中心都市がメガロポリスの発展を牽引:「中国都市総合発展指標2022」

雲河都市研究院

編者ノート:
中国で最も発展している都市はどこか?最も発展しているメガロポリスはどこか?〈中国都市総合発展指標2022〉の総合ランキングが発表された。雲河都市研究院は、この総合ランキングの偏差値を用いて、全297都市を一線都市、准一線都市、二線都市、三線都市に定量的にランク分けし、さらに全19メガロポリスについて総合的な評価と分類を行った。


 〈中国都市総合発展指標2022〉総合ランキングが発表された。北京は7年連続で総合ランキングの首位、上海が第2位、深圳が第3位となった。

 趙啓正中国国務院新聞弁公室元主任は、「2022年、厳しい国際環境と新型コロナウイルス禍の困難な中、中国経済は安定した成長を遂げた。〈中国都市総合発展指標〉は、中国都市の発展成果を国際的に示している」と評価する。

 明暁東中国国家発展和改革委員会発展戦略和計画司元一級巡視員・中国駐日本国大使館元公使参事官は、「2022年は中国にとって非常に特別な年であった。中国の経済は、国際環境と新型コロナウイルスの不利な影響を克服し、安定した成長を実現した。〈中国都市総合発展指標2022〉総合ランキングは、中国経済成長の状況と都市の総合発展状況が反映されている。前年と比較して、北京、上海、深圳、広州、成都、杭州、重慶、南京、蘇州という総合ランキング上位9都市のメンバーと順位に変化はない。これは、中国の経済成長センターに変化がないことを示している。中国経済の中核となるこれらの都市は、2022年にコロナ禍の再燃やサプライチェーンの不安定に耐え、経済社会の持続的な発展を保ち、中国経済の総量を120兆元の新たな高みに押し上げた。総合ランキング上位10都市の中で、唯一新たにランクインした第10位の武漢は、新型コロナウイルス・パンデミック初期の衝撃を克服し、再びトップ10に戻ってきた」と指摘した。

1.中国の一線都市、准一線都市、二線都市はどこか?


 一線都市、二線都市がどこかについては、中国でさまざまな意見や議論があり、きちんとした定義や基準は存在しない。楊偉民中国共産党中央財経領導小組弁公室元副主任は、「現在の一線、二線都市といった言い方には、一定のルールがなく、厳格な定義もなく、主に住宅価格で区分されている」と指摘する。

 この状況を踏まえ、878のデータセットを用いて、全国297の地級以上都市を環境・社会・経済の3つの次元で総合的に定量評価する〈中国都市総合発展指標〉(以下、〈指標〉)は今年、中国全土における都市ランクの分類を試みた。

 〈指標〉は、評価方法に「偏差値」の概念を用いるため、各都市が各指標で全国でどの立ち位置にあるかを相対的に反映できる。統計、衛星解析データ、ビックデータなどさまざまな指標に用いられる異なる単位を、偏差値という統一の尺度に変換したゆえ比較可能となった。

 総合評価の偏差値は、環境・社会・経済の3つの大項目の偏差値を合計し、最大300で、全国平均値は150となる。

 〈指標〉では、合計偏差値200以上の都市を「一線都市」、175〜200の都市を「准一線都市」、150〜175の都市を「二線都市」、150未満の都市を「三線都市」と定義する。

 この基準によると、一線都市は北京、上海、深圳、広州の4都市で、特に北京と上海の2大メガシティの偏差値が際立っている。

 准一線都市には成都、杭州、重慶、南京、蘇州、武漢、天津、廈門、西安の9都市が含まれる。これらの都市は将来、一線都市に昇格する可能性が高い。

 二線都市は、21の地域中心都市を含む43都市で、とくに寧波、長沙、青島、東莞、福州など都市の偏差値が、175に近い。将来、准一線都市に昇格する可能性がある。

 総合評価の偏差値が全国平均値以下の三線都市は合計で241都市ある。このなかにはフフホト、銀川、西寧など3つの省都市が含まれている。

 趙啓正氏は「総合ランキングの偏差値で一線都市、准一線都市、二線都市、三線都市を量的にランク分けすることで、都市の分類基準を明確にし、都市の比較分析にあたっての困難を一気に解消した」と述べる。

2.中国発展の最大エンジンは三大メガロポリス


 メガロポリスは、中国新型都市化の主たる形態である。第14次五カ年計画綱要では、中国全土で19のメガロポリスを計画した。

 「高度化するメガロポリス」として、京津冀(北京・天津・河北)、長江デルタ(上海・江蘇・浙江・安徽)、珠江デルタ(広東)、成渝(四川・重慶)、長江中游(湖北・湖南・江西)の5メガロポリスを取り決めた。

 「発展するメガロポリス」には、山東半島(山東)、粤閩浙沿海(広東・福建・浙江)、中原(山西・安徽・河南)、関中平原(陝西・甘粛)、北部湾(海南・広西)の5メガロポリスを指定した。

 「育成するメガロポリス」としては、哈長(吉林・黒龍江)、遼中南(遼寧)、山西中部(山西)、黔中(貴州)、滇中(雲南)、呼包鄂榆(陝西・内モンゴル)、蘭州—西寧(甘粛・青海)、寧夏沿黄(寧夏)、天山北坡(新疆ウイグル)の9メガロポリスを取り決めた。

 19メガロポリスには、35の国家中心都市や地域中心都市が集中し、中国のGDPの88%、常住人口の81.9%を占めている。

 メガロポリスの発展をいかに評価するか?雲河都市研究院は〈指標2021〉発表時、上位10メガロポリスの評価を試みた。今年はさらに全19メガロポリスの評価を実施した。

 各メガロポリスの発展水準をより直感的に分析するために、本文では、19メガロポリスに属する223の都市の〈指標2022〉総合ランキング偏差値を、メガロポリス別に「箱ひげ図」と「蜂群図」を重ねて分析し、メガロポリスにおける都市総合ランキング偏差値の分布状況と差異を可視化した。

 箱ひげ図中の横線は、サンプルの中央値、箱の上辺は上位四分位点(75%)、箱の下辺は下位四分位点(25%)、箱本体は50%のサンプル分布を示している。蜂群図は、個々のサンプル分布をプロットした図である。箱ひげ図と蜂群図を重ね合わせることで、サンプルのポジションと全体の分布の双方を示せる。

 明暁東氏は「19メガロポリス総合ランキングの箱ひげ蜂群図の分析から、メガロポリスの中心都市の極化が明らかであり、発展地域ほどその中心都市は全国における立ち位置が高い」と指摘する。

 確かに、中心都市はメガロポリスの核である。北京、上海、深圳、広州の4つの一線都市は、すべて長江デルタ、珠江デルタ、京津冀にある。これらの三大メガロポリスを「一線メガロポリス」と称することができる。三大メガロポリスには、中国の36.2%のGDP、23.5%の常住人口が集中している。三大メガロポリスの1人当たりGDPは全国平均の1.54倍に達し、大量の外来人口を引き付け、非戸籍常住人口は7,802万人にのぼる。三大メガロポリスは、中国の経済社会発展を牽引する最大のエンジンであることは疑いようがない。

3.中国の准一線、二線、三線メガロポリス


 准一線都市を地域中心都市として牽引するメガロポリスには、成渝、長江中游、粤閩浙沿海、関中平原があり、「准一線メガロポリス」と称することができる。4つの准一線メガロポリスは、中国のGDPの24.9%を生み出し、常住人口の25.7%が集中、中国の四分の一の経済と人口を有している。しかし、4つの准一線メガロポリスの1人当たりGDPは全国平均の0.97倍に過ぎず、人口流出地域であり、合計で1,801万の人口が流出している。また、関中平原は、西安のみを中心都市とする単一エンジンのメガロポリスである。

 二線都市を地域中心都市として牽引するメガロポリスには、山東半島、北部湾、中原、哈長、遼中南、山西中部、黔中、滇中、蘭州―西寧、天山北坂があり、「二線メガロポリス」と称することができる。10の二線メガロポリスは、中国のGDPの24.8%を生み出し、常住人口の31.4%が集中し、中国の四分の一の経済規模と三分の一の人口を有する。そのうち、遼中南、山西中部、滇中、蘭州―西寧、天山北坂の5つのメガロポリスは、合計で666万人の非戸籍常住人口を吸収している。しかし山東半島、北部湾、中原、哈長、黔中の5つのメガロポリスは合計で3,715万の人口を流出している。二線メガロポリスの中には、中原、山西中部、黔中、滇中、天山北坂などは、単一のエンジンのメガロポリスである。

 呼包鄂榆、寧夏沿黄は、三線都市を地域中心都市として牽引するメガロポリスであり、「三線メガロポリス」と称することができる。2つの三線メガロポリスは、GDPと常住人口の全国での比重はそれぞれ2%と1.3%に過ぎない。規模こそ小さいが、三線メガロポリスの1人当たりGDPは三大メガロポリスに近く、全国平均の1.53倍に達している。故に、合計231万の流動人口を引き寄せている。2つの三線メガロポリスとも、単一エンジンメガロポリスである。

 東京経済大学の周牧之教授は、「総合偏差値を用いて都市ランクを定量的に定義し、それに基づいてメガロポリスの発展状況を分析することは、〈指標〉の新たな試みであり、都市やメガロポリスのポジションをより客観的に理解するための参考になる」と期待している。

 趙啓正氏は、「〈指標〉を用いてメガロポリスを総合的に分類するアプローチは、革新的な視点である」と評価している。

 明暁東氏は、「今回の〈指標2022〉の発表が早まり、隔年ではなく前年の中国都市の総合発展状況を点検することが出来た。特に〈指標〉の適用領域が拡大し、経済社会生活や環境の多くの側面に及ぶことは注目に値する。都市の総合比較からメガロポリスの総合比較分析、国際トップブランドの消費傾向比較から二酸化炭素排出分析、産業構造比較からグローバルイノベーションクラスター分析などに至るまで、〈指標〉は無限の応用可能性を持っている」と述べる。

 趙啓正氏は、「〈指標2022〉は比較研究の特色をさらに発揮し、都市比較だけでなく、メガロポリスの比較も行われ、各メガロポリスのビジョンを考案するための着眼点を提供している」と強調した。

 楊偉民氏は、「中国経済は巨大経済体としての強靭さを持つ。その強靭さの空間的な担い手は、超大都市、特大都市である。雲河都市研究院の〈中国都市総合発展指標2022〉は、この強靭さを裏付けている。特に創造的なのは、〈指標2022〉が、878の指標を「偏差値」で統一された尺度にし、中国の都市を一線、二線、准二線、三線都市に定量的にランク付したことである。これで一気に中国における都市のランク付の混乱を解決した。〈指標2022〉は、「健康診断報告書」として、都市およびメガロポリスの健康状態を「ランク」で明らかにしている」と総括した。


【中国語版】
中国網『
中心城市引领城市群发展:中国城市综合发展指标2022』(2023年11月30日)

【英語版】
China.org.cn「
China Integrated City Index 2022: Core cities lead development of megalopolises」(2023年12月5日)

中国国務院新聞弁公室(SCIO)「China Integrated City Index 2022: Core cities lead development of megalopolises」(2023年12月5日)

China Daily「China Integrated City Index 2022: Core cities lead development of megalopolises」(2023年12月8日)

他掲載多数

【講演】周牧之:誰が中国を養っているのか?

周牧之 東京経済大学教授

2023年10月10日「第四回世界食学フォーラム」で講演を行う周牧之教授。

編者ノート:
ロシア・ウクライナ戦争は、世界の食糧価格に大きな変動を引き起こし、食糧危機が国際社会で再び注目を集めるトピックとなった。東京経済大学の周牧之教授は2023年10月、中国海南省・海口で開催の「第四回世界食学フォーラム」で講演を行い、世界食糧事情について詳説した。誰が世界そして中国を養っているのか。世界の食糧貿易の罠は何か。中国の農業生産性が最も高い地域はどこか。そして中国は将来、食糧問題にどう取り組むべきか。

1.誰が世界を養っているか


 今から半世紀前の1972年、ローマクラブという欧米のエリートが集まる学術団体がレポート『成長の限界』を公開した。戦後の世界的な人口の急増に警鐘を鳴らしたこのレポートは、このままでは地球が持続的な人口増加を支えることができないとの主張で、大きな関心を集めた。

 現実はしかしまるで逆の結果となった。その後の半世紀で、アジアとアフリカの両地域における人口の爆発的な増加で、世界人口は倍増した。ところが、食糧問題は『成長の限界』で警告されたような危機には陥らなかった。世界の食糧生産量は当該人口を養うだけでなく、余裕さえ持っていた。

 なぜ世界の食糧生産は持続的に増加できたのか。データ分析から見ると、1961年から約60年間、世界の穀物耕地面積はわずか14%しか増加していない。耕地の拡大による増加はそれほど大きくない。この間、世界の人口は158%増加したのに対して、世界の穀物総生産量は250%増加した。地球が急増する人口を養えたのは、穀物生産の増加速度が、人口増加速度を上回った為だ。

 では、何が世界の食糧生産量の持続的な増加を実現したのか。その答えは、耕地面積の増加ではなく、「単収(単位面積当たりの穀物収穫量)」の増加にあった。過去60年間で、世界の穀物収穫量、つまり一定の耕地面積当たりの穀物生産量は207%も増加した。

 何が単収をこれほど大幅に増加させたのか。それは、農薬や化学肥料の大量投入、灌漑や道路などの農業インフラ施設の普及、農業の組織化や機械化、そして品種改良など農業技術の向上である。これらは、すべて「緑の革命」と呼称される。まさに「緑の革命」が食糧生産量を増やし、今日の膨大な人口を養った。

2.食糧貿易の罠


 「緑の革命」は、世界の食糧生産能力に南北格差をもたらした。世界銀行は、世界の各国を所得別に低所得、低中所得、高中所得、高所得の4つのグループに分けている。雲河都市研究院によれば、所得が高い国ほど農業の生産性が高く、高所得国と低所得国の間の農業の労働生産性の格差は49倍にも達した。「緑の革命」により、自然条件に依存していた農業は、高資本・高技術投入の「資本集約型産業」へと変わった。農業にきちんと投資ができる国・地域が、農業の高収益を実現できる。これは、世界の食糧問題を考える際に重視すべき視点である。

 食糧生産能力の南北格差が、先進国が発展途上国へ食糧輸出をするという奇妙な現象をもたらしている。現在、世界最大の農産物輸出国はアメリカであり、3位はオランダ、4位はドイツである。一方、最大の農産物輸入国は中国である。多くの発展途上国が、農産物の純輸入国となっている。農産物貿易の優位性は、土地、水、気候などの自然資源に依存するだけでなく、農業の生産性にも大きく左右される。

 生産性の低い発展途上国にとって、食糧輸入は人々を飢餓から救うものの、安価な輸入農産物はこれらの国の農業の破壊にもつながる。世界には今なお約8億人が飢餓の危機に瀕し、その多くは農業の生産性が低く、先進国から安い食糧輸入の影響を受ける国の人々である。アフリカの多くの国々がそうした犠牲に晒されている。

3.『誰が中国を養うのか』の衝撃


 1995年、アメリカの学者レスター・ブラウンはレポート『誰が中国を養うのか』を発表し、14億の中国人口の養い手を問うて、中国の巨大な食糧需要が世界の食糧供給に脅威をもたらすと指摘した。

 同レポートは当時、中国政府にも高い関心を持たれた。しかしその後、中国の食糧問題は大事には至らなかった。現在、中国の主食、すなわち米と小麦はほぼ自給を維持している。

 では、誰が中国を養っているのか。データ分析から見ると、1961年から約60年間、中国の穀物耕地面積はわずか12%しか増えなかった。一方、中国の人口は118%増加した。これに対して、中国の穀物生産量は491%増加し、食糧生産の増加率は人口増加率を大きく上回った。これは「緑の革命」のお陰である。

 この間、世界の穀物単収、すなわち単位面積当たりの穀物収穫量は207%増加したのに対し、中国の穀物単収は430%も増加した。これは、中国が「緑の革命」の優等生であることを示している。

 1960年は、中国の1人当たりの一日摂取カロリーが最も少なかった年であった。現在その数値は当時の2.3倍になった。国産の主食で中国の膨大な人口を養っている。

4.世界最大の飼料穀物輸入国


 満腹するだけでなく、食の質も重要である。その意味では肉の供給も欠かせない。現在、中国は一人当たり年間肉の消費量が62kgに達し、世界平均の同42kgを大きく上回り、日本の同54kgも超えている。改革開放以来、中国の食肉生産量は約8倍も増加した。中国人の肉消費はすでに高い水準に達している。

 しかし、中国の食肉生産を支える飼料は、輸入に大きく依存している。前述したように、中国は世界最大の農産物輸入国であり、特に大豆、トウモロコシ、高粱、大麦などの飼料用穀物で世界最大の輸入国である。例えば、中国の大豆輸入量は、現在全世界の約80%を占めている。中国による大豆輸入の60%はブラジルから、32%はアメリカからである。また、中国によるトウモロコシ輸入は、世界の約22%を占めている。中国のトウモロコシの輸入の72%はアメリカから、26%は戦争中のウクライナからである。

 農産物貿易の大きな問題の一つは、様々な理由で価格が大きく変動することである。特に、ロシアのウクライナ侵攻をはじめとする各種の紛争が食糧貿易に与える影響は非常に大きい。食糧価格変動の最大の被害者は、発展途上国である。例えば、最近、多くのアフリカの指導者がウクライナやロシアを訪問し、対話による戦争の早急解決を求めている。これは、アフリカが双方から安定した食糧供給の再開を望むからである。

5.中国の農業生産性が最も高い地域はどこか


 中国は食糧問題にどう取り組むべきだろうか。中国には297の地級市以上の都市があり、雲河都市研究院は、これらの都市すべての農業生産性、すなわち「耕地面積当たりの第一次産業GDP」を比較分析した。

 その結果、中国で農業生産性が最も高い30の都市は、三明、竜岩、福州、寧徳、舟山、汕頭、南平、漳州、楽山、麗水の順に並ぶ。11位から30位までの都市は、茂名、莆田、潮州、長沙、株洲、三亜、台州、肇慶、海口、巴中、儋州、萍郷、杭州、紹興、寧波、黄山、掲陽、泉州、広州、仏山である。トップ30位の都市はすべて南部に位置している。その中には、福州、長沙、海口、杭州、広州など、省会(省政府所在地)大都市も多く含まれている。

 「緑の革命」は農業生産性の南北格差をもたらし、資金や技術の面での投入力が高い地域で、農業がより発展する。農業生産性のランキングは、この現象が中国でも顕著であることを示している。もちろん、農業生産性に影響を与える要因には、気候、土地資源、水資源、農作物の品種などもあろう。しかし、北部に比べ、南部が農業により多くの投資をしていることは見逃せない。

 換言すれば、北部の農業には、まだ大きな収益向上の余地がある。農薬や化学肥料に過度に依存せず、よりスマートに、より高度な技術を用いて農業をするならば、北部の農業には大きな可能性がある。私はこうした取り組みを「新・緑の革命」と呼びたい。

 中国は、主食の問題を自給自足で解決した。さらに飼料用穀物を大幅に増産し、世界の食糧貿易への負荷を緩和する必要がある。そのため、農業への投資を大幅に増やし、農業を高生産性、高品質、高収益の産業に昇格させる必要がある。「新・緑の革命」を通じて、人々をただ満腹させるだけでなく、安全で豊かで健康的な食を保障しなくてはならない。

6.開発輸入の重要性


 今から25年前の1990年代末、私は、ユーラシアに跨る国際協力プロジェクトの企画に参加した。冷戦終結後、中央アジア地域には多くの資源がアクセス可能となった。私は、ユーラシア大陸を横断するインフラ建設で日中協力を提案し、中央アジアのエネルギーと食糧を上海や連雲港に運び、それを日本や韓国など東アジアの国々と共有する構想をした。

 同構想はカスピ海から中国沿岸部に至るガス・石油パイプライン、鉄道、高速道路、光ファイバー網の整備を含み、「ユーラシアランドブリッジ構想」と呼ばれた。主な目的は、中国そして東アジアの発展に必要とされるエネルギー資源や食糧の安定供給を図り、来るべき世界の需給ひっ迫を緩和することであった。 

 私は1999年4月1日、『現代版「絹の道」、構想推進を―欧州から日本まで資源の開発・輸送で協力―』とのタイトルで日本経済新聞に記事を寄稿し、このプロジェクトを公開、国際的な注目を集めた。

 同構想の核心は、輸出先の安定した供給能力の開発を前提とした「開発輸入」というコンセプトである。食糧貿易やエネルギー貿易において、最大の課題はその変動性を最小限にすることである。開発輸入とは、輸入国と輸出国が共同で投資し、長期的な協力を通じて変動性を低減する概念である。上記構想は、ユーラシア大陸における石油や天然ガス資源と、膨大な穀倉地帯の潜在的な可能性に鑑み、国際共同参画の開発輸入を進め、中国及び東アジアのエネルギー及び食糧の安定供給を計るものであった。当時未だエネルギーも食糧も純輸出国だった中国が、将来、一大輸入国に転じると私は予測した。

 同構想の国際協力において江沢民政権と小渕恵三政権の間に一時、日中両国の同意が得られたものの、その後日本の参加は見送られた。しかし構想の予測が見事に当たり、中国はエネルギーそして食糧の一大輸出国に転じた。中国から中央アジア方面へのパイプラインの建設も着々と進んでいる。

 「開発輸入」のコンセプトは、その後中国が提唱する「一帯一路」にも取り入れられた。

 今日、このフォーラムには40以上の国・地域から参加者が集まっている。一部は食糧を輸入する国から、一部は輸出する国から来ている。互いに協力し合って開発輸入を活用し、世界の食糧問題を真に解決するよう期待したい。

「第四回世界食学フォーラム」会場写真。

【日本語版】『周牧之:誰が中国を養っているのか?』(チャイナネット・2023年12月8日)

【中国語版】『周牧之:谁在养活中国?』(中国網・2023年10月30日)

【英語版】『Who is feeding China?』(China.org.net・2023年11月15日)

 

【講演】周牧之:建設業はEVに続き、大変革を遂げるか?

周牧之 東京経済大学教授

2023年10月13日、「2023長沙国際グリーン・スマート建設および建築産業化博覧会&世界建設業フォーラム」で講演を行う周牧之教授。

編者ノート:
なぜ、グローバリゼーションは進むのか。なぜ、中国にはメガロポリスが出現したのか。電気自動車業(EV)が急速に発展したのはなぜか。東京経済大学の周牧之教授は2023年10月、湖南省長沙市で開催された「2023長沙国際グリーン・スマート建設および建築産業化博覧会&世界建設業フォーラム」での講演において、これらの問題の背後にあるロジックを「ムーアの法則」駆動という概念を用いて解説し、建設業の未来の発展について展望した。

1.「ムーアの法則」駆動時代


 湖南大学の卒業生として、今日、母校主催のフォーラムに参加できることは、非常に嬉しい。

 私は湖南大学でオートメーションを学んだお陰で、現在は経済学を研究しているが、ITがベースになっている。1980年代初め、湖南大学での学生時代、私が最も感銘を受けた書籍は『第三の波』であった。この本は未来の情報社会を想像し、興奮させられた思い出がある。40年後に振り返ると、『第三の波』の予測の多くは現実となっている。

 自ら「未来学者」と名乗っていた著者、アルヴィン・トフラーは、なぜ正確に未来を予測できたのか。彼の予測には「ムーアの法則」というロジックがあった。1965年に発表された「ムーアの法則」は、半導体のトランジスタ数が18カ月で倍増し、半導体の価格が半減すると主張した。その後、人類社会は「ムーアの法則」に駆動され、これまでにない速度で進化してきた。

 半導体の絶え間ない進化に伴い、多くの製品やサービスが生まれた。パーソナル・コンピュータ、携帯電話などのハードウェアから、Eメール、ウェブページ、検索エンジンなどのネットワークサービス、Facebook、WeChat、Twitterなどのソーシャルメディア、YouTube、Netflix、TikTokなどのOTTサービス、iTunes、アマゾン、淘宝、SHEINなどのオンラインショッピングプラットフォーム、ビットコインなどの仮想通貨、ChatGPT、自動運転などのAI応用…これらはすべて過去には存在しなかった。強調すべきは、これらの新しい製品やサービスを生み出したのは、主にスタートアップ企業であることだ。革新的なイノベーションで新しいビジネスモデルを考え、新たな市場を提供するスタートアップ企業が世界の変革的な大発展をリードしてきた。私は、人類のこの発展段階を「ムーアの法則駆動時代」と定義したい。

2.新工業化の三大仮説とメガロポリス発展戦略


 35年前、日本へ経済学を学びに行った時、筆者の研究課題はアジアの新工業化をどう説明するかにあった。第二次世界大戦後、多くの国・地域が独立したが、途上国が工業化を成し遂げた例はなかった。しかし、1980年代に突如「アジアの四小龍」と呼ばれる国・地域が現れた。当時、世界中の経済学者が制度や文化などの面からこの現象を説明しようとしたが、明確な解答は得られなかった。

 私はこの現象を工学のバックグラウンドから捉え、これは「ムーアの法則」が工業化の過程に波及した表れだと考えた。私は博士論文で、中国を含む東アジアの工業化を三つの仮説から説明した。

 二番目の仮説は、電子産業を「ムーアの法則」によって駆動された最初の産業ととらえ、その特殊性が途上国の工業化に大きく寄与した、というものである。半導体が登場する前の電子産業は非常に小さかったが、「ムーアの法則」に駆動されて急速に発展し、1980年代には世界で最大規模の産業の一つになった。私の研究で、電子産業は貿易の度合いが非常に高い産業で、かつ人件費の安い途上国で立地する志向が強いと解った。この電子産業のサプライチェーンの拡張が、アジアの四小龍および中国の工業化を押し上げた。

 三番目の仮説は、半導体の浸透により、ますます多くの産業が「ムーアの法則」との関連性を強め、電子産業のように高い貿易率を持つグローバルサプライチェーン型産業に変貌する、というものである。30年後の今日、「ムーアの法則」と世界の貨物輸出額を相関分析すると、両者の「完全相関」関係が見て取れる。つまり、半導体のコストパフォーマンスが向上するにつれて、多くの産業が「ムーアの法則」駆動型産業となり、世界貿易が加速度的に増加した。今、世界貿易ボリュームの70%は2000年以降に新たに生まれた。これがグローバリゼーションの根底にあるロジックである。

 以上三つの仮説に基づいて、私は22年前、中国三大メガロポリスを予測した。それは、珠江デルタ、長江デルタ、京津冀(北京・天津・河北)において、三つの巨大なグローバルサプライチェーン型産業集積が起こり、その上に中国経済社会を牽引する三大メガロポリスが形成されるというものであった。

 2001年、中国国家発展計画委員会、日本国際協力機構(JICA)、中国日報社、中国市長協会と共同で「中国都市化フォーラム—メガロポリス発展戦略」を開催し、メガロポリス発展の重要性を大々的に主張した。この主張は、当時まだアンチ都市化時代にあった中国で、都市化そしてメガロポリス化の突破口を開いた。

 2001年からの22年間で、中国の都市人口は倍増し、市街地の面積は3倍となり、GDPは11倍となった。大量の人口が珠江デルタ、長江デルタ、京津冀に流入し、メガロポリスはすでに中国の現実となっている。

3.EVの三大革命


 2009年、私は新華社の『環球』雑誌に『日本:電子王国の崩壊?』と題したコラムを書き、当時盛んだった日本の電子産業が衰退すると予言した。今日、かつて世界で首位だった日本の半導体、家電、パーソナルコンピュータ、携帯電話、液晶、太陽電池などの産業が日本で弱体化し、あるいは消失した。

 2010年には『トヨタの真の危機』と題したコラムで、「旧来の産業環境と生産モデルで頂点に達したトヨタは、やがてテスラやBYDなど新興電気自動車メーカーの衝撃を受ける」と予測した。この予言は、13年後の今日、現実となった。

 現在の電気自動車はどのような状態にあるのか?今年上半期において、全世界で最も売れた電気自動車のトップ20モデルのうち、中国のEVメーカーが13モデルを占め、トップ20モデル売上台数の57%に上った。同じ期間に、世界で最も多くの電気自動車を販売したトップ20のメーカーで中国は8社を占め、トップ20メーカー売上台数の49%に達した。EVは自動車産業の競争メカニズムを変え、中国を世界最大の自動車輸出国に押し上げた。

 世界のメインボードに上場する62社の自動車メーカーの中で、特に注目すべきは、テスラとBYDの2つの電気自動車企業である。前者は主力工場が中国にあり、後者は中国企業そのものである。テスラは世界の自動車企業時価総額で第一位、BYDは第三位である。両社の合計で、世界の62社の自動車大手の時価総額の41%を占めている。

 電気自動車は三つの大きな革命を引き起こしている。第一はエネルギー革命で、自動車のエンジンを無くしただけでなく、自動車の再生可能エネルギー利用をスムーズにした。第二はAI革命であり、自動運転技術が自動車の在り方を根本的に変えた。第三は製造革命であり、従来の燃料車の部品は約3万個あったが、EVはエンジンを無くしたことで、部品数を三分の一減らした。テスラはさらに残りの部品を半減させた。これは自動車製造プロセスにおける革命である。

4.スタートアップ企業の牽引


 EVにおける三大革命は、「ムーアの法則」が自動車分野に波及した結果である。では、「ムーアの法則」が建設分野にも波及可能かというと、それは建設分野に強力なスタートアップ企業が現れるかどうかにかかっている。先に述べたように現在、「ムーアの法則」駆動時代を牽引するのはスタートアップ企業である。イノベーションと創業が鍵である。自動車産業の大変革を起こしたテスラとBYDの両社ともスタートアップ企業である。

 1989年、日本経済が最も華やかだった時代に、世界の時価総額ランキングトップ10企業のうち7社が日本企業であったが、そのリストにスタートアップ企業は無かった。同リストで最もイノベイティブなIBMは既に100歳に近かった。それに対して今、世界の時価総額ランキングトップ10を見ると、アップル、マイクロソフト、グーグル、アマゾン、エヌビディア、テスラ、フェイスブック、TSMCと、スタートアップ企業が8社も占めている。その中で、最古参は1975年設立のマイクロソフトで、最年少は2004年設立のフェイスブックである。

 企業競争の論理は完全に変わり、スタートアップ企業という新種がパラダイムシフトを牽引している。

5.建設業が抱える三大課題


 では、建設業が直面する問題は何か?私は三つの根本的な問題があると考えている。一つ目は建築物の高いエネルギー消費であり、二つ目は建築物の短い寿命であり、三つ目は建築プロセスの低効率と高コストである。建設業貿易の度合いの低さが高コストの一因である。

 新型コロナパンデミック前の中国では、3年間のコンクリート消費量がアメリカの過去100年の総消費量の1.5倍に相当した。2017年の中国のセメント生産量は、世界の他の国々の総量の1.4倍に等しかった。量的に言えば、中国の建設業は確かに栄光の時を経験した。

 建築物の寿命は短く、建てるのも多ければ、取り壊すのも多い。2020年の中国の建設ゴミは30億トンにも上り、中国の都市ゴミの30%から40%に相当する。また、中国の建設ゴミの資源化利用率は非常に低く、わずか5%に過ぎない。

 東京の経験からは別の問題が見て取れる。2010年の東京の二酸化炭素排出量のうち、建築物から53%、運輸部門から33.7%、産業部門からが10.9%を占めていた。東京は省エネルギーとCO2排出量削減を比較的うまく行っている都市であり、10年間の努力により2021年までに運輸部門と産業部門からのCO2排出量の占める割合はそれぞれ16.5%と7.2%に抑えられた。それに反して、建築物からの割合は73%に上昇している。一大エネルギー消費センターとしての建築物は、省エネルギーとCO2排出量削減に大きな遅れをとっている。

6.建設業も「ムーアの法則」型産業に


 現在、世界のメインボードには98社の建設会社が上場している。しかし、同98社の、世界のメインボード企業時価総額の全体に占める割合はわずか0.7%に過ぎない。

 また、これら98社の時価総額に占める中国企業の割合は13%であり、アメリカの30%やフランスの15%には及ばない。沸騰する世界最大の建設市場中国がトップクラスの建設企業を生み出していないのは奇妙な現象である。日本に目を向けると、同国の時価総額上位50社の中にそもそも建設企業は存在しない。

 上記の一連の数字は、世界最大の産業の一つである建設業が、革命的なイノベーションの欠如により、資本市場に低く評価されていることを示している。

 現在、世界の1,178社ユニコーン企業の中に建設会社は見られず、建設分野ではスタートアップ企業の飛躍を未だ見ない。

 建設業の道のりはまだ長い。建設コストを大幅に削減し、建築物のエネルギー消費を大幅に下げ、建物のエネルギー自給自足を実現し、人々がより快適で高品質な生活を送れるようにする必要がある。

 最後に今一つ予言を述べたい。建設業も「ムーアの法則」駆動型産業になると私は考えている。低炭素革命、材料革命、工業化と貿易化の革命、この三つの革命が建設業に新たな未来を切り開くに違いない。これが中国で率先して実現され、さらに土木建築で知られる母校湖南大学がこの革命の旗手となることを期待したい。


【日本語版】『周牧之:建設業はEVに続き、大変革を遂げるか?』(チャイナネット・2023年11月17日)

【中国語版】『周牧之:建筑业能否继电动汽车之后蝶变?』(中国網・2023年11月2日)

【英語版】Will construction industry transform?(China.org.cn・2023年11月15日)

 

【講義】 阮蔚 vs 周牧之:誰が増え続ける世界人口を養うのか?

