成都:美食とエンタメを満喫できる内陸メガシティ【中国中心都市&都市圏発展指数2021】第5位

中国中心都市&都市圏発展指数2021
第5位


 成都市は中国中心都市&都市圏発展指数2021の総合第5位に輝いた。同市は2年連続第5位を維持した。

 〈中国中心都市&都市圏発展指数は、中国都市総合発展指標の派生指数として、4大直轄市、22省都、5自治区首府、5計画単列市からなる36の中心都市の評価に特化したものである。同指数は、これら中心都市を、全国297の地級市以上の都市の中で評価している。10大項目と30の小項目、116組の指標からなる。包括的かつ詳細に、中国中心都市の発展を総合評価するシステムである。

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〈中国中心都市&都市圏発展指数〉:【36中心都市】北京、上海、深圳、広州、成都、天津、杭州、重慶、南京、西安、寧波、武漢、青島、鄭州、長沙、廈門、済南、合肥、福州、瀋陽、大連、昆明、長春、ハルビン、貴陽、南昌、石家荘、南寧、太原、海口、ウルムチ、蘭州、フフホト、ラサ、西寧、銀川


■ 西部大開発の拠点都市


 四川省の省都・成都は、四川盆地西部に位置し、快適な気候と自然資源に恵まれ、四川省の政治、経済、文化、教育の中心地となっている。2300年の歴史を持ち、古くから「天府の国」と呼ばれている。成都は、四川料理の本場、パンダの生息地、「三国志」の蜀漢の都として日本でも知られている。

 同市の面積は約1.2万 平方キロメートルで新潟県とほぼ同じ大きさである。同市は、現在は「西部大開発」の主要な拠点都市と位置付けられ、「一帯一路」や「長江経済ベルト」など国家戦略の重要な拠点として期待されている。

 ここで、「西部大開発」とは、中国政府が2000年に策定した国家戦略であり、中国の内陸部に位置する西部地域の経済発展を促進し、東部沿海部との経済・社会格差を縮小することを目的としている。この政策は、中国西部の12省・自治区・直轄市を対象としており、「西電東送」、「南水北調」、「西気東輸」、「青蔵鉄道」の四大プロジェクトが主体となっている。この政策により、西部地域のインフラ整備や投資環境の整備、科学教育の発展などが進められ、現在でも継続している。また、大開発は経済発展を沿海部から内陸部へ及ぼす内需振興と同時に、内陸部の余剰雇用の吸収、少数民族地域の安定など社会不安を解消するねらいがあるとされている。

 西部開発政策の下でインフラ整備を進めた結果、成都は「空港利便性」が中国第5位(詳しくは【ランキング】中国で最も空港利便性が高い都市はどこか?〜2020年中国都市空港利便性ランキングを参照)、「鉄道利便性」は第20位となっている。近年の成都の躍進は、インフラ整備が1つの大きな要因となっている。高速道路、鉄道や空港の整備により、広域アクセスが向上し、観光客やビジネス客が容易に訪れることができ、交流経済が活発化しただけでなく、都市間や国際間の物流・貿易も容易にしている。上海等に代表される臨海都市とは異なる内陸メガシティ発展パターンを見せる。

 2021年に成都の常住人口は約2,119万人に達し、中国第4位の規模を誇るメガシティである。「農民工(出稼ぎ労働者)」の主要な流出地である四川省は、同省に属する地級市の18都市中、実に16都市が「人口流出都市」である。その純流出人口は、2021年で合計約1,249万人以上にのぼる。これに対して、同省成都は中国第6位の「人口流入都市」であり、現在約574万人もの非戸籍人口を外部から受け入れている。成都のGDPは四川省全体のGDPのおよそ4割を占め、同省の経済・人口ともに成都に一極集中している。四川省の将来は成都が担っていると言っても過言ではない(中国の人口移動について詳しくは【ランキング】中国メガロポリスの実力:〈中国都市総合発展指標〉で評価を参照)。

■ 都市ブランド構築アクションプラン「三城三都」


 成都は独自の都市ブランドアクションプラン「三城三都」を推し進めている。「三城」とは文化都市、観光都市、スポーツ産業都市を指す。「三都」とは、グルメ都市、音楽都市、コンベンション都市である。2017年に発表されたこのプランは、ソフトパワーを向上させるものである。

 「三都」のひとつ、グルメといえば中国四大料理の「四川料理」であり、これは日本でもなじみが深い。成都は四川料理の発祥地であり、ユネスコに「アジア初めてのグルメ都市」と称された美食の街である。中国都市総合発展指標2021によると、「経済」大項目の指標「レストラン・ホテル輻射力」において中国第4位の成績に輝いている。また、四川料理以外にもマクドナルド、ケンタッキー、ピザハット、スターバックス、ハーゲンダッツなど海外の飲食チェーン店も多く、同指標の「海外飲食チェーン指数」でも中国第8位にランクインした。

 成都は時間が止まったような、ゆったりとした都市である。喫茶店でお茶を飲みながら雑談や麻雀を楽しむ光景がいたるところで見られる。喫茶店は1万軒を超え、スターバックスの数も中西部地区で一番多い。

■ スポーツ産業都市


 上記「三城」の1つ、スポーツ産業も好調である。〈中国都市総合発展指標2021〉によると、「経済」大項目の指標「文化・スポーツ・娯楽輻射力」は、中国第3位にランクインした。

 同市では、スポーツ産業の発展を加速させるために、「成都サッカー改革発展実施計画」、「成都万人フィットネス実施計画」などの政策を相次いで発表し、資金提供、選手の育成、有名スポーツ企業の誘致など、様々な施策を打ち出している。

 また、「成都スポーツ産業活性化発展計画(2020−2025年)」では、同市のスポーツ産業の規模をさらに現行の倍以上の1,500億元(約3兆円、1元=20円換算)へと目標を定めている。

 成都に限らず、中国ではスポーツやフィットネスに対する意識は大幅に高まっている。スポーツ産業は、都市経済はもちろん、都市の魅力やライフクオリティ向上の面でもその重要性を増している。

■ 国際コンベンション都市


 「三城三都」のうち、「三都」の1つはコンベンション都市だ。〈中国都市総合発展指標2021〉によると、成都は、「社会」大項目の指標「国際会議」ランキングは、前年度と引き続き中国第2位に輝いている。同項目の指標「コンベンション産業発展指数」ランキングも、前年度と引き続き中国5位を維持している。

 この躍進ぶりは「三城三都」の政策効果が大きい。現代の経済・文化交流において、コンベンション産業は非常に重要な役割を担っており、経済発展に大きな影響を与えている。成都市政府は、同市を国際コンベンション都市にするため、さまざまな政策を打ち出している。

 同市博覧局は2020年、全国初となる「展示活動管理規範の協調防疫対策」を発表し、大規模展示会の開催における感染症対策マニュアルを示した。2021年には、展示会開催に大規模な補助金を設け、2022年の「国際会議展覧都市成都建設第14次5カ年計画」では、2025年までに、成都を世界に冠たる国際コンベンション都市に成長させると明言している。市政府は、コンベンション産業市場を1,600億元(約3.2兆円)にまで成長させる目標を定めている。主要な展示活動の数は1,200以上、総展示面積は1,450万平方メートル以上との数値目標を掲げている。


中国都市総合発展指標2021
第5位


 成都は2年連続で総合ランキング第5位を維持した。

 「社会」大項目で成都は第4位であり、前年度に比べ2つ順位が上がった。3つの中項目の 中で「伝承・交流」は第4位、「ステータス・ガバナンス」は第6位、「生活品質」は第7位であった。小項目から見ると、成都の「社会マネジメント」「文化娯楽」「居住環境」は第3位、「人的交流」は第4位、「都市地位」は第9位と、9つの小項目のうち、半数以上の5項目がトップ10位内にある。なお、「生活サービス」は第11位、「人口資質」「消費水準」は第14位、「歴史遺産」は第16位であった。

 「経済」大項目で成都は第6位であり、前年度より1つ順位を下げた。3つの中項目の中で「都市影響」は第5位、「発展活力」は第6位、「経済品質」は第8位であった。小項目では、「広域輻射力」は第4位、「ビジネス環境」「都市圏」は第5位、「経済規模」「開放度」は第7位、「経済構造」「イノベーション・起業」は第8位、「広域中枢機能」は第10位と、9つの小項目のうち、1項目を除いた8項目がトップ10位内にある。なお、「経済効率」は第36位であった。

 「環境」大項目で成都は第23位とり、前年度より順位を下げる結果となった。3つの中項目の中で「空間構造」は第10位と良好であるが、「環境品質」は第58位、「自然生態」は第107位と順位が落ち込んでいる。小項目では、「都市インフラ」は第6位、「環境努力」は第7位と、9つの小項目のうち、2項目がトップ10位内にある。トップ10以下は、「交通ネットワーク」が第11位、「コンパクトシティ」が第14位、「資源効率」が第20位、「気候条件」は第107位であった。第69位の「自然災害」、第103位の「水土賦存」、第216位「汚染負荷」は、いずれも全国平均を下回った。

 成都は、社会や経済と比較すると環境の成績は少し劣るものの、西部地域で最も成長する都市として近年順調に総合順位を上げてきている。

CICI2016:第4位  |  CICI2017:第4位  |  CICI2018:第4位
CICI2019:第4位  |  CICI2020:第4位  |  CICI2021:第4位


■ 成都ハイテク産業開発区(高新区)


 「西部大開発」の拠点都市として成都は重慶と同様、市内に国家級のハイテク産業開発区や経済技術開発区などが置かれ、中央政府関係部門からのさまざまなサポートを受け重点的に産業が集積されている。重慶は従来から自動車、石油化学、重電などの重厚長大型産業が集中している。これに対して成都には電子産業、製薬・バイオ産業、IT関連産業などが集積している。

 「成都ハイテク産業開発区」が1988年に発足し、1991年には国家級開発区に認定された。同開発区は成都市の西部と南部に位置する二つの地域からなり、総面積は130平方キロメートル(山の手線内の面積の約2倍)で、そのうち南部地域が87平方キロメートル、西部地域が43平方キロメートルである。南部地域には金融、ソフトウェア開発、BPO関連のサービスを提供する企業が集積し、西部地域はエレクトロニクス産業、バイオ医学産業、IT関連産業などの企業が進出している。同開発区の域内総生産はすでに成都市の約30%を占めている。

 同開発区に支えられた成都の発展は、本指標でその成果を見ることができる。〈中国都市総合発展指標2021〉では、「科学技術輻射力」は中国第10位、「IT産業輻射力」は第5位、「創業板・新三板上場企業指数」は第7位、「特許取得数指数」は第15位となっている。

■ 宵越しの金は持たない一大消費都市


 成都は歴史的に消費が盛んな都市である。「宵越しの金は持たない」という成都人気質は、本指標にも顕著に表れている。〈中国都市総合発展指標2021〉では、成都の「平均賃金」は中国第26位であり、決して突出した状況ではないにもかかわらず、「映画館消費指数」は第4位(詳しくは【ランキング】世界で最も稼ぐ映画大国はどこか? 〜2021年中国都市映画館・劇場消費指数ランキングを参照)、「卸売・小売輻射力」に至っては第3位である。また、「美食の都」と評されるような豊かな食の文化と消費力が合わさった結果、「トップクラスレストラン指数」は第4位、「飲食・ホテル輻射力」も第4位となっている。成都人はファッション感覚にも優れ、世界から相次ぎ同市に進出した高級ブランドにも飛びつき、「海外高級ブランド指数」では上海、北京、杭州に次ぐ第4位に躍り出ている。

 豊かな土地にゆったりと過ごす価値観を持つ成都の人々は、蓄えることより消費を好む社会を築いている。この旺盛な消費市場を狙い、日系を含む外資サービス産業の進出が相次いでいる。 


【ランキング】中国メガロポリスの実力:〈中国都市総合発展指標〉で評価

雲河都市研究院

編集ノート:中国の社会経済発展をリードする長江デルタ、珠江デルタ、京津冀の3大メガロポリスを始め、中国にはいま大小どれほどの数のメガロポリスが存在しているのか?それらのメガロポリスをどう評価するのか?現在最も実力のあるメガロポリスは?雲河都市研究院は、〈中国都市総合発展指標〉を用いて、メガロポリスの発展に対する総合的な評価を試みた。


 中国政府の計画の中で、「メガロポリスは中国新型都市化の主要な形態」とされている(【メインレポート】メガロポリス発展戦略を参照)。雲河都市研究院は、中国都市総合発展指標2021(以下、〈指標〉)を使い、現行の政府計画での19メガロポリスのうちトップ10のメガロポリスに対して総合的な評価を行い、その実力と課題を評価した。長江デルタ(上海・江蘇・浙江・安徽)、珠江デルタ(広東)、京津冀(北京・天津・河北)、成渝(四川・重慶)、長江中游(湖北・湖南・江西)、粤閩浙沿海(広東・福建・浙江)、山東半島(山東)、北部湾(海南・広西)、中原(山西・安徽・河南)、関中平原(陝西・甘粛)の10メガロポリスは、173の地級市以上の都市(日本の都道府県に相当)を含み、人口とGDPの全国シェアはそれぞれ69.9%と77.7%に達し、中国の社会経済発展の最も主要なプラットフォームとなっている(〈指標2021〉について詳しくは、【ランキング】メガシティの時代:中国都市総合発展指標2021ランキングを参照)

 これについて、中国国務院新聞弁公室元主任の趙啓正氏は、「今回の〈指標〉の一大特徴は、メガロポリスに焦点を当てた分析である。これは、私が長い間〈指標〉研究に期待していたことである。メガロポリスは現在、中国の都市化における主要な形態となっており、長江デルタ、珠江デルタ、京津冀の3大メガロポリスの波及効果は広く認められている。〈指標〉が10メガロポリスの総合力、発展形態、課題に対して行った分析と評価は、メガロポリス政策をどう理解し、都市発展をどう考えるかという点で貴重な価値を持つ。中国の各都市の指導層や社会学者にとって大きな関心と注目を払うべきものである」と称賛する。

1.一人当たりGDP優位指数によるメガロポリスの分類


 一人当たりGDP優位指数(Competitive Advantage Index:一人当たりGDP / 全国一人当たりGDP平均値 × 100)に基づき、10メガロポリスを3つのタイプに分類することができる。すなわち、①一人当たりGDP優位指数が100を大きく上回り、他の地域に比べて強い経済優位性を持つメガロポリス、②指数が100前後のメガロポリス、③指数が100を大幅に下回るメガロポリスの3分類である。

 長江デルタ、珠江デルタ、京津冀の3大メガロポリスの一人当たりGDP優位指数は、それぞれ171、158、124である。すなわち、3大メガロポリスは第1分類に属し、全国におけるこれらGDP総量のシェアは36.6%に達する。強い経済優位性が、全国各地から大勢の人々を引き寄せている。現在、長江デルタ、珠江デルタ、京津冀に住む流動人口(非戸籍の常住人口)は、それぞれ3,186万人、3,909万人、908万人に上る。この3大メガロポリスは、10メガロポリスの中で唯一、人口純流入があるグループである。

 特に、珠江デルタメガロポリスの9つの都市のうち、人口純流出は1都市だけである。最も深圳では、常住人口のうち非戸籍人口の割合が66.3%にも達している。

 長期にわたり大量の人口が流入することで、全国における3大メガロポリス常住人口のシェアは23.5%に達する。周牧之東京経済大学教授は、「3大メガロポリスが中国の発展を牽引しているのは議論の余地がない。いま、中国人口のほぼ4分の1が3大メガロポリスに住んでいる。若年層の移住者のおかげで、珠江デルタと長江デルタの労働力人口(15〜64歳)の比率は、それぞれ72.9%、65.2%に達し、若い人口構造がこの2つの地域に強力な活力を与えている。しかし、京津冀の労働力人口比率は62%であり、全国平均の63.4%を下回る」と指摘している。

 成渝、長江中游(詳しくは、【レポート】中心都市から見た長江経済ベルトの発展を参照)、粤閩浙沿海、山東半島の4つのメガロポリスの一人当たりGDP優位指数は、それぞれ91、103、102、101で、全国平均水準付近を維持し、第2部類に属している。3大メガロポリスの強力な吸引効果のもと、これら4つのメガロポリスは人口純流出地域となっており、成渝、長江中流、粤閩浙沿海、山東半島の人口流失は、それぞれ723万人、781万人、359万人、20万人に達している。

 北部湾、中原、関中平原の3つのメガロポリスの一人当たりGDP優位指数は、全国平均水準よりもかなり低く、それぞれ69、68、73で、第3部類に属している。経済水準の格差が大量の人口流失を引き起こし、北部湾、中原、関中平原の流失人口はそれぞれ521万人、2,474万人、169万人に達している。

図1 〈中国都市総合発展指標2021〉で見た10メガロポリス総合評価

2.中心都市と一般都市の相互作用がメガロポリス発展の鍵


 〈中国都市総合発展指標は、全国297の地級市以上の都市すべてをカバーし、環境、社会、経済の3つの側面から中国の都市の発展を総合的に評価する。882のデータセットで構成された27の小項目、9の中項目、3の大項目から構成されている。〈指標〉では、偏差値を用いて各都市が全国のどの位置にあるかを評価する。偏差値により、さまざまな指標で使用される単位を統一された尺度に変換して比較できる。環境、社会、経済の3つの大項目の偏差値を重ね合わせた総合評価における偏差値の全国平均値は150である。

