【出版パーティ】「中国都市総合発展指標」日本語版が出版。中国指標の海外初デビュー

 中国国家発展改革委員会発展計画司と雲河都市研究院が共同編纂した中国都市総合発展指標(以下、〈指標〉)日本語版が2018年6月、日本全国で発売された。指標の中国語版はすでに2016年版と2017年版が出版後、各界から高く評価されており、本書は中国の都市を評価する指標としては、国際社会初登場となる。

 〈指標〉日本語版中国都市ランキング−中国都市総合発展指標(NTT出版社)は、全カラーで、中国295の地級市以上都市を全て網羅した巨大な情報量を、グラフィックに再現している。指標は「3×3×3」項目で構成されている。すなわち環境、社会、経済の3つの軸を立て、それぞれまた3つの中項目に分け、さらにそれを3つの小項目に細分化した。最新の統計データだけではなく、衛星リモートセンシングデータやビッグデータも活用、133項目の指標データをもとに都市を全面的に分析している。

■ 各界第一人者が大勢来場


 中国都市ランキング−中国都市総合発展指標出版に伴い、記念パーティが7月19日、東京で行われた。海江田万里衆議院議員・民主党元党首杉本和行公正取引委員会委員長・元財務事務次官福川伸次東洋大学理事長・元通産事務次官森本英香環境事務次官ら、日本の官界・政界、産業界・学術界の第一人者が大勢お祝いに駆けつけた。

 開会挨拶をした南川秀樹元環境事務次官は、周教授の指標作成への情熱とリーダーシップを讃え、指標出版を祝った。

開会挨拶をする南川秀樹元環境事務次官

 安斎隆セブン銀行特別顧問・元会長は、「都市は多角的に、分度器で図るようにして見なければならない。この指標を元に競い合うことが都市の発展を支えるだろう」と展望した。

乾杯挨拶をする安斎隆セブン銀行特別顧問・元会長

 中国からは3人の祝辞が代読された。楊偉民中国人民政治協商会議常務委員・中国共産党中央財経領導小組弁公室元副主任が、「指標は、日中両国学術研究の結晶。環境、社会、経済の三つの角度から中国の都市を捉え、その発展の成果と代価を評価した点で、また中国の都市化の経験と教訓を論理的にまとめ、総括した点で、更に中国と世界の都市化の道のりを探索した点で重要な意義を持つ」とし、「中国の都市化への理解はすなわち中国を理解することだ。日本語版出版で日本の皆さまが中国の都市化を理解し、中国の数十年来の変遷への認識を深める上で、一つの道筋が与えられる」と述べた。

 徐林中国城市和小城鎮改革発展センター主任・中国国家発展改革委員会発展計画司元司長は、「周教授と私の二人で発起人となって作成した指標の目的は、都市の発展状況をGDPだけでなく全面的に評価し、それにより各都市が活路を見出し易くすることにあった」と紹介。「今後20年、中国は更に2億人を超える人びとが農村から都市部に入り、多くの都市がメガシティ、そしてメガロポリスになる。このプロセスで、中国は日本の成功に誠実に学ぶことが必要だ」と述べた。

 杜平中国第13次五カ年計画専門委員会秘書長・中国国家信息センター元常務副主任は、「従来の中国の都市化について、今まさに客観的に総括する時だ」とし、「中国は都市化によりもたらされた環境汚染など深刻な大問題に果敢に取り組んでいく必要があり、この点、中国国家発展改革委員会発展計画司と雲河都市研究院が共同で作り上げた指標は、非常に大きな意味がある。本書の客観性、国際性、学術性、権威性は中国の今後の都市発展に、絶えず大きな影響力を示していく。大勢の日本の皆さんが中国都市をより理解し、日中協力の機会が広がることを確信している」と述べた。

 メッセージではまた山本和彦森ビル元副社長が、「この指標に関わった者の一人として、指標が今後更に進化、発展し日本、中国にとってより良い都市とは何か、どうしたら作れるのかの研究と実践が進むことを長年都市開発、まちづくりに関わる者として期待している」と述べた。

左から竹岡倫示・日本経済新聞社専務執行役員、横山禎徳・東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム特任教授、大西隆・豊橋技術科学大学学長、周牧之・東京経済大学教授

