寧波:港湾機能をベースとした製造業スーパーシティ【中国中心都市&都市圏発展指数2021】第13位

中国中心都市&都市圏発展指数2021
第13位


 寧波市は中国中心都市&都市圏発展指数2021の総合第13位だった。同市は前年度より順位を1つ下げた。

 〈中国中心都市&都市圏発展指数は、中国都市総合発展指標の派生指数として、4大直轄市、22省都、5自治区首府、5計画単列市からなる36の中心都市の評価に特化したものである。同指数は、これら中心都市を、全国297の地級市以上の都市の中で評価している。10大項目と30の小項目、116組の指標からなる。包括的かつ詳細に、中国中心都市の発展を総合評価するシステムである。

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〈中国中心都市&都市圏発展指数〉:【36中心都市】北京、上海、深圳、広州、成都、天津、杭州、重慶、南京、西安、寧波、武漢、青島、鄭州、長沙、廈門、済南、合肥、福州、瀋陽、大連、昆明、長春、ハルビン、貴陽、南昌、石家荘、南寧、太原、海口、ウルムチ、蘭州、フフホト、ラサ、西寧、銀川


■ 古くからの一大貿易拠点都市


 寧波は、浙江省の東部に位置する計画単列市であり、中国東部沿岸の重要な港湾都市である。2021年までに、寧波は6つの区、2つの県級市、2つの県を管轄し、総面積は9,816平方キロメートル(青森県と同程度)である。寧波は雨量が多く、亜熱帯モンスーン気候に属し、温暖湿潤で、四季がはっきりしている。

 地理的に、東は舟山群島が点在し、西は紹興市、南は台州市と隣接している。海岸線が長く、その総延長は1,594キロメートルにも達し、大小614の島を有している。

 寧波は7000年前の稲作文化として名高い「河姆渡新石器遺跡」を有し、また秦の時代、徐福の大船団が寧波から出発した伝説がある。唐の時代、寧波はすでに揚州や広州と並ぶ中国三大貿易港の一つとなっていた。

 1127年に南宋が杭州に都を置いた後は、寧波の地理的な重要性が更に高まり、杭州の対外貿易のほとんどを担うようになった。この時代に寧波は、広州、泉州と並ぶ対外貿易の三大港の一つに数えられていた。

 しかし、明朝初頭に、倭寇や海賊対策のため、寧波は重要な海防基地となった。政府から遠洋舶の製造が禁止され、沿海部の貿易が厳しく制限されて寧波の経済発展が後退した。

 1545年に、ポルトガルが寧波で貿易活動を展開しはじめ、最初は密貿易であったが、1567年以後、公的な貿易も行うようになった。その後、オランダやイギリスからも商人が相次ぎやってきて、寧波は再び一大貿易拠点都市となった。

■ 群を抜く港湾能力


 現在、寧波は港湾機能中枢都市の地位をより高め、2021年に寧波―舟山港の年間貨物取扱量は世界で第1位、コンテナ取扱量は世界第3位を誇っている(詳しくは、「【ランキング】世界で最も港湾コンテナ取扱量が多い都市はどこか?」を参照)。

 寧波―舟山港は中国の一大鉄鉱石中継基地、原油・石炭輸送基地、穀物輸送基地である。寧波は240以上の国際航路で、100以上の国・地域とつながっている。

■ 民営経済の活力をベースに


 改革開放以降、寧波経済は活力に満ちている。その原動力は民営経済である。寧波は、中国商人発祥の地とも呼ばれ、上海人の1/4は寧波出身者と言われている。また、寧波は華僑の故郷としても有名で、30万人以上の寧波人が世界50以上の国と地域に居住している。海外の寧波人は、寧波市と世界を結ぶ重要な架け橋となっている。

 2021年末までに、寧波には香港、上海、深圳の三大メインボードに上場する企業が84社立地し、中国で第9位の規模を誇っている。現在、寧波GDPの80%以上が民営経済によって生み出されている。

 2021年、寧波の地域内総生産(GDP)は1兆4,595億元(約29.2兆円、1元=20円換算)で、中国第12位であった。成長率は、前年比8.2 %であった。一人当たりGDPは15万3,922元(約308万円)で、中国第12位だった(詳しくは「【ランキング】世界で最も経済リカバリーの早い国はどこか? 中国で最も経済成長の早い都市はどこか?」を参照)。

■ 人口吸収でメガシティが目前に


 経済成長が人口を吸引し、2021年末の常住人口は約954万人で中国では第22位の人口規模であった。寧波は、流入人口が杭州とほぼ同等で約327万人であり、全国から多くの人口を吸い上げている。よって寧波は中国第11位の人口流入都市となっている。寧波は人口1000万人を超えるメガシティになるのも時間の問題だ。

人口吸収都市

2021年末の常住人口は約954万人で中国第22位であった。人口の流出入を示す「流動人口(非戸籍常住人口)」では、浙江省内11都市のうち9都市は、外部から人口が流入している。寧波は、流動人口が杭州と同等の約327万人の大幅プラスであり、周辺から多くの人口を吸い上げている。よって寧波は中国第11位の人口流入都市となっている。


中国都市総合発展指標2021
第14位


 寧波は〈中国都市総合発展指標2021〉総合ランキング第14位であり、前年度の順位を維持した。

 「経済」大項目は第12位で、前年度の順位を維持した。3つの中項目で「経済品質」は第11位、「発展活力」および「都市影響」は第12位で、3中項目のうちトップ10入りした項目はなかった。小項目では、「広域中枢機能」は第8位、「開放度」は第9位、「経済構造」は第10位と、9つの小項目のうち3項目がトップ10に入った。なお、「経済規模」は第12位、「ビジネス環境」は第13位、「経済効率」は第15位、「イノベーション・起業」は第16位、「都市圏」「広域輻射力」は第19位であった。

 「社会」大項目は第18位で、前年度に比べ順位が1つ下がった。3つの中項目で「生活品質」は第16位、「ステータス・ガバナンス」は第20位、「伝承・交流」は第26位だった。小項目で見ると、9つの小項目のうち、トップ10入りした項目はなかったものの、「居住環境」は第12位、「社会マネジメント」は第13位、「文化娯楽」「消費水準」は第17位と、5項目がトップ20に入った。なお、「生活サービス」は第25位、「人口資質」は第31位、「都市地位」は第32位、「歴史遺産」は第33位、「人的交流」は第34位であった。

 「環境」大項目は第29位で、前年度より順位を4つ上げた。3つの中項目のうち「空間構造」は第28位、「環境品質」は第38位、「自然生態」は第83位であった。9つの小項目のうち、トップ10入りした項目はなかったものの、「環境努力」は第14位、「都市インフラ」は第20位と、2項目がトップ20に入った。なお、「コンパクトシティ」は第26位、「交通ネットワーク」は第38位、「汚染負荷」は第40位、「気候条件」は第71位、「資源効率」は第77位、「自然災害」は第93位、「水土賦存」は第205位であった。


 〈中国中心都市総合発展指標2021〉について詳しくは、メガシティの時代:中国都市総合発展指標2021ランキングを参照。

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■ 製造業スーパーシティとしての発展


 寧波は、港湾と民間活力をベースに現在、一大製造業スーパーシティに成長した。〈中国都市総合発展指標〉の「中国都市製造業輻射力2020」では寧波は中国で第5位。2021年、同市の工業付加価値は6,298億元(約12.6兆円)を達成し、前年比で11.0%の増加となった。輸出総額も前年比19%増の7,624億元(約15.2兆円)で、中国第5位(詳しくは「【ランキング】中国で最も輸出力の高い都市はどこか?」を参照)。

 製造業の成長に伴い、科学技術への投資も大きく拡大している。〈中国都市総合発展指標〉の「中国都市科学技術輻射力2021」で寧波は中国第9位であり、トップ10にランクインした。「R&D人員」は中国第9位、「特許取得数指数」は中国第16位、「国際特許取得総数」は中国第14位と、科学技術力を測る多くの指標が高い成績を収めている。その結果、市内にユニコーン企業が3社立地し、その企業価値は760億ドル(約10.6兆円)に達している。


【ランキング】誰がラグジュアリーブランドを消費しているのか?

雲河都市研究院

編集ノート:ラグジュアリーブランドの巨人、LVMHグループのCEOアルノーと、テスラのイーロン・マスクは、世界長座番付のトップの座を争っている。両者に共通するのは、その成功を、中国の市場に大きく依存していることである。いまや世界最大の高級品市場となった中国において、各都市、そして各メガロポリスはどのようなラグジュアリーブランド消費パフォーマンスを演じているのか?背後にはどのような地域文化の違いがあり、どのような都市発展ロジックがあるのだろうか?雲河都市研究院が”中国都市ラグジュアリーブランド指数”を用いて、解説する。


 過去20年間、グローバリゼーションは世界の富を急速に増やし、国際的な高級品消費も前例のない成長を遂げた。2022年、世界の個人向け高級品市場は2000年の3倍に膨れ上がった。なかでも中国の経済成長による高級品消費益は際立っている。2019年には、中国が世界の個人向け高級品市場の33%を占めた。新型コロナウイルスのパンデミック下ではそのシェアが若干減少したものの、中国のシェアは2030年までに世界の40%に達すると予測されている。

図 国別・個人向け高級品世界市場推移

1.中国都市ラグジュアリーブランド指数ランキング


 中国都市総合発展指標に基づき、雲河都市研究院は毎年、全国297の地級市以上の都市を対象にした「中国都市ラグジュアリーブランド指数」を発表している。この指数は、エルメス、ルイ・ヴィトン、グッチ、カルティエ、プラダ、フェンディ、コーチ、シャネル、ディオール、バーバリー、ブルガリの、世界の11のラグジュアリーブランドをサンプルとし、これらのブランドが中国各都市で持つ店舗数を指数化し分析を行っている。

 「中国都市ラグジュアリーブランド指数2022」(以下、「指数」)の上位10都市は、上海北京成都杭州西安深圳天津重慶瀋陽武漢で、同10都市の国際的なトップブランド店舗数は全国の53.8%を占め、特に上海と北京の店舗数の多さが目立っている。

 第11位から第30位の各都市は、広州大連寧波長沙南京ハルビン太原、蘇州、石家荘廈門昆明長春済南青島鄭州貴陽合肥、無錫、南寧ウルムチだった。

 上位30都市での全国シェアが87%に達し、その中でも、蘇州と無錫を除くすべてが中心都市であった。直轄市や省都、自治区首府、計画単列市などの中心都市が、ラグジュアリーブランドの消費を引っ張っていることがわかった。

図 中国都市ラグジュアリーブランド指数2022ランキング

 周牧之東京経済大学教授は、「中国西部地区の成都、西安、重慶が其々第3位、第5位、第8位となり、昆明、貴陽、南寧、ウルムチなど中心都市もトップ30に入り、西部地区の消費力を示した。一方、東北地区は近年経済成長が振るわなかったにもかかわらず、高級ブランド消費では決して劣っていない。瀋陽が第9位にランクインし、大連、ハルビン、長春などの北東部の中心都市もすべてトップ30入りした。この結果から、経済水準が一定の段階に達すると、高級品消費が都市の文化個性に大きく左右されることがわかる」と説明した。

図 中国都市ラグジュアリーブランド指数2022シェア

図 中国都市ラグジュアリーブランド指数2022トップ30都市

2.メガロポリスにおける国際ブランド消費の傾向


 ラグジュアリーブランドの消費は、メガロポリス間でも明らかな違いがある。本稿では、全国で経済規模がトップ10にランクインしているメガロポリスの「指数」偏差値を元に、箱ひげ図と蜂群図の重ね合わせ分析をし、各メガロポリスの偏差値の差異を明らかにした(中国のメガロポリスについて詳しくは【メインレポート】メガロポリス発展戦略を参照)。

 箱ひげ図の水平線はサンプルの中央値を示し、箱の上部は上四分位数(75%)、箱の下部は下四分位数(25%)を示しており、箱内はサンプルの50%の分布状況を示している。蜂群図は、個々のデータ点の分布状況を描き、箱ひげ図と蜂群図を重ねることで、各サンプルの位置と全体の分布状況を同時に示すことができる。

 図が示すように、長江デルタ(上海・江蘇・浙江・安徽)、珠江デルタ(広東)、京津冀(北京・天津・河北)、成渝(四川・重慶)、長江中游(湖北・湖南・江西)、粤閩浙沿海(広東・福建・浙江)、山東半島(山東)、北部湾(海南・広西)、中原(山西・安徽・河南)、関中平原(陝西・甘粛)の10メガロポリスを見ると、長江デルタメガロポリスはラグジュアリーブランドの店舗数が最も多く立地し、全国シェアは26.8%に達している。上海が群を抜く首位に立ち、杭州が続き、寧波、南京、蘇州、合肥、無錫も「指数」の上位30位に入っている。長江デルタは、上位30都市が最も密集しているメガロポリスである。

 京津冀メガロポリスのラグジュアリーブランドの店舗数は、全国シェアの16.6%を占める。上記の全国ランキングにおいて北京は第2位、天津は同7位で、石家庄もトップ20入りしている。

 成渝メガロポリスでは、ラグジュアリーブランドの店舗は成都と重慶の二つの中心都市に集中している。両都市の全国シェアは9.8%に達し、西南地区の消費熱を表している。

 しかし、珠江デルタメガロポリスでは、ラグジュアリーブランドの消費で異なる風景を見せる。深圳は「指数」のランキングで成都、杭州、西安に遅れをとって第6位に留まった。広州はトップ10から脱落した。珠江デルタのラグジュアリーブランドの店舗は、全国の僅か6.8%を占めるに過ぎず、成渝メガロポリスより3%ポイント低い。

 関中平原メガロポリスでは、西安が一人勝ちしている。西安が全国第5位に堂々ランクインしたことで、関中平原のラグジュアリーブランド店舗数は全国の4.3%を占め、山東半島メガロポリスの4.1%をわずかに上回る結果となった。

 粤閩浙沿海、中原、北部湾メガロポリスのラグジュアリーブランドの店舗数は、全国に占める割合がそれぞれ2.8%、2.0%、1.8%で、主に各メガロポリスの中心都市に集中している。

 周牧之教授は「東北地区とは逆に、経済的に裕福な珠江デルタが国際的に名の知れたブランド商品への消費にやや積極性を欠いている」と指摘する。

図 10メガロポリスにおける
中国都市ラグジュアリーブランド指数”パフォーマンス分析

3.ラグジュアリーブランドを消費しているのは誰か


 ラグジュアリーブランドの消費における地域間の差異の原因を探るため、本稿では〈中国都市総合発展指標〉を利用し、中国297地級市以上の都市の「指数」と、主要指標との相関分析を行い、いくつかの興味深い相関関係を抽出した。

 相関係数は、二つの変数間の関係の強さと方向を示す統計的な尺度である。相関係数は-1から1までの値をとり、相関係数の絶対値が1に近いほど、二つの変数間の関係性が強いことを意味する。一方、相関係数が0に近い場合、二つの変数間にはほとんどまたは全く関係性がないことを示す。一般的に、相関係数は、0.9~1は「完全相関」、0.8~0.9は「極度に強い相関」、0.7~0.8は「強い相関」、0.5~0.7は「相関がある」、0.2~0.5は「弱い相関」、0.0~0.2は「無相関」であると考えられる。

 まず、「指数」と製造業の波及効果を示す「製造業輻射力」の相関係数は0.51となった。これは「弱い相関」である。一方、同指数と「金融輻射力」、「IT産業輻射力」の相関係数はそれぞれ0.95、0.87となり、「完全相関」と「極度に強い相関」である。

 周牧之教授は「大部分の製造業労働者の収入が相対的に低い一方で、金融業やIT産業は高度人材を引きつける力が強い。このことが高級ブランド消費に忠実に反映されている」と解説する。

