【レポート】周牧之:中日比較から見た北京の文化産業 〜中国都市文化・スポーツ・娯楽輻射力2019〜

周牧之 東京経済大学教授

 “2020北京文化産業発展大会”で講演する周牧之教授

編集ノート:“2020年中国国際サービス貿易交易会”の一環として2020年9月6日に行われた“2020北京文化産業発展大会”にて、周牧之東京経済大学教授は、“文化・スポーツ・娯楽輻射力から見た北京の文化産業の発展”をテーマに基調講演した。北京文化産業の発展を総括するとともに、直面する課題を分析し、発展アプローチを模索するヒントを示した。周牧之教授は、同基調講演を基に論文を寄稿した。


1.中国都市文化・スポーツ・娯楽輻射力2019  

 中国都市総合発展指標に基づき、雲河都市研究院は中国全297地級市(地区級市)以上の都市(日本の都道府県に相当する行政単位)のすべてをカバーする「中国都市文化・スポーツ・娯楽輻射力2019」を公表した。北京、上海、成都、広州、武漢、南京、杭州、西安、深圳、重慶が、同ランキングトップ10入りを果たした。北京は他に類がない優位性で首位に立った。

 長沙、天津、鄭州、蘇州、済南、瀋陽、ハルビン、合肥、青島、長春が第11位〜20位にランクインした。福州、寧波、昆明、無錫、南通、太原、石家庄、大連、南寧、南昌が第21位~30位だった。これらトップ30入りした都市のほとんどは、首都、直轄市、省都、計画単列市などの中心都市であった。トップ30で中心都市でない一般都市は僅か3つで、それらはすべて江蘇省の都市である。文化・スポーツ・娯楽産業(以下文化産業と略称)において中心都市の優位が一目瞭然となり、江蘇省の文化の厚みも際立った。

 中国都市総合発展指標は、雲河都市研究院と中国国家発展改革委員会発展戦略和計画司(局)が共同開発した都市評価指標である。2016年以来毎年、中国都市ランキングを内外に発表してきた。現在、中国語(『中国城市総合発展指標』人民出版社)、日本語(『中国都市ランキング』NTT出版)、英語版(『China Integrated City Index』Pace University Press)が書籍として出版されている。

 同指標の特色は、環境、社会、経済の3つの軸(大項目)で中国の都市発展を総合的に評価したことにある。大項目ごとに3つの中項目を置き、3つの中項目ごとに3つの小項目を置く3×3×3構造となっている。小項目ごとにさらに複数の指標が支えている。“文化・スポーツ・娯楽輻射力”は、こうした指標のひとつである。

 これらの指標は、785のデータによって構成されている。指標はまた、統計データのみならず、衛星リモートセンシングデータ、そしてインターネット・ビックデータから成る。

 輻射力とは広域影響力の評価指標であり、都市のある産業の製品やサービスの外部への移出・移入の力を測る指標である。輻射力が高いと、当該産業が外部へ製品やサービスを移出する能力を持つ。輻射力が弱い場合は、都市は当該産業の製品やサービスを外部から購入しなければならない。


2.文化産業における北京の比類なき優位性

 “中国都市文化・スポーツ・娯楽輻射力2019”は、「収益・フロー」、「劇場など資産」、「人材資源」の3つのカテゴリーから成る。

 まず、「収益・フロー」から見ると、同輻射力トップ30都市の文化産業の営業収入合計は、全国の67.9%を占めている。つまり、297都市中上位10%の都市は、全国の文化産業営業収入の7割を稼いでいる。文化産業の上位都市への集約度は非常に高いことが伺える。なかでも首位の北京は、同営業収入における全国のシェアが24.8%にも達している。一つの都市が全国の文化産業営業収入の4分の1を占めたことは、北京の際立った優位性を示している。

 「収益・フロー」を構成する一部データから、さらに深く見ていくと、映画館・劇場のチケット収入では、トップ30都市の合計が全国の54.5%に達し、北京が全国の5.7%を占めている。映画館・劇場の観客数では、トップ30都市の合計が全国の52%に達し、北京が全国の4.5%を占めている。博物館・美術館の来場者数では、トップ30都市の合計が全国の46%に達し、北京が全国の6.9%を占めている。

 また、「劇場など資産」から見ると、同輻射力トップ30都市の文化産業資産総額の合計は、全国の72.3%を占めている。とくに北京は全国の26.4%と、4分の1超のシェアを誇っている。

 「劇場など資産」を構成する一部データから、さらに深く見ていくと、映画館・劇場では、トップ30都市の合計が全国の34.9%に達し、北京が全国の2.7%を占めている。美術館では、トップ30都市の合計が全国の46.8%に達し、北京が全国の6.4%を占めている。博物館では、トップ30都市の合計が全国の38.6%に達し、北京が全国の3.4%を占めている。公共図書館蔵書量では、トップ30都市の合計が全国の53.7%に達し、北京が全国の6.6%を占めた。重要文化財に至っては、トップ30都市の合計が全国の84.2%に達し、北京が全国の46.6%をも占めている。

 さらに、「人材資源」から見ると、同輻射力トップ30都市の文化産業従業者数の合計は、全国の53.3%を占めている。北京の全国に占めるシェアは12.8%であった。

 なぜ北京は文化産業において全国12.8%の従業者数で、24.8%の営業利益を稼ぎ出すことが出来たのか?

 その理由のひとつは、同産業における北京の強大な資産力にある。これは全国に占める北京の文化産業での資産総額と営業収入のシェアが同じで、ほぼ4分の1に達していることから伺える。

 より重要なのは、文化産業におけるトップ級の人材が、北京に集中していることである。これは「人材資源」を構成する一部データから見て取れる。国家一級俳優では、トップ30都市の合計が全国の95.9%を総占めし、とくに北京が全国の63%を占めるに至った。国家一級美術師では、トップ30都市の合計が全国の75.1%に達し、北京が全国の37.2%を占めている。矛盾文学賞の受賞者では、トップ30都市の合計が全国の91.7%にも達し、北京が全国の47.9%と約半分を占めている。オリンピック金メダリストに至っては、トップ30都市の合計が全国の68.3%に達し、北京が全国の5.7%を占めた。

 以上のデータから伺えるのは、北京がまさにスーパースターの煌めく大舞台となっていることである。これらスーパースターと、良質な資産力をもって、北京は中国最大のエンターテイメントメーカーと相成っている。


3.中日比較:文化産業と観光産業の相互発展

 2018年3月、中国は文化・旅遊部(省)を設立し、文化と観光両産業を一つの部門で管理することとなった。これは、文化と観光という二つの産業の相互発展を促す重要な措置である。

 中国の文化と観光両産業の相互発展の状況を分析するために、本論は「中国都市総合発展指標」を用い、全国297地級市以上の都市の“文化・スポーツ・娯楽輻射力2019”と海外旅行客数との相関関係を分析した。その結果、両者の相関係数は僅か0.55に過ぎなかった。

 相関分析は、二つの要素の相関関連性の強弱を分析する手法である。係数が1に近い程、二つの要素の間の関連性が強い。相関係数が0.55であることは、両者の関連性がそれほど高くないことを意味する。

 本論はまた、日本の47都道府県の“文化・スポーツ・娯楽輻射力2019”と海外旅行客数との相関関係を分析した。その結果、両者の相関係数は0.82に達した。相関係数が0.8−0.9になると、「非常に強い相関」とされる。つまり、日本では“文化・スポーツ・娯楽輻射力”が強い都市で、インバウンドも盛んである。

 上記の中日相関関係の分析から伺えるのは、日本ではすでに文化産業と観光産業において、相互発展の局面が形成されているといえよう。これに対して、中国では文化産業と観光産業の間の連携がまだ乏しい。

 戦後、製造業の輸出力を伸ばすことで経済大国に上り詰めた日本は、2003年に突如「観光立国」政策を打ち出した。同年、日本の海外旅行客数は僅か521万人で、世界ランキング中第31位に甘んじていた。

 立国政策にまで持ち上げられた日本の観光産業はその後、猛発展を遂げた。2009年には、海外旅行客数は3,188万人に達した。

 2003年から2018年までに日本の海外観光客数は5倍も伸びた。その間、海外諸外国の同伸び率は其々、ドイツは1.1倍、中国とアメリカは共に0.9倍、スペインとイギリスは共に0.6倍、フランスは僅か0.2倍であった。

 日本ではインバウンド政策が奏功した。海外観光客数世界ランキングにおいても日本は、2003年の第31位から2018年の第11位へと、15年間で20カ国を飛び越える躍進ぶりだった。

 相関関係分析の中日比較で、もう一つの違いが明らかになった。中国の海外旅行客数と国内旅行客数との相関係数は僅か0.45であり、両者の間の関連性は低かった。つまり、国内旅行客が大勢詰めかける都市は必ずしもインバウンドの盛んな地域ではなかったのだ。世界に大勢の海外観光客を送り出している中国で、海外観光客と国内観光客の地域嗜好の違いが大きいことは、実に考え深い。

 これに対して、日本では海外観光客数と国内観光客数の相関係数は0.87に達し、「完全相関」に近い。すなわち海外観光客も国内観光客もほぼ同じ地域嗜好になっている。これは興味深い発見である。

 もちろんこうした違いをもたらした一つの理由は、中国大陸に訪れた海外観光客数の中に、香港、澳門(マカオ)、台湾省の華僑のデータが含まれていることにある。彼らは頻繁に広東省、福建省の沿海の都市を往来している。このような統計コンセプトの特色も、中国における海外観光客数と国内観光客数の二つのデータの「関連性」の低さを助長している。


4.文化産業との関連性比較:IT産業VS 製造業

 本論はさらに全国297地級市以上の都市の“文化・スポーツ・娯楽輻射力2019”と“製造業輻射力”との相関関係を分析した。その結果、文化産業と製造業との二つの産業の輻射力の相関係数は、僅か0.43で、関連性は低かった。

 日本の47都道府県の“文化・スポーツ・娯楽輻射力2019”と“製造業輻射力”との相関関係も分析した。その結果、両者の相関係数は−0.5であった。つまり、日本では文化産業と製造業との関連性が低いどころか、むしろ相互離反していた。

 改革開放初期、中国では投資誘致のために各地でコンサートやフェスティバルを盛んに開催していた。これについて当時、上海浦東開発の責任者を務めていた趙啓正氏は批判的であった。同氏曰く、「文化人や芸術家が来ても投資しない。企業家が来てもコンサートには足を運ばない」。製造業がメインだった当時、これは冷静かつ正確な判断であった。

 しかし現在、中国経済を牽引するIT産業では、文化産業との関係において異なる風景が見えてくる。全国297地級市以上の都市の“文化・スポーツ・娯楽輻射力2019”と“IT産業輻射力”との相関関係を分析した結果、両者の相関係数は0.94にも達し、「完全相関」関係を示した。

 本論はまた、日本の47都道府県の“文化・スポーツ・娯楽輻射力2019”と“IT産業輻射力”との相関関係を分析した。その結果、両者の相関係数は中国以上に高く0.97であった。

 上記の分析からわかるように、中国にしろ日本にしろIT産業はおしなべて文化産業が発達した都市に身を置いている。IT産業と文化産業はまるで一蓮托生である。


5.北京都市圏VS東京都市圏

 中国では北京の文化産業輻射力が他の追随を許さない優位に立っている。故に、世界のトップクラスの都市と比較しなければ真の意味での課題をあぶり出すことはできない。

 今日、ロンドン、ニューヨーク、パリ、東京といった世界都市では、文化産業がすでにIT産業、金融産業、イノベーション、高等教育、企業本社機能といった交流経済を惹きつける魅力の源泉となっている。とくに、これらの世界都市においては、文化産業と観光産業が相互に刺激し合う大きな存在となっている。

 本論は、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県からなる“東京都市圏(以下東京圏と略称)”と、北京市の行政エリアを都市圏として捉えた“北京都市圏(以下北京と略称)”とを、比較分析する。

 北京は面積では東京圏と比べ20%大きい。これに対して、常住人口では東京圏の60%に過ぎず、GDPに至っては東京圏の30%しかない。しかし、北京の二酸化炭素の排出量は、東京圏より20%も多い。

 さらに一人当たりの指標で比較すると、北京の一人当たりGDPは東京圏の50%であるにもかかわらず、一人当たり二酸化炭素排出量は東京圏の2.1倍にも達している。単位GDP当たりエネルギー消費量に至っては、北京は東京圏の7.4倍である。

 こうした比較から、産業構造、エネルギー構造、都市構造そして生活様式において北京は東京とはまだ大きな開きがあることが伺える。なかでも、北京の文化産業および観光産業は相互発展の局面には至っておらず、経済社会における比重のまだ低いことが、一つの要因である。その意味では、北京が世界レベルの文化観光都市へと転換することこそ、未来のあるべき姿だろう。

 北京の海外旅行客数は2019年、東京圏の14%に過ぎなかった。且つ、その統計には56万人の香港・マカオ・台湾省の華僑のデータも含まれている。2000年から2019年までの北京の海外旅行客数は282万人から377万人へと34%増加した。この間、東京都に限って言えば海外旅行客数は418万人から1,410万人へと膨れ上がり、237%もの増加を見せた。東京は千客万来の世界都市へと、華麗なる変身を果たした。

 海外旅行客が東京にもたらした巨大な利益は、インバウンドの消費だけではない。さまざまな理由で訪れた海外観光客は、IT産業のような交流経済に大きな刺激を与えている。東京が日本においてIT産業で圧倒的なパワーを誇るのは、こうした交流経済における利便性が大きな一因であろう。

 上記の分析から、海外旅行客の数にしろ増加率にしろ、北京は東京に比べ、なお大きな隔たりがあることが分かった。北京が如何にして世界にとってより魅力ある文化観光都市へと変貌を遂げていくのかが、大きな課題である。

 魅力ある国際都市になるには、世界に通用する理念とロジックおよび手法とで、自身の文化の特色を演出するべきである。

 例えば、“食”は、重要な交流の場でもある。世界的に見てもIT産業が発達した都市のほとんどは美食の街でもある。北京では数多くの中国の特色ある著名なレストランがある。しかし、国際的にトップ級のレストランの数は、東京圏の10%しかない。この点、東京都内では現在、ミシュランの星付きレストランが219軒にものぼり、世界で最もミシュランレストランが密集する都市となっている。しかも、これらレストランの65%は和食で、シェフの多くが海外で修行した経験を持つ。優秀なシェフはグローバルな経験をして和食と洋食のフュージョンを起こしたが、同化は起きていない。和食が現在、世界に歓迎されている要因の一つには、外で得た見識を持ちながら自身の文化的特色を引き出すシェフ達の存在がある。

 世界を理解する努力と、世界に自身を理解してもらう努力とを、同時に行っていかなければならない。これが、世界都市への道のりには、欠かせない認識である。


「中国網日本語版(チャイナネット)」2020年9月22日

【対談】横山禎徳 Vs 周牧之(Ⅰ):コロナ禍で、如何に危を機にしていくか?

編集者ノート:新型コロナウイルスパンデミックで、世界の都市がロックダウンに揺れている。人々はグローバリゼーションの行方を憂いている。今後のビジネスのあり方やサプライチェーンの将来などについて、周牧之東京経済大学教授と横山禎徳東京大学総長室アドバイザーが対談した。


1.グローバルサプライチェーンはどこへ向かうのか?

 周牧之新型コロナウイルスパンデミックが、グローバリゼーションにどう影響を及ぼすのかについて、関心が高まっている。グローバリゼーションには様々な側面があるが、サプライチェーンはその重要な1つである。

 20年前、私はサプライチェーンのグローバル的拡張が、中国で長江デルタ、珠江デルタ、京津冀にグローバルサプライチェーン型の巨大な産業集積を形成し、その上に三大メガロポリスが出現すると予測した。私の予測は見事に的中し、現在上記の3つの地域に巨大規模のグローバルサプライチェーン型産業集積が出来上がった。三大メガロポリスは、中国の社会経済の発展を牽引するエンジンとなっている。

 しかし新型コロナウイルスショックで、グローバルサプライチェーンは寸断され、さらに米中貿易摩擦やアメリカ政府による企業の呼び戻し政策が追い打ちをかけ、三大メガロポリスがベースとなる産業集積の様相に異変が起こっている。

 横山禎徳グローバリゼーションを補完する概念としてリージョナリゼーションがある。例えば、グローバルに人気のあるドイツの自動車を支える企業群は、バイエルン州に集中していて自動車のエコシステムをしっかりつくっており、州政府もそのシステム育成に注力している。日本でもトヨタの三河、ホンダの栃木などがその例だ。グローバルなサプライチェーンの展開を現在も補完している。多くの製造業のサプライチェーンにおいて同様の傾向がある。リージョナリゼーションがしっかり確立しているから逆説的にグローバルなサプライチェーンを展開できるといえる。

 一方、ナショナリゼーション、あるいはナショナリズムはグローバリゼーションの対立概念だ。それは国家権力と結びつく。すなわち、グローバリゼーションを規制する法律があり、強制力もある。今回のCOVID-19は、グローバリゼーションの一側面として人の自由な移動が世界的蔓延につながったが、その防護として移動制限、入国禁止という国家権力が発動されたのはご存知の通りだ。

 日本は戦後、国家権力の強大化に対する不信というか、アレルギーがあり、中央政府は国民に対して要請はできても命令はできない。その結果、リージョナリゼーションが明確に表れてきた。今回、COVID-19に対する拡大防止として主要な県の知事が独自の対策を打ち出したのがその例だ。

 ひと昔前は、サプライチェーンは国民国家の中に留まっていた。いま横山さんが挙げた例にもあるように、日本のある自動車メーカーのサプライチェーンは、ほぼ半径50キロメートル内に収まっていた。サプライチェーンがグローバル的に拡張する時期は、ちょうど中国の改革開放期と偶然に一致した。その結果、中国はサプライチェーンのグローバル展開の受け皿となり、大きな恩恵に預かった。中国の輸出規模は、2000年から2019年まで10倍に膨らんだ。

 サプライチェーンのグローバル展開を推し進めた三大要因として、IT革命、輸送革命、そして冷戦後の安定した世界秩序から来る安全感が挙げられる。

 グローバルサプライチェーンは、西側工業諸国の労働分配率の高止まりを破り、地球規模で富の生産と分配のメカニズムを大きく変えた。

 中国の経済発展は、グローバルサプライチェーンによってもたらされた部分が大きい。それゆえ2007年に出版された拙著『中国経済論』の中で、第一章を丸ごと使い、中国経済発展とグローバルサプライチェーンとの関係を論じた。

 しかし近年、中国とグローバルサプライチェーンとの関係に多くの摩擦が生じた。

 まず、国際資本にとっては益々強くなってきた中国政府による介入に対して不安感が生じた。日本は早くから、「チャイナプラスワン」の政策を打ち出し、企業の中国以外の国・地域へのサプライチェーンの展開を奨励した。第二には知財保護の問題がある。実際、米中貿易摩擦の焦点の1つも知財問題である。第三に、中国での労働力、土地、税金などコストがかなり上昇したことである。

 当然、アメリカの産業空洞化も大きな圧力となってきた。これが、トランプ大統領を当選に導いた主要な社会基盤でもあった。

 横山中国はあまりにも巨大になった。グローバリゼーションという言葉が出てきたとき私は、それは世界のアメリカ化だ、と言った。1960年代に最もグローバルだった銀行は、アメリカのチェース・マンハッタン・コーポレーション。頭取のデイビッドロックフェラーが、中国へ行き周恩来首相と握手する写真が、当時日本の新聞でも頻繁に取り上げられた。チェース・マンハッタン・コーポレーションはグローバルな銀行だと思っていたが、それは、Americanization of the Globeに乗った形の拡大だった。アメリカーニゼーションが縮むと、この銀行の世界展開も縮んだ。アメリカはいま本当の意味でのグローバリゼーションを身につけなければならないところに、中国が台頭して来た。Chinaization of the Globeになるのではないかと敏感になっている。米中双方がリアクティブに反応しているところが様々な面に影響している。サプライチェーンも同様だ。両国ともナショナリズムの影を引きずったグローバリゼションから脱却する努力をすべきだ。

 すでに述べたようにグローバリズムの補完概念はリージョナリズムだと思っている。リージョナリズムはグローバリズムとともに永遠に存在しているだろう。しかしナショナリズムはグローバリズムに対立するという意味で厄介な思想だ。中国がナショナリスティックに動き、それが国家干渉として出てくると皆は困惑する。中国政府はもうそろそろ干渉をやめた、と外に分からせた方がいい。しかし、アメリカの現政権がナショナリズムになっているので状況はややこしくなっている。

 日本も保護主義といわれ実際保護してきた。それを緩めたときに知財の国外流失につながった。当然中国の緩め方は簡単ではない。知的財産が一部の分野で優位に立ち始めた中国から流れ出て行く可能性がある。ある意味、皆同じ土俵に立ってしまった。中国が干渉しない、といえば様々な意味で世界的な安心感が出てくるだろう。

 ナショナリズムは対立的な主張だ。アメリカにいまある程度ナショナリズムが出ていることの理由は、産業が空洞化したからだ。トランプ大統領が登場した背景には製造業の落ち込みがあった。しかし、なぜうまくいった中国でナショナリズムが前面に出ているのか?