レクチャーをする阮蔚氏

■ 編集ノート: 

 東京経済大学の周牧之教授の教室では、リアルな学びの一環として第一線の経営者や研究者、ジャーナリスト、官僚らをゲスト講師に招き、グローバル経済社会の最新動向を議論している。2023年5月18日、農林中金総合研究所理事研究員の阮蔚氏を迎え、講義していただいた。

 緑の革命と貿易拡大によって支えられた世界食糧供給体制と、戦争などがもたらす食糧危機について議論した。


■ ローマクラブの「成長の限界」


周牧之:きょうは世界の食糧と農業に関して深い知識を持つ阮蔚氏を招き、世界の食糧需給バランスと主要国の政策の変遷について講義いただく。その前に、私から現在の世界食糧需給の背景について説明したい。

 1972年、ローマクラブという欧米のエリートが集まる学術団体から『成長の限界』というレポートが公開された。同レポートは、地球がこれ以上の人口を支えられないと予言し、警告したもので、大きな反響を巻き起こした。その内容は当時の政策立案者たちの重要な道標となった。

 同レポートの警鐘にもかかわらず、世界人口は1972年から現在に至るまで倍増し、今もなお増加し続けている。

 『成長の限界』で大きな問題として取り上げられたのが食糧供給問題だが、同レポートの憂慮をよそに、世界食糧供給は増え続けた人口を養えただけでなく、いまや供給過剰になっている。

■ 人類の繁栄を支えた「緑の革命」


周牧之:世界食糧供給を拡大させた要因は主に二つある。一つ目は「緑の革命」だ。「緑の革命」については解釈が様々あるが、基本的には、化学肥料や農薬、品種改良、灌漑施設、遺伝子組み換え、機械化、組織化などの導入を通じて、農業の生産性向上をはかったものである。

 グラフ「緑の革命:単位面積当たりの穀物生産量が大幅に向上」の作成にはかなりの時間を費やしたが、非常に興味深い。『成長の限界』より遡る1961年のデータから始め現在まで、世界の穀物生産用地面積は、たった14%しか増えていない。それに対して人口は1961年から2.5倍に増えた。これに対して、穀物の生産量は、人口の増加率を超え、なんと250%増、すなわち3.5倍になった。穀物生産量増大の最大の要因は、単収(単位面積当たり収穫量)が急激に増加したからだ。言い換えれば、土地の生産性が劇的に向上した。これは「緑の革命」の成果である。

■ 農産物のグローバル・トレード


周牧之:増大し続ける地球の人口を養うもう一つの要素は、農産物の貿易だ。農産物貿易アイテムとして、金額ベースで多いものから順に、園芸作物(野菜、果樹、花など)、油用種子、穀物、肉類、そして魚介類・水産物となる。

 農産物輸出量が最も大きい国は順に、アメリカ、ブラジル、オランダ、ドイツ、中国だ。一方、最も多く輸入している国は中国、アメリカ、ドイツ、オランダ、そして日本となる。

 農産物の二国間貿易において、取引量がトップ5に入る組み合わせを見てみると、最も多いのはブラジルから中国への貿易だ。次いで、アメリカから中国への取引、メキシコからアメリカ、オランダからドイツ、そしてカナダからアメリカへの貿易、と続く。

 こうした大規模でかつ複雑な農産物の貿易と、「緑の革命」によって、我々の生活は支えられてきた。「化学肥料貿易フロー」のグラフが示すように、実は、「緑の革命」自体も、化学肥料貿易に支えられている。

 ところが、1年前のロシアによるウクライナ侵攻は、世界の食糧供給システムを大混乱させた。石油の価格と同様に、穀物価格は急騰した。今は少し落ち着いてきたが、「食糧危機」という近年忘れ去られていた政策イシューが、再び浮上してきた。

 本日のゲスト講師、阮さんに、この複雑な世界の食糧事情について講義していただく。

■ 2022世界食糧危機は人災


阮蔚:周先生が只今説明された世界食糧問題の全体像の詳細について、また、なぜそうなったのかについて、少々時間をかけて説明したい。主に私の著書『世界食料危機』の要点を抽出してお伝えする。

 日本にお住まいの方にはあまり感じられないと思うが、実は世界ではいま食糧危機が発生している。まずはその現状から説明したい。

 昨年、人為的な要因により世界的な食糧危機が発生した。国連食糧農業機関(FAO)、世界食糧計画(WFP)などの報告によれば、2022年に紛争や自然災害で深刻な食糧不足に陥った人々(急性飢餓人口)の数が、過去最多の2億5,800万人に達した。これは日本の人口の倍にあたり、前年に比べて6,500万人増加したことになる。

 この状況はなぜ生じたのか、周先生の説明の中にも含まれていたが、要因の一つに、食糧価格の急騰が挙げられる。昨年、ロシアのウクライナ侵攻によって小麦の国際価格は史上最高値を記録した。

 ロシアとウクライナは近年、世界有数の小麦輸出国となり、両国の小麦輸出量は世界全輸出量の約3割も占めるようになった。ところが、戦争によって両国の小麦は輸出できなくなり、小麦の国際価格が高騰した。小麦の自給率が低く輸入に頼るアフリカなど途上国は、輸入量の減少で大きな打撃を受けた。

 しかし、近年の世界全体の小麦生産量と輸出量、及び期末在庫は中長期的スパンでみると決して低い水準ではない。つまり、世界には「モノ」が存在している。飢餓問題は単に食糧不足や農業問題だけで片付けられない。それより遥かに広範囲で複雑な課題を抱えている。これらの問題を理解するためには多角的な視点が必要となる。

 経済学を専攻している皆さんなら、飢餓問題が食糧供給の問題だけでなく、分配の問題、政治的問題でもあることをすぐに思い起こすだろう。

 例えば、充分な食糧が存在しながらも、不平等な分配やアクセスの格差が原因で、一部の人々が適切な食糧を得られない状況が生じる。また、政治的混乱や紛争は、食糧の生産、輸送、分配にネガティブな影響を与え、飢餓を引き起こす原因となり得る。

 よって、飢餓問題はただ食糧不足の問題というより、むしろ社会経済的な問題、政治的問題としての側面を持つ。ここで私が特に強調したいのは以上の点だ。

レクチャーをする周牧之東京経済大学教授

コメ価格の圧倒的な安定性


阮蔚:2022年に世界の食糧は不足していなかった。そう言い切れる一つのデータがある。それは、世界のコメ価格と小麦価格の関係性を示したデータだ。これまでの数十年間に、コメ価格は一貫して小麦価格を上回っていた。ところが、昨年は世界全体で食糧危機が叫ばれていたにもかかわらず、世界のコメ価格は大きく上がらなかった。さらに、昨年小麦価格が史上最高値を記録した同時期に、小麦価格がコメ価格を上回る逆転現象が発生した。これは、世界では食糧という「物資」が不足していないことを示している。

 小麦とコメは世界の2大主食穀物だ。ただ、世界の多くの国で消費している小麦に比べて、コメは主としてアジアの主食となっている。またアジアのコメは自給自足の色合いが強く、生産量に対する輸出比率は低い。

 アジアの特徴は人口の多さと、その農業規模の小ささだ。零細農家が大半を占めることから、コメの価格が小麦より高い。

 小麦の輸出国は主として米国や欧州、豪州等先進国であり、生産は大規模化・機械化が進み、一般的に小麦の価格は低めに推移していた。

 昨年、その傾向が逆転し小麦の価格が急上昇したが、コメの価格はほとんど変わらなかった。モノ(物資)としての食糧は十分に存在していたからだ。コメの価格は今年に入ってから少し上昇している。昨年の肥料や燃料の価格高騰伴い、コメの生産コストが上がったことが、コメの価格上昇につながった。

■ 貿易財としての小麦


阮蔚:麦のもう一つの特徴は、小麦が貿易材としての役割を果たしている点だ。世界の全体的な輸出比率を見ると、小麦(赤い折れ線)は常に2割以上を占めており、近年ではおよそ25%になっている。これはつまり、小麦生産の2割以上は輸出のためであることを示している。特にアメリカでは、生産される小麦の約半分が輸出用に供されている。

 一方、コメの輸出比率は数パーセントに過ぎない。近年、僅かながら増加傾向にあるが、1961年から2020年までの半世紀以上にわたり、コメの輸出比率は4%から6.9%にでしかない。これは、コメが主に自給自足で用いられ、貿易材としてはあまり重視されていないことを意味する。中国やインドに代表されるアジアの国々では、コメの完全な自給を目指しており、わずかな過不足の調整としてコメを輸出入している。

 輸出量を見ると、小麦は折れ線グラフで示され、下のブルーのラインは米を示している。近年特徴的なのは、トウモロコシと大豆の輸出量が急激に増えていることで、これは中国の影響が大きいと考えられる。

 世界の主要な小麦輸出国に目を向けると、歴史的に長期にわたってのリーダーはアメリカで、これに欧州、カナダ、オーストラリアが続いた。21世紀以降、ロシアとウクライナからの輸出が増加し、2014年以降ロシアがアメリカに代わり世界最大の小麦輸出国となった。

■ 「マルサスの罠」の克服


阮蔚:この半世紀で世界の人口は2.1倍に増えたが、それに伴い穀物生産量は2.5倍、化学肥料の使用量は2.7倍に増加した。これは化学肥料の投入増加により、穀物の増産が可能になり、それによって世界の人口が維持されていることを示している。多くの地域で化学肥料が効果を発揮するための灌漑設備が必要となり、世界の灌漑面積も同様に拡大した。つまり、世界全体でみると、私たちが「マルサスの罠」を克服してきた事実が浮かび上がる。

 化学肥料の輸出は、首位はロシア、次いでベラルーシが多い。一方、アフリカやブラジル、アジアなどの途上国の多くはロシアからの化学肥料輸入に依存している。しかし、現在、米欧がロシアの化学肥料輸出に制裁に近い措置を実施しているため、ロシアの化学肥料輸入に依存する多くの途上国の食糧生産に、影響を及ぼす可能性がある。

レクチャーをする阮蔚氏

■ 異常気象が食糧生産に影響


阮蔚:今、私たちはまた別の重大な問題にも直面している。それは食糧生産における気候変動のリスクだ。以前は「異常気象」と称されていた現象が、近年では常態化し、事実上の「新常態」になりつつある。

 昨2022年の急性飢餓人口のうち、自然災害に起因するのは約6,000万人にものぼった。これは日本の人口の半分に匹敵する数だ。対して2021年の自然災害が原因となる急性飢餓人口は、それの半分程度だった。では、昨年何が起こったのか。一つの要因として挙げられるのが、「アフリカの角」(エチオピア、ソマリア、ケニア、ジブチ、エリトリア等、アフリカ大陸東部の地域)における連続する干ばつだ。これが5期連続となったのは、歴史を見ても初めての事態で、私たちが新たに直面する大きな課題である。

 2022年はまた、世界の三大河に干ばつが発生した。北半球にある三つの大河すなわちライン川、ミシシッピ川、中国の長江が、昨年、同時期に干ばつに見舞われた。これは記録史上初めての現象だ。昨年は干ばつだけでなく、パキスタンなどで大洪水が発生した。干ばつも洪水も、食糧生産に大きな影響を及ぼした。

■米欧の農業「補助金」とアフリカの小麦輸入依存


阮蔚:世界の飢餓に苦しむ人口は、主としてアフリカや中東、南アジアの途上国で増えている。なぜこのような状況になったのか。それはこれら途上国がロシアやウクライナなどからの輸入小麦に大きく依存しているからだ。国別でみると、エジプト、トルコ、ナイジェリア、イエメン、タンザニアなどはロシアとウクライナの小麦の主な輸入国だ。

 国連食糧農業機関が昨年11月に出したレポートによると、昨年10月まで、先進国の食糧輸入量は増加したが、途上国の食糧輸入量は前年比10%も減少している。まさに昨年、アフリカなどの途上国の食料輸入減により、これらの国々で飢餓人口が増えた。

 では、なぜアフリカが輸入に大きく依存しているのか、そしてなぜアメリカとEUが最大の輸出国と輸出地域となっているのか。

 主な要因は米欧の農業分野における巨額の「補助金」にある。EUを例に取れば明らかだ。EUの予算のうち、1990年代までは農業予算が6割から7割を占めていた。1990年代以降、EUは度重なる改革により、農業予算のウエートを低下させたものの、依然として約4割を占めている。アメリカも手厚い農家所得支持措置を採っている。

 こうした補助金の下でアメリカとEUの農家は、穀物の市場価格が下がっても生産が続けられる。主として米欧の穀物供給過剰により、世界は長い間、「穀物供給過剰と価格低迷」という構造問題を抱えている。

 過剰小麦は主としてアフリカに輸出された。言い換えればアフリカは欧米の過剰小麦のはけ口となった。アフリカの主食はもともと非常に多様で、キャッサバやトウモロコシ、バナナなどが今日でも主食だ。また、キャッサバとトウモロコシは粉にして食べる習慣がある。しかし、米欧などからの輸入小麦の拡大により、アフリカの都市部ではこうした多種多様な主食の習慣が廃れつつある。

■ 終焉を迎える米欧の穀物供給過剰


阮蔚:世界は長い間、主として米欧が主導する穀物供給過剰と価格低迷という構造問題を抱えていたが、こうした米欧の穀物供給過剰の状況は終焉を迎えようとしている。要因の一つは世界の飼料原料需要が人間の主食穀物の需要を上回るスピードで増えていることにある。

 1980~2020年までの40年間、世界の主食穀物(小麦とコメ)生産量の年間平均伸び率は、同期間の人口伸び率に見合う程度の伸びしか達成していない。だが、飼料原料となるトウモロコシ生産の年間平均伸び率は2.7%、大豆は3.8%といずれも人口伸び率を大きく上回った。同期間の世界の食肉(鶏肉、豚肉、牛肉)生産量が2.5倍に拡大したことは、トウモロコシと大豆の生産急拡大を支えていることを示す。また、こうした食肉生産の拡大を支えるのは、主として中国やベトナムなどのアジアの食肉需要増加だ。

 一人当たりの食肉消費量をみると、2019年は、アメリカが依然として最も多い。一方で、中国も食肉消費量が増加し、一人当たり64kgに達した。ミャンマーは62kg、ベトナムは57kg、マレーシアは54kgといずれも日本の51kgを上回る。

 中国の食肉増産を支えているのは国内のトウモロコシ生産拡大と大豆の輸入増だ。中国は2000年に世界最大の大豆輸入国となり、2012年以降世界大豆輸入の6割も占めるようになった。近年、インドネシアやベトナムなどアジア諸国の大豆輸入も増加している。今後、途上国での食肉需要が増える中、世界の飼料穀物の生産及び貿易も拡大するとみられる。

■ バイオ燃料による穀物需要の拡大


阮蔚:米欧先進国が主導する世界の穀物供給過剰状況が終焉を迎えているもう一つの要因は、米欧主導の穀物によるバイオ燃料の消費拡大だ。バイオ燃料とは、トウモロコシや大豆など再生可能な有機性資源(バイオマス)を原料に、発酵、搾油、熱分解などによって生産した燃料を指す。現在、バイオ燃料の代表格はバイオエタノール(アルコール)とバイオディーゼルで、それぞれ自動車など輸送用燃料のガソリンとディーゼル油に混合して使われている。

 アメリカで2005年に成立した「2005年エネルギー政策法」では、トウモロコシ由来を主とするバイオエタノール等の再生可能エネルギー使用を義務付ける「再生可能燃料基準 (RFSⅠ= Renewable Fuel Standard)」の導入が決定された。自動車燃料に含まれるバイオ燃料の混合基準量(製油業界に義務付けるバイオ燃料の混合目標量)が義務化されたことで、2005年からトウモロコシ由来のバイオエタノール生産が急増し、2006年以降、アメリカは世界最大のバイオエタノール生産・消費国となった。

 同時に、EUは世界最大のバイオディーゼルの生産・消費地域となった。アメリカのバイオエタノールの原料はトウモロコシ由来で、EUのバイオディーゼルの原料は主として菜種油由来となっている。

 USDAのデータによると2021年、アメリカでバイオエタノール向けのトウモロコシ使用量は1億3076万㌧と生産量の34.1%にも達しており、これはアメリカの畜産飼料(1億4288万㌧)と肩を並べる需要で、輸出量6350万㌧の2倍以上を占めた。生産量に占める輸出の割合は2005年の19.2%から2021年の16.4%と低下をたどり、アメリカのトウモロコシ輸出拡大の意欲は大幅に弱まっている。

 さらに、近年、注目すべきは、バイオ燃料が地球温暖化対策の柱であるカーボンニュートラルへの大潮流のさなかにあることだ。バイオ燃料は自動車などに使えばCO2を排出するものの、もとは大気中のCO2を光合成で吸収、固定化した原料から製造されたもので、CO2を排出しても吸収分と相殺されると見なされ、カーボンニュートラルの燃料とされる。

 米国環境保護庁(EPA)は昨年、トウモロコシだけでなく大豆油を持続可能な航空燃料(SAF)の主な燃料にする目標を発表した。

 バイオ燃料需要が新たに増大している今、穀物輸出大国アメリカは今後、穀物の輸出を抑え、国内市場回帰により一層傾く可能性がある。穀物供給過剰時代の終焉を迎えつつある。

 世界はまさに食糧安全保障強化の時期に来ている。世界各国の穀物増産、食糧自給自足向上の動きは、大きな流れとなるだろう。世界が巨大な人口を養うためには、穀物の輸出入は欠かせない。現在進みつつある「世界の分断」とは異なる「開かれたグローバル穀物市場」を、世界は維持していく必要がある。

ディスカッションを行う周牧之東京経済大学(左)と李海訓東京経済大学准教授(右)

■ 質疑応答


周牧之: 緑の革命は、農業、とくに小麦産業を大規模な資本投入産業へと変貌させた。よって、アメリカとEUは補助金の投入で、強い生産体制を築いた。その捌け口がアフリカなどの途上国となった。しかし、中国をはじめとするアジアの飼料需要の急増や、バイオ燃料という新ニーズの出現によって、欧米にとってのアフリカ市場の重要さが失われた。そこの穴を埋めたのがロシアとウクライナの小麦の輸出であった。しかしロシアのウクライナ侵攻により、この輸出が急速に減少し、アフリカを食糧危機へと陥れた。

 きょうのゲスト講義に参加された本学の農業経済学専門の李海訓准教授から質問やコメントをいただきたい。

李海訓:2000年代末の穀物価格高騰時、インドやサウジアラビアをはじめとする世界の大手穀物メジャーや投資家が新たな投資先を探していた時期、未開発または開発可能な地域は、アフリカ、南米、ウクライナの3つだったと理解している。その中で、ウクライナが開発対象として選ばれた理由は、南米やアフリカに比べ、ウクライナには旧ソ連時代の灌漑施設を含むインフラがある程度整っていたからだ、というのが私の理解だ。今日の講義で阮先生はウクライナには灌漑施設がないとのお話があった。これは、特定の地域に限定された話なのか、それともウクライナ全体を指すのか、詳細をお聞きしたい。

阮蔚:ご指摘いただいた通り、ウクライナには旧ソ連時代に、コルホーズ(旧ソビエト連邦の集団農業制度の一部で、共同所有と共同労働に基づいた農業生産協同組合)など、中国の人民公社に似た組織が存在し、ある程度の灌漑設備が整備されていた。しかし、ソ連解体後、これらのインフラへの再投資が行われず、老朽化により使用不能な状態のものも多い。これは、新たな投資が必要という事態を示している。なお、当時の輸出は少なく、輸出用の港などは限られていた。そういったインフラの整備も必要だ。

会場:ウクライナへの投資について、中国は投資を行った一方で、日本は投資を見送ったとのこと、その選択の背後には、ウクライナ産小麦の品質が影響しているのか。

阮蔚:確かにその視点もあるが、日本が投資しなかった大きな理由は、日本の穀物輸入が大部分をアメリカから依存している事実があると思う。

レクチャーをする周牧之東京経済大学

■ 「開発輸入」による農産品貿易の安定化


周牧之:農産品貿易を安定化させるために「開発輸入」という考え方がある。これに基づき私は20〜30年前、シルクロード沿いでパイプラインを敷設しカスピ海から石油や天然ガスを中国まで引く大規模プロジェクトを計画した。日本、中国、韓国が共同で参画し、沿線開発を進めるアイデアだ。同プロジェクトでは、エネルギーだけでなく食糧の「開発輸入」も行う。当時、中国はまだ食糧の輸出国だったが、中国がいずれ大輸入国になるとの予測があった。それを前提に作った大型プロジェクトだった。

 プロジェクトに当時の小渕恵三内閣と江沢民政権が賛同し、両国間で、ロシアから中央アジアを経由して中国に石油、天然ガス、穀物を供給する包括的な大プロジェクトが動き出した。しかし後に、日本はプロジェクトから降りた。もっとも、中国は、プロジェクトを続行し、新疆から始めて次第にロシアに向けてパイプラインを伸ばした。開発輸入という考え方も、中国の食糧調達の基盤となり、やがて一帯一路政策に組み込まれていったのだと私は思う。

周牧之『現代版「絹の道」、構想推進を―欧州から日本まで資源の開発・輸送で協力―』、日本経済新聞経済教室、1999年4月1日

■「資本集約型産業」に変貌した農業


周牧之:「緑の革命」に話を戻すと、農業が「資本集約型産業」に変貌したことが重要な要素だ。つまり、大きな投資を必要とする産業になったということだ。グラフ「農業の労働生産性:一人当たり農業付加価値額」が示すように、世界各国の農業労働者一人当たりの付加価値額、すなわち労働生産性を見ると、所得の高い国ほど、労働生産性が高いことがわかる。アフリカのような低所得国と先進国との間には、約50倍の差がある。すなわち農業は資本が投入されれば、付加価値も相応に増える「資本集約型産業」だ。

 結果、資本が乏しい国々では食糧供給が問題となり、先進国への食糧供給依存が深まり、構造的な問題が浮き彫りになる。

 グラフ「カロリー供給と繁栄:平均寿命と一人当たりGDP」が、経済力と平均寿命との間の強い相関関係を示している。カロリーをしっかり供給できる国で平均寿命も長くなっている。

■ 「緑の革命」の恩恵と課題


周牧之:しかし「緑の革命」には未だ解決すべき多くの課題が残っている。大いに成果を挙げ、人口増を支えてきた一方で、農地の過度な開発、化学肥料の過剰使用、農薬問題、種子会社の独占、遺伝子組み換えなど、多くの課題もある。これは地球全体の大きな課題であり、日本経済や中国経済について考える際も、無視できない。


プロフィール

阮 蔚 (ルアン ウエイ)
農林中金総合研究所 理事研究員

中国・湖南省生まれ。1982年上海外国語大学日本語学部卒業。1992年来日。1995年上智大学大学院経済学修士修了。同年農林中金総合研究所研究員。2005年9月~翌年5月米国ルイジアナ州立大学アグリセンター客員研究員。2017年より現職。ジェトロ・日本食品等海外展開委員会委員(2005・2006年度)、アジア経済研究所調査研究懇談会委員(2004年7月~2006年6月)、関税政策・税関行政を巡る対話委員(財務省、2002年度)。

【ランキング】中国メガロポリスの実力:〈中国都市総合発展指標〉で評価

雲河都市研究院

編集ノート:中国の社会経済発展をリードする長江デルタ、珠江デルタ、京津冀の3大メガロポリスを始め、中国にはいま大小どれほどの数のメガロポリスが存在しているのか?それらのメガロポリスをどう評価するのか?現在最も実力のあるメガロポリスは?雲河都市研究院は、〈中国都市総合発展指標〉を用いて、メガロポリスの発展に対する総合的な評価を試みた。


 中国政府の計画の中で、「メガロポリスは中国新型都市化の主要な形態」とされている(【メインレポート】メガロポリス発展戦略を参照)。雲河都市研究院は、中国都市総合発展指標2021(以下、〈指標〉)を使い、現行の政府計画での19メガロポリスのうちトップ10のメガロポリスに対して総合的な評価を行い、その実力と課題を評価した。長江デルタ(上海・江蘇・浙江・安徽)、珠江デルタ(広東)、京津冀(北京・天津・河北)、成渝(四川・重慶)、長江中游(湖北・湖南・江西)、粤閩浙沿海(広東・福建・浙江)、山東半島(山東)、北部湾(海南・広西)、中原(山西・安徽・河南)、関中平原(陝西・甘粛)の10メガロポリスは、173の地級市以上の都市(日本の都道府県に相当)を含み、人口とGDPの全国シェアはそれぞれ69.9%と77.7%に達し、中国の社会経済発展の最も主要なプラットフォームとなっている(〈指標2021〉について詳しくは、【ランキング】メガシティの時代:中国都市総合発展指標2021ランキングを参照)

 これについて、中国国務院新聞弁公室元主任の趙啓正氏は、「今回の〈指標〉の一大特徴は、メガロポリスに焦点を当てた分析である。これは、私が長い間〈指標〉研究に期待していたことである。メガロポリスは現在、中国の都市化における主要な形態となっており、長江デルタ、珠江デルタ、京津冀の3大メガロポリスの波及効果は広く認められている。〈指標〉が10メガロポリスの総合力、発展形態、課題に対して行った分析と評価は、メガロポリス政策をどう理解し、都市発展をどう考えるかという点で貴重な価値を持つ。中国の各都市の指導層や社会学者にとって大きな関心と注目を払うべきものである」と称賛する。

1.一人当たりGDP優位指数によるメガロポリスの分類


 一人当たりGDP優位指数(Competitive Advantage Index:一人当たりGDP / 全国一人当たりGDP平均値 × 100)に基づき、10メガロポリスを3つのタイプに分類することができる。すなわち、①一人当たりGDP優位指数が100を大きく上回り、他の地域に比べて強い経済優位性を持つメガロポリス、②指数が100前後のメガロポリス、③指数が100を大幅に下回るメガロポリスの3分類である。

 長江デルタ、珠江デルタ、京津冀の3大メガロポリスの一人当たりGDP優位指数は、それぞれ171、158、124である。すなわち、3大メガロポリスは第1分類に属し、全国におけるこれらGDP総量のシェアは36.6%に達する。強い経済優位性が、全国各地から大勢の人々を引き寄せている。現在、長江デルタ、珠江デルタ、京津冀に住む流動人口(非戸籍の常住人口)は、それぞれ3,186万人、3,909万人、908万人に上る。この3大メガロポリスは、10メガロポリスの中で唯一、人口純流入があるグループである。

 特に、珠江デルタメガロポリスの9つの都市のうち、人口純流出は1都市だけである。最も深圳では、常住人口のうち非戸籍人口の割合が66.3%にも達している。

 長期にわたり大量の人口が流入することで、全国における3大メガロポリス常住人口のシェアは23.5%に達する。周牧之東京経済大学教授は、「3大メガロポリスが中国の発展を牽引しているのは議論の余地がない。いま、中国人口のほぼ4分の1が3大メガロポリスに住んでいる。若年層の移住者のおかげで、珠江デルタと長江デルタの労働力人口(15〜64歳)の比率は、それぞれ72.9%、65.2%に達し、若い人口構造がこの2つの地域に強力な活力を与えている。しかし、京津冀の労働力人口比率は62%であり、全国平均の63.4%を下回る」と指摘している。

 成渝、長江中游(詳しくは、【レポート】中心都市から見た長江経済ベルトの発展を参照)、粤閩浙沿海、山東半島の4つのメガロポリスの一人当たりGDP優位指数は、それぞれ91、103、102、101で、全国平均水準付近を維持し、第2部類に属している。3大メガロポリスの強力な吸引効果のもと、これら4つのメガロポリスは人口純流出地域となっており、成渝、長江中流、粤閩浙沿海、山東半島の人口流失は、それぞれ723万人、781万人、359万人、20万人に達している。

 北部湾、中原、関中平原の3つのメガロポリスの一人当たりGDP優位指数は、全国平均水準よりもかなり低く、それぞれ69、68、73で、第3部類に属している。経済水準の格差が大量の人口流失を引き起こし、北部湾、中原、関中平原の流失人口はそれぞれ521万人、2,474万人、169万人に達している。

図1 〈中国都市総合発展指標2021〉で見た10メガロポリス総合評価

2.中心都市と一般都市の相互作用がメガロポリス発展の鍵


 〈中国都市総合発展指標は、全国297の地級市以上の都市すべてをカバーし、環境、社会、経済の3つの側面から中国の都市の発展を総合的に評価する。882のデータセットで構成された27の小項目、9の中項目、3の大項目から構成されている。〈指標〉では、偏差値を用いて各都市が全国のどの位置にあるかを評価する。偏差値により、さまざまな指標で使用される単位を統一された尺度に変換して比較できる。環境、社会、経済の3つの大項目の偏差値を重ね合わせた総合評価における偏差値の全国平均値は150である。

 各メガロポリスの発展水準の分析を可視化するために、本文では10メガロポリスに含まれる173都市の〈指標2021〉総合評価偏差値をメガロポリスごとに箱ひげ図と蜂群図を重ねて分析し、各メガロポリスの都市総合評価偏差値の分布状況と差異を一目できるようにした。

 箱ひげ図中の横線は、サンプルの中央値、箱の上辺は上位四分位点(75%)、箱の下辺は下位四分位点(25%)、箱本体は50%のサンプル分布を示している。蜂群図は、個々のサンプル分布をプロットした図である。箱ひげ図と蜂群図を重ね合わせることで、サンプルのポジションと全体の分布の双方を示せる。

 図1に示すように、10メガロポリスの総合評価偏差値の中央値では、珠江デルタと長江デルタだけが全国平均値を上回り、中でも珠江デルタのパフォーマンスは長江デルタよりもはるかに高い。

 長江デルタには、上海杭州南京寧波合肥の5つの中心都市がある(詳しくは、「【メインレポート】中心都市発展戦略」を参照)。中心都市の数では中国のメガロポリスの中で最も多い。とくに上海の総合ランキングは中国第2位である。一方、珠江デルタには広州深圳の2つの中心都市しかなく、両都市の総合ランキングはいずれも上海の後方にある。珠江デルタにおけるメガロポリスの中央値が長江デルタよりもはるかに高いのは、仏山や東莞などの一般都市の総合評価が高いことに因る。珠江デルタメガロポリスでは総合評価偏差値が全国平均水準より低い都市は1つしかない。それに対して、長江デルタメガロポリスには、総合評価偏差値が全国平均水準を下回る都市が10もある。

 これについて、深圳市元副市長で香港中文大学(深圳)理事の唐杰氏は、「中国はメガロポリスの発展時代に入った。メガシティと中小都市が空間的に協働することが、経済社会発展の新たなエンジンとなっている」と指摘する。周牧之教授は、「メガロポリスは、中心都市の強さが求められる一方で、多くの一般都市を高い発展水準に引き上げるかどうかも、その発展を評価する重要な指標である」と評している。

 この視点から見ると、京津冀メガロポリスにおける都市の格差はかなり顕著である。総合ランキング中国第1位の北京を筆頭に、直轄市の天津を含むものの、同メガロポリス総合評価偏差値の中央値は、10メガロポリスの中で8位に過ぎない。これは、もう一つの中心都市である石家庄の総合評価パフォーマンスが優れない点と、京津冀メガロポリスのすべての一般都市の総合評価が全国平均水準以下であることが原因である。 

図2 10メガロポリス常住人口比較分析

3.包容性と多様性が都市社会発展の基盤


 人は高きところを目指し、水は低きところへ流れる。中国はいま、人類史上最大規模の人口移動を経験している。10メガロポリスのうち、長江デルタ、珠江デルタ、京津冀は、唯一の人口純流入のグループであり、中国都市化人口移動の第一級の貯水池として全国から大量の人口を受け入れている。

 人口移動の第二級貯水池は中心都市である(詳しくは、「【メインレポート】中心都市発展戦略」を参照)。10メガロポリスに含まれる23の中心都市から見ると、3大メガロポリスの10の中心都市は、当然ながら人口純流入都市である。他の7つのメガロポリスの13の中心都市のうち、12都市は人口純流入であり、地域や周辺から多くの人口を吸引している。広大な地域と膨大な人口を持つ重慶だけは、中心市街地が地域内の過剰人口を吸収できず、人口純流出都市となっている。

 周牧之教授は、「大量の人口流入により、上記の10メガロポリスの23中心都市のうち、すでに14都市が人口一千万人を超えるメガシティに成長した。さらに、寧波、合肥、南京、済南など、人口が900万人を超える特大都市が控えている。これらの都市も近い将来メガシティになることが予想される」と指摘する。

 中国共産党中央財経領導小組弁公室元副主任の楊偉民氏は、「中国共産党第20回全国代表大会では、メガシティと特大都市の発展モデルの変革を加速すると提起された。これは、中国の近代化強国建設における、メガシティと特大都市の発展方向を示すものである。では何を変えるべきなのか?まず、経済発展、人間の全面的な発展、持続可能な発展という「三つの発展」の空間的均衡を促進する必要がある。そこでは、経済発展や都市建設に注力するあまり、人間の全面的な発展と生態環境保護を無視してはならない。〈中国都市総合発展指標〉は、当初から経済、環境、社会の「三位一体」の指標体系で都市発展を評価しており、これは科学的なアプローチである。次に、都市の包容性と多様性を増やし、さまざまな職業人口のバランスを保つ必要がある。ホワイトカラーだけを求めてブルーカラーを拒否し、大学生だけを求めて農民工を拒否すると、都市の発展を損なうことにつながりかねない」と強調している。

図3  10メガロポリス


【中国語版】
チャイナネット「城市群实力:来自“中国城市综合发展指标”的评价」(2023年3月24日)

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【ランキング】メガシティの時代:中国都市総合発展指標2021ランキング

雲河都市研究院

 雲河都市研究院は、中国における地級市以上の297都市(日本の都道府県に相当)を対象とした〈中国都市総合発展指標2021〉の総合ランキングを発表した。北京が6年連続トップ、上海が2位、深圳が3位となった。


 中国共産党中央財経領導小組弁公室元副主任、全国人民政治協商会議常務委員の楊偉民氏は、「私にとって親しみ深い中国都市総合発展指標が約束通り再び公表された。この指標は、誕生以来、常に新しい発見をもたらしてくれる。今回、中国都市総合発展指標2021では、都市規模別、地域別の分析が追加された。総合指標、そして経済・環境・社会的評価を用いて、都市を規模や地域ごとに分類、比較研究し、新たな知見をもたらしている。京津冀(北京・天津・河北)、長江デルタ、珠江デルタ、成渝(成都・重慶)などの地域におけるメガシティから中小都市に至るパフォーマンスが可視化されたことで、第20回中国共産党大会(2022年10月に開催)が打ち出した、メガシティと特大都市の、発展モデルの転換を加速させる政策の背景にある深い思考が窺える」と称賛した。

1.先進的なマルチモーダル指標で都市を「五感」で評価


 中国都市総合発展指標(以下、〈指標〉)は、中国の297都市を対象とし、環境、社会、経済の3つの側面(大項目)から都市のパフォーマンスを評価したものである。〈指標〉の構造は、各大項目の下に3つの中項目があり、各中項目の下に3つの小項目が設けた「3×3×3構造」になっており、各小項目は複数の指標で構成されている。これらの指標は、882のデータセットから構成されており、その31%が統計データ、35%が衛星リモートセンシングデータ、34%がインターネットビッグデータから構成されている。この意味で、指標は、異分野のデータ資源を活用し、五感で都市を高度に感知・判断できる先進的なマルチモーダル指標システムである。

 深圳市元副市長、香港中文大学(深圳)理事の唐傑氏は、「今回の〈指標〉は前年度と比較すると、総合ランキングのトップ10都市は安定しており、杭州は8位から6位に順位を上げた。中国都市勢力図では、成都、杭州、南京、重慶、蘇州が新一級の都市として安定し、北京、上海、深圳といった一級都市に追いつく勢いを強めている。〈指標〉の特徴として、経済規模、経済構造、経済効率、ビジネス環境、広域インフラ、輻射能力など9つの小項目指標が都市の経済を評価している。また、自然生態、汚染負荷、環境努力、交通ネットワークなど9つの小項目指標が都市の環境を評価している。加えて、居住環境、生活サービス、文化施設、人的交流など9つの小項目指標が社会発展を評価している。都市発展を総合的に評価するこの27の「小項目指標」は、中国都市の量的成長から質の高い発展への移行を、定量的に評価するバロメータである」と指摘する。

 指標2021総合ランキングのトップ10都市は順に、北京、上海、深圳、広州、成都、杭州、重慶、南京、蘇州、天津となっている。これら10都市は、長江デルタメガロポリスに4都市、珠江デルタメガロポリスに2都市、京津冀メガロポリスに2都市、成渝メガロポリスに2都市と、4つのメガロポリスにまたがっている。

 総合ランキング第11位から第30位は順に、武漢、西安、廈門、寧波、長沙、青島、東莞、福州、鄭州、無錫、仏山、昆明、珠海、合肥、済南、瀋陽、南昌、海口、三亜、貴陽の都市である。

 総合ランキング上位30都市のうち、24都市が「中心都市」に属している。中心都市とは4直轄市、5計画単列市、27省都・自治区首府から成る36都市である。つまり、総合ランキングの上位30位以内に7割近くの中心都市が入っており、中心都市の総合力の高さが伺える。

図1 〈中国都市総合発展指標2021〉総合ランキング トップ100都市

2.メガシティと特大都市が中国の都市発展をリード


 都市規模と発展水準の関係分析を可視化するために、指標2021では、箱ひげ図と蜂群図を重ね合わせ、タイプごとに都市の偏差値分布とその差異を比較した。

 これに対して、中国国家発展改革委員会発展戦略和計画司元一級巡視員、中国駐日本国大使館元公使参事官の明暁東氏は、「〈指標2021〉のこの試みは画期的だ。これによって、各種指標のランキングに、箱ひげ図が重ねられ、異なるタイプ都市の分布と差異が可視化された。2021年中国都市全体の発展状況が非常に正確に示されている。読者に中国都市の実力をより立体的かつ直観的に印象づける。これ自体が、一つの重要なイノベーションである」とコメントしている。

 指標2021では、都市を人口規模に応じて、人口1000万人以上の「メガシティ」、500万人以上1000万人未満の「特大都市」、300万人以上500万人未満の「第Ⅰ種大都市」、100万人以上300万人未満の「第Ⅱ種大都市」、100万人未満の「中小都市」と分類している。 この分類は、「都市規模分類基準の変更に関する中国国務院通達」の都市分類と同じだが、「通達」では「都市部人口」を用いているのに対し、〈指標〉では「常住人口」を用いている。

 直近で実施された中国第7回国勢調査のデータを用いて297の地級市以上都市を分類すると、メガシティは17都市、特大城市は73都市、第Ⅰ種大都市は107都市、第Ⅱ種大都市は79都市、中小都市は21都市となる。

 17メガシティの常住人口は2億7千万人に達し、日本総人口の2倍以上に相当する。メガシティと特大都市を合わせると90都市で、総人口は7億8,000万人に達し、これはアメリカ総人口の2倍に相当する。これについて、東京経済大学の周牧之教授は、「中国人口の半分以上がこれらの都市に住んでおり、メガシティ化、大都市化は、中国ですでに現実のものとなっている」と指摘している。

 箱ひげ図中の横線は、サンプルの中央値、箱の上辺は上位四分位点(75%)、箱の下辺は下位四分位点(25%)、箱本体は50%のサンプル分布を示している。蜂群図は、個々のサンプル分布をプロットした図である。箱ひげ図と蜂群図を重ね合わせることで、サンプルのポジションと全体の分布の双方を示せる。

 指標では、評価方法に偏差値を用い、全国での各指標における各都市のパフォーマンスを測っている。これによって、各指標で用いられる異なる単位を、偏差値という統一的な尺度で総合的に比較することが出来た。各都市における偏差値の中央値は、図2に見られるように、メガシティのみ全国平均を上回っている。環境、経済、社会の三大項目の偏差値を積み重ねた総合評価の全国平均値は、150である。図2で示すように、各タイプ都市の中で、唯一メガシティの中央値が全国平均値を超えた。

 周牧之教授は「メガシティは、疑いなく中国都市発展のエンジンとなっている。但し、メガシティの中でもその評価は芳しくない都市もある。例えば、临沂の総合評価偏差値は全国の平均値を下回った。また石家荘の総合ランキングは全国第46位である。これに対して、石家荘より180万人も人口の少ない南京は、人口規模では特大都市でありながら、総合ランキングでは第7位に輝いている」と解説する。

 これは、指標が「環境」「社会」「経済」の総合評価であることに起因している。人口規模と環境、社会、経済の三大項目との相関を分析すると、人口規模は「環境」との相関が弱く、「社会」との相関がやや強く、「経済」との相関が最も強いことがわかる。つまり、人口規模が大きい経済パフォーマンスの良い都市でも、「環境」の得点が低い場合は、総合ランキングの順位を引き下げることがある。

図2 〈中国都市総合発展指標2021〉総合ランキング 人口分類別分析

出典:雲河都市研究院〈中国都市総合発展指標2021〉より作成。

3.地域発展で先行する華東地域と華南地域


 中国は国土が広大であり、気候や地理的条件、社会発展の状況も地域によって大きく異なる。指標2021では、華北、東北、華東、華中、華南、西南、西北といった7地域の都市パフォーマンスを比較分析している。

 各地域の都市の数と人口規模を比較すると、華北は33都市で人口1.64億人、全国に占める人口シェアは11.6%である。東北は34都市で0.96億人、同6.8%である。華東は77都市で4.25億人、同30.1%と全国で最大規模の人口を抱えている。華中は42都市で人口2.14億人、同15.1%、華南は39都市で人口1.82億人、同12.9%、西南は39都市で1.71億人、同12.1%である。西北は33都市で0.79億人、同5.6%と全国で最少となっている。中国人口分布は地理的に偏在し、その重心は、沿海部と長江沿いに集中している。

 さらに、各地域の流動人口を見ると、華北は-371.3万人、東北は-400.1万人、華東は1645.9万人、華中は-126.6万人、華南は1685.0万人、西南は-974.5万人、西北は-1007.5万人で、各地域から華東、華南への人口移動が著しい。この人口移動は中国の人口分布の偏在をさらに顕著にしている。

図3 〈中国都市総合発展指標2021〉総合ランキング 地区別分析

出典:雲河都市研究院〈中国都市総合発展指標2021〉より作成。

 図3に示すように、中央値が全国平均の150を超える地域はない。東北地域は、中央値が最も低く、その中心都市4都市はいずれも総合順位が高くないと同時に、一般都市のほとんどもその低い中央値周辺に集まっている。それに対して西北地域は、総合ランキング12位の西安が同地域の中央値を引き上げている。

 総合ランキングトップの北京と同10位の天津はスコアを伸ばしたことで、華北地域の中央値が東北・西北地域の中央値より高くなっている。

 華中地域も武漢、長沙、鄭州の3つの中心都市の牽引力に頼るところが大きい。一般都市の中では宜昌だけが総合偏差値で全国平均を上回っている。

 中央値が最も高い華東地域は事情が異なる。上海に代表される中心都市だけではなく、蘇州、無錫に代表される一部の一般都市の成績も非常に優れていることから、箱ひげ図の箱のサイズが大きく、中心都市と一般都市が一体となって中央値を引き上げている。華南地域も同様で、中心都市である深圳や広州の牽引力が強いと同時に、東莞や仏山といった非中心都市の存在感も目を引く。この2つの地域では、すでに一部の一般都市が中国都市発展の最前列に並んだ。


【日本語版】
チャイナネット「メガシティの時代:中国都市総合発展指標2021ランキング」(2023年3月29日)

【中国語版】
中国網「超大城市时代:中国城市综合发展指标2021排行榜」(2023年2月21日)

【英語版】
China.org.cn「The era of megacities: China Integrated City Index releases 2021 rankings」(2023年3月14日)

中国国務院新聞弁公室(SCIO)「The era of megacities: China Integrated City Index releases 2021 rankings」(2023年3月14日)

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【フォーラム】学術フォーラム「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」

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東京経済大学・学術フォーラム
「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」

会場:東京経済大学大倉喜八郎進一層館(東京都選定歴史的建造物)
日時:2022年11月12日(土)13:00〜18:00


 東京経済大学は2022年11月12日、学術フォーラム「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」を開催、学生意識調査をベースに議論した。

 和田篤也環境事務次官、中井徳太郎前環境事務次官、南川秀樹元環境事務次官、新井良亮ルミネ元会長をはじめ16人の産学官のオピニオンリーダーが登壇し、周牧之ゼミによるアンケート調査をネタに、新しい地域共創の可能性を議論した。実行委員長は経済学部の周牧之教授が務めた。


■ オープニング・セッション


 オープニングセッションは「学生から見た地域共創ビジネスの新展開」と題し、尾崎寛直教授が司会を務めた。

 開会あいさつで岡本英男学長は「かつて一橋大学の学長を務め、その後本学で長年にわたって理事長を務めた増田四郎先生の著書『地域の思想』を想起した。明治期以降、富国強兵が要請となるなか、わが国では国民と個人という意識はあっても、デモクラシーの基本概念である市民の意識は育つ余地がなかった。このような我が国のあり方に真剣に対処するためには、一方で意識や生活感情の面で中央集権的な伝統を改め、地域社会やコミュニティの主体性を確立することが急務であり、他方ではその裏づけとして各地域における産業構造のあり方を全体との関連において、自覚的に再編成する意欲をもり立てることが要求される」と指摘した。

