【シンポジウム】岩本敏男:ビッグイノベーションIOWN計画でGXをリード

岩本 敏男 NTTデータグループ元社長

■ 編集ノート:東京経済大学は2024年11月30日、国際シンポジウム「グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来」を開催した。福川伸次元通商産業事務次官、鑓水洋環境事務次官、岡本英男東京経済大学学長、楊偉民中国第十三回全国政治協商会議経済委員会副主任、中井徳太郎元環境事務次官、南川秀樹元環境事務次官、邱暁華中国統計局元局長、徐林中米グリーンファンド会長、田中琢二IMF元日本代表理事、周其仁北京大学教授、索継栓中国科学院ホールディングス元会長、岩本敏男NTTデータグループ元社長、石見浩一エレコム社長、小手川大助IMF元日本代表理事、周牧之東京経済大学教授、尾崎寛直東京経済大学教授をはじめ産学官のオピニオンリーダー16人が登壇し、日中両国のGX政策そしてイノベーションへの努力などについて議論し、未来に向けた提言を行った。岩本敏男氏はセッション2「GXが拓くイノベーションインパクト」のパネリストを務めた。


周牧之・索継栓・岩本敏男・石見浩一・小手川大助:東京経済大学国際シンポジウム「グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来」セッション2「GXが拓くイノベーションインパクト」

■ センシング技術で世界をカバーするデジタル3D地図


 岩本敏男:NTTデータグループの岩本と申します。今日は、周先生の司会で、小手川さんにコメントをお願いし、石見さん共々このパネルに参加できることを大変光栄に思っています。よろしくお願いします。私は画面を使いながらお話ししますので、画面を見ていただければと思います。NTTデータグループといっても案外ご存知ではない方もおられるので、簡単にご紹介させてください。NTTデータの前身は電電公社の中に出来たコンピュータ開発部隊です。電電公社は1985年に民営化してNTTになり、私どもNTTデータはその3年後に最初に分離独立してできた企業です。

 NTTグループはこの2年ぐらいで大きく集約をしていて、一つはドコモとコミュニケーションズを中心としたグループ。もう一つは地域会社の東日本、西日本の国内通信を手掛けているグループです。そして、最後が私どものNTTデータグループです。つい最近は海外の事業を全てNTTデータグループが引き受けることになりまして、約4.4兆円の売り上げになっている。こういう企業グループになっています。

 私が社長を務めたのは2012年からでありますが、NTTデータは1988年、昭和63年が分離独立の年で、昨年まで35期ありますが一度も減収を経験していません。毎年増収に次ぐ増収で、先ほど申し上げたように2023年度で約4.4兆円です。2025年度が中期の最終年ですが5兆円近い売上まで達成する見込みです。海外の展開も、私が社長の時に思い切ってグローバル化にアクセスを踏みましたので、今ですと50カ国以上、従業員数は20万人に近い数です。日本の従業員が約44,000人なので、4倍くらいが海外、合わせて20万人ぐらい、こういう企業グループになっていると考えてください。

 今日テーマになっているグリーントランスフォーメーションも世界のいろいろなところで非常に重要なことになっています。私たちはITビジネスの観点から、この達成をお手伝いしています。

 一巡目のプレゼンテーションでは、グリーンとは直接は関係ないかもしれませんが、みなさんにお伝えしたいNTTデータグループが持っているイノベーションの例を二つ紹介します

NTTデータグループ売上高推移

 岩本:まず一つ目は、全世界デジタル3D地図の活用です。これはJAXAのだいち、ALOSという衛星を打ち上げそのデータをIT処理し、三次元のデータ地図を作っています。そこに書いてあるように様々な用途で使われます。もちろんセンシング技術が入っていますので、当然GXは大変重要な一つのファクターです。映像を見ながらご説明します。

 これはエベレストです。別に飛行機で撮ったわけではありません。先ほど申し上げた衛星から撮影したものを画像処理し、こうした形にしています。衛星にはいくつものセンサーを積んでありますので、高さ方向のデータも全部撮ることができます。かなり細かい形で立体地図ができます。使われているのはこうした自然災害のビフォー&アフターですとか、或いは鉄道を作る、或いは自動車道路を作るというようなインフラの造成にも役立っています。

 このシステムの分解能ですが、最初は5mでしたが、今は都市部ですと50cm分解能まで可能です。例えば無線通信のアンテナ設置を設計するとき、どのビルのどこに無線アンテナを置くと、5Gがうまく通信出来るかというようなことのシミュレーションに役立ちます。いま世界中125カ国に輸出していて非常に使っていただいています。

 GXでは山林の利用が大変重要です。よくテレビでブラジルのアマゾンの森林がすごいスピードで消滅していることが放映されますが、こうした衛星からの撮影データを画像処理することで、手に取るようにわかってくる事例もあります。

エレベスト3Dデータ

■ バチカン図書館の文化遺産をデジタルアーカイブ


 岩本:もう一つ、これは直接GXとは関係ないかもしれませんが、私自身も携わったのでご紹介したい話があります。バチカン図書館のデジタルアーカイブ・プロジェクトです。バチカン図書館、みなさんご存知だと思いますが、ここには羊皮紙、パピルス、和紙などに書かれたマニュスクリプト、手書きのものが貯蔵されています。手紙もありますし、絵もあります。日本からのものも沢山あります。オペラ発祥の地、イタリアにありますので、楽譜などもあります。そういったものも羊皮紙、パピルス、和紙などに書かれていますから、放っておくと壊れてしまうこともあります。デジタルアーカイブするプロジェクトですが、この下に書いた3行は、私が言ったことではなくバチカンの人が言ったことです。「これらのマニュスクリプトはバチカンのものではない。バチカンの宝ではなく、人類の遺産である。」これをデジタルアーカイブすると、インターネットで世界中の研究者の研究室に届けることができます。それまではローマやギリシャを勉強したい研究者は、バチカン図書館に来て手続きを経て実際に見ていくわけですが、その必要がない。

 私はローマに行って塩野七生さんともいろいろお話しをしましたが、彼女もここでいろいろな文献にあたった上で、ローマ人の物語、ギリシャ人の物語を書いているわけです。

 これがバチカン図書館の中の様子でありまして、私は何回も入っていますが素晴らしい美術館のようなところです。一般の人は入れませんが、私は仕事柄入ることができました。実はここにこういうものがあります。何だかお分かりですか?そんな大きなものではありませんが、和紙に金箔が張ってありました。金箔はかなり無くなっていましたが、ラテン語が書いてあり、右下に伊達陸奥守政宗と書いて花押が押してあります。

 2011年の大震災は大変でしたが、400年前、まったく同じところで、月は違いますが1611年12月に大地震と大津波が起こっています。そしてその時の領主が伊達陸奥守政宗です。彼が実はローマ法王パウロ5世にあてて親書を出し、遣いを出しています。それが支倉常長という男です。彼は太平洋を渡ってアカプルコからメキシコに上陸し、その後スペインに渡り、国王に会おうとしました。なかなか会えなかったのですが。そして、地中海を抜けてローマに行くわけです。

 これは伊達政宗がローマ法王パウロ5世に当てた手紙です。実はこれのレプリカが仙台の博物館にあり、私はラテン語で書かれた横書きの手紙を見ていたのです。伊達陸奥守政宗は達筆だったので、祐筆を使っていません。いろいろな手紙をほとんど全部自ら書いていました。ラテン語が書けるわけがありませんので、横書きの親書は政宗が書いているわけではありません。実はバチカンに行ってみると、縦書きの和文があったのです。

 つまり、縦書きの和文と、横書きのラテン語の手紙が2通あったのです。いずれも伊達政宗の直筆のサインと花押が押されていました。

 伊達政宗の直筆の書に何と書いてあるか。伊達政宗が支倉常長をパウロ5世に派遣したのは、震災復興プロジェクトです。彼は実はメキシコと貿易をやりたかった。メキシコはスペインの植民地でしたから、スペイン国王に、ぜひメキシコとの貿易をさせてくれということを頼みたかった。

 パウロ5世には何と書いたか。嘘もいっぱい書いてあり、「もしこれを認めてくれたら仙台に教会を建て宣教師を迎える」と書いてあります。でもその頃、徳川幕府はキリスト教禁止令を出していますからあり得ないのですが、「ローマ法王パウロ5世もスペイン国王のフィリップ3世に、ぜひ日本との貿易をするように促して欲しい」ということが書かれていて、もし助力してくれたら先程のようなことをすると書いてある手紙ですね。こういったものを、デジタルアーカイブしたことが、私にとっても大変記憶に残ることです。

バチカン図書館所蔵・伊達政宗がローマ法王パウロ5世に当てた手紙

■ GHG排出量の可視化C-Turtleプラットフォームで排出量削減を


 岩本:NTTデータグループが、GXでどんなことをしているか、そして将来どういうエネルギー分野でどんなビジネスを考えていかなければいけないか、ということについてお話ししてみたいと思います。先ずGXで当社がやっていることは国と同じく、2050年カーボンニュートラルを達成するということを公表したのですが、2023年に10年早めて2040年にはカーボンニュートラルが出来るということを公表しています。

 これからお話しをする様々な取り組みは当社自身もそうですが、当社のサプライチェーンの上下流には多くのIT企業がいますので、そういうメンバーを巻き込みながらやれるかなということです。

 カーボンニュートラルは、はっきり言うとCO2を排出することと、CO2を吸収することとの差分を実質ゼロにすればいいと言うことになるわけですので、この原則を見ながら議論する必要があるかなと思います。

 排出量の概要をいまさらお話しするわけではありませんが、GHG(温室効果ガス)は二酸化炭素だけでなく、他にもさまざまなものがあります。これらを二酸化炭素に換算すると、最近の統計では日本は11億トンレベルまで削減しているはずです。これを算定するのが重要なので、繰り返しで恐縮ですが、GHG排出量は活動量と排出原単位をかけたものだということを確認しておきます。

 企業のGHG削減計画は、国の指導もあって大体は2050年カーボンニュートラル、2030年はその半分ということです。このことをサステナブル報告書で公表しているのが日本のほとんどの大企業です。

 お分かりの通り、「Scope1」と「Scope2」は、いい悪いは別にして、分かりますし、やればいいんじゃないかと。「Scope1」と「Scope2」だけで十分だという人もいます。皆がやれば全部なくなるのだからということですが、でもそれだけでは十分ではないので、上流と下流のいわゆる「Scope3」というのがあり、これにどう対応するかが企業として一番悩んでいるところです。

NTTデータの温室効果ガス削減目標

 岩本:どうやって計算するのか、本当にそれで削減につながるのか、というのが大変な課題になっているのは皆さんもご存知だと思います。

 二種類のGHG排出量の可視化、見方が違うと言ってもいいわけですが、一つは企業全体の排出量を可視化するということと、もう一つは企業が生み出す製品やサービス別の排出量の可視化。これはどちらも重要です。

 この右側は、カーボンフットプリントと言われるわけですが、どちらも重要です。さらに言うと、それぞれには良い点と悪い点があります。目的によっていろいろ使い方を変えなければいけないのですが、いずれにせよ全社ベースで出すものと、其々の製品或いはサービスごとに出すフットプリントをちゃんとやらないとわからない、ということです。

 そこで、可視化のプラットフォームをNTTデータはかなり前からご提案して、多くの企業に使っていただいています。

 つまり、先程申し上げた上流から下流にいくサプライチェーン、原料を買ってきて、自分の資本材を作る、自分のところでいろいろなScope1或いはScope2で出すのと、実際製品として出荷した後、それを消費する人、或いは最後は廃棄まで行くわけですが、そこでどのくらいCO2が排出されるか、このトータルをマネージしないと本当の意味でカーボンニュートラルにならないのです。

 とはいえ、企業にはさまざまな課題があります。つまり、どう算定方法を出せばいいのか。細かくやればやるに越したことはないが、それをやる人の事務負担はたいへんで堪らない。

 それから、何のために可視化をするのかと言えば、CO2削減するためにやるわけですが、2次データを使って、この製品で大体このくらいの排出量だと計算するわけです。

 例えばパソコンを購入する例です。先ほどのレノボの話もありましたが、単にコストや能力だけでパソコンを買ってくるのではダメです。パソコンメーカーがカーボンフットプリントの観点で、自分のところのパソコンはこうだと出してくれると、それによってコストは高いがこちらの製品を買うかという判断ができます。

 鉄もそうです。水素還元で製造した鉄を買うと値段は高いがカーボンニュートラルの観点からはそちらを買うか、ということが出来るのでCO2削減ができる。

 Scope1或いはScope2はもちろん大きな意味があります。問題なのはScope1、Scope2ではなくScope3です。私たちが提案しているC-Turtle のプラットフォームを使うと、自分のところ以外で排出される温室効果ガス、先ほど申し上げたように活動量✕排出原単位15カテゴリーがあることを皆さんご存知でしょうけれど、これが簡単に算出できます。  

 重要なのは一番上と二つ目です。買ってくる製品・サービス、或いは自分のところの資本材を作る。ここが凄く大きいので、これをどうやるかということですが、さきほど申し上げたように算出のやり方はさまざまですし、最初は皆さんエクセルなんかでやっていたのですが、とてもやり切れないわけです。従って私共のC-Turtle を提供することになったわけです。

 ちょっと簡単にまとめてみましたが、左側に書いてあるのは、N年度のサプライヤーの排出量です。このScope3をきちんと計測できるようになると、次の年にはサプライヤーからそれぞれ自分のところがこれだけ排出量が減りましたということが出てくる訳です。

 そうすると、それが自分のところのScope3の排出量削減につながるので、この仕組みを大きな負荷をかけないでやれるようにする。しかもこれが国際的なプラットフォーム、例えばCDPとかいろいろなところと連携をしながら、単に日本だけの独りよがりでは無い形にしていく。これが私どものC-Turtleのプラットフォームです。現在、多くの方々にご利用いただいています。

 実際に私どもでやってみると平均の排出原価単位が40%くらい改善できました。これは我々のサプライチェーンにつながる方々と、こういうことを理解してもらい、そうしたソフトプラットフォームをやってもらわないと出来なかったことです。

NTTデータグループでの削減実績

■ 膨大な電力を消費するAI時代への対処


 岩本:二つ目。我々はデータセンターを山のように持っています。先ほどもNVIDIAの話がありましたけれど、AIもあり今データセンターは世界中で物凄い需要があります。NTTデータグループは、延べ床面積がたぶん世界でNo.3のデータセンターを世界中に保有しています。このデータセンター自身をグリーンにしていくというのは、大切なことです。

 東京都三鷹市に私が社長時代に建てたデータセンターがありますが、このデータセンターは最初から自然界のエネルギーを最大限に使う。もちろん太陽光パネルもそうですが、外気温が低い時は自然の外気温の冷却空気をうまく使う。ホットアイルとコールドアイルを上手く使うということが仕掛けられています。

 さらに、これはうちのデータセンターだけではありませんが、いろいろなデータセンターの中にサーミスタを置き、ワイヤレスでこの温度センサモジュールをコントロールすると、データセンター全体で、どこがどのくらいの温度になっているかが、可視化出来ます。これが可視化できれば、何故そういうことになるのか手を打つことが出来るので、こういう地道なところからデータセンターのグリーン化が進められています。

 もう一つ、最近のAIの使用にも関係して、一般的に空調は実際の負荷がどのくらいあるかということとあまり関係なしに、ある一定の冷媒を流すようなことをやっています。つまり冷房用の消費電力が高止まりしているのですが、実際の温度は先ほどセンサーにサーミスタを付けると、どこがどのくらい時間別に発熱しているか分かるので、出来ればそれに合った形で、実際の冷媒を出すという形がいいわけです。こうしたことによってかなりの削減効果が得られてきています。

 それから、ショートサーキットも、ちょっと専門的ですがお話しします。データセンターの中にラックがあり、そこにいろいろなパネルが入っているのですが、全部埋まっていないで空いているところがあると、(排熱が)漏れてきてしまい、冷房能力が低下します。簡単な話、そこのブランクを詰めてしまうと、いわゆるショートサーキットが起こらない。こうした地道な事もやりながら、データセンターの電力を下げる努力をしています。これがショートサーキットの防止で、付ける前の状態と、付けた後の状態では大きな差があります。

 それからもう一つは、オンプレミスで、自分のところでデータセンターを構築したり、自分のところでプライバシークラウドを作ることがあるのですが、最近は、いわゆるオープンクラウドに移ってきています。この時も、出来るだけカーボンニュートラルが進んでいるパブリッククラウドへの移行をしていくとか、或いは、消費電力効率の高い最新のデータセンターを選択する、ここには当然ディザスタリカバリの装置なども考える必要がありますが、こういったこともトータルのカーボンニュートラルを削減する意味では大きな効果があると思います。

世界のIT関連機器の消費電力予想

 岩本:このデータセンターの電力消費で面白い仮説をお話しします。2016年の全世界の電力使用量は、せいぜい1ペタワット(1000テラワット)くらいです。ペタは1000倍ですから。これはIT関係の電力使用量ですからデータセンターだけでなく、いろいろな通信に使う設備などを全部入れています。

 これが2030年だと、たぶん42ペタワットくらいになるのではないかと言われています。さらに、2050年には桁違いに使うのではないかと言われています。消費電力がIPトラフィックに単純に比例したらという前提ですが。

 実際は、こんなことは起こらないです。何故かというと、2016年が1.1ペタワットくらいだと言いましたが、実際に世界中で発電される量は2016年が25ペタワットくらいで、2023年度は29.7ペタワットくらいです。だから2030年の世界発電量は多分伸びて、おそらく40ペタワット位まで行くのかもしれません。それでも2030年には世界発電量の全てをITだけで使うということになり、そんなことはあり得ません。現在、全世界の発電量の中で、ITでの使用率はせいぜい数%くらいです。

 ただ、トラフィックは間違いなく伸びますし、データ量も圧倒的に伸びていきます。いまのは単純な試算値ですので、ITで全世界の発電量全てを使うなどということは起こらないですが、このくらいIT系、デジタル系で使う電力が増加していくということです。

 最近は、AIのデータセンターの電力使用量がものすごく多いと言われています。チャットGTP-4o(オムニ)は、公式な発表はありませんがパラメータ数が1兆を超えてきています。GTP3は1750億個のパラメータでしたが、そんなに時間がかからず人間の脳に匹敵する10兆、あるいはそれ以上なると思います。AIは大量のデータを学習させます。チャットGTPもそうですが、学習させるというのはNVIDIAなどの半導体を駆使し、大量のコンピュータパワーを必要とします。つまり、電力をものすごく必要とします。大体、原発1基分です。

 さきほど周牧之先生が、NVIDIAがなぜ急激にL字型で伸びたかと言いましたが、元々彼らはゲーム用の半導体メーカーです。ゲーム用の画面処理をするので、パラレルコンピュータ、パラレルプロセッシングできるように考案されたグラフィックプロセッサーです。GPU(Graphics Processing Unit)というのです。CPUと言わないです。ところが、AIが登場して爆発的に伸びてきたのです。AIの学習もかなり並列的な処理ですので、これが使えるということです。

 AIは膨大な電力を消費することがわかってきています。学習だけでなく、使うときもそうです。例えば、皆さんがGoogleで一つ検索を出すと大体0.3ワットくらいです。だがチャットGTPでやると10倍くらい、3ワットくらいかかるのです。

ディスカッションを行う岩本敏男氏(左)と石見浩一氏(右)

■ IOWNで究極のデータセンターGXを


 岩本:冒頭申し上げたように、世界中で、日本でもそうですが、DC(データセンター)の需要はものすごい勢いで増えてきています。世界中で要請があります。たぶんDCを次々と構築しても足りないくらいです。DCの構築には電力問題を解決していかなければいけない。電力会社からの必要電力の供給を保証してもらうことが重要です。

 結論、電気を使うからいけないのです。電気を使わなければいいのでは、というので、NTTグループが提唱しているのが「IOWN(アイオン)(Innovative Optical and Wireless Network)」計画です。つまり、光を使う。

 皆さん方も、通信に光が使われているのは、当たり前のように知っています。FTTH(ファイバー・ツー・ザ・ホーム)で、家までも光で入ってきています。光はそれほど電力は必要としません。でも昔は光で通信するとき、途中でルートを変更して中継するとき、一旦電気に落として、また電気から光というステップを踏みました。いま通信は中継なども含めて全部光で行います。

