【シンポジウム】周其仁・徐林・安庭・林惠春:中国企業海外進出の原動力と影響

■ 編集ノート:雲河東京国際シンポジウム「中国企業の新たなチャレンジ:イノベーション、集積、海外進出」が2024年12月1日、東京オペラシティで開催された。雲河都市研究院主催、中国インターネット情報センターがメディアサポート。
 北京大学国家発展研究院の周其仁教授、米中グリーンファンドの徐林会長、北京希肯琵雅国際文化発展股份有限公司の安庭会長、北京師範大学一帯一路学院の林惠春教授が登壇し、中国企業の海外進出の過去と現在について議論した。


2024年雲河東京国際シンポジウム「中国企業の新たな旅立ち:イノベーション、集積、海外進出」会場

■ 林惠春:中国企業家の海外事業展開を後押し


 企業海外進出は、中国企業、ひいては社会の発展にとってどのような意味があるか?

 第一に、海外進出の実践者として私が申し上げると、従事するソフトウェア業界には、内在的な要求があった。第二に、私は海外進出の受益者であり、個人だけでなく私の会社も海外進出を通じて国際的な視野を広げ、事業を発展できた。第三に、私は海外進出の提唱者でもあり、グローバル化の下、企業の国際的な視野と事業は不可欠だと痛感し、「CEO国際移動教室」を設立、中国の企業家たちを率いて50カ国以上の国と地域を見学してきた。企業家の視野を広げ、彼らの海外事業の展開を推進している。

 改革開放から40数年経過し、中国が達成した最大の成果の一つは、対外貿易と製造業が世界第1位になったことだ。これは、中国の国際化の進展を示している。では、なぜ近年、中国企業の海外進出が話題になっているのか?中国企業の海外進出をどう定義するのか?それは、中国企業、さらには中国社会の発展にとってどのような重要性があるのかについて議論したい。

林惠春 北京師範大学一帯一路学院教授

周其仁:製造から投資、管理の力量まで問われる海外進出


 海外進出は、かつての国内市場から輸出への転換と比べはるかに困難を伴う。

 2019年に中国企業トップ500と米国企業トップ500の国際比較データが発表された。それによると、中国トップ500の海外売上高比率が20%未満であったのに対し、米国トップ500は60%を超えている。

 広東省佛山の美的集団は中国最大の民間メーカーだ。同社売上高は3,400億元で、そのうち海外売上高比率は41%(1,300億元)だった。海外製造事業による収益は250億元に達し、海外に18の生産拠点を設立している。 

 美的の当初の経営モデルは、中国の工場で生産し、輸出を通じて製品を世界中に販売するものだった。なぜ美的は海外に生産拠点を設立することを決めたのか?彼らは、「中国から世界へ」から「地域から地域へ」の戦略転換にあると説明した。

 市場が拡大し、進出地域が遠くなるにつれ、輸送コスト、関税、現地化ニーズなどの新たな制約要因が生じた。 さらに、美的の経営を引き継いだ同社の方洪波会長は、生産数量の追求を単なる目標とせず、品質向上に重点を置く方針を打ち出した。彼は美的の製品ラインの半分を削減し、高付加価値製品に集中した。

 さらに、美的は海外に生産拠点を設立し、現地の大手販売代理店や消費者を工場に招待することにした。これにより、消費者の品質への理解が深まるだけでなく、ブランド構築にも寄与している。

 美的の創業者である何享健は、早くから「国内の同業他社と争わず、海外市場に進出する」と提唱していた。

 2005年にベトナムにチームを派遣し、2006年には現地に新工場を建設した。これは関税への対応だけでなく、製品を米国市場にアクセスするためだ。 

 中国の対外開放は、まず「輸入」から始まり、次に「輸出」へと進む。中国製品の輸出が一定水準に達すると、さまざまな問題に直面する。これらの問題にどう対応すべきか?過去、製品が輸出されると、それ以降は私たちの責任外となり、残りの業務は仲介業者や海外企業が独自に処理していた。現在、企業は製造能力、投資、管理を海外に移転する必要がある。この転換は、かつての国内市場から輸出への転換よりもはるかに困難であり、特に、ターゲット市場が中国よりも後進の国・地域である場合は、企業や企業家に対してより複雑で厳しい要求が課せられる。

(左)周其仁 北京大学国家発展研究院教授、(右)徐林 中米グリーンファンド会長・中国国家発展改革委員会発展戦略和計画司元司長

■ 安庭:高成長する文化産業は、「輸入」と「海外進出」が両輪


 文化産業の「輸入」と「進出」は相互に補完し合い、両輪の役割を果たしている。

 私は文化産業に従事しており、文化産業の「輸入」と「海外進出」は相互補完的で並行して進むべきだと考えている。中国政府は健全な文化産業と市場の整備を提唱し、重大な文化産業プロジェクトを牽引する戦略を実施し、中華文化の海外展開を推進している。

 昨年の全国人民代表大会期間中、北京は「演芸の都」の目標を掲げ、4つの中心都市建設の一環として、演芸が北京の首都としての文化影響力を大幅に向上させることを目指した。

 中国国家統計局のデータによると、2012年以来、中国の文化産業の付加価値は18,071億元から2020年には44,945億元に増加し、年平均成長率は12.1%で、GDPの成長率を大幅に上回っている。文化産業のGDPに占める割合は3.36%から4.43%に増加している。 これらのデータは、文化産業が活況を呈しており、関連産業の発展を牽引するだけでなく、国民経済発展の新たなエンジンとなっていることを示す。

 文化産業の貢献、特に海外への発信という観点から見ると、その成果は顕著であり、発信力や影響力はますます高まっている。2012年から2022年にかけて、全国の文化産業の企業数は3.6万社から6.5万社に増加し、年間営業収入は56億元から119億元に増加、発展の質も着実に向上している。

 「文化強国戦略」の積極的な推進に伴い、私が属している興行業界がこの戦略の砦となりまた先駆者となるべきだと考えている。

(右)安庭 北京希肯琵雅国際文化発展股份有限公司会長、(左)林惠春 北京師範大学一帯一路学院教授

徐林:中国企業の海外進出は既に大きな流れに


 企業の海外進出という傾向はすでに明らかであり、逆転は不可能である。私は長年政府で政策立案に携わってきた。中国がなぜこの段階に至ったのかをマクロ政策の観点から考察したい。

 過去、中国は全方位の対外開放を推進すると主張してきた。全方位とは、「海外からの企業誘致」だけでなく、「海外進出」も意味し、その目的は国内と国際の2つの市場、および2つの資源をより有効に活用することだ。実際、過去長い間、中国は輸出を主体としていた。

 中国はWTO加盟後、完成品の輸出において顕著な成果を上げた。WTO加盟20周年の際、商務部(省)はWTO交渉に参加した私たちに回顧録の執筆を依頼した。この時、私は過去20年間で中国が米国とEUから得た貨物の貿易黒字は6兆ドルに上ることに気付いた。今後この数字はさらに積み上がるだろう。毎年米国との貿易黒字は4,000億~5,000億ドルを維持しているためだ。このような状況が続くと様々な問題が生じる。果たして世界はこうした状況を受け入れられるだろうか?

中国都市総合発展指標2023」報告書

 昨年10月に米国を訪問し、ピーターソン研究所を訪問した際、同研究所に所属する韓国産業通商資源部元長官と意見交換した。同氏は、中国の現在の貿易モデルは、小国であれば問題はないかもしれないが、中国は規模が大きすぎるため、世界が耐えられないほどになっており、中国は変化しなければならないと述べた。

 現在、アメリカが中国貿易に対して取っている姿勢は、対中貿易の巨大な赤字に端を発している。これまでこのような状況を容認できた国は、おそらく米国だけだった。米国はドルを発行することで貿易赤字を転換できるが、他の国にはその手段がないからだ。したがって、中国の輸出モデルは、ある段階まで進んだ時点で行き詰まり、持続不可能になるだろう。

 浙江省台州市の上場企業である水晶光電は、光学センサーの製造に特化しており、製品の70%をアップルに販売している。近年、アップルは水晶光電に対し、「China+1」を実施するよう要求した。つまり、中国以外にも生産拠点を設置する必要があるということだ。なぜこのような要求がされたのか?先ほど周其仁教授がおっしゃったように、この要求は潜在的なリスクに対応するためだ。アップルは水晶光電に非常に依存しているが、サプライチェーンの安定に影響を与えるような問題を望んでいない。そのため、アップルは水晶光電にベトナムで新たな生産ラインを設立するよう要求した。この要求は水晶光電にとっては受動的だが、実際に問題が発生した場合、企業には代替案が用意されている。このような予防的かつ代替的な海外進出の要求は、現在ますます一般的になっている。これは、中米関係や中国と欧米諸国間の地政学が、企業の意思決定に深刻な影響を与えていることを反映している。

 一方、企業の生産経営やサービスの観点から見ると、例えば電子製品の場合、企業は海外展開が必要だ。これらの企業は製品を販売するだけでなく、アフターサービスを提供し、市場ニーズへの迅速な対応が求められる。すべての部品と生産が中国に集中している場合、製品輸出量が増加すると、海外市場での修理やメンテナンスのニーズに迅速に対応することが困難になる。海外に生産拠点を設置し、現地で充実した部品供給エコシステムを構築できれば、変化に柔軟に対応できる。

 企業が進出する必要性を、マクロ、ミクロ、そして企業レベルまで整理することができる。企業や業界によって出発点やニーズは異なるかもしれないが、この傾向は明確であり、逆転することはあり得ない。

徐林 中米グリーンファンド会長・中国国家発展改革委員会発展戦略和計画司元司長

 この記事の中国語版は2024年12月26日に中国網に掲載され、多数のメディアやプラットフォームに転載された。


■ WEB掲載記事


【日本語版】

チャイナネット『海外進出した中国企業、現地社会に溶け込むのが肝心=中米グリーンファンドの徐林会長』(2025年5月15日)

チャイナネット『企業を主体としたグローバル化を=北京大学国家発展研究院の周其仁教授』(2025年5月15日)

チャイナネット『製造から投資、管理の力量まで問われる海外進出=北京大学国家発展研究院の周其仁教授』(2025年5月15日)

チャイナネット『高成長する文化産業は「輸入」と「海外進出」が両輪=北京希肯琵雅国際文化発展股份有限公司の安庭会長』(2025年5月15日)

チャイナネット『近年、日本市場に進出する中国企業が増加=中国駐日本大使館の郭旭傑経済参事官』(2025年5月15日)

チャイナネット『中国企業の海外進出は世界を再構築=周牧之教授』(2025年5月16日)

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【対談】清水昭 VS 周牧之(Ⅱ):自然と融和する互助社会へ

2024年11月30日、国際シンポジウム「グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来」清水昭氏(左)と周牧之教授

■ 編集ノート:

 清水昭氏は、医師として病院長として常に患者に寄り添った診療をし、また健康医療開発機構の理事長として日本の医療政策を支え続けている。2024年12月19日、東京経済大学にて新型コロナ禍の時の日本の医療体制の特徴と課題について、ご講義いただいた。


ハイパーソニックの人体への好作用


清水昭:私は昭和25年、山梨県甲府に生まれ、東京に出たのは大学からだ。セーリングヨットを学生時代に始め、医者修行の10年間は遠ざかったがその後再開し、続けている。脳神経外科医として40数年働き、いま川越と志木で医療・介護・福祉事業所を数カ所展開するリハビリ病院の医療部門を任されている。

 私が関わっている健康医療開発機構は、研究室内の研究を一般の方に理解いただくため十数年前に立ち上げた。出会いと学び合いと助け合いの精神を学んでいる。もう一つ、もの作り生命文明は、日本人がものを作り職人技を次世代に繋いできた歴史を踏まえ、各地の職人さんと繋がり、次世代に文化を残していく活動をしている。ローカルサミットは15年ほど前から、東京一極集中の東京1人勝ちは、戦略としては間違いであるとの志ある人たちが産官学で集まり、勉強会をスタートさせ、地域に赴き活動している。

 甲府の仲間と話をすると、山梨には何にもないと言うが、山梨は8割が森林でそれが財産 だ。今私の話し声の周波数は0Hzから20kHzだ。大学生の若者は23kHzまで聞こえるが、私の年齢になると19から18 kHzしかない。ところが森に行くと、50kHz、100kHz、200 kHzの、とてつもない高周波が感じられる。 

 その高周波を、大橋力先生が2000年に「ハイパーソニック」と命名し発表した。大橋先生は、脳科学者であると同時に音楽家でもある。森の中の、鼓膜を通しては聞こえないハイパーソニックの存在について、科学者としての興味で研究を続けた。がん、アレルギー、糖尿病などの各疾患やストレスなどの治癒に、森の中の高周波が良い作用を働かせているのを、血液検査や画像診断で、解明した。薬ではない。食べ物でもない。音だ。 

 大橋先生はハイパーソニックの発生源と、どこから人間に入ってくるかについても解き明かした。森の中には音が溢れている。森には鼓膜からは入らない音がたくさん存在し、その高周波は50kHz、100kHz、200 kHzまであると言う。鼓膜から入るのは0から20kHz。それ以上の高周波は皮膚から入る。皮膚は最大の抵抗力を持った防御組織で、細菌やウイルス感染も防ぐ。だが、宇宙服のような服を着せてハイパーソニックの実験をしたところ、音は入らなかった。ハイパーソニックの発生時期は春から秋が多く、広葉樹の森に豊富にあることがわかった。 

 ハイパーソニックを出す発生源は、昆虫だ。コウロギなど音を出す昆虫もいるが、音を出さないその他沢山の昆虫もハイパーソニックを出す。故に、わからないことや見えないこと聞こえないことを無視して森林の伐採をしてはいけない。西洋文明の、われ思うゆえに我ありというのは間違い。人間は思い上がらず、みんなと共に生きていることを再考しなければいけない。 

周牧之:稲作の水田を囲んだ湿潤な生活様式が、交差免疫をもたらす考え方、そしてハイパーソニックの観点から、自然と共生する里山の持つ価値を再考し、これからの生活様式に組み込まなければならない。周ゼミにゲスト講師として来たNHKのチーフディレクターの小野泰洋さんが言うには「里山は自然に対する人間の適度な介入がもたらした、新しい生態系である」。里山の魅力は、その多様性が原始の自然に比べても豊かだ。

 環境省が2010年、「SATOYAMAイニシアティブ」を立ち上げた。今や世界的なコンセプトになっている。しかし里山を支える集落は今、急激に消えつつある。これから10年間で500以上消える。将来さらに、3,000以上の集落が消滅すると予想されている。人口減少下、集落の維持は大きな課題である。

 これからの都市や大都市の進化のあるべき姿も都市の中の里山的な空間、自然を取り入れることが大切だ。

SATOYAMAイニシアティブと地域循環共生圏

自然界に学び自然との共生を


清水:日本人は共同体に生きることを縄文時代からベースにしてきた。海外は、人間が人間以外の動植物、自然までも征服し利用することを今も続けている。それに対して環境考古学者の安田喜憲氏が20年前、生命文明の時代を想像する研究会組織した。自然界を破壊し搾取し、物を大量生産、大量消費、大量廃棄する今の持続不可能な物質文明が旺盛だが、自然界のまだ解らないことを謙虚に学び、伝えていく必要がある。 

 地球は沸騰中だ。温暖化で真夏日が続き、今年も海水温が上昇している。東京経済大学で 2024年11月30日、周先生を中心に日中の頭脳を集めた国際シンポジウムグリーントランスフォーメーションにかける産業の未来が開催された。登壇した中井徳太郎元環境事務次官が述べたように現在、海水温が上がり豪雨、洪水の被害が出ている。 

 「いのち・ちきゅう・みらいプロジェクト」が2024年5月に始まった。2025年4月開幕の大阪・関西万博を契機に、地域循環と共生をテーマとし、地球環境保護を呼びかける事業だ。私はこれを精神的な活動のバックボーンにするために取り組んでいる。 

 これは、地球沸騰の危機からの創生を目指し、日本の自然共生を根幹とする伝統文化や、郷土芸能の偉業を紐解き、広域連携による地域循環共生圏の構築を促進する。未来を託す子供の育成と、そのための現代文明のあり方を問い、現在の社会課題に対応する新たな文化を創造し、次世代に発信する。 

 大阪万博は海外との絆を作る大事なチャンスであり、日本の文化、伝統、歴史を伝える場でもある。

食料自給率向上が重要


清水:G7のうち、フランスは食料自給率140%だ。自分たちの食べるものは自分たちで確保した上に、科学技術、芸術でオールマイティーな展開をしている。日本は食料を60数%海外に依存している。食糧輸入が途絶えたら、コンビニの食料品は3日で消える。2000年のエネルギー危機で中近東から油が来なくなった時、日本は90日間の備蓄しかして来なかった。近々食糧危機が必ずやってくる。ベランダにプランターを置いて野菜を自分で作ることもやった方がいい。CO2削減を含めた森里川海の水と物質循環をもう一度正し、日本の20000以上の河川それぞれの流域を繋げ、各流域で連携して取り組んでいこうとしている。

周:流動化する国際情勢の中で、食料自給率の向上は大切だ。1995年にアメリカの学者レスター・ブラウンが著書『誰が中国を養うのか』を発表した。同氏は、13億人口を持つ中国の食糧供給能力、そして世界の食糧供給網に及ぼす潜在的な影響に対して強い危機感を示した。

 ブラウン氏の主張に刺激され、中国が食糧生産拡大政策を進め、主食である小麦とコメの供給力が国内で満たされ、主食の自給率100%維持を国策としている。その結果、中国は現在世界で最大の農産物輸入国であるが、大豆、トウモロコシ、高粱といった飼料穀物が主体である(中国の食糧問題について周牧之:誰が中国を養っているのか?を参照)。

■ 互助の精神が機能する国民皆保険制度


清水:世界に誇れる国民皆保険制度が日本にはあり、ほぼ全ての人が公的医療保険に加入し、カバーされているのが最大の特色だ。 

 医療保険制度は、自営業者や働いてない人が加入する国民健康保険、企業に勤務する人々が加入する被雇用者保険、75歳以上の高齢者を対象とした後期高齢者医療制度、の3種類がある。 

 北海道に住むAさんが病気になり近くのかかりつけの先生に診てもらったら、大きな病院に行くよう言われた場合、北海道は札幌だと北海道大学病院、札幌医科大学病院あるいは市立病院や日赤など紹介状があれば行ける。その上北海道では無理だという希少疾患で東京に行った方がいいとなると、東京大学病院にかかりたいといえば、日本国民は誰でもかかれ    る。これはすごいことだ。アメリカも病院にかかれるが医療費がたいへん高額で、日本の 10倍から100倍する。イギリスの場合は医療政策が非常に充実しているが、居住地で公的医療機関が決まっており、かかりつけ医が患者を送る病院も決まっていて、専門病院にたどり着くのに相当時間がかかるのが難点だ。 

 そこの医師が、これは大変だとすぐに公的な大病院に紹介してくれれば助かるが、その医師 の見立てで、大丈夫だから二、三日様子を見るよう言われて、帰宅して重症化することが結構多い。大病院にたどり着かずに亡くなる人がいる。医療統計をとると、イギリスでは中規模以上の病院にかかった人の回復率がいい。公的保険でカバーされている日本は自慢していいが、明らかに国の財政を圧迫している。 

