【ランキング】誰がラグジュアリーブランドを消費しているのか?

雲河都市研究院

編集ノート:ラグジュアリーブランドの巨人、LVMHグループのCEOアルノーと、テスラのイーロン・マスクは、世界長座番付のトップの座を争っている。両者に共通するのは、その成功を、中国の市場に大きく依存していることである。いまや世界最大の高級品市場となった中国において、各都市、そして各メガロポリスはどのようなラグジュアリーブランド消費パフォーマンスを演じているのか?背後にはどのような地域文化の違いがあり、どのような都市発展ロジックがあるのだろうか?雲河都市研究院が”中国都市ラグジュアリーブランド指数”を用いて、解説する。


 過去20年間、グローバリゼーションは世界の富を急速に増やし、国際的な高級品消費も前例のない成長を遂げた。2022年、世界の個人向け高級品市場は2000年の3倍に膨れ上がった。なかでも中国の経済成長による高級品消費益は際立っている。2019年には、中国が世界の個人向け高級品市場の33%を占めた。新型コロナウイルスのパンデミック下ではそのシェアが若干減少したものの、中国のシェアは2030年までに世界の40%に達すると予測されている。

図 国別・個人向け高級品世界市場推移

1.中国都市ラグジュアリーブランド指数ランキング


 中国都市総合発展指標に基づき、雲河都市研究院は毎年、全国297の地級市以上の都市を対象にした「中国都市ラグジュアリーブランド指数」を発表している。この指数は、エルメス、ルイ・ヴィトン、グッチ、カルティエ、プラダ、フェンディ、コーチ、シャネル、ディオール、バーバリー、ブルガリの、世界の11のラグジュアリーブランドをサンプルとし、これらのブランドが中国各都市で持つ店舗数を指数化し分析を行っている。

 「中国都市ラグジュアリーブランド指数2022」(以下、「指数」)の上位10都市は、上海北京成都杭州西安深圳天津重慶瀋陽武漢で、同10都市の国際的なトップブランド店舗数は全国の53.8%を占め、特に上海と北京の店舗数の多さが目立っている。

 第11位から第30位の各都市は、広州大連寧波長沙南京ハルビン太原、蘇州、石家荘廈門昆明長春済南青島鄭州貴陽合肥、無錫、南寧ウルムチだった。

 上位30都市での全国シェアが87%に達し、その中でも、蘇州と無錫を除くすべてが中心都市であった。直轄市や省都、自治区首府、計画単列市などの中心都市が、ラグジュアリーブランドの消費を引っ張っていることがわかった。

図 中国都市ラグジュアリーブランド指数2022ランキング

 周牧之東京経済大学教授は、「中国西部地区の成都、西安、重慶が其々第3位、第5位、第8位となり、昆明、貴陽、南寧、ウルムチなど中心都市もトップ30に入り、西部地区の消費力を示した。一方、東北地区は近年経済成長が振るわなかったにもかかわらず、高級ブランド消費では決して劣っていない。瀋陽が第9位にランクインし、大連、ハルビン、長春などの北東部の中心都市もすべてトップ30入りした。この結果から、経済水準が一定の段階に達すると、高級品消費が都市の文化個性に大きく左右されることがわかる」と説明した。

図 中国都市ラグジュアリーブランド指数2022シェア

図 中国都市ラグジュアリーブランド指数2022トップ30都市

2.メガロポリスにおける国際ブランド消費の傾向


 ラグジュアリーブランドの消費は、メガロポリス間でも明らかな違いがある。本稿では、全国で経済規模がトップ10にランクインしているメガロポリスの「指数」偏差値を元に、箱ひげ図と蜂群図の重ね合わせ分析をし、各メガロポリスの偏差値の差異を明らかにした(中国のメガロポリスについて詳しくは【メインレポート】メガロポリス発展戦略を参照)。

 箱ひげ図の水平線はサンプルの中央値を示し、箱の上部は上四分位数(75%)、箱の下部は下四分位数(25%)を示しており、箱内はサンプルの50%の分布状況を示している。蜂群図は、個々のデータ点の分布状況を描き、箱ひげ図と蜂群図を重ねることで、各サンプルの位置と全体の分布状況を同時に示すことができる。

 図が示すように、長江デルタ(上海・江蘇・浙江・安徽)、珠江デルタ(広東)、京津冀(北京・天津・河北)、成渝(四川・重慶)、長江中游(湖北・湖南・江西)、粤閩浙沿海(広東・福建・浙江)、山東半島(山東)、北部湾(海南・広西)、中原(山西・安徽・河南)、関中平原(陝西・甘粛)の10メガロポリスを見ると、長江デルタメガロポリスはラグジュアリーブランドの店舗数が最も多く立地し、全国シェアは26.8%に達している。上海が群を抜く首位に立ち、杭州が続き、寧波、南京、蘇州、合肥、無錫も「指数」の上位30位に入っている。長江デルタは、上位30都市が最も密集しているメガロポリスである。

 京津冀メガロポリスのラグジュアリーブランドの店舗数は、全国シェアの16.6%を占める。上記の全国ランキングにおいて北京は第2位、天津は同7位で、石家庄もトップ20入りしている。

 成渝メガロポリスでは、ラグジュアリーブランドの店舗は成都と重慶の二つの中心都市に集中している。両都市の全国シェアは9.8%に達し、西南地区の消費熱を表している。

 しかし、珠江デルタメガロポリスでは、ラグジュアリーブランドの消費で異なる風景を見せる。深圳は「指数」のランキングで成都、杭州、西安に遅れをとって第6位に留まった。広州はトップ10から脱落した。珠江デルタのラグジュアリーブランドの店舗は、全国の僅か6.8%を占めるに過ぎず、成渝メガロポリスより3%ポイント低い。

 関中平原メガロポリスでは、西安が一人勝ちしている。西安が全国第5位に堂々ランクインしたことで、関中平原のラグジュアリーブランド店舗数は全国の4.3%を占め、山東半島メガロポリスの4.1%をわずかに上回る結果となった。

 粤閩浙沿海、中原、北部湾メガロポリスのラグジュアリーブランドの店舗数は、全国に占める割合がそれぞれ2.8%、2.0%、1.8%で、主に各メガロポリスの中心都市に集中している。

 周牧之教授は「東北地区とは逆に、経済的に裕福な珠江デルタが国際的に名の知れたブランド商品への消費にやや積極性を欠いている」と指摘する。

図 10メガロポリスにおける
中国都市ラグジュアリーブランド指数”パフォーマンス分析

3.ラグジュアリーブランドを消費しているのは誰か


 ラグジュアリーブランドの消費における地域間の差異の原因を探るため、本稿では〈中国都市総合発展指標〉を利用し、中国297地級市以上の都市の「指数」と、主要指標との相関分析を行い、いくつかの興味深い相関関係を抽出した。

 相関係数は、二つの変数間の関係の強さと方向を示す統計的な尺度である。相関係数は-1から1までの値をとり、相関係数の絶対値が1に近いほど、二つの変数間の関係性が強いことを意味する。一方、相関係数が0に近い場合、二つの変数間にはほとんどまたは全く関係性がないことを示す。一般的に、相関係数は、0.9~1は「完全相関」、0.8~0.9は「極度に強い相関」、0.7~0.8は「強い相関」、0.5~0.7は「相関がある」、0.2~0.5は「弱い相関」、0.0~0.2は「無相関」であると考えられる。

 まず、「指数」と製造業の波及効果を示す「製造業輻射力」の相関係数は0.51となった。これは「弱い相関」である。一方、同指数と「金融輻射力」、「IT産業輻射力」の相関係数はそれぞれ0.95、0.87となり、「完全相関」と「極度に強い相関」である。

 周牧之教授は「大部分の製造業労働者の収入が相対的に低い一方で、金融業やIT産業は高度人材を引きつける力が強い。このことが高級ブランド消費に忠実に反映されている」と解説する。

 次に、「指数」と国内外の観光客数の相関はそれぞれ0.52と0.54であった。逆に、「指数」と「映画館・劇場消費指数」の相関係数は0.88と非常に高い。周教授はこの点について「パリや東京のように、街中に高級ブランドを買い漁る観光客が溢れているのとは異なり、中国都市の国際ブランド消費は、外部の購買力に頼っていない。そのため、「指数」はむしろ内生的な消費を反映する「映画館・劇場消費指数」との相関関係が高い。同時にこれは、観光客が中国国内でのラグジュアリーブランド消費の主力になっていないことも示している」と説明する。

 6月27日に、ルイ・ヴィトン・モエ・ヘネシー(LVMH)グループのCEO、ベルナール・アルノーが中国を訪れ、炎天下にもかかわらず同グループの店舗を巡回した。彼は、イーロン・マスクと世界一の富豪の座を争っており、双方とも、中国市場に大いに依存している。「指数」の11ブランドのうち、4ブランドが同グループに由来する。

 周教授は「中国は、”メイドインチャイナ”という単一のエンジンで推進する経済体から、”世界の工場”と”世界の市場”という二つのエンジンを持つ経済体へと変貌を遂げた。ビジネス分野が全く異なるとはいえ、マスクも、アルノーも、中国市場で世界のトップに上りつめた。今日、世界最大の自動車市場である中国では、既にBYDを筆頭に、イーロン・マスクのテスラと肩を並べるEV製造業者が多数台頭してきている。これから中国がどれほどの時間を要して自身のラグジュアリーブランドを生み出すかが楽しみである」と言う。


【日本語版】『【ランキング】誰がラグジュアリーブランドを消費しているのか?』(チャイナネット・2023年7月13日)

【中国語版】『谁在消费国际顶级奢侈品牌?』(中国網・2023年6月29日)

【英語版】『Who are buyers of global top luxury goods?』(中国国務院新聞弁公室・2023年7月11日、China Daily・2023年7月12日、China.org.cn・2023年7月11日)


【ランキング】黄砂襲来に草地を論ず 〜中国都市草地面積ランキング〜

周牧之 東京経済大学教授

編集ノート:3月11日以来、北京は黄砂襲来に1カ月で4度見舞われた。気象庁は、黄砂がこの13日にも、日本の広い範囲に飛来すると予測している。東京経済大学の周牧之教授は、黄砂の主な原因の一つは過度の開墾と放牧による草地の劣化だと分析している。草地の劣化現象は中国、モンゴルそして中央アジア諸国に広く及ぶ。中国北部が2021年3月14日から15日にかけて、10年来で最大級となる砂嵐の襲撃を受けた際、周教授は、雲河都市研究院の〈中国都市総合発展指標〉を用い、中国各地の草地の分布と増減について考察した。


1.  3.15黄砂嵐と草地の劣化


 2021年3月14日から15日にかけて、中国北部はここ10年来最大級となる砂嵐の襲撃を受けた。

 15日、北京は砂嵐で街全体が黄色く染まった。PM10が2,153 µg/m³にまで上昇した深刻な大気汚染に、世論は沸騰した。

 今回の激しい砂嵐の影響は、新疆、内モンゴル、甘粛、寧夏、陝西、山西、河北、天津、遼寧、吉林、黒竜江の13省・直轄市・自治区におよび、1億2,000万人に被害が及んだ。

 なぜこのような大規模な砂嵐が発生したのか?気象当局は、モンゴル及び中国西北地域の気温が際立って高まり、降水量が減少し、且つ6〜8級の強風が吹き荒れる気候条件が重なって砂嵐が巨大なエネルギーを得たことに因ると見ている。もっとも、この度の強烈な砂嵐発生のもう一つ深刻な環境要因は、草地の劣化すなわち砂漠化にあることも無視できない。

 今回の砂嵐の主な発生源はモンゴル共和国にあると言われている。大勢の専門家は、開墾と過度の放牧がモンゴル草原の荒漠化を加速した故だと指摘する。草地は防風、土砂の固定化、大気浄化、二酸化炭素の吸収をはかり、気候状況を調節し、水資源を養い、人類の生存環境にとって極めて重要な存在である。しかし過度な開発は草地を大規模に破壊している。草地の重要性と危機については今日、すでに国際的に共通課題として認識されている。

写真 3月15日北京・故宮博物院西北角楼

2.草地の分布と増減


 では中国における草地の現状はどうだろう? 雲河都市研究院が発表した最新の中国都市総合発展指標2019の草地面積のリモートセンシングデータによると、中国の草地資源分布に著しい不均衡があることが明らかになった。

 省・直轄市・自治区の階層からみると、草地面積所有量からするとチベット、青海、内モンゴル、新疆が多い順にトップ4であり、その全国に占める割合は32%、18.4%、16.8%、15.9%に達している。この4省・自治区で中国全土草地面積の83.1%をも占めている。さらにトップ10の省・自治区は中国草地面積の97.9%をほぼ独占している。

 中国で草地は、面積最大の国土資源のひとつであり、生態システムの物質循環とエネルギー流動における主軸となっている。しかしながら、その分布は西南地域、西北地域及び華北地域に大きく偏っている。

表 草地面積トップ10省・自治区


 中国の297の地級市及びそれ以上の都市のうち、ナクチュ、シガツェ、チャムド、フルンボイル、オルドス、赤峰、山南、酒泉、ニンティ、ウランチャブが、草地面積のトップ10都市である。この10都市の草地面積が全国に占める割合は31.3%にも及ぶ。しかし同10都市の常住人口は中国全国の1.1%に過ぎない。GDPに至っては全国の0.9%である。第一次産業GDPすら全国に占める割合も僅か1.7%である。中国の生態環境にとって非常に重要な草地資源の集中するトップ10都市が、人口数においてもGDP上も全国に占める割合をごく僅かに留めている。