 最近出たIOWNの1番目のステージは、もうすでにサービス開始しましたが、これは遅延も少なく、大変素晴らしいネットワークです。次のような実験しています。東京に指揮者がいて、大阪のオーケストラを振る。ここには音楽に詳しい人がいると思いますが、ちょっとした遅延があっても、音楽家は絶対だめです。ところが、IOWNを使うと、音楽家の敏感な耳ですら、違和感を覚えないほどの低遅延ですので、東京の指揮者が大阪のオーケストラを指揮することができるということです。  

 ここまでだったら、なんだ、通信の話か、ということになると思うのですが、従来の銅線を使った通信もそうですが、電気通信技術でした。それを光と電子を融合する技術、光電融合技術(フォトエレクトロニクス)を使うと、とんでもない良い事が出てくる、ということになります。

 IOWN計画は、さきほど申し上げたように大容量、低遅延、低消費電力などを実現するのですが、IOWN1.0、オールフォトニクスネットワークは、すでに動き出しています。これができると、データセンター同士をつないで、ディザスタリカバリをやるのでも、遅延問題がなかなか大変でしたが、問題なく解決できるようになります。

 遅延問題では金融取引所でも数十ミリ秒くらいの遅延ですら問題になっていました。だから取引所サーバーの横に、其々の証券会社のサーバーを置かしてもらって取引をすることが起こっています。

 IOWN1.0でも凄いのですが、ステージは2.0、3.0、4.0と上がります。2.0はサーバーの中のボードとボードの間を光で結ぶ。これも出来るかもしれません。3.0はボードの中の半導体のチップのパッケージ同士を光で結びます。最後は、チップ中も光でやってしまう。つまり光半導体を作ることですが、技術的には出来る見込みです。ただ問題は、製造技術であるとか、品質のコントロールとか、コストとか、そこまで考えると私は実現までには2つ3つまだ課題があると思っています。

 ここまで行くとエネルギーは電気の100分の1になります。ということは、先ほどこんなことは絶対ありませんと言ったものの、100分の1なので、IT分野でのコンピュータパワーの大幅な伸びがあっても、電力はそれほど伸びないということになりますので、十分賄えるということになります。

 これは大きなイノベーションを起こすということです。周先生の先ほどの指摘とちょっと違うのは、大企業だってやれます。ベンチャー企業だけがやるのではありません。とくに日本の場合は、大企業はやります。日本製鐵ですら、水素還元を頑張ってやっています。まだ出来ていませんが、技術的には実現可能です。でも将来はコスト的にも実用化できるレベルに達すると思いますので、ぜひ頑張っていただきたいと思います。

「IOWN(アイオン)(Innovative Optical and Wireless Network)」計画

 周牧之(司会):大企業でもやれるというのは、岩本さんのような方がいるからこそやれるのです。こういうチャレンジャーのリーダーシップのもとで、大企業のリソースが十分使えるのです。

 岩本さんが言っているIOWNは、最先端の技術です。いまは世界的にAIブームです。AIブームはいま投資競争です。NVIDIAのチップを買って、ガンガン皆投資しています。何に投資しているかというと、データセンターです。これが「AI軍備」大競争です。

 アメリカはNVIDIAのチップすら中国に買わせないようにしているんです。この大競争の中で大問題が浮上していまして、エネルギー問題です。膨大な電力が必要とされます。かつデータセンターは熱をバンバン出して、冷やすのも大変です。これは計算していくと仕方がない程のエネルギー規模になっていきます。原子力復活論に繋がってきていまして、原子力ブームにまで繋がる大問題です。

 これを解決するには、岩本さんたちがいまやっているIOWNは、光技術を使いエネルギーはあまり消耗しない。究極のデーターセンターのGXです。

 これは人類の歴史をひっくり返すくらいのインパクトを持つビックイノベーションです。私はこれが実現できれば、実際マーケットに投入してうまくいけば、NTTはもう一回時価総額世界一のカンパニーになる。平成元年から30数年後に、もう一回世界一の時価総額カンパニーになるのは間違いない。何故かというと今、NVIDIAはいま時価総額で世界一です。IOWNがうまく出来たらNVIDIAがひっくり返される。NTTデータが世界一になります。期待しましょう。

国際シンポジウム「グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来」セッション2会場

民間ベースでの協力とルール作りを


 岩本:私自身、中国との歴史は30年ほど前に世界銀行の50億円くらいの融資を使い、中国人民銀行さんの決済システムのパイロット版を作ったことから始まりました。そして今日まで、100数十回ぐらい中国を訪問しています。今でも、中国には10カ所くらい拠点があり、4千人くらいの従業員がいますので、ついこの間も、北京、上海、無錫に行ってきました。来週、周先生もよくご存知の、今年で第20回目になる「東京―北京フォーラム」というフォーラムが東京で開催されます。今回、中国側からもかなりの大物の方々が来られて、20回目の大会ということもあるのでしょうけれど、色々なテーマで議論をします。私はそこではデジタル分科会で、AIのガバナンスについて、議論させていただくことになっています。 

 私の長年の中国との個人的なつきあいも含めて考えてみますと、このGXにおいても、基本的には双方のルールをお互いにどう認識し合うのかということだと思います。いろいろな政府同士の取り決めもあるでしょうが、ベースは民間だと思っています。民間ベースがいろいろなビジネスをする上で、必要なものは契約に書かれてくる訳ですが、さきほど言いましたようにサプライチェーンの問題もありますから、それなりに手を突っ込んだ議論をしなければならないところもあります。互いにこういうことをしようと言うルールをagreeすることが第一歩だと思います。

講演を行う岩本敏男・NTTデータグループ元社長

 岩本:ルールをagreeすることは、そのルールを互いに守っているよねということを認め合う、或いは、場合によっては、検証するようなことも必要になります。モニタリングといってもいいですが、こういった仕組みを、双方の政治体制が違うことも前提の上で、agree出来るかどうか。私はできると思います。

 それから、さっき小手川さんからも何回も出ているように、世界中で、今年は選挙の年で1月から毎月のように、インドネシアがあり、ロシアがあり、インドがあり、フランスがあり、イギリスがあり、今回のドイツもあり、他にもいくつもありますが、本当に選挙の年です。日本もありましたが。

 こういう世の中が大きく変わる年に、私は昔からこれをパラダイムシフトといっているのですが、凄い大きなパラダイムシフトの来る時代だからこそ、民間ベースのルールを作ってお互いに認め合って、それをモニタリングして検証していくという、こういうプロセスをお互いが尊重し合う。これが一番だなと思っています。私の今までの付き合いから見ても、充分、中国のさまざまな企業との間では出来ると思っています。


プロフィール

岩本 敏男(いわもと としお)
NTTデータグループ元社長

 1976年日本電信電話公社入社。2004年NTTデータ取締役決済ソリューション事業本部長。2005年NTTデータ執行役員金融ビジネス事業本部長。2007年NTTデータ取締役常務執行役員金融ビジネス事業本部長。2009年NTTデータ代表取締役副社長執行役員パブリック&フィナンシャルカンパニー長。2012年からNTTデータ代表取締役社長を務め、海外でのM&Aなどを進めて2018年には売上2兆円を突破した。同年NTTデータ相談役に退き、保健医療福祉情報システム工業会会長に就任。2019年日本精工取締役、IHI監査役。2020年大和証券グループ本社取締役。2022年JR東日本取締役。2023年三越伊勢丹ホールディングス取締役。

■ シンポジウム掲載記事


【シンポジウム】GX政策の競い合いで地球環境に貢献

【シンポジウム】気候変動対策を原動力にGXで取り組む

【シンポジウム】GXが拓くイノベーションインパクト

【シンポジウム】福川伸次:技術革新で挑む地球環境問題

【シンポジウム】鑓水洋:脱炭素化と経済成長の同時達成を

■ 登壇者関連記事(登壇順)


【コラム】福川伸次:日中関係、新次元への昇華の途を探る 〜質の高い経済社会の実現と新グローバリズムの形成に向けて〜

【フォーラム】鑓水洋:地域活性化策には明確なコンセプトが求められる

【刊行によせて】楊偉民:都市のハイクオリティ発展を促す指標システム

【刊行によせて】楊偉民:全く新しい視点で中国都市の発展状況を評価する

【講演】中井徳太郎:カーボンニュートラル、循環経済、自然再生の三位一体のイノベーション—地域循環共生圏構想

【フォーラム】中井徳太郎:分散型自然共生社会を目指して

【刊行によせて】中井徳太郎:生態環境社会への移行に寄与

【ディスカッション】中井徳太郎・大西隆・周牧之:コロナ危機を転機に 

【ディスカッション】中井徳太郎・安藤晴彦・和田篤也・周牧之:省エネ・再生可能エネルギー社会への挑戦と自然資本

【フォーラム】南川秀樹:コミュニケーションの場としてのエンタメを

【刊行によせて】南川秀樹:中国大都市の生命力の源泉は何か

【コラム】邱暁華:高度成長からハイクオリティ発展へシフトする中国経済

【ディスカッション】小島明・田中琢二・周牧之(Ⅰ):誰がグローバリゼーションをスローダウンさせた?

【ディスカッション】小島明・田中琢二・周牧之(Ⅱ):ユーラシア大陸を視野に入れた米中関係

 【専門家レビュー】周其仁:生態都市建設と都市総合発展指標

【刊行によせて】周牧之:新型コロナウイルス禍と国際大都市の行方

【論文】周牧之:二酸化炭素:急増する中国とピークアウトした日米欧

【論文】周牧之:アメリカ vs. 中国:成長と二酸化炭素排出との関係から見た異なる経済水準

【論文】周牧之:世界の二酸化炭素排出構造と中国の課題

【刊行によせて】徐林:中国の発展は都市化のクオリティ向上で

【対談】小手川大助 vs 周牧之:(Ⅰ)転換点で激動の国際情勢を見つめる

【対談】小手川大助 vs 周牧之:(Ⅱ)複雑な国際情勢をどう見極めるか?

【シンポジウム】周牧之:起業家精神でムーアの法則駆動時代GXを加速

周 牧之 東京経済大学教授

■ 編集ノート:東京経済大学は2024年11月30日、国際シンポジウム「グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来」を開催した。福川伸次元通商産業事務次官、鑓水洋環境事務次官、岡本英男東京経済大学学長、楊偉民中国第十三回全国政治協商会議経済委員会副主任、中井徳太郎元環境事務次官、南川秀樹元環境事務次官、邱暁華中国統計局元局長、徐林中米グリーンファンド会長、田中琢二IMF元日本代表理事、周其仁北京大学教授、索継栓中国科学院ホールディングス元会長、岩本敏男NTTデータグループ元社長、石見浩一エレコム社長、小手川大助IMF元日本代表理事、周牧之東京経済大学教授、尾崎寛直東京経済大学教授をはじめ産学官のオピニオンリーダー16人が登壇し、日中両国のGX政策そしてイノベーションへの努力などについて議論、未来に向けた提言をした。周牧之氏はセッション2「GXが拓くイノベーションインパクト」の司会を務めた。


周牧之・索継栓・岩本敏男・石見浩一・小手川大助:東京経済大学国際シンポジウム「グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来」セッション2「GXが拓くイノベーションインパクト」

■ ムーアの法則駆動時代


 周牧之:1965年、後のインテル創業者のひとりになったゴードン・ムーアが、半導体集積回路の集積率が18カ月間ごとに2倍になる、そしてその価格が半減すると予測をしました。これが所謂「ムーアの法則」です。

 ムーアの法則は、物理的な法則ではありません。一つの目標値に過ぎないです。しかしムーアの法則を信じ、多くの技術者出身の企業家が半導体産業に沢山投資し続けてきました。その結果、半導体はその後60年間今日まで、ほぼムーアの法則通りに進化しました。これまで無かった製品やサービス、産業が生まれました。既存の産業も大きな変化を余儀なくされました。

 私はこの間の人間社会を「ムーアの法則駆動時代」と定義しています。ムーアの法則駆動時代では、ハイテクをベースにしたイノベーションが社会発展の原動力となります。

ムーアの法則

■ ムーアの法則駆動産業が世界経済をリード


 周:「ムーアの法則駆動時代」で、世界の産業構造はがらっと変化しています。時代が昭和から平成に切り替わった1989年、当時の世界時価総額ランキングトップ10企業の中で日本企業は7社も占めていました。GICSという世界産業分類基準の中分類から見ると、これらトップ10企業は、「銀行」の中分類は日本興業銀行、住友銀行、富士銀行、第一勧業銀行、三菱銀行5社が入っています。「石油・ガス・消耗燃料」に、エクソン(Exxon)、シェル(Shell)の2社が入っています。「電気通信サービス」はNTTの1社。「公益事業」は東京電力の1社、「ソフトウェア・サービス」はIBMの1社が入っていました。この第6位のIBMが、当時トップ10企業の中で唯一のテックカンパニーでした。

 これに対して、35年後の2024年1月のデータでは、世界時価総額ランキングトップ10企業の構成は完全に塗り替えられました。テックカンパニーの存在感は一気に高まり、GICS産業中分類で見ると、首位のマイクロソフト(Microsoft)は「ソフトウェア・サービス」の中分類に分類され、第2位のアップル(Apple)は「テクノロジー・ハードウェア及び機器」です。第6位のエヌビディア(NVIDIA)が「半導体・半導体製造装置」です。この三つはいずれもGICSでは、「情報技術」という大分類に属しています。つまり、この3社は典型的な「ムーアの法則駆動産業」のリーディングカンパニーです。

世界時価総額ランキングトップ10企業(1989年・2024年)

 周:「メディア・娯楽」に中分類される第4位のアルファベット(Alphabet、グーグル)と第7位のメタ(Meta、旧Facebook)は歴然としたIT企業です。第5位のアマゾン(Amazon)は「一般消費財・サービス流通・小売」に中分類されていますが、ネット販売、データセンター、OTTのリーディングカンパニーです。第9位のテスラ(Tesla)は「自動車・自動車部品」に分類されていますが、この4つの企業は、すべて実は情報技術を使って既存産業の在り方を転換させたテックカンパニーです。なぜかというと、テスラは自動車メーカーというよりは自身をIT企業だと一生懸命アピールしています。実際もトップ級のIT企業です。つまりこの4社は、まさしくDXでこれら伝統的な産業を「ムーアの法則駆動産業」へと置き換えたリーディングカンパニーです。

 これらテックカンパニー7社の時価総額は、いま12兆ドルを超え、世界の時価総額合計の13%弱を占めています。これはどのくらいの規模かというと、東証の全ての企業の時価総額の合計の約2倍に相当します。

「Magnificent 7」時価総額

■ スタートアップテックカンパニーがパラダイムシフトの主役


 周:このテックカンパニー7社は圧倒的存在感から、アメリカでは「Magnificent 7」(マグニフィセント・セブン)と表現されています。注目すべきは、マグニフィセント・セブンがすべてスタートアップテックカンパニーだったことです。

 ムーアの法則のもとでの成功は、斬新な製品・サービス及びビジネスモデルを描く想像力が必要です。また、開発に膨大な時間とリソースが要るため、企業を起こし、自分でリスクを引き受けられるリーダーシップと、それを支えるチーム力が欠かせません。

 対する大企業は、日本だけでなく国を問わず、何故かムーアの法則駆動時代でのパフォーマンスが、精彩に欠けています。

 これは大企業が組織の性格上、リスクテイクが苦手であること、また個人をベースにした想像力、リーダーシップの発揮がしにくいからでしょう。

 スタートアップテックカンパニーは、リスキーで長いトンネルを抜けた後、ようやく成功にたどり着きます。マグニフィセント・セブンは全てに、いまこのエヌビディアの株価で見られるパターンがあります。長い間非常に低迷し、急に伸びてくる。これは、(成功に至るまでの株価曲線が)左側に倒れた“L”字に見えるため、私はこれを「L字型成長」と定義しています。

「NVIDIA」時価総額推移

 周:1989年の世界時価総額ランキングトップ10企業で、第6位のIBMは、当時は唯一のテックカンパニーでした。しかし当時IBMはすでに100歳に近い巨大な古参企業で、斬新な製品・サービス及びビジネスモデルにチャレンジできる体質を持っていませんでした。世界に君臨したIBMは沢山のチャンスを逃し、業績が低迷し、現在、世界時価総額ランキングで、第79位に後退しました。

 これに対し、マグニフィセント・セブンは鮮度が高い。創立順で見ると、マイクロソフトは1975年、アップルは1976年、エヌビディアは1993年、アマゾンは1994年、アルファベット1998年、テスラは2003年、一番若いメタが2004年です。7社の平均年齢は32歳です。特に創業者がCEOを務めるテスラ 、エヌビディア、メタの 3社は勢いがすさまじい。これら企業の鮮度の良さは、イノベイティブな体質を保つカギだと私は思います。

 日本、米国、中国3カ国それぞれの時価総額トップ100企業を最近私は比較分析しました。この分析で3カ国の企業の鮮度に大きな違いがあると判明しました。

 日本は、2024年の時価総額トップ100のうち1980年以降の創業は僅か5社。その中に岩本さんのNTTデータが入っています。しかし、21世紀創業の企業はゼロでした。大企業の官僚化で、リスクのある新規事業に消極的になりがちです。ですから結果、ムーアの法則駆動産業の発展が遅れ、日本は海外のテックカンパニーに支払うデジタル赤字が、2023年5.5兆円にまで膨らんだ。5年間で2倍増となりました。

 対照的に、米国トップ100企業のうち、1980年以降の創業は何と32社にのぼります。そのうち21世紀創業の企業は、8社もあります。これら鮮度の高いスタートアップカンパニーこそ、ムーアの法則駆動産業を牽引しています。

 中国はトップ100企業のうち1980年以降の創業は82社にも達しています。そのうち21世紀創業の企業は、4分の1の25社にものぼります。中国のトップ企業の鮮度の良さは極めて顕著です。創業者のリーダーシップでイノベーションや新規事業への取り組みが素早いです。

 つまり、今日の世界における企業発展のロジックは完全に変わりました。技術力と起業家精神に秀でたイノベーティブなスタートアップ企業が、世界経済パラダイムシフトを起こす主要な勢力となっています。

各国トップ100企業のうち、1980年以降及び2000年以降に創業した企業数

■ なぜ欧州では環境政策に逆風が


 小手川大助(パネリスト):私から、環境問題について若干、地政学的な観点から説明します。2024年11月9日にドイツの政権が破綻しました。理由は、財務大臣を務めていた自由民主党のリントナーが、環境予算の継続と、ウクライナに対する支援の継続の二つに最後まで反対したことで、ショルツ首相がその財務大臣を解任した。結果、ドイツ政府は瓦解し、2025年1月中旬に総選挙になりました。

 実はこの問題が生じる前に、ドイツでは2024年9月に3つの州で州選挙があった。そこでこれまで極右と言われていたドイツのための選択肢(AFD)と、その半年前に出来たばかりの新しい党で極左と言われるザーラ・ヴァーゲンクネヒト同盟(BSW)という新しい政党BSWの、二つの党が大勝利しました。

 この極右・極左二つの政党に共通している政策があります。一つは、ウクライナの戦争反対、ドイツはウクライナに対して支援をするべきではない。もう一つは、行き過ぎた環境政策をすぐに止めるべきである。

 なぜかと言うと、この環境政策のために、実はドイツの主要企業の60%が海外へ行ってしまいました。それで、ドイツは、環境政策やウクライナ支援よりは、やはり経済であると大きく舵を切っていますので、これは非常に注目しなければいけないと思います。

 周:環境問題と国内産業の競争力を両立できるかどうかが鍵です。ヨーロッパもアメリカも、いまうまく両立できずに大変に揺れ動いています。

 中国では、EV(電気自動車)、そして自然エネルギー等々の環境関連産業がいま大ブレイクし、国際競争力がかなり身についた。むしろ、環境問題と国内産業の競争力が両立できるような形になりつつあります。

ディスカッションを行う小手川氏(右)と周牧之教授(左)