 次に、「指数」と国内外の観光客数の相関はそれぞれ0.52と0.54であった。逆に、「指数」と「映画館・劇場消費指数」の相関係数は0.88と非常に高い。周教授はこの点について「パリや東京のように、街中に高級ブランドを買い漁る観光客が溢れているのとは異なり、中国都市の国際ブランド消費は、外部の購買力に頼っていない。そのため、「指数」はむしろ内生的な消費を反映する「映画館・劇場消費指数」との相関関係が高い。同時にこれは、観光客が中国国内でのラグジュアリーブランド消費の主力になっていないことも示している」と説明する。

 6月27日に、ルイ・ヴィトン・モエ・ヘネシー(LVMH)グループのCEO、ベルナール・アルノーが中国を訪れ、炎天下にもかかわらず同グループの店舗を巡回した。彼は、イーロン・マスクと世界一の富豪の座を争っており、双方とも、中国市場に大いに依存している。「指数」の11ブランドのうち、4ブランドが同グループに由来する。

 周教授は「中国は、”メイドインチャイナ”という単一のエンジンで推進する経済体から、”世界の工場”と”世界の市場”という二つのエンジンを持つ経済体へと変貌を遂げた。ビジネス分野が全く異なるとはいえ、マスクも、アルノーも、中国市場で世界のトップに上りつめた。今日、世界最大の自動車市場である中国では、既にBYDを筆頭に、イーロン・マスクのテスラと肩を並べるEV製造業者が多数台頭してきている。これから中国がどれほどの時間を要して自身のラグジュアリーブランドを生み出すかが楽しみである」と言う。


【日本語版】『【ランキング】誰がラグジュアリーブランドを消費しているのか?』(チャイナネット・2023年7月13日)

【中国語版】『谁在消费国际顶级奢侈品牌?』(中国網・2023年6月29日)

【英語版】『Who are buyers of global top luxury goods?』(中国国務院新聞弁公室・2023年7月11日、China Daily・2023年7月12日、China.org.cn・2023年7月11日)


西安:一帯一路で甦る古都長安のパワー【中国中心都市&都市圏発展指数2021】第12位

中国中心都市&都市圏発展指数2021
第12位


 西安市は中国中心都市&都市圏発展指数2021の総合第12位に輝いた。同市は前年度より順位を1つ下げた。

 〈中国中心都市&都市圏発展指数は、中国都市総合発展指標の派生指数として、4大直轄市、22省都、5自治区首府、5計画単列市からなる36の中心都市の評価に特化したものである。同指数は、これら中心都市を、全国297の地級市以上の都市の中で評価している。10大項目と30の小項目、116組の指標からなる。包括的かつ詳細に、中国中心都市の発展を総合評価するシステムである。

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〈中国中心都市&都市圏発展指数〉:【36中心都市】北京、上海、深圳、広州、成都、天津、杭州、重慶、南京、西安、寧波、武漢、青島、鄭州、長沙、廈門、済南、合肥、福州、瀋陽、大連、昆明、長春、ハルビン、貴陽、南昌、石家荘、南寧、太原、海口、ウルムチ、蘭州、フフホト、ラサ、西寧、銀川


■ 西北地域の最大都市


 西安は陝西省の省都で、中国西北地域の政治・経済・文化の中心地である。古くは長安や鎬京と呼ばれ、関中平原メガロポリスの中心都市となっている。2021年末現在、西安市は11区と2郡を管轄し、東西は204キロメートル、南北は116キロメートルにわたり、面積は10,752平方キロメートル(岐阜県と同程度)で中国第170位である。

 西安は紀元前11世紀からから約2,000年の間、秦、漢、隋、唐など13の王朝の都として栄えてきた。1981年に国連教育科学文化機関(ユネスコ)が選定した世界十大古都の一つに数えられている。西安は中華文明の重要な発祥地であり、シルクロードの起点でもある。

■ 豊かな自然資源の恵み


 西安は中国の北西部、関中平野の中央に位置し、北は渭河、南は秦嶺山脈に囲まれ、地理的な境界が明確な都市である。8つの河川が潤すことから、古くから「八水繞長安」と評されている。

 市内の海抜変化は大きく、中国で最も高度差が激しい地域である。秦岭山脈の海抜は2,000〜2,800メートルで、中でも最南西部にある太白山の最高峰は海抜3,867メートルあるのに対して、渭河平原の海抜は400〜700メートルとなっている。

 秦岭山脈には、高山の灌木草地、針葉樹林、針広葉混交林、落葉広葉樹林などの自然植生タイプが垂直に分布している。秦岭山脈は野生植物資源の宝庫であり、138科681属2224種の野生植物が存在し、中国の種子植物の重要な遺伝資源庫の一つである。また、野生動物資源も多く生息し、哺乳類55種、鳥類177種が含まれ、その中にはジャイアントパンダ、金絲猴、扭角羚秦岭亜種、スマトラカモシカ、オオサンショウウオ、黒鶴、白冠長尾雉、血雉、金雞などの希少動物も含まれている。自然生態系と珍種動植物資源を保護するため、3つの国家級自然保護区が設けられている。西安の「国家公園・保護区・景観区指数」は中国第21位である。

 西安は暖温帯の半湿潤大陸性季風気候に属し、寒暖、乾湿の差があり、四季がはっきりしている。年平均気温は13℃、年降水量は600-650ミリメートルで、その大部分が夏季に集中している。「気候快適度」は中国第173位、「降雨量」は中国第195位である。

■ 内陸部の一大消費地


 2021年における西安の地域内総生産(GDP)は1兆688億元(約21.4兆円、1元=20円換算)で、中国第24位であった。成長率は、前年比4.1%増、過去2年の平均成長率は4.6%であった。その中で、第一次産業GDPは308億元(約6,160億円)で6.1%増、第二次産業GDPは3,585億元(約7.2兆円)で0.9%増、第三次産業GDPは6,794億元(約13.6兆円)で5.7%増であった。一人当たりGDPは8万3,689元(約167万円)で、中国第91位だった(詳しくは【ランキング】世界で最も経済リカバリーの早い国はどこか? 中国で最も経済成長の早い都市はどこか?を参照)。

 住民消費価格(CPI)は前年比1.7%上昇し、商品小売価格は1.4%上昇した。新築住宅の販売価格は7.5%上昇し、中古住宅の販売価格は6.3%上昇した。

 企業の小売売上動向を示す社会消費品零售総額は4,963億元(約9.9兆円)で、前年比0.8%増であった。その中で、内訳がわかる限度額以上企業の小売売上高は2,420億元(約4.8兆円)で、前年3.8%減少した。

 西安の消費力は西北部地域で群を抜いて高く、「国際トップブランド指数」では深圳、広州などを抑えて中国第5位にランクインしている。

■ 内陸部三大貿易地の一つ


 2021年における西安の輸出入総額は前年比26.5%増の4,400億元(約8.8兆円)で、中国第19位であった。うち輸出総額は前年比33.0%増の2,362億元(約4.7兆円)で、中国第22位。輸入総額は前年比19.8%増の2,038億元(約4兆円)で、中国第18位であった。これは成都、鄭州に続く内陸都市としての好成績である(詳しくは【ランキング】中国で最も輸出力の高い都市はどこか?を参照)。

 外資利用額(実行ベース)は87億ドル(約1.2兆円、1ドル=140円換算)で、前年比13.5%増であった。

■ 一大人口吸収都市


 2021年末の常住人口は約1,316万人で中国第9位であった。人口の流出入を示す「流動人口(非戸籍常住人口)」では、陝西省内10都市のうち9都市は、外へ人口が流出している。これに対して西安は、流動人口が約317万人の大幅プラスであり、周辺から多くの人口を吸い上げている。よって西安は中国第12位の人口流入都市となっている。

■ 西北地域における航空、鉄道の中枢


 西安は中国西北部の重要な交通ハブを担っている。その機能は一帯一路政策によってさらに強化されている。

 中国都市総合発展指標の「空港利便性」項目で西安は中国第9位、航空旅客数も第9位である(詳しくは【ランキング】中国で最も空港利便性が高い都市はどこか?を参照)。

 「鉄道利便性」は中国第18位、「高速鉄道便数」も第18位で、「準高速鉄道便数」は第4位であった。


中国都市総合発展指標2021
第12位


 西安は〈中国都市総合発展指標2021〉総合ランキング第12位であり、前年度の第13位から、順位が1つ上がった。

 西北地域の中心都市として「社会」大項目は第8位で、前年度に比べ順位が2つ上がった。3つの中項目で「伝承・交流」は第5位でトップ10入りし、「ステータス・ガバナンス」は第11位、「生活品質」は第15位だった。小項目で見ると、「歴史遺産」は第2位、「社会マネジメント」は第6位、「人的交流」は第7位、「文化娯楽」は第10位と、9つの小項目のうち7項目がトップ10に入った。なお、「都市地位」「居住環境」は共に第11位、「人口資質」は第12位、「生活サービス」は第18位、「消費水準」は第22位であった。西安市内に最高等級病院「三甲病院」は26カ所で、その規模は中国第9位である。医療従事者は12.3万人で、そのうち医師は4.3万人と中国第12位の規模を持つ。

 「経済」大項目は第14位であり、前年度に比べ順位が1つ上がった。3つの中項目で「発展活力」は第11位、「都市影響」は第16位、「経済品質」は第20位で、3項目のうちトップ10入りした項目はなかった。小項目では、「広域輻射力」は第9位と、9つの小項目のうち1項目がトップ10に入った。なお、「ビジネス環境」「イノベーション・起業」は第12位、「開放度」は第14位、「経済規模」は第15位、「広域中枢機能」は第16位、「経済構造」は第20位、「都市圏」は第24位、「経済効率」は第88位であった。

 「環境」大項目は第76位で、3つの中項目のうち「空間構造」は第15位、「環境品質」は第151位、「自然生態」は第212位であった。9つの小項目のうち、トップ10入りした項目はなかったものの、「コンパクトシティ」は第16位、「環境努力」は第17位、「交通ネットワーク」は第18位、「都市インフラ」は第19位と、4項目がトップ20に入った。

 なお「資源効率」は第93位、「自然災害」は第160位、「気候条件」は第176位、「水土賦存」は第187位、「汚染負荷」は第241位であった。2021年のPM2.5年間平均濃度は41マイクログラム/標準立方メートルで、前年比19.6%減少しているものの、全国順位は第260位と芳しくない。二酸化炭素の排出量も多く、その規模はワースト27位と落ち込んでいる。西安市政府はその現状を打破するため、環境改善に向けた努力に多くのリソースを注いでおり、「環境努力指数」は第9位と善戦している。


 〈中国中心都市総合発展指標2021〉について詳しくは、メガシティの時代:中国都市総合発展指標2021ランキングを参照。

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■ 中国トップクラスの観光都市


 西安は中国屈指の観光地である。市内には現在、秦始皇陵、兵馬俑、大雁塔、小雁塔、唐長安城の大明宮遺跡、漢長安城の未央宮遺跡、興教寺塔などの世界遺産があり、その他にも西安城壁、鐘楼・鼓楼、華清池、終南山、大唐芙蓉園、陝西歴史博物館、碑林などの著名な観光地を有している。その結果、中国都市総合発展指標の「世界遺産」において、西安は中国第5位、「無形文化財」は第6位、「重要文化財」は第10位と高順位を誇る。

 こうした文化遺産に魅了された観光客が毎年大勢国内外から同市を訪れている。中国都市総合発展指標の「国内観光客」で、西安は第11位、「国内観光収入」は第16位となっている。

■ 文化・娯楽都市としての輝き


 内外の観光客を惹きつけているのは、文化遺産だけではない。西安は文化・娯楽も盛んな都市である。中国都市総合発展指標の「文化・スポーツ・娯楽輻射力」で中国第6位となっている。

 文化面では、市内には博物館(民間のものを除く)が136館あり、「博物館・美術館指数」は中国第8位、「動物園・植物園・水族館」は中国第10位である。公立図書館は14カ所あり、毎年合計217.5万人が利用し、その蔵書量は中国第2位を誇る。コンベンション産業の発展度合いを示す「展覧業発展指数」は中国第14位であった。

 娯楽面では、「映画館・劇場消費指数」が中国第11位である。スポーツ面では、「スタジアム指数」は第100位に甘んじているものの、西安からはオリンピック金メダリストが4名排出され、「オリンピック金メダリスト指数」は中国第20位となった。

■ 名門大学が数多く立地


 新中国成立以来、西北の中心地である西安に、多くの大学が置かれた。西安交通大学、北西理工大学、西安電子科技大学など7つのトップクラスの大学が立地している。

 中国都市総合発展指標の「高等教育輻射力」で西安は中国第6位を誇り、高等教育機関(大学・専門学校)は63校で、学生は78.4万人で中国第7位。

 大学が数多くあることで、西安は人材輩出の豊富さを示す「傑出人物排出指数」で中国第9位に輝いている。また、国家を代表する研究者の排出数を示す「中国科学院・中国工程院院士指数」は第4位と、中国トップクラスの順位である。他方、住民の教育水準を示す「人口教育構造指数」も第7位である。


【講義】 阮蔚 vs 周牧之:誰が増え続ける世界人口を養うのか?

レクチャーをする阮蔚氏

■ 編集ノート: 

 東京経済大学の周牧之教授の教室では、リアルな学びの一環として第一線の経営者や研究者、ジャーナリスト、官僚らをゲスト講師に招き、グローバル経済社会の最新動向を議論している。2023年5月18日、農林中金総合研究所理事研究員の阮蔚氏を迎え、講義していただいた。

 緑の革命と貿易拡大によって支えられた世界食糧供給体制と、戦争などがもたらす食糧危機について議論した。


■ ローマクラブの「成長の限界」


周牧之:きょうは世界の食糧と農業に関して深い知識を持つ阮蔚氏を招き、世界の食糧需給バランスと主要国の政策の変遷について講義いただく。その前に、私から現在の世界食糧需給の背景について説明したい。

 1972年、ローマクラブという欧米のエリートが集まる学術団体から『成長の限界』というレポートが公開された。同レポートは、地球がこれ以上の人口を支えられないと予言し、警告したもので、大きな反響を巻き起こした。その内容は当時の政策立案者たちの重要な道標となった。

 同レポートの警鐘にもかかわらず、世界人口は1972年から現在に至るまで倍増し、今もなお増加し続けている。

 『成長の限界』で大きな問題として取り上げられたのが食糧供給問題だが、同レポートの憂慮をよそに、世界食糧供給は増え続けた人口を養えただけでなく、いまや供給過剰になっている。

■ 人類の繁栄を支えた「緑の革命」


周牧之:世界食糧供給を拡大させた要因は主に二つある。一つ目は「緑の革命」だ。「緑の革命」については解釈が様々あるが、基本的には、化学肥料や農薬、品種改良、灌漑施設、遺伝子組み換え、機械化、組織化などの導入を通じて、農業の生産性向上をはかったものである。

 グラフ「緑の革命:単位面積当たりの穀物生産量が大幅に向上」の作成にはかなりの時間を費やしたが、非常に興味深い。『成長の限界』より遡る1961年のデータから始め現在まで、世界の穀物生産用地面積は、たった14%しか増えていない。それに対して人口は1961年から2.5倍に増えた。これに対して、穀物の生産量は、人口の増加率を超え、なんと250%増、すなわち3.5倍になった。穀物生産量増大の最大の要因は、単収(単位面積当たり収穫量)が急激に増加したからだ。言い換えれば、土地の生産性が劇的に向上した。これは「緑の革命」の成果である。

■ 農産物のグローバル・トレード


周牧之:増大し続ける地球の人口を養うもう一つの要素は、農産物の貿易だ。農産物貿易アイテムとして、金額ベースで多いものから順に、園芸作物(野菜、果樹、花など)、油用種子、穀物、肉類、そして魚介類・水産物となる。