■ セミナーで指標解説


 続いて、「中国都市総合発展指標は何故必要なのか?」と題したセミナーが開かれ、大西隆豊橋技術科学大学学長・日本学術会議元会長は、「指標は想像を絶する勢いで進む中国都市化を分析した処方箋である」と紹介し、「経済、環境、社会のバランス良い発展、新旧の文化を大切にした発展への知恵袋になって欲しい」と期待した。

セミナー会場の様子

 指標の経済、環境、社会の3×3×3構造の原案を考えた横山禎徳東京大学EMP特任教授は、「都市は、生活、産業、学問などのインターリンケージの集積である」と述べ、それを示すのが指標であり、都市をどうデザインするかが重要で、指標が大いに活用できると述べた。

 指標編著者の周牧之東京経済大学教授は、膨大なデータから整合性ある使えるデータを見極め、整理した指標作成の苦労の一端を披露した。その上で指標の、「人口密度」「水資源」「輻射力」など数多くの情報を盛り込み作成した図表を示しながら中国都市のパフォーマンスを解説。「中国のメガロポリス化が進む中、指標で、中国の都市のビヘイビア(Behavior)の変革を促したい」と述べた。

セミナー会場の様子

 司会を務めた竹岡倫示日本経済新聞社専務執行役員は、以前自身が関わった日本経済新聞社による企業評価指標が、「利益追究にのみ傾いた経営でバブルをもたらした日本企業の在り方を変えた」と紹介しつつ、「この中国都市ランキングは、中国経済の細胞たる都市の改革を促すであろう」と強調した。

周牧之・東京経済大学教授による閉会挨拶

■ 指標への絶賛と期待


 席上、挨拶に立った福川伸次は「指標には今後、お笑いや美術市場、美味しいレストランなど文化分野で、都市の状況を盛り込み、AI技術を駆使して分析し、都市の魅力の多様化に繋げて欲しい」と期待した。

祝辞を述べる福川伸次東洋大学理事長・元通産事務次官

 杉本和行氏は「指標には中国の都市の持つ課題が提示された」と高く評価した。

祝辞を述べる杉本和行公正取引委員会委員長・元財務事務次官

 森本英香氏は、「膨大なデータを一枚の図にして多数提供した。中国の行方を見定める指標として学ぶところが多い。これは世界の環境問題の解決を、日中でリンクして進めるきっかけになる」と力説した。

祝辞を述べる森本英香環境事務次官

 中国大使館の阮湘平公使参事官は、「改革開放40周年、日中平和友好条約40周年の節目に出版された、さながら人間ドックの“都市版”とも言えるこの指標が、定期的に中国の都市発展上、警鐘を鳴らす存在であって欲しい」と述べた。

祝辞を述べる阮湘平・中国大使館公使参事官

 古川実日立造船相談役・元会長は、「先日、深圳市を訪問したところ連日素晴らしい青空が広がっていた。深圳はまさに中国都市ランキング環境No.1の通りの都市であった」とし、同社のゴミ焼却炉、肥料製造など環境関連技術を紹介し、「引き続き中国の環境改善に貢献したい」と決意を表明した。

祝辞を述べる古川実日立造船相談役・元会長

 新井良亮ルミネ相談役は、「指標は、環境、経済、社会の三つの視点で都市を見たときの、人びとや企業が考えるべきことを提示した」と述べた。

祝辞を述べる新井良亮・ルミネ相談役

 宮島和美ファンケル副会長執行役員・元会長は「中国の広大さを実感させられる295都市を全て網羅した」と、同指標の重要さと有益性に言及した。

祝辞を述べる宮島和美・ファンケル副会長執行役員・元会長

 武田信二東京放送ホールディングス会長は、「この指標は、現代中国の都市思想の拠り所になりうる」と絶賛。

祝辞を述べる武田信二・東京放送ホールディングス会長

 森本章倫早稲田大学教授は、「指標を使い、共に中国と日本の役に立つ研究を周先生と一緒に進めて行きたい」と述べた。

祝辞を述べる森本章倫・早稲田大学教授

 島田明日本電信電話副社長は、「中国語版指標を手に取った時、これの日本語版があるといいねという話になった。それが実現した」と喜びを語り、「データ解析などの手段で、日本と中国が一緒に発展する手伝いをさせて頂きたい」と語った。