 横山恐らく自分たちへの自信、矜持の回復が、近年の予想以上の大きな成功によりオーバーに出てしまったのではないか。

 中国は2001年のWTO加盟後に急成長した。長い間苦労を重ねた後に成功して初めて自信を得た。しかし世界にはその自信が受け入れられない、という忸怩たる思い、反発だろうか。

 横山それはどこの国もそうだった。日本以前に、アメリカも同様だった。アメリカがアメリカらしくなったのは1950年代だ。アメリカが世界の債権国になったのは第一次世界大戦後1930年代で、それまでヨーロッパがあらゆる意味で世界のセンターだった。新興国のアメリカの人たちは皆ヨーロッパで勉強していた。美術も音楽も超高層建築もアメリカらしいものが出てきたのは1950年代。ノーベル賞受賞者数も膨れ上がった。当時ヨーロッパからアメリカはアグリーアメリカン(Ugly American)といわれた。日本は1980年の半ばごろアグリージャパニーズ(Ugly Japanese)といわれた。いまや中国がアグリーチャイニーズといわれそうになっている。

 世界に認められるのは時間がかかる。そこに、自分の特色と、世界が何を求めているのかを察知するセンスが必要となる。

 横山例えば、中国はデジタル化が強い。日本は文化的な伝統なのだろうが、アナログが強い。例えば、四季の移ろいに敏感だが、まったくアナログの世界だ。昨日まで夏で今日から秋というわけにはいかない。「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる」という9世紀初頭の和歌がその典型だ。

 日本には日本のやり方があり、製造業に限っていえば、実は日本の生産性は向上している。問題は就業人口の70%を占めるサービス業だ。この生産性は長年停滞している。2000年頃、日本はサービス業に限ると生産性はアメリカの三分の二程度であった。毎年生産性を5%程度向上しても当時のアメリカに追いつくのに15年かかる計算だった。驚くことに20年経った今も状況はそれほど変わっていない。これらはリージョナリズムの問題だ。これら多くのサービス業はグローバルな競争にさらされていないということだ。伝統的なリージョナル発想の業態のままでいる。グローバリゼーションの補完概念として機能するとはどういうことかがまだよく分かっていないのだ。

 例えば、日本のサービスは良いと思われているが、それは「昭和のサービス」でしかない。時代遅れでしかなく、必ずしも顧客が喜んでいないことに気が付いていない。「悪い」サービスではないから、顧客は何もいわない。従って、自己満足になっていて、顧客が評価しているかどうかに敏感ではない。こういうことに中国で行われているデジタル化を採用すれば、生産性の向上で労働時間の短縮になるだけでなく、その浮いた時間で個別顧客が満足しているかということに目を向けるようになり、独りよがりのサービスに気が付くきっかけになるだろう。

 リージョナリズムとグローバリズムが並存していることが、互いを健全化させていく。これに対して、ナショナリズムを前面にした対立的主張は有害だ。

 横山新型コロナウイルスに関していえば都市、国境の封鎖となっていくと、国が干渉するという形になってきて、ナショナリズムが広がる契機にもなり得る。ただし、これは、いずれ収まると思う。技法の共有やサンプルサイズの拡大など各国が共同で対応したほうが効果的であることに気が付くからだ。特に、最も求められている治療薬やワクチンはどこの国から出てくるか予想はできない。そして、開発に成功した国は自国優先ではなく、グローバルな供給体制を早急に確立することを求められ、もし、開発資金の欠如があるのであればグローバルなファイナンス機能が活用できる。 

 

2.製造業の交流経済化

 周いま中国では、アメリカの製造業の自国回帰を推し進める政策について、様々議論を呼んでいる。サプライチェーンに関心をもつ経済学者として、私はトランプ大統領がこのような政策を打ち出さなくても、製造業の先進諸国へのある程度の回帰は発生すると思う。

 歴史的に見ると、サプライチェーンのグローバル化は農産物から始まった。古代の東西貿易の主なアイテムはシルクにしろ、胡椒、綿花、砂糖、茶にしろ、農産物をベースにしたものが多い。他の地域からこうした農産物を獲得することが大航海の原動力であった。その後、食のサプライチェーンはグローバル化の一途を辿った。

 私の故郷、湖南省は稲作文明の発祥地とされている。典型的な自給自足経済であった。ほぼすべての食品は自分で生産したか、あるいは周囲から調達したものであった。フードチェーンは短く、かつ可視であった。

 横山隋の煬帝が大運河で南のコメを北へ持っていこうとした。なぜ、気候も温暖で食料も豊かな南部ではなく、北部に首都を構えたのか私には理解できないが、結果的に、後世に素晴らしい物流ネットワークを残したのは良かったのだろう。

 中国の国土は、北は雨量が少なく、南へ行くに連れて湿潤になっていく。よってその国土は、北方に騎馬民族エリア、小麦をベースにした北部農耕地帯があり、そして南部には稲作地域が広がる。稲作は生産性が高く安定している故に自給自足経済になりがちだ。あまりにも豊かで、小さいエリアで小さい幸せに満足する(笑)。帝国的な軍事力にも政治力にも興味が湧かない。それに対して、北部は、天候に収穫が大きく左右される。騎馬民族の南下にも常に翻弄される。騎馬民族と混ざった軍事的なパワーが巨大化し、王朝交代の原動力になっていく。それゆえに、統一王朝の首都のほとんどは、北部に構えた。

 コメは北部になかったから元も明も清も、運河でコメを北へ運んでいた。新中国では鉄道を使った。私の幼い時は北から石炭を南へ、南からコメを北へ鉄道で運んでいたのをよく目にした。あまりにも北にコメを持って行かれたので、コメの産地湖南省も食糧難に陥ったことさえあった。

 しかし、いまや中国の南の人々も、日本と同様、全国から、さらには世界から食の調達をするようになった。フードチェーンそのものの可視化が不可能となり、追跡もできなくなった。

 日本も典型的な稲作文明で、農村の原風景は湖南省によく似ており自給自足の世界であった。しかし、いま日本の食料供給は、カロリーベースで60%以上を輸入に頼っている。

 横山一方、金額ベースでは輸入依存度は30%程度である。ということは、日本人は値段が高くてあまり栄養のないものを好んで食べているということだろうか。しかも、近年、1人当たりのカロリー摂取量は2,000キロカロリーを切った。OECD諸国では最低である。しかも、輸入食糧を含めて1人当たり、毎日500キロカロリー以上を捨てている。

 そのようなネガティブな面もあるのだが、全体として食のサプライチェーンのグローバル展開は、食の供給の効率を大幅に高めた。しかしこれは、小作農を主体とした日中両国の農村、農業、農民には大きな打撃となった。海外から非難を浴びながら、日本政府は農業の保護政策を続けてきた。1961年に施行された農業基本法も、生産性向上よりは直接的な農家保護に重点があった。それにもかかわらず、というか、生産性向上による競争力の強化がされないまま、日本の農業も輸入食品に圧迫され、大いに苦しんでいる。より深刻なのは、輸入食品の安全管理が困難を極めることである。

 近年、ネットの発達によって、日本では農家が直接消費者と取引するケースが増えてきた。戦後、農産品供給の規模化と効率化を推し進めてきた農協や、スーパーマーケットなどがスキップされる現象が起こっている。コロナ禍で、こうした傾向がさらに強まっている。

 横山スーパーマーケットによる契約農家の効率よい管理を基盤に、国の安全基準を満たし、見てくれのいい大量販売の作物よりも、契約農家が自分の家族に食べさせている作物がみてくれがわるくても、一番安全で味もいいことに消費者が気付き始めた。

 “つくり手が見える農業”は農業生産の上に、コミュニケーション、信頼、品質そして感性まで含まれている。これは農産品の付加価値を高めただけでなく、農業自体をさらに魅力的にしている。近年、農学部に進学する女子学生の割合が日本で増えてきた。まさしく若い人たちによる農業への回帰である。

 横山農業はシステムである。そのシステムがいま生産、加工、消費が連動し、様々な組み合わせで変わろうとしている。しかし、それを、「いわゆる第6次産業化が進んでいる」と捉えるべきではない。「第1次、第2次、第3次産業を一体化し第6次産業化して付加価値を生む」とは言葉だけで具体的な方法論がない。

 「産業」という伝統的な分類に固執せず、産業を横串を通した「社会システム」として発想すれば、付加価値創造の可能性が大量に見えてくる。第6次産業ではなく、食糧供給システムとして捉えるべきだ。現在の漁業もハンティングから「栽培」に変わらないと資源の維持管理ができない。そうなると農業も漁業も同じ食料供給システムという効率的でありかつ多様性を生かすプロセスに乗るのである。

 製造業の生産と消費においても同じ現象が起こっている。

 従来、製造業のサプライチェーンの中で、企業間の交易において、外に出さない、出せない暗黙知が多かった。暗黙知をシェアするため濃厚な企業関係が必要だった。企業間は長期的な協力関係や資本提携のもとに、ピラミッド的な世界をつくり上げた。IT革命が、デジタル化と標準化を進め、暗黙知の比重を大幅に下げてきた。これにより、企業間のやり取りに必要とされる時間、コストが減少した。さらにモジュール生産方式が、デザインルールを公開し、サプライチェーンにおける競争が世界規模で行われるようになった。よって、サプライチェーンは、暗黙知の束縛から解放され、地球規模での展開が可能となった。

 サプライチェーンにおける企業関係も従来の緊密なピラミッド型から、ネットワーク型へと変化した。これで途上国もグローバルサプライチェーンへの参加が可能となった。中国をはじめとする途上国の参入は、工業製品の価格を大幅に下げた。

 こうした暗黙知を最小限に抑えたグローバルサプライチェーンは、典型的な交易経済である。

 しかし時代は常に変化する。消費者は、低価格よりもますます感性、個性、そして生産者とのコミュニケーションを重視するようになってきた。これを可能にした背景には、モジュール生産方式が新たな段階に入ったことがある。

 モジュール生産方式は、非熟練労働者の組み立てなど工業生産活動への参加を可能にした。これは、製造業サプライチェーンの基礎であり、発展途上国の新工業化の前提条件であった。

 しかし、いまやモジュール生産方式が進化し、個性的なデザインと連動することが可能となり、多様化、個性化の少量生産が実現できた。消費者と、生産者とのコミュニケーションによって、個性と感性の豊かな製品が作られるようになった。

 横山モジュール対すり合わせの議論があり、日本はすり合わせが得意ということになっている。まさにデジタル対アナログの議論と似ている。しかし、実は歴史的にみると、日本はモジュール生産方式が発達している。例えば、日本の在来工法による住宅はモジュールで出来ている。木割りという伝統的な基準がある。例えば、部屋の広さは三尺対六尺が基本モジュールだ。部屋の内法はどの住宅でも同じになるように部材の寸法が決まっている。従って、畳はどこで誰が作ってもピタッとハマるようになる。住宅というモジュールがあったから、畳だけを専門的に作る。従って、技術に習熟した職人が存在し、住宅の質の維持向上に貢献した。

 自動車の個性的な注文と流れ作業との組み合わせを、いち早く実現させたのも日本のメーカーだった。いわゆるマス・カスタマイゼーションの実現だ。

 横山製造業に関してトランプ大統領は、サプライチェーンがシステムとして出来上がっていることがわかっていないと思う。他所にあったものをアメリカに持って行ってもすぐ動くわけはない。サプライチェーンはエコシステムとして有機的に連携したシステムとして時間をかけて組み立てられている。一朝一夕にはでき上らない。

 未来の製造業はこのように想像できる。一方で、半導体チップやセンサーなどコアモジュールはこれまで同様、グローバル的な供給となるだろう。日米の企業は現在、これらの分野で高い優位性を誇っている。他方で、一部の最終製品生産者は、これらのモジュールやディバイスをベースに、ユーザーとコミュニケーションを重ね、個性のある商品を提供するよう進化する。暗黙知を最小化してきた旧来のグローバルサプライチェーンは、ここにきてコミュニケーションを重視する方向へ付加価値を高めるようシフトすれば、これは先端製造業の交易経済から交流経済への転換である。

 横山西山浩平というマッキンゼーの後輩がいて、「エレファントデザイン」という企業を興し、消費者参加型の商品化コミュニティサイト「空想生活」を作った。例えば、こんな電子レンジが欲しいという意見を消費者から集め、コーデネートして、いいなと多くの参加者が思うスペックを導き出し、欲しい人の数がメーカーが受けることのできるロットサイズに達すると、製造を依頼する。大きくは伸びていないが30年くらい続けている。

 消費と生産がやり取りするような現場が増えていくだろう。特に若い人たちの消費パターンをみると個性、感性を求めている。これを満足させるためには大量生産の画一規格では収まらない。

 日本のサービス産業は効率が悪いといわれるが、効率が価値であると同時にわがままも1つの価値だ。サービス業も農業も製造業もそういう時代になってくる。

 横山値段の高い寿司屋のようなものだ。日本では、効率も生産性も悪そうだがやっていくという分野がある。それは一種のリージョナリズムだ。そのような効率の悪いサービスが成り立つだけの価格付けをするから生産性がひどく悪いわけではないし、価値を評価してその高い価格に対してお金を払ってくれる顧客がいるから存在できる。そのような寿司屋を評価して日本に来たら寄ってくれる外国からの顧客もできる。リージョナルだからグローバルになるという逆説だ。

 その意味では、目下製造業の先進国への回帰は、その一部分は消費者へより近づく市場への回帰だ。製造業最終製品の生産はますます個性化、ローカル化が進むだろう。トランプ大統領の呼び戻し政策がなくても新型コロナウイルスショックがなくても、こうした製造業の回帰は起こる。これは、製造業が交易経済から交流経済へと進化する流れの一環だ。

 横山中国でも製造コスト、人件費が上がり、生産ロケーションとしての旨味がなくなっている。超ハイテク部分は、ロケーションが重要ではなくなってきている。半導体製造の最先端では「Copy exactly」が最重要になっている。基幹工場の製造プロセスと隅から隅まで全く同じプロセスを持った工場であることが大事で、そうでないと歩留まりなどの生産性が落ちるのだ。それだけでなく、何故そうなるのかを見つけるのも大変なのだ。その作業を省く意味がある。従って、それが世界のどこにあるかは二次的な要素になってきている。そういう意味からもここ数年のうちにアメリカや日本に帰ってくるものもあるだろう。

 2000年から2018年までに、上海の平均賃金は9.3倍に、蘇州、広州はそれぞれ8倍、6.3倍に跳ね上がった。2000年の時点ですでに比較的高かった深圳の平均賃金も、4.8倍になった。安い賃金をベースとした、従来の製造業発展パターンは中国では難しくなった。

 一方、「世界の工場」とはいえ、半導体は輸入に頼っている。中国では現在、半導体輸入の金額が石油輸入のそれを超えている。目下、米中貿易摩擦の焦点の1つは、アメリカが最先端のチップを華為(ファーウェイ)など中国のハイテク企業には売らないと迫ってきていることにある。

 半導体の生産はますます限られた企業しかできなくなり、これはグローバル的調達でずっと行く。

 横山ハイテックの分野では製造現場での人件費よりも、研究開発や設備投資のコストをコントロールすることが重要になってきている。自然な流れとして製造設備の固定費を持たないで研究開発と設計に特化するファブレスが出現した。

 台湾の台積電(TSMC)は世界で初めて、半導体の設計と生産を切り離し、生産だけに専念した。いまやいわゆるファウンドリチップ最大手となった。それによって工場を持たない半導体設計に特化したファブレスが開花できた。

 ファーウェイの子会社、海思半導体(ハイシリコン)が、なかなかいいチップを開発している。設計に特化し、生産はTSMCに委託している。今度、アメリカはこの両者の受託関係にもストップをかけてきたので、ファーウエイはピンチに追い込まれている。

 横山ノンデジタルな技術の大切さも重視しなければならない。例えば光学系だ。レンズはデジタル化がやりにくい。アナログとデジタルの境目にある。ソニーはその強みを自覚し、自分たちの強いことをやろうと決断したようだ。デジカメやスマホのカメラに使われるイメージセンサーでは50%以上のシェアを持っている。

 デバイスを作っている会社はグローバル的にサプライするだろう。最近、私はオゾンの殺菌能力に着目し、オゾンによる「3密問題」解消を提唱している。低濃度のオゾンでも、十分な不活化力がある。ただし、濃度が高くなると、不快感を生じることもある。そのため有人環境でのオゾン利用には、濃度をコントロールするセンサーが必要だ。中国の遠大科技集団(BROAD Group)の張躍社長に高精度かつ安価なオゾンセンサーの開発をしつこく迫っているところだ。これができれば、大型エアコンメーカーの遠大も世界的なデバイスメーカーに変身できるだろう。

 横山日本であれば村田製作所のコンデンサーがある。非常に小さな素子でPCやスマホに大量に使われるがその分野における市場シェアは、世界一だ。

3. 世界への理解と個性の主張

 自動車も電気自動車になった途端に、デザイン性が要になった。デザイン性が時代を引っ張る。

 横山自動車でいえば目に見えるボディのスタイルだけではない。昔からあるのは、ドアを閉めた時のボンという、安物感のない良い音がすることが1つのデザイン要素だった。音の良さが販売に影響した。1970年代になると、自動車のエンジンの音をデザインできるようになった。1960年代まではエンジン音も何故か各々国によって違っていて、イギリス、アメリカ、ドイツ車をエンジン音でわかることができた。それがいまはわからなくなった。特徴があるのはフェラーリーのクォーンという音くらい。

 最近出ているSUVのデザインの軸は、運転席のビューポイントの高さだ。視点の高さは自動車の性能とは関係がないが、視野が広く運転しやすいと感じるのか消費者がそれを選ぶ。目に見える部分と見えない部分の総合的なデザイン能力が問われるようになった。電気自動車がリチウム電池の進歩で現実的になったとき、電気モーターの自動車は内燃機関の自動車より部品も少なく簡単だからある意味誰でもできると思った時期がある。多くの中国の起業家も参入した。しかし、電気自動車はゴルフ場のカートよりはもっと複雑であった。テスラは、このデザイン問題をちゃんと見抜き、アメリカの自動車企業が落ち目になった時に自動車つくりの経験豊富なエンジニアを数多く採用したことが成功している理由の1つである。 

 これからの製造業は相当変わる。感性があり文化的特徴があり個性やこだわりのある製品が出れば、もっと楽しい世界になる

 横山イタリア人は座るための家具を作るのが上手で、とても座り心地の良いソファを作る。長年積み重ねてきた歴史の厚みを簡単なひじ掛けイスやソファに感じる。例えばドイツ人がイタリア人よりいいソファを作ろうと思わなくていい。文化的な積み重ねが違うからだ。ドイツ人は別の意味で魅力的な家具を作ることができる。グローバリズムとは単調で一様な世界ではなくそういう多様なリージョナリズムの集合なのであり、豊かな世界になりうるのである。

 私の家の椅子は、すべてイタリアの友人の著名な建築家マリオ・ベリーニの作品だ(笑)。

 もとは欧州の得意分野だったものだが、最近日本のメーカーが評判になるケースが増えてきた。例えば白ワイン、ウイスキー、チョコレートなどだ。日本の理工系女子学生の就職企業人気ランキングにも食品関連が多くなった。感性豊かな女性が入ることで、文化的・感性的にさらに伸びていく。

 横山日本はフランスより優れたワインをつくる努力をするのではなく、和食に合うワインを作ることが大事だという考え方が出てきた。山梨や長野のワイナリーは実際、そのようなワインづくりを試行錯誤し、最近はなかなか優れた品質に達している。

 友人の有賀雄二氏の勝沼醸造では、和食に合う素晴らしい白ワインを作っている。国際的にも様々受賞している。

 横山和食は醤油をはじめとしてアミノ酸発酵食品が多く日本酒が合うが、ワインは乳酸発酵食品、例えばチーズなどに合うという常識がある。しかし、そのような常識を乗り越え始めた。そういうアナログな感覚が重要な分野では女性の精妙な感性と粘り強さは当然役に立つ。チョコレートも伝統的な世界を抜け出し多種多様な新しい展開を始めたようだ。

