【フォーラム】前多俊宏:ルナルナとチーム子育てで少子化と闘う

ディスカッションを行う前多俊宏・エムティーアイ社長

 東京経済大学は2022年11月12日、学術フォーラム「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」を開催した。和田篤也環境事務次官、中井徳太郎前環境事務次官、南川秀樹元環境事務次官、新井良亮ルミネ元会長をはじめ産学官のオピニオンリーダー16人が登壇し、周牧之ゼミによるアンケート調査をネタに、新しい地域共創の可能性を議論した。前多俊宏・エムティーアイ社長がセッション2「地域経済の新たなエンジン」のパネリストを務めた。

 

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学術フォーラム「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」
セッション2:地域経済の新たなエンジン

会場:東京経済大学大倉喜八郎進一層館
日時:2022年11月12日(土)


■ 年間30万人の妊娠に寄与するアプリ


周牧之(司会)学術フォーラム開催に当たって実施した周ゼミによる東経大の学生の意識調査に関して面白いのは、半分以上は都市の出身の子どもたちですけれども、72%の学生が地方の過疎化が問題だと回答しています。また、実際暮らしたい場所の理由につきましては、都市派にせよ地方派にせよ、子育てのしやすさ・子育て支援が非常に重要なイシューだと意識しています。

 エムティーアイという会社は、女性健康管理のアプリを開発して女性の健康をサポートされています。さらに、少子化問題の解決や子育て支援に関する事業にも取り組んでおられます。地域をベースにした子育て支援の展開について、前多さんから紹介してください。

第2セッション・ディスカッション風景

前多俊宏:アンケートを拝見しても、子育てというのが非常に重要なテーマになっている。

 実際、「供給サイドからの地域共創」というなかでも、子どもというのが非常に重要だと考えられるし、子どもがいないと未来がないわけであって、たくさんの子どもが元気であるということは、地域活性化の基本的な条件だと思っている。弊社は携帯電話とかスマートフォンのアプリなどを作っている会社だが、その中で女性の健康管理をサポートする「ルナルナ」というアプリがある。

 これは生理日管理を基本の機能として作られたもので、もう既に20年以上、ガラケーの時代からこのサービスをスタートして展開しており、日本だけで1,800万ダウンロード(2022年6月時点)もされている。最近は妊娠を目的に使う人が増えてきており、このアプリの利用者の中で約30万人の妊娠に寄与するという状況になっている。これは日本の出生数の3分の1以上に関わっていると考えている。

 ルナルナに蓄積された約300万人分のデータを分析し、一人ひとりが違う周期を持っているので、それを予測するアルゴリズムを開発している。いろいろな大学や研究機関などとも共同研究して、特許や論文などもたくさん出しているが、従来知られている方法と比べると、1.4倍近い妊娠の成功率を実現できている。これは少子化対策に対して非常に貢献できているのではないか。

■ 子育ての不安を解消する母子手帳のアプリ


前多俊宏:しかし、妊活の支援だけでは不十分で、子どもが生まれると、続いては安心して子どもを産んで育てられる環境づくり、子育て支援というのが必要になってくる。

 ただ、この子育てに対する不安や負担は非常に重い。例えば手続きだけをとっても100を超える。市町村によるが、例えばシングルマザーの場合は市役所、区役所に直接行かないとダメなどということもある。2週間以内にシングルマザーが子どもを連れて出世届を出しに行くなどは難しさがある。こんな馬鹿げた制度がたくさんある。こうした手続きをより簡単にしていくということが、我々でもできるのではないか。

 もうひとつは社会の変化、核家族化の進行の結果、子育ての知識や知恵といったものがなくなってしまっている。これら不足している部分の不安などを解消することも、デジタル技術を使ってできるのではないか。

 母子手帳のアプリの「母子モ」というのをスタートしている。8年経っており、約1,700の自治体のうち500、3分の1弱の自治体で使っていただいている。こちらの方も出生数でいうと28万人をカバーしており、こちら側からいっても3人にひとりはお手伝いさせていただいている。

 これは母子手帳なので、妊娠した時から、そして出産して子どもが6歳になるまでこれを使っていただいている。我々の考え方としては「チーム子育て」と呼んでおり、クラウドの技術を使って住民を中心として自治体、行政機関と、それから医療機関、病院やそれから薬局こういったものを繋げることで面倒くさいことをカバーしたり、不安を取り除くようなさまざまなサービスを提供させていただいたりしている。

 その中で、単なる母子手帳の記録だけではなく、2021年から千葉県の市原市で始めた小児予防接種のサービスでは、まず市からQRコードが予防接種のときに行く。このQRコードを読み込むと、まず問診を入力して、そして予約していくだけ。

 6歳になるまで約30本の予防接種を打つので、非常に大変だし、期間を正しく空けていかなければいけないのだが、これがまた難しい。それから順番も難しい。お母さんも大変だし、病院側も間違って時々事故が起きる。こういったものを裏側で全部コントロールしている。QRを読めば、問診票の記入も1回で終わる。1回書くと次は若干の修正で済む。行くとアプリに全部登録が終わっているから、手続きも非常に簡単に病院で終わる。医者がワクチンのロット番号を読み込む。

 打ち終わると、すぐに電子母子手帳の中身がばらっと書き換わるので、非常にお互いに便利になっている。

ディスカッションを行う登壇者。左から、中井徳太郎・前環境事務次官、新井良亮・ルミネ顧問、前多俊宏・エムティーアイ社長、高井文寛・スノーピーク代表副社長

■ 手続きを簡略化して母親へのケアに注力できる仕組みづくり


前多俊宏:もうひとつ北九州市で2022年4月からスタートしたものだが、妊娠すると妊娠届を市役所に出しに行かなければいけないが、その時もいろいろな窓口をたらい回しになるが、それが1回行ったら終わる。スマホから申請や来庁時間の予約もできるので、これはお母さんにとっても職員にとっても、非常に手続きが簡素化する。先ほどの予防接種のアプリの場合も、この妊娠届の場合は、80%以上の人がデジタル化の方にシフトした。

  それ以外に、乳幼児健診のスマホで全部記録を取っていくというのが、2023年度4月からスタートしたりするというようなことで、お母さんが手続きが面倒くさい、不安があるといったものを解消し、職員もその住民のケアに集中できるようになっていく仕組みを提供している。

周牧之:要するに、この「チーム子育て」によって、地域にばらばらに存在していた子育てのステークホルダーが有機的に連携できるようになる。それによって子育てのクオリティや利便性はだいぶ高められる。

■ 人口を増やすということに対する戦い方の徹底


周牧之:今回のアンケートにあったように、東京経済大学が立地する学生の町、国分寺では学生がたくさんいるにも関わらず、地元と若い人たちとの関係性はそれほど強くない。豊かな地域資源があるにもかかわらず、若い人たちはあまり接していない、使っていない。駅に大型の集合施設があっても、そんなに使っていないようで、その結果、地元の国分寺に対する愛着もそれほど強くはない。

 実はこうした現象はおそらく国分寺だけではなく、全国的に起こっていることだ。やはり若い人たちと地元との関係性をいかに強めていくかが、ひとつの地域活性化の根幹に関わる話だと思う。

前多俊宏:地域の魅力という観点では、生活するにあたって細かく面倒な手続きが積み上がってくると、ものすごく不便になり、そこに住むのが面倒になってしまう。そういう摩擦を本当に減らしていかなければならないということと、過疎と闘うという感覚は日本にはない。

 例えば先進国で本当に人口が増えていて出生率が高いのはフランスだが、そのフランスが今年の8月2日に作った法律では体外受精がシングルマザーでもできる。レズビアンでもできる。日本はどうかというと、婚姻を通じて戸籍がちゃんと成立していないと、体外受精は基本的に受け付けないと産婦人科が断る。フランスと比べた場合、過疎というか、人口を増やすということに対する闘い方の徹底ぶりが全然違う。

周牧之:最後に一言、コロナ世代の学生へのメッセージを。

前多俊宏:弊社では、一昨年コロナが始まってすぐに完全テレワークに移して、もうみんな引っ越してどこかに行っちゃった(笑)。もう、こういう変化は始まったら戻らない。だったらその変化の先端まで行って、徹底的に新しい変化した時代のやり方を追求してみるのもいいと思う。


プロフィール

前多 俊宏(まえた としひろ)/エムティーアイ社長

 1965年青森県青森市出身。1987年千葉大学工学部機械工学科卒業、日本アイ・ビー・エムに入社。後に光通信に転じ、1990年に同社の取締役となる。1996年8月にエムティーアイを創業し、同社の代表取締役社長となった。


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【講義】竹岡倫示:流転する国際秩序 ― パクスなき世界―

2022年11月24日 東京経済大学教室にて、竹岡倫示氏(左)VS 周牧之

編集ノート:
 東京経済大学の周牧之教授の教室では、リアルな学びの一環として第一線の経営者やジャーナリスト、官僚らをゲスト講師に招き、グローバル経済社会の最新動向を議論している。十数年来、日本経済新聞社の竹岡倫示氏は毎年のゲスト講義で世界情勢の最新動向を話してきた。2022年11月24日(木)の講義では、漂流する国際秩序、中国共産党大会のねらい、バイデン政権の国家安全保障戦略などについて解説した。


■ 激動する多極世界への移行


 2022年は多くの偉人が旅立った年でもあった。

 まず挙げられるのがミハイル・ゴルバチョフ氏(2022年8月31日逝去、91歳)だろう。旧ソ連で「ペレストロイカ」(立て直し)、「グラスノスチ」(情報公開)と呼ばれる改革を断行、西側との平和共存を目指す「新思考外交」を展開した。旧ソ連最後の指導者として東西冷戦を終結させたほか、ベルリンの壁を1989年に崩壊に導き、東西ドイツ統合に道を開いた。冷戦の終結、中距離核戦力(INF)廃棄条約の調印、共産圏の民主化などを理由に1990年、ノーベル平和賞を受賞した。

 エリザベス英女王(2022年9月8日逝去、96歳)は在位70年7カ月。第2次世界大戦後の英国史をほぼ全て見守った。1952年に25歳で即位した時は、英国が第2次世界大戦に勝利したものの、世界の覇権国の地位を米国に譲りつつあった時期だった。当時の首相はチャーチル氏で、以来、トレス氏まで計15人の首相が仕えた。「君臨すれども統治せず」の伝統の下、政治への直接関与は避けつつ、かつての威光が陰る戦後の英国を一貫して見守ってきた。国民から絶大な支持と尊敬を集め、歴史的な難局では常に国民に寄り添ったメッセージを発し続けた。

 安倍晋三・元首相(2022年7月8日逝去、67歳)は首相通算在任日数が3,188日と最長だった。アベノミクス(大胆な金融政策、機動的な財政出動、民間投資を喚起する成長戦略)を主導したほか、外交面では「地球儀を俯瞰する外交」という理念を掲げ、世界の各地域で日本が主体的な役割を担う外交を展開した。2016年には、自由と民主主義に基づく国際秩序の維持を目的とした「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)構想を提唱。後に米トランプ政権が採用した。集団的自衛権を行使できるようにする安保関連法を成立させた。

 これら冷戦前後を代表する指導者の逝去は、大きな秩序の変化を感じさせる。

 ここで覇権の移り変わりを振り返ってみたい。

 1~2世紀ごろのローマ帝国の五賢帝時代はパクス・ロマーナと呼ばれた。領土内では水道や道路などのインフラが整えられ年が発達、人々は繫栄を謳歌した。13~14世紀のパクス・モンゴリカではモンゴル帝国がユーラシア帝国を支配、東西の交易が盛んになった。19~20世紀初めのパクス・ブリタニカは、産業革命をいち早く進めた英国が経済力と軍事力を背景に、世界に植民地を開いた。そして2度の世界大戦を経て覇権はアメリカへ(パクス・アメリカーナ)。今はパクスなき多極世界、もしくはパクス・シニカ(中華治世)への変動期か?