 さらに、「本学は誰一人置き去りにすることなく、すべての人間が尊厳と平等のもとに、そして健康な環境のもとに、その持てる潜在能力を発揮することができる社会を目指すというSDGsの理念に深く共鳴し、2021年4月1日に東京経済大学SDGs宣言を公表した。また、その後、自然産業人間生活の調和を意識した新しい地域主義のあり方を国分寺の力、世界に発信する国分寺学派の拠点となることを宣言した」と紹介した。

 挨拶した来賓の和田篤也環境事務次官は、テーマである「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」について、「非常にインパクトを受けている。『供給サイド』という言葉はあまり好きではなかったが、ちょっと好きになった。理由は、『仕掛ける』という言葉が後ろについていることにある。供給サイドの意図だけではなくて、きちんと何か目的のために仕掛ける。地域共創とは何だろう。市民のニーズとは何だろう。どんな思いを持って、どんな未来に市民は住みたいと思っているのか。これらを理解して、供給サイドは仕掛けてやろうという意気込みが感じられるテーマかと、非常に面白いと思っている。ワクワク感満載かと思っている」と感想を述べた。

 続けて、「戦略的思考としてのGXから地方共創」として、環境省の取り組みを紹介した。まず、「カーボンニュートラルはGXの中で一番バッターだ。かつては本当に温暖化するか、気候変動するかと言われていたが、2000年に入って、どんな影響があるのだろうと心配しだした。今やそれも越えて、対策のステージに移っている」と指摘。続いて、「環境省で大胆なチャレンジを試みたのが、地域脱炭素先行地域だ。なぜ地方自治体に注目したか。市民目線のことを一番しっかり本当は分かっているのは自治体ではないか。中央官庁ではない。大規模アメリカ型の畜産業が発達する北海道の十勝エリアでは、ふん尿を産業廃棄物からバイオマスエネルギーとして活用し、最後に残る『液肥』を肥料で使う」として、地域共創と環境の両立事例を紹介した。

 その後は周ゼミの学生がアンケート結果と分析を披露した。大原朱音さんは「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」に関連した問題意識を6点ほど抽出し、アンケート調査を行ったと紹介。木村竜空さんは「『国分寺市に対して愛着、親しみを抱いていますか』という設問に関し、国分寺市に愛着、親しみを抱いているという回答は、半数を超えるような結果になった。一方で、愛着、親しみを抱いていないという回答は35.6%とおよそ4割弱という結果になった」と述べた。また、国分寺市に愛着、親しみを感じる理由として一番多かったのが地方や都心へのアクセスがしやすく、交通の利便性が高いという結果になった。一方、娯楽施設の充実といった順位は低かった。

 この結果に対し、国分寺市の内藤達也副市長は「皆様にまだまだ国分寺市の魅力が周知されていない現状というのが把握できたので、どうやったら国分寺の魅力をさらに知っていただけるのかを展開していきたい」と応じた。

 周ゼミ生の前田大樹さんは学生の49.7%が国分寺マルイを利用したことがあると報告した。また、「国分寺マルイを利用しない理由」を尋ねたところ、一番多い回答は映画館などの娯楽施設が整備されていない点が挙げられたとした。周ゼミ生の荻原大翔さんは「欲しいと思うエンタメ施設について、圧倒的に多かったのは映画館であり、約6割の学生が答えた。反対に、かつて非常に人気であったパチンコは回答数が0だった」と報告した。近藤正美・丸井上野マルイ店長は「丸井としても売らないスペース、もしくは提案も考えていこうというのが方向性だ。娯楽施設まではいかないが、娯楽サービスといったところがポイントかと思う」と応じた。

 周ゼミ生の粕谷有利絵さんは「学生のエンタメへの関心度は高く、コロナ禍の反動需要でエンタメ業界には追い風が感じられる。その追い風をどう高めていくのか、さらにはエンタメと地域競争をどう考えるか」と問うた。白井衛・ぴあグローバルエンタテインメント会長は「やっと顧客が戻ってきて、7割から8割方回復しつつある状況ではないか。興行は売ったらすぐ完売というケースもあるが、まだ課題が残る」と述べた。司会を務めた尾崎寛直・東京経済大学教授は「アンケートからは、若い世代は特にモノ消費からコト消費に移っていると分かった。意味ということとか経験とか、そういうものがこの消費社会の中で価値を生み出すひとつの主軸になりつつある。そういうものが今後の地域活性化、地域共創の大きな軸になり得る」と分析した。


■ セッション1


 セッション1は「集客エンタメ産業による地域活性化への新たなアプローチ」と題し、吉澤保幸・場所文化フォーラム名誉理事が司会を務めた。

 吉澤氏は「国分寺には昔、何度か通ったことがあって、国分寺の跡地スペースをもったいないと思っていた。今、リアルとバーチャルの融合からすると、例えばぴあが始めているXRLIVEなど――アニメのキャラクターとリアルと場所を融合させライブ配信するイベント――を、ああいう跡地で国分寺市市民あるいは東経大の学生のイベントとしてやるなど考えられるのではないか」と提案した。また、「アンケートでは都会に住みたいというのと地域に住みたいというのと、自然の豊かさと娯楽がまるで代替財のようになっている。これがぜひいい補完財のように、一緒に楽しめるよっていう場を作れないか。中央線沿線の中では国分寺は非常にいいポジションにある。自然が豊かだし、そういう跡地も残っている」と指摘した。

 ぴあ総研の笹井裕子主任研究員は、公演の開催情報データーベースをもとに、東日本大震災後の8年間は年平均成長率が8.3%に達していたと指摘する。2022年はコロナ前の8割まで回復し、「23年こそはコロナ前の水準に戻る」とみる。加えて、集客エンタメ産業の社会的価値として、「地域に集める、地域に繋げる、地域を育てる」の3点を挙げた。

 日本政策投資銀行の桂田隆行地域調査部課長は「スマートメニュー」を提唱する。「きっかけは各地域において製造業系の工場が相次いで撤退し、大きな土地が空いてしまうという課題が発生した時に、それを何でリカバーしたらいいのか。その時にスタジアムアリーナが整備されれば、スポーツというコンテンツと相まって地域活性化になるのではないか。中心市街地にも貢献するのではないか」と問題意識を述べた。

 そのうえで、「スポーツ業界の人はよくよくご存じの通り、そういうものを作れば、交流人口とか町中のにぎわい創出、そして地域のシビックプライド、アイデンティティの醸成になるのではないか。もっといろんな社会的価値が登場しているような気もしている。例えば、観光や教育、健全な成長という精神的な部分も考えられる」と指摘した。

 コメンテーターを務めた南川秀樹・日本環境衛生センター理事長は「2週間前に実は水戸マラソンを走ったのだが、8,000人以上の人が集まって、ずっと音を立てながら走り回る。コミュニケーションだと強く感じた。国分寺地域としても、スポーツなり、エンタメなり、仕掛けができないか」と問題提起した。


■ セッション2


 セッション2は「地域経済の新たなエンジン」と題し、周教授が司会した。

 まず、パネリストの中井徳太郎・前環境事務次官が「アンケートでは、まったくSDGsネイティブだというデータが出た。一方、都市と地方でどっちに暮らすかというところで、65%が都市に住みたい、35%が地方という。若い世代の意識はSDGsの大事さ、地球の危機とかそういう自然環境やさまざまな問題の危機への問題意識はあるが、いざ自分が暮らすというところは、自分はやっぱり快適な生活が必要だし、楽しい生活が必要だしと。非常に正直なところが出ているのではないか」と問題提起した。

 重ねて、周教授が「意識調査では地域活性化のためには子育て支援が大切との意見が目立つ」と分析結果を示した。これに関連して前多俊宏・エムティーアイ社長は「母子手帳のアプリの『母子モ』をスタートしている。8年が経ち、1,700の自治体のうち500、約3分の1弱の自治体で使っている。これは出生数でいうと28万人、3人にひとりはお手伝いさせていただいている。クラウドの技術を使って住民を中心として自治体、行政機関と、それから医療機関、病院やそれから薬局こういったものを繋げることで、面倒くさいことをカバーし、不安を取り除くようなさまざまなサービスを提供している」と述べ、DXによる地域活性化のモデルケースを示した。

 スノーピークの高井文寛副社長は「2011年に地元の遊休地に本社を移した。地方創生という観点では、地元の遊休地に年間大体4万人以上のキャンパーが訪れている。スノーピークは全ての社員がキャンパーであるというような企業である。このキャンパーの集まりが自然の中の価値観や、キャンプの中にある価値観と体験価値という部分を、アーバンアウトドアというところで街づくりから、それと自分たちのフィールドの自然の中までというところを繋ぐ形で多くのビジネスを展開している。その事業領域を包括的に地方創生の場に活かしている」とした。

 続けて、周教授が「今回のアンケートの中で『将来住みたい場所』を聞いた。吉祥寺や東京が圧倒的で、人気だ。あとは三鷹、立川が続いた。しかし、昔人気あった国立が今の若い人たちには人気があまりないだ」と紹介した。これに対し、新井良ルミネ取締役相談役は「なぜこのように国分寺が大変な状況を迎えているのか。あるいは学生たちにとって不人気なのか、きちんと考え直さなくてはならない。なぜかというと、国分寺の駅の改良は私のときに手がけたが、その後、恐らく手がけていない。そういう意味では、地域包括の行政との取り組みがなされていないのではないかと大変懸念している」と指摘した。

 続けて、「頭から血を出すぐらい考えないと、新しいアイデアは生まれない。長期展望に立たないとオリジナリティは出ない。誰でも考えているわけですから。皆さん、そこのところを1歩でも2歩でも先んじることだと思います。それと疑問があったら、必ずそのままにしないで、行政なりに、何か言ってほしい。それを問いただしていくことだと思う」と地域活性化に向けてエールを送った。

 コメンテーターの鑓水洋・環境省大臣官房長は「地域と若者の関係性という観点からすると、大学の果たす役割が非常に重要かと思っている。今回このように周ゼミが地域のことを考え、大学としてどういうことをできるかという、このようなセッションを作ったことは、すごく地域貢献にこの大学が関わっていきたいという姿勢の表れではないか」と語った。続けて、「コロナ禍ではあるが、本物、リアルの世界にぜひ触れてもらい、自分をまた磨いてほしい」と学生にエールを送った。


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【フォーラム】和田篤也:戦略的思考としてのGXから地域共創を

【フォーラム】内藤達也:地域資源の活用で発信力を

【フォーラム】白井衛:エンタメで地域共創を

【フォーラム】吉澤保幸:集客エンタメ産業で地域を元気に

【フォーラム】南川秀樹:コミュニケーションの場としてのエンタメを

【フォーラム】中井徳太郎:分散型自然共生社会を目指して

【フォーラム】鑓水洋:地域活性化策には明確なコンセプトが求められる

【フォーラム】新井良亮:川下から物事を見る発想で事業再構築

【フォーラム】前多俊宏:ルナルナとチーム子育てで少子化と闘う

【フォーラム】高井文寛:自然回帰で人間性の回復を

【フォーラム】笹井裕子 VS 桂田隆行:集客エンタメ産業の高波及効果を活かした街づくりを

【ディスカッション】新井良亮・安藤晴彦・山本和彦・竹岡倫示・周牧之:地域とグローバリゼーション

編集ノート:
 地域の空洞化、東京への一極集中、情報革命とグローバリゼーション、そして待ったなしの環境問題—地域と大都市をとりまく課題をどう見据え、発展への道のりをどうさぐるかー。東京経済大学と一般財団日本環境衛生センターは2017年11月11日、学術フォーラム「地域発展のニューパラダイム」(後援:環境省、一般社団法人場所文化フォーラム)を東京経済大学大倉喜八郎進一層館で開催し、地域活性化への多様な方向性が提示した。「セッション3:地域とグローバリゼーション」のディスカッションを振り返る。


東京経済大学 学術フォーラム:地域発展のニューパラダイム


日時:2017年11月11日(土)
主催:東京経済大学、一般財団法人日本環境衛生センター
場所:東京経済大学 国分寺キャンパス
   大倉喜八郎 進一層館(東京都選定歴史的建造物)
後援:環境省、一般社団法人場所文化フォーラム


セッション3:地域とグローバリゼーション


司会:
周牧之  東京経済大学教授

パネリスト:
新井良亮
 株式会社ルミネ取締役会社取締役会長

山本和彦 森ビル都市企画株式会社代表取締役社長
竹岡倫示 株式会社日本経済新聞社専務執行役員
安藤晴彦 経済産業省戦略輸出交渉官/電気通信大学客員教授

開会挨拶:
森本英香 環境事務次官

※肩書は2017年当時


地球の資源をどう活かし、地域の幸福につなげるか


森本英香 皆さん、こんにちは。環境省の事務次官の森本です。本日挨拶の機会をいただき、ありがとうございます。「地域発展のニューパラダイム」という学術フォーラムを環境省が後援させていただくということも含めて御礼申し上げます。

「地域発展のニューパラダイム」は、地域が少子高齢化・過疎化など様々な問題に直面する中で、地域の活性化にどう取り組んでいくのかを議論される場とお聞きしております。この課題は、二つの面で非常に時宜を得たものだと思っています。

 一つはここ数年の国際社会でのSDGsの議論と非常にシンクロをしていると考えるからです。もう一つは、我々環境省が世の中に問うている「環境と経済社会問題の同時解決」とシンクロしていると考えるからです。

SDGsと地域発展


森本 持続可能な開発目標「SDGs」は2015年に国連で採択されました。その中には、貧困を無くそう、あるいは質の高い教育をすべてに、といった17の目標が設定されていて、全ての国が2030年に向けて取り組もうとしています。このSDGsという課題群は、相互に非常に密接に関連をしているため、「同時に解決」していくことが不可欠と強調されております。

 この相互に関連して「同時に」取り組んでいく課題群には、環境問題もたくさん含まれています。気候変動問題、あるいは海や陸の豊かさを守るといったものです。「環境問題を含んだ17の課題、これらを同時に解決していくこと」が国際社会のSDGs宣言の本質です。そういう意味では、先ほどの地域発展のニューパラダイムの「ニュー」でご示唆されたように、地域での課題の設定、課題の解決の方法は、まさにSDGsそのものです。

環境と経済社会問題の同時解決


森本 環境省が世に問うていること、これも実は同じです。今日の環境問題の解決のためには、環境と経済社会問題の同時解決が重要だと宣言しています。

 例えば今現在、パリ協定の実施ルールを決めるために、国際会議(COP24)が開かれていますが、地球温暖化問題に対処するために今世紀末までに2℃目標達成しなくてはいけません。そのために、例えば日本は26%を2030年に実現することを目標としていますが、これをさらに深堀りし2050年目標という世界の長期目標―80%削減―にチャレンジしなければなりません。ほとんどCO2を出してはいけないというレベルです。この問題に取り組むためには、経済社会問題の解決と別個のアプローチでは到底達成できません。必ず環境問題の解決が経済社会の諸問題の解決にもつながるようにしなければならないのです。

 もう少し砕いて申し上げますと、「2050年、80%のCO2削減」を実現しようとすると、まず関係する「ステークホルダー」、つまり国民みんなが取り組んでいく必要があります。すべてのステークホルダーが「持続的」かつ「大胆」に取り組んでいかなければならない。そういったモチベーションを持続的に維持するためには、環境への取り組みがその人の幸福、生活の質の向上、あるいはもう少し大きく言えば日本の経済、企業の成長、地域の発展といったものとシンクロしている形でないと続きません。

 環境省は、ともすれば規制のみの官庁と誤解されますが、実はそうではありません。もちろん時と場合によっては規制が必要です。人の命が関わるような問題に緊急に取り組む時には、経済との調和といった考え抜きに、断固として取り組む必要があります。しかしながら、「CO280%削減」という課題にチャレンジする場合には、同時解決を視野に入れた政策のデザインが、どうしても必要です。

 地域発展に着目しても同じです。地域での環境問題の解決と地域発展のための経済社会問題の解決は「同時」であることが必要です。このため、環境省でも地域発展に着目した取り組みを進めています。二つご紹介したいと思います。

環境省の地域発展の取り組み その1 地域発再生エネルギーの展開


森本 一つは地域での再生エネルギー、太陽光、風力、地熱、あるいはバイオマスーの導入です。今の日本のエネルギー源の構造は、概ね石油等化石資源で成り立っている。基本的に輸入、大半を中東からの輸入に頼り、十数兆円というオーダーです。これは、国富の流出そのものです。もし日本の再生エネルギーのポテンシャル、それは理論上今日本が消費しているエネルギーよりもはるかに大きいですが、この一部でも顕在化できれば、地域に利することになります。

 ただ、その際、再生エネルギーの活用を「誰がやるか」が重要で、東京に本社がある企業がやっては、地域にその収益は還元されません。地域の人が地域でエネルギーを生かす取り組みが必要です。

 今日、各地で、再エネ、省エネ、蓄エネなどを一体的に、総合的にサービスをする「地域エネルギー会社」が少しずつ生まれてきています。ドイツが先行していますが、日本でも広がりを見せています。今日お見えの小田原市でも取り組みを進められていますが、こういった取り組みが地域のニューパラダイムにつながってくるものと考えています。

環境省の地域発展の取り組み その2 国立公園の自然を活かした地域振興


森本 もう一つ環境省がチャレンジしているのは、国立公園の自然を活かした地域振興です。環境省は国立公園を所管しています。国立公園についても、ともすれば環境省は保護のために規制だけすると見られています。日本では、非常に開発志向の強い時期がございました。リゾート法という名のもとにゴルフ場をどんどん造る乱開発には断固として規制で対応していかなければなりません。その印象が強いと思います。しかし今日では、広く国民に、企業も含め、自然は地域の宝、重要な資源という認識が定着しつつあります。むしろ、貴重な自然を活かして、地域の文化や食、温泉等とセットで、外国訪日客を呼び込みたいニーズが非常に高まっています。

 数年前、日本に来られる訪日外国人は大体500万人ぐらいでした。現在2000万人を突破して、今年には2500万人になる見込みです。(2018年末現在3200万人)それだけの外国人観光客が、いわば“一時的移民”として日本に来てゴールデンルートと言われる東京~富士山~京都だけではなく、むしろ地方に行きたいニーズを持っています。それに応えることができれば、また新しい地域の活性化につながっていくと考えています。

 このため、環境省は「国立公園満喫プロジェクト」というネーミングの下に、今の国立公園を世界水準のナショナルパークにするプロジェクトを進めています。自然の磨き上げを進めるとともに、案内板の多言語化、廃屋になったホテルの撤去、高品質のホテル、カフェの誘致などを進めて世界のニーズに応えるナショナルパークにしたいと思っています。そうすることが、自然の貴重さの再認識を通じて持続的で強固な自然の保全に繋がるとの確信を持って取り組んでいます。

「地域発展のニューパラダイム」は今日の最も重要なテーマの一つ


森本 総括して申し上げれば、今日最も需要なテーマは「地域資源の活用」です。本日の「地域発展のニューパラダイム」は、地域資源をどう活用していくか、それを通じて地域の幸福につなげていく命題へのチャレンジであり、非常に重要な問題提起であると考えます。

 そこでのコンセプトは、地域においていろんなものが循環して共生していく。環境と経済が両立するような地域、環境基本計画では「地域循環共生圏」と位置付けられるものを作っていく。先ほどの再生エネルギーの普及も国立公園満喫プロジェクトもその一端です。

 本日ここに来ていらっしゃる皆様方、中国大使館からもおいでいただいていますが、中国と日本が手を携えて、こうした取り組みを進めていくことができれば、東アジア全体の幸せ、平和につながっていくと考えています。

 このフォーラムで非常に実りのある、また日中の友好につながっていく議論がなされることを期待して、挨拶とさせていただきます。ありがとうございました。

開会挨拶をする森本英香環境事務次官

セッション3:地域とグローバリゼーション

[司会:周牧之、パネリスト:新井良亮、山本和彦、竹岡倫示、安藤晴彦]

総合司会 第3セッションからは、いよいよ我が大学の経済学部教授、周牧之先生に司会をお願い致します。周先生はさまざまな分野で活躍中です。特に最近は、経済と環境の観点から日本と中国の架け橋として、さまざまなパイプ作りに奔走されています。

 パネリストの皆様をご紹介致します。周先生のお隣、新井良亮様。新井様は株式会社ルミネの取締役会長です。1966年に国鉄に入社されて以降、JR東日本の常務取締役、代表取締役副社長をお勤めになられ現在は株式会社ルミネの取締役会長をされています。

 皆様から向かって右手に、山本和彦様。山本様は住宅公団から1974年に森ビルに入社され、2003年に取締役専務執行役に就任、2013年に退任されました。兼務で2007年に森ビル都市企画の代表取締役社長に就任され、現在に至られております。

 お隣、竹岡倫示様。日本経済新聞社専務執行役員を務められていらっしゃいます。国際報道や国際情勢分析のベテランとして、各国の政財界のトップとも幅広いネットワークをお持ちだと伺っております。

 そのお隣、安藤晴彦様、経済産業省戦略輸出交渉官です。同時に、学者の側面をたくさんお持ちでして、一橋大学の特任教授等をお務めになられ、さまざまなご著書もあります。現在は電気通信大学で客員教授もお務めです。

 それでは周先生、よろしくお願いします。

グローバリゼーションの恩恵を地域がどう受けるか


 周牧之 こんにちは。東京経済大学の周です。

 このセッション「地域とグローバリゼーション」では中国都市総合発展指標のデータを使って分析し、問題提起します。当フォーラムにご同席の山本さん、杜平さん、中井さん、そして南川先生にも大変にご協力いただき、中国国家発展改革委員会と一緒に毎年、中国の都市を評価する中国都市総合発展指標を作っています。日本語版もNTT出版から、来年早々に出版される予定です。この指標を使い、まず私から問題提起をします。 

 中国都市総合発展指標は環境、社会、経済の3つのジャンルで数百のデータを使い、実は中国だけではなく世界の分析もしています。先ほど小椋市長が「東京一極集中はけしからん」と仰っていました(笑)。地方の市長から見ると、これはけしからんとお思いになるかもしれませんが、世界の潮流で見ますと、この状況は最早当たり前となっています。

 人口1000万人を超えた都市の存在が、データ上で初めて確認できたのは1950年。東京大都市圏の一都三県と、ニューヨークでした。そして1970年に、もうひとつ1000万人を超える都市ができました。近畿圏です。当時、世界には、近畿圏と東京大都市圏、ニューヨークの3つしかなかった。

 しかし2015年、1000万人を超える都市が29に上りました。実は1970年、特に80年以降、世界中で人口が大都市を目指し、急激に大移動しています。「メガシティ」と呼ばれる人口1000万人を超える大都市が瞬く間に29にもなりました。しかも500万人以上1000万人未満の都市もたくさん控えています。

 さらにもっと調べてみると、1980年から今日まで35年間、都市人口が250万人以上増えた都市は、なんと世界では92都市もある。この中で500万人以上増えた都市は35都市。1000万人以上増えた都市は、11都市あります。

 中国は1980年代から今日まで改革開放期で、この、都市人口が250万人以上増えた世界92都市のうち、ちょうど3分の1の都市が中国にあります。30都市あります。なかでも1000万人を超えた都市は、5都市もあります。

 実は、この間に日本では2都市だけ、人口が250万人以上増えました。ひとつは近畿圏、もうひとつは東京大都市圏です。後者は、500万人以上増えた。1950年に、東京大都市圏は人口1000万人を超えました。現在は、3800万人弱です。この間人口はグンと増えて世界最大の都市圏となっています。且つ、人口はまだ増え続けています。

 では、中国は今どういうことが起こっているかと言うと、珠江デルタ、長江デルタ、京津冀という3つのメガロポリスを中心に人口が急増しています。

 逆に、人口が流出している都市もたくさん出ています。現在中国295の地級市(日本の都道府県にあたる)あるいはそれ以上の都市のうち、179都市で人口が流出しています。つまり、東京一極集中と同じことが、中国でも1980年代以降に起こっています。日本は少し早かっただけです。日本が直面している大問題は、地方都市の人口減少です。しかもこの傾向がこれからも続きます。地方で人口がもっと減って、東京や大阪あたりはどんどん人口が増えていく現象は、実はそう簡単に止められません。

グローバリゼーション、輸送革命、IT革命が都市化のエンジンに


なぜ1980年代以降にこういうことが起こったか、今日はあまり時間がないのでひと言でいうと、「グローバリゼーション」、「輸送革命」、さらに「IT革命」、この3つです。この3つが、メガシティが成長していくエンジンとなったのです。

グローバリゼーションによって地方から人口がとられていく中で、ではグローバリゼーションによって地方に良い風が吹くことはないのかと言うと、実はそうでもないのです。グローバリゼーションは地方に可能性も与えています。「観光」です。ツーリズムです。世界旅行ツーリズム協議会のデータがありまして詳しくは言いませんが、ツーリズム産業は、いま世界で最も成長する産業の一つとなっています。

 2027年までに世界の経済成長率は2.7%と見られている中で、ツーリズム産業の成長率は4%と予測されています。まさしくリーディング産業です。

 しかも、アジア太平洋地域に来る人たちの数はどんどん増えています。現在の1.8億人から、2030年は4.8億人くらいになると予測されています。

 日本は世界のツーリズムに占める割合の中では、まだまだ低いです。日本のツーリズムの成長は、世界平均値よりも低いです。

 最近、訪日外国人数も相当伸びています。地方都市にとって、このツーリズムは非常に期待できます。ツーリズム、言い換えればインバウンドは、グローバリゼーションの恩恵とも言えますが、インバウンドが地方都市の救世主になり得るかは議論しなければなりません。

 次に、日本の観光客の偏差値を見てみると、この色がついたのは偏差値50以上の都市ですが、このグラフから分かるように海外からの観光客は基本的に東京、大阪、京都に集中しています。京都に近い東近江には、そんなに行っていない。あとは北海道、沖縄にも多少行っていますが、海外観光客においても東京に一極集中しています。

 私の問題提起は「グローバリゼーションの恩恵を、地方都市はどのように受けられるのか」です。まずお一人7〜8分話していただきます。新井さんからよろしくお願いします。

司会をする周牧之東京経済大学教授

地域として語り、遠心力で豊かな価値創造を


新井良亮 株式会社ルミネの新井です。よろしくお願いします。今日の表題「地域とグローバリゼーション」ということで、私はいろいろな場所で言っていますが地方という見下すような言い方でなく地域として物事を語っていくべきじゃないか、というのが一つあります。

 もうひとつは、インターナショナルではなくてグローバルというのはどういうことなのか、を本当に考えていかなければならないと思います。私はグローバルというのはやはり、文化と文化のぶつかり合いの中で何を生み出していくのか、であると思います。企業はそこを持たない限り、メーカーさんが海外へ出て行ったのと同じようなことをやり兼ねないと、今いろいろなところで言われています。進出をして金を吸い取って帰っていくだけではないかと盛んに言われてきています。よほど心してかからないといけないと感じています。

 今日は、企業の立場でちょっと考えてみようと思います。企業とは何かと言われていまして、企業も今、非常に不祥事がたくさん起きています。経営という課題、あるいは事業領域、人材をどう考えていくかという時、企業は本当に30年先まで見据えることができるかどうか、にかかって来ます。企業30年説を唱えていまして、企業は確実に30年で世代交代するという前提に立ち、見えないものをどう経営にしていくのかが、真の経営だと思います。

 ややともすれば単年度決算の中で目の当たりにした身近にあるものに必死に取り組むが、やがてそれは消えることです。有り体のものをやることは経営ではないと思います。30年先、50年先を見据えて、さらに身近なところまで遡ることが大事じゃないかなと思います。

 こう考えていると、一つは、大変なことを当たり前にやっていくことです。今の若い世代に特に言いたいことは、大変なことになるとストレスが溜まってどうにもならなくなってしまう点を本当に考えていかなくちゃいけいない。

 一方で、経営側に哲学がない、あるいは、大局観がない、志が異常に低い、会社を私物化してしまう。社会の好機として扱うものに、企業が全然役割を果たしていない。それを踏まえてやっていかなくてはいけない。本当にビジネスをするためには、並大抵のことではできないなと思っています。

 そして、やはりトップはどう舵取りをするか、だと思います。院政を敷くために次の経営者を選ぶのではなく、私はやはり、将来の計画をしっかり語れる人、夢を持てる人、を選ぶことが非常に大切だと思います。トップの形式や、あるいはトップのやり方で企業を破綻させ雇用が守られなくなるようではいけません。

 今起きている8つのことを並べました。利益さえ追えばいいとか、内向きの組織になり非常に身近なことしか見ず30年先、50年先は見えないと思われがちな今だからこそやる経営なんですね。

 若い世代で、頭だけ優秀な人はたくさん入ってきます。机に向かったら優秀な人はたくさんいます。私は、ビジネスの世界は行動してなんぼの世界だと思います。学生時代にいろんなことをやってきた経験を、実際に行動に移す。マーケットを見てどうするかの感度、感性を持つことが大事です。

 そういう意味で若い世代から責任を持たせて、若いうちから大変なことをしっかりやっていく体制を作っていかなければいけない、と思います。投資もそうですし、働き方改革もその一つ、あるいはダイバーシティも一つだと思います。

 ちなみに今、ルミネは3年間務めますと、5年間退職していても5年後に復帰することができます。自己都合やいろんなことで他の会社へ行っても、5年後に嫌になったと思ったらルミネに帰ってきてもいい。並以上の処遇をして、採用します。その期間はいろんな勉強をしているということで、歓迎しています。

外へ向かう力の働かせ方が鍵


新井 こういうことを踏まえていった時に、やはり今、ディテールが大変な状況を迎えています。これは安易な物作りになってしまっているということだと思います。独自価値というものがなくなっている世界の中では、物を売れるはずがない、ということです。

 そういうことを考えていった時に、社会に向けてどう発信をしていくのか、です。長期になればなるだけ求心力に欠けて、内向き組織になっていきます。外を向くことはなくなります。在籍年数が長くなればなるほどそうなる。若い世代が何か物事をやる時に、ほとんど年配者がブレーキをかけます。それは自分の身の安定を図るためです。だから若い世代に仕事をさせることが、いかに大変か。この企業体質について、よっぽどトップは考えていかなくてはいけません。

 求心力を持つことと、内向き組織になることが混同された時に、企業は30年で衰退を迎えます。むしろ遠心力で外に向かっていく力をどう働かせるか。外を見ることがいかに大切か。その一つは新規事業であり、あるいは海外へ行くことであり、あとは地域、地方を見ていくことだと思います。これを、企業の中でどう循環型にし、発想を豊かにする中で新しい価値をつくっていくのか。これをやっていくことが企業のあり方だと思います。

 最後になりますけども、今は地方創生の時代と言われていますが、私は何といっても必要なことは創造することだと思います。人、物、金を動かすことだと思います。外の企業やホールディングの会社が大変な利益を何兆円上げましたと言って、喜んでいる場合ではないです。それだったら子会社、あるいはそれぞれの会社に利益を出させ、物事を動かしていった方が日本のためになり、雇用が創れると思います。地域は変わっていくと思います。

 そうなった時に、一つの例ですけども、地方と首都圏をどう回していくのか。人、物、金、を回す時に、仕組みというオーガナイザーを加えていく中で、先ほど出ましたけども、地方の経営資源をどう使うのか。これは「土徳」という話も先ほどありましたが、そういうものをちゃんと認識をさせた上でやることだと思います。

 一方で、マーケットを直視していく必要があります。マーケットがどこにあるのかはグローバルの中で国内のマーケットだけでなく海外も含めていかなくてはいけないと思います。

 やはり必ずここに必要なことはネットワークを組むことです。地方とネットワークを組み連携をすることで、何か新しい知恵が生まれ、新しいものが必ず生まれてきます。価値観が生まれ学びができます。私はどこの大学出ましたからって、ふんぞり返っている場合ではないということがこうした学びにたくさん現れます。

 もう一つは、情報発信です。情報発信は、新しい価値を創造していく中に情報を出していくことです。今はディテールが大変な状況になっている。情報発信する情報がないからです。マスコミに使われた取材を受けたものを情報として出しているだけです。でも自分たちが新しい価値を創り出し、それをマーケットに出していくことです。やはり地方も仕掛けをしていかない限り、日本は衰退をしていくことになってしまうと思います。

 もう一つ、少子化という単純な考え方ではなくて、私は今の若い世代は体力がないと思います。かなり医療が発達しました。が、今の人たちは若い時から添加物から何からいろんなものを食べてきています。これから今の団塊の世代が70代、80代、90代と迎えていきますけど、おそらく今の若い世代はほとんど、そこまでいかないのではないか。少子化と相まって、生存率が非常に短くなるのではとの危機感も含めて考えていかなくてはいけない。それが今、忍び寄る大変な危機だと思います。そうした中で企業はどう存在していくのか。

 今年11月にはシンガポールに店を出しますけども、今いろんなところとお付き合いをしている中でいみじくも言われたことは、「今、世界の人たちが行きたい国はどこでしょう、新井さん知っていますか?」。「分かりません」と言うと、その人はアメリカ人でして「一番行きたい国は、日本ですよ」と答えた。

 今、世界のビジネスの一番最先端でやっている企業家といわれる人たちは、日本の地方を歩き、その中のビジネスからさまざまな創造をして物を作っているのです。この間もポートランドへ行ってきましたけども、ポートランドの人は様々な場所を旅する中で、日本でヒントを得たと言っています。今の喫茶店のコーヒーが世界で脚光を浴びています。日本のコーヒーの中に、それがたくさん埋もれています。それを企業がピックアップしていくことがある、ということも含めて考えていかなければいけないと思います。

 こんなことを考えておりますので、よろしくお願い致します。

スピーチする新井良亮株式会社ルミネ取締役会社取締役会長

集積の上に魅力ある場所作りを


 昨日、杜平さんをはじめ、中国の皆さんとルミネ新宿店の施設を見学させて頂きました。密度が高く非常に魅力あるこの商業施設は、ある意味では東京のような大都市でしか造れないかもしれません。都市造りは面白くて、1000万や2000万の人口を超えた時の東京をみんなが過密だと言っていました。皆さんは私よりもこの歴史はよくご存知だと思います。今、中国でも同じような過密現象が起こっています。過密だからとの理由で北京から首都機能以外を外に追い出そうとしています。

 日本の場合は、首都移転も相当議論されましたが、今は人口3600万人か3800万人と言われていますが、どうも過密だとの話は東京からあまり聞こえてこなくなった。出てくるとしたら地方都市のトップが恨んで言うくらいです(笑)。

 だから、ある意味では東京の集積は、減らすことはない。東京の集積の上に、魅力のある施設をドカンと造る新井さんが今、非常に重要なキーワードを言ってくださいました。地方とのネットワークです。どうネットワークしていくかが、一つの活路だと思います。山本さん、よろしくお願いします。

文化拠点としてグローバルに通ずる「突き抜けたローカル」へ


山本和彦 森ビル都市企画の山本です。本日はこういう素晴らしい人たちが集まるフォーラムでお話する機会に恵まれて大変光栄に思っております。今、東京の話が出たんですけども、私は専ら東京の都心部で、森ビルの中ではわりと長い間仕事をしてまいりまして、最近になって森ビル都市企画で地方の再開発のお手伝いをしており、そういうことで今回このようなお話を頂いたのかなと思っております。

 まず六本木ヒルズの話を少しします。六本木ヒルズを本格的に検討し始めたのは、まさにバブルが崩壊した後です。六本木ヒルズができたのは2003年です。90年から「失われた20年」と日本では言われていますが、六本木ヒルズはその真っ只中にできたのです。

 本格的に六本木ヒルズを考える時は、正直言ってお先真っ暗でした。東京の都心部は空き地だらけでした。地上げの後です。それから東京はどうしたらいいのかと、森ビル自身も正直言って考えて、しばらく東京では仕事できないんじゃないかなと。そういうことで94年に上海に行きました。

 そういう状況であるからこそ、ゼロから考えた。今までの連動でどうだこうだと追いかけるような街づくりはできない。東京という街はこれからどうなるのか、東京で生活していくにはどういう都市を望み、どういう世界になるのか、から考えて造ったつもりです。

 明らかに、これから都市間の競争になる。先ほど周先生も言ったように、世界の大都市が競合する時代が来ておりますから、東京は確かに大都市だけれども、本当にグローバルに通用する都市かどうか、本当にグローバルに活躍するような人たちがここで楽しんで生活できる、ここで仕事をする、遊ぶ、食事をするのが楽しいという都市になっているかどうか、から考えたわけです。グローバルに活動する人たちにとって、望ましい都市環境をつくれば、これは本当のグローバル都市に東京はなれるのではないかと、そんな想いで造ったつもりです。複合開発でなおかつ、さっき申し上げたようにグローバルに活動する人たちにとって本当に望ましい都市環境をつくろうとしたわけです。

 特に東京で欠けているものは、文化の中心じゃないかなと思ったんですね。それをつくることが、東京が本当に世界都市になれる一つの道ではないかと。それで文化の中心をつくろうということで、これからの時代は単純にモノがたくさんあるということではなくて、やはり感性や心を大事にする時代になる。そういう文化を感じられる、味わえる都市をということで、複合の街を造ったつもりです。

 でも、造るだけではダメなんです。今、ディテールが大変な状態だということを先ほど新井会長がおっしゃいましたけれども、まさにモノ消費からコト消費、まさにオンラインのネット消費がすごく増えていて、コトの消費になっていることだけは間違いないと思います。

 ですからこの六本木ヒルズでご覧いただいたように、たくさんのイベントをさせて頂いています。正直言って最初に真ん中にイベントスペースを作った時に、イベントというのはたまにしかやらないから、やっていない時に淋しい感じになるのはマズいな、それをどうやって防ごうかを考えていました。そして造ったところ、これはどんどんイベントをしなければいけないし、またはイベントをやりたがる人がどんどん増えてきた。ですから今は改造して、本当にイベントをしやすいようなスペースに変えたりしています。

 それから「文化都心」という言葉も本当に定着しました。六本木はもともと夜の街でして、簡単に言うと親御さんは子どもが六本木に行きたいと言ったらダメだ、と言うような場所でした。今は六本木ヒルズに限らず、ミッドタウンの中にも文化施設ができたり、国立新美術館ができたりと、六本木全体が文化の街になりました。

 この10月に「六本木アートナイト」として、24時間アートで六本木の街全体を飾りまして、夜中でも安全に六本木の街をアートで楽しむイベントを東京都もお金を出してくれてやっています。これはもう5、6年続いています。そういう街に変わったことが六本木の街の文化性の高さを表現できるようになったと思います。まさに東京がグローバル都市になり、先ほど周先生からのデータも見て頂いたように、海外からのインバウンドの方もたくさん来ていただいています。これは正直言って、かなり意識しました。それまで東京の街の中で、外の観光客を積極的に入れようとの発想で造ったものはあまりなかったと思います。まさにグローバル都市として世界に競争するには、そういうものでなければいけない。

 簡単に言いますと、我々がニューヨークへ行ったら必ずロックフェラーセンターに行くとか、あるいは美術館のMoMAへ行くとか、メトロポリタンへ行くとか。そういう場所にするつもりで造ったのが、だいたいそうなってきたのかなと思っております。 

独自性の掘り起こしが可能性をつなぐ


山本 一方、地方は正直言って非常に厳しい状態です。なぜ厳しくなったのかの一つは先ほどもお話にありましたように地方の人たちは東京のものを求めているんです。東京のものを持ってくることが、地方の市長さんにとって一番の仕事だということで、東京から百貨店を持ってくる。あるいはシティホテルを持ってくることに、ものすごい力を入れた。

