【ランキング】メガシティの時代:中国都市総合発展指標2021ランキング

雲河都市研究院

 雲河都市研究院は、中国における地級市以上の297都市(日本の都道府県に相当)を対象とした〈中国都市総合発展指標2021〉の総合ランキングを発表した。北京が6年連続トップ、上海が2位、深圳が3位となった。


 中国共産党中央財経領導小組弁公室元副主任、全国人民政治協商会議常務委員の楊偉民氏は、「私にとって親しみ深い中国都市総合発展指標が約束通り再び公表された。この指標は、誕生以来、常に新しい発見をもたらしてくれる。今回、中国都市総合発展指標2021では、都市規模別、地域別の分析が追加された。総合指標、そして経済・環境・社会的評価を用いて、都市を規模や地域ごとに分類、比較研究し、新たな知見をもたらしている。京津冀(北京・天津・河北)、長江デルタ、珠江デルタ、成渝(成都・重慶)などの地域におけるメガシティから中小都市に至るパフォーマンスが可視化されたことで、第20回中国共産党大会(2022年10月に開催)が打ち出した、メガシティと特大都市の、発展モデルの転換を加速させる政策の背景にある深い思考が窺える」と称賛した。

1.先進的なマルチモーダル指標で都市を「五感」で評価


 中国都市総合発展指標(以下、〈指標〉)は、中国の297都市を対象とし、環境、社会、経済の3つの側面(大項目)から都市のパフォーマンスを評価したものである。〈指標〉の構造は、各大項目の下に3つの中項目があり、各中項目の下に3つの小項目が設けた「3×3×3構造」になっており、各小項目は複数の指標で構成されている。これらの指標は、882のデータセットから構成されており、その31%が統計データ、35%が衛星リモートセンシングデータ、34%がインターネットビッグデータから構成されている。この意味で、指標は、異分野のデータ資源を活用し、五感で都市を高度に感知・判断できる先進的なマルチモーダル指標システムである。

 深圳市元副市長、香港中文大学(深圳)理事の唐傑氏は、「今回の〈指標〉は前年度と比較すると、総合ランキングのトップ10都市は安定しており、杭州は8位から6位に順位を上げた。中国都市勢力図では、成都、杭州、南京、重慶、蘇州が新一級の都市として安定し、北京、上海、深圳といった一級都市に追いつく勢いを強めている。〈指標〉の特徴として、経済規模、経済構造、経済効率、ビジネス環境、広域インフラ、輻射能力など9つの小項目指標が都市の経済を評価している。また、自然生態、汚染負荷、環境努力、交通ネットワークなど9つの小項目指標が都市の環境を評価している。加えて、居住環境、生活サービス、文化施設、人的交流など9つの小項目指標が社会発展を評価している。都市発展を総合的に評価するこの27の「小項目指標」は、中国都市の量的成長から質の高い発展への移行を、定量的に評価するバロメータである」と指摘する。

 指標2021総合ランキングのトップ10都市は順に、北京、上海、深圳、広州、成都、杭州、重慶、南京、蘇州、天津となっている。これら10都市は、長江デルタメガロポリスに4都市、珠江デルタメガロポリスに2都市、京津冀メガロポリスに2都市、成渝メガロポリスに2都市と、4つのメガロポリスにまたがっている。

 総合ランキング第11位から第30位は順に、武漢、西安、廈門、寧波、長沙、青島、東莞、福州、鄭州、無錫、仏山、昆明、珠海、合肥、済南、瀋陽、南昌、海口、三亜、貴陽の都市である。

 総合ランキング上位30都市のうち、24都市が「中心都市」に属している。中心都市とは4直轄市、5計画単列市、27省都・自治区首府から成る36都市である。つまり、総合ランキングの上位30位以内に7割近くの中心都市が入っており、中心都市の総合力の高さが伺える。

図1 〈中国都市総合発展指標2021〉総合ランキング トップ100都市

2.メガシティと特大都市が中国の都市発展をリード


 都市規模と発展水準の関係分析を可視化するために、指標2021では、箱ひげ図と蜂群図を重ね合わせ、タイプごとに都市の偏差値分布とその差異を比較した。

 これに対して、中国国家発展改革委員会発展戦略和計画司元一級巡視員、中国駐日本国大使館元公使参事官の明暁東氏は、「〈指標2021〉のこの試みは画期的だ。これによって、各種指標のランキングに、箱ひげ図が重ねられ、異なるタイプ都市の分布と差異が可視化された。2021年中国都市全体の発展状況が非常に正確に示されている。読者に中国都市の実力をより立体的かつ直観的に印象づける。これ自体が、一つの重要なイノベーションである」とコメントしている。

 指標2021では、都市を人口規模に応じて、人口1000万人以上の「メガシティ」、500万人以上1000万人未満の「特大都市」、300万人以上500万人未満の「第Ⅰ種大都市」、100万人以上300万人未満の「第Ⅱ種大都市」、100万人未満の「中小都市」と分類している。 この分類は、「都市規模分類基準の変更に関する中国国務院通達」の都市分類と同じだが、「通達」では「都市部人口」を用いているのに対し、〈指標〉では「常住人口」を用いている。

 直近で実施された中国第7回国勢調査のデータを用いて297の地級市以上都市を分類すると、メガシティは17都市、特大城市は73都市、第Ⅰ種大都市は107都市、第Ⅱ種大都市は79都市、中小都市は21都市となる。

 17メガシティの常住人口は2億7千万人に達し、日本総人口の2倍以上に相当する。メガシティと特大都市を合わせると90都市で、総人口は7億8,000万人に達し、これはアメリカ総人口の2倍に相当する。これについて、東京経済大学の周牧之教授は、「中国人口の半分以上がこれらの都市に住んでおり、メガシティ化、大都市化は、中国ですでに現実のものとなっている」と指摘している。

 箱ひげ図中の横線は、サンプルの中央値、箱の上辺は上位四分位点(75%)、箱の下辺は下位四分位点(25%)、箱本体は50%のサンプル分布を示している。蜂群図は、個々のサンプル分布をプロットした図である。箱ひげ図と蜂群図を重ね合わせることで、サンプルのポジションと全体の分布の双方を示せる。

 指標では、評価方法に偏差値を用い、全国での各指標における各都市のパフォーマンスを測っている。これによって、各指標で用いられる異なる単位を、偏差値という統一的な尺度で総合的に比較することが出来た。各都市における偏差値の中央値は、図2に見られるように、メガシティのみ全国平均を上回っている。環境、経済、社会の三大項目の偏差値を積み重ねた総合評価の全国平均値は、150である。図2で示すように、各タイプ都市の中で、唯一メガシティの中央値が全国平均値を超えた。

 周牧之教授は「メガシティは、疑いなく中国都市発展のエンジンとなっている。但し、メガシティの中でもその評価は芳しくない都市もある。例えば、临沂の総合評価偏差値は全国の平均値を下回った。また石家荘の総合ランキングは全国第46位である。これに対して、石家荘より180万人も人口の少ない南京は、人口規模では特大都市でありながら、総合ランキングでは第7位に輝いている」と解説する。

 これは、指標が「環境」「社会」「経済」の総合評価であることに起因している。人口規模と環境、社会、経済の三大項目との相関を分析すると、人口規模は「環境」との相関が弱く、「社会」との相関がやや強く、「経済」との相関が最も強いことがわかる。つまり、人口規模が大きい経済パフォーマンスの良い都市でも、「環境」の得点が低い場合は、総合ランキングの順位を引き下げることがある。

図2 〈中国都市総合発展指標2021〉総合ランキング 人口分類別分析

出典:雲河都市研究院〈中国都市総合発展指標2021〉より作成。

3.地域発展で先行する華東地域と華南地域


 中国は国土が広大であり、気候や地理的条件、社会発展の状況も地域によって大きく異なる。指標2021では、華北、東北、華東、華中、華南、西南、西北といった7地域の都市パフォーマンスを比較分析している。

 各地域の都市の数と人口規模を比較すると、華北は33都市で人口1.64億人、全国に占める人口シェアは11.6%である。東北は34都市で0.96億人、同6.8%である。華東は77都市で4.25億人、同30.1%と全国で最大規模の人口を抱えている。華中は42都市で人口2.14億人、同15.1%、華南は39都市で人口1.82億人、同12.9%、西南は39都市で1.71億人、同12.1%である。西北は33都市で0.79億人、同5.6%と全国で最少となっている。中国人口分布は地理的に偏在し、その重心は、沿海部と長江沿いに集中している。

 さらに、各地域の流動人口を見ると、華北は-371.3万人、東北は-400.1万人、華東は1645.9万人、華中は-126.6万人、華南は1685.0万人、西南は-974.5万人、西北は-1007.5万人で、各地域から華東、華南への人口移動が著しい。この人口移動は中国の人口分布の偏在をさらに顕著にしている。

図3 〈中国都市総合発展指標2021〉総合ランキング 地区別分析

出典:雲河都市研究院〈中国都市総合発展指標2021〉より作成。

 図3に示すように、中央値が全国平均の150を超える地域はない。東北地域は、中央値が最も低く、その中心都市4都市はいずれも総合順位が高くないと同時に、一般都市のほとんどもその低い中央値周辺に集まっている。それに対して西北地域は、総合ランキング12位の西安が同地域の中央値を引き上げている。

 総合ランキングトップの北京と同10位の天津はスコアを伸ばしたことで、華北地域の中央値が東北・西北地域の中央値より高くなっている。

 華中地域も武漢、長沙、鄭州の3つの中心都市の牽引力に頼るところが大きい。一般都市の中では宜昌だけが総合偏差値で全国平均を上回っている。

 中央値が最も高い華東地域は事情が異なる。上海に代表される中心都市だけではなく、蘇州、無錫に代表される一部の一般都市の成績も非常に優れていることから、箱ひげ図の箱のサイズが大きく、中心都市と一般都市が一体となって中央値を引き上げている。華南地域も同様で、中心都市である深圳や広州の牽引力が強いと同時に、東莞や仏山といった非中心都市の存在感も目を引く。この2つの地域では、すでに一部の一般都市が中国都市発展の最前列に並んだ。


【日本語版】
チャイナネット「メガシティの時代:中国都市総合発展指標2021ランキング」(2023年3月29日)

【中国語版】
中国網「超大城市时代:中国城市综合发展指标2021排行榜」(2023年2月21日)

【英語版】
China.org.cn「The era of megacities: China Integrated City Index releases 2021 rankings」(2023年3月14日)

中国国務院新聞弁公室(SCIO)「The era of megacities: China Integrated City Index releases 2021 rankings」(2023年3月14日)

他掲載多数


西寧:西部大開発の拠点都市【中国中心都市&都市圏発展指数2020】第52位

 フフホト市は、中国中心都市&都市圏発展指数2020の総合第52位にランクインした。同市は2019年度より順位を1つ下げている。

 中国中心都市&都市圏発展指数は、中国都市総合発展指標の派生指数として、4大直轄市、22省都、5自治区首府、5計画単列市からなる36の中心都市の評価に特化したものである。同指数は、これら中心都市を、全国297の地級市以上の都市の中で評価している。10大項目と30の小項目、116組の指標からなる。包括的かつ詳細に、中国中心都市の発展を総合評価するシステムである。

 西寧市は、青海省の省都で、チベット高原の東玄関口として、中国西北部の中心都市である。現在、5区2県を管轄し、総面積7,660平方キロメートル(宮崎県と同程度)で、2021年における地域内総生産は、前年比8.1%増の1548.8億元(約3.1兆円、1元=20円換算)で、中国では188位である。