ビックイノベーションIOWNはゲームチェンジャーに


 岩本敏男(パネリスト):NTTグループが提唱している「IOWN(アイオン)」計画が、大容量、低遅延、低消費電力などを実現するのです。IOWN1.0、オールフォトニクスネットワークは、すでに動き出しています。ステージは2.0、3.0、4.0と上がります。2.0はサーバの中のボードとボードの間を光で結ぶ。3.0はボードの中の半導体のチップのパッケージ同士を光で結びます。最後は、チップそのものも光でやってしまう。つまり光半導体を作ることが、テクニカルには出来ています。

 IOWNプロジェクトが成功すれば、データセンターの電気消費は100分の1になります。周先生のご指摘とちょっと違うのは、大企業だってイノベーションをやれます。ベンチャー企業だけがやるのではありません。とくに日本の場合は、大企業はやります。日本製鐵ですら、水素還元を頑張ってやっています。まだ出来ていません。技術的には出来ています。でもコスト的にも出来ると思っているのでぜひ頑張っていただきたいと思います。

 周:大企業でもやれるというのは、岩本さんのような方がいるからこそやれるのです。こういうチャレンジャーのリーダーシップのもとで、大企業のリソースが十分使えるのです。岩本さんが言っているIOWNは、最先端の技術です。いまは世界的にAIブームです。AIブームはいま投資競争です。NVIDIAのチップを買って、ガンガン皆投資しています。何に投資しているかというと、データセンターです。これが「AI軍備」大競争です。

 アメリカはNVIDIAのチップすら中国に買わせないようにしているんです。この大競争の中で大問題が浮上していまして、エネルギー問題です。膨大なエネルギーが必要とされます。かつデータセンターは熱をバンバン出して、冷やすのも大変です。これは計算していくと仕方がない程のエネルギー規模になっていきます。原子力復活論に繋がってきていまして、原子力ブームまで繋がる大問題です。

 これを解決するには、岩本さんたちがいまやっているIOWNは、光技術を使いエネルギーはあまり消耗しない。究極のデーターセンターのGXです。

 これは人類の歴史をひっくり返すくらいのインパクトを持つビックイノベーションです。私はこれが実現できれば、実際マーケットに投入してうまくいけば、NTTはもう一回時価総額世界一のカンパニーになる。平成元年から30数年後に、もう一回世界一の時価総額カンパニーになるのは間違いない。何故かというと今、NVIDIAはいま時価総額で世界一です。IOWNがうまく出来たらNVIDIAがひっくり返される。NTTデータが世界一になります。期待しましょう。

ディスカッションを行う岩本敏男氏(左)と石見浩一氏(右)

■ ムーアの法則で水平分業加速


 周:2007年から2009年の間に、私はアメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)で客員教授をやっていました。その時、小手川さんはIMFの日本代表理事だったので、アメリカでも交流を重ねていたのですが、ちょうどその時、オバマが大統領選に出ていたんです。非常に面白かったです。オバマに使いきれない程の金が集まった。相手の共和党のマケインは、最後は金が底をついてコマーシャルが出せなくなった。一方、オバマは金を残してもしょうがないので、ばんばんと分単位でなく30分単位でコマーシャルを流していたんです。民主党政権の変質がひしひしと感じられた経験だった。

 近年、小手川大助さん、田中琢二さんとも、本学のゲスト講義で議論を重ねてきたのですが、やはりアメリカという世界の唯一の覇権国家のブレ、選挙によるブレの、世界に対する影響は極めて大きい。おそらく、中国の国内にいる皆さんが感じる以上に、世界に対する影響が非常に大きく、それがGXに如何に影響されてくるのか。おそらく周其仁先生の仰る通りに、我々は乾杯して飲むべきものは飲んでいくしかない。GXに関しては、我々はやれることからやるしかないと痛感しているところです。

 産業というのは、ムーアの法則駆動型になっていくと、実はその成長が大きく加速していくんです。さらに投資も巨大化し、世界市場とグローバル分業に依存せざるを得なくなってきます。つまり、ムーアの法則駆動産業は、グローバリゼーションを後押しします。

 私の分析では、ムーアの法則に沿った半導体の60年間の進化と世界の貨物商品輸出拡大との相関関係は一致しています。要するに、グローバリゼーションがいわばムーアの法則で急拡大しています。私はグローバリゼーションの本質は、ムーアの法則が駆動していると結論付けています。しかし今の話の中で出てきていますが、アメリカが中国に対するハイテク分野、そしてGX分野での貿易規制などを発動し、いま中国の電気自動車がアメリカになかなか入れない。太陽光パネルなどの輸出にもいろいろな制約をかけています。

 すなわちアメリカ自らグローバリゼーションに急ブレーキをかけています。世界の一番政治力を持っている国が、グローバリゼーションに急ブレーキをかけています。

 とはいえ、温暖化という地球規模の課題に、世界が一丸となって対処すべきなんです。

 石見浩一(パネリスト):エレコムブランドの93%は中国で作っています。私たちはファブレスメーカーです。ですので、私たちで開発、デザインをし、中国のメーカーと一緒になってモノを作る。その営業をエレコムが担うことで、日本の量販店や、B to Bの市場で売っている形です。

 エレコムでGXを推進するとき、私自身が一番重要だと思うのは「協働」です。グループ会社や、中国の製造会社と、どれくらい私たちの目的、やるべきこと、実際やることによって得られるものが協働できるか、そこがGXを進める上で一番重要な要素だと思います。

ムーアの法則駆動時代

■ 企業の成長にはリーダーシップと支援者が必要


 周:起業家精神とは、企業を興す起業家精神です。GX時代も、まさしく起業家精神の有る無しに、かかっています。

 このセッション登壇者の皆さまのNTTデータ、そしてエレコム、また中国科学院ホールディングス傘下のレノボ(Lenovo)は、すべて1980年代に創業したテック企業です。

 石見: きょうは学生さんが結構いらっしゃるので、起業家精神を私なりにまとめました。

 私自身が起業の時にすごく重要だと思ったのは、やはりビジョン、何になりたいのか。10年後20年後に何になりたいのか。それは何の目的のためにやっているのか。そして使命は何なのか。その企業の、要するにカルチャーも作る企業の将来の方向性なしでは、起業家精神が本当の形では生まれないです。

 さっき周牧之先生の文献も読ませていただいたのですが、「L字型の成長は、新しい製品やサービス及びビジネスモデルを開発し、そして既存の産業の再定義をする。それによってL字型の成長が生まれてくる」。これは要するに変わり続けることです。市場の動向、市場の状況、競合の動き、そういう部分でチェンジマネージメントをしない限り、優位性は出ない。ベンチャーはお金がないから、変わり続けたスピードで勝つしかないです。 

 周:石見さんは若い時に香港で最初のスタートアップ企業を自分で作ったんです。企業を創業した経験も、また普通の企業を巨大企業に育てた経験もおありです。さらに200社以上の企業の面倒を見ている。沢山のスタートアップ企業を育成しています。その気力もすごいなと思います。私はとても200社は頭に入らないと思います。日本のスタートアップがいまちょっと少ないという、ある意味で日本社会の大問題がある中、一番大事なのは彼のような存在です。スタートアップの面倒を見て、育てていく。本当に貴重な存在です。

 岩本さんも、大企業の社長はみんなが岩本さんのような方ではないので、日本においても世界においても貴重な存在です。

 私の隣の小手川さんも、貴重な存在です。財務省の高級官僚でした。財務省は、中国では財務部と国家発展改革委員会を足したような役所です。財務官僚時代に産業再生機構を作り、バブル以降問題となっていた大企業、ダイエーなど40社を再生させた実績があります。退官された後も、中国の日本に進出している企業を含め沢山の企業の面倒を見てこられた。

国際シンポジウム「グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来」セッション2会場

■ 交渉好きのトランプとどう付き合う?


 小手川:トランプは商売人です。戦争が大嫌いです。オバマやバイデンと違い、人権、民主主義、それからLGBTQなどへのドグマはありません。とにかく商売が好きで、しかも彼は自分の経験から一対一での交渉が大好きです。マルチの交渉、マルチの機関、IMFや世界銀行は大嫌いです。

 従って彼はとにかく一対一の交渉の場に出れば、自分が絶対に勝てると思っていますので、とにかく彼にとっては、どう相手を交渉の席に引っ張り出すかが最大の課題になります。

 そのため彼は物凄く高いボールを投げます。ところが実際に交渉の席につきますと、非常に話のわかる人に変わってしまい、とにかくディールをしたいというふうになってきます。

 周:トランプが交渉好きということは、中国の皆さんもよくその話を議論していまして、実は中国人ほど交渉好きな民族もあまりないです。市場のおばあちゃまからビックカンパニーの社長たちまで、政治家まで、みんな交渉が大好きです。問題は、交渉の相手が信用できるかどうか。交渉した後は信用できないで、また全部違う話になってくると、これは信用できません。信用出来ない人間とは交渉してもしょうがありません。

 小手川:さっきのセッションで、徐林先生がおっしゃったことで、アメリカは、最後は物凄く利己的になります。例えば、いまウクライナの関係で(ロシアに)経済制裁をやっているのですが、経済制裁にもかかわらずアメリカはずっとロシアから輸入しているものが三つあります。一つはウラニウムの鉱石、二つ目はディーゼルオイル、三つ目は化学肥料の原料になるケイ酸というやつです。とにかくアメリカは常に自分中心ですので、ルールとかはあまり考えない方がいいと思います。

周 牧之 東京経済大学教授

■ 日中、交流進化が問題を解決


 周:アメリカは、ユーラシア大陸から見ると「島国」なんです。彼らの対ユーラシア政策は、島国、といっても日本ではなくイギリスという島国の伝統的な考え方、戦略でやっています。

 日中関係もアメリカの影響をかなり受けます。GXもアメリカの影響をかなり受けます。我々はやはり周其仁先生がきょうおっしゃっていたように、やるべきことをやっていくしかないです。

 私は日中関係を非常に楽観的に見ています。今回のシンポジウムに、中国から70名くらいの企業家、政府関係者、学者が来ています。泊まるところが大変でした。ホテルニューオータニに数十名入れるというのはとんでもなく予約が取れない。最後は中国大使館の力を借りて、ようやくニューオータニに無事泊まることができました。

 何故かと言うといま日本には沢山の中国の皆さんが来ています。おそらく今年は1,000万人を超えるでしょう。日本と中国の人と人との交流を重ねていくと、まったく話が違ってきます。3,000万人になった場合、5,000万人になった場合、これはかなり近い将来の話です。

 5,000万人の中国の皆さんが毎年日本を訪ねてきた時に、日中関係のいままで我々が憂鬱になっていた話は、全部ふっとんでしまうと私は信じています。

 きょうは素晴らしいパネリストとコメンテーターに恵まれ、イノベーションや企業家精神、そして国際協力に至るたいへん示唆に富んだ話をしていただきました。

 GXに取り組む若い世代、あるいはこれからのグローバリゼーションに取り組む若い世代には、大変参考になります。


プロフィール

周 牧之(しゅう ぼくし)
東京経済大学教授

 1963年生まれ。(財)日本開発構想研究所研究員、(財)国際開発センター主任研究員、東京経済大学助教授を経て、2007年より現職。財務省財務総合政策研究所客員研究員、ハーバード大学客員研究員、マサチューセッツ工科大学(MIT)客員教授、中国科学院特任教授を歴任。〔中国〕対外経済貿易大学客員教授、(一財)日本環境衛生センター客員研究員を兼任。

■ シンポジウム掲載記事


【シンポジウム】GX政策の競い合いで地球環境に貢献

【シンポジウム】気候変動対策を原動力にGXで取り組む

【シンポジウム】GXが拓くイノベーションインパクト

【シンポジウム】福川伸次:技術革新で挑む地球環境問題

【シンポジウム】鑓水洋:脱炭素化と経済成長の同時達成を

■ 登壇者関連記事(登壇順)


【コラム】福川伸次:日中関係、新次元への昇華の途を探る 〜質の高い経済社会の実現と新グローバリズムの形成に向けて〜

【フォーラム】鑓水洋:地域活性化策には明確なコンセプトが求められる

【刊行によせて】楊偉民:都市のハイクオリティ発展を促す指標システム

【刊行によせて】楊偉民:全く新しい視点で中国都市の発展状況を評価する

【講演】中井徳太郎:カーボンニュートラル、循環経済、自然再生の三位一体のイノベーション—地域循環共生圏構想

【フォーラム】中井徳太郎:分散型自然共生社会を目指して

【刊行によせて】中井徳太郎:生態環境社会への移行に寄与

【ディスカッション】中井徳太郎・大西隆・周牧之:コロナ危機を転機に 

【ディスカッション】中井徳太郎・安藤晴彦・和田篤也・周牧之:省エネ・再生可能エネルギー社会への挑戦と自然資本

【フォーラム】南川秀樹:コミュニケーションの場としてのエンタメを

【刊行によせて】南川秀樹:中国大都市の生命力の源泉は何か

【コラム】邱暁華:高度成長からハイクオリティ発展へシフトする中国経済

【ディスカッション】小島明・田中琢二・周牧之(Ⅰ):誰がグローバリゼーションをスローダウンさせた?

【ディスカッション】小島明・田中琢二・周牧之(Ⅱ):ユーラシア大陸を視野に入れた米中関係

 【専門家レビュー】周其仁:生態都市建設と都市総合発展指標

【刊行によせて】周牧之:新型コロナウイルス禍と国際大都市の行方

【論文】周牧之:二酸化炭素:急増する中国とピークアウトした日米欧

【論文】周牧之:アメリカ vs. 中国:成長と二酸化炭素排出との関係から見た異なる経済水準

【論文】周牧之:世界の二酸化炭素排出構造と中国の課題

【刊行によせて】徐林:中国の発展は都市化のクオリティ向上で

【対談】小手川大助 vs 周牧之:(Ⅰ)転換点で激動の国際情勢を見つめる

【対談】小手川大助 vs 周牧之:(Ⅱ)複雑な国際情勢をどう見極めるか?

【シンポジウム】小手川大助:激動の世界を見つめたGXを

小手川 大助 IMF元日本代表理事

■ 編集ノート:東京経済大学は2024年11月30日、国際シンポジウム「グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来」を開催した。福川伸次元通商産業事務次官、鑓水洋環境事務次官、岡本英男東京経済大学学長、楊偉民中国第十三回全国政治協商会議経済委員会副主任、中井徳太郎元環境事務次官、南川秀樹元環境事務次官、邱暁華中国統計局元局長、徐林中米グリーンファンド会長、田中琢二IMF元日本代表理事、周其仁北京大学教授、索継栓中国科学院ホールディングス元会長、岩本敏男NTTデータグループ元社長、石見浩一エレコム社長、小手川大助IMF元日本代表理事、周牧之東京経済大学教授、尾崎寛直東京経済大学教授をはじめ産学官のオピニオンリーダー16人が登壇し、日中両国のGX政策そしてイノベーションへの努力などについて議論し、未来に向けた提言を行った。小手川大助氏はセッション2「GXが拓くイノベーションインパクト」のコメンテーターを務めた。


周牧之・索継栓・岩本敏男・石見浩一・小手川大助:東京経済大学国際シンポジウム「グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来」セッション2「GXが拓くイノベーションインパクト」

周牧之(司会):このセッションの登壇者三人(岩本敏男NTTデータグループ元社長、石見浩一エレコム社長、小手川大助IMF元日本代表理事)には共通の特徴が一つあります。それは、御三方がいずれも日本のグローバル化を推し進める旗手であるということです。国際人であるだけでなく、それぞれの企業グループのグローバル化を、猛烈に推し進めてきた方々です。

■ 環境対策と産業競争力の両立が鍵


小手川大助:私の方から、環境問題について若干、地政学的な観点から説明申し上げます。先ほど話に出た2024年11月8日がアメリカ大統領選挙でしたが、それと同じくらい重要だったのが、2024年11月9日にドイツの政権が破綻したことでした。理由は、財務大臣を務めていた自由民主党党首のリントナーが、環境予算の継続と、ウクライナに対する支援の継続の二つに最後まで反対したため、ショルツ首相がその財務大臣を解任したからです。

 その結果、ドイツ政府は瓦解し、2025年1月中旬に総選挙になりました。実はこの問題が生じる前に、ドイツでは2024年9月に3つの州で州選挙があった。そこでこれまで極右と言われていたドイツのための選択肢(AFD)と、半年前に出来たばかりの新しい党で極左と言われているザーラ・ヴァーゲンクネヒト同盟(BSW)という、女性が作った新しい政党BSWの、二つの党が大勝利しました。そして、三つの州全てで。緑の党と自由民主党の議席がゼロになりました。

 いま言いました極右・極左の二つの政党に共通している政策があります。一つは、ウクライナ戦争反対、ドイツはウクライナに対して支援をするべきではないということ。もう一つは、行き過ぎた環境政策をすぐに止めるべきである、という二つでした。

 なぜかと言うと、この環境政策のために、ドイツの主要企業の60%が海外へ行ってしまったからです。先週ドイツの有名企業フォルクスワーゲンが中国の工場を閉めると発表しましたが、いよいよ今晩のうちに合意をしなければ、明日からフォルクスワーゲンの組合はストライキに入ります。

 そういうことで、ドイツは、環境政策やウクライナ支援より経済重視に大きく舵を切ってきていますので、これは非常に注目しなければいけないと思います。

 ちなみに2025年1月に総選挙があったらどうなるか。予想ですが、もともと政権を持っていたキリスト教社会民主同盟(CDU)はおそらく第一党で残るだろう。一方で、緑の党と自由民主党はほぼ議席はゼロになると言われています。それに代わってドイツのための選択肢(AFD)がおそらく社会民主党を抜いて第二党になる。それから新しい政党であるBSWも、下手をすると社会民主党を抜くかもしれないと言われています。

 まず、ヨーロッパの環境政策の一つの中心であるドイツが、大きく変わっていきそうだということになります。

周:環境問題と国内産業の競争力を両立できるかどうかが鍵です。ヨーロッパもアメリカも、いまうまく両立できずに大変に揺れ動いています。

 一方、中国ではEV(電気自動車)、そして自然エネルギー等々の環境関連産業がいま大発展し国際競争力がかなり身についた。むしろ、環境問題と国内産業の競争力が両立できるような形になりつつあります。

北京市内を走るEVタクシー

■ 大口献金者から見えるトランプ政権の政策志向


小手川:第1ラウンドでヨーロッパの中心であるドイツの話をしましたので、第2ラウンドでは当然ながら、アメリカの話しになります。2024年11月8日、私どもが思っていた通り、圧倒的にトランプが勝ちました。

 実は、2016年の時も、私とフジテレビの木村太郎さんの二人だけが当時トランプが勝つと言っていました。日本に比べると、アメリカの選挙は物凄くお金がかかります。前回2020年の大統領選挙、上院議員選挙、下院議員選挙で使われたお金は2兆2000億円です。

 これは、日本でキックバックの問題になっている安倍派が使ったとされるお金が5年間で5億円というのと比較すると、アメリカの選挙資金の莫大さがお分かりになると思います。

 アメリカの場合、政治活動委員会「PAC」ポリティカル・アクション・コミッティがあり、PACは、どのような趣旨のお金がどう使われたかを、一応全部発表しています。

 しかも、PACはどんな団体がお金を入れてきたかも発表します。ところが、いまアメリカで何が行われているかというと、PACにお金を入れる団体が、殆ど免税団体になっています。いわゆるNPOです。NPOにどういう人たちがお金を出しているかは全く匿名です。大口の献金者等の名前は全然出てこない。

シンポジウム当日の東京経済大学キャンパス

小手川:2020年のときと比較すると、バイデンの献金者はほとんどが大口です。軍事産業とウォール街の銀行で、面白いのは、2020年の時から、トランプの献金者はほとんどが小口です。献金者の数が多いのです。今回もその傾向は基本的には変わっておりません。ところが、その中にひとりだけ大口献金者がいました。これは有名なテスラのイーロン・マスクではなく、日本では全然名前が知られていない石油関係の方で、中東と非常に良い関係があった方です。

 いますでに交渉が水面化で始まっていまして、2025年1月20日にトランプが大統領に就任したら、現在ロシアが占領している地域と、ウクライナとの間にいわゆる朝鮮半島形式で約5キロメートルの緩衝地帯を置き、そこにPKO(平和維持軍)を入れる。いま交渉しているのは、PKOを誰にするかという話と、それからウクライナが将来も含めてNATOに入るか入らないか、そこのところの文言を水面化で交渉している状況です。

 ウクライナとの停戦が行われると、何が起こるかというと、いま経済制裁の関係で、一般のマーケットに出てきていないロシアの石油天然ガスがどんどん出てきます。

 従って、基本的に一般のマーケットでは石油価格が下がります。そうすると困るのが、いま言ったような中東の国です。しかも今度の政権のエネルギー長官の第一候補は、アメリカのシェール産業の一番のリーダーです。当然、シェール産業の生産も増えます。そうすると石油の供給量が世界的に増えますから、ほっておけば当然価格は下がっていきます。

 それでは最大の献金者も困るだろということで、政府の唯一の方法は消費を増やすことです。アメリカの国内の石油の消費は相当に増えると思います。

 その延長線上に、アメリカがパリ協定から脱退する話が決められてくるので、そこがこれから非常に注目に値するところではあるとは思います。

ディスカッションを行う小手川氏(右)と周牧之教授(左)

 周:2007年から2009年の間に、私はアメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)で客員教授をやっていました。当時、IMF日本代表理事をお務めだった小手川さんと、アメリカでも交流を重ねていたのですが、ちょうどその時、アメリカではオバマが大統領選に出ていて非常に面白い現象が起こった。オバマに使いきれない程の金が集まった。

 相手の共和党のマケインは、最後は金が底をついてコマーシャルが出せなくなった。一方のオバマはコマーシャルを分単位でなく30分単位でバンバン流していました。民主党政権の変質がひしひしと感じられた経験でした。

 小手川さんとは、ここ数年、本学のゲスト講義で議論を重ねてきたのですが、やはりアメリカという世界の唯一の覇権国家のブレ、選挙によるブレの、世界に対する影響は極めて大きいと痛感しています。このブレはおそらく、中国国内にいる皆さんが感じる以上に、世界的な影響が非常に大きい。それがGXにどう影響されてくるのか?

