■ 編集ノート:東京経済大学は2024年11月30日、国際シンポジウム「グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来」を開催した。福川伸次元通商産業事務次官、鑓水洋環境事務次官、岡本英男東京経済大学学長、楊偉民中国第十三回全国政治協商会議経済委員会副主任、中井徳太郎元環境事務次官、南川秀樹元環境事務次官、邱暁華中国統計局元局長、徐林中米グリーンファンド会長、田中琢二IMF元日本代表理事、周其仁北京大学教授、索継栓中国科学院ホールディングス元会長、岩本敏男NTTデータグループ元社長、石見浩一エレコム社長、小手川大助IMF元日本代表理事、周牧之東京経済大学教授、尾崎寛直東京経済大学教授をはじめ産学官のオピニオンリーダー16人が登壇し、日中両国のGX政策そしてイノベーションへの努力などについて議論し、未来に向けた提言を行った。邱暁華氏はセッション1「GXにおける日中の取り組み」のパネリストを務めた。

■ 中国経済の「三大変革」
再び美しい東京経済大学に来る機会を得て、大変嬉しいです。
先ほど楊主任が中国経済について、既に紹介されました。私のテーマは元々「中国経済とGXの実践」です。中国経済についてはこれ以上あまり触れません。いくつかのポイントだけをお伝えします。
一つ目は、本日のテーマと関わるもので、中国は「三大変革」の只中にあります。これは「デジタル化」「スマート化」「グリーン化」の3つです。これらの変革の中で、中国経済は高品質な発展を目指しています。これは中国経済全体の大きな流れです。三大変革の過程で、中国の経済は以前とは全く異なる姿を見せています。
一方では、中国経済が現在置かれている国際環境は大きく変わっています。100年一度の世界大変局は、二つの方面で中国に挑戦とチャンスをもたらしています。一つは、地政学的な変化が進み、中国とアメリカを始めとする西洋諸国との経済・政治関係に、大きな変化をもたらしました。中国は、アメリカを始めとする西洋諸国から強い競争圧力を受けています。他方、中国は新興経済や発展途上国の従来型産業の市場、資源、資金を巡り、競争に直面しています。三大変革の過程で、国際的に二重の競争圧力を受けています。
第一に、中国の人口構造の変化については、よくご存知だと思います。中国の人口は成長傾向から縮小傾向へとシフトしました。中国人口は2022年に85万人、2023年に208万人減少しました。恐らく2024年もこの縮小傾向が続くでしょう。目下、中国の結婚人数は、昨年と比較し500万カップル減少しました。もちろん今年は特別な年です。中国伝統の農暦(旧暦)では今年は「春のない年」です。今年の立春は春節(旧正月)の前です。中国の農村、あるいは中小都市など多くの地方では、結婚に相応しい年とはされていないのです。今年は「未亡人の年」とされています。結婚者数の減少はこれと大きく関係があるかもしれません。
大都市はこれとは関係ないでしょう。大都市ではむしろ子育ての条件、環境、ストレスと関係しています。いま大都市では若い人たちの間に、「四つの不(NO)」現象があります。不恋(恋愛しない)、不婚(結婚しない)、不育(子供を産まない)、不買(家を買わない)の現象です。人口構造の大きな変化の中で、中国の従来型産業の成長は大きな挑戦を受けています。
第二に、中国経済は従来の数量拡張が主な成長要因だった段階から、品質と収益で成長追求する段階になりました。数量拡張の段階では、資本投入と消費に依存するのに対して、品質を求める段階では創新(イノベーション)が必要です。中国のイノベーションは大きな進展を見せていますが、同時に新しい挑戦にも直面しています。イノベーションの進展に国内外の影響を受けています。一方では国際的な影響を受けています。他方では中国のミクロ経済主体の生産経営上の困難が影響しています。これは二番目の変化です。