 日本は家族も、加入者の扶養家族としてカバーされるのが特色だ。アメリカの例をとると、夫が保険に入っても妻はカバーされない。 

 フリーアクセスで保険証と紹介状を持っていけば、あるいは保険証1枚で医療機関が自由に選べる。制限なくどの医療機関でも診療を受けられる。 

 現物給付制は、窓口負担で、医療費の1割負担の人もいれば2割、3割負担の人もいる。その負担の他は保険がカバーしているのも特色だ。 

 民間中心の医療提供体制病院と診療所の7割以上は個人または医療、医療法人だ。公的なものは3割以下になる。 

 充実した公的制度高額療養費、高額療養費制度は今6万から7万になっているが、重い病気であれば50万100万あるいはもっとかかることもある。が、少なくとも基本的に保険診療でカバーしている病気に関しては、例えば月100万かかるような費用は国が負担あるいは地方公共団体が負担をして、本人は6万か7万でできるのは、互助の精神が機能している制度だ。 

周:1980年代、私は日本に留学してきた時、この国民皆保険制度に感動した。非常に社会主義的な制度だ(笑)。財政負担が大きな課題だが、国民の幸福度はこの制度故に大いに高まっているはずだ。

清水:母子健康手帳も、今東南アジアで日本の制度を真似し始めている。母親が保管し妊娠から出産までの健康管理とその記録としてもすぐれた制度だ。 

周:清水先生もご存知の企業MTIが、母子健康手帳のデジタル化をベースに少子化問題の解決や子育て支援事業に取り組んで大きな成果を上げている(MTIの子育て支援については、前多俊宏:ルナルナとチーム子育てで少子化と闘うを参照)。このような先進事例をアジア諸国に広げていけるといいと思う。

MTIの子育て支援・母子手帳アプリ「母子モ」(『前多俊宏:ルナルナとチーム子育てで少子化と闘う』より)

■ 日本医療体制の課題


清水:日本の医療体制は国民に高品質な医療サービスを提供するため強固な基盤を持っている。だが、急速な社会変化に対応するためには様々な課題に対する具体的な対策が求められている。 

 例えば、急速な高齢化を迎え、医療需要が増加している。年を取ると当然病気が増えるため、お年寄りの数が上がると病気も増える。 

 医療需要状況が逼迫すると医療費高騰や医療資源不足も、深刻な問題になる。慢性疾患を抱える高齢者が増加しているためだ。医療体制の見直しの抜本的な方法は、医療機関で早めに治療が終わった人は在宅にするか、家で保険を使わずに介護保険を使う。介護保険の方が赤字になって、四苦八苦している。 

 高齢化社会への対応はまだ全然答えが出ていない。医療従事者の不足、医師や看護師の人手不足が続いている。私が昭和50年に医大を卒業したときの全国の医者の数は3000人、今は9000人で3倍に増えた。3倍増えたが、医療不足だ。理由はいくつかある。直近で医者になる1割が美容外科に行くと聞いた時は腰が抜けた。私の時は女医の割合は1から2割だったが、今は4割まで上がった。私が強調したいのは、命に関わる診療科目で、助けて欲しい時に日本全国津々浦々で助けてもらえる心臓、内臓、脳外科の医師が増えていない。命に関わらない科の医師が増えている。故に医療従事者の人手不足は、特に地方での医療サービスの提供を困難にしている。 

 私の若い頃は10年間徒弟の生活をした。病院に泊まり込み、家に帰るのは週のうちの1日か 2日ぐらいしかなかった。今の働き方改革を本当に進めると、我々のような医療従事者だけでなく、もの作りの職人さんも技術が身に付かない。厚生労働省の役人さんが時間で区切るのは愚策で、物事に打ち込むときに、自分が好きでやることに関して時間換算で就業を制限するのは間違っている。医療従事者が技術を身につけなかったら不幸になるのは国民だ。ここは本当に深刻に考えなければいけない。 

周:一生懸命にやらないといい仕事は出来ない。働き方改革は本来、一生懸命にやる人たちをもっとサポートする形にするべきだ。

清水:医療機関の機能分担が不十分だ。大病院、中病院、診療所の役割分担がうまく取れている地域もあり、熊本市が好例だが、取れてないところが多い。 

 医療費の持続可能性は、働く世代のお金で医療費の負担をしているので、働く世代の数に比べ、診療を受ける数が今高齢化で増えている。定年の見直しが大事だ。アメリカに定年制度はない。年齢性別人種で差別をしてはいけないので、日本の保険制度のように65歳から前期高齢者、75歳から後期高齢者とするのは、アメリカでは憲法違反だ。 

 私はもう来年後期高齢者になるが、働けるうちは年齢に関係なく働き、社会を支えることは大事だと思う。そのようにこの国も舵を切れば、この問題は速やかに収まると思う。

■ 医療サービスの国際ハブへ


清水:シンガポールに先月、インクルーシブセーリングといって健常者も障害者も一緒にやるヨット大会があり、選手の障害のクラス分けに行ってきた。シンガポールは私が行きたかった国で、まず30年前に作った24時間運用のハブ空港が世界一だと思う。 

 次に、国際金融機関が見事に成功した。私が1989年にニューヨークへ行った時、日本はJALがエセックスホテルを買い、三菱商事がアメリカの象徴のロックフェラーセンターを買い、長谷工が北米の名だたるゴルフ場を買った。東京と神奈川を合わせた地価が、北米の地価と同等だった。そんな時代、世界50の企業の中に、日本企業が沢山あった。今トヨタ1社ぐらいしかない。東京証券市場が、ニューヨークやロンドンの市場に対して一定の力を持ったのが、いまアジアの資本市場のセンターは、香港に移り、上海に移り、シンガポールに移った。さらに、2011年の原発事故のときには、東京にあった海外のヘッドオフィスはまず香港に移り、さらにシンガポールへ移った。国際金融センターは今アジアではシンガポールだ。 

 さらに医療機関も先進的だ。元々イギリスの植民地の影響でシンガポールの人々はイギリスに医学を学びに行っていたが、ここに30年はアメリカに行くようになった。アメリカの一流の医療を勉強してきたため、シンガポールの医療は遥かに日本より上になった。隣の韓国も同様だ。失われた30年は、医療機関にも言える。 

周: シンガポールは、いまや医療サービスの国際ハブになっている。インバウンドが盛んになってきた日本も、医療サービスの国際ハブになったらいい。そのためやらなければいけないことがもちろん沢山ある。

清水:日本の国民皆保険の制度は、ある一定の医療に関しては機能しているので、そんなに悲観的にならなくてもいい。しかしグローバルでは本当に真剣に考えないと非常に厳しいと私は感じている。(了)

2024年12月29日、東京経済大学でゲスト講義をする清水昭氏

※記事前半はこちらから


プロフィール

清水 昭(しみず あきら)/医療法人瑞穂会理事・統括院長、川越リハビリテーション病院院長

 昭和50年順天堂大学医学部卒業、ニューヨーク州立大学医学部脳外科講師、防衛医科大学校講師、同校医学研究科指導教官、自衛隊中央病院診療幹事・脳神経外科部長、兼ねて国家公務員共済組合連合会三宿病院総代、脳卒中センター長を歴任。公立大学法人福島県立医科大学災害医療支援講座特任教授も兼任。急性期の診療・教育・研究に40年以上関わり続けている。

【対談】清水昭 VS 周牧之(Ⅰ):パンデミック対策の日中比較

2024年12月19日、東京経済大学でゲスト講義をする清水昭氏

■ 編集ノート:

 清水昭氏は、医師として病院長として常に患者に寄り添った診療をし、また健康医療開発機構の理事長として日本の医療政策を支え続けている。2024年12月19日、東京経済大学にて新型コロナ禍の時の日本の医療体制の特徴と課題について、ご講義いただいた。


日米欧はウイズコロナ、中国はゼロコロナ


周牧之:新型コロナウイルスが、人々に甚大な被害を及ぼしたのは何故か。私自身、まったくの門外漢ながら、2020年1月から各国の新型コロナ対策について比較研究してきた。私は中国297の地級市及びそれ以上の都市(日本の都道府県に相当)を網羅した都市評価指標「中国都市総合発展指標」を毎年発表してきた。同指標には各都市の医療能力を評価する「医療輻射力」という指標がある。

 最初に新型コロナが起こったのは湖北省武漢市だ。「医療輻射力」から見ると、武漢市は297都市中の第6位。第6位は医療水準としては大変高い。人口1000人当たりの医師数、病院数がほぼ東京都やニューヨーク市と同等レベルだ。なぜこれだけの医療輻射力を持ちながら医療崩壊に至ったのか。調べるうちに、コロナの初期に皆が病院に駆けつけパニックを起こしたことが、徐々にわかってきた。更に、病院の院内感染がそれに拍車を掛けた。中でも医者や看護師らが大勢感染したことが医療崩壊につながった。

 これに対して中国の対策は迅速だった。先ず武漢から、そして全国にロックダウンを実施した。次いで現場の医者、看護師が罹患していたことを受け、全国から4万人を超える医療スタッフを武漢に派遣した。緊急病院を急ぎ多数新設し、患者を重症と軽症に分けて診療した。これが功を奏した。2カ月あまりで武漢、そして全国のコロナ新規患者数をゼロにした。さらにその状況を保つよう努めた。所謂「ゼロコロナ」政策だ。

図1 武漢ロックダウン期間における新規感染者数・死亡者数

出所:中国湖北省衛生健康委員会HPより作成。

 日本もアメリカもヨーロッパも、ロックダウン政策を徹底実施できなかった。日本は最初の緊急事態宣言で、かなり効果が上がったにもかかわらず、経済への憂慮で中途半端に宣言を終了させ、その後コロナの勢いが一気にリバウンドした。コロナパンデミックの中、日本、欧米は所謂「ウイズコロナ」政策を取った。

 中国の「ゼロコロナ」政策と日欧米の「ウイズコロナ」政策をどう評価するかについて、私はゼロ・COVID-19感染者政策Vs.ウイズ・COVID-19政策という長い論文を書いた。

一定の役割を果たした日本の新型コロナ対策


清水昭:日本は2019年12月から2024年11月までの間に、COVID-19に関して多岐にわたる対策を行ってきた。主な政策の一つは、医療体制の強化だ。日本政府は医療機関への支援を強化し、特に新型コロナウイルス患者を受け入れる病床の確保や、医療従事者への支援を行った。これには医師や看護師の派遣支援や診療報酬の特例評価が含まれる。 

 感染症では日本は結核が明治、大正、昭和の戦前、薬ができるまでは不治の病で、国立病院、国立療養所が患者の受け皿になっていた。結核患者が減り、各地の療養所、国立関係の病院は統廃合で数を減らし診療科も感染症はメインでなくなっていた。SARSで一時対策をとったが、今回の新型コロナの対策で医療体制の強化の対象となった。ワクチン接種をすると抑えられるということで接種が重要な政策として位置づけられ、自治体と連携して行われた。現在、G7も含め、ワクチン接種を勧めているのは日本だけだ。 

 経済支援、これも経済的影響は、感染症が起こると経済が停滞するからその影響を受けた事業者に対して、経済支援を政府としては打ってきたということを言っているが、事業者や個人に対して、雇用調整助成金であるとか生活支援金など経済的支援が提供されたと。特に低所得の子育て世帯には一律5万円の給付金が支給されるなど、生活支援策が講じられたが、本当に困っている人が助かったかというとそうではなく、支援しなくてもいい人にも支援していたというアンバランスがあったと思われている。 

 感染症対策はマスク着用や手洗いなどの基本的な感染症対策が推奨され、特に高齢者施設や医療機関では定期的な検査が実施され、感染拡大地域では積極的な検査体制が整えられた。社会的な取り組みとして、自殺防止や児童虐待防止など社会的な問題にも対応するだけの施策が強化された。特に20年前から子供たちの自殺が増えている。夢や希望を世の中に出していかないといけないと強く思っている。 

 コロナの施策は日本国内での感染拡大を抑制し、国民の健康と生活を守るために一定の役割を果たしたと私は思う。

2024年11月30日、国際シンポジウム「グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来」懇親会で挨拶をする清水昭氏。

中国のゼロコロナ対策は迅速かつ徹底


周:2020年1月23日に、中国政府は新しい感染症の爆発を封じ込めるために湖北省の省都武漢を始め3都市をロックダウン(都市封鎖)した。その後、湖北省の全域だけでなく、中国全土においてほぼ全ての地域が封鎖された。

 当時、私は武漢の医療崩壊及びその後の対応について研究し、数少ない情報を収集しながら世界各国の動向を踏まえ、同年4月20日に新冠疫情冲击全球化:强大的大都市医疗能力为何如此脆弱?(新型コロナパンデミック:なぜ大都市医療能力はこれほど脆弱に?)というレポートを中国の大手メディアで発表した。豊かな医療リソースを持つ大都市が、なぜ新型コロナウイルスにより一瞬で医療崩壊に陥ったのかについて解析し、武漢の対策を検証した。同レポートは英語や日本語に翻訳され世界に発信された。当時コロナ対策に困惑する政策当事者に、ある程度参考になったと思う。

 迅速かつ大規模な医療支援、医療リソースの重症者への集中、徹底的なロックダウンなどで、中国は見事にパンデミックを鎮圧し、いち早く普通の生活を取り戻した。その意味で2020年、2021年、中国のゼロコロナ政策は非常に成功した。経済成長率も主要各国の中で最高だった。コロナの被害を測るには、映画興行は一つの有効な指標である。映画館が再び営業し中国の映画興行市場はパンデミックで大混乱に陥った北米を超えて世界第一位をなった(映画大国中国で最も映画好きな都市はどこか? 〜2020年中国都市映画館・劇場消費指数ランキングを参照)。

 3年弱の時間稼ぎができたことで、コロナウイルスが大分弱毒化し、致死率が下がった。欧米諸国と比べ、パンデミックにおいて中国での深刻な被害拡大を食い止めた。

■ マスクや手洗い、身体的距離が要


清水:新型コロナは11波が先月から今月にかけて収束しかけたが、実はもう12波に入った。来年の春に向けて、また波が出てくると思う。 

 日本の新型コロナウイルス対策は感染の減少を目指し、医療体制の確保や検査体制の強化をする。問題はワクチン接種の推進が言われているが、個人レベルでは、マスクの着用や手洗いの徹底、身体的距離の確保が大事だ。 

 注射のワクチンを打ったらいいかどうかを、立場上私は聞かれる。1波、2波、3波の時は、私は打った方がいいと勧めたが、その後ワクチンに問題があるということが様々出てきている。私は「ご自分で打ちたいと思ったら打ち、打ちたいと思わなかったら打たなくていい」と言っている。 

 ワクチン接種率については、2023年までに国内で1回目接種が80%以上、2回目接種が79 %だった。都道府県のデータは、都道府県によって接種率が違い、地域によって接種が進んでいないところもある。 

 高齢者を日本は優先したので優先的に接種して重症化リスクを減少させたのは、一定の効果はあったが、副作用の問題は残っている。 オミクロン株対応ワクチンの接種が進められている。ワクチン供給の遅れやシステムの問題が改善されたのが現状だ。 

 マスクは入ってくるウイルス量を減らす。ある一定の量が入らないと感染症は発症しない。マスクは部分的にワクチンの働きをしている。定点観測すると、波があるときは、電車内の一車両100%の人がみんなマスクしていた。波が落ちてくると8割に、6割に減り、いま4割3割まで減ってきた。今の季節はコロナ対策のときに減っていたインフルエンザや手足口病やその他感染症が広がっており、2割3割ぐらいに増えてきている。 

 学校はマスクを今年はしなくなっており、インフルエンザもコロナも、こどもが感染しても元気だが、お父さんお母さんがうつされて重くなる場合がある。個人と家族の努力が鍵だ。具合が悪い時は無理して仕事をせず、休むことも大事だ。 

■ 低濃度オゾンをコロナ対策に


清水:日本予防医学協会が推奨している感染拡大防止策は、換気を定期的に行い、マスクを着用する。こまめな手洗いと換気は効果がある。こぢんまりした居酒屋、レストランでの食事はうつりやすい。皆マスクを外して話すから病院でうつりやすいのは休憩室。 

 私の職場では休憩室も1人か2人でしか使えないようにし、食べながらの会話は禁止したところクラスターにならなかった。 

周:室内で低濃度のオゾンがかなり役に立つ。私は2020年1月中旬から新型コロナウイルス対策の打つ手となるオゾン研究に取り組んだ。同年2月18日に这个“神器”能绝杀新冠病毒(オゾンパワーで新型コロナウイルス撲滅を)というレポートを中国の大手メディアで発表、新型コロナウイルス対策に、自然界と同じレベルの低濃度オゾンを利用するよう提唱した。この発表は、英語、日本語などに翻訳され瞬く間に多くのメディアに転載され、新型コロナウイルス対策におけるオゾン利用に一役買うこととなった。同発表は同年3月11日のWHOによるパンデミック宣言より3週間早かった。

 低濃度オゾンの有効性について同レポートの発表から半年後の2020年8月26日に、藤田医科大学の村田貴之教授らの研究グループが、低濃度のオゾンガスでも新型コロナウイルスに対して除染効果があることを、世界に先駆けて実験的に明らかにし、私のレポートにとって貴重なエビデンスとなった。

 コンクリートジャングルの大都市では、そもそもオゾン濃度は低い。人が集まる室内ではなおさらそうである。有人空間でのオゾン利用こそ究極の「3密問題」対策だと思う。

■ 患者の仕分け、そして医療支援が重要


清水:高齢者や基礎疾患を持っている人は重症化するが、幸いなことに若者であればインフルエンザ程度の症状で済むようにはなってきている。手洗いの徹底、ソーシャルディスタンスの予防を徹底すれば、あえてワクチンを打たなくてもいいというのが私の意見だ。 

 重症者の受け入れ体制の強化が今の課題で、一定の枠は今とられている。感染症危機管理庁の設置を東京、神奈川、埼玉などが始めている。 

重症患者の急増に対して、ICUの一定の確保は大学病院あるいは病院で取っているが、急にクラスターが出たりすると対応は厳しい。 

 医療従事者の確保については、医療従事者も感染するので、今でもまだ問題として解決していない。医療機関の対応力も病院によっての対応がそれぞれで、病院ごとに任されている。私がいる埼玉県川越市も、大きな大学附属病院があるが、最初は感染症で熱があると病院から診ないと、患者が言われた。 

 地域ごとの医療体制が非常に問題になってきつつあるのは、医療支援が都会に集中し、地域はまだ不十分だからだ。 

 コロナのときに注目された神奈川モデルは、重症患者を入れる高度医療機関と中等症患者を受け入れる重点医療機関を設置して、医療崩壊を防いだ。県が主導で、患者を重症者と中等度を分けたことは一歩進んだモデルだ。 

周:パンデミック初期で武漢への医療支援と緊急病院の建設は功を奏した。2020年1月23日の武漢ロックダウン開始からたった10日という短期間で、重症者向け仮設病院が建設され、1,000床を持つ「火神山病院」の使用が開始された。その3日後、二つ目の重症者向けの「雷神山病院」が稼働した。両病院で病床数は計2,600床に達し、一気に重症患者の治療キャパシティが上がった。また、武漢は体育館などを16カ所の軽症者収容の「方舱病院」へと改装し、2月3日から順次患者を受け入れ、1万3,000床の抗菌抗ウイルスレベルの高い病床を素早く提供し、軽症患者の分離収容を実現させた。私の2020年4月20日のレポート新冠疫情冲击全球化:强大的大都市医疗能力为何如此脆弱?(新型コロナパンデミック:なぜ大都市医療能力はこれほど脆弱に?)ではこれら措置の有効性を取り上げ、「武漢モデル」とした。

■ ファクターXとは?