 農産物輸出量が最も大きい国は順に、アメリカ、ブラジル、オランダ、ドイツ、中国だ。一方、最も多く輸入している国は中国、アメリカ、ドイツ、オランダ、そして日本となる。

 農産物の二国間貿易において、取引量がトップ5に入る組み合わせを見てみると、最も多いのはブラジルから中国への貿易だ。次いで、アメリカから中国への取引、メキシコからアメリカ、オランダからドイツ、そしてカナダからアメリカへの貿易、と続く。

 こうした大規模でかつ複雑な農産物の貿易と、「緑の革命」によって、我々の生活は支えられてきた。「化学肥料貿易フロー」のグラフが示すように、実は、「緑の革命」自体も、化学肥料貿易に支えられている。

 ところが、1年前のロシアによるウクライナ侵攻は、世界の食糧供給システムを大混乱させた。石油の価格と同様に、穀物価格は急騰した。今は少し落ち着いてきたが、「食糧危機」という近年忘れ去られていた政策イシューが、再び浮上してきた。

 本日のゲスト講師、阮さんに、この複雑な世界の食糧事情について講義していただく。

■ 2022世界食糧危機は人災


阮蔚:周先生が只今説明された世界食糧問題の全体像の詳細について、また、なぜそうなったのかについて、少々時間をかけて説明したい。主に私の著書『世界食料危機』の要点を抽出してお伝えする。

 日本にお住まいの方にはあまり感じられないと思うが、実は世界ではいま食糧危機が発生している。まずはその現状から説明したい。

 昨年、人為的な要因により世界的な食糧危機が発生した。国連食糧農業機関(FAO)、世界食糧計画(WFP)などの報告によれば、2022年に紛争や自然災害で深刻な食糧不足に陥った人々(急性飢餓人口)の数が、過去最多の2億5,800万人に達した。これは日本の人口の倍にあたり、前年に比べて6,500万人増加したことになる。

 この状況はなぜ生じたのか、周先生の説明の中にも含まれていたが、要因の一つに、食糧価格の急騰が挙げられる。昨年、ロシアのウクライナ侵攻によって小麦の国際価格は史上最高値を記録した。

 ロシアとウクライナは近年、世界有数の小麦輸出国となり、両国の小麦輸出量は世界全輸出量の約3割も占めるようになった。ところが、戦争によって両国の小麦は輸出できなくなり、小麦の国際価格が高騰した。小麦の自給率が低く輸入に頼るアフリカなど途上国は、輸入量の減少で大きな打撃を受けた。

 しかし、近年の世界全体の小麦生産量と輸出量、及び期末在庫は中長期的スパンでみると決して低い水準ではない。つまり、世界には「モノ」が存在している。飢餓問題は単に食糧不足や農業問題だけで片付けられない。それより遥かに広範囲で複雑な課題を抱えている。これらの問題を理解するためには多角的な視点が必要となる。

 経済学を専攻している皆さんなら、飢餓問題が食糧供給の問題だけでなく、分配の問題、政治的問題でもあることをすぐに思い起こすだろう。

 例えば、充分な食糧が存在しながらも、不平等な分配やアクセスの格差が原因で、一部の人々が適切な食糧を得られない状況が生じる。また、政治的混乱や紛争は、食糧の生産、輸送、分配にネガティブな影響を与え、飢餓を引き起こす原因となり得る。

 よって、飢餓問題はただ食糧不足の問題というより、むしろ社会経済的な問題、政治的問題としての側面を持つ。ここで私が特に強調したいのは以上の点だ。

レクチャーをする周牧之東京経済大学教授

コメ価格の圧倒的な安定性


阮蔚:2022年に世界の食糧は不足していなかった。そう言い切れる一つのデータがある。それは、世界のコメ価格と小麦価格の関係性を示したデータだ。これまでの数十年間に、コメ価格は一貫して小麦価格を上回っていた。ところが、昨年は世界全体で食糧危機が叫ばれていたにもかかわらず、世界のコメ価格は大きく上がらなかった。さらに、昨年小麦価格が史上最高値を記録した同時期に、小麦価格がコメ価格を上回る逆転現象が発生した。これは、世界では食糧という「物資」が不足していないことを示している。

 小麦とコメは世界の2大主食穀物だ。ただ、世界の多くの国で消費している小麦に比べて、コメは主としてアジアの主食となっている。またアジアのコメは自給自足の色合いが強く、生産量に対する輸出比率は低い。

 アジアの特徴は人口の多さと、その農業規模の小ささだ。零細農家が大半を占めることから、コメの価格が小麦より高い。

 小麦の輸出国は主として米国や欧州、豪州等先進国であり、生産は大規模化・機械化が進み、一般的に小麦の価格は低めに推移していた。

 昨年、その傾向が逆転し小麦の価格が急上昇したが、コメの価格はほとんど変わらなかった。モノ(物資)としての食糧は十分に存在していたからだ。コメの価格は今年に入ってから少し上昇している。昨年の肥料や燃料の価格高騰伴い、コメの生産コストが上がったことが、コメの価格上昇につながった。

■ 貿易財としての小麦


阮蔚:麦のもう一つの特徴は、小麦が貿易材としての役割を果たしている点だ。世界の全体的な輸出比率を見ると、小麦(赤い折れ線)は常に2割以上を占めており、近年ではおよそ25%になっている。これはつまり、小麦生産の2割以上は輸出のためであることを示している。特にアメリカでは、生産される小麦の約半分が輸出用に供されている。

 一方、コメの輸出比率は数パーセントに過ぎない。近年、僅かながら増加傾向にあるが、1961年から2020年までの半世紀以上にわたり、コメの輸出比率は4%から6.9%にでしかない。これは、コメが主に自給自足で用いられ、貿易材としてはあまり重視されていないことを意味する。中国やインドに代表されるアジアの国々では、コメの完全な自給を目指しており、わずかな過不足の調整としてコメを輸出入している。

 輸出量を見ると、小麦は折れ線グラフで示され、下のブルーのラインは米を示している。近年特徴的なのは、トウモロコシと大豆の輸出量が急激に増えていることで、これは中国の影響が大きいと考えられる。

 世界の主要な小麦輸出国に目を向けると、歴史的に長期にわたってのリーダーはアメリカで、これに欧州、カナダ、オーストラリアが続いた。21世紀以降、ロシアとウクライナからの輸出が増加し、2014年以降ロシアがアメリカに代わり世界最大の小麦輸出国となった。

■ 「マルサスの罠」の克服


阮蔚:この半世紀で世界の人口は2.1倍に増えたが、それに伴い穀物生産量は2.5倍、化学肥料の使用量は2.7倍に増加した。これは化学肥料の投入増加により、穀物の増産が可能になり、それによって世界の人口が維持されていることを示している。多くの地域で化学肥料が効果を発揮するための灌漑設備が必要となり、世界の灌漑面積も同様に拡大した。つまり、世界全体でみると、私たちが「マルサスの罠」を克服してきた事実が浮かび上がる。

 化学肥料の輸出は、首位はロシア、次いでベラルーシが多い。一方、アフリカやブラジル、アジアなどの途上国の多くはロシアからの化学肥料輸入に依存している。しかし、現在、米欧がロシアの化学肥料輸出に制裁に近い措置を実施しているため、ロシアの化学肥料輸入に依存する多くの途上国の食糧生産に、影響を及ぼす可能性がある。

レクチャーをする阮蔚氏

■ 異常気象が食糧生産に影響


阮蔚:今、私たちはまた別の重大な問題にも直面している。それは食糧生産における気候変動のリスクだ。以前は「異常気象」と称されていた現象が、近年では常態化し、事実上の「新常態」になりつつある。

 昨2022年の急性飢餓人口のうち、自然災害に起因するのは約6,000万人にものぼった。これは日本の人口の半分に匹敵する数だ。対して2021年の自然災害が原因となる急性飢餓人口は、それの半分程度だった。では、昨年何が起こったのか。一つの要因として挙げられるのが、「アフリカの角」(エチオピア、ソマリア、ケニア、ジブチ、エリトリア等、アフリカ大陸東部の地域)における連続する干ばつだ。これが5期連続となったのは、歴史を見ても初めての事態で、私たちが新たに直面する大きな課題である。

 2022年はまた、世界の三大河に干ばつが発生した。北半球にある三つの大河すなわちライン川、ミシシッピ川、中国の長江が、昨年、同時期に干ばつに見舞われた。これは記録史上初めての現象だ。昨年は干ばつだけでなく、パキスタンなどで大洪水が発生した。干ばつも洪水も、食糧生産に大きな影響を及ぼした。

■米欧の農業「補助金」とアフリカの小麦輸入依存


阮蔚:世界の飢餓に苦しむ人口は、主としてアフリカや中東、南アジアの途上国で増えている。なぜこのような状況になったのか。それはこれら途上国がロシアやウクライナなどからの輸入小麦に大きく依存しているからだ。国別でみると、エジプト、トルコ、ナイジェリア、イエメン、タンザニアなどはロシアとウクライナの小麦の主な輸入国だ。

 国連食糧農業機関が昨年11月に出したレポートによると、昨年10月まで、先進国の食糧輸入量は増加したが、途上国の食糧輸入量は前年比10%も減少している。まさに昨年、アフリカなどの途上国の食料輸入減により、これらの国々で飢餓人口が増えた。

 では、なぜアフリカが輸入に大きく依存しているのか、そしてなぜアメリカとEUが最大の輸出国と輸出地域となっているのか。

 主な要因は米欧の農業分野における巨額の「補助金」にある。EUを例に取れば明らかだ。EUの予算のうち、1990年代までは農業予算が6割から7割を占めていた。1990年代以降、EUは度重なる改革により、農業予算のウエートを低下させたものの、依然として約4割を占めている。アメリカも手厚い農家所得支持措置を採っている。

 こうした補助金の下でアメリカとEUの農家は、穀物の市場価格が下がっても生産が続けられる。主として米欧の穀物供給過剰により、世界は長い間、「穀物供給過剰と価格低迷」という構造問題を抱えている。

 過剰小麦は主としてアフリカに輸出された。言い換えればアフリカは欧米の過剰小麦のはけ口となった。アフリカの主食はもともと非常に多様で、キャッサバやトウモロコシ、バナナなどが今日でも主食だ。また、キャッサバとトウモロコシは粉にして食べる習慣がある。しかし、米欧などからの輸入小麦の拡大により、アフリカの都市部ではこうした多種多様な主食の習慣が廃れつつある。

■ 終焉を迎える米欧の穀物供給過剰


阮蔚:世界は長い間、主として米欧が主導する穀物供給過剰と価格低迷という構造問題を抱えていたが、こうした米欧の穀物供給過剰の状況は終焉を迎えようとしている。要因の一つは世界の飼料原料需要が人間の主食穀物の需要を上回るスピードで増えていることにある。

 1980~2020年までの40年間、世界の主食穀物(小麦とコメ)生産量の年間平均伸び率は、同期間の人口伸び率に見合う程度の伸びしか達成していない。だが、飼料原料となるトウモロコシ生産の年間平均伸び率は2.7%、大豆は3.8%といずれも人口伸び率を大きく上回った。同期間の世界の食肉(鶏肉、豚肉、牛肉)生産量が2.5倍に拡大したことは、トウモロコシと大豆の生産急拡大を支えていることを示す。また、こうした食肉生産の拡大を支えるのは、主として中国やベトナムなどのアジアの食肉需要増加だ。

 一人当たりの食肉消費量をみると、2019年は、アメリカが依然として最も多い。一方で、中国も食肉消費量が増加し、一人当たり64kgに達した。ミャンマーは62kg、ベトナムは57kg、マレーシアは54kgといずれも日本の51kgを上回る。

 中国の食肉増産を支えているのは国内のトウモロコシ生産拡大と大豆の輸入増だ。中国は2000年に世界最大の大豆輸入国となり、2012年以降世界大豆輸入の6割も占めるようになった。近年、インドネシアやベトナムなどアジア諸国の大豆輸入も増加している。今後、途上国での食肉需要が増える中、世界の飼料穀物の生産及び貿易も拡大するとみられる。

■ バイオ燃料による穀物需要の拡大


阮蔚:米欧先進国が主導する世界の穀物供給過剰状況が終焉を迎えているもう一つの要因は、米欧主導の穀物によるバイオ燃料の消費拡大だ。バイオ燃料とは、トウモロコシや大豆など再生可能な有機性資源(バイオマス)を原料に、発酵、搾油、熱分解などによって生産した燃料を指す。現在、バイオ燃料の代表格はバイオエタノール(アルコール)とバイオディーゼルで、それぞれ自動車など輸送用燃料のガソリンとディーゼル油に混合して使われている。

 アメリカで2005年に成立した「2005年エネルギー政策法」では、トウモロコシ由来を主とするバイオエタノール等の再生可能エネルギー使用を義務付ける「再生可能燃料基準 (RFSⅠ= Renewable Fuel Standard)」の導入が決定された。自動車燃料に含まれるバイオ燃料の混合基準量(製油業界に義務付けるバイオ燃料の混合目標量)が義務化されたことで、2005年からトウモロコシ由来のバイオエタノール生産が急増し、2006年以降、アメリカは世界最大のバイオエタノール生産・消費国となった。

 同時に、EUは世界最大のバイオディーゼルの生産・消費地域となった。アメリカのバイオエタノールの原料はトウモロコシ由来で、EUのバイオディーゼルの原料は主として菜種油由来となっている。

 USDAのデータによると2021年、アメリカでバイオエタノール向けのトウモロコシ使用量は1億3076万㌧と生産量の34.1%にも達しており、これはアメリカの畜産飼料(1億4288万㌧)と肩を並べる需要で、輸出量6350万㌧の2倍以上を占めた。生産量に占める輸出の割合は2005年の19.2%から2021年の16.4%と低下をたどり、アメリカのトウモロコシ輸出拡大の意欲は大幅に弱まっている。

 さらに、近年、注目すべきは、バイオ燃料が地球温暖化対策の柱であるカーボンニュートラルへの大潮流のさなかにあることだ。バイオ燃料は自動車などに使えばCO2を排出するものの、もとは大気中のCO2を光合成で吸収、固定化した原料から製造されたもので、CO2を排出しても吸収分と相殺されると見なされ、カーボンニュートラルの燃料とされる。

 米国環境保護庁(EPA)は昨年、トウモロコシだけでなく大豆油を持続可能な航空燃料(SAF)の主な燃料にする目標を発表した。

 バイオ燃料需要が新たに増大している今、穀物輸出大国アメリカは今後、穀物の輸出を抑え、国内市場回帰により一層傾く可能性がある。穀物供給過剰時代の終焉を迎えつつある。

 世界はまさに食糧安全保障強化の時期に来ている。世界各国の穀物増産、食糧自給自足向上の動きは、大きな流れとなるだろう。世界が巨大な人口を養うためには、穀物の輸出入は欠かせない。現在進みつつある「世界の分断」とは異なる「開かれたグローバル穀物市場」を、世界は維持していく必要がある。

ディスカッションを行う周牧之東京経済大学(左)と李海訓東京経済大学准教授(右)

■ 質疑応答


周牧之: 緑の革命は、農業、とくに小麦産業を大規模な資本投入産業へと変貌させた。よって、アメリカとEUは補助金の投入で、強い生産体制を築いた。その捌け口がアフリカなどの途上国となった。しかし、中国をはじめとするアジアの飼料需要の急増や、バイオ燃料という新ニーズの出現によって、欧米にとってのアフリカ市場の重要さが失われた。そこの穴を埋めたのがロシアとウクライナの小麦の輸出であった。しかしロシアのウクライナ侵攻により、この輸出が急速に減少し、アフリカを食糧危機へと陥れた。