 周其仁先生の仰る通り、我々は飲むべきものを乾杯して飲んでいくしかない。GXに関しては、我々はやれることからやるしかないと痛感しているところです。

国際シンポジウム「グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来」セッション2会場

トランプ氏は個人的な交渉や取引を重視


 小手川:やはり日中は、地理的にも近いですし、経済的な関係も非常に深いので、当然今後仲良くやっていく必要があります。が、残念ながら日本の後ろには怖い怖い姑さんがいます。姑さんは、日本は自分の最大の同盟国とは言っているのですが、なかなか難しい人ですから、どうしてもこの姑さんがどういうことを考えているのかを、しっかり捉えていくことが重要だと思います。

 そんな観点からいうと、トランプさんは商売人です。戦争が大嫌いです。オバマやバイデンと違い、人権、民主主義、それからLGBTQなどへのドグマはありません。とにかく商売が好きで、しかも彼は自分の経験から一対一での交渉が大好きです。マルチの交渉、マルチの機関、IMFや世界銀行は大嫌いです。

 従って彼はとにかく一対一の交渉の場に出れば、自分が絶対に勝てると思っていますので、とにかく彼にとっては、どうやって相手を交渉の席に引っ張り出すかが最大の課題になります。

 そのため彼は物凄く高いボールを投げます。ところが実際に交渉の席につきますと、非常に話のわかる人に変わってしまい、とにかくディールをしたいというふうになってきます。

 トランプはニューヨークのちょっと東のクイーンズ地区の出身です。クィーンズ出身の人のことをニューヨークの人たちはどう言っているかというと、「Don’t listen to him」彼が言うことには耳を傾けるな。「Watch what he does」彼が何をするかを見ておけ、です。

 要するにトランプが色々な事を言っても全然気にする必要はない。実際彼が何をやってくるかが一番重要です。

 もう一つ付け加えますと、私も1980年代から90年代にかけて、アメリカを相手とした二国間交渉を嫌というほどやりました。相手は米財務省やUSTRで、当時のUSTRは、大体75名くらいいました。

 ところが2016年にトランプ大統領になり、ライトハイザー等がやってきて交渉に入ったのですが、その当時のUSTRは、なんと25名しかいませんでした。それで、どうなるかと言いますと、日本の外務省が作った合意案文を全部ほぼ丸呑みで、少しだけ変えてくるのですが、充分検討するような人間もいないようで非常に簡単に交渉がまとまりました。当時の外務省の人たちは万々歳だったことだけちょっと申し上げたいと思います。

講演を行う小手川氏

 周:トランプの交渉好きについては、中国の皆さんもよく議論しています。実は中国人ほど交渉好きな民族もあまりないです。市場のおばあちゃまからビックカンパニーの社長、そして政治家まで、中国人はみんな交渉が大好きです。問題は、交渉の相手が信用できるかどうかです。交渉した後、交渉とは全部違う話になってくると、これは信用できません。信用出来ない人間とは交渉してもしょうがありません。

 小手川:最後にひとこと。先ほどのセッションで徐林先生がおっしゃったことに関係しますが、アメリカは、最後は物凄く利己的になります。例えば、いまウクライナの関係で(ロシアに)経済制裁をやっているのですが、経済制裁にもかかわらずアメリカはずっとロシアから輸入しているものが三つあります。一つはウラニウムの鉱石、二つ目はディーゼルオイル、三つ目は化学肥料の原料になるケイ素です。とにかくアメリカは常に自分中心ですので、ルールとかはあまり考えない方がいいと思います。

 周:アメリカは、ユーラシア大陸から見ると「島国」なんです、彼らの対ユーラシア政策も、イギリスという島国の伝統的な考え方、戦略でやっています。日中関係もアメリカの影響をかなり受けます。GXもアメリカの影響をかなり受けます。やはり周其仁先生がきょうおっしゃっていたように、我々はやるべきことをやっていくしかありません。


プロフィール

小手川 大助(こてがわ だいすけ)
大分県立芸術文化短期大学理事長・学長、IMF元日本代表理事 

 1975年 東京大学法学部卒業、1979年スタンフォード大学大学院経営学修士(MBA)。
 1975年 大蔵省入省、2007年IMF理事、2011年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹、2016年国立モスクワ大学客員教授、2018年国立サンクトペテルブルク大学アジア経済センター所長、2020年から現職。
 IMF日本代表理事時代、リーマンショック以降の世界金融危機に対処し、特に、議長としてIMFの新規借入取り決め(NAB)の最終会合で、6000億ドルの資金増強合意を導いた。
 1997年に大蔵省証券業務課長として、三洋証券、山一證券の整理を担当、1998年には金融監督庁の課長として長期信用銀行、日本債券信用銀行の公的管理を担当、2001年に日本政策投資銀行の再生ファンドの設立、2003年には産業再生機構の設立を行うなど平成時代、日本の金融危機の対応に尽力した。

■ シンポジウム掲載記事


【シンポジウム】GX政策の競い合いで地球環境に貢献

【シンポジウム】気候変動対策を原動力にGXで取り組む

【シンポジウム】GXが拓くイノベーションインパクト

【シンポジウム】福川伸次:技術革新で挑む地球環境問題

【シンポジウム】鑓水洋:脱炭素化と経済成長の同時達成を

■ 登壇者関連記事(登壇順)


【コラム】福川伸次:日中関係、新次元への昇華の途を探る 〜質の高い経済社会の実現と新グローバリズムの形成に向けて〜

【フォーラム】鑓水洋:地域活性化策には明確なコンセプトが求められる

【刊行によせて】楊偉民:都市のハイクオリティ発展を促す指標システム

【刊行によせて】楊偉民:全く新しい視点で中国都市の発展状況を評価する

【講演】中井徳太郎:カーボンニュートラル、循環経済、自然再生の三位一体のイノベーション—地域循環共生圏構想

【フォーラム】中井徳太郎:分散型自然共生社会を目指して

【刊行によせて】中井徳太郎:生態環境社会への移行に寄与

【ディスカッション】中井徳太郎・大西隆・周牧之:コロナ危機を転機に 

【ディスカッション】中井徳太郎・安藤晴彦・和田篤也・周牧之:省エネ・再生可能エネルギー社会への挑戦と自然資本

【フォーラム】南川秀樹:コミュニケーションの場としてのエンタメを

【刊行によせて】南川秀樹:中国大都市の生命力の源泉は何か

【コラム】邱暁華:高度成長からハイクオリティ発展へシフトする中国経済

【ディスカッション】小島明・田中琢二・周牧之(Ⅰ):誰がグローバリゼーションをスローダウンさせた?

【ディスカッション】小島明・田中琢二・周牧之(Ⅱ):ユーラシア大陸を視野に入れた米中関係

 【専門家レビュー】周其仁:生態都市建設と都市総合発展指標

【刊行によせて】周牧之:新型コロナウイルス禍と国際大都市の行方

【論文】周牧之:二酸化炭素:急増する中国とピークアウトした日米欧

【論文】周牧之:アメリカ vs. 中国:成長と二酸化炭素排出との関係から見た異なる経済水準

【論文】周牧之:世界の二酸化炭素排出構造と中国の課題

【刊行によせて】徐林:中国の発展は都市化のクオリティ向上で

【対談】小手川大助 vs 周牧之:(Ⅰ)転換点で激動の国際情勢を見つめる

【対談】小手川大助 vs 周牧之:(Ⅱ)複雑な国際情勢をどう見極めるか?

【シンポジウム】石見浩一:アジアのバリューチェーンでGXを推進

石見 浩一  エレコム社長、トランス・コスモス元共同社長

■ 編集ノート:東京経済大学は2024年11月30日、国際シンポジウム「グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来」を開催した。福川伸次元通商産業事務次官、鑓水洋環境事務次官、岡本英男東京経済大学学長、楊偉民中国第十三回全国政治協商会議経済委員会副主任、中井徳太郎元環境事務次官、南川秀樹元環境事務次官、邱暁華中国統計局元局長、徐林中米グリーンファンド会長、田中琢二IMF元日本代表理事、周其仁北京大学教授、索継栓中国科学院ホールディングス元会長、岩本敏男NTTデータグループ元社長、石見浩一エレコム社長、小手川大助IMF元日本代表理事、周牧之東京経済大学教授、尾崎寛直東京経済大学教授をはじめ産学官のオピニオンリーダー16人が登壇し、日中両国のGX政策そしてイノベーションへの努力などについて議論し、未来に向けた提言を行った。石見浩一氏はセッション2「GXが拓くイノベーションインパクト」のパネリストを務めた。


周牧之・索継栓・岩本敏男・石見浩一・小手川大助:東京経済大学国際シンポジウム「グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来」セッション2「GXが拓くイノベーションインパクト」

■ THINK ECOLOGYでGXを


 石見浩一:周牧之教授の文献を読ませていただいて、実際1979年までの世界CO2排出量が、現在の蓄積の約54%に相当し、1980年から99年の増加分は現在の蓄積の15.3%、2000年から2019年までの20年間の増加分は現在の蓄積の30.7%を占め、もう世界は至急の状態になっていることが分かります。また中井徳太郎さんによると0.03%くらいが産業革命時の全大気の中のCO2量だったのが、今もう0.04%を超え、(CO2濃度)400ppmを超えて急激に進んでいるとのことです。実際GXの取り組みはマクロの部分では大勢の方が話していただいたので、私は1100億円くらいの企業のトップですから、そういう企業がこうしたことを積み重ねないとより良くならないのではないかという、何かヒントになるような話が出来たらと思います。

図 世界におけるCO2排出量拡大の推移

 石見:私の簡単な自己紹介から入らせていただきます。私自身は味の素とトランス・コスモスとエレコムの3社に在籍し、新しい事業の創造や海外事業の発展、経営に携わってきました。実質156カ国にビジネスとして訪問しその市場を見、事業を作ってきました。CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)や関係会社の経営や取締役を200社近くさせていただき、いろいろな形で上場企業も含め経営を見てきた経験があります。よりGXのグローバル化への取り組みは重要だと身をもって感じます。

 エレコムは、創業38年周年目に入り、葉田順治という創業者と共に経営を一緒にしています。エレコム自身はPC、モバイルなどの製品を開発、発売し、BtoCからBtoBへ事業拡大し、今はグローバル事業への発展を取り組んでいる企業です。最近、調理家電やペット家電、ドライヤーなど通電系の事業も広がりを見せ始めています。

 エレコムブランドの70%以上は中国で製造しています。私たちはファブレスメーカーですので、私たちが開発、デザインをし、中国のメーカーと一緒になってモノを製造する。そして販売、営業をエレコムが担うことで、日本の量販店、B to B市場へ販売しているという事業プロセスです。

 

 石見:エレコムの企業の目的である「Better Being」とその取り組みとしてここで書いています。ポイントでは、製品開発、調達面はエレコムが担い、よりお客様にご満足いただける製品やソリューションを提供する。中国も含めたサプライチェーンを一緒にきちんと実行することにより、より価値の高い製品やコスト効率の良い製品を生産する。そしてそれらの製品を日本のみならずこれからグローバル市場という成長の高い市場に提供していきたい。海外市場販売はまだ全体の3%の売上です。次の5年間でグローバル市場を20%まで持っていきたいと考えています。事業の根幹である従業員、「人」が一番重要だという経営感を私は持っています。Better beingをパーポスにし、これからもより良い製品、より良いアクションを続けていきたいと思っています。

 エレコムグループが最初にGX活動らしく進めていることの一つに、森を再生することです。これは結構時間がかかります。2009年と2012年に海辺と山に対して、再度森林を再生の取組を実施しています。10年、15年単位で森を、防風林を、再生していく。これを実際進めることによって、他の場所にも広げられるパターンを作りつつあり、各自治体とも話をし、エレコム自身のノウハウとして今後も進めていきたいとと考えています。

 また、棚田100選に選ばれた丸山千枚田という景観を維持、広げる活動も実施しています。この棚田は熊野にあります。実際自治体へ寄付する中でこの素晴らしい景観をより早く、継続的に再生していきたいと感じ取り組んでいます。実際行っているときに知見のある方が言われていたのは、棚田を守ることだけが答えではない。棚田と上流にある山、森が繋がっているのでその森、山からどの様に水が下りてきて、棚田と連携しているかの循環を見据えて設計しないといけない。森の適宜伐採も含め進めていかないと丸山棚田がきちんと管理出来ていることにならないと指導を受けました。森からつながって、田んぼがあり、結果としてお米ができるという点を私自身が認識しました。

 

 石見:現在のエレコムがGXの主流が、CO2排出を吸収できる取組、森をつくる、棚田を再生する活動を中心に進めています。今後さらにサステイナビリティを考える上で、強力に実現していけないと考えていることが、(エレコムグループGX活動)2と3です。

 2と3は実際私たちが再生エネルギーを使って、モノを作っていく。日本にも松本と伊那に工場があり、湘南国際村に研修所があるので、そこは太陽光の発電パネルを中国から仕入れ、そこで再生エネルギーを使って動く取組を進めています。

 また石油由来のプラスチックをなるべく減らしたいということから、2021年に、「THINK ECOLOGY」というブランドをエレコムとして作りました。そのTHINK ECOLOGYが付く製品をより多く出していこうということを、凄く今考えてやっています。例えば、ケーブルですが、このケーブルは土に還ります。とうもろこし由来のプラスチック再生を使っています。ただ、こういう製品にかかるコストが1.3倍から1.4倍くらいになるので、製品の意味を伝えて高く製品を販売できる消費者を作るとか経済的な形をどう作っていくかが、大きな課題だと思います。

 「THINK ECOLOGY」ブランドで、パッケージやプラスチックの再生や、マニュアルのWeb化を、2021年と比して、10%、20%落とした製品であればこのマークを付けて良いと決めて、いま全型番の52%まで来ています。これが100%になっていくことを目指し、そして従来より今プラスチック74トン分くらいは効率化で使わなくなってきていますので、そうしたことを迅速に実行していくことが企業として大切に考え、動いてる最中です。

周牧之(司会):ありがとうございます。このセッションの登壇者三人(岩本敏男NTTデータグループ元社長、石見浩一エレコム社長、小手川大助IMF元日本代表理事)には共通の特徴が一つあります。それは、御三方がいずれも日本のグローバル化を推し進める旗手であるということです。国際人であるだけでなく、それぞれの企業グループのグローバル化を、猛烈に推し進めてきた方々です。

起業家精神の極意


 周:今日の世界における企業発展のロジックは完全に変わりました。技術力と起業家精神に秀でたイノベーティブなスタートアップ企業が、世界経済パラダイムシフトを起こす主要な勢力となっています。

 ここでいう起業家精神とは、企業を興す起業家精神です。GX時代も、まさしく起業家精神の有る無しに、かかっています。

 NTTデータ、そしてエレコム、また中国科学院ホールディングス傘下のレノボ(Lenovo)は、すべて1980年代に創業したテック企業です。

 石見:いま岩本敏男さんがおっしゃっていたScope1と2、これは自社内なので、ある程度出来ます。どうしてかというと私たちがルールを決めて、私たちが測って、私たちが課題に対して対応策を取れるからです。

 一番重要なのは、PPTの右側の小さいものですが、(CO2)90%はメーカー、中国、台湾、ベトナムのメーカーで出てきます。ですから、この90%のScope3に手を付けないと、結局ファブレスのようなメーカーは最終的な答えが充分出ないです。そこをどういうやり方、どういう取組、ルール化を進めていくかは将にこれからが重要だと思って進めていきます。

 ですので、メーカーを選ぶ時に、原料から全部指定して対応するとか、製造工程をきちんと見させていただいてから動くなど、私たちは深圳の福田区にR&Dセンターを作りました。そこからきちんと中国メーカーと共にScope3に対応を進めていきたいと思っています。

 石見:きょうは学生さんが結構いらっしゃるので、起業家精神を私なりに、全部英語で書きました。私が経営を携わり200以上の企業と関わる中で、重要なことを記しました。前職のトランスコスモスでは、中国にもメンバーが7000人くらいいましたから、投資をした様々な企業の方々にもお会いし、中国でも上場企業の社外取締役を勤めました。

 当時日本で最短で一部上場までいったマクロミルという会社が、2003年から従業員が数10人ぐらいだった時から社外取締役をやり、その経営のプロセスをみてきました。当時どういうことが起きていたかを考えた時に、Entrepreneurship、起業家精神は、どういうことかとで、最初に僕が浮かんだのは、経営は実行であるということです。Discipline of Getting things done、実行ができなかったら経営ではない。ここが私の中では一番重要なポイントです。

 実行をするためにどうするのかを、起業家精神の中では考え続けることが重要です。

 これは左と右に分けています。左は、計画策定など考えること、起業をするときに、企業を大きくするときに考えること、プランニングするところです。もちろん市場調査、戦略戦術を練るところもあります。

 私自身が起業の時に重要だと思ったのは、ビジョン、何になりたいのか。10年後20年後に何になりたいのか。何の目的のためにやっているのか。そして使命は何なのかです。その企業の、カルチャーも作る企業としての将来の方向性なしでは、起業家の精神が本当の形では生まれない。そればかり話していたのが、マクロミルを始め重要な成功しているベンチャー企業の経営陣でした。

 石見:その部分があってStrategy、タクティクス(戦術)があり、そして、なおかつ市場は動き、テクノロジーも動きますから、そこを考えていくところが計画です。

 それにも増して一番重要なのは右側です。Executionです。これは実行力、実行あるのみという部分で、先ず浮かぶ四つの言葉は、リーダーシップです。

 中国の企業家でもあった、中国のマイクロソフト代表と会い、マイクロソフトと上海最大ベンチャーキャピタルと一緒になってウィクルソフトとJV会社を作り、その後そのCSサポートを実施するJVを作った会社を買い取り、その後大きくなり5000人を超える会社になったとき、彼らの優秀さと、彼らの権限移譲されたディシジョンの速さに、リーダーシップの強さ、その場で決める力は、日本の企業を凌駕していることを感じました。そこがEntrepreneurshipの中で重要なポイントです。