清水:新型コロナウイルスの致死率はG7の中で日本はダントツで低い。原因はファクターXでまだ突き止められてない。感染拡大の抑制と緊急事態宣言で、経済的には落ち込み、飲食観光業が大打撃を受けた対策だったが、厚生労働省は一定の感染拡大抑制効果があったと発表した。医療体制の課題は重点病棟の不足を含め医療従事者の負担増加が課題として残る。 

 国際比較では、コロナ対策で日本の海外在住ジャーナリストがそれぞれの国について語ったもので、ニュージーランド在住の記者は同国を首相と専門家が毎日会見し早めの対策をとったことで100点満点中、80点をつけた。日本への評価は、「国民への情報が少なく対策らしい対策はない」とした。 

表1 2020-22各年主要諸国新型コロナウイルス感染者数等比較

出所:Our World in Dataデータセットより作成。

 ドイツ在住の日本人記者の同国への評価はほぼ合格点。ワクチン接種の遅れなどはあったが、保障や医療が整っていたことを重視した。同記者の日本への評価は、Go To対策が迷走したとし、かなり低い。 

 観光業が打撃を受けても補助対策などが迷走し国民に我慢を強いたと指摘している。ベルギーは、同地の点数を80点とした。過ちを認め、PCR検査能力や医療資源確保を増強したという。日本は10点以下で具体的で詳細な欧米の政策と比べ、大雑把で生やさしいと評した。 

 イギリス在住の日本人記者は、イギリスの無用なアプリなどが0点で、迅速なワクチン接種を 100点と評した。日本への評価は50点。国民の自制に任せ、他の先進国より感染者が少ないのは幸運だったと結論付けた。 

 アメリカ在住記者は、マスク着用が政治的立場を示すとしたのは最悪だとし、アメリカの対策は20点ぐらいだと評した。日本をかろうじて及第点と評価、対策は観念的とし、感染抑制の面で個人的な衛生観念が貢献したと評価した。 

 G7の中で日本の死者数は少ない。国別のコロナ累計死者数人口100万人当たりのグラフを見ると、日本は一番低く、カナダ、ドイツ、イタリア、フランスと多くなり、イギリスが一番ひどく、アメリカが次に多い。日本はそれに比べたら少ない。東南アジアも低い。 

 麦を食べている国の死亡率が高いと最初に言われたこともあったものの、コメが予防のファクターXではないと判っている。国立感染症研究所の井上栄先生が、「日本人は母音で話し、海外の人は子音で話す。子音で言葉を発する方が、飛沫が表に飛ぶ」とのデータを出した。日本語の発話では、飛沫の発生条件が少なく飛ぶ距離が短いと言っていた。 

 基本的に日本人は口数が少ない、生活習慣でハグや握手をしない。緊急事態宣言時のマスク100%、外出は確かに自粛し、同調しやすい民族であり、集団共同行動をとったとことが、死亡率を低めたファクターの中のいくつかになっている。現状では、1日当たりの平均患者数は先々週、1を切ったが、先週また上がり今2ぐらいに上がってきた。

図2  国別百万人当たりの累積感染者数及び累積死亡者数
(2020年末まで)

出所:Our World in Dataデータセットより作成。

「ジャレド・ダイヤモンド仮説」と「周牧之仮説」


周:2020年の、日本の10万人あたり新型コロナウイルス死亡者数は2.8人であった。これはスペインの同107.1人、アメリカの同103.8人、イギリスの同109.3人、イタリアの同125.2人、フランスの同95.9人、ドイツの同39.6人と比べ、格段に低い数字であった。同じウイズコロナ政策を取ってきた日本が、欧米先進諸国よりはるかに低い死亡者数に抑えられている理由は、ファクターXとして諸説ある。

 諸説の中で最も説得性があるのは「交差免疫」説である。これまで日本人が持っていた免疫が、新型コロナウイルスにある程度働き、感染予防あるいは感染しても症状を抑えられる、というものである。

 なぜ日本人が交差免疫を持つのだろうか。アメリカの生物学者ジャレド・ダイヤモンド氏が著書『銃・病原菌・鉄』の中で、ユーラシア大陸での家畜との密接な暮らしが、人々にさまざまな病原菌に対する免疫力を持たせたとしている。ヨーロッパ人がアメリカ大陸に進出した際、病原菌を持ち込んだことで、これまで家畜との密接な暮らしを持たず免疫の無い原住民に壊滅的な打撃を与えた。ヨーロッパ人が家畜との長い親交から免疫を持つようになった病原菌を「とんでもない贈り物」と捉えた。

 私は「ジャレド・ダイヤモンド仮説」に賛成する。但し同仮説では、同じユーラシア大陸に位置するヨーロッパ諸国と、日本を含む東アジアの国々の新型コロナウイルスにおける死亡者数の大きな相違を説明仕切れない。2020年の、中国、韓国、台湾、香港、ベトナム、タイの10万人あたりの新型コロナウイルス死亡者数はそれぞれ、0.3人、0.9人、0.03人、1.4人、0.04人、0.09人であった。医療リソースの豊かなヨーロッパ諸国の同死亡者数と比べ、極度に低い。中国など東アジアの国・地域の好成績には、ゼロコロナ政策が果たした役割もあったものの、交差免疫の恩恵も大きいと考えられる。

 私は、稲作の水田を囲んだ湿潤な生活様式こそが、交差免疫をもたらす決定的な要因ではないかとの仮説を立てる。この仮説は2020年11月21日の東京経済大学創立120周年記念シンポジウムコロナ危機をバネに大転換で発表した。

 「周牧之仮説」では、湿潤な稲作地帯の里山は、豊かな生態多様性に恵まれている。里山は、自然に対する人間の適度な介入がもたらした新しい生態系であり、原始の自然に比べ生態の多様性はさらに豊かである。生態の多様性は微生物の多様性を意味する。こうした人間と自然と家畜との密接に影響し合う稲作里山は、病原菌の巨大な繁殖地となることが考えられる。同じユーラシア大陸でも、東アジアの湿潤な稲作地帯はウイルスの多様性に一層富んでいる。さまざまなウイルスと共生してきた稲作地帯の人々は強い交差免疫を持つと推理できる。

 実際、季節性のコロナウイルスは東アジアの湿潤地帯で頻繁に流行を繰り返してきた。季節性コロナウイルスは、新型コロナウイルスに対して交差免疫力をもたらすとすると、まさに稲作地帯の里山暮らしからの「とんでもない恩恵」だと私は考える。

 各国はこのパンデミックにどう対応したのか?それぞれの政策の有効性について、私の論文比較研究:ゼロコロナ政策とウイズコロナ政策(Ⅰ)2020 ―感染抑制効果と経済成長の双方から検証―」「比較研究:ゼロコロナ政策とウイズコロナ政策(Ⅱ)2021〜2022 ―感染抑制効果と経済成長の双方から検証―を参照してください。(続)

「ジャレド・ダイヤモンド仮説」と「周牧之仮説」

(※記事後半はこちらから)


プロフィール

清水 昭(しみず あきら)/医療法人瑞穂会理事・統括院長、川越リハビリテーション病院院長

 昭和50年順天堂大学医学部卒業、ニューヨーク州立大学医学部脳外科講師、防衛医科大学校講師、同校医学研究科指導教官、自衛隊中央病院診療幹事・脳神経外科部長、兼ねて国家公務員共済組合連合会三宿病院総代、脳卒中センター長を歴任。公立大学法人福島県立医科大学災害医療支援講座特任教授も兼任。急性期の診療・教育・研究に40年以上関わり続けている。

【講義】志田崇・中井徳太郎:竜宮礁で海を再び豊かに

2024年11月21日、東京経済大学の進一層館前で、左から周牧之教授、志田崇氏、中井徳太郎氏

■ 編集ノート:

 志田崇氏は、青森で建設業を営みながら、海でアマモの保全活動をしている。昨夏、志田氏の案内で青森の海に潜った。大変に豊かな海で、アワビが獲れた。アマモは、ブルーカーボンとしてCO2を吸収し、豊かな海を育む。東京経済大学の周牧之ゼミは2024年11月21日、志田氏をゲストに迎え、中井徳太郎元環境事務次官に加わっていただき、海における脱炭素と環境保全の取り組みについて語り合った。


八甲田山のミネラルでホタテ養殖


志田崇:青森県陸奥湾でアマモという海草の保全をやっている。青森県は本州の最北端にあり、大間のマグロ、夏のねぶた祭、世界遺産となった縄文の三内丸山遺跡や、都市伝説だがキリストの墓もある。温泉が豊かで、海産物、畜産も豊富、コメも日本酒もいい。野菜は人参、牛蒡が沢山獲れる。

 私は青森市内で建築や土木工事、砕石を行う建設業を営みながら、サステナブル事業室で豊かな海作りや、アマモの保全活動をしている。

 青森県は三方に四つの海域を持つ。まず日本海だ。潮の流れが早い津軽海峡、太平洋、そして陸奥湾がある。海岸線の距離は約796kmで、陸奥湾は、津軽半島と下北半島に囲まれているため閉鎖的で、穏やかな海域となっている。2016年にはホタテの養殖で日本一になった。八甲田山から川を伝って森のミネラルがたっぷり陸奥湾に注がれるためホタテ養殖が栄え、漁業の中心となった。ミネラルで植物プランクトンがよく育ち、ホタテの餌になっているためだ。

2024年11月21日、東京経済大学でゲスト講義をする志田崇氏

ブルーカーボンを担う海藻類


志田:アマモ保全のきっかけは、26歳で青森に帰り家業の建設業を継いで漁港の整備に携わり、漁業者からアマモの重要性を聞き知ったことだ。

 子供のころ海水浴に行くと足に絡んで邪魔な奴だと思っていたアマモが、とても重要だと気づいた。陸奥湾は波が穏やかで、栄養が堆積しアマモが沢山生い茂っている。

 アマモは、昆布やワカメとは違う海草(うみくさ)で、種子植物だ。根があり、茎があり葉がある。生殖花を年に1回出し、雄花と雌蕊が花になり、種をつけて種子を作る。茎の部分を噛むと甘いからアマモと言われ、白い花を咲かせている。

 種は米粒かゴマのような形をしている。昔はアマモの種をネイティブアメリカンが食べていたとの伝説もある。アマモの種類は四つ。陸奥湾に多く分布しているアマモはコアマモで、幅がマッチ棒ぐらいの細い草だ。スゲアマモは、草むらや小砂利によく生息している。アマモは茎が横に伸びるのに対してスゲアマモは縦方向に伸びて繁殖していくので、斑状(むらじょう)に生育する。タチアマモは高さ7mを超えるような世界で最長級のものが陸奥湾に生えている。

 これらアマモがまとまって生えているのがアマモ場だ。光合成をするので、二酸化炭素を吸って酸素を供給する役割を持つ。最近ようやく耳にするようになったブルーカーボンの役割を果たしている。ブルーカーボンは、海洋の生物によって大気中の二酸化炭素が取り組まれ、海域に貯蔵された炭素のことを言う。

 大気中の二酸化炭素が海に溶け込み、それをアマモが吸い海中に溜め込むことをブルーカーボンという。アマモに限らず昆布、わかめ、マングローブ等、海草藻類全てがブルーカーボンの対象となる。森など陸上でCO2を吸収するのがグリーンカーボン、海の海草藻類が吸収するのがブルーカーボンと言われる。

2024年夏のねぶた祭

ブルーカーボンが最も二酸化炭素を吸収


志田:二酸化炭素が1年間で95億トン排出されるうち、陸上のグリーンカーボンが約20億トン、海洋のブルーカーボンが約28億トン吸収する。海洋の方が、より多くの二酸化炭素を吸収している。中でも浅い海域の海底で貯蔵されるブルーカーボンは海洋全体の約80%で、海藻がよく生える浅瀬の海が、CO2を沢山吸収してくれている。

 海藻類は光合成をして生育する際に、葉や根に二酸化炭素を溜め込む。海藻や昆布はヌルヌルしている。それはポリフェノールで、分解されにくい物質になりCO2を溜め込む。

 吸収係数の研究によると、アマモは1年間1ヘクタールで4.9トンのCO2を吸収する。ブルーカーボンは2050年のカーボンニュートラルに貢献できると今期待されている。水質浄化の効果もあり、生活排水の栄養があるアンモニア、リン酸、窒素などを栄養分として吸収し、赤潮を防いでくれる。小魚たちの住処にもなっている。

ゲスト講義にて中井徳太郎氏、周牧之教授、志田崇氏(左から)

■ アマモ場は漁業生産基地を支援


志田:私がアマモの活動を始めたのは生物多様性の漁業支援からだ。漁港を整備し漁港が賑わうため何が出来るか考えた時に、アマモを増やし、イシダイ、クロダイなど好きな魚を増やして食べられるようにし、漁港を盛り上げたいというのがアマモ活動の始まりだった。

 アマモ場にはマコガレイ、カワハギ、ハゼ類、アイナメ、キヌバリ、クロダイ、マダイ、カラスミにして食べるとうまいボラ、コウイカ、シャコ、石ガニ、ウスメバルの稚魚、クロソイの幼魚たちも沢山いる。

 アマモは、小さな魚が大きな魚に食べられないよう隠れる場所になり、また、アマモ自体が波を揺らせてとても居心地の良い場所となり、海のゆりかごと呼ばれている。餌を食べる場所にもなっていて、スゲアマモにナマコは張り付くように生息している。卵を産む場でもあり、アオリイカはアマモに卵を産む。ホタテが発生する場所として、ホタテの稚貝が、アマモの葉について発生している。

 アマモ場が多いほど、カレイやアイナメの漁獲量が多いという研究のデータもある。アマモ場は、漁業生産の基地支援になっている。漁業者にとって、そして我々魚を食べる人の生活にとっても、大変重要な場所である。

陸奥湾沿いの海鮮食堂

■ 陸奥湾のアマモ場が急減


志田:陸奥湾のアマモ場は環境省の1990年の調査では、海域が日本最大規模で、6,862ヘクタールあった。但し1978年の調査に比べて369ヘクタール消滅しており、消滅面積も日本一だった。

 2020年の環境省の調査では、陸奥湾は2,068ヘクタール減ってしまった。調査方法が違うので何とも言えないが確かに減少している。1990年の調査より4,794ヘクタール減ってしまったことになる。アマモの吸収係数は、前述のように年間、1ヘクタール毎に4.9トン吸収してくれる。2,068ヘクタールの面積でCO2の吸収量を換算すると、年間約1万133トン、CO2を吸収してくれていることになる。

 2023年、1世帯あたりCO2が2.52トン発生するとのデータで換算すれば、大体4,021世帯分のCO2を陸奥湾のアマモが吸収してくれていることになる。但し1990年にアマモ場が6,862ヘクタールあった時は、1万3342世帯分ものCO2を吸収してくれていた。

釜臥山展望台からの陸奥湾の眺め

■ アマモを保全するコンクリート構造物「竜宮礁」を開発


志田:アマモが減った原因は、東京と同様に埋立地を作り砂地がなくなったことにある。港湾、漁港に海岸工事をする建設業者としては耳が痛いが、これで潮流や水質が変化し砂地がなくなり、濁りが出来て光合成ができずに、消滅した。

 水温が高くなったのも原因だ。水温が30度を超えるとアマモは枯れて死んでしまう。

 また陸奥湾で特徴的なのが、ホタテの桁引き操業でアマモを刈り取ってしまうことだ。桁引き網は底曳網で、爪を常に引っ掛けてナマコやホタテを浮かせ、後から追ってくるかごに入れる漁法だ。ナマコやホタテを取るのと同時にアマモも削ってしまう。ナマコとアマモが混合して取れるため、漁師さんたちも仕分けるのは大変だ。

 とはいえ私が青森に帰って2、3年後の平成19年、漁獲量が大きく増え漁獲金額が30億円以上になった。漁師さんたちはお金を稼ぎたい、獲りたい。当時の青森県の漁獲金額のデータで、スルメイカが漁獲金額の28.1%を占めて第1位。次いで帆立貝、3番手はナマコの5.9%で、マグロに勝っている。

 問題解決のため、桁引き操業の邪魔にならないようスゲアマモの地下茎をほぐし、ナマコの育成場にもなるような堅牢な構造物の開発を2007年からスタートした。

 出来上がったのが穴開きのドーム型のコンクリート構造物だ。特許も取り、「竜宮礁」と名付けて商標登録した。最初に潜って調査したときに魚やナマコが沢山来て、まるで竜宮城のようだったから付けた名だ。

ゲスト講義で竜宮礁の仕組みを紹介する志田崇氏

■ モニタリングで効果を実証し事業化を推進


志田:竜宮礁は直径1.5m、高さ30センチで、流体の抵抗を受けにくいドーム型にした。流れを可視化し、陸奥湾内に150基ぐらい設置し、実証実験を2年かけて行った。ナマコは夏に寝るので、その仮眠場となり、冬は動きが活発になるので表面に付いた。1カ所からナマコが最大23個体出て、小さいナマコも見られた。スゲアマモを穴の中に移植し桁引きをしたところ、底引網の通った爪跡の残る中でスゲアマモがきちんと守られていた。様々なメバル、アイナメなどが見られている。

 この成果が県に認められ、青森県の水産環境整備事業に2013年度から取り入れられ、これまで4万機以上、陸奥湾に設置されている。1機当たり5万5000円で販売し、22億円以上になった。設置しただけでなく、実際に効果が出て、仕事として続けていけることが重要だ。私も潜り、ナマコ、アワビが生息し住み替えしているのを確認し、きちんとモニタリングして効果を確かめている。

 さらに面白いことにヤリイカが、竜宮礁の天井裏に産卵しており、多機能な効果を生むことが確認できた。その他にも、アマモの保全だけでなく、表面に昆布、アワビ、サザエの餌になるフシスジモクがついて、アマモ場の効果も確認した。

 陸奥湾のアマモ場の動向は、1990年から2020年まで約2,000ヘクタールで、2010年が最少だった。竜宮礁設置を2013年にスタートしてからアマモ場が増えてきたのは、漁師さんたちが竜宮礁の場所を禁漁区にするなど工夫しアマモ場を守ることに協力してくれるおかげでもある。

 竜宮礁は、閉鎖的で波が穏やかという波浪条件が優しい陸奥湾用なので、直径1.5m高さ30センチだった。実際の効果を踏まえ、日本海、津軽海峡、太平洋に持っていくために大型化をした。

