染、交通渋滞、住宅逼迫、インフラ不足などの大都市病にあえぎ、厳しい「過密」問題に見舞われていた。これを受けて政府は人口と産業の東京への集中と集約を阻止する一連の政策措置を講じ、一度は遷都さえ企図されるに至った。しかしその後、インフラ水準とマネジメント能力の向上により、都市の積載力が大幅に改善され、今では東京大都市圏の人口規模は3,800万人に達したものの、「大都市病」はおおむね解消されている。

 この東京にみられるような都市積載力の向上が、世界各国においても巨大都市の一層の膨張を可能にした。

 本レポートでは上記の大都市を膨張させた三大要因を踏まえ、世界最大規模の大都市圏たる東京都市圏を事例に、多様なセンター機能が集まる中心都市が、いかなるプロセスを経て、膨張し、そして大規模高密度都市社会を成功裏に構築できたかを検証してみる。

 

2. 東京大都市圏の経験


 東京大都市圏は東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県の一都三県から構成される。13,562 km2の土地に、東京、横浜、川崎、さいたまの4つの100万人口を超える大都市と数多くの中小都市が密集している[5]。東京大都市圏は世界で最も早くメガシティとなった都市圏の一つで、今日その人口規模は3,800万人に達し、世界で最大の都市圏となった(図5を参照)。東京大都市圏は国土面積の3.6%で日本のGDPの32.3%を稼ぎ出し、政府機関、文化施設、企業本社、金融機関が集中して立地する名実共に日本の政治経済文化の中心である。それだけにとどまらず、東京は世界に名だたる国際都市でもあり、『世界の都市総合ランキング』[6]ではロンドン、ニューヨークに次ぐ第3位のグローバルシティとなっている。

 本レポートでは雲河都市研究院の〈アジア都市総合発展指標2017〉の研究から、東京大都市圏の成功経験は以下の4つの特徴にまとめられる。

図5 東京大都市圏DID分析図
出典:雲河都市研究院「アジア都市総合発展指標2017」より作成。以下、図12まで同様。
注:〈中国都市発展指標2016〉では、日本のDID基準を用い、4,000人/k㎡以上の連なった地区をDIDとして中日両国でDID比較分析を行った。〈中国都市総合発展指標2017〉では、OECD基準を使用し、5,000人/k㎡以上の地区をDIDと定義している。本書では、この新しい基準を用い、中国、日本、および世界の地域を対象にDID分析を行っている。

(1)多様なセンター機能の相互補完

 東京大都市圏は、最も多様なセンター機能を持つグローバルシティである。

 政治行政面では、東京には皇居、国会議事堂、および各中央省庁が高度に集中している。

 大手町、丸の内などの地区には、さらに企業の本社機能が高密度で集積し、58.2%の日本上場企業の本店が、東京大都市圏に立地している。

 同大都市圏はまた、京浜、京葉に代表される世界最大級の臨海工業地帯を持ち、その周辺にすさまじい数の部品企業が林立している。図6が示すように、京浜工業地帯のある神奈川県の貨物輸出額は全国第4位で、京葉工業地帯のある千葉県は同第5位、東京は同第16位となっている。日本の製造業輸出に占める東京大都市圏の割合は29.5%に達し、全国の3分の1弱に当たる。


図6 貨物輸出額広域分析図

 金融センターとしては、東京は日本最大の証券取引所があるだけでなく、金融機関本社機能の大集積地でもある。図7が示すように、金融業輻射力の分析では、47都道府県[6]の中で東京の輻射力があまりにも強いことから、東京以外の地域の同輻射力偏差値指数は全部50(平均値)以下になった。日本の金融機能は極めて高度に東京に集中している。

図7 金融業輻射力広域分析図

 東京大都市圏には、225の大学があり、図8が示すように、47都道府県の中で、大学生数は東京がダントツで第1位、神奈川、埼玉、千葉の3県がそれぞれ第3位、第6位、第9位となっている。その結果、東京大都市圏の大学の教員数と学生数は、それぞれ全国の35.2%、40.8%を占めている。