表 草地面積トップ30都市


 草地面積のトップ30都市まで尺度を広げて分析してみても、同様の状況が見て取れる。トップ30は、ラサ、蘭州、ウルムチ、フフホトの4つの省都・自治区首府を含みながら、常住人口とGDPはそれぞれ全国の4.4%と、3.8%に過ぎない。第一次産業GDPに置ける全国の比重も5.5%に過ぎない。土地は広大で人が稀少であっても、この30都市の一人当たりGDPは全国平均の83.5%に過ぎない。これらの数字が教えてくれるのは、世界的、全国的視点から、極めて重要な生態環境機能を備える草地は、人口とGDPに対する貢献力がそれほど高くない。さらに草地の生態は甚だしく脆弱である。

 しかしいまだ多くの地域で、田畑の開墾、過度な放牧、鉱物採掘、薬草の乱獲などの不当な開発が、貴重かつ脆弱な草地資源を、侵食し続けている。

 2017年から2018年の間に、中国の草地面積は8,185㎢減少した。中国全土の草地面積の0.26%にすぎないものの、この面積自体がすでに貴陽市一個分の市街地面積を超え、驚くべき規模である。勿論、近年、中国が生態環境保護上の努力は奏功し、297都市のうち70都市の草地面積が増加している。問題は、依然として227都市の草地面積が減少していることである。各地域の草地保護における力の入れ具合と成果とにまだギャップがある。3月15日の砂嵐は、草地の過度な開発が生態環境破壊をもたらし、大規模な生態環境災害にもつながると警笛を鳴らした。

写真 新疆ウイグル自治区南山草原


3. 生態産品と主体効能区


 筆者は楊偉民中国全国政治協商会議常務委員が提起した「生態産品」の概念に賛同する。草地の経済価値を一途に追い求めてはならず、草地を生態産品として捉え、其の生態価値を求めて行くべきである。もちろん、草地を生態産品とし価値を与えていくには、中央財政による生態産品の購入、地域間の生態価値交換、水使用権・二酸化炭素排出権の取引などを実現しなければならない。これらのメカニズムの構築は政策制度の担保が欠かせない。

 中国ですでに施行し始めた主体効能区制度はこのようなメカニズムを構築するためのフレームワークである。主体効能区は国土を最適化開発地域、重点開発地域、制限開発地域、禁止開発地域の4つのカテゴリーに分けた。主体効能区は、異なる地域に異なる開発政策を実施し、上記後者の2地域に退耕還林(耕作を中止し耕地を元の林に戻す)、退牧還草(放牧をやめ、草地を元に戻す)、開発の制限および禁止などの政策を断行し、生産空間を減少させ、生態空間を増加させるべく推し進めている。

 中国の草地資源の大半は、制限開発地域と禁止開発地域に集中している。主体効能区制度の実施によって、草地資源の状況が大幅に改善されることが期待できる。もちろん、政策、制度メカニズムの構築にしろ、具体的で有効的な実施にしろ、まだ長い努力の道のりが必要である。


日本語版『黄砂襲来に草地を論ず』(チャイナネット・2021年3月23日)

中国語版『沙尘暴后论草地』(中国網・2021年3月19日)

英語版『Grassland degradation a factor behind sandstorm』(中国国務院新聞弁公室・2021年3月24日、China Daily・2021年3月24日)

【ランキング】中国メガロポリスの実力:〈中国都市総合発展指標〉で評価

雲河都市研究院

編集ノート:中国の社会経済発展をリードする長江デルタ、珠江デルタ、京津冀の3大メガロポリスを始め、中国にはいま大小どれほどの数のメガロポリスが存在しているのか?それらのメガロポリスをどう評価するのか?現在最も実力のあるメガロポリスは?雲河都市研究院は、〈中国都市総合発展指標〉を用いて、メガロポリスの発展に対する総合的な評価を試みた。


 中国政府の計画の中で、「メガロポリスは中国新型都市化の主要な形態」とされている(【メインレポート】メガロポリス発展戦略を参照)。雲河都市研究院は、中国都市総合発展指標2021(以下、〈指標〉)を使い、現行の政府計画での19メガロポリスのうちトップ10のメガロポリスに対して総合的な評価を行い、その実力と課題を評価した。長江デルタ(上海・江蘇・浙江・安徽)、珠江デルタ(広東)、京津冀(北京・天津・河北)、成渝(四川・重慶)、長江中游(湖北・湖南・江西)、粤閩浙沿海(広東・福建・浙江)、山東半島(山東)、北部湾(海南・広西)、中原(山西・安徽・河南)、関中平原(陝西・甘粛)の10メガロポリスは、173の地級市以上の都市(日本の都道府県に相当)を含み、人口とGDPの全国シェアはそれぞれ69.9%と77.7%に達し、中国の社会経済発展の最も主要なプラットフォームとなっている(〈指標2021〉について詳しくは、【ランキング】メガシティの時代:中国都市総合発展指標2021ランキングを参照)

 これについて、中国国務院新聞弁公室元主任の趙啓正氏は、「今回の〈指標〉の一大特徴は、メガロポリスに焦点を当てた分析である。これは、私が長い間〈指標〉研究に期待していたことである。メガロポリスは現在、中国の都市化における主要な形態となっており、長江デルタ、珠江デルタ、京津冀の3大メガロポリスの波及効果は広く認められている。〈指標〉が10メガロポリスの総合力、発展形態、課題に対して行った分析と評価は、メガロポリス政策をどう理解し、都市発展をどう考えるかという点で貴重な価値を持つ。中国の各都市の指導層や社会学者にとって大きな関心と注目を払うべきものである」と称賛する。

1.一人当たりGDP優位指数によるメガロポリスの分類


 一人当たりGDP優位指数(Competitive Advantage Index:一人当たりGDP / 全国一人当たりGDP平均値 × 100)に基づき、10メガロポリスを3つのタイプに分類することができる。すなわち、①一人当たりGDP優位指数が100を大きく上回り、他の地域に比べて強い経済優位性を持つメガロポリス、②指数が100前後のメガロポリス、③指数が100を大幅に下回るメガロポリスの3分類である。

 長江デルタ、珠江デルタ、京津冀の3大メガロポリスの一人当たりGDP優位指数は、それぞれ171、158、124である。すなわち、3大メガロポリスは第1分類に属し、全国におけるこれらGDP総量のシェアは36.6%に達する。強い経済優位性が、全国各地から大勢の人々を引き寄せている。現在、長江デルタ、珠江デルタ、京津冀に住む流動人口(非戸籍の常住人口)は、それぞれ3,186万人、3,909万人、908万人に上る。この3大メガロポリスは、10メガロポリスの中で唯一、人口純流入があるグループである。

 特に、珠江デルタメガロポリスの9つの都市のうち、人口純流出は1都市だけである。最も深圳では、常住人口のうち非戸籍人口の割合が66.3%にも達している。

 長期にわたり大量の人口が流入することで、全国における3大メガロポリス常住人口のシェアは23.5%に達する。周牧之東京経済大学教授は、「3大メガロポリスが中国の発展を牽引しているのは議論の余地がない。いま、中国人口のほぼ4分の1が3大メガロポリスに住んでいる。若年層の移住者のおかげで、珠江デルタと長江デルタの労働力人口(15〜64歳)の比率は、それぞれ72.9%、65.2%に達し、若い人口構造がこの2つの地域に強力な活力を与えている。しかし、京津冀の労働力人口比率は62%であり、全国平均の63.4%を下回る」と指摘している。

 成渝、長江中游(詳しくは、【レポート】中心都市から見た長江経済ベルトの発展を参照)、粤閩浙沿海、山東半島の4つのメガロポリスの一人当たりGDP優位指数は、それぞれ91、103、102、101で、全国平均水準付近を維持し、第2部類に属している。3大メガロポリスの強力な吸引効果のもと、これら4つのメガロポリスは人口純流出地域となっており、成渝、長江中流、粤閩浙沿海、山東半島の人口流失は、それぞれ723万人、781万人、359万人、20万人に達している。

 北部湾、中原、関中平原の3つのメガロポリスの一人当たりGDP優位指数は、全国平均水準よりもかなり低く、それぞれ69、68、73で、第3部類に属している。経済水準の格差が大量の人口流失を引き起こし、北部湾、中原、関中平原の流失人口はそれぞれ521万人、2,474万人、169万人に達している。

図1 〈中国都市総合発展指標2021〉で見た10メガロポリス総合評価

2.中心都市と一般都市の相互作用がメガロポリス発展の鍵


 〈中国都市総合発展指標は、全国297の地級市以上の都市すべてをカバーし、環境、社会、経済の3つの側面から中国の都市の発展を総合的に評価する。882のデータセットで構成された27の小項目、9の中項目、3の大項目から構成されている。〈指標〉では、偏差値を用いて各都市が全国のどの位置にあるかを評価する。偏差値により、さまざまな指標で使用される単位を統一された尺度に変換して比較できる。環境、社会、経済の3つの大項目の偏差値を重ね合わせた総合評価における偏差値の全国平均値は150である。

 各メガロポリスの発展水準の分析を可視化するために、本文では10メガロポリスに含まれる173都市の〈指標2021〉総合評価偏差値をメガロポリスごとに箱ひげ図と蜂群図を重ねて分析し、各メガロポリスの都市総合評価偏差値の分布状況と差異を一目できるようにした。

 箱ひげ図中の横線は、サンプルの中央値、箱の上辺は上位四分位点(75%)、箱の下辺は下位四分位点(25%)、箱本体は50%のサンプル分布を示している。蜂群図は、個々のサンプル分布をプロットした図である。箱ひげ図と蜂群図を重ね合わせることで、サンプルのポジションと全体の分布の双方を示せる。

 図1に示すように、10メガロポリスの総合評価偏差値の中央値では、珠江デルタと長江デルタだけが全国平均値を上回り、中でも珠江デルタのパフォーマンスは長江デルタよりもはるかに高い。

 長江デルタには、上海杭州南京寧波合肥の5つの中心都市がある(詳しくは、「【メインレポート】中心都市発展戦略」を参照)。中心都市の数では中国のメガロポリスの中で最も多い。とくに上海の総合ランキングは中国第2位である。一方、珠江デルタには広州深圳の2つの中心都市しかなく、両都市の総合ランキングはいずれも上海の後方にある。珠江デルタにおけるメガロポリスの中央値が長江デルタよりもはるかに高いのは、仏山や東莞などの一般都市の総合評価が高いことに因る。珠江デルタメガロポリスでは総合評価偏差値が全国平均水準より低い都市は1つしかない。それに対して、長江デルタメガロポリスには、総合評価偏差値が全国平均水準を下回る都市が10もある。

 これについて、深圳市元副市長で香港中文大学(深圳)理事の唐杰氏は、「中国はメガロポリスの発展時代に入った。メガシティと中小都市が空間的に協働することが、経済社会発展の新たなエンジンとなっている」と指摘する。周牧之教授は、「メガロポリスは、中心都市の強さが求められる一方で、多くの一般都市を高い発展水準に引き上げるかどうかも、その発展を評価する重要な指標である」と評している。

 この視点から見ると、京津冀メガロポリスにおける都市の格差はかなり顕著である。総合ランキング中国第1位の北京を筆頭に、直轄市の天津を含むものの、同メガロポリス総合評価偏差値の中央値は、10メガロポリスの中で8位に過ぎない。これは、もう一つの中心都市である石家庄の総合評価パフォーマンスが優れない点と、京津冀メガロポリスのすべての一般都市の総合評価が全国平均水準以下であることが原因である。 

図2 10メガロポリス常住人口比較分析

3.包容性と多様性が都市社会発展の基盤


 人は高きところを目指し、水は低きところへ流れる。中国はいま、人類史上最大規模の人口移動を経験している。10メガロポリスのうち、長江デルタ、珠江デルタ、京津冀は、唯一の人口純流入のグループであり、中国都市化人口移動の第一級の貯水池として全国から大量の人口を受け入れている。

 人口移動の第二級貯水池は中心都市である(詳しくは、「【メインレポート】中心都市発展戦略」を参照)。10メガロポリスに含まれる23の中心都市から見ると、3大メガロポリスの10の中心都市は、当然ながら人口純流入都市である。他の7つのメガロポリスの13の中心都市のうち、12都市は人口純流入であり、地域や周辺から多くの人口を吸引している。広大な地域と膨大な人口を持つ重慶だけは、中心市街地が地域内の過剰人口を吸収できず、人口純流出都市となっている。

 周牧之教授は、「大量の人口流入により、上記の10メガロポリスの23中心都市のうち、すでに14都市が人口一千万人を超えるメガシティに成長した。さらに、寧波、合肥、南京、済南など、人口が900万人を超える特大都市が控えている。これらの都市も近い将来メガシティになることが予想される」と指摘する。

 中国共産党中央財経領導小組弁公室元副主任の楊偉民氏は、「中国共産党第20回全国代表大会では、メガシティと特大都市の発展モデルの変革を加速すると提起された。これは、中国の近代化強国建設における、メガシティと特大都市の発展方向を示すものである。では何を変えるべきなのか?まず、経済発展、人間の全面的な発展、持続可能な発展という「三つの発展」の空間的均衡を促進する必要がある。そこでは、経済発展や都市建設に注力するあまり、人間の全面的な発展と生態環境保護を無視してはならない。〈中国都市総合発展指標〉は、当初から経済、環境、社会の「三位一体」の指標体系で都市発展を評価しており、これは科学的なアプローチである。次に、都市の包容性と多様性を増やし、さまざまな職業人口のバランスを保つ必要がある。ホワイトカラーだけを求めてブルーカラーを拒否し、大学生だけを求めて農民工を拒否すると、都市の発展を損なうことにつながりかねない」と強調している。

図3  10メガロポリス


【中国語版】
チャイナネット「城市群实力:来自“中国城市综合发展指标”的评价」(2023年3月24日)

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【ランキング】世界で最も稼ぐ映画大国はどこか? 〜2021年中国都市映画館・劇場消費指数ランキング