 各メガロポリスの発展水準の分析を可視化するために、本文では10メガロポリスに含まれる173都市の〈指標2021〉総合評価偏差値をメガロポリスごとに箱ひげ図と蜂群図を重ねて分析し、各メガロポリスの都市総合評価偏差値の分布状況と差異を一目できるようにした。

 箱ひげ図中の横線は、サンプルの中央値、箱の上辺は上位四分位点(75%)、箱の下辺は下位四分位点(25%)、箱本体は50%のサンプル分布を示している。蜂群図は、個々のサンプル分布をプロットした図である。箱ひげ図と蜂群図を重ね合わせることで、サンプルのポジションと全体の分布の双方を示せる。

 図1に示すように、10メガロポリスの総合評価偏差値の中央値では、珠江デルタと長江デルタだけが全国平均値を上回り、中でも珠江デルタのパフォーマンスは長江デルタよりもはるかに高い。

 長江デルタには、上海杭州南京寧波合肥の5つの中心都市がある(詳しくは、「【メインレポート】中心都市発展戦略」を参照)。中心都市の数では中国のメガロポリスの中で最も多い。とくに上海の総合ランキングは中国第2位である。一方、珠江デルタには広州深圳の2つの中心都市しかなく、両都市の総合ランキングはいずれも上海の後方にある。珠江デルタにおけるメガロポリスの中央値が長江デルタよりもはるかに高いのは、仏山や東莞などの一般都市の総合評価が高いことに因る。珠江デルタメガロポリスでは総合評価偏差値が全国平均水準より低い都市は1つしかない。それに対して、長江デルタメガロポリスには、総合評価偏差値が全国平均水準を下回る都市が10もある。

 これについて、深圳市元副市長で香港中文大学(深圳)理事の唐杰氏は、「中国はメガロポリスの発展時代に入った。メガシティと中小都市が空間的に協働することが、経済社会発展の新たなエンジンとなっている」と指摘する。周牧之教授は、「メガロポリスは、中心都市の強さが求められる一方で、多くの一般都市を高い発展水準に引き上げるかどうかも、その発展を評価する重要な指標である」と評している。

 この視点から見ると、京津冀メガロポリスにおける都市の格差はかなり顕著である。総合ランキング中国第1位の北京を筆頭に、直轄市の天津を含むものの、同メガロポリス総合評価偏差値の中央値は、10メガロポリスの中で8位に過ぎない。これは、もう一つの中心都市である石家庄の総合評価パフォーマンスが優れない点と、京津冀メガロポリスのすべての一般都市の総合評価が全国平均水準以下であることが原因である。 

図2 10メガロポリス常住人口比較分析

3.包容性と多様性が都市社会発展の基盤


 人は高きところを目指し、水は低きところへ流れる。中国はいま、人類史上最大規模の人口移動を経験している。10メガロポリスのうち、長江デルタ、珠江デルタ、京津冀は、唯一の人口純流入のグループであり、中国都市化人口移動の第一級の貯水池として全国から大量の人口を受け入れている。

 人口移動の第二級貯水池は中心都市である(詳しくは、「【メインレポート】中心都市発展戦略」を参照)。10メガロポリスに含まれる23の中心都市から見ると、3大メガロポリスの10の中心都市は、当然ながら人口純流入都市である。他の7つのメガロポリスの13の中心都市のうち、12都市は人口純流入であり、地域や周辺から多くの人口を吸引している。広大な地域と膨大な人口を持つ重慶だけは、中心市街地が地域内の過剰人口を吸収できず、人口純流出都市となっている。

 周牧之教授は、「大量の人口流入により、上記の10メガロポリスの23中心都市のうち、すでに14都市が人口一千万人を超えるメガシティに成長した。さらに、寧波、合肥、南京、済南など、人口が900万人を超える特大都市が控えている。これらの都市も近い将来メガシティになることが予想される」と指摘する。

 中国共産党中央財経領導小組弁公室元副主任の楊偉民氏は、「中国共産党第20回全国代表大会では、メガシティと特大都市の発展モデルの変革を加速すると提起された。これは、中国の近代化強国建設における、メガシティと特大都市の発展方向を示すものである。では何を変えるべきなのか?まず、経済発展、人間の全面的な発展、持続可能な発展という「三つの発展」の空間的均衡を促進する必要がある。そこでは、経済発展や都市建設に注力するあまり、人間の全面的な発展と生態環境保護を無視してはならない。〈中国都市総合発展指標〉は、当初から経済、環境、社会の「三位一体」の指標体系で都市発展を評価しており、これは科学的なアプローチである。次に、都市の包容性と多様性を増やし、さまざまな職業人口のバランスを保つ必要がある。ホワイトカラーだけを求めてブルーカラーを拒否し、大学生だけを求めて農民工を拒否すると、都市の発展を損なうことにつながりかねない」と強調している。

図3  10メガロポリス


【中国語版】
チャイナネット「城市群实力:来自“中国城市综合发展指标”的评价」(2023年3月24日)

他掲載多数


広州:世界に誇る交易都市【中国中心都市&都市圏発展指数2021】第4位

中国中心都市&都市圏発展指数2021
第4位


 広州市は中国中心都市&都市圏発展指数2021の総合第4位に輝いた。同市は4年連続第4位を維持した。

 〈中国中心都市&都市圏発展指数は、中国都市総合発展指標の派生指数として、4大直轄市、22省都、5自治区首府、5計画単列市からなる36の中心都市の評価に特化したものである。同指数は、これら中心都市を、全国297の地級市以上の都市の中で評価している。10大項目と30の小項目、116組の指標からなる。包括的かつ詳細に、中国中心都市の発展を総合評価するシステムである。

CCCI2017 | CCCI2018 | CCCI2019 | CCCI2020

〈中国中心都市&都市圏発展指数〉:【36中心都市】北京、上海、深圳、広州、成都、天津、杭州、重慶、南京、西安、寧波、武漢、青島、鄭州、長沙、廈門、済南、合肥、福州、瀋陽、大連、昆明、長春、ハルビン、貴陽、南昌、石家荘、南寧、太原、海口、ウルムチ、蘭州、フフホト、ラサ、西寧、銀川


■ 開放感溢れる貿易都市


 広東省の省都である広州は、同省の東南部、珠江デルタに位置し2000年以上にわたり交易の中心地として繁栄してきた。特に明朝と清朝では数百年にわたって中国対外貿易の唯一の窓口で、世界最大の貿易大国を支えた。

 新中国建国後もその交易機能を活かし、厳しい国際環境のなか1957年に始まった広州交易会(中国輸出商品交易会)は一時、中国の輸出の半分までを稼いでいた。

 広州の2021年GDPは2.82兆元(約56.4兆円、1元=20円換算)に達し、前年比8.1%の伸びを実現した。これは、北京、上海、深圳に続き中国第4の経済規模である(詳しくは、【ランキング】世界で最も経済リカバリーの早い国はどこか? 中国で最も経済成長の早い都市はどこか?を参照)。

 2021年広州の常住人口は約1,881万人で、中国第5位となっている。改革開放後、広州は外部から多くの人口を受け入れてきた。広州の戸籍を持たない常住人口、いわゆる「流動人口」は約883万人に達し、中国第3位の規模である。

■ 珠江デルタメガロポリスの交通ハブ


 中国政府は広州を中国の重要な総合交通ターミナルと位置づけている。中国都市総合発展指標2021における陸・海・空の交通パフォーマンスはいずれも全国トップクラスの成績を収めている。

 鉄道・道路において、「鉄道利便性」は中国で第5位、「道路輸送指数」は同第3位である。なかでも、広州南駅は中国最大クラスの旅客輸送量を誇る鉄道駅であり、北京―広州高速鉄道、広州―深圳―香港高速鉄道をはじめとした鉄道網の重要なハブ駅となっている。中国の国家戦略「一帯一路」は、広州を国際貨物輸送ハブとし、粤港澳ビッグベイエリアはもちろん、東南アジア、中東、さらには欧州向けの一大交通拠点になることを目指している。

 市内の交通インフラ整備は進み、2021年末には市の地下鉄営業距離が合計590キロメートルに達した。この距離は中国で第4位である。

 港湾では、「コンテナ港利便性」が中国で第6位、「コンテナ取扱量」が年間2,447万TEU(20フィートコンテナ1個を単位としたコンテナ数量)で、中国第4位、世界第5位である(詳しくは、『【ランキング】世界で最も港湾コンテナ取扱量が多い都市はどこか?を参照)。

 2018年4月には、広州白雲国際空港の第二ターミナルが運用開始した。同新ターミナルの総面積は65.9万平方メートル(羽田国際空港の約2.8倍)、カウンター数は339カ所。2021年に広州白雲国際空港の利用客4,025万人にのぼり、北京首都国際空港、上海浦東国際空港を抜いて中国第1位となった。郵便貨物取扱量は205万トンに達し、中国で第2位である。中国都市総合発展指標2021でも広州の「空港利便性」は全国第3位である(詳しくは【ランキング】中国で最も空港利便性が高い都市はどこか?を参照)。

■ ずば抜けた都市輻射力


 省都としての広州市は、文化、生活、教育などの面で周辺地域にさまざまな都市機能を提供している。珠江デルタメガロポリスの二大中心都市である広州と深圳の「輻射力」を比較すると、広州の優位性が明らかである。

 例えば、「医療輻射力」では広州が中国第2位であるのに対して深圳は同23位である(詳しくは【レポート】新型コロナパンデミック:なぜ大都市医療能力はこれほど脆弱に?を参照)。

 また、「高等教育輻射力」では、広州が中国第4位に対して深圳は同35位。文化・スポーツ・娯楽輻射力」では、広州が中国4位、深圳が同8位となっている。いずれの分野でも広州がより高い順位を獲得している(詳しくは【レポート】中日比較から見た北京の文化産業を参照)。

 このように、広州は交通インフラ、経済規模、人口規模、教育文化輻射力などの面で優れ、珠江デルタメガロポリスの発展を牽引している。


中国都市総合発展指標2021
第4位


 広州は6年連続で総合ランキング4位を獲得した。

 「社会」大項目で、広州は5年連続中国第3位であった。中項目の「ステータス・ガバナンス」「伝承・交流」「生活品質」は、いずれも第3位となった。小項目から見ると、「都市地位」「人口資質」「人的交流」「消費水準」は揃って第3位、「文化娯楽」「居住環境」「生活サービス」は第4位と、9つの小項目のうち、7つの指標がトップ5に入った。なお、「社会マネジメント」は第16位、「歴史遺産」は第21位と全国平均を上回るものの、順位は他の7項目と比較すると目立たない。

 広州の「経済」大項目は、6年連続で中国第4位を維持した。3つの中項目の中で「発展活力」「都市影響」は第4位、「経済品質」は第6位となった。9つの小項目のうち、7つの指標がトップ5に入り、その中でも「ビジネス環境」「広域中枢機能」が第3位と優れ、「経済構造」「イノベーション・起業」は第4位、「経済規模」「開放度」「広域輻射力」は第5位となった。なお、「都市圏」は第6位、「経済効率」は第19位となっている。

 「環境」大項目で広州は、2017年の中国第2位から第3位に順位を一つ落とした。3つの中項目指標 の中で「空間構造」は第4位を維持したものの、「環境品質」は第24位となり、「自然生態」は第26位に甘んじた。小項目から見ると、「コンパクトシティ」は第3位、「交通ネットワーク」は第4位、「都市インフラ」は第7位と、3項目はトップ10入りしているものの、「資源効率」は第13位、「気候条件」は第19位、「環境努力」は第32位、「汚染負荷」は第86位に留まった。「自然災害」は第166位、「水土賦存」は第227位と、いずれも全国平均を下回った。

 広州は、ごく一部の小項目が全国平均を下回っているものの、環境・経済・社会の各項目の成績は非常に高く、トリプルボトムラインのバランスもよく取れている。

CICI2016:第4位  |  CICI2017:第4位  |  CICI2018:第4位
CICI2019:第4位  |  CICI2020:第4位  |  CICI2021:第4位

■ 粤港澳ビッグベイエリア発展が加速


 中国政府は2019年2月に、現在推進中の粤港澳大湾区(広東省・香港・マカオ・ビッグベイエリア)構想の発展計画綱要を発表した。これは中国で初めて香港とマカオを国の地域発展計画に組み入れたものである。同計画は2035年までの長期計画で、対象都市は香港・マカオの2特別行政区と広東省9都市(広州、深圳、珠海、佛山、惠州、東莞、中山、江門、肇慶)の合計11都市となっている。

 ビックベイエリアの総面積は5.6万平方キロメートルで、ニューヨーク、サンフランシスコ、東京大都市圏の3つの都市圏を合わせた面積よりも大きい。ビッグベイエリアのGDP総額は2021年、約12.6兆元(約252兆円)に達し、その経済力はすでに韓国の名目GDPを上回り、カナダと同等で、世界第10位の規模に当たる。

 ビッグベイエリアは「世界の工場」として、中国で最も開放的で活気に満ちた地域である。産業の発展が加速する中、人口集積も進み、現在の総人口は約8,600万人を超えている。

 同計画における広州、深圳、香港、マカオの4つの中心都市の位置づけはそれぞれ異なる。広州は、「国際経済センター」「総合交通ハブ」「科学技術・教育・文化センター」として位置づけられている。

 世界最大のベイエリア構想がどう実現していくか、その行方を世界が注目している。

■ 広仏都市圏の形成


 中国都市総合発展指標2021総合ランキング第4位の広州と同21位の仏山は、地理的に隣接し、その人口密集エリアもかなり絡み合っている。行政区画は異なっていても人口密集エリアにつながりのある点で、東京都と千葉、神奈川、埼玉各県との関係に似ている。

 中心都市として発展してきた広州と、製造業を中心に成長してきた仏山との一体化は現在進んでいる。

 周牧之教授は、早くから広州と仏山を1つの都市圏として整備していくべきだと提唱していた。しかし、つい最近まで中国では都市圏の概念もなく、そういった政策もなかった。

 中国国家発展改革委員会は2019年2月19日、「現代化都市圏の育成発展に関する指導的意見」を公布し、初めて都市圏政策を打ち出した。これを追い風に、広州と仏山は行政区域を超えた1つの都市圏としての形成が期待される。

 広州と仏山を「広仏都市圏」として捉えた場合、その面積は11,232平方キロメートルで、東京大都市圏(一都三県)の8割程度の大きさになる。その経済規模は、2021年約4.04兆元(約80.8兆円)となり、北京を超えて中国第2位となる。また、常住人口規模は約2,842万人となり、上海と北京を超えて第1位になる。

 広仏都市圏の一体化は、地域経済の活性化やインフラ整備、産業の高度化に寄与し、広東省や粤港澳ビックベイエリア構想の重要な要素となると期待されている。

■ 一大国際コンベンションシティ


 1957年から始まった「広州交易会(中国輸出入商品交易会)」は、当時中国の輸出の半分を稼ぎ出し、新中国経済の救手になっていた。

 広州は今も中国でコンベンション経済が最も活発な都市の1つである。中国都市総合発展指標2021で、広州は「社会」大項目の「国際会議」で中国第6位、「コンベンション産業発展指数」は同第3位の成績を誇っている。

 コンベンション産業は、様々なコンテンツを網羅した高収益の交流経済である。会議、イベント、展示会、フェスティバルは、都市にさまざまな利益をもたらす。

 しかし、新型コロナウイルスパンデミックは、国際コンベンションの開催に大きな影響を与えた。2020年以降、多くの国際会議が延期、中止、またはオンライン開催へと切り替わった。国際会議協会(ICCA)によると、2019年に世界で13,269件開催された国際会議は、2020年は763件、2021年は534件と急激に縮小した。

 「広州交易会」も例外ではなかった。2020年はオンライン開催となった。ハイテクを駆使し、仮想現実(VR)の展示が世界各地で閲覧できたことで、出展者を維持した。こうした新しい試みは、広州交流経済の新たな展開にもつながるだろう。


深圳:中国シリコンバレーになった新興メガシティ【中国中心都市&都市圏発展指数2021】第3位

中国中心都市&都市圏発展指数2021
第3位


 上海市は中国中心都市&都市圏発展指数2021の総合第3位に輝いた。同市は4年連続第3位を維持した。

 〈中国中心都市&都市圏発展指数は、中国都市総合発展指標の派生指数として、4大直轄市、22省都、5自治区首府、5計画単列市からなる36の中心都市の評価に特化したものである。同指数は、これら中心都市を、全国297の地級市以上の都市の中で評価している。10大項目と30の小項目、116組の指標からなる。包括的かつ詳細に、中国中心都市の発展を総合評価するシステムである。

CCCI2017 | CCCI2018 | CCCI2019 | CCCI2020

〈中国中心都市&都市圏発展指数〉:【36中心都市】北京、上海、深圳、広州、成都、天津、杭州、重慶、南京、西安、寧波、武漢、青島、鄭州、長沙、廈門、済南、合肥、福州、瀋陽、大連、昆明、長春、ハルビン、貴陽、南昌、石家荘、南寧、太原、海口、ウルムチ、蘭州、フフホト、ラサ、西寧、銀川