 きょうのゲスト講義に参加された本学の農業経済学専門の李海訓准教授から質問やコメントをいただきたい。

李海訓:2000年代末の穀物価格高騰時、インドやサウジアラビアをはじめとする世界の大手穀物メジャーや投資家が新たな投資先を探していた時期、未開発または開発可能な地域は、アフリカ、南米、ウクライナの3つだったと理解している。その中で、ウクライナが開発対象として選ばれた理由は、南米やアフリカに比べ、ウクライナには旧ソ連時代の灌漑施設を含むインフラがある程度整っていたからだ、というのが私の理解だ。今日の講義で阮先生はウクライナには灌漑施設がないとのお話があった。これは、特定の地域に限定された話なのか、それともウクライナ全体を指すのか、詳細をお聞きしたい。

阮蔚:ご指摘いただいた通り、ウクライナには旧ソ連時代に、コルホーズ(旧ソビエト連邦の集団農業制度の一部で、共同所有と共同労働に基づいた農業生産協同組合)など、中国の人民公社に似た組織が存在し、ある程度の灌漑設備が整備されていた。しかし、ソ連解体後、これらのインフラへの再投資が行われず、老朽化により使用不能な状態のものも多い。これは、新たな投資が必要という事態を示している。なお、当時の輸出は少なく、輸出用の港などは限られていた。そういったインフラの整備も必要だ。

会場:ウクライナへの投資について、中国は投資を行った一方で、日本は投資を見送ったとのこと、その選択の背後には、ウクライナ産小麦の品質が影響しているのか。

阮蔚:確かにその視点もあるが、日本が投資しなかった大きな理由は、日本の穀物輸入が大部分をアメリカから依存している事実があると思う。

レクチャーをする周牧之東京経済大学

■ 「開発輸入」による農産品貿易の安定化


周牧之:農産品貿易を安定化させるために「開発輸入」という考え方がある。これに基づき私は20〜30年前、シルクロード沿いでパイプラインを敷設しカスピ海から石油や天然ガスを中国まで引く大規模プロジェクトを計画した。日本、中国、韓国が共同で参画し、沿線開発を進めるアイデアだ。同プロジェクトでは、エネルギーだけでなく食糧の「開発輸入」も行う。当時、中国はまだ食糧の輸出国だったが、中国がいずれ大輸入国になるとの予測があった。それを前提に作った大型プロジェクトだった。

 プロジェクトに当時の小渕恵三内閣と江沢民政権が賛同し、両国間で、ロシアから中央アジアを経由して中国に石油、天然ガス、穀物を供給する包括的な大プロジェクトが動き出した。しかし後に、日本はプロジェクトから降りた。もっとも、中国は、プロジェクトを続行し、新疆から始めて次第にロシアに向けてパイプラインを伸ばした。開発輸入という考え方も、中国の食糧調達の基盤となり、やがて一帯一路政策に組み込まれていったのだと私は思う。

周牧之『現代版「絹の道」、構想推進を―欧州から日本まで資源の開発・輸送で協力―』、日本経済新聞経済教室、1999年4月1日

■「資本集約型産業」に変貌した農業


周牧之:「緑の革命」に話を戻すと、農業が「資本集約型産業」に変貌したことが重要な要素だ。つまり、大きな投資を必要とする産業になったということだ。グラフ「農業の労働生産性:一人当たり農業付加価値額」が示すように、世界各国の農業労働者一人当たりの付加価値額、すなわち労働生産性を見ると、所得の高い国ほど、労働生産性が高いことがわかる。アフリカのような低所得国と先進国との間には、約50倍の差がある。すなわち農業は資本が投入されれば、付加価値も相応に増える「資本集約型産業」だ。

 結果、資本が乏しい国々では食糧供給が問題となり、先進国への食糧供給依存が深まり、構造的な問題が浮き彫りになる。

 グラフ「カロリー供給と繁栄:平均寿命と一人当たりGDP」が、経済力と平均寿命との間の強い相関関係を示している。カロリーをしっかり供給できる国で平均寿命も長くなっている。

■ 「緑の革命」の恩恵と課題


周牧之:しかし「緑の革命」には未だ解決すべき多くの課題が残っている。大いに成果を挙げ、人口増を支えてきた一方で、農地の過度な開発、化学肥料の過剰使用、農薬問題、種子会社の独占、遺伝子組み換えなど、多くの課題もある。これは地球全体の大きな課題であり、日本経済や中国経済について考える際も、無視できない。


プロフィール

阮 蔚 (ルアン ウエイ)
農林中金総合研究所 理事研究員

中国・湖南省生まれ。1982年上海外国語大学日本語学部卒業。1992年来日。1995年上智大学大学院経済学修士修了。同年農林中金総合研究所研究員。2005年9月~翌年5月米国ルイジアナ州立大学アグリセンター客員研究員。2017年より現職。ジェトロ・日本食品等海外展開委員会委員(2005・2006年度)、アジア経済研究所調査研究懇談会委員(2004年7月~2006年6月)、関税政策・税関行政を巡る対話委員(財務省、2002年度)。

武漢:新型コロナウイルス禍と最初に対峙したメガシティ【中国中心都市&都市圏発展指数2021】第11位

中国中心都市&都市圏発展指数2021
第11位


 武漢市は中国中心都市&都市圏発展指数2021の総合第11位に輝いた。同市は前年度より順位を2つ上げた。

 〈中国中心都市&都市圏発展指数は、中国都市総合発展指標の派生指数として、4大直轄市、22省都、5自治区首府、5計画単列市からなる36の中心都市の評価に特化したものである。同指数は、これら中心都市を、全国297の地級市以上の都市の中で評価している。10大項目と30の小項目、116組の指標からなる。包括的かつ詳細に、中国中心都市の発展を総合評価するシステムである。

CCCI2017 | CCCI2018 | CCCI2019 | CCCI2020

〈中国中心都市&都市圏発展指数〉:【36中心都市】北京、上海、深圳、広州、成都、天津、杭州、重慶、南京、西安、寧波、武漢、青島、鄭州、長沙、廈門、済南、合肥、福州、瀋陽、大連、昆明、長春、ハルビン、貴陽、南昌、石家荘、南寧、太原、海口、ウルムチ、蘭州、フフホト、ラサ、西寧、銀川

中部地域の最大都市


 湖北省の省都、武漢は中国中部地域の最大都市であり、新型コロナウイルスの試練に最初に向き合った都市として近年、国際的な注目を浴びた。

 武漢の総面積約は8,569平方キロメートルで広島県とほぼ同じ。その広大な総面積の4分の1が、琵琶湖の面積の約3.3倍となる水域である。

 近代の武漢は中国東西軸の長江と、南北軸の鉄道大動脈が交差する立地を背景に発展してきた。故に、交通のハブ機能が発達している。〈中国都市総合発展指標〉の「空港利便性」項目では中国第20位、航空旅客数は第11位である(詳しくは【ランキング】中国で最も空港利便性が高い都市はどこか?を参照)。「高速鉄道便数」は中国第9位で、「準高速鉄道便数」は第2位であった。

 2004年から新型コロナウイルス・パンデミック直前の2019年までの15年間、武漢のGDPは年平均12%を超える成長を実現した。2021年のGDPは約1兆7,717億元(約35.4兆円、1元=20円換算)で中国第9位、1人当たりGDPは12万9,805元(約260万円)となった(詳しくは【ランキング】世界で最も経済リカバリーの早い国はどこか? 中国で最も経済成長の早い都市はどこか?を参照)。

 武漢は、面積は湖北省の5.6%にすぎないものの、同省全体のGDPの約38.3%を占めている。2021年に湖北省における武漢の輸出額と輸入額のシェアは、それぞれ57.1%、80.6%に達している(詳しくは【ランキング】中国で最も輸出力の高い都市はどこか?を参照)。

ロックダウンでコロナ感染拡大を封じ込む


 武漢は新型コロナウイルスショックに世界で最初に向き合った都市であった。武漢は〈中国都市総合発展指標〉の「医療輻射力」ランキングで全国第7位の都市である。27カ所の三甲病院(最高等級病院)を持ち、医師約4万人、看護師5.4万人と医療機関病床9.5万床を擁する。しかしながら、武漢のこの豊富な医療能力が、新型コロナウイルスの打撃により、一瞬で崩壊した(詳しくは【レポート】新型コロナパンデミック:なぜ大都市医療能力はこれほど脆弱に?を参照)。

 よくも悪くも中国の医療リソースは中心都市に高度に集中している。武漢は1千人当たりの医師数は4.9人で全国の水準を大きく上回る。武漢と同様、医療の人的リソースが大都市に偏る傾向はアメリカや日本でも顕著だ。ニューヨーク州の1千人当たりの医師数は4.6人にも達している。東京都は人口1千人当たりの医師数が3.3人で、これは武漢より少なく、ニューヨークと同水準にある。

 しかし、武漢、ニューヨークはその豊かな医療リソースをもってしても、新型コロナウイルスのオーバーシュートによる医療崩壊を防ぎきれなかった。2020年末までは、中国の新型コロナウイルス感染死者数累計の83.5%が武漢に集中していた。その多くが医療機関への集中的な駆け込みによる集団感染や医療崩壊による犠牲者だと考えられている(詳しくは【ランキング】ゼロコロナ政策で感染拡大を封じ込んだ中国の都市力 〜2020年中国都市新型コロナウイルス新規感染者数ランキングを参照)。

 武漢は2020年1月23日からの2カ月半にわたる都市封鎖(ロックダウン)で難局を切り抜けた。ゼロコロナ政策によって普段の日常を取り戻した。

 新型コロナウイルス禍と最初に対峙した都市が、医療リソースの豊富な武漢だったのは、ある意味、不幸中の幸いだったかもしれない。武漢における教訓は、新型コロナウイルス感染症に関する数多くの研究論文として昇華され、世界中でかつてない勢いで「知の共有」が進んでいる。

図 武漢ロックダウン期間における新規感染者数・死亡者数

出典:中国湖北省衛生健康委員会HPなどにより雲河都市研究院作成。

全土から集まった医療支援


 新型コロナウイルスのオーバーシュートが発生した当時、武漢に中国全土から多くの支援が集まった。感染者数の爆発的増大で、多くの医療スタッフも院内感染に巻き込まれ、医療従事者の大幅な不足状況が発生した。これに対処するため中国各地から大勢の医療従事者が応援に駆けつけ、その数は4.2万人にも達した。

 病床数の不足については、国の支援で、新型コロナウイルスの専門治療設備の整う「火神山病院」と「雷神山病院」という重症患者専門病院を10日間で建設し、前者で1,000床、後者で1,600床の病床を確保した。このほかに、武漢は体育館16カ所を軽症者収容病院に改装し、素早く1.3万床を確保し、軽症患者の分離収容を実現させた。これによって先端医療リソースを重症患者に集中させ、病床不足は解消された(当時の武漢の取り組みについて詳しくは「【論文】ゼロコロナ政策 Vs ウイズコロナ政策を参照)。

 こうした措置が武漢の医療崩壊の食い止めに繋がった。感染地域に迅速かつ有効な救援活動を施せるか否かが、新型ウイルスを封じ込める鍵となる。しかし、すべての国がこうした力を備えているわけではない。ニューヨーク、東京の状況からみても、医療リソースがかなり整う先進国でさえ救援動員はなかなか難しいことが分かる。

人口引き留め政策


 武漢は約1,365万人の常住人口を抱え、中国第8位の都市人口規模を持っている。人口の流出入を示す「人口流動(非戸籍常住人口)」では、湖北省内12都市のうち10都市で、人口が他都市へ流出している。これに対して武漢は、流動人口が約317万人の大幅プラスにあり、全国で第13位の人口流入都市となっている。

 一方、武漢は89の大学、95の科学研究所、130万人弱の大学生を抱えながら、大卒者のうち同市に残る者は5分の1にも満たない。そこで、2017年、武漢市政府は向こう5年間で大卒者100万人を同市内に引き留めるプロジェクトを発表した。これにより、同市の大卒者は市場価格を2割下回る値段で住宅を購入できるか、あるいは市場価格を2割下回る価格で住宅を借りられる。さらに、最低年収の設定、就職の斡旋、起業のサポートなど「大卒者に最も友好的な都市」へ向けたさまざまな政策を打ち出した。経済のグローバル化と知識集約型産業が進展していくなかで、中国の各都市間の人材の育成と獲得競争が激しくなっている。


中国都市総合発展指標2021
第11位


 武漢は〈中国都市総合発展指標2021〉総合ランキング第11位であり、前年度の順位を維持した。

 「社会」大項目は第11位であり、前年度に比べ順位が6つ上がった。3つの中項目で「ステータス・ガバナンス」は第7位、「生活品質」は第9位、「伝承・交流」は第11位と、3項目のうち2項目がトップ10入りした。小項目で見ると、「都市地位」「人口資質」「社会マネジメント」「人的交流」「消費水準」は第8位、「居住環境」「生活サービス」は第10位と、9つの小項目のうち7項目がトップ10に入った。なお、「文化娯楽」は第12位、「歴史遺産」は第35位であった。

 「経済」大項目は第11位であり、前年度の順位を維持した。3つの中項目で「経済品質」「都市影響」は第10位、「発展活力」は第14位で、3項目のうち2項目がトップ10入りした。小項目では、「都市圏」は第8位、「イノベーション・起業」は第9位、「経済規模」「広域輻射力」は第10位と、9つの小項目のうち4項目がトップ10内に入った。「経済構造」は第11位、「開放度」「広域中枢機能」は第12位、「ビジネス環境」は第19位、「経済効率」は第29位であった。

 「環境」大項目は第15位となり、前年度に比べ順位が12位も上がった。3つの中項目の中で「空間構造」は第5位、「環境品質」は第72位、「自然生態」は第124位と、3項目のうち1項目がトップ10に入った。小項目では、「交通ネットワーク」は第5位、「コンパクトシティ」「都市インフラ」は第8位と、9つの小項目のうち、3項目がトップ10入りした。「資源効率」は第18位、「環境努力」は第46位、「水土賦存」は第123位、「気候条件」「自然災害」は第126位、「汚染負荷」は第204位であった。


 〈中国中心都市総合発展指標2021〉について詳しくは、メガシティの時代:中国都市総合発展指標2021ランキングを参照。

CICI2016:第10位  |  CICI2017:第11位  |  CICI2018:第9位
CICI2019:第10位  |  CICI2020:第10位  |  CICI2021:第11位


青山長江大橋の建設


 武漢は、長江と漢江によって「武昌」「漢口」「漢陽」という3つの地域(武漢三鎮)に分けられる。3つの地域間を多くの橋がつなぎ、大都市の大動脈として機能している。1957年10月、全国で初めて長江の両岸をつないだのは武漢長江大橋であった。2020年末には両岸をつなぐ11本目の青山長江大橋が開通した。都市インフラに積極的に投資してきた武漢は、橋の建設を進め、橋の数が増えるごとに都市の一体化も進んだ。

 〈中国都市総合発展指標2021〉によると、武漢は「環境」の「固定資産投資規模指数」が中国第5位である。「橋の武漢」と称されるように、橋の景観は武漢に多彩な表情をもたらしている。

中国で3番目に高いビル「武漢緑地中心」を建設


 世界中で超高層ビルの建設ラッシュが起こっている。高層建築ブームの先頭をいく中国で近年最も注目されているのが、2011年から建設が始まった「武漢緑地中心(Wuhan Greenland Center)」である。竣工予定は2023年末で、総投資額は300億元(約6,000億円)以上になるという。完成すると高さ595メートル、延床面積約300万平方メートルの、世界で7番目に高いビルとなる。ブルジュ・ドバイや上海金茂タワーなど、世界で最も有名な超高層ビルの設計を数多く手がける建築設計チーム「Adrian Smith + Gordon Gill Architecture」が担当した。五つ星ホテル、高級ショッピングモール、オフィス、高級マンションを備えた超高層複合都市を目指している。