雲河都市研究院

2021映画興行収入世界ランキングトップ10入り中国映画

1.中国映画マーケットが2年連続で世界第1位に


 新型コロナウイルスパンデミックで大きな打撃を受けた映画興行は、2021年に回復基調となった。但し、回復には地域差があった。北米(アメリカ+カナダ)の映画興行は2020年の22億ドルから45億ドルに倍増した。日本の映画興行市場は前年の13億ドルから15億ドルへと微増に留まった。

 中国の映画市場は、前年の30億ドルから73億ドルへと急伸した。とくに、2021年の春節(旧正月)に、78.2億元(約1,564億円、1元=20円で計算)の映画興行収入で、同期間の新記録を樹立し、世界の単一市場での1日当たり映画興行収入、週末映画興行収入などでも記録を塗り替えた。

 東京経済大学の周牧之教授は、「2021年は中国のゼロコロナ政策が最も成功した年であった。人々は普通に映画館に通うことができた。結果、前年度比で中国の映画観客動員数はプラス112.7%と倍増し、中国の映画市場は北米の1.6倍に拡がり、2年連続で世界最大の映画興行市場を維持した」と指摘する。

図1 2021各国・地域映画興行収入ランキング トップ20

出典:MPA(Motion Picture Association)『THEME REPORT 2021』より雲河都市研究院作成。

2.映画興行収入世界ランキング


 好調なマーケットに支えられ、2021年映画興行収入世界ランキングトップ10においても、中国映画の『長津湖』、『こんにちは、私のお母さん』、『唐人街探偵 東京MISSION』がそれぞれ2位、3位、6位にランクインした。

 白井衛ぴあグローバルエンタテインメント(株)会長は、「世界のエンタテイメントがコロナパンデミックの影響を大きく受ける中、中国の映画市場は勢いよく回復を続けている。今年も世界映画興行収入ランキングベスト10に3作品が入り、そのすべてが5億ドル以上の興行収入をあげている」とコメントする。

 希肯ぴあの安庭会長は、「映画は演劇と同様、消費者にとっては鑑賞する場へと足を運ぶ必要のあるエンタメである。消費者の熱意は作品の品質と影響力とに大きく左右される。その意味では、市場の規模と持続性は、供給サイドの質量によるものが大きい。動画がいつでもどこでも見られる現状にあって、映画産業は、観客に足を運ぶ理由を与える努力をしなければならない」と語る。

 『長津湖』、『こんにちは、私のお母さん』、『唐人街探偵 東京MISSION』の興行収入の殆どは、中国市場の貢献に依った。これについて周牧之教授は、「一国のマーケットだけで映画興行収入世界ランキングの第2位、第3位そして第6位に就いたことは中国市場の巨大さを物語っている。しかし同時に、これは中国映画のローカル度も表している。中国映画の国際化はこれからの大きな課題であろう」とコメントしている。2021年には『唐人街探偵 東京MISSION』が日本、オーストラリア、ニュージーランドなどの国で上映されたものの、海外での稼ぎは同映画全興行収入の0.2%しかなかった。白井衛会長は、「今後は、より世界的な作品の制作や中国発のアニメ作品の制作が望まれる」と期待した。

 中国は、海外の映画にとっても大きなマーケットになっている。2021年映画興行収入世界ランキングの第5位の『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』、第8位の『ゴジラvsコング』は其々中国で、2.2億ドル、1.9億ドルの興行収入を稼ぎ出した。この二つの映画の全世界興行収入に占める中国マーケットのシェアは、其々29.9%、40.1%となった。

 こうした背景下、近年ハリウッドは中国マーケットを意識する映画作りをするようになっている。同時に、中国出身の監督や俳優はもちろん、中国資本もハリウッド映画制作に進出している。中国資本の参入で『レヴェナント: 蘇えりし者』や『グリーンブック』のようなアカデミー賞作品が生み出された。周牧之教授は、「このような国際交流は中国映画のレベルアップに大きく寄与している」と評価する。

図2 2021映画興行収入世界ランキング トップ10

3.中国で最も映画興行収入が多かった都市は?


 中国都市総合発展指標に基づき、雲河都市研究院は中国全297地級市以上の都市(日本の都道府県に相当)をカバーする「中国都市映画館・劇場消費指数」を毎年モニタリングしている。

 『中国都市総合発展指標2021』で見た「中国都市映画館・劇場消費指数2021」ランキングのトップ10都市は、上海、北京、深圳、成都、広州、重慶、杭州、武漢、蘇州、長沙となっている。長沙が西安を抜いてトップ10入りを遂げた。同ランキングの上位11〜30都市は、西安、南京、鄭州、天津、東莞、仏山、寧波、合肥、無錫、青島、瀋陽、昆明、温州、南通、南昌、福州、済南、金華、南寧、長春となっている。

 ゼロコロナ政策で市民生活を取り戻したおかげで、映画観客動員数において、同トップ30都市は、軒並み2〜3桁台の高い回復力を見せた。結果、映画観客動員数は中国全土で前年度より倍増した。

図3 2021中国都市映画館・劇場消費指数ランキング トップ30

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2021』より作成。

4.特定都市に集約する映画館・劇場市場


 「中国都市映画館・劇場消費指数2021」を構成するデータを分析することで、映画館・劇場市場の特定都市集中の実態が見えてくる。

 映画館・劇場数について、「中国都市映画館・劇場消費指数2021」ランキングのトップ5都市が全国に占める割合は12.6%、トップ10都市は20.9%、トップ30都市は39.4%となっている。つまり、上位10都市に全国の映画館・劇場の5分の1以上が立地し、297都市内の上位30都市に、40%弱が立地している。映画館・劇場の集中度は、前年と比較してもほとんど変化していない。

図4 2021中国都市における映画館・劇場の集中度

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2021』より作成。

 映画館・劇場観客者数について、「中国都市映画館・劇場消費指数2021」ランキングのトップ5都市が全国に占める割合は16.9%、トップ10都市は27.4%、トップ30都市は48.9%を占めている。つまり、上位10都市に全国の映画館・劇場観客者数の3分の1近くが集中し、上位30都市に半分以上が集中している。

 周牧之教授は、「映画館・劇場数と比較して、観客者数の特定都市への集中度は、より顕著となっている。なお、映画館・劇場観客者の集中度が僅かながら前年より低下したことは、地方都市での観客者増ゆえと見られる」と指摘する。 

図5 2021中国都市における映画館・劇場観客者数の集中度

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2021』より作成。

 映画館・劇場興行収入について、「中国都市映画館・劇場消費指数2021」ランキングのトップ5都市が全国に占める割合は19.7%、トップ10都市は30.1%、トップ30都市は51.1%を占めている。つまり、上位10都市に全国の映画館・劇場観客者数の3分の1以上が集中し、上位30都市に半分以上が集中している。映画館・劇場興行収入の集中度も、前年よりわずかに低下している。これについて白井衛会長は、「観客数や興行収入の都市部への集中度をみてもトップ30の都市部の比率が下がり、地方都市での観客数が確実に増えてきているのを如実に反映している。これは、今後の映画市場拡大に大きな期待が持てる」とコメントした。

図6 2021中国都市における映画館・劇場興行収入の集中度

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2021』より作成。

5.映画と都市の個性


「中国都市映画館・劇場消費指数2021」からは、さらに次のような都市と映画興行の関係が見えてくる。

 中国で映画興行収入の最多都市:映画興行収入の上位10都市は、上海、北京、深圳、成都、広州、重慶、杭州、武漢、蘇州、長沙である。

 中国で映画鑑賞者数の最多都市:映画鑑賞者数が多い上位10都市は、上海、北京、成都、深圳、広州、重慶、武漢、杭州、蘇州、西安である。

図6 2021中国で最も映画好きな都市ランキング トップ30
(一人当たり映画館での鑑賞回数)

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2021』より作成。

 中国で最も映画好きな都市:一人当たりの映画館での鑑賞回数が多い上位10都市は、珠海、武漢、杭州、南京、深圳、上海、北京、海口、広州、長沙である。

 中国で最も映画におカネを掛ける都市:一人当たりの映画興行収入の上位10都市は、北京、上海、深圳、杭州、珠海、南京、武漢、広州、三亜、海口である。

図8 2021中国で最も映画におカネを掛ける都市ランキング トップ30
(一人当たり映画興行収入)

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2021』より作成。

 周牧之教授は、「映画興行収入の最多都市、映画鑑賞者数の最多都市、最も映画好きな都市、最も映画におカネを掛ける都市などのランキングから都市の性格やエンターテイメントにかける気質がよく見られる。都市分析のユニークなツールになる」と述べている。

図9 2021中国都市映画館・劇場消費指数ランキング分析図

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2021』より作成。

【日本語版】『【ランキング】世界で最も稼ぐ映画大国はどこか?〜2021年中国都市映画館・劇場消費指数ランキング』(チャイナネット・2023年2月6日)

【中国語版】『谁是全球最赚钱的电影票房大国?』(中国網・2023年1月18日)

【英語版】『China’s movie market: 2021 and beyond』(中国国務院新聞弁公室・2023年2月1日、China Daily・2023年2月1日、China.org.cn・2023年2月1日)

【ランキング】世界で最も経済リカバリーの早い国はどこか? 中国で最も経済成長の早い都市はどこか?〜2021年中国都市GDPランキング

雲河都市研究院

編集ノート:

 世界で最も経済リカバリーの早い国はどこか? 経済成長と新型コロナウイルス被害にはどのような関係があるのだろうか?中国で最も経済成長の早い都市はどこか?2021年中国都市GDPランキングから何を読み取れるのか?雲河都市研究院が、主要国及び中国各都市のデータを駆使し、詳しく解説する。



1.中国経済の持続発展は世界経済のフレームワークを変えた


 世界経済は、2020年に新型コロナウイルスパンデミックにより大きく落ち込んだが、2021年はその反動から大きく伸び、実質GDPは6.0%とプラス成長に転じた。

 図1が示すように、2021年国・地域別名目GDPランキングトップ10は、アメリカ、中国、日本、ドイツ、イギリス、インド、フランス、イタリア、カナダ、韓国と続く。コロナショックの反動により、トップ10の国々における2020年の名目GDP成長率は平均5.7%のプラス成長に転じている。中でも、中国、インドは8%以上の成長率となった。それに対して唯一、日本は1.6%の低成長に喘いでいる。世界経済が大きくリバウンドする中、日本経済の回復の遅れは、極めて深刻である。

図1 2021年世界各国・地域GDPランキングトップ30

出所:国際通貨基金(IMF)データセットより雲河都市研究院作成。

 世界は2021年、新型コロナウイルス感染拡大の波を通年で3度も経験した。2月頃には前年度から引き継いだ波が収束に向かったが、その後、変異株「デルタ株」の影響により、世界的に感染拡大が再び始まり、4月に一度目のピークが、8月に二度目のピークが起こった。その後、一旦、収束傾向が見られたが、11月9日に南アフリカで新たな変異種「オミクロン株」が確認された。以降、年末にかけて爆発的に感染者数が拡大した。結果として、2021年世界の累積感染者数は約2.1億人、累積死亡者数は約356万人に及んだ。致死率は約1.7%となり、2020年の同約2.2%をやや下回った。致死率の低下は新型コロナウイルスの弱毒化、治療法の進展、ワクチンの効果などが考えられる。

 図2が示すように、2021年の中国は、ゼロコロナ政策の徹底により、感染拡大の抑え込みに成功した。そのため中国は世界で最も新型コロナ被害の少ない国となった。中国では、感染者が見つかる度に局所的なロックダウン措置等を実施し、感染拡大を防いだ。こうした政策が奏功し、2021年通年の感染者数は1.5万人に留まり、死亡者数はわずか2人であった。中国は同年、新型コロナウイルス致死率を0.01%まで抑え込んだ。

 周牧之東京経済大学教授は、「2021年は中国のゼロコロナ政策が最も成功した年であった」とする。

図2 2021年末迄国別新型コロナウイルス累積感染者数及び累積死亡者数

出所:Our World in Dataデータセットより雲河都市研究院作成。

 明暁東中国国家発展改革委員会発展戦略和計画司(局)元一級巡視員・中国駐日本国大使館元公使参事官は、「2021年の厳しい国際情勢と新型コロナウイルス禍にありながら、中国はゼロコロナ政策をもって経済のリカバリーを実現し、GDPは110兆人民元を突破した」と指摘。

 図3が示すように、2020年に続き中国は、新型コロナ禍にあってなお経済成長を実現した。中国の長年の経済成長は、世界経済のフレームワークを大きく変えた。1990年から2021年までに、世界の経済規模(名目GDP)は4.1倍に膨らんだ。この間、米国の名目GDPも3.9倍に拡大した。過去30年間、世界経済に占めるアメリカの割合は大きく変化していない。2021年は米国がなお23.7%の世界シェアを維持した。

 一方、中国は、2001年のWTO加盟を機に世界経済における存在感が急速に増してきた。2021年の中国名目GDP 規模は、1990年の44.7倍にまで達した。世界経済に占める中国のシェアも、1990年の僅か1.7%から、2021年は18.3%にまで急拡大した。

 周牧之教授は「その結果、世界経済におけるアメリカと中国の二大巨頭態勢が確立した。米中両国を合わせた経済規模は、2021年の世界経済の42.0%にも達した。日本はGDPランキング世界3位であるものの、世界経済に占める割合はわずか5.1%に過ぎない。米中の経済規模は、3位の日本から25位のスウェーデンまでの23カ国・地域の経済規模の合計に匹敵するほどである」と解説する。

図3 世界GDP及び中国シェアの推移(1990〜2021年)

出所:国際通貨基金(IMF)データセットより雲河都市研究院作成。

2.上海、北京、深圳を始めとするトップ10都市は順位が変わらず


 2021年中国都市GDPランキングでは、順に上海、北京、深圳、広州、重慶がトップ5を飾った。この5都市の経済規模は他都市を大きく引き離している。6位から10位の都市は、順に蘇州、成都、杭州、武漢、南京の5都市であった。