■「世界の工場」から「中国のシリコンバレー」へ


 深圳市は広東省の南部に位置し、香港に隣接する新興都市である。面積は約1,997平方キロメートルで大阪府と同規模、2021年の常住人口は約1,768万人で中国第6位である。

 深圳市はかつて人口規模わずか3万人の漁村だったが、1980年に中国初の「経済特区」に指定されたことをきっかけに、「中国のシリコンバレー」と呼ばれるまでに飛躍的な発展を遂げた。わずか40年間強で人口は600倍近くに拡大。その世界史上類を見ない発展ぶりは「深圳速度」と称される。2021年のGDPは約3.1兆元(約62兆円、1元=20円換算)に達し、中国国内では第3位の規模となった。国別で比較すれば、これは世界32位のナイジェリアを上回る経済規模である(詳しくは、【ランキング】世界で最も経済リカバリーの早い国はどこか? 中国で最も経済成長の早い都市はどこか?を参照)。

 経済特区に指定されて以来、深圳市は輸出加工拠点として急速に発展し「世界の工場」と称されるまでになった。「中国都市製造業輻射力2021」で深圳は第1位となっている(詳しくは、【ランキング】中国で最も輸出力の高い都市はどこか?を参照)。

 「中国都市製造業輻射力」のトップ10都市は成都を除き、すべて大型コンテナ港を利用できる立地優位性を誇る。深水港、すなわち、大型コンテナ港は、グローバルサプライチェーンを支える基盤である。深圳はコンテナ港の発展も著しく、中国都市総合発展指標2021における「コンテナ港利便性」においても第2位となっている(詳しくは、【ランキング】世界で最も港湾コンテナ取扱量が多い都市はどこか?を参照)。2021年の深圳港のコンテナ取扱量は前年比8.4%増の約2,877万TEUに達し、開港以来最高の取扱量を記録した。世界の港湾別コンテナ取扱量ランキングでも第4位に輝いた。

 「世界の工場」としての地位を築き上げてきた深圳だが、現在では新興ハイテク企業が次々と生まれるイノベーション都市へと脱皮している。「中国都市IT産業輻射力2021」で深圳は第3位に上り詰めた。深圳にはアメリカの対中制裁で有名になった企業が数多く本社を構える。例えば、通信機器の中興通訊(ZTE)と華為技術(ファーウェイ)、そしてウィチャットの親会社の騰訊(テンセント)、ドローンの世界トップシェアを持つDJIである。これらは全て深圳発のITベンチャー企業である。これら企業の群生は、深圳が「世界の工場」たる製造業スーパーシティから、IT産業スーパーシティへと脱皮していることを示している(詳しくは、【ランキング】中国IT産業スーパーシティはどこか?を参照)。

■ “移民都市”


 深圳市は典型的な“移民都市”である。2021年に同市の戸籍を持たない常住人口、いわゆる「流動人口」は、約789万人にも達し、その規模は中国の都市の中で最大である。ちなみに流動人口規模の2位は上海、3位は広州、4位は北京であった。上海と広州では流動人口の常住人口に占める割合は4〜5割前後なのに対し、深圳の同シェアは66.3%に達している。 

 深圳の人口を年齢別で見ると、15歳未満人口(年少人口)は15.1%、15歳以上65歳未満人口(生産年齢人口)は79.5%、65歳以上人口(老年人口)はわずか7.4%である。外部から大量の生産年齢人口を受け入れているゆえに、このような若い人口構成となっている。若い人口構成と“移民都市”としてのバイタリティーが深圳の奇跡をもたらした。

■ 経済規模で広州、香港を超え


 深圳の経済規模は2018年に広州を超え、2019年には香港を超えた。いまや「アジアの奇跡」とも呼ばれる一大IT都市となった。

 しかし、「1人当たりGDP」で見ると、2021年に深圳は約17.4万元(約348万円、1元=20円換算)であるのに対して、香港は約33.6万元(約672万円)となっている。深圳と香港の格差はまだ大きい。なお、深圳は広州の同約15万元(約300万円)を抜いている。

 2017年に「粤港澳大湾区(広東省・香港・マカオのビッグベイエリア)構想」が公表され、深圳、広州、香港の「3都物語」の展開に注目が集まっている。米中競争ムードがヒートアップする中で、国際大交流をベースとするビッグベイエリア構想の行方が取り沙汰されている。

■ 米中貿易摩擦で逆風


 2018年から顕在化した米中貿易摩擦が深圳を直撃している。中国都市総合発展指標2021によると、深圳は「フォーチュントップ500中国企業」第3位、「中国トップ500企業」第3位、「中国民営企業トップ500」第2位、「中国都市製造業輻射力2021」第1位を誇る中国を代表する経済都市である。

 深圳は中国における加工貿易の先駆けの都市であり、輸出額ランキングで20年以上全国第1位の座を守り抜いている。深圳にとって米国は2番目に大きい輸出先であった。輸出型経済で成長してきた深圳は、昨今の米中貿易摩擦や新型コロナウイルスショックの逆風を受けている。

 しかし、こうした危機は、新たなチャンスの訪れとも捉えられる。それは、よりオープンな国際都市になることで実現可能だ。

 深圳が特区になってから40年間、その成果は抜きん出ていた。中国都市総合発展指標2021で同市は「経済」の「ビジネス環境」中項目では第4位、「開放度」中項目で第2位、「社会」の「人的交流」中項目で第5位を勝ち取り、高い開放性や国際性を誇る。

 広域インフラ整備についてもコンテナ港だけでなく「空港利便性」も中国で第4位の立場を築き上げた(詳しくは【ランキング】中国で最も空港利便性が高い都市はどこか?を参照)。

 深圳の、隣接する香港との国際都市としての競演が楽しみである。


中国都市総合発展指標2021
第2位


 深圳は6年連続で総合ランキング第3位を獲得した。

 大項目で深圳のパフォーマンスが最も優れているのは、第1位を獲得した「環境」であった。3つの中項目の中で「空間構造」は第2位、「環境品質」は第8位、「自然生態」では第19位となっている。総合ランキングトップ10都市の多くは、「環境」大項目のパフォーマンスが芳しくない中、深圳は「環境」「社会」「経済」の3つの大項目でバランスの取れた発展パターンを示した。「環境」大項目の小項目を見ると、「コンパクトシティ」は第1位、「資源効率」は第2位、「交通ネットワーク」「環境努力」は第3位であった。しかしながら、人口集積の割に利用可能国土面積が小さく、「水土賦存」小項目が第293位でしかなかった。

 「経済」大項目で深圳は6年連続で第3位を獲得した。中項目の「経済品質」「発展活力」「都市影響」 であった。小項目から見ると、「経済効率」が第1位を勝ち取り、「開放度」「広域中枢機能」は第2位、「経済構造」「イノベーション・起業」「都市圏」「広域輻射力」は第3位、「経済規模」「ビジネス環境」は第4位となり、9つの小項目はすべてトップ4位に入っている。

 「社会」大項目で深圳は、2020年から第5位に順位を1つ下げた。中項目の中で「生活品質」のパフォーマンスは良好で第4位、「ステータス・ガバナンス」は第5位、「伝承・交流」は第7位となった。「社会」大項目の9つの小項目の中で深圳は、8つの小項目指標が全国平均を上回っているが、新興都市であるが故「歴史遺産」だけが第248位と引き離された。

CICI2016:第3位  |  CICI2017:第3位  |  CICI2018:第3位
CICI2019:第3位  |  CICI2020:第3位  |  CICI2021:第3位

■ イノベーション都市を目指して


 近年、深圳はアジアを代表するイノベーション都市としても名声が上がっている。中国都市総合発展指標2021において、「経済」の「イノベーション・起業」小項目は北京、上海に続いて全国第3位であった。大学や研究機関のストックが少ない新興都市にしては快挙である。

 しかしながら、トップ2都市と比較すると同項目の成績には、まだ大きな開きがある。その原因の1つは、やはり大学にある。中国の名門大学のほとんどは、改革開放以前に創立された。一漁村から加工貿易で身を起こし、爆発的な成長を遂げてきた深圳はこれまで、高等教育機関との縁が薄かった。現在は財力を駆使し、大学誘致に励んでいるが、旺盛な人材需要と高等教育キャパシティとのギャップはまだ大きい。「中国都市高等教育輻射力2021」ランキングにおいて同市は35位に甘んじている。

 また、国立の研究機関もあまり立地がなく、北京中関村に国の研究機関が林立するような風景は深圳では見られない。

 それにしても、経済特区としての開放感の中で、全国から集まった人々が研究に励み、次から次へと起業している。ファーウェイや、中興通訊はその代表格だ。深圳のイノベーションは、民間企業中心で進んでいる。

 優秀な人材は成功をつかもうとするだけでなく、生活のクオリティも求める。豊かになったいま、生活の質における深圳の後進性が際立つ。例えば「中国都市医療輻射力2021」のランキングは第23位と、深圳の医療態勢はかなり遅れを取っている。

 新興都市深圳は、これから都市アメニティ(都市の魅力や快適さ)でも勝負に出なければならない(都市アメニティについて詳しくは、【対談】アフターコロナの時代、国際大都市は何処へ向かう? 周牧之 VS 横山禎徳対談、また【コラム】都市のアメニティを参照)。

■ 広深港高速鉄道と港珠澳大橋が開通


 2018年9月、広州・深圳と香港を結ぶ初の高速鉄道「広深港高速鉄道」の香港域内区間が正式に開通した。深圳から香港までは最速で14分、広州から香港までの走行時間も以前の100分から48分へと半分に短縮された。香港は中国本土の高速鉄道網と直接連結し、北京までの所要時間は9時間に短縮した。中国都市総合発展指標2021では深圳の「鉄道利便性」は全国第9位だが、第5位の広州に順位が近づいていくだろう。

 広深港高速鉄道の全面開通により、中国政府が進めている巨大ベイエリア構想「粤港澳大湾区(広東・香港・マカオビックベイエリア)計画」に内包される深圳、広州、香港といった主要都市がすべて高速輸送ネットワークでつながった。これにより、今後エリア内外の人的交流がさらに加速していく。

 同高速鉄道の開通に加え、「港珠澳大橋(香港・珠海・マカオ大橋)」も2018年10月23日開通した。これでベイエリア内の交通ネットワークがさらに強化され、ヒト・モノ・カネ・情報の流れが増大している。中国都市総合発展指標2021ではすでに「広域中枢機能」は深圳が全国第2位、広州が第3位であり、この順位は今後も揺るがないだろう。大ベイエリアでは、「奇跡の発展」を遂げた深圳が牽引役となっている。


上海:中国最大の経済規模を誇る「魔都」【中国中心都市&都市圏発展指数2021】第2位

中国中心都市&都市圏発展指数2021〉第2位


 上海市は中国中心都市&都市圏発展指数2021の総合第2位に輝いた。同市は中国中心都市&都市圏発展指数が2017年に発表されて以来5年連続第2位を維持した。

 中国中心都市&都市圏発展指数は、中国都市総合発展指標の派生指数として、4大直轄市、22省都、5自治区首府、5計画単列市からなる36の中心都市の評価に特化したものである。同指数は、これら中心都市を、全国297の地級市以上の都市の中で評価している。10大項目と30の小項目、116組の指標からなる。包括的かつ詳細に、中国中心都市の発展を総合評価するシステムである。

CCCI2017 | CCCI2018 | CCCI2019 | CCCI2020

 

〈中国中心都市&都市圏発展指数〉:【36中心都市】北京、上海、深圳、広州、成都、天津、杭州、重慶、南京、西安、寧波、武漢、青島、鄭州、長沙、廈門、済南、合肥、福州、瀋陽、大連、昆明、長春、ハルビン、貴陽、南昌、石家荘、南寧、太原、海口、ウルムチ、蘭州、フフホト、ラサ、西寧、銀川


■ 66日間に及んだ長期ロックダウン


 上海にとって2022年は新型コロナウイルスに苦しめられた一年であった。3月28日〜6月1日の間ロックダウン(都市封鎖)が実施され、その封鎖期間は66日間に及んだ。2020年の武漢のロックダウンに11日短いだけの長期戦であった。

 上海は中国最大の経済規模を誇る国際都市である。その上海で新型コロナウイルスの流行は、2022年1月中旬に始まった。最初は毎日数人の新規感染者が出る程度で、それが2月末まで続いた。しかし、3月初めからは、日々の新規感染者が数十人から数百人にまで急増し、3月下旬には1日あたり千人を超えた。ピークに達した4月28日は、1日で5,487人もの新規感染者が出た。

 ロックダウン期間の66日間、上海市でのべ57,486人の陽性感染者が報告され、1日あたり平均871人の新規感染者が出た計算になる。また中国では症状のある新規感染者と別途に、無症状感染者数の集計をしている。上海のロックダウン期間の無症状感染者数は773.7万人に達し、1日あたりでは平均11.7万人となった。

 全域でロックダウンを実施した武漢とは違い、上海のロックダウンは部分的に実施された。3月27日に上海市新型コロナ感染予防抑制活動指導グループ弁公室が通知を発表し、3月28日から4月5日まで、黄浦江を境に地区を分割し、PCRスクリーニング検査を実施するとした。公告によると、最初の封鎖地域には浦東、奉賢、金山、崇明の4地区と、閔行区が管轄する2つの街道、松江区が管轄する4つの町が含まれた。その時点での対象面積は約4,000平方キロメートルで、上海市全体の面積の60%以上を占め、対象人口は800万人まで広がった。

 その後、ロックダウンはさらに2カ月ほど伸び、6月1日まで長期に至った。ロックダウンの実施により新型コロナ感染状況は一時沈静化されたものの、年末のゼロコロナ政策の解除で再び感染が爆発して医療崩壊も起こり、人的損害が膨らんだ。

 結果、新型コロナ感染症は2022年の上海経済に大きな負の影響を及ぼした。

■ 世界に誇る一大商業都市


 上海市は中国四大直轄市の1つで、長江デルタメガロポリスの中枢都市である。同市の面積は約6,340平方キロメートルで群馬県とほぼ同じ大きさであり、常住人口は約2,489万人と東京都の人口の約1.8倍の規模を誇る。GDPは4.32兆元(約86.4兆円、1元=20円)で中国の地級市以上の297都市の中で堂々第1位、国別で比較すればそのGDP規模は世界25位であるベルギー一国のGDPを超えている。

 世界有数の金融センターに成長した上海浦東エリアは、ほんの20数年前まではのどかな田舎だった。1992年に「浦東新区」に指定されたことを契機として摩天楼が次々と建設され、「中国の奇跡」と讃えられるほど急速に発展していった。

 現在、上海市内には証券取引所、商品先物取引所、そして合計8カ所の国家級開発区と、自由貿易試験区、重点産業基地、市級開発区等が設置されている。〈中国都市総合発展指標2021〉の「金融輻射力」においても、上海市は第2位の座に輝いている。

 同市の広域インフラ機能も突出しており、本指標の「空港利便性」、「コンテナ港利便性」において上海は第1位となっている。上海虹橋国際空港と上海浦東国際空港を合わせた2021年の旅客輸送者数は約6,500万人に達し、航空貨物は約437万トン取り扱われ、いずれも中国随一の処理能力を持つ。港湾機能では、コンテナ取扱量が世界で12年連続第1位に輝き、その規模は4,703万TEU(20フィートコンテナ1個を単位としたコンテナ数量)(2021年)に達している

■ G60科学技術イノベーション回廊(G60上海松江科創走廊)で産業振興を


 現在、上海をはじめとした長江デルタエリアでは、G60科学技術イノベーション回廊(G60上海松江科創走廊)という目玉プロジェクトが進行している。2016年に発足した同プロジェクトは、米国ボストン周辺のルート128にハイテク企業を集積させたことに因み、高速道路G60の上海市松江区から浙江省金華市までの区間沿いに、イノベーション関連企業を集積させる試みである。その後、構想はさらに松江区から外側へ延びる他の高速道路や高速鉄道の沿線に広がった。現在、同プロジェクトに参加する都市は、上海(松江)、嘉興、杭州、金華、蘇州、湖州、宣城、蕪湖、合肥の9都市に及ぶ。

 この9都市の人口、GDPの合計は、それぞれ約5,672万人、約7.4兆元(約147.5兆円、2021年)にも達する。同構想は、9都市における環境、ロボット、自動車部品など基幹産業の連帯的な発展を促すために、産業パークの設置や、金融サービスの提携、人材の交流などの施策を打ち出した。また、長江デルタメガロポリスにおける地域協力のモデルとして、9都市間の通勤、通学、物流などを推し進めるインフラ整備や制度整備なども行っている。

 雲河都市研究院は同プロジェクトから要請を受け、「長江デルタG60科学技術イノベーション回廊ハイクオリティ発展指数」、「長江デルタG60科学技術イノベーション回廊一体化発展指数」の両指標を開発、プロジェクトの進捗状況を明らかにすると同時に、その方向性づくりに協力している。