 同市は、東西に細長い形をしており、南西部が高く、北東部が低い地形となっている。南は南山、北は北山に囲まれている。海抜2,261メートル(長野県・有明山の標高と同程度)の高原都市で、年間平均降水量は380ミリメートル、年間平均日照時間は約1,940時間、年間平均気温は7.6℃、最高気温は34.6℃、最低気温は-18.9℃で、寒暖差は激しい。夏の平均気温は17〜19℃と過ごしやすい。

 青海省の東部、湟水河(青海省に源を発し甘肅省に流入する黄河上流の重要な支流)の中流域に位置する西寧市は、古代シルクロードや「唐蕃古道(とうはんこどう)」の交易都市として、古来より栄えた。唐蕃古道は、かつて中国中原とチベットを結んだ交易ロードである。唐は唐朝のことを指し、蕃はチベットのことを示す。

 西寧市は、黄土高原とチベット高原の結節点に位置することから、色彩豊かな民俗文化を有する多民族都市である。現在は、漢族、チベット族、回族など多民族が居住している。チベット仏教の聖地・タール寺は、観光名所として名高い。

 2000年から始まった「西部大開発」は同市に大きな発展をもたらしている。西部大開発とは、東部沿海地域と内陸の西部地域の格差を是正し、内陸経済の発展を促す国家政策である。同政策によって、西寧市の空港、鉄道や道路などの広域インフラ整備は急速に進み、経済発展が加速した。その結果、青海省の都市化率は、2000年の34.8%から、2021年には61%に達した。西寧市の人口は、2000年の197.9万から、2021年には247.6万となり、この間、約50万人も増加している。

 青海省は、チベットに続く中国で2番目に草地が多い省である(「【コラム】黄砂襲来に草地を論ず 〜中国都市草地面積ランキング2019〜」を参照)。西寧市は、市内の半分以上の面積が草地である。しかし、上記のコラムでも指摘しているように、中国では乱開発の影響により、草地の減少が大きな環境問題となっている。近年、「主体効能区」政策の実施によって、草地の資源状況が大幅に改善されている。西寧市の豊富な自然資源は現在、観光資源としても注目を集めている。


〈中国中心都市&都市圏発展指数〉:【36中心都市】北京、上海、深圳、広州、成都、天津、杭州、重慶、南京、西安、寧波、武漢、青島、鄭州、長沙、廈門、済南、合肥、福州、瀋陽、大連、昆明、長春、ハルビン、貴陽、南昌、石家荘、南寧、太原、海口、ウルムチ、蘭州、フフホト、ラサ、西寧、銀川

中国中心都市&都市圏発展指数2020
中国中心都市&都市圏発展指数2019
中国中心都市&都市圏発展指数2018
中国中心都市指数2017

【フォーラム】高井文寛:自然回帰で人間性の回復を

ディスカッションを行う高井文寛・スノーピーク副社長

 東京経済大学は2022年11月12日、学術フォーラム「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」を開催した。和田篤也環境事務次官、南川秀樹元環境事務次官、中井徳太郎前環境事務次官、新井良亮ルミネ元会長をはじめ産学官のオピニオンリーダー16人が登壇し、周牧之ゼミによるアンケート調査をネタに、新しい地域共創の可能性を議論した。高井文寛・スノーピーク副社長がセッション2「地域経済の新たなエンジン」のパネリストを務めた。

 

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学術フォーラム「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」
セッション2:地域経済の新たなエンジン

会場:東京経済大学大倉喜八郎進一層館
日時:2022年11月12日(土)


■ すべての社員、会員の組織でアーバンフィールドから自然の中までつなぐ


 周牧之(司会)今回東京経済大学周ゼミのアンケート調査で面白い数字があった。国分寺にキャンパスがある東経大の学生のうち4割近くが国分寺の豊かな自然資源に接していなかった。私も非常に驚いた。コロナという特別の事情があったにせよ、自然資源はそこにあるだけではなく、アクセスさせるための仕掛けが必要だと強く感じさせられる調査結果だった。

 その点で、スノーピークは自然へのアクセスを仕掛けるビジネスを展開し、コロナ下でもキャンプ事業、関連事業を含めて業績を伸ばしている。本社は新潟にあり、キャンプ場も併設されていることで、地域密接型の事業を展開し、学生からも高い関心を集めている。アンケートの中で「あなたが知っているアウトドアキャンプ企業を教えてください」という設問に対して、スノーピークは第3位にランキングされた。国内の企業では1位だった。

高井文寛:ます、学生さんのアンケートで3位に入ってほっとしている。ようやくアウトドアのブランドとして日本では認知されたかなと、ありがたい。

 スノーピークは野遊び、地方創生ということで取り組みをしている。本社を置くのは新潟県燕三条だ。地場産業で金属加工が得意な地域で、1958年に地場産業の金属加工でキャンプのギアを作り始めたところからブランドがスタートした。今では先ほどご紹介いただいたように、地域密着企業で地方創生型の企業だと思う。2011年に地元の遊休地に本社を移し、年間大体4万人以上のキャンパーさんがここを訪れてくださる。スパやホテル、レストランも今年併設したので、今年でいうと大体6万人以上の方がお越しいただけるというような状況だ。

 スノーピークが地方に貢献できる強みを少し紹介させていただきたい。事業領域というところ、スノーピークは全ての社員がキャンパーであるという企業だ。そのキャンパーの集まりが、「アーバンアウトドア」というまちづくりから自分たちのフィールドの自然の中までを繋ぐ形で多くのビジネスを展開している。その事業領域を包括的に地方創生の場に活かしている形だ。

 もうひとつは、スノーピークには国内に76万人ほどの会員の組織がある。この会員の組織を使うとともに、日本全国に100店舗ほどスノーピークのスタッフがついている店舗があるので、地方創生で生まれた商品の販売という形でも貢献させていただいている。さらに、デジタルコミュニティあるいはデジタルのプラットホームという形で、76万人の会員さんとさらに新規の方を取り入れるために「野遊び」というコミュニティアプリを展開している。デジタル上でもお客様とのコミュニケーションを重視している。

 今、日本の話をさせていただいたが、実はグローバルに拠点を展開しており、英国、米国、韓国、それと地域では台湾で拠点を持っている。このグローバルのネットワークでは、地方創生に携わらせていただいた地域へグローバルでのブランディングをさせていただいている。

第2セッション・ディスカッション風景

■ 地元の遊休地を人と自然、人と人がつながるプラットフォームに


高井文寛:地方創生の方法について、ご説明したい。スノーピーク自体が地元燕三条に根ざした地方創生型企業で、キャンプ場をオープンさせてから年間では6万人、過去を振り返ると20万人以上のキャンパーさんにご利用いただいている。本社でやるイベントには9万人が参加する形で、地元の遊休地を自然と人、人と人が繋がるプラットフォームに変えてきた。

 その燕三条での地方創生型の拠点運営で培ったソリューションとして、製品開発、体験開発、運営ノウハウがある。それと会員の基盤だ。さらには顧客基盤と地域との繋がり、地域密着をノウハウとして持っている。それらを利用し、具体的に地域課題の解決と、地域の持続可能な開発に貢献していきたいということで、4つの開発を行っている。ひとつ目が、拠点の開発。2つ目が体験開発。3つ目が製品開発。そして4つ目に顧客開発だ。拠点開発・体験開発は特に地方創生という部分に貢献できている。プラットフォームを通じて製品開発と顧客開発は持続可能な地域の創生に貢献できているかなと思う。

■ 地域課題の解決をビジネスモデルに


高井文寛:拠点開発の事例では、長野県白馬村でグランピング施設をやっている。こちらは地域課題として、ホワイトシーズンに強い地域だが、グリーンシーズンは通過型の町になってしまうという課題があった。そこで、夏のスキー場を活かし、夏しかオープンしないオンリーワンなグランピングにし、今では稼働率も高く運営できている。

 体験開発においては、ローカルツーリズムという体験を各地でやっている。これは衣食住働遊というところに掛けて、地元の地場産業、文化、食をツーリズム商品として展開している。

 製品開発でひとつの事例としては、地方創生に携わった奥日田で地元の林業に根差した製品である日田下駄をアウトドア用にプロデュースさせていただき、例えばアメリカニューヨークの店舗でも販売した。実は全国でもグローバルでも、これが一番売れたのがニューヨークだったということが起きている。

■ 地域課題の解決をビジネスモデルに


高井文寛:拠点開発の事例では、長野県白馬村でグランピング施設をやっている。こちらは地域課題として、ホワイトシーズンに強い地域だが、グリーンシーズンは通過型の町になってしまうという課題があった。そこで、夏のスキー場を活かし、夏しかオープンしないオンリーワンなグランピングにし、今では稼働率も高く運営できている。

 体験開発においては、ローカルツーリズムという体験を各地でやっている。これは衣食住働遊というところに掛けて、地元の地場産業、文化、食をツーリズム商品として展開している。

 製品開発でひとつの事例としては、地方創生に携わった奥日田で地元の林業に根差した製品である日田下駄をアウトドア用にプロデュースさせていただき、例えばアメリカニューヨークの店舗でも販売した。実は全国でもグローバルでも、これが一番売れたのがニューヨークだったということが起きている。

■ 地域資源を魅力的にリデザインしてコンテンツ化する


高井文寛:具体的な地方創生の事例を3つだけご紹介したい。スノーピークでは、都市から自然の中までということで、4つの形態で地方創生の拠点を開発している。今、全国では14拠点に携わらせていただいた。まずは十勝ポロシリという地域だ。見過ごされていた冬の魅力をコンテンツ化し、既存の施設の活用を通して、キャンパー、アウトドアパーソンの皆さんに届けたところ、利用者数を3.6倍、施設収入を36倍ぐらいにできている。

次に、大分県の奥日田。こちらは既存施設の改修のコンサルをさせていただいた。林業の町の地域資源を野遊びでリデザインする形で、利用者数を3.3倍、施設収入を6.5倍にした。

あとは高知県の仁淀川だ。仁淀川は最後の清流と言われ、すごい自然資源を持ちながら、滞在型の拠点がなかったことで観光としては通過型の町になっていた課題があった。そこで町と一緒に本当の新規開発ということでキャンプ場を出現させた。それにより、この越知町の宿泊において新規観光入込数1万人を年間で獲得できた。

以上のように、スノーピークという自然を知っている企業が、その地域とのプラットフォームとコミュニティを通じ、我々が持っている会員組織とリソースをその地域に集約していく形で地方創生を行わせていただいている。

周牧之:スノーピークという社員は全員キャンパーで、非常に現場力が強いという印象を持っている。野遊びで地域の活性化につながるビジネスなどを展開することで、若者の心をつかんでいる。

高井文寛:全員がキャンパーで、本社がキャンプ場にあるという変わった立地なので、入社応募してくる方もほぼキャンパーというような、その辺うまくできていると思う。地方創生の展開をしていることもあるのか、最近新卒の方でスノーピークに入社したら一番何がやりたいかという話をすると、地域貢献、地方創生と言ってくる学生さんがすごく増えている現状もある。

周牧之:今回のアンケートにあったように、東京経済大学が立地する学生の町、国分寺では学生がたくさんいるにも関わらず、地元と若い人たちとの関係性はそれほど強くない。豊かな地域資源があるにもかかわらず、若い人たちはあまり接していない、使っていない。駅に大型の集合施設があっても、そんなに使っていないようで、その結果、地元の国分寺に対する愛着もそれほど強くはない。