 明暁東元公使参事官は、「2021年GDPランキングトップ10都市の順位は前年度と変わらなかったが、コロナショックでほぼ4%以下を徘徊した前年度より、成長率は大幅に加速した。7%前後の深圳と南京を除き、他の8都市はすべて8%以上の経済成長を実現した。とくにコロナショックを最も受けた武漢市は、前年度4.7%のマイナス成長からリカバリーし、12.2%の高度成長を成し遂げた。

3.一国経済規模に匹敵するまでに至った中国の都市力


 中国では北京、上海、重慶、天津の四大直轄市が人口規模、面積そして中枢機能と産業集積などにおいて他都市と比較して格別である。グローバルサプライチェーンの展開をベースにした沿海部都市の発展は著しい。深圳、広州の経済規模はすでに重慶、天津を超え、北京、上海と並び、中国で「一線都市」と呼ばれるようになった。

 四つの「一線都市」の経済力は、どれほどなのか?周牧之教授は、「2021年上海の経済規模は世界の国別GDPランキング24位のスウェーデンを超えた。北京は同25位のベルギーを、深圳は同32位のナイジェリアを、広州は同33位のエジプトを超えた。いまや中国の都市は一国の経済力に匹敵するまで成長した」と解説する。

 明暁東元公使参事官は、「GDPランキングトップ10都市は、中国の主なイノベーション基地で、国際競争の担い手となっている。この10都市はさらに多くの都市の発展を触発し牽引している」と語っている。

4.中心都市と製造業スーパーシティという二つの大きな存在


 改革開放後とくにWTO加盟以来、中国では都市の逆転劇が激しく起こっている。中でも、一漁村から出発した深圳が、過去20年間でその経済規模を18.4倍へと膨れ上がらせ、GDPランキング3位を不動としたのに対し、直轄市の天津はトップ10から脱落したことが象徴的である。

 GDPランキングは中国全297地級市(地区級市、日本の都道府県に相当)以上の都市をカバーする。このなかでは四大直轄市、22省都、5自治区首府、5計画単列市からなる36「中心都市」の存在感が際立つ。GDPランキングトップ10には9中心都市、トップ30には19中心都市がランクインし、中心都市の優位性も明らかとなった。まさにこの36中心都市が改革開放以来の中国社会経済の発展を主導したことが見て取れる。

 GDPランキング30のもう一つ大きな存在は、「製造業スーパーシティ」である。トップ30には蘇州、無錫、仏山、泉州、南通、東莞、常州、煙台、唐山、徐州、温州といった11の非中心都市がランクインした。とくに蘇州はトップ10の6位に食い込んだ。この11都市は、すべて沿海部に属する製造業スーパーシティである。

 周牧之教授は、「改革開放以降、中国の急速な工業化を牽引してきたこれらの製造業スーパーシティは、グローバルサプライチェーンのハブとなっている」と指摘している。

図4 2021年中国都市GDPランキングトップ30

出所:雲河都市研究院「中国都市総合発展指標」データセットより作成。

■ 集中と協調

 主要都市の重要性はGDPの集中度で見て取れる。2021年のGDPランキングトップ5都市が全国14.9%、トップ10都市が全国23.2%、トップ30都市が全国42.8%のGDPシェアを占めている。中国297都市のうち、上位10%の都市が富の4割以上を稼ぎ出している。

 中国経済は大都市へ集中すると同時に、東部地域への集中度は緩和されている。明暁東元公使参事官は、「GDPランキングトップ10都市の中で、東部地域の7都市は早い回復を見せている。とくに上海、北京、広州の3都市は前年比で5%ポイント以上の加速ぶりだった。中部地域の武漢は、10%ポイント以上の加速だった。西部地域の重慶、成都の4%ポイント以上の加速だった。これら中西部都市の発展は中国の地域格差の縮小に重要な役割を果たしている。2021年東部地域と中部、西部地域の一人当たりGDPは其々2012年の1.69、1.87 から、1.53、1.68へと縮小した」と説明した。

図5 2020年中国都市におけるGDPの集中度

出所:雲河都市研究院「中国都市総合発展指標」データセットより作成。

■ 三大メガロポリスの存在感は顕著

 2021年GDPランキングトップ30では、京津冀(北京・天津・河北)、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスの存在が際立っている。同トップ30には京津冀メガロポリスから2位の北京、11位の天津、27位の唐山がつけた。長江デルタメガロポリスから1位の上海、6位の蘇州、8位の杭州、10位の南京、12位の寧波、14位の無錫、19位の合肥、22位の南通、25位の常州、28位の徐州、30位の温州がランクインした。珠江デルタメガロポリスから3位の深圳、4位の広州、17位の仏山、23位の東莞がランクインした。三大メガロポリスから18都市もGDPランキングトップ30入りした。

 周牧之教授は、「これは、製造業スーパーシティが三大メガロポリスに集中した結果である。特に長江デルタ、珠江デルタ両メガロポリスには世界最強のグローバルサプライチェーン型産業集積が展開している」と解説する。

 明暁東元公使参事官は、「三大メガロポリスの北京、上海、蘇州、杭州、南京、深圳、広州のGDPは其々4兆元、4.3兆元、2.3兆元、1.8兆元、1.6兆元、3.1兆元、2.8兆元を実現した。これらの都市の総経済規模は中国全体の17.4%に達し、中国ハイクオリティ発展の最前列に位置している。中西部地域の重慶、成都、武漢のGDPは其々2.8兆元、2兆元、1.8兆元を実現した。これらの都市の総経済規模は中国全体の5.7%に達し、地域経済の発展を牽引している」と述べている。

 徐林雲河都市研究院副理事長・中国国家発展改革委員会発展計画司元司長は、「周牧之教授の研究チームによる世界における経済発展と新型コロナウイルス政策との関係の研究から、コロナ禍での中国経済のパフォーマンスが浮かびあがった。2021年、中国の各都市の努力により、経済成長だけでなく、コロナ禍のダメージコントロールでも良い成績を収めた。2022年も、厳しいオミクロン株の蔓延を抑え、各都市の持続成長と民生の安定が期待される」とコメントした。

図6 2021年中国GDPランキングトップ30都市分析図

出所:雲河都市研究院「中国都市総合発展指標」データセットより作成。

日本語版『【ランキング】世界で最も経済リカバリーの早い国はどこか? 中国で最も経済成長の早い都市はどこか?〜2021年中国都市GDPランキング』(チャイナネット・2022年12月15日)

中国語版『疫情下仍持续增长的中国正在改变世界经济格局』(中国網・2021年4月26日)

英語版『China changes global economic landscape amid COVID-19』(中国国務院新聞弁公室・2022年12月5日、China Daily・2022年12月5日)

【ランキング】世界で最も新型コロナ被害を受けた国は?ゼロコロナ政策は失策なのか? 〜2021年中国都市新型コロナウイルス新規感染者数ランキング

雲河都市研究院

 日本はいま再び新型コロナウイルスが猛威を振るっている。こうした状況下、あえてウイズコロナ政策の色彩を強める日本では、ゼロコロナ政策を採る中国への批判的報道が数多い。中国のゼロコロナ政策はほんとうに失策と考えられるのか?世界主要各国及び中国各都市のデータを用いて検証する。

1.新型コロナウイルス被害の地域差


 2022年8月末までに世界では新型コロナウイルス感染者数が累計6億人近くにのぼった。世界人口の約7.6%が感染し、649万人もの死亡者を出した。

(1)地域別の新型コロナウイルス感染者数比較

 東京経済大学の周牧之教授は、「世界的に見ると、新型コロナウイルス被害には大きな地域差がある」と指摘する。

 図1が示すように、2022年8月迄に新型コロナウイルス感染者数をWHO管轄地域別で比較すると、ヨーロッパ地域が累計2.5億人と最も多く、次いで北米と南米から成るアメリカ地域が1.8億人と続く。つまり世界の全感染者数のうち、この2地域のシェアは70.6%にのぼった。

 中国、日本、韓国、オセアニアなどから成る西太平洋地域の感染者数は0.8億人で、膨大な人口にしては感染者数が比較的少なかった。これは中国がゼロコロナ政策を採ったことが大きく寄与している。

 累計感染者数はさらに、インドと東南アジアから成る南東アジア地域は0.6億人、中東と地中海沿岸から成る東地中海地域は0.2億人、アフリカ地域は0.09億人と続く。アフリカ地域が極端に少ないことは、医療体制の不備で集計が徹底していない為と考えられる。

図1 WHO管轄地域別世界・累計感染者推計数推移(2022年8月末迄)

出所:WHOデータセットより作成。

(2)地域別の新型コロナウイルス死亡者数比較

 新型コロナウイルスによる死亡者数においても、地域差が明らかである。

 図2が示すように、2022年8月迄における新型コロナウイルス死亡者数をWHO管轄地域別で比較すると、アメリカ地域は282万人、ヨーロッパ地域は208万人と続く。また、死亡者数はヨーロッパ地域に比べ、アメリカ地域が高い。すなわち、致死率はアメリカ地域の方がより高い。両地域は世界の新型コロナウイルスによる死亡者数の75.4%を占めた。

 同死亡者数は、南東アジア地域が80万人、東地中海地域が35万人、西太平洋地域が26万人、アフリカ地域が17万人と続く。

図2 WHO管轄地域別世界・累計死亡者推計数推移(2022年8月末迄

出所:WHOデータセットより作成。

(3)主要国の新型コロナウイルス感染被害比較

 表1は2020〜22年における主要国の新型コロナウイルス被害状況を表している。この表から各国の被害の違いが確認できる。

 周牧之教授は、「まず認識すべきは現在、新型コロナウイルスの致死率は下がったものの、その被害状況はいまだ深刻であるということだ。2022年は8月迄で、世界の新型コロナウイルスによる死亡者数はすでに101万人を超えた」と強調する。

 主要各国の3年間に及ぶ新型コロナウイルスによる被害状況は、大きく4つに類型できる。1つ目は、被害状況が世界平均を大きく上回るタイプであり、最も感染者および死亡者を出したアメリカがこれに当該する。周牧之教授は、「アメリカは、2020年のパンデミック初年度から被害が群を抜き、その傾向は3年間継続している。感染者数も死亡者数もその規模は他国と比較して一桁大きい。人口10万人当たり死亡者数で平準化してもその被害は甚大である」と指摘した。

 2つ目は、被害状況が世界平均を上回るタイプで、これは欧州各国が該当する。欧州各国は、アメリカと比較すると被害は小さいものの、人口10万人当たり死亡者数は、2020年から2022年にかけて、すべての期間で世界平均を上回る。特に、2020年のパンデミック初年度は世界平均を大きく超えた。

 3つ目は、被害状況が世界平均を下回るタイプで、日本が該当する。日本は、致死率、人口10万人当たり死亡者数、いずれも世界平均を下回っている。

 4つ目は、被害状況が世界平均を大きく下回るタイプで、中国が該当する。中国は、致死率、人口10万人当たり死亡者数、いずれも世界平均を大きく下回っている。周牧之教授は、「中国の人口規模を考えると、ゼロコロナ政策の感染抑制効果は非常に高い」と言う。

表1 2020-22各年主要諸国新型コロナウイルス感染者数等比較

出所:Our World in Dataデータセットより作成。

 図3は、2022年8月末までの百万人当たり新型コロナウイルスによる累積感染者数および累積死亡者数を国別にプロットした。アジア地域と欧米地域との被害の差が歴然としてある。また、アジア地域の中でも、イスラエル、トルコ、イランといった欧州に近接する地域の被害状況は欧米に近い。行動規制緩和などに伴い東アジアの国・地域も被害が拡大し、欧米諸国のポジションに近づいた。

 国別で見ると、人口当たりの累積感染者数および累積死亡者数が多かったのは、ベルギー、イギリス、イタリア、スペイン、アメリカ等欧米諸国である。 

 2022年8月末迄に世界で累積の感染者数および死亡者数が最も多かった国は、人口規模の大きいアメリカ、ブラジル、インドであった。

 日本のポジションは、2021年末と比べ大きく右上に移動している。感染拡大の中で次々と行動制限緩和などの措置を重ねたことによるものが大きい。

 中国は、ゼロコロナ政策の堅持により被害が抑えられ、最も被害の少ない国としての位置は不動だった。

図3 2022年8月末迄国別新型コロナウイルス累積感染者数及び累積死亡者数

出所:Our World in Dataデータセットより作成。

2.2021年中国ゼロコロナ政策のパフォーマンス


 世界は2021年、新型コロナウイルス感染拡大の波を通年で3度も経験した。2月頃には前年度から引き継いだ波が収束に向かったが、その後、変異株「デルタ株」の影響により、世界的に感染拡大が再び始まり、4月に一度目のピークが、8月に二度目のピークが起こった。その後、一旦、収束傾向が見られたが、11月9日に南アフリカで新たな変異種「オミクロン株」が確認された。以降、年末にかけて爆発的に感染者数が拡大した。結果として、2021年世界の累積感染者数は約2.1億人、累積死亡者数は約356万人に及んだ。致死率は約1.7%となり、2020年の同約2.2%をやや下回った。致死率の低下は新型コロナウイルスの弱毒化、治療法の進展、ワクチンの効果などが考えられる。

 2021年の中国は、ゼロコロナ政策の徹底により、感染拡大の抑え込みに成功した。中国では、感染者が見つかる度に局所的なロックダウン措置等を実施し、感染拡大を防いだ。こうした政策が奏功し、2021年通年の感染者数は1.5万人に留まり、死亡者数はわずか2人であった。中国は同年、新型コロナウイルス致死率を0.01%まで抑え込んだ。

 周牧之教授は、「2021年は中国のゼロコロナ政策が最も成功した年であった」とする。

図4 2021年中国新型コロナウイルス新規感染者数・死亡者数の日別推移

出所:Our World in Dataデータセットより作成。

3.2021年中国で新型コロナウイルス新規感染者数が最も多かった都市は?