 キャベツのようなありふれたものも数百種類のバラエティがあり、日本食に最適な使い方もある。とんかつと一緒に出てくる生キャベツの千切りとか、広島風お好み焼きのキャベツとか、独特の種類が使われている。こういうリージョナルな展開もかえってキャベツの多様性と食のグローバルな発見や認知につながるかもしれない。このようにして各々の地域で得意なことをやって伸びればいい。そして、グローバルな展開との補完関係を見つけることになるだろう。

 国際間で人の往来が猛烈に増えてきた。世界の国際観光客数は、30年前は4億人だったのに対して、2018年に14億人に膨らんだ。日本もこの流れで海外からの観光客が急激に増えてきた。これがコロナショックでパタリと止まった。

 横山ツーリズムの世界は人の流動性が高いが、短期的であり外界の状況ですぐに増えたり減ったりする。ビジネスや、学問の世界の流動性はもっと安定的であって、傾向として今後も増加していく。今回の騒動がある程度鎮静化すれば、人の行き来は回復し増加軌道に乗るだろう。人数的に大きくないかもしれないが、アーティザン(職人)やプロフェッショナルの世界的移動は常に起こっている。職人やプロフェショナルの世界では伝統的にアプレンティス(見習い)としてキャリアがはじまり、その後ジャーニーマンになって幅広く経験し、マスターになる。レオナルド・ダ・ヴィンチもジャーニーマンとしてヨーロッパを旅した。このジャーニーマンのステージのプロフェッショナルや研究者の移動が増えるだろうと私は思っている。建築家は世界を回って技を磨くというのが普通になっていると言ってもいい。今後は医療やハイテックの人材、そして、金融関係の人材がもっと流動的になっていくと思う。

 食の世界も多い。例えばシェフだ。

 横山食の世界はまさにジャーニーマンであることは修業の最も重要なフェーズであり、普通に行われている世界だ。「流れ板」という言葉が日本にある。ある店に入って丁稚奉公やって、包丁が使えるようになり、お澄ましの味をみることができるようになると一人前であり、日本中を旅して様々な店に雇ってもらう。これが流れ板だ。10年程度そうやって修業して、多くは故郷に帰って自分の店をもつ。

 私の友人の子でシェフになった人が何人もいる。トップクラスのシェフに上り詰めた人もいる。彼らの父親は大学教授や、上場企業の社長もいる。

 横山シェフは今世界中を動いている。それを通じて、ある種の食のフュージョンは起きていくだろう。しかし、完全な合体はできないし、それが意味のないことはここ数十年で経験した。フランス料理はフランス料理、日本料理は日本料理であることは変わりないだろう。優秀なシェフはこれまで以上にグローバルな経験をしたうえでリージョナルな料理を守り発展させていくだろう。これはまさにグローバリゼーションとリージョナリゼーションが補完関係にあるという例であろう。

 その意味では漢方薬が西洋にまだ受け入れられないのは、相手が理解できる言葉で語っていないからだ。世界を理解する、そして世界に理解してもらう努力を同時にしなければならない。

 横山これもグローバリゼーションとリージョナリゼーションが補完関係にあるという例になりうるだろう。薬の機能の要素還元的手法による研究開発を通じて西洋医薬はグローバルな普遍性を獲得した。一方、漢方医薬は複雑なシステムの統合体である人間の体のシステム・バランスに作用するのが得意だ。

 すなわち、西洋の医薬はピンポイント・メディシンであり、漢方医薬はシステム・メディシンだといってもいいだろう。当然、お互いは補完関係にあるのであり、今後はそういう展開をしていくのではないか。

 

『中国都市総合発展指標』日本語版出版記念パーティにて、右から、周牧之、大西隆・豊橋技術科学大学学長、横山禎徳、竹岡倫示・日本経済新聞社専務執行役員(2018年7月19日、肩書きは当時)

中国網日本語版(チャイナネット)」2020年7月22日

【対談】横山禎徳 Vs 周牧之(Ⅱ):アフターコロナの時代、国際大都市は何処へ向かう?

編集者ノート:新コロナウイルスパンデミックで、ニューヨーク、ロンドン、北京、東京など世界大都市を直撃し、世界の都市がロックダウンに揺れている。人々はグローバリゼーション、そして国際都市の行方を憂いている。今後のサプライチェーンのあり方や交流経済の行方、都市と自然との関係、都市文化の方向性などについて、周牧之東京経済大学教授と横山禎徳東京大学総長室アドバイザーが対談した。

 対談は、二回に分けて中国語、英語、日本語でチャイナ・デイリー、光明日報、チャイナネットなどのメディアに掲載され、好評を博した。


1.グローバリゼーションと大都市化

 周牧之都市は市場から始まり、交易と交流の繁栄で成長する。1950年、人口が1,000万人を超えるメガシティは一都三県からなる東京大都市圏とニューヨークの二都市だけだった。20年後の1970年には、大阪を中心とした近畿圏のみが、メガシティの仲間入りをした。1980年になってもメガシティは僅か5都市に過ぎなかった。しかしその後、猛烈な勢いでメガシティが増えて、いまや33都市になった。これらのメガシティのほとんどは、国際交流の中心地で、世界の政治、経済を牽引する大都会である。メガシティの総人口は、5.7億人に達し、世界総人口の15.7%を占めるに至った。メガシティが爆発的に増えたことの背後にはメカニズムがある。

 横山禎徳18世紀の江戸も大きかった。現代から見るとまだまだのレベルだが、当時の技術による上下水道のインフラが出来たおかげで100万都市人口を支えた。上水は関東平野に流れ込む川の上流から街中に引き込み、下水では生活用水と下肥とを分けて、下肥は千葉の農家に売るシステムが出来ていた。元々広大な湿地帯に作った都市である江戸では運河交通ができた。都市の発展にはインフラのキャパシティーが大切だ。

 我が家の近くにある井の頭公園の泉は、江戸時代の上水“神田川”の源だ。当時、徳川家康は江戸建設のため、水源確保と上水路の敷設に相当力を入れた。

 横山20世紀の初頭、環状線の山手線が業務を開始したことは画期的だった。既に存在した駅である品川、上野、新宿に加えて、池袋、新橋、渋谷、五反田などの駅が出来上がり、私鉄のコミューター・レイルはこれらの駅に結びつく事によって通勤客のモーダル・チェンジ・ポイントとして成長した。これによって丸の内のセントラル・ビジネス・ディストリクト(CBD)だけでなく、多くのミニCBDがこれらの駅の周りにできた。そして、新宿は副都心に拡大した。東京という都市のアクティビティのキャパシティが拡大したのである。

 アメリカの都市はボストンなどが典型的だが、CBDのワンセンターが基本で、そこにすべてが集中する。大きくなれない。東京は都市計画がなく、単に多くの村の寄り集まり、といわれたが、村の集合体でよかった。東京の中に様々な村、すなわち、性格の違うコミュニティが数多く存在している。あるコミュニティは江戸時代からの歴史あるコミュニティであるし、あるコミュニティは戦後の新興コミュニティだ。それらが混然一体となって自律展開をし、都市の有機体的調整機能として働いている。

 インフラのキャパシティーをアップすることが、大都市の重要な対策である。東京大都市圏の人口が1,000万人から3,000万人の間だった時期には、大都市病に最も苦しめられた。いま、人口が3,700万人にも達したのに都市問題は随分緩和された。そこには、高品質のインフラ整備がかなり功を奏した。今回の新型コロナウイルスパンデミックは地球規模で、医療、上下水道、ゴミ処理などの都市公共衛生インフラにおける投資を後押しするだろう。

 当然、都市の物理的なキャパシティと並び、都市の仕事上のキャパシティも重要だ。いいかえれば、人口を吸引する都市の産業力だ。1980年代以降の大都市化を推し進めたエンジンは2つある。1つは製造業サプライチェーンのグローバル的な展開。もう1つは、IT革命の爆発だ。

 33のメガシティの地域的な属性を分析すると、基本的に二種類に分けられる。1つは沿海都市、もう1つは首都をはじめとする中心都市である。東京は両方の側面がある。これは東京が伸び続ける理由の1つだ。

 グローバルサプライチェーンを前提に発展してきた製造業の産業集積は深水港のサポートが必要だ。雲河都市研究院が発表した“中国製造業輻射力2018”のトップ10は深圳、上海、東莞、蘇州、仏山、広州、寧波、天津、杭州、廈門であった。例外なくすべて大型コンテナ港に近い立地優位のある都市だった。このトップ10都市は中国貨物輸出の半分を稼いでいる。

 横山日本の製造業の輸出もこれまで東京、大阪、名古屋の三大都市圏に集中する傾向があった。今後はIntra-Asiaの荷動きがより一層重要になることや、今後、香港の位置づけが変わると予想されるので、その代わり、北九州・博多地域のポテンシャルが重要になるだろう。すでに、長年、北九州地域に自動車関連企業の集積が進んでいるのでサプライチェーンの観点から重要になるだろう。そういう観点からすると太平洋側の東京、大阪、名古屋の港からのランドブリッジが発達していないのは問題だ。

 東シナ海に面する北九州の港湾施設と一旦破棄された福岡の新空港への重点投資が必要ではないか。博多は三大都市に準ずる都市機能を持っているから新しい都市圏として拡大できるだろう。

 実は製造業に比べて、IT産業の大都市集中傾向はさらに強い。

 IT産業は典型的な交流経済として、開放、寛容、多様性の文化環境が求められている。それに対して、沿海都市や中心都市は最もこのような環境を備えている。

 雲河都市研究院が発表した“中国IT産業輻射力2018”のトップ10は、北京、上海、深圳、成都、杭州、南京、広州、福州、済南、西安であった。これらの都市は中心都市と沿海都市のどちらかに限られる。中国のIT産業就業者数、メインボード(香港、上海、深圳)IT企業上場数に占めるこのトップ10都市のシェアは、それぞれ53%、76%に達している。

 横山『現代の二都物語−何故シリコンバレーは復活しボストン・ルート128は沈んだか』という本にあったように、ボストンの周りのルート128と、シリコンバレーをみると、IT関係ベンチャーの展開でシリコンバレーが優位になった。いろいろ理由はあるが、重要なのは人が出会い交流する頻度が、明らかにシリコンバレーの方がルート128より高かったからだ。カリフォルニアの過ごしやすい気候や外向的な人の気質もあるようだ。 

 ソフトウエア開発が重要になるとまた広がって、マイクロソフトがスタートしたシアトルがトップになった。アマゾンも拠点を構えている。いまやニューヨークにも集まり始めた。マンハッタンではいろいろな施設が歩いて行ける範囲内にあることも有利だ。集積都市や地域が時事刻々変わることはあっても、基本的条件は、まず人が出会わなければならない。イノベーションはシュンペーターが言ったように「新しい結合」から生まれるのであれば、それは人と人が出会うことから始まるのだ。かつてGDHDパーティというものを主宰していたことがある。Guzen-no Deai-wa Hitsuzen-no Deai (偶然の出会いは必然の出会い)の意味だ。ことが新しく展開をしたときに振り返ってみると、あの時の出会いから始まったのだと気が付くことがある。

 日本のIT産業はさらに高度に東京に集まっている。東京大都市圏は、東証メインボード上場のIT企業の8割を占めている。これは東京が、様々な人々が出会える素晴らしいプラットフォームであるがゆえにもたらされた。

 製造業輻射力、IT産業輻射力と都市機能との関係を比較するとその秘密がわかる。例えば、広域インフラから見ると、製造業輻射力は、コンテナ港利便性との関係が最も深い。これに対して、IT産業輻射力にとっては人の移動と出会いに不可欠な空港の利便性が最も大切だ。

 都市のその他輻射力との関係から見ると、製造業輻射力との相関関係が深いのは、科学技術輻射力や金融輻射力である。これに対して、IT産業輻射力と最も相関関係が深いのは、飲食・ホテル輻射力、文化・スポーツ・娯楽輻射力であった。まさしく交流経済だ。

 特に注目すべき製造業輻射力は、高等教育輻射力、医療輻射力との相関関係はそれほど深くなかった。それと相反して、IT輻射力と高等教育輻射力、医療輻射力との相関関係は深かった。これは製造業と比べ、IT関係者がより高い教育を受けより高い生活品質を求めていることを意味する。

 要するに、IT産業に集まる人々は、飲食、文化、娯楽、高等教育、医療への要請が高い。これらのアメニティが揃っている大都市が魅力的だ。

 横山ファンドマネージャーは一人でじっくり考える環境を好む。投資の時間軸は比較的長く、時間が比較的ゆっくり流れ、家族とのだんらんを大事にする。一般的に田園的な環境が好みだ。また、そういう気質の人がそういう職能に惹かれる。しかし、ITの関係者は時間がもっと早く流れている。時々刻々の刺激が大事だ。その刺激は同業者だけでなく、芸術、娯楽の世界の人たち、あるいは伝統文化の継承者などからくる。その人たちの催すイベントなどからの刺激も大事だ。だから都市のアメニティが重要なのだ。私は〈中国都市総合発展指標2018〉に都市アメニティの重要性を訴える論文を寄稿した。

2.「里山」式の都市発展を

 新型コロナウイルスパンデミックは、感染症対策関連の技術進歩、イノベーションを加速させるだろう。やがて検査、特効薬、予防接種が出来、ウイルスとの共存が可能になる。そうなるとウイルスが都市に人が集まらない理由ではならなくなる。

 ただし、たとえコロナ禍がなかったとしても、大都市からの脱出願望は根強いものがあった。例えば35年前、アメリカの未来学者、アルビン・トフラーが『第三の波』の中で、情報社会を予測した。彼の予測はほとんど的中し、情報革命によって田舎でも効率よく情報社会での仕事をこなせるようになった。しかし人々の大都市からの脱出は現実にはならなかった。反対に情報革命は、大都市化、メガシティ化を推し進めた。

 横山都市からの脱出はあくまで願望だ。東京への一極集中を激しく批判する建築家と議論したことがある。その人に、今、どこに住んでいるのかと聞くと東京都区内だった。「どこか地方に引っ越しされてから議論しましょう」といったが、このような人たちが結局、最後まで都市に居続けている(笑)。都市には都市特有のアメニティがあるからだ。

 都市づくりには反省すべき点もある。これまで、都市づくりの中で、自然との関係は、うまく処理できなかった。これが、感性豊かな人々に都市からの脱出願望を生じさせたのも当然だろう。

 横山人と自然との関係はある意味では臨界点に達した。人類の過度な開発は、すでに地球というシステムの自己修復能力を超えはじめているようだ。新型コロナウイルスパンデミックには、そうした背景がある。ウイルスも細菌も媒介動物も然りで、昔は一カ所にのみ生存していたのが、分布図が広がった。人の居住範囲が広がりすぎたことも影響しているだろう。その結果としての環境破壊は地球の生態バランスを壊した。

 陸でも海でも異変は起こっている。過度な開発、地球温暖化で、もたらされた。

 横山その通りだ。ウイルスは我々と同じ生命システムの一部であり、撲滅はできない。ワクチンが出来て今回のウイルスを押さえ込み、終息したとしても、今後さらに強いウイルスが出てくる可能性は常にあり、それは昔より広がっていく。インフルエンザも抑え込んだのではない。治療ができるようになり、共存しているというだけだ。一生、徹底的に手に石鹸をつけて洗い続けて行くほかない(笑)。

 最近、オゾンについて研究している。オゾンの濃度は季節によって変わるので、殺菌力をもつオゾンの濃度が高まるにつれ、季節の変化とともにウイルスが一旦終息するだろう。これも一種の地球システムバランスだ。

 ただ、地域によってオゾンの濃度も違う。一番少ないのは赤道付近のアフリカだ。今回のウイルスがアフリカまで蔓延したため、オゾン濃度が薄いアフリカではなかなか収束しないだろう。オゾンが活性化する夏にアジアでいったん終息を見せたとしても、次の冬季にウイルスがアフリカから戻ってくることもありうる。そういう繰り返しになるかもしれない。

 その意味では、ウイルス感染症が地球に与えるダメージに関しての危機感が必要だ。しかし先進国でも世界機関でも長期にわたり感染症の脅威を軽視してきた。

 世界経済フォーラム(WORLD ECONOMIC FORUM)が公表した「グローバルリスク報告書2020(The Global Risks Report 2020)」に並ぶ今後10年に世界で発生する可能性のある十大危機ランキングでも、感染症問題は入っていなかった。また、今後10年で世界に影響を与える十大リスクランキングでは、感染症が最下位だった。

 不幸にして世界経済フォーラムの予測に反し、新型コロナウイルスパンデミックは、人類社会に未曾有の打撃を与えた。

 コロナ禍で、多くの国際都市が被害を受けた。そのためグローバリゼーションや国際都市に対する悲観論が囁かれている。これに対して私が思うのは、ウイルスのパンデミックをもたらしたのは、国際交流や人口密度の多さではない。長期にわたり感染症対策を軽視したことによるものだ。

 横山都市と自然の関係において、考え方を改める必要がある。人は都市の持っている機能とアメニティを捨てる生活を望むことはないだろう。それだけでなく、都市では毎日多くの人が出会い、協力したり、競争したりしながら、事を達成している。もし、分散して住むようなことが起これば人類の持っているエネルギーは段々と衰弱してしまうかもしれない。しかし、多分そういうことは起こらない。今後も都市に人は住み続ける。ただ、今後は新型コロナウイルスの経験を経て格段に賢くなって都市生活を送るだろう。その賢さとは自然に対してもっと素直になることかもしれない。

 「田舎は神がつくり、都市は人間が作った」という人がいる。これには一理あると私は思うが、まったくその通りだとは思わない。

 日本では村落、農地、自然の融合した“里山”がある。里山の生態の多様性が原始の自然に比べて、さらに豊富だ。私の大学ゼミにゲスト講師として来られたNHKのチーフディレクター小野泰洋氏は、「里山は、自然に対する人間の適度な介入がもたらした新しい生態系だ」、という。

 里山は、人間の適度な介入による“人造”と、自然の修復能力という“神がかり”の協働の結果だと、私は考える。

 それに対して、近代都市の建設においては、“人造”の側面が過度に強調され、自然生態との協働が無視された。結果、自然が排除され、都市がコンクリートジャングルとなった。

 横山里山は「適度な介入」という意味で日本的だ。イギリスの自然はもっと人間の手が入っている。しかし、人工的な自然なのだということがわからないように作られている。チャーチルが生まれたマールボロ城(ブレナム宮殿)に行くと、城の背後にホッとする穏やかで綺麗な風景が広がる。昔からあった自然のように見えて、実は3,000人のアイルランド人が連れてこられて人工的に作られた「自然」だ。当然、当時ブルドーザーはなく、スコップとバケツと手押しの一輪車などを使った、大変な労働であったろう。里山を作るのとは比べ物にならない。それだけでなく、自然に対する基本思想が日本とは大きく異なる。

 里山が絶妙なのは、人間の介入と自然回復力の協働で生み出すバランスだ。このバランスは、時に人の想像を超える新しい生態系をつくり出す。ここでのカギは、人工介入の“適度”と“持続”である。近年、農村人口の減少によって、一部の里山が無人化され、自然に戻った。問題は、生物多様性においてこれらの戻った自然が往々にしてそれ以前の里山に比べ、劣ることだ。

 都市の中で自然な空間があることは大切だ。さらに重要なのは、都市の中の自然のあり方だ。自然と人間の絡み合いは欠かせない。例えばいま、北京は周辺部の人々をどかしながら、大規模な緑地を作っている。便宜的に遠いところに緑を植えていて、都市民にとっての憩いにはあまりなっていない。人間のいないところに緑地を広げても面白くない。適切な距離、システムバランスが必要だ。

 横山明治神宮の森は、今から100年前にある構想を持って日本中から集めた木を植えた。いまは自然な景観になっているが、元はそうではなかったのだ。また、皇居には昭和天皇専用の9ホールのゴルフ場があったが、2.26事件の時に反乱兵士の行動に大変怒り、もう二度とゴルフはやらないと天皇は宣言した。そのまま放っておいたら数十年で自然に返った。もはやどこがティーグラウンドでどこがグリーンだったか分からないらしい。そこにトンボもカエルも戻って来た。自然の回復力は驚異的だ。もっとすごいのは、人類が地球から消え、環境破壊を止めると300年程度で緑豊かな地球に戻るらしい。この回復力を理解し、うまく活用したデザインはできると思う。しかし誰もまだやっていない。