実はこうした現象はおそらく国分寺だけではなく、全国的に起こっている。やはり若い人たちと地元との関係性をいかに強めていくかが、ひとつの地域活性化の根幹に関わる話だと思う。

高井文寛:地方創生をやるにあたってわれわれが一番大事にしているのが、モニタリングキャンプだ。一方通行にならないように、われわれ事業者も、行政とそこに暮らす人たち、町のキーパーソンも、企業の方々も、みんなを巻き込んで、焚き火をし、まずどういう地域課題があり、どういうものがあったらいいか、地域の特徴など全部お話しさせていただく。すごい小さな変化かもしれないが、それをやることによって、みんな「自分ごと」になる。拠点ができた時にみんなが関心を持ってくれる。

うまくいかない「地方創生」は、みんながやはり「自分ごと」に思わず、関心を持ってくれない。それによって事業者だけで孤立する状況もよく見てきている。小さな変化だが、そういうエリアが増えていくことによって、連携が深まっていくのかなと感じている。

周牧之:最後に一言、コロナ世代の学生へのメッセージを。

高井文寛:僕もキャンパーとして言うと、どれだけデジタル化が進んで働き方が変わっても、実際やはり、人間性が回復できるという部分では、もう自然の中、自然に触れるということが絶対役立つと思うので、ぜひ無理してでも自然の中へ行ってほしい。


プロフィール

高井文寛(たかい ふみひろ)/スノーピーク 代表取締役副社長

 1973年、新潟県生まれ。91年入社、営業管轄の役職を歴任、取締役執行役員営業本部長、専務取締役を経て、2020年より現職。近年は地方創生の業務にも従事、2019年スノーピーク地方創生コンサルティング代表取締役社長に就任。


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ディスカッションを行う内藤達也・国分寺市副市長

 京経済大学は2022年11月12日、学術フォーラム「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」を開催した。和田篤也環境事務次官、南川秀樹元環境事務次官、中井徳太郎前環境事務次官をはじめ産学官のオピニオンリーダー16人が登壇し、周牧之ゼミによるアンケート調査をネタに、新しい地域共創の可能性を議論した。内藤達也・国分寺市副市長がオープニングセッション「学生から見た地域共創ビジネスの新展開」のパネリストを務めた。

 

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学術フォーラム「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」
オープニングセッション:学生から見た地域共創ビジネスの新展開

会場:東京経済大学大倉喜八郎進一層館
日時:2022年11月12日(土)


■ 自治体経営上、汲み取りにくい20代の若者の意見


尾崎寛直(司会):周ゼミの皆さんから非常に網羅的なアンケート、そしてまた鋭い分析を提示していただいた。そして、学生の皆さんからそれぞれコメンテーターの皆様にも問題提起が投げかけられたので、これよりコメンテーターの皆さんも含めてパネルディスカッションを進めていきたい。

 今回のアンケートはコロナ時代の若者、とくに学生を対象にしたものだ。次世代を担う若者というのはやはり大事なキーワードであり、供給サイドからどのようにその若者に対して仕掛けていくのかも大きく問われていくところだろう。

 もうひとつは、若者✕地域という2つが大きなキーワードになる。大学の地元・国分寺市についての学生のアンケート結果では、なかなか親しみを感じるという割合が多くなかったと。たぶん国分寺市の本当の良さが伝わっていない側面もあるかも知れない。現在、地方自治体も人口減少の中で、住民の住みやすさをめぐって大きな自治体間競争の渦中にあると思う。

内藤達也:私どもが市民の皆さんの意見をいただき、市政に活かすという時に一番難しい世代が、実は皆さんの世代だ。20代の方の回答が非常に少ないもので・・・。実は国分寺市も市民アンケートを毎年やっていて、全体の回答率40.8%という中で、20代のところは8.2%という感じだ。そのため行政の経営の中で皆さんの世代の意見をどうやって反映するかが非常に厳しい時代になってきている。高校生までは学校に直接お願いをする方法があり、意見はいただくことはできるが、20代の方をつかむのは非常に難しい。そのため今回のアンケート調査の結果は、私どもにとっても非常にありがたいなと思う。

 ご指摘はご指摘という形で受け止め、皆様にまだまだ国分寺市の魅力が周知されていない現状が把握できましたので、これからお知恵を借りながら、どうやったら国分寺の魅力をさらに知っていただけるのか展開していきたい。こちらの市民アンケートの方でも、実は交通の便が良いというのが、市民が国分寺市を選択してお住まいになった理由の一番に来ている。これは学生の皆さんも最終的には交通、利便性というところで国分寺市に愛着を感じている。これをさらに高めるためにどうすればいいのかは、私どもだけではなく、東京都も巻き込んで行っていることは、まず中央線の連続立体交差事業があり、三鷹で停まっている複々線を立川まで持ってこようということをお願いしている。実はもう都市計画ができていて、あとは実行のボタンをいつ押してもらえるかという状況だ。これができると、三鷹の次は国分寺、が一般化されるので、さらに便利が増すと思う。

■ 地場産業の「供給サイドから仕掛ける」


内藤達也:そういったハードの部分に加えて、私どもの考え方は、国分寺も市民の皆さんとさまざまなイベントを展開していて、あるいは定着をしている。今回の「供給サイドから仕掛ける」というところでは地場の農業、農家の皆さんが国分寺市の地場野菜を国分寺市で消費できる仕組みをつくろうということで、10年目を迎えている。その「こくベジ」が浸透してきている。それをさらに若い人達に手伝ってもらうという言い方はおかしいが、この良さを知ってもらう。良いこと尽くめであることは確かだ。国分寺で作った野菜を皆さんが食べる、食堂や飲み屋さんで供給される。そうすると、当然移動コストがなくなる。SDGsにも貢献できる。

 国分寺にはイタリアン、中華レストランなど、たくさん飲食店があるが、実はこれまで作っていなかった野菜について、農家の皆さんがオーナーシェフやシェフの希望の野菜を作っていくことによって、品種が非常に増えてきている。今まで私どもが見たことないような野菜も、国分寺で育てて作っている。これは非常にいい展開になっているなと思っている。そういった取り組みを皆さんが知っているかどうかも含め、私ども行政の仕事を知っていただく部分、さらにそこに加わってもらう仕組みを考える必要があると思う。

 これまでの地域の産業をどうやったら、さらにもう一歩上に向かせられるのか。これはたぶん、若い人の支えや、若い人の思いが加わることによってひとつ突破できる気はしている。皆さんの意見を汲んだ店舗経営や、地域経営をしていかないとじり貧になってしまう。そういった視点での新たな地域おこしができないかなと思っている。

■ 若年世代の定着をめざす仕掛けづくり


内藤達也:あとはアンケートの中にもあったが、やはり若者が定着していただける、国分寺にこれから住んでみたいなと思うようなまちづくりができていけるか。これは逆に言えば、どんなまちに住みたいかっていうことになる。国分寺の魅力は農地があり、湧水があり、そして雑木林が残っていて、歴史がある。そういったことを知っていただいて、さらに一緒に仕掛けづくりができないかなと思っている。それがまちの魅力になって、相乗効果を生んでいくのではないか。あとは、集客を重んじた、若い人達が足を運んでくれるようなイベントをどう展開するか。実は今月の末から「ぶんぶんウォーク」という国分寺の地域の皆さんと立ち上げた新しいイベント、これも8年目になるが、やっとコロナが解禁されてフルで行うようになる。ここに参加すると、畑をめぐるとか、それから野菜を採るとか、芋を掘るとかそういうような体験もできるし、それを食べることもできる。ぜひ一緒にイベントを作っていって地域の皆さんとWin-Winの関係が作れるまちにしていければなと思う。

尾崎寛直:私が見る限り、かなり国分寺地域では若い方々が仕掛けたお祭り、ぶんぶんウォーク、音楽やアートのイベントとかたくさん育ってきているかと思うので、そこにもう一段若い人達が絡んでいくと、大きなうねりになるだろうなという気がする。 

 エンタメだとか、市民の文化ニーズに応えようとすると、自治体の今までの施策としては、やれ立派な文化会館を造るとか、ホールを造るとか、インフラ投資、設備の整備が主目的になりがちだったと思う。これまで議論してきたように、エンタメはいろいろなレベルであり得るし、ある意味どこででもできる。国分寺市には大きなオープンスペースもあるし、史跡だってある。自治体経営の中で今後のエンタメの取り入れ方と可能性についてはいかがか。

オープニングセッション風景

内藤達也:実は2022年、武蔵国分寺が史跡に指定されて100周年という記念の年になる。そのためにイベントをひとつ企画し、史跡の金堂後に舞台を設置して、そこで東経大OBも加わるバンド「荒川ケンタウロス」のライブを行った。これが非常にヒットして、皆さんに喜ばれる使い方ができた。史跡の金堂跡であれば、それほど騒音もなく皆さんにご迷惑掛からない。ひとつ感触をつかんだので、今後は違う使い方も出てくると思っている。

尾崎寛直:従来だったら、文化財の場所でそんなことをやったら罰当たりだと言われる(笑)?

内藤達也:はい(笑)。文化庁の方も大きく転換をして、「保存」だけじゃなくて「活用」もしろと。「活用」があっての史跡だということになったので、それを受けて、われわれもひとつ突破したような手応えがある。ぜひこれからは、今日知り合ったぴあの白井様とか、皆様のアドバイスをいただきながら、若い人の思いを実現できるような仕掛けを作れる場所ができたらいいかなと思う。新しい展開が見えている。文化会館は造るまで何年かかるか分からないが、史跡を転用する分なら借用書1枚でできそうではないかということでやっていきたい。


プロフィール

内藤 達也(ないとう たつや)/国分寺市副市長

 公務のかたわら、青少年育成活動、自治会活動をはじめ、相模原や多摩の里山保全ボランティア活動に従事。現在、(NPO法人)さがみはら環境活動ネットワーク副代表理事。また、協働政策、地域活性化政策の研究を行う。(株)公共経営・社会戦略研究所客員研究員、明治大学大学院兼任講師。日本協働政策学会理事、日本地方自治学会会員、日本ソーシャルイノベーション学会会員。地元の鎮守である内藤神社宮司も務める。


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ディスカッションを行う白井衛・ぴあグローバルエンタテインメント会長

 東京経済大学は2022年11月12日、学術フォーラム「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」を開催した。和田篤也環境事務次官、南川秀樹元環境事務次官、中井徳太郎前環境事務次官をはじめ産学官のオピニオンリーダー16人が登壇し、周牧之ゼミによるアンケート調査をネタに、新しい地域共創の可能性を議論した。白井衛・ぴあグローバルエンタテインメント会長がオープニングセッション「学生から見た地域共創ビジネスの新展開」のパネリストを務めた。

 

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学術フォーラム「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」
オープニングセッション:学生から見た地域共創ビジネスの新展開

会場:東京経済大学大倉喜八郎進一層館
日時:2022年11月12日(土)


■ コロナ下、円安下でのエンタメ業界の困難


尾崎寛直(司会):周ゼミの皆さんから非常に網羅的なアンケート、そしてまた鋭い分析を提示していただいた。そして、学生の皆さんからそれぞれコメンテーターの皆様にも問題提起が投げかけられたので、これよりコメンテーターの皆さんも含めてパネルディスカッションを進めていきたい。