 〈中国都市総合発展指標2021〉は、中国各都市の新型コロナウイルス新規感染者数(海外輸入感染症例と無症状例を除く)をモニタリングし、評価を行っている。

 図5が示すように、2021年に最も新型コロナウイルス感染者数が多かった10都市は、西安、石家荘、天津、揚州、フルンボイル、綏化、紹興、北京、大連、通化であった。

 また、最も感染者数が多かった11位から30位都市は、ハルビン、黒河、廈門、南京、莆田、鄭州、広州、長春、蘭州、邢台、寧波、張家界、重慶、荊門、武漢、上海、天水、杭州、銀川、成都であった。

 図5が示すように、同年の新規感染者数は、最も多かった10都市が中国の39.9%、同30都市が中国の55.1%を占めた。

 2020年における中国新規感染者数は、湖北省全12都市に約8割が集中していたが、2021年は新規感染者が全国的に拡散している。最も感染者数が多かった30都市のうち、中心都市は20都市であった。また、残りの10都市は、多くが中心都市に隣接する近郊都市、あるいは、陸続きの国境都市であった。いずれも、域外との人的交流が盛んな都市である。

 2021年は、デルタ株による局地的な市中感染が散発的に発生したものの、最も新規感染者が多かった西安でさえ、同年度の新規感染者数は1,468人に留まった。

 周牧之教授は、「都市を単位としたモグラ叩きのようなゼロコロナ政策は、感染抑制の面では極めて効果的であった」としている。

図5 中国都市新規感染者数2021ランキング トップ30

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2021』より作成。

4.ゼロコロナ政策の真価が問われるいま


 一方、中国の新型コロナウイルス対策においても多くの課題は残されている。例えば、無症状を含む感染者を素早く見つけて隔離する「動態清零(ダイナミック・ゼロ)」と呼ばれる手法で、一旦感染者が出れば地域全員にPCR検査をかける。現状では、そのスクリーニングの頻度は高く、人々への負担が大きい。また、大勢の人々を集めるスクリーニングは検査場における二次感染の懸念がある。

 また、ロックダウンエリアへの支援物資の供給にも問題がある。支援物資が居住地域まで届きながら、住民の自宅にまで効率よく届かない状況が、武漢、上海など至るところで発生した。

 さらに一部の地方ではロックダウンあるいはそれに近い行動制限措置を過剰に実施し、大きな混乱をもたらした。

 周牧之教授は、「上記の問題は2022年、上海を始め市中感染が広がったこともあり、緊張感の高まった中国で顕著になってきた。いずれにせよ、感染者が出た地域における高い緊張感が経済活動や市民生活に多大な負担をかけていることは言うまでもない。こうした負担を軽減させる工夫が求められる」と述べている。

 2022年11月11日、中国国務院(政府)は、新型コロナ対策に関する「20条施策」を発表し、ゼロコロナ政策を堅持する一方で、隔離期間の短縮や、リスクエリア区分の見直し、密接接触者の再定義、過度のPCR検査の自粛などの改善策を打ち出した。経済活動や市民生活への負担軽減が期待される。


 本文は、周牧之論文『比較研究:ゼロコロナ政策とウイズコロナ政策 ―感染抑制効果と経済成長の双方から検証―』より抜粋し編集したものである。『東京経大学会誌 経済学』、315号、2022年。


【ランキング】科学技術大国中国の研究開発拠点都市はどこか? 〜中国都市科学技術輻射力ランキング2020

雲河都市研究院

■ 世界最多の研究者を抱える中国


 現在、世界で最も研究者を抱えているのは中国である。図1が示すように、2020年国・地域別研究者数ランキングをみると、トップとしての中国の存在が圧倒的である。中国の研究者数(FTE)は2位のアメリカ、3位の日本と比較すると、それぞれ約1.4倍、約3.3倍の規模にまで達している。さらに8.1%という驚異的な伸び率のもと中国の研究者数は増え続けている。

図1 2020年国・地域別研究者数ランキング

出典:OECD(経済協力開発機構)データベースより雲河都市研究院作成。
注:ここでの研究者数はFTE データである。FTEとは、「full-time equivalent(フルタイム当量)」の略で、1人のフルタイム社員が1週間に処理できる仕事量を指す。当該データは、自然科学・工学系分野のほか人文・社会科学系分野を含んでいる。また、研究開発プロジェクトの科学的・技術的側面をマネジメントする管理者、研究開発活動に従事する博士号レベルの大学院生・研究生を含む。なお、研究者の指導・監督のもとで研究を補助・サポートする研究補助要員、技術的サポートを行う技能要員は含まれない。アメリカ、イギリス、カナダ、アルゼンチン、スイス、シンガポール、南アフリカは2019年時のデータである。

■ 労働人口当たり研究者数ランキング


 図2が示すように、2020年国・地域別労働人口当たり研究者数ランキングでは、トップ10の国・地域は、順に韓国、フィンランド、スウェーデン、デンマーク、台湾、ベルギー、ノルウェー、オーストリア、シンガポール、フランスと続く。いずれも人口規模が相対的に小さく、研究開発に熱心な国・地域である。

 一方、先進国で最多の人口規模を抱えるアメリカは、世界最大の研究開発投資を続けているものの、労働人口当たり研究者数ランキングでは19位にとどまる。

 人口大国の中国は2.9人/千人で同世界順位は36位とまだランキングのトップ30入りは果たしていないものの、労働人口当たり研究者数の伸び率は約12%と非常に大きい。

 ⽇本は10.1⼈/千⼈で同ランキングの16位となっている。多くの国は⻑期にわたり労働人口当たり研究者数が増加傾向にある中、日本は1998年以降横ばいが続いている。そのため、世界における同ランキングの順位は下降している。

 対照的に、国策として研究開発に注力している韓国は、労働人口当たり研究者数において、2008年に⽇本を上回り、2017年に世界1位の座を奪って以降、その座を堅守している。韓国の労働人口当たり研究者数は、2020年で16⼈/千⼈に達した。

図2 2020年国・地域別労働人口当たり研究者数ランキング

出典:OECD(経済協力開発機構)データベースより雲河都市研究院作成。

■ 研究開発を支える博士号取得者


 研究開発力の基盤として博士号取得者の存在は極めて重要である。図3が示すように、2018年における国・地域別科学系博士号取得者数ランキングをみると、トップはアメリカで、2位に中国、3位にインドが続く。アメリカの博士号取得者の伸び率が1.9%なのに対し、中国は6%、インドは15.7%となっている。中国、インドの追い上げが凄まじい。

 一方、日本は2017年、韓国に抜かれて11位となり、同ランキングトップ10から陥落している。

図3 2018年国・地域別科学系博士号取得者数ランキング

出典:NSF(アメリカ国立科学財団)データベースより雲河都市研究院作成。

■ 研究開発2大国:アメリカと中国


 科学技術の推進を促す研究開発費は、国の科学技術力を示す重要な指標である。図4が示すように、2020年における国・地域別研究開発費ランキングでは、アメリカがトップ、2位に中国、3位に日本が続く。米中両国の研究開発費規模は、他国・地域を大きく突き放し、研究開発大国としての存在を見せつける。

 さらに注目すべきは、研究開発費の成長率である。同ランキングトップ30のほとんどの国は一桁に留まるのに対して、中国は10.8%と2桁台の成長を示している。

 同ランキングのトップ10の国・地域の中で、5位の韓国や9位の台湾は、研究開発費においてそれぞれ9.6%、8.8%と高い成長率を示している。また、トップのアメリカ、6位のフランス、8位のロシアも、それぞれ6.2%、3.1、5.0%と堅調な伸びを見せている。

 一方、3位の日本は1.1%と成長率が横ばいとなっており、4位のドイツは−2.1%、イタリアは−1.4%とマイナス成長に陥っている。研究開発費におけるこうした国の成長の鈍化の背景には、新型コロナウイルス・パンデミックが多大な影響を与えたことも一因であると推測される。

図4 2020年国・地域別研究開発費ランキング

出典:OECD(経済協力開発機構)データベースより雲河都市研究院作成。
注:イギリス、オーストラリア、スイス、シンガポール、南アフリカは2019年データ。

 図5が示すように、2020年の国・地域別研究開発費内訳をみると、中国、アメリカ、日本共に、企業の割合が7割以上を占めていることがわかる。国別の特徴を見ていくと、中国は政府の占める割合が他の国・地域より高く、逆に大学の占める割合が他の国より低い。但し、企業の占める割合が極めて高いことが、中国はアメリカと日本同様である。

図5 2020年国・地域別研究開発費内訳

出典:OECD(経済協力開発機構)データベースより雲河都市研究院作成。

■ 研究投資実態を示す指標:1人当たり研究開発費ランキング


 科学技術の発展には、研究者や研究開発費の規模も重要だが、研究者がどれくらいの研究開発費を使用できるのか、つまり、研究者にどれだけの投資があるのかも重要な指標である。図6が示すように、2020年の国・地域別研究者1人当たり研究開発費ランキングをみると、1位はアメリカで約42.3万ドル(約5,988万円、1ドル=140円で換算)、2位はスイスで約40.8万ドル(約5,705万円)と続く。これらの2国は、3位のベルギーより10万ドル近く高い(ただし、両国共に2019年データ)。

 その他のトップ10の国・地域を見ていくと、3位ベルギーから6位台湾までは、およそ約30万ドル前後であり、7位のルクセンブルクは約27.2万ドル、8位のシンガポールは約26.1万ドルである。9位中国と10位韓国は各々約25万ドルで、その数値は拮抗している。

 研究者1人当たり研究開発費の伸び率を見ると、3位ベルギー、4位ドイツ、7位ルクセンブルクといった欧州に属する国は軒並みマイナス成長となっている。

 一方、アジアの新興国・地域の同伸び率は堅調であった。台湾、韓国、中国は、それぞれ5.9%、5.7%、2.4%とプラス成長である。これらアジアの国・地域は、欧米諸国と比較すると2020年、新型コロナウイルスによる被害を抑えこんでおり、安定した成長を見せている(2020年における新型コロナウイルス各・国地域被害状況について、詳しくは【ランキング】ゼロコロナ政策で感染拡大を封じ込んだ中国の都市力 〜2020年中国都市新型コロナウイルス新規感染者数ランキングを参照)。

 なお、日本は2020年、中国と韓国に研究者1人当たり研究開発費が抜かれ、トップ10圏外の11位に順位を落とし、またその成長率も−0.1%と落ち込んでいる。

図6  2020年国・地域別研究者1人当たり研究開発費ランキング

出典:OECD(経済協力開発機構)データベースより雲河都市研究院作成。
注:アメリカ、スイス、シンガポール、南アフリカ、アイスランド、カナダ、イギリス、チリは2019年データ。

■ 科学技術発展の実力を示すアウトカム指標:科学論文数ランキング


 科学技術発展の実力を示すアウトカム指標として、科学論文数が挙げられる。図7が示すように、2020年の国・地域別科学論文数ランキングをみると、1位の中国、2位のアメリカと続く。これら2国の論文数は3位以下を突き放しており、2国の論文総数は、世界論文数の38.3%を占め、3位インドから15位イランの総論文数に相当する。中国の論文数は、世界論文数の22.8%にまで増えてきた。それだけでなく、論文数の伸び率は9.7%と驚異的である。このままでは今後さらに他国・地域との差が拡大していくに違いない。

 なお、2003年までは論文数で世界2位を誇った日本は、いまや同6位に後退し、且つ論文数は伸び悩んでいる。

図7 2020年国・地域別科学論文数ランキング

出典:NSF(アメリカ国立科学財団)データベースより雲河都市研究院作成。

■ 科学技術発展の実力を示すアウトカム指標:国際特許出願件数ランキング


 科学技術発展の国際的な実力を示すアウトカム指標として、国際特許出願件数も挙げられる。図8が示すように、2020年の国・地域別国際特許出願件数ランキングをみると、1位中国、2位アメリカ、3位日本と続く。国際特許出願件数は、このトップ3が他国・地域を突き放し、3国で世界シェア64.7%を占める。なかでも、中国はその世界シェアが25.1%に達した。さらに、中国は16.5%という驚異的な伸び率でそのシェアを拡大し続けている。

 日本はこれに対して、国際特許出願件数が−4.0%とマイナス成長に陥っている。国際特許出願件数トップ10では、ドイツ、フランス、オランダも同様にマイナス成長にある。

図8 2020年国・地域別国際特許出願件数ランキング

出典:WIPO(世界知的所有権機関)データベースより雲河都市研究院作成。

 東京経済大学の周牧之教授は、「上記の分析から分かるように中国の研究開発における人的及び資金的投入はすでにアメリカと並び世界二強となっているだけでなく、研究開発の成果としての論文及び特許の質量ともにアメリカと肩を並べるまでになってきた」と指摘する。

■ 中国で最も科学技術輻射力が高い都市は?