■ 第20回中国共産党大会の真の意義


 その中国では2022年10月、共産党の指導体制や基本方針を定める最高意思決定機関、党大会が開かれた。続く1中全会(第20期中央委員会第1回全体会議)では、党大会で選ばれた中央委員が最高指導部の政治局常務委員7人、政治局員24人を選出。中央軍事委員会の人事も決定した。

 党大会では冒頭に党トップの総書記(すなわち習近平氏)が過去5年を振り返り、将来を展望する活動報告をする。ここで習氏が何を語ったかは非常に重要な意味合いをもつ。

 過去5年の回顧では、小康(ややゆとりある)社会の全面的完成という第1の100年目標を達成したと強調。また、人民中心の発展思想を貫き、「共同富裕(ともに豊かになる)」が新たな成果を収めたと指摘した。

 続いて、共産党の使命として、社会主義現代化強国の全面的完成という第2の100年の奮闘目標を実現すること。また、2035年までに社会主義現代化を基本的に実現し、今世紀半ばまでに社会主義現代化強国を築くこと。中国式現代化によって中華民族の偉大な復興を全面的に推し進めることを掲げた。これからの5年間は、社会主義現代化国家の全面的な建設が始まる重要な時期であり、最悪の事態も想定した思考を堅持しなくてはいけないと主張した。

 国家建設の方針としては、製造強国・品質強国・宇宙強国・交通強国・インターネット強国・「デジタル中国」の建設を加速すると述べた。ハイレベルの科学技術の自立自強の早期実現を目指すほか、基幹的な核心技術の争奪戦に必ず勝利し、自主イノベーションの能力を高めるとした。台湾を巡っては、平和的統一の未来を実現しようとしているが、決して武力行使の放棄を約束せず、あらゆる必要な措置をとるという選択肢を残した。

2022年11月24日 東京経済大学教室にて、講義を行う竹岡倫示氏

 また、中央宣伝部の孫業礼副部⾧が先進国パターンとの違いを解説したように、「中国式現代化」が強調された。これは以下の5点からなる。

 ① 巨大な人口規模の現代化
 14億人を上回る人口規模や資源・環境上の制約の大きさゆえ、中国の現代化は外国のモデルを踏襲するわけにはいかず、発展の道と推進の方法において自らの特徴を持たねばならない。これほど大規模な人口の現代化は、困難さと複雑さが前例のないもので、その意義と影響も前例のないものとなる。人類社会への多大な貢献でもある。

 ② 全ての人々が共同富裕の現代化
 これは中国の特色ある社会主義制度の本質によって決定づけられるものであり、我々は二極分化のパターンを受け入れるわけにはいかない。

 ③ 物質文明と精神文明の調和のとれた現代化 
 過去の一部の国々の現代化の重大な弊害は、物質主義の過度の膨張であった。

 ④ 人と自然の調和のとれた共生の現代化

 ⑤ 平和的発展の道を歩む現代化
 戦争、植民、略奪などの手段で現代化を実現したかつての一部の国々の道は歩まない。

■ 米国の警戒とバイデン政権の国家安全保障戦略


 米国は中国の長期戦略に警戒を隠さない。その戦略の1つ、「中国製造2025」は中国の先端産業、製造業を世界トップレベルに引き上げる長期計画であり、2015年5月に中国政府が行動綱領を打ち出している。

 目標として2015~25年に製造強国の列に加わり、25~35年に製造強国陣営の中等水準に到達する、35~49年に製造強国の前列に入りグローバル世界を引っ張る技術と産業体系を作り上げることを掲げる。

 米国の警戒の証拠として、米通商代表部(USTR)は、制裁対象候補リストの品目に関して「『中国製造2025』に基づいて特定した」と説明したことが挙げられる。具体的には産業用ロボットや工作機械、航空機・部品、通信衛星、船舶・タンカー、タービン、発電機、農業・林業機械、化学品、超音波診断装置、カテーテルなど医療機器が含まれる。トランプ政権時代の2019年9月には、米中二大貿易大国が平均20%超の高関税をかけ合っていた。

 また、バイデン政権は2022年10月に国家安全保障戦略を発表した。

 ①(中ロを念頭に) 「独裁者は民主主義を弱体化させ、国内での抑圧と国外での強制による統治モデルを広げようとしている」

 ②「我々は、ルールに基づく秩序が世界の平和と繁栄の基礎であり続けなければならないという基本的な信念を共有するいかなる国とも協力する」

 ③ 北大西洋条約機構(NATO)、米英豪の安全保障の枠組み「オーカス」、日米豪印の「クアッド」に触れて、「侵略抑止だけでなく、国際秩序を強化する互恵的な協力の基盤だ。米国や同盟・パートナー国への攻撃や侵略を抑止し、外交や抑止に失敗した場合に国家の戦争に勝利する準備をする」

 ④(台湾について) 『いかなる一方的な現状変更にも反対し、台湾の独立を支持しない。「一つの中国」政策を堅持し、台湾関係法に基づく台湾の自衛力維持を支援する』

■ 「トゥキディデスの罠」は回避できるか?


 これらが骨子となる一方、世界の経済成長の約60%はアジア、30%は中国が寄与しており、単純な対立構造という見方も正確ではない。

 米国はFIVE EYESと呼ばれる米英カナダ豪ニュージーランドの枠組みや、日本やインドが参画するQUAD、米英豪のAUKUSなど、軍事・安全保障の体制を積み重ねている。同時に中国との直接対話も続けている。2022年11月の米中首脳会談は対面では3年5カ月ぶりとなり、衝突回避への対話を継続することで一致した。

 より具体的には衝突回避、気候変動や食糧問題などの課題解決に向けた高官対話の維持、ウクライナでの核兵器使用と仕様の威嚇への反対では一致。台湾問題や米国の輸出規制、中国の人権問題などは相違点として残った。

 今後は「トゥキディデスの罠」をどう回避するかが重みを増す。古代ギリシャ時代の約2500年前、トゥキディデスは台頭するアテネと覇権を握るスパルタの間で長年にわたって戦われた「ペロポネソス戦争」を記録し、「アテネの台頭と、それによってスパルタが抱いた不安が、戦争を不可避にした」と記した。

 新興国が覇権国に取って代わろうとするとき、2国間で生じる危険な緊張の結果、戦争が不可避となる状態を、米ハーバード大学教授で国際政治学者のグレアム・アリソンは「トゥキディデスの罠」と呼んだ。過去500年の歴史で新興国が覇権国の地位を脅かしたケースは16件あり、うち12件が戦争に発展し、戦争を回避できたのは4件だけだったという。


プロフィール

竹岡倫示 (たけおか りんじ)
日本経済新聞社 客員

 1956年生まれ。1980年横浜国立大学経済学部卒、日本経済新聞社に入社後、バンコク支局長、東京本社編集局経済部次長、中国総局長、国際本部アジア担当部長、東京本社編集局次長、常務執行役員、専務執行役員を歴任。


南寧:ASEANへのゲートウェイ中心都市 【中国中心都市&都市圏発展指数2020】第33位

 フフホト市は、中国中心都市&都市圏発展指数2020の総合第33位にランクインした。同市は2019年度より順位を2つ上げている。

 中国中心都市&都市圏発展指数は、中国都市総合発展指標の派生指数として、4大直轄市、22省都、5自治区首府、5計画単列市からなる36の中心都市の評価に特化したものである。同指数は、これら中心都市を、全国297の地級市以上の都市の中で評価し、10大項目と30の小項目、116組の指標からなる。包括的かつ詳細に、中国中心都市の高品質発展を総合評価するシステムである。

 南寧市は、ベトナムと国境を接する広西チワン族自治区の省都である。現在、7区、4県、1県級市を管轄し、総面積は22,100平方キロメートル(岐阜県の面積の約2倍、北海道の約4分の1程度)である。南寧市は、悠久の歴史を持ち、チワン族を中心とした多民族が暮らす都市である。2021年現在、常住人口は約883万人で中国では35位である。第7回国勢調査(最新)のデータによると、市の人口は漢民族が48.6%を占め、少数民族の人口は51.5%、そのうち、チワン族は48.7%を占めている。

 南寧市は、トンキン湾の港湾都市である北海市に隣接し、ベトナムの首都ハノイと陸路でつながるなど、ASEAN諸国と地理的距離が近い。このためASEAN諸国との交流拠点として重要な役割を担っている。地域内総生産は約5,121億元(約10.2兆円、1元=20円換算)で、中国では51位である。

 同市は、亜熱帯モンスーン気候に属し、一年中緑に囲まれていることから「緑城」とも称される。年間平均気温は約21.6度で、冬の最も寒い1月の平均気温は12.8度、夏の最も暑い7月と8月の平均気温は28.2度である。「気候快適度」は中国で32位、中心都市36都市の中では、3位という恵まれた環境にある。緑と花が溢れるまちづくりが進められ、都市の緑化率は約40%に達している。年間平均降水量は1304.2mm、平均相対湿度は79%で、高温多湿の気候が特徴である。温暖な気候は多くの農作物に恵みをもたらし、水稲は二期作が可能である。小豆の原産地としても知られる。

 同市は、2000年以上の歴史を有している。古代南寧は百越国の領地であったが、秦代には桂林郡に属し、漢の郁林郡としての管轄を経て、東晋が今の南寧市に晋興県を置いたのが、今日の南寧市の始まりとされている。唐の時代に邕(よう)州が設置され、これが今日の南寧の簡称の起源となった。清代には、広西省に属している。

 市周辺には龍虎山や起鳳山など名所が多く、カルスト地形が造り出す山水画のような風景が観光客を楽しませている。同市の「国内観光客」は中国で11位、「国内観光客収入」は同18位である。

 同市の「空港利便性」は中国で30位(【ランキング】中国で最も空港利便性が高い都市はどこか?を参照)、南寧呉圩国際空港は、ASEAN諸国へのゲートウェイ空港として利用されている。「陸路運輸指数」も同26位で、空・陸の交通機能のポジションは高い。

 石炭、マンガン、アルミニウム、タングステンなど60種類以上の鉱物資源が産出され、水資源も豊富である。こうした天然資源を生かし、アルミ産業、化学産業、パルプ・製紙産業などが盛んである。