 あとは、ベンチャーをスタートして3年5年のときに、さっき周先生の文献も読ませていただいたのですが、L字型の成長は、新しい製品やサービス及びビジネスモデルを開発し、既存の産業の再定義をすることで生まれてくる。

 要するに変わり続けることです。市場の動向、市場の状況、競合の動きのところでチェンジマネージメントをしない限り、優位性は出ない。ベンチャーはお金がないから、変わり続けたスピードで勝つしかないです。

シンポジウム当日の東京経済大学キャンパス

 石見:チェンジマネージメントのスピードをやりながら、どうビジネスのスケールをアップしていくか。この市場に入るとこのスケールがある程度取れるから、インターネット市場調査をやって大手企業に食い込んでいこうか等、スケーリングを大きくするためにすることが次の成長を考える上で重要です。

 チャレンジと変革、そしてもう一つ、レジリエンスをやっていても、事業というのは失敗します。ときに転びます。転びながらも復活力、回復力で強い意志を持ち続け、次のステップにいく。それはリーダーシップの重要な取組の一つでもあります。

 エレコムでGXを推進するところで、私自身が一番重要だと思うのは「協働」です。GXを実現するには意味があるわけで、グループ会社や中国の製造会社と、どれくらい私たちの目的、やるべきこと、実際やることによって得られるものが協働できるか。そこがGXを進める上で、一番重要な要素だと心から思っています。この協働がきちんとすべてのScopeで対応できていくことが重要だと思います。

国際シンポジウム「グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来」セッション2会場

 石見:政府のレギュレーション、政府の助成金、政府の考えている項目は、企業にとっては重要です。そこにきちんとキャッチアップし対応していく。あとはビジネスの機会への発想、ビジネスの機会があるから、このGXを進めていく、また、CSRやコストの効率化で持ち続けること。そして経済との新しい価値の連動、エレコムの中ではGPIFもそうですし、再生材のコストでより高い価値の製品を作ることもそうです。

 そうした発想を、経済と新しい価値の創造をしていかないと、なかなか価格の転換はできないので、この三つの協働、ビジネスの機会への発想転換と行動、そして経済との新しい価値創造を視点に、私自身がGXをより進めていきたいと思います。

パネリストの岩本敏男氏、石見浩一氏

日中協力でアジアのバリューチェーンを


 周:最後に、GXそして二酸化炭素削減に向けて、日中の協力の可能性についてお話ください。

 石見:中国は、私たちのビジネスには欠かせないので、逆に言うと、どう一緒にやらせていただくのかが一番重要なイシューです。

 前述の通り、90%近い製造を中国のメーカーさんに担ってもらっている。深圳に私たちは新しくR&Dセンターを作り、いまどんどん中国との取引、ビジネスも広がっています。そこで多くの製品の品質を検証する。そしてその製品を持って日本市場、もしくはアセアン市場、その他の市場、米国市場に持っていく形もあります。

 これは笑い話ですが、脱中国だということで中国メーカーではないところに形を作ろうと言っても、中国の技術は圧倒的なので、アセアン、ベトナムやフィリピンへ行っても、中国メーカーがそこで製造している、そういう状況がほとんどです。

 石見:ですから逆に、どう一緒に世界の市場を開拓していくか、そして(世界の)GDP も大体60%くらいはアジア、インドを含むところから今後出てきますから、アジアの市場は、やはり中国と共に、より形を作っていく。グローバリゼーションは、いろいろな事が起きても最終的には続くと私は思っています。

 ですから、其の時に、アジアで、中国と日本、日本と中国で、どうバリューチェーンを作り、そして実際アジアの市場で戦っていくのか。グローバル市場で戦っていくのか。そこを模索し続けること。いろんなことは起きても、模索し続けることが結果としてGXの取り組みを協働することが重要です。

 再生可能エネルギーやエネルギーの使用量減はすぐできますし、いまも太陽光パネルは中国から調達し進めています。蓄電も、リチウムも圧倒的です。2月に私たちも中国の技術を使ってナトリウム電池を初めて発売しますが、リチウムとナトリウムの電池を中国で開発し、アジアで販売を強化していく。

 最終的にはグローバル化につながって、私たちはよりアジアの市場できちんとプレゼンスを残していきたいと考えています。

 エレコムのパーポスは、「Better being」です。より良き製品、より良きサービス、より良き会社、より良き社会を一緒になって作っていきます。


プロフィール

石見 浩一(いわみ こういち)

1967年生まれ。92年イリノイ大学院 修了、93年4月味の素入社。2001年3月トランスコスモス入社、02年6月同社取締役、03年6月同社常務取締役、05年6月同社専務取締役、06年6月同社取締役副社長、20年6月同社代表取締役副社長、22年6月同社代表取締役共同社長、23年4月同社顧問(現任)。23年7月エレコム副社長執行役員(現任)、24年1月ELECOM KOREA CO.,LTD. 代表理事(現任)、ELECOM SINGAPORE PTE.LTD. Managing Director(現任)、ELECOM SALES HONGKONG LIMITED. Director(現任)、ELECOM(深せん)商貿有限公司 董事(現任)、24年2月groxi代表取締役社長(現任)。

■ シンポジウム掲載記事


【シンポジウム】GX政策の競い合いで地球環境に貢献

【シンポジウム】気候変動対策を原動力にGXで取り組む

【シンポジウム】GXが拓くイノベーションインパクト

【シンポジウム】福川伸次:技術革新で挑む地球環境問題

【シンポジウム】鑓水洋:脱炭素化と経済成長の同時達成を

■ 登壇者関連記事(登壇順)


【コラム】福川伸次:日中関係、新次元への昇華の途を探る 〜質の高い経済社会の実現と新グローバリズムの形成に向けて〜

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【刊行によせて】楊偉民:都市のハイクオリティ発展を促す指標システム

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【論文】周牧之:二酸化炭素:急増する中国とピークアウトした日米欧

【論文】周牧之:アメリカ vs. 中国:成長と二酸化炭素排出との関係から見た異なる経済水準

【論文】周牧之:世界の二酸化炭素排出構造と中国の課題

【刊行によせて】徐林:中国の発展は都市化のクオリティ向上で

【対談】小手川大助 vs 周牧之:(Ⅰ)転換点で激動の国際情勢を見つめる

【対談】小手川大助 vs 周牧之:(Ⅱ)複雑な国際情勢をどう見極めるか?

【シンポジウム】周其仁:地球環境問題には先ず各自の取り組みが肝要

周其仁 北京大学教授

■ 編集ノート:東京経済大学は2024年11月30日、国際シンポジウム「グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来」を開催した。福川伸次元通商産業事務次官、鑓水洋環境事務次官、岡本英男東京経済大学学長、楊偉民中国第十三回全国政治協商会議経済委員会副主任、中井徳太郎元環境事務次官、南川秀樹元環境事務次官、邱暁華中国統計局元局長、徐林中米グリーンファンド会長、田中琢二IMF元日本代表理事、周其仁北京大学教授、索継栓中国科学院ホールディングス元会長、岩本敏男NTTデータグループ元社長、石見浩一エレコム社長、小手川大助IMF元日本代表理事、周牧之東京経済大学教授、尾崎寛直東京経済大学教授をはじめ産学官のオピニオンリーダー16人が登壇し、日中両国のGX政策そしてイノベーションへの努力などについて議論し、未来に向けた提言を行った。周其仁氏はセッション1「GXにおける日中の取り組み」のコメンテーターを務めた。


南川秀樹・邱暁華・徐林・田中琢二・周其仁:東京経済大学国際シンポジウム「グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来」セッション1「GXにおける日中の取り組み」2024年11月30日

■ 日中を含む各国GX経験の情報開示こそ鍵


 第1グラウンドの議論は大変有意義でした。先ず南川先生は鋭い問題を提起されました。気候問題は、被害が深刻であると同時に全人類に及びます。同問題は非常に難しいです。地球温暖化の加害主体と被害主体との間には、この問題に対する見解に大きな相違があります。発展段階の違いにより、先進国と新興工業国、そして後進開発途上国では、同問題に対する見解が大きく異なります。したがって、この問題は人類が直面する非常に大きな難題です。

 続いて邱暁華局長、徐林先生、田中先生、そして南川先生は、中国と日本による気候変動への対応、GX(グリーントランスフォーメーション)の経験について紹介しました。これは非常に印象深いものでした。この2カ国は、国家戦略目標、国民意識、政策措置、そして培ってきた経験のすべてにおいて、GXの分野で、人類全体にとって有益且つ具体的な経験を数多く生み出しています。

 シンポジウムに参加いただいている皆様も私と同様、日中を含む国々がこの分野で積極的な措置を講じた結果、地球温暖化に対して、どう影響を及ぼし、どの程度の効果を生んだのか、高い関心をお持ちだと思います。これらの情報の開示こそが、この問題に対してまだ積極的でない国や人々を説得し、積極化させるための鍵となるでしょう。 同時に、私たち自身がGXを継続する自信を強化することにもなります。

会場風景

■ 具体的な成果を見せることで環境問題への関心向上を


 皆さんのお話を聞くと、最大の努力を払い、気候変動やCO2排出問題を国際経済政治の摩擦・衝突のテーマにならないようにしていくべきです。最大の努力で、国際経済協力のテーマや、国際共同のイノベーションに変え、新たに挑戦に向き合わなければなりません。徐林さんが先ほど述べたプロジェクトは非常に重要です。最終的に各国の人々にこの取り組みに参加するよう説得が必要です。発展途上国にしても先進国においても、です。効果の見えるプロジェクトが重要です。より多くの人々の説得に役立ちます。

 また、田中先生が先ほど紹介した国や国際機関の取り組みも、非常に深い印象を受けました。一国が自らの努力で成果を上げると同時に、できるだけ他国を説得し、多くの国が共同で努力することが大切です。例えば、ゼロエミッションの共同体では、共に目標を設定し共に新しい技術を活用し目標を達成する。このようなアプローチは説得に役立ちます。これは人類の挑戦だからです。

 しかし、全人類が今のところ一斉に同じ行動をとることは不可能です。このようなことを調整する世界政府も存在しません。部分的なことから始めるしかありません。部分だからこそ効率重視でスタートすべきです。効果をもってより多くの国と人々を、こうした取り組みに参加するよう説得できます。

周其仁 北京大学教授

■ 気候問題、まず大国間で協力模索を


 トランプの再任で、気候変動や炭素削減について一体どの程度の衝撃と影響があるのでしょうか?これはオープンクエスチョンです。短期的にはっきりとした結論が出る問題ではありません。

 例えば田中さんが、大国のリーダーの間でよく話し合ってほしいとおっしゃったことは私もそう望みます。問題は、大国の指導者の中で、とある非常に大きな国の指導者は、地球温暖化の傾向を根本から信じていません。これをナンセンスだとさえ思っています。これで指導者同士がどう話し合って意見をまとめることができるでしょうか?主要大国が合意できなければ、世界的な合意にいたることは不可能です。

 この問題に与えるトランプの衝撃を緩和させるには、別の方法が考えられます。グローバルな枠組みの合意達成に向けた期待を、あまり高く持たないことです。

ディスカションを行う南川秀樹・元環境事務次官(左)、周其仁・北京大学教授(右)

 人類は、大きな問題を協議で解決するようにはなっていません。まだそこまで進化していません。いま局地的な戦争が起こっています。こうした局地的な戦争よりさらに解決の難しい環境問題について、すぐに合意に至ることはあまり期待できません。国連があっても世界各地で戦争が絶えません。万人単位の命が消えていっています。戦争問題も解決できないのに、どうやって地球環境のような長期的な問題を解決できるのでしょうか?

 世界的な合意に対する期待を抑え、どの国、どの国民、どの団体も、この問題の解決が必要だと思ったらすぐに取り組むべきです。効果が出たら、それが現実的な解決策になるかもしれません。

 これは昨晩、皆さんがお酒を飲んでいる場面を見た時の感じと似ています。私は飲めませんから皆さんが飲んでいるのを見て、「他人に飲ませず、先ず自分が先に飲んでしまう飲み方を賞賛したい」と思ったわけです。皆さんありがとうございました(会場爆笑)。


プロフィール

周 其仁(Zhou Qiren)

 1950年生まれ。中国社会科学院、中国国務院農村発展中心発展研究所での勤務を経て、英国及び米国へ留学し、UCLAにて博士学位取得、1995年帰国。北京大学中国経済研究中心教授、同中心主任、北京大学国家発展研究院院長、中国人民銀行貨幣政策委員会委員など歴任。

 主な著作に、『発展的主題:中国国民経済結構的変革』(1987年、四川人民出版社(中国))、『農村変革与中国発展 1978−1989 』(1994年、オックスフォード大学出版社(香港))、『中国区域発展差異調査1978−1989』(1994年、オックスフォード大学出版社(香港))、『数網競争:中国電信業的開放和改革』(2001年、三聯書店(中国))、『産権与制度変遷』(2004年、北京大学出版社(中国))、『挑灯看剣:観察経済大時代』(2006年、北京大学出版社(中国))、『真実世界的経済学』(2006年、北京大学出版社(中国))、『収入是一連串事件』(2006年、北京大学出版社(中国))、『世事勝棋局』(2007年、北京大学出版社(中国))、『病有所医当問誰:医改系列評論』(2008年、北京大学出版社(中国))、『中国做対了什么』(2010年、北京大学出版社(中国))、『貨幣的教訓』(2012年、北京大学出版社(中国))、『競争与繁栄』(2013年、中信出版社(中国))、『改革的逻辑』(2013年、中信出版社(中国))、『城郷中国』(上)(2013年、中信出版社(中国))、『城郷中国』(下)(2014年、中信出版社(中国))。

■ シンポジウム掲載記事


【シンポジウム】GX政策の競い合いで地球環境に貢献

【シンポジウム】気候変動対策を原動力にGXで取り組む

【シンポジウム】GXが拓くイノベーションインパクト

【シンポジウム】福川伸次:技術革新で挑む地球環境問題

【シンポジウム】鑓水洋:脱炭素化と経済成長の同時達成を

■ 登壇者関連記事(登壇順)


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【シンポジウム】徐林:中国経済成長の新たな原動力となったGX

徐林 中米グリーンファンド会長

■ 編集ノート:東京経済大学は2024年11月30日、国際シンポジウム「グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来」を開催した。福川伸次元通商産業事務次官、鑓水洋環境事務次官、岡本英男東京経済大学学長、楊偉民中国第十三回全国政治協商会議経済委員会副主任、中井徳太郎元環境事務次官、南川秀樹元環境事務次官、邱暁華中国統計局元局長、徐林中米グリーンファンド会長、田中琢二IMF元日本代表理事、周其仁北京大学教授、索継栓中国科学院ホールディングス元会長、岩本敏男NTTデータグループ元社長、石見浩一エレコム社長、小手川大助IMF元日本代表理事、周牧之東京経済大学教授、尾崎寛直東京経済大学教授をはじめ産学官のオピニオンリーダー16人が登壇し、日中両国のGX政策そしてイノベーションへの努力などについて議論し、未来に向けた提言を行った。徐林氏はセッション1「GXにおける日中の取り組み」のパネリストを務めた。


南川秀樹・邱暁華・徐林・田中琢二・周其仁:東京経済大学国際シンポジウム「グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来」セッション1「GXにおける日中の取り組み」2024年11月30日

■ 中国はイノベーションで太陽光・風力発電コストが削減、政府補助金が不要に


 中国は、GXを「生態文明」という高い次元にまで引き上げた国です。このような取り組みは、他の国では多く見られません。中国は単にスローガンを掲げているわけではなく、実際に行動を起こしています。2024年7月に開催された中国共産党第20回三中全会では、中国の生態文明建設に関する内容に新たな表現が出されました。第一に緑を増やす、第二に汚染を減らす、第三に二酸化炭素を削減、第四には成長という4つの目標を一纏めにして掲げました。これは大変重要だと思います。

 過去10数年間、中国は環境改善と炭素排出削減のために、非常に厳しい措置を採ってきました。実際、企業の発展に犠牲を強いることもありました。経済成長にも影響を与えました。第20回三中全会の新しい表現は、過去のやり方を修正する非常に重要な一歩だと私は考えています。

 環境政策において中国は一体具体的に何をしたのでしょうか?これについて先ほど楊偉民主任と邱暁華局長から紹介がありました。例えば、緑を増やすことでは、中国は森林カバー率を上げ続けてきました。ご存じのように日本の森林カバー率は非常に高いです。約68%です。アメリカは約35%です。中国は目下、25%しかありません。これは、過去40年かけてようやく約12%から25%まで増加させたのです。森林面積は倍増しました。つまり、過去40年かけて100万平方キロメートルのグリーン空間を増加させました。これは、日本の国土面積(約38万平方キロメートル)の約3倍に相当します。仕事量も投資量も非常に大きかったです。現在、中国の森林による二酸化炭素の吸収は12億トンに達し、それは中国の年間二酸化炭素排出量の10分の1に相当します。緑を増やすこと自体が炭素排出削減に大きく貢献しています。

 汚染削減の角度から見ると、先ほど楊偉民主任が紹介されたように、中国は第11期五カ年計画で汚染物質排出削減を拘束性のある目標として以来、毎回の五カ年計画で新たな削減目標を掲げてきました。幾度の五カ年計画の努力を重ねた結果、中国の生態環境状況は、大きく改善されました。水の澄み具合、空気の清浄度、各種汚染物質の排出状況のいずれも顕著に改善されました。

会場風景

 二酸化炭素削減の角度から見ると、非常に困難を伴います。中国は、イノベーションを進め、主な領域でそのペースを加速させています。先ほど邱局長はエネルギーGXに関する数字を沢山紹介しました。実際、中国は水力、原子力、風力、太陽光をグリーンな低炭素電力と見做しています。現在、これら電力設備の容量は全国電力の55%以上を占めるようになりました。これらの発電量の合計は今年末には35%に達すると見られています。今後も、風力や太陽光、原子力の発電能力の建設スピードは更に加速される予定です。

 しかし、この新エネルギー設備の建設スピードは、現在の電力需要の増加に十分に追いついていません。DXの加速により、中国の電力消費の増加は顕著だからです。例えば、2024年全国の電力消費量は5〜6%増加したのに対して、デジタル経済とインターネット関連の電力消費量は約30%以上増加しています。中国は将来的にグリーン低炭素電力への転換スピードを非常に速くしなければなりません。言い換えれば、グリーン電力に置き換えるスピードは、電力消費拡大を上回る必要があります。これについて中国の今後には期待できます。なぜなら中国の太陽光発電技術と風力発電技術は絶えず進歩し、コストも下がり続けています。これらの分野での投資は、既に利益を出すことが出来ています。いかなる政府補助金も不要です。商業投資に多くの機会をもたらしています。

 成長の角度から見ると、かつてGXを成長圧力と見做していましたが、現在ではイノベーションが進み、グリーン電力投資のコストダウンで益々多くの投資家が、中国ではGXが圧力ではなく投資と成長の相当大きなチャンスをもたらすと判ってきました。GXは未来の中国にとって新たな経済成長の原動力となっています。

ディスカッションを行う邱暁華・中国統計局元局長(左)、徐林・中米グリーンファンド会長(中央)、田中琢二・IMF元日本代表理事(右)

■ 中国の新エネ技術、発展途上国でも商業的に成功の可能性


 中国は一貫して地球気候問題において積極的な姿勢を示しています。もちろん中国は発展途上国として、先進国と共同且つ区別のある責任を果たすと言い続けています。しかし私は中国がより多くの事ができると思います。なぜなら中国は世界で最も多くの二酸化炭素(CO2)を排出している国であり、これは世界の排出量の約30%を占めています。世界の3分の1のレベルです。もし、中国が自身のCO2削減がうまく出来れば、実際に世界全体のCO2削減に対して巨大な貢献となります。だから、中国は先ず自身の二酸化炭素排出コントロールを更に進める。目下の中国の進展をみると、私個人の見方はポジティブです。中国は早期にピークアウトを、さらにはカーボンニュートラルを実現できると思います。

 中国は発展途上国により多くの貢献が出来ると思います。中国自身も発展途上国ですが、小さな発展途上国と比べると比較的工業化の進んだ国です。CO2削減及び新エネルギーなどの分野で中国は優れた技術があります。これらの技術は発展途上国のグリーン低炭素エネルギーへの移行に大いに活用できると思います。