 世界の建築専門家らが編集する「高層ビル・都市居住評議会(CTBUH)」のレポートによると、中国は超高層ビルの竣工面積が最も多い国となっている。現在、世界で建設された超高層ビルトップ100のうち、43棟が中国にある。


重慶:「三線建設」「西部開発」「一帯一路」で力を付けた直轄市【中国中心都市&都市圏発展指数2021】第9位

中国中心都市&都市圏発展指数2021
第9位


 重慶市は中国中心都市&都市圏発展指数2021の総合第9位に輝いた。同市は前年度より順位を1つ下げた。

 〈中国中心都市&都市圏発展指数は、中国都市総合発展指標の派生指数として、4大直轄市、22省都、5自治区首府、5計画単列市からなる36の中心都市の評価に特化したものである。同指数は、これら中心都市を、全国297の地級市以上の都市の中で評価している。10大項目と30の小項目、116組の指標からなる。包括的かつ詳細に、中国中心都市の発展を総合評価するシステムである。

CCCI2017 | CCCI2018 | CCCI2019 | CCCI2020

 

〈中国中心都市&都市圏発展指数〉:【36中心都市】北京、上海、深圳、広州、成都、天津、杭州、重慶、南京、西安、寧波、武漢、青島、鄭州、長沙、廈門、済南、合肥、福州、瀋陽、大連、昆明、長春、ハルビン、貴陽、南昌、石家荘、南寧、太原、海口、ウルムチ、蘭州、フフホト、ラサ、西寧、銀川

■ 戦時首都だった重慶


 重慶は長江上流に位置し、上海の約2,500キロメートル西南にある直轄市である。同市は長江と嘉陵江という2本の河川が合流する地点に開け、山や川の入り組んだ高低差の激しい地形を持つ。市内の標高差は220メートル近くもあり、長い階段が街の随所に見られる独特の風景をつくりだしている。重慶は北海道に相当する8.2万平方メートルの面積に約3,212万人という世界の都市の中で最大の人口規模を抱える。夏季の気候が高温多湿であるため、南京市、武漢市と並び三大「かまど」と言われている。

 重慶は長い歴史を持つ都市であり、『三国志』の「蜀」に属する地として日本でも有名である。1891年に開港し、中国西南部における近代化の拠点となった。1937年から1946年までは中華民国政府の「戦時首都」が置かれ、日中戦争時代の中国の心臓部であった。

■ 最も若い直轄市


 四川盆地南東部に位置する重慶は、中国西南部の中心都市であり、中国の最も若い「直轄市」である。重慶の名は第二次大戦時に「戦時首都」として世界に知られるようになった。1949年の新中国成立後、重慶は一旦、中央直轄市となったが、1954年に四川省に編入された。1983年に「計画単列市(日本の政令指定都市に相当)」に昇格し、1997年には再び四川省から分離して北京、上海、天津に次ぐ直轄市となった。

 「直轄市」とは、省と同格で、他の都市よりも強い行政権限を持っている。重慶には日本の総領事館も設置されている。

 面積や人口において、重慶は中国最大の都市である。市下には13市区、4市、18県、5自治区があり、広大な土地には都市や農村、自然環境など豊富で多様な空間が混在している。

 重慶は、古来より水運で栄え、重要な交通の要所であった。三峡ダムの完成後は、1万トン級の船舶も直接重慶まで航行できるようになった。現在、「コンテナ取扱量」は中国第34位にまで成長し、内陸都市としては好成績を上げている(詳しくは【ランキング】世界で最も港湾コンテナ取扱量が多い都市はどこか?を参照)。

 鉄道や空港を含む広域インフラも整備され、重慶の空港利便性は中国第6位で、極めて高い(詳しくは【ランキング】中国で最も空港利便性が高い都市はどこか?を参照)。

「三線建設」から「西部開発」へ、そして「一帯一路」


 内陸都市の発展は、国家的な戦略推進が欠かせない。重慶は、毛沢東時代の「三線建設」で工業力を蓄え、改革開放後は「西部大開発」政策でインフラ整備を強化し、現在は「一帯一路」政策で海外とのリンケージを強めている。

 重慶には2010年、中国国内3番目の国家級新区「重慶両江新区」が設置された。同年、内陸港唯一の保税区も整備された。2017年には貿易や投資などの規制緩和を重点的に進める「自由貿易試験区(重慶自貿区)」が開設され、国際貿易都市としての性格を強めている。現在、重慶から貴州、広西チワン自治区を経由してシンガポールまでをつなぐ物流ルートが開通し、「一帯一路」構想における一大国際交流交易拠点としての発展が期待されている。

 直轄市となって以来の20年間、重慶市のGDPは年平均12.0%の成長率を達成した。2021年に重慶のGDPは2兆7,894億元(約55.8兆円、1元=20円換算)で中国第5位の規模に達したが、1人当たりGDPは8万6,832元(約174万円)で中国第79位に留まり、同じ西部地域の中心都市である成都の同9万3,983元(約188万円)には及ばない(詳しくは【ランキング】世界で最も経済リカバリーの早い国はどこか? 中国で最も経済成長の早い都市はどこか?を参照)。

 重慶を拠点とする「メインボード上場企業」は、中国第11位の67社に達している。

■ 人口流出都市


 2021年における人口の流出入を示す「人口流動(非戸籍常住人口)」で、重慶は中国全土297地級市以上の都市でワースト8位であった。流出人口は207万人にも達した。すなわち札幌市と同規模の人口が戸籍を移さずに市外へ流れている。中国の経済規模トップ30の都市の中で、重慶は唯一人口流出都市となっている。重慶には広大な農村エリアがあり、中心市街地が吸収しきれないほどの膨大な農村人口を抱えているからである。

 農村部では収入も低く雇用の機会も少ないため、億単位の出稼ぎ労働者(農民工)が、重慶や四川省、河南省、安徽省、貴州省といった内陸部から、沿海部の大都市に流出している。戸籍制度のもとで人口は「農村戸籍」と「都市戸籍」に分けられ、出稼ぎ労働者のほとんどは農村戸籍である。農村戸籍から都市戸籍への転換は厳しく制限され、都市部で農村戸籍者は教育や福祉、就職の機会などにおいて多くの不利益を被っている。

 中国国務院は2014年、戸籍制度改革に乗り出し、現在、戸籍制度そのものが緩和されつつある。


中国都市総合発展指標2021
第7位


 重慶は〈中国都市総合発展指標2021〉総合ランキング第7位であり、前年度の第6位から、順位が1つ下がった。

 「経済」大項目は第7位であり、前年度の順位を維持した。3つの中項目で「経済品質」は第4位、「都市影響」は第7位、「発展活力」は第10位で、3項目すべてがトップ10入りを果たした。小項目では、「経済規模」は第3位、「都市圏」は第4位、「経済構造」「ビジネス環境」は第6位、と、9つの小項目のうち4項目がトップ10入りした。ただし、「イノベーション・起業」は第11位、「広域輻射力」は第12位、「広域中枢機能」は第14位、「開放度」は第18位、「経済効率」は第68位であった。

 「社会」大項目は第9位であり、前年度に比べ順位が2つ下がった。3つの中項目で「ステータス・ガバナンス」は第4位、「伝承・交流」は第9位、「生活品質」は第14位と、3項目のうち2項目がトップ10入りを果たした。小項目で見ると、「社会マネジメント」は第4位、「都市地位」「文化娯楽」は第5位、「歴史遺産」は第6位、「生活サービス」は第9位、「人口資質」は第10位と、9つの小項目のうち6項目がトップ10入りした。なお、「居住環境」は第13位、「人的交流」は第17位、「消費水準」は第30位であった。

 「環境」大項目は第12位となり、前年度に比べ順位が6つも上がった。3つの中項目の中で「自然生態」は第6位、「環境品質」は第17位、「空間構造」は第9位と、3項目のうち1項目がトップ10入りした。小項目では、「水土賦存」「環境努力」は第2位、「都市インフラ」は第3位と、9つの小項目のうち、3項目がトップ10入りした。なお、「資源効率」は第33位、「コンパクトシティ」は第45位、「交通ネットワーク」は第55位、「汚染負荷」は第80位、「気候条件」は第96位、「自然災害」は第295位であった。


 〈中国中心都市総合発展指標2021〉について詳しくは、メガシティの時代:中国都市総合発展指標2021ランキングを参照。

 

CICI2016:第8位  |  CICI2017:第7位  |  CICI2018:第6位
CICI2019:第5位  |  CICI2020:第6位  |  CICI2021:第7位


■ 一大観光都市


 重慶は中国屈指の観光都市である。〈中国都市総合発展指標2021〉によると、「社会」大項目の指標「国内旅行客」は中国第9位、「海外旅行客」は第28位である。「世界遺産」は中国第2位にランキングされた。「環境」大項目の「国家公園・保護区・景観区指数」が中国第2位であった。豊かな自然と文化遺産の調和ある観光資源が、国内外から多くの観光客を魅了している。  

 しかし、観光業の成績で見ると、重慶とライバル都市である成都とは、様相を異にする。2021年の観光客数および観光収入では、成都が重慶に優った。成都の国内観光客数は2億500万人、海外観光客数は25.4万人、国内観光収入は3,085億元、国際観光収入は1.4億ドルに達した。一方、重慶の国内観光客数は1億7,546万人、海外観光客数は5.1万人、国内観光収入は1,076億元、国際観光収入は0.7億ドルと、いずれも成都に及ばなかった。

 観光産業を考える際、重要な点は、観光客にいかにその都市で消費をしてもらうかである。〈中国都市総合発展指標2021〉で各産業の輻射力で両都市を比較すると、その実態が見えてくる。都市の購買吸引力を示す「経済」大項目の指標「卸売・小売輻射力」で、重慶は第6位、成都は第3位という結果で、成都の方が消費者にとってはより魅力的なショッピング都市であった。また、都市の飲食業やホテルの吸引力を示す同大項目の指標「飲食・ホテル輻射力」では、重慶は第14位、成都は第4位となり、歴然たる差を見せつけた。

■ 「横向き摩天楼」という新しいランドマーク


 2019年9月、重慶に新たなランドマーク「ラッフルズシティ(来福士広場)」が誕生した。ラッフルズシティは、長江と嘉陵江が合流する朝天門広場に位置し、総工費38億ドル(約4,066億円)を投じた巨大プロジェクトである。敷地面積は9.2ヘクタール、総床面積は112万平方メートルであり、23万平方メートルのショッピングモール、16万平方メートルのオフィス、1,400戸の住宅、ホテルなどの機能を兼ね備えている。

 スケールは巨大で、イスラエルの建築家モシェ・サフディ氏が設計した外観は、驚く程の奇抜さである。敷地内には8棟の高層ビルが林立し、南側にある6棟は高さ250メートル、北側の2棟は350メートルを誇る。注目すべきは、長さ300メートル以上の橋形建築物「ザ・クリスタル(水晶連廊)」である。「横向き摩天楼」とも呼ばれる通路は、高層ビル4棟を接続し、高層ビル群を三次元の「帆」のように見立てている。2020年5月には、この連結部分もオープンし、地上250メートルの「世界一高い」空中通路が話題を集めている。

■ SNSで一大人気スポットとなった「洪崖洞」


 重慶には名跡が多く存在する。市の南部に位置する「洪崖洞」は、地元の伝統的な建築様式「吊脚楼」を採用して再建された商業施設である。全長約600メートル、総面積は6万平方メートルで、「国家4A級旅遊景区」に指定された屈指の観光地である。GWなどの連休初日には数万人以上が訪れるほど人気で、その理由は、中国発祥の人気スマートフォン・アプリ「抖音(TikTok)」の口コミ効果とされている。

 「洪崖洞」が日本の大ヒットアニメーション映画『千と千尋の神隠し』の舞台「湯屋」に「酷似している」との投稿が「抖音」に上がったことから、美しい「洪崖洞」の夜景を捉えた動画も多数投稿されるようになり、若者の間で瞬く間に大きな話題を呼んだ。中国の観光名所がSNSという新たな手段によって次々と再発見されている好例である。

■ 中国西部最大の旅客輸送ターミナル「重慶西駅」


 重慶西駅が2018年1月に完成し、重慶市と貴州省貴州市を結ぶ鉄道「渝貴鉄路」が同時に開業した。「渝貴鉄路」は全長347キロメートルで、営業最高時速は200キロメートルである。この鉄道は、中国の成渝地区(成都と重慶の間の地区)と西南地区から華南・華東地区に至る高速鉄道ルートを形成し、重慶・貴州間の移動時間が大幅に短縮された。地域の交通利便性がさらに向上し、沿線の中小都市の発展や観光資源開発を牽引している。

 起点となる重慶西駅は、中国西部最大の旅客ターミナルで、完成した第1期の建築面積は約12万平方メートルに及び、年間利用客数4,000万人のキャパシティを持つ。2018年の春運(旧正月前後の帰省ラッシュに伴う特別輸送体制)の期間中、1日あたりの旅客数は10.3万人を記録し、旅客数が10万人を突破した大型旅客輸送ターミナルとなった。

 〈中国都市総合発展指標2021〉では、重慶の「鉄道利便性」は中国第25位であるが、今後の順位上昇が期待される。

■ 世界有数の自動車生産基地


 中国は現在、世界最大の自動車大国である。2022年に中国の自動車生産台数は約2,702万台で世界第1位であり、その世界シェアは31.8%を誇っている。

 重慶も、中国有数の自動車生産基地の一つであり、2022年の同市の自動車生産台数は約210万台に達した。〈中国都市総合発展指標2021〉では、重慶の「自動車産業輻射力」は中国第3位である(詳しくは【ランキング】自動車大国中国の生産拠点都市はどこか?を参照)。

 重慶の「1万人当たり自家用車保有量」は全国第114位とかなり低いが、都市としての全体規模で見ると自家用車保有量は中国第3位の約442万台である。

 一方、重慶の自動車産業は、ライバルである上海や長春に比べると、一車両あたりの生産額が低いことが課題となっている。そのため、同市はEVやスマートカーへの研究開発を進めている。その結果、直近3年間で重慶のEV車生産台数は、2020年の43,200台から、2021年には前年比252.1%増の152,200台、2022年には前年比140%増の365,200台へと急増している。


南京:知識産業化が進む「十朝都会」【中国中心都市&都市圏発展指数2021】第8位

中国中心都市&都市圏発展指数2021
第8位


 南京市は中国中心都市&都市圏発展指数2021の総合第8位に輝いた。同市は前年度より順位を1つ上げた。

 〈中国中心都市&都市圏発展指数は、中国都市総合発展指標の派生指数として、4大直轄市、22省都、5自治区首府、5計画単列市からなる36の中心都市の評価に特化したものである。同指数は、これら中心都市を、全国297の地級市以上の都市の中で評価している。10大項目と30の小項目、116組の指標からなる。包括的かつ詳細に、中国中心都市の発展を総合評価するシステムである。

CCCI2017 | CCCI2018 | CCCI2019 | CCCI2020

〈中国中心都市&都市圏発展指数〉:【36中心都市】北京、上海、深圳、広州、成都、天津、杭州、重慶、南京、西安、寧波、武漢、青島、鄭州、長沙、廈門、済南、合肥、福州、瀋陽、大連、昆明、長春、ハルビン、貴陽、南昌、石家荘、南寧、太原、海口、ウルムチ、蘭州、フフホト、ラサ、西寧、銀川