 南寧市は、中国華南地域の中心都市として「金融輻射力」は中国で23位、「高等教育輻射力」は同26位、「医療輻射力」は同19位と全国トップ30にランクインしている(【レポート】新型コロナパンデミック:なぜ大都市医療能力はこれほど脆弱に?を参照)。特に、医療リソースは豊富であり、「医者数」は同28位、「三甲病院(最高等級病院)」は同22位である。

 南寧市は、ASEANとの物流、貿易の拠点として、その存在感は年々増している。東アジア地域包括的経済連携(RCEP)も締結された現在、南寧市のポジションは、より重要となってきている。


〈中国中心都市&都市圏発展指数〉:【36中心都市】北京、上海、深圳、広州、成都、天津、杭州、重慶、南京、西安、寧波、武漢、青島、鄭州、長沙、廈門、済南、合肥、福州、瀋陽、大連、昆明、長春、ハルビン、貴陽、南昌、石家荘、南寧、太原、海口、ウルムチ、蘭州、フフホト、ラサ、西寧、銀川

中国中心都市&都市圏発展指数2020
中国中心都市&都市圏発展指数2019
中国中心都市&都市圏発展指数2018
中国中心都市指数2017

【論文】周牧之:中国の二酸化炭素排出構造及び要因分析

周牧之 東京経済大学教授


▷CO2関連論文①:周牧之『世界の二酸化炭素排出構造と中国の課題』
▷CO2関連論文②:周牧之『二酸化炭素:急増する中国とピークアウトした日米欧』
▷CO2関連論文③:周牧之『アメリカ vs. 中国:成長と二酸化炭素排出との関係から見た異なる経済水準』


1.中国都市CO2排出量ランキング


 中国の国土の中で、経済活動が行われる主なエリアは地級市[1](日本の都道府県に相当)以上の297都市[2]から成る。これらの都市は中国の人口の94.7%、GDPの96.6%を占めている。中国におけるCO2排出構造を知るには、都市レベルでの実態把握が必要であるが、これまでそのような分析は難しかった。本論は、中国都市総合発展指標のデータシステムを活用し、衛星データのGIS解析を駆使して、中国における都市レベルのCO2排出に関する実態分析に挑む。中国都市総合発展指標は、雲河都市研究院と中国国家発展改革委員会発展戦略和計画司(局)が共同開発した都市評価指標である。2016年以来毎年、内外で発表してきた。同指標は、環境・社会・経済という3つの軸(大項目)で中国の都市発展を総合的に評価している。評価対象は、中国297地級市以上都市の全てをカバーし、評価基礎データは882個に及ぶ[3]

 中国都市総合発展指標は毎年、衛星データのGIS解析を駆使して、中国各都市のCO2排出状況をモニタリング[4]し、評価している。図1は、新型コロナウイルスパンデミック直前の2019年における中国都市CO2排出量トップ30都市を示している。同ランキングのトップ10都市は、上海、北京、天津、蘇州、広州、唐山、ハルビン、寧波、青島、重慶となった。また、11位から30位は、東莞、無錫、済南、鄭州、徐州、台州、長春、棗荘、張家口、太原、保定、オルドス、武漢、大慶、南通、西安、南京、フフホト、杭州、深圳であった。これら30都市は中国CO2の32.6%を排出している。その排出規模は、世界第3位のインドの排出量の1.3倍にあたる。

 同トップ10都市に限って見ると、そのCO2排出量は中国全体の16.2%を占める。その排出規模は、世界第4位のロシアの排出量の1.1倍に当たり、日本の排出量の1.6倍に相当する。

 その意味では、同30都市のCO2排出構造を分析することには大きな意味がある。

図1 中国都市CO2排出量2019ランキング トップ30

出所:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』データセットより作成。

2.CO₂排出量トップ30都市のグルーピング分析


 中国CO2排出量トップ30都市は三つのグループに分類できる。一つは直轄市や省都などから成る中心都市[5]、二つ目は三大メガロポリス[6]を始めとする沿海部で製造業が盛んな都市、三つ目は石油、石炭の産地、または電力、鉄鋼などCO2を大量に排出する産業が盛んなエネルギー・重化学工業都市である。その分類には、上海のように中心都市であると同時に沿海部の製造業スーパーシティでもあり、鉄鋼産業もかなりの規模を有するなど、複数の性質を有し、重複している都市がある。

(1)中心都市

 中国CO2排出量トップ30都市のうち、中心都市としては上海、北京、天津、広州、ハルビン、寧波、青島、重慶、済南、鄭州、長春、太原、武漢、西安、南京、フフホト、杭州、深圳の18都市が数えられる。人口と経済の大集積地として、生活水準の高い中心都市が、CO2排出においても大きな存在となっている。

(2)製造業スーパーシティ

 中国都市総合発展指標では中国都市製造業輻射力も毎年モニタリングしている。輻射力とは都市の広域影響力の評価指標である。製造業輻射力は都市における工業製品の移出と輸出そして、製造業の従業者数を評価したもので、中国各都市で公表された統計年鑑や国民経済和社会発展統計公報を参照し算出した。

 図2が示すように、中国都市製造業輻射力2020ランキングのトップ30都市は、深圳、蘇州、東莞、上海、寧波、仏山、成都、広州、無錫、杭州、厦門、恵州、中山、青島、天津、北京、南京、嘉興、金華、鄭州、珠海、泉州、紹興、煙台、常州、西安、台州、南通、大連、威海である[7]。その中で「中国都市CO2排出量ランキング2019[8]」トップ30にも名を連ねる都市は、深圳、蘇州、東莞、上海、寧波、広州、無錫、杭州、青島、天津、北京、南京、鄭州、西安、台州、南通の16都市である。その中で鄭州、西安を除く都市が三大メガロポリス(京津冀・長江デルタ・珠江デルタ)に所属している。グローバルサプライチェーンで輸出力を誇る製造業スーパーシティが、CO2排出においても大きなプレイヤーになっている。

 ちなみに中国都市製造業輻射力2020ランキングのトップ10入りの成都と仏山は、「中国都市CO2排出量ランキング2019」のトップ30には入っていないものの、33位と42位となっている。

図2 中国都市製造業輻射力2020ランキング トップ30

出所:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』データセットより作成。

(3)エネルギー・重化学工業都市

 「中国都市CO2排出量ランキング2019」のトップ30都市には、石油、石炭の産地、または電力、鉄鋼、石油化学などCO2を大量に排出する産業が盛んな、エネルギー・重化学工業都市が多い。本論では『中国都市総合発展指標』の中の「都市発電量」、「都市鉄鋼産業輻射力」、「都市石炭鉱業輻射力」などの指標を使い、これらエネルギー・重化学工業都市の実態を分析する。

① 中国都市発電量ランキング2020

 火力発電はCO2を大量に排出する産業である。中国都市総合発展指標では中国各都市の発電量をモニタリングしている。「中国都市発電量ランキング2020」は、中国各都市で公表された統計年鑑や国民経済和社会発展統計公報を参照し算出した[9]

 図3が示すように、「中国都市発電量ランキング2020」のトップ30都市は順に、楡林、宣昌、オルドス、浜州、蘇州、銀川、上海、嘉興、重慶、深圳、福州、天津、寧波、包頭、煙台、淮南、麗江、成都、唐山、聊城、昭通、陽江、通遼、フフホト、済寧、大連、徐州、ウランチャプ、西寧、寧徳である。

 中国CO2排出量トップ30都市のうち、上記ランキングでトップ30入りした電力生産基地としてオルドス、蘇州、上海、重慶、深圳、天津、寧波、唐山、フフホト、徐州の10都市が数えられる。これらの都市において石炭火力が大量のCO2を排出している。

 ちなみに「中国都市発電量ランキング2020」ランキングのトップ10入りの楡林、宣昌、浜州、銀川、嘉興は、「中国都市CO2排出量ランキング2019」のトップ30には入っていないものの、楡林31位、嘉興44位、浜州78位、銀川84位となっている。宣昌は三峡ダムでの水力発電がメインとなっているためCO2の排出量は少ない。

図3 中国都市発電量2019ランキング トップ30

出所:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』データセットより作成。

② 中国都市鉄鋼産業輻射力2020

 鉄鋼産業は製造業の中で最もCO2を排出している産業である。中国都市総合発展指標では中国各都市の鉄鋼産業輻射力をモニタリングしている。鉄鋼産業輻射力は都市における同産業の従業者数、企業集積状況、営業収入、資産などを評価した。中国都市鉄鋼産業輻射力2020は、2019年から2020年にかけて中国各都市で公表された「第4回全国経済センサス」も参照し算出した。図4が示すように、中国都市鉄鋼産業輻射力2020ランキングの上位30都市は順に、唐山、邯鄲、天津、蘇州、無錫、済南、常州、本渓、包頭、武漢、太原、馬鞍山、安陽、上海、中衛、嘉峪関、攀枝花、日照、新余、営口、ウルムチ、石家荘、南京、運城、廊坊、柳州、玉溪、許昌、漳州、仏山である。特に、トップの唐山の同輻射力は抜きん出ている。これらの都市には中国主要鉄鋼メーカの本社や主力工場が立地している。

 中国CO2排出量トップ30都市のうち、上記ランキングでトップ30入りした鉄鋼生産基地として唐山、天津、蘇州、無錫、済南、武漢、太原、上海、南京の9都市が数えられる。これらの都市の鉄鋼産業が大量のCO2を排出している。

 ちなみに中国都市鉄鋼産業輻射力2020ランキングのトップ10入りの邯鄲、常州、本渓、包頭は、「中国都市CO2排出量ランキング2019」のトップ30には入っていないものの、邯鄲38位、常州41位、包頭110位、本渓203位となっている。

図4 中国都市鉄鋼産業輻射力2020ランキング トップ30

出所:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』データセットより作成。

③ 中国都市石炭鉱業輻射力2020

 中国の一次エネルギーは著しく石炭に偏っている。現在なお、一次エネルギーに占める石炭の割合は、56%に達している。これは、中国のエネルギー消費量当たりCO2排出量(エネルギー炭素集約度)を悪化させ、CO2を大量に排出する構造要因となっている。また、中国では、石炭の産地で火力発電し、消費地に送電する政策を長年採っている。故に石炭産地の都市はCO2を大量に排出する傾向がある。

 中国都市総合発展指標では中国各都市の石炭鉱業輻射力をモニタリングしている。石炭業輻射力は都市における同産業の従業者数、企業集積状況、営業収入、資産などを評価した。「中国都市石炭業輻射力2020」は、2019年から2020年にかけて中国各都市で公表された「第4回全国経済センサス」も参照し算出した。

 図5が示すように、「中国都市石炭鉱業輻射力2020」ランキングの上位30都市は順に、済寧、オルドス、大同、晋城、長治、呂梁、楡林、晋中、陽泉、臨汾、太原、朔州、淮南、銀川、淮北、鄭州、唐山、泰安、忻州、三門峡、徐州、鶴壁、咸陽、棗荘、畢節、焦作、フルンボイル、延安、銅川、烏海であった。同30都市が排出するCO2は、中国全体の13.9%に相当する。