 中国都市総合発展指標に基づき、雲河都市研究院は中国全297地級市(地区級市、日本の都道府県に相当)以上の都市をカバーする「中国都市科学技術輻射力」をモニタリングしている。輻射力とは特定産業における都市の広域影響力を評価する指標である。科学技術輻射力は都市における研究者の集積状況や国内外特許出願数、商標取得数などで評価した。

 図9より、中国都市総合発展指標2020で見た「中国都市科学技術輻射力2020」ランキングのトップ10都市は、北京、深圳、上海、広州、蘇州、杭州、東莞、南京、寧波、成都となった。特に、トップ2の北京、深圳両都市の輻射力は抜きん出ている。同ランキングの上位11〜30都市は、天津、仏山、西安、武漢、無錫、合肥、長沙、青島、鄭州、紹興、温州、廈門、済南、嘉興、重慶、福州、台州、南通、大連、珠海である。これらの都市には中国の名門大学、主力研究機関、そしてイノベーションの盛んな企業が立地している。

図9 中国都市科学技術輻射力ランキング2020 トップ30

■ イノベーションセンターの立地パターン


 図10より、「中国都市科学技術輻射力2020」ランキングトップ30都市の地理的分布をみると、2つの立地パターンが見られる。一つは、名門大学や主力研究機関が集中する中心都市である。もう一つは、イノベーションの盛んな企業が集中する沿海部の製造業スーパーシティである。

 京津冀(北京・天津・河北)、長江デルタ、珠江デルタの三大メガロポリスではこの二つのパターンが重なっている故に、研究開発に強い都市が集中している。これらの都市では産学官の協働でイノベーションに牽引される成長パターンへのシフトを目指している。

 成都、西安、武漢、合肥、長沙、鄭州、済南、重慶といった内陸の中心都市は、大学と研究機関の集積をベースにイノベーションセンターを懸命に育てている。

図10 2020年中国都市科学技術輻射力ランキングトップ30都市分析図

■ 進む集中集約


 「中国都市科学技術輻射力2020」ランキングを分析することで、科学技術産業における特定都市への集中集約が浮かび上がる。

 図11が示すように、研究者数において、同ランキングのトップ5都市が全国に占める割合は22.9%、トップ10都市は34.1%、トップ30都市は61.0%に達している。

図11 2020年中国都市における研究者数の集中度

 図12が示すように、特許取得総数において、「中国都市科学技術輻射力2020」ランキングのトップ5都市が全国に占める割合は22.8%、トップ10都市は34.4%、トップ30都市は61.0%に達している。研究者数の集積度合いは、特許取得総数の分布とほぼ一致している。

図12 2020年中国都市における特許取得総数の集中度

 図13が示すように、国際特許取得総数において、「中国都市科学技術輻射力2020」ランキングのトップ5都市が全国に占める割合は66.1%、トップ10都市は76.6%、トップ30都市は91.7%に達している。特許取得総数に比べ国際特許取得総数におけるトップ都市の集中度がさらに高いことは、科学技術輻射力が高い都市に国際的なイノベーション力を有する企業が多く集積していることを窺わせる。

図13 2020年中国都市における国際特許取得総数の集中度

■ 科学技術発展の原動力・ベンチャー企業


 ベンチャー企業はその大半がイノベーションの創出のもとで生まれる。と同時に、多くのベンチャー企業はイノベーティブである。ベンチャー企業の中でも、特に「ユニコーン企業」と称される企業価値が10億ドル以上の未上場企業は、創新創業の代表的な存在である。図14が示すように、2022年国・地域別ユニコーン企業数ランキングでトップは圧倒的にアメリカであり、次点で中国が続く。研究者数や研究開発費で群を抜くアメリカと中国は合わせて、ユニコーン企業総計1,178社の68.4%を占めている。国単体でアメリカと中国が世界のユニコーン企業数に占めるシェアは、それぞれ53.7%と14.7%に達している。なお、ユニコーン企業が日本には6社しかなく、同世界順位は17位と低迷している。

図14 2022年国・地域別ユニコーン企業数ランキング トップ30

出典:CB Insights「The Complete List Of Unicorn Companies」より雲河都市研究院作成

 図15が示すように、2022年国・地域別ユニコーン企業時価総額ランキングを見ると、前述のユニコーン企業数ランキングと同様、トップは圧倒的にアメリカであり、次点で中国が続く。現在、世界に1,178社存在するユニコーン企業の時価総額は3兆8338億ドルであり、米中のシェアは71.4%に達している。

 国単体で見ると、アメリカと中国が世界のユニコーン企業時価総額合計額に占めるシェアは、それぞれ53.8%と17.6%となっている。ユニコーン時価総額における中国のシェアは同企業数のシェアよりも高い。これは、時価総額が100億ドルを超える“スーパーユニコーン”の存在が大きい。例えば、動画SNSアプリ「TikTok」を運営するBytedanceは、時価総額が1,400億ドルとユニコーン企業の時価総額で世界トップを誇る。また、ファッションECサイトのSHEINは時価総額が1,000億ドルとなっており、ユニコーン企業の時価総額で世界3位にランクインしている。

 なお、日本における6社のユニコーン企業の合計時価総額は88億ドルであり、同世界順位は26位である。

 周教授は、「中国におけるユニコーン企業の群生は、イノベーションとスタートアップとの相乗作用が極めて良好に働いている結果である。それに世界の投資ファンドが群がっている」と分析している。

図15 2022年国・地域別ユニコーン企業時価総額ランキング トップ30

出典:CB Insights「The Complete List Of Unicorn Companies」より雲河都市研究院作成

 雲河都市研究院が、中国全297都市の「中国都市科学技術輻射力2020」と、中国都市総合発展指標でベンチャー企業数を示す指標「創業板・新三板上場企業指数」、大手上場企業数を示す指標「メインボード上場企業数」との相関係数を分析した。結果、「都市科学技術輻射力」と「創業板・新三板上場企業指数」との相関関係は0.95に達し、都市のイノベーション力と創業との「完全相関」が見られた。

 「都市科学技術輻射力」と「メインボード上場企業数」との相関関係も0.89に達し、都市のイノベーション力と大企業との「強い相関関係」を示した。

 この分析について周教授は、「都市のイノベーション力は、大企業から生まれる研究開発成果より、研究開発成果から生まれるスタートアップ企業との相関関係が強いことが明らかになった。さらに現在、中国都市のイノベーション力は、スタートアップ企業と大企業双方との関係が強く、バランスの良い研究開発大国の姿を示している」と解説する。


【ランキング】ゼロコロナ政策で感染拡大を封じ込んだ中国の都市力 〜2020年中国都市新型コロナウイルス新規感染者数ランキング

雲河都市研究院

 2020年は新型コロナウイルス・パンデミックにより世界の風景が一変した。ロックダウン、緊急事態宣言、ソーシャルディスタンス、リモートワーク、遠隔授業など、これまで想像もつかなかった日常が続いた。

 こうした状況下、中国は徹底的なゼロコロナ政策を採った。これに対して、欧米および日本など諸国ではウイズコロナ政策を採ってきた。東京経済大学の周牧之教授は、2020年11月11日に『ゼロ・COVID-19感染者政策 Vs. ウイズ・COVID-19政策』というレポートの中国語版(以下「11月周レポート」と略称)を公表した。「11月周レポート」最大の特徴は、感染抑制効果と経済成長の双方から検証し、ゼロコロナ政策とウイズコロナ政策における国際比較研究を行ったことである。このレポートは、後に日本語版、英語版も公表され、多くの内外メディアに転載された。詳しくは、同レポートをベースにまとめた『【論文】ゼロ・COVID-19感染者政策 Vs ウイズ・COVID-19政策』を参照されたい。

「11月周レポート」の中国語、英語、日本語版


■ 2020年世界で新型コロナウイルスの人的被害が最も多かった国は?


 図1は、人口で平準化した各国の新型コロナウイルス被害状況を示したグラフである。2020年末まで百万人当たりの新型コロナウイルス累積感染者数および累積死亡者数を国別にプロットし、各国の新型コロナウイルスによる被害を表している。同図では、2020年名目GDP規模の上位30カ国・地域に二重丸をつけ、色分けして地域区分している。グラフの右上に位置する程、人口当たりの感染者数が多く、死亡者数が多い。

 同図から分かるように2020年、欧米地域はアジア地域と比べて新型コロナウイルス被害が突出している。同図が対数ベースのグラフであることからすれば、その差は甚大である。

 国別で、人口当たりの感染者数および死亡者数が多かったのは、ベルギー、イギリス、イタリア、スペイン、アメリカ等欧米諸国であった。

 2020年末迄の累積の感染者数および死亡者数で最も被害が大きかった国は、人口規模の大きいアメリカ、ブラジル、インドであった。

 一方、名目GDP規模の上位30カ国・地域の中で、新型コロナウイルス被害が最も小さかったのは上位から順に台湾、タイ、中国であった。

 2020年アジア地域では、中国だけでなく台湾、韓国などもゼロコロナ政策を採った。ゼロコロナ政策が、欧米諸国との被害差を生んだ大きな理由と考えられる。とくに感染蔓延初期で甚大な被害を出した中国が、人口大国でありながらここまで新型コロナウイルスの被害を食い止めたのはゼロコロナ政策が奏功した故である。

図1  国別百万人当たりの累積感染者数及び累積死亡者数
(2020年末まで)

■ ロックダウンで武漢は早期収束


 2020年1月23日に、中国政府は新しい感染症の爆発を封じ込めるために湖北省の省都武漢を始め3都市をロックダウンした。このニュースは世界を震撼させた。翌1月24日に、湖北省全域が緊急対応(Emergency response)レベルを1級にした。緊急対応レベルとは認定された感染症エリアに対するロックダウンを含む措置の度合いを規定するもので、1級とは、休業、休講を要請し、交通を遮断し、極力移動と接触を避ける措置である。その後緊急対応1級措置は中国全土に及んだ。

 武漢のみならず新型コロナウイルスで世界中の数多くの大都市で、医療崩壊危機が起こった。3月11日にWHOが同ウイルスの脅威に対してパンデミック宣言をした。

 武漢ロックダウン3カ月後の4月20日、周牧之教授は「新型コロナパンデミック:なぜ大都市医療能力はこれほど脆弱に?」と題したレポートの中国語版(以下「4月周レポート」と略称)を発表、武漢で何が起こり、どのような対策が取られたかについて世界に先駆けて検証した。「4月周レポート」の英語版と日本語版も相次ぎ公表され、多くの内外メディアに転載された。

「4月周レポート」の中国語、英語、日本語版

 「4月周レポート」は、医療資源の豊富な武漢市が、なぜ新型コロナウイルスでたちまち医療崩壊に陥ったのかに着目した。さらに、新型コロナウイルスによる医療崩壊の三大原因として、①医療現場がパニックに陥った、②院内感染による医療従事者の大幅減員、③病床不足という仮説を立て、その原因を検証した。

 「4月周レポート」は中国政府が武漢の状況を打開するために取り組んだ対策についても検証した。まず武漢の医療従事者大幅不足を解消するため、中国は全土から武漢へ救援医療従事者を迅速に派遣した。ロックダウン翌日に上海からの救援医療チームが到着した。全土から駆けつけた医療従事者の総数は4万2,000人にまで達した。

 この措置は、武漢の医療崩壊の食い止めに繋がった。しかし、医療従事者の大規模な動員は、日本をはじめ各国ではほとんど実施できなかった。実際は、感染拡大地域に迅速かつ有効な救援活動を施せるか否かが、新型コロナウイルス制圧を占う一つの鍵になる。

 次に、病床不足への対策として中国が取り組んだのは、患者を重症者と軽症者とに分けることであった。医療リソースが重症者に中心的に振り向けられた。重軽症者分離収容措置は、後に他の国でも参照されている。

 さらに、ハイスピードで重症者向けと軽症者向けの仮設病院を建設した。こうした措置は、SARSの経験が活かされた。

 たった10日という短期間で、重症者向け仮設病院が建設され使用が開始された。その3日後、二つ目の重症者向け仮設病院が稼働した。両病院で病床数は計2,600床に達し、一気に重症患者の治療キャパシティが上がった。また、武漢は体育館などを16カ所の軽症者収容病院へと改装し、2月3日から順次患者を受け入れ、1万3,000床の抗菌抗ウイルスレベルの高い病床を素早く提供し、軽症患者の分離収容を実現させた。

 図2は、武漢のロックダウン期間に同市の新規感染者数及び死亡者数を日々記録したものである。未知のウイルスのオーバーシュートに遭遇し、医療崩壊など大変な困難を経てロックダウンの約3週間後にようやく新規感染者数がピークアウトした。ロックダウン56日後の3月18日には新規感染者数がゼロになった。その後3月23日に新規感染者が一人出たのを最後に、4月8日のロックダウン解除まで16日間新規感染者はゼロが続いた。武漢は77日間のロックダウンで新型コロナウイルスのオーバーシュートを鎮圧した。

 2020年武漢の感染者数は、51,042人、死亡者数は3,869人、致死率は7.6%に至った。「4月周レポート」は、初期の混乱が武漢の高い致死率を生じさせたと結論付けた。

図2 武漢ロックダウン期間における新規感染者数・死亡者数

出典:中国湖北省衛生健康委員会HPなどにより雲河都市研究院作成。

■ 状況に即して中国で行動制限を調整


 中国政府は、状況に即して行動制限のレベルの調整を図った。甘粛省は、武漢より一カ月以上も早く2020年2月21日に「公衆衛生上の緊急事態対応レベル」を3級に引き下げた。

 6月13日には、中国全土のすべての地域が「公衆衛生上の緊急事態対応レベル」3級になった。中国は世界に先駆けて日常生活を取り戻すことに成功した。

 その後、感染事例が発生した地域には、再度、緊急事態対応レベルを引き上げる措置も行っている。例えば、2020年6月16日には、北京で感染クラスターが発生し、同市の「公衆衛生上の緊急事態対応レベル」を3級から2級に引き上げて対応、1カ月後の7月20日に3級に引き下げた。

図3 2020年中国新型コロナウイルス新規感染者数・死亡者数の日別推移

出典:中国湖北省衛生健康委員会HPなどにより雲河都市研究院作成。

■ 2020年中国で新型コロナウイルス新規感染者数が最も多かった都市は?


