■ 編集ノート:東京経済大学は11月30日、国際シンポジウム「グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来」を開催した。後援:北京市人民政府参事室、China REITs Forum。メディア支援:中国インターネットニュースセンター。セッション1「GXにおける日中の取り組み」では、南川秀樹日本環境衛生センター理事長・元環境事務次官、邱暁華マカオ都市大学教授・中国統計局元局長、徐林中米グリーンファンド会長・中国国家発展改革委員会発展戦略和計画司元司長、田中琢二IMF元日本代表理事、周其仁北京大学国家発展研究院教授が日中両国のGX分野での政策と成果を報告し、今後の展開について議論した。
■ 「グリーン化」が中国を世界で最も多くの再生可能エネルギー設備を持つ国に
シンポジウムのセッション1「GXにおける日中の取り組み」は南川秀樹日本環境衛生センター理事長・元環境事務次官の司会で、パネリストの邱暁華氏マカオ都市大学教授・中国国家統計局元局長、徐林中米グリーンファンド会長・中国国家発展改革委員会発展戦略和計画司元司長、田中琢二IMF元日本代表理事と、コメンテーターの周其仁北京大学国家発展研究院教授が登壇した。
東京経済大学で客員教授を務めていた南川秀樹氏はまず以下の問題提起をした。気候変動の問題は、従来の環境問題とは異なる点がある。過去の環境問題は、誰かが原因を作り、特定の人々が影響を受ける形だった。しかし、気候変動問題は、CO2やメタンを排出する国があれば、その影響は全ての国に均等に及ぶ特徴がある。つまり、原因者と被害者が直接的に結びついておらず、プレッシャーをかけにくい。このような背景下、先日のCOPで発展途上国からは、「CO2を多く排出して経済成長している国々が、なぜ自分たちを支援してくれないのか」という不満の声が上がった。もちろん、中国や日本も積極的に取り組んでいるが、まず中国や日本が排出削減や適応対策をどう進めているのかを世界に向けて発信する必要がある、と述べた。
邱暁華氏は中国経済が歩んできた歴史的な変遷について、特に中国が現在直面する「三大変化」に焦点を当てた。三大変化を「デジタル化」「スマート化」「グリーン化」と定義し、各々の中国経済の発展への寄与について説明した。これらの変化が、中国経済の成長に新たなダイナミズムをもたらしていると強調した。
中国経済が直面する地政学的な課題については特に、アメリカや西洋諸国との経済的・政治的な対立が経済成長に与える影響に関して、発展途上国が直面する地政学的な影響を無視できないとした。
中国の「グリーン化」について、邱氏は具体的なデータを用いて解説した。中国政府は、2030年にCO2排出のピークを迎え、2060年までに排出量の実質ゼロを目指すと発表し、同目標を実現するためにさまざまな取り組みが進んでいると述べた。特に、再生可能エネルギーの導入拡大、産業構造の転換、循環型経済が促進し、これらの施策が中国の経済成長と環境保護を両立させる鍵となるとした。
2024年8月末時点で、中国の再生可能エネルギーの発電設備の規模は、全発電能力の40%以上を占めるようになったと紹介し、中国の再生可能エネルギーへの積極的な取り組みが会場に強い印象を与えた。
■ 中国ではイノベーションで太陽光発電コストが下がり、政府補助金が不要に
徐林氏は、中国は、低炭素への転換を「生態文明」という高い政策次元にまで引き上げた国であると強調し、具体的なデータを示しながらその取り組みを紹介した。例えば、過去40年間中国で100万平方キロメートルの緑地が増加した。この面積は、日本の国土面積の約3倍に相当し、中国の環境保護活動がいかに大規模であるかを示している。
再生可能エネルギーの拡大については、特に風力、太陽光、原子力の発電容量が急増し、中国が世界で最も多くの再生可能エネルギー設備を持つ国になったと述べた。徐は、この進展が中国経済の成長を支え、同時に環境保護に大きな貢献をしていると強調した。