中国各都市の科学技術発展の実態について詳しくは、【ランキング】科学技術大国中国の研究開発拠点都市はどこか?」を参照されたい。

■ エンターテインメント産業が爆発


 所得水準が向上したことにより、中国の消費者の関心はモノ消費からコト消費に向かっている。一例として中国のテーマパーク産業の急激な発展がある。現在、国内には2,500カ所以上のテーマパークがあり、とりわけ5,000万元(約8.5億円)以上を投資したテーマパークは約300カ所もある。2016年6月、中国で初のディズニーパークとなる「上海ディズニーランド」が開園した。総工費は「東京ディズニーシー」の約2倍となる約55億ドル(約6,500億円)、面積は約390ヘクタールで、これも「東京ディズニーランド」(200ヘクタール)の約2倍の広さを誇る。入場者数は開業1年で1,100万人を動員、黒字を実現し、現在も拡張工事が進められている。

 映画産業の発展も目覚ましい。2021年における中国の映画市場は、新型コロナウイルスパンデミックに苦しんだ前年の30億ドルから、73億ドルへと急伸した。とくに、2021年の春節(旧正月)に、78.2億元(約1,564億円、1元=20円で計算)の映画興行収入で、同期間の新記録を樹立し、世界の単一市場での1日当たり映画興行収入、週末映画興行収入などでも記録を塗り替えた。

 2021年は中国のゼロコロナ政策が最も成功した年であった。人々は普通に映画館に通うことができた。結果、前年度比で中国の映画観客動員数はプラス112.7%と倍増し、中国の映画市場は北米の1.6倍に拡がり、2年連続で世界最大の映画興行市場を維持した。

 同年、上海は中国で最も興行収入が高かった都市として、4,970万人の観客数を動員し、25.3億元(約506億円)を稼ぎ出した。

 中国の映画市場について詳しくは、「【ランキング】世界で最も稼ぐ映画大国はどこか? 」を参照されたい。


中国都市総合発展指標2021〉第2位


 上海は6年連続で総合ランキング第2位を獲得した。

 上海の「経済」大項目は6年連続で全国第1位を保持している。中項目で見ると、「経済品質」「都市影響」の2つが堂々の全国第1位であった。「発展活力」は第2位であった。小項目では「経済規模」「開放度」「広域中枢機能」の3つが2016年から連続で全国第1位の好成績を収めている。

 「社会」大項目で上海は6年連続で全国第1位を保持している。「生活品質」「伝統・交流」「ステータス・ガバナンス」の3つの中項目は、2017年から引き続き全国第2位であった。小項目から見ると、「人的交流」「社会マネジメント」「消費水準」は北京を越え全国第1位を勝ち取った。「都市地位」「文化娯楽」「居住環境」「生活サービス」の4つの小項目指標では、第2位となっている。

 「環境」大項目で上海は2020年から1つ順位を上げ、全国第2位となった。3つの中項目指標の中で「空間構造」は首位の座を守ったが、「環境品質」「自然生態」は、それぞれ第20位と第128位であった。小項目指標から見ると、「交通ネットワーク」「都市インフラ」「コンパクトシティ」は全国第2位、「環境努力」は第4位となった。一方で「水土賦存」「気候条件」「自然災害」「汚染負荷」などの小項目のパフォーマンスは芳しくなかった。

 中国中心都市総合発展指標2021について詳しくは、メガシティの時代:中国都市総合発展指標2021ランキングを参照。

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CICI2019:第2位  |  CICI2020:第2位  |  CICI2021:第2位

■ 上海自由貿易試験区臨港新片区


 上海で進む1つの目玉プロジェクトは「上海自由貿易試験区臨港新片区」(以下、新片区)開発プロジェクトである。2019年8月に発足した新片区は、上海中心部から南東へ約70キロメートルに位置し、総面積873平方キロメートルの巨大国家プロジェクトである。

 新片区は投資・貿易・資本・輸送・人材の自由化を進め、質の高い外資を誘致し、産業と都市の融合発展を目指す。まずは、スタートエリアとして120平方キロメートルの開発を計画中だ。

 新片区には、すでに、テスラ(Tesla)、シーメンス(Siemens)、キャタピラー(Caterpillar)、そして日本からYKKなどの国際的に名高い企業が進出している。

 なお、新片区は、上海臨港経済発展(集団)有限公司が開発を担っているが、2019年11月下旬、雲河都市研究院は当該集団と戦略提携を結び、同プロジェクトを支援している。

■ 改革開放40周年を迎える中国と上海


 中国は2018年、改革開放40周年を迎えた。この40年間で、中国経済の規模は世界第2位に躍進し、1978年に世界11位だった経済規模が、2009年には日本を抜いて堂々世界第2位に達した。2017年のGDPは12.3兆ドル(約1,381兆円)に膨れ上がり、世界経済全体の約15%を占めるまでに成長した。

 改革開放の象徴的な都市は何と言っても「GDP規模」で全国第1位の上海であろう。その上海の中でもとりわけ経済発展を牽引したのが、上海浦東新区である。

 1990年から建設が始まった浦東新区は、わずか28年間で、何もなかっただだっ広い畑が高層ビルの立ち並ぶ国際金融センターへと様変わりした。また、全国ではじめて保税区、自由貿易試験区、保税港区が設置され、浦東新区の経済規模は設立以来およそ160倍にまで拡大した。

 今後も上海は対外開放拡大の牽引役として、またグローバルシティとして、絶えず新しい活力を放出し続けるだろう。

■ 第15回上海書展(上海ブックフェア)が開催


 上海市民に人気の恒例「第15回上海書展(上海ブックフェア)」が2018年8月、上海市政府主催により「上海展覧中心」で開催された。展示面積2.3万 m2という巨大規模で、参加した出版社は500社以上、15万冊の書籍展示に加えて読書イベントが1,000回以上行われ、展覧会での売上は5,000万元(約8.1億円)を記録した。このブックフェアは年々評判を増し、今年は30万人以上の来場者があった。

 中国の出版産業は好調である。2016年、中国の書籍小売り市場の規模は701億元(約1.1兆円)で前年比12.3%増の成長であった。そのうち、実店舗での販売規模は336億元(約5,438億円)で前年比2.3%減、 オンラインでの販売規模は365億元(約5,907億円)で前年比30%増であった。2016年に、はじめてオンラインでの書籍販売が実店舗での販売額を超え、特に大型サイトでの書籍販売は年々増加の一途をたどっており、今後もこの勢いは続いていくとみられている。

 大手オンライン書籍販売サイト「当当網」の2017年度書籍販売のフィクション部門トップ10には、海外の翻訳書が7作品ランクインした。第1位には太宰治『人間失格』の翻訳本、第2位には東野圭吾『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の翻訳本、第10位には同じく東野圭吾の『白夜行』の翻訳本が入り、日本人作家の人気の高さを示した。近年、村上春樹、綾辻行人、新海誠など日本の人気小説が次々と中国語に翻訳され出版されている。中でも東野圭吾は絶大な人気があり、『容疑者Xの献身』『ナミヤ雑貨店の奇蹟』は中国で映画化もされているほどである。マンガやアニメに小説が加わり、日本のコンテンツには中国から熱い視線が送られている。

■ 第1回中国国際輸入博覧会


 2018年11月、第1回中国国際輸入博覧会が上海市政府ほかの主催により市内「国家会展中心」で開催された。この博覧会は習近平国家主席肝煎りの一大イベントであり、貿易の自由化と経済のグローバル化を推進させ、世界各国との経済貿易交流・協力の強化を促進するための見本市と位置づけられている。博覧会には100数カ国・地域から出品され、中国内外から15万社のバイヤーが参加した。

 世界最大の人口を持ち世界第2位の経済体にまで成長した中国は、消費と輸入が急伸し、すでに世界の第2位の輸入と消費を誇るまでに成長している。今後さらに5年間で10兆ドル以上の商品・サービスを輸入する巨大市場にまで成長することが見込まれている。

 その巨大市場の中心地の一つが上海である。上海は世界最大クラスのメガロポリス「長江デルタ」の中心都市であり、巨大な人口と経済規模を兼ね備え、中国国内で最もサービス業が発達している都市の一つであり、いまや世界中の資源が上海に集中していると言っても過言ではない。上海港のコンテナ取扱量は7年連続世界一を記録し、〈中国都市総合発展指標2017〉では「コンテナ港利便性」は全国第1位を獲得。空港の旅客数は1億人を超え、直行便は世界282都市にまで広がり、「空港利便性」も全国第1位を獲得している。内需主導型経済への移行を目指す中国にとって、上海市での同イベントの成功は、今後の中国にとって一つのシンボルとなるだろう。

■ 人口抑制政策


 上海市の流動人口(戸籍のない常住人口)は約987.3万人に達し、常住人口の約4割が外からの流入人口となっている。本指標の「人口流動」項目で、上海市は第1位となっている。2015年末時点では、外国人は約17.8万人、日本人は約4.6万人が居留している。短期滞在者も含めると約10万人もの日本人が暮らしており、日系企業も約1万社が上海に居を構えている。

 2018年1月、市政府は「上海市都市総体計画(2017—2035年)」を発表した。計画の特徴の1つに人口抑制政策が挙げられる。人口集中による弊害を懸念する同市政府は人口を厳しく抑制し、2020年までに常住人口を2,500万人にまで抑え、2040年までその水準を保つことを打ち出した。上海市政府は以前から人口抑制政策を進めており、同市政府発表によると、2017年末の市内の常住人口は2016年末に比べ約1万人減少した。


中国都市総合発展指標2021


〈中国都市総合発展指標2021〉ランキング


 中国都市総合発展指標(以下、〈指標〉)は、中国の297都市を対象とし、環境、社会、経済の3つの側面(大項目)から都市のパフォーマンスを評価したものである。〈指標〉の構造は、各大項目の下に3つの中項目があり、各中項目の下に3つの小項目が設けた「3×3×3構造」になっており、各小項目は複数の指標で構成されている。これらの指標は、882のデータセットから構成されており、その31%が統計データ、35%が衛星リモートセンシングデータ、34%がインターネットビッグデータから構成されている。この意味で、指標は、異分野のデータ資源を活用し、五感で都市を高度に感知・判断できる先進的なマルチモーダル指標システムである。


(1)総合ランキング

 〈指標2021〉総合ランキングのトップ10都市は順に、北京、上海、深圳、広州、成都、杭州、重慶、南京、蘇州、天津となっている。これら10都市は、長江デルタメガロポリスに4都市、珠江デルタメガロポリスに2都市、京津冀メガロポリスに2都市、成渝メガロポリスに2都市と、4つのメガロポリスにまたがっている。

 総合ランキング第11位から第30位は順に、武漢、西安、廈門、寧波、長沙、青島、東莞、福州、鄭州、無錫、仏山、昆明、珠海、合肥、済南、瀋陽、南昌、海口、三亜、貴陽の都市である。

 総合ランキング上位30都市のうち、24都市が「中心都市」に属している。中心都市とは4直轄市、5計画単列市、27省都・自治区首府から成る36都市である。つまり、総合ランキングの上位30位以内に7割近くの中心都市が入っており、中心都市の総合力の高さが伺える。

 総合ランキングについて、詳しくは、「メガシティの時代:中国都市総合発展指標2021ランキング」を参照。


(2)環境大項目ランキング

 環境大項目ランキングは6年連続で深圳が第1位を獲得した。上海が第2位、広州が第3位となった。

 〈中国都市総合発展指標2021〉環境大項目ランキングの上位10都市は、深圳、上海、広州、ニンティ、チャムド、廈門、シガツェ、三亜、北京、ナクチュであった。上海と広州の順位が逆転し、なかでもニンティ、チャムド、ナクチュはそれぞれ第4位、第5位、第10位に順位を上げている。

 環境大項目ランキングで第11位から第30位にランクインした都市は順に、海口、重慶、山南、東莞、武漢、珠海、南京、福州、杭州、儋州、汕頭、巴中、成都、仏山、長沙、普洱、中山、蘇州、寧波、舟山であった。


(3)社会大項目ランキング

 社会大項目ランキングでは北京と上海は6年連続で第1位と第2位、広州は5年連続で第3位をキープしている。

 〈中国都市総合発展指標2021〉の社会大項目ランキング上位10都市は、北京、上海、広州、成都、深圳、杭州、南京、西安、重慶、武漢となっている。なかでも成都、杭州、西安はそれぞれ第4位、第6位、第8位に上昇し、武漢はトップ10に舞い戻り、天津はトップ10から脱落した。

 社会大項目ランキングの第11位から第30位は、天津、蘇州、長沙、鄭州、廈門、済南、青島、寧波、福州、珠海、瀋陽、昆明、無錫、合肥、南昌、ハルビン、貴陽、三亜、南寧、海口となっている。


(4)経済大項目ランキング

 経済大項目ランキングは6年連続で上海がトップ、第2位は北京、第3位は深圳となった。

 〈中国都市総合発展指標2021〉の経済大項目ランキング上位10都市は、上海、北京、深圳、広州、蘇州、成都、重慶、杭州、天津、南京となっている。なかでも蘇州、杭州はそれぞれ第5位、第8位に上昇し、成都と天津は順位を落とした。

 経済大項目ランキングで第11位から第30位にランクインしたのは、武漢、寧波、青島、西安、東莞、長沙、鄭州、無錫、廈門、仏山、合肥、済南、福州、大連、昆明、瀋陽、泉州、長春、常州、温州であった。


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メガシティの時代:中国都市総合発展指標2021ランキング

北京:政治・文化・科学技術でひときわ輝く「帝都」【中国中心都市&都市圏発展指数2021】第1位

中国中心都市&都市圏発展指数2021〉第1位


 北京市は、中国中心都市&都市圏発展指数2021の総合第1位に輝いた。同市は「中国中心都市&都市圏発展指数」が2017年に発表されて以来5年連続首位に立った。首都としての実力を見せつけた。

 中国中心都市&都市圏発展指数は、中国都市総合発展指標の派生指数として、4大直轄市、22省都、5自治区首府、5計画単列市からなる36の中心都市の評価に特化したものである。同指数は、これら中心都市を、全国297の地級市以上の都市の中で評価している。10大項目と30の小項目、116組の指標からなる。包括的かつ詳細に、中国中心都市の発展を総合評価するシステムである。

CCCI2017 | CCCI2018 | CCCI2019 | CCCI2020

〈中国中心都市&都市圏発展指数〉:【36中心都市】北京、上海、深圳、広州、成都、天津、杭州、重慶、南京、西安、寧波、武漢、青島、鄭州、長沙、廈門、済南、合肥、福州、瀋陽、大連、昆明、長春、ハルビン、貴陽、南昌、石家荘、南寧、太原、海口、ウルムチ、蘭州、フフホト、ラサ、西寧、銀川


行政副都心計画と人口抑制政策

 首都・北京市は、中国の政治、経済、教育、文化の中心地であり、四大直轄市の1つである。元、明、清の三大王朝の都として、万里の長城、故宮、頤和園、天壇、明・清王朝の皇帝墓群、周口店の北京原人遺跡、京杭大運河といった7つの世界遺産をもつ北京では、胡同と呼ばれる明・清時代の路地を残した街区等、多くの歴史的建造物が存在している。一方では現代的な高層ビルが次々と建設され、新旧が入り交じった独特の街並みを形成している。2008年には夏季オリンピック、2022年には冬季オリンピックが相次ぎ開催された。北京市の常住人口は2,152万人で、2010年からの4年間で約191万人も増加した。世界屈指のメガシティである。

 世界的に本社機能が最も集中している都市の一つとして北京市は改革開放以降、繁栄を極めてきた。一方で、膨らむ人口が慢性的な交通渋滞や水不足、大気汚染等「大都市病」をもたらした。2017年9月に発表された「北京市総体計画(2016—2035年)」では、人口抑制政策を大々的に打ち出し、市内から一部の人口を市外へ転出させ、同市の常住人口を2,300万人に抑えるとしている。北京市政府は、自ら行政機能を郊外の「行政副都心」に移転させた。

 2017年11月、北京市は、出稼ぎ労働者が多数住むエリアでの火災事件を契機に、違法建築を取り壊すなどして10万人単位の出稼ぎ労働者らを市外へ追い出し、物議を醸した。結果、2017年末の北京市の常住人口は1997年以来、20年ぶりに減少した。その後も北京市の人口抑制政策は引き続いている。

冬季オリンピック開催により、ウィンタースポーツ人口が3億人に

 2022年冬、ゼロコロナ政策の中で北京冬季オリンピックが開催された。〈中国都市総合発展指標2021〉で「文化・スポーツ・娯楽輻射力」全国第1位に輝く北京市では、市民のウィンタースポーツ熱がさらにヒートアップした。

 北京冬季オリンピックは北京だけでなく中国全土でウィンタースポーツの普及に火をつけた。元々ウィンタースポーツが余り普及されなかった中国で、いまやウィンタースポーツを楽しむ人口が3億を超えた。一度の五輪開催によりこれほど多くのウィンタースポーツ人口を増やしたことはかつてなかっただろう。

 中国のウィンタースポーツ産業の全体的な規模は2015年の2,700億元(約5.4兆円、1元=20円で計算)から2020年には6,000億元(約12兆円)と2倍以上の規模に増加し、2025年には1兆元にまで拡大する見込みである。

 2021年初めの時点で、全国には標準的なスケート場が654箇所あり、2015年に比べて3倍以上増加した。屋内外の様々なスキー場も803箇所に上り、2015年に比べて4割増加している。