 中国都市CO2排出量トップ30都市のうち、上記ランキングでトップ30入りした石炭鉱業基地としてオルドス、太原、鄭州、唐山、徐州、棗荘の6都市が数えられる。またCO2排出量ランキングトップ30入りの大慶は、石油鉱業都市として名高い。これらのエネルギー産業都市が大量のCO2を排出している。

 ちなみに「中国都市石炭鉱業輻射力2020」ランキングのトップ10入りの済寧、大同、晋城、長治、呂梁、楡林、晋中、陽泉、臨汾は、「中国都市CO2排出量ランキング2019」のトップ30には入っていないものの、大同57位、晋城61位、済寧70位、長治82位、楡林93位、臨汾114位、晋中121位、呂梁124位、陽泉239位となっている。

図5 中国都市石炭鉱業輻射力2020ランキング トップ30

出所:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』データセットより作成。

3.CO₂排出量トップ30都市の6大要素分析


 中国CO2排出量トップ30都市について、前述したCO₂排出評価6大要素、すなわちエネルギー消費量当たりCO2排出量(エネルギー炭素集約度)、GDP当たりエネルギー消費量(エネルギー効率)、GDP当たりCO2排出量(炭素強度)、一人当たりGDP、人口の規模、一人当たりCO2排出量から分析する。

(1)エネルギー消費量当たりCO2排出量(エネルギー炭素集約度)(2019年)

 中国CO2排出量トップ30都市について、「エネルギー消費量当たりCO2排出量」[10]をみると、トップ10都市は、張家口、台州、保定、長春、棗荘、北京、ハルビン、天津、南通、オルドスであった。これら都市の大半は、石炭の産地あるいは火力発電、鉄鋼や石油・石炭製品などの素材産業が盛んな地域である。

 また、11位から30位までは、大慶、東莞、フフホト、西安、太原、寧波、蘇州、上海、鄭州、済南、徐州、青島、無錫、広州、唐山、杭州、重慶、南京、武漢、深圳であった。

 CO2排出量トップ30都市全体のエネルギー消費量当たりCO2排出量平均は2.590(t-CO2/TCE)で、中国全国平均の1.986(t-CO2/TCE)をはるかに上回る。なお、同30都市の中で全国平均を上回った都市は、23都市ある。他方、深圳、武漢、南京、重慶、杭州、唐山、広州、無錫、青島の7都市は全国平均を下回った。

図6 中国CO2排出量トップ30都市におけるエネルギー消費量当たりCO2排出量分析図(2019年)

出所:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』データセットより作成。

(2)GDP当たりエネルギー消費量(エネルギー効率)

 中国CO2排出量トップ30都市について、「GDP当たりエネルギー消費量」をみると、トップ10都市は、唐山、棗荘、大慶、フフホト、張家口、太原、オルドス、徐州、武漢、ハルビンであった。これらはすべて資源都市あるいはエネルギー産業や素材産業に傾斜している都市でもある。

 また、11位から30位までは、南京、保定、青島、済南、重慶、無錫、寧波、東莞、杭州、鄭州、蘇州、広州、上海、天津、西安、深圳、台州、南通、長春、北京であった。

 CO2排出量トップ30都市のGDP当たりエネルギー消費量平均は0.551(TCE/万元)で、全国平均の0.569(TCE/万元)を下回る。しかし上記トップ10都市のGDP当たりエネルギー消費量は全国平均を上回った。なお、同11位から30位までの20都市のGDP当たりエネルギー消費量は全国平均を下回った。つまりこれら中心都市や製造業スーパーシティはCO2を大量に排出するものの、エネルギー効率パフォーマンスは全国平均より良い。

図7 中国CO2排出量トップ30都市におけるGDP当たりエネルギー消費量分析図(2019年)

出所:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』データセットより作成。

(3)GDP当たりCO2排出量(炭素強度)

 中国CO2排出量トップ30都市について、「GDP当たりCO2排出量」をみると、トップ10都市は、張家口、棗荘、大慶、フフホト、保定、オルドス、ハルビン、太原、台州、唐山であった。これらトップ10都市は台州を除いてすべて中国北部の内陸地域に属する地方都市であり、石炭・石油、鉄鉱石の採掘を中心とした資源都市でもある。これら都市では火力発電、鉄鋼や石油・石炭製品などの素材産業が盛んである。

 また、11位から30位までは、長春、徐州、天津、済南、青島、東莞、寧波、蘇州、西安、南通、無錫、鄭州、上海、北京、広州、南京、重慶、武漢、杭州、深圳であった。

 CO2排出量トップ30都市のGDP当たりCO2排出量平均は1.491(t-CO2/万元)で、中国全国平均の1.043(t-CO2/万元)よりはるかに高い。なお同30都市中で全国平均を上回った都市は、16都市ある。他方、深圳、杭州、武漢、重慶、南京、広州、北京、上海、鄭州、無錫、南通、西安、蘇州、寧波の14都市は、全国平均を下回る。これら中心都市や製造業スーパーシティの炭素強度パフォーマンスは、全国平均より良い。

図8 中国CO2排出量トップ30都市におけるGDP当たりCO2排出量分析図(2019年)

出所:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』データセットより作成。

(4)一人当たりGDP

 中国CO2排出量トップ30都市について、「一人当たりGDP」をみると、トップ10都市は、無錫、北京、オルドス、南京、蘇州、深圳、上海、杭州、広州、寧波市であった。オルドスという資源都市を除く他9都市が製造業スーパーシティと中心都市である。

 また、11位から30位までは、南通、武漢、青島、済南、天津、鄭州、唐山、東莞、フフホト、徐州、台州、太原、重慶、西安、大慶、長春、ハルビン、棗荘、張家口、保定であった。

 中国CO2排出量トップ30都市の一人当たりGDP平均は106,490(元/人)で、中国全国平均の72,568(元/人)よりはるかに高い。なお、30都市で全国平均を上回った都市は、26都市にのぼる。他方、ハルビン、棗荘、張家口、保定の北方4都市は、大量のCO2を排出するものの一人当たりGDPが全国平均を下回った。

図9 中国CO2排出量トップ30都市の一人当たりGDP分析図(2019年)

出所:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』データセットより作成。

(5)人口規模

 中国CO2排出量トップ30都市について、「人口規模」をみると、そのトップ10都市は、重慶、上海、北京、広州、深圳、天津、西安、蘇州、鄭州、武漢であった。四大直轄市をはじめとする中心都市や、改革開放後人口が膨らんだ製造業スーパーシティである。

 中国で市街地人口が1000万人を超えメガシティ(超大都市)として指定されている上海、北京、深圳、重慶、広州、成都、天津の7都市の中で、6都市が上記のトップ10都市に入っている。

 さらに、常住人口で図る中国都市人口規模ランキングで、トップ30都市は、重慶、上海、北京、成都、広州、深圳、天津、西安、蘇州、鄭州、武漢、杭州、臨沂、石家荘、東莞、青島、長沙、ハルビン、南陽、温州、仏山、邯鄲、寧波、濰坊、合肥、南京、保定、済南、徐州、長春であった。このランキングの中で、重慶、上海、北京、広州、深圳、天津、西安、蘇州、鄭州、武漢、杭州、東莞、青島、ハルビン、南京、保定、済南、徐州、長春の19都市が、CO2排出量トップ30にも名を連ねた。

 上記の分析から、都市の人口規模がCO2排出量に大きく影響していることがわかる。CO2排出量トップ30都市の常住人口合計は3.3億人に達し、中国全人口の23.5%を占める。

 また、人口規模が全国平均水準を下回るオルドス、大慶、フフホト、棗荘、張家口の5都市はすべて北方の地方資源都市で、人口は少ないものの大量にCO2を排出している。

図10 中国都市CO2排出量トップ30都市の人口規模分析図(2020年)

出所:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』データセットより作成。

(6)一人当たりCO2排出量

 中国CO2排出量トップ30都市について、「一人当たりCO2排出量」をみると、トップ10都市は、オルドス、大慶、フフホト、棗荘、張家口、太原、蘇州、唐山、無錫、天津であった。蘇州、無錫という二つの製造業スーパーシティを除き、他は中国北部内陸地域に属する石炭、石油そして鉄鉱石を産出する地方都市である。それら都市では火力発電及び鉄鋼や石油・石炭製品などの素材産業が盛んである。

 また、11位から30位までは、台州、寧波、青島、北京、東莞、上海、長春、ハルビン、済南、南通、徐州、南京、広州、鄭州、保定、西安、杭州、武漢、重慶であった。

 CO2排出量トップ30都市全体の一人当たりCO2排出量平均は13.7(t-CO2/人)で、全国平均は、7.4(t-CO2/人)のほぼ2倍にも達している。なお、30都市中で全国同平均を上回った都市は、26都市に及ぶ。他方、重慶、深圳、武漢、杭州の4都市は、全国同平均を下回った。

図11 中国CO2排出量トップ30都市における一人当たりCO2排出量分析図(2019年)

出所:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』データセットより作成。

4.中国のCO2問題への取り組みは都市の本気度による


 本論は、中国の都市を網羅したCO2に関する分析で、排出量トップ30都市のCO2排出構造を、グルーピング分析や6大要素分析を通じて明らかにした。こうした分析で、都市のCO2排出には人口規模や生活水準そして産業構造が複雑に絡んでいることが明らかになった。CO2排出量トップ30都市の中には、膨大な人口を抱える中心都市でありながら、上海、天津、武漢に代表されるように、製造業スーパーシティやエネルギー・重化学工業都市の顔も見せる都市が多い。また、深圳、蘇州、東莞、無錫、寧波、青島、南通のように輸出産業をベースに、製造業スーパーシティとして膨大な人口を吸引して猛成長する都市がある。さらに、唐山のような石炭や鉄鉱石の鉱業をベースに、世界最大の鉄鋼シティに成長した都市がある。大慶のように油田をベースに、一大石油化学シティに成った街もある。オルドス、棗荘、フフホト、徐州に代表されるように、石炭鉱業をベースに火力発電基地となった都市もある。

 その意味では、中国都市のCO2問題には、都市問題、産業問題、エネルギー問題の三つの軸が絡んでいる。

 都市問題として、ライフスタイル向上や公共交通の徹底などによる都市構造の進化が、重要となってくる。また、建築物の省エネルギーも一つ大きな課題である。低温地域にCO2排出量が多いのは、建築物の断熱性問題から生じている。過去20年間、急ピッチで進んできた中国の都市化は、これらの問題にまだ対応しきれていない部分が多い[11]。今後、都市化の第二のステージとして、都市の質的な進化を図る必要がある。

 また、産業問題では、世界に冠たる製造業スーパーシティにおける産業構造の高度化を、一層進める必要がある。加えて、石炭・石油鉱業、発電や鉄鋼産業、そして石油化学を始めとするエネルギー・重化学産業の効率化、省エネルギー化も急ぐべきだろう。