 今回のアンケートはコロナ時代の若者、とくに学生を対象にしたものだ。次世代を担う若者とはやはり大事なキーワードであり、供給サイドからどのように若者に対して仕掛けていくのかも大きく問われていくところだろう。

 ぴあは、大学生が立ち上げた雑誌から始まっているという意味で、まさに若者のエンターテインメントのニーズに応えることが、会社の発展の歴史だっただろうと思う。

白井衛:約44年にわたって、エンタメにどっぷり浸かっている。早速、周ゼミの皆さんが一生懸命調べていただいたことに対するお答えを申し上げたい。最初にいただいた提言が、エンタメの追い風をどのように高めていくかということ、コロナから約2年半、やっと少しお客様が戻ってきて、7割から8割方回復しつつある状況だ。興行によっては、売ったらすぐ完売みたいなケースもあるが、まだまだ、コロナ前に比べると100%というわけにはいかない公演も多い。

 ただ、コロナ前から考えてみると、ちょっと幾つか課題がある。ひとつは会場だ。これは日本だけではないが、大から小、ライブハウスに至るまで都市の非常に交通の利便性の高いところに集中してしまう。ライブハウスはやはりアーティストを育てる場なので、そこから旅立っていく、あるいはSNS、YouTubeだとか、あるいはFacebookを使って、Adoみたいなアーティストが生まれてくるということを考え、ぴあは横浜の桜木町にぴあアリーナMMを造った。もちろんぴあだけでできるわけでもないし、このあとスポーツリーグなんかを中心にいくつかの大型のアリーナができるんだろうと思う。やっぱり小さいものから中ぐらいのものまで、非常に使い勝手のいいサイズのものが生まれてきたらいいなと思う。

大型アリーナ(ぴあアリーナMM)

 ふたつ目は、我々だけではどうしようもないが、円安ということがある。円安が起こると海外のアーティストを呼べなくなる。ギャラがものすごく高騰する。要するに、100万ドルで買えたギャラ、130円だったら1億3,000万のギャラが、今は1億5,000万になる。輸送費も何も全部高くなることで、日本の皆様が日本のアーティストしか見られなくなる、と。これは非常に辛い結果を招く。

 3つ目にコロナ対策というのも、なかなかイベントを作る側にはしんどくて、今までなかった余計な人員の配置をしなければならず、入場前の検温だとか、換気対策もしなければいけない。マスクをつけない人にはマスクを配るとか、大声を上げている皆さんに対してご注意申し上げなきゃいけない。これもスタッフ増や、経費増につながってしまう。

 それから4つ目が、コロナによって興行主そのものも弱った。興行主と一緒に動いている映像を撮っている皆さんとか、音声をやられる方だとか、舞台芸術をやられる方々の仕事が本当になくなってしまった。そういうものを多少なりとも応援するために、今は経産省のJ-LOD(コンテンツグローバル需要創出促進・基盤強化事業費補助金)だとか、文化庁のAFF(ARTS for the future!:コロナ禍を乗り越えるための文化芸術活動の充実支援事業)だとか、国際交流基金の皆様がご支援していただいて、少しずつ興行の世界が活発になりつつあるが、まだまだ予算は足りない。皆さんに関しても、新たに始まった「イベントわくわく割」という制度がある。興行チケットの20%かつ上限2,000円が補助されるという。今はライブ配信にも使えるし、スポーツ・映画館・演劇、それから美術館・博物館・遊園地・テーマパークなどが対象にはなっているが、これは主催者側が「イベントわくわく割」に乗るよという意思表示をしないと割引にならないので、本当はすべての公演にこのイベント割が使えるようになればいいかなと思う。

オープニングセッション風景

■ エンタメ業界における地域共創の可能性~スポーツ


白井衛:いただいた提言の2で、エンタメと地方との共創をどう考えるのかと。これは極論を言えば、供給側と言えるかどうか分からないが、観客数でいうと日本の場合は圧倒的にプロ野球だ。世界、アメリカを見ればプロ野球だけではなくフットボールだとか、アイスホッケーだとかバスケットがあるが、日本の場合にはプロ野球が断トツだ。年間で2,100万人。もちろん延べだが、858試合で1試合平均2万5,000人。イベント1試合2万5,000人集めるのはなかなか大変なことだ。

 2つ目は、Jリーグだ。JリーグもJ1、J2、J3とあるが、J1、J2だけでも40チーム。試合数にして768試合が行われている。観客数もJ1で438万人。1試合平均で1万4,000人くらい。J2になると観客数232万人で1試合平均だと5,000人になる感じだ。

 これ以外にもバスケットのBリーグ、バレーボールのVリーグ、卓球のTリーグ、ラグビーのリーグワン。さらにスポーツと考えれば、大相撲。大相撲も東京場所が多いが、地方場所もあるし、地方行政の方から来てくれと言うと、わりとそこそこの価格で呼ぶことができることもあり、大相撲の地方巡業はなかなか価値が高いのかなと思う。

 スポーツの場合には、皆さんで新たに手を挙げてチームを誘致することは、もちろんお金は非常に掛かかるが、できなくはない。どうしてもプロスポーツは動員を考えると、東京、大阪だとか都市部に集中してしまうが、今ご紹介したような各チームで言えば、北は北海道から南の沖縄まで、各スポーツの各チームがいろんなところに存在し、地元のイベントというと必ず協力していて、その場を盛り上げることをしてくださっている。スポーツは、ある意味で非常に分かりやすいということだ。

ぴあアリーナMM(CLUB38)

■ エンタメ業界における地域共創の可能性~音楽・演劇・映画


白井衛:もうひとつは、文化系と書いたが、これもすごい数が日本では行われていて、例えば、夏フェスとか秋フェスとかいわれるものだ。ここに書かれている「ROCK IN JAPAN」など千葉で行われるものは、27万人くらい集まる。北海道では「RISING SUN」とか、有名な「SUMMER SONIC」、それから「FUJI ROCK」はこれまでに10万人クラスの人を集めている。弊社でやっているものでは、「PIA ​MUSIC COMPLEX」はもともと会場がないから、自然豊かな場所で大きなステージを建ててやっていたが、今は夏フェスから秋フェス、さらには冬フェスも開催されるようになり、どんどん広がってきている。

 次に演劇祭。規模は音楽フェスほどではないが、実は北海道から沖縄までいろんなものが行われていて、有名なものだと兵庫豊岡演劇祭、あと東京池袋演劇祭がある。高校生でいうと全国高校生演劇祭があり、その予選も都道府県ごとに開催されていて、ここもそこそこの人達を集めている。同じような流れでいうと映画祭。映画祭は国際映画祭といわれるものが全世界で作られている。東京はつい先だって終わった東京国際映画祭。それから沖縄でやる沖縄国際映画祭。それからぴあがやっているぴあフィルムフェスティバルなどは有名ではあるが、実際100を超える映画祭が開催されている。

 なかでもちょっと面白いなと思ったのは、知多半島映画祭といって、地元の5市5町が協力して知多半島出身の監督や、俳優が出ている映画だけを上映するものや、地元で撮られた映画のコンペティションをやっている。さらには昔の映画をもう1回観ようということで、午前10時だと映画館が比較的空いているので、「午前10時の映画祭」という映画館を使う映画祭も開催されている。非常に面白いのは瀬戸内国際芸術祭だ。これは3年に1回、瀬戸内海の12の島と2つの港を舞台にして開かれるもので、見に行くと感動的で、「あ、こんなところにこんなものがあるんだ」という非常に驚きがある。

 「仕掛ける」ということで言うと、演劇祭とか映画祭は、規模の大小を問わずにいきなりでかいものを作るのでなく、発想として地元密着型でも良いので、そういうものを作ってみてはどうかと思う。

 あとは、ちょっと面白いなと思うのは花火。花火も夏の風物詩になっているが、実は雪と花火というのも、ものすごくきれいに見える。冬はちょっと風があって、外で見るのもしんどいが、風で煙が流れてきれいに見えるので、冬の花火はなかなか素晴らしい。これ以外にも食博系といってラーメン博だとか、鍋フェス、肉フェスも非常に面白いと思う。

 これから新しい顧客を日本国内だけでなく、さらに海外から来られるお客様も取り込みが必要だ。2019年時に3,118万人まで増えたインバウンド旅行者も必ず戻ってくる。最近、浅草とか銀座へ行っても、大勢の外国人の方がお見えになっているが、この人達もイベントに行きたいという希望が非常に強い。さらには、デジタル技術の利用だ。アナログの生の感動は素晴らしいが、今は5Gもあり、AIだとかICTもあるので、こことうまく組み合わせるという手もある。

ディスカッションを行う登壇者。左から、 近藤正美・丸井上野マルイ店長、白井衛・ぴあグローバルエンタテインメント会長、内藤達也・国分寺市副市長

尾崎寛直:先ほど白井さんからお話があった瀬戸内の国際芸術祭など、今までだったらあまり人が訪れるようなことがないところに、アートだとか、さまざまなイベントを点在させることによって、人が巡り、また人と人との出会いが生じる。そうした無限の可能性があり得るこれからの時代のエンタメについて、もうひと言。

白井衛:まさに今尾崎先生がおっしゃったように、規模の大小ではないと思う。自分のまちは小さいし、過疎化が進んでいるからもうできない、ではなくて、そこにいらっしゃる人達が逆に供給者、供給側になるという点もあると思う。学生の皆さんは自分の好きなものが何かあるはず。こういう時代だからデジタルで自分の作品をお見せすることもあるけれども、もう一方でアナログの世界である会場で、自分の描いた絵を何人かに見てもらいたいという欲求。あるいは自分が作って歌った音楽をみんなの前で発表したいなどのニーズは、間違いなくあると思う。そういう誰しもが供給側になり得ることが、もうひとつのポイントだ。


プロフィール

白井 衛(しらい まもる)/ぴあグローバルエンタテインメント取締役会長

 1955年生まれ、東京都出身。79年ヤマハを経て、ぴあ株式会社入社。広告営業(電通担当)、大阪支社・名古屋支局開設責任者、新規事業開発(グルメぴあなど)、会員事業担当、アメリカ・カナダでの事業開発、ぴあ株式会社取締役アジア事業開発担当、ぴあグローバルエンターテインメント代表取締役社長、北京ぴあ希肯副董事長を経て、現職は、ぴあグローバルエンタテインメント取締役会長。


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ラサ:チベット高原にある小さな中心都市 【中国中心都市&都市圏発展指数2020】第51位

 フフホト市は、中国中心都市&都市圏発展指数2020の総合第51位にランクインした。同市は2019年度より順位を2つ上げている。

 中国中心都市&都市圏発展指数は、中国都市総合発展指標の派生指数として、4大直轄市、22省都、5自治区首府、5計画単列市からなる36の中心都市の評価に特化したものである。同指数は、これら中心都市を、全国297の地級市以上の都市の中で評価し、10大項目と30の小項目、116組の指標からなる。包括的かつ詳細に、中国中心都市の高品質発展を総合評価するシステムである。

 ラサとは、チベット語で「聖地」を意味する。ラサ市は、チベット自治区の省都であり、同自治区の政治、経済、文化、科学の中心地であるとともに、チベット仏教の聖地でもある。同市は、中国南西部、ヒマラヤ山脈の北、チベット高原の中央にあり、ヤルン・ツァンポ川の支流であるラサ川中流域谷間の平原に位置する。平均標高は3,658メートル、世界で最も標高の高い都市の一つに数えられる。