 南京は江蘇省の省都であり、同省の政治、経済、科学技術、教育、文化の中心である。長江の入江から380キロメートルに位置し、長江下流の南岸に面しているポジションから、南京には古くから王朝の都が数多く設けられてきた。「南京」とは「南の都」という意味で、面積は6,587平方キロメートル、栃木県と同程度の規模である。

 最初に南京に都を構えたのは、約2,800年前、春秋時代の呉国である。その後、東晋、六朝、南唐、明といった王朝が南京を帝都と定め、「十朝都会」と呼ばれた。太平天国や中華民国統治時代にも都となっていた。14世紀から15世紀にかけては、世界最大の都市として栄華を誇った。

 南京は、古来より戦略的な要所とされていた。そのため、同市には今も立派な城壁がそびえ立っている。明の時代には、全長約35キロメートル(山手線の1周分に相当)、高さ14〜21メートル、13の城門という巨大な城壁が市内を囲むように建設された。

知識産業化が進む南京


 2021年に南京のGDPは1兆6,355億元(約32.7兆円、1元=20円換算)に達し、中国で第10位、1人当たりGDPは173,560元(約347万円)で中国第7位となった(詳しくは【ランキング】世界で最も経済リカバリーの早い国はどこか? 中国で最も経済成長の早い都市はどこか?を参照)。

 南京の経済規模では同省内の蘇州(中国第6位)に劣るものの、省都としての立場を活かし、教育・科学技術の集積と人材ストックをベースにした知識産業を発展させている。中国の科学技術分野の最高研究機関である中国科学院と技術分野の最高機関である中国工程院のメンバーの輩出度合いを示す「中国科学院・中国工程院院士指数」は中国第3位で、研究開発人材の蓄積が実に分厚い。

 従業員数を比較するとそれは顕著である。例えば、製造業の従業員数は南京が約40万人、蘇州が約182万人であり、蘇州は工業都市としての側面が強い(詳しくは【ランキング】中国で最も輸出力の高い都市はどこか? を参照)。対照的に、IT関係の従業員数は南京が約18.7万人、蘇州が約4.1万人である。特に南京はソフトウェア産業において、北京、上海、成都、深圳、広州に続く中国で6番目の規模を持つ(詳しくは、【ランキング】中国IT産業スーパーシティはどこか?を参照)。但し、研究開発要員数は南京が約12.9万人、蘇州が約15.9万人であり、蘇州の研究開発要員数が南京を上回る。かつては南京の科学技術力が蘇州より高かったが、いま製造業スーパーシティ蘇州が工業力をベースに、科学技術力を高めている(詳しくは「【ランキング】科学技術大国中国の研究開発拠点都市はどこか?」を参照)。

 「平均賃金」においては、南京は中国第7位、蘇州は同第18位である。高度人材の行き先としては、南京の方が蘇州より好まれているようだ。

製造業スーパーシティ蘇州に勝る省都南京の中心都市機能


 製造業スーパーシティ蘇州に経済規模で抜かれたとはいえ南京は、中心都市としての力がなお強い。南京は文化教育都市として名高く、市内には南京大学、東南大学、南京師範大学など、創立100年以上の歴史を持つ名門大学が肩を並べ、国から重点的に経費が分配される「国家重点大学(211大学)」は8校も有する。「中国都市高等教育輻射力」は南京が中国第3位で、蘇州が同第30位である。

 「中国都市文化・スポーツ・娯楽輻射力」では、南京が中国第5位、蘇州が同第13位(詳しくは【レポート】中日比較から見た北京の文化産業を参照)。ただし、「映画館・劇場消費指数」では南京が中国第12位、蘇州が同第9位となっており、若者の多い蘇州が南京を上回る(詳しくは【ランキング】世界で最も稼ぐ映画大国はどこか?を参照)。

 医療面においては、「中国都市医療輻射力」は南京が中国第8位と、蘇州の同第34位を大きく引き離している(詳しくは【レポート】新型コロナパンデミック:なぜ大都市医療能力はこれほど脆弱に?を参照)。

 南京は中国の一大交通ハブでもある。「空港利便性」では南京が中国第13位、蘇州が同第191位(詳しくは【ランキング】中国で最も空港利便性が高い都市はどこか?を参照)。「鉄道利便性」では南京が堂々の中国第1位、蘇州市が同第10位である。

 他方、上海、深圳、香港のメインボード(主板)市場に上場している企業の総数(2021年末)は、南京は92企業で中国第7位、蘇州は108企業で同第6位であり、本社機能では蘇州に抜かれた。


中国都市総合発展指標2021
第8位


 南京は〈中国都市総合発展指標2021〉総合ランキング第8位であり、前年度の第7位から、順位が1つ下がった。

 「社会」大項目は第7位であり、前年度に比べ順位が2つ下がった。3つの中項目で「生活品質」は第4位、「ステータス・ガバナンス」「伝承・交流」は第8位と、3項目すべてがトップ10入りを果たした。小項目で見ると、「歴史遺産」「消費水準」は第4位、「人口資質」は第5位、「生活サービス」は第6位、「都市地位」「居住環境」は第7位、「文化娯楽」は第9位、「人的交流」は第10位と、9つの小項目のうち8項目がトップ10入りした。なお、「社会マネジメント」は第17位であった。「社会」の成績は、全体的に高い結果となった。

 「経済」大項目は第10位であり、前年度の順位を維持した。3つの中項目で「都市影響」は第8位、「経済品質」「発展活力」は第9位で、3項目すべてがトップ10入りを果たした。小項目では、「経済効率」は第2位、「イノベーション・起業」「広域中枢機能」は第6位、「広域輻射力」は第7位、「経済構造」は第9位、「ビジネス環境」は第10位と、9つの小項目のうち6項目がトップ10入りした。なお、「経済規模」は第11位、「都市圏」は第16位、「開放度」は第19位であった。「経済」の成績は、各項目ともに全体的に高かった。

 「環境」大項目は第7位となり、前年度に比べ順位が2つ下がった。3つの中項目の中で「空間構造」は第9位とトップ10入を果たしたが、「環境品質」は第39位、「自然生態」は第157位であった。小項目では、「交通ネットワーク」は第6位、「都市インフラ」は第9位、「環境努力」は第10位と、9つの小項目のうち、3項目がトップ10入りした。なお、「コンパクトシティ」は第11位、「資源効率」は第31位、「自然災害」は第88位、「汚染負荷」は第126位、「気候条件」は第134位、「水土賦存」は第194位であった。

 〈中国中心都市総合発展指標2021〉について詳しくは、メガシティの時代:中国都市総合発展指標2021ランキングを参照。

CICI2016:第9位  |  CICI2017:第9位  |  CICI2018:第10位
CICI2019:第9位  |  CICI2020:第7位  |  CICI2021:第8位


ユネスコ「文学都市」


 2019年10月、ユネスコは、新たに66の都市を「ユネスコ創造都市ネットワーク」として選出し、南京がアジアで3番目、中国では初となる「文学都市」に選ばれた。

 2004年、ユネスコは「創造都市ネットワーク」を設立した。文学、映画、グルメ、デザインなどの7分野に分け、世界の都市間でパートナーシップを結び、国際的なネットワークを作っている。2022年末には世界295の都市が参与している。中でも「文学都市」は現在、42都市が選出されている。その多くは欧米の都市が占め、アジアでは、南京の他に韓国の富川と現州、パキスタンのラホール、インドネシアのジャカルタが選出されている。残念ながら、「文学都市」ではまだ日本の都市は選出されていない。

 〈中国都市総合発展指標2021〉によると、南京は「社会」項目の「傑出人物輩出指数」、「傑出文化人指数」ランキングでそれぞれ中国第4位、第5位である。古来より文化資源が豊富で、文人が多く集った。中国最初の詩歌の評論「詩品」が南京で編まれたほか、中国最初の文学評論の「文心雕龍」が編さんされ、最初の児童啓蒙書「千字文」、現存最古の詩文総集「昭明文選」などが、南京で誕生した。中国初の「文学館」も南京に設立された。

 「紅楼夢」、「本草網目」、「永楽大典」、「儒林外史」に代表されるように、南京にゆかりのある中国古典作品は1万作以上ある。

 魯迅、巴金、朱自清、兪平伯、張恨水、張愛玲など近代の文豪も南京とつながりが深い。アメリカのノーベル文学賞受賞作家、パール・バックは、代表作「大地」を南京で創作した。

 「文学都市」の選出には、出身作家数など以外にも、文学を育む都市の環境も重視され、出版文化、書店文化、図書館の整備、市民の読書量なども評価対象である。南京は〈中国都市総合発展指標〉の「公共図書館蔵書量」ランキングで中国第10位にランクインした。

 CNN、BBCなどから「世界で最も美しい書店」と評価された「南京文学客庁」といった24時間営業の書店は、新たな文化スポットとして、市民に人気が高い。市内の公園、観光スポット、デパート、ホテル、地下鉄などに無料の読書スペースが150カ所以上設けられ、読書文化を盛り上げている。

人材争奪戦に励む


 南京の豊かな文化の香りは、市民の教育水準の高さに因るものが大きい。〈中国都市総合発展指標2021〉において、市民の教育水準を示す「人口教育構造指数」は中国第6位である。

 中国も日本と同様、労働者人口の増加がピークを過ぎ、高齢化社会が迫る中、都市の発展のカギを握る有能な若手人材の争奪戦が、全国の都市間でヒートアップしている。

 中国では2022年の大学卒業生が前年比167万人増の1,076万人と、初めて1,000万人を超え、過去最高を更新した。この中で注目されたのは、北京の大学・大学院卒業生28.5万人のうち、修士・博士課程の大学院卒業生数が、全国で初めて学部の卒業生数を超えたことである。他の都市でも同様の傾向が見られ始め、中国の名門大学である上海交通大学、華東師範大学、西安交通大学でも、大学院の卒業生数が学部生を上回る現象が起きている。南京の名門校である南京大学においても、2022年卒業者は9,563人で、そのうち学部卒業生は33%で全体の三分の一となった。

 南京市政府は、大学卒業生という高度人材の若者たちをそのまま市内に定住させるために、市内定住のハードルを低くし、家賃補助や起業補助を普及するなど、さまざまな政策を打ち出している。南京市政府の積極的な取り組みが、人材育成や都市発展において他の都市にも影響を与え、全国的な人材争奪戦の激化が続くと予想される。

中国三大博物館のひとつ南京博物院


 古都・南京には、中国三大博物館のひとつ「南京博物院」がある。北京故宮博物院、台湾故宮博物院と肩を並べる存在となっている。

 南京博物院には、「南遷文物」といわれる元は北京故宮博物院にあった文物を所蔵している。日中戦争の戦火を避けるため、1933年、北京故宮博物院から木箱で2万個といわれる大量の文物が南京博物院(当時は中央博物院)に移送された。南京に戦火が及ぶと、文物は重慶に移されたが、戦後再び南京に戻った。だがその後国共内戦の混乱の中、3千箱が台北に運ばれ、7千箱が北京の故宮博物院に戻された。現在、台北の故宮博物院が所蔵する至宝はこのときに運ばれた文物である。大陸に残った物のうち1万箱が南京博物院にあり、「南遷文物」と呼ばれる。

 〈中国都市総合発展指標2021〉では南京は「社会」項目の「博物館・美術館」ランキングは中国第10位であり、市内には一級の博物館が5館、二級は4館、三級は5館、無級は48館の合計62館が存在している。南京訪問の際は、名勝見物と併せて博物館巡りを行えば、より中国の歴史文化への理解が深まるだろう。


天津:中国北方玄関口の直轄市【中国中心都市&都市圏発展指数2021】第7位

中国中心都市&都市圏発展指数2021
第7位


 天津市は中国中心都市&都市圏発展指数2021の総合第7位に輝いた。同市は前年度より順位を1つ上げた。

 〈中国中心都市&都市圏発展指数は、中国都市総合発展指標の派生指数として、4大直轄市、22省都、5自治区首府、5計画単列市からなる36の中心都市の評価に特化したものである。同指数は、これら中心都市を、全国297の地級市以上の都市の中で評価している。10大項目と30の小項目、116組の指標からなる。包括的かつ詳細に、中国中心都市の発展を総合評価するシステムである。

CCCI2017 | CCCI2018 | CCCI2019 | CCCI2020

 

〈中国中心都市&都市圏発展指数〉:【36中心都市】北京、上海、深圳、広州、成都、天津、杭州、重慶、南京、西安、寧波、武漢、青島、鄭州、長沙、廈門、済南、合肥、福州、瀋陽、大連、昆明、長春、ハルビン、貴陽、南昌、石家荘、南寧、太原、海口、ウルムチ、蘭州、フフホト、ラサ、西寧、銀川


京津冀メガロポリスの臨海中心都市


 天津市は、中国の四大直轄市の1つであり、北京の玄関口として発展した京津冀(北京・天津・河北)メガロポリスの臨海中心都市である。元、明、そして清王朝時代は、江南から物資を運ぶ大運河の北京への入り口だった。現在は、渤海湾の港としての北京の玄関口となっている。さらに、洋務運動の時代に全国に先駆けて西洋から制度や技術を最も早く取り入れた窓口であった。

 天津市の面積は約11,917平方キロメートルで、日本の秋田県とほぼ同じ面積にあり、2021年の人口は約1,373万人を誇るメガシティである。2021年にGDPは15,695億元(約31.4兆円、1元=20円換算)に達し、中国で第11位の都市となった。

 天津港は、世界第8位のコンテナ取扱量を持つ巨大な港であり、その後背地は、モンゴルやカザフスタンにまで広がる。〈中国都市総合発展指標2021〉において、天津の「コンテナ港利便性」は中国第4位になっている(詳しくは、「【ランキング】世界で最も港湾コンテナ取扱量が多い都市はどこか? 〜2020年中国都市コンテナ港利便性ランキング」を参照)。

 このような背景から、天津市には国内外の企業が進出し、多くの産業が集積し、製造業、情報技術、金融サービス、物流、観光などの分野に及んでいる。

ナイトエコノミーの推進


 天津では、サービス業の発展を促進するために、ナイトエコノミー政策を推進している。2018年11月に発表された同政策では、海に面する立地を活かした景観づくりや、東西文化の融合を図ったナイトエコノミー集積地の形成、さまざまな娯楽コンテンツの充実などが打ち出されている。

 中国北方の都市では、夜の営業時間が短いことが一般的である。首都北京ですらレストランの閉店時間が早く、南から北京に来る客の不満が絶えなかった。実際、中国都市総合発展指標2021において、天津の「レストラン・ホテル輻射力」は中国12位と、トップ10圏外になっている。

 計画経済時代、商業都市の面影薄い天津の夜は、長く闇に包まれていた。活気を入れるため打ち出したナイトエコノミー施策には、政府の過剰な介入やインフラ整備中心だとの指摘がある。ナイトエコノミーは本来、市民や事業者が自発的に取り組むことが重要であり、政府の役割は環境整備や支援に留めるべきだという意見も存在する。

 今後、天津市がナイトエコノミーの発展をさらに推進するためには、政府の適切な役割と市民や事業者の自発的な取り組みをバランス良く組み合わせることが重要である。また、地域の特性や文化を生かした独自の魅力を打ち出すことで、ナイトエコノミーが持続的に発展し、地域経済の活性化につながることが期待される。

天津エコシティ:環境配慮型都市開発のモデルと課題


 天津エコシティ(中新天津生態城)は、中国とシンガポールが共同で開発を進める環境配慮型の次世代都市建設プロジェクトである。2007年に建設が開始され、​2025年頃の完成を目指している。​

 同プロジェクトは、天津中心部から40キロ、​北京から150キロメートル離れた場所で開発されており、​天津郊外の約30キロメートルの塩田跡地(浜海新区)に建設されている。2020年までに人口35万、住戸11万戸を建設する予定で、投資額は約500億元である。街の至るところに緑地を設置し、​次世代の廃棄マネジメントシステムの導入も計画されている。​交通に関しては、​自動車の利用を抑制するために、​トラムやバスなどの公共交通を拡充している。​また、​多くのテクノロジー企業や研究機関が拠点を構えている。このような取り組みによって、天津エコシティは環境配慮型都市開発のモデルとして期待されていた。