 さらに、エネルギー構造問題として、石炭に偏重するエネルギー産業構造を大きく変え、再生エネルギーへのシフトも欠かせない。

 図12は2000-2019年の20年間における中国CO2排出量トップ30都市のCO2排出量の増加率を示している。同じ製造業スーパーシティで蘇州、無錫はこの間のCO2排出量が其々613%増、485%増となったのに対して、深圳は同128%増にとどまった。つまり深圳は、CO2排出量の少ない成長モデルを見せた。中心都市の中でも西安、上海、杭州、南京、寧波、鄭州、天津、北京、武漢、重慶などはCO2排出量を200% 以上増やした。これに対して広州はより少ないCO2排出量の増加の中で長期にわたる成長を実現させた。

図12 中国CO2排出量トップ30都市のCO2排出量増加率(2000-2019年)

出所:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2020』データセットより作成。

 中国都市のトップである書記や市長は選挙で選ばれるのではなく、実績に基づいて抜擢される。これまでGDPが重要な実績であったため、各都市は経済成長を第一に競い合っていた。近年、PM2.5などの環境問題も実績に加わったため、都市レベルにおける環境対策が急速に進んだ。CO2問題について一般市民は、従来なかなか実感できず、数字化もされてこなかった。『中国都市総合発展指標』における「都市CO2排出量ランキング」でのCO2問題の見える化、また本論のような中国全都市のCO2排出構造に関する分析は、意義が大きい。CO2問題への取り組みが目に見える実績となれば、都市の取り組みの本気度も上がるだろう。

 CO2問題に取り組む中国の本気度は、中国の都市の本気度にかかっている。都市問題、産業問題、エネルギー問題での努力を重ねることで、中国はようやく「2060年までにカーボンニュートラルを目指す」公約の達成が可能となる。

(本論文では栗本賢一、甄雪華、趙建の三氏がデータ整理と図表作成に携わった)


[1] 現在、中国の地方政府には省・自治区・直轄市・特別行政区といった「省級政府」と、地区級、県級、郷鎮級という4つの階層に別れる「地方政府」がある。都市の中にも、北京、上海のような「直轄市」、南京、広州、ラサのような「省都・自治区首府」があり、蘇州、無錫のような「地級市(地区級市)」、昆山、江陰のような「県級市」もある。なお、地級市は市と称するものの、都市部と周辺の農村部を含む比較的大きな行政単位であり、人口や面積規模は、日本の市より都道府県に近い。

[2] 地級市以上の297都市は、4つの直轄市、27の省都・自治区首府、5つの計画単列市と262地級市から成る。

[3] 『中国都市総合発展指標』は2016年以来毎年、中国都市ランキングを内外で発表してきた。同指標は環境・社会・経済という3つの軸(大項目)で中国の都市発展を総合的に評価している。同指標の構造は、各大項目の下に3つの中項目があり、各中項目の下に3つの小項目を設けた「3×3×3構造」で、各小項目は複数の指標で構成される。これらの指標は、合計882の基礎データから成り、内訳は31%が統計データ、35%が衛星リモートセンシングデータ、34%がインターネットビッグデータである。その意味で、同指標は、異分野のデータ資源を活用し、「五感」で都市を高度に知覚・判断できる先進的なマルチモーダル指標システムである。現在、中国語(『中国城市総合発展指標』人民出版社)、日本語(『中国都市ランキング』NTT出版)、英語版(『China Integrated City Index』Pace University Press)が書籍として出版されている。『中国都市総合発展指標』について詳しくは、周牧之ら編著『環境・経済・社会 中国都市ランキング2018―〈大都市圏発展戦略〉』、NTT出版、2020年10月10日を参照。

[4] 『中国都市総合発展指標』において、各都市のCO2排出量は、人為的CO2排出量データセット「ODIAC」の推定値を使用している。ODIACデータセットは、人為的CO2排出量を全世界カバーし、約1kmメッシュ(3次メッシュ)で構成され、2000年1月から2019年12月(最新)まで毎月公開されている。『中国都市総合発展指標』では、地理情報システム(GIS)を用いて、年・都市別データに加工・集計している。CO2排出量は、2000年からODIACデータセットについて、詳しくは、ODIACホームページ(https://db.cger.nies.go.jp/dataset/ODIAC/)(最終閲覧日:2022年10月12日)を参照。

[5] 中心都市とは、中国にある4つの直轄市、22の省都、5つの自治区首府、5つの計画単列市、合計36都市を指す。中国の中心都市について詳しくは、周牧之「メインレポート:中心都市発展戦略」、周牧之ら編著『環境・社会・経済 中国都市ランキング2017〈中心都市発展戦略〉』、NTT出版、2018年12月26日、pp167-223を参照。

[6] 三大メガロポリスとは、珠江デルタメガロポリス(9都市)、長江デルタメガロポリス(26都市)、京津冀メガロポリス(10都市)を指す。三大メガロポリス、そして中国のメガロポリス政策について詳しくは、周牧之「メインレポート:メガロポリス発展戦略」、周牧之ら編著『環境・社会・経済 中国都市ランキング 〈中国都市総合発展指標〉』、NTT出版、2018年5月31日、pp129-213を参照。

[7] 「中国都市製造業輻射力2020」について詳しくは、雲河都市研究院「中国で最も輸出力の高い都市はどこか? 〜2020年中国都市製造業輻射力ランキング」、In Japanese.China.org.cn、2022年9月22日(http://japanese.china.org.cn/business/txt/2022-09/22/content_78433666.htm)(最終閲覧日:2022年10月19日)を参照。

[8] 衛星データのGIS解析を駆使して算出した中国都市CO2排出量データは、2019年が最新である。本論では、中国都市製造業輻射力など他のデータを、CO2排出量データと比較する際、データを2019年に合わせず、最新のデータを使用する。

[9] なお、一部都市では、2020年度の発電データが公表されていない。その際は、一番近い年次のデータを参照した。また、データが未公開の都市については、省ベースのデータからGDP及び人口などのデータを用いて推計した。

[10] 中国都市別におけるエネルギー消費量データは公開されていない。『中国都市総合発展指標』では、各都市から公表されている「GDP当たりエネルギー消費量(TCE; ton of coal equivalent、標準石炭換算トンベース)」をそれぞれ収集し、GDPおよびCO2排出量データを組み合わせることで、エネルギー消費量当たりCO2排出量を推計している。

[11] 中国の都市化について詳しくは、周牧之「メインレポート:大都市圏発展戦略」、周牧之ら編著『環境・経済・社会 中国都市ランキング2018―〈大都市圏発展戦略〉』、NTT出版、2020年10月10日、pp170-241を参照。


 本論文は、周牧之論文『都市から見た中国の二酸化炭素排出構造と課題―急増する中国とピークアウトした日米欧―』より抜粋したものである。『東京経大学会誌 経済学』、317号、2023年。

フフホト: 農耕文化と遊牧文化が混じり合う草原の中心都市 【中国中心都市&都市圏発展指数2020】第46位

 フフホト市は、中国中心都市&都市圏発展指数2020の総合第46位にランクインした。同市は2019年度より順位を1つ上げている。

 中国中心都市&都市圏発展指数は、中国都市総合発展指標の派生指数として、4大直轄市、22省都、5自治区首府、5計画単列市からなる36の中心都市の評価に特化したものである。同指数は、これら中心都市を、全国297の地級市以上の都市の中で評価し、10大項目と30の小項目、116組の指標からなる。包括的かつ詳細に、中国中心都市の高品質発展を総合評価するシステムである。

 フフホト市は、内モンゴル自治区の省都であり、中国北部地域における重要な中心都市である。フフホト市は自然環境が大変豊かであり、「国家森林都市」にも認定されている。総面積は、17,200平方キロメートル(岩手県と同程度)である。市郊外の北部に連なる陰山山脈には大草原が広がり、牧草地は9,549平方キロメートルにも及び、市面積の半分以上を占めている。大草原には、羊や馬が放牧され、モンゴル族のテント「パオ」が観光客の人気を呼んでいる。2021年現在、常住人口は約350万人で中国では145位、地域内総生産は約3,121億元(約6.2兆円、1元=20円換算)で、中国では99位である。

 同市は、典型的な大陸性気候で、四季の気候変化が顕著であり、年間の気温差も、日中の気温差も大きい。冬は長く、特に1月が最寒で、最低気温は-25~-45℃にも達する。降水量は少なく不均一である。

 フフホトは、2000年以上の歴史を有し、遊牧文明と農耕文明の交易拠点として栄えてきた。同市は、黄土高原と内モンゴル高原の間に位置し、農耕地域と牧畜地域との境界に立地している。市内の南部には農業風景、北部には草原風景が広がり、鮮明な対照をなしている。

 清朝時代は、「綏遠城」と呼ばれていた。1954年、内モンゴル自治区が成立し、フフホトという古来よりの名称が復活し、内モンゴル自治区の省都となった。現在、モンゴル族、漢族、満族、回族、朝鮮族など36民族が集まり住んでいる。

 民族の特色が豊かなフフホトは、観光都市としても名高い。壮大な自然の風景、色彩豊かな民族文化、歴史的なモニュメント、華麗なモンゴルの歌と踊り、モンゴル相撲などが観光客を楽しませている。古代には召城と呼ばれ、召廟(モンゴル族ラマ教の寺院)が多くあったことで知られている。現在、市内には大小50余りの寺院があり、南東部には絢爛豪華な「五重塔」、「硅竹寺」、「銀仏寺」、「北門モスク」、「光華寺」などがある。

 寺院だけでなく市内には、モンゴル族の象徴的な飾りを付けた建物や回族によるイスラム様式の建物が数多く残されている。現在では、歴史的地区の保護や修築によって都市景観の保存をめざした動きが始まっている。

 フフホトは「酪農の都」としても知られ、「伊利」と「蒙牛」という二大ブランドを有し、乳製品が一大産業として育てられている。

 周辺の豊かな石炭資源をベースに市内には多くの発電所が建設されている。発電量は全国24位、中心都市の中では9位を誇り、その電力は周辺都市へ送電されている。電力多消費のデータセンターなども多数誘致している。

 


〈中国中心都市&都市圏発展指数〉:【36中心都市】北京、上海、深圳、広州、成都、天津、杭州、重慶、南京、西安、寧波、武漢、青島、鄭州、長沙、廈門、済南、合肥、福州、瀋陽、大連、昆明、長春、ハルビン、貴陽、南昌、石家荘、南寧、太原、海口、ウルムチ、蘭州、フフホト、ラサ、西寧、銀川

中国中心都市&都市圏発展指数2020
中国中心都市&都市圏発展指数2019
中国中心都市&都市圏発展指数2018
中国中心都市指数2017

【フォーラム】南川秀樹:コミュニケーションの場としてのエンタメを

ディスカッションを行う南川秀樹・元環境事務次官

 東京経済大学は2022年11月12日、学術フォーラム「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」を開催、学生意識調査をベースに議論した。和田篤也環境事務次官、中井徳太郎前環境事務次官、南川秀樹元環境事務次官、新井良亮ルミネ元会長をはじめ産学官のオピニオンリーダー16人が登壇し、周牧之ゼミによるアンケート調査をネタに、新しい地域共創の可能性を議論した。南川秀樹・元環境事務次官がセッション1「集客エンタメ産業による地域活性化への新たなアプローチ」のコメンテーターを務めた。