 私はいま投資家でありビジネスマンです。ビジネスマンの観点からすると、中国の新エネルギーの技術を他の発展途上国のグリーン低炭素エネルギー代替に活用することは、投資の良いチャンスがあります。必ずしも政府の援助資金を使って発展途上国の二酸化炭素削減を支援する必要はありません。たとえば、最近私のところに、とある太平洋の島国における太陽光発電プラス蓄エネルギーのプロジェクトが持ちかけられました。この島国は現在、ディーゼルを燃焼させて電力供給を満たしています。電気のコストは非常に高いです。もし中国の太陽光発電技術と蓄エネルギー技術を利用し、エネルギー代替をすれば、現在の電力コストの三分の一で済みます。これでグリーン低炭素エネルギーへの転換を実現でき、この国の電力供給において大幅なコストダウンが出来ます。ですからこのような領域において中国は更に多くの努力を発揮できる機会がたくさんあります。

 もちろん中国は気候基金においても先進国と共同で気候関連プロジェクトに融資を提供できます。未来において中国はより多くの努力と貢献ができると確信しています。ありがとうございます。

徐林 中米グリーンファンド会長

■ EUの国境炭素税で中国企業が炭素削減を


 欧州連合(EU)の国境炭素税にしろ、アメリカのインフレ抑制法案にしろ、いずれも貿易保護主義の考え方が含まれています。しかし、実際アメリカは完全にそうではない。たとえば、アメリカは以前、中国からアメリカへ輸出する太陽光パネルに関税をかけましたが、最近その関税を撤廃しました。その理由は、アメリカがAIビッグモデルの開発で多くの電力を使うため、電力不足で新しい発電能力が必要だからです。しかし、新しい電力を火力に依存すると二酸化炭素が出てしまいます。

 中国は世界で最も変換効率の高い太陽光パネルを作っているので、アメリカは妥協しました。この件を見てもわかるようにアメリカは、自分の利益を考えると同時に、他の要素にも配慮しています。ですから、私はここで直接アメリカが利己的だと批判したくありません。但し総体的にアメリカの気候変動に対する態度にはブレがあります。世界最大の先進国としてこうした態度はあまり評価できません。

 EUの国境炭素税については二つ問題があります。1つは、保護貿易をするために炭素税をもってEUの産業を守ろうとします。あるいは他国の産業をEUに誘致します。しかし実際には、多くの産業がEUに集まることでEU内での二酸化炭素の排出が増やします。工業企業は多くのエネルギーを消費し、そのような側面もあります。

 貿易にはマイナスの影響が出ることは間違いありません。もちろん域内への生産力の移転をもたらしますが、炭素削減に必ずしもプラスとは言えません。その意味で国境炭素税の性格は複雑です。

 中国の立場からすると、EUの国境炭素税の貿易へのマイナスの影響をより重く見ています。しかし私は投資家としての観点からすると、EUの国境炭素税は中国の多くの企業に既に制約を与えています。多くの中国企業はサプライチェーンのカーボンフットプリント問題を益々意識するようになりました。自分のサプライチェーンのカーボンフットプリントを削減していきたいのです。

東京経済徐林 中米グリーンファンド会長

 その影響として、中国の工業生産能力の一部は西部地域に移りつつあります。なぜならこれらの企業は、グリーン低炭素電力を使いたいです。中国で低炭素電力が最も豊富なのは西部地域です。昔、私が中国国家発展改革委員会で楊偉民主任と共に西部大開発戦略に取り組んだとき、中国の一部の企業を西部へ投資するよう推し進めました。しかし、企業はほとんど行きませんでした。いまEUは国境炭素税をかけることで、企業は自ら西部に投資するようになりました。こうしたEUの国境炭素税は、制約条件として中国の産業に、他の国の産業にも、より良い技術あるいは生産拠点シフトで、炭素削減していく契機となりました。その意味では(EUは国境炭素税)も積極的な好影響があります。

 この問題には公平性も関わってきます。炭素税は生産者にかけるべきか、それとも消費者にかけるべきか?工業製品が二酸化炭素を多く出して作られている場合、消費者も責任を持つべきではないでしょうか?それともすべて生産者に責任があるのでしょうか?これは真に公平公正なのか?この点について私の考えはまだまとまっていません。しかし、生産者だけに負担させ、消費者の責任を考えずに、そうした製品を消費することで炭素排出に貢献している責任を負わなくていいのか?この問題も私は議論するに値すると思います。

 日本も中国も工業製品を多く輸出する国です。実際、同じ問題に直面しています。私は、少なくとも私たち日中両国は下記の分野で協力すべきだと思います。

 例えば、気候変動問題が全人類共通の課題である以上、我々はWTOの枠組みの下で、地球気候変動に対処するための技術や製品、サービス、投資も含め、貿易の自由化と投資の利便化を推し進める制度の確立に努力すべきです。実際は、いまはまだこうした制度は存在していません。

 アメリカの関税措置を見てください。すべての新エネルギー関連製品が含まれています。こうした行為は、地球気候変動対策にはマイナスです。日中両国はさまざまな分野で協力して手を携え、地球気候変動対策の制度作りを推し進めることができます。


プロフィール

徐 林Xu Lin

 1962年生まれ。南開大学大学院卒業後、中国国家計画委員会長期計画司に入省。アメリカン大学、シンガポール国立大学、ハーバード・ケネディスクールに留学した。中国国家発展改革委員会財政金融司司長、同発展計画司司長を歴任。2018年より現職。
 中国「五カ年計画」の策定担当部門長を務め、地域発展計画と国家新型都市化計画、国家産業政策および財政金融関連の重要改革法案の策定に参加、ならびに資本市場とくに債券市場の管理監督法案策定にも携わった。また、中国証券監督管理委員会発行審査委員会の委員に三度選ばれた。中国の世界貿易機関加盟にあたって産業政策と工業助成の交渉に参加した。

 編書:『環境・社会・経済 中国都市ランキング—中国都市総合発展指標』(2018年、NTT出版、周牧之と共編著)、『中国城市総合発展指標2016』(2016年、人民出版社〔中国〕、周牧之と共編著)。

■ シンポジウム掲載記事


【シンポジウム】GX政策の競い合いで地球環境に貢献

【シンポジウム】気候変動対策を原動力にGXで取り組む

【シンポジウム】GXが拓くイノベーションインパクト

【シンポジウム】福川伸次:技術革新で挑む地球環境問題

【シンポジウム】鑓水洋:脱炭素化と経済成長の同時達成を

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【シンポジウム】田中琢二:地球気候変動対策に貢献し国の経済成長を図る

田中琢二 IMF元日本代表理事

■ 編集ノート:東京経済大学は2024年11月30日、国際シンポジウム「グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来」を開催した。福川伸次元通商産業事務次官、鑓水洋環境事務次官、岡本英男東京経済大学学長、楊偉民中国第十三回全国政治協商会議経済委員会副主任、中井徳太郎元環境事務次官、南川秀樹元環境事務次官、邱暁華中国統計局元局長、徐林中米グリーンファンド会長、田中琢二IMF元日本代表理事、周其仁北京大学教授、索継栓中国科学院ホールディングス元会長、岩本敏男NTTデータグループ元社長、石見浩一エレコム社長、小手川大助IMF元日本代表理事、周牧之東京経済大学教授、尾崎寛直東京経済大学教授をはじめ産学官のオピニオンリーダー16人が登壇し、日中両国のGX政策そしてイノベーションへの努力などについて議論し、未来に向けた提言を行った。田中琢二氏はセッション1「GXにおける日中の取り組み」のパネリストを務めた。


南川秀樹・邱暁華・徐林・田中琢二・周其仁:東京経済大学国際シンポジウム「グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来」セッション1「GXにおける日中の取り組み」2024年11月30日

社会的弱者、地域への配慮必要


 私は2年前までワシントンにあるIMFの日本代表理事をしていました。そこでやはり環境問題が非常に議論されました。私は今日、日本の取り組みと国際的な見方、どんな事が焦点になっているのかを中心にお話ししたいと思います。

 また、今日は邱先生、徐先生、周先生とご一緒させていただけることを喜びとしています。ありがとうございます。

 まず、これまでの気候変動問題への対応についてですが、日本で2030年度の温室効果ガス削減目標はマイナス46%であり、2050年にはカーボンニュートラルを実現するという話を中井次官、鑓水次官からいただいたところです。こうした中、ウクライナにおける戦争や中東での紛争を背景に、旧来型の資源に頼ることなく、再生エネルギーを始めGXの実現に向けて早期に取り組む必要がより高まったことがみなさんお分かりだと思います。

 日本政府は新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画において、GXの投資が盛り込まれ、先ほどの話のように昨年2月に、GX実現に向けた基本方針が出されました。

 これについて話します。IMFあるいは世銀で議論する時の環境問題は、グローバルには「ミティゲーション(抑制)」「アダプテーション(適応)」「トランジション(移行)」の3つが要素だと言われます。司会の南川先生から適応についてコメントするようお話をいただきましたので申し上げたいです。この基本方針に三要素が非常にうまく組み込まれています。

 最初のGX実現に向けた基本方針は、エネルギー安定供給の確保を大前提にし、まずは中小企業の省エネ支援強化、住宅の省エネ化支援などを徹底した省エネの推進です。これは1970年代以降日本の得意ワザだと思います。そして二番目、系統整備の加速、洋上風力の導入拡大、再エネの主力電源化、これも非常に急速に行われています。そして、次世代核革新炉への建て替え具体化、運転期間の延長等、これは国民的な理解が必要ですが原子力の活用、そして水素、アンモニア、これは今コストが非常に高いですが、これの研究開発、そして余剰LNGの確保といった重要な事項を行うこととしたのが基本方針です。

 二番目、成長志向型カーボンプライシング構想等を実現するとしているが、日本政府の成長志向型カーボンプライシング構想は経済成長と脱炭素化社会の実現を同時に目指すという政策だということは中井次官、鑓水次官からお話があったところです。

 この構想の実現には、成長志向型カーボンプライシングによるGX投資インセンティブに加えて、GX経済公債などの金融商品を通じて脱炭素化に向けた投資を促進する新たな金融手法の活用が大事です。こういう形で金融というキーワードが出てくるわけです。

 このGX経済公債とは政府が発行する債券を利用し、企業や地方自治体が再生可能エネルギーや省エネ技術に投資できる資金を調達する仕組みです。これによって、民間投資をさらに引き出していく。そして全体としてGX を加速するためのインセンティブあるいは資金を得るということになります。

 先ほど福川先生よりお話があったように、途上国の資金需要は非常に高い、これをどういう形で金融的なアプローチで解決していくのか。これがこれからの問題です。

田中琢二 IMF元日本代表理事

 次に、国際的な戦略です。日本そして中国は、国際的な気候変動対策に貢献して自国の経済成長をはかるための枠組みを構築することが求められます。これには国際的なカーボンプライシング制度との連携や、海外市場への再生可能エネルギー技術の輸出促進が含まれます。この点について中国は非常に進んだ国だということは先ほどのお話から伺えます。

 そして公正な移行という言葉がございますが、とくに社会的弱者や地域経済への配慮が重要です。脱炭素化による影響を受ける労働者や地域に対して、適切な支援策を講じることで、経済的格差を縮小しながら、持続可能な成長を実現することが求められています。中小企業の支援も大事だと思います。こういった要素は相互に関連していて、日本政府はこれを統合的に推進し、さらに進捗状況を評価することも大事です。こういう形で成長志向型カーボンプライシング構想を実現していこうではないか。というのが日本の今の状況だと是非みなさんお分かりいただけたらと思います。

 次に、具体的には令和6年度の予算では、こういったようなことを実現しようと環境省を中心に、国民のみなさんにどんどん知っていただこうということかと思います。

 具体的には蓄電池の製造サプライチェーンの強靱化、次世代型太陽電池のサプライチェーンの構築、あるいは鉄、化学等製造業の製造プロセスの転換、こういったところに予算を振り向けていることをぜひご理解いただきたいと思います。

 先ほど46%という話をしていました。2030年度の温室効果ガス削減目標は、2013年が14億トンだったのを2030年度に7.6億トンに減らす計画です。これは、その中で、最も比重が高いのがエネルギー起源のCO2であり全体として39.8%を占めています。46%と比較しますと、39.8%というのは86%を占めているので、エネルギー関連のCO2削減が一番メインになることがお分かりいただけると思います。それをさらに分解すると、電力由来が25.1%、電力由来以外が14.6%で、これを46%と比較すると、電力由来の25.1%というのは、電力由来のCO2削減が全体の半分を占めていることがお分かりいただけると思います。日本の電力の電源構成は2022年ベースで天然ガス、石炭、再生エネルギーの順になっています。2030年には再生エネルギーが一番の電源構成になる計画になっています。こういう電源構成というようなことも一つ頭に入れながら、みなさんにご理解を深めていただきたいと思います。

■ 日本は二国間クレジットや新技術で貢献


 私からは日本の国際的な取り組み、そしてアジア全体でどういうことが行われているか、さらには国際機関、世界銀行、IMFでどういうことが行われているか。この3点についてお話ししたいと思います。

 1点目、日本の二国間クレジット制度があります。Joint Crediting Mechanism(JCM)は、気候変動対策の一環として、途上国との協力を通じて温室効果ガスの削減を目指す重要な取り組みです。JCMの基本的な概念は、日本が提供する技術や資金を活用し、途上国での温室効果ガスの削減を実現し、その成果を日本とパートナー国で分かち合う仕組みです。

 優れた脱炭素技術や製品、システム、サービス、インフラの普及を通じて、途上国の持続可能な開発に貢献するのが理念です。このプロセスによって逆に日本も自国の温室効果ガス削減目標の達成にも寄与するのではないかという精神で行われているのがJCMです。

 2024年時点で、日本は29カ国との間でJCMに関する二国間文書を締結しています。これはモンゴル、バングラデシュ、エチオピア、ケニアなどが含まれています。これらの国々との協力を通じて、日本は2030年度までに累積で1億トンCO2相当の排出削減・吸収量を確保することを目指しています。

 最近の進展として、2024年10月には地球環境センター(GEC)がJCMを通じて水素などの新技術導入事業において一定のプロジェクトを採択されたと伺っています。また今月19日にはタイでJCMを通じたGHG(温室効果ガス)排出削減の貢献をテーマにしたセミナーが開催されるとも伺っています。このセミナーでは、日本とタイの政府関係者が集まり、JCMの最新情報やタイ国内におけるT-VER(タイ voluntary emission reduction)について共有することになっているそうです。

田中琢二 IMF元日本代表理事

 また、アジア全体では、AZECがあります。これは、アジアゼロエミッション共同体で、アジア地域全体の気候変動対策において効果が期待できる枠組みです。AZECは日本が主導する国際的な協力の枠組みとも自負しており、参加国が連携してカーボンニュートラル社会の実現を目指していこうというものです。

 AZECの主な取り組みには、再生可能エネルギーの普及促進、エネルギー効率の向上、グリーン技術の開発と導入などが含まれ、地域全体の脱炭素化を加速することを目的としています。2050年までのカーボンニュートラル達成を目指して参加国間での技術協力あるいは知識共有を促進します。

 特に日本が持つ先進的な環境技術が新興国に移転されることで、各国の脱炭素化が加速していくというビジョンを描いています。例えば、インドネシアやベトナムでは、日本企業との協力によって再生可能エネルギーや低炭素技術の導入が進行中だと伺っています。

 最後に、世界銀行(WB)と国際通貨基金(IMF)の融資制度です。IMFと世界銀行は、長い説明は省きますが、世界銀行はいろいろな形のプロジェクト融資をしています。IMFは国の短期的な国際収支支援が役目でしたが、IMFもちょっと変わり気候変動や自然災害など割と長期的な取り組みに対して融資制度を作ろうということで、Resilience and Sustainability Trust(RST)という新しい融資制度を2年前に発足させました。これは気候変動対策をやろうということで、再生可能エネルギーへの投資に対する融資、あるいは先ほど話しましたミディゲーション、アダプテーション、トランジッションでいきますと、アダプテーションの気候適応インフラ整備、あるいはトランジション、移行ファイナンスに対する知識の普及に対して、積極的に取り組んでいこうと。

 もともと世銀は非常に積極的でしたが、国際通貨基金(IMF)もこうした取り組みにいま、協力あるいはコミットしていこうとしています。もともとはマクロエコノミックだけ、経済の本流の政策は大事だといっていたIMFですが、気候変動そのものが経済の本流の政策になってきていることがお分かりいただけると思います。

田中琢二 IMF元日本代表理事

■ 金融移行債の拡大が必要


 いまの徐林さんのカーボンプライシングの公平性は勉強になりました。ありがとうございます。気候変動対策を進める上で、先ほど南川さんがおっしゃったアメリカのインフレ抑制法が何故環境と関係があるのか。インフレを抑制するために、国内の補助金をどんどん出し、その補助金が気候変動に対処するところに出すというのがインフレ抑制法です。非常に大量のお金があってそれを国内産業保護に充てているという問題があります。さらに欧州のカーボン国境調整措置(CBAM)が、内向きの投資の政策として批判されることがあります。

 さらに、2024年9月に欧州委員会は「ドラギレポート」という欧州競争力報告書を出しました。これにおいて環境問題のリーダーだった欧州が、成長とのバランスで、ちょっとこのスピード感を調整するのではないか、それを意図する報告書だったのではないかとの見方も出ています。そういう意味で環境問題全体のスピード感がこれからどうなるか。これはいま南川さんがおっしゃったように、トランプ新政権がどうなっていくかということで、非常にわれわれは注目していかなければいけない話だと思います。

 ただし、気候変動あるいは自然災害への対応の問題、パンデミックへの対応の問題は、一般的な経済問題とは違い、本当に国際的な、人類全体に関わる問題です。ここをどう共通の課題として全人類が認識し対応していくのか。ここが非常にトップレベルでの対話が必要です。そういう意味で、リーダーである中国、そしてアメリカの、トップクラスでの議論、対話を我々としても期待しますし、それを日本としても、或いは他の国々もぜひバックアップしていきたいと、個人的に念願しています。

 いずれにしても国連気候変動枠組み条約あるいはパリ協定といった国際的な、いままで必死に環境省を中心に日本で頑張ってきた国際的な枠組みを、是非とも堅持していくことが重要です。その中で、民間サイドでは、どういうことかというと、先ほど出た金融サイドの取り組み、「金融移行債」などの市場をどんどん大きくしていくことが、実は政治的な影響力をより緩和する方向にいく、ある種の抑止力となると思います。いろいろな形での移行債、金融の新たな仕様をどんどん考えていこうとの流れも必要です。

 特に途上国ではこれからの資金需要が大きいですから、これをどういう形で市場と先進国政府が協力して対応をしていくのか考えたいと思います。

 最後に、一つちょっとお見せしたい資料があるのですが、これから太陽光発電やタービンが必要となってきます。その時に要るのが希少資源です。グリーンエネルギーの移行問題については、いろいろな形で鉱物希少資源が必要です。銀、リチウム、コバルト、ニッケル、マンガン、この上位三カ国生産国の割合を右横に書いているが、50%から90%を超える希少資源が多いです。その中で中国が生産する鉱物資源が比較的多いです。従って、例えばパンデミック時に見られたように供給途絶があると、一生懸命リチウム電池を作ろう、或いは太陽光の羽を作ろうとしても作れない事態が起こりかねない訳です。

 従ってここは中国の方も充分に認識されていると思いますが、いろいろな形での鉱物資源の相互利用にもご配慮いただき、全世界的な気候変動対策に向けた技術、生産力を維持向上していったらいいのではないか。


プロフィール

田中琢二(たなか たくじ)/IMF元日本代表理事

 1961年愛媛県出身。東京大学教養学部卒業後、1985年旧大蔵省入省。ケンブリッジ大学留学、財務大臣秘書官、産業革新機構専務執行役員、財務省主税局参事官、大臣官房審議官、副財務官、関東財務局長などを経て、2019年から2022年までIMF日本代表理事。

 現在、同志社大学経済学部客員教授、公益財団法人日本サッカー協会理事。

 主な著書に『イギリス政治システムの大原則』第一法規、『経済危機の100年』東洋経済新報社。

■ シンポジウム掲載記事


【シンポジウム】GX政策の競い合いで地球環境に貢献

【シンポジウム】気候変動対策を原動力にGXで取り組む

【シンポジウム】GXが拓くイノベーションインパクト

【シンポジウム】福川伸次:技術革新で挑む地球環境問題

【シンポジウム】鑓水洋:脱炭素化と経済成長の同時達成を

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【ディスカッション】中井徳太郎・安藤晴彦・和田篤也・周牧之:省エネ・再生可能エネルギー社会への挑戦と自然資本

【フォーラム】南川秀樹:コミュニケーションの場としてのエンタメを

【刊行によせて】南川秀樹:中国大都市の生命力の源泉は何か

【コラム】邱暁華:高度成長からハイクオリティ発展へシフトする中国経済

【ディスカッション】小島明・田中琢二・周牧之(Ⅰ):誰がグローバリゼーションをスローダウンさせた?