 それが、先ほど申し上げた90年に入った時のバブル崩壊で、みんな手を引いて大変なことになってしまい、その後、車社会が完全に地方に広がったわけです。これも日本独自のもので、軽自動車がものすごく発達しまして、それまでは一家に一台だった車が一人一台になって、地方は完全に車社会に変わり、ショッピングモール、あるいはロードサイドの店に変わっていき、地方の商店街は本当にダメになってしまった。

 そういう中で、私どもがお手伝いすることがいくつか起こりました。その一つが、丸亀町です。四国の香川県の県庁所在地の高松の中心商店街が「丸亀商店街」というのですが、そこの再開発を私どもはお手伝いをしました。いわゆる地方の商店街、アーケード街ですが、高松は最大の土地ですから自転車利用がものすごく多い。よく見ていると、アーケード街の中が自転車専用道路化していた。これでは街の中にお年寄りは来ないし、バギーを持ったお母さんが来ない。アーケード街を広場に変えなければということで広場に変えました。

 それによって自転車通行を止められ、お年寄りもバギーを引いた若いお母さんも来られるようになりました。街へ出れば少しはお洒落をしますし、お洒落をするとそういったお洒落な商品も買うようになる。あるいはそこで美味しいものを食べたくなる。こうした良い循環が少しはできているような感じがします。

 その中でも、うまく地方のニーズに合って商売している人は、車社会ですから当然、街の中では商売せず、郊外で商売をしています。私たちが力を入れたのは、その郊外で商売をしている力のある人たちに「ぜひ街の中に戻ってください」とお願いをし、その人たちがけっこう街に戻ってきてくれました。

 地方は地方の独自性を出すことによって、地方に対する誇りといいますか、「シビックプライド」なんて言い方をしますけれども、それが芽生えてそれを使うことです。それなりに成り立っています。地方でどんどん商売が成り立つのはなかなか難しいです。なんとか成り立つような状態ができたかなと思います。

 その中で我々がよく言うのは、東京の何かを持ってくるのが地方の大事な仕事でしたが、今はもう逆です。ローカルはローカルに徹する。「突き抜けたローカル」にすれば、グローバルに通ずると言う見方をしております。

 皆さんご承知と思いますけど、瀬戸内海で3年に1度、「瀬戸内芸術祭」という現代アートの展覧会を開催しています。これは本当にすごいもので、あまり人がほとんど住んでいない瀬戸内海の島で芸術祭をやるんです。去年は100万人も集まっています。本当に船でしか行けないです。船で着いたら、中にレンタカーもあまりないです。徒歩や自転車でしか周れないところにアート作品を置いて、それが非常に世界の人たちに喜んでもらえるのです。日本だけじゃなく、ヨーロッパの人たちも随分来ています。

 この拠点に、高松がなっている。高松から船が出ますから。これを、離島の離れ小島だけでなく、都市と結びつけないと意味がないだろうということで協力しまして、今大変話題の草間彌生のアートを先ほどの広場に置き、2016年にはその作品の一部を広場に飾って、連携しています。

 このように、ローカル性と現代アートというものをうまく結びつけると、完全にグローバルに通ずるということが証明されたのかなと思います。

 岐阜では、高架下を活用して商業施設を運営しておりまして、岐阜はご承知のようにクラフトが非常に有名です。工芸的なものを習う場所のNHKのカルチャースクールや、それらを作って売る人たちの店を3階に置き、岐阜は飛騨牛を中心にいろんな食材がありますので2階にはそういうものを食べられる場所に。そして1階は生鮮食料品を売るスーパー的なものを、できるだけ地元産を中心にやっています。

 だんだん進めてまいりまして、特に最近は岐阜の工芸品のいいもの、あるいは食料品のいいものを「THE GIFT SHOP」という洒落た名前を付けて造っています。県がかなり力を入れ、そこをやっている人に聞きますと、岐阜はすごいと。岐阜の製品、食料品だけでライフスタイルを表現するものを造ったのが非常に評判で、当初の目標を今、達しております。

 それからイベントもやはりものすごく大事で、ここではクラフトフェアというのを毎年やっております。自分でクラフトを作って売っているような人が、全国にはたくさんいらっしゃいます。そういう人たちを一堂に集め、1.5平米ずつくらいの小さなスペースに自分たちの作ったものを売るということで、300くらいのお店が出てやります。これがクラフトフェアとして全国3つのうちの一つに当たる大きなものになりました。

 そんなことで、どちらかというと県庁所在地くらいのものならば何とかやれるものかと思っているところですが、つい最近、岐阜県の瑞浪というところで喋ってくれと言われ、行きました。人口は3万6000人くらい、多治見、美濃焼の陶器の街です。駅前に行くと本当に人がいなくてどうにもならないところで、唯一可能性があるのが40~50分で名古屋に行けるところです。通勤の最後の場所です。毎日9000人くらい乗車して乗降で1万8000人くらい駅を使っているところで、何とかなるかなというくらいにしか思っていなかった。

 実際に見てみますと、先ほどの南砺の話や東近江の話にもありましたように、本当に突き抜けたローカル性があります。地元に「相生座」という地歌舞伎の小屋があり、そこへ行きますと歌舞伎の衣装とか、かつらとか、全部揃っています。それでいながら、年に1回や2回しか公演していない。

 そして「与左衛門」という本格的な登り窯、これが動いていまして、これも年に1回しか焚けない。3日3晩くらいつけて。もっとすごいのがジビエ料理の「柳家」。これはミシュランの3つ星かなんかを獲るような凄いジビエ料理屋が山の中にあります。

 こういう突き抜けたローカル性をうまく表現し、きちっと整備して表に出せば、グローバルに通ずると思います。こういうことで、まだまだ地方には可能性があることをようやく見せられたところです。以上です。

 ありがとうございます。山本さんが中心となって造った六本木ヒルズは、11haですよね? そこにさまざまな施設を入れ込んで、年間4000万とか5000万人の集客力を持っています。森ビルはいま地方でも商業や文化の拠点づくりの手伝いをされています。文化拠点作りが一つのキーワードだと思います。では竹岡さん、どうぞよろしくお願いします。

スピーチする山本和彦森ビル都市企画株式会社代表取締役社長

地域の魅力を理解し、地域のリーダー育成を


竹岡倫示 日本経済新聞の竹岡です。今はグローバルビジネスの担当をしていますけれども、駆け出しの頃は9年間、大阪、熊本、それから東京の地方部というところで地方記者をずっとやっておりました。その経験と、それから20年くらいの海外特派員生活も含めた経験も踏まえて、お話をさせて頂きたいと思います。

 冒頭に周先生から、インバウンドで地方、地域経済という話がありましたので、そこを最初にサラッとおさらいしておきたいと思います。インバウンド客が増えている状況は、ここに書いてある通りです。昨年で2404万人に達しています。この10年間で、ざっと3倍ぐらい増えているというわけです。

 では次に、今年2017年はどうかというグラフです。上は前年比の増加率。ずっとプラスでいっております。史上最速で9月に2000万人を超えて、9月末までで2119万人が来ている、おそらくこのままいくと2700万人とか、もっといくかもしれないです。

 ちょっと注目したいのが、今日は中国の方もお見えですけれども、一体どこから来ているのか、です。9月のデータで、右側に1から10まで番号を振っておきました。一番多いのは中国で、556万人。2番目が韓国で521万人、3番目が台湾で346万人、となっています。

 最近、月によっては韓国の方が一番多い月もありましたけれども、まぁ中国が多いということです。上の1位から4位を足しますと、ざっと1500万人くらいです。つまり、9月末までで2100万人くらいまでの人が日本に来ましたけれども、そのうち1500万人、7割以上は北東アジア。中国、韓国、台湾、香港からの方です。

 次に、中国から増えていることは、このグラフを見て頂いてもわかると思います。2015年に北東アジア4か国、これが国と地域別に見て1番から4番目ですけれども、中国が2015年にトップに立ったことがお分かり頂けると思います。

 次に、東南アジアになるとグラフのメモリの桁が少なくなりますが、刮目すべきはタイです。タイの人口は、6900万人で日本の約半分です。去年は90万人の人が来ました。私は2月にバンコクに行った時にこの話を聞いて驚いたんですが、日本からこの2倍の180万人が行っていれば、人口当たりの行き来が同じになるんです。でも実は150万人しか行っていない。タイに行ったことがある人は日本の中でけっこういます。でも、それ以上にタイの人は今、日本に来ているということです。

 私は東急田園都市線沿線に住んでいますけど、あの中でもよく見かけます。バンコクに駐在したことがあるので、片言のタイ語で話しかけると案の定タイ人だったりする。そういう状況が起こっているということです。

 次に、私が申し上げたいのは、先ほど環境次官のお話だったでしょうか。デービッド・アトキンソンさんが、日本の入り込み客が8000万人までいくというようなことを言っていらっしゃるというお話がありました。いくつまでいくかわかりませんが、私がすごく注目しているのは先ほどの、「人口あたり、どれくらい日本に来ているか」ということです。

 ブルーをかけたところを見てください。香港の人口は743万人ですが、去年は184万人が来ています。もちろん、リピーターがいますから、割合は約25%です。人口の約4分の1の方が、日本に来ているということです。4人に1人が来ているということにはなりません、何度も来ている人がいますから。でも、こういう割合です。

 台湾の方を計算すると、約18%です。中国の方は増えていると言いますけど、まだたった0.5%です。同じ中華民族の方、香港の方、台湾の方が18%から25%の人口が来ている。中国の方が仮に1%来られると1300万人が来られるということになりますが、やっぱりそのように増えていくのだと思っています。まだまだ増えるということです。

 入り込み客の分析の話は終わります。インバウンドのお客様を生かそうといろんな地域でいろんな努力は続いていますが、最初にちょっと残念な話からしたいと思います。

地元の魅力は客人に聞こう


竹岡 これは、静岡県の清水港の写真です。7月31日の朝、うちの記者が撮りに行った写真で、全長270mのスーパースター・ヴァーゴという大きな客船が着きました。清水市はこういう船が着けるように、上から二行目に書いてありますけれども「国際旅客船拠点形成港湾」というタイトルもとって、そのために何度も清水市のお役所の方は中央に陳情に行かれて、やっと港湾の指定もとって、クルーズ船も来るようになりました。

 ところが、この写真を見てお分かりのように、降りたお客さんはササッとバスに乗り込んでいく。行く先は、皆さんも行かれたことがあるかもしれませんが、御殿場プレミアムアウトレット。御殿場市です。7月10日に初めてこのスーパースター・ヴァーゴが着いた時に、地元の方が20店ほど出店をしておられたのですが、20日後のこの船が着いた31日には、1店しか出ていなかった。期待が大きく空振りに終わる非常に残念な話です。結局、儲かっているのは御殿場プレミアムアウトレット。今は三菱地所グループですから、三菱地所と、そこに出店しているお店だという話です。

 御殿場のプレミアムアウトレットは日本人にとっても面白いところで魅力的なところですが、先ほど山本さんのお話にも瑞浪市の「突き抜けたローカル性」があるとありましたがおそらく地元の方は何とも思っていらっしゃらないのではと思います。「え、うちは突き抜けているの?」と。自覚を持っていらっしゃるかどうかちょっとよく分からないです。

 それから、先ほど新井さんのお話にも、外国人が一番行きたいところは日本で、日本にビジネスのチャンスが転がっているということ。ポートランドのコーヒーのお話も、おそらく地方の方々はたぶん気づいていらっしゃらないと思うんですね。

 やっぱり日本の魅力というのは、インバウンドに関しては訪日客に聞くのが一番だということを申し上げたい。うちのグループの記事で、『日経トレンディ』という雑誌が取り上げた話では、インバウンド客に人気のあるところ、特にSNS映えするところ、インスタ映えするところは、日本人の目からしても魅力があるところもありますけども、そういうところばかりでもない。

 うちのグループの『日経ビジネス』でやった「外国人のSNS分析から見た意外な観光地35」があります。これは西日本だけ抜けていますけども、緑で広島県の大久野島というのを囲っておきました。なぜかと言うと、私の出身地が広島県だからです(笑)。しょっちゅう里帰りをしていて話がしやすいので、そのお話をしたいと思います。

 この大久野島とういのはどういう島かと申しますと、実は戦時中は地図には載っていない島です。なぜかと言うと、毒ガス製造の島だったからです。だから私は子どもの頃によく海水浴で大久野島に行きましたけど、とっても海がきれいです。何故かと言うと、毒ガスを作っていたところだから人が住んでいないので、とってもきれいです。だから海水浴場といえば大久野島というイメージが私にはありました。

 ところが、1971年に大久野島の中の学校が廃校になったのかな、8匹いたウサギをかわいそうだから放しちゃった。それが、人も犬もいないし、外敵がいないものだから、増えに増えてしまったわけです。今は700余りのウサギがいます。それが外国人の目に留まって、「ラビットアイランド」とSNSで大ブレイクしちゃったわけです。

 確か2015年だったと思いますが、10人しか住んでいなかった。あそこには一応、国民休暇村があるので外国人も多く来るようになったので、今20人住んでいるらしく全員が国民休暇村の職員です。そこに今、年間10万人もの人がやって来る。多くは外国人です。

 私も1年に3回くらい、この竹原市の隣の街に住んでいますので、「大久野島にこんな10万人もやって来よるんじゃけん、あんたら、あれを何とかうちの街に引っ張れや」と言うんですけど、なかなか…。「えーなんで、私らは分からんのよね。あがいな糞だらけの島のどこがええんかね」と、同級生の女子なんかは言っていますから(笑)。

 なかなか、その魅力というのは地元の人は気づかないものだな、ということです。この10万人という数字。南砺市の市長さんもいらっしゃいますが、昨日テレビ東京で合掌造りの村人たちの生活ぶりをやっていたので、たまたま観たんですが、世界遺産にも指定されている合掌造りの村に、年間70万人が来るとおっしゃっていました。だから、この糞だらけの島に10万人という数字がどんなにすごいことか、皆さんお分かりいただけると思います。

 それから気づかないという意味では、次です。これは、7月28日に小池東京都知事が発表した、東京の魅力を海外にアピールするための新しいアイコンですね。「Tokyo Old meets New」。左の東京がオールドで、右の東京がニューということですが、注目して頂きたいのは、真ん中に押してある赤い落款です。これは何か左下に拡大しておきました。私は初めて見た時は何か分からなかったが答えは右にあります。渋谷のスクランブル交差点です。

 私自身も経験がありますが、東京駅八重洲口から渋谷に行かなきゃいけなくて、タクシーを止めようとしたら、カナダ人の若いカップルが来て「渋谷のスクランブル交差点に行きたいけど、どうやって行けばいいですか」と聞いてくるので、「今から渋谷に行くから乗せてってあげますよ」と、乗せていったことがあります。

 私も渋谷を通過して田園都市線で通っていますが、できれば降りたくない街で、私みたいな年をとった者にとっては敬して遠ざけていたところですが、やっぱり聖地なんですね。

 この交差点に行ったことが、東京に行った印になるという意味で、この赤い落款です。これもなかなか日本人の目でも気づかない。東京の代表として、このスクランブル交差点を使うことになったわけですけども、外国人の目から見るとそうなのかな、ということです。

 それから次です。「東北風土マラソン」というフェスティバルがあるのですが、その仕掛け人の竹川さんという人が一昨日、うちの会社に来られました。また後にも出てきます。「風土」は食べ物の「フード」と掛けた言葉です。要するに、東北地方のいろんなものを食べながら、ゆるゆると走るマラソンです。5kmからフルマラソンまであるそうです。

 この方が竹川さん。一昨日、日経新聞に来られたこの方が仕掛け人です。竹川さんが言っていたことが非常に印象的だったので、そこへ横書きにしておきました。この方は昔、野村證券にいらっしゃった。それでニューヨークにも行き野村證券を辞めてアメリカでいろいろな起業をされた方ですが、ニューヨークにいた頃にメドックマラソンがあることを知ったそうです。それはワインだけでなく、ステーキとか生牡蠣とか、そういう食べ物を楽しみながら、さらにブドウ畑やシャトーなどの景色を楽しみながら走るマラソンだった。

 その時に東北出身の彼は、「東北にも全部あるじゃん」と思ったそうです。でも、東北の人たちに聞くと、米一つとっても「この辺の人たちに食べてもらえばいいんです」としか言わない。自己卑下をする。竹川さんは、ずっと東北にいたら気づかなかったと言います。ニューヨークに行ってメドックマラソンを知って、実際に参加してみて、そこで気づいたそうです。東北にあるものが全て、魅力的だと。

 今年は来場者数4.5万人で、第1回目の時は外国人が2人とおっしゃっていましたが、今年は132人だったと一昨日おっしゃっておりました。前のパネルで、信時さんだったでしょうか、既存のものをどう組み合わせられるかの発想力と行動力をポイントとしておっしゃっていました。

 まさに竹川さんのような方は、東北にある既存のものを組み合わせられる発想力と行動力がある。こういう方がいらっしゃったから、メドックマラソンがあって外国人もどんどん来るようになったのだと思います。

観光経営人材の育て上げを


竹岡 要するに、何が言いたいかというと「観光経営人材」だと思います。「DMO」とか「DMC」とか、よく言われますよね。「デスティネーション・マネージメント・オーガナイゼーション」ですか。そういうもののリーダーになり得る人。さっきの竹川さんのような方が地域にいないと、なかなかインバウンド客を地域活性化に結び付けることは難しいと思います。

 そういうことを感じているのは、もちろん私だけではなくいろんな方が気づいておられて、地方大学で育成するコースがたくさんできているという記事がこちらです。

 私ども日本経済新聞の会社の中にも、日経ホールという610人入れるホールがあり、そこでもいろんな大学がこういうコースを作った、というセミナーみたいなものをよくやっております。先日は京都大学と一橋大学が、インバウンド客を呼び込んで地域を活性化するリーダーを育てるMBAコースを作った、ということをやっておりました。

 先ほど南砺市の田中市長のお話にもありましたけど、エコビレッジには吉田さんとおっしゃいましたか、すごいリーダーがいるというお話をされていました。やっぱりそういう方がいるかいないかは、大きな違いだと思います。鈴廣かまぼこの鈴木さんも、小田原市にとってはまさにこういう方だろうと、お話を聞いていて思いました。

 次に、これはつい最近の夕刊に載っていたので持って来ました。地域のことをよくご存知なのは、もちろん公務員の方なんですよね。そういう方たちが、今どんどん飛び出していっています。一番上に出ている椎川忍さんは、総務省の元役人です。公務員の方2500人のメーリングリストを持っていらっしゃって、各地の公務員に「飛び出せ、飛び出せ」とおっしゃっているそうです。

 先ほど言いましたように、私は広島県の出身で、今は平成の大合併で東広島市というところの西条という、酒処もある土地です。今日は中国の方もお見えになっていますが、東広島市は姉妹都市が中国の四川省の徳陽市です。外国の人はまだほとんど来てくださらないので、「姉妹都市の徳陽市の方に、まず来てもらったらどうですか」という話をよくするんですが、さすがに中国はスケールがでかくて先ほどの横浜市の話で人口三百数十万人とありましたが、徳陽市は381万人です。かたや、パートナーの東広島市は19万人。実に、人口の差が20倍もあるわけです。

 だからこそ、「来てもらったらどうですか」という話をするわけです。ちなみに面積は、東広島市どころか、徳陽市だけで隣の山口県とほぼ同じ広さがあります。さすが中国はスケールがでかいと思います。

 さて、若者を育てる大学教育の話もしました。飛び出す公務員の話もしました。最後に、民間企業にもいろんな応援団がありますよ、という話です。私の前にお話をされた山本さんの森ビル都市開発もそうだと思いますが、民間企業もどんどん応援団になろうとしていて、それを活かしたらいいという話をしたいと思います。

 私たちのイメージでJTBというのは添乗員さんのイメージがあります。要するに、私たちが海外へ行くときにお世話になる会社、というイメージですが、実は全く違います。明治時代に外国人客を世界中から誘致し、国益に貢献するという国策からつくられた、インバウンド目的の組織なんです。今はまさに「水を得た魚」という状態だと思います。

 それから、私はこんな企業がこんなことをやっているのかと、ちょっと驚いたんですが、東京海上日動火災保険です。地方創生室が去年、設置されました。当初は20人でスタートして、今は150人いる。この方たちが全国に散らばり、受け持ち地域の創生に知恵を絞っていらっしゃる。「東北黄金伝説探報ルート」を作っていて「東北黄金伝説探報ルート」とは、金色堂とか、なぜかゴールデンイーグルスも入っていましたけれども東北には「金」という名にゆかりのある場所が多く、そこを回る企画をやっていらっしゃるそうです。

 東近江市長も「三方よし」の話をされていましたけれども、企業は企業なりに利益に結び付かないと、慈善事業ばかりではなかなかやっていけないところはあると思います。しかし企業の力を利用するのも地域は考えた方がいい、というところで話を終わります。

 どうもありがとうございました。キーワードは「人材づくり」ですね。竹岡さんは、私がこの大学に来てからほぼ毎年、私の授業でゲスト講師として講義してくださっています。竹岡さんの世界経済に対する予測は毎年、全て当たっています。本当に素晴らしい予測能力なので、インバウンドの人数はもっと増えるだろうと竹岡さんが言う以上は、グッと増えるはずでしょう。間違いないです(笑)。では次に、安藤さんよろしくお願いします。

スピーチする竹岡倫示株式会社日本経済新聞社専務執行役員

地域起こしに活かす世界のクリーンテック


安藤晴彦 安藤でございます。今の役職は、戦略輸出交渉官で、何やっているかわかりにくい仕事で、周先生から「国際とグローバリゼーション」で何か珍しいことを話せということと、今日のテーマは「地域発展のニューパラダイム」なので、「ニューパラダイム」というところを中心にご紹介したいと思います。

 周先生のお話で、29都市のメガシティがあり、だいたい港か政治都市です。これまでのお話の流れは、インバウンドで何とか活性化して、日本の中でも地域にチャンスを見つけて行こうじゃないかということでした。では、どうしたらいいのでしょうか。

 私は仕事柄、いろんな国との協力をしているものですから、世界の取組事例をご紹介し、日本でどうやったらいいのかということにつながればと思います。また、経産省の人間なので、キーワードは「テクノロジー」であり、情報革命やクリーンテックなどハイテクをどう使うかということで、2つの事例をご紹介します。

 最初は、戦前のアジア最大の輝ける都市、ラングーンです。今はヤンゴンと呼ばれ、人口600万人です。

 5年位前から本格的に民主化される中で、日本が協力しヤンゴン近くにティラワSEZという工業団地をつくっています。日本とミャンマーの「フラッグシップ・プロジェクト」として、たった2年で400ヘクタールがほぼ完売という状況です。私は担当者です、もう86社と契約しています。日本は43社、中国も1企業、台湾から5企業、アメリカやヨーロッパを始めいろんな国から多くの企業が進出しています。将来的には5、6万人の雇用創出が期待できます。しかし、これは、オールドタイプのモデルでしょう。工業団地に企業をもってきて経済を発展させるという古いタイプです。スライドでお示しする開所式には副大統領も出席され、テープカットでは、私も右端におります。

どうやるかの「HOW TO」が必須


安藤  では、次に、どういう新手法があるのでしょうか。インドの東海岸で、新たな都造りをしている州首相がいます。ナイドゥさんという方で、左の写真は、最初に訪問したときのもので、ちょっと距離感があります。机の前に座らされて講義を受けるゼミ生みたいな雰囲気でしたが、実際にプロジェクトをいろいろ動かした後は、右の写真で、距離感が近くなりました。会議の後に「おい安藤、一緒に写真撮ろうよ」と言ってくれて、しかもにこやかです。このにこやかさもフォトセッションの時の結構大事なポイントで、親近感をどう作っていくのか……そんな余計なこと言っていると時間がなくなりますね(笑)。

 彼は何をやったのかと言うと、ハイデラバードというインド有数のIT都市を造りました。その後、州が分割され、新しく都を造らなければならなくなりました。アマラヴァティという都です。彼は、日本に基礎的なところをやってほしいと依頼してきました。日本は首都圏の3800万人をうまく動かしていますが、交通インフラのプラン作りをお願いしたい。さらに、上下水道、防災レーダー、都市のデータセンターなども検討対象です。都市の姿はシンガポールにも協力を依頼しています。その延長線上には、太陽電池を使って、スマートシティにして、EV化も進めたいということで、電気自動車や自動運転まで取り入れた交通マスタープランを作ってほしいという話になってきています。

 当地の新聞を読んで、ナイドゥ州首相は凄いと思いました。ある日の記事で、なぜかアイオワ大学を訪問しました。不思議に思ったのですが、バイオ団地を造って、インドにある生物の多様性をネタに稼ぐというのです。そうするとバイオ関係者、製薬会社がいっぱい寄ってくるだろうということです。ハイデラバードで成功したように、芋づる式を狙っているわけです。

 もう一つは、フィンテックのコアを州内に造るというのです。これまでデリーでもフィンテックのコアにはなっていません。シリコンバレーは、ICで有名ですが、「インド・チャイナ」のICが有力で、インドの存在感が非常に高いのです。そこで活躍する人たちを引っ張ってきたからこそ、ハイデラバードが世界的なITシティになりました。次は「フィンテック」だというわけです。州首相が、次世代の姿を考えながら、自分の地域をどう活かしていくか構想されています。「ゼロからのリープフロッグ」だと彼は言います。その「リープフロッグ」の裏側にあるのは「芋づる式」で、「一社良いのを連れてくると、その仲間がまた来る」ということです。こういう構想の前段階のインフラ整備では、日本にも協力してほしいということなのです。

 あまり個別に話していてもしかたありませんが、同時期、ビハール州というインドで最も貧しい州を回りました。経済的には貧しくとも生活は豊かです。州内には、ブッダが悟りを開いたブッダガヤというところがあります。日本のお寺が4つありますが日本人の僧侶がおいでになるのは2つだけで、日本人観光客も減っていました。こちらの州首相とお目にかかった時は、「観光と農業でいきたい」という今日の話題のようなことを仰いました。しかし、州都からブッダガヤに行く3時間がすごい道です。距離的には近くても、こんな道ではとても行けないところです。今、日本政府が道路整備をお手伝いしていますが、「観光と農業」と考えた時、どうやるのかの「How to」がないと、実際にはしんどいです。

 もう一つ、こちらはウランバートルです。一昨年の11月に急遽飛んでいきましたら、マイナス37度でした。そこからゴビ砂漠に行きましたら、マイナス20度くらいで涼しく感じました。元朝青龍のダグワドルジさんと一緒に地下1300mまで降りました。銅と金の鉱山の地下で、金の価値だけで5兆円もあります。そういう鉱山が、ゴビの砂漠の中にあるんです。真ん中の写真です。寒そうな感じですね。

 では、モンゴル経済をどう発展させるのか、です。銅を売り、金を売り、あるいは石炭を売る。資源輸出だけは付加価値が取れません。そこで、「石炭化学」に目をつけ、「石炭からポリプロピレンを作りたい」、あるいは、「銅鉱石を国内で製錬まで行って付加価値をとりたい」という話をされます。

 それは悪くないのですが、実は、ウランバートルで問題が起きています。元々、ソビエトが協力して造った時には30万人都市として設計していました。今は130万人になり、交通渋滞が起こり、大気汚染がひどくなり、下水処理も大問題になっています。そこで、「安藤さん、いろいろな新規プロジェクトの前に、下水問題に対処したい」という話を今言われて、そういう協力方策を日本企業とともに探っている最中です。冬場の大気汚染が一番ひどいです。お母さん2万人がウランバートルでデモをしたそうです。北京の数倍くらい厳しく、世界基準からは80倍近くということらしいですが、本当に呼吸器疾患で子どもたちが大変で、将来も懸念されますので、クリーンコールでも日本の協力が大事になってきます。

 それから、4月1日に中国の国務院が発表した「雄安新区」を造る話です。中国には19個くらい新区がありますが、これは、上海と深圳に続く3大新区の一つとして造っていくというのです。習近平国家主席の偉大なる千年計画を、まさに国家千年の大計として、是非やりたいとの話が出てきました。エイプリルフールの発表でしたが、国務院発表ですから間違いありません。

環境問題への取り組みを日中協力で


安藤 周先生は、1日や2日で大都市ができるわけなく、日本の筑波新都市計画も30年、40年もかかっているという現実的な指摘を記事にされています。『日経ビジネスオンライン』では、「千年の大計がだいぶ先か」という記事も出ていますが、私が一番心配しているのが環境問題です。雄安新区は水の流れがちょっと悪いのです。水の汚染問題が始まっています。

 たぶん、こういう部分で日本と中国が協力できるのではないかと、そんな仮説を持っています。今日、日中首脳会談がベトナムでできるかどうか気になりますが、うまくいくと、もう一歩進められるかもしれません。今の時点ではここまでしか申し上げらないのが、ちょっと残念です。

 次が、「ニューパラダイム」です。「地域発展とグローバライゼーション」というテーマで、私が申し上げたいのは2つです。冒頭に、学長先生から、この建物が図書館だったというお話がありました。私は、2012年に米オールバニーのナノテク拠点を視察した際に、ニューヨーク市のチャイナタウンで、ふと目についた建物があり入ってみたんです。それは公共図書館でしたが、図書館の中で、ビジネス支援、ベンチャー支援をしている。しかも、英語だけではなく、マンダリン語での講座もありました。台湾の方や韓国の方が多いクイーンズ地区ということで、2カ国語での起業セミナーをやっていました。本棚には、『女の子が百万長者になるためのビジネスモデル』とかの本もあったりします。すごいなぁと。

 実は、私は、2000年から日本の図書館でビジネス支援をする活動を支援しています。地元の活性化には、やはり中小企業が元気になること、農業が元気になることが重要ということで、図書館の仲間たちと地元に役立つビジネス支援を続けています。

 おかげさまで、ビジネス支援を行う公共図書館は、全国で200館を超えてきて、「公立図書館がビジネス支援をしている」と新聞にも取り上げてもらいました。ところが、アメリカの公共図書館はもっと先を行っています。オバマ政権になって、「メーカーズ」、つまり、3Dプリンターでモノづくり革命を起こすという政策に乗っかる形で、全米の図書館内に3Dプリンターがどんどん置かれてきています。直近のデータを調べましたら、アメリカの1万6,695の図書館のうち、メーカーズイベントを行う図書館が2,520館あります。3Dプリンターでこういうモノづくりができる、というセミナーやったりしています。実際に、3Dプリンターを置いているのが428館です。2012年に『MAKERS』が出版され、ベストセラーになりました。オバマ大統領が、一般教書演説で、3Dプリンター強化を取り上げました。それが全国の図書館に響いて、しかも400館以上が置いている。日本はどれだけ置いているかというと、私がさんざん言っていたものですから、塩尻の図書館長が面白いなと思ってくださり実際に置かれました。でも、まだ1館です。

 地域の活性化には、例えば、こういったところにも可能性があると思います。この方は若宮正子さん82歳です。この年齢でソフトウェア開発を学ばれ、「ひな壇」という高齢者向けアプリを作りました。アップルCEOのティム・クックが絶賛したそうです。地元の図書館が「ソフト開発でこういうことができるのか」、あるいは「3Dプリンターってこういうことなのか」をサポートします。今日のお話にもありましたように、SIBももちろん地域でファイナンスしていくのも大事ですが、最近はグローバル経済の時代ですから、クラウドファンディング、クラウドソーシングをうまく使っていくことが、可能性を広げると思います。

「水素」を地域おこしに


安藤 もう一つはクリーンテックです。蓄電池、電動自動車もそうです。中国は電気自動車に向かっています。フランスもイギリスも、2040年にはガソリン自動車廃止といいます。アメリカではカリフォルニアを中心に9州がZEV(Zero Emission Vehicle)規制で燃料電池車を含む電動自動車導入政策を圧倒的に強化しています。

 こういう流れですが、電気は貯められないのが問題です。電池開発では、サムスンがこの前2倍にしたいと発表しましたが、2030年に開発するというので、ずっと先の話です。長期に大電力を貯めるには何が一番現実的かというともちろんメタンにできればいいですが、「水素」が一つの答えになります。今日も、東芝の水素・燃料電池の開発責任者の方が会場においでです。EV、電気自動車は、所詮、電気の消費器です。消費する電気は何で作るのかというと、フランスでは7割が原子力ですから、EV化でCO2排出量も減りますが、他国では、石炭火力で電気を作ったりしています。「水素」、「燃料電池」、は何がいいかと言うと、実は、発電もでき蓄電もできるということです。日本では、EVの政策とともに、燃料電池や水素社会構築に向けた政策に相当力を入れています。批判もありますが、この10年しっかりやってきました。まさに、「国家百年の大計」です。千年には及びませんけれども(笑)。

 「水素社会」ということですが、この写真は東芝の方から貸していただいたものです。風車もあれば、太陽光もあれば、それを水素に変えて蓄電し、必要な時に電気を取り出します。なぜかと言いうと、風車は風が止まればパタッと電気も止まります。太陽光もお日様が陰ったら、発電しなくなります。こうした不安定な再生エネルギーには、うまく蓄電を噛ませていくことが大事です。その一例が、東芝が溝ノ口駅に設置したシステムで、再生エネルギー、つまり、太陽光や風力で得たエネルギーを水素の形で貯めておいて、「いざ」という時に使うものです。どうしてこの発想なのかというと、東日本大震災の時にJR東日本の皆さんが悩んだのは、お客さんを駅から追い出してしまったことなのです。そのことが一つの反省になっていて、大災害時に最低限の電力をターミナル駅である溝ノ口駅に供給できるシステムを備えておこうというのが、この東芝製「H2One」です。私もついこの間、ホームを通りかかり、このように置いてあるのかと驚きました。「水素」や「燃料電池」を使えば、いつでも発電も蓄電もできます。長崎のハウステンボスにある「変なホテル」という名前のホテルでは、再生エネルギーで電力を全部賄いますが、蓄電池を兼ねたH2Oneで補っています。東芝は、こういったところでも頑張っておられます。

 「水素」を地域起こしに活かそうと頑張っています。山梨は、今や世界最高となった燃料電池研究拠点を擁しています。10年前に立ち上げた後に、アメリカのロスアラモス研究所の研究活動が弱くなったりして、今日では、燃料電池に関しては世界トップの研究所と言われています。燃料電池研究をキーにしながら、先ほども申し上げたような蓄電池、太陽光のメガソーラー、水素ステーションなどを組み合わせながら、地域づくりを強化していこう、そのコアにしていこうという活動をされています。

 なぜそんなことを考えたのかというと、リニア新幹線が山梨を通りますが、山梨で人が降りてくれる理由をつくらなければならないということだったそうです。県庁の人たちが本気で考えました。世界最先端の研究センターを作るためにわざわざ知事公舎跡地を提供しました。この写真の真ん中の方が燃料電池の個人特許で世界一という渡辺先生です。先生を中心に、大学の研究者だけでなく、パナソニックや東芝や日産や三洋からもトップクラスの研究者が集まっています。中には会社を辞めて山梨の研究拠点に来る方もいます。総理も視察に来られています。実は、明後日の月曜日には、中国からおいでの皆さんに山梨拠点を実際に見て頂こうとアレンジ中でして、私もご一緒します。以上です。

スピーチする安藤晴彦経済産業省戦略輸出交渉官

若い世代がより日本の良さを知ること


新井 私は、先ほどからインバウンドの話が出ていますが、インバウンドも非常に重要だなと思いますけれども、まず日本の若い世代の人たちが国内を知らないといけません。もっと国内の素晴らしいところをもう一度見た上で、やっていかなければいけないと思います。また、インバウンドということになれば必ず、そこにはアウトバンドがあって、アウトバンドをしていかなければいけない。パートナーになることが必要です。

 今はシンガポールとキャッチボールしていますけれども、シンガポールの富裕層はどのくらい日本に来ていますかと聞きますと、80回から100回来ている。こういう人たちを抱えた時に、日本の一方通行の受け入れだけでは長いパートナーになり得ないです。その前に、やっぱり日本の良さをもっと知ってほしい。地方との交流も、若い世代に今いろんな意味でせっせと交流を図るために、バスタという新宿のココルミネという店もその拠点づくりにしたい。地方のいいモノづくりのいろんな人たちが来て商品を置いて、買い物ができ、雇用をつくる走りを今やっています。こんな取り組みをやっていきたいと思っております。

 ありがとうございます。山本さん、お願いします。

地方の奥行きという魅力を表現していく


山本 周先生がおっしゃられたように、量的には大都市が圧倒的に強いことには間違いないです。だけど地方ももともと小さな人口しかいないわけで、小さな人口を賄うだけのインバウンドがどれだけあるかという問題です。その可能性は、僕は十分にあると思います。

 今、新井会長がおっしゃったように。私は台湾によく行きますが、台湾は2500万人くらいの人口で、400万人も来ている。ということは、今言ったように来ている人は何度も来ている。どんどん地方の遠いところにも行く。やはり日本の魅力はそこだと思います。

 正直言ってシンガポールは、街自体はいいがそれ以外はないわけです。だから日本人は何度も行く気にはならない。日本は東京だけでなく、いろんなところがある。その奥行きはものすごく広く、可能性は十分にある。やっぱり我々自身が見出して、うまく表現することに慣れていかなければならない。そのために地方自治体自身が、あるいは地方のいろんな人たち自身が、凝り固まっている頭をどうほぐすかが、一番大事だと思います。

 ありがとうございます。竹岡さん、お願いします。

行動する若者を地域で育てていくことが要


竹岡 また出身地の話をして恐縮ですが、私は呉の高校の出身なんですけれども、呉市長選挙がどんな状況かと思って、財務省OBの方も立候補されているので聞くんですが、そのついでに聞くのは愚痴ばかりです。呉市は、かつて戦前は40万人口がいた街ですが、今は23万人まで減っています。合併して23万人。愚痴ばっかり聞く。そんな中からインバウンド客を惹きつける魅力を出すことはなかなか生まれてこないと思うんですね。

 先ほどラビットアイランドの大久野島、毒ガス島の話をしましたが、あそこに来ている10万人をさらに移動させるアイデアもなかなか出てこない。私の故郷は、牡蠣とみかんの島でいいものがある。けれども、それがなかなか活かされていない。

 先ほど新井さんが、行動するやつじゃなきゃダメだとおっしゃいましたが、まさにそうです。行動する人がなかなかいない。それでこの間帰ったら、瀬戸内海の景色とは島がたくさんあってとてもいい眺めです。私も子どもの頃にずっと毎日見て育っていましたから、何とも思っていなかったんですが、住んでいる人は何とも思っていない。

 そんな中で最近、イタリア人とカナダの方が、スーパーヨットで瀬戸内海の間をぐるっと楽しむ企画を立てて会社として作ろうとしている話を聞いて、なぜ地元の人ができないかなと。それは毎日見ているから魅力に気づかないんでしょうけれども、そういうことに気づいて行動する若者を地域で育てていくことが、一番大事なんじゃないか。それが地方創生の要なんじゃないかなと思っております。以上です。

 ありがとうございます。安藤さん、お願いします。

グローバルに考え、地域で行動する


安藤 今日を振り返ってみますと、周先生と南川先生、尾崎先生が作られたこの構成は、非常に絶妙だなと。お世辞を言うつもりもないですけど、本当にそう思っております。最初に、「地域と環境」の話で、穏やかに話が入って、そして吉澤さん、中井さんが問題提起をされて、じゃあそれを動かすために、「血流」をどうしていくんだとなって、「地域とファイナンス」の話をし、さらには、グローバライゼーション、つまり、世界との兼ね合いの中で、どう地域を捉え直すのかということで、それぞれ皆さんからお話があったわけです。