 数年前、私は中国江蘇省鎮江市に100万人規模のニューシティのマスタープランを作った。モジュールシティという開発コンセプトを打ち出し、100万人をいくつかのモジュールに分け、モジュールごとに一定の比例で生態空間と人工空間が存在し合うようにして、路面電車でそれらのモジュールをつなげるようにした。

 私の理想は、里山のようなコンセプトを都市の計画に組み入れることだ。

 横山イギリスの田園都市にしろ、オーストラリアの首都キャンベラにしろ、率直にいうと、美しいがなんだかつまらないところだ。なかなか成功したとは言い難い。自然と融合させながら魅力的な場所を作るのは難しい。

3.マスタープランとレアデザイン

 横山グローバリゼーションはやはり何層にもレイヤーが重なった構造になると思う。そのレイヤーをどう定義するかによって、グローバリゼーションの理解に違いが出てくる。例えば、不動産は地域特有で同じものは2つとないが、不動産ベースの金融はグローバルな商品が組み立てうる。その悪い例がアメリカのサブプライム・ローンから始まった世界のリーマンショックだろう。

 サプライチェーンもレイヤーの1つであるし、一方、目に見えない文化のレイヤーもある。都市もマルチレイヤーで出来上がっていて、交通システム、通信、エネルギー供給などのレイヤーのもあるし、食やファッション、芸能など文化のレイヤーも大切。ニューヨークと東京は同じ国際都市だが、生活の違いはあって、個々のレイヤーを見ると違う。都市をレイヤーの重層的集合としてデザインするのが良いのは明らかだが、しかし、そのレイヤーをすべてデザインすることは現実的に不可能だ。

 より大切なのはレイヤーデザインの前のマスタープランだ。

 横山そのために、マスタープランとは何か、の議論を再度する必要がある。伝統的なマスタープランはフィジカルなものが大半であったが、いまやそうではない。街を碁盤の目にするとか五角形にすることを考えることではない。

 デザインの観点で言うと、フィジカルな上水システムや下水システムがある。エネルギー供給はノンフィジカルな側面も重要になっていくかもしれない。文化はフィジカルとノンフィジカル、ヴィジブルとノンヴィジブルなシステムの混合だ。これらのマルチレイヤーを全部デザインするのは、人間の能力ではできないが、今ある都市の中で、いくつかのレイヤーを強化しようという考え方がある。システム間の関係や境界条件は調整しなくていい。都市は自己調整能力を持っているからだ。

 マスタープランは、むしろ思想的、戦略的、コンセプト的なものにしなければならない。

 近年、中国の都市建設を見ると、“新城”あるいは“新区”といった新しい都市エリアをつくりたがる傾向が強い。本来は既存の都市の上にレアの修正を重ねていくべきだったが、これら新区は自然も既存の都市も否定するやり方で展開している。結果、都市はうまく機能せず、生活者も不便さに苦しみ、幸せ感を得られない。

 今までの都市を否定するのでなく、その上にレアの修正を重ねることだ。

 横山そうだ。レアに微調整していく都市デザインはあると思う。

 深圳というのは40年で、村から1,000万人を超えるメガシティに成長した都市だ。日本の同僚を深圳に連れて行くとすぐ帰りたがる。ビルを見るだけではつまらないという。歴史ある広州に連れていくと、口をそろえて魅力的だと言う。

 横山新宿副都心も同様だと思う。魅力を感じない。自律的に展開させてもらえない町だ。広場があっても屋台が出せない。1970年代初頭の学生の暴動に影響されたこともあるが、群衆が集まらないように、都市空間の活用に多くの規制が実施された結果だ。

 文化と生態は同様に、自分で進化し、自分で繁栄する力がある。これを理解し、容認し、誘導していくことが大事だ。

 友人の著名なイタリア人建築家マリオ・ベリーニは私に良いことを言った。「都市は作ろうとして作れるものではなく、壊そうとして壊せるものでもない、都市の背後に文化的なアイデンティティをもつ人々がいるからだ」と。

4. サービス業と交流経済

 日本のサービス業の生産性は低いといわれるが、私はこれこそ日本のサービス業の魅力だと思う。日本ではサービス業、特に飲食や小売で、顧客とのコミュニケーションが多い。このようなコミュニケーションは、標準化、効率化することができない。顧客はこうしたコミュニケーションを楽しんでいる。当然、顧客との交流を通じて、サービスの品質も向上していく。

 横山高級寿司屋に行くのと同じだ。寿司の美味しさはもちろん、寿司屋のオヤジとの会話も大事な楽しみだ。いや、高級寿司屋だけでなく、行きつけのカウンター割烹や小料理屋も同じだ。店主や女将を入れた賑わいも店の魅力でもある。

 勤務先の大学のとある名物大先生が、ある日突然私に「たいへんなことが起こったよ」と言ってきた。学内で政変でも起こったかと聞いてみたところ、行きつけの小料理屋のママが店を畳んだと(笑)。

 ひと昔前、商圏の優劣を評価するときに、チェーン店の数はポジティブなチェックポイントだった。いまや私から見ると、むしろネガティヴなチェックポイントになった。やはり、オーナーや店長が采配を振るうような店がより評価される。こうした店が顧客とのコミュニケーションをより重視し、個性的で面白い。

 私の住んでいる吉祥寺は、日本では住んでみたい街ランキングで常に上位を占める。その評価を詳しく見ると、最も高い評価を得ているのは、商業集積だ。吉祥寺には個人経営の店が多い。最近若者のオーナーも増えていろいろ面白い店が展開されている。個人経営が多いこともあり、吉祥寺の店舗の平均面積は東京の平均のそれより狭い。ただし、商業面積の単位当たりの売り上げは高く、ディズニーランドのそれを超えている。

 日本には400社以上のスーパーがある。地域スーパーが頑張っている。スーパー最大手のイオンさえ、47都道府県の中でシェアがトップになった地域は僅かだ。これをネガティヴに捉える研究者が多い。私は、むしろポジティブに評価したい。地域のニーズを敏感に取り入れ、地域の物産を活かした地域スーパーが日本の地域経済、地域文化そしてコミュニティを保っている面が大きい。

 その意味では、サービス業の将来は、標準化路線よりは個性化路線、コミュニケーション路線をめざすべきではないか。

 横山面白い例にエブリーという広島のローカルスーパーがある。地域の早起きの高齢者に早朝、キャベツ畑にアルバイトに来てもらう。6時から収穫し、8時にエブリーのトラックが来て積んで帰り、10時には店頭に並んで12時には売り切れる。

 東京は世界でミシュランの星付きレストランが最も多い都市だ。これらのレストランは和食だけでなく各国料理を提供している。和食も多様な種類があり、店主のこだわりを反映してかほとんど個性的だ。

 雲河都市研究院が発表した“飲食・ホテル輻射力2018”の中でトップ10都市は、上海、北京、成都、広州、深圳、杭州、蘇州、三亜、西安、廈門である。この10都市の合計五つ星ホテル数や国際トップクラスレストラン数はそれぞれ中国の36%、77%を占めている。

 面白いことに、私たちがIT産業輻射力と、飲食・ホテル輻射力との相関関係を分析したところ、両者の相関関係指数は0.9にも達し、いわゆる「完全相関」だと分かった。要するに、交流経済の典型としてのIT産業の皆さんは、収入が高く、美味しいものが大好きだということになる。もちろん、食事も大切な交流の場だ。中国ではIT産業が強いところは、全部美食の街だ。日本でIT産業がダントツに強い東京もしかり。

 これに対して、製造業輻射力と、飲食・ホテル輻射力との相関関係指数は0.68しかなかった。IT産業に比べて、製造業の皆さんの美食へのこだわりは、少々弱いかな(笑)。

写真:北京の人民大会堂で行われた「国際健康フォーラム」にて、横山禎徳(左一)、周牧之(左二)


「中国網日本語版(チャイナネット)」2020年7月7日

【レポート】周牧之:中心都市から見た長江経済ベルトの発展

周牧之 東京経済大学教授

要旨:中国の「長江経済ベルト」は、「一帯一路」、「京津冀(北京市、天津市、河北省)一体化」とともに習近平政権が進める「三大国家戦略」のひとつである。中国の東部・中部・西部を貫く長江経済ベルトは、国土の21.4%を占め、人口と域内総生産はいずれも中国の40%を超えている。

本稿では、規模の巨大さ故に実態が見えにくい長江経済ベルトの現状と課題を、「中国中心都市&都市圏発展指数」で分析する。


1.長江経済ベルト政策のフレームワーク

 「長江経済ベルト」とは、長江流域に位置する上海市、江蘇省、浙江省、安徽省、江西省、湖北省、湖南省、重慶市、四川省、雲南省、貴州省の9省2直轄市をカバーする巨大経済圏である。

 中国国家発展和改革委員会(以下、発改委)地区経済司が2016年9月に公布した「長江経済ベルト発展計画要綱」では、「一軸、三極、多点」を計画のフレームワークとし、「一軸」を長江、「三極」を長江デルタ・成渝・長江中游の三つのメガロポリス、「多点」を上海、武漢、成都など12の中心都市と定めた(図1)。

出所:雲河都市研究院作成。

図1 長江経済ベルトとその中心都市

2.メガロポリス、中心都市、都市圏政策

 本誌2017年7月号の小稿「長江経済ベルト発展戦略」では、「三極」である長江デルタ・成渝・長江中游の三つメガロポリスの視点で分析した。今回は「多点」である中心都市の視点から長江経済ベルトを分析する。

 中国では現在、都市化を経済社会発展の要に据え、メガロポリスを都市化の基本形態としている。発改委は2019年2月、「現代化都市圏の育成と発展に関する指導意見」を発表した。同意見では、新型都市化推進の重要な手段として、中心都市をコアにした都市圏建設を唱えた。

 また、習近平国家主席は2019年8月、党中央財経委員会で経済発展における中心都市とメガロポリスの重要性に言及し、それらを中国経済発展のエンジンとすると述べた。中国では中心都市をコアに都市圏を形成し、都市圏をコアにメガロポリスを構築して社会経済を発展させる都市政策が国是となった。

 中国での中心都市とは、4つの直轄市(北京市、天津市、上海市、重慶市)、27の省都・自治区首府(石家荘市、太原市、フフホト市、瀋陽市、長春市、ハルビン市、南京市、杭州市、合肥市、福州市、南昌市、済南市、鄭州市、武漢市、長沙市、広州市、南寧市、海口市、成都市、貴陽市、昆明市、ラサ市、西安市、蘭州市、西寧市、銀川市、ウルムチ市)、5つの計画単列市[1](大連市、青島市、寧波市、廈門市、深圳市)の計36都市を指す。

 長江経済ベルトには、上海市と重慶市の2つの直轄市、南京市、杭州市、合肥市、南昌市、武漢市、長沙市、成都市、貴陽市、昆明市の9省都、さらに計画単列市の寧波市の、12の中心都市がある。

3.「中国中心都市&都市圏発展指数」とは

 現在、世界規模で大都市化、メガシティ化が進んでいる。その本質は、中心都市間の国際競争にある。中心都市は、地域的、国家的かつ世界的なセンター機能の強化により人材、資本、企業の吸引力を高め、競い合っている。中心都市こそ地域、国家の発展を牽引するエンジンである。従って、中心都市のセンター機能を正確に評価することが極めて重要である。

 雲河都市研究院は2017年、発改委発展計画司から中心都市および都市圏を定量的に評価するシステムの構築を依頼された。筆者を中心とする専門家チームは、中国都市総合発展指標[2]を基礎に中国中心都市&都市圏発展指数(以下、CCCI)を研究開発した。都市圏の主要なセンター機能を評価する手法を確立し、同評価を2017年度、2018年度の2回発表した。

 CCCIは中国都市総合発展指標の中で、センター機能評価に関連する指標を抽出し、新たに「都市地位」「都市実力」「輻射能力」「広域中枢機能」「開放交流」「ビジネス環境」「イノベーション・起業」「生態環境」「生活品質」「文化教育」の10大項目に組み直した。また同10大項目ごとに3つの小項目を置き、各小項目指標を複数の指標データで支え、中心都市と都市圏を評価する指標体系を構築した(図2)。

出所:周牧之・陳亜群・徐林主編、中国国家発展和改革委員会発展計画司・雲河都市研究院『環境・社会・経済 中国都市ランキング2017』(NTT出版社、2018年)。

図2 中国中心都市&都市圏発展指数構造図

4.CCCI 2018からみた長江経済ベルト

 今回、CCCI2018年度版のデータを活用し、中心都市の視点から長江経済ベルトを分析する。

 (1) CCCI2018総合ランキングでみる長江経済ベルトの中心都市

 CCCI2018の総合ランキングで、上位20位以内に長江経済ベルトから上海市(第2位)、成都市(第6位)、杭州市(第7位)、重慶市(第8位)、南京市(第9位)、武漢市(第10位)、寧波市(第13位)、長沙市(第16位)の8都市がランクインし、長江経済ベルトにおける強力な中心都市の存在を示した。特に上海市は長江経済ベルトという龍の“頭”として他市をリードしている。

 一方、合肥市(第22位)、昆明市(第24位)、貴陽市(第29位)、南昌市(第30位)は低い順位に甘んじている。これら都市の牽引力向上が長江経済ベルト全体の発展上の課題となっている(図3)。

出所:CCCI2018より雲河都市研究院作成。

図3 中国中心都市&都市圏発展指数総合ランキング

(2) 10大項目でみる長江経済ベルト中心都市

 図4は10大項目における中心都市の順位と偏差値を表している。本稿では、特に「輻射力」、「広域中枢機能」、「生態資源環境」の三大項目について分析した。

出所:CCCI2018より雲河都市研究院作成。

図4 10大項目12中心都市ランキング・レーダーチャート

①【輻射力】大項目

 中心都市の役割は、周辺ひいては全国に向け輻射力[1]を持つことにある。都市の輻射能力は中心都市評価の一つの鍵となる。「輻射能力」大項目は、中心都市が全国に及ぼす輻射能力の強弱を測る。

 「輻射能力」全国ランキングのトップ10都市には、長江経済ベルトから上海市(第2位)、成都市(第4位)、杭州市(第6位)、南京市(第7位)、武漢市(第9位)の5中心都市がランクインした。

 「製造業輻射力」では、上海は北京に次ぐ第2位。全国上位20位以内に上海を含め、寧波市(第7位)、杭州市(第9位)、成都市(第15位)が長江経済ベルトからランクインした。中国の輸出工業は長江経済ベルトに最も集中し、長江経済ベルトが中国全土に占める工業総産出額、貨物輸出額の割合は各々43.4%と42.4%に達している。

 長江経済ベルトの「IT産業輻射力」はさらに高い。全国ランキングトップ30都市には寧波市以外の11中心都市が入り、上海市(第2位)、成都市(第4位)、杭州市(第5位)、南京市(第6位)、重慶市(第11位)、長沙市(第16位)、貴陽市(第17位)、合肥市(第21位)、昆明市(第23位)、南昌市(第26位)、武漢市(第27位)だった。メインボードに上場するIT企業の30.8%が長江経済ベルトにあり、うち88.9%の企業が同12中心都市内に立地する。

 「科学技術輻射力」も優れ、全国上位20都市に長江経済ベルトから9中心都市がランクインしている。長江経済ベルトの中国全土に占めるR&D内部経費支出、R&D要員、特許取得数は、各々44.6%、46%、50.9%である。

②【広域中枢機能】大項目

 「広域中枢機能」は都市の水運、陸運、空運のインフラ水準、輸送量を測る大項目である。

 「広域中枢機能」全国ランキングのトップ20都市には、長江経済ベルトから9中心都市がランクインし、上海市(第1位)、寧波市(第6位)、武漢市(第8位)、成都市(第10位)、重慶市(第11位)、南京市(第12位)、杭州市(第13位)、昆明市(第19位)、長沙市(第20位)と続く。

 港湾機能では、2018年の世界のコンテナ港上位10位のうち、中国が7港を占め、第1位の上海と第3位の寧波−舟山が長江経済ベルトに属している。     水運貨物取扱量では、長江経済ベルトの中国全土に占める割合が67%と突出し、12中心都市の中国全土に占める割合も13.9%である。

 空港機能も長江経済ベルトは好成績を上げている。「空港利便性」では、全国上位20位以内に上海市を筆頭に成都市(第5位)、昆明市(第6位)、重慶市(第7位)、杭州市(第8位)、南京市(第12位)、武漢市(第16位)、長沙市(第18位)、貴陽市(第19位)と、同12中心都市中9都市が含まれた。 空港乗降客数と郵便貨物取扱量では、長江経済ベルトが中国全土に占める割合は各々41.6%と47.4%で、同12中心都市が中国全土に占める割合は各々35.8%、45.3%と、集中集約が進んでいる。

③【生態資源環境】大項目

 都市にとって生態環境の品質や資源利用の効率はますます重要になっている。「生態資源環境」全国ランキングのトップ20都市には、長江経済ベルトから7中心都市が入り、上海市(第1位)、重慶市(第6位)、杭州市(第10位)、成都市(第11位)、武漢市(第12位)、南京市(第13位)、長沙市(第18位)となった。

 急速な工業化と都市化により、中国では大気質が悪化している。大気質の状況を測るPM2.5指数では、2017年度の中国全土の平均は66μg/m3だったが、長江経済ベルトの平均値は73.5μg/m3と全国平均を上回った。一方、同12中心都市の平均値は66.4μg/m3とほぼ全国平均と同水準であったが、ランキングでは昆明市(第42位)、貴陽市(第92位)、上海市(第102位)、南昌市(第125位)、杭州市(第173位)、南京市(第202位)、重慶市(第213位)、長沙市(第237位)、合肥市(第247位)、成都市(第249位)、武漢市(第257位)と順位が低い。

5.課題と展望

  巨大な長江経済ベルトをリアリティのあるデータで相対化すれば、実像が浮かび上がる。12の中心都市のパフォーマンスには凹凸があり、上海市の突出ぶりはすさまじい。長江経済ベルトは、工場経済から都市経済への移行をさらに加速していく。重要なのは、サービス型経済の発展と、都市生活の質の向上や経済活動の効率化であり、ベルト内のエリアや都市ごとの役割分担の明確化である。また、それを丁寧にモニタリングすることである。以上を命題に開発したCCCI、および中国都市総合発展指標で、筆者及び雲河都市研究院は中国都市発展を今後も続けて注視する。


本論文では雲河都市研究院の栗本賢一、数野純哉両氏がデータ整理と図表作成に携わった。


[1] 計画単列市は、日本の政令指定都市に相当する。

[2] 「中国都市総合発展指標」とは、中国国家発展改革委員会発展計画司と雲河都市研究院が、環境、社会、経済という三つの軸で都市を包括的に評価するシステムを協力して開発したものである。詳しくは、2018年9月号小稿および当該指標についての特設WEBページhttps://cici-index.com/ を参考。2016年度と2017年度の「中国都市総合発展指標」は日本語版がNTT出版より刊行された。

[3] 本指標で使用する「輻射力」とは、広域影響力の評価指標であり、都市のある業種の周辺へのサービス移出・移入量を、当該業種従業者数と全国の当該業種従業者数の関係、および当該業種に関連する主なデータを用いて複合的に計算した指標である。


『日中経協ジャーナル』2020年1月号(通巻312号)掲載

【レポート】周牧之:コロナショックでグローバルサプライチェーンは何処へいく? 〜中国都市製造業輻射力2019〜

周牧之 東京経済大学教授

編集ノート:中国で最強の製造業力をもった都市が、新型コロナウイルスショックで大打撃を受けた。これらの都市の2020年第一四半期の地方税収は、軒並みマイナスに陥った。伝統的な輸出工業の発展モデルはどのような限界に当たったのか?製造業そしてグローバルサプライチェーンはどこに向かうのか?雲河都市研究院が「中国都市製造業輻射力2019」を発表するにあたり、周牧之東京経済大学教授が上記の問題について分析し、展望した。


「中国都市製造業輻射力2019」で深圳が首位、蘇州第2位、東莞第3位


 中国都市総合発展指標に基づき、雲河都市研究院は中国全297地級市(地区級市)以上の都市をカバーする「中国都市製造業輻射力2019」を公表した。輻射力とは広域影響力の評価指標である。製造業輻射力は都市における工業製品の移出と輸出そして、製造業の従業者数を評価したものである。

 深圳、蘇州、東莞、上海、仏山、寧波、広州、成都、無錫、廈門が「中国都市製造業輻射力2019」トップ10入りを果たした。珠江デルタ、長江デルタ両メガロポリスから各々4都市がトップ10に入った。これらの都市は成都を除き、すべて大型コンテナ港を利用できる立地優位性を誇る。10都市の貨物輸出総額は中国全土の47.4%を占めた。