 ラサの気候は温帯高原気候に属し、冬は長く、夏は涼しく、最高気温は28℃、最低気温は-14℃、年間平均気温は約8℃であり、昼夜の温度差は大きい。新鮮な空気と豊富な日照量に恵まれ、年間日照時間が3,000時間を超えることから、「サンシャインシティ」とも呼ばれている。年間平均降水量は200〜510mmで、一般に6〜9月に集中的に降り、乾季と雨季がはっきりしている。

 市の総面積は2万9,518平方キロメートル(岩手県の約2倍程度)で、そのうち都市部は210平方キロメートル、既成市街地は50平方キロメートルである。現在、3区5郡を管轄している。常住人口は約87万人で中国では281位であり、最も人口規模が小さい中心都市である。ラサには、チベット族、漢族、回族など38の民族が暮らしており、そのうち8割弱をチベット族をはじめとする少数民族が占めている。2021年におけるラサの地域内総生産は、前年比6.7%増の741.8億元(約1.5兆円、1元=20円換算)で、中国では260位である。

 ラサの歴史は古く、7世紀初め、ソンツェン・ガンポ王によってチベット初の統一王国・吐蕃(とばん)の首都として建設されたのが、都市としての始まりである。9世紀に吐蕃国が崩壊した後も、ラサの宗教的な意義は変わらず、現在においても、チベット仏教の中心地となっている。

 その中心となっているのが、「ポタラ宮」である。ポタラ宮は、ソンツェン・ガンポ王とブリクティ王女との結婚を記念して建設されたのが始まりとされ、チベット仏教の象徴である。1649年から1959年までは、ダライ・ラマの冬の宮殿として使用され、それ以降は博物館として公開されている。ポタラ宮殿は、単体建築物としては世界最大級であり、チベットの様式と中原の様式を融合させた独特の建築様式で知られている。ポタラ宮と大昭寺(ジョカン寺)を中心とする1.3平方キロメートルの古代建築群は、1994年にユネスコ世界遺産に登録されている。

 ラサは自然資源に恵まれた都市である。市内における河川の年間平均流量は340億立方メートル、湖の貯水量は200億立方メートル存在し、地下水も豊富で、周辺の氷河や永久雪渓には、大量の固形水が貯留されている。一人当たりの水資源量は、中国の平均レベルを大きく上回り全国6位の規模を誇る。市内には、50種類以上の鉱物資源を有し、コランダム、カオリン、天然硫黄の埋蔵量は中国トップクラスである。冬虫夏草に代表される多様な動植物性薬草も豊富である。

 ラサの水と大気はとても澄んでおり、都市上空の二酸化炭素濃度は1立方メートルあたり0.1ミリグラム以下と、国の基準値を大幅に下回っている。「二酸化炭素排出量」も中国で下から29位と、中心都市では最も二酸化炭素の排出量が少ない。大気中の「PM2.5」は、2021年は8.95マイクログラム・パー・立方メートルであり、中国では6位の清らかさとなっている。なお、同上位5都市もすべてチベット自治区に属する都市である。ラサ川の水には、鉛、亜鉛、銅などの微量金属元素は含まれておらず、川岸の村や町からの汚染もないため、非常に澄んだ水が市内を流れている。

 ラサは、地質景観、翡翠氷河、草原風景、高原湖、気象地熱雲、湿地林など、観光地としても楽しめる自然資源も多い。また、市内には大小200以上の寺院があり、著名な観光スポットが多数存在している。市内に国家級自然保護区2カ所、国家級森林公園2カ所がある。他にも、ラサ雪ドン祭、ジョカン・チベット・オペラ、ラサ・ランマなどの76の無形文化遺産があり、市周辺には、医療効果のある温泉が豊富に存在している。

 ラサは長らく外部との交通アクセスが乏しく、険しい道路や空路に頼る秘境としての性格が強かったが、2006年7月青海省西寧とラサを結ぶ高原鉄道「青蔵鉄道(せいぞうてつどう)」が開通したことにより、都市化が大きく進展した。青蔵鉄道は、総延長1,944キロメートルで世界最高のチベット高原を走る世界でも珍しい高地の鉄道であり、旅客は壮大な車窓の風景を楽しむことができる。交通アクセスが改善した結果、人口流入が加速し、2011年から2021年の年平均人口増加率は4.7%となり、中国で6番目の人口増加都市で、中心都市では、深圳、西安に続いて3番目に人口増加が多い都市となっている。2021年6月にはラサと同自治区内のニンティ市を結ぶ「ラサ・ニンティ鉄道」も開通し、チベット自治区におけるラサの中心的な存在はさらに強まる。

 こうした自然環境や文化遺産に恵まれたラサは、広域交通の整備により、観光都市としても大変な人気を博している。毎年、国内外から大勢の観光客が訪れている。

 


〈中国中心都市&都市圏発展指数〉:【36中心都市】北京、上海、深圳、広州、成都、天津、杭州、重慶、南京、西安、寧波、武漢、青島、鄭州、長沙、廈門、済南、合肥、福州、瀋陽、大連、昆明、長春、ハルビン、貴陽、南昌、石家荘、南寧、太原、海口、ウルムチ、蘭州、フフホト、ラサ、西寧、銀川

中国中心都市&都市圏発展指数2020
中国中心都市&都市圏発展指数2019
中国中心都市&都市圏発展指数2018
中国中心都市指数2017

【フォーラム】和田篤也:戦略的思考としてのGXから地域共創を

開会挨拶を行う和田篤也・環境事務次官

 東京経済大学は2022年11月12日、学術フォーラム「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」を開催した。南川秀樹元環境事務次官、中井徳太郎前環境事務次官、新井良亮ルミネ元会長をはじめ産学官のオピニオンリーダー16人が登壇し、周牧之ゼミによるアンケート調査をネタに、新しい地域共創の可能性を議論した。和田篤也・環境事務次官が開会の挨拶をした。

 

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学術フォーラム「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」

会場:東京経済大学大倉喜八郎進一層館
日時:2022年11月12日(土)


■ GXは目的ではなく、戦略ツール、手段だ


 今日のテーマ、「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」に非常にインパクトを受けている。「供給サイド」という言葉はあまり好きではなかったが、ちょっと好きになった。理由は、「仕掛ける」という言葉が後ろについていることにある。供給サイドの意図だけではなくて、きちんと何か目的のために仕掛ける。地域共創とは何だろう。市民のニーズとは何だろう。どんな思いを持って、どんな未来に市民は住みたいと思っているのか。これらを理解して、供給サイドは仕掛けてやろうという意気込みが感じられるテーマかと、非常に面白いと思っている。ワクワク感満載かと思っている。

 私のテーマは「戦略的思考としてのGXから地域共創」とした。もう少し平たく言うと、GXは戦略的ツールである。GXは目的ではなく、戦略ツール、手段だ。それも極めてエッジの効いた、切れ味抜群のツールである。

 もうひとつは、「GXから地域共創」としたが、英語で言えばby、いわゆる「地域共創 by GX」となる。最近では「地域共創 by カーボンニュートラル」。なぜかというとニーズは市民の目線にあるためだ。GXは別にニーズではなく、手段であって地域共創がニーズである、というところから始めた方がいい。

 カーボンニュートラルに少し深く切り込む。カーボンニュートラルはGXの中で一番バッターと言っている。かつては本当に温暖化するか、気候変動するかと言われていたが、2000年に入って、どんな影響があるのだろうと心配しだした。

 今やそれも越えて、対策のステージに移っている。気候変動の国際会議「COP27」で新聞を賑わしているのは「ロス&ダメージ」と言われ、いわゆる適応を指す。もう気候変動問題はある程度起こってしまう、それにどう適応するのかというのが人類課題だ。対策も打つが、適応もする。そういうステージに入っているのが、今の国際社会の共通認識だ。

 日本は野心的な2030年と2050年に向けての温室効果ガスの削減目標を掲げる。ここで違う目線から伝えたいのは、カーボンニュートラルが目的ではないということだ。最終着地点がカーボンニュートラルというだけではダメで、より早くから下げなきゃダメだということだ。最後にカーボンニュートラルに着地すればいいのではなくて、なるべく早い段階から傾きを下げて削減していないと地球全体は救われない。

 「やれる」と「やらなくてはならない」がテーマになる。「やれる」とは、「今からやれる」という意味だ。産業分野のようにイノベーションがなかったとしてもできる気候変動対策は、地域暮らしの分野に非常に多い。

 もうひとつは「やらないといけない」だが、これが難しい。地域暮らしの分野の方がイノベーションがなくて今すぐできるが、みんなにやってもらわなくてはならない。

 主体の数が無限に多いような形になる。自動車の数、世帯の数、人口…というように、すべてを面的にやってもらわなければならない。点的に工場とか事業場にやってもらう温暖化対策とは違うという難しさが残っている。

オープニングセッション風景

■ GXに必要な3つの移行


 次はいよいよメインの「GXに必要な3つの移行」だ。GXの一番バッターということでカーボンニュートラルを伝えたが、次に控えているのはサーキュラーエコノミーとネイチャーポジティブだ。これももう近未来的に、直ちにエッジの効いたツールになる。

 今、新聞では「byカーボンニュートラル」が賑わっている。「ビジネス by カーボンニュートラル」というように。次は「ビジネス by サーキュラーエコノミー」、その次は「ビジネス by ネイチャーポジティブ」という流れに、必ず、この10年以内どころか数年でなると思っている。ここで大事なのは、カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー、ネーチャーポジティブ、いずれも目的ではなくてツールということだ。

 今日のテーマ「地域共創」のツールとして、この3つのテーマがあるのではないか。例えばカーボンニュートラルをやれと言われても、自分は何をすればいいのか。必ず地域のニーズ、一人ひとりの市民の目線から考えなければならないのではないか。

 経済・雇用、いわゆる地域ビジネスかもしれない。お金が儲かる地域、快適・利便性、さらには防災・安全性などを目的にして、「byカーボンニュートラル」につながると思っている。

開会挨拶を行う和田篤也・環境事務次官

■ 脱炭素先行地域のチャレンジ


 環境省で大胆なチャレンジを試みたのが、脱炭素先行地域だ。2050年に向けてカーボンニュートラルを進めていくが、「20年前倒しにチャレンジする地方自治体はありませんか?」と募っている。なぜ地方自治体に注目したか。市民目線のことを一番しっかり本当は分かっているのは自治体ではないか。中央官庁ではないと考えている。地域のコーディネーターである。仕掛人は地方自治体を含めたいろんなコーディネーターではないかなと思っており、その点に注目したプロジェクトだ。

 どんなプロジェクトが出てきたか紹介したい。北海道の十勝エリア、私の出身地が大規模アメリカ型の畜産業になっている。したがって、ふん尿が多く、産業廃棄物でコストが非常にかかってしまう。ところが、そのエリアは後背地に農業を持っており、バイオマスエネルギーとして活用して、最後に残る「液肥」を肥料で使えるという特殊な掛け算ができる。ふん尿をバイオマスとして活用し、農業に液肥を使える。どうしても残ってしまう液肥を農業とコンビネーションできる。これはすべての畜産業ができるわけではなく、十勝だからできる。

 また、離島は過疎の典型で、もう人が住まない方がいいとも言われる。だが、グリッドが小さいことでもあり、再生可能エネルギーが無理なく入る。ということは、離島の方が再生可能エネルギーに有利ということを活用して、ビジネスを創生して利潤を生む選択肢がある。どうぞ地方に安心して住んでほしい。