図8 大学生数広域分析図

 科学技術輻射力を見ると、図9が示すように、東京大都市圏はこれも独り勝ちである。47都道府県で科学技術輻射力指数が偏差値の平均値以上である5カ所のうち、2カ所が同大都市圏にあり、それは東京都と神奈川県である。東京大都市圏には日本の59.8%の研究開発経費と68.7%の研究開発要員が集中し、60.6%の特許を作り出している。

図9 科学技術輻射力広域分析図

 日本は戦後、一貫して「製造業立国」を旗印にしてきた。しかし近年、「観光立国」を国策として推進し、海外旅行客数が上昇しつづけている[7]。急速に増大する外国人旅行客が、東京大都市圏に集中して来訪する現象が露わになっている。図10が示すように、47都道府県の中で10カ所が海外からの宿泊客数偏差値指数が平均値以上となっている、東京の一人勝ちだけではなく、千葉、神奈川両県も第6位と第9位となっている。全国の外国人宿泊者数に占める東京大都市圏の割合は35.6%にも上る。

図10 海外からの宿泊者数広域分析図

 IT産業は交流交易経済の代表格である。海外との盛んな交流で世界都市になった東京は、IT産業を花開かせた。図11は、東京都が強大なIT産業輻射力を持つことを示している。47都道府県でわずか3つの地域が、IT産業輻射力偏差値指数を平均値以上とした。偏差値の高さは東京が際立っている。東京大都市圏では神奈川県のIT産業輻射力も平均値以上で、第3位となった。IT産業は情報社会時代における東京大都市圏の発展を牽引している。

図11 IT産業輻射力広域分析図

 強力な交通中枢機能、多様なセンター機能を持ち、次々と生まれる新産業が強い牽引力となり、東京大都市圏は常に日本の発展センターと位置付けられてきた。図12が示すように47都道府県のGDP偏差値で見ると、12地域が平均値以上となっている。東京都の偏差値が他地域を大きく引き離すと同時に、神奈川、埼玉、千葉の3県も、それぞれ第4位、第5位、第6位となった。東京大都市圏は全国GDPの3分の1を稼ぎ出している。

図12 GDP広域分析図

(2)東京湾の役割

 港湾条件に秀でた東京湾は戦後、東京大都市圏の大発展に大きく作用した。

 第二次世界大戦後、平和な国際環境を利用し、日本は国際資源と国際市場を前提とした臨海工業を推進した。とりわけ東京湾の両翼に京浜、京葉の両大型臨海工業地帯を作ったことが功を奏した。

 原油、鉄鉱石など廉価で良質な世界資源を利用し、世界市場に大規模な輸出攻勢をかけた京浜、京葉の両工業地帯は、臨海型工業のメリットを極限まで発揮させた。東京湾は、一躍世界で最大規模を誇る新鋭輸出工業基地となり、戦後日本の経済復興と高度経済成長を牽引し、日本を世界第2位の経済大国へと押し上げた。

 今日、東京大都市圏の経済主体はすでにサービス業や知識産業に移っているものの、東京湾エリアの貨物輸出量[8]は依然として日本全国の30%近くを占めている。

 輸出工業の急速発展は都市化を起爆し、ベイエリアおよびその後背地では人口が急激に膨張し、東京、横浜、川﨑、さいたまなど100万人を超える大都市がコアとなって東京大都市圏の形成を促した。

 注目に値するのは、ベイエリアの港湾群が臨海工業地帯の発展を支えただけでなく、世界から大量のエネルギー、生活物資、そして食料品を輸入し、膨張し続ける大都市圏の人口規模、そして人々の生活レベル向上のニーズに応えた点である。

 現在、東京湾の貨物輸入量[9]は全国の40%を占めている。臨海型大都市圏に人口を集積させることで、日本は世界資源を効率的かつ存分に利用することができた。

 東京湾における大規模な埋め立て地は、東京大都市圏の空間発展の重要な特徴の一つである。1868年以来、合わせて252.9 km2の埋め立て地が作られ、その大半が戦後に行われた。

 埋め立て地は、大型臨海工業地帯を形作っただけでなく、港湾、空港など交通ハブの建設や、中心業務地区(CBD:central business district)、国際会議場、海浜公園、大型モール、住宅などの大規模開発に、広大な空間を与えた。2020年の東京オリンピック関連施設の多くも、東京湾埋め立て地に建設される。