第三に、中国の市場も大きく変化しています。過去には中国は、モノ不足の市場でした。現在はモノが相対的に過剰な市場となっています。市場環境の変化で中国がいま直面している最も大きな課題は内需の不足です。さきほど楊主任が、経済成長率が5.3%から4.6%へ減速したと紹介しました。その最大の原因は、内需不足にあります。内需不足は主に今年以来、中国の企業も家庭も自ら銀行融資を減らしていることに現れています。ミクロの主体の銀行融資の削減は、マクロ的な消費不足をもたらしています。これは大きな変化です。目下中国では企業の融資額、家庭の融資額共に鈍化しています。この鈍化は、資産バランスシートの圧力が主な要因で、銀行融資の減少をもたらしています。従ってマクロでは、中国の国内消費、国内投資共に鈍化しています。これは第三の変化です。
また、中国経済は、高速成長から高品質成長への転換の中で、従来型産業の勢いが弱まり、新しい産業や業態の発展がこれを充分に補ってはいません。これが、経済成長鈍化の圧力となっています。つまり新産業や新業態が生み出す新しいエナジーは、従来型産業の減速にヘッジできていません。これが中国経済の減速をもたらしています。中国経済は、過去の高度成長から中速成長に移り、いまや5%の成長率を達成するために大変な努力が必要です。つまり中国経済発展の内部環境も大きな変化がありました。
このような状況を踏まえ、中国政府は2024年9月に短期と中長期を組み合わせた政策を発表しました。中長期的には、「デジタル化」、「スマート化」、「グリーン化」を進め、新しい生産力と競争力のある産業の発展を目指しています。また、短期的にはミクロ的な主体を救済する、つまり、企業により良い経営環境、家庭により良い生活環境を作り出そうとする政策を実施しています。
2024年9月24日から中国が発表した政策として第一に資本市場の振興、第二に不動産市場の安定、第三に消費拡大の推進、第四にイノベーションの推進で、経済成長を維持しようとしています。いま、これらの政策パッケージは徐々に実行され効果が出始めています。最大の変化は、中国の資本市場の人気がさらに増し、ミクロ主体の自信が回復したことです。多くの企業家は、ようやくマクロ政策にもたらされた温度を感じ始めたと言っています。これまで存在していたミクロ主体とマクロとの体感温度の差異に、ようやく変化が見られています。こうした状況を踏まえ、中国経済の第4四半期の成長は皆の予想を超える可能性が高いです。いまの状況から見ると、5%前後になります。第1四半期は5.3%、第2四半期は4.7%、第3四半期は4.6%という減速の傾向を変え、上昇傾向になるでしょう。これが目下の中国経済に関する私の報告です。

■ 中国のGX実践
次に、中国のGXについてお話しします。中国のGXは、過去10数年間で最も大きな変革の一つだと思います。国内外の環境変化、国際社会および中国の民衆の期待に応じ、中国政府はGX政策を明らかに加速させました。政府は、2030年に二酸化炭素排出をピークアウトし、2060年には排出量の実質ゼロを目標に掲げています。GXにおいて一連の政策措置を打ち出しました。炭素排出の二重制御制度のシステム構築の推進、再生可能エネルギーの推進や、低炭素省エネ投資の推進などを含みます。経済発展を実現させると同時に、生態保護を重視し、経済構造とエネルギー構造のグリーン化を推進します。環境に優しい省エネ社会を構築します。これらの政策は、多領域の協力とイノベーション、汚染物質の排出減少、生態破壊の抑制、資源利用効率の向上、持続可能な社会への邁進などの効果をもたらしています。いま中国は、空がより青くなり、水がより澄み、空気がより新鮮になり、人々の生活や職場環境が不断に改善されています。