北京第二国際空港が竣工

 首都・北京では現在、世界最大級の国際ハブ空港の建設が進められている。新国際空港は「北京大興国際空港」、または「北京第二国際空港」と呼ばれる。2019年7月末に完工し、同年9月末に運営を開始した。

 新国際空港は北京市の大興区と河北省廊坊市広陽区との間に建設され、天安門広場から直線距離で46 km、北京首都国際空港から67 km、天津浜海空港から85 kmの位置にある。総投資額は約800億元(約1.3兆円)にのぼる。

 計画では、2040年には利用客は年間約1億人、発着回数は同80万の規模となり、7本の滑走路と約140万 m2のターミナルビル(羽田国際空港の約6倍)が建設される。2050年には旅客数は年間約1.3億人、発着回数は同103万、滑走路は9本にまで拡大予定である。空港には高速鉄道や地下鉄、都市間鉄道など、5種類の異なる交通ネットワークが乗り入れ、新空港が完成すれば、中国最大規模の交通ターミナルになる。空港の設計は、日本の新国立競技場のコンペティションで話題となったイギリスの世界的建築家、ザハ・ハディド氏(2016年没)が設立したザハ・ハディド・アーキテクツが担当しており、空港の規模だけではなく、ヒトデのような斬新なデザイン案も国内外から大きな注目を集めている。

 新国際空港が建設されたのは、北京の空港の処理能力が限界に達していることが背景にある。中国中心都市総合発展指標2021によれば、現在、北京の「空港利便性」は全国第2位であり、旅客数も第2位である。新空港が完成すれば北京は上海から同首位の奪取も視野に入る。京津冀(北京・天津・河北)エリアの一体化的な発展を推進する起爆剤ともなるだろう。

ユニバーサル北京リゾートが開業

 2021年9月、「ユニバーサル北京リゾート」(Universal Beijing Resort)がオープンした。同リゾートは通州文化観光区の中心部に位置している。中心エリアの面積は120ヘクタール、リゾートエリア全体の面積は280ヘクタールにおよぶ世界最大規模のユニバーサルスタジオである。リゾート内にはテーマパーク、デパートやレストラン、ホテルなどの様々なエンターテインメントコンテンツが整備されている。また、中国の豊かな文化遺産を反映したユニークなテーマパークも設けられている。

 2015年11月に起工式が行われ、新型コロナウイルス禍の影響で工事が一時中断していたものの、2021年のオープンに向け急ピッチで工事が進められた。建設ゴミの削減や中水の再利用など、環境に配慮したインフラが設けられたことも注目を集めている。ユニバーサル北京リゾートに直通する地下鉄2路線も開通し、交通利便性も良い。

 2018 年5月付のウォール・ストリート・ジャーナル紙は、中国のテーマパーク産業が米国を抜いて世界一の市場になる時期を2020年と予測した。実際はまだアメリカに及ばないものの、2021年には中国テーマパーク産業の市場規模は367.1億元(約7,342億円、1元=20円)に達した。

 中国中心都市総合発展指標2021では、「社会」大項目中の中項目「文化娯楽」において北京は全国第1位である。ユニバーサル北京リゾートのオープンによって、その地位は、ますます揺るぎないものとなるだろう。


中国都市総合発展指標2021〉第1位


 北京は6年連続で総合ランキング第1位を獲得した。 首都としての強みをもつ北京は、「社会」大項目がダントツ全国第1位である。「社会」大項目の「ス テータス・ガバナンス」「伝承・交流」「生活品質」の3つの中項目は、北京は他の都市と比べ、 飛び抜けて優れている。

 同大項目の9つの小項目の中で北京は、「都市地位」「人口資質」「歴史遺産」「文化娯楽」「居住環境」「生活サービス」の実に6項目で第1位を獲得している。「社会」大項目では58の指標データを採用しており、北京はそのうち24の指標データにおいて全国第1位であった。

 北京の「経済」大項目は、2020年度と同様、第2位である。中項目で見ると、「発展活力」は第1位を獲得した。「経済品質」「都市影響」ではともに上海に遅れ第2位であった。9つの小項目のうち、「経済構造」「ビジネス環境」「イノベーション・起業」「広域輻射力」の4つが第1位となっている。

 「環境」大項目で北京は2020年度と同様、第9位を獲得している。3つの中項目の中で「空間構造」が第3位、「環境品質」が第37位となったものの「自然生態」が依然として遅れをとり 第239位に甘んじている。これは北京が環境保全においていまだ多くの課題を抱えていることを示している。

 中国中心都市総合発展指標2021について詳しくは、メガシティの時代:中国都市総合発展指標2021ランキングを参照。

CICI2016:第1位  |  CICI2017:第1位  |  CICI2018:第1位
CICI2019:第1位  |  CICI2020:第1位  |  CICI2021:第1位


市庁舎が副都心に正式移転

 2019年1月、北京市政府の庁舎が市の中心部から通州区の行政副都心に正式に移転した。副都心は天安門広場から南西約25キロに位置し、すでに市政府の一部機能が移転を終えており、新たな所在地では、移転した当日に業務が始まった。

 北京では首都機能および市の行政機能の一極集中が課題とされ、その是正が議論されてきたが、この度、副都心の建設によって市政府行政機能の分散化が実現した。河北省で建設が進む「雄安新区」もその流れを後押ししている。北京都心、通州副都心、雄安新区、の3エリアを核とし、京津冀(北京・天津・河北)メガロポリスの一体化的な発展を目指している。

 問題は本来、北京市民のための市政府機能が人口集中地区から離れた遠隔地に移され、大きな弊害が起こり得ることである。また、市政府に勤務する人々も、長い通勤時間を強いられる。

 2019年末には通州副都心に直結する地下鉄も試験営業を開始し、2020年3月には、「2020年北京副都心重大工程行動計画」が発表され、総投資額約5,225億元(約7.8兆円、1元=15円として計算、以下同)を費やし、インフラや生活環境の整備など197の重大プロジェクトを推し進めると発表された。 

 北京では人口抑制政策が行われており、〈中国都市総合発展指標2018〉では、北京の「常住人口規模」は全国第3位であったが、2018年の常住人口データでは、2017年に比べて人口は16.5万人減少した。

 現在、東京、ロンドン、パリ、ニューヨークなど世界の大都市の中心部が、再開発によって大きく変貌し「再都市化」が進む中、北京では逆行するように「反都市化」の動きを見せている。

(2018年度日本語版・トップ10都市分析)

2018年は227日が青空に

 北京市の大気汚染が改善しつつある。北京市は2018年、年間で計227日、大気質が基準値をクリアし、青天だった。「重度汚染」の基準を超えた日数は15日まで減少し、3日以上連続で「重度汚染」の日が続かなかったのは、大気汚染の悪化が著しくなった2013年以降、初めてのことであった。

 〈中国都市総合発展指標2018〉では、「空気質指数(AQI)」は第50位で前年度から213位上昇、「PM2.5指数」は第42位で前年度から224位上昇した。

 「PM2.5指数」は、2018年度に年平均濃度が減少したトップ20都市のうち、第1位は北京であり、前年比で40.4%濃度が減少した。第5位の天津は濃度が8.3%改善した。北京に隣接する河北省においても同様の傾向がみられ、河北省は10都市中、4都市が20位以内にランクインした。

 北京に大気汚染をもたらす要因の1つは、周辺の工場群や発電所などから発生する大気汚染物質である。中国当局は工場移転を促し取り締まりを強化し、また燃料の石炭から天然ガスへのシフトを進めることで、以上の成果を上げた。ただし、大気汚染のもう1つの原因は自動車の排気ガスである。排気ガス削減の道のりは依然として遠く、問題はまだ解決の途上にある。

(2018年度日本語版・トップ10都市分析)


京津冀エリアの大動脈「北京大七環」が全線開通

 北京首都エリアの高速環状線、通称「北京大七環(北京七環路)」が2018年に全線開通した。東京の環状七号線は全長約53 kmであるのに対して、「北京大七環」はなんと全長940 kmにものぼる。「北京大七環」の完成によって、北京市内で深刻化する渋滞問題の緩和が期待される。河北省の発表では、全線開通後は、1日あたりの通行量は2.5万台に達した。同環状線の開通は、京津冀エリア、特に北京市の郊外エリアや衛星都市とのネットワークを大いに強化し、物流や人の流れを促進させる。〈中国都市総合発展指標2017〉では、北京市の「道路輸送量指数」は全国第4位であり、「都市幹線道路密度指数」は全国第12位であるが、今後この順位は上がっていくであろう。

(2017年度日本語版・トップ10都市分析)

京津冀協同発展、新首都経済圏、雄安新区

 中国政府は三大国家戦略のひとつとして「(北京・天津・河北)協同発展」を打ち出している。北京の都市輻射力を発展のエンジンとした「新首都経済圏」の構築を目指す構想である。

 2017年4月、中国政府はその一環として、河北省の雄県、容城県、安新県の3県とその周辺地域に「雄安新区」の設立を決定した。雄安新区は中国における19番目の「国家級新区」となり、「千年の計」と位置づけられた習近平政権肝いりのプロジェクトである。雄安新区は北京市から南西約100km、天津市から西へ約100kmに位置し、その計画範囲は、初期開発エリアが約100km2、最終的には約2,000km2(東京都の面積と同程度)にまで達するとされている。雄安新区は北京市の「非首都機能」を移転することで、同市の人口密度の引き下げ、さらには京津冀地域の産業構造の高度化等を目指している。

(2016年度日本語版・トップ10都市分析)

北京市の突出した本社機能とスタートアップ機能

 米『フォーチュン』誌が毎年発表する世界企業番付「フォーチュン・グローバル500」の2017年度版によると、500社にランクインした企業のうち、北京市に本社を置いている企業数は56社もあった。

 企業の内訳を見ると、第三次産業の企業が4分の3を占め、そのうち国有企業は52社、民営企業は4社であった。中国全体では前年より7社多い105社がランクインしており、その半数以上が北京市に本社を置いていることになる。第2位の上海市が8社、第3位の深圳市が6社ということからみても、北京市の本社機能は突出している。

 また、中国フォーチュン(財富)が発表した「フォーチュン・チャイナ500(中国500強企業)」ランキングの2017年度版によると、第1位の北京市には100社、第2位の上海市には31社、第3位の深圳市には25社が本社を置いている。北京市政府は2017年に本社機能をより強くする方針を打ち出しており、同市への本社機能の集約は今後さらに進むであろう。

 また、北京市政府はスタートアップ機能の促進にも力を入れており、同市は今や中国最大のベンチャー企業集積地となっている。2017年に市内で新たに上場した企業数は1450社にのぼり、第2位の上海市の878社と第3位の深圳市の686社の合計にほぼ相当する。北京市政府発表によれば、同市内に拠点を構えるネット系ベンチャー企業の数は、中国全土の約40%を占めている。

(2016年度日本語版・トップ10都市分析)


【講義】塩谷隆英:地域格差と格闘する国土計画

レクチャーをする塩谷隆英氏

 中国は現在、主体効能区、メガロポリス(大都市群)、大都市圏といった国土政策・都市化政策を体系的に実施している。都市化政策に後発な中国はこれらの政策の立案において日本の経験を大いに参考にした。なかでも中国政策立案者は日本の国土政策の当事者との交流から貴重な経験と智慧を得た。塩谷隆英元経済企画事務次官は2015年1月31日、来日した杜平中国国家信息中心常務副主任岳修虎中国国家発展改革委員会発展計画司副司長らに、日本の国土計画に関するレクチャーをおこなった。国土計画作りの真髄と苦労を語り、また「北東アジアグラウンドデザイン」についても展望した。舘逸志国土交通省大臣官房審議官(国土政策局担当)、張仲梁中国国家統計局財務司司長、穆栄平中国科学院創新発展研究中心主任、胡俊凱新華社『瞭望』週刊誌執行総編集長、周牧之東京経済大学教授、杉田正明雲河都市研究院研究主幹が参加した。

(※役職は当時)


■ 日本も中国も地域格差是正が大きな課題


塩谷隆英:日本の国土計画が地域格差是正のためにいかなる役割を果たしたかの経験を、失敗の歴史も含めてお話します。良いところだけを参考にされて中国の国土計画作りに生かしていただくことを願っています。

 2004年3月に上海で行われた中国国家発展改革委員会のシンポジウムに招かれ、「日本における総合開発計画の役割」と題する報告を英語でさせていただいたことがあります。

 そのとき、きょうこの場においでくださっている杜平主任にお目にかかりました。そのときから新しい勉強をしておりませんので、おそらく同じ話を今度は日本語ですることになりますが、新しい状況に関しては館審議官から説明していただきます。

 周牧之教授が書かれた『中国経済論』を読むと冒頭に、いま中国は大きな課題の解決を迫られており、第一に地域格差の拡大とそれに伴う地方経済のひずみをただしていかなければならないとあります。そして、中国経済は三大メガロポリスというエンジンによって牽引され、三大メガロポリスとは香港、マカオ、広東を中心とする珠江デルタ、第二は上海、江蘇省、浙江省を含む長江デルタ、そして3番目は北京、天津、河北からなる京津冀。これらエンジンである三つの地域に形成されたメガロポリスに、中国が依存する構造が出来上がった。そのために、地方ごとの自給自足を基本とした地域秩序が崩れ、大規模な人口移動と産業集積ができているとのことです。結果、大発展を謳歌するメガロポリスと、内陸との格差が広がっている。この格差是正が大きな課題であると言っておられます。

 この現象は日本と非常に似ているように思えます。日本の場合1960年代から地域格差の是正が大きな宿題となっており、その宿題がいまだに解決されていない。日本ではこれからお話する第一次全国総合開発計画から、第五次全国総合開発計画まで五本の国土計画が策定されております。政府として閣議決定をした計画ですが、それらの計画はすべて地域格差の是正が中心課題となっています。

塩谷隆英著『下河辺淳小伝 21世紀の人と国土』(商事法務、2021年)

■ 工業を地方分散させる第一次全国総合開発計画


塩谷隆英:まず、第一次全国総合開発計画です。出発点は1960年、池田勇人内閣によって策定された国民所得倍増計画にあります。日本の高度経済成長の出発点が、この国民所得倍増計画にあるといってよろしいと思います。中国経済で申しますとたぶん鄧小平さんの1992年の南巡講和あたりから改革開放が進み、中国の高度経済成長が始まったわけですが、日本の場合にはこの国民所得倍増計画のころから高度成長が始まりました。京浜、名古屋、阪神、北九州という四大工業地帯によって日本経済を牽引していこうという考え方を中心にした経済計画です。

 この四大工業地帯はほとんど太平洋岸にあります。北九州は日本海側ですけれど、これらの工業地帯を結ぶ帯状の地域は「太平洋ベルト地帯」と呼ばれることがあります。ちょうど中国と同じように沿岸部のエンジンによって経済全体を牽引していこうという考え方です。

 しかしこれを閣議決定しようとしたときに、後進地域から猛烈な批判が起こりました。そこで、所得格差是正のために全国総合開発計画を策定し、地域格差の是正をするので、この計画を決定させてほしいということにして、計画の前文に但し書きをつけて、ようやく決定しました。日本において地域間の所得格差が政治的な問題となった最初の事案だったと思います。

レクチャー当日の風景

 そうした経緯があり、2年間の検討を経たのちに1962年に第一次全国総合開発計画が策定されました。その計画の基本的な考え方は、地域の所得格差の是正のために工業を地方分散させる計画でした。工業の地方分散といった場合に、まんべんなく分散するのでなく、いくつかの拠点をつくりそこに工業を分散させ、それを起爆剤に地方を発展させる考え方でした。これを「拠点開発方式」と呼んでおります。

 その具体的な戦略手段として特別に法律が制定され、1964年から66年にかけて、新産業都市が15地区、それから工業整備特別地域として6地域の整備が行われました。これらの法律は、拠点へと工業分散をはかり、それから周辺地域に産業を拡大していく考え方に立っています。

 この新産業都市工業整備特別地域に関しては、西暦2000年度を目標年次とする第6次計画まで策定され、特にインフラ整備を特別な補助率の嵩上げをして促進する計画が作られました。

 累積で97兆円の投資が行われたと言われています。しかしは八戸とか秋田、仙台など、いま振り返ると多くの地域で格差是正の起爆剤にはなっていなかったことが分かります。比較的うまくいったと思われるのが茨城県鹿島地区です。それから瀬戸内海の岡山地区、九州の大分地区。これらの地区を除く他は、いまだに工業開発が行われていません。とくに秋田はほとんど工場が分散されなかった結果になっています。

 第一次全国総合開発計画の想定した計画成長率は7.2%、これは国民所得倍増計画の想定した成長率と同じでした。7.2%で成長するとちょうど10年間で国民所得が倍になることから、「国民所得倍増計画」と名付けたわけです。

 ところが実際の経済成長はそれをはるかに上回る10%以上の経済成長が続いた。結果、計画の意図した方向とは異なり、人口、産業の大都市への集中は依然として続き、過密の弊害が一層深刻化する一方、急激に人口が流出した地域では過疎問題が生じるようになりました。このころから過密過疎問題という言葉が言われるようになりました。