 新型コロナウイルス感染抑制を優先する中国は、まず武漢を始めとするホットスポットを迅速に抑え込み、さらに全国にも強い行動制限をかけた。その後状況が沈静化した地域で制限を順次緩和した。再び感染事例が発生すると、同地域に行動制限をかけ、モグラ叩きのように感染を局所に封じ込めて全国への拡大を阻止した。

 〈中国都市総合発展指標2020〉は、中国各都市の新型コロナウイルス新規感染者数(海外輸入感染症例と無症状例を除く)をモニタリングし、評価した。

 図4が示すように、2020年に最も新型コロナウイルス感染者数が多かった10都市は、武漢とその周辺に集中した。同10都市は、武漢、孝感、黄岡、荊州、鄂州、随州、襄陽、黄石、宜昌、荊門で、すべて湖北省の都市であった。また、図5が示すように、同年の新規感染者数は、武漢市1都市に中国の62.8%、最も多かった10都市が中国の80.8%、同30都市が中国の90.1%を占めた。中国新規感染者数の82.5%が、湖北省全12都市に集中した。

 感染者数が湖北省に集中したことについて、周牧之教授は、「迅速なロックダウン措置とゼロコロナ政策で流行を早期に収束させ、全国での蔓延を食い止めた。結果、湖北省以外の都市では、局地的に感染者が時折出るものの感染爆発はなく、生産活動や市民生活は早期に回復した」と分析する。

 最も感染者数が多かった11位から30位都市の中には、中国GDP規模トップ10都市である上海、北京、深圳、広州、成都、重慶、杭州のほか、ハルビン、長沙、南昌、合肥、ウルムチ、寧波、温州などの省都や地域経済の中心都市が含まれた。これについて、周牧之教授は、「これらの中心都市が膨大な人口を抱えているだけでなく、域外との活発な交流が行われている故である」と話す。

図4 2020年中国都市新型コロナウイルス新規感染者数が
最も多かった
10都市分析図

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

図5 2020年中国都市新型コロナウイルス新規感染者数が
最も多かった30都市

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。
注:「新規感染者数」に海外輸入感染症例と無症状例は含まない。

図5 2020年中国都市における新型コロナウイルス新規感染者数の集中度

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

■ ゼロコロナ政策で経済をいち早く回復


 新型コロナウイルスパンデミックは、世界経済に大きく影を落とした。2020年の世界経済の成長率は2018年の6.3%、2019年の1.6%から、一気に-2.6%とマイナス成長に転じた。

 図7が示すように、2020年国別名目GDPランキングトップ10は、アメリカ、中国、日本、ドイツ、イギリス、インド、フランス、イタリア、カナダ、韓国と続く。世界名目GDPの67.7%を占めるこれら10カ国が、中国を除き、軒並みマイナス成長に陥った。逆風の中で中国が3.6 %の成長率を実現したのは、ゼロコロナ政策によるものが大きい。

 2020年の中国GDP規模の上位30都市のうち武漢だけが−4.7%成長であったが他の都市はすべてプラス成長を実現した(詳しくは、【ランキング】2020年中国都市GDPランキングを参照)。これについて、周牧之教授は、「ゼロコロナ政策の有効性と中国主要都市の強靭さが中国の経済成長を支えた」と分析する。

図6 2020年国・地域別名目GDPランキングトップ30

出典:IMFデータベースより雲河都市研究院作成。

■ ゼロコロナ政策・中国モデルの特徴と課題


 3年にわたる新型コロナウイルス禍の中で、現在でもゼロコロナ政策を継続しているのは、中国のみである。本レポートでは「中国モデル」とも言える中国のゼロコロナ政策の特徴を以下の6つにまとめた。

(1)感染症対策の法整備及びマニュアル化

 感染症蔓延に苦しんだ歴史を持つ中国には、感染症に対してある種の大陸的なロジック、あるいは危機感がある。そのためSARSの経験を活かし、ウイルスによるパンデミックに備え、感染症対策の法整備及びマニュアル化を進めた。これが、新型コロナウイルスに対抗する上で、極めて大きな役割を果たした。この点を最も評価すべきである。

(2)感染症対策優先のスピード感

 中国は、感染症対策の法整備及びマニュアル化があるおかげで、感染症対策を優先的且つスピーディに実行できた。ロックダウンなど行動規制による市民生活や経済活動への影響は大きかったものの、結果として市民生活を逸早く取り戻し、ウイズコロナ政策を採った国と比べ、経済パフォーマンスも良かった。

(3)妥協しないゼロコロナへの追及

 中国は、地域ごとに感染者ゼロ目標を徹底したことにより、新型コロナウイルス封じ込めに成功した。

(4)全国総動員体制

 武漢などロックダウンが施された地域には、全国から医療従事者が大量に送り込まれ医療体制が迅速に拡充されることで、医療崩壊を食い止め、多くの人命を救った。

(5)テクノロジーの積極的活用

 中国ではスマホアプリ等に代表されるようにITテクノロジーを積極的に活用した。こうした取り組みは、感染抑制に貢献しただけでなく、IT産業の活性化にも寄与した。

(6)漢方医学の積極的活用

 中国は新型コロナウイルスの予防と治療に漢方医学を積極的に活用した。西洋医学と異なるアプローチでの取り組みは大きな成果を上げただけでなく、漢方医学の重要性の再認識につながった。

 一方、中国の新型コロナウイルス対策においても多くの課題は残されている。例えば、無症状を含む感染者を素早く見つけて隔離する「動態清零(ダイナミック・ゼロ)」と呼ばれる手法で、一旦感染者が出れば地域全員にPCR検査をかける。現状では、そのスクリーニングの頻度は高く、人々への負担が大きい。また、前述の分析で院内感染が武漢での感染爆発の大きな要因と指摘したように、大勢の人々を集めるスクリーニングは検査場における二次感染の懸念がある。

 また、ロックダウンエリアへの支援物資の供給にも問題がある。支援物資が居住地域まで届きながら、住民の自宅にまで効率よく届かない状況が、武漢、上海など至るところで発生した。

 さらに一部の地方ではロックダウンあるいはそれに近い行動制限措置を過剰に実施し、大きな混乱をもたらした。

 周牧之教授は、「いずれにせよ、感染者が出た地域における高い緊張感が経済活動や市民生活に多大な負担をかけていることは言うまでもない。こうした負担を軽減させる工夫が求められる」と話す。


中国都市ランキング−中国都市総合発展指標

【ランキング】鉄鋼大国中国の生産拠点都市はどこか? 〜2020年中国都市鉄鋼産業輻射力ランキング

雲河都市研究院

■ 世界最大の生産量を誇る中国鉄鋼産業


 世界の鉄鋼産業も新型コロナウイルスパンデミックの影響を受けている。世界粗鋼生産量成長率は、2018年が5.3%、2019年が2.7%だったことに対して、2020年は0.3%にまで減速した。幸い、2021年に世界粗鋼生産量成長率は3.7%に回復し、世界粗鋼生産量も1980年以降、最大規模となった。

 現在、世界の鉄鋼生産をリードしているのは中国である。図1が示すように、2021年国・地域別粗鋼生産量ランキングをみると、トップの中国の存在が圧倒的である。中国の粗鋼生産量はいまや約10.3億トンにも達している。これは、世界粗鋼生産量の約52.9%に当たり、2〜30位の国・地域の合計値の約1.2倍に達している。東京経済大学の周牧之教授は、「かつて「鉄は国家なり」という格言があり、鉄鋼産業が国力を表していたが、時代は変われども中国の圧倒的な粗鋼生産量は、現在の中国における経済規模とその活力を如実に表している」と述べている。

図1 2021年国・地域別粗鋼生産量ランキング

出典:世界鉄鋼協会(WSA)データベースより雲河都市研究院作成。

■ WTO加盟以降、急成長を遂げた中国鉄鋼産業


 図2より、1980〜2021年の世界および中国の粗鋼生産量推移をみると、中国の鉄鋼産業は、改革開放以降、とくにWTOに加盟した2001年以降、急成長を遂げたことがわかる。鋼材は不動産、インフラ建設、自動車、家電等の多分野で用いられる。高度成長を遂げた中国は、鋼材需要が爆発的に増えている。

 1980年、粗鋼生産量の第1位は旧ソ連で、2位が日本、3位が米国であった。旧ソ連、日本、米国の世界シェアは、それぞれ20.7%、15.5%、14.2%で、この3国が世界の半分の粗鋼を生産していた。一方、5位の中国の世界シェアは、僅か5.2%に過ぎなかった。

 1992年になるとソ連崩壊も影響し、日本がはじめて粗鋼生産量の世界第1位となり、中国は米国に次ぐ3位に入った。日本、米国、中国の世界シェアは、各々13.6%、11.7%、11.2%となった。

 1996年には中国が日本を抜き、粗鋼生産量の世界第1位に躍り出た。順位は中国、日本、米国と続き、世界シェアはそれぞれ13.5%、13.2%、12.7%となった。以降、今日まで中国は粗鋼生産量において1位の座を保ち続けている。

 WTOに加盟した2001年、中国の世界シェアは17.8%だった。その10年後の2011年には、中国の同シェアは45.6%へと大きく伸び、2021年には、52.9%にまで及んだ。

図2 1980〜2021年世界および中国の粗鋼生産量推移

出典:世界鉄鋼協会(WSA)データベースより雲河都市研究院作成。

■ 世界をリードする中国鉄鋼メーカー


 図3より、2021年における世界鉄鋼メーカー粗鋼生産量ランキングをみると、トップ30にランクインした中国企業は半数の15企業(26位の台湾系・中国鋼鉄を含む)を数える。中国企業15社の粗鋼生産量世界シェアは、25.7%にも達している。

 巨大市場は巨大企業を生み出す。世界トップの宝武鋼鉄集団(China Baowu Group)は、2位のアルセロール・ミッタル(ArcelorMittal)の生産量の1.5倍の規模を誇り、1社で世界粗鋼生産量の6.1%を占める驚異的な存在である。

 周牧之教授は、「宝武鋼鉄集団の前身のひとつは宝山製鉄で、改革開放のシンボル的プロジェクトとして新日鉄などの技術を導入し造られた」と解説する。

図3 2021年世界鉄鋼メーカー粗鋼生産量ランキング

出典:世界鉄鋼協会(WSA)データベースより雲河都市研究院作成。

■ 鉄鉱石輸入大国


 圧倒的な粗鋼生産量を誇る中国は、海外から製鉄の主原料の鉄鉱石と石炭(原料炭)を大量に輸入している。

 周牧之教授は、「中国は鉄鉱石の産出国であるものの、その品質、生産量ともにオーストラリアやブラジルには及ばない。改革開放までは中国の鉄鋼産業は、ほとんど国内資源を頼っていた。宝山製鉄所は中国で初めて海外鉄鉱石利用を前提とした製鉄所であった。故に、建設当時はこの点で理解されず一時期、建設中断に追い込まれたこともあった」と振り返る。

 図4より、2019年の国・地域別鉄鉱石生産量ランキングをみると、オーストラリアが圧倒的で、その世界シェアは37.4%にまで達している。中国は3位で、世界シェアは14.4%である。

図4 2019年国・地域別鉄鉱石生産量ランキング

出典:アメリカ地質調査所(USGS)データベースより雲河都市研究院作成。

 図5より、2020年の国・地域別鉄鉱石輸入額ランキングをみると、中国は第1位であり、2位以下を引き離し、圧倒的である。中国の鉄鉱石輸入額は、世界の73.4%を占め、その規模は2位日本〜30位フィンランドの合計額の約3倍である。中国は毎年約11億トンの鉄鉱石を輸入し、その約7割がオーストラリア、2割がブラジルからである。

 周牧之教授は、「オーストラリアやブラジルからの品質の高い鉄鉱石の輸入により、中国鉄鋼産業は質量共に支えられ急速に発展している」と強調している。

図5 2020年国・地域別鉄鉱石輸入額ランキング

出典:国連貿易開発会議(UNCTAD)データベースより雲河都市研究院作成。

■ 中国で最も鉄鋼産業輻射力が高い都市は?


 中国都市総合発展指標に基づき、雲河都市研究院は中国全297地級市(地区級市、日本の都道府県に相当)以上の都市をカバーする「中国都市鉄鋼産業輻射力」をモニタリングしている。輻射力とは特定産業における都市の広域影響力を評価する指標である。鉄鋼産業輻射力は都市における同産業の従業員・企業集積状況や企業資本・競争力を評価した。「2020年中国都市鉄鋼産業輻射力」は、2019年から2020年にかけて中国各都市で公表された「第4回全国経済センサス」をも参照し算出した。

 図6より、中国都市総合発展指標2020で見た「2020年中国都市鉄鋼産業輻射力」ランキングの上位10都市は、唐山、邯鄲、天津、蘇州、無錫、済南、常州、本渓、包頭、武漢となった。特に、トップの唐山の輻射力は抜きん出ている。同ランキングの上位11〜30都市は、太原、馬鞍山、安陽、上海、中衛、嘉峪関、攀枝花、日照、新余、営口、ウルムチ、石家荘、南京、運城、廊坊、柳州、玉溪、許昌、漳州、仏山である。これらの都市には中国主要鉄鋼メーカの本社や主力工場が立地している。

図6 2020年中国都市鉄鋼産業輻射力ランキング

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

■ まだ道半ばの臨海・臨江立地


 図7より、「2020年中国都市鉄鋼産業輻射力」ランキングトップ30都市の地理的分布をみると、2つの立地パターンが見られる。沿海部や長江流域にある輸入鉄鉱石利用を前提とした臨海・臨江立地と、内陸部の国産鉄鉱石利用を前提とした資源立地である。

 周牧之教授は、「中国はいま世界最大の鉄鉱石輸入国になったものの、宝山製鉄所建設から始まった中国の輸入鉄鉱石利用を前提とした鉄鋼産業の臨海・臨江立地は、まだ道半ばである。中国鉄鉱産業の一層の高度化が実現するにはこうした臨海・臨江立地への集約が不可欠である」と解説する。

図7 2020年中国都市鉄鋼産業輻射力ランキングトップ30都市分析図

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

■ 進む集中集約


 「2020年中国都市鉄鋼産業輻射力」ランキングを分析することで、鉄鋼産業における特定都市への集中集約が浮かび上がる。

 図8が示すように、鉄鋼産業従業者数において、同ランキングのトップ5都市が全国に占める割合は23.1%、トップ10都市は34.3%、トップ30都市は58.4%に達している。