 直径4.5m高さ1.1mで15トンの重いものを、青森県の津軽海峡と日本海に設置し、実証したところ、見る影もなかった昆布が付着し、水ダコがいて、ヤリイカが産卵し、シマダイが1機あたり30匹いた。日本海の方は、マダイや、10センチ程のサビハゼが3,000匹ぐらい上にいて、それを捕食しようとヒラメ、マダイ、ウマヅラハギがいる効果を実証した。

獲れたての陸奥湾アワビ

■ 風力発電で揚水し、アマモを育成


志田:青森の日本海の南側ではいま洋上風力の公募が行われている。洋上風車が立つと恐らく禁漁区になり、安全の面から漁ができなくなる。それなら、魚礁をおき、藻場を増やし、生物を増やし、ブルーカーボンの効果が出るようにしたい。事業者が決まったらアプローチしていきたい。

 2008年から魚礁をつくるだけでなく、実際にアマモ移植を実施してきた。

 ドームに入れるアマモの種子を生産し、漁師さんと一緒に種ができるものを取り陸上の水槽で保管、選別し、砂を敷いた陸上水槽で種を植え、種苗を作り、青森駅前干潟にも移植した。

 移植1年後に、アマモがすくすくと成長して伸び、3年後には2メーター程のアマモ棚を作り、5年後には2.5m〜4mぐらいの広さのアマモ棚を形成し、その脇にカレイが生息するようになった。このような取り組みをしていたところ、5年前の2019年、日本テレビ「鉄腕DASH」のロケ地になり話題を呼んだ。

 ブルーカーボン効果がある種苗を生産するのに、化石燃料で発電された電気を使うことに疑問を感じていたため、再生可能エネルギーの風力エネルギーである垂直軸の風車を利用し、漁港内の海水をくみ上げ、陸上の水槽に入れ、スゲアマモの種を育てて生産した。出来た種苗は漁港内の海底に移植した。移植後の9カ月後、生育を確認し、3年後にはスゲアマモの群落を作ることができた。出来た種苗は竜宮礁の中にも移植している。

ゲスト講義で洋上風力との連携構想を紹介する志田崇氏

■ 民間のブルーカーボンクレジットを活用


志田:人が介入し、アマモ場を作り、海藻養殖をし、吸収したCO2を定量化して売買することが可能になった。ジャパンブルーエコノミー技術研究組合JBE は、独自の Jブルークレジットを創設した。

 国が主体となったJクレジット制度は2013年に開設されたが、取引は、省エネ設備の導入、再生可能エネルギーの導入、適切な森林管理が主体で、海草藻場の造成保全が入っていない。

 これに対してJブルークレジットは国主体ではなく、ボランタリークレジットつまり民間のクレジット制度だ。創設した者、使う者にとって互いに良い取引となっている。

 NPO市民団体等が、アマモ場の造成保全をし、どの大きさの藻場でどの程度CO2を減らし吸収しているかの算定を、 JBEにプロジェクトとして申請する。一方、企業団体等クレジット購入者、とくに大企業はCO2を削減しろと社会的責任を問われているものの、工夫してもなかなか全部ゼロにはできない。そうした時、プロジェクトで創出したクレジットを買うことが、CO2削減になる仕組みだ。

 市民団体が活動するためにはボランティアだと長続きしない。ある程度買ってもらいお金に換えて活動することで、持続的なアマモ場、海藻の造成ができる。売る方も買う方もCO2の削減を担うことになり、互いにウィンウィンの制度になっている。

ゲスト講義でブルーカーボンについて解説する志田崇氏

■ 暮らしの真ん中に海を


志田:青森駅前干潟が拡大し、2021年4月に青森駅前ビーチという海浜公園が開園した。そこでもJブルークレジットを利用し、アマモ場を作った。規模は小さく、砂浜3,500平方メートル、干潟が1,500平方メートル、海中2,000平方メートルで、端から端まで100m程の小さなビーチだが、青森駅前ビーチは青森駅から走って30秒の近さと、青森ウォーターフロントエリアという観光施設、クルーズ客船の停泊場の一角であることが魅力だ。

 昔の青森港は、明治末期には家があり、子供たちが海で戯れる場所だった。大正末期も漁業者が魚を捕ってくると100人200人の人だかりができ、漁獲されたものを見ている風景があり、まさに海に寄り添った暮らしをしていた。それが、昭和になり北海道の函館と青森を結ぶ青函連絡船、人と物を運ぶ重要な連絡船ができたことで、岸壁が増え、砂地を壊し、人よりは船にとって良い場所になった。1940年頃には青函連絡船で貨車をそのまま船に乗せて行く形になった。当時は岸壁が三つあった。

 1988年に青函トンネルができ青函連絡船は廃止された。岸壁があり柵があり、ただ眺めるだけの海で、利用価値が全くない海になった。そこで県が2014年から2015年にかけて、青森港を元のように人が行き交い潤いのある空間にしようと、第1岸壁を干潟に造成した。

 さらに、魚が住む砂浜を作ろうということになり、海洋専門家の木村尚さんの助言を受け、青森駅前ビーチを作った。キャッチコピーは、「暮らしの真ん中に海を」となった。

 2021年7月にオープンし、私たちが県からの要請で管理している。キャッチフレーズは「人と水生生物が共存する居心地の良い空間作り」にした。陸奥湾の中でも風向きによってゴミが溜まり、海草藻類が流れ着く場なので、日常的に海岸を清掃している。保全活動してきた中でアマモが増え、青森駅前ビーチにはアマモに寄り添うカレイの幼魚、ハゼ類、ボラなど魚も増えてきた。

 アマモの移植活動には大人だけでなく子供たちも巻き込み、アマモの種を上から撒いてもらっている。針のない注射器のシリンジでアマモの種を海底に打ち込むやり方だ。子供たちには網を引かせ、生物調査をやり、アマモの大切さを座学でも行っている。

ゲスト講義でアマモ場を紹介する志田崇氏

■ 地域の課題をクリアしながら持続展開


志田:2021年7月から活動を続け2023年6月、ベイブリッジの上から撮った写真を見るとアマモが沢山生息しているのを確認できた。200平方メートル以上ある同地の面積でJブルークレジット認証を申請することにし、ドローンで空撮し、正確な面積を把握し、どのくらいの密度でアマモが生えているか調べた。Jブルークレジット申請の手引きにあった計算式に、調査から得られた数字を当て、1年間で0.3トンのCO2を吸収していることがわかった。

 JBSに申請したところ、確実性の評価で、いろいろ差し引かれ、青森駅前ビーチでは1年間で0.2トンのCO2を吸収していると証明された。

 津軽海峡の青森と函館を結ぶ青函カーフェリーが購入してくれた。クレジットの1トンあたりの取引金額は約7万円で結構高い。私達は0.2トンなので1万4000円換算になるところを、0.1トンを5万円、すなわちトン当たり50万円で購入してくれた。我々の行動活動を応援してくれた。

 Jブルークレジットで実感したのが、同制度ができて、購入者から資金を得ると、持続可能な活動が展開できることだ。二酸化炭素の取引以外に、生物多様性の創出、水産振興、食料供給、水質浄化につながった。   

 ビーチには子供から大人まで観光客もいろいろ訪れる。人と人のコミュニティの場として、新たな価値が取引価格にも反映されている。創出者も購入者もこの制度によってカーボンニュートラルに貢献し、気候変動対策をし、豊かな海作りに貢献できる。地域の課題をクリアしながらお金を回していける。

議論する中井徳太郎氏、周牧之教授、志田崇氏(左から)

■ 自然共生サイトに登録し生物多様性向上を


志田:青森駅前ビーチは、生物多様性のポイントの自然共生サイトに登録を申請している。自然共生サイトは、2021年G7サミットで日本が国内外に向けて約束した2030年までに国土の30%以上を自然環境エリアとして保存する「30by30」という取り組みがある。海も陸上もどちらも30%以上、自然環境エリアとして保全する。

 国が認定した自然共生サイトは、OECMすなわち「民間の取り組み等によって生物多様性の保全が図られる」と国が認定する区域だ。認定区域は、国立公園などを除いた地域で、保護地域との重複を除き、「OECM」として国際データベースに登録される。

 国立公園などの保護区ではない地域のうち、生物多様性を効率的かつ長期保全を集中して行う地域を、国際的に登録する。国際的なデータベースに載せる。例えば青森駅前ビーチが自然共生サイトそしてOECMになると、環境保全エリアとして世界的に発信できる。Jブルークレジットとは違い、まだクレジットにはなっていないが企業や団体が、生物多様性の取り組みを明示化することで、企業の投資家や一般消費者、利用者にPRでき、事業の価値を高めるメリットがある。

 青森駅前ビーチも価値を高めていきたい。自然共生サイトのポイントは、生物多様性の向上であるため青森駅前ビーチでリストを作り実践している。

 ブルーカーボン、自然共生サイトへの登録を通じて、地域の自然環境を保全することで様々な価値を上げていきたい。と同時に、継続的な活動をするために資金を回していきたい。地域の環境問題対策、地域経済、豊かな自然、幸せな未来に向けて、歯車が合えばいいと思う。

青森駅前ビーチ

■ 海を豊かにする再生事業


周牧之:アマモを選んだ理由を伺いたい。砂地や温度が関係してくるということだが、成長のスピードは? 

志田:多年草なので成長は早い。定着してくると地下茎を通って繁殖していく。生育地は砂地、砂利場が多く、昔は青森の海が日本一のアマモ場だったポテンシャルもあって、アマモを選んだ。アマモが生物多様性に貢献していることで、造成を進めた。 

周:アマモと昆布やワカメとの棲み分けは?

志田:昆布やワカメは硬い所に吸着し生育していくので砂地ではない。竜宮礁は表面が硬いコンクリートなので、胞子が吸着し、昆布が増えているところもある。日本製鉄でもやっていると思うが、着底気質を持つものを入れ、昆布やワカメを増やすことも可能だ。 

周:竜宮礁を作ったことで海が豊かになった。その点、漁業者としてのメリットは数値化されているのか?例えばナマコがものすごく増えたとか、

志田:何とも言えない。藻場があると密漁があって獲られたりすることもある。青森のナマコは輸出できていない。

周:中国人はナマコが大好きだ。高く売れる。

志田:いまは原子力排水の問題があり、輸出は出来ない。

中井徳太郎:ナマコを獲る桁引き網はいまもやっているのか?

志田:やっているところもある。潜って獲ることもある。竜宮礁を作ったところは桁引きの邪魔にならない。実際、漁師さんたちは、竜宮礁を保護区にするため漁はしない。海藻類もついているので発生場として保護しようということだ。

周:ナマコは養殖しているのか?

志田:していない。種苗は生産している。完全養殖は中国でやっていると思うが日本はまだやっていない。

中井:青森の人はナマコをよく食べるか?

志田:買って食べることはしない。貰って食べる。青森ではりんご、ホタテ、ナマコは貰って食べる。買うことはしない。

周:ナマコはアマモの落ちた枯葉を食べる?

志田:相性がいい。ムラ状に生えるので、ナマコは木の下で寄り添っているような形で枯葉を食べている。 

周:ナマコも美味しく食べられる。レシピ次第かもしれない(笑)。アマモ場を活用し、今の手法で、養殖場として使えるのか?先日実際に潜ってみて、陸奥湾が実に豊かな海だと実感した。今後、漁業よりは養殖のウエイトが大きくなるのでは?海の再生の話と、養殖のことを絡めていくのも一つの筋ではないか?

志田:海の使い方、漁業経営のあり方が違う。海岸線は自由に使えない。

周:藻場を入れる場所はどのように決めているのか? 

志田:業者さんと、どこに入れるかをヒアリングし、ここに設置してほしいという希望のあった場所に入れる。

中井:そこは本来、漁場だったのか?漁業者が魚を獲っていた場所か?

志田:そうだ。漁場だったのが、桁引きをし過ぎて砂地になってしまったところなどがある。

中井:それを漁場に戻す必要がある。 

志田:竜宮礁を入れた結果を漁師さんに見てもらい、また入れようという話になる。それが漁獲量と、漁獲金額にどれだけ反映されているのかわからない部分もあるが、評判はいい。

ゲスト講義で議論する中井徳太郎氏

■ 竜宮礁の更なる展開と課題


周:地方自治体の意識の高さも影響しそうだ。他の地域でやっているのか?

中井:酒田でやった?

志田:酒田で竜宮礁を設置した。アカモクの母藻を表面に付けた。アマモも移植したが根付かなかた。

中井:アカモクは根付いて広がったのか?

志田:全部で6基入れた中で、なぜか一つだけに付いた。徐々に広がっている。他の竜宮礁のところにも広がってくる。他の単体の方にも流れていっているかもしれない。

中井:陸奥湾以外でやっているのは?

志田:酒田と佐渡でやった。佐渡もとてもいい結果が出ている。ナマコが豊富で、ナマコのために設置してくれと言われて設置した。マメタワラ、ホンダワラが表面に付いた。

中井:全国展開のポテンシャルがある。海の状態に合わせて、バリエーションのある展開を考えていける。

周:アマモは海を再生する力を持っている。竜宮礁は陸奥湾だけでなく、全国展開、世界展開もできそうだ。特許は取ったのか?

志田:あと5年くらいで切れる。

周:私は若い時、政府開発援助(ODA)に携わった。20数年前に東南アジアで調査した時に、養殖が海岸に深刻なダメージを与えたのを目にした。

志田:養殖で海が汚れる。

周:竜宮礁で、海が修復できるのではないか。

志田:ナマコはホタテの下にいて、糞を食べてくれると言われている。 

周:竜宮礁を使い海の環境がかなりの面積で改善されるかもしれない。

学生:竜宮礁は太平洋に置いているか?

志田:置いてない。太平洋は岩盤が多いからだ。震災前は昆布など海草も生い茂っていたが、震災でそれらがなくなってしまった。竜宮礁を設置してみないかという話もあったが、太平洋は岩盤が多く起伏があるため、置いても安定しないことから設置してない。砂地に置いて、海藻の付着や魚のすみかを作っている。

学生:脱炭素化を目指す上で、洋上の風力風車をしている海に竜宮礁を設置する際の課題はなにか?

志田:洋上風車をしているところは風がいい。風が強いので波も立ち、海底の砂も移動してしまう。置いた竜宮礁が、砂の移動で埋没することもあるため、身長を高くするといった課題がある。

ゲスト講義で学ぶ周牧之ゼミ学生

■ 竜宮礁事業を支える仕組み


周:竜宮礁事業は地方自治体が資金を出して実施している?

志田:そうだ。公共事業で、水産庁と青森県の資金が入っている。 

周:アマモは1年間1ヘクタールで4.9トンものCO2を吸収する。それが大きな宣伝効果を生むはずだ。海上風力とのセットでやるのはいいアイディアだ。標準化すればよいのでは? 

志田:海草が生えるところなので10〜15mぐらいの水深だ。水深が浅い所の風車とセットにするのがいい。 

中井:アマモは多年草だから、一度認定された0.2トンのクレジットは、毎年続くのか? 

志田:毎年続く。毎年1年間で吸収したCO2の量をクレジット化する。

中井:1回申請して認定されたら、毎年買ってもらえるのか?

志田:毎年買ってもらえるかどうかは、わからない。津軽海峡フェリーが来年また買ってくれたとしても金額が低くなるかも知れない。

中井:ブルークレジットを取ったとき申請事業主体はどこか?

志田:私が所属しているNPO団体として私の会社も入って出した。

中井:竜宮礁として展開するのと、地道にアマモ場を作って再生していくのと、両方やっている? 

志田:そうだ。竜宮礁の設置にお金がかかるので民間団体だけでは難しい。

中井:4.5mの外海洋の竜宮礁は、志田内海が製品化しているのか?

志田:製品化している。 

中井:日本海側と津軽海峡側で出したのは?

志田:自前でやったのも洋上風車の事業者のスポンサーがついたのもある。

中井:竜宮礁は、真ん中のところにアマモを付ければそれを保全できるが、アマモだけではない? 

志田:昆布は自然に付いたが、昆布の補草を他から持ってきて付けて促すこともした。竜宮礁の中はアマモで、表面に他の生物がつく。

中井:まさに森里川海的だ。陸奥湾は鉄分の問題などはないのか。 

志田:ミネラルが流れてきていると思う。陸奥湾の外海はわからない。鉄分が不足しているかもしれない。

中井:鉄分が原因で、藻場が枯れているところもある。そこは竜宮礁と合わせてやればいい。

 JブルークレジットはCO2を金に変えてくれる点で非常にいいことだ。志田さんが元々、生物多様性を戻そう、自然を戻そうという問題意識を持っている。それはいま世の中の潮流になっている。脱炭素のカーボンニュートラルが大きなテーマであると同時に、もう一つ、ネイチャーポジティブで自然を戻そうということが世界的潮流になっている。

 ネイチャーポジティブ的なことで何ができるか考えたときに、海の再生にとって藻場の話はド真ん中だ。CO2をカウントしたクレジットが高く売れるのは二つの意味合いがある。単に削減する価値のクレジットは、買う側の企業からしても、自分が削減するのが本来だが、削減しきれないから他の人の分を買うという話で捉えられる。

 一方で吸収は、自然を戻すという付加価値になっている。CO2を吸収してくれるのでお金になるというわかりやすい世界がある。海の再生に企業が協力しているという企業イメージを出すことが重要だ。

 森林再生も同様で、森林吸収クレジットも4、5万円で高額だ。森林吸収への取り組みを説明したい大企業のニーズがある。

カーボンニュートラルは2050年までにゼロという目標が立っている。サーキュラーエコノミーとネイチャーポジティブとの三つを全部統合する青森のアマモは、大事なプロジェクトだ。

議論する周牧之教授、中井徳太郎氏、志田崇氏(左から)

プロフィール

志田崇(しだ たかし)/志田内海株式会社代表取締役会長

 1980年生まれ。青森県青森市出身。建設業に携わる一方、海の環境保全活動に尽力している。コンクリート製の海草アマモ増殖礁「竜宮礁」を開発して特許を取得。弘前大学大学院理工学研究科の社会人大学院で学んだ。
 2022年第10回 環境省グッドライフアワード環境大臣賞受賞。

中井 徳太郎(なかい とくたろう)/日本製鉄顧問、前環境事務次官

 1962年生まれ。大蔵省(当時)入省後、主計局主査などを経て、富山県庁へ出向中に日本海学の確立・普及に携わる。財務省広報室長、東京大学医科学研究所教授、金融庁監督局協同組織金融室長、財務省理財局計画官、財務省主計局主計官(農林水産省担当)、環境省総合環境政策局総務課長、環境省大臣官房会計課長、環境省大臣官房環境政策官兼秘書課長、環境省大臣官房審議官、環境省廃棄物・リサイクル対策部長、総合環境政策統括官、環境事務次官を経て、2022年より日本製鉄顧問。