 しかし、浜海新区全体の開発は遅れが続いており、閑散とした様子から「鬼城(ゴーストタウン)」と揶揄されることもある。さらに、2015年8月に開発区内の危険物倉庫で発生した大規模爆発事故により、天津港の機能が一時的に麻痺状態となり、経済損失額は直接的なものだけで約68.7億元(約1,200億円)にのぼるとされている。

 これらの問題が重なり、天津エコシティや浜海新区の開発は遅れがちとなっているが、今後も環境配慮型都市開発のモデルとして、持続可能な発展に向けた取り組みが求められている。適切な対策や改善策が講じられれば、今後の発展に期待が持てるプロジェクトである。

日中経済・文化交流の歴史と現代の役割


 アヘン戦争後の1860年にイギリスが天津市に租界を置いてから、新中国成立に至るまで日本を含む9カ国が天津市に租界を設立していた。近代日本と中国の最初の接点は上海市と天津市であり、天津市からは華北地域の特産品である「栗」が日本に多く輸出されたことで、「天津甘栗」の名前が馴染みである。

 中国の改革開放後、日本政府は巨額な有償・無償の経済援助を行い、日本企業の対中直接投資も拡大を続け、天津にも多くの日系企業が進出した。

 貿易については、中国の輸入先として2021年、日本は国・地域別で第3位に、金額は1,857億ドル(約3.7兆円)となった。輸出でも1,639億ドル(約3.3兆円)で同第2位となり、日本は中国にとって重要な貿易パートナーとなっている。中国北方の玄関口としての天津が果たした役割は大きい。

 そうした日中関係を象徴するように、新型コロナウイルス・パンデミック以前の2019年に天津を訪れた外国人は約56万人であった。ちなみに同年に中国を訪れた観光客の出身国のトップ10は順に、日本、オーストラリア、韓国、米国、カナダ、英国、タイ、フィリピン、カンボジア、マレーシアで、日本がトップであった。


中国都市総合発展指標2021
第10位


 天津は〈中国都市総合発展指標2021〉総合ランキング第10位であり、前年度の第9位から、順位を1つ下げた。

 「経済」大項目は第9位であり、前年度より1つ順位を下げた。3つの中項目で「都市影響」は第6位、「発展活力」は第8位であり、この2項目がトップ10入りを果たした。「経済品質」は第12位であった。小項目では、「広域中枢機能」は第5位、「ビジネス環境」「都市圏」は第7位、「開放度」は第8位、「経済規模」は第9位、「イノベーション・起業」は第10位と、9つの小項目のうち、6項目がトップ10入りした。なお、「広域輻射力」は第11位、「経済構造」は第13位、「経済効率」は第86位であった。「経済効率」は、「被扶養人口指数」や「1万人当たり失業者数」の悪化により、順位を大きく下げる結果となった。「経済効率」を除き、「経済」の成績は、各項目ともに全体的に高い結果となった。

 「社会」大項目では第11位であり、前年度に比べ2つ順位が下がった。3つの中項目の中で「生活品質」では第8位、「ステータス・ガバナンス」は第10位、「伝承・交流」は第12位と、3項目のうち1項目がトップ10入りを果たした。小項目で見ると、「生活サービス」は第3位、「都市地位」は第4位、「人口資質」「歴史遺産」は第9位と、9つの小項目のうち、4項目がトップ10内にある。なお、「文化娯楽」は第11位、「消費水準」は第13位、「居住環境」は第14位、「人的交流」は第16位、「社会マネジメント」は第32位であった。「社会」の成績は、全体的に高い結果となった。 

 「環境」大項目は第39位となり、前年度の順位を維持した。3つの中項目の中で「空間構造」は第28位とトップ30入は果たしたが、「環境品質」は第38位、「自然生態」は第83位であった。小項目では、9つの小項目のうち、トップ10入りした項目はなかった。

 「環境努力」は第14位、「都市インフラ」は第20位、「コンパクトシティ」は第26位と、3項目がトップ30入りした。トップ30以下は、「交通ネットワーク」は第38位、「気候条件」は第71位、「汚染負荷」は第40位、「資源効率」は第77位、「自然災害」は第93位、「水土賦存」は第136位であった。

 天津は、社会や経済と比較して環境のパフォーマンスが劣っている。近年は南の都市の勢いと比べ、社会と経済の成績も下降気味であり、都市間競争の中でやや苦しんでいる。

 〈中国中心都市総合発展指標2021〉について詳しくは、メガシティの時代:中国都市総合発展指標2021ランキングを参照。

 

CICI2016:第5位  |  CICI2017:第5位  |  CICI2018:第5位
CICI2019:第8位  |  CICI2020:第9位  |  CICI2021:第10位


国際工業博覧会:製造業からサービス産業への挑戦


 2022年8月、「第18回中国(天津)国際工業博覧会」が開催された。同博覧会は世界三大工業博覧会の1つとされ、今回の博覧会には世界20以上の国と地域から有名企業約千社が一堂に会し、世界中の先進的な設備や技術が展示された。

 天津は清朝末期、「洋務運動」で中国の工業化を牽引する役割を果たしただけではなく、国際的な商業都市としても栄えた。新中国建国後は、計画経済のもとで工業都市に特化した。改革開放以降も工業を中心として発展を遂げてきた。

 その結果、〈中国都市総合発展指標2021〉によると、「製造業輻射力」全国ランキングにおいて、天津は第16位を獲得した(詳しくは、「【ランキング】中国で最も輸出力の高い都市はどこか? 〜2020年中国都市製造業輻射力ランキング」を参照)。

 同じ直轄市の中でも北京や上海は国際的な商業都市として、サービス産業の発展が著しい。これに対して、天津はサービス産業の発展が相対的に遅れている。〈中国都市総合発展指標2021〉によると、「飲食・ホテル輻射力」ランキングで上海は第1位、北京は第2位であるのに対して、天津は第12位と引き離された。「文化・スポーツ・娯楽輻射力」ランキングでは北京が第1位、上海が第2位に対して、天津は第11位だった。さらに、「卸売・小売輻射力」ランキングでは北京が第1位、上海が第2位、天津は第12位であった。

 近年、中国ではIT産業の発展が目覚ましい。しかし製造業とは異なり、IT産業の発展は、都市の商業環境に大きく左右される。南開大学、天津大学といった名門大学を抱えながら、天津のIT産業の発展は芳しくない。「IT産業輻射力」ランキングは第23位と、直轄市にふさわしくないパフォーマンスを見せた。

ブームが去ったシェア自転車


 かつて中国が自転車王国だった時代、三大国産自転車ブランドの1つが天津産だった。天津ブランドの自転車は、当時若者にとって新婚生活“三種の神器”の1つとして、人気が高かった。

 急激なモータリゼーションにより中国の街で自転車の存在感はだいぶ薄まった。自転車が再び注目を集めたのは、シェア自転車ブームであった。シェア自転車は中国で2015年に誕生し、1年も経たないうちに爆発的に全国に拡大した。北京などの大都市では、街そのものがシェア自転車駐輪場の様相を呈した。

 天津は、シェア自転車ブームに乗って、上海、深圳と並んで三大自転車産地になった。中国北部で最大の自転車生産規模を誇っていた。

 だが、過当競争や放置自転車問題、保証金トラブルなどを理由に、5年経つとシェア自転車ブームは急激に色あせていった。それでも都市交通に自転車を呼び戻した功績は大きい。また、中国経済や文化に「シェア」という概念を持ち込んだことは大きな意味をもつ。

「相声」:天津の伝統文化が再び脚光を浴びる


 近年、中国では再び「相声」ブームが巻き起こっている。相声とは日本の「漫才」に似た中国の伝統的な大衆芸能の一つである。諸説あるが、「相声」はおよそ100年前に北京で生まれたとされ、その後天津で発達し、今や天津を代表する文化となっている。「相声」を含む天津の「無形文化財」は〈中国都市総合発展指標2021〉で全国第3位と好成績を誇る。

 一時は低迷した「相声」に再び脚光を浴びせた立役者が、天津出身の相声芸人・郭徳綱である。郭徳綱は伝統的な「相声」を現代風にアレンジし、ユーモアに溢れながらも世相を辛辣に皮肉ることで人々の心をつかんでいる。今や彼の人気は老若男女問わず高く、相声界のフロントランナーとして中国内外で活発な活動を展開している。郭徳綱は2017年夏、日本をはじめて訪れ、東京公演で在日華人らを爆笑の渦に巻き込んだ。好評のため翌2018年に再び東京公演を行い、ファンを増やしている。

 「相声」は2008年に中国の国家無形文化遺産に登録された。天津の歴史的な民俗文化と市民文化の象徴として、天津人の精神の拠り所ともなっている。

浜海新区文化センター:天津が誇る近未来的な図書館と社交空間


 天津市の経済開発区、浜海新区に2017年末、従来の中国の図書館のイメージを覆す公共図書館「浜海新区文化センター」がオープンした。新たなランドマークとなった同センターは、地上6階建てで高さは約29.6 メートル、総面積は3.4万 平方メートルにもおよび、開館時の蔵書数は20万冊で、収蔵能力は120万冊の規模を誇る。

 建物は流線形の近未来的なデザインで構成され、壁沿いには天井から床まで覆う階段状の書架がうねりながら棚田のように連続している。来館者は書棚の横を歩きながら自由に上下階を行き来できる。設計・デザインは、世界的に著名なオランダの建築設計会社「MVRDV」が手がけて話題を呼んだ。

 「浜海新区文化センター」の様子がネットで公開されるやいなや、国内外のさまざまなメディアが取り上げ、米国『タイム』誌は2018年の観光地ランキング「行く価値のある世界100カ所」の中で、「浜海新区文化センター」を映えある第1位にランク付けした。

 「公共図書館蔵書量」全国第11位の天津に相応しい「浜海新区文化センター」には、週末に平均1.5万人が訪れるという。もはや図書館だけの機能にとどまらず、世界中の人々を魅了する21世紀の社交空間としても存在感を増している。

天津進出30周年を迎えた伊勢丹


 日本の老舗百貨店伊勢丹が2023年、天津進出30周年を迎える。1993年オープンした上海淮海路店に続き、同店は中国第2号店である。当時、天津市政府側には、北京、上海に次ぐ中国第三の都市として国際的な百貨店を誘致したいとの意向があり、外資系大型百貨店としては同店が天津市で第1号となった。2013年には浜海新区に天津2号店もオープンしている。

 1992年の中国小売業の開放により、日系百貨店は早い段階から中国市場に進出した。

 参入初期、日系百貨店は売場、商品、販売サービスなどの面で消費者の支持を得て業績を伸ばしたものの、現在では業績不振が続き、撤退を余儀なくされる店も少なくない。中国の百貨店は全体として国内資本のパワーアップも相まって競争が激化し、消費者ニーズの変化や、日系店のeコマースへの対応も後手に回り、大いに苦戦を強いられている。

 伊勢丹も中国内の一部地域では業績が伸び悩んでいるものの、天津での売上は好調である。その強さの理由は、顧客満足度の高さだという。困難な時代を乗り越えていくために顧客情報の丁寧な分析を実施した。常に顧客ニーズに合った商品を展開し、店舗づくり、組織改革、商品開発などあらゆる面で、徹底的な改革を続けている。日本の百貨店が〈中国都市総合発展指標2021〉の「卸売・小売輻射力」第12位の天津で善戦を続ける現状は、小売業界の中国展開にひとつの示唆を与えている。


【ランキング】黄砂襲来に草地を論ず 〜中国都市草地面積ランキング〜

周牧之 東京経済大学教授

編集ノート:3月11日以来、北京は黄砂襲来に1カ月で4度見舞われた。気象庁は、黄砂がこの13日にも、日本の広い範囲に飛来すると予測している。東京経済大学の周牧之教授は、黄砂の主な原因の一つは過度の開墾と放牧による草地の劣化だと分析している。草地の劣化現象は中国、モンゴルそして中央アジア諸国に広く及ぶ。中国北部が2021年3月14日から15日にかけて、10年来で最大級となる砂嵐の襲撃を受けた際、周教授は、雲河都市研究院の〈中国都市総合発展指標〉を用い、中国各地の草地の分布と増減について考察した。


1.  3.15黄砂嵐と草地の劣化


 2021年3月14日から15日にかけて、中国北部はここ10年来最大級となる砂嵐の襲撃を受けた。

 15日、北京は砂嵐で街全体が黄色く染まった。PM10が2,153 µg/m³にまで上昇した深刻な大気汚染に、世論は沸騰した。

 今回の激しい砂嵐の影響は、新疆、内モンゴル、甘粛、寧夏、陝西、山西、河北、天津、遼寧、吉林、黒竜江の13省・直轄市・自治区におよび、1億2,000万人に被害が及んだ。

 なぜこのような大規模な砂嵐が発生したのか?気象当局は、モンゴル及び中国西北地域の気温が際立って高まり、降水量が減少し、且つ6〜8級の強風が吹き荒れる気候条件が重なって砂嵐が巨大なエネルギーを得たことに因ると見ている。もっとも、この度の強烈な砂嵐発生のもう一つ深刻な環境要因は、草地の劣化すなわち砂漠化にあることも無視できない。

 今回の砂嵐の主な発生源はモンゴル共和国にあると言われている。大勢の専門家は、開墾と過度の放牧がモンゴル草原の荒漠化を加速した故だと指摘する。草地は防風、土砂の固定化、大気浄化、二酸化炭素の吸収をはかり、気候状況を調節し、水資源を養い、人類の生存環境にとって極めて重要な存在である。しかし過度な開発は草地を大規模に破壊している。草地の重要性と危機については今日、すでに国際的に共通課題として認識されている。

写真 3月15日北京・故宮博物院西北角楼

2.草地の分布と増減


 では中国における草地の現状はどうだろう? 雲河都市研究院が発表した最新の中国都市総合発展指標2019の草地面積のリモートセンシングデータによると、中国の草地資源分布に著しい不均衡があることが明らかになった。

 省・直轄市・自治区の階層からみると、草地面積所有量からするとチベット、青海、内モンゴル、新疆が多い順にトップ4であり、その全国に占める割合は32%、18.4%、16.8%、15.9%に達している。この4省・自治区で中国全土草地面積の83.1%をも占めている。さらにトップ10の省・自治区は中国草地面積の97.9%をほぼ独占している。

 中国で草地は、面積最大の国土資源のひとつであり、生態システムの物質循環とエネルギー流動における主軸となっている。しかしながら、その分布は西南地域、西北地域及び華北地域に大きく偏っている。

表 草地面積トップ10省・自治区


 中国の297の地級市及びそれ以上の都市のうち、ナクチュ、シガツェ、チャムド、フルンボイル、オルドス、赤峰、山南、酒泉、ニンティ、ウランチャブが、草地面積のトップ10都市である。この10都市の草地面積が全国に占める割合は31.3%にも及ぶ。しかし同10都市の常住人口は中国全国の1.1%に過ぎない。GDPに至っては全国の0.9%である。第一次産業GDPすら全国に占める割合も僅か1.7%である。中国の生態環境にとって非常に重要な草地資源の集中するトップ10都市が、人口数においてもGDP上も全国に占める割合をごく僅かに留めている。