祝辞を述べる島田明・日本電信電話副社長

 前多俊宏エムティーアイ社長は、「周教授は10数年前からメガロポリス発展戦略、都市化など今の中国の状態や課題を言い当ててきた。指標のランキングそのものがメッセージであり、これから10年後の中国、そして世界に色々な影響を与えるとものとなる」と讃えた。

祝辞を述べる前多俊宏・エムティーアイ社長

 中井徳太郎環境省総合環境政策統括官は、「地球全体と人間とが折り合いの付いていない現在、持続可能性をどう追求するかを見極めて実行する時期にきている。この視点で、指標が3×3×3の構造で可視化した中国の都市発展を日中協同で進めていきたい」とパーテイを締めくくった。

祝辞を述べる中井徳太郎・環境省総合環境政策統括官
パーティ会場の様子

中国網日本語版(チャイナネット)」2018年7月23日

【フォーラム】〈中国都市総合発展指標2018〉 フォーラム

〈中国都市総合発展指標2018〉フォーラムにて

 中国国家発展委員会発展戦略和計画司と雲河都市研究院が主催する「中国都市総合発展指標2018フォーラム」が2018年12月27日、北京・中国科学院学術会堂で開催された。フォーラムでは中国都市総合発展指標2018報告書が発表された。報告書は環境・社会・経済という3つの軸から、298にのぼる中国のすべての地級市以上の都市を評価した。

 同指標は中国国家発展委員会発展戦略和計画司と雲河都市研究院が共同で開発した。報告書の特徴の1つは、中国の都市化の現状に鑑み、毎年メインテーマを定めて報告書を公表することにある。2016年のテーマはメガロポリス発展戦略、2017年は中心都市発展戦略、2018年は大都市圏発展戦略に焦点を絞った。2016年から中国都市総合発展指標におけるすべての地級市以上の都市のランキングは公表している。

 フォーラムではまず、中国都市総合発展指標2018総合ランキング、そして「環境」、「社会」、「経済」三大項目ランキングを発表した。


中国都市発展の質的向上のキーはDID


 中国都市総合発展指標専門家委員長の周牧之東京経済大学教授は、報告書を発表し、中国都市化の特徴として、各機能が高度に大都市に集中していることを取り上げ、解説した。

 周牧之氏はさらに、報告書が独自に導入した「人口集中地区(DID)」という概念を使用し、中国都市発展の質を分析した。「中国では人口規模・密度が都市の環境およびインフラに及ぼす負荷を過度に強調しており、高密度人口が都市発展活力の重要な基礎であるとの認識に欠けている。中国は今後この誤った認識を正し、DIDの規模と質の向上を通じて都市の活力を高めるべきだ」と指摘した。

 報告書は2000〜2016年の中国都市化の重要指標を分析した。これによると、同期間に中国の実質GDPは約4.3倍に、都市部市街地面積は約2.8倍に膨らんだ。しかし、DID人口は僅か20%しか増加しなかった。周牧之氏は「土地の都市化のスピードが人口の都市化のそれをはるかに上回っていた」と説明した。

 またこの期間中、中国の1人当たり実質GDPは約3.9倍となった。GDP単位当たりのエネルギー消費量は40%減少し、GDP単位当たりのCO2排出量は30%減少した。しかし1人当たりのエネルギー消費量が大幅に増加し、1人当たりの電力消費量は4.3倍になった。その結果、CO2排出量が約3.1倍に激増し、中国は世界最大のCO2排出国になった。周牧之氏は「中国は経済発展と都市建設のクオリティを高める必要がある」と指摘した。

北京 VS 東京


 中国都市総合発展指標のもう1つの特徴は、都市の国際比較を可能としたことにある。

 報告書は人口、GDP、CO2排出量、PM2.5など指標について、東アジア2大都市圏である北京都市圏(北京)と東京都市圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)を比較分析した。それによると、北京市の面積は、東京都市圏の約1.2倍であるが、常住人口とDID人口はいずれも東京都市圏の約60%に留まる。北京のGDP規模は東京都市圏の3割程度で、1人当たりGDPも半分前後となっている。しかし北京のGDP当たりエネルギー消費量は東京都の7.4倍で、単位当たりGDPのCO2排出量は東京都市圏の4.7倍となっている。その結果、人口とGDPの規模で東京都市圏を大きく下回る北京だが、CO2排出量はその1.2倍となった。