 図5-13が示したように、埋め立て地は、工業経済からサービス経済、そして知識経済まで、それぞれの時代の要請に応え、新たな都市空間の展開を可能にした。東京大都市圏の空間上の大きな特徴の一つは、埋め立て地にこうした展開を求めたことである。

図13 東京湾臨海部土地利用分布と大型施設の集客状況
出典:(一財)日本開発構想研究所の研究に基づき、雲河都市研究院が最新データをアップデートした。

(3)広域インフラ整備によるセンター機能の拡大

 他の都市ないしは世界につながる港、空港、新幹線、高速道路など広域インフラ設備は、東京のセンター機能効果を高めた。

 戦後、日本は広域インフラ整備の推進を通して、飛躍的成長を実現させた。1964年の東京オリンピックをきっかけに、日本は広域インフラ整備を加速させた。

 新幹線を例にすると、この高速旅客専用鉄道のコンセプトは日本が発明したものである。過去、世界各国の旅客列車は貨物列車も通る同一線路の上を走っていた。ゆえにスピードには限界があった。1964年、東京オリンピック開催前夜、日本は世界初の新幹線を開通させた。東京から名古屋、大阪までの三大都市圏を貫く新幹線は、大小都市を緊密に結び、太平洋メガロポリス(東海道メガロポリスとも言う)を形作った。

 特に注目に値するのは、太平洋メガロポリスの三大都市圏を連結する高速大動脈が、まず新幹線であったことである。三大都市圏を貫く高速道路は、東京オリンピック開催5年後の1969年にようやく開通した。これに対して、ボストン、ニューヨーク、フィラデルフィア、ボルチモア、ワシントンD.C.からなるアメリカ北東部大西洋沿岸メガロポリスはいまだに高速道路に依存している。

 オリンピック後も広域インフラ整備はさらに続いた。1965年には日本全国の高速道路はわずか190 kmで、新幹線も515 kmしかなかった。2,000 m以上の滑走路を持つ空港はたった5つに過ぎなかった。それに対して今日では、高速道路と新幹線はそれぞれ10,492 kmと2,624 kmに達した。2,000 m以上の滑走路を持つ空港は全国66カ所に増えた。

 こうした大規模な広域インフラ整備は、日本国土を高速で便利なネットワークで結んだ。その結果、東京のセンター機能は一層強化された。

 再び新幹線を例にとると、東京駅、東京都内の新幹線駅(3駅)、および東京大都市圏内(7駅)での乗降客数は、全国新幹線乗降客総数に占める割合が各々24.2%、30.5%、39%に達している。つまり、全国新幹線乗降客数の8割近くが、東京大都市圏とその他都市とを往来する客で占められている。これは新幹線の最も重要な役割が、東京大都市圏とその他の都市との往来であることを意味する。言い換えれば、新幹線は地方都市の人々が東京のセンター機能を利用するにあたり大きな利便性を提供している。

 新幹線が航空輸送と最も異なることは、各都市の中心部を直接つないでいる点にある。これは大変に重視すべき特徴である。東京駅を例にすると、5路線の新幹線に毎日平均17.5万人が乗り降りしている。東京駅をつなぐ15路線の電車や地下鉄を、毎日平均83.2万人もの乗降客が利用している。

 このような新幹線と都市鉄道のスムーズな連結が東京と地方の移動の利便性をさらに高め、両者の人的往来を促した。結果、当然、東京のセンター機能が強化され、人口と経済とがなお一層東京に集中した。

 新幹線開通の翌年1965年には、東京大都市圏の人口は2,102万人になり、当時、全国の人口とGDPに占める割合はそれぞれ21.2%、28%となった。半世紀後の2015年、東京大都市圏の人口は3,800万人に達し、全国の人口とGDPに占める割合は、29.9%と32.3%に達した。1972年に田中角栄首相が提唱した「列島改造論」に代表されるように、日本政府は数十年来、国を挙げて地方経済を盛り立て、人口と経済の東京集中阻止を図ろうとした。にもかかわらず、結果として、東京の一極集中現象はますます進んだ。新幹線の影響もそのことの一因だったと思われる。