GXにおいて、中国はどのような努力をしてきたのでしょうか?第一にエネルギー構造の高度化を進め、非化石燃料の比重を高め、特に風力や太陽光などの再生可能エネルギーを発展させています。第二に産業構造の高度化も進めています。循環経済発展、グリーン低炭素の生産と生活を提唱し、さらに生態環境保護を強化させます。重点地域、重点産業、重点企業の汚染防止措置を実施します。さらに政府は、環境保護関連の法整備や、環境標準の引き上げ、グリーン技術イノベーションの奨励、グリーン金融の発展、グリーン発展の長期メカニズムの構築などにおいて、力を入れています。第14次五カ年計画以来、中国の非化石燃料の発電設備規模は累積で78.5%増加しました。(非化石燃料)発電設備の比重も継続して増えてきました。2020年の44.8%から2024年8月末時点の56.2%になりました。今年8月末時点で、中国の再生可能エネルギーの発電設備規模は、風力発電、太陽光発電、バイオマス発電を含め、12.7億キロワットに達し、全発電容量の40.7%に達しました。6年半前倒しで、12億キロワットの目標を達成しました。これは新エネルギー発電の急速な発展を示しています。炭素削減目標達成のための重要なキャリアとして、新しい電力システムの建設も進展し、新エネルギー発電の高効率な吸収を支え、電力のグリーン化を推し進めています。グリーン電力の取引規模は急速に増大しています。10年間で、中国の非化石エネルギー消費の増加における世界の貢献は40%を超えました。非化石エネルギーの年間発電量は、2.2兆キロワット増加しました。約20億トンの二酸化炭素の排出量減少に相当します。社会全体の二酸化炭素の排出増加傾向も顕著に抑制されてきました。国際エネルギー機関のデータによると、いまから2030年まで世界の再生可能エネルギー新設設備容量において中国は約60%に達すると予測されています。これは、なんと誇らしいことでしょう。

■ 発展途上国へどう支援をしていくか?
中国政府の立場は非常に明確であり、GXを実現するため各国と協力し推進していきます。中国は国際的な場で、各国が発展段階や経済水準の違いに基づいた対策を進めるべきであると繰り返し強調しています。数字だけで見ると、確かに中国は、世界第2位の経済大国であり、最大の温室効果ガス排出国です。しかし、一人当たりの経済水準とCO2排出量はまだ発展途上国のレベルであり、先進国の水準には達していません。このため、中国の政策と態度は引き続き堅持します。一方で中国は国際社会からの要求や呼びかけに積極的に応じ、出来る限りのことを実施しています。他方、中国は積極的に自分の能力に見合う支援を、一部の発展途上国の新エネルギー開発、環境改善、新産業発展などに行なっています。第三に、人材育成の分野で中国は国際社会とりわけ発展途上国への支援を惜しみません。
先進国の態度について、中国は様々な国際的な場で、アメリカがイニシアティブを取るべきだと繰り返し呼びかけています。アメリカは世界第2位の温室効果ガス排出国であり、また最大の経済体です。先進国は歴史上、国際社会に多くの環境問題を残してきました。国際社会が環境問題を解決するにあたり、堆積してきた環境問題の歴史を忘れてはいけません。歴史的な観点からすると、先進国は多くの責任を負うべきです。道義的な観点からもそうするべきです。
経済的な能力の観点からも、先進国はより強い経済力を持っています。先ほど日本の事務次官は日本が200億ドルの国際社会の炭素削減取り組みを支援する予定だと紹介しました。これは大変素晴らしいことです。中国も、(このような支援を)賞賛すると同時に、自身の経済力に応じて国際共同の取り組みに参加します。パリ協定を中国は一貫して積極的に支持し賛同しています。

■ 中国炭素排出量のピークアウトは来年か?