▼ 画像をクリックすると
セッション1の動画が
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学術フォーラム「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」
セッション1:集客エンタメ産業による地域活性化への新たなアプローチ

会場:東京経済大学大倉喜八郎進一層館
日時:2022年11月12日(土)


 先日、熱海に足を運んだ。秋、冬にも花火大会を催しているので見に行こうと考えた。花火を鑑賞し、駅前の仲見世通りや一帯がきれいに作り替えられていて、様々な人を呼び込む企画にも事欠かなかった。東京からでも名古屋からでも日帰りでも楽しめる街になっていた。熱海のような街は供給サイドから自ら「仕掛け」、整備していかないと作れない。

 せっかく東経大で議論しているのだから、やはり東経大のためにならなければいけない。さらには、国分寺地域全体として、スポーツなり、エンタメの世界なり、もちろん、バーチャルの世界もあると思うが、より活性化できる仕掛けは何か、国分寺市民であること、あるいは東経大の学生であることが誇りに思える仕掛けは何か、に知恵を出していかなければならない。

第1セッション・ディスカッション風景

スポーツもエンタメもコミュニケーションが大切


 私もスポーツ自身がエンタメの一部だと思っている。ただ、地域にとっては単に人が集まっていればいいのではなくて、そこにいることによって心のコミュニケーションができることが必要だ。2週間前に実は水戸マラソンを走った。8,000人以上の人が集まって、町の中をずっと音を立てながら走り回った。あれこそコミュニケーションだなと強く感じた。

 私自身は毎週、代々木の織田フィールドで走っている。必ず居られるのが目の悪い方が伴走者で一緒に走っている。それから足の悪い方が義足を履いて走っておられる。それで皆さん1人で来ても、一緒に会うと楽しそうに話の輪ができる。とても大事なことだ。それがひとつ大きな生きがいとなっている。その方達と僕もよく話すが、とても明るく、最初来た時に戸惑っていた人が随分変わってきている。とても嬉しい。ただ、それはなかなか陸上ランニング以外の競技では難しいようだ。もっと広げたいと思う。

 スポーツクラブは地域社会の核となる存在だ。例えばスポーツクラブで同じエクササイズをとっている人同士が親しくなり、非常に頻繁にコミュニケーションができ、言ってみれば家庭以外あるいは職場以外のところで仲間ができる。そういったことが大事かと思う。

 現代は、かつてのように農業を通じ、否応なしに地域の中で生きるしかないという世界ではなくなった。そういう意味では仕事を離れ、心が通い、癒せる、コミュニケーションができる仲間を、スポーツクラブなどで得ることは大変貴重だ。それが、実際に可能性があって働いているのかどうかにも関心がある。

 エンタメも同じだ。私自身も寄席が好きでよく寄席に行くが、やはりそういったところでいつも会う人というのは、結構気が合う。そういった場であってほしい。

ディスカッションを行う南川秀樹・元環境事務次官(左)と吉澤保幸・場所文化フォーラム名誉理事(右)

■ 人材育成の場作りを


 最後に人材育成、場所作りを挙げたい。「仕掛け」を作れる人材の育成は欠かせない。今日のフォーラムにも参加したユナイトスポーツは東京五輪の中で、例えばマラソンの開催地が変わるような出来事があるなかで、やり遂げたことは非常に重要なことだ。ここで育った人材は他の所でも活躍できる。また、先ほど挙げたスポーツクラブは大事で、人材にとっては平時の収入源にもなる。

 それから、スポーツもエンタメもその表舞台に立つ人とその舞台を作る人がいて、要はその両方がある。プレーする、それを支える、両方あって初めて大きな大会ができる。両方を経験する人をできるだけ増やしたい。そういう人が企業マインドを持ち、新しい産業を起こすことによってある種の実効性がありアニマルスピリッツのあるアントレプレナーができると私は思う。エンタメもスポーツも、プレーし、支え、の両面から応援していかなければならない。


プロフィール

南川秀樹 (みなみかわ ひでき)
東京経済大学元客員教授、日本環境衛生センター理事長、中華人民共和国環境に関する国際協力委員、元環境事務次官

 1949年生まれ。環境庁(現環境省)に入庁後、自然環境局長、地球環境局長、大臣官房長、地球環境審議官を経て、2011年1月から2013年7月まで環境事務次官を務め、2013年に退官。2014年より現職。早稲田大学客員上級研究員、東京経済大学客員教授等を歴任。地球環境局長の在職中は、地球温暖化対策推進法の改正に力を尽くした。また、生物多様性条約の締約国会議など多くの国際会議に日本政府代表として参加。現在、中華人民共和国環境に関する国際協力委員を務める。

 主な著書に『日本環境問題 改善と経験』(2017年、社会科学文献出版社、中国語、共著)等。


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蘭州:黄河沿いのシルクロード交易拠点都市 【中国中心都市&都市圏発展指数2020】第39位

 蘭州市は、中国中心都市&都市圏発展指数2020の総合第39位にランクインした。同市は2019年度より順位を2つ下げている。

 中国中心都市&都市圏発展指数は、中国都市総合発展指標の派生指数として、4大直轄市、22省都、5自治区首府、5計画単列市からなる36の中心都市の評価に特化したものである。同指数は、これら中心都市を、全国297の地級市以上の都市の中で評価し、10大項目と30の小項目、116組の指標からなる。包括的かつ詳細に、中国中心都市の高品質発展を総合評価するシステムである。

 甘粛省の省都である蘭州市は、西北地域の中心都市、重要な産業拠点、広域交通ハブである。同市は、5つの区と3つの県を管轄し、総面積は13,100平方キロメートル(福島県と同程度)である。2021年現在、常住人口は約438万人で中国では114位、GDPは前年比6.1%増の約3,231億元(約6.5兆円、1元=20円換算)で、中国では95位である。

 同市は、黄河中流に位置し、青海チベット高原から黄土高原への移行地帯にあり、海抜は約1,520メートルである。大陸性気候に属し、年間平均気温は10.3℃、避暑地としても有名である。年間平均日照時間は2,374時間、無霜期は172日、年間平均降水量は約300ミリメートルである。

 「シルクロードの真珠」と呼ばれる蘭州市は、古くから交通の要衝として交易拠点であると同時に軍事拠点でもあった。紀元前2世紀に張騫が漢王朝の外交使節団として中央アジアの国々を訪問したことを契機に、ユーラシア大陸を横断し、東西を結ぶシルクロードが開かれた。黄河沿いの蘭州は、シルクロードの主要商業港として、中国と西域の経済文化交流の一大拠点になった。その足跡は、『西遊記』などにも残されている。

 同市内を流れる黄河のほとりには、蘭州水車などの観光スポットが立ち並ぶ。黄河にかかる中山鉄橋は1909年に建設された中国最初の鉄橋で、「黄河第一橋」と呼ばれている。

 古来より交通の要衝であった蘭州の、ハブとしての地位は現代も変わらない。陸路では、西北地域で最も密集した鉄道網を持ち、「一帯一路」をつなぐハブとなっている。「中国都市鉄道密度」は全国で24位、「中国都市鉄道利便性」は同34位である。空路では、蘭州中川国際空港は西北地域の重要なハブ港であり、第3期拡張プロジェクトが2023年中の完成に向けて建設が進行している。「中国都市航空運輸量」は全国で24位、「中国都市空港利便性」は同29位(【ランキング】中国で最も空港利便性が高い都市はどこか?〜2020年中国都市空港利便性ランキング)である。

 新中国建国後、蘭州は重要な産業基地に位置づけられ、第一次五カ年計画、第二次五カ年計画、三銭建設の時代に産業基盤整備が行われた。蘭州周辺地域は石油資源埋蔵量が豊富であることから、中国の重要な石油化学基地となっている。「中国都市石油・石炭加工業輻射力」は全国で15位である。また、蘭州ハイテク産業開発区と蘭州経済技術開発区という国家レベルの開発区を有し、2012年には、西北地域における初の国家級新区である蘭州新区が承認された。

 蘭州大学を代表とする30の大学と1,200を超える各種科学研究機関に、国をリードする高度人材が多く集まっている。蘭州市の総合科学技術力は中国都市の上位にある。「中国都市高等教育輻射力」においては全国で20位と、西北地域では最も順位が高い。

 2,200年以上の歴史を有する同市には、万里の長城を含む多くの文化遺産がある。食文化でも「蘭州ラーメン」は世界に名高い。同市で発刊される『読者』は、中国で最も売れた雑誌として今も絶大な発信力を持っている。

 蘭州市は、「一帯一路」建設に即して新時代の交易拠点として発展を遂げることができるか、今後も要注目である。


〈中国中心都市&都市圏発展指数〉:【36中心都市】北京、上海、深圳、広州、成都、天津、杭州、重慶、南京、西安、寧波、武漢、青島、鄭州、長沙、廈門、済南、合肥、福州、瀋陽、大連、昆明、長春、ハルビン、貴陽、南昌、石家荘、南寧、太原、海口、ウルムチ、蘭州、フフホト、ラサ、西寧、銀川

中国中心都市&都市圏発展指数2020
中国中心都市&都市圏発展指数2019
中国中心都市&都市圏発展指数2018
中国中心都市指数2017

【フォーラム】吉澤保幸:集客エンタメ産業で地域を元気に

司会を務める吉澤保幸・場所文化フォーラム名誉理事

 東京経済大学は2022年11月12日、学術フォーラム「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」を開催、学生意識調査をベースに議論した。和田篤也環境事務次官、中井徳太郎前環境事務次官、南川秀樹元環境事務次官、新井良亮ルミネ元会長をはじめ産学官のオピニオンリーダー16人が登壇し、周牧之ゼミによるアンケート調査をネタに、新しい地域共創の可能性を議論した。吉澤保幸・場所文化フォーラム名誉理事がセッション1「集客エンタメ産業による地域活性化への新たなアプローチ」の司会を務めた。

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東京経済大学・学術フォーラム
「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」

会場:東京経済大学大倉喜八郎進一層館(東京都選定歴史的建造物)
日時:2022年11月12日(土)13:00〜18:00


「集客エンタメ産業」という言葉を作ったわけ


 学術フォーラムの「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」、そのセッション1として「集客エンタメ産業による地域活性化への新たなアプローチ」という話をしたい。この集客エンタメ産業という言葉自身も、実はコロナ禍で生まれてきた言葉だ。

 これまでは、ぴあでいうとライブエンターテインメントという言葉だけを使っていた。今回のコロナによって文字通りの供給サイドが止まったわけだが、そのときに一番悲鳴を上げたのが、先ほど学生の方々がいった映画館で上映できないことだ。スポーツもJリーグも含めて試合ができなくなった。