 新幹線に続いて、日本は目下、東京と名古屋そして近畿三大都市圏をつなぐリニア中央新幹線を建設している[10]。時速500 kmの超高速大動脈は日本のメガロポリスを時空上でさらに緊密に結び、世界の人材、資金、企業にとって、より魅力的な空間が形成される。超高速大動脈は、東京大都市圏の巨大なセンター機能を一層強化するであろう。

(4)高密度発展の成功

 密度は、都市問題を議論する際の重要な焦点の一つである。本レポートでは、5,000人/ km2以上の地域をDID(Densely Inhabited District:人口集中地区)と定義し、人口密度に関する有効な分析を試みた。

 雲河都市研究院の研究によると現在、東京都のDID人口比率は87.3%に達し、東京大都市圏のDID人口比率も58.8%に至っている。それは、同都市圏の大半の住民が人口密集地で生活していることを意味する。

 さらに全国と東京大都市圏の人口比率から見ると、日本全人口の29.9%が東京大都市圏に住んでいることに対して、全国DID人口の55.2%が同大都市圏にいる。両者の間の差は25.3%ポイントもある。要するに同大都市圏においてDID率は全国平均をはるかに上回り、2,336万人のDID人口を抱えている。 

 本レポートは日本各都道府県のDID人口規模と第三次産業付加価値額、R&D内経費支出との相関関係について分析した[11]。結果は、DID人口規模と第三次産業付加価値額との相関係数は0.92と「完全な相関」にあり、DID人口規模とサービス経済との間には、極めて強い相関関係が認められた。また、DID人口規模とR&D内経費支出との相関係数も0.8と高まり、DID人口規模と知識経済との間も「非常に強い相関」関係が確認された。

 まさに膨大なDID人口が東京大都市圏のサービス産業と知識経済産業の発展を支えた。結果、同都市圏には日本の58.2%の上場企業が集中し、60.6%の特許申請受理数を誇っている。

 良質なDIDは、現代経済発展の根本である。図5-14が示すように、日本のDIDは東京、名古屋、近畿の三大都市圏に高度に集中している。三大都市圏で構成される太平洋メガロポリスは、全国の86.3%のDID人口と83.8%のDID面積を持ち、GDPの63.7%を稼ぎ出している。

 現在、日本のDID面積は、すでに3,761 km2に達し、国土面積の10%に当たる。DID人口も4,229万人に上り、全人口の33.3%を占める。なかでも東京大都市圏は日本のDID人口の半分以上を有している。

 以上の分析からわかるように、半数以上のDID人口が各種センター機能が集中する東京大都市圏で暮らしていることが日本経済の強みである。

 しかし、中国では都市の人口密度に関するネガティブな認識が根強い。高い人口密度が交通渋滞を招き、環境汚染を引き起こし、生活の不便をもたらす大都市病の原因だと考えられている。近年、北京などでは一部の地方から来た低所得者を強制的に追い出す動きに出て、物議を醸した。実際は、インフラ整備水準の貧弱さや都市マネジメント能力の欠如こそ、こうした都市病の元凶である。

 他方、大規模なDID人口は、サービス経済と知識経済に不可欠な土壌である。一定の人口規模と人口密度がなければ、数多くの新しい産業は生まれないからだ。

 東京大都市圏の経験はマネジメント能力の向上とインフラの充実とで、都市の積載力を高められることを実証した。こうした経験に真摯に向き合い、中国の為政者は、人口密度に関するネガティブな考えを改めるべきである。

図14 全国DID分析図
出典:雲河都市研究院「アジア都市総合発展指標2017」より作成。

[1] NSF(National Science Fundation)のデータによる。

[2] NSFのデータによる。OECDの分類定義では知識・技術集約型産業は、知識集約型サービス、ハイテクノロジー産業、ミディアムハイテクノロジー産業が含まれる。知識集約型サービスには教育、医療・福祉、ビジネス、金融、情報・通信サービス業が含まれる。ハイテクノロジー産業には航空宇宙、通信機器、半導体、コンピューター関連機器、医薬品、精密機器産業が含まれる。ミディアムハイテクノロジー産業には自動車、機械、電気機器、化学、輸送機器産業が含まれる。