【シンポジウム】索継栓・岩本敏男・石見浩一・小手川大助・周牧之:GXが拓くイノベーションインパクト

■ 編集ノート:東京経済大学は11月30日、国際シンポジウム「グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来」を開催した。後援:北京市人民政府参事室、China REITs Forum。メディア支援:中国インターネットニュースセンター。セッション2「GXが拓くイノベーションインパクト」では、周牧之東京経済大学教授、索継栓北京市人民政府参事・中国科学院ホールディングス元会長、岩本敏男NTTデータグループシニアアドバイザー・元社長、石見浩一エレコム社長・トランス・コスモス元共同社長、小手川大助大分県立芸術文化短期大学理事長兼学長・IMF元日本代表理事が両国企業の取り組みと成果を報告し、GX分野での日中協力について展望した。

国際シンポジウム「グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来」セッション2会場

■ ムーアの法則駆動時代を駆け抜ける


 司会の周牧之東京経済大学教授は、いまの激動の時代を「ムーアの法則駆動時代」と定義した。インテルの創業者でもあったゴードン・ムーアが1965年、同法則を発表し、半導体集積回路の集積率が18カ月ごとに2倍になり、価格が半減するとした。その後60年間、半導体はほぼ同法則通りに進化し、人類社会を大きく変える数々の新しい製品やサービスを誕生させた。この時代、ハイテク技術を基盤にしたイノベーションが社会発展の原動力となり、産業発展を牽引した。今日議論するテーマGX(グリーントランスフォーメーション)も同様に、テクノロジーの影響を受けて進行していく。これからの社会は、イノベーションが一層重要な役割を果たし、環境負荷の低減やエネルギー効率の向上など、持続可能な社会の実現に向けた技術的な解決策が求められると述べた。

周牧之 東京経済大学教授

 ビデオ動画で参加した索継栓北京市人民政府参事・中国科学院ホールディングス元会長は、中国政府は炭素排出量のピークアウトと炭素ニュートラルの実現を戦略的に進めていると説明した。中国科学院は低炭素技術の開発など、多くの施策を講じてきた。特に注力しているのが、ゼロからイノベーションを生み出す技術の開発だ。二酸化炭素削減に向けて、既存技術の改善だけでなく、新たな技術を創造し、飛躍的に進歩することが求められる。

 中国科学院は、研究機関と企業との連携強化も非常に重視している。基礎技術の開発から重要技術のブレークスルー、さらにはその技術の実証まで、総合的な開発体制を築いてきた。これにより、化石エネルギーの転換、新エネルギー技術、再生可能エネルギー技術の進展など、さまざまな分野で顕著な成果を上げてきた。

索継栓 北京市人民政府参事、中国科学院ホールディングスシニアディレクター、元会長

 索氏は、数々の中国科学院の研究成果を紹介した。例えば、石炭を原料とした合成油という技術開発により、石炭資源の効率的な利用が可能となり、環境への負荷を低減できた。また、リチウム電池をはじめとするエネルギー貯蔵技術の研究に長年取り組んだ結果、現在のリチウム電池産業の発展に大きな影響を与えた。特に、固体リチウム電池の開発は、EV(電気自動車)や電動船舶、ドローン等さまざまな分野での利用が期待される。さらに、ナノ粒子電池の研究も、将来的にエネルギー貯蔵の分野で広く応用されることが予想されている。

 岩本敏男NTTデータグループシニアアドバイザー・元社長は、NTTデータが1988年に独立し、現在では売上高約4.4兆円、従業員数約20万人の規模に成長し、50カ国以上に拠点を持つと述べた。NTTデータの取り組むイノベーションとして、JAXAの衛星データを活用した全世界デジタル3D地図の技術と、バチカン図書館のデジタルアーカイブプロジェクトを紹介した。これらの技術はGX、自然災害復興、インフラ整備、人類の遺産の保全と活用などに役立っている。

岩本敏男 NTTデータグループシニアアドバイザー、元社長

 石見浩一エレコム社長は、同社が創業から38年を迎え、現在ではPCやモバイル周辺機器だけでなく、調理家電やペット家電など、多岐にわたる製品を開発していると詳述。製品の93%が中国で生産されているのに対し、マーケットとしての海外シェアはまだ3%であり、この3年間で20%を達成したいと力説した。そのためには何よりも「人」が大事で良い人材を育成し、企業のビジョンを実現するための取り組みを続けたいと述べた。

 エレコムが取り組むGX活動については、森林再生プロジェクトや太陽光発電の活用、石油由来プラスチックの削減などを説明。また、新ブランド「think ecology」を立ち上げ、環境に優しい素材や再生可能な素材を使用した製品を提供していると紹介した。

パネリストの岩本敏男氏、石見浩一氏

■ 環境対策と産業競争力の両立が鍵


 小手川大助大分県立芸術文化短期大学理事長兼学長・IMF元日本代表理事は環境問題に関連するドイツの政権破綻について解説した。ドイツのリントナー財務大臣が、環境予算とウクライナ支援の継続に強く反対したため、ショルツ首相は11月6日に同財務大臣を解任せざるを得なくなった。その結果、ドイツ政府は機能しなくなり総選挙が行われることになった。しかし現在、勢いがある極右・極左政党は共通してウクライナへの支援に強く反対し、行き過ぎた環境政策を即時に中止すべきだと訴えている。ドイツ主要企業の多くは環境政策が原因で他国へ移転してしまっている。今後ドイツは、環境政策とウクライナ支援よりも、経済の安定を最優先する方向へ進んでいく可能性が高い。その影響が欧州全体、ひいては世界にどのように波及するのかに注視することが必要だ、と強調した。

 これに対して、周氏は、環境対策と国内産業の競争力を両立できるかどうかが、現在、ヨーロッパやアメリカで大きな課題となっているとした。中国では、EVや再生可能エネルギーなど、環境関連産業が急速に発展し、国際競争力を高めることに成功している。これにより、環境対策と産業の競争力が両立できる形になったと述べた。

小手川大助 大分県立芸術文化短期大学理事長兼学長、IMF元日本代表理事

起業家精神が時代を牽引


 続いて周氏は、資本市場における企業評価の変遷を解説した。1989年の世界時価総額ランキングトップ10では銀行、通信、電力などを中心に日本企業が多く占めていたが、2024年現在は、マイクロソフト、アップル、エヌビディア、テスラ、アルファベット、メタ、アマゾンなどテック企業が主導する形になっている。これらテック企業7社すべてがスタートアップ企業だった。その時価総額が現在12兆ドルを超え、「マグニフィセント7」と呼ばれ、圧倒的な存在感を持つ。ムーアの法則に基づく成功は、創造力に支えられたスタートアップ企業が、リスクを取りながら成長していくパターンだ。対照的に、大企業はリスクを取ることが苦手で、新技術の開発や新規事業の立ち上げに消極的になりがちであると指摘する。

 周氏は、アメリカと中国の時価総額トップ100企業の中では1980年代以降に創業した企業が多く、創業者がリーダーシップを発揮して産業の変革を牽引していると言及した。技術力と企業家精神が企業の発展を左右し、特にGX時代においては企業家精神が成長と変革の鍵となると述べた。

 索氏は1984年に設立されたレノボを挙げ、中国科学院と密接に連携し成長した事例を紹介した。レノボは英語のオペレーティングシステムを中国語に変換するイノベーションや、IBMのPC部門の買収、Googleからのモトローラ事業の取得などを通じて世界的な企業に成長した。この成功は、企業家精神とイノベーションへの挑戦を象徴し、中国の産業転換を促進する重要なステップとなった。

 石見氏は過去に200社以上の企業の面倒を見た経験から、成功する経営は「実行」に他ならないと強調した。実行するために必要なのは、計画段階で目標を定めることであり、目標達成に向けどう行動するかを考え続けることだとした。

 具体的には、企業のビジョンの明確化が最重要で、10年後、20年後にどんな企業になりたいかを考えることが、企業の方向性を決定づける。ビジョンがないと、企業文化や戦略も定まらない。マーケットやテクノロジーの変化を意識し、変化に対応できる戦略や戦術を立てることが、企業化精神の一部だと述べた。

 実行力にはリーダーシップが求められる場面も多く、決断が速かったことが成功の鍵となった。特に、ベンチャー企業はスピードが重要で、新製品やサービスを開発し、市場の動向に迅速に対応し、変化し続ける力が不可欠だとし、失敗後の回復力を強くし、失敗を恐れず、復活するために必要なエネルギーと強い意志を持ち続けることだと力説した。

司会の周牧之氏とコメンテーターの小手川大助氏

IOWNで究極のデータセンターGXを


 岩本氏はAIの進化により、データセンターの電力消費はますます増加するとした。AIの学習には大量の電力が必要で、特にエヌビディアのようなGPUを使う処理は非常に高い消費電力を伴う。これに対して、NTTグループは、AI向けのデータセンターの効率化を進める技術を導入している。エネルギー効率を向上させる「IOWN(アイオウン)」という計画がある。これは、光通信技術を使い、従来の電気を使った通信インフラを光に置き換える。光通信は非常に低消費電力であり、遅延が少なく、大容量のデータを効率的に扱うことができるため、今後の通信インフラにおいて大きな役割を果たす。この技術を使うことで、さらにカーボンニュートラルに向けた効率化が進む。これが、GXの将来に向けて重要な役割を果たすと強調した。

 これについて周氏は、今、世界はAIブームで沸騰中だ。しかし、AIは膨大なエネルギーを必要とし、さらにそのエネルギーで発生する熱を冷却するために非常に高いコストがかかる。この問題が驚くべき規模で進行している。すでに「原子力」の復活の議論にまでつながり、原子力ブームを再来させる可能性もある問題だとした。この問題の解決には、IOWNプロジェクトが非常に重要なイノベーションとなる。同プロジェクトは、光技術を活用し、エネルギー消費を最小限に抑え、究極のデータセンターGXを実現できる。この大きなインパクトを持つビッグイノベーションが成功すれば、NTTは再び世界時価総額トップ企業に返り咲くと期待を述べた。

GXにおける日中の協力


 岩本氏は百数十回にわたる中国訪問歴があり現在、NTTデータは中国に約10カ所の拠点を構え、4千人以上の従業員を擁している。中国企業と信頼を持って協力し合えると述べた。将来的にも、中国との関係を深め、ビジネスや文化、そしてGXの交流を促進していく意向を示した。

 石見氏は、中国の製造能力と技術に依存している現実を認識し、中国と協力して世界市場を開拓する必要性を強調し、新たにR&Dセンターを設立して製品検証を進めていると紹介した。GXを進めるうえで、最も大事だと思うのは「協同」だとし、グループ会社や中国の製造パートナーとの協力が不可欠で、目的や具体的な取り組みを共有し、一緒に進めていくことが成功への鍵だとした。アジア市場では、中国と共に新しいビジネスモデルを構築し成長していくことが必要だとし、日中両国が協力してバリューチェーンを構築し、グローバル市場でも競争力を発揮する努力が、最終的にGXの実現に繋がると展望した。

パネリストの石見浩一氏

 小手川氏は、日中関係は地理的に隣接し、経済的にも非常に深い結びつきがあるため、今後も友好的な関係を築いていくことが必要不可欠だとした。日本の背後にはアメリカという大きな影響力を持つ国が存在し、その政治的な立場や方針には、時に理解し難い面もあると述べた。アメリカは常に自国の利益を最優先に考え、ルールや倫理より自国の経済的利益を追求する。これを鑑みれば、今後の日中米関係では、単に表面的な外交政策や交渉にとどまらず、各国の実際の行動と戦略の見極めが求められると述べた。特に、日本と中国、アメリカとの関係は非常に微妙であり、いかにして互いに利益を得るための協力を深めていくかが、今後の鍵となると語った。

 周氏はアメリカという国は、ユーラシア大陸から見て「島国」として位置づけられる。アメリカが行うユーラシア政策は、まさにイギリスのユーラシアパワーを叩くマッキンダーのハートランド論的なものを踏襲している。と同時にアメリカには孤立主義も根深い。トランプの大統領としての再登板は、まさしくそうしたぶれを反映している。GX政策で重要なのは、私たちが何をすべきかをしっかり見据え、そのようなぶれの影響を受けずに実行し続けることだと強調した。

 現在、日本には中国の人々が大勢訪れている。今年だけでも1,000万人前後の中国人観光客が来日している。人と人との交流が続く中で、日中関係に対する憂慮や懸念は自然と薄れていくと信じる。毎年3,000万人、そして5,000万人という規模の中国人の訪日が近い将来に実現すれば、日中関係に関する困難な問題は、全部吹き飛んでしまうだろうと期待した。

シンポジウム当日の東京経済大学キャンパス

■ シンポジウム掲載記事


GX政策の競い合いで地球環境に貢献
http://japanese.china.org.cn/business/txt/2024-12/30/content_117632819.htm

気候変動対策を原動力にGXで取り組む
http://japanese.china.org.cn/business/txt/2025-01/02/content_117641894.htm

GXが拓くイノベーションインパクト
http://japanese.china.org.cn/business/txt/2025-01/02/content_117641551.htm

■ 登壇者関連記事(登壇順)


【コラム】福川伸次:日中関係、新次元への昇華の途を探る 〜質の高い経済社会の実現と新グローバリズムの形成に向けて〜

【フォーラム】鑓水洋:地域活性化策には明確なコンセプトが求められる

【刊行によせて】楊偉民:都市のハイクオリティ発展を促す指標システム

【刊行によせて】楊偉民:全く新しい視点で中国都市の発展状況を評価する

【講演】中井徳太郎:カーボンニュートラル、循環経済、自然再生の三位一体のイノベーション—地域循環共生圏構想

【フォーラム】中井徳太郎:分散型自然共生社会を目指して

【刊行によせて】中井徳太郎:生態環境社会への移行に寄与

【ディスカッション】中井徳太郎・大西隆・周牧之:コロナ危機を転機に 

【ディスカッション】中井徳太郎・安藤晴彦・和田篤也・周牧之:省エネ・再生可能エネルギー社会への挑戦と自然資本

【フォーラム】南川秀樹:コミュニケーションの場としてのエンタメを

【刊行によせて】南川秀樹:中国大都市の生命力の源泉は何か

【コラム】邱暁華:高度成長からハイクオリティ発展へシフトする中国経済

【ディスカッション】小島明・田中琢二・周牧之(Ⅰ):誰がグローバリゼーションをスローダウンさせた?

【ディスカッション】小島明・田中琢二・周牧之(Ⅱ):ユーラシア大陸を視野に入れた米中関係

 【専門家レビュー】周其仁:生態都市建設と都市総合発展指標

【刊行によせて】周牧之:新型コロナウイルス禍と国際大都市の行方

【論文】周牧之:二酸化炭素:急増する中国とピークアウトした日米欧

【論文】周牧之:アメリカ vs. 中国:成長と二酸化炭素排出との関係から見た異なる経済水準

【論文】周牧之:世界の二酸化炭素排出構造と中国の課題

【刊行によせて】徐林:中国の発展は都市化のクオリティ向上で

【対談】小手川大助 vs 周牧之:(Ⅰ)転換点で激動の国際情勢を見つめる

【対談】小手川大助 vs 周牧之:(Ⅱ)複雑な国際情勢をどう見極めるか?

【シンポジウム】南川秀樹・邱暁華・徐林・田中琢二・周其仁:気候変動対策を原動力にGXで取り組む

国際シンポジウム「グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来」セッション1会場

■ 編集ノート:東京経済大学は11月30日、国際シンポジウム「グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来」を開催した。後援:北京市人民政府参事室、China REITs Forum。メディア支援:中国インターネットニュースセンター。セッション1「GXにおける日中の取り組み」では、南川秀樹日本環境衛生センター理事長・元環境事務次官、邱暁華マカオ都市大学教授・中国統計局元局長、徐林中米グリーンファンド会長・中国国家発展改革委員会発展戦略和計画司元司長、田中琢二IMF元日本代表理事、周其仁北京大学国家発展研究院教授が日中両国のGX分野での政策と成果を報告し、今後の展開について議論した。


南川秀樹・邱暁華・徐林・田中琢二・周其仁:東京経済大学国際シンポジウム「グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来」セッション1「GXにおける日中の取り組み」2024年11月30日

■ 「グリーン化」が中国を世界で最も多くの再生可能エネルギー設備を持つ国に


 シンポジウムのセッション1「GXにおける日中の取り組み」は南川秀樹日本環境衛生センター理事長・元環境事務次官の司会で、パネリストの邱暁華氏マカオ都市大学教授・中国国家統計局元局長、徐林中米グリーンファンド会長・中国国家発展改革委員会発展戦略和計画司元司長、田中琢二IMF元日本代表理事と、コメンテーターの周其仁北京大学国家発展研究院教授が登壇した。

 東京経済大学で客員教授を務めていた南川秀樹氏はまず以下の問題提起をした。気候変動の問題は、従来の環境問題とは異なる点がある。過去の環境問題は、誰かが原因を作り、特定の人々が影響を受ける形だった。しかし、気候変動問題は、CO2やメタンを排出する国があれば、その影響は全ての国に均等に及ぶ特徴がある。つまり、原因者と被害者が直接的に結びついておらず、プレッシャーをかけにくい。このような背景下、先日のCOPで発展途上国からは、「CO2を多く排出して経済成長している国々が、なぜ自分たちを支援してくれないのか」という不満の声が上がった。もちろん、中国や日本も積極的に取り組んでいるが、まず中国や日本が排出削減や適応対策をどう進めているのかを世界に向けて発信する必要がある、と述べた。

南川秀樹 日本環境衛生センター理事長、元環境事務次官

 邱暁華氏は中国経済が歩んできた歴史的な変遷について、特に中国が現在直面する「三大変化」に焦点を当てた。三大変化を「デジタル化」「スマート化」「グリーン化」と定義し、各々の中国経済の発展への寄与について説明した。これらの変化が、中国経済の成長に新たなダイナミズムをもたらしていると強調した。

 中国経済が直面する地政学的な課題については特に、アメリカや西洋諸国との経済的・政治的な対立が経済成長に与える影響に関して、発展途上国が直面する地政学的な影響を無視できないとした。

シンポジウム当日の東京経済大学キャンパス

 中国の「グリーン化」について、邱氏は具体的なデータを用いて解説した。中国政府は、2030年にCO2排出のピークを迎え、2060年までに排出量の実質ゼロを目指すと発表し、同目標を実現するためにさまざまな取り組みが進んでいると述べた。特に、再生可能エネルギーの導入拡大、産業構造の転換、循環型経済が促進し、これらの施策が中国の経済成長と環境保護を両立させる鍵となるとした。

 2024年8月末時点で、中国の再生可能エネルギーの発電設備の規模は、全発電能力の40%以上を占めるようになったと紹介し、中国の再生可能エネルギーへの積極的な取り組みが会場に強い印象を与えた。

邱暁華 マカオ都市大学教授、中国統計局元局長

■ 中国ではイノベーションで太陽光発電コストが下がり、政府補助金が不要に


 徐林氏は、中国は、低炭素への転換を「生態文明」という高い政策次元にまで引き上げた国であると強調し、具体的なデータを示しながらその取り組みを紹介した。例えば、過去40年間中国で100万平方キロメートルの緑地が増加した。この面積は、日本の国土面積の約3倍に相当し、中国の環境保護活動がいかに大規模であるかを示している。