 よく言われるのは、”Think local, Act global”ということです。「地域で考えてグローバルに勝負しろ」と、「今はグローバルの時代だ」と、こういうことではあるんですが、今日の話を聞いていますと、私はその逆もまた真かもしれないなと思いました。「グローバルに考えた上で、地域で行動する」と。

 「行動」こそ大事であり、行動する時にグローバルということが一つのリファレンスになり、じゃあ行動するけどお金ないよといった時に、SIBのようなかたち、あるいは地域の中でのファイナンス。もちろん、クラウドファンディングのように世界中からお金をうまく集めていくことも新しいテクノロジーの時代ですから、できるようになってきています。そして最後に戻るのは、「地域と環境」。環境を大事にしながら、どう発展を図っていくのか。周先生がお示しになったように、「ストロー効果で大変なことになって、メガシティのところしか人がいなくなっちゃうよ」という警告に対して、どう地域で行動していくのか。これが大事なのかなというのを改めて感じたセッションだと思います。ありがとうございました。

 ありがとうございました。安藤さんが私の代わりに総括してくださいました(笑)。さらに私なりに総括すると2点あります。一つは、インバウンドや都市作りの成功には外から見る視点が非常に大事です。もう一つは、行動する若者が必要です。

 ご清聴どうもありがとうございました。


懇親会


司会:
南川秀樹  東京経済大学客員教授/一般財団法人日本環境衛生センター理事長/元環境事務次官

来賓挨拶:
杜平    中国第13次5カ年計画専門家委員会秘書長/中国国家戦略性新興産業発展専門家諮問委員会秘書長/中国国家信息センター元常務副主任
杉本和行  公正取引委員会委員長,元財務次官
谷津龍太郎 中間貯蔵・環境安全地業株式会社代表取締役社長/元環境事務次官
明暁東   中国駐日本国大使館公使参事官(経済担当)
阮湘平   中国駐日本国大使館公使参事官(科学技術担当)
武田信二  株式会社東京放送ホールディングス代表取締役社長
前多俊宏  株式会社エムティーアイ代表取締役社長
長谷部敏治 NTT出版株式会社代表取締役社長
周牧之   東京経済大学教授

会場:
東京経済大学6号館7F大会議室

※肩書は2017年当時


懇親会会場の様子

南川秀樹 皆さま、お待たせいたしました。ただ今より、本日の「地域発展のニューパラダイム」レセプションを開催します。私、司会を致します南川秀樹です。よろしくお願いいたします。

 開催の前に、二つだけお話をいたします。一つ目は展開をお話します。冒頭に、中国から来ていただいた杜平さんからご挨拶をいただきます。続きまして、公正取引委員会委員長の杉本和行さんから、ご挨拶と乾杯をお願いいたします。その後、美味しいお酒と食事を味わっていただきながら、ゲストに20分後より順次ご挨拶をいただきます。   

 ご挨拶いただきますのは、谷津龍太郎さん、明暁東さん、阮湘平さん、武田信二さん、前多俊宏さん、長谷部敏治さんです。そういう順番で、よろしくお願いいたします。

 それから今日のお酒と料理でございますが、今日の総合司会の尾崎先生は、勉強はうるさいんですけれども、食べ物と飲み物にも大変うるさい方でございます。日本酒もワインも、尾崎先生が選びに選びまして提供しています。全て、どういう味がするかとか、どういう意味があるのかとか、うんちくがついておりますので、それも楽しんでいただきたいと思います。料理も、ずいぶん注文を厳しく出されまして、料理をされる方が大変苦心したということも伺っております。パーティーに移ります。冒頭、杜平さん、よろしくお願いいたします。

既存、新分野ともに日中友好は発展する


杜平 ご来賓の皆さま、本日のフォーラムに参加させていただき大変光栄に思います。さらに光栄なのは、このレセプションの場でお話をさせていただく機会をいただいたことです。

 2年前になりますが、中国国家発展改革委員会と日本の環境省の支援の元で、周先生のチームで中国の都市の発展に関する評価研究を始めました。今日、このフォーラムに参加させていただき、その研究からたくさんの成果を上げられたことを心から喜んでおります。また両国政府の多大な支援のもとで素晴らしい成果につながったことを大変嬉しく思います。

 2年前に日本を訪問した際には、中国国家発展改革委員会の団長として参りました。今回は主に中国の企業の代表者を率いて参りました。2回とも、南川先生にお目にかかれたことを大変嬉しく思います。南川先生には中国で新たな肩書きを与えられたことを皆さまご承知かと思います。中国環境発展国際諮問委員会があり、中国の首相の名のもと世界各国から政府高官、あるいは経済界の起業家、高名な学者を招待し、中国の環境に関する提案をしていただく組織です。私が一同を代表しまして、南川先生がこの度この諮問委員会に招かれ新たに中日両国友好のために活躍の場を得られたことに、心よりお祝いを申し上げます。

 実は私、外交の専門家ではありませんが、一中国人としてこの中から一つのシグナルが読み取れると思います。中日両国は、新しい分野、また既存の分野においてもこの友好をさらに発展させる空間は大きく残っており、今後その機能は高まっていくのではないかと思います。今回、このシンポジウムには6人の中国人の企業経営者が参加しており、ここ数日の交流、見学を通じ、まだ私たちには大いにできることがあると感じているところです。

 今日はたくさんの方がご挨拶の予定がございますので、最後に一言だけ申し上げます。今回の日本訪問は、私にとって17回目になります。何回もお目にかかった古い友人もこの場にたくさんいらっしゃいます。唯一、残念なことに日本の皆さんは中国語がご堪能ですが、私は日本語が全く喋れません。古い友人にお会いしても、手をたたいてジェスチャーで私の気持ちを伝えるしかありません。ただ、現在は技術の進歩のおかげで、この問題を解決することができると思います。テクノロジーの発展により翻訳アプリが開発されていますので、それを介して皆さんともっと会話をしたいと考えております。ありがとうございました。

南川 杜平さん、ありがとうございました。では続きまして、杉本さんからご挨拶と乾杯のご挨拶をいただきたいと思います。

自由にチャレンジできる環境を保持していく


杉本和行 皆さま、こんばんは。ご紹介に預かりました、公正取引員会に務めております杉本と申します。よろしくお願いいたします。今ご挨拶がございました杜平さんとは、北京で何回か周先生主催のフォーラムに参加した時から、いろいろお話をさせていただきました。今回また中国の方々とお会いし、いろいろなお話をこの場でできることは非常に光栄です。

 今、世界経済のウエイトは、明らかに東アジアの方向に移っておりまして、その中で日本と中国は非常に大きな地位を占めていると思います。そういう中で、地域経済というものはそれぞれ国の経済の基盤として支えるものです。地域経済をどう発展させていくかということで、今日は非常に有効な議論が行われたと思っております。

 私はフォーラムに参加させていただく時間がございませんでしたが、最後のところだけ聞かせていただきました。結論は、行動が重要だということだったと思います。私の仕事も、フェアで自由なチャレンジをしていける環境を保持していくことが仕事だと思っておりますので、まさにそういう環境のもとでいろんなチャレンジという行動を起こしていくことが地域経済の発展にもこれから重要だと思います。その観点からも、本日のフォーラムは日中両国におきましても関係者にとっても非常によいことだと思います。

 それでは乾杯に移らせていただきます。本日のフォーラムの大成功を祝し、また日中間のさらなる友好関係の発展を祈念しまして、さらにここにご参集の皆さまのさらなるご健勝とご発展を祈念いたしまして、杯を上げたいと思います。乾杯!

南川 では、しばらくご歓談とお酒、お食事をお楽しみください。

挨拶する杉本和行公正取引委員会委員長

<歓談・食事>

福島の地域振興を助けたい


谷津龍太郎 ご紹介いただきました、谷津です。お食事、ご歓談のところ失礼いたします。環境省を3年前に退職いたしまして、今はおもに福島で除染によって出た土の中間貯蔵をやっております。私の仕事は、福島で大量に発生している仮置き場の土をなるべく早くなくしたいということで、福島の地域振興を助けたいということが目的です。そういう意味で、私の仕事は福島において大きなマイナスをゼロにする仕事です。

 今日私は1時半から6時半まで、すべてのセッションを拝聴しました。最近、歳をとって、自分で話をするのは問題ないですが、長時間座って人の話を聴くのは大変苦痛に感じます。しかし、今日の5時間は全く苦痛に感じず、むしろ短く感じられました。これは今日お招きいただいた南川先生、周先生のプログラム、スピーカーの人選が素晴らしかったからです。

 ぜひ、今日学んだモデレーターの方、あるいはパネリストの方のいろんな共感を生かして、福島の復興に邁進していきたいと思います。今日はどうもありがとうございました。

南川 谷津さん、ありがとうございました。では続きまして、中国大使館公使参事官の明さん、よろしくお願いいたします。

挨拶する谷津龍太郎中間貯蔵・環境安全地業株式会社代表取締役社長

均衡発展の実現に向けて


明暁東 皆さま、こんばんは。私は中国大使館、経済担当の明暁東です。頑張って日本語で話します。本日、学術フォーラム「地域発展のニューパラダイム」の懇親会にお招きいただきまして、誠に感謝いたします。フォーラムの成功を心よりお祝い申し上げます。

 地域経済の発展問題はグローバルな課題でもあり、世界では南北の発展が不均衡になり、アジアでは東西の発展が不均衡になっております。国内においては、日本では東京一極集中で地方が衰退しており、中国では沿岸部と内陸部の発展が不均衡となっております。そのため各地域の国民生活水準は格差が出ており、公共サービスも不平等になっています。

 地域経済研究の大事な目的の一つは以上の不均衡を解決するためです。各地方が公平に生活できるという目標を実現することは、大変な任務であり、経済学者が知恵を絞ったうえで、政府が積極的に取り込むことが第一であります。

 本日の学術フォーラム開催のおかげで、たくさんの知見を得て参考になり、均衡発展の実現にも大きな力になることを確信しております。ご清聴、どうもありがとうございました。

南川 明さん、大変あたたかいご挨拶をありがとうございます。続きまして、中国大使館公使参事官の阮様、よろしくお願いいたします。

日中両国で問題解決に向け協力し合う重要さ


阮湘平 皆さま、こんばんは。ただいまご紹介いただきました、中国大使館の科学技術担当の阮と申します。本日のこの地域発展フォーラムが成功されたことを、心よりお祝い申し上げます。また、今日は南川先生をはじめ、多くの古い友人とこの場でお会いすることができ、また多くの新しい友人とお会いできたことを大変嬉しく思っております。

 本来、原稿を用意してくるべきでしたが、用意すると用意したことをだいたい前の人が喋ってしまうので、今日はやめました(笑)。会場に来てこの横断幕の、「地域発展のニューパラダイム」という言葉を見て、ちょっと感想を申し上げます。

 折しも、中国の発展も新時代に入っています。これはある意味では、ニューパラダイムと通じるところではないかと思います。新時代に入った中国の特色ある社会主義は、この間の党大会で、中国の発展はまだ不十分で不均衡であるという前提を示しました。不均衡の発展の中には、地域発展の不均衡があります。今日のシンポジウムの内容は、日本の問題のみならず、中国の問題でもあり、両国の学者がこの問題について交流を重ね、経験を紹介し合うことが非常に重要だと思います。

 先程お話があったように、中日両国関係はここにきて改善の勢いを見せています。今年は国交正常化45周年、来年は日中平和友好条約締結40周年。この2つの節目の年にあって、両国の地域発展への協力をさらに深めていきたいと思っています。ぜひ、ご臨席の皆さんと一緒に努力してまいりたいと思います。

 今日はおめでとうございます。ありがとうございました。

南川 阮さん、ありがとうございました。あと3人の方からご挨拶をいただきたいと思います。まず、東京放送ホールディングスの武田社長、よろしくお願いいたします。 

中国の研修生の真摯さ、ひたむきさ


武田信二 TBSの武田でございます。先ほど、乾杯の音頭をとられました杉本さんを団長とする訪中団で7、8年前にお邪魔した時に、杜様にもお会いし懇談させていただきました。

 TBS東京放送は、五十数年前に北京に特派員を出したところから日中関係が始まっております。万里の長城などいろいろな番組をつくりましたし、当時の朱鎔基総理をお招きしてタウンミーティング、市民会話をつくりました。

 11年前からは中国メディア大学を対象に奨学金制度を続けております。毎年、研修生が10名近くTBSに来て1週間ほど研修をします。今年もいらっしゃいました。中国の学生の真摯さ、真面目さ、ひたむきさ、これをつくづく感じております。

 この制度は、私が社長でいる限り、続けていきます。よろしくお願いします。

南川 武田さん、ありがとうございました。では続きまして、MTI社長、前多様よろしくお願いします。

挨拶する武田信二株式会社東京放送ホールディングス代表取締役社長

地方を盛り立てるITサービスで貢献


前多俊宏 今日は「地域発展のニューパラダイム」の素晴らしいシンポジウムで、非常に機知に富んだお話を伺うことができましてありがとうございます。杜平さんはじめ、中国の方々とお会いできて光栄に思います。

 ちょっとだけ、私どもの会社の紹介をさせていただきたいと思います。スマートフォンのアプリを展開している会社でして、今、日本で3000万人ほどの利用者に使っていただいています。代表的なコンテンツとしては、「music.jp」という動画、音楽、コミックなどの配信のサイトです。このサイトでは、今年、日中国交正常化45周年ということで、女子十二楽坊のコンサートが今月末に3回開催されるのを後押しさせていただいています。

 今日のテーマの中に地方の過疎化などの問題がありました。我々の会社でもうひとつ大きなサイトは「ルナルナ」という女性向けの健康管理のサイトです。これは、女性の方に排卵日など、どのタイミングが妊娠に適しているかをアドバイスするサイトです。

 今このサイトを使っていただいている方が、日本に1200万人います。日本では1年間に100万人の子どもが生まれますが、そのうち12万人がこのサイトを使っていらっしゃるということで、日本の出生の10%以上に貢献させていただいているというところもあります。

 日本では母子手帳がありますが、その電子化を進めていまして、電子母子手帳のサービスを現在、100ほどの自治体に使っていただいています。じつは南砺市もかなり早い時期から我々の電子母子手帳のサービスを使っていただいています。

 そういった意味では、我々は環境といった面とはまた違いますが、地方を盛り立てていくためのさまざまなサービスに頑張って貢献していきたいと思っています。

 今日はどうもありがとうございました。

南川 前多さん、どうもありがとうございました。それでは、NTT出版社長の長谷部さん、よろしくお願いいたします。

中国都市の画期的な発展指標ガイド


長谷部敏治 ただいまご紹介いただきました、NTT出版の長谷部でございます。本日はこのような素晴らしいフォーラムに参加させていただきありがとうございました。大変勉強になりまして、東京経済大学をはじめ環境省様、関係者の皆さまに心からお礼申し上げます。

 私どもの会社はNTTグループの出版会社でございまして、青木正彦経済学者をはじめ非常に有名な国内、海外の先生方の学術書を出版してまいりました。先ほど、第3セッションでご紹介いただきました通り、周先生をはじめ中国国家発展改革委員会様のご本を出させていただくことになりました。

間もなくあと2カ月ほどで、日本で『中国都市ランキングー中国都市総合発展指標』を出版します。この中国主要20都市の発展指標ガイドブックでございますが、周先生、改革委員会様が新たに開発されました指標を使い、経済、社会、環境の3つの視点から中国都市の現状、課題をそれぞれ表す非常に画期的な本でございます。

 この重要な本を、私どもの会社から出させていただくことは本当に名誉なことです。この本は必ずや、日本の政府、地方自治体、民間企業、大学の研究者の皆様方のお役に立てると信じております。私どもといたしましてもこの本を日本国内で広めていく努力してまいる所存ですので、皆さま方からもぜひご支援いただきたく、よろしくお願いいたします。

 最後に、中華人民共和国及び日本のますますの発展と、ご参集の皆さまのご健勝を心から祈念いたしまして、私の挨拶とさせていただきます。ありがとうございました。

南川 長谷部さん、ありがとうございました。そろそろ、中締めを行いたいと思います。本日のシンポジウムを終始リードしていただきました東京経済大学の周先生より、締めのご挨拶といただきたいと思います。

挨拶する周牧之東京経済大学教授

■ 思考の単位を国から都市、都市から地域へ


周牧之 皆さんに感謝いたします。私はこれまで、たくさんのシンポジウム、フォーラムを主催してきましたが、会場はほとんど都内でした。初めて我が大学のキャンパスでフォーラムをやることになり、実は非常に心配していました。こんな遠いところに皆さん来てくださるかなと思っていました。蓋を開けてみると、都内から、地方から、さらに北海道から遠方から皆様多忙の中お見えになって、本当に感謝しています。

 今回のフォーラムで皆さんに一つ大切なメッセージを送りたいです。今まで我々アジアでことを考える基本単位は「国」でした。しかし、ここ数年ずっと都市を注視していく中で、考える基本単位が間違っているかもしれないと感じました。「都市」という新しい基本単位に注目することが必要です。

 『中国都市ランキングー中国都市総合発展指標』は、中国の295都市を評価しています。この評価で、都市はそれぞれ生きものなのだ、ということを鮮明に抉り出しました。都市はそれぞれ自分の個性と主張があります。これらの都市を全部くっつければ国も全部見えてきます。これは中国研究の斬新なアプローチです。

 しかもこの都市指標は中国の都市にとどまらず、現在、日本の都市も対象として研究を進めています。さらに、韓国、台湾、香港、マカオもカバーするよう努力しています。近い将来、北東アジア研究の新しい基盤を作り上げます。

 東アジアは、思考や議論の単位を国から都市へと向けていけば、見えてくる風景は全然違うものになります。よって、この地域では、さらに大きな交流と繁栄が築き上げられるでしょう。われわれの都市指標はまさに、国から都市へというパラダイムシフトの起爆剤になろうとしています。

 南川先生、中井さん、山本さん、杜平さん、我々の研究に協力してくださった大勢の皆さまに改めて感謝いたします。どうもありがとうございました。

南川 周先生、大変熱いメッセージをありがとうございました。皆さまには午後1時からシンポジウムと、そしてこのパーティーに長時間ご参加いただきまして、誠にありがとうございました。

 最後に、引き続き東京経済大学の活動に熱いご支援をいただきますことをお願いしまして、このパーティーを閉じたいと思います。今日は誠にありがとうございました。

懇親会 二次会


司会:
吉澤保幸  一般社団法人場所文化フォーラム名誉理事

来賓挨拶:
後藤健市  株式会社スノーピーク地方創生コンサルティング代表取締役社長
山口美知子 東近江市役所課長補佐
韓雷蒙   深圳前海国金金融服務有限公司董事長
鈴木正俊  株式会社ミライトHD代表取締役社長
渡邊満子  メディアプロデューサー
森勇介   大阪大学教授
中井徳太郎 環境省総合環境政策統括官
新井良亮  株式会社ルミネ取締役会長          

会場:
オペラシティ52F エムティーアイラウンジ

※肩書は2017年当時

吉澤保幸 それでは、東京経済大学の「地域発展のニューパラダイム」の二次会を開催したいと思います。この場所を提供してくださったエムティーアイの前多俊宏社長と周先生、ありがとうございます。東京の夜景を見ながらぜひ、楽しんでいただければと思います。         

 もともと、今回の「地域発展のニューパラダイム」の企画は、この夏に東近江に参りまして、東近江の近江牛のすき焼きを食べながら、周先生と私の2人で決めた企画でございます。そういう意味でも、最後まで美味しくこのイベントを仕立て上げたいと、皆さまを二次会にお誘いしました。

 もうだいぶお飲みになっていると思いますが、今日のニューパラダイムにご登壇されなかった方で、実際に地域発展に関わっている我々の仲間たちが、この二次会に集まってくださいました。今日の後援をさせていただいた場所文化フォーラムの私のパートナーの後藤健市も十勝から来ました。後藤さんは杜平さんとも親しくしています。

後藤さんは地域で考え、グローバルで考え、地域で行動し、グローバルで行動している大変稀有な存在で彼に一言、今の活動を語っていただいた上で、皆で乾杯したいと思います。

信頼と笑顔で世界をハッピーに


後藤健市 ご紹介いただきました、後藤でございます。中国の皆さんとは、中井さんとのつながりでまず周さんとつながりました。僕は日本の地域でも、世界でも同じことを言っています。「そこに仲間ができれば、その場所は自分の地域になるんだ」です。ですから中国は、私にとっては杜平さんもそうですし、韓さんもそうですが仲間がいることで、本当に大好きな場所ですし、自分の場所だと思って今はそこに自分の想いを寄せております。

 今やっていることは、場所と人を「楽しい」と「美味しい」でつなぐ。そうして場所をつないだ後に、地域を活性化しながら「信頼と笑顔で世界をハッピーにする」という言葉をスローガンに掲げ、地方で30年、海外でも10年以上活動しております。

 先週はニュージーランドとオーストラリアに行っておりまして、明日からハワイに出張に行きます。スノーピークというアウトドアギアのクオリティにこだわったトップメーカーの地方創生の子会社を今年2月に創り、その社長をやらせていただいています。まさに僕は地方創生をずっとやってきたので、国内だけではなく世界をつなげていこうとしています。地域の自然を大切に活かしながら楽しいことをやっているので、中国とも新しいことを仕掛けたいと思っています。ぜひよろしくお願いいたします。

吉澤 ありがとうございます。東近江のローカルサミットin東近江での実行委員長で、緑のジャンヌダルクと呼ばれ、今回ローカルサミットで初めて女性実行委員長になっていただいたお酒の飲めない山口美知子さんに、乾杯のご発声をお願いします。

地域の魅力に気づくきっかけに


山口美知子 周先生に、7月に東近江に学生さんと一緒にお越しいただいて、吉澤さんとのご縁も繋がって、今日このタイミングでローカルサミットの宣伝をここ東京でさせていただけたのは本当にありがたかったなと思います。

 庄内でのローカルサミットに参加した時から、いつか東近江でできたらいいなと個人的に思っていましたが、こんなに早く実現するとは思っていませんで、今は東近江で行政も民間の皆さんも一緒に頑張っています。私達自身が地域に気付く大変良いきっかけをいただいたと思っておりますので、これからまた日本国内だけじゃなくて世界でもどうつながっていくのかが正直とても楽しみでワクワクしております。

 ぜひ、お時間がある方は東近江にお越しいただけたら嬉しいという思いと、今日このような機会を作って頂いた皆さんへの感謝も込めまして、乾杯させていただきたいと思います。

 それではよろしくお願いします。乾杯!

吉澤 ありがとうございます。それでは、しばらくご歓談いただきたいと思います。また後程何人かの方にご挨拶いただきたいと思います。

<歓談タイム>

吉澤 ご歓談中ではありますが、せっかくの機会なので少し中国、そして日本の方にお話をいただければと思います。それでは中国の韓雷蒙さん、お願いいたします。

韓雷蒙 尊敬する日本の友人の皆さま、こんばんは。杜団長の依頼を受けてご挨拶させていただきます。今回東京などで3日間、周先生の引率のもとで勉強しました。その成果を、皆さんにちょっとご紹介したいと思います。

 最初の感想は、中国は経済規模にして世界2番目ですが、まだたくさん日本から学ぶことが多いと感じました。今日のフォーラムで一番印象に残ったのは、鈴廣かまぼこの鈴木さんのお話です。長い時間をかけて自分の企業をアピールするのではなく、この企業が地元の社会にどう貢献したのか、企業の社会的責任について一貫してお話されたことが印象に残っております。

 2点目の感想です。日本は1955年から75年までの高度成長期に、環境汚染などの問題もたくさん発生しました。まさに中国は現在同じような課題に直面しております。

 8年前、周先生の引率のもと北海道まで行きました。北海道で非常に勉強になったことが一つありまして、木を勝手に伐採してはいけない法律があったとのお話でした。それを聞いて深く感銘を受け、中国に帰国してから政府の大勢の関係者に、その話をしました。

 また、本日のフォーラムの中で、この国連で採択されたSDGsの持続可能な発展目標に向けた日本の努力と取り組みも、たくさん聞かせていただきました。

 昨日と一昨日ですが、ルミネ新宿店、六本木ヒルズを見学いたしました。また、前多社長の会社までお邪魔させていただきました。素晴らしい会社運営について中国に戻りましたら、同業の知り合いに必ず紹介し、ぜひまた日本に来てみなさんに学びたいと思います。ありがとうございました。

吉澤 ありがとうございました。では、次は日本の方で、鈴木さん。ぜひ、ちょっと一言、感想を含めてお願いします。

このネットワークは国境を超える財産


鈴木正俊 鈴木でございます。ドコモの副社長を務めていた当時、中国にたくさんお邪魔し、周先生が主催した北京のフォーラムにも伺わせていただいた時、そこに集まっている人は一体どういう人達だろうと思っておりました。動物園のように、ライオンもいるし、トラもいるし、ウサギもいる。きょうのフォーラムもそんなふうに思いました。

 周先生の友人で、中井さんという、霞が関には珍しい熱血漢が現れまして、役人にもこういうのがいるんだと、びっくりしました。周先生が杜平さんを非常に尊敬していることもわかりました。いろんな人が集まるこのネットワークでは、国境を超え人種を超え、いろんなものを超え、個人としてつながっていけることは財産として、ありがたいと思います。

 ぜひ、今後ともお邪魔させていただけるとありがたいです。よろしくお願いいたします。渡辺さん、せっかく中国の方がいらっしゃるので、一言だけお願いします。

吉澤 渡辺さん、中国との架け橋として一言お願いします。

日中国交正常化の感動を機に


渡邊満子 1972年の日中国交正常化の時に外務大臣をしておりました大平正芳の孫娘でございます。その時、私は10歳でしたので、歳がバレますね。大変感動いたしまして、日中の仕事をしようと思いました。今日はありがとうございました。

 この通訳さん、素晴らしいですよね。今日ずっと、この方すごいなと尊敬しておりました。お疲れさまでした。今後ともどうぞよろしくお願いします。

吉澤 日中で言えば、日本の仏教を教えていただいた空海さん、あるいは中国と日本の真言密教を伝えていただいた高野の空海さんがいらっしゃいます。その空海の生まれ変わりかどうか知りませんけど、環境の先端的な技術を研究すると同時に真言密教の帰依をされた森先生をご紹介します。日本と中国の、あるいは技術と心の架け橋の一言をお願いします。

空海の「三密加持」の思想に学ぶ


森勇介 皆さん、本日はありがとうございます。空海さんが中国で修行して、それを日本に持ってきましたが、それはどういうことなのか。結局、今日のお話を聞いて思ったのは、地方創生も全て含めて、弘法大師空海の思想がものすごく大事だなということです。そして、これは建前で言ってもだめで本音で言わなければなりません。

 弘法大師空海が中国から学んだことで言うと「三密加持」。それは、思っていること、言っていること、やっていることが、一致しなければいけない。それに尽きます。そういう意味では、皆さんが本音を言いゴールに向かって実践することが一番大事だと思いました。

 それができるグループを目指して、吉澤さんや中井さん、皆さんを含めてやっているのだと実感しました。この「三密加持」をやりながらいい方向に持っていければいいなと思います。ぜひよろしくお願いします。どうもありがとうございました。

 付け加えて紹介しますが、中国はノーベル賞大好きです。でも医学以外には、まだ獲れていないんです。特許取得数は中国がいま世界一になりました。しかし、いつ科学技術でノーベル賞が獲れるかなと皆が毎年、首を長くして待っています。これから面白い競争が一つあります。森先生が先に獲るのか、中国のこの分野の人が先に獲るのか、です。これはけっこう楽しみです。

吉澤 日本のナショナリズムから言うと、ぜひ森先生に環境技術でいち早くノーベル賞を獲っていただきたい。そして、それを中国で使っていただきたいと思います。それもすべて、仏教の教えに基づく技術でございます。

 それでは、時間も迫ってまいりましたので、中井さん、新井会長、中締めをお願いします。

仲間としての連帯と信頼を分かち合う


中井徳太郎 今日は午後の早い時間からありがとうございました。いつものことですが周先生の企画は密度が濃すぎて中国も北京、鎮江、南京、いろんなところでやりますが同じパターンで東京経済大学においても頭が爆発するくらい、詰め込みで申しわけなかったと思います。

 お疲れではあると思いますが、それだけ中身が濃く、これだけ日本において地域の現場から社会のトップで活躍されている方まで集まって、真面目に胸襟を開いて本音で議論することは、実はなかなかできません。それはこの企画を立てた周先生、吉澤さんはじめ人の輪がある中でできたということです。素晴らしい会だったことを感謝申し上げたいです。

 大変な時代ではありますけど、結論から言うと、仲間としての連帯、信頼をこういう機会を通じて深めさせていただいています。お互いに応えて、今回はホスト、今回は受ける。そういう順繰りがあり、皆で分け合っているという稀有な世界であります。

 私からは本当にお礼を申し上げ、締めとさせていただきます。ありがとうございました。

今日の学びを明日からの行動に


新井良亮 大変遅くまでありがとうございました。また、中国から来た杜平さんをはじめ、多くの皆さまにお付き合いいただいたことを心から感謝申し上げたいと思います。改めて、周先生をはじめ、吉澤さん、中井さんには本当に感謝申し上げたいと思います。東経大の学生さんも事務局として働いていただいたことに感謝いたします。

 杜平さんはじめ皆さんにルミネに来ていただき、心から感謝申し上げます。先ほどお話を聞いた中には多くのビジネスのメソッドが眠っています。まだまだ話し足りないことはたくさんあったと思います。

 私は6日に家族旅行から帰ってきました。私のせがれが中国に行っており、そういう意味でも多くのことを学ばせていただきましたし、また我々も勉強したいなと思っています。

 環境というのはサスティナブルの世界を創っていくものですから、やっぱり国同士の話になりますと長いお付き合いをこれまでもしてきたし、これからもしていく前提に立ってやっていきたいと考えています。これからも互いにいろいろ交流をしながら、築き上げていきたいです。未来はもっと開いていくだろうと、私は多くのことを期待しています。

 終わりにあたりまして、ぜひ今後ともよろしくお願いします。これだけの多くの経営者や各界の人たちに集まっていただいたことで、それぞれ持ち帰るものがあったと思います。ぜひ、持ち帰るだけではなく、明日からの行動に移して頂き、社会を変え、環境を変え、地球を変えていきたいと、そんなことが共通の話題になればありがたいと思います。

 遅くまでお付き合いいただいたことに感謝申し上げ、お礼の言葉にさせていただきます。

吉澤 どうもありがとうございました。それでは、本当に皆さんの気持ちを込めて、日本で言えば一本締めになるんですが、皆さんでこの最後の締めを大きな声で乾杯をして、日中の今後の架け橋、そして新しい未来をつくる想いを込めて、乾杯で今日のお開きにしたいと思います。杜平さんを含めて、皆さんありがとうございました。

 それでは大きな声でお願いします。乾杯!


中国都市総合発展指標

【ディスカッション】中井徳太郎・吉澤保幸・小椋正清・太田浩史・深尾昌峰:地域と金融

編集ノート:
 地域の空洞化、東京への一極集中、情報革命とグローバリゼーション、そして待ったなしの環境問題—地域と大都市をとりまく課題をどう見据え、発展への道のりをどうさぐるかー。東京経済大学と一般財団日本環境衛生センターは2017年11月11日、学術フォーラム「地域発展のニューパラダイム」(後援:環境省、一般社団法人場所文化フォーラム)を東京経済大学で開催し、地域活性化への多様な方向性が提示された。「セッション2:地域と金融」のディスカッションを振り返る。


東京経済大学 学術フォーラム:地域発展のニューパラダイム


日時:2017年11月11日(土)
主催:東京経済大学、一般財団法人日本環境衛生センター
場所:東京経済大学 国分寺キャンパス
   大倉喜八郎 進一層館(東京都選定歴史的建造物)
後援:環境省、一般社団法人場所文化フォーラム


セッション2:地域と金融


司会:
吉澤保幸 一般社団法人場所文化フォーラム名誉理事

パネリスト:
小椋正清
  滋賀県東近江市長

中井徳太郎 環境省総合環境政策統括官
太田浩史  真宗大谷派高岡教区大福寺住職、日本民藝教会常任理事
深尾昌峰  龍谷大学准教授

総合司会:
尾崎寛直 東京経済大学准教授

※肩書は2017年当時


地域内循環と発展の新たなパラダイム見据え


尾崎寛直 本日のシンポジウムの趣旨を、簡単にご挨拶ともどもご案内させていただきます。タイトルに掲げました「地域発展」という文言です。地域といった場合、地域の再生等ということが最近言われますけれども、通常、都市と対比した意味での農村部や地方部のことを指すことが一般的だと思います。そういう意味で、地域発展という言葉自体は決して新しいものではないということは皆さんご承知のとおりです。従来の地域の発展ということに、今回「ニュー」が付いております。何が新しいのかということが大事になってくるわけです。従来型の地域発展は、言ってみれば、いかに地方を都市の生活水準に近づけるか、あるいは雇用を確保して収入を上げてくかを目標として、いわば都市あるいは中央から、どれだけ人、物、金を引っ張って来られるかがやはり大事だったのだろう、そういうことが目指されてきたんだろうと思います。

 その結果として、地方を都市の従属物にしてしまった部分があるんじゃないかと私は考えます。どこの地方でも、同じように大型の施設や工場を誘致する。あるいはインフラの開発をする。まるで都市のアメニティーを地方に移築をするというような発展モデルではなかっただろうかという問題意識を持っています。

 しかし、そういうことで本当に地方は発展したのかということが問われなければいけません。地方が大企業を誘致したとして、一時的に雇用は増えるかもしれませんけれども、結局利益の大半は本社のある中央に吸い上げられる。都市型のライフスタイルを地方に導入したとして、電力消費が増えれば、中央の電力会社から大量の電気を購入しなきゃいけない。また地方から中央に金が流れていく。そういう仕組みが、これまでの開発、従来の都市発展の中で一般化してきたのではないか。

 リゾート開発も、やはり都市による都市のための開発ではなかったでしょうか。地方や地域が持つ豊かな環境や資源。また、その多様性までが都市に絡め取られ、その良さが見えなくなっていったのが従来の発展モデルではなかったかというと言い過ぎでしょうか。

 そもそも都市は単独では生きられないわけです。今までは、地方をさまざまな人材や資源の供給基地にしてきたわけですが、今やそういう立場を変えなければいけない。そういうバラダイムを変えなければいけない時期に来ていると思います。地域の良さを再評価し、その良さを最大限生かす発展モデルをどれだけ構築できるかが問われているのではないでしょうか。何も都市のまね事をすることではないと思います。地域から都市に、中央に資金が流れてしまうことを変えていく地域内循環を考えていかなければいけません。

 このような問題意識から、私たちは今回のシンポジウムを企画いたしました。本日は、地域発展の新しいパラダイムを考える上で、ベストな人々に集まって来ていただきました。本日の議論が皆さまの今後の活動や研究、あるいは政策提案にとって有意義なものになりますことを願っております。

 第2セッションは、司会を本企画の後援団体である場所文化フォーラム名誉理事、吉澤保幸様にお願いいたします。日本銀行にお勤めで2001年より株式会社ぴあ役員、現在は取締役、そしてローカルサミット事務局長等を歴任されています。

 パネラーの皆さまをご紹介します。司会のお隣が中井徳太郎様。当時の大蔵省入省後、環境省に移られ、大臣官房の会計課長等を経て現在は総合環境政策統括官をお務めです。

 深尾昌峰様は龍谷大学准教授です。大学院の頃から京都NPOセンターの構想作りに関わられ、NPO法人京都NPOセンター事務局長を現在もお務めです。2009年より公益財団法人京都地域創造基金の理事長をお務めです。

 そのお隣、滋賀県東近江市長の小椋正清様です。滋賀県警等を経て2013年より東近江市長をお務めです。東近江市は琵琶湖の東岸に位置し、伝統工芸に加え、環境を守る市民運動も非常に盛んな所だと私も聞いております。

 そのお隣、太田浩史様です。富山県南砺市の真宗大谷派高岡教区大福寺のご住職の傍ら、となみ民藝協会会長をお務めで、地域の風土を大切にしたさまざまな普及活動をなさっています。

総合司会をする尾崎寛直東京経済大学准教授

新たな金融改革と地域社会の潮流


吉澤保幸 皆さん、こんにちは。セッション2をやらせていただきます吉澤です。

 今日の問題意識です。「地域と金融」、新しい金融変革と地域社会の潮流というように、ちょっと頭を整理しました。今日の本題は、「地域発展のニューパラダイム」ということで、それを支えるお金のニューパラダイムは何か。これがセッション2のお題かと思います。

 開会で今日、森本次官がお話しされましたけれども、パリ協定を含めて、あるいは先ほど南川さんもお話しされたESG投資等で大きな金融のうねりが、一方でグローバルな潮流が押し寄せてきております。一方で、セッション1でありましたように、地域の自立循環を支えるための新しいお金のローカルファイナンスもいろんな形でうねりを起こしている。その中で、それが交錯する形で金融変革のフェーズに入ってきていると思います。

 マイナス金利という私の古巣の日本銀行が掲げた政策も、単に金融期待を高めるためのカンフル剤ではなく、低成長の中で、地域が、あるいは全世界が自立していくための右肩上がりの世界ではない中で、どう金融構造を変えていくか。そういうメッセージであると私は理解しながら、地域の発展等を目指していきたいと思っているところです。

 まず中井さんにグローバルな、あるいは先ほどのサステナブルファイナンスの動きをご説明していただいて、環境省が取り組もうとする環境金融の大きなうねりをお話ししていただいた上で、小椋市長、それから深尾先生に、もともとローカルでどう自立をしていくか、循環をしていくか。いま金融機関の限界的な預貸率は、大体2割から3割。地域に100預金があったとしても、地域に回るお金は2割、3割しかありません。それをもう1回、地域の中でどう巡らせていくか。

 そんな仕組みづくりとして、東近江の「三方よし基金」という地方創生基金。東近江が2030年どんな姿でありたいかの円卓会議をしながら、それを支える基金を作ったモデルがございます。今動き出しております。それを他の地域にも巡らせていこうということで、さまざまな形で地方に地方創生基金、東近江モデルを広げていきましょうという活動をしています。そうしたことで地域の自立循環を、サステナブルに支えるお金の巡りを考えていこう。そんなことを今日のお二人にお話をしていただこうと思っております。

 日本には、100年企業が3万社あると言われています。その100年企業がこの5年間で数千社増えたということは、間違いなく100年前に、大きな社会課題を迎えた昭和恐慌の前ですけれども、さまざまな起業が行われた。それを支えていたのが、実は地域の共同組織の金融機関、今の信用金庫とか信用組合です。

 今ちょうど日本が新しいフェーズに入ってきているのを、社会全体で支えるとすれば、今こそ新しい形での稼業、資本、地域での業をつくっていく。それがこれからの地域のサステナブルな発展のために必要だろうと思います。それを支える地方創生基金、地域金融機関ある。そうした新しいお金のパラダイムを、このセッションで考えていただきたい。

 温故知新も含めて最後に太田住職からは、かつての懐かしい日本にはそうしたお金の流れの仕掛け、あるいは仕組みがあった、ということを呼び起こしていただき、セッションを進めていきたいと思っております。