先ほども簡単にお話ししたように、中国は二酸化炭素の排出削減に対する姿勢は明確です。新エネルギーの発展から、産業構造の向上、環境の改善、そして法律の整備までの四つの分野で、多くのGX政策を実施し、実践を重ねてきました。中国はすでにこの分野において世界に多大な貢献をしています。
中国の国際的な立場は、応対、イニシアティブ、支援であると明確にしています。国際社会の提唱に中国は応対し、GXにおいてイニシアティブを発揮し、できるだけ他の国を助けます。中国の新エネルギー産業発展自体はCO2削減への国際貢献です。
将来について、先ほど南川先生がご指摘されたトランプの再登板で何が起こるかについて、実際トランプの一度目の政権で既にパリ協定から脱退しました。二度目の政権で再びパリ協定から脱退するのか?恐らく脱退するでしょう。これまでのトランプ政策に関する分析から見ると、恐らく第一に、国内において減税するでしょう。第二に国際的に関税を引き上げるでしょう。第三はアメリカの製造業の再建でしょう。第四は金融規制及び他の規制の緩和でしょう。トランプがこれらの措置を取った場合、国際社会で展開する炭素削減の動きにはマイナスの影響を与えるに違いありません。中国は世界第2位の経済体として責任を持つ大国として国際社会と共に引き続き協力しながら、中国の2030年に炭素排出量のピークアウト、そして2060年のカーボンニュートラル実現という二つの目標を堅持します。決して逆戻りはしません。
目下の状況から見ると、国際社会は、中国の現在の努力を高く評価しています。昨日、私は冗談を交えてある新聞で読んだことについて話しました。中国は炭素排出量のピークアウトは来年あるいは再来年達成できるだろうとありました。これ国際調査会社による33人の国内専門家と11人の国際専門家への調査で、そのうち44%の答えで、来年中国はピークアウトを実現できると予想しています。来年、中国の石炭消費量がピークに達し、その後下がっていきます。国際社会は、こうした中国の実際の努力を評価しています。
他方、トランプのパリ協定脱退の可能性もあり、国際社会は中国がイニシアティブを発揮するよう更に高い期待をしています。
中国、日本、ヨーロッパの大きな経済体が協力して行動し、GXを堅持し続ければ、トランプはパリ協定を脱退しても、国際社会のGXは継続すると確信しています。

プロフィール
邱 暁華(Qiu Xiaohua)
1958年生まれ。アモイ大学卒業後、国家統計局で処長、司長、局長を歴任。その間、安徽省省長補佐、全国政治協商会議委員、全国青年連合会副主席、貨幣政策委員会委員などを務めた。現在、マカオ都市大学経済研究所所長。経済学博士。
主な著書に、『中国的道路:我眼中的中国経済』(2000年、首都経済貿易大学出版社)、『中国経済新思考』(2008年、中国財政経済出版社)。
■ シンポジウム掲載記事
■ 登壇者関連記事(登壇順)
【コラム】福川伸次:日中関係、新次元への昇華の途を探る 〜質の高い経済社会の実現と新グローバリズムの形成に向けて〜
【フォーラム】鑓水洋:地域活性化策には明確なコンセプトが求められる
【刊行によせて】楊偉民:都市のハイクオリティ発展を促す指標システム
【刊行によせて】楊偉民:全く新しい視点で中国都市の発展状況を評価する
【講演】中井徳太郎:カーボンニュートラル、循環経済、自然再生の三位一体のイノベーション—地域循環共生圏構想
【ディスカッション】中井徳太郎・大西隆・周牧之:コロナ危機を転機に
【ディスカッション】中井徳太郎・安藤晴彦・和田篤也・周牧之:省エネ・再生可能エネルギー社会への挑戦と自然資本
【フォーラム】南川秀樹:コミュニケーションの場としてのエンタメを
【コラム】邱暁華:高度成長からハイクオリティ発展へシフトする中国経済
【ディスカッション】小島明・田中琢二・周牧之(Ⅰ):誰がグローバリゼーションをスローダウンさせた?
【ディスカッション】小島明・田中琢二・周牧之(Ⅱ):ユーラシア大陸を視野に入れた米中関係
【刊行によせて】周牧之:新型コロナウイルス禍と国際大都市の行方
【論文】周牧之:二酸化炭素:急増する中国とピークアウトした日米欧
【論文】周牧之:アメリカ vs. 中国:成長と二酸化炭素排出との関係から見た異なる経済水準