第一次全国総合開発計画コンセプト図・新産業都市及び工業整備特別地域指定図

■ 国土利用の抜本的再編成を図った第二次全国総合開発計画


塩谷隆英:これを解決するために1969年に第二次全国総合開発計画が策定されました。第二次全国総合開発計画、当時は「新全総」と呼ばれていました。この計画は日本の国土計画の中で最も戦略性に富んだ優れた計画だと私は思いますが、策定当初から高度成長の歪みとして公害問題などが続発したため、国民の間に環境破壊の元凶といったいわれなきレッテルを貼られ、あまり評判がよくありませんでした。

 この第二次全国総合開発計画を中心となって策定したのが中国でもかなり有名な下河辺淳という方です。上海市の顧問などもされた方で中国の国土計画作りのお手伝いも随分されました。この第二次全国総合開発計画は、情報化、高速化という社会の新しい変化に対応するために、新幹線や高速道路によって非常なスピードをもって移動ができるという新たな観点から国土利用の抜本的再編成を図り、国土を有効に利用開発するための基本的な方向を示した点に特徴があります。

 基本的なツールとしては、まず「大規模開発プロジェクト方式」が採られました。大規模開発プロジェクト方式の第一は、全国のネットワーク作りを図ることです。東京を中心に北は札幌まで、西は福岡までの1000キロを国土の主軸と位置づけ、その主軸を中心に日本列島のネットワークを形成しようという形です。

 この手段として新幹線と高速道路が用いられました。新幹線は東京から福岡まで、建設が早く完成しました。東京から札幌までの新幹線はいまようやく青森から函館までが青函トンネルを使い、間も無く開通することになっています。札幌まではまだまだかかります。計画してから60〜70年かかるわけです。長期戦略の国土計画でした。

 第二のタイプは大規模工業基地を東京から離れた地域に作るものです。そのプロジェクトとしては北海道苫小牧東部、東北のむつ小川原、それから南九州の志布志湾という三つの場所が計画されました。しかし直後に石油ショックの影響で日本経済が屈折をし、高度成長から安定成長に向かったことと、石油ショックを契機に石油をたくさん使う工業が減っていく産業構造の転換があり、重工業のために用意された広大な土地が当初の目的に使われず放置されて今日に至っています。むつ小川原地域は青森県ですが、行ってみるといまの時期だと地吹雪で、荒涼たる大地がそのまま残っています。石油ショックの経験から石油の備蓄が政策課題となり、ちょうどむつ小川原に広大な土地があり、そこが石油タンクの国家備蓄をするために使われています。

 しかし広大な敷地が当初の目的に使われることなく放置されている状況です。大規模工業基地の政策は失敗に終わっているということです。

塩谷隆英、星野進保両氏が寄稿した周牧之主篇『大転折(The Transformation of Economic Development Model in China )』(世界知識出版社、2005年)

 もう一つ「広域生活圏構想」がこの計画に盛り込まれています。この構想は地域開発の基礎単位となるもので、中核となる地方都市を整備し、これと圏域内各地の交通体系を結ぶことによって広域生活圏を形成する考え方です。この考え方は、次の第三次、第四次、第五次の総合開発計画にずっと受け継がれています。しかしこの第二次の運命は、先ほど申しましたように環境問題の悪化とそれによる市民の反開発感情、オイルショック、狂乱物価で翻弄されました。

 それに輪をかけて田中角栄内閣が1972年に発足し、日本列島改造論を政策の中心に据えました。それは第二次総合開発計画の考え方をほとんど踏襲しておりましたが、田中内閣はロッキード事件と金脈事件で倒れ、日本列島改造論は絵に描いた餅になってしまいました。それと共に高度経済成長が終わったと言っていいと思います。日本の高度成長は1960年代の初めから1970年代の初めくらいまでせいぜい15年くらいの間、と言えます。中国の高度成長は1990年代の初めからいまだに7%を上回る数字が続いています。もう20数年です。日本の当時の高度成長は奇跡であると世界中から言われましたが、中国の経済成長はもっと奇跡で、世界中が驚いています。

第二次全国総合開発計画コンセプト図・国土利用の考え方

■ 定住圏構想の第三次全国総合開発計画


塩谷隆英:高度成長が終わった時代に作られたのが第三次総合開発計画です。この計画の考え方は「定住圏構想」です。全国を200から300の定住圏に分けて人と自然の安定した居住環境を作っていこうというものです。江戸時代の藩をモデルにした川の流域に沿って森と田畑と町が相互に依存しながら循環型の居住地域を形成するいわゆる「流域圏」の概念を掲げています。これはさきほど申しました下河辺淳さんが国土庁の計画調整局長として策定した計画で大変ユニークな計画です。その後大平内閣が田園都市国家構想を政権の中心に据えました。この第三次全国総合開発計画に従って全国に44のモデル定住圏が制定され、一定の財政援助が行われる仕組みを作ったのですが、運命はあまり芳しいものではなく、ほとんどモデル定住圏がうまく作られた話は聞きません。従って第三次総合開発計画もあまり成功したものではないという評価になると思います。

第三次全国総合開発計画コンセプト図・モデル定住圏構想

■ 多極分散型国土を作る第四次総合開発計画


塩谷隆英:第四次総合開発計画が1987年に作られますが、これは石油ショックが1973年、79年と二度あり、その時は人口の東京圏への集中はちょっと鈍りましたが、80年代に再び首都圏への一極集中がひどくなりました。この状況に対応して第四次総合開発計画が作られました。この計画の理念は「多極分散型国土」を作るという考え方です。全国に高規格道路1万4000キロ、高速道路にすると1万1000キロのネットワークを創り、日本全国が地方中枢中核都市及びその周辺から一時間程度でその道路を利用できるようにする計画でした。

 この高速道路は閣議決定では7300キロまでに縮小しまして、その7300キロも民主党政権の仕分けを経てかなり凍結されている部分が出てきています。それと同時に東京を国際金融都市にしようということで事務所をたくさん作ろうとの提唱があり、ビルをたくさん建設する計画でした。いま振り返ると、時代背景はバブルで、そのバブルを一層煽る計画になったと思います。

 この第四次全国総合開発計画を作ったのは星野進保さん(元経済企画事務次官)で、周先生の親友です。星野さんが国土庁計画調整局長時に作った計画です。星野さんがいらっしゃらないところで批判をするのもなんですが、バブルを煽った罪作りな計画であったとも言われています(笑)。

第四次全国総合開発計画コンセプト図・総合保養地域整備同意基本構想分布図

■ 並列的な国土構造を目指す第五次総合開発計画


塩谷隆英:次は私が批判を受ける番で、第五次全国総合開発計画です。これは私が国土庁の計画・調整局長として作った計画です。最後までやらずに経済企画庁に呼び戻されましたので最後の閣議決定まで担当はいたしませんでしたが、原案はすべて私が局長に時代に作ったものです。考え方は、新しい時代に変化する世界の状況を視野にいれ、従来の行政縦割りやブロックを超えた国土構造の再編成が求められている、ということで従来の延長線上にはない新しい理念に基づいた計画を作ることが出発点でした。

 新しい概念として国土軸という概念を導入しました。「太平洋新国土軸」、「日本海国土軸」、「北東国土軸」、「西日本国土軸」という四つの国土軸を日本列島に考えました。ポイントは日本列島の主軸を東京を中心にして南北に一つ、その他にもう三本の軸を作ろうということで、一番喫緊の課題は日本海側に太平洋ベルト地帯と並ぶような軸、「日本海国土軸」を作ろうというのが出発点でした。

 なぜその発想が出たかというと1995年1月17日に起きた阪神淡路大震災の教訓からです。この震災で国土の主軸と言われた太平洋ベルト地帯が真ん中で寸断されてしまった。これにより日本経済が3カ月くらい麻痺したと言っていいです。東海道新幹線は、1月17日から4月15日まで3カ月ストップしました。日本列島が一本の太平洋ベルト地帯で支えられていた。それが切れてしまって、麻痺した。だから太平洋ベルト地帯に依存しない国土軸をもう一本つくっておけば、一つが切れたとしても他に一本あればやっていける。さらに全体で4本の軸で経済を支えていけば、つまり直列的ではなく並列的な国土構造です。

 その構造を作るための四つの戦略として、一つは多自然居住地域の創造、二つ目は大都市のイノベーション。三つは地域連携軸の展開、四つ目は広域国際交流圏の形成という四つの戦略を練りました。とくに四つ目の広域国際交流圏の形成では、「東アジア一日交通圏」を考えました。東アジアの主要都市まで1日で行って帰ってこられるような広域国際交流圏を構想しました。

 この計画がどう評価をされたかは私の口から申し上げにくいです。作った本人がきょう参っておりますので問題提起をなさってください(笑)。

第五次全国総合開発計画コンセプト図・国土軸

■「東アジア共同体」を視野にいれた国土計画を


岳修虎:日本の第一次全国総合開発計画からその後の計画に至って、流域圏、生活圏、国土軸など空間的にさまざまなコンセプトを作ってきた。実施してみて必ずしも理想的ではなかったとの話もありましたが、中国の国土開発計画を策定するにあたり、必須なもの、あってもいいもの、なくていいものは何でしょうか。

塩谷隆英:基本的な要素としては、人口の推移が重要だと思います。中国もたぶん2030年くらいから人口が減ってくるのではないでしょうか。また、13億の人口の高齢化率が高まってくる社会にどう対応するかが、中国の国土計画の一番の要素だと思います。

 第二に中国経済は20年以上7%を超える高度経済成長していますが、環境制約、エネルギー制約をどう克服していくかが大きな課題です。周牧之教授のお話にあった三大メガロポリスは人口と産業の集中によって、環境が著しく悪化しています。その状況をどう解決していくか、です。

 もうひとつ、中国は高速道路を年間1万キロ伸ばすような猛スピードで建設しています。2006年に東京で周先生が主催したシンポジウムでは楊偉民さんも杜平さんもこられて討論しました。中国の交通体系をどうするかという問題では、自動車に依存しない鉄道交通体系の見直しの必要があると私は問題提起を当時しました。いまもこの考え方は変わりません。新幹線、リニアモーターカーのネットワークなど中国大陸でこそメリットを発揮できるような交通手段を交通体系に取り入れていくことではないでしょうか。そうすれば、エネルギー制約、環境改善に対してもかなり解決の方向が大きく見えてくると思います。

2006年5月11日「日中産学官交流フォーラム−中国のメガロポリスと東アジア経済圏」にて、上段左から福川伸次(元通商産業事務次官)、楊偉民(中国国家発展改革委員会副秘書長)、保田博(元大蔵事務次官);第二段左から星野進保(元経済企画事務次官)、杜平(中国国務院西部開発弁公室総合局長)、塩谷隆英(日本総合研究開発機構理事長、元経済企画事務次官);第三段左から船橋洋一(朝日新聞社特別編集員)、周牧之(東京経済大学助教授)、寺島実郎(日本総合研究所会長);第四段左から中井徳太郎(東京大学教授)、朱暁明(中国江蘇省発展改革委員会副主任)、佐藤嘉恭(元駐中国日本大使);下段左から大西隆(東京大学教授)、小島明(日本経済研究センター会長)、横山禎徳(産業再生機構監査役)

舘逸志:過去の計画の中で最も重視すべきだったのは、正確に人口動態を予測し、より現実的な計画を早くから立てていたらよかったと思います。また、国土計画というビジョンではどうしても夢を語りたい、こうあるべきだという政治的なメッセージを出したくなるが、振り返ると、やはり市場経済のメカニズムには逆らえません。さまざまにこれまで出してきた政治的な構想の中で、市場原理に逆らったものは成功していない。

 一方で中国が有利だと思うのは、急速なインフラ整備ができる点にあります。短期間に効率的に先取りして土木を中心にインフラ整備ができています。日本はこれに失敗しています。

 大規模なインフラ整備、都市計画には強大な権力の集中が必要だが、これは民主化の過程で失われていくもので、世界を見ても立派な都市だと思うものは王政時代に築かれたものが多いです。権力が集中できる時代に、大規模な土木工事を中心としたインフラ整備を急ぐべきだとわたしは思います。但しその時に、塩谷先生もおっしゃったようにきめ細やかで合理的な計画をベースとすべきです。

 市場の失敗をどう制御するかが世界的な課題です。中国のような大きな影響力を持つ大きな経済が市場失敗をどう克服するか。これが世界にとっても最大の課題です。環境問題、住宅投資バブルをどう制御し、貧富の格差をどう是正し、市場の失敗をどう克服するかが大きな課題です。もう一つ言えることは、技術革新は予想できない。物凄いイノベーションは次々と生活サービス、電気機械、ITの分野で起こってくるがゆえに、既存のものの前提にとらわれると失敗します。

岳修虎:中国では「主体効能区」という国土政策を打ち出し、その中でも日本の経験を参考にしています。中国の国土の中に開発を制限或いは禁止する地域を設けて、生態環境と農業生産拠点をできるだけ保護していく方針です。また、高速交通網によって都市地域をつなげていきます。いま直面する課題は、生態地域に制定されていても自然環境を保護するのは難しいことです。また、内陸においていくつか都市発展を促す地域を制定したが、なかなか成長しません。環境が守られ各地域のバランスのとれた発展をしていくことは、実際はたいへん難しいです。

レクチャー当日の風景

塩谷隆英:第二次全国総合開発計画の失敗について申し上げました。新幹線を東西南北に向けて東京を中心として整備をしたら、東京にどんどん人口が集まる。ストロー効果になった。地方に分散をはかるために高速ネットワークを作ろうとしたのが、逆の効果になって現れました。

 それは雇用機会の問題があったからです。地方に雇用機会がない状況で高速交通ネットワークを作ると、雇用機会のある大都市に人口が集まる。中国も、内陸の都市に雇用機会がないと成長しない。雇用機会をいかにして内陸に作るかが大きな課題です。内陸だから大規模な工業立地は難しいので、あまり公害を出さない機械工業などを内陸に分散することを考える必要があるのかもしれません。機械工業に関しては中国でも西安などでかなり発展していると聞いているが、そうした先例を内陸全体に発展させていくのが一つの方向かと思います。

岳修虎:国土開発計画の実施のためにどういった法律を作ったのでしょうか。

塩谷隆英:ひとつは国土総合開発法という法律がありました。1950年に作られた法律で、戦後間も無くで、全国総合開発計画の前に特定地域総合開発計画を、国土総合開発法で作り、全国で22の特定地域開発をしました。これは戦後の復興の起爆剤にしようということで、アメリカのTVA方式を勉強し、これにならって特定地域開発をしました。二番目は第一次全国総合開発計画の拠点開発方式を実施するため、新産業都市建設促進法という法律と、工業整備特別地域整備促進法という法律を作りました。その法律の要は、インフラ整備に対して国庫補助を優遇する点です。例えば新しい法律によって、国庫補助を三分の二にするといった仕組みです。定住圏構想を促進するためには、モデル定住圏を44指定して、予算で補助率をあげていく措置がなされました。高速道路1万1千キロに対しては新しい法律でなく、従来の国土幹線道路建設促進法に従い建設しました。

舘逸志:工業等制限法といった人口の東京への流入を防ぐ法律もあります。東京での工場と大学の建設を制限する法律で、工場を新産業都市などに移させるものです。またハイテク製造業の地方立地を促進するテクノポリス法もあります。

塩谷隆英:先ほど申し上げた内陸に機械産業を持っていくものとして、テクノ法、頭脳立地法などは、高度な技術を使う機械産業をなるべく地方に立地するという考え方を実施するための法律です。中国でもこうした法律を研究されたら如何かと思います。

周牧之:塩谷先生と館審議官に話を伺い、国土計画において大変なご苦労と模索の連続だったと改めて感じました。都市と国土の未来の計画策定は、人類にとって未知への挑戦です。担保になっているのは、国土の形と人々の幸せであり、これは重大な責任を伴います。人類の最高の叡智と想像力を結集させる戦いと言っていいでしょう。

 この日本の国土計画の紹介の中で、塩谷先生も館審議官も、「失敗」という言葉を何度もおっしゃっていた。これは計画が失敗したわけではなく計画策定当事者としての悔しさから出てきた言葉だと思います。計画があったゆえに今日の日本の国土の形と人々の幸せがある。この模索と挑戦の故にたくさんの経験値を積むことができた。この経験値は、これからの中国の国土計画にとっても非常に貴重な価値があります。

 今日の話からいくつか思い当たることがあります。日本の国土計画の一番の悔しさはおそらく人口移動に関するものです。人口については、東京を始めとする大都市圏に集中集約する力が非常に強かった。これはいかなる計画を用いてもうまく是正することが出来なかった。

 もうひとつは計画と市場の力関係で、市場の力が非常に大きかったことです。市場の失敗を是正するには大変な努力と知恵が必要です。

 三つ目は、大規模なインフラ整備の重要性と、戦後日本の制度から来るさまざまな制約の中でやらざるを得なかった苦労だと思う。塩谷先生から中国の皆さんに向けた言葉を私なりに翻訳すると、「中国はいまや大規模なインフラ整備や都市開発をやれる時期ですが、戦略的に体系的なデザインを描くことを綿密にやる必要性がある」、これは大変貴重で重要なメッセージです。