 再生可能エネルギーの拡大については、特に風力、太陽光、原子力の発電容量が急増し、中国が世界で最も多くの再生可能エネルギー設備を持つ国になったと述べた。徐は、この進展が中国経済の成長を支え、同時に環境保護に大きな貢献をしていると強調した。

 徐氏は、中国の太陽光発電技術の進歩でコストも下がり、同分野で政府の補助金が不要になり、商業投資の機会が増えていると紹介。従来低炭素への移行はプレッシャーとなっていたが、現在では技術の進展とグリーン電力への投資の成果が相まって経済成長の原動力となり、もはやプレッシャーではなくなっていると力説した。

徐林 中米グリーンファンド会長、中国国家発展改革委員会発展戦略和計画司元司長

 田中琢二氏はIMFでの経験を基に、気候変動問題に対する国際的なアプローチを説明した。日本が直面する環境問題と、その取り組みについては、日本が掲げる温室効果ガス削減目標について言及し、2030年の温室効果ガス削減目標を達成するため2013年の14億トンの CO2を7.6億トンに削減する必要がある。この中で、エネルギー起源のCO2削減が最も重要な部分を占め、特に電力由来のCO2削減が重要なポイントとなっている。電力由来のCO2削減は全体の半分を占めており、再生可能エネルギーの導入が進むことで、この目標を達成することが可能になるとした。

田中琢二 IMF元日本代表理事

 田中氏は、国際的に日本と中国をはじめとする国々が気候変動対策に貢献しつつ、経済成長を実現するため連携を深めていると述べた。特に、日中間では再生可能エネルギー技術の輸出や、カーボンプライシング制度の連携が進み、中国が同分野で実施する非常に先進的な取り組みの経験を参考にしながら、日本も国際的な気候変動対策に貢献することが求められていると、強調した。

 田中氏はまた、日本は再生可能エネルギーの導入拡大や次世代技術の研究開発、特に洋上風力や水素技術、蓄電池製造サプライチェーンの強化や次世代型太陽電池の開発などが重要だとした。さらに、カーボンプライシングや新しい金融手法がGX(グリーントランスフォーメーション)の進展を支える重要な要素であると指摘し、これらの政策が民間投資を引き出し、経済成長と脱炭素化を同時に実現する道筋だと示した。社会的公平性の確保にも触れ、特に影響を受けやすい労働者や地域経済への支援が不可欠であると強調した。気候変動対策が経済的な格差を広げない配慮が、持続可能な社会の実現にとって重要だと述べた。

パネリストの邱暁華氏、徐林氏、田中琢二氏

気候変動対策はやれることからどんどんやっていくことが大事


 コメンテーターの周其仁氏は、中国は環境保護に大きな努力をしているが、その道のりは決して簡単ではないと指摘。中国は経済成長の過程で、大量のエネルギーを消費し、環境を犠牲にしてきたが、今はその成長を持続可能にするために環境重視にシフトしなければならない。それに伴って発展途上国特有の課題をどう乗り越えるかが重要であると強調した。経済的な発展と環境保護のバランスを取るためには、各国が独自の状況を考慮した政策を採る必要があるとした。

周其仁 北京大学国家発展研究院教授

 司会の南川氏は、アメリカの「インフレ抑制法」実施とEU(欧州連合)「国境環境税」の導入議論について取り上げ、環境対策における経済的な保護主義に対して懸念を示した。

 これに対して周氏は、大国のリーダーの中に、気候変動の進行を信じていない人がいるが、それでもなお全球的な協議の実現に向けて、まず大国間で協力の道を模索することが重要だと力説した。人類はこれまで、大きな問題を協議で解決することがなかなか出来なかった。軍事的な問題でも、解決には時間がかかり、多くの命が失われている。気候変動のような長期的で大規模な問題は、さらに難しい課題であり、全球的な協議に対する期待を過度に高く持つのは現実的ではないかもしれない。地道に現実的な解決策を見つけどんどんやっていくことが大切だと述べた。

司会の南川秀樹氏とコメンテーターの周其仁氏

■ シンポジウム掲載記事


GX政策の競い合いで地球環境に貢献
http://japanese.china.org.cn/business/txt/2024-12/30/content_117632819.htm

気候変動対策を原動力にGXで取り組む
http://japanese.china.org.cn/business/txt/2025-01/02/content_117641894.htm

GXが拓くイノベーションインパクト
http://japanese.china.org.cn/business/txt/2025-01/02/content_117641551.htm

■ 登壇者関連記事(登壇順)


【コラム】福川伸次:日中関係、新次元への昇華の途を探る 〜質の高い経済社会の実現と新グローバリズムの形成に向けて〜

【フォーラム】鑓水洋:地域活性化策には明確なコンセプトが求められる

【刊行によせて】楊偉民:都市のハイクオリティ発展を促す指標システム

【刊行によせて】楊偉民:全く新しい視点で中国都市の発展状況を評価する

【講演】中井徳太郎:カーボンニュートラル、循環経済、自然再生の三位一体のイノベーション—地域循環共生圏構想

【フォーラム】中井徳太郎:分散型自然共生社会を目指して

【刊行によせて】中井徳太郎:生態環境社会への移行に寄与

【ディスカッション】中井徳太郎・大西隆・周牧之:コロナ危機を転機に 

【ディスカッション】中井徳太郎・安藤晴彦・和田篤也・周牧之:省エネ・再生可能エネルギー社会への挑戦と自然資本

【フォーラム】南川秀樹:コミュニケーションの場としてのエンタメを

【刊行によせて】南川秀樹:中国大都市の生命力の源泉は何か

【コラム】邱暁華:高度成長からハイクオリティ発展へシフトする中国経済

【ディスカッション】小島明・田中琢二・周牧之(Ⅰ):誰がグローバリゼーションをスローダウンさせた?

【ディスカッション】小島明・田中琢二・周牧之(Ⅱ):ユーラシア大陸を視野に入れた米中関係

 【専門家レビュー】周其仁:生態都市建設と都市総合発展指標

【刊行によせて】周牧之:新型コロナウイルス禍と国際大都市の行方

【論文】周牧之:二酸化炭素:急増する中国とピークアウトした日米欧

【論文】周牧之:アメリカ vs. 中国:成長と二酸化炭素排出との関係から見た異なる経済水準

【論文】周牧之:世界の二酸化炭素排出構造と中国の課題

【刊行によせて】徐林:中国の発展は都市化のクオリティ向上で

【対談】小手川大助 vs 周牧之:(Ⅰ)転換点で激動の国際情勢を見つめる

【対談】小手川大助 vs 周牧之:(Ⅱ)複雑な国際情勢をどう見極めるか?

【シンポジウム】福川伸次・鑓水洋・岡本英男・楊偉民・中井徳太郎:GX政策の競い合いで地球環境に貢献

■ 編集ノート:東京経済大学は11月30日、国際シンポジウム「グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来」を開催した。後援:北京市人民政府参事室、China REITs Forum。メディア支援:中国インターネットニュースセンター。挨拶と基調講演では、福川伸次東洋大学総長・元通商産業事務次官、鑓水洋環境事務次官、岡本英男東京経済大学学長、楊偉民中国第十三回全国政治協商会議経済委員会副主任、中井徳太郎日本製鉄顧問・元環境事務次官が両国の政策と成果を報告し、GX分野での日中協力について展望した。

国際シンポジウム「グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来」会場

■ 混迷の国際情勢で薄れる環境への関心に技術革新で挑む


 福川伸次東洋大学総長・元通商産業事務次官は開会挨拶で、ロシアのウクライナ戦争やイスラエルとガザ地区の情勢などでエネルギー市場が混乱し、環境問題への関心が薄れる危険性があるとした。米国ではトランプ氏の大統領再任により、環境問題への関心が薄れる懸念がある。グローバルサウスの国々は経済成長を重視し、地球環境問題に対する意識が乏しいとの危惧もある。

 エネルギー消費増加に伴う課題解決には技術革新が欠かせず、太陽光や風力の拡大、安全性の確認された原子力、水素エネルギーの活用が鍵だとした。また、資金調達の必要性に触れ、発展途上国支援や革新的技術開発のため資金供給メカニズムの検討を提案した。

 中国はソーラーパネルや電気自動車、風力発電の分野で世界をリードしている。日中協力の発展を期待し、GX(グリーントランスフォーメーション)分野での成功が世界の産業発展の中心となると力説した。

福川伸次 東洋大学総長、元通商産業事務次官

 鑓水洋環境事務次官は、GXに関する日本政府の政策について詳述し、温室効果ガス排出削減を目指す「GX経済公債」の発行やカーボンプライシング制度の導入などを紹介した。これら施策は、10年間で150兆円を超える官民投資を実現し、脱炭素化と経済成長の同時達成を目指している。また、COP29の結果にも触れ、途上国への資金支援拡大や都市建物の脱炭素化について報告した。

 現在日本政府が検討している「GX2040ビジョン」については、エネルギーの脱炭素化や水素関連産業の集積、GX製品の国内市場創出などが重要な課題だと紹介した。特に、グリーン鉄やグリーンケミカル、CO2吸収コンクリートなど素材の性能向上及びコストダウンについて、カーボンプライシングを加えてGX製品の価値を見える化し、需要創造や市場創出に取り組むことを目指している。

鑓水洋 環境事務次官

 岡本英男東京経済大学学長は、同大学が周牧之教授や尾崎寛直教授を中心に従来取り組んできた数々の環境問題関連のシンポジウムを振り返りつつ、東アジアをはじめとする国々との連携が、地球環境問題の解決に不可欠であると述べた。

岡本英男 東京経済大学学長

■ 風力発電、太陽光発電など再生可能エネルギー導入進む中国


 基調講演は「迫りくるGX時代」をテーマに、楊偉民中国第十三回全国政治協商会議経済委員会副主任、中井徳太郎日本製鉄顧問・元環境事務次官が、それぞれの視点から持続可能な社会を実現するための課題と取り組みについて検討した。

 楊氏はまず、グリーン経済が中国にとって重要なテーマであると指摘。2006年からの中国第十一次五カ年計画はエネルギー消費効率の20%改善、主要汚染物質の10%削減を目標とした。持続可能な発展に向けた同取り組みの延長線上に、現在の「カーボンピーク」と「カーボンニュートラル」という目標があると述べた。

 習近平中国国家主席は2020年、二酸化炭素排出量を2030年までにピークとし、2060年までにカーボンニュートラルを達成するという目標を発表した。中国が気候変動対策の分野で世界的なリーダーシップを果たすための枠組みとして位置づけられている。これにより、中国では風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーの導入が急速に進んでいる。2023年には再生可能エネルギーの設備容量が12億キロワットに達し、2030年目標を6年も前倒しで達成した。しかし、完全なエネルギー転換にはまだ課題が多く、これらを克服するためのさらなる努力が必要であると述べた。

シンポジウム当日の東京経済大学キャンパス

 楊氏は続いて、中国経済の現状について短期的な景気課題と長期的な構造課題の二つの側面から論じた。2024年第3四半期の成長率は4.6%であり、前年度の目標として掲げた5%成長の達成には更なる努力が必要である。この背景には、消費の停滞と住宅市場の低迷がある。一方、中国は産業基盤や人材資源、インフラの整備状況など、その強みは他国と比べても際立っている。長期的な課題として、従来の投資主導型経済モデルから消費中心のモデルへの転換が必要である。更に環境問題や社会福祉の充実など、構造的課題の解決が、今後の経済成長に重要な鍵となると指摘した。

 都市化の進展も重要なテーマである。中国の都市化率は依然として先進国に比べて低く、農村部の改革や労働市場の自由化が消費拡大の鍵となる。これにより、中産階級の成長を促し、経済の新たなエンジンとしての役割を果たすことが期待されるとした。

 楊氏は最後に、中国がグリーン経済への転換を実現することの重要性を強調した。再生可能エネルギーの普及や産業の環境負荷の低減は、経済の効率性を高め、持続可能な発展を実現するために不可欠である。こうした政策が、中国だけでなく、地球規模での気候変動対策に貢献すると述べた。

楊偉民 中国第十三回全国政治協商会議経済委員会副主任

■ GX政策は単なる環境政策ではなく、産業政策や経済政策とも密接に関連


 中井氏は講演の冒頭で、気候変動がもたらす影響について、地球温暖化はすでに観測可能な形で進行中だとし、この100年間で地球の平均気温が約0.7度上昇したことに伴い、CO2濃度も400ppmを超えるなど、温室効果ガス増加が深刻化したと詳述。これは、地球環境そのものを変容させ、日本国内で日常生活や経済活動に直接的な影響を及ぼしているとした。

 具体的には、集中豪雨や台風の頻発により水害が増加し、農作物の不作が生じている。また、海面上昇や海洋酸性化が海洋生態系に与える悪影響は、漁業をはじめとする海洋産業にも甚大な打撃を与えている。問題は自然災害の増加だけでなく、エネルギー供給や食料安全保障などの分野にも波及し、社会全体の持続可能性を脅かしている。

 日本は四季が明確で自然災害が多いため、気候変動の影響を受けやすいことから、中井氏は気候変動への取り組みを単なる環境保護問題としてではなく、国の安全保障や経済政策の重要な要素として捉える必要性を強調した。

 日本政府が推進するGX政策の最終的なゴールは、2050年までにカーボンニュートラルを達成し、2030年までに温室効果ガスの排出量を2013年度比で46%削減することである。目標達成に向けて、日本政府は「経済成長と環境保護の両立」を基本理念として掲げている。

 日本政府はGX政策を進めるため約150兆円規模の投資を見込み、その一環として20兆円の先行支援を決定した。この支援には、脱炭素社会に向けた企業の設備投資の支援や、再生可能エネルギーの導入促進、グリーンイノベーションの研究開発支援などが含まれる。中井氏はこれらの投資が、日本経済全体に大きな波及効果をもたらすと述べ、GX政策が単なる環境政策にとどまらず、産業政策や経済政策とも密接に関連していると強調した。

 またGX政策の柱として「カーボンプライシング」と「排出量取引制度」の導入について説明、カーボンプライシングとは、炭素排出に価格を付け、そのコストを経済活動に組み込む。同制度の導入で企業や個人へ温室効果ガス削減を促すインセンティブが提供される。

 日本政府はこの制度を段階的に導入しており、排出量取引市場の整備や炭素税の見直しが進行中である。排出量取引市場では、企業間で排出権を取引し、削減コストを最小化しつつ全体の排出量削減を目指す。また、炭素税の収益は再生可能エネルギーの研究開発やインフラ整備に再投資される予定であり、持続可能な成長を実現する仕組みを構築する。中井氏はこうした政策が、日本の産業競争力を高め、国際的な環境目標達成にも寄与すると述べた。

 GX政策を推進する上では、技術革新の重要性を強調した。日本は従来、省エネルギー技術やクリーンエネルギー分野で世界をリードしてきた実績があり、今後もイノベーションを通じて脱炭素化の実現を目指すべきだと述べた。特に、水素エネルギー技術やカーボンキャプチャー・アンド・ストレージ(CCS)技術、次世代型バッテリー技術などは、エネルギー供給の安定化や排出削減のコスト削減に寄与すると期待されている。

 中井氏は、GX政策の成功には国際的な連携が不可欠であると力説した。日本は先進国として、他国と協力し技術やノウハウを共有し、気候変動問題に対処するリーダーシップを発揮する責任がある。また、日本国内で成功した取り組みを他国に展開し、地球規模での環境改善に寄与することが求められていると締めくくった。

 総合司会を務めた東京経済大学の尾崎寛直教授は、「グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来」という今回のシンポジウムのテーマが、気候変動や資源枯渇など、地球規模の環境問題が深刻化する中で、社会の持続可能性を高めることが急務だとの認識に基づいているとし、産業界もこれをチャンスとして活かしていくべきだと述べた。

尾崎寛直 東京経済大学教授

■ シンポジウム掲載記事


GX政策の競い合いで地球環境に貢献
http://japanese.china.org.cn/business/txt/2024-12/30/content_117632819.htm

気候変動対策を原動力にGXで取り組む
http://japanese.china.org.cn/business/txt/2025-01/02/content_117641894.htm

GXが拓くイノベーションインパクト
http://japanese.china.org.cn/business/txt/2025-01/02/content_117641551.htm

■ 登壇者関連記事(登壇順)


【コラム】福川伸次:日中関係、新次元への昇華の途を探る 〜質の高い経済社会の実現と新グローバリズムの形成に向けて〜

【フォーラム】鑓水洋:地域活性化策には明確なコンセプトが求められる

【刊行によせて】楊偉民:都市のハイクオリティ発展を促す指標システム

【刊行によせて】楊偉民:全く新しい視点で中国都市の発展状況を評価する

【講演】中井徳太郎:カーボンニュートラル、循環経済、自然再生の三位一体のイノベーション—地域循環共生圏構想

【フォーラム】中井徳太郎:分散型自然共生社会を目指して

【刊行によせて】中井徳太郎:生態環境社会への移行に寄与

【ディスカッション】中井徳太郎・大西隆・周牧之:コロナ危機を転機に 

【ディスカッション】中井徳太郎・安藤晴彦・和田篤也・周牧之:省エネ・再生可能エネルギー社会への挑戦と自然資本

【フォーラム】南川秀樹:コミュニケーションの場としてのエンタメを

【刊行によせて】南川秀樹:中国大都市の生命力の源泉は何か

【コラム】邱暁華:高度成長からハイクオリティ発展へシフトする中国経済

【ディスカッション】小島明・田中琢二・周牧之(Ⅰ):誰がグローバリゼーションをスローダウンさせた?

【ディスカッション】小島明・田中琢二・周牧之(Ⅱ):ユーラシア大陸を視野に入れた米中関係

 【専門家レビュー】周其仁:生態都市建設と都市総合発展指標

【刊行によせて】周牧之:新型コロナウイルス禍と国際大都市の行方

【論文】周牧之:二酸化炭素:急増する中国とピークアウトした日米欧

【論文】周牧之:アメリカ vs. 中国:成長と二酸化炭素排出との関係から見た異なる経済水準

【論文】周牧之:世界の二酸化炭素排出構造と中国の課題

【刊行によせて】徐林:中国の発展は都市化のクオリティ向上で

【対談】小手川大助 vs 周牧之:(Ⅰ)転換点で激動の国際情勢を見つめる

【対談】小手川大助 vs 周牧之:(Ⅱ)複雑な国際情勢をどう見極めるか?