 災害が起きた時でも、再生可能エネルギーで停電しない、などといった掛け算ができると考えている。

 最後に、(東京経済大学周ゼミ)学生のアンケート調査をみて、非常に感銘を受けた。なぜかというと、「私達はこんなふうに思っている」だけではなく、「いや、市民のニーズはこんなんじゃないか」という点にハイライトし、そのニーズに応えることが「供給サイドから仕掛ける」につながっていく。エッジの利いたアウトプットではないかと考えている。


プロフィール

和田 篤也(わだ とくや)/環境事務次官

 1963年北海道生まれ。1988年北海道大学大学院工学研究科情報工学専攻修了、環境庁入庁。環境省地球環境局地球温暖化対策課調整官、地球環境局地球温暖化対策課長、大臣官房廃棄物・リサイクル対策部廃棄物対策課長、大臣官房参事官、環境再生・資源循環局総務課長、大臣官房審議官、大臣官房政策立案総括審議官、総合環境政策統括官。2022年から現職。


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第2セッションの動画が
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学術フォーラム「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」
セッション2:地域経済の新たなエンジン

会場:東京経済大学大倉喜八郎進一層館
日時:2022年11月12日(土)


■ コロナ世代大学生の高いSDGs意識


周牧之(司会):今回、周ゼミが実施した東京経済大学の学生へのアンケートは、大学生活のほとんどを新型コロナ禍で過ごした学生が対象となった。まさしくコロナ世代の意識調査で、コロナは大半の学生に大きな影響を与えているという調査結果が出た。また、今回の調査で明らかになったのは、学生のSDGsに関する意識の高さだ。SDGs世代とも言えるだろう。さらに驚いたのが将来地方で過ごしたい学生の割合は高かった。地方出身の学生の55.9%が地方で暮らしたいと希望していた。都市出身の学生の17.6%も、地方で暮らしたいと答えた。東京の大学に来て、東京で就職するというかつての構図が変わってきているようだ。これはコロナとSDGsの影響が大きいと思われる。実際、彼らが暮らしたい場所への要望を見ると、都市派にせよ、地方派にせよ、まず挙がるのは生活のしやすさだ。

 都市派は、さらに娯楽と交流に重心を置き、地方派は、自然環境と子育てへの意識が高い。地方の活性化はこうした若い人たちの要望に応え、地域との関係性を強めることが大切なアプローチとなる。これについては、中井さんが提唱する「地域循環共生圏」に私は大いに賛同している。2015年、パリ協定の直後に行われた東経大の国際シンポジウム「環境とエネルギーの未来」では、中井さんと和田さんは共に周ゼミの学生の問題提起に応える形で、環境で地域を元気にする構想を披露された。中井さんと和田さんのご努力で、現在こうした構想は「地域循環共生圏」という政策になった。

 コロナが発生した初年度の2020年、東経大の創立120周年記念シンポジウムでは、中井さんは地域循環共生圏について大西隆先生と共に議論した。今日はこのセッションで、まず中井さん、コロナの世代の若者、地域を元気にする話をいただきたい。

中井徳太郎:周先生から学生のアンケートの紹介があった。学生はまったく「SDGsネイティブ」だというデータが出た。都市と地方でどちらに暮らすかというところで、地方出身者のかなり多くが地方に戻りたいという。

 ただ、全体の数字からいうと65%が都市に住みたい、35%が地方となっている。SDGsに関心あるのがほぼ8割近く、SDGsに対する関心はあるけれども、ではどこに住むかというと、都市に住むほうがやはり生活しやすいと。

 昔よりは地方を選好する方向にいっている。若い世代の意識はSDGsの大事さ、地球の危機など、自然環境をはじめさまざまな危機への問題意識はあるが、いざ自分が暮らすとなると、やはり快適な生活が必要になる。これは非常に正直なところが出ているのではないか。

第2セッション・ディスカッション風景

■「地域循環共生圏」への3つの移行


中井徳太郎:周先生からご紹介いただいたように、「地域循環共生圏」の構想が今、環境政策、サステナビリティ、GX、SXの環境省が提唱している根本的な概念ということになる。ちょっと難しい言葉だが、これはまさしくSDGsができた2015年の前から、環境省が英知を結集して作った概念だ。これには3つの移行があり、3つの切り口で考えるのが分かりやすい。ひとつが脱炭素社会、カーボンニュートラル。この前提として、エネルギーを化石燃料、地下資源に依存して熱帯雨林を伐ったので、CO₂が増えてこの異常気象になっていると科学的にも証明された状況の中で、エネルギーの使い方を地球に負荷が掛からないようにする。このメルクマールはCO₂がもう増えない世界、カーボンニュートラルと、こういうことだ。これを2050年まで達成しようということで、エネルギーを地球の生態系システムからもたらす再生エネルギーとか、さまざまなものを使って、もうCO₂が増えない形で回していこうということだ。

 もうひとつが循環経済、サーキュラーエコノミーという世界になる。これはプラスチックが海に捨てられて大変な問題になっており、2050年には魚の数を超えてしまうぐらいまでプラスチックの量が増えてしまうという推計が出ている深刻さがある。これは同じく化石燃料からプラスチックなどを大量に作り、大量に消費して捨てて、地球は広いから商品にして捨てまくっても大丈夫という発想から、気付いたら地球は有限であって海も有限だったということで、全部がものの繋がりという発想でデザインし直さないとやっていけないことが明確になった。ありとあらゆるものが繋がっているので、「ゴミではない」という考えからすべては「資源である」というぐらいの発想でものをとらえるということだ。

 プラスチック、金属素材、そして生物系のバイオマスがすべてゴミという発想ではなく、今のプラスチックも地上資源としてとらえてペットボトルの再生であったり、さまざまな衣服に変えるケミカルリサイクルの技術もある。鉱山から持ってきて作った金属もリサイクル・リユースする、生ゴミも重油を入れて焼却炉で燃やすような無駄なことはせず、堆肥化することもあるわけだ。したがってリサイクル、リユース、リデュースの3Rに、リニューアブルする、を加えた(4R)循環の仕組みができているかの見方でつねに考えていく。

 さらにもうひとつは、分散型自然共生社会だ。最近では、これからの世界の潮流である「ネイチャーポジティブ」という言い方に変えようというところもある。自然生態系や地の利をあまりにも無視して都市に人口空間を造ったがために、コロナになった今、いま「三密」だとかリスクが高いということで、一気に分散の方向にいった。それがデジタルツールで可能な時代になった。ここでもう一度人間だけでない自然のメカニズム、生態系、生物のさまざまなものと折り合いをつけて、私たちがこのリアルな空間を使っていくという発想で、生命・生き物と調和する。これはもう分散型だ。

 この3つの見方をちゃんと軸に据え、そちらに向いていないものはたぶん駄目、アウトだ。生物、生態系という仕組みに寄り添い、自然の一部であるという発想で、この3つのメルクマールで私たちの地域のことを考えると、都市や地方と分かれてしまったが、身の回りには森里川海の自然の恵みから、エネルギーや食や観光資源や健康になるものが全部ある。デジタル技術などを使い、地産地消・自律分散をネットワーク型でやっていく。これが地域循環共生圏という大きな構想だ。ここは非常に今進み、打ち出してから政策的にも大きな手応えを感じている。

ディスカッションを行う中井徳太郎・前環境事務次官

■ 新しい「豊かな暮らし」の未来像への連携


中井徳太郎:ベースとしては、これは冒頭で和田次官が言ったように、CO₂を減らすとか、循環型にするとか、そのこと自体が目的ではない。そのことによって、私たちが豊かで快適でウェルビーイングを実感できる、そちらが目的であり、そういうことをイメージしないと幾らカーボンニュートラルだ、サーキュラーだ、ネイチャーポジティブだとか言ってもどうにもならない。そこで今は、新しい「豊かな暮らし」という視点で、環境省でいうと「森里川海プロジェクト」のような大きなプロジェクトがある。そういうものが結集してわかりやすい未来像に向かって連携していこうという動きも始めている。

 まさしく今日のテーマは「供給サイドから仕掛ける」ということで、この供給サイドというものがやはりアウトサイドインと言うか、私たちのベースである暮らしや地域の現場であり、日々、その供給したものを受けるサイドが、どういう立ち位置にあってどういうニーズがあるのか。この方向感は、環境省が今、自然共生型のネイチャーポジティブという言い方をしており、ここら辺がまさしくド真ん中、本流だ。

 今日はもうひとつのテーマが集客エンタメ産業ということで、この運動の隊員のようにしてみんなが共有し、供給サイドが仕掛けるターゲットとして、需要サイドの方でこういうことであればみんながハッピーになり、かつその結果、経済事業も回る、そんなところに集客エンタメ産業の未来がある。

■ CO₂を出さない鉄鋼産業へ


周牧之:1985年に私は中国の宝山製鉄所というプロジェクトの担当をやっていた。その時は千葉県にある君津製鉄所をモデルにし、1,000万トンの最新鋭の製鉄所の設備を作ろうとした。その時はいかに国のわずかな予算を使ってこれを実現させるかを精一杯頑張った。当時はまったくCO₂のことは考えなかった。今は、CO₂を出さない製鉄産業をどう作っていくか、まさしく供給サイドからの変革、革命を、どう起こしていくか、だ。中井さんの腕に期待したい(笑)。

中井徳太郎:日本製鉄は2050年カーボンニュートラルをコミットし、橋本社長の陣頭指揮で、本気だ。今、周先生がおっしゃったように、鉄なり金属なりは便利なので、人類はこれを求めてきた。文明の発祥から言うと、レバノン杉を切って鉄文明ができ、金属が便利だとわかり、それが広がれば広がるほどもう森が伐られた。けれど今、2050年カーボンニュートラルを全体でやろうとしているわけで、人類文明のパラダイムシフトというか、大きな文明の転換であり、金属文明と木材・森林の調和ができるかという大きな文脈だと思う。

 それを可能にするには、供給サイドでやはり技術の進歩、石炭などでCO₂が出る形ではない形で鉄を精錬することにトライする技術の開発。それだけではなく、すでに地上に上がった鉄や金属をリサイクルすること、さらに鉄から出てくるスラグは、実は海の中に入れると鉄分などがあるので、藻場が再生できてCO₂を吸収する効果もある。そういうトータルな循環という発想に立ち、鉄を作るプロセス、そういうものが森林と関わったり、海の吸収と関わったり、自然生態系の話と関わったり、またプラスチックという地上資源をまた活用して鉄の作る時の材料に使うなど、いろいろな絡みが出てくる局面になっている。

周牧之:おっしゃる通りだ。これからの大きなうねりを皆さんの想像力と努力で支えなきゃいけない。

第2セッション・ディスカッション風景

■「地域経営」を地域活性化の根幹に


周牧之:今回のアンケートにあったように、学生の町である国分寺では学生がたくさんいるにも関わらず、この地元と若い人たちとの関係性はそれほど強くない。豊かな地域資源があるにもかかわらず、若い人たちはあまり接していない、使っていない。駅に大型の集合施設があっても、そんなに使っていない。結果、地元の国分寺に対する愛着もそれほど強くはない。

 実はこうした現象はおそらく国分寺だけでなく、全国的に起こっている。やはり若い人たちと地元との関係性をいかに強めていくかが、ひとつの地域活性化の根幹に関わる話だと思う。