 恵州、杭州、北京、中山、青島、天津、珠海、泉州、嘉興、南京が第11位〜20位にランクインした。鄭州、金華、煙台、南通、西安、常州、大連、紹興、福州、台州が第21位~30位だった。

 トップ30都市の貨物輸出総額は中国全土の74%にも達した。すなわち、製造業輻射力の上位10%の都市が中国の4分の3の貨物輸出を担っている。これらの都市の中で、成都、北京、鄭州、西安の4都市を除いた全都市が沿海部、沿江(長江)部都市であることから、コンテナ港の利便性が輸出工業にとって極めて重要であることが見て取れる。

 輸出工業とコンテナ輸送は相互補完で発展している。中国全297地級市(地区級市)以上の都市の製造業輻射力とコンテナ港の利便性とを相関分析すると、その相関係数は0.7に達し、いわゆる“強相関”関係にある。2018年、中国港湾の海上コンテナ取扱量は、世界の総額の28.5%にも達し、中国は世界のコンテナ港ランキングトップ10に6席をも占めている。

 三大メガロポリスの視点から見ると、京津冀、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスが中国全土の貨物輸出総額に占める割合は、それぞれ6%、36.3%、24.5%となっている。三大メガロポリスの合計が全国の66.9%を占めている。三大メガロポリスでもとりわけ、長江デルタ、珠江デルタは中国輸出工業発展のエンジンである。

図:「中国都市製造業輻射力2019」ランキングトップ30位都市

新型コロナウイルスパンデミックが輸出工業に打撃


 2019年に米中貿易摩擦がエスカレートし、グローバルサプライチェーンにとって極めて難儀な一年となった。米中関税合戦の圧力を受けながら、中国の貨物輸出総額は5%(中国税関統計、人民元ベース)成長を実現した。これは、中国輸出工業の発展を牽引する製造業輻射力ランキング上位都市の努力の賜物である。

 しかしながら2020年に入ると、新型コロナウイルスが全世界を席巻し、グローバルサプライチェーンはさらなる大打撃を被った。中国の輸出工業はコロナ休業、海外ニーズの激減、サプライチェーンの寸断など多重な被害を受けることとなった。

 2020年第一四半期、地方の一般公共予算収入から見ると、「中国都市製造業輻射力2019」ランキングトップ10位都市は、軒並みマイナス成長となった。とくに、深圳、東莞、上海、仏山、成都、廈門の6都市の同マイナス成長は二桁にもなった。世界に名だたる製造業都市の大幅な税収低迷は、中国の輸出工業が大きな試練に晒されていることを意味している。

グローバルサプライチェーンが中国輸出工業の大発展をもたらした


 中国輸出工業は製造業サプライチェーンのグローバル化の恩恵を受けて発展した。筆者は20年前、サプライチェーンのグローバル化が、中国の珠江デルタ、長江デルタ、京津冀で新型の産業集積を形成すると予測した。さらに、これらの産業集積をてこに、珠江デルタ、長江デルタ、京津冀地域にメガロポリスが形成されると予想した。今日、これらはことごとく現実となり、三大メガロポリスは、中国の社会経済発展を牽引している。

 従来の工業生産は、大企業であるセットメーカーと部品メーカーとの間にすり合わせなどの暗黙知を軸とした信頼関係が必要とされた。資本提携や人員派遣、長期取引などによって系列関係、あるいはそれに近い関係がつくられてきた。それは、大企業を頂点とし、一次部品メーカー、二次部品メーカーなどで構成されるピラミッド型の緊密な協力システムである。ゆえにその時期の製造業のサプライチェーンは一国の中、あるいは地域の中に留まる傾向が強かった。

 IT革命は、標準化、デジタル化をもって取引における暗黙知の比重を大幅に減少させ、企業間の情報のやりとりに関わる時間とコストも大幅に削減させた。また、モジュール生産方式によるデザインルールの公開で、世界中の企業がサプライチェーンにおける競争に参入できるようになった。よって、サプライチェーンは暗黙知による束縛から解放され、グローバル的な展開を可能とした。サプライチェーンにおける企業関係も、従来の緊密的なピラミッド型から、柔軟につながり合うネットワーク型に変貌した。このような変革は、発展途上国に工業活動への参入の大きなチャンスを与えた。

 サプライチェーンのグローバル化の時期は、中国の改革開放期と幸運にも重なり、中国は大きな恩恵を受けた。サプライチェーンのグローバル化を推し進めた三大原動力は、IT革命、輸送革命、そして冷戦後の安定した世界秩序がもたらした安全感である。

 グローバルサプライチェーンは西側の工業国における労働分配率の高止まりの局面を打破し、世界の富の創造と分配のメカニズムを大きく変えた。

 当然、中国をはじめとする発展途上国の参入によって、工業製品の価格は大幅に下がった。このような暗黙知を最小化したグローバルサプライチェーンは、典型的な交易経済である。

 中国経済大発展の基盤を築いたのは、グローバルサプライチェーンである。これに鑑み、2007年に出版した拙著「中国経済論」において、筆者は第1章を丸ごと使い、中国経済発展とグローバルサプライチェーンの関係について論じた。

 中国40年の改革開放は、WTO加盟を境に二つの段階に分けられる。第一段階は、計画経済制度の改革を中心とし、また西側の国際市場への進出にも努力を重ねた。2001年のWTO加盟で中国はついに国際自由貿易体制に入り、国際市場への大門が開かれた。よって第二段階では、中国改革開放と世界市場の結合で、大きなエネルギーが爆発した。中国は一瞬にして「世界の工場」となり、2009年に世界一の輸出大国に躍り上った。第一段階の艱難辛苦と比べると、WTO加盟後の中国は大発展を遂げた。強力な輸出工業に牽引され、中国の多くの都市が著しい発展を見せた。

 2000年〜2019年、ドイツ、アメリカの輸出はそれぞれ、1.7倍、1.1倍成長した。フランス、イギリス、日本は各々0.7倍、0.6倍、0.5倍成長した。同時期に世界の輸出総額は1.9倍成長したのと比べ、これらの工業国の輸出成長率は、世界の平均以下に留まった。これと比べて、2000年に2,492億ドルしかなかった中国の輸出総額は、2019年には24,990億ドルに達し、10倍規模に膨れ上がった。2000年に世界輸出総額に占める割合が3.9%しかなかった中国のシェアも、2019年には同13.2%に急上昇し、世界のトップの座を不動のものとした。

 改革開放が解き放った活力とWTO加盟は、中国に巨大な国際貿易の利をもたらした。

輸出工業の伝統的発展モデルの限界


 中国輸出工業の成長は、その速度も規模も極めて高速であった。結果、非凡の成果を上げたと同時にアメリカをはじめとする一部の国との間に、巨大な規模の構造的貿易不均衡が生じた。西側諸国での産業空洞化も中国輸出工業の驚異的な発展の結果だと考えられる。アメリカのトランプ大統領の当選は、ある意味、アメリカの産業空洞化の圧力によるものである。これらが、トランプ政権下での米中貿易戦争勃発の背景とも言えよう。

 急に巨大化した中国の存在感も、多くの国の神経を敏感にした。例えば知的財産権の問題は、いまや米中貿易摩擦の大きな焦点のひとつとなっている。また、サプライチェーンの中国へ過度な依存を避けるため、日本は10年ほど前から「チャイナプラス1」政策を進め、自国企業に中国以外の国や地域へのサプライチェーン構築を促した。さらに、日本政府は2020年度の補正予算に生産拠点の国内回帰を促す補助金として2200億円を計上し、その姿勢を鮮明化させている。

 中国の労働力、土地、環境、税収などのコストの上昇も無視できなくなった。労働力コストを例にとり、「中国都市製造業輻射力2019」ランキングトップ10都市の2000年から2018年までの平均賃金の変化を見ると、上海の平均賃金は9.3倍に、成都、蘇州、無錫はそれぞれ8.5倍、8倍、7.5倍に、寧波、仏山、広州、廈門、東莞はそれぞれ6.6倍、6倍、6.3倍、5.7倍、5.6倍、5.1倍に跳ね上がった。2000年の時点ですでに比較的高かった深圳の平均賃金も、4.8倍になった。上記の分析から、中国における労働力コストの上昇がいかに激しかったかが見て取れる。

 グローバルサプライチェーンの中で、中国の労働力の低コストの優位性はもはや失われた。

 これらの理由により、中国輸出工業の伝統的発展モデルはすでに限界に達し、製造業は新しい次元へと進化を余儀なくされた。

交流経済へと進化する製造業


 アメリカの進める自国企業を中国から呼び戻す政策が、いま世論の焦点となっている。しかし、筆者はトランプ大統領の推し進めるこの政策が無くても、製造業の一部がアメリカへと回帰することは必然であると考える。

 まず中国の生産コストの上昇に伴い、利幅の薄い一部の製造業が中国から離れることは不可避である。

 中国がより重視すべきなのは先端製造業の先進国への回帰である。時代の変化の中で、低価格を求めてきた消費者はいま、感性、個性、そして生産者とのコミュニケーションをより重視しつつある。これを可能とした大きな背景には、工業生産のモジュール化が新たな段階に入ったことがある。

 発展途上国の新工業化の前提は、本質的にいえば、モジュール生産方式により非熟練労働者が組み立てなどの工業活動に参加できるようになったことである。これは製造業サプライチェーンのグローバル化の基礎である。しかし今や、モジュール化はすでに個性的なデザインと重なり合い、多品種少量生産を実現できるように進化した。モジュール化の基礎の上で生産者と消費者はコミュニケーションを通じて、よりデザイン性と個性にあふれた製品を生み出すことを可能とした。

 未来の製造業を想像すると、一方では半導体やセンサーなどのハイテクなモジュールやディバイスがこれまで同様、グローバル的に供給される。日米の企業は現在、これらの分野で高い優位性を誇っている。 

 他方、一部の最終製品生産者は、これらのモジュールやディバイスをベースにユーザーとコミュニケーションを重ね、個性のある商品を提供するように進化する。暗黙知を最小化してきた旧来のグローバルサプライチェーンは、ここにきてコミュニケーションを重視する方向へ付加価値を高めるようにシフトしている。これは先端製造業の交易経済から交流経済への転換である。

 このような交流経済へ進化する先端製造業と消費者との動線は、極めて短く、可視化できるものとなるだろう。

 その意味では、目下製造業の先進国への回帰は、その一部分は消費者へより近づく市場への回帰だと言えよう。製造業最終製品の生産はますます個性化、ローカル化が進むだろう。トランプ大統領の呼び戻し政策がなくても新型コロナウイルスショックがなくても、こうした製造業の回帰は起こる。これは、製造業が交易経済から交流経済へと進化する流れの一環である。

 従って、中国の製造業もこれをしっかり認識し、製造業の交流経済化の潮流をつかみ、進化への努力をすべきである。幸いにして、「中国都市製造業輻射力」のトップ都市はすでに製造業の強力な基盤を持ち、それ自身がメガロポリスのような巨大な市場に身を置いている。市場とのコミュニケーションを強化し、製造業の交流経済化の中で道を拓き、新たな奇跡を築くことが可能となろう。


「中国網日本語版(チャイナネット)」2020年5月19日

【レポート】新型コロナパンデミック:なぜ大都市医療能力はこれほど脆弱に?

周牧之 東京経済大学教授

編集ノート:豊かな医療リソースを持つ大都市が、なぜ新型コロナウイルスにより一瞬で医療崩壊に陥ったのか?グローバリゼーションそして国際大都市の行方は?雲河都市研究院による「中国都市医療輻射力2019」が発表されるにあたり、周牧之教授が解析と展望を寄せた。


中国都市医療輻射力2019

 〈中国都市総合発展指標に基づき 雲河都市研究院が中国全国297の地級市以上の都市を網羅した「中国都市医療輻射力2019」を発表した。北京、上海、広州、成都、杭州、武漢、済南、鄭州、南京、太原が同輻射力の上位10都市にランクインした。天津、瀋陽、長沙、西安、昆明、青島、南寧、長春、重慶、石家庄が第11位から20位、ウルムチ、深圳、大連、福州、蘭州、南昌、貴陽、蘇州、寧波、温州が第21位から30位を占めた。

 輻射力とは広域影響力の評価指標である。医療輻射力に富むとして評価されたのは都市の医師数と三甲病院(トップクラス病院)数である。輻射力ランキング上位30位の都市に全国の15%の医師、30%の病床と45%の三甲病院が集中している。中国の医療リソース、とりわけ先端医療機関が、医療輻射力ランキング上位都市に集中している状況が顕著である。ランキングの前列にある都市は良質な医師と一流の医療機関に支えられ、市民の衛生と健康を担うだけでなく、周辺地域あるいは全国の患者に先端医療サービスを提供している。

 疑問なのは、なぜ武漢のような医療リソースが豊富で医療輻射力に富んだランキング上位都市が、突如として現れた新型コロナウイルスにしてやられ、医療崩壊状態に陥ったのか、である。

 都市は繰り返し起こり得る流行疾患の襲来に、どう対処していくべきか?

新型コロナウイルスが世界の都市医療能力に試練を

 武漢は新型コロナウイルスの試練に世界で最初に向き合った都市であった。武漢は27カ所の三甲病院を持ち、医師約4万人、看護師5.4万人と医療機関病床9.5万床を擁する名実ともに「中国都市医療輻射力2019」全国ランキング第6位の都市である(2018年同ランキング第7位から1位上昇)。

 しかしながら、武漢のこの豊富な医療能力が新型コロナウイルスの打撃により、一瞬で崩壊した。

 国際都市ニューヨークの医療キャパシティも同様、新型コロナウイルスに瞬く間に潰された。4月8日に「緊急事態宣言」をした東京都も目下、医療システムの崩壊の危機に直面している。新型コロナウイルスはまさに全世界の都市医療能力を崩壊の危機に晒している。

 新型コロナウイルス禍による都市の「医療崩壊」は、以下の三大原因によって引き起こされた。

 (1)医療現場がパニックに

 新型コロナウイルス禍のひとつの特徴は、感染者数の爆発的な増大だ。とりわけオーバーシュートで猛烈に増えた感染者数と社会的恐怖感により、大勢の感染者や感染を疑う人々が医療機関に駆け込み、検査と治療を求めて溢れかえった。

 病院の処置能力を遥かに超えた人々の殺到で医療現場は混乱に陥り、医療リソースを重症患者への救済にうまく振り向けられなくなった。医療救援活動のキャパシティと効率に影響を及ぼし、致死率上昇の主原因となってしまった。さらに重大なことに、殺到した患者、擬似患者、甚だしきはその家族が長期にわたり病院の密閉空間に閉じ込められ、院内感染という大災害を引き起こした。

 1千人あたりの医師数でみると、イタリアは4人で、医療の人的リソースは国際的に比較的高い水準に達している。しかし新型コロナウイルスのオーバーシュートで医療機関への駆け込みが相次ぎ、医療崩壊を招いた。イタリアのミラノ市にあるロンバルディア州の感染者数は3月2日に1千人を突破、同14日に10倍の1万人へ、3月末には4万人、5月上旬には8万人へと膨れ上がり、大勢の重症患者が逸早く有効な治療を受けられないまま置かれた。5月11日現在、イタリアの感染者は21.9万人、死者数は3.1万人、病死者率(死亡者数/患者数)は13%と高い。

 アメリカ、日本、中国の1千人あたりの医師数は、各々2.6人、2.4人、2人であり、医療の人的リソースはイタリアに比べ、はるかに低い水準にある。

 よくも悪くも中国の医療リソースは中心都市に高度に集中している。武漢は1千人あたりの医師数は4.9人で全国の水準を大きく上回る。武漢と同様、医療の人的リソースが大都市に偏る傾向はアメリカでも顕著だ。ニューヨーク州の1千人あたりの医師数は4.6人にも達している。

 しかし武漢、ニューヨークの豊かな医療リソースをもってしても、新型コロナウイルスのオーバーシュートによる医療崩壊は防ぎきれなかった。5月11日までに、中国の新型コロナウイルス感染死者数の累計83.3%が武漢に集中していた。その多くが医療機関への駆け込みによるパニックの犠牲者だと考えられる。

 東京都は人口1千人あたりの医師数が3.3人で、これは武漢より低く、ニューヨークと同水準にある。日本政府は当初から、医療崩壊防止を新型コロナウイルス対策の最重要事項に置いていた。新型コロナウイルス検査数を厳しく制限し、人々が病院に殺到しないよう促した。

 目下、こうした措置は一定の効果を上げ、院内感染によるウイルス蔓延をある程度抑えた。また重症患者に医療リソースを集中させて致死率を下げ、5月11日現在で死亡率を4%に抑え込んでいる。人口10万人あたりの新型コロナウイルス死者数でみると、5月11日現在、スペインの56.9人、イタリアの50.5人、フランスの40.4人、アメリカの24.4人と比べて日本は0.5人に留まっている。これまでのところ日本は医療機関でのパニックを封じ込め、医療崩壊を防いでいると言えよう。

 しかし、検査数の過度の抑制は、軽症感染者及び無症状感染者の発見と隔離を遅らせ、治療を妨げると同時に、莫大な数の隠れ感染者を生むことに繋がりかねない。軽症感染者、無症状感染者の放置は日本の感染症対策に拭い切れない不穏な影を落としている。緊急事態宣言に伴い、日本も政策を見直しつつあるものの、検査数抑制から検査数拡大への動きはまだ極めて遅い。

(2)医療従事者の大幅減員

 ウイルス感染がもたらした医療従事者の大幅な減員が、新型コロナウイルス禍のもう一つの特徴である。

 ウイルス感染拡大の初期、各国は一様に新型コロナウイルスの性質への認識を欠いていた。マスク、防護服、隔離病棟などの資材不足がこれに重なり、医療従事者は高い感染リスクに晒された。こうした状況下、PCR検体採取、挿管治療など、暴露リスクの高い医療行為への危険性が高まった。これにより各国で現場の医療人員の感染による減員状態が大量に起こった。オーバーシュートで、元より不足していた医療従事者が大幅に減員し危機的状況はさらに深刻化した。

 救護過程のリスクばかりでなく、慶應義塾大学病院の研修医の会食で引き起こされた医療従事者の集団感染とそれに伴う隔離治療は、もともと緊迫していた東京の医療人的リソースに大打撃を与えた。

 国際看護師協会(ICN)が公表した情報によると、5月6日までに報告された30カ国のデータでは、少なくとも9万人の医療従事者が新型コロナウイルスに感染した。個々の状況では、スペインでは5月5日までに、4万3956人(全感染者の18%)の医療従事者が新型コロナウイルスに感染した。イタリアでは、4月26日までに、1万9,942人の医療従事者が感染し、150人の医師と35人の看護師が亡くなった。

 東京では5月11日までに25の医療機関で院内感染が起こった。4月末には、日本での院内感染者は確認された新型コロナウイルス感染者の1割近くにも達した。

 強力な感染力を持つ新型コロナウイルスは、医療従事者の安全を脅かし、医療能力を弱め、都市の医療システムを崩壊の危機に陥れている。

 医療従事者の安全を如何に最優先に守って行くかが、新型コロナウイルス対策の肝心要となっている。

(3)病床不足

 新型コロナウイルス感染拡大後、マスク、防護服、消毒液、PCR検査薬、呼吸器、人工心肺装置(ECMO)などの医療リソースの枯渇状況が各国で起こった。とりわけ深刻なのは病床の著しい不足である。感染力の強い新型コロナウイルスの拡散防止のため、患者は隔離治療しなければならない。とりわけ重症患者は集中治療室( ICU )    での治療が不可欠だが、実際、各国ともに病床の著しい不足に喘いでいる。

 人口1千人あたりの病床数データで見ると、日本は13.1床で世界でも最高水準にある。12万8000病床数を有する東京は、1千人あたりでみると9.3床となる。そんな東京でもいま、病床不足に悩まされている。

 東京と比べイタリアの人口1千人あたりの医師数は若干高いものの、1千人あたりの医療機関病床数では、僅か3.2床でしかない。アメリカの1千人あたりの医療機関病床数は2.8床で、ニューヨーク州はアメリカ全土の平均よりさらに少なく2.6床となっている。病床不足が医療機関の患者収容能力を制約し、新型コロナウイルス患者治療のボトルネックとなっている。

 中国は人口1千人あたりの医療機関病床数が4.3床で、日本の四分の一にすぎないもののイタリアよりは高く、アメリカと同等の水準である。とりわけ9万5,000の病床を持つ武漢市は、1千人あたりの病床数が8.6床と高く、東京の水準に迫っている。しかし、武漢も新型コロナウイルスオーバーシュート期は、深刻な病床不足状態に置かれた。