徐氏は、中国の太陽光発電技術の進歩でコストも下がり、同分野で政府の補助金が不要になり、商業投資の機会が増えていると紹介。従来低炭素への移行はプレッシャーとなっていたが、現在では技術の進展とグリーン電力への投資の成果が相まって経済成長の原動力となり、もはやプレッシャーではなくなっていると力説した。
田中琢二氏はIMFでの経験を基に、気候変動問題に対する国際的なアプローチを説明した。日本が直面する環境問題と、その取り組みについては、日本が掲げる温室効果ガス削減目標について言及し、2030年の温室効果ガス削減目標を達成するため2013年の14億トンの CO2を7.6億トンに削減する必要がある。この中で、エネルギー起源のCO2削減が最も重要な部分を占め、特に電力由来のCO2削減が重要なポイントとなっている。電力由来のCO2削減は全体の半分を占めており、再生可能エネルギーの導入が進むことで、この目標を達成することが可能になるとした。
田中氏は、国際的に日本と中国をはじめとする国々が気候変動対策に貢献しつつ、経済成長を実現するため連携を深めていると述べた。特に、日中間では再生可能エネルギー技術の輸出や、カーボンプライシング制度の連携が進み、中国が同分野で実施する非常に先進的な取り組みの経験を参考にしながら、日本も国際的な気候変動対策に貢献することが求められていると、強調した。
田中氏はまた、日本は再生可能エネルギーの導入拡大や次世代技術の研究開発、特に洋上風力や水素技術、蓄電池製造サプライチェーンの強化や次世代型太陽電池の開発などが重要だとした。さらに、カーボンプライシングや新しい金融手法がGX(グリーントランスフォーメーション)の進展を支える重要な要素であると指摘し、これらの政策が民間投資を引き出し、経済成長と脱炭素化を同時に実現する道筋だと示した。社会的公平性の確保にも触れ、特に影響を受けやすい労働者や地域経済への支援が不可欠であると強調した。気候変動対策が経済的な格差を広げない配慮が、持続可能な社会の実現にとって重要だと述べた。
■ 気候変動対策はやれることからどんどんやっていくことが大事
コメンテーターの周其仁氏は、中国は環境保護に大きな努力をしているが、その道のりは決して簡単ではないと指摘。中国は経済成長の過程で、大量のエネルギーを消費し、環境を犠牲にしてきたが、今はその成長を持続可能にするために環境重視にシフトしなければならない。それに伴って発展途上国特有の課題をどう乗り越えるかが重要であると強調した。経済的な発展と環境保護のバランスを取るためには、各国が独自の状況を考慮した政策を採る必要があるとした。
司会の南川氏は、アメリカの「インフレ抑制法」実施とEU(欧州連合)「国境環境税」の導入議論について取り上げ、環境対策における経済的な保護主義に対して懸念を示した。
これに対して周氏は、大国のリーダーの中に、気候変動の進行を信じていない人がいるが、それでもなお全球的な協議の実現に向けて、まず大国間で協力の道を模索することが重要だと力説した。人類はこれまで、大きな問題を協議で解決することがなかなか出来なかった。軍事的な問題でも、解決には時間がかかり、多くの命が失われている。気候変動のような長期的で大規模な問題は、さらに難しい課題であり、全球的な協議に対する期待を過度に高く持つのは現実的ではないかもしれない。地道に現実的な解決策を見つけどんどんやっていくことが大切だと述べた。
■ シンポジウム掲載記事
GX政策の競い合いで地球環境に貢献
http://japanese.china.org.cn/business/txt/2024-12/30/content_117632819.htm
気候変動対策を原動力にGXで取り組む
http://japanese.china.org.cn/business/txt/2025-01/02/content_117641894.htm
GXが拓くイノベーションインパクト
http://japanese.china.org.cn/business/txt/2025-01/02/content_117641551.htm
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