 環境制約、エネルギー制約、交通体系の構築に関する日本の経験は、中国の現在と将来にとって非常に大きな意味を持ちます。

 下河辺さんが偉大だったのは、新全総のときから情報化、高速化という当時としては大変先見性のある発想を持って、時代を大きく先取りした飛躍感がある国土計画を作り出したことです。こういうところで国土計画を担った方々の偉大さがわかります。ぜひ中国は学ぶべきでしょう。

 日本の国土計画の流れで感じ取ったのは、継承と進化です。脈々と継承されてきた部分と、従前の計画に関する自己批判、そして新たなチャレンジへのこの流れは、敬意を表すべきものです。きょうの会合を通じて、中国の国土計画に携わる皆さんと日本の国土計画に携わってきた皆さんとの交流が、日本にとって中国にとって、アジアにとって非常に大切だと改めて感じました。

塩谷隆英:その通りです。すばらしいまとめで、大変勉強になりました。最後にひとこと、21世紀、将来の国土計画はいかにあるべきかを申し上げます。「東アジア共同体」を視野にいれた国土計画を作りたいと思います。例えば交通ネットワーク、石油・天然ガスパイプライン、あるいは電線網などは、北東アジア全体の、国境を超えるインフラ整備の建設が必要だと思っています。政府ではないですが、NIRA(総合研究開発機構)で「北東アジアグラウンドデザイン」を作ったことがあります。こういう構想をまず作り、各国が其々の国土計画に落としていく発想が必要かなと思います。


プロフィール

塩谷 隆英(しおや たかふさ)
元経済企画事務次官、総合研究開発機構元理事長

 1941年生まれ。東京大学法学部卒業後、経済企画庁に入庁。調査局審議官、国民生活局審議官を経て、国土庁計画・調整局長、経済企画庁調整局長、経済企画事務次官、総合研究開発機構理事長を歴任。

【講義】鈴木正俊: 激動する時代を生き抜くための要件とは

東京経済大学創立120周年記念シンポジウム「コロナ危機をバネに大転換」 で講演を行う鈴木正俊・ミライト・ホールディングス元社長

編集ノート:
 東京経済大学の周牧之教授の教室では、リアルな学びの一環として第一線の経営者やジャーナリスト、官僚らをゲスト講師に招き、グローバル経済社会の最新動向を議論している。ミライト・ホールディングス元社長の鈴木正俊氏が2022年6月23日のゲスト講義で、激動の時代に生きる心構えについて学生に説いた。グローバル化、環境制約、少子高齢化という日本を襲う三大変化には、デジタルとSDGsそして個性をもって乗り切ることだと力説した。


■ リモート技術がコロナ禍の救世主に


 コロナ禍で日常が大きく変化した部分を、IT 関係でプロットしてみると、リモートシステムが整い、カメラ付きパソコンが普及し、ZOOMが出現した。 Wi-Fi やスマホがすでに存在していたため、これらが急激に進んだ。

 携帯電話で従来とはっきり変化が出たのは4Gからだ。いわゆるガラケーからスマホ=4Gになり、次いで4Gから5Gに変わると、トランスクリプト量が2.5倍になり、中身の仕様がどんどん進化した。5年前ならリモートはできなかっただろう。見えないところで進んできた技術と、コロナという疫病蔓延の事態が重なり、リモートが救世主となった。

 日本で一番大きい変化は、Wi-Fi の環境だ。私がドコモにいるとき、役所から電話がかかった。「Wi-Fi を広げなければオリンピックの開催地に日本は立候補できない。海外からの観客が通信できないような国は、開催地には選ばれない」。これは大問題だと大急ぎで進め、4、5年後にようやくWi-Fi 環境が整った。オリンピックがなかったらWi-Fiはこれほど進まなかったかもしれない。Wi-Fi があったからZoom を円滑に使えた。接続量が格段に増えて、データ量が1000倍ぐらいになり、これに耐えられる通信網ができた。

▼東京経済大学創立120周年記念シンポジウム
「コロナ危機をバネに大転換」
画像をクリックすると動画がご覧になれます

■ 見る角度によって異なる事実


 皆さんの目に見える現実の世界と、クラウドの世界の間に情報の往復がある。メタバースが既に現実に起こっている。これをどう考えるか。

 皆さんの意識にはないかもしれないが、30年前を知る我々の年代の意識には「日本の製造業は素晴らしい、日本は輸出大国だ」と信じ込んでいるところがある。それは30年前のことで、今はとんでもない状態にあり、日本はもうそんな国ではなくなった。

 私が生まれた1951年の日本は、農業人口が半分だった。今は数パーセントしかいない。社会の生活基盤が大きく変わっている。過去の経験を持って見ているか、今の現実をしっかり見ているかによって、物の見え方は違う。持つ宗教によっても違う。政治の状態や経済の状態でも見える姿は違う。あるいは、どこの国に生まれたかによっても見る角度が違う。見方は一つではないことを心に留めておく必要がある。自分たちの見えている姿だけが事実ではない。見る人や考える人分の事実があり、事実は一つではない。どの角度から見るかが非常に重要だ。

 今から60年以上前、1961年にソ連が人工衛星を上げ、ガガーリンが地球一周して帰ったときの有名な言葉が「地球は青かった」。たかだか60年前は、地球が青いことが意外だった。若い皆さんからしたら当然のことかもしれない。1969年には、アメリカがロケットを打ち上げ月に人が行き、「地球は浮かんでいる」と認識した。頭の中だけでわかっていたことが視覚で確認でき、「地球には国境がない」とわかった。地球がブルーだということもわかった。

 今から52年前、1970年に、ローマクラブ宣言が「成長の限界」を叫んだ。もうこれ以上地球は成長し続けると駄目になる。食糧生産は人口の増加に追いつかないと52年前に言っていた。先駆的な人がこれは問題だといい、研究者や有力者が議論をし、穀物輸入は水を輸入することと同様で水がなければだめだと宣言した。その後、井戸は枯れ、水は枯れ、温暖化も深刻になり、だんだん認識し問題視するまで40年も50年もかかった。頭で思っていたことを現実の行動に移すまで、長い距離があった。

 今から7年前、2015年9月の国連サミットで採択された持続可能な開発目標SDGs が世に向けて唱えられた。Society 5.0が出て情報化が進む新しい世界の中で、グリーンリカバリーは、テクノロジー、デジタル化を利用しないと対処できないと叫ばれた。続いてのテーマはグレートリセットだ。グレートリセットしないと環境問題はアウトになると分かり、IT を駆使し、テクノロジーを使えば克服できると考え、それがデータートランスフォーメーションに繋がった。コロナで一斉にリモートになり、非常にプリミティブで、以前から言われながら気がつかなかったこと、つまり、デジタル化によって解決する道があることがわかった。コロナパンデミックによるマイナスは多いが、あえてプラスがあるとするなら、さまざまな気付きを得たことだろう。

■ 環境とデジタルが時代の要


 皆さんは、資本主義そのものを議論する時代、そして環境とエネルギーと経済をセットに考えなければいけない時代になったいま、大学におられる。いまの時代は、デジタルとグリーンが要だ、ということは、ぜひ忘れないでいただきたい。

 CO2排出量を2030年、2050年に向けてどう減らしていくか。アメリカも中国も2050年に向けてものすごい勢いで減らす方向で動いている。各企業単位でも提案が出されている。皆さんが卒業後に勤める企業でも事業計画、経営計画が変わっているはずだ。企業は売り上げを出し、株価を上げ、利益を出すために従来、事業計画を立てた。姿が変わったのは非財務の目標だ。非財務とは例えば女性雇用率向上、CO2削減といった会社の経営的な利益の数字以外の計画。実施しなければ追いつかないのが今の環境問題だ。

 例えば四国の四万十川保全運動では、川を保全するために山を守らなきゃいけない。海があり雲があり雨を降らして、山が保水して川に水を出し、また海に流れる。この循環の間を人が暮らしているという当たり前に戻ろうということだ。森里川海の確保だ。過疎化、高齢化、人口減少、気候変動といった問題の中で循環を作っていかなければならない。過疎化によって、田舎の山が植林できなくなり、あるいは伐採する人がなくなって山が茂り過ぎて自然機能や補整機能が落ちている。補整機能が落ちると川に良い水ができない。水ができないと、海の魚が健康に育たない。こうした状態がもう目の前に現れていながら見えていない。どう対処していけばいいのかもわからない。

 46億年ぐらい前に地球が誕生し、生物が出てきたのは40億年前、人間が出てきたのは40万年前から25万年前、農業が始まったのが1万年前と言われている。地球が生まれてから今までの時間軸を1日24時間とすると、人類の誕生は55秒からスタートし、文明を起こしてからは0. 1秒しか時間が経っていないことになる。

 いま石油、ガスの供給が滞ることでロシアが非難されているが元はと言えば資源は人間が作ったのではなく、地球が作ってきたものを線引きし、これは俺たちのものだと主張している。地球には国境がない。人間は自分で稲作をし、自分で収穫していると言うが、実際は、地球が延々と土を作ってきたプロセスがあって初めて畑ができ、農業ができている。種を植えるのは人間がやっていても、土自体は人間の意思に関わりなく出来てきた。温暖化で地球が危機的な状況になり、どう解決すべきか考えざるを得ない時代に入ったことに、皆さんの認識を合わせていただきたい。

■ グローバルに繋がり変化する現状を捉え


 世界人口が急激に膨れ上がった。第二次大戦が終わった頃が23億人、現在80億人。3.5倍近く増えた。牛がゲップをするとCO2が増えるといった話をすることがあるが、人間もCO2を吐き出している点では牛どころの話ではない。人間はCO2を活用して生きている。温暖化問題は生命の根源的な問題になっている。

 工業化社会になってから長い時間が経ったが、IT 社会が立ち上がったのは最近だ。今皆さんが向かう世の中は、大変便利でいい世界かもしれないが変化が急激だ。さまざまな問題で、昔と最近との差が著しい。変化率が速い時代に皆さんは生きていることをぜひ頭の片隅に置いていただきたい。地理的にもいろいろなことが起きている。グローバル化と言われて久しいが、自分と家族が暮らす地域あるいは国が、急激にグローバルに他と繋がっている。資本主義は非常に大きく変わってきている。グローバル資本主義で、世界中で物が国境を越え移動し始めることは経済の不安定要因にもなる。伸びている国と伸びていない国、モノがありあまる国と限られている国など極端な差が生じてくる。IT 化で現状を逸早く見ることが大事だ。大学でも問題意識を持って学んでほしい。蟻の目鳥の目とよく言われるが、上から見た姿と細部の動きは、両方が繋がっていると考えていただきたい。

 物の売り買いの手法もどんどん変化している。私が会社に入ったころは、M&Aは考えられなかった。会社自体が売れるものと認識したのは、せいぜい30年前からだ。当初はアメリカで会社を買うのは理解できても、日本で会社を買うことは想像できなかった。つい30年前までは考えられなかったことが世界中で起こり、普通になっている。利益主導で食い付くことが、環境破壊に繋がっている部分も結構大きい。

■ どのようなグレートを求めるか(ショートトーク)


鈴木正俊:グローバル競争の結果、言われるのが富の分散の滞りだ。アメリカ人口の1%が国の所得の20%を保持している程格差が広がった。以前、社長の給料が新入社員の何倍か、について世界各国の事例を比べる調査をした。日本は15倍から20倍だ。アメリカは500倍とか600倍とか圧倒的な差がある。日本は世界から見るとまだ平均的な社会だ。

周牧之:文革以前の中国は平等だった、悪平等だったかもしれない。私の祖父の給料は最高部類で300人民元台だった。当時国営企業の若手労働者の給料は18元だ。この18元で家族を養えた。この格差も20倍くらいだ。だから祖父は相当の数の友達とその家族に送金し、養っていた(笑)。改革開放後その格差は格段に広がった。現在、格差は大きな問題になっている。

鈴木:わかりやすい例を出すと、私がバングラデシュに行った時、現地で、日本の大手アパレル企業に製品を収める工場作りについて、相談を受けたことがある。当時、現地の給料水準がいくらか聞いたところ、日本円換算で1日120円程だった。日本では500円の新品Tシャツを安いと感じるが、そのうち人件費はいくらかといえば数円だ。今、皆さんの入る会社の新入社員給与は20万円、あるいは最低賃金制で東京都は時給1,041円となったから1日で9,000円になる。ユニクロやH & M の服の裏側のタグを見るとバングラデシュ製とある。消費する側は、物が安くていいと思うが、原価はもっと低い。当然今中国は人件費が高くなっているが、かつて日本の企業は人件費の安さを理由に中国に行った。

周:ひと昔前、中国労働者の給料と日本のそれとは40倍の差があった。いまだいぶ縮まった。

鈴木:企業は人件費の安い国へどんどん行った。従来日本の中で生産し日本の中で買えばよかったのが、そういう世界ではなくなった。アメリカのトランプ大統領が「Make America Great Again」と大声で叫んだ。考えてみれば、最近アメリカが、いやロシアもみんな“Great”なりたいと言う。第二次世界大戦が終わったときに核兵器を持った二大パワーの大国意識は強い。
 ロシアの面積はアメリカの倍ある。人口はアメリカの半分で日本とほぼ同じ1億4000万だ。しかしGDP はアメリカの7%、日本の4分の1以下だ。グレートなのは国土か軍隊か。経済的にはグルートではなくても歴史的にグレートであるとの意識を持ち続けている。

 中国も中華帝国の復興をしようと言っている。英語で言えば「Make China Great Again」だ。清の時代は、世界GDPの4割が中国だった。当時は世界の中心部は中国以外の何者でもなかった。グレートは一体何なのか。どういう国を作ればいいのか、何を目標にするのかが、新しい課題として現れている。

 明治時代の日本は、列強に占領されないよう富国強兵で経済を強くし軍隊を強くしようとした。戦後も貧しいから豊かになりたい一等国になりたいとグレート路線を採った。復興し、高度経済成長してきたが、この30年で成長が止まった。そして環境問題が深刻化した。物量的な限界が来るときに今後どう新しいものを作るのかがテーマになった。

周:分断的な国民国家の枠組みでなく、グローバルな経済社会におけるグレートを目指して欲しい。

ディスカッションを行う鈴木正俊・ミライト・ホールディングス元社長(右)と周牧之・東京経済大学教授(左)

■ 日本に特徴的な集団志向


 一橋大学の中谷巌先生によると「日本は特徴的」だ。西欧の植民地にならなかった。旧来、四方が海に囲まれた混合民族の国だ。征服された意識があまりない。日本人の怖いものは、古い落語を聞くと地震、雷、火事、親父で、戦争でも疫病でもない。いまの感覚では疑問もあるが、とかく自分たちのペースでやってこられたという意識がある。農民が大半だった時期、畑作をやり村の生活をやり、コンビニもスーパーマーケットもない時代、みんなが寄り添っていないと生活できなかった。非常に周りを大事にし、嫌われたくない気持ちが強い。陸続きの国とは全然違っていた。

 外国の文明と文化を、自分流に焼き直すのが上手い。日本に合うように変えるのが得意だ。人々の行動パターンについて各国別に個人志向と集団志向を調べた資料を見ると、同じ国でも全員が均一でない。アメリカ人だから、スペイン人だからといった違いではなく、個人個人さまざまだ。なるほどと思う点もある。日本は集団志向で、細く長く付き合おうという傾向が強い。アメリカは、個人志向で短期的にどんどん変化し、儲からない事業はカットし、勤める投資会社が駄目ならすぐ辞めて別の職場に行く傾向がある。

 中国、韓国、日本、ベトナムは遠からず集団志向の傾向はあると思う。各国別調査によると、ハイコンテクスト文化と、ローコンテクスト文化、つまり微に入り細に入り丁寧な国と、ストレートの国とがある。日本は、直接的な表現よりは、持って回った描写、曖昧な表現が多く、論理的な飛躍があると言われる。IとかYOUの主語がなく、直接的な事を言わずに推測で会話が成立する珍しい国だとされる。日本は、沈黙は金、饒舌は銀とされ、余計なこと言うとたたかれるから黙っている。昔の日本は徹底的にそういう文化だった。プレゼンする人に質問するのは失礼で、質問すると周りの人間が自分をどう見るか気になるからなかなか手が挙がらない。相手の気持ちを慮り、空気を読む。

 ローコンテクストは、直接的でわかりやすい表現をする。単純でシンプルで明確に言う。架空のことは評価しない。アメリカでは質問は?と聞くと、はいはいと一斉に手が上がる。欧米では相手に質問するのは、その人やその人が喋ったことに関心がある表れで、失礼でもなんでもない。私はあなたの話をよく聞き、わからないこともあるから聞くプラスのイメージだ。日本では最初に理由を言い最後に答えはこうなると言う。対して欧米ではストーリーよりも結論が大事で、結論を言ってからbecause なぜなのかを言う。彼らはNoと言われてもそんなに傷つかない。違うのであれば違うでいい、そういう意見なのだろうという感覚が非常に大きい。わからないことは、聞かなければわからないのが当たり前だから思ったことを言う。これはグローバル化においては大切だ。