 これでは困るということで、昨年の正月にJリーグの村井満チェアマンが弊社に来た。何とかしないと、コト消費の権化である集客エンタメ産業、人々の心を支えるものがなくなってしまう。ライブエンターテインメントだけではなく、スポーツ・映画等も含めてさまざまな人々の心を支え、人々が集まる産業としての集客エンタメ産業という言葉を作って、ようやくコロナ禍がある程度平準化する中で、人々がそこに集うような反動増が生まれるぐらいにまた盛り上がってきたというのが、この集客エンタメ産業というものだ。

 供給サイドが止まったことの一番の象徴は、2020オリンピック・パラリンピックだったろうと思う。それから1年遅れて、札幌でマラソンがあった。

 集客エンタメ産業による地域活性化を、どういったアプローチで実現できるだろうか。ぴあ総研と日本政策投資銀行で昨年共同研究をした。地域に及ぼす効果というのは、経済的効果だけではなくて、さまざまな社会的効果がある。

 ぴあは今年創業50周年ということで1972年、映画好きの大学生が起業したベンチャーだった。何もない中で、お金も人脈もない中で、何とか乗り越えて50年やってきた。ぴあのパーパスは「ひとりひとりが生き生きと」という言葉だ。そういう社会を作りたい。一人ひとりが生き生きと、それでみんな豊かになる社会を作りたい。

 これは文字通りSDGsの「誰一人取り残さない」という言葉といわば同値かなと我々は思っている。そういう中で集客エンターテインメントを通じて、どういう豊かな社会を作っていけるのか。ぴあ社全体としての課題であり、集客エンタメ産業の課題でもあると思っている。

 ちょうどこの5月、「集客エンタメ産業による日本再生の意義」と題して300人ぐらいの方に集まってもらい、シンポジウム等を開いた。都倉俊一文化庁長官、元Jリーグの川淵三郎チェアマン等々、お歴々にいろいろな話をしてもらい、金融と集客エンタメ産業の繋がりを中曽宏大和総研理事長にも話してもらった。

第1セッション・ディスカッション風景

■ 集客エンタメ産業で国分寺を魅力的に


 私は過去に国分寺に通ったことがあり、もったいないと思ったのが、国分寺の跡地のスペースだ。副市長が活用して、イベントをやられたのは大変大きな一歩じゃないか。あそこで多分、今、リアルとバーチャルの融合からすると、例えばぴあが始めているXRLIVEは考えられる。アニメのキャラクターとリアルを融合させライブ配信するのだが、ああいった跡地で、テントでもいいから、そういう場所を作れるのではないか。

 国分寺市民あるいは東経大の学生のイベントをやるとか。そういう形でひとつ集客の場を、市から借りて作っていくとか、単なるリアルだけじゃなく、DXを使うともっとできるのではないか。

 自然の中で楽しめる場ができると、自然の豊かさにも気づく。先ほどの周ゼミ学生のアンケートでは、「都会に住みたい」と「地域に住みたい」、「自然の豊かさ」と「娯楽」がまるで代替財のようになっている。こっちができるとこっちができないみたいな世界だが、これがぜひいい補完財のように、一緒に楽しめる場を作ってやることができないか。中央線沿線の中では国分寺は非常にいいポジションにある。なぜなら自然が豊かで、跡地も残っている。それをうまく活用していくといいのではないかと考えている。

ディスカッションを行う南川秀樹・元環境事務次官(左)と吉澤保幸・場所文化フォーラム名誉理事(右)

 前述したシンポジウム「集客エンタメ産業による日本再生の意義」で川淵チェアマンが熱く語ったのは、Jリーグを立ち上げる時に、鹿島アントラーズが手を挙げてきた。その時に3万人規模の世界じゃ無理だろう、鹿島町で町民も地元企業も行政も、そしてリーグもみんな協力し合って、そして5万キャパのスタジアムができたら、Jリーグに入れてあげると言った。絶対に無理だろうと(川淵氏は)思ったのだそうだが、なんとそれを解決してしまった。

 そして今、Jリーグの中で一番地域と密着に動いているのは鹿島アントラーズ。そういう歴史もある。だから、地域で行政と市民と、そして企業が合体していくと、スポーツということを一つのきっかけにできる。さらに、川淵氏はスポーツだけではダメだと。他のエンターテインメントを結びあうことによって、スタジアムを本当に活かす。これはある意味では新結合世界だと思うのだが、そういうことを提唱して動いている。

 なので、絶対にこの国分寺で解決策は出てくるだろうと思っている。一例として、里山スタジアム構想を紹介する。元日本代表の岡田武史氏が10年かけているプロジェクトだが、岡田氏はコミュニティをつくりたいのだと。さまざまな文化、芸術、食、農業、さらには福祉の場。これを作りたいと。だから、社会福祉法人の方々、足の悪いリハビリをしないといけないような方々が集まれる場所もスタジアムの横に作ると。これが実は目的だといっている。

 フットボール事業は一つのコアの事業だが、次世代教育、地方創生をハイブリッドでやって、今治にあるが、今治にとらわれないコミュニティづくりだと語っている。

 さらにもう一つだけ。スタジアム、エンターテインメントは極めて環境負荷が小さい産業である。だから、同時に成長の分野でもある。2030年あるいは2050年を目指す中で、特に脱炭素も含めた産業としての意味で、ぜひもり立てていきたい。

■ すべての老若男女が集える場作りを


 スポーツでは、障がい者スポーツが今後、極めて大事になると感じている。元財務次官の真砂靖氏が理事長を務める、全国盲ろう者協会という組織がある。盲ろう者がスポーツをする、喜びを得る機会は非常に限られている。何とかもっとサポートできないか。障がい者スポーツを地域活性化に絡められないか。SDGsとして抜け落ちてしまうのが、本当の弱者の方々である。この方々が健常者と一緒にどうやって結びあうか。それを地域の活性化の中に織り込んでいく必要がある。

 オリパラの事務総長だった武藤敏郎氏が、今後日本で国際的なイベントを成功させるための必要条件を3つ挙げている。ひとつはそのイベントがサステナビリティに合致しているかどうか。ふたつにはダイバーシティアンドインクルージョンに合致しているかどうか。そして三つ目にはジェンダー平等であるか。それによってすべての老若男女が集まって、集える場所を作り、そして集える繋がりを作る。それが集客エンタメ産業の意義だと思っており、場を提供するのが地域ではないのかと、強く感じている。これは地域創生をしていくために必要な条件ではないかと思う。


プロフィール

吉澤 保幸(よしざわ やすゆき)
場所文化フォーラム名誉理事、ぴあ総研(株)代表取締役社長

 1955年新潟県上越市生まれ、東京大学法学部卒。1978年日本銀行に入行、日本銀行証券課長など歴任。2001年ぴあ(株)入社、現在同社専務取締役。
 場所文化フォーラム代表幹事、ローカルサミット事務総長などを歴任し、地域の活性化に尽力。
 主な著書に『グローバル化の終わり、ローカルからのはじまり』(2012年、経済界) 等。


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ウルムチ:シルクロードの交易拠点都市【中国中心都市&都市圏発展指数2020】第37位

 ウルムチ市は、「中国中心都市&都市圏発展指数2020」の総合第37位にランクインした。同市は2019年度より順位を3つ下げている。

 〈中国中心都市&都市圏発展指数〉は、〈中国都市総合発展指標〉の派生指数として、4大直轄市、22省都、5自治区首府、5計画単列市からなる36の中心都市の評価に特化したものである。同指数は、これら中心都市を、全国297の地級市以上の都市の中で評価し、10大項目と30の小項目、116組の指標からなる。包括的かつ詳細に、中国中心都市の高品質発展を総合評価するシステムである。

 ウルムチ市は、新疆ウイグル自治区の省都で、中国北西部の重要な中心都市である。同市は、中国で最も海から遠い中心都市(海岸線から約2,500キロメートル)であるだけでなく、「世界で最も海から遠い都市」としてギネスにも記録されている。現在、同市は7つの区と1つの県を管轄し、総面積は13,800平方キロメートル(福島県と同程度)である。2021年現在、常住人口は約405万人で中国では125位にありながら、中央アジアでは大きな人口規模を誇る。GDPは前年比6.1%増の約3,692億元(約7.4兆円、1元=20円換算)で中国では77位である。

 同市は、天山山脈中部の北麓、ジュンガル盆地の南端に位置する。地形は起伏に富み、広大な山地が広がっている。山地が総面積の50%以上を占める山岳都市である。最高高度は天山山脈の普達峰の山頂で海抜5,445メートル、最低高度は海抜490.6メートルと、高低差が非常に大きい。

 同市は、大陸性乾燥気候に属している。最も暑い時期は7月と8月で、平均気温は25.7℃、最も寒い時期は1月で、平均気温は-15.2℃である。寒暖差が激しく、「気候快適度」は全国262位と低い。また、砂漠にも隣接しているため、砂嵐に悩まされ、大気質は非常に悪く、「空気質指数(AQI)」は全国273位である。中国の砂漠化や大気質について詳しくは、【コラム】黄砂襲来に草地を論ず 〜中国都市草地面積ランキング2019〜を参照されたい。

 ウルムチ市は、古代からシルクロード上の交易要所として栄え、多くの商人たちが訪れ、異文化が交差し、多様な文化が育まれてきた。市内には古い建造物や文化遺産が数多く残され、観光客にも人気が高い。市内では公共交通が整備され、「公共バス客数」では、全国1位の成績に輝いている。

 同市では、周辺の豊かな石油・天然ガスの油田に恵まれ、またパイプラインの整備などにより、石油・天然ガス関連産業は主要な産業となっている。石炭に関しても100億トン以上の埋蔵量を有し、「石炭の海に浮かぶ都市」とも呼ばれている。非鉄金属や希少な鉱物資源も豊富である。豊かな資源をベースに、鉄鋼産業も発展し、「中国都市鉄鋼産業輻射力2020」では、全国21位の成績を誇っている。

 同市は今も、中央アジア、西南アジア、ヨーロッパを結ぶ交通の要衝として、多くの幹線道路や鉄道が通っている。近年、中国政府が進める「一帯一路」政策で、ウルムチは交通と交易のハブとしても重視されている。「一帯一路」政策は、ユーラシア大陸を結ぶ新たな交通と交易のネットワークの構築を目的としており、ウルムチ市のより一層の発展が期待される。


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中国中心都市&都市圏発展指数2020
中国中心都市&都市圏発展指数2019
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【フォーラム】学術フォーラム「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」

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東京経済大学・学術フォーラム
「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」

会場:東京経済大学大倉喜八郎進一層館(東京都選定歴史的建造物)
日時:2022年11月12日(土)13:00〜18:00


 東京経済大学は2022年11月12日、学術フォーラム「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」を開催、学生意識調査をベースに議論した。

 和田篤也環境事務次官、中井徳太郎前環境事務次官、南川秀樹元環境事務次官、新井良亮ルミネ元会長をはじめ16人の産学官のオピニオンリーダーが登壇し、周牧之ゼミによるアンケート調査をネタに、新しい地域共創の可能性を議論した。実行委員長は経済学部の周牧之教授が務めた。