中井徳太郎:地域経営という形で、長期の視点で、行政や企業だけではなく、みんながそういう発想を持たなければいけないというのはその通りだと思う。先ほどの集客エンタメと絡むと思うが、今の時代は、新井さんがおっしゃったように、根本にみんなが何故こういうものがあるのかとか、こういうものが存在し続けられるのかとか、そういう根本的なテーマについて、これから何十年も生きていく学生の皆さんが頭を使って考え抜くこと、薄っぺらい話でなく真剣に人生をどうするか考えることが必要だ。やはり核になるところが要ると思う。

 また、ぴあさんが集客エンタメという産業の分析をしているとなれば、そこにもちろん哲学が欲しい。スポーツも入って、それが健康寿命を延伸し、地域を繋ぐ。先ほどの3つの分析で人間だけの調和というより、自然生態系すべての文明転換点だから奥深い、根源的な問題だが、その集いの仕掛けが集客エンタメであり得ると思う。環境省の森里川海のプロジェクトでは、フェスもやっている。小川町のフェスは、まさしくオーガニックフェスといって新井さんにも出てもらっており、さまざまな仕掛けをやっている。これは集客エンタメそのもので、いろいろ意識喚起をしている。

 環境省で今、30by30という自然生態系にちゃんと人が関わって維持されているものを認定し、それに企業が取り組んでいたら株の評価になるような「自然共生サイト」の仕組みを考えている。脱炭素の方は100カ所を5年以内に先行地域でやるつもりだ。

周牧之:せっかくのチャンスなので、最後に一言、コロナ世代の学生へのメッセージを送ってください。

中井徳太郎:海や川に入り森に入っていってもいい。本物の生の自然の、気持ちいいとか心地いい風だとか、リアルなところをぜひみんな体験してほしい。毎日水を浴びるのでもいい。まず、リアルな肌の感覚、これを取り戻そう。


プロフィール

中井 徳太郎(なかい とくたろう)/日本製鉄顧問、前環境事務次官

 1962年生まれ。大蔵省(当時)入省後、主計局主査などを経て、富山県庁へ出向中に日本海学の確立・普及に携わる。財務省広報室長、東京大学医科学研究所教授、金融庁監督局協同組織金融室長、財務省理財局計画官、財務省主計局主計官(農林水産省担当)、環境省総合環境政策局総務課長、環境省大臣官房会計課長、環境省大臣官房環境政策官兼秘書課長、環境省大臣官房審議官、環境省廃棄物・リサイクル対策部長、総合環境政策統括官、環境事務次官を経て、2022年より日本製鉄顧問。


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ディスカッションを行う鑓水洋・環境省大臣官房長

 東京経済大学は2022年11月12日、学術フォーラム「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」を開催した。和田篤也環境事務次官、南川秀樹元環境事務次官、新井良亮ルミネ元会長をはじめ産学官のオピニオンリーダー16人が登壇し、周牧之ゼミによるアンケート調査をネタに、新しい地域共創の可能性を議論した。鑓水洋・環境省大臣官房長がセッション2「地域経済の新たなエンジン」のパネリストを務めた。

 

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学術フォーラム「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」
セッション2:地域経済の新たなエンジン

会場:東京経済大学大倉喜八郎進一層館
日時:2022年11月12日(土)


■ エンタメ、デジタル、自然、カーボンニュートラルを起爆剤に


 1990年代半ばに生産年齢人口が下がりはじめて、それから2008年からは総人口が減少している状況が続いているといったことが、もともとの背景としてあろうかと思う。この問題は、意識としては長らく捉えられてきてはいた。だが、これといった解決策がまだ見つかっていない状況というのが正直なところではないかと思う。私自身は山形の出身だが、最近、もともと山形にあった老舗のデパートが立て続けに2つ倒産した。山形はもうデパート不毛地帯となってしまっている。食べ物も大変おいしいし、住みやすいと思っているし、そういう場所だが、過疎や倒産が現実に起こってしまっている。

 もう実行しなければいけないステージに本当に入っている。もう1つ経験から申し上げたいことは、周ゼミの皆さんがちょうど生まれた頃、2000年代前半になるが、熊本県庁に3年ほど出向していた経験がある。その当時から、もはや熊本県は高齢化も相当進んでおり、限界集落といわれるような問題も発生していた。

 実際、これをどう対処するのかといった議論は、既に当時からも行われていた。例えば都市でリタイアした人たちを呼び込むにはどうしたらいいか。そんな議論もしていたが、私自身はやはり今日、学生の皆さんが主張したように、若い人が定着する、呼び込むということがない限り活性化はないだろうと考えている。そのためには周ゼミのアンケートにもあったように、快適な暮らしももちろんだが、やはり働く場所がないと実現できないと考えている。

 したがって働く場があって、快適な暮らしが提供されるような町を目指すというのが、やはり大切なポイントだ。もう1点だけ申し上げると、地域活性化策というのは、実現するには、どんな町にするのかという明確なコンセプトと、一体何が問題で、どう解決するのかという明確な問題意識が求められる。

 これらについて地域の方々のコンセンサスを得なければいけないが、あまりに論点が大きく、明確な指針を打ち出せない状況が続いてきたのではないか。そうした中で今日、まさしくエンタメといった切り口やスポーツ、デジタル、自然、あるいはカーボンニュートラルといったさまざまなツールが提供されている。それぞれが、やはり起爆剤であるというふうに強く思っている。

ディスカッションを行う鑓水洋・環境省大臣官房長

■ カーボンニュートラルを切り口に分散型モデルへ


  私は環境省の人間なので、カーボンニュートラルについて一言申し上げたい。これまでも議論があったが、やはり一つの大きな有効なツールになるだろうと考えている。それはなぜかというと、ひとつは明確な国家目標があるということだ。2050年にはカーボンニュートラルにするという目標があるなかで、地域とか暮らし、それから産業のあり方を含めて抜本的に変えなければいけない。そういったターニングポイントにあるということだ。

 ある意味、一種の危機感が醸成されているということだ。それから、そういった国家目標を実現していくには、これを各地域で実践して実現していかなければいけないということなので、そのカーボンニュートラルといった切り口を用いて地域の課題は何かということを明らかにして、どんな町にするのかということを描くという絶好の機会だろうというように考えている。

 カーボンニュートラルを切り口とする優れた点を私なりに考えると、ひとつは面的な対応が必要なことだ。地域の共生、コンセンサス、これを醸成しなければいけないという考え方に立つということだ。

 それがひとつ。一方的に誰かが進めればいいという話では多分ないということ。それからもうひとつは、さまざまな地域資源は地域によってまちまちだ。熱が利用できるところとか、風力があるところとか。さまざまな地域資源を活用するということなので、さまざまなモデルケースが可能であるということだ。

 金太郎飴にならなくて、多様で分散型のモデルを提示できるという機会が、提供できるといった意味で、それをカーボンニュートラルの切り口にするというのは、大変ある意味優れた手法かなというふうに自分自身は考えている。

ディスカッションを行う登壇者。左から、鑓水洋・環境省大臣官房長、周牧之・東京経済大学教授

■ 大学の果たす役割が非常に重要


 地域と若者の関係性という観点からすると、 私は大学の果たす役割が非常に重要かなと思っている。熊本に勤務していた時期には、一般的に大学が地域貢献するという考え方がまだまだ根付いていなかったと思う。あれだけ知が結集しているところのノウハウを地域貢献に活かさない手はない。したがって、当時経済界とか大学の協力も得て、大学にその地域貢献をする研究拠点みたいなものを作っていただいた経験がある。

 今回このように周ゼミが地域のことを考えて、それを大学としてどういうことができるかという。その一環で。このようなセッションを作られているということは、そういう意味で、地域貢献にこの大学が関わっていきたいという姿勢の表れではないかと思っている。ちょっと偉そうなこと言うが、こういうことはぜひ続けていただければ大変いいと考えている。

 コロナ禍では、これまで経験したことのないような経験を味わっているのは、学生の皆さんだけではない。だが、学生という貴重な時間、機会がコロナに見舞われてしまったということは、やはり我々とはちょっと違うダメージ、インパクトがあるのではないかと思う。とはいえ、人生は長い。本物、リアルの世界にぜひ触れてもらい、自分をまた磨いてもらいたい。あとせっかくなので、こういうゼミで学習されている学生さんだから、環境省のフィーリングとぴったりマッチすると思うので、ぜひ環境省の門を叩いていただきたい(笑)。


プロフィール

鑓水 洋(やりみず よう)/環境省大臣官房長。

 1964年山形県生まれ。1987年東京大学法学部卒業後、大蔵省入省。大蔵省主計局総務課長補佐、熊本県総合政策局長、財務省大臣官房企画官、主計局主計官、財務省大臣官房付兼内閣官房内閣審議官、財務省大臣官房審議官、理財局次長、国税庁次長等を経て、2021年から現職。


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【フォーラム】新井良亮:川下から物事を見る発想で事業再構築

ディスカッションを行う新井良亮・ルミネ顧問

 東京経済大学は2022年11月12日、学術フォーラム「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」を開催した。和田篤也環境事務次官、南川秀樹元環境事務次官、中井徳太郎前環境事務次官をはじめ産学官のオピニオンリーダー16人が登壇し、周牧之ゼミによるアンケート調査をネタに、新しい地域共創の可能性を議論した。新井良亮・ルミネ顧問・元会長、JR東日本元副社長がセッション2「地域経済の新たなエンジン」のパネリストを務めた。

 

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学術フォーラム「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」
セッション2:地域経済の新たなエンジン

会場:東京経済大学大倉喜八郎進一層館
日時:2022年11月12日(土)


■ 「地域共創」はもはや実行の段階、時間的猶予はない


周牧之(司会):学術フォーラム開催に当たって実施した周ゼミによる東経大の学生の意識調査のアンケートの中で中央線沿線の「将来住みたい場所」を聞いてみた。吉祥寺や東京が圧倒的人気だった。あとは三鷹、立川が続いた。しかし、昔人気あった国立が今の若い人たちにはあまり人気がないようだ。もちろん、今回は東京経済大学学生のアンケート結果なので、国立に立地する大学の学生から聞くと答えが違ってくると思うが、中央線を運営するJR東日本の元副社長、またルミネの元社長・会長の新井さんは、このような結果をどうご覧になるか。また新井さんがこれまで手がけてきた地域活性化への取り組みに関しても、ぜひご紹介ください。

新井良亮:私は昭和41年に八王子国鉄の八王子管区の機関助士、機関士、電車運転士として三鷹、中野で電車運転しましたから、ここはすべて知り尽くしている。昭和40年代からこのエリアでずっとお付き合いをしていて、なぜこのように国分寺が学生たちにとって不人気なのかは大変理解しづらい。実は国分寺はホテルメッツ(JR東日本のホテルチェーン)ができたのが、たしか武蔵境と共に初めての第1号だ。さらに、駅付きの託児所(保育所)ができたのも国分寺が第1号。そういう意味では住みやすい町だ。それをどう活用していくのか、もっとポテンシャルを上げていくのかに、関わっていくことが大切なことだ。

 今日の表題は「地域共創の可能性」だ。可能性というより、実行する時期に差し掛かっている、もうそんなに時間的な猶予はないと率直に感じている。供給側と需要側がまさにコミュニケーションをとり、連携しながら何を作り出していくのかがものすごく大切だ。そこに個人なり、組織なり、社会なり、国がどう関わっていくのか。その根幹は個人がどのように強い意志をもって考え、実践をしていくかだ。