[3] コンテナ取扱量は国際標準規格(ISO規格)20ftコンテナ=1TEU, 40ftコンテナ=2TEUで計算した。

[4] 2017年末、アメリカ国会は税制改革法案を採択し、法人税率を35%から21%に下げた。

[5] 特に註釈のない限り、本章が引用するデータは雲河都市研究院の〈アジア都市総合発展指標2017〉によるものである。

[6] 森記念財団都市戦略研究所『世界の都市総合ランキング Global Power City Index YEARBOOK 2017』。

[7] 日本の行政は中央、都道府県と市町村の3階層に分かれている。全国は1都、1道、2府、43県で、合わせて47都道府県で構成されている。

[8] 2003年、日本は国として初めて「観光立国宣言」をした。2007年、「観光基本法」を全面改正し、「観光立国推進基本法」が制定された。さらに、2008年、その推進を担う「観光庁」が、国土交通省の外局として新設された。

[9] 貨物輸出量は金額ベース。

[10] 貨物輸入量は金額ベース。

[11] リニア中央新幹線は2027年に東京—名古屋間、2037年には名古屋—大阪間が開設される予定である。

[12] 相関分析は、2つの要素の相互関連性の強弱を分析する手法である。「正」の相関係数は0—1の間で、係数が1に近いほど2つの要素の間の関連性が強い。なかでも0.9—1の間は「完全な相関」、0.8—0.9は「非常に強い相関」、0.6—0.8は「強い相関」とする。


『環境・社会・経済 中国都市ランキング2017 中心都市発展戦略』
中国国家発展改革委員会発展計画司 / 雲河都市研究院 著
周牧之/陳亜軍/徐林 編著
発売日:2018.12.21


【書評】全295都市を精査 データ、図解で活況提示

評者 高橋克秀(国学院大学教授)

 中国のおよそ300の都市を独自の「都市総合発展指標」によってランキングし、上位都市の強みと弱みを分析したリポートである。それぞれの都市を環境、社会、経済など27項目のデータから客観的に評価した点に特徴がある。

 総合ランキング1位は北京市。上海市は僅差の2位となった。北京と上海は別格として、3位に食い込んだのは、いま中国で最も勢いがある新興都市である。長い歴史を誇る広州市と天津市を抑えて、深圳市が堂々の上位に進出した。人口3万人の漁村だった深圳は40年足らずで1000万人都市となり、中国のシリコンバレーに変貌した。

 1980年に経済特区に指定された当初は安価で豊富な労働力を利用した輸出加工拠点として成長し、「世界の工場」のモデルとなった。しかし近年はイノベーション都市に進化した。深圳からはテンセント、ZT E、ドローンのDJI、電気自動車のBYDなど世界的企業が生まれている。

 深圳の強みは若さと起業家精神だ。平均年齢は32.5歳。15歳未満人口は13.4%。生産年齢人口である15歳以上65歳未満が83.2%を占め、65歳以上は3.4%にすぎない。起業マインドが旺盛で、1人当たりの新規登録企業数は北京の3倍だ。

 さらに、広州から深圳を経由して香港に至る広深港高速鉄道が今年9月に全線開通したことで、「珠江デルタ」と呼ばれるこの地域が巨大な経済圏として浮上してきた。東莞、仏山、中山など有力都市も含む珠江デルタの域内GDP(国内総生産)は2025年までに310兆円に達するという試算もある。

 上海の西部に位置する6位の蘇州市は風光明媚な観光地のイメージが強かったが、90年代以降は大規模な工業団地を造成して外資系製造業を造成して外資系積極的に呼び込んで急成長した。しかし、古都の風情は失われた。7位の杭州市も古くから栄えた景勝地だが、99年に設立されたアリババ(中国の情報技術企業)がけん引役となってIT都市へと変貌した。

 一方、8位の重慶市は世界最大級の3000万人の人口を擁しながら人口流出が目立つ。ランキング20位入りした都市は西部沿海部と内陸の拠点都市が大半。東北地方からは大連市が19位に入っただけである。

 現代中国の都市間競争のカギはスタートアップ企業の活力とイノベーションのようだ。本書の残念な点は21位以下のランキング表が載っていないことである。地方都市の情報を盛り込んだ改訂版を期待したい。


【掲載】週刊エコノミスト 2018年10月16日号