 特に問題なのは、すべての病床が新型コロナウイルス治療の隔離要求に耐えるものではない点にある。これに、爆発的な患者増大が加わり、病床不足状況が一気に加速した。

 武漢は国の支援で迅速に、専門治療設備の整う火神山病院と雷神山病院という重症患者専門病院を建設し、前者で1,000床、後者で1600床の病床を確保した。このほかに、武漢は体育館を16カ所の軽症者収容病院へと改装し、素早く1万3,000床の抗菌抗ウイルスレベルの高い病床を提供し、軽症患者の分離収容を実現させた。先端医療リソースを重症患者に集中させ、パンデミックの緩和を図った。武漢の火神山、雷神山そして軽症者収容病院建設により、病床不足は解消された。

 日本は病床数不足により一時期、感染患者の在宅隔離を実施していた。こうしたやり方は患者の家族を感染の危険に晒し、家庭内での集団感染を生む可能性がある。また、患者は有効な専門治療を施されず、健康状況の把握がされないまま、病状急変により救援治療が間に合わないこともありうる。

 幸いにして現在、こうした在宅隔離はほぼ改められ、ホテルなどの施設を改修し、軽症患者を収容している。

 東京での更に深刻な問題はICU(集中治療室)の驚くべき不足である。2018年の時点で、日本全国の人口10万人あたりのICU病床数は4.3床でしかない。アメリカの35床、ドイツの30床、フランスの11.6床、イタリアの12.5床、スペインの9.7床に比べても圧倒的に少ない。

 日本国内で最も感染者数を抱える東京都は目下、ICU病床が764床しかなく、人口10万人あたりのICU病床数は5.5床に過ぎない。重症患者を受け入れられるだけの病床数の確保が、医療システムの崩壊を避ける鍵となっている。

 新型コロナウイルス治療用病床の確保のため、各国がとった措置は実に様々であった。アメリカに至っては、海軍の医療船も派遣した。トランプ大統領は3月下旬に医療船マーシー号( USNS Mercy)とコンフォート号(USNS Comfort)をそれぞれロサンゼルスとニューヨークに配備した。各々1千病床を持つ2隻の医療船は、新型コロナウイルス感染者の治療に適していないものの大勢の一般患者を受け入れた。これにより、現地の総合病院ではより多くの病床を新型コロナウイルス治療へと振り当てることにつながった。

 「緊急輸入病院」も一種新しい選択肢となった。新型コロナウイルスオーバーシュートに伴う深刻な病床数逼迫に喘いだ韓国は、中国企業遠大グループから「病院」を丸ごと輸入した。遠大はステンレス製プレハブ建築方式を用いて、韓国にオゾン技術を活用した空気清浄・陰圧化ユニットで構築された「陰圧隔離病棟」を迅速に輸出した。現地では僅か2日間の工程で、施設の使用が可能となった。

地球規模の失敗から地球規模での抗ウイルスへ

 感染症は昔から人類の命を脅かす最大の敵であった。例えば、1347年に勃発したペストで、ヨーロッパでは20年間で2,500万もの命が奪われた。1918年に大流行したスペインかぜによる死者数は世界で2,500万〜4,000万人にも上ったとされる。

 100年余りにわたる抗菌薬とワクチンの開発及び普及により、天然痘、小児麻痺、麻疹、風疹、おたふく風邪、流感、百日咳、ジフテリアなど人類の健康と生命を脅かし続けた感染症の大半は絶滅あるいは制御できるようになった。1950年代以降、先進国では肺炎、胃腸炎、肝炎、結核、インフルエンザなどの感染疾病による死亡者数を急激に減少させ、癌、心脳血管疾患、高血圧、糖尿病など慢性疾患が主要な死因となった。

 感染症の予防と治療で勝利を収めたことで、人類の平均寿命が伸び、主な死因も交代した。世界とりわけ先進国の医療システムの焦点は、感染症から慢性疾患へと向かった。その結果、各国は目下感染症予防と治療へのリソース投入を過少にし、同時に現存する医療リソースを主として慢性疾患に傾斜するという構造的な問題を生じさせた。医療従事者の専門性から、医療設備の配置、そして医療体制そのものまで新型ウイルス疾患の勃発に即座に対応できる態勢を整えてこなかった。

 よって、新型ウイルスとの闘いにおいて、武漢、ニューヨーク、ミラノといった巨大な医療リソースを持つ大都市は対策が追いつかず悲惨な代償を払うことになってしまった。

 ビル・ゲイツは早くも2015年には、ウイルス感染症への投資が少な過ぎる故に世界規模の失敗を引き起こす、と警告を発していた。新型コロナウイルス禍は不幸にしてビル・ゲイツの予言を的中させた。

全土支援から世界支援へ

 武漢の医療従事者大幅減員に鑑み、中国は全国から大勢の医療従事者を救援部隊として武漢へ素早く送り込んだ。武漢への救援医療従事者は最終的に4万2,000人に達した。この措置が武漢の医療崩壊の食い止めに繋がった。感染地域に迅速かつ有効な救援活動を施せるか否かが、新型ウイルスへの勝利を占う一つの鍵である。しかし、全ての国がこうした力を備えているわけでない。ニューヨーク、東京の状況からすると、医療リソースがかなり揃っている先進国でさえ救援できるに足りる医療従事者を即座に動員することは難しい。

 さらに深刻なことには、医療リソースに著しく欠ける発展途上国、アフリカはいうに及ばず巨大人口を抱えるアジアの発展途上国の、人口1千人あたりの医師数はインドが0.8、インドネシアは0.3である。1千人あたりの病床数は前者が0.5、後者は1だ。こうした元々医療リソースが稀少かつ十分な医療救援能力を持たない国にとって、新型コロナウイルスのパンデミックで引き起こされる医療現場のパニックは悲惨さを極める。グローバル的な救援力をどう組織するかが喫緊の解決課題となっている。問題は、大半の先進国自体が、目下新型コロナウイルスの被害が深刻で、他者を顧みる余裕を持たないことにある。

科学技術の爆発的進歩

 緊急事態宣言、国境封鎖、都市ロックダウン、外出自粛、ソーシャルディスタンスの保持など、各国が目下進める新型コロナウイルス対策は、人と人との交流を大幅に減少かつ遮断することでウイルス感染を防ぐことにある。こうした措置は一定の成果を上げるものの、ウイルスの危険を真に根絶させ得るものではない。ウイルス蔓延をしばらく抑制することができても、非常に脆弱だと言わざるを得ない。次の感染爆発がいつ何時でも再び起こる可能性がある。

 しっかりとした成果をあげるにはやはり科学技術の進歩に頼るほかない。新型コロナウイルス危機勃発後、アメリカではPCR検査方法を幾度も更新し、検査結果に要する時間を大幅に短縮した。安価で、ハイスピードかつ正確な検査方式が大規模な検査を可能にした。

 アメリカでは迅速な新型コロナウイルス抗体検査方式も確立され、同政府は今、全国民を対象とする新型コロナウイルスの抗体検査実施の動きもある。もちろん、新型コロナウイルスの特効薬とワクチンの開発は各国が緊急課題として急ぎ取り組んでいる。

 人類は検査、特効薬、抗体の三種の神器を掌握しなければ、本当の意味で新型コロナウイルスをコントロールし、勝利を収めたとは言えないだろう。

 危機はまた転機でもある。近現代、世界的な戦争や危機が起こるたびに人類は重大な転換期に向き合い、科学技術を爆発的に進歩させてきた。第二次世界大戦は航空産業を大発展させ、核開発の扉を開けるに至った。冷戦では航空宇宙技術の開発が進み、インターネット技術の基礎をも打ち立てた。新型コロナウイルスも現在、関連する科学技術の爆発的な進歩を刺激している。

 コロナウイルスが作り上げた緊迫感は技術を急速に進歩させるばかりでなく、技術の新しい進路を開拓し、過去には充分に重視されてこなかった技術の方向性も掘り起こす。例えば、漢方医学は武漢での抗ウイルス対策で卓越した効き目をみせ、注目を浴びている。漢方医学は世界的なパンデミックに立ち向かうひとつの手立てになりうる。

 オゾンもまた偏見によりこれまで軽視されてきた。筆者は2月18日にはオゾンについて論文を発表し、新型コロナウイルス対策としてのオゾン抗菌利用を呼びかけた。現在、日本では、感染しやすい環境として「三密」環境が取り上げられている。もしオゾンのセンサーの開発が進展し低価格化が図られれば、有人環境下でのオゾン利用で滅菌抗ウイルスが実現し、室内空間のウイルス感染を抑えることができる。

グローバリゼーションは止まらない

 新型コロナウイルスのパンデミックで、各国はおしなべて国境を封鎖し都市をロックダウンして国際間の人的往来を瞬間的に遮断した。グローバリゼーションの未来への憂慮、国際大都市の行方に対する懸念の声が絶えず聞こえてくるようになった。

 確かに、グローバリゼーションが進むにつれ、国際間の人的往来はハイスピードで拡大し、世界の国際観光客数は30年前の年間4億人から、2018年には同14億人へと激増した。

 グローバリゼーションで、大都市化そしてメガロポリス化も一層世界の趨勢となった。1980年から2019年の間、世界で人口が250万人以上純増したのは117都市、この間これらの都市の純増人口は合計6億3,000万人にも達した。とりわけ、人口が1,000万人を超えたメガシティは1980年の5都市から、今日33都市にまで膨れあがった。こうしたメガシティはほとんどが国際交流のセンターであり、世界の政治、経済発展を牽引している。これらメガシティの人口は合わせて5億7,000万人に達し、世界の総人口の15.7%をも占めている。

 高密度の航空網と大量の国際人的往来は新型コロナウイルスをあっという間に世界各地へ広げ、パンデミックを引き起こした。国際交流が緊密な大都市ほど、新型コロナウイルスの爆発的感染の被害を受けている。

 しかし、冷静に認識しておくべきは、新型コロナウイルスが全世界に拡散した真の原因は、国際的な人的往来の速度と密度ではなく、人類が長きに渡り、感染症の脅威を軽視してきたことにこそある。

 大航海時代から今日まで、人類は一貫して感染症の脅威に晒され、この間、幾度となく悲惨な代償を払ってきた。

 第二次大戦後は感染疾病対策で効果を上げ、ほとんどの感染症が抑えられた。よって、先進国でも世界機関でも長期にわたり感染症の脅威を軽視してきた。

 世界経済フォーラム(WORLD ECONOMIC FORUM)が公表した「グローバルリスク報告書2020(The Global Risks Report 2020)」に並ぶ今後10年に世界で発生する可能性のある十大危機ランキングでも、感染症問題は入っていなかった。また、今後10年で世界に影響を与える十大リスクランキングでは、感染症が最下位に鎮座していた。

 不幸にして世界経済フォーラムの予測に反し、新型コロナウイルスパンデミックは、人類社会に未曾有の打撃を与えた。

 しかし我々は悲観的になる必要もない。新型コロナウイルス禍は、感染症対策への関心と投資を世界的に高め、大幅な技術革新と社会変革をもたらす。人類は感染症の脅威を克服し、世界規模の失敗を世界規模の勝利へと導くに違いない。

 新型コロナウイルス禍はグローバリゼーションと国際大都市化を阻むものではない。新型コロナウイルスパンデミックを収束させた後には、より健全なグローバリゼーションとより魅力的な国際大都市が形作られるであろう。


中国網日本語版(チャイナネット)2020年5月12日

【レポート】周牧之:オゾンパワーで新型コロナウイルス撲滅を

1. 地球における命の守護神

 新型コロナウイルスが中国武漢で爆発的に発生して以来、筆者は遠大科技集団(BROAD Group)の張躍総裁とオゾンを利用した殺菌について日夜電話議論を重ねてきた。張躍氏はオゾン利用による殺菌を提唱する先駆者である。しかし実際の反響はこれまで芳しくなかった。オゾン利用に関する国内外専門家との交流や関連資料調査で、筆者もオゾンについての人々の警戒心を強く感じてきた。オゾンに関する誤解を取り除き、この緊急事態に、オゾンの積極利用を進めるべきとして、オゾンの極めて解りにくい特性に関して系統的な整理を試みた。

 地球大気圏約0~10kmの最低層は対流圏と呼ばれ、そこでの温度と高度の関係は上冷下熱である。対流圏の上部に約10~50kmの成層圏がある。成層圏では温度と高度との関係が対流圏と相反して上熱下冷である。濃度約10~20ppmのオゾン層はこの成層圏にある。オゾン層は紫外線の地球上生物に危害を加える部分を吸収する。よって、有害な紫外線による生物細胞の遺伝子の破壊を押し止め、地球上の生命に生存条件を与えている。

 オゾン層の濃度が現在のレベルに達した時期と地球上の生命が海から上陸した時期はほぼ一致している。言い換えれば、オゾン層がまだ希薄な時期、生命は海の中に潜伏せざるを得なかった。オゾン層の濃度の向上を待ってようやく陸に上がることができた。

 オゾン層の保護がなければ、地球上には細菌一つすら存在不可能であったということになる。もちろん今日の豊かな生命の繁栄もあり得なかった。

 しかし、人類の産業活動によって大量に排出されたフロンガスや揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)などによるオゾン層への破壊は、人類の免疫システムを弱め、皮膚ガンや白内障などの発病率を高める被害をもたらした。オゾンホールは地球温暖化と並び、いまや地球環境問題となっている。オゾン層破壊問題は同時に、オゾンを一般大衆の視野に入れるきっかけともなった。オゾン層はその地球生物を保護する性質に鑑み、“アース・ガーディアン”と呼ばれる。

 オゾンは、三つの酸素原子から構成され、酸素の同素体であり、特殊な匂いがする。オゾンは主に太陽の紫外線が酸素分子を二つの酸素原子に分裂させ、その酸素原子がさらに酸素と結合することで作られている。

 高濃度のオゾン層は天然のバリアとなり、地球上の生物を太陽光にある有害な紫外線の攻撃から守り、地球生命の繁栄をもたらしている。

 

2. 天上のGood Ozone,地上のBad Ozone?

 オゾンは高い空の成層圏にあるだけではなく、我々の周囲にも存在している。酸素分子は低空で多く、高空では少ない。これに対して、酸素原子は低空で少なく高空に多い。ゆえに、酸素分子と酸素原子がともにある成層圏に、オゾン層が高濃度で作られている。相反して地面と、オゾン層より高い場所のオゾン濃度は薄い。つまり、大気中のオゾン濃度は地面から約10kmのところより高くなり、成層圏のオゾン層で最大値となる。さらにその上空に行くと、オゾン濃度はまた急激に下がる。

 対流層のオゾン濃度は一般的に0.02~0.06ppmである。この自然界のオゾン濃度は人類を含む大型生物には無害である。しかし、高い濃度のオゾンは人に不快感を与え、目や呼吸器官などの粘膜組織を刺激することもある。よって、アメリカ食品医薬品局(FDA)は室内環境基準のオゾン最大濃度を0.05ppmに規定している。日本産業衛生学会は産業環境基準のオゾン許容濃度を0.1ppmと規定する。中国衛生省もオゾンの安全濃度を0.1ppmと規定している。

 以上のように高濃度オゾンに対する警戒感は元よりあった。加えてオゾンの悪名を轟かせたのは、光化学スモッグ汚染である。光化学スモッグとは、窒素酸化物 (NOx)や揮発性有機化合物(VOC)などの一次汚染物質と、それらに紫外線が照射されることによって発生するオゾンという二次汚染物質からなる。NOxとVOCなどが光化学スモッグをもたらす主な生成物質であるが、光化学スモッグの中のオゾン成分は、80〜90%までにも達する。ゆえに光化学スモッグ汚染イコールオゾン汚染だと世間は捉えがちである。

 光化学スモッグは、目や呼吸器官の粘膜組織に刺激を与え、目の痛み、頭痛、咳、喘息などの健康被害を引き起こす。また植物の成長を抑制し農作物の減産をもたらす。酸性雨の原因ともなっている。

 産業革命以来、大量のNOx排出により対流圏のオゾンが増加した。過去100年、対流圏のオゾン全量は4倍になった。とくに近年、中国を始めとする東アジアでの急速な工業化と都市化に伴い、NOxなど光化学スモッグ生成物質排出量は激増し、対流圏のオゾン増加傾向を加速させている。

 対流圏のオゾン量は成層圏の10分の1に過ぎないが、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH₄)に次ぐ第3の地球温暖化ガスとなっている。

 こうした様々な理由により、世間では“対流圏のオゾンは生物に有害な汚染物質である”との認識が広がった。ゆえにオゾンは“天上のGood Ozone,地上のBad Ozone”とも言われている。日本では対流圏オゾンの地球規模の越境汚染に対するモニタリングが重要な課題となっている。

 ここではっきりさせたいのは、光化学スモッグのオゾン濃度は対流圏の自然界での正常な濃度ではなく、人的活動の汚染排出でもたらされた非自然的な高濃度であることだ。さらに光化学スモッグのオゾンにはNOxやVOCなど有害物質が多く含まれている。これもまた自然界の澄み切ったオゾンとは全く異なっている。

 自然界のオゾン濃度は季節と地域によって差異が生じるが、一般的に人体には害を及ぼさない。自然界のオゾンは無害であるばかりかむしろ有益である。自然界のオゾンと光化学スモッグとの違いを区別しなければならない。例えば雷の高圧放電では、空気中の酸素を分裂させ、オゾンを作る。高濃度のオゾンは空気を浄化するために、雷の後、往々にして空気はより清々しいものとなる。また、晴天の海岸や森林はオゾンの濃度が高いため空気は一層清らかである。

 対流圏のオゾンも、人類生存の守護神である。ただ我々は長い間その恩恵に対する研究と認識を欠いていた。

 自然界のオゾン濃度は、大型生物に無害であるものの、微生物にとってはスーパーキラーとなる。強い酸化力を持つオゾンは、自然界の微生物の繁殖を抑制し、地球生態バランスを保ってきた。しかし、これまで地球という生命体の中で微生物を抑制するオゾンの役割は十分には重視されてこなかった。

 その理由の一つは、一般的に低濃度のオゾンには殺菌作用があまり無いと考えられてきたからである。しかし、実際は、一定の暴露時間をかければ低濃度のオゾンも十分な殺菌消毒力を持つ。つまり、自然界の低濃度オゾンが地球上の細菌やウイルスといった微生物の過度な繁殖と拡散を防いできたと言えよう。

 また、オゾンは自然界においては有害有機物を分解する。さらに、オゾンは動植物に季節の変化を知らせるシグナルであるとも考えられる。要するに、対流層のオゾンが無ければ地球は、人類の生存さえあり得ない環境であった。

 実際、オゾンは“天上のGood Ozone,地上のGood Ozone”である。人類がもたらした汚染廃棄物はオゾンを“Bad Ozone”に仕立て上げた。

 

3.“神の手”の仮説:オゾンは疫病を駆逐する?