表 草地面積トップ30都市


 草地面積のトップ30都市まで尺度を広げて分析してみても、同様の状況が見て取れる。トップ30は、ラサ、蘭州、ウルムチ、フフホトの4つの省都・自治区首府を含みながら、常住人口とGDPはそれぞれ全国の4.4%と、3.8%に過ぎない。第一次産業GDPに置ける全国の比重も5.5%に過ぎない。土地は広大で人が稀少であっても、この30都市の一人当たりGDPは全国平均の83.5%に過ぎない。これらの数字が教えてくれるのは、世界的、全国的視点から、極めて重要な生態環境機能を備える草地は、人口とGDPに対する貢献力がそれほど高くない。さらに草地の生態は甚だしく脆弱である。

 しかしいまだ多くの地域で、田畑の開墾、過度な放牧、鉱物採掘、薬草の乱獲などの不当な開発が、貴重かつ脆弱な草地資源を、侵食し続けている。

 2017年から2018年の間に、中国の草地面積は8,185㎢減少した。中国全土の草地面積の0.26%にすぎないものの、この面積自体がすでに貴陽市一個分の市街地面積を超え、驚くべき規模である。勿論、近年、中国が生態環境保護上の努力は奏功し、297都市のうち70都市の草地面積が増加している。問題は、依然として227都市の草地面積が減少していることである。各地域の草地保護における力の入れ具合と成果とにまだギャップがある。3月15日の砂嵐は、草地の過度な開発が生態環境破壊をもたらし、大規模な生態環境災害にもつながると警笛を鳴らした。

写真 新疆ウイグル自治区南山草原


3. 生態産品と主体効能区


 筆者は楊偉民中国全国政治協商会議常務委員が提起した「生態産品」の概念に賛同する。草地の経済価値を一途に追い求めてはならず、草地を生態産品として捉え、其の生態価値を求めて行くべきである。もちろん、草地を生態産品とし価値を与えていくには、中央財政による生態産品の購入、地域間の生態価値交換、水使用権・二酸化炭素排出権の取引などを実現しなければならない。これらのメカニズムの構築は政策制度の担保が欠かせない。

 中国ですでに施行し始めた主体効能区制度はこのようなメカニズムを構築するためのフレームワークである。主体効能区は国土を最適化開発地域、重点開発地域、制限開発地域、禁止開発地域の4つのカテゴリーに分けた。主体効能区は、異なる地域に異なる開発政策を実施し、上記後者の2地域に退耕還林(耕作を中止し耕地を元の林に戻す)、退牧還草(放牧をやめ、草地を元に戻す)、開発の制限および禁止などの政策を断行し、生産空間を減少させ、生態空間を増加させるべく推し進めている。

 中国の草地資源の大半は、制限開発地域と禁止開発地域に集中している。主体効能区制度の実施によって、草地資源の状況が大幅に改善されることが期待できる。もちろん、政策、制度メカニズムの構築にしろ、具体的で有効的な実施にしろ、まだ長い努力の道のりが必要である。


日本語版『黄砂襲来に草地を論ず』(チャイナネット・2021年3月23日)

中国語版『沙尘暴后论草地』(中国網・2021年3月19日)

英語版『Grassland degradation a factor behind sandstorm』(中国国務院新聞弁公室・2021年3月24日、China Daily・2021年3月24日)

杭州:歴史とハイテクが交差する古都【中国中心都市&都市圏発展指数2021】第6位

中国中心都市&都市圏発展指数2021
第6位


 杭州市は中国中心都市&都市圏発展指数2021の総合第6位に輝いた。同市は前年度より順位を1つ上げた。

 〈中国中心都市&都市圏発展指数は、中国都市総合発展指標の派生指数として、4大直轄市、22省都、5自治区首府、5計画単列市からなる36の中心都市の評価に特化したものである。同指数は、これら中心都市を、全国297の地級市以上の都市の中で評価している。10大項目と30の小項目、116組の指標からなる。包括的かつ詳細に、中国中心都市の発展を総合評価するシステムである。

CCCI2017 | CCCI2018 | CCCI2019 | CCCI2020

 

〈中国中心都市&都市圏発展指数〉:【36中心都市】北京、上海、深圳、広州、成都、天津、杭州、重慶、南京、西安、寧波、武漢、青島、鄭州、長沙、廈門、済南、合肥、福州、瀋陽、大連、昆明、長春、ハルビン、貴陽、南昌、石家荘、南寧、太原、海口、ウルムチ、蘭州、フフホト、ラサ、西寧、銀川

長江デルタメガロポリスの中核を担う「地上の楽園」


 浙江省の北部に位置する杭州は同省の省都であり、西安、洛陽、南京、北京、開封、安陽、鄭州と並ぶ「中国八大古都」の1つである。「地上の楽園」と称賛されるほど美しい風景が広がり、古くから繁栄している。世界遺産の西湖や京杭大運河をはじめとする有名な観光地が点在し、国内外から多くの観光客を惹きつける観光都市である。中国都市総合発展指標の「国内旅行客数」項目では中国第8位、「海外旅行客数」では第30位であった。杭州は長江デルタメガロポリスの主要都市として、GDPは2015年に1兆元の大台を突破し、いわゆる「1兆元クラブ」都市に仲間入りした。2021年に同市のGDPは18,109億元(約36.2兆円、1元=20円換算)に達し、中国では第8位となった。

アリババグループのホームタウン


 中国は現在、世界で最も「キャッシュレス生活」が進んでいると言われ、その牽引役は「Alipay(支付宝)」と「WeChat Pay(微信支付)」の二大サービスである。「Alipay」は、杭州に本拠地を置くアリババグループ(阿里巴巴集団)が提供するオンライン決済サービスである。

 世界最大規模の電子取引で知られるアリババグループは、1999年の設立当時から杭州市内に本社を置き、同市の経済発展を牽引している。

 毎年11月11日に同社が開催するEC販促イベント「独身の日(双十一)」の売上は、1日で約1.1兆元(約22.2兆円)にも上る。同社は、杭州を拠点に世界中の企業や消費者にITサービスを提供し、同市を一大イノベーションシティへと押し上げた。

 アリババは地元のITインフラにも力を入れており、杭州でスマートシティプロジェクト「ETシティブレイン(城市大脳)計画」を推進する。これにより、都市の交通、公共サービス、環境保護などの分野でデジタル技術を活用し、市民の生活の質を向上させている。

メガシティへと成長


 都市経済の成長は全国から多くの若者を惹きつけている。杭州の常住人口は、2019年に1,000万人台に達し、メガシティへの仲間入りを果たした。同市の常住人口は2022年、1,220万人に達し、中国第12位となった。なお、中国には現在、メガシティが17都市存在している(詳しくは、【ランキング】メガシティの時代:中国都市総合発展指標2021ランキングを参照。)。

 2019〜2021年の3年間の常住人口の純増は、それぞれ55.4万人、157.6万人、26.8万人と急成長している。また、「流動人口(非戸籍常住人口)」も中国第9位の379.8万人に達した。

 こうした杭州の人口増には、北京、上海が人口抑制政策を取るのに対して、杭州市が人材獲得に積極的である背景がある。

 また、中国都市総合発展指標2021によると、トップクラス人材の集積を表す「傑出人物輩出指数」は中国第5位、「中国科学院・中国工程院院士指数」は中国第6位となり、人材の量も質も兼ね備えている。膨大な人口と高度人材の集積が進む杭州は、今後どのような発展を遂げてくのか、国内外の注目を集めている。


中国都市総合発展指標2021
第6位


 杭州は総合ランキング第6位であった。前年度は第8位から、順位を元に戻した。

 「社会」大項目では第6位であり、前年度に比べ2つ順位が上がった。3つの中項目の「生活品質」では第5位、「伝承・交流」は第6位、「ステータス・ガバナンス」は第9位であり、3項目ともトップ10入りを果たした。小項目で見ると、「歴史遺産」「生活サービス」は第5位、「都市地位」「人的交流」「居住環境」「消費水準」は第6位、「人口資質」は第7位、「文化娯楽」は第8位と、9つの小項目のうち、9項目がトップ10位内にある。なお、「社会マネジメント」は第15位であった。「社会」の成績は、全体的に極めて高く、バランスも良い。 

 「経済」大項目は第8位であり、前年度より1つ順位を上げた。3つの中項目の中で「経済品質」「発展活力」は第7位、「都市影響」は第9位であり、3項目ともトップ10入りを果たした。小項目では、「経済構造」「イノベーション・起業」は第5位、「広域輻射力」は第6位、「経済規模」「ビジネス環境」は第8位、「開放度」は第10位と、9つの小項目のうち、6項目がトップ10入りを果たした。なお、「都市圏」「広域中枢機能」は第11位、「経済効率」は第12位であった。「経済」の成績は、各項目ともに全体的に極めて高い結果となった。

 「環境」大項目は第19位となり、前年度より順位を上げる結果となった。3つの中項目の中で「空間構造」は第14位と良好であるが、「環境品質」は第33位、「自然生態」は第74位であった。小項目では、「環境努力」は第8位と、9つの小項目のうち、トップ10入りを果たしたのは1項目のみであった。トップ10以下は、「都市インフラ」は第12位、「交通ネットワーク」は第14位、「資源効率」は第19位、「コンパクトシティ」は第22位、「気候条件」は第74位、「水土賦存」は第93位であった。また、第74位の「自然災害」、第138位の「汚染負荷」は、いずれも全国平均を下回った。

 杭州は、社会や経済と比較すると環境の成績は少し劣るものの、三者のバランスは相対的によく取れている。

CICI2016:第7位  |  CICI2017:第7位  |  CICI2018:第6位
CICI2019:第6位  |  CICI2020:第8位  |  CICI2021:第6位


スタートアップ都市


 アリババグループホームタウンの効果で、杭州には企業の本社機能が集積している。〈中国都市総合発展指標2021〉によると、本社機能を示す「メインボード上場企業」で杭州は前年度から順位を1つ上げ、広州を抜いて第4位になった。同じく、「フォーチュントップ500中国企業」も前年度に引き続き中国第4位を獲得、とりわけ、中国を代表する民営大企業の集積を示す「中国民営企業トップ500」においては前年度同様、全国トップを堅守した。

 背景にあるのは、スタートアップの活力である。中国のスタートアップ都市といえば、北京、上海、深圳というイメージが強い。しかし、杭州の活気はそれらの都市に劣らない。

 ユニコーン企業の集積を示す「ユニコーン企業指数」で杭州は、北京、上海に続いて中国第3位という好成績を収めている。ここで、ユニコーン企業とは、評価額10億米ドルを超える未上場企業のことである。2021年、ユニコーン企業は北京に最も多く90社が所在し、第2位の上海には73社、第3位の杭州には22社ある。なお、同指数の第4位である深圳は、企業数こそ31社と杭州を上回るものの、企業価値では杭州の半分程度となっている。

 杭州のスタートアップ熱には、アリババの存在が大きい。世界最大級のユニコーン企業「アント・フィナンシャル」を筆頭に、杭州にはアリババが出資する数々のベンチャーが、一大IT経済圏を形成している。その結果、2021年の「メインボード上場企業」で、杭州のIT企業数は中国第4位と高い成績を誇っている。

幸福感溢れる「茶の都」


 杭州は「茶の都」としても名高い。西湖周辺の龍井村を産地とする最高級緑茶「龍井茶」は古くから中国十大銘茶の一つに数えられている。清の乾隆帝が西湖で龍井茶を賞味し、その味を絶賛したエピソードが有名である。毛沢東も周恩来も龍井茶を愛飲し、外国の賓客へのプレゼントにしばしば選んだことで、世界に名を広げた。

 杭州のお茶がおいしい理由の一つは、同地の「水」にある。杭州には西湖に代表されるように水源が豊かで、泉も多い。地元の「虎跑」泉などの名水で入れた龍井茶が贅沢の極みとされている。〈中国都市総合発展指標2021〉によると、杭州の年間降水量は約1,500ミリで、「降雨量」は中国第45位である。また、年間平均気温は16℃、茶樹の成長には適した気候である。茶葉が芽を出し続け、摘み取り時期も長く、摘み取り頻度が高いとされる。中でも、春の「清明節」(春分の日から15日後にあたる祝日)の直前に摘む一番茶が最高級で、時の皇帝への献上品とされていた。

 杭州は古くは南宋の都として栄え、江南の美と贅沢を育んだ。国内有数の美術大学の1つ「中国美術学院」がある。美食都市としても名高い。〈中国都市総合発展指標2021〉によると、杭州は、「社会」大項目のうち、「世界遺産」は第2位、「海外高級ブランド指数」は第3位、「無形文化財」「海外飲食チェーンブランド指数」は第5位、「1万人当たり社会消費財小売消費額」は第10位と好成績を誇る。「経済」大項目においても、「トップクラスレストラン指数」が第6位となっている。

 中国国家統計局と中国中央電視台(CCTV)は毎年、全国から「中国幸福感都市」を10都市選んでいる。杭州はその中で選出累積回数が最多で、中国の「幸福感」ナンバー1都市である。

2023年・第19回杭州アジア競技大会が開催


 アジアのスポーツの祭典「アジア競技大会(アジア大会)」が、2023年9〜10月に杭州で開催される予定である。当初、当大会は2022年に開催される予定であったが、新型コロナウイルスパンデミックの影響で、開催予定が引き伸ばされた。中国では1990年の北京、2010年の広州に次いで3度目の開催となる。

 杭州では2017年から大会組織委員会が本格的に稼働しはじめ、「グリーン・スマート・節約・マナー」の開催理念のもと、インフラ整備をはじめ、大会準備が着々と進行している。

 〈中国都市総合発展指標2021〉によると、「スタジアム指数」は中国で第21位、「文化・スポーツ・娯楽輻射力」は第7位となっている。杭州はアジア大会を契機にスポーツ都市としての飛躍を目指している。

 2018年のアジア大会で話題となった競技は多数あったが、特に注目されたのは「eスポーツ」であった。eスポーツとはオンラインゲームの総称であり、格闘ゲーム、シューティング、戦略ゲーム、スポーツゲームなど、ジャンルは多種多様である。2018年大会ではあくまで公開競技としてのみの採用だったが、2023年の杭州大会では、eスポーツの公式種目化が実現し、大会の一つの目玉となっている。アリババホームタウンの杭州で、eスポーツの新たな歴史の幕が開ける。

G20杭州サミットと進むコンベンション産業


 2016年9月、20カ国・地域(G20)首脳会議「G20杭州サミット」が杭州で開催された。2日間にわたり、「革新、活力、連動、包摂の世界経済構築」をテーマに、多岐にわたった議論が各国の参加者の間で交わされた。

 コンベンション産業の経済波及効果は大きく、現在では世界各国がその産業育成に力を入れている。中国政府も、同国を国際コンベンション大国にまで成長させる目標を掲げている。「G20杭州サミット」の開催はその最たる動きである。

 国際見本市連盟(UFI)のレポート『UFI World Map Of Exhibition Venues 2022 Edition』によると、中国の施設屋内展示面積はすでに米国を抜いて世界第1位になった。施設屋内展示面積(2022年末)において、中国は213施設で約1,022万平方メートルとなり世界シェアは25.2%である。アメリカは305施設で約694万平方メートルとなり世界シェア17.1%となっている。中国の面積規模はアメリカの約1.5倍となっている。上位5カ国(中国、米国、ドイツ、イタリア、フランス)が、世界の屋内展示場面積の60%以上を占める。なお、日本は、13施設で約45万平方メートルと世界ランキングで第16位で、中国と日本の規模は約22.7倍の差が開いている。一方、中国のコンベンション産業の発展には会場施設の過剰、低稼働率などの問題も指摘されている。

 〈中国都市総合発展指標2021〉によると、杭州の「展示会業発展指数」は中国第7位、「国際学術会議」は第13位となっている。

 杭州市政府は、「第19回アジア競技大会」開催を契機に、観光、レジャー、コンベンションをツーリズム産業発展の三大エンジンとする政策を打ち出し、コンベンション都市としての発展を目指している。