 混迷する時代、ビジネスは正解がない。成長していくことがすべての問題を解決するという認識の上に立って、一人ひとりが覚悟をしていくことが大切だ。

第2セッション・ディスカッション風景

■ 鉄道事業におけるターニングポイントとパラダイムシフト


新井良亮:コロナ時代の地方創生ということで、JR東日本とルミネの話をさせていただきたい。パラダイムシフトが始まって産業が一変し、人と金が動かなくなった時代の中で、鉄道の役割を考えると、1987年に新会社(国鉄分割民営化)になって以来35年間黒字で来たのが、コロナになった途端に5,000億円を超える赤字になった。ようやく今年上期は黒字になったが、果たして第8波が来た時にどうするのかという危機的な状況にあるのがひとつ。

 もうひとつは、鉄道が明治5年にスタートしてから150年を迎え、ひとつの産業構造として鉄道はこのままでいいのか、大きなターニングポイントを迎えている。新会社以前に国鉄で採用された人たちがいなくなり新しい世代交代を迎えている。

 さらにもうひとつは、鉄道は技術が進歩しないと成長はないわけで、これから鉄道会社が新しい路線を造ることはもうほとんどない。これ以上、環境を破壊してまでスピードアップすることが、何千億という金を使い5分短縮することに血眼になって取り組むことに、どれほどの価値を見出すのか。

 そうなると、社会でどう妥当性を作っていくのかも含めて考えていかなければならない。鉄道はどうするのか。ひとつはやはり地域との共生・共創をしっかり取り組む。これは限りなく地域貢献をしていくことだ。観光・農業・まちづくりを、経済合理性だけではなく社会妥当性をしっかり作ってやっていくことに尽きる。

 そういう意味ではビジネスは得して、得して、大損をするのではなくて、損して、損して、損して、得を取ると。その得は経済上の損得もあるが、企業としての人徳を含めて考えていかなくてはいけない時代に入っている。駅を考えた時に、ステーションという駅があり、もうひとつはベネフィットする社会益を作る役割をしっかり果たすことが、まさに企業価値として存在理由になる。そのことを会社の中でどれほどオーソライズされ、一人ひとりの社員の心の中に納得性を持たせられるかが大切だ。

 もうひとつ、やはり新しい鉄道ビジョンをどう作るかだ。新しいビジネスを考えると、需要側の問題を、今まで首都圏輸送でやっていたのを都市間輸送に変えていかなければならない。今回、大都市のJRでいえば、都内も含め近郊の輸送はもう100%戻っている。問題は、都市間輸送が4割ぐらいしか戻っていない。赤字の原因を変えていかないと駄目だとなれば、地方にもっと力をつけていかなければならない。県庁がある中核都市は何としても支えていく。そのためのビジネスをやる。そのために人を運び、農業をつけ、環境に対して優しいことを企業として取り組むということではないか。

ディスカッションを行う登壇者。左から、中井徳太郎・前環境事務次官、新井良亮・ルミネ顧問、前多俊宏・エムティーアイ社長、高井文寛・スノーピーク代表副社長

■ 産地の特産物に鉄道事業の強みを活かす


新井良亮:今JRが取り組む施策を紹介すると、新幹線ができて青森市は旧市街地が大変な状況になるということで、旧市街地にリンゴを活用したシードルを作り、農業とタイアップしてさまざまな取り組みをしている。それがフランスで世界有数の1、2位のシードルとして認められ、今13工場、13社が進出し、大変なマーケットを作っている。駅ビルを建て直す中で旧市街地を含め抜本的に見直していく。駅ビルの建った前にシードルの工場があるわけで、新しいまちづくりをしている。

 主要な駅では「のもの」という、農産物を駅の中で販売をしていく取り組みを進めている。今まで新幹線は旅客だけだったのを、旅客だけではなく荷物も運ぶ。やはりこれだけのスペースがあるので、朝採りをそのまま届けて店舗に並べている。

■ ニーズをベースに鉄道資源をさまざま活用する


新井良亮:もうひとつは、北海道などの地方ローカル線が話題になっているが、お客さんが鉄道に乗らないから鉄道をなくすということではなく、鉄道のあり方をもっと考え直していく必要がある。只見線の例では、災害が起きて何年ぶりかに10月1日に運転を再開するが、これは上下分離で、施設を自治体が持ち、運行を鉄道が持つということで、只見線の鉄道は存続させる。おそらくこれは北海道とか四国とかでも活用される。

 あとはBRTだが、被災地の新しいバス路線で鉄道の用地と普通の道路を両方渡れるような形でフリークエンシーを高めていく。エリアへの配車の取り組みをし、その駅から車がない、足がないことがないように利便性を高める。

 新しいビジネスとしては、シェアオフィス。これは建築上問題があるとか、国交省も含めていろいろやったが、可動式にすれば可能だということで認めてもらった。わざわざいろいろなところに出かけなくて済むので、実際、非常に稼働率が高い。隣の西国分寺駅では、スマート健康シティに取り組んでいる。隣でできるのであれば国分寺でもできるというような、ポテンシャルを上げる取り組みをしていったらいい。エンタメもありうるし、ニーズをベースに考えてさまざまな利便性を高めたらいいと思う。

■ もう一度川下から物事を徹底して見ていく


新井良亮:ルミネは今の状況を見ると、2018年ベースではほぼ95%まで来た。対前年比はもう130%になった。それはなぜか。コロナでお客様が来ていないと言うが、買いたいという心はずっと持っておられる。やはり若い女性の購買力はすごい。本当にそういう意味では我々はもっと勉強しなければならない。「供給サイドから」で言えば、ビジネスサイドからもう1回川下から物事を見ていくということだ。

 今、ルミネの中でやろうとしているのは、銀行と同じように「ルミネがなくなる日」を想定して何ができるのか、もう一回考えようということだ。たまたまコロナが来たという問題よりも、平成30年を過ぎた段階で30年企業説があるとすれば、ルミネの企業はもう終わりに近づいている。ビジネスとしてこれでいいのかを考えてもらいたいということだ。

 2つ目は、マーケットを徹底して見ていく。川下から、本当にお客様は何を求めているのか。済んだ過去のことをデータから見るだけでなく、お客様の真実を見た上でマーケットを作っていくことに、我々がどれほどの心血を注いでいけるかだ。

 私たちは、不動産賃貸業をやるつもりはないと明確に宣言している。お客様とショップのスタッフと、賃料をこれだけもらえればいいということでなく、お客様とオーナーさんとWin-Winの関係で、いつも成長していく前提に立って物事を考えている。賃料だけ取れればいいという関係は一切、そこにはない。コロナの時は賃料、最低家賃も全部取っ払った。そういうことも含めて考えていかないと、相手が弱るだけだ。

■ 小売りとは何なのか?何を売っていくのか?


新井良亮:小売業とは、読んで字の通り小さな売り方をしているということ。小売りとは売る場で小さく売っているだけで、大本は大量に作っている。それを小分けして売り、最後、売れなくなったらバーゲンするわけだ。不動産だったら、家だったら訴訟が起きることが小売だったらまかり通るのは、何かお客様を小馬鹿にしていることにもなりかねない。

 やはり需要に見合ったものづくりをしていく。そうするとものづくりをする人が、利が取れる。大量に作らせておいて、叩くだけ叩いて安売りして、原価割までして売っている姿では、ものづくりする次の世代は辞めますということになる。

 そういうことをやるよりも、個を売る、個性を売る。品物の要素はクオリティであり、モノの価値を売っていく。モノの価値を売るとは、言ってみればお客様の価値を見出していく。モノの価値を売っていく人とものづくりの人たちが関わりながら一緒に共創していくことが大切だ。これに今ルミネは取り組んでいる。

■ 文化は金にならない?ビジネスの真髄とは


新井良亮:文明は金になるが文化は金にならないと言われるが、そうではない。われわれはファッション文化、食文化だ。成長し続けなければ課題が解決しないというスタンスで物事を進める。ひとつひとつをきちんと作っていかない限りビジネスにならない。

 男性のビジネススーツは、背広とワイシャツ、靴が何足、何種かあればいい。女性は毎日替える。あるいは時間によって替える。とてつもなく感性が豊かで、その需要は多い。ここにルミネが耐えられるかどうか。お店に来ていただけることが、ビジネスの真髄だ。私たちは、お客様と寄り添っていくという大きな狙いをもってファッション文化、食文化に取り組んでいる。社員の75%が女性で、平均年齢33歳。私は例外中の例外で、こういう人がいるのかと言われる(笑)。でも、まだ若い人だけの世代だけでは社会はまとまらないので、やはりバランス良く、お互いの存在をきちんと認識しながらビジネスで日々を過ごしている。ぜひルミネの取り組みをいろいろ見ていただきたい。「価値づくり」と、「顧客感動形」でお客様に感動を与えて再来店を促している。

ディスカッションを行う新井良亮・ルミネ顧問

周牧之:私と新井さんとの付き合いは長くなった。毎回新井さんの話を伺うと、問題意識の鋭さとビジネスのセンス、実行力に敬服する。

 新井さんは長年、地域との関係性を強める視点に立ったビジネスを心がけている。単年度ではなく、長いスパンに立ち、大局観で地域を経営すべきだと提唱されている。実は2017年の東京経済大学の学術フォーラムでも、新井さんは長期的なスパンで企業が周りとのネットワークを重視する経営が重要だと話した。今回のアンケートにあったように、学生の町国分寺は学生が大勢いるにも関わらず、地元と若い人たちとの関係性はそれほど強くない。豊かな地域資源があるにもかかわらず、若い人たちはあまり接していない、使っていない。駅に大型の集合施設があっても、そんなに使っていない。結果、地元の国分寺に対する愛着もそれほど強くはない。こうした現象はおそらく国分寺だけでなく全国的に起こっている。若い人たちと地元との関係性をいかに強めていくかが、地域活性化の根幹に関わる。

新井良亮:学生の皆さんがニーズを出す前に、学生の皆さんでまず議論してほしい。頭から血を出すぐらい考えないと、新しいアイデアは生まれない。皆さんでそこのところを1歩でも2歩でも先んじることだ。

 企業側も行政側も、そこに商工会議所や自治会が入ってこないのは、お客様という視点が欠けているがゆえだ。供給サイドという違う面から見ると、上から目線だ。学生の若い世代から、あるいはカスタマーというお客様の目線で、町を、全体を見た時にとてつもない経営資源があることを、それぞれが自覚することだ。

周牧之:最後に一言、コロナ世代の学生へのメッセージを送ってください。

新井良亮:人生100年時代と言われている中でのコロナの3年間、自分の人生の中で何を位置づけたのか、自分なりにしっかり考えてほしい。ただ、100年時代を迎えた時の3年間がどれほどの価値があるのかをもう一度、違った意味で考えてほしい。問題は、そこで自分が何をやるのか、社会に対して自分は何を目指していくのか、あるいは社会のために何を役立てるか明確な目標をしっかり持つことだと思う。


プロフィール

新井 良亮(あらい よしあき、)/(株)ルミネ顧問

 1946年生まれ、1966年日本国有鉄道に入社。八王子機関区に勤務しながら夜学に通い中央大学法学部を卒業。JR東日本取締役・事業創造本部担当部長、同常務、同副社長を経て、ルミネ社長、同会長、取締役相談役を歴任。


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