【ディスカッション】小島明・田中琢二・周牧之(Ⅱ):ユーラシア大陸を視野に入れた米中関係

 【専門家レビュー】周其仁:生態都市建設と都市総合発展指標

【刊行によせて】周牧之:新型コロナウイルス禍と国際大都市の行方

【論文】周牧之:二酸化炭素:急増する中国とピークアウトした日米欧

【論文】周牧之:アメリカ vs. 中国:成長と二酸化炭素排出との関係から見た異なる経済水準

【論文】周牧之:世界の二酸化炭素排出構造と中国の課題

【刊行によせて】徐林:中国の発展は都市化のクオリティ向上で

【対談】小手川大助 vs 周牧之:(Ⅰ)転換点で激動の国際情勢を見つめる

【対談】小手川大助 vs 周牧之:(Ⅱ)複雑な国際情勢をどう見極めるか?

【シンポジウム】邱暁華:中国炭素排出量ピークアウトは早くも2025年に?

邱暁華 中国統計局元局長

■ 編集ノート:東京経済大学は2024年11月30日、国際シンポジウム「グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来」を開催した。福川伸次元通商産業事務次官、鑓水洋環境事務次官、岡本英男東京経済大学学長、楊偉民中国第十三回全国政治協商会議経済委員会副主任、中井徳太郎元環境事務次官、南川秀樹元環境事務次官、邱暁華中国統計局元局長、徐林中米グリーンファンド会長、田中琢二IMF元日本代表理事、周其仁北京大学教授、索継栓中国科学院ホールディングス元会長、岩本敏男NTTデータグループ元社長、石見浩一エレコム社長、小手川大助IMF元日本代表理事、周牧之東京経済大学教授、尾崎寛直東京経済大学教授をはじめ産学官のオピニオンリーダー16人が登壇し、日中両国のGX政策そしてイノベーションへの努力などについて議論し、未来に向けた提言を行った。邱暁華氏はセッション1「GXにおける日中の取り組み」のパネリストを務めた。


南川秀樹・邱暁華・徐林・田中琢二・周其仁:東京経済大学国際シンポジウム「グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来」セッション1「GXにおける日中の取り組み」2024年11月30日

■ 中国経済の「三大変革」


 再び美しい東京経済大学に来る機会を得て、大変嬉しいです。

 先ほど楊主任が中国経済について、既に紹介されました。私のテーマは元々「中国経済とGXの実践」です。中国経済についてはこれ以上あまり触れません。いくつかのポイントだけをお伝えします。

 一つ目は、本日のテーマと関わるもので、中国は「三大変革」の只中にあります。これは「デジタル化」「スマート化」「グリーン化」の3つです。これらの変革の中で、中国経済は高品質な発展を目指しています。これは中国経済全体の大きな流れです。三大変革の過程で、中国の経済は以前とは全く異なる姿を見せています。

 一方では、中国経済が現在置かれている国際環境は大きく変わっています。100年一度の世界大変局は、二つの方面で中国に挑戦とチャンスをもたらしています。一つは、地政学的な変化が進み、中国とアメリカを始めとする西洋諸国との経済・政治関係に、大きな変化をもたらしました。中国は、アメリカを始めとする西洋諸国から強い競争圧力を受けています。他方、中国は新興経済や発展途上国の従来型産業の市場、資源、資金を巡り、競争に直面しています。三大変革の過程で、国際的に二重の競争圧力を受けています。

 第一に、中国の人口構造の変化については、よくご存知だと思います。中国の人口は成長傾向から縮小傾向へとシフトしました。中国人口は2022年に85万人、2023年に208万人減少しました。恐らく2024年もこの縮小傾向が続くでしょう。目下、中国の結婚人数は、昨年と比較し500万カップル減少しました。もちろん今年は特別な年です。中国伝統の農暦(旧暦)では今年は「春のない年」です。今年の立春は春節(旧正月)の前です。中国の農村、あるいは中小都市など多くの地方では、結婚に相応しい年とはされていないのです。今年は「未亡人の年」とされています。結婚者数の減少はこれと大きく関係があるかもしれません。

 大都市はこれとは関係ないでしょう。大都市ではむしろ子育ての条件、環境、ストレスと関係しています。いま大都市では若い人たちの間に、「四つの不(NO)」現象があります。不恋(恋愛しない)、不婚(結婚しない)、不育(子供を産まない)、不買(家を買わない)の現象です。人口構造の大きな変化の中で、中国の従来型産業の成長は大きな挑戦を受けています。

 第二に、中国経済は従来の数量拡張が主な成長要因だった段階から、品質と収益で成長追求する段階になりました。数量拡張の段階では、資本投入と消費に依存するのに対して、品質を求める段階では創新(イノベーション)が必要です。中国のイノベーションは大きな進展を見せていますが、同時に新しい挑戦にも直面しています。イノベーションの進展に国内外の影響を受けています。一方では国際的な影響を受けています。他方では中国のミクロ経済主体の生産経営上の困難が影響しています。これは二番目の変化です。

セッション1の会場風景

 第三に、中国の市場も大きく変化しています。過去には中国は、モノ不足の市場でした。現在はモノが相対的に過剰な市場となっています。市場環境の変化で中国がいま直面している最も大きな課題は内需の不足です。さきほど楊主任が、経済成長率が5.3%から4.6%へ減速したと紹介しました。その最大の原因は、内需不足にあります。内需不足は主に今年以来、中国の企業も家庭も自ら銀行融資を減らしていることに現れています。ミクロの主体の銀行融資の削減は、マクロ的な消費不足をもたらしています。これは大きな変化です。目下中国では企業の融資額、家庭の融資額共に鈍化しています。この鈍化は、資産バランスシートの圧力が主な要因で、銀行融資の減少をもたらしています。従ってマクロでは、中国の国内消費、国内投資共に鈍化しています。これは第三の変化です。

 また、中国経済は、高速成長から高品質成長への転換の中で、従来型産業の勢いが弱まり、新しい産業や業態の発展がこれを充分に補ってはいません。これが、経済成長鈍化の圧力となっています。つまり新産業や新業態が生み出す新しいエナジーは、従来型産業の減速にヘッジできていません。これが中国経済の減速をもたらしています。中国経済は、過去の高度成長から中速成長に移り、いまや5%の成長率を達成するために大変な努力が必要です。つまり中国経済発展の内部環境も大きな変化がありました。

 このような状況を踏まえ、中国政府は2024年9月に短期と中長期を組み合わせた政策を発表しました。中長期的には、「デジタル化」、「スマート化」、「グリーン化」を進め、新しい生産力と競争力のある産業の発展を目指しています。また、短期的にはミクロ的な主体を救済する、つまり、企業により良い経営環境、家庭により良い生活環境を作り出そうとする政策を実施しています。

 2024年9月24日から中国が発表した政策として第一に資本市場の振興、第二に不動産市場の安定、第三に消費拡大の推進、第四にイノベーションの推進で、経済成長を維持しようとしています。いま、これらの政策パッケージは徐々に実行され効果が出始めています。最大の変化は、中国の資本市場の人気がさらに増し、ミクロ主体の自信が回復したことです。多くの企業家は、ようやくマクロ政策にもたらされた温度を感じ始めたと言っています。これまで存在していたミクロ主体とマクロとの体感温度の差異に、ようやく変化が見られています。こうした状況を踏まえ、中国経済の第4四半期の成長は皆の予想を超える可能性が高いです。いまの状況から見ると、5%前後になります。第1四半期は5.3%、第2四半期は4.7%、第3四半期は4.6%という減速の傾向を変え、上昇傾向になるでしょう。これが目下の中国経済に関する私の報告です。

邱暁華 中国統計局元局長

■ 中国のGX実践


 次に、中国のGXについてお話しします。中国のGXは、過去10数年間で最も大きな変革の一つだと思います。国内外の環境変化、国際社会および中国の民衆の期待に応じ、中国政府はGX政策を明らかに加速させました。政府は、2030年に二酸化炭素排出をピークアウトし、2060年には排出量の実質ゼロを目標に掲げています。GXにおいて一連の政策措置を打ち出しました。炭素排出の二重制御制度のシステム構築の推進、再生可能エネルギーの推進や、低炭素省エネ投資の推進などを含みます。経済発展を実現させると同時に、生態保護を重視し、経済構造とエネルギー構造のグリーン化を推進します。環境に優しい省エネ社会を構築します。これらの政策は、多領域の協力とイノベーション、汚染物質の排出減少、生態破壊の抑制、資源利用効率の向上、持続可能な社会への邁進などの効果をもたらしています。いま中国は、空がより青くなり、水がより澄み、空気がより新鮮になり、人々の生活や職場環境が不断に改善されています。

 GXにおいて、中国はどのような努力をしてきたのでしょうか?第一にエネルギー構造の高度化を進め、非化石燃料の比重を高め、特に風力や太陽光などの再生可能エネルギーを発展させています。第二に産業構造の高度化も進めています。循環経済発展、グリーン低炭素の生産と生活を提唱し、さらに生態環境保護を強化させます。重点地域、重点産業、重点企業の汚染防止措置を実施します。さらに政府は、環境保護関連の法整備や、環境標準の引き上げ、グリーン技術イノベーションの奨励、グリーン金融の発展、グリーン発展の長期メカニズムの構築などにおいて、力を入れています。第14次五カ年計画以来、中国の非化石燃料の発電設備規模は累積で78.5%増加しました。(非化石燃料)発電設備の比重も継続して増えてきました。2020年の44.8%から2024年8月末時点の56.2%になりました。今年8月末時点で、中国の再生可能エネルギーの発電設備規模は、風力発電、太陽光発電、バイオマス発電を含め、12.7億キロワットに達し、全発電容量の40.7%に達しました。6年半前倒しで、12億キロワットの目標を達成しました。これは新エネルギー発電の急速な発展を示しています。炭素削減目標達成のための重要なキャリアとして、新しい電力システムの建設も進展し、新エネルギー発電の高効率な吸収を支え、電力のグリーン化を推し進めています。グリーン電力の取引規模は急速に増大しています。10年間で、中国の非化石エネルギー消費の増加における世界の貢献は40%を超えました。非化石エネルギーの年間発電量は、2.2兆キロワット増加しました。約20億トンの二酸化炭素の排出量減少に相当します。社会全体の二酸化炭素の排出増加傾向も顕著に抑制されてきました。国際エネルギー機関のデータによると、いまから2030年まで世界の再生可能エネルギー新設設備容量において中国は約60%に達すると予測されています。これは、なんと誇らしいことでしょう。

ディスカッションを行う邱暁華・中国統計局元局長(左)、徐林・中米グリーンファンド会長(中央)、田中琢二・IMF元日本代表理事(右)

■ 発展途上国へどう支援をしていくか?


 中国政府の立場は非常に明確であり、GXを実現するため各国と協力し推進していきます。中国は国際的な場で、各国が発展段階や経済水準の違いに基づいた対策を進めるべきであると繰り返し強調しています。数字だけで見ると、確かに中国は、世界第2位の経済大国であり、最大の温室効果ガス排出国です。しかし、一人当たりの経済水準とCO2排出量はまだ発展途上国のレベルであり、先進国の水準には達していません。このため、中国の政策と態度は引き続き堅持します。一方で中国は国際社会からの要求や呼びかけに積極的に応じ、出来る限りのことを実施しています。他方、中国は積極的に自分の能力に見合う支援を、一部の発展途上国の新エネルギー開発、環境改善、新産業発展などに行なっています。第三に、人材育成の分野で中国は国際社会とりわけ発展途上国への支援を惜しみません。

 先進国の態度について、中国は様々な国際的な場で、アメリカがイニシアティブを取るべきだと繰り返し呼びかけています。アメリカは世界第2位の温室効果ガス排出国であり、また最大の経済体です。先進国は歴史上、国際社会に多くの環境問題を残してきました。国際社会が環境問題を解決するにあたり、堆積してきた環境問題の歴史を忘れてはいけません。歴史的な観点からすると、先進国は多くの責任を負うべきです。道義的な観点からもそうするべきです。

 経済的な能力の観点からも、先進国はより強い経済力を持っています。先ほど日本の事務次官は日本が200億ドルの国際社会の炭素削減取り組みを支援する予定だと紹介しました。これは大変素晴らしいことです。中国も、(このような支援を)賞賛すると同時に、自身の経済力に応じて国際共同の取り組みに参加します。パリ協定を中国は一貫して積極的に支持し賛同しています。

東京経済大学

中国炭素排出量のピークアウトは2025年か?


 先ほども簡単にお話ししたように、中国は二酸化炭素の排出削減に対する姿勢は明確です。新エネルギーの発展から、産業構造の向上、環境の改善、そして法律の整備までの四つの分野で、多くのGX政策を実施し、実践を重ねてきました。中国はすでにこの分野において世界に多大な貢献をしています。

 中国の国際的な立場は、応対、イニシアティブ、支援であると明確にしています。国際社会の提唱に中国は応対し、GXにおいてイニシアティブを発揮し、できるだけ他の国を助けます。中国の新エネルギー産業発展自体はCO2削減への国際貢献です。

 将来について、先ほど南川先生がご指摘されたトランプの再登板で何が起こるかについて、実際トランプの一度目の政権で既にパリ協定から脱退しました。二度目の政権で再びパリ協定から脱退するのか?恐らく脱退するでしょう。これまでのトランプ政策に関する分析から見ると、恐らく第一に、国内において減税するでしょう。第二に国際的に関税を引き上げるでしょう。第三はアメリカの製造業の再建でしょう。第四は金融規制及び他の規制の緩和でしょう。トランプがこれらの措置を取った場合、国際社会で展開する炭素削減の動きにはマイナスの影響を与えるに違いありません。中国は世界第2位の経済体として責任を持つ大国として国際社会と共に引き続き協力しながら、中国の2030年に炭素排出量のピークアウト、そして2060年のカーボンニュートラル実現という二つの目標を堅持します。決して逆戻りはしません。

 目下の状況から見ると、国際社会は、中国の現在の努力を高く評価しています。昨日、私は冗談を交えてある新聞で読んだことについて話しました。中国は炭素排出量のピークアウトは来年あるいは再来年達成できるだろうとありました。これ国際調査会社による33人の国内専門家と11人の国際専門家への調査で、そのうち44%の答えで、来年中国はピークアウトを実現できると予想しています。来年、中国の石炭消費量がピークに達し、その後下がっていきます。国際社会は、こうした中国の実際の努力を評価しています。

 他方、トランプのパリ協定脱退の可能性もあり、国際社会は中国がイニシアティブを発揮するよう更に高い期待をしています。

 中国、日本、ヨーロッパの大きな経済体が協力して行動し、GXを堅持し続ければ、トランプはパリ協定を脱退しても、国際社会のGXは継続すると確信しています。


プロフィール

邱 暁華(Qiu Xiaohua)

 1958年生まれ。アモイ大学卒業後、国家統計局で処長、司長、局長を歴任。その間、安徽省省長補佐、全国政治協商会議委員、全国青年連合会副主席、貨幣政策委員会委員などを務めた。現在、マカオ都市大学経済研究所所長。経済学博士。

 主な著書に、『中国的道路:我眼中的中国経済』(2000年、首都経済貿易大学出版社)、『中国経済新思考』(2008年、中国財政経済出版社)。

■ シンポジウム掲載記事


【シンポジウム】GX政策の競い合いで地球環境に貢献

【シンポジウム】気候変動対策を原動力にGXで取り組む

【シンポジウム】GXが拓くイノベーションインパクト

【シンポジウム】福川伸次:技術革新で挑む地球環境問題

【シンポジウム】鑓水洋:脱炭素化と経済成長の同時達成を

■ 登壇者関連記事(登壇順)


【コラム】福川伸次:日中関係、新次元への昇華の途を探る 〜質の高い経済社会の実現と新グローバリズムの形成に向けて〜

【フォーラム】鑓水洋:地域活性化策には明確なコンセプトが求められる

【刊行によせて】楊偉民:都市のハイクオリティ発展を促す指標システム

【刊行によせて】楊偉民:全く新しい視点で中国都市の発展状況を評価する

【講演】中井徳太郎:カーボンニュートラル、循環経済、自然再生の三位一体のイノベーション—地域循環共生圏構想

【フォーラム】中井徳太郎:分散型自然共生社会を目指して

【刊行によせて】中井徳太郎:生態環境社会への移行に寄与

【ディスカッション】中井徳太郎・大西隆・周牧之:コロナ危機を転機に 

【ディスカッション】中井徳太郎・安藤晴彦・和田篤也・周牧之:省エネ・再生可能エネルギー社会への挑戦と自然資本

【フォーラム】南川秀樹:コミュニケーションの場としてのエンタメを

【刊行によせて】南川秀樹:中国大都市の生命力の源泉は何か

【コラム】邱暁華:高度成長からハイクオリティ発展へシフトする中国経済

【ディスカッション】小島明・田中琢二・周牧之(Ⅰ):誰がグローバリゼーションをスローダウンさせた?

【ディスカッション】小島明・田中琢二・周牧之(Ⅱ):ユーラシア大陸を視野に入れた米中関係

 【専門家レビュー】周其仁:生態都市建設と都市総合発展指標

【刊行によせて】周牧之:新型コロナウイルス禍と国際大都市の行方

【論文】周牧之:二酸化炭素:急増する中国とピークアウトした日米欧

【論文】周牧之:アメリカ vs. 中国:成長と二酸化炭素排出との関係から見た異なる経済水準

【論文】周牧之:世界の二酸化炭素排出構造と中国の課題

【刊行によせて】徐林:中国の発展は都市化のクオリティ向上で

【対談】小手川大助 vs 周牧之:(Ⅰ)転換点で激動の国際情勢を見つめる

【対談】小手川大助 vs 周牧之:(Ⅱ)複雑な国際情勢をどう見極めるか?

【シンポジウム】南川秀樹:ブロック経済化に向かわない形でどう気候変動対策を進めるか?