 2002年冬から2003年春にかけて、SARSの大流行が社会的な大パニックを引き起こした。しかし5、6月になるとSARSは突然に姿を消した。SARSだけではなく、インフルエンザなど飛沫感染のウイルスのほとんどが秋冬に爆発し、春夏には消滅する。見えざる神の手がこれらの病毒を駆逐しているが如くである。

 世界中の研究者の多くがこれまでウイルスと温度、或いはウイルスと湿度との相関関係を追ってきた。しかし、これらの研究では、ウイルスと気温変化との関係がはっきり説明できなかった。インフルエンザを例に取れば、一般的に、低温、低湿の環境ではウイルスが比較的長時間活性を保ち、温度と湿度の上昇に従いその活性が抑制されると考えられている。しかし、実験で証明されたのは、ある程度の温度変化はインフルエンザのウイルスにはあまり影響がなかった。むしろ、湿度をあげることによって同ウイルスの消滅度が上がった。また、赤道付近では気温が最高であるにもかかわらず、インフルエンザウイルスがむしろ年中蔓延している。

 筆者は、酸化力を持つオゾンこそが、真の神の手であると仮説を立てた。

 オゾン濃度は季節により変化する特性を持つ。しかも秋冬が低く春夏に高い。気象庁のオゾン観測情報によると、北から南、札幌、筑波、鹿児島、那覇でオゾン全量は2月から5月の間にピークを迎える。北へ行けば行くほどそのピークの時期は早く訪れる。南ではピークが遅くなる。

 地域によってオゾンの濃度も違っている。同じ気象庁の観測情報によるとオゾン全量ピーク時の濃度は北へ行けば行くほど高い。逆に、南では濃度が低くなる。オゾン量は緯度の変化でその分布も明らかに変化している。赤道近くではオゾン量が最も低く、緯度60°付近の北方地域で最も高い。

 本来、紫外線が強いほど酸素分子の分解スピードは早い。赤道付近は太陽の照射が最大であり、オゾンは最も産出し易いはずである。しかし、オゾン濃度の変化をもたらす要素は多く、そのメカニズムも極めて複雑である。紫外線が強いほどオゾンは作り易くなると同時に、オゾン自体の分解も進む。また、オゾンの分解スピードは温度とも関係がある。温度が高いほどその分解スピードは早まる。さらに、地球規模の大気環流も無視できない。その土地で作られたオゾンが他地域に運ばれることもあり得る。

 対流圏オゾンの大半は成層圏のオゾン層から来ている。同時に植物の光合作用が生むオゾンの量や、人類の産業活動が排出するNOxとVOCの量なども対流圏のオゾン濃度に影響を与える。

 要するに、酸素分子と原子の奇妙な集合離散によって左右されるオゾン濃度は、秋冬が低く春夏に高いリズムを持つ。また、温度が高いほど、オゾンの分解速度は早まる。さらに、湿度も重要である。乾燥状態ではオゾンの殺菌力は劇的に落ちる。

 よって筆者は大胆な予測を以下の仮説を立てた。季節が冬から暖かくなるにつれ、オゾン濃度は高まり、空気の湿度も増すと同時に、オゾンは神の手となって疫病を駆逐する。

 さらにこの仮説を厳密に言うと、殺菌消毒の主力は季節変化の中で高まるオゾンであり、温度と湿度はこれの威力を高める。オゾン、温度、湿度の三者は相まって病魔を駆逐する。勿論、紫外線も微生物の一大キラーであり、室外の細菌病毒を死滅させる重要なファクターである。

 コロナウイルスの大流行によるパンデミックはいつ収束するのかがいま、世界の最大の関心事となっている。経済活動の復興や、社会の緊張の緩和はこれにかかっている。もちろん、目下世界的な株価の大暴落や東京オリンピック開催などの問題もこれに左右されている。もし、上記の仮説が成立すれば、今回の新型コロナウイルスもSARSやインフルエンザと同様、季節の変化によるオゾン濃度の向上によって消え去る。そうであれば現在、コロナウイルス危機の中で苦しむ人々の一つの希望となると同時に、パンデミック対策と復興対策の目処も立てられるだろう。

 大胆な仮説は精密な立証を必要とする。学者専門家の方々にぜひ様々な角度から検証と批判を仰ぎたい。

 

4. 有人空間でのオゾン利用へ

 オゾンは自然界の病毒の駆逐者であるばかりでなく、近代以来、人類もその強い酸化力を活かし、消毒、殺菌、除臭、解毒、漂白などの分野で広く活用してきた。
 ゆえにオゾンは、今回の地球規模でのコロナウイルスとの戦いの中でも活かされるべきである。しかもオゾンには以下の三つの特性がある。

 ①死角無く充満:オゾン発生機などから作られたオゾンは、室内に充満し、空間のすべてに行き届く。その消毒殺菌の死角は無い。これに対して、紫外線殺菌は直射であるため死角が生じる。

 ②有害残留物無し:オゾンはその酸化力を持って細菌と病毒を消滅させる。有毒な残留物は残さない。相反して現在広く使用されている化学消毒剤は人体そのものに有害であるばかりでなく、有害残留物による二次汚染も引き起こす。中国での疫病対策の中で、すでに消毒水の濫用による問題が深刻化している。日本でも十分な注意が必要である。

 ③利便性:オゾンの生成原理が簡易で、オゾン生産装置の製造は難しくない。また、オゾン発生機のサイズは大小様々あり、個室にも大型空間にも対応できる。設置が簡単なためバス、鉄道、船舶、航空機などにも設置が可能である。

 オゾンの消毒殺菌効果は、オゾン自体の濃度だけでなく環境の温度、湿度そして暴露時間とも関係する。さらに、ウイルスの種類とも一定の関係を持つ。新型コロナウイルスに有効か否かについては、直接の実験は未だ無いものの、類似の実験はある。

 中国の李澤琳教授が国家P3実験室で行ったオゾンによるSARSウイルスの殺菌実験結果によると、オゾンはSARSウイルスに対して強い殺菌効果があり、総合死滅率が99.22%に達した。今回の新型コロナウイルスは、SARSウイルスと同様にコロナウイルスに属している。新型コロナウイルスのゲノム序列の80%はSARSウイルスと一致しているという。因って、オゾンは新型コロナウイルスに対して相当の殺菌力を持つことが推理できるであろう。

 オゾンは非常に優れた殺菌消毒のパワーを持つが、個人差はあるものの一定の濃度に達した場合に人々に不快感を与え、また、粘膜系統に刺激を与えることもある。そのため、目下、主に無人の空間で使用されている。

 もし、広く有人空間で使用できれば、オゾンは新型コロナウイルスを駆逐し、空気を浄化させ得る。そうなれば、病院、職場、公共空間、公共交通機関、住宅の室内に到るまで、大きな福音となる。

 これを可能とするには、オゾン濃度のコントロールが必要である。自然界に近い濃度のオゾンを室内に取り入れられれば、人々に不快感を与えることはない。しかし、オゾンは極めて不安定な性質を持ち、一定の濃度にコントロールするには常に濃度を観測する必要がある。問題は、現在濃度観測のセンサーが極めて高価なことである。オゾン濃度センサーが容易に使えないため、オゾン濃度のコントロールは未だ一般的に実現できていない。

 もし廉価でオゾン濃度を安全にコントロールできれば、オゾン利用は容易に世間に受け入れられ、有人空間におけるオゾン利用も進むであろう。よってオゾン濃度センサーのコストの大幅削減を一大課題として取り組むべきである。

 コンクリートジャングルの大都市では、そもそもオゾン濃度は低い。人が集まる室内ではなおさらそうである。コロナウイルスが世界的に蔓延している現在、室内のオゾン濃度基準を上げ、有人空間でのオゾンによる殺菌消毒利用を模索すべきであろう。幸いにして張躍氏は、オゾン生成機能を持つ遠大産の静電空気浄化機を、コロナウイルス対策のために建てられた中国武漢の救急病院である火神山ICU病棟と方艙病院にすでに寄付した。院内感染の防止に役立ったと好評を得ている。最近、遠大グループは韓国からも、オゾン消毒殺菌機能を持つ空気清浄機付きのコロナウイルス対策用救急病院建設を依頼された。

 オゾンと微生物との関係は地球生命体の絶妙なバランスを表している。もしオゾン層の保護が無ければ、ウイルスや細菌などの微生物は存在しなかった。他方、オゾンの強い酸化力もウイルスの天敵である。人類は未だオゾンに対する認識が不十分である。筆者はオゾンに対する偏見と過度な警戒心を捨て、オゾンにまつわる数々の謎を解き明かし、オゾンの特性を十分に理解し、活かしていくべきであると考える。とりわけこの新型コロナウイルスとの戦いの中では、オゾンの力を十分に発揮させていく必要がある。

 

中国網日本語版(チャイナネット)2020年3月19日

 


【レポート】発展原動力の二極化、中国の都市発展の大きなトレンドに 〜中国都市GDP・DID人口・IT輻射力・他12指標ランキング〜

 

 中国経済発展の空間構造に大きな変化が生じており、都市の発展で明確な集中と分化の現象が起きている。各種の機能が上位都市に集中する傾向が日増しに顕著になっている上、高度な機能の集中度がますます高まっている。これに応じて、都市間の分化も目立つようになり、いわゆる「発展原動力の二極化」が明らかになってきた。

 雲河都市研究院は中国都市総合発展指標2018を使って、12種類のデータに関する上位30都市ランキングを発表。全国298都市(地級以上)のパフォーマンスをもとに、複数の重要指標と機能の集中度を分析し、「発展原動力の二極化」を解説した。

 


1. GDPランキング上位30都市

 中国国内のGDPランキング上位10都市は順に、上海、北京、深圳、広州、重慶、天津、蘇州、成都、武漢、杭州で、この10都市の合計GDPが全体に占める割合は23.6%に達する。上位30都市の合計GDPは全体の43.5%を占めている。つまり、上位10%の都市が全国4割以上のGDPを生み出しており、中国経済の発展がGDPランキング上位30都市に高く依存していることが明らかとなった。

 

2. DID人口ランキング上位30都市

 密度は都市問題を議論する際の重要なキーワードだ。中国都市総合発展指標では、1㎢あたり5000人以上の地区をDID(Densely Inhabited District:人口集中地区)と呼び、人口密度に関する正確かつ効果的な分析を行っている。
 DID人口ランキング上位10都市は上海、北京、広州、深圳、天津、重慶、成都、武漢、東莞、温州で、この10都市のDID総人口が全体に占める割合は22.8%に達する。上位30都市のDID総人口は全体の43.2%を占めている。つまり、DID人口ランキング上位10%の都市には、全国4割以上のDID人口が集中していることになる。
 注目点は、中国298都市(地級以上)のGDPとDID人口の相関関係を分析した結果、両者に強い相関関係がみられ、相関係数が0.93の高水準に達し、「完全な相関関係」を示したことだ。さらに、GDPとDID人口という二指標のランキング上位30都市のうち26都市が重複した(順位は一部異なる)。これらは、DID人口の重要性を示しており、今後の中国の都市発展ではDID人口の規模と質に注目しなければならない。

 

3. メインボード上場企業ランキング上位30都市

 上海、深圳、香港の三大メインボードの上場企業数ランキング上位3都市は上海、北京、深圳で、この3都市のメインボード上場企業総数が全体に占める割合は39.6%に達する。上位30都市のメインボード上場企業総数は全体の69.7%を占めている。つまり、メインボード上場企業ランキング上位10%の都市に全国7割近いメインボード上場企業が集中している。
 メインボード上場企業が大都市、特に中心都市に集中する状況がますます顕著となった。

4. フォーチュン500中国企業ランキング上位30都市

 30年前の1989年に、フォーブスが発表するフォーチュン500にランクインした中国企業はわずか3社だった。2018年にランクインした中国企業は105社に大幅に増え、米国企業の126社に迫った。注目点は、中国企業3社がトップ10にランクインしたことだ。
 フォーチュン500の中国企業の本拠があるのは中国の28都市で、うち66.7%が北京、上海、深圳の3都市に集中している。一般的なメインボード上場企業に比べ、フォーチュン500に躍り出た中国企業は、全国的な中心都市に集まる傾向が強い。
 メインボード上場企業数ランキング上位30都市とフォーチュン500中国企業ランキング上位30都市を分析すると、中国の最も優良な企業の本社も、いわゆる経済的な中枢管理機能を北京、上海、深圳に代表される上位中心都市に集約している。

5. 製造業輻射力ランキング上位30都市

 製造業輻射力(周辺影響力)ランキング上位10都市は深圳、上海、東莞、蘇州、佛山、広州、寧波、天津、杭州、厦門(アモイ)で、この10都市はいずれも大型コンテナを利用しやすい港湾があるという優位性を持ち、10都市の貨物輸出総額が全体に占める割合は48.2%に達する。上位30都市の貨物輸出総額は全体の74.9%を占めている。つまり、中国では現在、製造業輻射力が大きい10%の都市から全国4分の3に当たる貨物が輸出されている。

6. IT産業輻射力ランキング上位30都市

 IT産業輻射力ランキング上位10都市は北京、上海、深圳、成都、杭州、南京、広州、福州、済南、西安で、この10都市のIT就業者総数、メインボードITセクター上場企業数、中小企業ボードITセクター上場企業数、創業板ITセクター上場企業数が全体に占める割合はそれぞれ52.8%、76.1%、60%、81%に達する。上位30都市のIT就業者総数、メインボードITセクター上場企業数、中小企業ボードITセクター上場企業数、創業板ITセクター上場企業数は全体の68%、94%、78.2%、91.2%を占める。中国のIT産業がIT産業輻射力ランキング上位都市に集中する状況が顕著となっている。
 現在、中国の多くの都市がIT産業を重点産業として発展させているが、実際には、IT産業は北京、上海、深圳、成都、杭州、南京、広州といった都市に集中し、特定の都市に集中及び収れんする傾向が製造業よりも強い。こうした意味で言うと、IT産業の発展を目指す都市は、IT産業の発展に必要な条件を研究・分析しなければならない。

7. 高等教育輻射力ランキング上位30都市

 高等教育輻射力ランキング上位10都市は北京、上海、武漢、南京、西安、広州、長沙、成都、天津、哈爾浜(ハルビン)で、この10都市の211プロジェクト対象大学と985プロジェクト対象大学総数、一般大学・専門学校の在校生総数が全体に占める割合は69.3%、26.0%に達する。上位30都市の211及び985大学総数、一般大学・専門学校の在校生総数は全体の92.8%、57.1%を占めている。現在、中国の高等教育資源、特にハイクオリティな高等教育資源が高等教育輻射力ランキング上位都市に集中している状況が明かとなった。

8. 科学技術輻射力ランキング上位30都市

 科学技術輻射力ランキング上位10都市は北京、上海、深圳、成都、広州、杭州、西安、天津、蘇州、南京で、この10都市のR&D(研究開発)人材資源総量、特許取得件数が全体に占める割合は36.3%、33.2%に達する。上位30都市のR&D人材資源総量、特許取得件数は全体の59.8%、62.6%を占めている。現在、中国の科学技術資源が科学技術輻射力ランキング上位都市に集中する状況が顕著となっている。

9. 文化・スポーツ・娯楽輻射力ランキング上位30都市

 文化・スポーツ・娯楽輻射力ランキング上位10都市は北京、上海、成都、広州、深圳、武漢、杭州、南京、西安、鄭州で、この10都市の映画興行収入総額、延べ観客数が全体に占める割合は34%、30.6%に達する。上位30都市の映画興行収入総額、延べ観客数は全体の57.7%、54.6%を占めている。
 現在、中国では文化・スポーツ・娯楽資源だけでなく、興行収入に代表される文化・スポーツ・娯楽消費が文化・スポーツ・娯楽輻射力ランキング上位都市に集中する状況が顕著となっている。

10. 飲食・ホテル輻射力ランキング上位30都市

 飲食・ホテル輻射力ランキング上位10都市は上海、北京、成都、広州、深圳、杭州、蘇州、三亜、西安、厦門で、この10都市の五つ星ホテル軒数、国際トップクラスレストラン軒数が全体に占める割合は35.7%、77.1%に達する。上位30都市の五つ星ホテル軒数と国際トップクラスレストラン軒数は全体の61.1%、91.8%を占めている。中国の高級飲食店とホテルが飲食・ホテル輻射力ランキング上位都市に集中する状況が顕著となっている。
 雲河都市研究院は中国都市総合発展指標2018を使って、IT産業輻射力と飲食・ホテル輻射力に関する分析を行った。その結果、両者の相関係数は0.9に上り、両者の間に「完全な相関関係」があることが明らかとなった。交流経済の典型であるIT産業では、高所得で見識が広い経営者たちは「食事をすることが好き」であり、「食事をすること」は間違いなく彼らが「交流する」重要なシーンとなっている。
 北京、上海、深圳、成都、杭州、南京、広州はIT産業輻射力が最も強い上位7都市で、これらの都市は中国で美食の街となっている。今や食事は、都市の交流経済が発展するために軽視できない「重要な生産力」だ。
 しかし、製造業輻射力と飲食・ホテル輻射力の相関係数はわずか0.68にとどまる。IT産業に比べ、製造業従事者は美食に対する感度が低いことが示された。

11. コンテナ港利便性ランキング上位30都市

 コンテナ港利便性ランキング上位10都市は上海、深圳、寧波、広州、青島、天津、厦門、大連、蘇州、営口で、この10都市の港湾コンテナ取扱総量が全体に占める割合は82%に達する。上位30都市の港湾コンテナ取扱量は全体の97.8%を占めている。言い換えると、中国では現在、コンテナ港利便性ランキング上位10%が港湾コンテナ取扱量のほぼ全てを独占している。
 雲河都市研究院が中国都市総合発展指標2018を使って、中国298都市(地級以上)の貨物輸出額と港湾コンテナ取扱量の相関を分析した結果、両者の密接な相関が明らかとなり、相関係数が0.81の高水準に達し、「非常に強い相関関係」が示された。また、製造業輻射力とコンテナ港利便性という二指標のランキング上位30都市のうち24都市が重複した(順位は一部異なる)。このことから、製造業特に輸出工業が良い条件を備える港湾に高く依存していることが明らかとなった。今後も引き続き、中国の製造業、特に輸出工業は良い条件を備える港湾がある都市へと向かい、集中が進む見通しだ。
 工業発展と港湾条件の関係をはっきりと認識することは、中国の将来的な工業分布に極めて重要な意義を持つ。中国は、至る所で工業化を進めた過去のやり方について真剣に議論し、内陸で分散式に工業化を進めた非合理性と低効率を見直すことで、工業のハイクオリティな発展を目指す必要がある。

12. 空港利便性ランキング上位30都市

 空港利便性ランキング上位10都市は上海、北京、広州、深圳、成都、昆明、重慶、杭州、西安、厦門で、この10都市の乗降客数と貨物・郵便取扱量が全体に占める割合は49.9%、73.5%に達する。上位30都市の乗降客数と貨物・郵便取扱量は全体の81.3%、92.9%を占めている。中国では現在、航空運輸による人の移動と物流の大部分が、空港利便性ランキング上位10%の都市に集中している現状が明かとなった。
 雲河都市研究院は中国都市総合発展指標2018を使って、中国298都市(地級以上)のIT産業輻射力と空港利便性の相関を分析した。その結果、両者の密接な相関が明らかとなり、相関係数は0.82の高水準に達し、「非常に強い相関関係」が示され、製造業輻射力とコンテナ港湾利便性の相関関係よりも強い。IT産業輻射力と空港利便性という二指標のランキング上位30都市のうち21都市が重複している(順位は一部異なる)。これらから、交流経済の代表産業となるIT産業の発展は、便利な条件を備える空港に高く依存していることが分かった。今後も引き続き、IT産業は良い条件を備える空港がある都市へと向かい、集中が進む見通しだ。


 現在の中国は、経済総量とDID人口総量はもちろん、各種の機能が少数の大都市、超大都市、大都市群に集中しつつある。その上、ハイエンドな機能がますます発揮され、上位都市に集中する現象が加速している。この流れはさらに強まる見通しだ。これらを踏まえ、各種の中心機能が集まる大都市、超大都市、大都市群の経済構造と空間構造をどのように改善するかが、中国の目指すハイクオリティな発展にとって極めて重要となる。


「中国網日本語版(チャイナネット)」 2020年1月2日

【レポート】〈中国都市総合発展指標〉から3大メガロポリスを徹底比較

 中国経済の勢いのある成長は、世界経済成長の構造の変化と中国の改革開放による巨大な活力が合わさって生まれたものである。世界経済を繋ぐ大舞台として、珠江デルタ、長江デルタ、北京・天津・河北の3大都市群は中国経済成長の原動力となり、中国で最も国際的かつ代表的な都市群でもある。中米貿易戦と国内経済の構造大調整がある中、3大都市群の影響力は高まっている。

 雲河都市研究院は中国都市総合発展指標2018の12種類のデータを利用し、3大都市群の優位性を解説した。

 


1. GDP

 中国経済における3大都市群の存在感はより顕著となっている。北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群の対GDP比はそれぞれ8.6%、19.8%、9.0%に、計37.4%に達する。3大都市群は中国経済成長の構造を支えている。
 全国地級以上298都市GDPランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群の2都市がGDPランキング上位30都市に入り、北京が2位、天津が6位につける。
 長江デルタ大都市群の9都市がGDPランキング上位30都市に入り、上海が1位、蘇州が7位、杭州が10位、南京が11位、無錫が13位、寧波が15位、南通が19位、合肥が25位、常州が28位につけ、輝きを見せている。
 珠江デルタ大都市群の4都市がGDPランキング上位30都市に入り、深センが3位、広州が4位、仏山が17位、東莞が21位につける。
 3大都市群から15都市がGDPランキング上位30都市に入り、天下の半分を占めると言える。

 