司会をする吉澤保幸一般社団法人場所文化フォーラム名誉理事

世界的潮流としてのESG投資と環境金融


中井徳太郎 こんにちは。環境省総合環境政策統括官という環境施策全体の取りまとめというようなことをやっております。吉澤さんからありましたように、お金の切り口から、お話しさせていただきます。今日は中国の杜平さんに来ていただいていまして、大変貴重な機会を周先生につくっていただいたことを、まずお礼申し上げたいと思います。

 普段どういう問題意識かと言いますと、「つなげよう、支えよう森里川海」という、非常にお手に取りやすいパンフレットをきょうお配りしています。

 端的に言うと、2050年に二酸化炭素を80%減らしているような我々の社会、経済の絵柄。日本で言うと、人口が1億人を多分切っている。縮小する。世界ではまだ人口はアジア中心に増えます。そうした中でパリ協定があって、地球全体でも気候変動の問題に対応して、二酸化炭素を21世紀中に増やさないことを言っています。

 そしてSDGsとは、要するに環境の問題と経済社会のいろんな課題が全部絡まっている動きです。究極は2050年に80%減っている絵、そして世界と調和しているイメージが日本で出来ていないとどうしようもないと、僕は思っています。

 持続可能な社会とはどういう絵なのか。突き詰めると、我々日本人は自然の恵みで生きていますから、自然の循環系、多様な生き物、食べ物も含めて共生している。循環共生型の社会ができていて自然の恵みを日々謳歌できて、ありとあらゆる生き物が人間中心にちゃんと調和していることだと思います。それをこの「森里川海プロジェクト」では言っています。

 そんな意識を持って皆でやっていこうということです。そうした社会をつくるにおいて、普段何か食べたり、いろいろ触ったり、物や介護や医療やサービスがある実物の世界を我々は体感しています。でも、その裏腹としてのバーチャルのお金の世界、信用の世界が非常に今大きく動いている話をしたいと思います。

 今申しましたように、この気候変動において、まず世界ではパリ協定があり、大変な問題だという認識になっています。気候変動で災害が起こる。すると経済や社会も基盤が崩れ、大きなリスクだということを世界では明確に捉えています。つまり、経済、社会活動においてのリスクということです。

 物やサービスの実物の世界とは裏腹に、お金というものがあります。我々は企業活動をベースに、物やサービスを動かしている。お金が、投資家であったり我々の預貯金であったりで巡っていくシステムの中で、経済活動がある。

 ここのお金というものが、グローバルなマネー中心で、どちらかというと金融機関も非常に強いものですから、お金というのは、なかなか言うこと聞いてくれないなと皆思うわけです。みんなの預金もお金、株を買うお金もお金。つまり、お金の流れで先ほどの未来を切り開く、お金をうまく道具として使おうということが、実は世界で今大きく起きています。

 お金の流れで先ほどの気候変動というリスクを捉えると、環境の気候変動やリスクを避けた所にお金を投下し、リスクを下げて、育ってくところにお金を流し、生き残ろうとします。当たり前の話ですけども、今、世の中で大きくそうなっている。その変化にあるとの認識が日本でもやっと起こりつつあります。世界が進んでいる、そんな感じです。 

■ 環境リスクの可視化で経済・社会の軌道修正を


中井 その気候変動において金融で今語られていることですが、まず二酸化炭素について申します。「2℃目標」と言っておりますけども、産業革命以降、2℃抑えるには、科学的な知見でCO2の累積排出量は約3兆トンです。もう2兆トン出してしまいましたからあと1兆トンです。「カーボンバジェット」という言い方をします。その制約の中に人類の経済活動、社会活動をみんなで軌道修正していかないことには、1兆トンを超えると2℃では収まらないということです。要するに予算制約的な発想、CO2をお金と同じようなメルクマールとして可視化できるものとの捉え方です。

 気候変動について、リスクだということは「グローバルリスク報告書」という世界経済フォーラムの発表の中にあります。今まではこの気候変動、赤のところですが、例えば2011年だと5位ですが、ここ数年は毎年1位2位という状況になっていて大きなリスクだと明確に言っております。2.5℃上昇で金融資産に300兆円の損害がある。こうした感じの捉え方に世界はなっているということです。

 そうした中で先ほど、お金をうまく使って経済社会の方向性をつくるという言い方をしました。まさしくユニバーサルオーナーシップというお金を運用する投資家が、地球全体を物やサービスの世界と裏腹に、お金という意味で皆持っており、そのお金をマネージする。お金を使ってこの「負の外部性」と書いてありますけど、環境のリスクに対応する時代だという認識が、ひたひたと広がっている。

 具体的には、化石燃料について、先ほども申しましたが2℃目標を達成するにはあと1兆トンしか出せないわけです。そうすると埋蔵量が多い石炭というものは、その1兆トンを抑えるため、ある範囲しか燃やせません。それ以上のものを燃やすと、1兆トンを超えるので、あっても使えない資質ではないか、となる。

 そういうのは座礁したと定義付けをし、そこにはお金を回さない判断を投資家、世界の金融機関が始めています。最新の動きは石炭に限らず、石油まで含めた化石燃料全体が座礁化する方向に、直近では進んでいます。

 この2番のエンゲージメントというのは、先ほどお金を道具として使うと申しましたが、まさしく株の保有株式の権利行使によって、企業のオーナーとして、企業の行動を修正させる。環境リスクを引っかぶったような行動を直させるということで、これがエンゲージメント。お金を道具立てとして、具体的な事例として先ほどのダイベストメントで言うと、ドイツ銀行やカナダの銀行がやっていますし、エンゲージメントも起こっている状況です。

■ 環境へのマネーフローが世界的な流れに


中井 一方、今リスクという捉え方をしましたけども、実はリスクはチャンスであります。再生エネルギーの導入など、まさしく新しくお金という形で付加価値が伸びる分野も環境だ、ということでグリーンファイナンス、ビジネスチャンスがあります。リスクを下げて儲かるところにいく明確なお金の流れの動きが、始まっています。

 事例では、例えばJPモルガン・チェースが2025年までに2000億ドルをグリーンビジネスに向ける、環境に融資するということです。バンク・オブ・アメリカやベルギーのKBCも動きがある。

 日本はどうかというと、ESG投資という言葉があります。環境と社会、ガバナンスについてのお金の世界的な流れのことですが、日本においても地道に数年前から日本版の機関投資家の行動原則というもの、スチュワードシップコードとか企業の行動原則のコーポレートガバナンスコードも、金融庁が絡んで策定されました。

 直近では年金の運用法人のGPIFが、責任投資原則というしっかりとしたお金の流れでやることにコミットした上で、ESGにお金を振り向ける。具体的にESGを指数化したような株式にお金を投資するという明確な動きになっています。非常に今、日本が動きつつあるという状況です。

 そうした金融というお金の流れの中で、リスクとチャンスと捉えている環境に対応するときに、やはり情報が大事になってきます。どの情報をもって財務的に判断できるのかという金融情報として活用できる環境の情報をちゃんと吟味することが、極めて大事になっています。その辺のことを、今やっている状況です。

 金融庁としては金融政策を今大きく根本から取り直す動きになっています。不良債権問題をはじめ、金融セクターを何とかする流れが終わった中で、顧客本位、投資家本位の金融仲介サービスが何かということが、金融行政の題目になっています。その中にやはり、金融を使ってちゃんと地域活性をする流れがあります。地域活性化がなぜ起こるのか、どこが伸びるのか、どこがリスクなのかが、まさしくESG投資、環境も含めた分野になってくる。具体的に日々、地域やいろんな企業の活動に接している我々が、そこに直面しています。

 お金の流れをもってどう社会をデザインしてくかの具体的な動きです。環境政策として今、第5次基本計画を作ろうとしています。やはり2050年、2100年に向けた循環共生型の社会。「環境・生命文明社会」を目指して今取り組んでいます。

 具体的な地域の絡みでは、ファンドという形で国としての支援の仕方とか、「グリーンボンド」という最近世界で非常に動いている金融の面で、環境案件にしっかりとお金が債権として回る仕組み。この辺も日本も今動いていますし、まさしく今日これからお話しいただくような、地域をもう少し地域の目線で見たときに、「地域創生ファンド」という従来の金融の枠組みを超えて、本当に必要な課題にみんながお金出し合って、そこに必要な形でマネーフローをつくろうということです。

 最新事例として、東近江三方よし基金がまさしく動き始めています。日本のグローバルなお金の流れの文脈がありますけども、それを日本としてどう捉えていくかがいま、大きなテーマになっています。

 以上、報告とさせていただきます。ありがとうございました。

スピーチする中井徳太郎環境省総合環境政策統括官

吉澤 ありがとうございました。グローバルなお金の流れ、SDGsもそうですけれども、実際の現場はローカルですので、グローバルなお金の流れのエッセンスは、要するにお金に意志を込めて、従来のパイを増やすためのリスクテイクではなく、これからの持続可能な社会をつくっていくためにリスクを削減する。その方向にどうお金の流し方をしていったらいいか。

 それが新しいビジネスチャンスを生んで地域の創生につながっていく。それが、ローカルな現場に生まれているのではないか。そのつなぎ合わせを、環境省として旗振りをこれからしていただこうという流れで今のお話を聞いていただければありがたいなと思います。

 ローカルサミットを東近江で12月の1、2、3日、場所文化フォーラム主催でやります。東近江の取り組みを小椋市長に少しお話をしていただきながら、どんな思いで東近江の街づくりをし、どんな思いで地域を活性化させ、行政、市民、金融機関を巻き込んだ格好でうねりをつくってらっしゃったのかをご紹介していただければありがたいと思います。

 小椋市長、よろしくお願いいたします。


地域力を高める資源の認識を


小椋正清 ご紹介いただきました、東近江市の小椋です。

 「ローカルサミットin東近江」では、8つのカテゴリーでコースをつくっています。東近江市は合併して12年です。そういう意味では私どもは平成17年と18年にかけて合併しましたので、非常に若い町ですが、一つずつの町が大変古い歴史を持っています。1市6町の集合場所は八日市駅となっています。

 八日市は西武鉄道の使い古しの車両ばっかりが走っておりますが、西武を創設した堤康次郎さんは、私の町のすぐ隣町のおっちゃんです。西武の発祥の地であり、最近ではワコールの塚本さん、丸紅、糸へんの付く名だたる商社のほとんど100%と言っていいくらい近江商人から出ております。今はなくなりましたが兼松興商もそうです。

 柳谷ポマードさんが日本橋にあり、向かい側に「ここ滋賀」っていう自社ビルができまして、そこで11月23日、「東近江市day」をやります。近隣の方はぜひ訪ねてください。鮒寿司、お米とお酒とお肉、おいしいものばかりあります。

 私は基本的に、三方よし基金やソーシャルインパクトボンド、SIBには、一定の条件が必要だと思っております。条件があるかないかで、本当に成功するかどうかが分かれます。成功するキーは何かと言いますと、地理的特性と歴史文化、そして本当に地域力があるかどうかが試される。全部揃っているわけではないが、皆さんの地域には必ず地域力を高める資源があるはずです。それを私は今日、皆さん自身に理解していただくことが大切だということで寄らせていただきました。

 東近江市が合併して388㎢、日本を東西に分ける鈴鹿山脈のすぐ右側が三重県、もう岐阜、名古屋ですね。西が東近江。そして彦根、大津、さらに京都。東西の分岐点であると同時に交流点である。もともと文化的にも生態学的にも、多様性の高い地域です。琵琶湖に注ぐ500本余りの河川は、全部周囲の滋賀県の山々から注いでおり、その源流域から河口まで、いわゆる森里川海を全部持っているわけです。

 そんな地理的特性と多様性が非常にある。地理的特性とは、中京圏と京阪神圏にべたっと接しているということで、放っておいても豊かな町です。

 自慢するわけではありませんが、滋賀県は1人当たりの県民所得がずっとベストファイブです。信じられないでしょうが大体、東京、大阪、福岡、神奈川の次に京都とか静岡にいきますが、ずっと5位です。一時期は東京に次いで2位になったこともあります。それほど豊かな県です。

 例えば、最近ではインターネットの屋内配線率、パソコンの保有率、スマホの保有率、県民1人当たりの保有率はもう断トツでトップです。これは、一つはインカムがいいということと、豊かな財源を持っているということです。欲しくても買えなかったら保有率は高くならないですよね。

 前提として、そうした豊かさがある。その豊かさは一体どこから生まれてきたのかを、分析してみる必要がある。別に近江商人の発祥の地だからではない。もともとの金持ちではない。「始末してきばる」という近江商人の言葉があるように、本当に節約家が多い。

 随分前ですが、宮城音弥東北大学教授が『日本の県民性』という本の中で、全国47都道府県を書いていて、滋賀県だけはべた褒めだった。例えば「近江泥棒に伊勢乞食」という言葉がありますが、要するにえげつない商売をするという意味で、宮城先生の話によると、近江商人、伊勢商人を妬んだ言葉だというわけです。

 そうした勤勉性に裏打ちされた県民性はどこからきたのか。これは中世の惣村文化だと思います。戦国時代、近江の国は踏み荒らされた国で、時の為政者に対して、うまく取り入ってきたのでなく、うまく対応できたことが、大変大きな基盤を支えているという要素もあります。

 そういった中で中世から近世を経て、ずっと歴史を持っていたのが「木地師」です。一部この4番目に書いていますが、「惟喬親王伝承と山の文化」。この話を始めると90分授業になりますので省略しますが、轆轤師です、木地師というのは。お椀を作る。ここが木地師の発祥地で、東北から九州まで全国に良材を求めて転々としていくときに、東近江が全国の木地師さんに山の自由伐採権と諸国行脚をする、いわゆる関所のフリーパス、通行手形を渡す。さらに往来手形、宗門改という身分証明書。IDです。いわゆるパスポートとIDと特権を出したわけです。

 その代りに上納金をもらっていたことが、明治時代に資料として見付かったそうです。全国3万所帯ぐらいの支配があったわけですが、それが未だに精神文化としては生きているということです。私の小椋という姓は、100%我が家から出たというように、今後皆さん小椋に会うことがありましたら、質問されると100%「間違いない」と返ってくると思います。木地師が、実は近江商人の手引きをしたと考えられています。

 最も典型的なのが、戦国武将である蒲生氏郷が最初、滋賀の真ん中辺り、日野町という町の生まれですが、改易で三重県の松坂、そこから会津黒川へ、豊臣秀吉の命で改易するんです。会津黒川が今の会津若松です。若松の人も一緒に連れて行っているから、そこで同じような感覚で住めるように若松と地名を変えて、それが今の福島県会津若松市の起源になっているんです。そのときにやはり木地師を連れて行き、お椀、そして漆。だから会津塗と会津の木地師、そして木曽の、あるいは石川の有名な産地まで、滋賀の東近江から広がっていきました。

 そうした中で、近江商人がなぜ「三方よし」を言ったか。これは結果論です。三方よしなんて、近江商人が思ってやったわけではないです。結果として売り手よし買い手よし、その結果、地域が良くなった。これを勘違いするととんでもないことになります。

 私は経済団体で講演をすることがありますが、皆さんは民間ですから金儲けしてくださいと申し上げます。最初から企業の社会的責任とかCSRに一生懸命になって会社潰したら笑われるだけですよとはっきり言います。儲けて、その儲かった余りを行政のほうに、街づくりにひとつドネーションして貢献してください。そういう発想をきっちり持たないと、勘違いが起こる。本末転倒してしまいますと、私はいつも発言しております。

■ 地域商社作りがスタート


小椋 そういう意味合いも含めて、東近江では三方よしの発想を、教育三方よし、医療三方よし、挙げ句の果てに、「三方よし商品券」を作りました。この考え方が実際に市民の皆さんに理解をされて、現時点では何とか目標の300万円、簡単に集まりました。そう言うと叱られるかもしれませんけども、全部で772名から300万円の寄付が達成しております。

 一つ重要なことは、民間がやっていること、あるいはNPOやっていることだから行政関係ない、というスタンスが一番悪いということです。これからは国から金はもう来ません。東近江市は今、もう合併特例債が発行できます。あと3年です。地方創生の枠組みの特別公費も2年で終わります。2年、3年後には非常に財政状況が厳しくなり、緊縮財政も待ったなしです。そういう中で、いかにしてお金を集めるかということです。

 東近江のSIB、三方よし基金からできてきた中で具体的な話を一つしますと、東近江市は8490haの農地面積があります。近畿で一番大きい農地面積です。その一方で、工業地帯でもあります。具体的に言いますと、村田製作所、京セラ、トッパン、日電硝子、パナソニックがいわゆる電機部門とホーム部門があり、大手メーカーの工場が非常に多いですが、そういう中で農業のSIBができないか。地域商社をプライバリーコープと名前付け、これが成功できたらと考えています。もっと時間いただいて皆さんにお話させていただきたいぐらいです。わずか1500万円の予算を議会へ通すのが結構大変でしたが現在、地域商社をつくろうとしています。

 これはまさに三方よし基金SIBの延長線上として、これから事業をやろうとする人たちが、いかに行政と民間の金を集め、金儲けをするかということです。発想は、眠っている預金、タンス預金と言われる預金と、まぁこれは深尾先生の分野になりますが、使わずにずっと持っている金を何とか引き出して、投資していただこうということです。もう駄目だったら諦めていただき儲かったら非常にリターンがありますよということです。

 今、金融機関からお金借りるのは大変です。もう債務保証しなきゃいけないし、信用保証協会の了解を取らなきゃいけないし、担保は必要だしということで。そういった無担保で貸せるという仕組みを、カジュアルにもっともっと利用できるような制度を作って、若い起業家に利用していただこうということで、まさに始まったばっかりでございます。

 この仕組みが結果どうなるかは、また報告の機会があったらさせていただきたいと思います。冒頭申し上げましたように、一定の条件が必要なのと、いわゆる官と民が本当に一緒になってやらなければ、なかなかできないことを現場から提供しておきたいと思います。

スピーチする小椋正清滋賀県東近江市長

吉澤 ありがとうございました。ここにあります「三方よし基金」のモデルを全国で使っていこうという形で、私も普及活動をさせていただいております。おっしゃるように地域の市民力、それから文化力、理解力があるかどうかが一番大きいと思います。

 東近江の場合は円卓会議ということで、2030年、どんな町になりたいかをこの10年近く考えてきました。実現するためにお金をどう巡らせるかの知恵が出てきて、深尾先生のお知恵等を借りながら財団法人を立ち上げ、それを公益財団にすることによって寄付や休眠預金等々、入りやすい受け皿を作った。

 市長におっしゃっていただいたように、行政と市民と、そして地元の金融機関が一緒になって、2030年の町を作るために必要なお金をどう融資し、それをこれからどう動かしていこうかです。

 東近江はもともと渡来人、韓国等々から海を渡って来られた方も多いです。そういう意味ではもの作りの文化、それからお金勘定も含めた、中国、あるいは韓国からの人々の知恵によって実は基盤ができています。そこにまた文化等が流れていった。非常に歴史的な時間軸、空間的に面白い所です。

 そういう意味で、ぜひ皆様方には、ローカルサミットの第10回に、お時間ございましたらご参加いただければと思います。今回はものすごく面白いことに、東近江市役所の若い人たちが応援して、セッションの幹事役をやっていただいたのです。そういう意味では、これまでローカルサミットは市民主体でしたけれども、今回は行政と市民が一体となって準備をしているところです。

 最後に一つだけ、大倉喜八郎の大倉も、実は小椋姓から出てきています。それを本学の先生がちゃんと文献で残してらっしゃいまして、17世紀に近江から新潟県の新発田に移った方が大倉喜八郎のご先祖ということです。そういう意味から言っても、近江商人、東近江の方々が様々な所で地域づくりをしてきたということで、この東経大とのご縁に繋がります。

 それでは深尾先生にローカルファイナンス、社会的投資を活用した持続可能な地域づくりについて、東近江と全国の動きをまとめていただきます。よろしくお願いします。


社会的投資が変える地域と立ち位置


深尾昌峰 皆さんこんにちは。ただいまご紹介をいただきました、龍谷大学の深尾と申します。先ほど、中井さんから世界的な潮流としてのESG投資や環境金融のお話がありました。私は中井さんのお話を、地域社会で実走できるかのチャレンジをこの間ずっとやってきました。そのお話をしたいと思います。

 お金の流れが社会を変えると思っていますし、立ち位置、ここで言う「ローカルファイナンス」という言葉を我々は作りました。このローカルファイナンスは、まさしく立ち位置。地域の中でのいろんな主体の立ち位置を変えうると思っています。今、市長からもありましたが、役所の立ち位置、市民の立ち位置、企業の立ち位置。そういったものが、もう少し投資行動や地域の営みを通じて変わっていく予感がしております。そのお話をいたします。

 これは東近江市で作業させてもらっていますが、人口が私たちの社会で変わっていく。大事なのは、今私たちはどこに生きているかということです。この放物線上の頂点に近いところに生きているわけです。それはどういうことかと言うと、もうモデルのない時代。これまでの常識やこれまでの在り方が通用しない。新たな文明社会みたいなものを構築していかなければいけない時代認識を持っておくことだと思います。それはもうポスト近代と言っても過言ではないか。今日の前半のお話もそうでした。

 それを僕らはローカルな立場で考えると、まさしく自治モデルの模索だと思います。今、小椋市長からもありました。官民の在り方、一緒にどうやっていくかの役割分担も、もう少し新しいモデルを作る。フリーライダーの市民、そして行革です。ある意味やせ細ってしまった自治体ではこれからの暮らしを支えていけないです。だからといって今までのような補助金に依存をしていく形は、市長もおっしゃったように限界が来ている。

 そうすると新たな自治モデル、もっと言えば、私たちの暮らし、生き方、豊かさみたいなものを再提議しながら、自治で、私たちの暮らしをどう地域の中で守り作って行くモデルを生み出す。今、まさにそんなタイミングだろうと思います。

 それを私たちは今、社会的投資というキーワードを使いながら、地域の金融を地域の自治にどう結び付けていくかを、いろいろな仕組みを作りながら考えています。今日お越しの吉澤さんはじめ南砺市や小田原市などさまざまな地域の皆さん方と研究会をつくり、東近江という舞台でローカルファイナンスの在り方を考えています。

 それをもうちょっと大げさに言うと、今までの国と産業を中心とした統治構造から、地域を単位とする社会経済ガバナンスをどうつくっていくかだと思います。先ほどのエネルギーの話もそうでした。要は自分たちの暮らしや町の出資も含め、自分たちの地域を単位とする社会経済ガバナンスを、新しい資本主義を模索していく中で、どうつくっていくかだと思います。

 大前提になるのは、先ほど市長が地域力という言葉でおっしゃいましたが、地域の資源をいかに活用できるかの眼差しがないと実現できないわけです。それは、先ほど吉澤さんの話にもありましたが地域のお金は実はたくさんあっても、預貸率を活かせていない。

 人もそうです。人材も実はたくさんあります。豊かな自然もたくさんある。これも資源です。文化もあります。今まである意味、東京一極集中の文脈の中で、減価という言葉なのかなと思いますが価値が減らされたり無価値化されてきたものが、実はものすごい財産であり、価値があることに少しずつ私たちは気付き始めた。そういったものを活かした統治構造の変化をつくり出していかなければいけません。

 今までいろんなものが補助金ありきで、インセンティブが与えられ、国から下りてきている。これによって社会が変わっていくこともありますが、本当にそれが地域の力を引き出すことに最終的につながってきたのかどうかも地域の眼差しから考えなければいけません。

 そういったことで、社会的投資、自分たちでお金を調達し共管する資金を束ね、投資の在り方を変えることで、地域のありようを変えていけると考えています。この社会的投資は、今G8でもかなり議論をされていることです。キャメロン前イギリス首相がかなり言い出したこともあり、G8各国ではタスクフォースができています。日本でもこういった議論を、どう実走化するかが議論されています。

 これは何かと言うと、今までの投資は利回りだけを追求する、経済的な収益を軸とした評価軸だったわけです。この社会的投資、ソーシャルインベストメントは、そこに社会的収益をどう併せ持つか。ソーシャルインパクトをどういう織り込むか。まさしくESG投資なわけです。こういったものが地域でどう実走化していくのか。

 僕自身の課題意識は、今までわれわれのソーシャルビジネスでは、ローカルビジネスという類のものは、なかなかスケールやインパクトを出すことができてこなかった。それは、社会のありようを変えていくときに、地域にあるお金や人や、資源をうまく生かしていく社会技術がなかった。そういうものが地域の中にきちんとあれば、それをもっと活かして地域で豊かな生活をつくりだせると思っているわけです。

 その実験の一つとして、今東近江で、自治体のガバナンス改革と社会的投資を組み合わせたらどうなるかの補助金改革を、社会的投資でやらせてもらいました。これは、成果連動型補助金制度で、平たく言えば補助金を受ける側の最初の原資を、補助金の交付決定を打ってもらい、お金を後払いにしてもらう。自治体は後払いします。

 その間の資金はどうするかというと、市民の皆さんで出資をし、その人に託し、その人が決められたアウトカムをきちんと出せば、それを行政が後払いで出資者の人たちに返すモデルです。そういうモデルをつくって、東近江で、市長に無理を言って昨年度から実験をさせてもらっている。日本ではどこもやってなかった仕組みです。

 どういうことが起こったか。面白かったのは、補助金を受ける側もこんなややこしいこと嫌だと言うかなと思ったら、皆さん歓迎してくださった。インパクトで自分たちの事業を評価してもらえるのは、すごくハッピーなことだと皆さんおっしゃった。あとは出資者という市民の姿が見える。要はそこに関係性を紡げる機会になったということです。

 例えば僕が「農家レストラをやります」と言って、500万円の補助金をもらったとします。そうすると、例えば皆さん方が僕の友達だとすると、1回は来てくれるわけです。僕が出した料理を食べて、まずかったときに皆さん方どうでしょう。市長、僕の料理がまずかったら。

小椋 二度と行きませんね。

深尾 二度と行かんけど、僕には言わんでしょ?

小椋 言わない。

深尾 大人ですから。言わないわけです。だけど心の中では「二度と来るか!」と思って帰るわけですね。これって、結局そういう構造の中でそのビジネスは潰れていくわけです。ただ、僕に市長が50万円の出資をしていたら、きっと怒りますよ。「なんであんなまずい料理を出すのか」と。

 これは支援です。関係性ができたときに当事者化している。地域に必要な事業であればあるほど、お金を出すということで、実は当事者化していく。みんなでやっていくというオーナーズシップがそこに生まれるわけです。そういうお金の流れができたときに、実は出資者という支援者を獲得していく関係性が生まれたりするんです。

 あと一つ、これが非常に面白いポイントは、経費の使途は問われない。税金じゃありません。僕が一義的に受けるのは市民からの出資ですから、後で税金として戻してもらうのは出資者への償還金ですから、その時点では領収書のチェックなどは発生しない。成果を出せばいい。そういう仕組みを作っていく。これやるときは「こんなのに金出すやついるのか」とおっしゃっていた。しかし実は東近江ではすぐ集まりました。

 いろんなオーナーシップを発揮したい市民がいること自体が東近江の財産で、そういう形ができてきました。行政にとっても、ある意味で政策的なインパクトに事業を変えていけることが起こってきました。仕組みを変えることが市民の出資によって展開された。まさしく社会的投資が人々の立ち位置やありようを変えていくきっかけになったと思います。

 何よりも市役所が、すごくいいです。このような日本で初めてのことをやるときに、契約検査官という法務セクションの人が僕のところに来ました。契約検査官はチェックする所ですから邪魔しに来たと思った。で、彼はどう言ったかというと「これ日本に例がないですね」「はい」「じゃあ、僕にこの契約書を作らせてください」と言ってその若手の職員が志願してやってくれました。

 そういうことが実現できる役所を持っていること自体、僕は東近江の財産だと思います。何よりも、先ほど市長もおっしゃいましたように、この仕組みはあくまでも手段です。東近江は自分たちの町をどうしたいのかの下敷きがある。これが非常に重要だと思います。

■ 社会的投資専用金融会社を設立


深尾 そういう意味では社会的投資と地域は、いろんな組み合わせができます。後でも少し触れますが、僕らは社会的投資専用の金融会社をつくりました。いろんな地域の皆さん方からオファーが来ています。例えば自然資本を活用した地場産業インキュベーションがしたい、まさしく農業を基軸としてつくり出したい、地場産業化したいと。

 例えばミカンが有名です。さきほどの100年企業の話もそうですが、これは誰かがミカンの木を植えたから、今ミカンが地場産業になっている。こういったものをみんなでお金を出し合ってやろうとか、今は廃棄物の適正処理もこういったお金でやろうとか、いろんな話が私どもの所に舞い込んできています。

 そういった形で、今プラスソーシャルインベストメントという日本で初めての社会的投資専用の金融会社をこの前、財務局から免許をいただいて創りました。この会社で、そういった地域の社会的投資の債券を発行していきたいと思っています。

 21世紀金融行動原則やESG投資を、地域でどうドライブさせていくか。投資が社会を変えられると思ってこうした仕組みをつくっていきたいです。

 且つ、地域の金融機関と連携をしていく必要があるだろうと思います。今いくつかの地域の金融機関さんとやっているのは、地域の金融機関では例えば投資信託を売っていて、そのお金は投資信託を買うと域外に出ていきますが、こうした投資の商品を、地域の金融機関の窓口で買える時代をつくっていきたい。そんな仕組みを作っていきたいと思っています。

 窓口に何気なく来た預金者の地域住民が、自分たちで商品、例えば保育所がない地域だったら保育所債をみんなで行政と一緒になって作り、それを買うことで地域のお金が循環するといった仕組みを、今いくつかの自治体さんや金融機関と作っています。

 本気で社会変革を目指し、自分たちの低炭素型社会、持続可能な地域づくりに向けて、価値の創造と、何よりも行動様式を変えていくことにつながります。オーナーシップが健全に発揮できる。自治の在り方、当事者化などいくつかのキーワードを今日申し上げました。知恵や資源はあるわけです。

 それを活かす社会技術として、社会的投資を地域にいかに実走化していくかを、今私たちはいくつかの地域の皆さん方と考えさせてもらっています。

 そういったところと、先ほどのような官民ファンドや、国の仕組みを有機的につなげていくことで環境省の国全体を考えた政策として環境金融の流れと、そして僕らが今地べたでやっている地域のローカルファイナンスの流れを融合させながら、持続可能な地域社会を作るための、お金の流れをデザインできればいいなと考えています。

スピーチする深尾昌峰龍谷大学准教授

吉澤 深尾先生、どうもありがとうございました。全体を鳥瞰する上で貴重なお話でした。ソーシャルなイノベーションを起こすためには、社会的な課題を解決する社会的な技術が必要で、その金融的な技術を少し変えることによって、新しいローカルなファイナンスが生まれ、新しいお金のパラダイムもできてくると思っております。

 私も中国を回りながら、プラスソーシャルインベストメントで活用できるような案件を発掘しながら、一緒になって今活動を始めさせていただいているところでございます。

 それでは太田住職です。富山県南砺市では先ほど田中市長から南砺未来創造基金の話がありました。その中のメンバーにも入っていただき南砺全東近江版の基金をつくる議論をしているところです。太田さんはその会議の中で「これは結局新たな御講を作ることだね」と、ぽつっとおっしゃいました。

 それは何かと言うと、南砺には既にそういう皆で地域づくりのためにお金を出す、あるいはそれを使う仕組みが実はあり、それを活かしていけばいいんだとのお話をされました。そんなことも含めて、我々が今やろうとしていることには懐かしい過去の知恵があり実践があった。それを未来に向けてどう現代のコンテクスに変えていくのか。東近江の文化とも重ね合わせてお話ください。


■ 「土徳」に出合い、地域の育む力を磨く


太田浩史 「散居村」という言葉は聞いたことないですか。私らの南砺というのは、家が散らばっているんです。周りに屋敷林があって、周りは田んぼです。その家が非常に大きい。だから恐らく、南砺市と砺波市合わせて考えてみますと、1人当たりの家の敷地面積は、恐らく日本一だと思います。

 それは何のためかというと、御講をするためです。御講というのは、村の人たちが皆で月に1回とか2回集まって語り合う。御講は村の人全部が入らないかんですから、それで家が大きい。だから自分のためでなく、パブリックスペースと言いますか、そういう家を造るためには、実は大変なんですね。

 昔は親、子、孫、3代で家を造ると言われました。だから1代は25年です。しかも40歳になるまでは、家を造っちゃいかんと言われましたから、「よし、俺は家を造るぞ」と言ったら、その人は絶対に完成を見ることができないんです。孫の代でようやく完成する。

 こういう考え方は、江戸時代からだったわけではない。よく調べてみますと、大正から昭和にかけて、そういう傾向が非常に強かった。二宮尊徳の「報徳仕法」です。最近、中国の方々も「報徳思想」について二宮尊徳を研究しておられると聞きますが、二宮尊徳の仕法は、江戸時代に尊徳自身が非常に行って、最も大規模に行った場所が、日光と福島県の浜通り、相馬です。

 この日光と相馬について尊徳は弟子たちに言っていた。「いろいろ投資をするのはいいけれども、決して田んぼを汚すようなものに投資してはならない」と。ところが、その日光では足尾鉱毒事件が起こり、相馬地方は今度は原発災害という、どちらも当時の人たちは途方に暮れたような、自分たちでどうしていいのか分からないような大きな問題だったと思いますし、今でもそうですね。

 私たちは、尊徳の神域というか神聖な場所をそうして裏切ってきたような歴史も持っておるわけです。そういう中で、実は尊徳の亡くなるときに尊徳を看取った人に、志賀直道という人がいます。この人は相馬藩士で、甥っ子が志賀直哉です。明治時代、一緒に白樺運動をやっていました柳宗悦、武者小路実篤、志賀直哉、みんな同級生だった。それで志賀のおじさんの所に行って、何か面白い人らしいから話を聞こうと。それで、この二宮思想を教わった。

 それが後に、武者小路実篤が日向、宮崎県の木城という所で、「新しき村」という共同体をつくる。みんなでいろんなもの回し合いながら生活していこうという試みをやっています。柳宗悦は民藝運動。ものづくり、手仕事というものが実は非常に大事だということで、まさに、ものづくりの上での報徳運動のようなことをやっています。それで私は、民藝協会に関わっておるわけでございます。

 先ほど「一つのリスクやピンチは、そのままチャンスになる」と、中井先生の話にありました。私たちのところでは、第二次大戦のときに非常に空襲がひどくなりまして、都会がみんな焼けてしまい、いろんな人たちが疎開してきた中に、いろんな文化人がいました。結果どうなったかと言うと、逆にその人たちの芸術が華開いた。昔「応仁の乱」のときもそういうことございました。

 その一人に、棟方志功がおります。棟方志功は柳宗悦先生の弟子なんですが、柳先生が私らの町、南砺に来て、棟方を尋ねたら絵が良くなっているわけですね。それはなぜかと考えると、地域の力です。土地の力。土地の力がどういうものかを柳先生がよくよく考えて、「土徳」という言葉を発明しました。土徳とは、その土地の力で私たちは無意識のうちに育まれていますが、これが同じ地域力と言っても、いわゆる資源の土徳はちょっと違うんですね。

 資源というものは、目に見えます。数値化もできます。ところが、土徳というのは目に見えません。お金への換算も勘定することもできません。しかし資源は有限ですけども、土徳はある意味では無尽蔵、無限ということが言えると思います。

 それから資源は、私有できる。私物化できます。買えばいいんですからね。ところが土徳は、共有しかできません。こういうものを柳先生は、美しい民芸品が生まれてくる、あるいは人間の生活を美しくする、その原動力と考えました。

 私たちは豊かな生活と言いますけども、「豊か」ということが一体どういうことなのか。金庫にお金がいっぱいあることが豊かなのかと言うと、そうではなくて、やっぱり生活が美しいことが一番大事だと思います。それから豊かな郷土とか、郷土の活性化には、郷土の姿が美しくないといけない。そこで、「美の法門」という言葉を言っています。美の法門はどこから出てくるかというと、大きな願いから出てくる。

 この「好醜」というのは、好き嫌いです。見よいとか醜いという意味です。この、見よいとか醜いというのは人間の都合であります。ところがその人間の都合を超えたその土地に働いている大きな願いと私たちがいかにアクセスするか。それによって美しい世界が開けるという意味だと思います。これを柳先生は人間の美の根本に置かれました。私たちがこれを土徳だとすれば、どうアクセスするか。これは個人的なお金や欲望ではアクセスできません。ちょうど砂漠で砂を握るようなもので、砂漠を握ろうとしたって砂がほんの何粒かしか残らない。そうではなくて、自分も徳を磨かないと土徳とアクセスできない。

 先ほどから聴いております三方よしの話も、社会的投資も一体、何に投資するかですね。土徳もそうですが、土徳は私たちが所有し獲得するものではなく、むしろ仕えるものなんですね。だから一体、何に投資するかというとやはり地域の育む力としか言いようがないです。何を育むかというと、やはり美しい心と美しい生活、美しい郷土です。それをどんどん増幅していく。

 土徳というのは、例えば資源だとアクセスすればするほどなくなっていき、しかも有害な結果ももたらしますが、土徳はアクセスすればするほど増幅されていく。そういう感じがしております。表裏のように、表は資源、経済でありますが、もうひとつ裏は目立たないけれども、徳というものに裏付けられて初めて本当の発展や活性化があるんだろうと思います。

 ですから、私たちの目に見えるもの、見えないもの、これをいかに私たちが自分自身の中で出合わせていくかが大切なのではないかと思いました。

スピーチする太田浩史真宗大谷派高岡教区大福寺住職・日本民藝教会常任理事

吉澤 ありがとうございました。太田住職の説法を聴かせていただける南砺市民の人は、本当に恵まれているなと、いつも思いながら太田さんのお話を伺っております。今おっしゃっていただいたように、本当に地域の魅力、美しさをどう紡ぎ出し、磨き上げていくか。そしてそれを、未来の子どもたちにどう伝えていくか。それを繋いでいくための道具として、お金をどう意志をもったかたちで使っていくのか。そんなことを、このセッションでは考えさせていただきました。

 パネリストの方、ひと言ずつコメントいただきます。まずは中井さんから、お願いします。


顔の見えない世界で信頼できる情報がカギ


中井 ありがとうございました。グローバルな世界のお金の流れは速く、非常に尖ってきていますが、やはりそこは顔の見えない世界があります。僕らの世界でいうと、例えば冷蔵庫の中の牛乳は賞味期限という情報だけで日にちが過ぎれば飲めないと判断しますけれども、実際は1週間くらい飲めるんですね。

 そのあたりはグローバルな世界だと顔の見えないところがある。そうした中で二酸化炭素を減らす環境に対応しようということで、流れていくのを具現化するのに大きなシステムとして動いていかなければならない。そのためには環境の情報は、顔の見えない世界の中で「信頼できる情報」がキーになっていくのかなと思いました。

 ローカルなところは同じくお金を道具として社会をデザインしていきます。いまの「土徳」の話のように、顔が見えて信頼や徳の世界で、お金は同じように動く。しかしお金を動かすために、今までのように信用組合や信用金庫だけに頼っていられない。市民参加型の新しい技術は必要で、ちょっとした工夫でコストを低く、信頼関係を地域から自然の恵みベースで子を守り、いかにつないでいくか。その共有感の中でのお金の使い方であれば、一つのプロジェクトとして良いとすぐ判断できます。

 昔はそうした意味で信用金庫でも人が貸す世界があって、なんとか屁理屈つけてお金を貸すということがあった。しかしローカルなところではお金を道具として、太田さんが言ったように、自然から湧き上がる中で人の信頼の形成をベースにお金を賢く使う道が広がりつつあります。

 それをやりながら地球全体も賢く、知らない人同士でも情報交換し、デザインしてお金を使っていく。環境情報は分かりやすく信頼性が高まるものとしてやっていくことが大事かと思います。

吉澤 ありがとうございます。市長一言何かあれば感想も含めてお願いいたします。

■ 東京を美化するマスコミ規制を


小椋 お話させていただいた中で、やっぱりこれから問題となるのが東京一極集中と人口減少にどう立ち向かうかだと思います。一番大切なことは、一つは地域資源が足元にあるという自覚から始めたら、東京一極集中にはならないと思います。東京に憧れるというのは単なる享楽、快楽を求めて行くのが大半だと思います。ですからマスコミの規制ですね。

 例えば東京だと、今頃の時間だと『シブ5時』という番組をウィークデーにやっているんですが、なぜ渋谷のニュースを滋賀で聴かなきゃいけないのか。何でもかんでも東京を美化するような、東京に憧れさせるような享楽的な方向性にちょっとは規制をかけなければいけないと、南砺市長、思いませんか? 