■ オープニング・セッション


 オープニングセッションは「学生から見た地域共創ビジネスの新展開」と題し、尾崎寛直教授が司会を務めた。

 開会あいさつで岡本英男学長は「かつて一橋大学の学長を務め、その後本学で長年にわたって理事長を務めた増田四郎先生の著書『地域の思想』を想起した。明治期以降、富国強兵が要請となるなか、わが国では国民と個人という意識はあっても、デモクラシーの基本概念である市民の意識は育つ余地がなかった。このような我が国のあり方に真剣に対処するためには、一方で意識や生活感情の面で中央集権的な伝統を改め、地域社会やコミュニティの主体性を確立することが急務であり、他方ではその裏づけとして各地域における産業構造のあり方を全体との関連において、自覚的に再編成する意欲をもり立てることが要求される」と指摘した。

 さらに、「本学は誰一人置き去りにすることなく、すべての人間が尊厳と平等のもとに、そして健康な環境のもとに、その持てる潜在能力を発揮することができる社会を目指すというSDGsの理念に深く共鳴し、2021年4月1日に東京経済大学SDGs宣言を公表した。また、その後、自然産業人間生活の調和を意識した新しい地域主義のあり方を国分寺の力、世界に発信する国分寺学派の拠点となることを宣言した」と紹介した。

 挨拶した来賓の和田篤也環境事務次官は、テーマである「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」について、「非常にインパクトを受けている。『供給サイド』という言葉はあまり好きではなかったが、ちょっと好きになった。理由は、『仕掛ける』という言葉が後ろについていることにある。供給サイドの意図だけではなくて、きちんと何か目的のために仕掛ける。地域共創とは何だろう。市民のニーズとは何だろう。どんな思いを持って、どんな未来に市民は住みたいと思っているのか。これらを理解して、供給サイドは仕掛けてやろうという意気込みが感じられるテーマかと、非常に面白いと思っている。ワクワク感満載かと思っている」と感想を述べた。

 続けて、「戦略的思考としてのGXから地方共創」として、環境省の取り組みを紹介した。まず、「カーボンニュートラルはGXの中で一番バッターだ。かつては本当に温暖化するか、気候変動するかと言われていたが、2000年に入って、どんな影響があるのだろうと心配しだした。今やそれも越えて、対策のステージに移っている」と指摘。続いて、「環境省で大胆なチャレンジを試みたのが、地域脱炭素先行地域だ。なぜ地方自治体に注目したか。市民目線のことを一番しっかり本当は分かっているのは自治体ではないか。中央官庁ではない。大規模アメリカ型の畜産業が発達する北海道の十勝エリアでは、ふん尿を産業廃棄物からバイオマスエネルギーとして活用し、最後に残る『液肥』を肥料で使う」として、地域共創と環境の両立事例を紹介した。

 その後は周ゼミの学生がアンケート結果と分析を披露した。大原朱音さんは「供給サイドから仕掛ける地域共創の可能性」に関連した問題意識を6点ほど抽出し、アンケート調査を行ったと紹介。木村竜空さんは「『国分寺市に対して愛着、親しみを抱いていますか』という設問に関し、国分寺市に愛着、親しみを抱いているという回答は、半数を超えるような結果になった。一方で、愛着、親しみを抱いていないという回答は35.6%とおよそ4割弱という結果になった」と述べた。また、国分寺市に愛着、親しみを感じる理由として一番多かったのが地方や都心へのアクセスがしやすく、交通の利便性が高いという結果になった。一方、娯楽施設の充実といった順位は低かった。

 この結果に対し、国分寺市の内藤達也副市長は「皆様にまだまだ国分寺市の魅力が周知されていない現状というのが把握できたので、どうやったら国分寺の魅力をさらに知っていただけるのかを展開していきたい」と応じた。

 周ゼミ生の前田大樹さんは学生の49.7%が国分寺マルイを利用したことがあると報告した。また、「国分寺マルイを利用しない理由」を尋ねたところ、一番多い回答は映画館などの娯楽施設が整備されていない点が挙げられたとした。周ゼミ生の荻原大翔さんは「欲しいと思うエンタメ施設について、圧倒的に多かったのは映画館であり、約6割の学生が答えた。反対に、かつて非常に人気であったパチンコは回答数が0だった」と報告した。近藤正美・丸井上野マルイ店長は「丸井としても売らないスペース、もしくは提案も考えていこうというのが方向性だ。娯楽施設まではいかないが、娯楽サービスといったところがポイントかと思う」と応じた。

 周ゼミ生の粕谷有利絵さんは「学生のエンタメへの関心度は高く、コロナ禍の反動需要でエンタメ業界には追い風が感じられる。その追い風をどう高めていくのか、さらにはエンタメと地域競争をどう考えるか」と問うた。白井衛・ぴあグローバルエンタテインメント会長は「やっと顧客が戻ってきて、7割から8割方回復しつつある状況ではないか。興行は売ったらすぐ完売というケースもあるが、まだ課題が残る」と述べた。司会を務めた尾崎寛直・東京経済大学教授は「アンケートからは、若い世代は特にモノ消費からコト消費に移っていると分かった。意味ということとか経験とか、そういうものがこの消費社会の中で価値を生み出すひとつの主軸になりつつある。そういうものが今後の地域活性化、地域共創の大きな軸になり得る」と分析した。


■ セッション1


 セッション1は「集客エンタメ産業による地域活性化への新たなアプローチ」と題し、吉澤保幸・場所文化フォーラム名誉理事が司会を務めた。

 吉澤氏は「国分寺には昔、何度か通ったことがあって、国分寺の跡地スペースをもったいないと思っていた。今、リアルとバーチャルの融合からすると、例えばぴあが始めているXRLIVEなど――アニメのキャラクターとリアルと場所を融合させライブ配信するイベント――を、ああいう跡地で国分寺市市民あるいは東経大の学生のイベントとしてやるなど考えられるのではないか」と提案した。また、「アンケートでは都会に住みたいというのと地域に住みたいというのと、自然の豊かさと娯楽がまるで代替財のようになっている。これがぜひいい補完財のように、一緒に楽しめるよっていう場を作れないか。中央線沿線の中では国分寺は非常にいいポジションにある。自然が豊かだし、そういう跡地も残っている」と指摘した。

 ぴあ総研の笹井裕子主任研究員は、公演の開催情報データーベースをもとに、東日本大震災後の8年間は年平均成長率が8.3%に達していたと指摘する。2022年はコロナ前の8割まで回復し、「23年こそはコロナ前の水準に戻る」とみる。加えて、集客エンタメ産業の社会的価値として、「地域に集める、地域に繋げる、地域を育てる」の3点を挙げた。

 日本政策投資銀行の桂田隆行地域調査部課長は「スマートメニュー」を提唱する。「きっかけは各地域において製造業系の工場が相次いで撤退し、大きな土地が空いてしまうという課題が発生した時に、それを何でリカバーしたらいいのか。その時にスタジアムアリーナが整備されれば、スポーツというコンテンツと相まって地域活性化になるのではないか。中心市街地にも貢献するのではないか」と問題意識を述べた。

 そのうえで、「スポーツ業界の人はよくよくご存じの通り、そういうものを作れば、交流人口とか町中のにぎわい創出、そして地域のシビックプライド、アイデンティティの醸成になるのではないか。もっといろんな社会的価値が登場しているような気もしている。例えば、観光や教育、健全な成長という精神的な部分も考えられる」と指摘した。

 コメンテーターを務めた南川秀樹・日本環境衛生センター理事長は「2週間前に実は水戸マラソンを走ったのだが、8,000人以上の人が集まって、ずっと音を立てながら走り回る。コミュニケーションだと強く感じた。国分寺地域としても、スポーツなり、エンタメなり、仕掛けができないか」と問題提起した。


■ セッション2


 セッション2は「地域経済の新たなエンジン」と題し、周教授が司会した。

 まず、パネリストの中井徳太郎・前環境事務次官が「アンケートでは、まったくSDGsネイティブだというデータが出た。一方、都市と地方でどっちに暮らすかというところで、65%が都市に住みたい、35%が地方という。若い世代の意識はSDGsの大事さ、地球の危機とかそういう自然環境やさまざまな問題の危機への問題意識はあるが、いざ自分が暮らすというところは、自分はやっぱり快適な生活が必要だし、楽しい生活が必要だしと。非常に正直なところが出ているのではないか」と問題提起した。

 重ねて、周教授が「意識調査では地域活性化のためには子育て支援が大切との意見が目立つ」と分析結果を示した。これに関連して前多俊宏・エムティーアイ社長は「母子手帳のアプリの『母子モ』をスタートしている。8年が経ち、1,700の自治体のうち500、約3分の1弱の自治体で使っている。これは出生数でいうと28万人、3人にひとりはお手伝いさせていただいている。クラウドの技術を使って住民を中心として自治体、行政機関と、それから医療機関、病院やそれから薬局こういったものを繋げることで、面倒くさいことをカバーし、不安を取り除くようなさまざまなサービスを提供している」と述べ、DXによる地域活性化のモデルケースを示した。

 スノーピークの高井文寛副社長は「2011年に地元の遊休地に本社を移した。地方創生という観点では、地元の遊休地に年間大体4万人以上のキャンパーが訪れている。スノーピークは全ての社員がキャンパーであるというような企業である。このキャンパーの集まりが自然の中の価値観や、キャンプの中にある価値観と体験価値という部分を、アーバンアウトドアというところで街づくりから、それと自分たちのフィールドの自然の中までというところを繋ぐ形で多くのビジネスを展開している。その事業領域を包括的に地方創生の場に活かしている」とした。

 続けて、周教授が「今回のアンケートの中で『将来住みたい場所』を聞いた。吉祥寺や東京が圧倒的で、人気だ。あとは三鷹、立川が続いた。しかし、昔人気あった国立が今の若い人たちには人気があまりないだ」と紹介した。これに対し、新井良ルミネ取締役相談役は「なぜこのように国分寺が大変な状況を迎えているのか。あるいは学生たちにとって不人気なのか、きちんと考え直さなくてはならない。なぜかというと、国分寺の駅の改良は私のときに手がけたが、その後、恐らく手がけていない。そういう意味では、地域包括の行政との取り組みがなされていないのではないかと大変懸念している」と指摘した。

 続けて、「頭から血を出すぐらい考えないと、新しいアイデアは生まれない。長期展望に立たないとオリジナリティは出ない。誰でも考えているわけですから。皆さん、そこのところを1歩でも2歩でも先んじることだと思います。それと疑問があったら、必ずそのままにしないで、行政なりに、何か言ってほしい。それを問いただしていくことだと思う」と地域活性化に向けてエールを送った。

 コメンテーターの鑓水洋・環境省大臣官房長は「地域と若者の関係性という観点からすると、大学の果たす役割が非常に重要かと思っている。今回このように周ゼミが地域のことを考え、大学としてどういうことをできるかという、このようなセッションを作ったことは、すごく地域貢献にこの大学が関わっていきたいという姿勢の表れではないか」と語った。続けて、「コロナ禍ではあるが、本物、リアルの世界にぜひ触れてもらい、自分をまた磨いてほしい」と学生にエールを送った。

https://youtu.be/CYD5h35T5tA

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