2. DID人口

 密度は都市問題を討論する重要な指標の1つで、中国都市総合発展指標は1平方キロメートルあたり5000人以上の地域をDID(Densely Inhabited District:人口高密集地区)と定義し、人口密度を正確かつ有効的に分析する。
 3大都市群には全国の34.4%のDID人口が集中している。北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群の全国DID人口に占める割合はそれぞれ7.9%、17.1%、9.3%に達する。
 全国地級以上298都市DID人口ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群の2都市がDID人口ランキングの上位30都市に入り、北京が2位、天津が5位につける。
 長江デルタ大都市群の7都市がDID人口ランキングの上位30都市に入り、上海が1位、蘇州が11位、杭州が13位、南京が14位、寧波が20位、合肥が25位、無錫が28位につける。
 珠江デルタ大都市群の4都市がDID人口ランキングの上位30都市に入り、広州が3位、深センが4位、東莞が9位、仏山が15位につける。
 3大都市群から13都市がDID人口ランキングの上位30都市に入ったが、DID人口の割合を見ると、3大都市群の間に大きな差がある。珠江デルタ大都市群のDID人口比率は67.0%に達し、全国のDID人口比率31.9%を大幅に上回る。長江デルタ大都市群は46.6%、北京・天津・河北大都市群はわずか37.8%。

 

3. メインボード上場企業

 3大都市群には全国の半数以上のメインボード(上海、深セン、香港の3大メインボード)上場企業が集まっている。北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタが全国のメインボード上場企業数に占める割合はそれぞれ15.9%、28%、10.3%、計54.2%に達する。
 全国地級以上298都市メインボード上場企業数ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が示された。
 北京・天津・河北大都市群の2都市がメインボード上場企業数ランキングの上位30都市に入り、北京が2位、天津が8位につける。
 長江デルタ大都市群の7都市がメインボード上場企業数ランキングの上位30都市に入り、上海が1位、南京と杭州が同率4位、寧波が9位、合肥が13位、蘇州が21位、無錫が24位につける。
 珠江デルタ大都市群からは2都市のみがメインボード上場企業数ランキングの上位30都市に入り、深センが3位、広州が7位につける。同地区の世に名を知られる東莞や仏山などの製造業都市は「工場経済」のレベルで止まっている。
 3大都市群から11都市がメインボード上場企業数ランキングの上位30都市に入り、中でも上海、北京、深センは全国のメインボード上場企業の31.3%を有する。

 

4. フォーチュントップ500中国企業

 3大都市群には全国の80%のフォーチュントップ500中国企業が集まっている。北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国のフォーチュントップ500中国企業数に占める割合はそれぞれ54.3%、14.3%、11.4%に達する。
 全国地級以上298都市フォーチュントップ500中国企業ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群の3都市がフォーチュントップ500中国企業ランキングの上位30都市に入り、北京が1位、天津と石家荘が同率11位につける。
 長江デルタ大都市群の4都市がフォーチュントップ500中国企業ランキングの上位30都市に入り、上海が2位、杭州が4位、南京と蘇州が同率7位につける。
 珠江デルタ大都市群の3都市がフォーチュントップ500中国企業ランキングの上位30都市に入り、深センが3位、広州が4位、仏山が7位につける。
 3大都市群から10都市がフォーチュントップ500中国企業ランキングの上位30都市に入り、中でも北京の地位は際立ち、全国の52.4%のフォーチュントップ500中国企業を有する。

 

5. 製造業輻射力

 3大都市群には全国の貨物輸出額の67.8%が集まっている。北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国貨物輸出総額に占める割合はそれぞれ6.2%、32.7%、28.8%に達する。3大都市群、特に長江デルタと珠江デルタは中国の輸出業発展を支え、名実相伴う「世界の工場」である。
 輻射力は都市のある機能の外部利用度を表す指数で、中国都市総合発展指標は影響力をもとに都市の各産業の対外サービス能力を正確かつ有効的に分析する。
 全国地級以上298都市製造業輻射力ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群の2都市が製造業輻射力ランキングの上位30都市に入り、天津が8位、北京が17位につける。
 長江デルタ大都市群の11都市が製造業輻射力ランキングの上位30都市に入り、上海が2位、蘇州が4位、寧波が7位、杭州が9位、無錫が14位、嘉興が20位、南京が21位、金華が23位、紹興が24位、常州が26位、南通が29位につけ、勢いがあると言える。
 珠江デルタ大都市群全9都市の中の8都市が製造業輻射力ランキングの上位30都市に入り、深センが1位、東莞が3位、仏山が5位、広州が6位、恵州が11位、中山が13位、珠海が19位、江門が30位につけ、威力を発揮している。
 3大都市群から21都市が製造業輻射力ランキングの上位30都市に入った。2008~2018年、中国の輸出規模は10倍になり、世界最大の輸出大国に躍進した。製造業サプライチェーンの世界拡張という取引経済大爆発の中で、3大都市群は正真正銘の最大の勝ち組である。

 

6. IT産業輻射力

 3大都市群には全国のIT業メインボード上場企業の71.8%とIT業従事者の50.7%が集まっている。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国のIT業メインボード上場企業に占める割合はそれぞれ32.5 %、24.8%、14.5%に達する。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国のIT業従事者数に占める割合はそれぞれ20.9%、19.5%、10.2%に達する。
 全国地級以上298都市IT産業輻射力ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群からは北京だけが1位でIT産業輻射力ランキングの上位30都市に入った。
 長江デルタ大都市群の6都市がIT産業輻射力ランキングの上位30都市に入り、上海が2位、杭州が5位、南京が6位、蘇州が15位、合肥が21位、無錫が24位につける。
 珠江デルタ大都市群の3都市がIT産業輻射力ランキングの上位30都市に入り、深センが3位、広州が7位、珠海が20位につける。
 3大都市群から10都市がIT産業輻射力ランキングの上位30都市に入ったが、製造業輻射力の高い都市の多くがIT産業輻射力ランキングの上位30都市に入らなかった点に注目したい。

 

7. 高等教育輻射力

 3大都市群には全国の211 & 985大学の51.6%と一般大学・専門学校の28.2%の在校生が集まっている。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国の211 & 985大学数に占める割合はそれぞれ26.8%、20.9%、3.9%に達する。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国の一般大学・専門学校在校生総数に占める割合はそれぞれ8.3%、14.0%、5.9%に達する。
 全国地級以上298都市高等教育輻射力ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群の3都市が高等教育輻射力ランキングの上位30都市に入り、北京が1位、天津が9位、石家荘が29位につける。
 長江デルタ大都市群の5都市が高等教育輻射力ランキングの上位30都市に入り、上海が2位、南京が4位、合肥が12位、杭州が14位、蘇州が30位につける。
 珠江デルタ大都市群からは広州だけが6位で高等教育輻射力ランキングの上位30都市に入った。
 3大都市群から9都市が高等教育輻射力ランキングの上位30都市に入り、珠江デルタ大都市群の高等教育輻射力は比較的低い。

 

8. 科学技術輻射力

 3大都市群には全国のR&D(研究開発)人材資源の53.3%と特許取得件数の55.6%が集まっている。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国のR&D人材資源総量に占める割合はそれぞれ12.2%、28.5%、12.7%に達する。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国の特許取得件数に占める割合はそれぞれ10.3%、30.9%、14.4%に達する。
 全国地級以上298都市科学技術輻射力ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群の2都市が科学技術輻射力ランキングの上位30都市に入り、北京が1位、天津が8位につける。
 長江デルタ大都市群の11都市が科学技術輻射力ランキングの上位30都市に入り、上海が2位、杭州が6位、蘇州が9位、南京が10位、寧波が12位、無錫が14位、合肥が17位、紹興が20位、南通が21位、嘉興が27位、常州が30位につける。
 珠江デルタ大都市群の5都市が科学技術輻射力ランキングの上位30都市に入り、深センが3位、広州が5位、仏山が16位、東莞が18位、中山が24位につける。
 3大都市群から18都市が科学技術輻射力ランキングの上位30都市に入った。

 

9. 文化・スポーツ・娯楽輻射力

 3大都市群には全国の映画興行収入の45.9%と観客数の43.3%が集まっている。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国の映画興行収入に占める割合はそれぞれ9.6%、23.6%、12.8%に達する。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国の観客数に占める割合はそれぞれ8.5%、22.8%、11.9%に達する。
 全国地級以上298都市文化・スポーツ・娯楽輻射力ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群の2都市が文化・スポーツ・娯楽輻射力ランキングの上位30都市に入り、北京が1位、天津が13位につける。
 長江デルタ大都市群の7都市が文化・スポーツ・娯楽輻射力ランキングの上位30都市に入り、上海が2位、杭州が7位、南京が8位、蘇州が14位、合肥が17位、寧波が25位、無錫が26位につける。
 珠江デルタ大都市群の4都市が文化・スポーツ・娯楽輻射力ランキングの上位30都市に入り、広州が4位、深センが5位、東莞が20位、仏山が23位につける。
 3大都市群から13都市が文化・スポーツ・娯楽輻射力ランキングの上位30都市に入った。

 

10. 飲食・ホテル輻射力

 3大都市群には全国の5つ星ホテルの51.7%と全国の国際トップクラスレストランの72.9%が集まっている。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国の5つ星ホテル軒数に占める割合はそれぞれ11.4%、29.5%、10.9%に達する。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国の国際トップクラスレストラン軒数に占める割合はそれぞれ20.0%、37.5%、15.4%に達する。
 全国地級以上298都市飲食・ホテル輻射力ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群の2都市が飲食・ホテル輻射力ランキングの上位30都市に入り、北京が2位、天津が16位につける。
 長江デルタ大都市群の8都市が飲食・ホテル輻射力ランキングの上位30都市に入り、上海が1位、杭州が6位、蘇州が7位、南京が11位、寧波が14位、舟山が18位、無錫が26位、合肥が29位につける。
 珠江デルタ大都市群の4都市が飲食・ホテル輻射力ランキングの上位30都市に入り、広州が4位、深センが5位、珠海が20位、東莞が27位につける。
 3大都市群から14都市が飲食・ホテル輻射力ランキングの上位30都市に入った。

 

11. コンテナ港利便性

 3大都市群には全国の港のコンテナ取扱量の69.5%が集まっている。北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国の港のコンテナ取扱量に占める割合はそれぞれ8.3 %、35.2%、26%に達する。
 全国地級以上298都市コンテナ港利便性ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群の2都市がコンテナ港利便性ランキングの上位30都市に入り、天津が6位、唐山が28位につける。
 長江デルタ大都市群の11都市がコンテナ港利便性ランキングの上位30都市に入り、上海が1位、寧波が3位、蘇州が9位、舟山が12位、南京が15位、南通が17位、嘉興が20位、無錫が23位、湖州が26位、常州が29位、紹興が30位につけ、港湾都市が林立していると言える。
 珠江デルタ大都市群全9都市の中の8都市がコンテナ港利便性ランキングの上位30都市に入り、深センが2位、広州が4位、東莞が13位、仏山が14位、中山が18位、珠海が21位、江門が25位、恵州が27位につけ、大量の帆が立っている。
 3大都市群から21都市がコンテナ港利便性ランキングの上位30都市に入った。港湾の優位性は3大都市群の発展を支え、中でも製造業の発展の重要な柱であることは間違いない。

 

12. 空港利便性

 3大都市群には全国の空港旅客数の41.5%と空港貨物取扱量の67.8%が集まっている。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国の空港旅客数に占める割合はそれぞれ11.9%、18.7%、10.9%に達する。
 北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタの3大都市群が全国の空港貨物取扱量に占める割合はそれぞれ14.7%、34.6%、18.5%に達する。
 全国地級以上298都市空港利便性ランキング上位30都市から3大都市群のそれぞれの優位性が見て取れる。
 北京・天津・河北大都市群の2都市が空港利便性ランキングの上位30都市に入り、北京が2位、天津が13位につける。
 長江デルタ大都市群の3都市が空港利便性ランキングの上位30都市に入り、上海が1位、杭州が8位、南京が12位につける。
 珠江デルタ大都市群の3都市が空港利便性ランキングの上位30都市に入り、広州が3位、深センが4位、珠海が27位、につける。
 3大都市群から8都市が空港利便性ランキングの上位30都市に入った。特に北京、上海、広州、深センの4大国際航空ターミナルは3大都市群を中国で航空輸送が最も便利な地域にし、大都市群の交流経済の発展の重要な支えとなっている。

 


3大都市群に含まれる都市

 北京・天津・河北大都市群の10都市:北京、天津、石家荘、保定、唐山、秦皇島、張家口、承徳、滄州、廊坊

 長江デルタ大都市群の26都市:上海、南京、杭州、蘇州、合肥、無錫、寧波、常州、嘉興、南通、塩城、揚州、鎮江、泰州、湖州、紹興、金華、舟山、台州、蕪湖、馬鞍山、銅陵、安慶、滁州、池州、宣城。

 珠江デルタ大都市群の9都市:広州、深セン、東莞、仏山、珠海、中山、江門、恵州、肇慶。


中国網日本語版(チャイナネット)」 2019年12月31日

【ランキング】「中国中心都市&都市圏発展指数2018」が発表

雲河都市研究院

中国中心都市&都市圏発展指数2018 総合ランキング

 シンクタンクの雲河都市研究院が作成した中国中心都市&都市圏発展指数2018がこのほど、北京市で発表された。総合ランキングのトップ3は北京、上海、深圳、第4位から第10位は順に広州、天津、成都、杭州、重慶、南京、武漢となった。

  同指数の大きな特徴は、中国の4大直轄市、22省都、5自治区首府、5計画単列市の計36都市を「中心都市」として、全国298の地級市以上の都市間で評価した点にある。同指標の分析によると、これら36の「中心都市」は全国GDP規模の39.7%、貨物輸出・輸入の55.2%、特許取得数の48.7%を占め、全国の常住人口の25%、DID人口の41.4%、メインボード上場企業の71.6%、全国の981&211高等教育機関=トップ大学の94.8%、5つ星ホテルの58.1%、三甲病院(最高等級病院)の54.1%を有している。


 中国中心都市&都市圏発展指数2018は都市地位、都市圏実力、輻射能力、広域中枢機能、開放交流、ビジネス環境、イノベーション・起業、生態環境、生活品質、文化教育の10大項目と30の小項目からなり、包括的かつ詳細に、中心都市の都市圏発展を指数で診断し、中国中心都市の高品質発展を促す総合評価である。

中国中心都市&都市圏発展指数構造図

都市地位大項目 


 都市地位大項目ランキングのトップ3は、北京、上海、広州。第4位から第10位は順に天津、重慶、南京、杭州、成都、深圳、武漢。 都市地位大項目は行政機能、メガロポリス、“一帯一路”の3つの小項目指標を設置。行政機能の小項目においては、首都、直轄市、省都の行政機能が高得点となった。長江デルタ、珠江デルタ、京津冀(北京・天津・河北)の3大メガロポリスの都市は、大項目指標において点数が高い。“一帯一路”の小項目では、貿易投資および海外との往来が良好な都市が、上位を占めた。

都市地位ランキング概略図(総合ランキング中心都市トップ20)

都市圏実力大項目 


 都市圏実力大項目ランキンングトップ3は北京、上海、深圳。第4位から第10位は順に広州、天津、重慶、杭州、武漢、成都、南京。都市圏実力大項目は経済規模、都市圏品質、企業集積の3つの小項目指標を設置。面積も人口も規模も特大な4大直轄市が、経済規模のトップ4を占めた。北京、上海、深圳は企業集積小項目で圧倒的優位に立ち、順にトップ3を飾った。上海、深圳、北京は都市圏品質小項目でもトップ3となった。

都市圏実力ランキング概略図(総合ランキング中心都市トップ20)

輻射能力大項目


 輻射能力大項目ランキングトップ3は北京、上海、深圳。第4位から第10位は順に成都、広州、杭州、南京、西安、武漢、天津。

 輻射能力大項目は製造業・IT産業輻射力、金融・科学技術・高等教育輻射力、生活文化サービス輻射力の3つの小項目の指標を設置。北京は3つの小項目の第1位をすべて独占した。上海は金融・科学技術・高等教育輻射力と生活文化サービス輻射力の2つの小項目で第2位、深圳は製造業・IT産業輻射力で第2位だった。広州と成都はそれぞれ金融・科学技術・高等教育輻射力と生活文化サービス輻射力で第3位につけた。

 
輻射能力ランキング概略図(総合ランキング中心都市トップ20)

広域中枢機能大項目 


 広域中枢機能大項目ランキングトップ3は上海、広州、深圳。北京は第4位につけ、第5位から第10位は順に天津、寧波、青島、武漢、廈門、成都。広域中枢機能大項目は水路輸送、航空輸送、陸路輸送の3つの小項目指標を設置。上海、深圳、寧波、広州をはじめとする臨海都市が水路輸送の上位を占めた。上海、北京、広州の3都市は航空輸送でトップ3となった。陸路輸送トップ3は広州、武漢、北京。

 
広域中枢機能概略図(総合ランキング中心都市トップ20)

開放交流大項目


 開放交流大項目ランキングトップ10は上海、北京、深圳、天津、広州、重慶、杭州、成都、青島、寧波。  開放交流大項目は国際貿易、国際投資、交流業績の3つの小項目指標を設置。国際貿易トップ3は上海、深圳、北京。国際投資トップ3は天津、上海、北京。交流業績トップ3は上海、北京、広州だった。

開放交流ランキング概略図(総合ランキング中心都市トップ20)

ビジネス環境大項目 


 ビジネス環境大項目ランキングトップ3は上海、北京、広州。第4位から第10位は順に深圳、成都、天津、南京、廈門、重慶、武漢。  ビジネス環境大項目は園区支援、ビジネス支援、都市交通の3つの小項目指標を設置。園区支援トップ3は上海、深圳、廈門。ビジネス支援トップ3は北京、上海、広州。都市交通トップ3は上海、北京、広州だった。

ビジネス環境ランキング概略図(総合ランキング中心都市トップ20)

イノベーション・起業大項目


 イノベーション・起業大項目トップ3は北京、深圳、上海。第4位から第10位は順に広州、杭州、天津、南京、成都、武漢、重慶。イノベーション・起業大項目は研究集積、イノベーション・起業活力、政策支援の3つの小項目指標を設置。研究集積トップ3は北京、上海、深圳。イノベーション・起業活力トップ3は深圳、北京、上海。政策支援トップ3は北京、上海、重慶で、直轄市が政策支援で高評価を得た。

イノベーション・起業ランキング概略図(総合ランキング中心都市トップ20)

生態環境大項目


 生態環境大項目トップ3は上海、北京、深圳。第4位から第10位は順に広州、天津、重慶、廈門、杭州、成都、武漢。  生態環境大項目は資源環境品質、環境努力、資源効率の3つの小項目指標を設置。環境努力トップ3は北京、上海、重慶。資源効率トップ3は上海、深圳、北京で、同3都市はDID人口の規模が大きく密度が高いだけでなく、企業の本社も集積している。しかし、資源環境品質では中国中心都市&都市圏発展指数の対象36都市からは海口と廈門だけが全国トップ20に入り各々第13位と第19位であった。その他の都市は及ばなかった。

生態環境ランキング概略図(総合ランキング中心都市トップ20)

生活品質大項目


 市民と密接に関わる生活品質大項目ランキングは、北京、上海、広州がトップ3、深圳は意外にも第10位へと順位を落とした。第4位から第9位は順に天津、杭州、成都、南京、重慶、武漢。深圳が第10位まで順位を下げたのは、主に医療福祉、住みやすさの2つの小項目が足を引っ張ったためである。住みやすさ小項目のトップ3は上海、蘇州、成都。生活消費水準小項目トップ3は北京、上海、広州。医療福祉小項目トップ3も北京、上海、広州であった。

生活品質ランキング概略図(総合ランキング中心都市トップ20)

文化教育大項目 


 文化教育大項目ランキングでも深圳はいまひとつ振るわず、トップ10から外れた。トップ3は北京、上海、広州。第4位から第10位は順に南京、武漢、成都、天津、西安、重慶、杭州。文化教育大項目は文化娯楽、人材育成、文化パフォーマンスの3つの小項目指標を設置。中でも深圳は人材育成で全国第11位につけたが、文化パフォーマンスでは第73位と落ち込んだ。

文化教育ランキング概略図(総合ランキング中心都市トップ20)

 中国中心都市&都市圏発展指数は、その分析により中心都市の発展状況を各方面から観測・判断し、中心都市の都市圏発展に有益な方向性を提示する。同指数の開発を指揮した東京経済大学の周牧之教授は記者に対し、「全国298の地級市以上の都市の分析研究は、中国の高度な都市機能が中心都市に集中し、かつ高機能であるほど集約度が高いことを示した。中心都市をコアとする都市圏の育成と発展こそが、国際競争での中国の都市の勝敗を決める」と話している。

「中国網日本語版(チャイナネット)」 2019年8月20日