【対談】有賀雄二Vs周牧之(Ⅱ)驚きと感動のものづくり

2024年6月6日、東京経済大学でゲスト講義をする有賀雄二氏

■ 編集ノート:

 日本産の日本酒、ウイスキーそしてワインがいま世界を魅了している。東京経済大学の周牧之ゼミは2024年6月6日、有賀雄二勝沼醸造代表取締役をゲストに迎え、国際的に高い評価を得るワイン作りの極意とその道程について披露していただいた。

※前半はこちらから


作り手の思いを伝える流通で


有賀:販売も特殊な方法を取っている。限定流通だ。我々作り手にとってパートナーは伝え手で、その先にお客さんがいる。ところが今の流通は、問屋、スーパー、コンビニ、デパート、ネット販売などだ。本来、ワインに限らず

 ものづくりは、作り手の考え方や思いの表現である。だから、世の中に形があるものはどんなものもそうだが、必ず作っている人の考え方や思いが隠れている。作り手の考え方や思いを、商品と一緒にお客さんに伝えることが私の考えている本来の流通だ。

 社会はいま流通が、運ぶ物流に変わってしまった。それを私は危惧している。私どもはお客様に我々作り手の考え方、思いを一緒に伝えてもらうやり方で流通をしている。

 現在全国に140社の特約店さんがある。幸い、アルガブランカを2007年にJALが国際線で初めて採用し、ファーストクラスとビジネスクラスで出されるようになった。ビジネスクラスは1年間でクラレーザが1,000ケースも出た。2017年と2018年の2年間で2,000ケース。2,000ケースは2万4,000本だ。本当にありがたかった。日本のワインが世界で話題になったのは、JALでの甲州ワインの登場がきっかけだった。

周:私のJALの国際線に乗る時のひとつの楽しみは有賀さんのワインを飲むことだ(笑)。

有賀:2008年には、フランスのワイナリーシャトーが、私どものワインを世界に販売してくれるようになった。フランスのボルドーグラーブにあるシャトーで、シャトーパッククレマンという。オーナーの息子さんが、私どものワイナリーに急にやってきて、一緒にワインビジネスをしましょうと言った。

 びっくりして聞いたら、日本の甲州を世界に出す手伝いをしたいと言ってくれた。我々のワインはフランス、イギリス、スイス、ベルギー、カナダ、アメリカに彼らが販売してくれていて、非常に大きな反響を呼んでいる。

 彼には「君には間違いが二つある」と指摘を受けた。どういうことか聞くと、「なぜ君は世界をマーケットにしない?」と問われた。「君のこのワインがわかる人は日本にそんなに多くいるのか?君のワインは世界に出せば、今よりももっと価値がはっきりする」と言われた。

 世界にはワイン好きがたくさんいる、価値のわかる人が世界にいるから、世界に出せということだった。

 もう1個の間違いについて聞くと、「君はワインの価値を知らない」と言われた。私がワインにつけている値段が間違っていると言うのだ。「君がつけているその値段でいいなら、僕に全部分けてくれ。僕は君の3倍で売る自信がある」と。日本では、ワインに限らず、いろいろなものを作っている方々はみんな原価積み上げ式で値段をつけていると思う。うちもそうだ。ぶどう代、営業費、労務費、減価償却を重ねていき、利益を乗せて値段付けるのが、一般的だ。彼は、それは価値ではないと言った。つまり、コストと価値は全く別のものだということを彼が教えてくれた。

2018年7月19日、有賀雄二氏が東京で開催の『中国都市ランキング−中国都市総合発展指標』出版記念パーティにて挨拶

地域ブランディング戦略


周:周辺で契約した農家のぶどうでワインを作るのは、規模が限られている。この規模でブランディングするのは限界がある。ヨーロッパもそうだ。だから地域をまとめたブランディングは、ワインの世界で特筆すべきところだ。アルガブランカは今かなり愛好家に親しまれているが、これにとどまらず、甲州のワイナリーのまとめ役としての有賀さんは、地域ブランディングに尽力している。 

有賀:翌2009年にはKOJというプロジェクトがスタートした。KOJは、ジャパンオブ甲州(Koshu of Japan)の略だ。世界へのワイン情報発信基地はロンドンなので、ロンドンに甲州ワインを出すことで評価が得られれば、その評価が世界に伝播するという訳で、2009年からロンドンプロモーションを始めた。

 2010年にはフランスのパリに本拠地がある国際ぶどうワイン機構に甲州をワイン用ぶどうとして登録した。2013年には赤ワイン用のマスカットベリーも登録し、これによって今、世界のワイン関係者は日本の甲州と赤のマスカットベリーに非常に興味を持っているのが現状だ。

 一昨年ボルドーにワインミュージアムができた時、先方から甲州ワインを飾りたいと要請があった。今、いよいよ甲州ワインとこのマスカットベーリーAのワインが、やっと世界を舞台にできるかどうかの瀬戸際になってきたと思う。

 2013年に地理的表示山梨が、国税庁から認定された。山梨のワインの場合はエチケットのどこかにこのGIYAMANASHIと書いてあるものを選ぶと、そのワインは全部山梨のぶどうを使っていることが証明されている。しかも、審査会に合格しないと付けられないので、山梨のワインを選ぶ時は一つの基準としてぜひ知っておいていただきたい.

 GIは日本ではちょっと馴染みが薄いが、ジオグラフィカルインディケーションという意味で、ヨーロッパでは非常に信頼が高い制度だ。例えばボルドー、ブルゴーニュ、シャンパンという言い方は、全部GIだ。チーズでも、カマンベールとかブリという言い方をするのも全部GI。

 だから日本で作ったチーズに、カマンベールと付けては、本当はいけない。ワインに山梨と表示があったら、そのワインは山梨のぶどうを100%使っている。

周:GIとは地理的表示保護制度(Geographical Indication)で、地域のブランディングに非常に有効な手段だ。とくにワインのような地域性の高い農産品にとっては、その価値を高める保護制度となっている。GIYAMANASHIの恩恵が山梨全域に渡り、山梨が世界に知れ渡るツールとなる。

有賀:GIは、日本では最近は北海道、大阪などだんだん増えてきている。

勝沼醸造ワイナリー前に広がるぶどう畑

目指すは「和食にはアルガブランカ」


有賀:今世界は和食ブームなので、それに合わせたワインとして興味を持たれ、大きな反響を呼んでいる。

 2010年頃からどこをマーケットにするかを考えた場合、今まで長い間、私もワインというと、洋食に合わせるものだと思ってきた。しかし、和食とワインという取り合わせもある。特に日本の風土で出来たこの甲州ワインは和食との取り合わせがいいので、積極的に力を入れている。

周:和食に合うワインを作る発想は凄い。アルガワインの大事なキーワードだ。

有賀:東京・日本橋に「ゆかり」という和食店がある。店主の野永さんは早くから和食には甲州ワインがよく合うということで弊社のワインをお使いいただいている。

 ニューヨークにロバートデニーロと一緒にレストラン「NOBU」を出した松久信幸さんは、和食にグローバリゼーションをもたらした第一人者で、東京にも店がある。私は彼に会いたくて、15年前から東京の店に通い、そのご縁が実りやっと2013年からロンドン始め、世界の「NOBU」でワイン会をさせて頂き、大きい反響があった。

 ただ、まだ世界で和食に甲州ワインが当たり前のように供されている状況ではない。和食に甲州ワインを合わせることが当たり前にするのが私の夢だ。

 東京のミシュラン星付きの和食店では割と今、私どものアルガブランカを使って頂いているが、京都などの和食店ではどうしてもワインといえば、輸入ボトルワインだ。ブランドで飲むことが多いので、和食にはアルガブランカと言ってもらえるよう今後やっていきたい。

周:東京はいま世界で最もミシュランの店が多い街だ。なかでもとにかく和食の店が多い。インバウンドで海外からの大勢の客がこれらの店に集まってくる。そこに有賀ワインが浸透していけば凄いことになる。

アルガブランカを推奨するレストラン「NOBU」

■ 和食の進化にワインの役割大


周:日本に来て30数年になる私の目から見ても、和食は大きく進化を遂げた料理だと思う。

有賀:そうだ。世界で和食の関心は更に高まっている。「NOBU」のニューヨーク店の年商は、40億円だ。一軒の店の売り上げが年間40億円というのは、毎日1000万円を売り上げて36億5000万円になる程、和食が世界でエネルギーを持っている。それだけ和食を食べたい人がいる。これを我々日本人は知らない。

 ロンドンにKOJで毎年行くようになってわかったことに、ロンドンには和食店が沢山ある。そこで働いているマネージャーは大体日本人の女性が多く、何故か出身が揃って日本の外資系ホテルだ。

 ある時、今一番話題の和食店に案内してもらったところ、セクシーフィッシュという店に案内され、行ってみると、サービス係にも料理人にも日本人が誰もいない。メニューは日本語で、下に英語が書いてある。出てくる料理は本物の和食で、美味しい。

 案内してくれた女性とその店のシェフとは、ある和食レストランの立ち上げのときに一緒で知り合いだったそうで、その日はサービスで沢山料理が出てきた。彼女から「私はこうしたサービスをしてチップを毎日10万円から20万円もらう」と聞き驚いた。そうした大きなエネルギーを和食が持ち、日本文化が持っている。

 今ロンドンで寿司がしっかり握れたら年収2,000〜3,000万円は保障されると聞く。それほど和食は今、世界中で注目されている料理になっている。

周:和食は日本文化の伝播に大きな役割を果たしている。いま中国でも和食は人気で、北京や上海などでは数千店舗の和食レストランがある。毎年数千万のインバウンド客にとって来日の目的の一つが、本場の和食を味わうことだ。

 この和食の進化にワインの役割は大きい。ワインに合う和食作りに一生懸命取り組むことが和食の進化を促すと思う。

 これに対して中国料理は世界で沢山展開しているものの、ワインに合わせる努力がまだ足りない。私がマサチューセッツ工科大学(MTI)の客員教授をしていた時にボストンの何軒ものトップクラスの中国料理店に、ワインに合う料理作りを促すアドバイスをしたが、なかなか進まなかった。中国料理のこれからの進化の一つのキーワードがまさにここにある。

有賀:今、中国は世界の第4位か5位のワイン生産国だ。 

周:ワインの消費量では中国が世界の第1位。私が見ると中国人がワインを中国料理に合わせようと試みたら、中国料理がもっと飛躍すると思う。

 前述した有賀ワインを研究していた私の大学院の学生の、故郷山東省も沢山ワインを作っている。中国も新世界に仲間入りしようとしているが、中華に合うワインを作り出すと面白い展開になるだろう。

 有賀さんが和食と相性の良いワインを作っていることは、和食の進化、さらにはワインの進化を推し進めることにつながっている。ワインに合う素晴らしい和食と、和食に合う素晴らしいワインが日本の文化力を一層高める。

有賀:私は現在69歳で、23年前36歳のときに作ったレストランがある。23年前はやはりワインは洋食に合わせるものだと思い洋食のレストランにした。もしこれから私が新しくレストランを作るとしたら、和食にしたい。

周:この「風」という店では、ヨーロッパ風の建物で和牛を使った料理と有賀さんのワインとの絶妙なコンビネーションが味わえる。そして広大なぶどう畑の景色が楽しめる。最高の店だ。

有賀:店の自慢の料理はローストビーフだ。ローストビーフをわさびとたまりじょう油を使って刺身に見立てる。肉に甲州ワインを合わせる。そうするとみんな驚いて、「お肉には白ですね」と言われるようになったので、ぜひ皆さんも機会があったらお越しいただきたい。長崎の大浦天主堂をモチーフにして作ったレストランだ。

有賀雄二氏が手がけるレストラン「風」

■ 新世界の中の新世界を目指す挑戦と継承


周:ヨーロッパの旧植民地でヨーロッパのぶどうでワイン作りをし、国際的に流通させるワインを新世界ワインとするのに対し、有賀さんは甲州という食用ぶどうを使っている。甲州はワインにとっては異質なぶどうだった。今まで世界で売られているワインのぶどう品種ではなかった。また、山梨の風土は旧世界でもない新世界でもない異質なものである。有賀さんは、その風土で出来た異質なぶどうを研究と工夫とで美味しいワインにし、世界に認められるレベルまで持っていった。

 その意味では有賀さんのワインは、簡単に新世界のワインと位置付けるべきではない。これは新世界の中での新世界を目指したワインだと思う。

 さまざまな新しい課題に挑戦すると同時に、有賀さんのワイン作りは、ヨーロッパの旧世界でも通じ合うコンセプトを徹底的にクリアし、成し遂げた。

 今、三人の息子さん全員がワイン作りの事業を継いでいらっしゃる。新しいワインをご長男が一生懸命美味しく作り、お父さんの味とちょっと違う味を出そうとしているのは、素晴らしい。挑戦する魂はちゃんと遺伝するものだ(笑)。

学生:いま販売されているワインは、学生でも手にとれるような値段なのか?

有賀:日本の場合はコストが高いため、コンビニで売られているワインに比べると私共のワインは値が張る。ただ、うちのワインも実はコンビニに並んでいる。いろいろな窓口に入れるようにしている。一番リーズナブルな価格のものは、フルボトルで1800円ぐらい。一番高いのは6000円。値段が安いから美味しくないということはない。一番おすすめしたいのは2000円に消費税で2200円のワインだ。

 県内いろいろなところから収穫されるぶどうを収穫地ごとにワインにし、最終的にブレンドする。そうすると、単一の場所より味わいも香りも複雑さが増す。量と品質を両立させるためには、ブレンドに値しないものを外せば品質が高まる。

 私どもは2007年のヴィンテージのワインから、田崎慎也さんに私どものワイナリーにお越しいただき、どんなブレンドがいいかを一緒にやっている。私どものワイナリーは山梨で一番多くワイン生産し、品質的にも非常に自信を持っている。そのワイナリーで一番たくさん作っているワインの品質がどれだけ高いかが大事だ。

学生:収穫から商品ができるまでどのくらいの時間がかかるのか?

有賀:ヌーヴォーという収穫した年に発売するワインがある。甲州で作るヌーヴォーは収穫期が大体9月中旬から10月いっぱいだ。収穫期の違いは、盆地の地形がすり鉢状のところで栽培するため、標高の低いところが一番早く熟す。高い方に行くに連れてだんだん収穫期がずれていく。

 ヌーボーは一番の低地で最初に作ったのを9月20日ごろ収穫し、発売が11月3日と結構早い。多くのワインは10月までに収穫したもので、翌年の4月から6月ごろ発売するのが一般的だ。しかし中には樽に入れて長く熟成したり、瓶に入れてあえて熟成を楽しむワインを作る場合は、3年後に発売するものもある。いろいろなタイプを楽しんでもらうといい。

 他にシャンパンのようなスパークリングワインは、炭酸ガスが中に入っている為、他の炭酸ガスが入ってないワインより長い熟成に耐える。酸化しにくい。できれば10年熟成し、熟成を楽しむようなワインにしていきたい。

 甲州は糖分が低い。糖分が低いぶどうは逆にメリットもある。シャンパンは寒い地方だから、ぶどうは熟さない。だからシャンパンも糖度が低い。

 シャンパンやスパークリングワインは糖分が低いので、最初にアルコールの低いワインを作る。そのワインに砂糖と酵母を入れ、それを瓶の中に閉じ込める。最初は王冠にしておき、瓶の中でもう1回アルコール発酵が起きるときに炭酸ガスが出る。その炭酸ガスを閉じ込めたやつがシャンパン。あるいは本格的なスパークリングワインで、これを瓶内2次発酵という。

 それを作る上では甲州はすごく向いている。アルコールが低いワインを作らないと2次発酵がしにくくなる。つまり、最初にアルコールが高いワインだともう1回発酵を起こすのは難しくなる。だから、ベースワインという最初のワインを作るにはアルコールの低い方が都合よく、それに甲州はぴったりくる。甲州は糖分が低いから駄目だと考えず、それが特徴だと考え、メリットを生かしたやり方をすればいい。

 アルコール市場ではウイスキーが大変な人気だが、ワインを蒸留するとブランデーになる。ブランデーに人気が出ないのは何故か疑問だ。ブランデーを作る上でも、ベースワインはアルコールが低いワインの方が良い。甲州は日本固有の品種でいろいろな可能性がある。

2023年11月24日、リニューアルしたワイナリーにて有賀雄二氏

■ 甲府盆地のぶどう畑保全を


周:最近リニューアルした有賀さんのワイナリーは素晴らしい和風建築物だ。

有賀:日本でもワイナリーの数がすごく増えていて、10年前には200社ぐらいだったのに、今はなんと500社を超えた。国内のワイナリーの数が増えて全国各地にあり、いろいろなワインを作っている。甲州は山梨が中心だ。ワイナリーなので建物はみんな洋風だが、私どもは和風な建物で、令和元年に登録有形文化財になった。和風のワイナリーを特徴にしていきたい。インバウンドの方々を迎えた時に畳の部屋でテイスティングできるワイナリーがいい。

周:建物の上に登り、ぶどう畑を眺めるのも爽快だ。

有賀:中央線国分寺駅から1時間乗ると、山梨のぶどう産地の景観が車窓から見えてくる。私は学生時代、世田谷に下宿していて、毎週中央線に乗って実家に帰る時、笹子トンネルを抜け甲府盆地が見えて、気持ちが良くなった。

 八ヶ岳があり南アルプスがあり盆地のすり鉢状の東側傾斜地帯を使ってぶどうが栽培されている。このぶどう畑の景観は、先人が何世代にもわたり我々に残してくれた尊い遺産だ。それが老齢化や後継者不足で、どんどん蝕まれ失われている。レストランへ行ったらアルガブランカがあるか聞いてほしい。あったらぜひ1本飲んでいただき、ぶどう景観保全の手伝いをしてほしい。

 ぶどうの栽培面積が大型ショッピングセンターにならずに、ずっとぶどう畑の形でいられる。それを私はしっかりと守って、次の世代にバトンタッチしていきたい。その手伝いをしてくれたら嬉しい。

 ワインは前述したように、ボトルの裏側に、以上のような背景が隠れている。そして、一つ一つの畑に人間が携わっている。畑とその人に価値をつけることがワインになる。ワインのボトルの裏側にはこうした背景があることを、ぜひ感じ、飲んでいただけたら嬉しい。

(了)

2023年11月24日、ワイナリーの上から眺めるぶどう畑

プロフィール

有賀 雄二(あるが ゆうじ)/勝沼醸造 代表取締役社長

 東京農業大学卒業後、1981年に勝沼醸造に入社。99年に社長に就任し、2006年に山梨県ワイン酒造組合副会長に就任。2023年から同組合会長。

【対談】有賀雄二Vs周牧之(Ⅰ)世界を唸らせる甲州ぶどうワイン

2024年6月6日、東京経済大学でゲスト講義をする有賀雄二氏

■ 編集ノート:

 日本産の日本酒、ウイスキーそしてワインがいま世界を魅了している。東京経済大学の周牧之ゼミは2024年6月6日、有賀雄二勝沼醸造代表取締役をゲストに迎え、国際的に高い評価を得るワイン作りの極意とその道程について披露していただいた。


世界をマーケットに


周牧之:きょうは日本ワインの旗手である有賀雄二さんをゲスト講師に迎え、甲州の地から世界へ飛び込み、日本のワインを一気に飛躍させた物語をご披露いただく。

有賀雄二:祖父が製紙業を営む傍ら1937年、勝沼醸造を創業しワイン造りを始め、私で3代目になる。生産量はボトルでワインが年約40万本、ぶどうジュースが同約8万本だ。

 ぶどうは思いっきり絞ると75%ぐらいまでジュースが取れる。ワインボトル1本作るのに必要なぶどうの量は、1kgだ。私共が使う甲州という名のぶどうは、一房が200gから250gなので、1本作るのに4房から5房必要になる。

 ワインとジュースを合わせると約50万本で、毎年500tのぶどうがないと作れない。山梨県には今、約100社のワイナリーが点在している。山梨のぶどうでワインを作る量では、私どもの勝沼醸造ワイナリーが最大になる。