■ 日本の三つの変化:グローバル化、環境制約、少子高齢化


 日本人は新しいものが入ると、どんどん理解して進めていけるが、他の人を押しのけるようなことはせずに、根底は仲良くした上で新しいものを取り入れる。私にはアメリカとの貿易摩擦に挟まれてやる仕事が多かった。当時アメリカは非常に寛容なところがあり、工場見学したいと言うと自慢して見せてくれた。日本はアメリカのものを真似し、発展させてきたことが、アメリカからすれば「日本人はわが工場を見にきて真似をし、自分のところでもっと良いものを作る。これはおかしい」という感覚が、貿易摩擦のころはあった。アメリカの本のマーケットに行って「いまはどんな本が話題か?」と聞き、その本を持ち帰って日本語に翻訳し、本屋に並べると売れた。日本より進んだ国、文明的に先を行くアメリカからものを持ってきて日本に合うものにする発想でやってきた時代が、いまは完全に切り替わった。

 日本を襲う三つの変化として挙げられていることの一つは、グローバル化、ボーダレス化だ。物差しがみんな世界の物差しになっている。利益、売上、あるいは ROE といった物差しががはっきりし始め、主体になる。次に、環境制約、資源制約だ。環境対策抜きに物事を進めていくことはできなくなった。三つ目は少子高齢化。日本は真っただ中にあり、大変なインパクトだ。日本の人口は2000年から減少してきた。大河ドラマ「鎌倉殿の13人」が放映されているが、鎌倉時代の日本人口はだいたい800万人だった。江戸時代は3,000万人、明治維新で3,300万、戦後は7,000万人だった。1億2,690人に上がってから下がり始め、将来予測で2100年は4,700万人になる。あと80年ほどで人口は江戸時代くらいに戻る。この人口変動幅はものすごく大きい。

 成長の半分は人口が増えているところで起こる。経済成長での人口数のウエイトは大きい。日本が少子高齢化国家として、うまくいくかどうか別にして対応を取らざるを得ない。

 そういう意味で、今皆さんは、ジェットコースターのこの地点に乗っていると考えていただきたい。問題を考えるときに悲観する必要はないが、こうなることがほぼ確実な将来に向かって、何がみんなに必要とされるか、大事にされるものは何なのか、重要なことは何かを、考えなければいけない。

■ SDGsへの目的を持った企業の取り組みを


 日本は景気変動も含めて、40年周期説、30年周期説さまざま言われる。江戸時代から大政奉還で明治時代に入り、帝国憲法を作って陸海軍を作ったような富国強兵は、日清戦争で中国、日露戦争でロシアに一応勝ったころピークになった。日露戦争の日本海開戦で東郷平八郎がバルチック艦隊を打ち破った記録があるが、日本海軍の軍艦に日本製は1隻もなく、イギリス製、イタリア製の軍艦を買って使っていた。

 その後第二次大戦までがまた一つの節目で、全艦艇全て日本製だった。技術、産業の基礎ができたと考え、極端に言えば気分だけは、自分たちは何でもできる、となった。第二次大戦に負け、日本国憲法で民主制度になり世の中が変わった中で成長した。1975年に変動相場制になり、アメリカが一方的な為替政策をやり、日本が伸びすぎてニューヨークのビルなどアメリカのものを買い漁ったとマスコミから攻撃された。対日感情が最悪になった1985年を機に、為替がガラリと変わった。日本の成長が頭打ちになった。95年にバブルがはじけて以降の30年間、日本経済は停滞し続けた。

 私が新卒入社したときは、毎年給料が5%から8%上がった。1990年から給料も物価も上がらない時代が30年間も続いた。経済研究所のある役員が、「30年間賃上げもインフレもなかったため経済予測する側もインフレが肌でわからない。物価が上がりインフレが起こることが頭ではわかっても、実感としてはわからない」と言う。

 大きな変化の時代だ。中国の製品は品質がよく、マーケットが大きい。日本は人口も経済環境も変わり、追いつかない状態になった。非常に勤勉で、異質のものを吸収し、繊細な感性を生かして実績をあげた経験を活かし、意識して工夫を重ね、イノベーション、技術力を高め、考えてやっていかなければならない。

 さまざまな企業が、SDGs になる自らのパーパスを定めようとしている。世の中に貢献するにはパーパスがなければいけない。会社は儲けさえすればいいところではない。企業、団体、あるいは集団で、ミッションを明確にしていこうとの流れになっている。パーパスを日本語で目的と翻訳すると少々違う。自分たちはどう行動するかは、国により人により異なる。過去の蓄積や管理者の価値観も違う。次に求められているものを再度見直さなければいけない。日本は、繊維業、自動車産業もほとんど海外生産をし、国内市場は縮んでいる。大企業の相手は世界だ。日本は、中堅中小の企業数が99%。中小企業が普段目の前に見ている日本の風景と世界とは、ちょっと違う。しかしその違いを生かすやり方もある。世界のニーズは何か、自分の持つ能力は何かをよく考え、社会の中で独自の強みを生かしていくことが、一つの大きな流れだ。

■ 人生100年時代とはいうけれど


 人生100年の時代と言われる。私は大きい病気をしているので、頭で考える自分の状態と実際の体とは違うとの実感がある。体の成長のピークは思春期で、その後、体は確実に劣化する。人により個人差はあるが、皆さんも既に体力的には劣化の過程に入り、免疫力を含めてピークを過ぎている。

 職業人生が40年という人生ステージでいくと、私は職業人生の終わりに来ている。30代、40代が働き盛りで、私は50代が非常に能力を発揮できるだろうと思っていたが、体力が落ちたのを実感した。精神活動が人の進化を決めるとはいえ体力あってこそだ。体は自分の頭でコントロールできない面が多いことに、なかなか気がつかない。

 衰え方でいえば、厄年とされる47歳前後から体力は段階的に落ち、ある年齢になって、がたっと落ちる。典型的なのは70代だ。免疫力は15歳くらいまでに完成し20歳以降徐々に低下すると科学で明らかになっている。データを集めた専門家によれば、40歳代の中頃から変わるという。40代に肌が変わり、筋肉量が1%ずつ減る。30年経てば30%減る。年をとったら腰が痛くなるから、薬を飲みましょうとなる。高齢者は腰が痛くなり、歩きにくくなり、足がしびれる。明らかに筋肉量が減るからだ。

 日本人が実施した「嘘つき能力」の研究がイグノーベル賞を受賞したと、ある大学の医学部長に聞いた。嘘つきの能力を各年齢別に3000人ほどサンプル取り、嘘を一番つく年齢は何歳か調べたら、一番多いのは思春期で、年とともに嘘をつく回数が減った。 原因について医学部長は「年をとると記憶力が衰え、つじつまが合わなくなる。思春期は頭の回転が良く、自分の嘘を覚えていて、小さな嘘は修正を効かせられる。歳をとると面倒くさくなり、嘘はバレるから最初からつかない方が気楽だ、と考える」と半分冗談で言っていた。思春期は記憶力でも体力でも大事な時代だ。体力の落ち方は皆共通といっていいが、能力は違う。経験などを組み合わせて伸びていく。磨いていけば能力は高まる。

■ 目前と全体の両方捉える視線を


 ロシアがウクライナ侵略したときのアメリカの世論調査で「強い関心がある」との答えは26%だった。先週の世論調査では「関心がある」が6%だった。人間の気持ちは時間とともに移ろう。人間は変化する多様な存在であるがゆえに、協力する力、知識や技術や経験を蓄積しつつ工夫をし、協力して生きていく必要がある。人間は愛情もあるが嫉妬もあり、多様ではあるが、基本的には友達の友達は友達という世界で出来上がっている。各々特徴を持ち、様々考えながらやっていることが、良いところに収斂してくる。私の考えは「人生は思った通りには進まないが、結構面白い」だ。

 神道の考え方に「今中」がある。真ん中だ。過去現在未来の中心に今中があるというのが、日本古来の教えだ。今が繋がっているから将来があるとの思想だ。大きな世界の中の日本人として、行動し、考えていくことが大事だ。質問があるか問われてシーンとなっていていいのだろうか?周りの言うことも大事だが最後は自分の立つところで考えることを意識していただきたい。

 作家遠藤周作が、仕事とは何かと問われ「一番面白い仕事は、楽しいけど苦しい仕事だ」と答えた。楽しいばかりは楽しくない。苦しいばかりでも続かない。楽しく、苦しいのを乗り越えていく仕事は面白い。

 皆さんには大学で、徹底的に勉強する、本を読む、ディスカッションするなど、なんでもいいから、いろいろな材料に深くぶつかってほしい。自由な時間はもうあまりない。今この時間はものすごく貴重だ。いろいろやっていると何か化学反応が起こる。ああ、こういうことだったのだと気がつく。私が非常に感心したのは宇宙飛行士の山崎直子さんが講演の中で言っていたことばだ。彼女は火星に行くかと聞かれ、行きたいと答えた。彼女の一番大好きな言葉は「Wonderful」。「Wonder」はわからないとか不思議だということで、「Ful」というのはいっぱいあるということ。「不思議でわからないことがいっぱいあることが楽しく、素晴らしい。これが「Wonderful」の実感だ」と言われた。すごい人だと感心した。

 わからないことに挑戦するのは苦しいが、わかってくるとまた一歩進もうと思う。これは人類共通だ。全てが予定されている世界が続いても魅力的ではない。変化を怖がる必要は全くない。変化によって生活の実感が湧いてくる。

講義を行う鈴木正俊・ミライト・ホールディングス元社長(右)と周牧之・東京経済大学教授(左)

■ 環境の異なる場所に身を置く


 知識、技術、経験は力だが、経験だけを重視しすぎると稀に間違えてしまう。昔はこうだったとの考えに繋がってしまう。世の中変化しているから昔とは違うことがある。経験が邪魔になることがある。

 一番のポイントは、クエスチョン能力だ。何がわからないかをはっきりさせる。何がわからないかがわからないままなのは、最悪だ。何がわからないか知るために勉強する。勉強するとわからないことがよりはっきりする。クエスチョン能力は一番大きなドライバーだ。

 全体がどうなっているのかは、ぼんやりしかわからなくても、目の前で見えていることと、全体との、両方見ることを絶えず意識してほしい。目の前のものが全てと思っていたことが、コロナ禍になり極端に変わった。体験の中で知識を学ぶしかない。自分なりにものを見ながら、目の前と全体との両方を考えれば、自分にとっての物差し、自分の価値観が得られる。日本ではどうしても、私も含めて、儲けとか利益の着地点を最初に考える。それは当然だが自分の物差しで何を大切にしようか考えることが必要だ。現実にさまざまなことが起こったとき、やるかやらないかが図れる自分の物差しを作ってほしい。

 コロナ禍でなかったら皆さんも国内、海外問わず行ってきたはずだ。違う場所に体を移せば違う環境の中で学ぶことは多い。考えているだけでなく体を移すことをやられた方がいい。環境を自分で意識して変えていく。1日のうちでも環境を変えれば、ずいぶん気づくものが多くなる。コロナ禍の制限が解除されたら、活発に活動をしてほしい。

■ 個性と好感を兼ね備えた若者に(ショートトーク)


周:企業のトップから見て、どんな若者に入社して欲しいか。どんな若者に期待しているか?

鈴木:基本は自分の見方を持っていること。それから忍耐力のある人だ。集団では自分の意見だけ通るとは限らない。そのときこの場は合わせようという忍耐力が必要だ。情熱があり忍耐力のある人が一番ほしい。インターネットなどからパクってこうだ、と言うような省力化する人は要らない。自分はこう考えるが、皆で決めればそのようにやっていくと言える人、自分と他者の違いを糧にし、やがて自分が主体になったときに次の結論が出せる人が欲しい。過去の採用面接で「私はいろいろ努力した、サークルではキャプテンをやり、こんな活動を取りまとめた」という同じ答えが、人は違うのに続いて嫌になった。なぜこれを言うのかの理由に、自分の考え方が出てくる人が貴重だ。

周:決まった解答でなく、個性を上手に出すことが求められている。

鈴木:そうだ。個性を強く出そうと認識する人もどうかと思う。違うことを強調するだけの人も困る。

周:ごく自然に個性を出せる人がいい。

鈴木:そうだ。一番の早道は、環境の違うところに身を置き、環境の違いを自分で経験してみることだ。家庭環境が違い、田舎育ち都会育ちの違いで、見てきたものは違ってくる。さらに海外行くと、様々な視点で物事を見られるようになる。違う国へ行けば歴史も学ぶ。人の営みは、歴史を見て時間軸の違いを見るなかで理解できる。自分で様々経験するのがやはり一番早い。

 運を呼び寄せる方法を問われた松下幸之助の答えは、「ありがとうと言えばいい」だ。なんでも感謝し、些細なことを良かった、ありがたかったと言って回ると、必ず好感を持たれて次に続く。好感を持てない人に「こんなチャンスがある」と人は言わない。他国比較の統計で「自分のキャリアビジョンはいつ考えたか?」の日本人の答えは、圧倒的に大学時代だった。他国の答えは、中学以前、中学時代、高校時代など分布していた。日本では受験プロセスに皆がはめこまれる教育システム、家庭システムがあるためか、大部分の人が、大学卒業時にさて仕事はどうするかと突然考え、難しいことになるという統計だった。自分で意識し様々見たり聞いたり言っていくことが大事だ。

周:要するに企業にとっては個性と好感を兼ね備えた若者が欲しい(笑)。

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「コロナ危機をバネに大転換」
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プロフィール

鈴木 正俊 (すずき まさとし)
NTTドコモ元代表取締役副社長、ミライト・ホールディングス元代表取締役社長

 1951年静岡県生まれ。1975年東北大学経済学部卒業、日本電信電話公社入社。NTTドコモ取締役広報部長、同取締役常務執行役員、同代表取締役副社長。ミライト・ホールディングス代表取締役社長、ミライト代表取締役社長、ミライト・ホールディングス取締役相談役などを歴任。

銀川:イスラム教徒が多く住む西北の中心都市 【中国中心都市&都市圏発展指数2020】第53位

 フフホト市は、中国中心都市&都市圏発展指数2020の総合第53位にランクインした。同市は2019年度より順位を3つ下げている。

 中国中心都市&都市圏発展指数は、中国都市総合発展指標の派生指数として、4大直轄市、22省都、5自治区首府、5計画単列市からなる36の中心都市の評価に特化したものである。同指数は、これら中心都市を、全国297の地級市以上の都市の中で評価している。10大項目と30の小項目、116組の指標からなる。包括的かつ詳細に、中国中心都市の発展を総合評価するシステムである。

 銀川市は、中国の中でもイスラム教徒が多く住む都市であり、中国唯一の回族自治区寧夏の首都である。現在、3区2県1市を管轄し、総面積は9,025平方キロメートル(鹿児島県と同程度)である。銀川市は多民族都市であり、回族のほか漢族、満州族、モンゴル族、朝鮮族など26の民族が居住している。

 銀川市は中国北西部の寧夏平原の中央部に位置し、東にはオルドス山脈、西にはヘラン山脈がそびえ、市内には黄河が流れている。地形は平坦であり、南西から北東にかけて徐々に傾斜し、平均標高は1,100メートルある。四季ははっきりしており、夏は暑く、冬は寒くなく、年間平均気温は8℃前後である。東部の賀蘭山麓はワイン用ブドウの最良の産地であり、中国の「ボルドー」とも呼ばれる。

 同市は水資源が豊富で、200以上の自然湖がある。一人当たりの湿地面積が全国平均の6倍に及ぶことから、中央政府から「国際湿地都市」に指定されている。

 銀川市の都市としての歴史は1,300年以上あり、かつては、古代西夏王国の首都であった。市内には、宮殿、楼閣、寺院、仏塔、モスク、長城跡など60以上の名所がある。特に、「中国のピラミッド」と呼ばれる西夏古墳群が著名である。

 同市は黄河文明、西夏王国、イスラム文化が混じり合う、多様性に満ちた交流・交易都市である。中国・アラブ諸国博覧会の常設会場にもなっている。

 銀川市は同自治区の中心都市として近年、都市化が急速に進行している。常住人口は288万人、都市化率は81.4%、直近10年間(2011〜2021年)で常住人口は約90万人増えた。大量の移住者により、「生産年齢人口(15〜64歳)率」は69.1%と中国で27位に位置し、人口構成が非常に若い。2021年、銀川市のGDPは2,263億元(約4.5兆円、1元=20円換算)で、中国では137位である。

 中国国務院は、銀川市を「一帯一路」の重要な結節点として、西部大開発戦略の重要なゲートウェイと位置付けている。広域インフラ整備によって同市の「高速道路密度」は現在、中国35位となっている。中央アジアなどへ向かう国際貨物列車も定期的に運行されている。

 市内交通インフラ整備も進んでおり、「都市軌道交通指数」は中国で38位、「一人あたり公共バス利用客数」は中国で5位と高い。

 近年では、都市機能を高めるため、デジタル化にも力を入れており、「デジタル銀川」プロジェクトが進行している。


〈中国中心都市&都市圏発展指数〉:【36中心都市】北京、上海、深圳、広州、成都、天津、杭州、重慶、南京、西安、寧波、武漢、青島、鄭州、長沙、廈門、済南、合肥、福州、瀋陽、大連、昆明、長春、ハルビン、貴陽、南昌、石家荘、南寧、太原、海口、ウルムチ、蘭州、フフホト、ラサ、西寧、銀川

中国中心都市&都市圏発展指数2020
中国中心都市&都市圏発展指数2019
中国中心都市&都市圏発展指数2018
中国中心都市指数2017