南川秀樹 元環境事務次官

■ 編集ノート:東京経済大学は2024年11月30日、国際シンポジウム「グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来」を開催した。福川伸次元通商産業事務次官、鑓水洋環境事務次官、岡本英男東京経済大学学長、楊偉民中国第十三回全国政治協商会議経済委員会副主任、中井徳太郎元環境事務次官、南川秀樹元環境事務次官、邱暁華中国統計局元局長、徐林中米グリーンファンド会長、田中琢二IMF元日本代表理事、周其仁北京大学教授、索継栓中国科学院ホールディングス元会長、岩本敏男NTTデータグループ元社長、石見浩一エレコム社長、小手川大助IMF元日本代表理事、周牧之東京経済大学教授、尾崎寛直東京経済大学教授をはじめ産学官のオピニオンリーダー16人が登壇し、日中両国のGX政策そしてイノベーションへの努力などについて議論し、未来に向けた提言を行った。南川秀樹氏はセッション1「GXにおける日中の取り組み」の司会を務めた。


南川秀樹・邱暁華・徐林・田中琢二・周其仁:東京経済大学国際シンポジウム「グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来」セッション1「GXにおける日中の取り組み」2024年11月30日

 私自身、しばらく前にここ東京経済大学で4年間、客員教授をさせていただきました。国分寺に来ると、富士山が近いことをいつも感じています。今日も先ほど、きれいな富士山が見えて、大変幸せな気分になりました。

 まず気候変動問題は大問題です。皆さんもご承知ですし、これまでの方からもお話がありました。気候変動の問題は、これまでの環境問題とは大きく異なります。これまでの環境汚染は、誰かが問題があり、人々が影響を受けるということでした。気候変動問題について言えば、CO2やメタンを排出する人がいる、国があり、影響は全ての人、全ての国が同じように受けるということで、原因者と被害者が全く切り離されているというところで、非常に対策のプレッシャーがかかりにくい分野であることが大きな特徴です。

 そうした中で、先日COP29がありましたが開発が進んでいない多くの発展途上国から、「CO2をたくさん出して経済成長した国が、自分たちのことを応援してくれない」という不満が沢山聞こえました。

発展途上国の側から見て、先進国は自分達でCO2などの汚染物質を出す、途上国は経済発展はしないのに被害だけを受ける、これについて発展途上国は自分達が対策をとる資金を応援してほしい、被害の補償もしてほしいというリクエストが非常に強いです。今回のCOP29もほとんどそれに議論が終始しています。

南川秀樹 元環境事務次官

 そういった中で、私も10月に北京へ行き議論してきました。中国ではベルトアンドロードイニシアティブ(BRI)の中で、発展途上国の応援もし、その中にエネルギー対策も大いに入っていると伺いました。また、日本でもJCM(Joint Crediting Mechanism)というクレジットメカニズムを使い、お金を出し削減を応援していますし、またアジア全体のゼロカーボン化を進めようとの構想もあります。

 またさまざまな国際的な金融機関やアジア会議をはじめとしたところの機能もこれから大事だと思います。

 私自身、毎年何回か中国を訪れ、世界的な国連機関或いはNGOの方を含め一緒に議論をしています。その中で、中国に対する評価、また日本に対する評価もいただいていますが、かなり環境NGOの方からも、中国もしっかりやっているし日本もやっているとの話をいただいています。特に中国の場合で申しますと、実際これまで国際的な取り組みの中で大きなステップとなったCOP21のパリ協定、それから昨年のCOP28で出た化石燃料からの移行というトランジッションアウェイについて、事前に中国の解振華さんとアメリカの担当トップが事前に調整をする中で世界的なフレームが出来ました。中国が果たした役割も非常に大きいというのが、多くの方々の評価です。

 日本についても、ありがたいことに京都議定書を生み出した国であり、尚且つ震災があったにもかかわらず頑張ってCO2を減らしているということも評価を受けているところであります。

南川秀樹 元環境事務次官

 只、いま非常に最近の動きで多くの環境の問題に取り組む関係者が悩んでいるところが、ヨーロッパの動きでありアメリカの動きです。

 アメリカについては、インフレ抑制法という法律が出来、それに基づいて環境対策、とくに気候変動対策が進められていますが、その内容があまりにも極端に言うとアメリカ生産のものを使え、それを使うものだけを優遇すると。それを使って気候変動対策をしようとしている。従って海外から輸入しない。(自国の)製品でCO2を減らすことを強く謳っています。

 また、EU(欧州連合)も最近動き出している「国境環境税」をかけることにより、EU並みの対策を採っていない国からの製品については、EUに入る時に関税をかけるということで対応すると言われています。それにより、EUで真面目に炭素削減に取り組む企業が、EUの外に出ていくことがないようにしようとしています。

ディスカッションを行う南川秀樹・元環境事務次官(左)と周其仁・北京大学教授(右)

 それについて言いますと、環境面から見ると心配だ、要は環境という名前を使いながら半分は自国産業を守るということで、ある意味でブロック経済化に向かっている、その手段として環境対策が使われているのではないかという議論が、相当強く出てきています。

 そういった中でこれからトランプ政権も動き出します。どうやって日本も中国も努力し全世界的にブロック経済化に向かわない形でいかに環境保全を進めていくか、気候変動対策を進めていくか。とても難しい課題です。


プロフィール

南川秀樹 (みなみかわ ひでき)

 東京経済大学元客員教授、日本環境衛生センター理事長、中華人民共和国環境に関する国際協力委員、元環境事務次官

 1949年生まれ。環境庁(現環境省)に入庁後、自然環境局長、地球環境局長、大臣官房長、地球環境審議官を経て、2011年1月から2013年7月まで環境事務次官を務め、2013年に退官。2014年より現職。早稲田大学客員上級研究員、東京経済大学客員教授等を歴任。地球環境局長の在職中は、地球温暖化対策推進法の改正に力を尽くした。また、生物多様性条約の締約国会議など多くの国際会議に日本政府代表として参加。現在、中華人民共和国環境に関する国際協力委員を務める。

 主な著書に『日本環境問題 改善と経験』(2017年、社会科学文献出版社、中国語、共著)等。

■ シンポジウム掲載記事


【シンポジウム】GX政策の競い合いで地球環境に貢献

【シンポジウム】気候変動対策を原動力にGXで取り組む

【シンポジウム】GXが拓くイノベーションインパクト

【シンポジウム】福川伸次:技術革新で挑む地球環境問題

【シンポジウム】鑓水洋:脱炭素化と経済成長の同時達成を

■ 登壇者関連記事(登壇順)


【コラム】福川伸次:日中関係、新次元への昇華の途を探る 〜質の高い経済社会の実現と新グローバリズムの形成に向けて〜

【フォーラム】鑓水洋:地域活性化策には明確なコンセプトが求められる

【刊行によせて】楊偉民:都市のハイクオリティ発展を促す指標システム

【刊行によせて】楊偉民:全く新しい視点で中国都市の発展状況を評価する

【講演】中井徳太郎:カーボンニュートラル、循環経済、自然再生の三位一体のイノベーション—地域循環共生圏構想

【フォーラム】中井徳太郎:分散型自然共生社会を目指して

【刊行によせて】中井徳太郎:生態環境社会への移行に寄与

【ディスカッション】中井徳太郎・大西隆・周牧之:コロナ危機を転機に 

【ディスカッション】中井徳太郎・安藤晴彦・和田篤也・周牧之:省エネ・再生可能エネルギー社会への挑戦と自然資本

【フォーラム】南川秀樹:コミュニケーションの場としてのエンタメを

【刊行によせて】南川秀樹:中国大都市の生命力の源泉は何か

【コラム】邱暁華:高度成長からハイクオリティ発展へシフトする中国経済

【ディスカッション】小島明・田中琢二・周牧之(Ⅰ):誰がグローバリゼーションをスローダウンさせた?

【ディスカッション】小島明・田中琢二・周牧之(Ⅱ):ユーラシア大陸を視野に入れた米中関係

 【専門家レビュー】周其仁:生態都市建設と都市総合発展指標

【刊行によせて】周牧之:新型コロナウイルス禍と国際大都市の行方

【論文】周牧之:二酸化炭素:急増する中国とピークアウトした日米欧

【論文】周牧之:アメリカ vs. 中国:成長と二酸化炭素排出との関係から見た異なる経済水準

【論文】周牧之:世界の二酸化炭素排出構造と中国の課題

【刊行によせて】徐林:中国の発展は都市化のクオリティ向上で

【対談】小手川大助 vs 周牧之:(Ⅰ)転換点で激動の国際情勢を見つめる

【対談】小手川大助 vs 周牧之:(Ⅱ)複雑な国際情勢をどう見極めるか?

【シンポジウム】中井徳太郎: GX政策は産業政策や経済政策との連携で

■ 編集ノート:東京経済大学は2024年11月30日、国際シンポジウム「グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来」を開催した。福川伸次元通商産業事務次官、鑓水洋環境事務次官、岡本英男東京経済大学学長、楊偉民中国第十三回全国政治協商会議経済委員会副主任、中井徳太郎元環境事務次官、南川秀樹元環境事務次官、邱暁華中国統計局元局長、徐林中米グリーンファンド会長、田中琢二IMF元日本代表理事、周其仁北京大学教授、索継栓中国科学院ホールディングス元会長、岩本敏男NTTデータグループ元社長、石見浩一エレコム社長、小手川大助IMF元日本代表理事、周牧之東京経済大学教授、尾崎寛直東京経済大学教授をはじめ産学官のオピニオンリーダー16人が登壇し、日中両国のGX政策そしてイノベーションへの努力などについて議論し、未来に向けた提言を行った。中井徳太郎氏は基調講演をした。



 ご紹介いただきました中井です。老朋友の楊偉民先生をはじめ中国の先生方、企業の方々をお迎えし国際シンポジウムが出来ますことを、心からお喜び申し上げます。

 冒頭、鑓水環境事務次官に日本のGX政策の各論をかなりご説明いただきましたので、その部分も触れますが、私は大きく日本のGXを取り巻く大きなグランドビジョンについて、環境という切り口から、どうサステナブルな社会を描いていくかを、皆さんと共有できればと思います。

 その前提として、気候変動の世界の厳しい現状について、地球の温度はこの100年で0.7度上がっている、二酸化炭素(CO2)の濃度は2000年を超えたら濃度が400ppmを超えるなど、考えられないことが本当に起こっています。これはまさしく、いままでOECD諸国が主に出してきたCO2が、現在ではアジア、グローバルサウスが蓄積しているということになります。この結果、温暖化、気候変動において我々が日々困難に立ち向かっています。

 日本の状況は、台風、梅雨の時期の線状降水帯の豪雨、暴風雨で人災が起こっています。農業、一次産業においての大きな影響がいま出ています。作柄が悪化する、魚が獲れなくなる。そして珊瑚のような海の自然の生態系も影響を受けています。デング熱という熱帯性の蚊が媒介する伝染病が来ることにも繋がっています。3年を超え苦しんだCOVID-19も環境省では環境問題という捉え方をしています。

 この気候変動自体、日本は非常に厳しい認識をしていて、2020年に環境省が気候危機宣言をしまして、日本では国会において非常に厳しい認識を世界に出しております。このCOVID-19を含め気候変動の荒くれた状況、これが大きく環境問題だという捉え方ですが、これはSDGs(持続可能な開発目標)の考え方にもなってくるわけで、私たちの人間の活動が社会の経済システムに支えられ、そのベースに自然、生態系、地球そのものがあります。

 私たちの産業革命以降の営み、活動がまさしく地球に負荷をかける形で来た澱が溜まった結果としての今の状況です。気候変動や生物の絶滅、廃棄物の問題、これを人間の体に例えますと、肝臓、腎臓に負担がかかります。地球を人間に例えますと、人口が100億を目指して増えていく中では、人間の肺に当たるような機能のCO2を、酸素で、光合成で出してくれている。だが都市化の弊害で、熱帯雨林を切ってきている。これで身体が痛む、内臓が痛むという慢性病の状況です。

 従って、慢性病に対する症状を改善するには、抜本的な体質改善、地球という規模で人類が地球生態系についての抜本的な体質改善ができるかにかにかかっています。社会変革という大きなテーマをやりつつ症状は慢性病ですから続きます。症状と付き合いながら体質改善をはかる。これが21世紀の局面で出来るのか、という問題になっていると思います。

 パリ協定の2015年COP21はCOPメイキングの年でした。「2度目標」に続き、「1.5度」を目指そうという方向になりました。2018年にIPCCのスペシャルレポートが出てからは、世界で何としても1.5度に食い止めたいという機運が高まり、COPなどで議論になっています。

中井徳太郎 元環境事務次官

 日本はそういう状況の中で、2020年、先ほど鑓水次官から報告がありましたが、前の前の菅政権の下で、2050年までにカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする)を国家目標として掲げ、国際公約いたしました。そして、その本気度が試される2030年の目標は、温室効果ガスを46%2030年までに減らす。できれば50%の動議をする。こういうコミットメントをしていきます。

 しかも従来の日本の環境政策的な発想ですと、産業発展するものに対するコストとして環境対策を考えるというやり方でした。これが大きく転換いたしまして、このような体質改善をはかる産業への投資、イノベーション、こういうもので成長する、いわば環境GX政策で経済を成長させる。こういうコミットメントを政府として明確にしているのが特色です。

 そしてこの約束を真面目に守るのが日本という国柄であり、2030年の46%に向かってオントラックで減っているのが現状であります。2020年の後に岸田政権になり、先ほど鑓水次官から報告があった日本の政策、GXが展開します。法律も通し、当面10年間、官民合わせて約150兆円のGX投資、政府としては20兆円の先行支援を、成長志向型のカーボンプライシングという構想でやっていくことが今の柱です。

 このことは具体的にはカーボンプライシングでは2026年からの排出量取引の本格導入、また2028年からの炭素負荷金、実質上の炭素税のようなものが入り、マーケットメカニズムを活用しながら、国に税収のようなものが入るものの、手当を前提とした国としての債権、国としてのトランジションボンドで20兆円を確保し、どんどん先行的に支援していく。こうしたマーケットメカニズムと政府の支援を抱き合わせたセットのパッケージ。これが今後、本格的にGXを進める上で、途上国などにも参考になる方法だと思います。

 少し大きな絵を考えます。先ほど社会変革が大事だと申し上げました。いまGXということで、脱炭素社会の目標を立てるのは非常に分かり易い世界です。2050年に日本の場合、ゼロにするというコミットメント、これは言ってみますと必要なエネルギーを、地球に負荷をかけない形にするというコミットメントです。それを実現するためにも、あと二つのことと抱き合わせで、三つセットで展開していくことを、環境政策上言っています。

 一つはサーキュラーエコノミー(循環経済)、リニアな発想ではなくすべてが循環する仕組みで経済を変えていこう。もう一つは、ネイチャーポジティブの自然生態系との調和。この三つは、環境の観点からサスティナブルな社会を描いた時の大事な要素です。

 この三つが統合的にインテグレートされ、シナジー効果を上げ、私たちが社会をイメージし、企業の皆さんにも向かう方向をイメージしながら企業活動をやっていただきたい。政府としてもこの三つが同時達成される世界を描くということです。

シンポジウム当日の東京経済大学 大倉喜八郎 進一層館

 それを可能にするためにも、身体で言うと血液に当たるお金の流れを、投資の流れにつなげるSDGs がある。これを日本の政策として言っていますが、世界全体の話になるので、国際的な視点で協力をしていこうという枠組みであります。

 サーキュラーにつきましては、従来の大量生産、大量消費、大量廃棄で、自然資源を使ってやってきた世界が、捨てられてしまうプラスティック問題の典型として、海洋プラスティック問題が起こっています。が、上流の製造の部品の選択や、途中のループが回せるものはどんどん回すというところで、資源を無駄にしない。そういう発想でやりますと、資源へのコストも節約されるし、経済的にもメリットがある中で資源節約ができる。ネイチャーポジティブということになると、劣化している自然環境を回復させる。むしろ人間が関わる企業や政府の活動が、自然に森林を整備したり、海洋の藻場の回復のようなことをやったり、そういうことで、自然の価値が高まる方向に持っていくことが、ネイチャーポジティブということです。これも世界的に今大きなテーマになっています。この三つをしっかりやっていこうということです。

 脱炭素は、地域という目線が非常に大事であるということで、環境省が所管しております日本の1700の自治体は、いま押し並べてエネルギーの収支は赤です。これは大きな電力を、化石燃料として輸入しているものから、電気として各地方が買っております。そういう構造で所得が外に出ている。脱炭素の目標は数字目標ですから分かり易いのですが、それが地域に何の意味があるのかが、逆に問われます。そういう観点から、地域の脱炭素を進めるための再生エネルギーを入れることで、その地域に資源を担う企業ができれば、雇用にもつながります。所得になります。

 また災害が多発する中では、マイクログリッド、再生エネルギー、蓄電システムを整えると、停電にならない。台風が来ても地震が起きても、レジリエンスを高めることになります。省エネの構造の断熱など、いろいろな取り組みは、健康の質を高めます。脱炭素の目標は数字目標なので分かり易いですが、実益、ご利益が目に見える世界を作るということで進めていく。

 そのような三つの概念が合わさった言葉を、英語ではRegional Circular and Ecological Sphere、地域循環共生圏と言い、この構想は閣議決定をした第5次基本計画に出しております。この5月に第6次基本計画がまた閣議決定されましたが、そこでも踏襲されている概念です。いまのような三つの移行、三つのトランジッション、すなわちエネルギーの観点からの脱炭素、サーキュラーエコノミー、ネイチャーポジティブを同時に進めていく。

 いま既に都市部、農村山村部という構造になっていますが、分かれている中で地域の資源として、エネルギーや食料や水回りをとらえ、観光資源をとらえ、極力自活をしていく、自給していく発想、自立分散型の発想、足りないところは互いのネットワークで補う構想を環境省が出しています。ボトムアップ型でそれぞれの地域のポテンシャルを活用するのにGXやさまざまな技術を使う発想です。

中井徳太郎 元環境事務次官

 冒頭、地球環境を身体に例えましたが、まさしくそういう発想を持っておりまして、人間の身体の37兆個の細胞が一つひとつ有機的につながり血管ができ、心臓ができ、身体の仕組みができている。こういう構造であることは実は地球全体、社会もそうなっている。

 そういう意味で、いま地域循環共生圏で申しているところは、この構想をみなさんに知っていただき、うちの地域、うちの企業も頑張ろう、ポテンシャルを持ってやろう、技術を色々取り入れてやろうと、そういう元気の輪が広がるようなボトムアップアップ型の声がけをしています。

 しかもこの循環のネットワークシステムは、ある意味で階層性になっています。一番ベースの友人、家族、地域から大きなエリア、流域、国全体、アジア全体など適正なところでの循環というものがあると思います。小さい視点、ボトムアップを大事にしていますが究極はアジア全体、グローバル全体です。これは、日本の経験で言っても、かつて国内をかなぐり捨てて世界のことを見るような時が無いわけではありませんでした。いまや国内課題としての技術を使い、循環する発想を持ちながら、世界へ貢献していく、世界のカーボンニュートラルに貢献していく発想です。図式化しますと、この自然生態圏、ネイチャーポジティブの世界は、山から海に至る水の循環に象徴されます。この循環系の中に川から海に行き、蒸発し、また雲から雪や雨になり、降りていく。この中に私たち全ての営みがあるわけです。この循環の中から水回り、食料、エネルギー、観光資源をいただいている発想で、これを調和していくのです。

地域循環共生圏

 この絵は日本の地域にも当てはまりますが、ひょっとしたら大きな意味で中国全土をどう考えるか、アジアの視点ではこれはどうなるか。先ほどの循環の階層性の発想から見ますとボトムアップの、私たちができる回りの循環を考えながらも、どんどん大きくしていくことが大事だろうと思っております。

 そういう意味でいまの構想は、環境省が閣議決定という形で政府全体のサスティナブルな環境の切り口から構想で出しておりますが、それをやるためにも、やはり今日のような日中の協力の場、人と人のイノベーション、オープンな場での交流。そしてデジタルトランスフォーメーション、AIも含めて電気がかかるわけですが、これは賢く使えば、地域循環をやる大事な道具になります。ここでかかる電気自体は、賢く地球に負荷がかからない形で獲得する。

 こういう大きな構想の中で、皆が共有感を持ってそれぞれ頑張る。政府、官、民も頑張る。こういう構想で日本はやっていることをご紹介したいと思います。今日はこれのさらなる展開を期待しております。ありがとうございます。


プロフィール

中井 徳太郎(なかい とくたろう)/日本製鉄顧問、元環境事務次官

 1962年生まれ。大蔵省(当時)入省後、主計局主査などを経て、富山県庁へ出向中に日本海学の確立・普及に携わる。財務省広報室長、東京大学医科学研究所教授、金融庁監督局協同組織金融室長、財務省理財局計画官、財務省主計局主計官(農林水産省担当)、環境省総合環境政策局総務課長、環境省大臣官房会計課長、環境省大臣官房環境政策官兼秘書課長、環境省大臣官房審議官、環境省廃棄物・リサイクル対策部長、総合環境政策統括官、環境事務次官を経て、2022年より日本製鉄顧問。

■ シンポジウム掲載記事


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【シンポジウム】気候変動対策を原動力にGXで取り組む

【シンポジウム】GXが拓くイノベーションインパクト

【シンポジウム】福川伸次:技術革新で挑む地球環境問題

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【対談】小手川大助 vs 周牧之:(Ⅱ)複雑な国際情勢をどう見極めるか?