図8 2020年中国都市における鉄鋼産業従業者の集中度

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

 図9が示すように、鉄鋼産業営業収入において、「2020年中国都市鉄鋼産業輻射力」ランキングのトップ5都市が全国に占める割合は26.2%、トップ10都市は38.1%、トップ30都市は63.5%に達している。

 周牧之教授は、「従業者数と比べ、営業収入におけるトップ都市の集中度がさらに高いことが、トップの都市に収益力の高い大企業が多く集積していることを窺わせる」と解説する。

図9 2020年中国都市における鉄鋼産業営業収入の集中度

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

■ 大気汚染改善への挑戦


 鉄鋼産業は、二酸化炭素やPM2.5の大量排出という大気汚染の課題を抱えている。「2020年中国都市鉄鋼産業輻射力」ランキングのトップ3都市の唐山、邯鄲、天津は、いずれも大気汚染に苦しんでいる。

 同ランキング第1位の唐山は、2015年の「PM2.5指数」は137.5μg/㎥で、全国平均値77μg/㎥の2倍弱だった。日本のPM2.5大気環境基準が年平均値15μg/㎥以下であることからすると、その汚染度合いの深刻さが伺える。同第2位の邯鄲は、2015年の「PM2.5指数」が175.1μg/㎥で、唐山以上に深刻であった。3位の天津も、同年「PM2.5指数」は129.2μg/㎥であった。

 幸い、近年厳しい環境対策が奏功し、2020年に唐山の「PM2.5指数」は37.3μg/㎥まで改善し、全国平均値33.3μg/㎥と比較しても、わずかに超えたところまで来た。同年、邯鄲と天津両市の「PM2.5指数」も、各々56.2μg/㎥、47.6μg/㎥へと大幅に改善した。

 一方、二酸化炭素排出量についてみると、課題解決への道程はまだ遠い。唐山、邯鄲、天津3都市について、中国都市総合発展指標で2010年と2019年の二酸化炭素排出量を比較すると、唐山は約3.4倍、邯鄲は約2.6倍、天津は約3.8倍も二酸化炭素排出量が増加した。

 周牧之教授は、「これまで乱立していた中国の鉄鋼メーカーは今後、より高い品質、より高い効率、より高い環境対策の三大軸で再編し、産業の高度化を進めるだろう」と展望している。


【ランキング】自動車大国中国の生産拠点都市はどこか? 〜2020年中国都市自動車産業輻射力ランキング

雲河都市研究院

■ 世界最大の生産量を誇る中国自動車産業


 新型コロナウイルスパンデミックにより、世界の自動車産業も大きな打撃を受けている。2020年の世界自動車生産台数は前年比-15.8%の約7,762万台にまで落ち込んだ。2021年には、生産台数ピークを迎えた2017年の82.4%に当たる約8,015万台にまで回復した。

 現在、世界の自動車製造業の中心に位置するのは中国である。図1より、2021年国・地域別自動車生産台数ランキングをみると、トップは圧倒的に中国であり、その生産台数は2,608万台にまで及んだ。これは、世界生産台数の約32.5%に当たり、2位アメリカの約3.1倍の規模である。中国の自動車生産台数は、いまや2〜5位のアメリカ、日本、インド、韓国の合計よりも多い。

図1 2021年国・地域別自動車生産台数ランキング

出典:国際自動車工業連合会(OICA)データベースより雲河都市研究院作成。
注:インドは一部メーカーの生産台数が含まれていない、ドイツ・フランス・アルゼンチンは乗用車・小型商用車のみ、ハンガリーは乗用車のみ。

■ WTO加盟以降、急成長を遂げた中国自動車産業


 図2より、2000〜2021年の主要国別自動車生産台数推移をみると、中国の自動車産業は、WTOに加盟した2001年以降、急成長を遂げたことがわかる。自動車産業は中国の高度経済成長を支える主要なエンジンのひとつとなっている。2008年にはアメリカを抜き世界第2位に、翌年の2009年にはリーマン・ショックで世界の自動車生産台数が落ち込む中、中国は日本を抜いて世界トップに躍り出し、以降は独走を続けている。 

 一方、日本は2006年にアメリカを抜き世界第1位の座を奪い取ったが、2009年に中国に抜かれ、2011年にはアメリカに抜かれて世界3位に転落し、以降は中国及びアメリカとの差が拡大している。

図2 20002021年主要国別自動車生産台数推移

出典:国際自動車工業連合会(OICA)データベースより雲河都市研究院作成。
注:インドは一部メーカーの生産台数が含まれていない、ドイツ・フランスは乗用車・小型商用車のみ。

■ 新型コロナウイルスパンデミックでも拡大した中国の自動車輸出


 新型コロナウイルスパンデミックは、グローバルサプライチェーンに大打撃を与え、世界の自動車輸出もその例外ではない。図3より、2020年国・地域別自動車輸出額ランキングをみると、上位30国・地域のうち、中国、スロバキアを除く28国・地域はすべてマイナス成長であり、多くの国・地域が2桁台のマイナス成長に陥った。世界全体の自動車輸出は-14.7%成長である中、中国の自動車輸出は3.4%のプラス成長を遂げた。

 中国は生産台数が巨大な一方、自動車輸出額ランキングではまだ世界5位に留まる。これに対して東京経済大学の周牧之教授は、「中国で生産された自動車は多くが現状では国内で消費されているが、巨大マーケットに支えられ、やがて世界最大の自動車輸出大国になる」と予測している。

図3 2020年国・地域別自動車輸出額ランキング

出典:国連貿易開発会議(UNCTAD)データベースより雲河都市研究院作成。

■ 自動車市場を支える二大巨頭


 図4より、2019年の国・地域別自動車保有台数ランキングをみると、前述した周牧之教授の予測の根拠が分かる。同ランキングの1位と2位はアメリカと中国であり、3位の日本を突き放し、圧倒的な保有台数を誇っている。米中2国が保有する自動車台数は世界を走る自動車の約35%を占め、その規模は3位日本〜13位ポーランドが保有する自動車合計台数とほぼ同規模である。世界の自動車産業は、米中2大巨頭の市場によって支えられている。

図4 2019年国・地域別自動車保有台数ランキング

出典:国際自動車工業連合会(OICA)データベースより雲河都市研究院作成。

■ 他国の車を大量に飲み込むアメリカ自動車市場


 図5より、2020年国・地域別自動車輸入額ランキングをみると、トップのアメリカは他国を抜きん出ていることがわかる。アメリカは、世界の自動車輸入額の約20%のシェアを有し、2位のドイツのおよそ2.1倍の規模である。アメリカは、自動車生産は世界2位でありながら、ドイツや日本等からなお大量に自動車を輸入している。

 同ランキング2位のドイツは、世界最大の自動車輸出大国であると同時に、大量の自動車を輸入している。

 中国は、世界自動車輸入市場で3位だが、自動車の輸出額がすでに輸入額を超え、自動車の純輸出国になった。

 世界自動車輸入市場で15位の日本は、世界2位の自動車輸出額をたたき出している。自動車は依然として日本の最大の輸出産業である。

図5 2020年国・地域別自動車輸入額ランキング

出典:国連貿易開発会議(UNCTAD)データベースより雲河都市研究院作成。

■ 中国経済の基幹産業にまで発展を遂げた自動車産業


 図6より、2019年国・地域別自動車産業付加価値ランキングをみると、トップの中国は他国を抜きん出ている。中国は、世界の自動車産業付加価値の約28.1%のシェアを有し、2位のアメリカとはおよそ2倍の差を付けている。WTO加盟以降飛躍する中国の自動車産業は自国の経済基盤を支える基幹産業にまで発展し、世界の自動車産業をリードする存在になっている。

図6 2019年国・地域別自動車産業付加価値ランキング

出典:アメリカ国立科学財団(NSF)データベースより雲河都市研究院作成。

■ 2020年、中国で最も自動車産業輻射力が高かった都市は?


 中国都市総合発展指標に基づき、雲河都市研究院は中国全297地級市(地区級市、日本の都道府県に相当)以上の都市をカバーする「中国都市自動車産業輻射力」をモニタリングしている。輻射力とは特定産業における都市の広域影響力を評価する指標である。自動車産業輻射力は都市における自動車産業の従業員・企業集積状況や企業資本・競争力を評価したものである。「2020年中国都市自動車産業輻射力」は、2019年から2020年にかけて中国各都市で公表された「第4回全国経済センサス(第四次全国経済普査)」をベースに算出した。

 中国都市総合発展指標2020で見た「2020年中国都市自動車産業輻射力」ランキングの上位10都市は、上海、長春、重慶、広州、武漢、蘇州、北京、十堰、天津、襄陽となった。特に、トップ3都市の上海、長春、重慶の輻射力は抜きん出ている。同ランキングの上位11〜30都市は、瀋陽、柳州、無錫、成都、南京、蕪湖、寧波、南昌、常州、杭州、揚州、長沙、深圳、済南、温州、西安、青島、仏山、合肥、鎮江である。これらの都市には中国自動車メーカの本社機能や主要工場が立地している。

図7 2020年中国都市自動車産業輻射力ランキング

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

 中国の自動車産業の発展は、1950年代に遡る。1953年、旧ソ連の技術支援により現在の第一汽車が設立されたのを皮切りに、中国各地に多くの自動車メーカーが続々と設立された。改革開放以降は、数多くの海外自動車メーカーが中国に進出し、中国での急激なモータリゼーションと共鳴するように製造拠点を次々と設立した。国内市場の急成長、海外メーカーとの協力及び競争の下で中国の国産メーカーも急成長した。

 図8より、2021年時点で中国の自動車メーカーは大きく国有企業系、民営企業系に分けられ、中国各地に立地している。中国政府の自動車産業振興計画では、第一汽車、上海汽車、東風汽車、長安汽車の「四大」と、北京汽車、広州汽車、奇瑞汽車、中国重汽の「四小」という位置づけがある。

図8 中国の主な自動車メーカー

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

 図9より、「2020年中国都市自動車産業輻射力」ランキングトップ30都市の分布をみると、東は上海から西は重慶・成都まで、長江流域に産業集積している。周牧之教授は、「これは、中国建国以来、政府が長江流域に製造業の産業立地を推進した結果である」と解説する。日本では耳慣れない地方都市が自動車産業拠点としてランキング上位に入った理由は、このような歴史的厚みに由来している。

図9 2020年中国都市自動車産業輻射力ランキングトップ30都市分析図

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

■ 自動車産業拠点都市に進む集中集約


 「2020年中国都市自動車産業輻射力」ランキングを分析することで、自動車産業における特定都市への集中集約が浮かび上がる。

 図10が示すように、自動車産業従業者数において、「2020年中国都市自動車産業輻射力」ランキングのトップ5都市が全国に占める割合は24.7%、トップ10都市は39.5%、トップ30都市は70.6%を占めている。

図10 2020年中国都市における自動車産業従業者の集中度

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

 図11が示すように、自動車産業企業数において、「2020年中国都市自動車産業輻射力」ランキングのトップ5都市が全国に占める割合は13%、トップ10都市は25%、トップ30都市は63.7%に達している。従業者数と比較して企業の集中度が低くなることは、ランキングトップの都市に大企業が多く集積していることを意味する。

図11 2020年中国都市における自動車産業企業の集中度

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

 図12が示すように、自動車産業営業収入において、「2020年中国都市自動車産業輻射力」ランキングのトップ5都市が全国に占める割合は36.3%、トップ10都市は51.3%、トップ30都市は81.1%を占めている。これらのデータも、ランキングトップの都市に収益力の高い大企業が多く集積していることを裏付ける。

図12 2020年中国都市における自動車産業営業収入の集中度

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』より作成。

■ EVで大変革を迎える中国の自動車産業


 近年、環境問題が世界的な課題となる中で、電気自動車(EV)が注目を集めている。自動車大国となった中国では、猛烈な勢いでEVの普及と生産に官民一体となって取り組んでいる。

 2021年、世界のEV販売台数は前年比108%増の650万台であり、国別では中国が約294万台でダントツ1位となり、世界シェアの45%を占めた。

 図13が示すように、世界におけるメーカー別EV販売台数ランキングの1位はテスラで、販売台数は約93.6万台、2位の比亜迪(BYD)は前年比220%増の約59.4万台を販売した。メーカー別ランキング上位20位までの販売台数の合計は476.3万台となり、世界市場全体の73.3%を占めた。

 この上位20位以内に入った中国メーカーは、BYD、上汽通用五菱汽車、上海汽車、長城汽車、広州汽車、奇瑞汽車、小鵬汽車、長安汽車の8社だった。テスラも上海に巨大な生産基地を置いているため、これら8社とテスラを合計すると、実に世界全体のEVのうち、およそ4割が中国で製造されている。これに対して日本はトヨタが16位に食い込んだ。

 2021年の中国におけるEV輸出台数は、前年比約3倍の約50万台となり、ドイツやアメリカを上回り世界最大となった。中国EVは車載電池など関連部品の産業集積が進み、コスト競争力を高めた新興メーカーが欧州等で販売を伸ばしている。日本でも中国メーカーのEV販売が始まっている。

 米国の時価総額調査会社カンパニーズマーケットキャップの資料によると、2022年6月24日現在で中国自動車メーカーBYDの時価総額は1378億ドルとなり、米テスラの同7636億ドル、トヨタの同2191億ドルに次ぐ世界3位の自動車メーカーとなっている。BYDにこれほどの値打ちが付いたのは同社のEVメーカーとしての、そしてEV用バッテリーの優勢が評価されたことによる。

 周牧之教授は、「中国はEVで世界自動車市場を席巻することになる」と展望している。

図13 2021年世界でのメーカー別EV販売台数ランキング

出典:三菱自動車ホームページなどにより雲河都市研究院作成。

日本語版『【ランキング】自動車大国中国の生産拠点都市はどこか?〜2020年中国都市自動車産業輻射力ランキング』(チャイナネット・2022年7月29日掲載)