 ワインは、国際商品だ。どこの国のワインを見ても、生産する自国だけではなく、世界をマーケットにしている特性がある。そういう意味ではワインは国際商品だ。ところが長い間日本のワインは、国内だけで消費されてきた為、ワインが持つ本来の国際商品としての特性を備えてなかった。私共は世界に通ずるワイン、世界のマーケットに通じるようなワイン作りを目標にしている。

2012年3月24日、有賀雄二氏が北京で開催の国際シンポジウム「中国の生活革命と日本の魅力の再発見」にて挨拶

■ 新世界の代表はアメリカ


有賀:ワインの伝統的な生産国を旧世界と言う。それに対して新しい生産国をニューワールド、つまり新世界と言う。旧世界はフランス、ドイツ、イタリア、オーストリア。新世界はアメリカ、オーストラリア、ニュージーランドなどだ。

 フランスのワインに次ぐブランドは、いまアメリカのワインと言っても過言ではない。新世界と言われるには一定の法則がある。1976年にイギリス人のワイン商が、アメリカの良いワインを集めた。白はシャルドネというぶどうで作る。赤ワインは、カベルネソーヴィニヨンというぶどうで作る。シャルドネは、フランスのブルゴーニュが産地で、同地の良いワインを全部集めた。カベルネソーヴィニヨンはフランスのボルドー地方が本家本元なので、ボルドーの1級シャトーのワインを集めた。そして、パリでフランス人のワイン専門家を10人集め、前述したアメリカ産ワインとフランスワインを全て目隠しにして並べ、一番いいと思うワインを挙げてもらった。

 結果、選ばれたワインは、白も赤もすべてアメリカのワインだった。フランス人が選んだ結果だから、フランス人はぐうの音も出ない。これが当時ワインの世界で「パリスの審判」と呼ばれた大事件だ。この事件によってアメリカのワインは世界的な注目を集め、ニューワールドの代表になった。

周:それまでの良いワインは基本的に地中海の周辺、すなわち旧世界で作られた。新世界は北米、南米、オーストラリア、ニュージーランドで、そこが植民地の拡張をしていた頃、欧州からワインぶどうが持ち込まれた。本当に認められるワインの味を出せてから歴史的に時間はそれほど経ってはいない。

アメリカワインの一大産地カリフォルニア州ナパ・ヴァレー

■ 甲州ぶどうに特化したワイン作り


有賀:ぶどうは世界に1万種類以上ある。どのぶどうでワインを作っても良いが、問題は産地の風土、つまり自然と、どのぶどうが適合するかを検証していくことだ。それがいわばワイン作りの土台になる。

 ぶどう1万種類を大きく分けると、ワインに向くヨーロッパ系、原産地はジョージア即ちかつてロシア領だった頃のグルジア。一方、ワインに向かないアメリカ系があり、他に東洋系がある。この三つに分かれる。

 東洋系は山ぶどうなどで、アメリカ系はコンコルド、ナイアガラ、デラウェアといったぶどうだ。アメリカがアメリカ系のぶどうでワインを作っていた頃は、アメリカのワインを殊更取り上げて言う人は世界にいなかった。

 ロバートモンダビとスタックスリープというワイナリーが、カリフォルニアにあり、これらのワイナリーがフランスワインをしのぐような良いワインを作ろうということで、ヨーロッパ系の白ワイン用のシャルドネやベルネソービニヨンといったぶどうをアメリカの地に植えた。そうした努力が実ったのが1976年の大事件だ。

 それで私もこのようなぶどうを日本で栽培したいと考え、1990年からヨーロッパのような垣根式栽培で、カベルネソーヴィニヨンを300本、シャルドネを300本植えた。日本の風土で、たとえ一樽でも最高のものが出来ればという思いで、私自ら栽培し、懸命にやってきた。

 私は子供が4人いて、一番上は女の子、下の男の子3人がワイナリーを一緒にやっている。長男はフランスのブルゴーニュ、サヴィニー・レ・ボーヌにあるシモンビーズというワイナリーで4年間研修をしてきた。

 長男はフランスから帰ってきて3年後、私がせっかく植えたシャルドネとカベルネを全部抜いて、全て甲州に植え替えてしまった。日本では棚式栽培が一般的だが、シャルドネとカベルネはヨーロッパのような垣根式でやっていた。日本は雨が多く、降った雨の水分が下草から蒸散する。ぶどうはその水分の影響で病気になりやすくなる。長男がこれを抜いた理由に「ここまでやっても、フランスのワインに勝てるようなものは作れない」という思いがあった。「うちは甲州に特化したワイナリーになるんじゃないのか」と息子に諭され、ワイン作りが何かということに、逆に気付かされた。

周:ヨーロッパから持ち込んだワインぶどうを使うこれまでの新世界ワインの作りと違うコンセプトで、世界に通用するワインを作る大きなチャレンジだった。

勝沼醸造ワイナリー前に広がるぶどう畑

■ 感動とブランドで勝負


有賀:日本の風土、あるいは私共の山梨県勝沼の風土は、ぶどう栽培に最適な条件とは正直言い難い。より良い場所を求めれば世界にたくさん良い場所がある。効率だけ求めたら最適な場所に行って作った方がいい。

 少々哲学的な言い方だがワインは自然と人間が向き合うことだ。ぶどうに傘掛けなどの手間をかければ、コストは世界一高くなる。日本産ぶどうでワインを造るには厳しい現状がある。日本のぶどうだけでワインボトルを一本作るなら2000円以上の値段をつけないとワイナリー経営は難しい。

 しかし市場で売れている2000円以上のワインは6%しかない。日本のマーケットで圧倒的に売れているのは、コンビニなどで買える一本500円から700円ぐらいのワインで、それが5割を占める。

周:シビアな日本のワインマーケットでは、感動とブランドで勝負するしかない。

有賀:コストが高いと競争力がないのかといえば、そうではない。物の価値は驚きで決まる。コストよりも驚きや感動が大きいものを作る必要がある。これは一つのポイントだと思う。

 ものの価値を決めるのに、コストで決める部分も常にあるが、やはり驚きや感動に訴えかける物作りをしていかないと続けるのは難しい。

アルガブランカ(出典:勝沼醸造ホームページより)

■ シルクロードで日本に渡来したぶどう


有賀:日本古来のぶどう品種である甲州ぶどうは、1300年前に仏教と一緒にシルクロードを通り中国から日本に渡来したと考えられている。勝沼の町の東に国宝の寺があり、薬師如来がぶどうを携えている。甲州ぶどうは、718年にこの国宝の寺を開いた仏教僧の行基が、当時薬として伝えたとの説が有力だ。

 1300年も前の話だから明確な根拠はないが、最近はDNA鑑定ができるようになり、カリフォルニア大学や、広島の国立の酒類総合研究所でDNA鑑定したところ、甲州は中央アジアのコーカサスが原産地だと証明された。中国で刺ぶどうと呼ばれる、ぶどうの蔓にトゲが出るぶどうがある。それと交配されている。25%それが混ざっているからこそ、日本の厳しい風土、厳しい自然に耐性を持ったと思う。私どもは、この甲州ぶどうで世界に通ずるワインを作る目標でやってきた。

周:甲州ぶどうは、元はヨーロッパからシルクロードを通り中国に来た。甲州は今日に至るまで連綿と栽培されてきた。唐の時代、中国の人々はワインを飲んでいた。唐の偉大な詩人、李白の詩の中にもワインの話題が沢山出てくる。だがやがて中国にワインがなくなってしまった。いま中国の酒となると茅台など白酒や紹興酒など黄酒だ。

 甲州ぶどうは日本での1300年以上の歴史を経て食用ぶどうになった。このぶどうを用いて、日本ワインを世界に認められるものにしようとした有賀さんの発想は凄かった。これを実現するには大変な努力が必要だった。

リニューアルしたワイナリー内部

■ 革新的な冷凍果汁仕込み製法


有賀:白ワイン用であれば有名なシャルドネ、リースリング、ソーヴィニヨンブランなど世界で有名なぶどうは沢山あり、そうしたぶどうとこの甲州ぶどうを比べると、甲州はちょっと糖分が低いデメリットがある。

 山梨にある100社のワイナリーのうち、勝沼町に40社が集中していて、そうしたワイン作りの仲間と話すとき、仲間はいつも「甲州はね」と言う。シャルドネ、リースリング、ソーヴィニヨンブランなど世界で有名なぶどうには敵わないという意味で、「甲州はね」と言っていた。それが私はすごく嫌だった。世界に通用しないワインしか作れないなら、早くこのぶどうを諦めて、他を探す必要がある。だから私は甲州で作るワインが、世界を舞台にできるかどうかを検証したい思いから、他のワイナリーとは違う作り方を考えた。

 また、みんなが甲州は他のぶどうに敵わないと言うのは、糖分が低いことが原因ではないかと考えた。

 つまり、伝統的な日本のワイン作りはぶどうを搾り、ジュースを作り、糖分が足りないから砂糖を入れる。アルコールの原料は糖分だ。酵母が二酸化炭素とアルコールに分解して、アルコールが出来る。例えば米、麦、芋、そば等の穀類を原料にしている酒は、実は糖分がない。だから穀類のデンプンを一度アミラーゼという酵素で糖分に変え、それをまたアルコールに変えることをする。しかし穀類は水分がない。だから必ず水が必要になる。

 私がよく山梨でワイン作っていると言うと、「山梨は水がいいですものね」と言われるが、ワインは水を使わない。ワインはぶどうを絞ったジュースの中の糖分をアルコールにするだけだ。ぶどうが持つ糖分によって、出来たワインのアルコール度数は決まる。水は一切使わない。糖分が低いぶどうは、ワインにしたときもアルコール度の低いワインしか作れないため砂糖を補ってきた。

 それに対して私が考えたやり方は、冷凍果汁仕込みというやり方だ。一般的なワインは15度ぐらいしかないのを、22度に補填するやり方だ。甲州を絞ってジュースを作ると75%ぐらいまで取れる。私が考えたのは75%取るときに圧力を加えずに取るジュースと、加えて取るジュースを二つに分ける。加えないで取るジュースをあえて凍らせる。凍る時は水分から凍るため、凍った氷を取ってしまい、溶けているところだけを集めると、ジュースは濃くなっている。そうして砂糖を入れず濃いジュースでワインを作ることを私共のワイナリーは1993年からやっている。

周:冷凍果汁仕込み製法は、東京農業大学醸造学科卒の有賀さんだからこそ出来た一大イノベーションだ。

勝沼醸造ワイン工場

■ 国際的に認められるワインに


有賀:世界中にワインコンクールがたくさんある中で、2003年にフランス醸造技術者協会が主催する国際コンクールに初めて出品した。世界35カ国から2300種類も出品される中で、初めて銀賞が取れた。翌2004年にも続けて取れたので、甲州で世界に通ずるワインができると自信がついた。

周:有賀さんのワイン、そして山梨のワインが世界に躍り出た瞬間だった。

有賀:フランスを初め、イギリスやスロベニアなど世界中のワインコンクールで、我々の甲州ワインが入賞することが珍しくなくなった。

 その頃から、「お宅の甲州はおかしい、甲州らしくない、変な甲州」と言われるようになった。変な甲州でないと世界には通じない、あるいは変な甲州を作るのが、我々の目標だと気づかされた。それで、我々は2004年、甲州ワインの新しいブランドを発表した。アルガブランカというシリーズだ。アルガは私のファミリーネームでブランカはポルトガル語で白の意味だ。

 ワインの瓶のラベルをエチケットと言う。ラベルに、何年の収穫で、どこで採れて、何の品種かをしっかり書くのがエチケットだということから来ている。このエチケットにはどこにも甲州とは書いていない。他の甲州ワインの多くが漢字で甲州と書いてある。うちのは変な甲州なので、甲州と書かず、アルガブランカにした。ブランドコンセプトはあくまで変な甲州だ。

勝沼醸造の入賞歴(出典:勝沼醸造ホームページより)

■ テロワールで世界へ


周:私の大学院の学生が、有賀ワインのテロワールを研究して、修士号をとった。テロワール(terroir)とは、もとは「土地」を意味するフランス語terreから派生した言葉で、気象条件(日照、気温、降水量)、土壌(地質、水はけ)、地形、標高などブドウ畑を取り巻くワイン産地の自然環境的特徴を指す。フランスワインは、よくこのテロワールをブランドにしている。例えば、ロマネ・コンティ、ムルソー、モンラッシェなどは産地名をワインの名前にしている。有賀さんは日本で初めてテロワールのコンセプトを使い、アルガブランカ・イセハラというワインを売り出した。

有賀:山梨県内各所に甲州を栽培する場所は沢山あり、少し前までは、収穫場所に因ってできるワインに違いがあり個性があるという考え方はなかった。そこに一石を投じたのは、アルガブランカ・イセハラというワインだ。山梨の笛吹市御坂町の伊勢原というところから取れる甲州でワインを作ると、それまでの甲州ワインの概念を全く変えてしまうような、全く違う形のワインができることを発見した。

 イセハラは、天皇陛下の即位の礼に採用されたワインだ。ANAのファーストでも出している。甲州の中では実に特異で世界の人がびっくりするような良い味わいになっている。

周:イセハラは天皇陛下の即位の礼に採用されたことでまさしく日本ワインの顔になった。

※後半に続く

天皇陛下の即位の礼

プロフィール

有賀 雄二(あるが ゆうじ)/勝沼醸造 代表取締役社長

 東京農業大学卒業後、1981年に勝沼醸造に入社。99年に社長に就任し、2006年に山梨県ワイン酒造組合副会長に就任。2023年から同組合会長。

【シンポジウム開催のお知らせ】2024 東京経済大学 国際シンポジウム:グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来

2024 東京経済大学 国際シンポジウム
グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来


 気候変動や資源枯渇など地球規模の問題は近年ますます深刻化し、持続可能な社会の構築は喫緊の課題となっている。環境負荷の低減のため産業界も大変革を迫られているが、同時にこれは新たなビジネスを生み出すチャンスでもある。東京経済大学は2024年11月30日(土)に、国際シンポジウム「グリーントランスフォーメーションにかける産業の未来」を開催する。

 楊偉民(中国共産党中央財経領導小組弁公室元副主任)福川伸次(元通商産業事務次官)、鑓水洋(環境事務次官)、南川秀樹(元環境事務次官)、中井徳太郎(元環境事務次官)、周其仁(北京大学教授)、邱暁華(中国統計局元局長)、小手川大助(IMF元日本代表理事)、田中琢二( IMF元日本代表理事)、索継栓(中国科学院ホールディングス元会長)、岩本敏男(NTTデータグループ元社長、元会長)、石見浩一(エレコム株式会社社長)、徐林(中米グリーンファンド会長)、趙林(中国インターネットニュースセンター副主任)ら、第一線で活躍する日本と中国の産学官民のオピニオンリーダーを招き、環境保全と持続可能な発展を目指すグリーントランスフォーメーション(GX)をメインテーマに産業の未来について徹底的に討論する。

 新しい技術やビジネスモデル、持続可能な未来を実現するための方策と課題について議論し、未来に向けた提言を行う。


主    催  東京経済大学
後    援  北京市人民政府参事室、China REITs Forum
メディア支援  中国インターネットニュースセンター
日    時  2024年11月30日(土)
        13:00〜18:00 (開場 12:30)

会    場  東京経済大学/大倉喜八郎進一層館 
開  催  方   式  対面開催(後日録画をYouTube公開)


お申し込みフォーム https://forms.gle/Um5aTK4LF83VKyYd8

お問合せアドレス先 info.symposium.tku@gmail.com



プログラム


開会挨拶(30分)13:00〜13:30

福川 伸次 東洋大学総長、元通商産業事務次官
鑓水  洋 環境事務次官
趙   林 中国インターネットニュースセンター副主任
岡本 英男 東京経済大学学長

基調講演:迫り来るGX時代(30分)13:30〜14:00

楊  偉民 清華大学教授、中国共産党中央財経領導小組弁公室元副主任
中井徳太郎 日本製鉄顧問、元環境事務次官

セッション1:GXにかける日中の取り組み(110分)14:00〜15:50

司   会 南川秀樹  日本環境衛生センター理事長、元環境事務次官
パネリスト: 邱 暁華  マカオ都市大学教授 中国統計局元局長
       徐  林  中米グリーンファンド会長、中国国家発展改革委員会発展計画司元司長
       田中琢二  IMF元日本代表理事
コメンテーター:    周 其仁  北京大学教授

セッション2:GXが拓くイノベーションインパクト(110分)16:00〜17:50

司   会: 周 牧之  東京経済大学教授
パネリスト: 岩本敏男  株式会社NTTデータグループ相談役、元社長、元会長
       石見浩一  エレコム株式会社社長、トランス・コスモス株式会社元共同社長
コメンテーター:    小手川大助 大分県立芸術文化短期大学理事長兼学長、IMF元日本代表理事

総合司会:尾崎寛直 東京経済大学教授



■ 登壇者関連記事(登壇順)


【コラム】福川伸次:日中関係、新次元への昇華の途を探る 〜質の高い経済社会の実現と新グローバリズムの形成に向けて〜

【フォーラム】鑓水洋:地域活性化策には明確なコンセプトが求められる

【刊行によせて】楊偉民:都市のハイクオリティ発展を促す指標システム

【刊行によせて】楊偉民:全く新しい視点で中国都市の発展状況を評価する

【講演】中井徳太郎:カーボンニュートラル、循環経済、自然再生の三位一体のイノベーション—地域循環共生圏構想

【フォーラム】中井徳太郎:分散型自然共生社会を目指して

【刊行によせて】中井徳太郎:生態環境社会への移行に寄与

【ディスカッション】中井徳太郎・大西隆・周牧之:コロナ危機を転機に 

【ディスカッション】中井徳太郎・安藤晴彦・和田篤也・周牧之:省エネ・再生可能エネルギー社会への挑戦と自然資本

【フォーラム】南川秀樹:コミュニケーションの場としてのエンタメを

【刊行によせて】南川秀樹:中国大都市の生命力の源泉は何か

【コラム】邱暁華:高度成長からハイクオリティ発展へシフトする中国経済

【ディスカッション】小島明・田中琢二・周牧之(Ⅰ):誰がグローバリゼーションをスローダウンさせた?

【ディスカッション】小島明・田中琢二・周牧之(Ⅱ):ユーラシア大陸を視野に入れた米中関係

 【専門家レビュー】周其仁:生態都市建設と都市総合発展指標

【刊行によせて】周牧之:新型コロナウイルス禍と国際大都市の行方

【論文】周牧之:二酸化炭素:急増する中国とピークアウトした日米欧

【論文】周牧之:アメリカ vs. 中国:成長と二酸化炭素排出との関係から見た異なる経済水準

【論文】周牧之:世界の二酸化炭素排出構造と中国の課題

【刊行によせて】徐林:中国の発展は都市化のクオリティ向上で

【対談】小手川大助 vs 周牧之:(Ⅰ)転換点で激動の国際情勢を見つめる

【対談】小手川大助 vs 周牧之:(Ⅱ)複雑な国際情勢をどう見極めるか?