田中 ものすごく思います。皆で頑張りたいと思います。

小椋 それと、もう一つは仕組みです。例えば、憲法14条を保障する一票の格差。あれは一人一票であって、その中の質的な違いまで保証していないのが本筋なんです。だから僕は政府が、例えば東京の人が鳥取や島根のように価値、重みを欲しかったら、どうぞ鳥取に移住してください、そうしたら価値できますよと。それぐらいのオーソリティーを今こそ、正当に取り戻さないといけないと思っております。これが継ぎ足しです。

吉澤 はい、ありがとうございました。深尾先生、よろしくお願いします。

■ 社会的投資による地域の仕組み作りと効果の可視化


深尾 ありがとうございました。今日は「土徳」という言葉に僕自身も出合えて、非常にハッピーでした。社会的投資もローカルな仕組みを作っていくということは、いろんな相乗効果が生まれることを、どう可視化させていくかが非常に大事だなと思いました。ただ単にお金を金融機関から借りるだけではない、もう少し関係性やオーナーシップや想いや、いろんなものがそこに絡み合うことによって、2倍にも3倍にも相乗効果が生まれていく。それをうまくデザインしていくことが非常に大事だと思いました。

 社会的投資を僕が言い始めてから、実は最初に来た人は、誰もが知っている外資の金融機関の人でした。要は、彼らはリーマンを経て先程のESG投資みたいなものが大事だと分かっているわけですね。僕らが言い始めたこととどうリンクできるかを、彼らが考え始めている。

 中井さんがおっしゃったように、世界的な動きが変わる中で、私たちはローカルでそういうものを惹きつけ、自分たちの関係性を増幅するものをきちんと地域の中で作れないと、またそれを利用して収奪する仕組みが生まれ、ローカルが置いてけぼりにされることが起こると思います。

 ですので、ここはやはり、いろんな世界的な潮流とローカルの流れをきちんとお互いに見据えながら、ローカルの中に仕組みを作っていくことにこれからも力を注いでいきたいと思います。今日はありがとうございました。

吉澤 ありがとうございました。最後、太田住職お願いします。

■ 「一流の田舎」になるという道


太田 確かイギリスの詩人の言葉だったと思いますが、「田舎は神がつくる。都会は人がつくる」というものがあります。だから神というのは大自然と言っていいですし、あるいは土徳と言ってもいいです。

 でも人と神が競争するなんてのは、そんな愚かなことはないわけです。だから、神がつくったものと、人がつくったものが競争するのでなく、お互いに尊敬し合いながら、敬愛し合いながら循環を果たしていく。それしかないと思います。

 田中市長と、初めて市長選に出られた頃、そんな話をしたような気がします。そして一緒に合言葉にしたのが、「三流の都会になりたいですか。それとも一流の田舎になりたいですか」と、こういうことでございます。それで共に一流の田舎になる道をいこうと。

 その時はどうしたらそうなれるかというのは全く見えなかったわけです。しかし、その光明が差してきたような気がいたします。どうもありがとうございました。

吉澤 ありがとうございました。「一流の田舎」という言葉に一番反応されたのは、大原美術館の大原謙一郎名誉理事長でした。先ほどの棟方志功のゆかりの自治体でサミットを昨年からやっていらっしゃいまして、来年は南砺で開催されるということです。

 最後ですが、先ほどローカルサミットのご案内をいたしましたが、お手元に「東近江市イメージ調査」と、「中国都市イメージアンケート調査」があります。東近江イメージ調査は、周ゼミの学生さん二十数名が、今度のローカルサミット最終日で東近江市の地域づくりについてご提言いただくセッションもありまして、その事前調査です。ぜひ、東近江に沸くイメージも含めてご記入いただき、退出の際に学生さんたちに渡していただきたく思います。

 中国イメージ都市アンケートのほうも、周先生がこれから第3セッションで行う中国の都市と都市をどうつなぐのか、どう日本をつないでいくかのアイデアになると思います。

 ありがとうございました。

〈第二セッション了〉


中国都市総合発展指標

【ディスカッション】南川秀樹・田中幹夫・鈴木悌介・信時正人・袖野玲子:地域と環境

編集ノート:
 地域の空洞化、東京への一極集中、情報革命とグローバリゼーション、そして待ったなしの環境問題—地域と大都市をとりまく課題をどう見据え、発展への道のりをどうさぐるかー。東京経済大学と一般財団日本環境衛生センターは2017年11月11日、学術フォーラム「地域発展のニューパラダイム」(後援:環境省、一般社団法人場所文化フォーラム)を東京経済大学大倉喜八郎進一層館で開催し、地域活性化への多様な方向性が提示した。ここで「セッション1:地域と環境」のディスカッションを振り返る。
 


東京経済大学 学術フォーラム:地域発展のニューパラダイム


日時:2017年11月11日(土)
主催:東京経済大学、一般財団法人日本環境衛生センター
場所:東京経済大学 国分寺キャンパス
   大倉喜八郎 進一層館(東京都選定歴史的建造物)
後援:環境省、一般社団法人場所文化フォーラム


セッション1:地域と環境


司会:
南川秀樹 東京経済大学客員教授/一般財団法人日本環境衛生センター理事長/元環境事務次官

パネリスト:
田中幹夫 富山県南砺市長
鈴木悌介 鈴廣かまぼこグループ代表取締役副社長
信時正人 横浜国立大学客員教授
袖野玲子 慶應義塾大学准教授

総合司会:
尾崎寛直 東京経済大学准教授

開会挨拶:
堺 憲一 東京経済大学学長/東京経済大学教授/経済学博士

※肩書は2017年当時


地域の発展、再生、活性化のために


堺憲一 本日は、私どもの学術フォーラムに、たくさんの方がご参加を頂き大変ありがとうございます。

 開催に当たり、皆様にお礼を申し上げたいと思います。もうおひと方の主催者一般財団法人日本環境衛生センター、後援団体の環境省、そして場所文化フォーラム、いずれの皆さまありがとうございます。

 中国からお越しいただいた中国第13次5カ年計画専門家委員会杜平秘書長はじめ中国のさまざまな分野でご活躍のキーパーソンの皆さま、中国大使館公使参事官のお二方にお礼を申し上げます。

 本学の周、南川、尾崎の3名の教員が実行委員会を作りました。尚、南川秀樹先生にはとても嬉しいニュースがございます。中国政府から、中国の首相に直接アドバイスを行う中国の環境と開発に関する国際協力委員会の委員にご就任され、おめでとうございます。このメンバーは、世界の主要国の中で各一人だけ選ばれる大変重要なポストです。

 本学は2020年に、創立120年を迎えることになります。今回の運営に当たり非常に大きな役割を果たしたのは、周ゼミの学生たちです。いろいろ至らないところはあるかとは思います。周先生の方針で、教育の一環で行っております。ひとつ温かい目で見てやっていただきたくお願い申し上げます。

開会挨拶する堺憲一東京経済大学学長

尾崎寛直 セッション1は、司会を南川先生にお願いをしております。南川先生は、まさに環境省が環境庁として発足する当時の頃に入庁され、環境事務次官をお務めになり、そして現在は、日本環境衛生センター理事長です。

 第1フォーラムのセッションのパネラーの皆さんをご紹介申し上げます。皆さまから向かって左手、田中幹夫様です。富山県の南砺市の市長をお務めです。2008年より現在3期目で、南砺市は皆さんよくご存じのところで言えば、世界遺産の合掌造りの集落です。あれで有名な利賀村が合併されて南砺市の一部になっています。

 向かって右手、鈴木悌介様です。鈴木様は、慶応元年、1865年から続く小田原のかまぼこの老舗、鈴廣かまぼこ株式会社の代表取締役の副社長です。副社長の重責の傍ら、日本商工会議所の青年部会長をお務めになり、また場所文化フォーラムの理事等を歴任され、地方創生に大変造詣の深い方です。どうぞよろしくお願いします。

 そのお隣、信時正人様です。三菱商事、日本国際博覧会協会、東京大学特任教授等を経て、2007年より横浜市にお勤めで、温暖化対策の統括本部長、環境未来都市推進担当理事等を歴任され、現在株式会社エックス都市研究所理事です。どうぞよろしくお願いします。

 そのお隣、袖野玲子様です。慶應義塾大学環境情報学部准教授です。もともとは環境庁にお勤めになられ、環境庁地球環境局の環境保全課課長補佐等を歴任され、2015年より現職です。よろしくお願いします。

総合司会をする尾崎寛直東京経済大学准教授

地域経済と環境の両立の事例


南川秀樹 ご紹介いただきました南川でございます。今日は多くの方に来ていただきありがとうございます。また、中国からも杜平さんはじめ、大変お世話になっている方に来ていただき、本当にありがとうございます。先ほどご紹介いただきましたが、私もますます中国とのご縁が深くなりました。環境という問題を通じて、日中の友好がより深まるように努力をしてまいります。どうぞよろしくお願いいたします。

 冒頭に全体の地域と環境の考え方として、何を考えているかについて簡単に報告をさせていただこうと思います。ちょっと見にくいですけど、よろしいですか。

 まず経済と環境というのは両立できるんだというところから話をさせていただきます。当然ながら地域の問題も絡んでくるわけでございます。こういう問題、実は今に始まったわけではなく、かつて長くございました。明治以来、日本の経済成長の発展が始まったときから経済と環境と地域という問題は、常に背中合わせになったり、あるいは握手をしたりして進んできたという歴史があります。

 非常に残念な例から申しますと、足尾銅山の例です。田中正造の「真の文明は、山を荒らさず、川を荒らさず、村を破らず、人を殺さざるべし」という遺言があります。

 事件は皆さんご存じだと思いますので省きますが、要は明治の中頃から後半、大正にかけて、古河鉱業の操業で出てくる、精錬による大気汚染、あるいは廃棄物が川に流れ込む中で、渡良瀬川が汚染され、下流の渡良瀬地域が全てさまざまな有害金属で汚染されました。そういう中で、田中正造以下が戦って結局敗れ、環境も壊れましたけど村も敗れたということで、まさしく経済発展のために地域を壊した残念な事例です。

 これが当時の足尾です。私も役所に入ってすぐに足尾に参りましたが、残念ながらそのときは山も裸に近かったということで、非常に対策が遅れた残念な事例です。

 いろんな例がございます。さまざまな形で問題を克服した、地域と環境と経済をうまくマッチングさせた例もあります。これは別子の銅山で、愛媛にあります。新居浜地域ですがもともとは別子銅山から取った銅の精錬過程で、新居浜にある工場からの煙で大変な汚染が広がったということです。

 当時の住友の総領事の、伊庭貞剛さんが大変な努力をされました。まず沖合20kmにある四阪島に精錬所を移転しました。その上でさまざまなトライをして硫黄分を減らす。さらに硫黄分から硫酸を作る。そういった努力もされ、荒れ果てた別子の山々も速やかに回復されたという事例で、全て自らの判断で行ったということです。

 これがその当時の写真です。私元来この問題に関心を持ったのは、仕事の関係で皇居に行くことが多く、皇居に行くと楠木正成の銅像があります。この下の看板を見ますと、別子銅山から取った銅で作ったと書かれておりまして、それで非常に大きな関心を持って現地にも訪れました。

 今はこういう形で、非常にきれいな山になっております。こうしたことを経て現在の住友化学、住友林業という会社になったということで、後の経済発展にもつながった事例です。

 同様のことは、実は日立についても言えます。日立製作所のルーツがここにあるわけでして、日立銅山、鉱山が大変な環境問題を引き起こす中で、経営者が地元の青年たちと協力し合い、ぶつかり合い、なお協力し合って、一番下にその精錬所があります。

 そこから三百数十メーター、ムカデ煙道という煙道で上へ上げます。山の上からさらに折れたあとに、150mを超える煙突を造ります。いわゆる逆転層が起きても、その上に飛ばし、被害を減らす努力をされております。そういった日本で初めての高層気象観測を含めて対応しました。技術者のひとり小平氏がこの地に日立製作所をつくったという事例です。

 これが新田次郎の小説になっています。165mの煙突で、関という大変な秀才で旧制一高に通った青年が地元の公害問題を戦っていくという話です。会社の社長も政府の勧告とは関係無しに、高い塔を造る。そして高層気象観測を行った上でこの煙突を造って問題の解決に尽力したという話です。今の日本が忘れてしまったアントプレナーと若者の心意気が如実に伝わってくる物語です。

 ぜひ本を読みたいなと思っています。新田次郎さん自身がもともと気象の専門家ですので、高層気象について深い洞察が書かれています。

水俣の大被害から規制強化へ


南川 戦後、大高度成長の時代でございます。1955年から73年、約20年弱に平均10%という世界まれに見る高度成長を達成しました。循環工業をはじめとした設備投資、技術各種、そういったことによってコミュニティーを灯してきたわけですが、片や大変な環境汚染の深刻化という問題も出ました。

 当然ながら経済成長で生活は豊かになります。いわゆる三種の神器ということで白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫が飛躍的に普及をする中で、多くの国民が豊かになり、生活も豊かになりました。

 反面、さまざまな問題も起こりました。特に残念な事例が水俣です。あまり詳しくは延べませんけれども、私自身この問題を長く公務員として担当していました。非常に残念です。特に胎児性の水俣病患者の方をたくさん見ました。本当に目を合わせるのが申し訳ないような悲惨な状況で、生まれ落ちたときから立って歩けない、目が非常に不自由な方です。今若い方ですと、50歳ぐらいの方がおられます。窒素によって成り立っている町、水俣でありながら、町を壊し住民を殺し窒素を生産したことが非常に残念です。

 たまたま今朝、日経新聞を見ておりました。私はいつも5時半に起きて、5kmほど走ってから日経新聞を読むのが趣味でして日経新聞見ていましたら、たまたま今上天皇のことが書いてございました。その中に、水俣の問題が沖縄と並んで大きく出ております。これ感動したものですから読みますと、「真実に生きるということができる社会を皆でつくっていきたいものだと改めて思いました。今後の日本が、自分が正しくあることができる社会になっていく、そうなればと思っています」。これは僕も知っていたんですが、その後に「事前に用意した文面ではなく、困難な道を歩む、困難な生を歩んだ人々を前面に、足跡で吐露された心情だ」と出ております。

 非常にこれを見て私感動しまして、朝から涙ぐんでおったわけですけれども、逆にそれぐらい窒素が水俣においてやったことは多くの国民を苦しめ、また町を破壊したという残念な事例です。

 それから、これはもちろん経済的に言えば非常にマイナスです。チッソにとってもマイナスでございまして、普通に対策をとれば1年に1億円ちょっとで済んだものが結局、保証額とか汚染対策ということで、年に126億円。やはり対策は、問題が分かってすぐ取ると安く済むということが証明できたと思っております。

 当時は、やはり日本の社会自身がまだ若うございました。そういう中で多くの設備投資がなされております。この図にございますように、1970年には全ての民間設備投資の6%が環境汚染対策投資、75年には17%ということでございます。やはり高度経済成長の果実があったからできたと思います。

 もともと大気汚染や水の清らかさ、さらに自然の美しさというものは経済の外にあります。つまり市場では取引できないものでが、これを内部化する。そのためには税とか、あるいは規制とか、あるいは補助金とかいろいろございますけれども、多くは、まずはその規制、そして補助金となっていったわけです。

 規制は1970年から急に強化されます。やはり1970年にいわゆる環境対策国会というのがございました。これはいわゆる四大公害裁判の結論が出る前ですが、やはり当時の佐藤栄作総理、あるいは山中貞則長官いう大変大局観がある政治家がおられたということは、言ってみれば、規制という形で費用を内部化することに大きな貢献があったと、私自身は感じています。

 もちろん、日本の企業も若かったわけでございます。典型な例では米国のマスキー法です。ロサンゼルスはじめ、アメリカにもさまざまな環境問題ございましたが、特に光化学スモッグが大きな問題になりました。そして、マスキー法という法律ができまして、それによって5年間で車から出てくる汚染物質を10分の1に減らそうと決まったわけでございます。ところがアメリカではビッグスリー等の反対でつぶれてしまう。

 日本はいろいろ最初行いましたが、結局ホンダをはじめ、いくつかの企業はトライします。そして適合するものを作ったということですし、そのときに徹底的に内燃機関の勉強を深め、知見を深める中で、いわゆる大気汚染対策だけではなく省エネルギーにつながるような改革もでき、それがその後の自動車産業の大きな発展につながったと考えております。

 これがその通時の経緯です。シビックという車で、本田宗一郎をはじめとした大変な努力によってできたということで、これから日本の車の時代が始まりました。

遅れをとる日本の温暖化対策


南川 次に、温暖化でございます。ご承知のとおりでございますけれども、左側の図は、これは上が地上の平均気温、下が海面の上昇でございまして、当然ながらこれだけ数字が上がっています。それから右側は北半球の積雪面積が減っています。さらに北極海の海氷が減っています。ということで、明らかに影響が出ているということでございます。

 実はいろいろなリスクが、たくさんあります。農業から災害、さらに健康という面で多くのリスクがあり、難民も出ます。この中でパリ協定が合意されまして、2年前でございますけれども、パリは大変な動乱の中で会議が開かれたということで、フランス政府の努力に敬意を払いたいと思います。その中で、パリ協定が昨年11月に発効されました。

 全世界の中で目下加盟してないのは、実はシリアだけです。あとは困ったことに、トランプ大統領のほうでアメリカが脱退すると宣言されていますし、さまざまな大きな摩擦が今あるところです。いずれにしてもパリ協定をきちんと守ろうと、そして産業革命から比べて2℃以下にその上昇を抑えよう、できれば1.5℃にする。そのためにはできるだけ早くCO2等のガスと吸収のバランスを取りたいということです。

 カーボンバジェットということもあります。要は気温上昇を2℃で抑えるためにはあと残りが約1兆トンしかない。そういったバジェットという観点から残り少ない排出量、許される排出に、いかに抑えてくかの発想が大事です。従って、その後に下げ止まりになるようなことはやめよう。石炭火力をばんばんつくるとか、非常に環境負荷が大きいインフラ都市構造についても、ぜひ考えてもらいたいということです。

 その中で、一つの目安として炭素生産性を上げていこうということでして、炭素当量当たりのGDPを増やす。要はCO2等を出さないで、いかにGDPを上げていくかということです。いろんな都市が努力をされています。

 残念ながら、1人当たりの排出量を見ます。日本は赤でして、あまり減っていない、なおかつヨーロッパの国と比べると高いということもあります。アメリカでは少ないということです。ただし、隣に1995年のデータがございますけれども、残念ながらCO2の下がり方は、日本は一番少ない。ある意味で成績が悪いということが言えるわけでございます。

 炭素生産性についても同じことが言えます。あまり芳しくないということでございます。先日の日経にも出ていましたのは、GDP成長率とグリーンハウスガス、温室効果ガスの変化を見ると、日本は経済も成長していないし、炭素の排出量もあまり減っていないということです。残念な数字が出ているわけでます。CO2はこれからどんどん増えてまいりますけど、その中で経済成長はしているというわけでして、経済成長をしながら世界的にはCO2排出量は横ばいです。

 これはちょっと大事です。後でまた出ますけれども、今、脱炭素化に向けてさまざまな経済対策が世界で取られています。その一つがESG投資でございまして、環境と社会、企業統治いうものについて、投資あるいは逆に投資を撤退するという大きな仕様になっております。ヨーロッパ、アメリカでは、これに対する投資が非常に大きな額を占めていることだけ知っていただきたいと思います。

 累積排出量をどんどん減らそうということで、積分の世界でいかに排出を減らすかということが大事になっていきます。再生エネルギーですけれども、非常に日本も伸びてきてはおりますが、まだまだですし、太陽光を中心で風力、風火、それ以外についてはあまり伸びてないというのが現状です。

 残念なのは、実は太陽光だけではなく、風力も、バイオマスも少しずつ増えてきていますが、その中で日本のシェア自体は減っています。特に日本の企業のシェアは減っていまして、国内ですら、実は太陽光発電にしても、風力にしても、バイオマスのボイラーにしても、ほとんど日本企業の製品が使われてないという残念な実態があります。

 これは太陽電池のセルの販売でございますけども、かつては日本も1位2位を占めていました。2010年頃にはシャープ、あるいは京セラという所がベスト10に入っておったわけでございます。今はトリナとか、JAソーラーとか、あるいはハンファQセルズとか、中国、韓国こういった所の企業が世界のトップを走っています。

 残念ながら、日本の企業の影はどんどん薄くなっております。太陽電池だけじゃございませんので、風力発電、バイオマスボイラーについても、日本企業の製品というのは日本の発電に関わる企業ですら使わない、使えないというのが残念ながら実情でございます。

スピーチする南川秀樹東京経済大学客員教授

環境省に原子力規制委員会


南川 そういう中で環境省のほうで長期ビジョンをまとめています。ぜひ皆さんにもご覧いただきたいと思っております。ポイントだけ言いますと、一つはエネルギー消費量を減らしましょう。それからできるだけ、それぞれ低炭素化しましょう。その中でも電気は非常に低炭素化しやすいということで、電気の割合を増やそうということです。

 発電のことについて言いますと、CO2が出ない再エネ、あるいは原子力、それからCCS無しじゃなくて、これはCCS付きです。間違っていますが、CCS付きの火力発電ということで、一番下の部分がCCS無しの火力発電もガス発電はあるだろうと想定し、9割の発電を要はCO2が出ない形に持っていきたいということです。暮らしも移動も同様です。

 震災後、結果的には行政措置が大きく変わり、かつて経産省のエネ庁の下にあった原子力保安委員会委員、内閣府にあった原子力安全委員会というものが、全て環境省の外局として今、原子力規制委員会です。

 私、当時その責任者していて言われたのは、経産省からどこに置くのがいいかという議論があり、内閣府という意見もありましたが、内閣府は経産省の影響が強すぎる、あるいは原子力安全委員会はもとは内閣府にあったということから、結局、経産省から一番遠い環境省、ということで置かれたと承ったわけです。自分が動いたわけではないですが、そんなことで今やっています。中国でも、環境省に原子力関係の規制組織があると承知しています。

 独立性の高い委員会ということで活動しておられます。規制基準を新たにしまして、今や世界のトップクラスということでございます。田中委員長も先日退任されましたけれども、科学者の誇りを持ってこの基準を作られ、審査に当たられてこられました。最後に本人が退任される前に、柏崎刈羽のゴーサインを事実上出して退任されましたけれども、彼自身は、大変自信と誇りを持ってそうしたということでございます。

環境倫理の確立を


南川 生物環境も実はお金の問題が難しゅうございます。大気とか水の問題、まだすぐ目に見えるんですが、いかに生物や自然というものを経済に入れていくか。経済官庁から一番遠いものをいかに入れるかということが、実は生物多様性の骨子でございます。自然を守ること、それから生物の多様性、遺伝子を守る、種を守る。それがいかに経済的にもペイするかをしっかり入れたいということが、もともと生物多様性条約の根幹でございます。

 そういった観点から名古屋で会議が行われまして、大きな成功を見たということでございます。これが名古屋議定書の内容でございます。これは新聞等でご覧いただきたいと思います。いかに生物の恵みを産業活動に生かすかということで、逆に提供国にも利益を一部還元する。従って、資源を守る国についてはメリットがあることをはっきりと出したいということで、こういった議定書があるわけでございます。

 さっき森本さんから話がありました。国立公園も同じでございます。国立公園を立派にしようということでございます。規制だけでは守れません。その中で特に外国人のインバウンドも含めて想定して、立派にしようということでございますが、立派にするということは逆に看板をきれいにしたりということではございません。自然をきっちり守るということが必要なわけでございます。自然をきっちり守れば海外からお客さんがたくさん来て、お金も入るということでございまして、守ることはつまり経済的な豊かさにもつながるということを、ぜひこういったところから果たしていきたいと思うわけでございます。

 もう一つは、今年、妙高戸隠連山国立公園ができました。その開所時に呼ばれ、入村市長、月尾嘉男先生、竹内和彦先生等と一緒に行きました。隣に石の看板があります。国立公園ではなく生命地域発祥の地というように彫り込んであります。

 これは市長の発議で、国立公園というのはもちろんお金もあるけれども、お金だけではなく生命地域の発祥の地という、市の倫理です。要するに環境を倫理に入れて、それを市の精神的なよりどころにし、また経済発展にも使っていきたいということで、さまざまな動きが行われています。従ってお金も大事ですけれども、環境というのはお金だけでは守れないところがございます。環境倫理を、もう一つ打ち立てていくことを強く感じております。

大気汚染と温暖化対策で日中協力を


南川 最後、中国でございます。これは今の日中センターですけれども、環境友好センターです。かつて竹下総理と李鵬首相が握手をして合意をしたということで、北京の日中友好環境センターを中心に、さまざまな友好行事が行われております。そういう中で合意の文書も作られましたし、その後トキの問題、大気汚染と温暖化の問題のコベネフィット協力なども行われるところでございます。

 現在、特に中心になっていますのは、大気汚染の協力で、中国の多くの都市と日本の都市が結びついて、連携しながらこの問題に考えていこうということで、各地域の経験を私どもセンターも関わっていますけれども、中国と一緒に勉強しながら、どうしたら中国の大気が改善できるかということを一緒に研究しているところでございます。

 僭越でございますが、先月中国に参りまして、中国で日本の環境問題ということで出版をいたしました。多くの方に読んでいただいて大変光栄です。ぜひ中国の方との親交を深めながら、中国の環境保全に尽力をしてまいりたいと思います。

 日中韓3国での大臣会合も頻繁に行われています。中川大臣もこの問題大変関心を持っておられます。ぜひ日中韓の協力の中で、環境問題を改善していき、環境問題を一つのコアにして協力を深めたいと思っております。


南砺市のエコビレッジ構想の取り組み


田中幹夫 ご紹介いただきました、富山県南砺市長の田中でございます。このような所に住んでおります。私、場所が多分皆さんお分かりじゃないと思うんですけれども、富山県の南西部、隣が金沢市、そして南が白川村と飛騨市で、石川県と岐阜県のちょうど挟まれた、そういった場所でございます。

 今日は本当に素晴らしい学術フォーラムに呼んでいただいて感謝を申し上げます。また中国の皆さまがたにお会いできたということも本当に嬉しく思いますし、この花の横で先ほどから素敵な香りがずっとしています。ありがとうございます。中国との関係は、私の大好きな紹興市と今、姉妹都市を結んでおります。我々の故郷から出た松村謙三先生と周恩来先生が仲良く、日中友好の礎を築いた関係から、紹興市との姉妹都市関係を結んでいます。

 それでは南砺市の取り組み、まさにアクトローカリー、地域から何ができるかを今実践しておりますので、少しその辺りの紹介をさせていただきたいと思います。南砺版の「エコビレッジ構想」を、市として計画しました。

 これは2011年の3月11日、東日本大震災が発生したその年に、今吉澤さんもいらっしゃいますが、ローカルサミットを南砺市で開催しました。そのとき南砺からの発信をするためには、やはりエネルギーやさまざまなものまで、小さなエリアで循環できる地域デザイン計画をしようではないかと。その中でエコビレッジ構想をつくることにしました。

 ちょっとヒッピーのようなイメージもあったのかもしれませんが、我々は南砺市版のエコビレッジ構想づくりで、自然と共生し、環境への負担が少ない暮らしを営む共同体、そして地域の自給率を高めようと考えました。私たちの市には、世界遺産の合掌集落がございます。白川郷と五箇山の合掌造り集落が、1995年の12月に世界遺産登録に至っています。その集落において、循環型がしっかりと小さなエリアで保たれてきている、そういうものが評価されたと思っています。それをシンボルとして市全体に広げていこうということです。

 この小さな合掌造りの世界遺産の部落、四つの町と四つの村が、平成16年に合併してできたのが南砺市です。町の人と山の人、また途中にいる中山間地の人、平野の人、いろんな人たちが一緒になってこれから町をつくっていこうということでしたので、こういったものを立ち上げました。

 なぜエコビレッジなのか。先ほど少しお話しさせていただきましたが、経済優先社会がこのまま進んでいってはいけないのではないか、また自然の大きさの、いろんな災害が発生しているではないか。そして人間関係も非常に希薄になってきて、今まで我々は「結」という、隣近所みんなで協力し合って暮らしてきて、その中で豊かな暮らしを得てきたと思うのです。また上流から、きれいな水をちゃんと下流の家の人たちの所へ流してあげる、そういう関係性も非常に豊かで幸福感を感じていたわけですけれども、やはり人と人との関係も薄くなってきたのだと思います。

 そういう中でもう一度、自然と共生し、先ほど言いましたけれども、とにかく地域が自立するためにはどうあるべきか考えましょうと。新しい暮らし方をやはり発信していこうではないか。地域資源、人、物、文化、情報、お金、こういったものを地域の中で循環させていこうではないかと、こういうことでプランを作らせていただいたわけです。

市民が幸福感を得る街づくりを


田中 小さな循環による地域デザインということで、南砺市のエコビレッジ構想を平成25年の3月に策定をさせていただきました。再生可能エネルギーによる地域内エネルギーの自給と技術の育成。農林業の再生と商工観光業との連携。健康医療、介護福祉の充実と連携。未来をつくる教育、次世代の育成。ソーシャルビジネスやコミュニティービジネスによるエコビレッジ事業の推進。そして森里山の活用。こういったことで基本方針を六つ掲げさせていただきました。

 実は地方創生など、私が2期目ぐらいの選挙のときにいろいろとつくってみたのです。私は市民の皆さんの幸福感を高めることが仕事だと思っていますし、南砺に暮らす人たち、もしくは南砺の価値を高めるのが私の仕事で、道路を造ったり水路をつくったりだけが仕事ではないと言い続けていました。それでだいぶ反発を食いまして、「道造るのが仕事だろう」とかいろいろ言われましたけれども、そうではないと。いろんなことをしながら、トータル的に市民の皆さんが幸福を感じる街づくりをしていかなければならないのです。

 それと最近は合併しましたので、いろんな施設がたくさんあります。私たちは今まで、この次の時代に何をつくっていくかということではなくて、私たちは次の世代に何を残していけばいいのかという発想から、今後街づくりを考えていかなければなりません。

 これは合掌造りの家をイメージしています。屋根があって、柱があって、地盤があって、基盤があって、ここにちょうど家で言うと基礎ですね、基礎石。この辺りにエコビレッジ構想というものを掲げて、その上に政策の4本柱を立ち上げていき、人口ビジョンだとかいろんな政策を組み上げていこうということです。私が一生懸命しゃべっていても、職員の皆さんがなかなか分からないということで絵に描いてみましたが、「余計に分からない」と言われまして……。そういうものでございます。

 これもエコビレッジ構想の柱でございます。命だとか、賑わいだとか、自然エネルギーだとか、元気農業。この後のセッションで、太田住職という私の尊敬する南砺市の太田住職が、いろんな命とかそういったところどんどん発信されます。

 大きくいくつかありますが、まずは子どもたちと一緒に「エコビレッジ部活動」というものを市内の高校生、中学生と一緒に取り組んで、勉強会をする活動をしております。また最近は、環境省の皆さんが本当に興味を持って取り組んでいただいています。エコビレッジモデル事業の「オーガニック街道」というすごい街道をつくって、ここで農業をやっている吉田さんという大変素晴らしいカリスマ性のある方と一緒にチームを作って、いろんなバイオマスを利用しながら農業をしています。既にそれも動いています。

 そして木質エネルギーの利活用、この後また少しずつ詳しく書きますが、エコビレッジ住宅、エコビレッジのそういったコンセプトを持った住宅地を造成しようではないかと。向こう側に行きますと、我々の合掌造り集落のある村でございますが、一つ一番古い合掌造りの家屋が、モデル事業をやる桜ケ池という所にあります。それをこれからリノベーションし、シンボルの一つにして広げていきたいなと思っています。

 まずは森林活用事業ということで、やはり我々は8割が森林ですので、その森林の材をどう使うかなんですが、実を言いますと、本当に銘木というものがなかなか取れない山です。雪が4m、5m降りますので、完全に根が曲がっています。いろんな手法でいい木を作っている人はいますが、なかなかうまくいかない。しかし用材は用材としてしっかり使って、市の我々も、住宅を建てるときには市の材木を使おうと市民に訴えながら取り組みます。

 B材、C材、D材といろいろと使うところは使いますが、最終的にはエネルギーとして、バイオマスで熱源を利用してこの施設に使おうということで、行政が今管理している体育施設、病院、温泉施設などの所に木質のボイラーを入れてやっています。また、民間の人たちの家にも、何とかペレットストーブ入れてもらうための助成をしながら進めています。

 今までほぼできていたものと今後の計画を作っていますが、南砺市の民間の皆さんで、「南砺森林資源利用協同組合」を作ってもらいました。山の仕事をしている方もいらっしゃいますし、南砺と言えば、一つは木彫刻の町でもあります。木製バットの町でもあるんです。木に関わるいろんな人たち、小さな企業や、一般の方も加わって、組合を作っていただきました。

 そこに今回の補助金をいただきながら、ペレット工場を今工事中でございます。そのペレット工場ができれば、一番山に近い所に集めてきて、そこで燃料として供給できる、そのシステムを今作っています。山のほうは、ペレット工場までに持ってくる前に薪にして、木の駅、薪の駅を造って、そのままボイラーで薪のまま燃やす。

 こういう形で、二段構えで今取り組んでいるところです。上流から下流までのニーズを、今調査をしていますけれども、そんなに大きなキャパをつくり上げることはできないですが、我々が使う範囲は、しっかりここで供給できる仕組みを作ろうということです。

 次に、先ほど言いましたけど、これが一番古いといわれている「加須良」。これは移築してきた古い合掌造りなんですが、そこを、今度は新たな拠点として今、開発をしています。ここに書いてありますが、一般社団法人リバースプロジェクトさんは東京にあるんですが、伊勢谷友介さんら俳優さんがお創りになっている会社なんです。その会社とタイアップし、隣の市の金沢大学さんと連携をしながら、現在いろんなプランを作っています。住民の皆さんはじめ様々な方々がここへ寄り集まって、プランを作っていきます。

 これがイメージ図です。南砺市のいろんな顔を言いましたけれども、もともと合掌造りというのは、下が住居であり、仏壇がありますのでお寺であり、牛がいたり、そして働く場所があるわけです。2階、3階、4階は大体お蚕さんを飼っているんですね。そして生糸を生産して、その生糸を紡いで城端という所へ出して、城端で絹織物にして、金沢のほうに出し、京都へ出す。こういう元々の文化があります。合掌造りの中でお蚕飼っている家は今や全く無いので、もう1回そういったものができる仕組みも作っていこうということしています。 

コミュニティ作りで「小規模多機能自治」へ


田中 エコビレッジの住宅も計画中です。燃料も材料も、そこに住む皆さんの思いを一つにしながら、エコビレッジの住宅ゾーンをつくることを、民間の皆さんと勉強会を立ち上げながら進めています。

 この中で、最終的には我々の町は、3世代同居というものを推進しています。家で3世代同居になれば一番いいんだろうと思いますけれども、新たな住民の皆さんとか、新たな価値が理解できる人が集まってきた中でも、年代もやはりいろいろとバラエティに富んだ人たちが、より素晴らしいコミュニティーをつくっていくということが大事だと思っておりますので、そういったものができないだろうかということでございます。

 現在、南砺市の人口が減っていく中でいろんな政策をやっています。やっぱり一番大事なのは住民自治ということで、再度、自治振興会の皆さんと2年間の勉強期間を置いて、新たな住民自治の仕組みをもう1回考え直そうということで進めているところです。

 従来の今までの自治、俺の所は全部やっているんだよと言いながらも、やはり婦人会の皆さんに負担が掛かったり、一部の人たちに負担が掛かったり、若い人たちがなかなかそこに定住しない。そういう原因も一つあるのではないかということで、今までやってきたことを棚卸して、新たな地域の住民自治の仕組みを作ろうということであります。

 これを今、日本のいろんな地方で実験的にやっていらっしゃるんですが、「小規模多機能自治」と言うんですね。なんか福祉事業のような名前なんですが。いろんなことをやっていきますと、結果的には教育であったり、産業だったり、イベントだったり、そこにまた福祉の分野もちゃんと生まれてくるんですね。もともと我々はそういう地域で暮らしてきた、そういった地域をつくってきた、そういう地域の皆さんと一緒に、もう一度戻ってみようと、こういうことでございます。

 これは今、ペレットボイラーを一生懸命設置しております。ペレットを作っていますが、こういったものをどんどん増やしております。

 これも小水力発電、やはり山があって雪国ですので、小水力を使わない手はないということで、南砺市内、積極的に小水力、民間の力もお借りしながら、今どんどん広げていきたいと思っています。

 これが先ほど言いましたように、吉田さんという農家のグループで、バイオマスの熱と二酸化炭素でものすごく発達が早い野菜が作れます。熱源もそこで確保できるということですので、こういった農業をさらに広げ、オーガニック街道へつなげていきたいと思います。

 地域には、野菜のいろんな作り手がいるんですけれども、それをどう売ろうか、どうしようかって言っていたところ、このシェフがミシュランの一つ星を取り、そこにパンだとか、野菜の余ったものを使っていろんな料理を今後作っていこうということで、組合が立ち上がりました。高校生がエコビレッジ部活動ということで、行政と一緒に取り組んでいます。いろんな商品が生まれつつあります。

 これは地域の所得循環機能、南砺市の場合です。一番右側にかなり外へやっぱり出ているんですね。何十億、燃料だとか、エネルギーだとかというのはやっぱり外部へ出ていますので、できるだけ外部へ出ないようにしようと。できるだけ入ってくるものを増やしながら、こぼれていくものを埋めながら、そういう仕組みを作ろうとしています。

 まだいっぱいあります。今度はファンドの話になりますが、今、吉澤さんら様々な方々にご協力いただいて、我々の地域の課題を自分たちで解決するためにどうあるべきか、からスタートしています。コミュニティービジネスのスターター支援ということで、今勉強会を進めていただいているところです。東近江の市長さんもお越しですけれども、ファンド利用で東近江で今取り組んでいただいていることを全てパクリながら、一生懸命進めていきたいと思っているところです。

スピーチする田中幹夫富山県南砺市長

地産地消の再エネで経済振興につなげる


鈴木悌介 私は小田原からまいりました。先ほど学長先生のお話を伺いながら、少しご縁があるなと思ったんですが、実は、大倉喜八郎先生の別荘が小田原にございました。共寿亭、共に寿の亭と言いまして、今はちょっと空き家になっておりまして、何とかしなきゃいけないかなと思った次第でございます。

 今日の「地域と環境」という政策テーマについて、エネルギーと経済という視点で少しお話をさせていただきたいなと思います。まず少し自己紹介的に、私の所は、先ほどご紹介いただきましたけれども、江戸時代の末期からかまぼこ屋をやっております。合わせて今日お手元に、資料の中でちょっと細長いパンフレットが入っておりますが、やけに長い名前の会。「エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議」という会議のパンフレットが入っておりますが、私は今ここの主催をしております。

 この会は2012年の3月に作り、全国で370社程の、地域の経済の下支えをしている中小企業の経営者がメンバーになって、エネルギーのことをしっかりと正面から捉えていこうということで今、エネルギーの活動を一生懸命させていただいております。なぜ、かまぼこ屋がということですけど、今日はパワポがたくさんあるのでポンポン飛ばしてきます。

 「いただきます」。ここに尽きるのかなと思っています。食の仕事をずっとやっておりますが、食べ物は全て命のあるものです。言うまでもありませんが、人間がうまいものを食いたいとか、栄養が欲しいとか、今日は仲間で盛り上がろうとか、人間の勝手な理由で自分以外の命を使っているのが、ものを食らうということだと思っております。そういう意味では、その大切な食を、命の問題に関わる仕事をさせていただいた立場で話をすると、大変責任が重たいなと思っております。そんな、かまぼこ屋がなぜエネルギーのことを考えているのかを、少しお話させていただきます。

 直接のきっかけは、6年半前の東日本大震災でございました。そのときに、私の地元のほうも大変な思いをいたしました。私どもの小田原、箱根は観光地ですので、福島原発事故後に、箱根は全くお客様いらっしゃらなくなる状況が続きました。また300km離れた所にありますが地元のお茶が2年半ほど全く取れない状態がありました。

 それまでエネルギーのこと、特に原発については無関心でございましたが、少しかじりながらやってみると、こりゃとんでもない仕組みだなと思いました。環境問題的にもごみの問題もあり、経済合理性も全くない仕組みを早く蘇生をしなきゃいかんと決心いたしました。

 もう一つ思ったことは、経済活動の大事な点で、普通に街を歩け、普通に空気が吸え、普通に水が飲める当たり前の暮らしがあって初めて経済活動があるわけです。それを壊す、あるいは汚す仕組みに頼ってすることは納得いかん、と思ったわけです。

顔の見える関係の大切さ


鈴木 東日本大震災のとき、私は商工会議所の青年部の活動をしていましたので、被災地にたくさん友達がおりました。その中で、少しいろんな形で支援の活動をさせていただきましたけども、その中で感じたことが二つありました。一つは顔の見える関係の大切さということと、もう一つは、いわゆる従来型の大規模中央集権型の仕組みと、小規模な分散型、独立型、直接型の仕組み、この両方をやらなければいけない。

 簡単に説明いたしますと、顔の見える関係であれば、私は被災地にたくさん友達がいましたので、どんどんいろんな情報が入ってきますし、信頼できる仲間がいます。多分、そういう関係がなければ、私はテレビの前に座って「大変だな」と思いながら赤十字に義捐金を送るぐらいしかできなかったかもしれません。

 一つ、未だに苦い思い出ですけども、当時3月のまだ寒い状況でありました。現地に行きますと、体育館みたいな寒い所で避難している方が本当にお風呂も入れない、あったかい御飯も食べられない、プライバシーもない中で本当に凍えてらっしゃる。一方、私ども箱根は、福島原発がぼんといったわけでお客様がゼロになった。部屋空いているじゃないですか。だったら温泉も出ているし、布団もあるし、あったかい御飯出せるからということで、小田原の市長さんと箱根町の町長さんと、旅館組合の組合長さんに話しに行って、避難の人たちを受け入れませんかと。1週間でも10日でもいてもらって、英気を養ってもらって帰ってもらえばいいじゃないですかということで、仕組みを作りました。

 700人受け入れ体制を作りました。ところが、どなたもいらっしゃいませんでした。私のイメージは、関西の地震のときの経験があったので、あんまり人をばらばらに動かしちゃうと後で地域コミュニティーがばらばらになりますから、避難所単位であれば大体ご近所の方がいらっしゃいますので、バスで1台、2台で来てもらって帰ってもらおうと思ってバスも用意しましたが、結局どなたもいらっしゃらなかった。

 よく分かったことは、確かに遠かったのです。気仙沼にしても陸前高田にしても、そこから小田原、箱根までは。ただ遠くても、箱根の誰々ちゃんは友達だとか、小田原の誰々君知っているとか、そうした関係があれば違ったのかなと思っています。特に極限状態の精神状態にいるときに誰も知らない所に行くことは・・・。分かったことは、どんなに仕組みを作っても、そこに人間同士の顔の見える関係がないとその仕組みは動かんということです。

 もう一つの中央集権型の仕組みと分散型という話ですけども、ある私の仲間が現地で被災をし、避難所のリーダーになりました。彼の所に何かすぐ送りたいってことで、かまぼこだったらすぐ送れるなっていうことで、「どこに送ったらいい?」と聞いたんです。今日は業者の方いらっしゃらないからいいですね?(笑)「災害対策本部にだけは送らないでくれ」と言われたんです。そこに送っちゃうと二度と出てこなくなるって言うんですね。

 確かに私も何回も行きましたけども、いつもこんな山積みの状態にあります。今回の場合は、現地の業者も被災しているので一方的な非難はできませんが、そこで思ったのは、やっぱりこういう中央集権的な仕組みは、何もないときには非常に効率よく動くんですが、ちょっと想定を超えることが起こるとカチッと止まっちゃう。そんな状態のときにものを言うのは私の友人とできたような関係の分散型、独立型、直接型の仕組み。これ両方ないと、いろんな場面に対応できないことがよく分かりました。これはエネルギーについても同じことが言えるなと思ったわけです。

エネルギーの地産地消を実施


鈴木 会議は二つのことやっています。原発の反対運動をやろうと思っておりませんで、私たちは経営者でございまして実りのあることをちゃんとつくっていかなきゃと思っていますので、地域で再生可能エネルギーを中心としたエネルギーの、まずは仕組みを作っていこうと。もう一つは省エネをもっとやっていきましょうということです。

 省エネに関して言うと、中小企業はまだまだ省エネが遅れています。大企業は専門の部署があって専門のスタッフがいますから、製造業中心に「乾いたタオル」と言われていますが、中小企業はまだじゃぶじゃぶでございます。私もそうですけど、エネルギーはともかく難しいし、よく分かんないし、全部自分でやんなきゃいけない。そうすると、省エネってお金が掛かるでしょ、って終わっちゃうケースがたくさんあります。ということで、この二つを大きなテーマにして活動しています。

 どうやっているかというと、私は組織の中に「エネルギー何でも相談所」という機能を持っています。これは企業のOBの方が今30名ほどボランティアで登録していただいていて、太陽光発電とか、小水力化とか、風力だとか、断熱だとか、バイオマスだとかって、強い方にアドバイザーになっていただいています。例えば私どもの会員さんが、自分の所の会社の倉庫が空いていて屋根が何かできないかなと言ったら、飛んで行って提案をする。それするためには少し補助金が欲しい。補助金は面倒くさいところがあるので、お手伝いをする。

 あるいは私どもは、経済産業省の地域プラットフォームの「省エネ診断」の受託をしておりますので、私どもの会でやると中小企業の省エネ診断がゼロ円でできます。そんなことを今、全国で進めているところです。

 その中でいくつか事例をお話したいと思います。時間がないので飛ばしていきます。ほうとくエネルギー、湘南電力、小田原箱根エネルギーコンソーシアム、そして私の会社のこと、ちょっと簡単にご説明させていただきます。ほうとくエネルギーです。二宮尊徳先生の生誕の地でございます。まず地域の企業で、34社で5400万円ほどお金を集めまして、「ほうとくエネルギー株式会社」という会社をつくりまして、第1期の事業としてメガソーラーを一つ、山の中でやりました。

 約4億円掛かりましたけども、資本金と地元の信用金庫さんから融資をいただいて、残りの1億円を市民ファンドを通して1口10万円でお金を募りまして、第1期の工事が始まりました。小田原市は、行政はお金を出してもらう代わりに、メガソーラーの固定資産税を少し減免するという形で協力をしていただいております。全て工事関係も、パネル以外の工事を全部地元で発注しました。作った電気は、当初は某東京電力さんに売っていましたが、今は売っていません。この話は後でいたします。何をしたいかというと、地域でお金を回したいということです。

 次に湘南電力の話をいたします。私ども、地元に今年J1に上がりました湘南ベルマーレがございます。また来年J1から落ちるとまずいなと思っているんですけど、ベルマーレと東京のエナリスっていう会社で「湘南電力」という会社を創ってもらいました。

 何をやっているかと言うと、例えばほうとくエネルギーでつくった電気を、湘南電力に今全部売っています。湘南電力がその電力をこの地域に販売をしています。私の会社、鈴廣は、もう3年ぐらいになりますが東電さんから電気買っていません。全部湘南電力から買っていまして、ここだけの話ですけど少し安くなりました。さらにそれが少し進化しておりまして、ご案内のように去年4月から電力の小売りが自由化になりました。

 ところが湘南電力という会社は、社員が数人しかおりませんので到底、何千件というお客さまのサービスはできません。今、ちょうど絵の真ん中のほうに小田原ガスという会社と、FURUKAWAというローマ字で書いてある会社ありますが、これは地元の資本の都市ガスの会社とプロパンガスの会社、100年企業です。この2社が手を組んで今、電力の小売りをやってくれています。ということで、これによって初めてつくった電力が全部地元で売れるという仕組みができました。いわゆる地産地消の仕組みができました。

地方創生はエネルギーで


鈴木 私どもの会社の話はちょっとスキップさせていただいて、最後ちょっとエネルギーから経済を考えるとのテーマでお話をいたします。これはデータが2010年でちょっと古いですが、日本の国がどこの国との貿易で儲かっているか、赤字になっているかというグラフです。おかげざまで、中国からは若干日本はまだ利益が出ていますね。

 日本を一番儲けさせてくれている国は、アメリカです。グラフでは倍ぐらいですけど。あと日本が赤字になっている国は、中東、ロシア、オーストラリア、マレーシア、インドネシアであります。中東は14兆円ですから、3倍ぐらいのグラフになりますが、足すと28兆円ぐらいあります。

 何を示しているかと言うと、これは日本が一生懸命ものをつくって、外国に売って、お金を全部アラブの底に貢いでいるというのが今私どものやっていることであります。何を買っているかと言えば、化石燃料を買っているわけであります。

 化石燃料の輸入の、左側が金額と右側が数量です。2011年の原発事故後の数字を見てください。左側の数字、確かに28兆円増えていますが、右側の数字、数量は減っています。なぜでしょうか。省エネをしているからです。なぜ増えていったか、円高とそもそもの原油が上がっちゃったということです。ですから、原発が動いているか動いていないかという話と、日本の貿易収支の話は関係がないということです。ということで最後に伝えたいことが二つだけあります。

 エネルギーイコール電力ではない、と言ったら意外と思われるでしょうか。エネルギーの話をすると、すぐ電気の話になってしまうんですが、実は私、神奈川県のエネルギー政策を作る委員をやっていますけども、神奈川県全体でいくと最終エネルギーの中で電力だけ使っている部分は33%しかありません。小田原市は人口20万ですが、約47%です。ですから実は半分以上、私たちは何を使っているかと言うと、熱を使っています。冷たいの、あったかいの。そこに目を当てないと、本当にエネルギー全体は見えてこないはずです。熱という観点を見ると、先ほどスキップしましたが、私の会社では太陽熱の湯沸かし器、井戸水のエアコンシステム、いろんなことを熱を中心にやっており、非常に実感しています。

 日本は化石燃料がないけれども、使ってない熱という観点を見ていくと、地元の足元に使ってないエネルギーがいくらでもある。それを使っていくテクノロジーはいくらでもあって、ただ機械が高い。なぜかと言ったら量産してないからです。ここのブレークスルーが必要かなと思っています。最後に地方創生はエネルギーでという話です。

 小田原市、今人口20万ですが、環境部に調べてもらったら、毎年300億円ほど外からエネルギーを買っているデータがありました。先ほど、南砺のところで78億と出ていましたけれども、私の友人が東京の板橋区で新しく市民電力をつくりまして、調べてもらったら、板橋区55万人口で、570億円だそうです。毎年、毎年。

 こないだ北海道の下川町に行きました。3400人のほぼ無くなりそうな村ですが一生懸命に森を活用しようと、そもそも13億円ぐらいしかお金ないのでどんどん減りつつも、地域のバイオマスボイラーをとどんどんやり、今お客さんが入ってきている話を聞きました。

 小田原市300億、南砺市78億、板橋区570億。これ全部足して、さっきの28兆円になるんじゃないでしょうか。ですから、あの28兆円の全部を賄うのは難しいと思いますが、1割でも2割でもここで賄うことができたら、ものすごく大きなお金がこの国にはもう1回まわるわけです。それが雇用を増やすとか、介護だとか、教育だとか、医療といった地域の課題の解決に使えるお金の原資になるんじゃないでしょうか。

 全体で見ると大きなお金ですけども、例えば小田原300億の30億円だったら、さきほどの仕組みをもう少し動かしていけば何か道が見えてくる気がいたしますし、先ほどの南砺が78億円でしたら、そのうちの1割で何とか見えてくる気がするんです。各地域でそれをやることが、私はこの国の経済活性化には一番いいと思っています。

 私は今、地元で小田原箱根商工会議所の会頭をやっております。箱根は2000万人お客様が来る観光地ですので、今必死になって観光振興をやっております。観光振興は結局、最終的にはインバウンドが増えますが、南砺に行くよりは箱根に来てくださいって言わなきゃいけないので、地域間競争になるんです。ましてや定住人口を増やそうと思うと、今人口が減っていくわけですから、どこかからかっぱらってくるしかないわけで、必ず勝つ人が出れば負ける人が出ます。まさに定住人口を増やそうというのは、地域間競争そのものです。

 そういう経済政策と比べると、このエネルギーは最近気が付いたんですが、全く地域間競争はありません。小田原300億円は自分でやればいい。南砺78億円は自分でやればいい。全く他の地域と関係なくやることで、ウィンウィンなわけです。

 唯一困るのは、大きな電力会社さんとアラブの王様だけですが、知ったことではないので、とにかくそういう意味で、エネルギーのことをしっかりと地産地消、それも再生可能エネギーをしっかりやるということが、私は今、この国にとっての最大の経済振興策なのではないかと思っております。

 以上です。ありがとうございました。

スピーチする鈴木悌介鈴廣かまぼこグループ代表取締役副社長

横浜市のブルーカーボンと新産業の芽


信時正人 こんにちは。信時でございます。僕は横浜市にいたこともありまして、日本の自治体の中で一番大きな373万人の横浜でどういう形で環境政策をやってきたのか。今日は「環境と地域」という題ですので、それを紹介させていただきながら、少し他の都市と違ったことをやっていますので、ブルーカーボンのご説明をさせていただきたいと思います。

 今日は横浜国立大学客員教授ということで来ていますが、1人時間差というのがありますけれど、私は1人産官学と言うのでしょうか、これから働き方を改革してくるとこういう人間が増えてくるんじゃないかと思います。一応、産官学をやってきまして、今、民間をしておりますけども、こういう形でこれからお互いがやっぱり認識し合わないとまずいかなと思ってやっています。

 僕は2007年から横浜市役所に入り、2008年に環境モデル都市募集がありました。その1年前から横浜市でこうした体制を組んでいます。少し名前は変わりましたが、建制順?というのがあり、福祉をすぐ下に置いています。

 普通、政策、財政、総務は一番上のほうにきますが、その上に実は温暖化対策がありまして、市の姿勢としてそれを一番上に置こうということをしたんです。それまでは環境創造局という所の地球温暖化対策課という非常にローカルな所でしかやってなかったのです。PVやEVに対する補助金、環境啓発だとかです。

 そのとき副市長らと話しまして、それじゃCO2下がらんだろうと。ハード部局も協力してもらわなきゃ駄目じゃないか、ということでこういたしました。上に置いたからといって、みんなが言うこと聞いてくれるわけではありませんが、いかに我々自身が動くかがリードしていくことになっていく。約10年経って今、横浜市では割と動き出した感じがします。

 その時に、CO-DO30という、横浜ではバイクのような温暖化対策のCO-DO計画なんですけど、全庁的な委員会を作りました。嫌がる局長さんを引っ張り出して、各部会のトップに据えてやってもらいまして、約1年かけて作りました。

 環境モデル都市に選ばれたときの提案書の概要があります。我々のテーマは373万人、めちゃくちゃ人が多いということで、市場プル型。横浜市が変われば費用も変わる、仕様も変わるだろうということをテーマにしたのがこの項目です。

 このように、13都市全部でやられました。今、環境モデル都市から未来都市になっていますけども、未来都市は2011年に選ばれたんですね。今11都市といいますか、一部地域になっていますがモデル都市は何かと言いますと、低炭素都市活性化です。未来都市は、実はそれプラス環境、ハイテク、自然、あるいは少子高齢化、経済成長、国際展開がテーマになっています。

 さらに多分来年ですけども、SDGsというテーマで都市の募集が行われるのではないかということで今動き始めています。どういう形になるか詳細は決まっていませんけれども、この目標のうちに今動いているところでございます。

郊外の立て直しをはかる


信時 これは我々の、横浜市の未来都市をつくったときの基本の構造です。一番上に書いていますのは目に見える都市です。普通、ここでどういうビルを建てるかとか、どういう産業をするかという話をし、これだけで終わる。真ん中はインフラ。我々のスマートグリッドなどのエネルギーインフラもここにあります。それからソフトですけど、医療、福祉、介護とか当然ゴミだとか電力、みんなそうなんですね。

 さらにもう一つ一番下ですね。土圏、地圏、大気圏。ここまでもう1回いかないないといけないんじゃないか。都市をやる連中はここまでほとんど頭いっていません。我々はもう一度、ここから考え直そうと。防災のことを考えても、そもそもどこに川があり、どこに崖があるか。そういうことから考え直さないと都市はつくれないんです。特に横浜は崖が多い。ついこの間も、ちょっとした雨で崖が崩れたりしています。

 もう一度ここから見直すということで、さらにオレンジ色の線はITです。従来通りのやり方でなく、ITを使ったいろんなやり方がこの三つのエリアにあるんじゃないかということです。蛇足ですが、ピンク色はオープンデータ、自治体の姿勢を表していまして、オープンデータをやらない都市は、未来都市でもなんでもないという姿勢を貫いてきています。

 これは未来都市の中でも一番大きなプロジェクトです。経産省の年間数十億円に突っ込んできたスマートグリッドの実証実験であり、実証の段階に来ています。

 そういう中で、「みなとみらい」という横浜の顔みたいなところと、さらに住宅地、郊外住宅、多摩プラザなど非常にいい所があるんですが、ここはもう高齢化していて高齢者も住みにくくなってきている。若者もこういう所を住む場所に選んでいないという状況があります。二重苦があります。郊外をどうするか、です。

 大昔、『金曜日の妻たち』という番組があり、これは横浜の郊外が舞台になっています。その当時、古谷一行さん、いしだあゆみさんが30代だったんです。今は70代になっています。この町もそのようになってきているということでして、非常に町全体が古くなってきています。いろんな形で政策を打っていこうというのが、横浜市の二本柱であります。 

産業政策をSDGsとつなげて進化


信時 SDGsですが、こういう絵はもう皆さんどこでも見ていらっしゃると思います。今みたいな課題をこれからどうSDGsに当てはめていくかというとちょっとおかしいですけど、基本的にはこの八つに絞り込んだ形で、これからやっていこうということになっています。

 横浜としても未来都市からSDGsへということで、実はもう始動しています。当たり前ですが、未来都市は一応、経済、社会、環境という、トリプルボトムラインからいこうということです。そもそもSDGsのことを予習して、もうやっていたというところがあります。そういう意味では移行しやすいのかもしれないですね。いろんなステークホルダー、例えば産学官とステークホルダー等を目標にしながらやっています。これも、今までの実例が在ります。

 ともかく良い環境を目指してさらに進化していこうということと、超高齢化時代だけども、やはり経済をどうするかというところが重要です。横浜市はいろいろ大きいと言われますけど、ほとんど住宅都市です。ディベロッパーさんに任せてしまうと、住宅か業務棟か、あるいは商業、そのぐらいのものです。

 産業はどうなっているのか。食いぶちがないと都市はつくれないと思っています。東京は本社が多いですけど、横浜は支店経済です。それだと、やはり東京に通わなきゃいけないですが、交通地獄はそのままです。私は産業政策すべきだということはずっと主張してきておりますが、政策、ハードをつくってほしいなと。まず産業。食いぶちをどうつくるかというところが問題で、これがSDGsにどう移っていうかということであります。

 実は、いろんな形で作戦をつくって、実はまだ詳しく今日は言えませんので、他の自治体さんもいらっしゃるので、できませんが、これから移動手段とかSDGsということと、何かエネルギーミックスを今考えています。それから、やはり「フューチャーセンター」っていう言葉が最近よくあります。「イノベーションセンター」とか。そういうものを横浜市内にいくつもつくっていこうということです。

 そもそも横浜にスクールをつくってきて、ハイテクの技術だとか文化、それは結構なのですが、最終的なユーザーは市民です。要するに最終的にお金出すのは市民です。その市民がグレードアップさせないと意味がないということでやってきています。そういう新しい教育があって、今ESDもありますけども、やっと横浜市の教育委員会が動いてくれて、全て横展開、縦割りではない横展開のプロジェクトを目指していこうという方針です。

海洋都市を活かした「ブルーカーボン事業」


信時 経済という意味では、環境モデル都市のときに、「グリーンバレー構想」というものを作りました。これはシリコンバレーのグリーン版っていうことですけども、環境あるいはエネルギーにやさしい産業つくっていこうということで、一番南の金沢区に、今1000社近い中小企業が立地しています。

 そういう意味でそこを選んだわけですけども、詳しいことは言いません。ここは緑あり、町あり、海あり、横浜市で唯一の自然海岸が実はあります。140kmの海岸線の中で1.2km、自然海岸があるのはここなんです。ここが味噌であります。

 これはブルーカーボン事業ということで、山の森林でのカーボンセットというのは、至る所でやっていると思います。横浜も実は、水源になります山梨県の道志村の2800haの森林を持っていますけども、そこでニュークレジットをつくったりしています。我々はよく考えたら、海洋都市です。目の前に海があるのに、何にも使わないってどういうことよ、ということであります。

 これまで港湾だとか、漁港だとかで非常にセグメンテーションされてきたので、1.2kmと申し上げましたけども、横浜市の市民は目の前で取れた物をなかなか食えないと。海水浴もできないと。よく海洋都市って言うなっていうことを言われまして、実は海でやろうということで、「ブルーカーボン」という言葉を見付けてきました。

 2009年にUNEPが提唱した言葉でありますが、これをやっちゃおうじゃないかということで、八景島シーパラダイスのセンターベイをお借りし、ワカメを作り始めたんです。子ども用の施設なので、収穫と種付けには子ども呼んだりして、非常に盛り上がりました。要するに、ワカメがどれだけCO2を減少させるかということであります。

 いろんなメリットがあるとのことで、これまでも海岸の清掃だとか藻場再生とか、NPOさんがいろいろやっています。ちただそこに、ブルーカーボンとかクレジットをつくっていこうじゃないかということになりました。結論から言いますけども、そこでつくったクレジットで、横浜でやっているトライアスロン大会は、全部カーボンオフセットしています。完全超ローカルルールをつくってやっています。

 昨年度は、トライアスロン2つと、タモリさんがやっているタモリカップ、ヨットレースです。石井造園さん、地元の企業さんがこのクレジットを買ったということで、小さい経済が回り始めています。

 そういうことをやっているっていうことで、世界「CNCA」というグループがありコペンハーゲン、ニューヨーク、ロンドン、バンクーバー、メルボルンと横浜。全部で17都市の6つのリーダーで今年、プレゼンテーションして認められ、資金を出していただきました。来年度は一躍、世界都市になって毎年ここで発表しなきゃいけないということになりました。よく分からないと言いながらバンクーバーが一番ついてきてくれている感じです。

 これから課題等いろいろありますけども、さらにブルーカーボンの研究をしないといけません。国立港湾空港技術研究所の桑江先生、環境んの研究もとっているようで、日本経済研究所等々、いろんな所とやっています。さらに世界の動きを見ながら、また逆に、漁協とか市民団体との連携もしないといけません。

 パリ協定発効には、実は今年度からオーストラリアもこのブルーカーボンのGHGインベントリを開始しています。それが緩和策になるのではないかということで、これだけの国が検討を始めています。右上は、ブルーカーボンの本で、私も共著で書いています。詳しいことはこの本を買っていただくとわかりますが世界で動き始めているということです。

 昆布のことを最後に言いますけども、大きなことばっかり言っても、やはり先ほど申し上げました市民の方がどう動くかということです。「里海イニシアティブ」という社団法人ができました。市民が作ったもので、このブルーカーボン昆布のプロジェクトはSDGsに該当するのがいっぱいあります。

 これが横浜で取れた昆布です。北海道昆布は非常に厚いんですが、横浜の昆布は薄い。厚いのはだしを取るのにはいいんですけど、食えない。実は薄いのはぽりぽり食えるんです。一番ラッキーだったのは、横浜のある老舗の料亭の料理長が、これを好んで今使っていただいていまして、横浜産昆布っていうことで出してもらっています。それから中華街でも小龍包に入れるとか、うどんに混入するとかいろいろ出てきています。

 大きなエアラインが機内食で使ってくれるということで、がぜん横浜で取れる昆布が足りなくなってきまして、もう一つぐらい漁協やってくれないかとか他地域と連携しようかということが動いています。昆布で繊維を作るなどの新産業の芽も見えてきております。

 ちょっとしたクレジットをやっていたのが、地域産業ができていく楽しみを生みつつあるというところで、今日は終わらせていただきたいと思います。ありがとうございました。

スピーチする信時正人横浜国立大学客員教授

SDGsを使った地域ブランディング


袖野玲子 皆さんこんにちは。慶應大学から参りました、袖野と申します。私は大学で環境政策を研究していまして、特にSDGsを使ってローカライゼーションですとか、オリンピックの持続可能性評価等の研究プロジェクトに参加しています。

 本日はもう先ほどからいろいろ、地域の魅力的な取り組み等ご紹介いただいておりますので、私からはSDGsを使った地域づくりとして、少し全体的な話をさせていただければと思います。

 今日は森本次官のご挨拶から、SDGsという言葉出てきていましたが、今日初めてSDGsという言葉を聞いた方、いらっしゃいますでしょうか? 

 ありがとうございます。ほとんどご存じの方も多いようですけども、2015年に国連で合意された国際的な目標になります。もともとは、ミレニアム開発目標という、途上国への援助の開発目標の後継の目標として設定されたんですが、MDGsが主に貧困ですとか社会的な問題に焦点を当てていたのに対して、SDGsは持続可能な発展ということで、経済、社会、環境の3分野を不可分であると。避けて別々には対応できないということで、3つ統合的に対応するということで、全ての目標、全ての分野を網羅した形になっています。

 ですので、こちらが17の目標で、例えば1番。「貧困をなくそう」なんですけれども、貧困とか飢餓とかいう形でロゴを作ったわけではなくて、「貧困をなくそう」とか、「飢餓をゼロに」という意味で目標を掲げています。アクションが必要であるということで、そこまで書き込んだ形のロゴになっています。

 2030年の世界目標ということで、今、世界がこの目標の達成に向けて動いてきているわけです。17の目標の下に、それぞれより具体的な169のターゲットがあります。さらに、そのターゲットに紐付く指標がありまして、3つの構造になっています。

 このSDGsの2030年に向けたアジェンダの中の基本理念が、5Pと呼ばれている5つのPです。PEOPLE、PLANET、PROSPERITY、PARTNERSHIP、PEACEということで、5つのPがあり、それぞれの17の目標をどこに分類するかは、分け方も何種類かあります。

 例えばPEOPLE、主に社会的な話です。貧困や飢餓という話、ジェンダーですとか、教育。PLANETのところに水ですとか気候変動、生物多様性、こういった環境の話。PROSPERITYのところにエネルギーであったり、インフラであったり、こういった経済の話というのがあります。

 SDGsの特に特徴的なところは、全ての目標、ターゲットが密接に関係している。どれか一つだけを達成すればいいのではなくて、何かを達成しようとすると、他のターゲットにも必ず波及効果があるところが、非常に特徴的です。

 例えば気候変動を見ても、PROSPERITYのエネルギーとは大変関係が深いです。また、社会問題を見ても、気候変動の、例えば自然災害といった影響を一番に受けるのは貧困に苦しむ人たちです。全てを分野横断的に見ながら対策を考える必要があります。

 これはそのターゲットレベルで見たときの、ターゲット間の関係を研究したものです。ターゲット間で調整が必要なターゲットがあったり、同時達成ができるものであったり、またトレードオフの関係になるもの。例えば沿岸地域の資源を保全するというターゲットに対して、それをもしかすると飢餓をゼロにするというターゲットとは相反するものかもしれないということで、ターゲット間ですね。関係性を特に注目していく必要があり、こういう関係性を今、世界の研究者たちが分析しているところです。

SDGsを使った村の施策づくりを


袖野 SDGsを活用する意義ですけれども、先ほど申し上げたように、SDGsが世界の共通言語であります。全ての行動が17のロゴで表すことができるということで、このロゴを見れば、国が違っていても、同じ目標に向かってやっているんだなということが一目で分かります。そういう意味では、正当性や公共性を示すことができます。また、先ほど言った分野間の連携にもつながっていくことが挙げられます。

 もう一つが体現主義的な活動を広げるツールということです。課題の見える化ですね。それから2030年に向けた長期の話ですけれども結局、国連で決まって国も今SDGsの実施指針を出してなんですが、人々が生活しているのはローカルな所になります。結局、地域の取り組みが非常に重要になってきます。このグローバルからローカルの話。横の水平展開。こういったものがSDGsを使うことで、連携が可能になってくるのではないかと。

 パートナーシップの創出、ベストプラクティスをお互いに学び合うということは、よりやりやすくなるのではないかと考えられています。

 このSDGsに関する自治体の取り組み状況ですけれども、半分ぐらいの方が認知されているのですが、実際に取り組まれている所が35%ということです。まだまだ日本の自治体の取り組みとしては、今始まったところという状況です。

 先ほど少しお話に出ました下川町ですね。こちらが環境未来都市の一つに選定されている所です。例えば高齢化社会への対応としていろいろな施策があり、これをSDGsのターゲットとマッピングし、実際に高齢化率を減少させることに成功されている自治体です。

 一つが、慶應大学が決起プロジェクトとして進めている沖縄県の読谷村です。こちらは今まさに分析が始まったところですが、村民ファーストを挙げている村で、隣の恩納村とは全然違うんです。恩納村は、海岸沿いにリゾートが立ち並んで、これまでも注されることの多かった地域ですけれども、読谷村はサトウキビ畑が広がっていて、村の人の生活環境の保全が第一で、リゾートお断りという形で、海岸沿いは村が土地を買い占めてしまっているような所がありまして、これがいろいろな課題を抱えています。やはり雇用の問題など課題に対して、SDGsを使って村の政策を作れないかと、検討が進んでいるところです。

 例えばということで、メインのステークホルダーです。特に読谷村は、漁業と農業が大きな産業になるんですけれども、これに対して観光というのもまた一つあります。そうすると農業では農薬ですとか赤土が海岸に流れ出て、サンゴ礁を傷めてしまいます。一方で漁業のほうは、漁業も観光も海洋の保全が大事ですので、ここが協力してサンゴ礁の保全に取り組んではどうか、とかです。

 そういった分野間の連携で課題を解決していくということが今検討されています。やはり先にあるのは、先ほど南砺市長からもお話がありましたけれども、村のみんなが幸せになれる成長です。どこかの分野だけが儲かり得するとかではなく、みんなで幸せになるんだという目標を掲げてやっておられます。

地域独自のプランディング、オリジナリティで


袖野 まとめますと、地域にとってのSDGsということで、2030年に向けてどういう地域になりたいかビジョンを掲げる。それに2030年の自分たちの在りたい姿から、逆キャスティングで今何をすべきかを考えていく。特にSDGsは、国際的に決められたゴールが17ありますけれども、17等しくやるということではなくて、地域の状況に応じて、自分たちにとっての優先順位を選んでやっていくことが謳われております。まさに地域のブランディング、オリジナリティというところがここに出てくるのではないかなと思います。

 このSDGsを使うことで、課題の可視化、魅力の掘り起こし、それから進捗を計るということで指標がありますので、目標達成度を客観的に計ることができます。また環境、経済、社会の政策統合で、より効果的な政策を打つことができると考えられます。さらに、その地域の活動が世界につながっていくことで、町民や村民の誇りにつながるのではないかなと考えます。

 一方で、課題ですけれども、やはり先ほど申し上げましたように、ターゲット間のシナーズです。同じ方向でウィウィンの関係でいく場合と、トレードオフの場合があるということです。トレードオフの場合は調整が大変になってきますので留意する必要があります。

 それから評価基準のことですけれども、グローバルに今作られている指標が、そのままローカルに持ってこられるかというとそうでもなくて、やはりその地域の目指す姿にあった指標の設定も大事ではないかなと思います。また低い認知度というのがありまして、今オリンピックに向けて持続可能なオリンピックという方向性も打ち出されていますので、こういったものを契機に、SDGsはこれからますます広がっていくことが期待されます。

 そして今日の話を聞いていて、やはりどの地域の方もいろんな取り組みを既にやられています。既にされている取り組みがうまくこのSDGsのマッピングと合えば、よりグッドプラクティス、うまくいっている例を学び合って、パートナーシップの創出につながっていくのではないかなという気がいたしました。こういったところが今後期待されると思います。


南川 袖野さん、ありがとうございました。それでは、ひと言ずつ皆さまからコメントいただきたいと思います。今日のお話しを伺って、それこそ地域さまざまです。決して日本大きな国ではございませんけれども、人口はどんどん減少する。山なども荒れてしまうということで、結果として、何もしないのに自然がどんどんボロボロになっていく。挙げ句の果ては、土地所有者が分からない土地がたくさんできるという地域もございます。

 かたや、世界の最先端を争う中で日本を引っ張っていこうという都市もあるわけです。いろんなタイプがございます。従って、今日は皆さま、地域のリーダーの方もおられます。環境問題での研究を深めている方もおられます。それぞれの立場から、自分たちの地域をこういう形で環境を守りながら発展させていくんだ、あるいは研究の、こういった分野で環境等を経済地域について深めていき、それによって全体としての環境の向上に寄与していく、などについて、ひと言ずつ決意と意欲をお伺いしたいと思います。

自分たちの暮らしで循環させていく


田中 実を言いますと、昨日まで島根県の大田市に行っていました。これは、世界遺産サミットで、全国21カ所の世界遺産の組長関係者が集まる会議で、そこと今日の話と、すごくよく似た話題が出ました。そこだけ私のひと言で話しをさせていただきます。

 世界遺産になると観光客が増えます。登録されて10年たつと観光客が減ります。客が減る議論ばかりが先に行ってしまうんです。石見銀山の良さ、先ほど少しいろんな公害の話がありましたけれども、石見銀山というのは、本当に緑豊かなきれいな山の中にあります。共生しながら世界の銀の30%をそこから採ったということなんですけれども、本当に計画的にしっかりやっておられる。そういう所のノウハウを市民にまずは知ってもらうってことからスタートしないといけないだろうなと。そして市民が誇りを持てる世界遺産でなくてはいけないだろうなど、いろんなご意見が出ました。

 まさに我々、これから環境政策だとか地域の活性化だとか、人口が減少する中でどうしていけばいいか。やっぱり根本には、自分たちの変わりつつある暮らしを、もう一度、我々の手の届く範囲の暮らしで、しっかり循環をしていくことが重要だと思いました。

南川 ありがとうございました。では鈴木さんお願いします。

小さいからこそできることがある


鈴木 ありがとうございます。私たちは本当に地域の中小企業でありますので、大した大きなことはできませんが、私たちは自分の会社という自分がある程度影響力、責任もってきちっと業務を発揮できる現場を持っています。それから、顔の見える仲間のいる地域という現場を持っています。

 それぞれの現場で、中小企業の経営者として、より良き方向に新しい現実をつくっていく。本当に小さくてもいいからつくっていく。私は、小さいというのは決して消極的な意味ではなく、小さいからこそできることがたくさんあると思うんです。そのことを全国に仲間を増やしていく。それによって大きな力になっていく。

 そんなことを信じながら、先ほどから何回も出ていますけども、これから次の世代に何を残していくのか。その中で私たち地域の、中小企業のおやじがとにかく今月売上どうしようかとか、給料どう払うかってことばっかりですが、それと合わせてやっぱり自分たちが自分たちの地域に何を残せるかという心を持ちながら進めたいと思っています。今日はありがとうございました。

南川 続きまして、信時さんよろしくお願いいたします。

既存のものを組み合わせる発想力と行動力


信時 ひと言でいえば横連携だと思っています。例えば、横浜市はOECDの持続可能な高齢社会、実は富山市と共に選ばれているんです。会議でちょっとスピーチしたときあって、横浜市の一番の売り物は、ウォーキングポイントと言って、みんな600円ぐらいで万歩計をもらって、それでポイントを貯めて商店街で経済的に使っていくというものです。それがもう30万近く入っています。

 その説明をしたら、リスボンの副市長から「それは分かったけど、それとハードはどう関係あるのか」と話をされました。ウォーキングポイントは結構だが、それと都市の構造はどう関係するのだと言われまして、はっと思ったんですが、「いや、それは歩きたくなる道と行きたくなるような公園を造っています」と、僕は嘘のような本当の話をしたんです。

 造っているのは本当です。本当だけれども、一つの政策の中で、ウォーキングポイントと公園と道は一体ではないです。一つの中で言えないです、今のところは。たまたまそこに健康の道路造りと、健康とか付けているけれども、一つの政策でやっているわけではない。

 だから、そんなものをどう組み合わせるかが、これからものすごく重要です。新しいことを生み出すことも大事かもしれないけど、既存のものをどう組み合わせるかの発想力と行動力だと思います。

南川 袖野さん、お願いします。

違う分野同士から生まれる相乗効果


袖野 読谷村のケースで言いますと、やはり分野連携ということで、村であっても農業と漁業の人が話をしたことがないとか、なかなか横連携は難しいと感じています。

 一方で、例えば漁業で言うと、定置網に引っ掛かったカメは猟師さんにとったら網を破く有害な生き物ということで、すぐその場で放流しちゃうんですけれども、観光業の人にとっては、それってイベントに使えるということで、定置網に引っ掛かったカメをホテルのほうでカメの放流会という形で試験的にやったことがあります。

 違う分野の人が集まることで出てくるアイデアもあって、やはりそういった相乗効果、新しいものが生まれることを今後期待したいなと思います。我々、研究者は外部の人間ですので、最後どういう村にしたいのかを考えるのはそこに住んでいる方たちだと思います。

 そういういろんな地域で今、大変魅力的な取り組みが進んでいるところですので、そういったものがグッドプラクティス等を提供できればと考えております。

〈第一セッション了〉