 周牧之氏は「東京都市圏と比べると、北京は都市圏発展戦略の実施を通じ、DID空間構造、経済構造、ライフスタイルを改善し、資源効率を高めるべきである」と話した。

都市を理解するフレームワーク


 上海浦東新区管理委員会で初の主任を務めた趙啓正中国国務院新聞弁公室元主任はフォーラムへメッセージを寄せた。「報告書は都市を理解する新たな理念とフレームワークを提供した。これは中国の市長にとって極めて役立つ参考書だ」と評価した。

 趙啓正氏はまたメッセージの中で、人の健康を多くの重要指標で測るのと同じように、都市という「大きな体」も指標で測るべきだとした。

 趙啓正氏はまた、「今日の中国都市建設は、中国都市総合発展指標が提供する理念、合理性と総合性の枠組みを必要としている。これは時代の要請だ」と述べた。

都市のハイクオリティ発展を促す指標へ


 中国都市総合発展指標専門家委員会の首席専門家、中国共産党中央財経領導小組弁公室元副主任の楊偉民氏がフォーラムに出席し、基調講演した。楊偉民氏は、環境・社会・経済という3つの軸から都市の発展を評価する同指標を、中国都市の健康状況を見極める総合的な「健診報告」にたとえ、「どの都市が比較的健康で、どの都市がどういった問題を抱えているかが分かる。その意味では指標は、都市の進むべきディレクションを示した」と述べた。

 楊偉民氏は、中国におけるハイクオリティ発展を論じた上で、ハイクオリティ発展を目指した都市間の競争を促す指標が必要とされ、中国都市総合発展指標はすでにこうした機能を備えている」と述べた。楊氏はさらに、同指標を中国都市のハイクオリティな発展を検証する指標体系として明確に位置付けなければならないとし、中国国家発展改革委員会発展戦略和計画司に、そのことを上級指導機関へ報告すると同時に、各都市へも中国都市総合発展指標を推薦すると指示した。

「楽譜」の特徴と今後の展開


 周其仁北京大学教授は、中国都市総合発展指標を都市発展の「楽譜」にたとえ、各都市の市長らはこの「楽譜」を読み込む力を高めることが大切だと指摘した。

 中国統計局元局長の邱暁華氏は、同指標を中国都市発展の羅針盤、年鑑、成績表そして診断表でもあるとし、指標の製作と発表を続けていくことの意義を強調した。

 中国国土資源部(省)元副部長の胡存智氏は、「3×3×3構造」に着目し、指標体系の簡潔さを評価した。また同指標のデータの中で、衛星リモートセンシングデータやビッグデータを取り入れたことの意義を力説した。

 中国国家戦略新興産業発展委員会秘書長の杜平氏も、中国都市総合発展指標を指標構造、データ選定、指標開発、国際比較など4つの特徴から分析した。同指標を先見性と戦略性を持ち、ハイクオリティの発展を求める中国の都市にとって実用性の高い政策・計画ツールであると讃えた。

 さらに、中米グリーンファンド会長の徐林氏、中国科学院創新発展研究センター主任の穆栄平氏、人民出版社副社長の李春生氏、中国国家統計局社会科学技術文化産業司司長の張仲梁氏北京政治協商会議副秘書長の李昕氏らが、同指標の今後の展開について議論した。

 中国国家発展委員会発展戦略和計画司副司長の周南氏が司会を務め、各省庁関係者、都市問題専門家およびメディア関係者ら約50人がフォーラムに出席した。

【フォーラム】北京、上海、深圳がトップ3 中国都市総合発展指標2018が北京にて発表

 中国国家発展改革委員会発展計画司と雲河都市研究院が主催する「中国都市総合発展指標2018フォーラム」が2018年12月27日、北京市で開催された。会議では中国都市総合発展指標2018報告書が発表された。報告書は環境・社会・経済という3つの軸から、中国のすべての地級市以上の都市(298都市)を評価した。
 同報告書は中国国家発展改革委員会発展計画司と雲河都市研究院が共同作成。2016年の「メガロポリス発展戦略」、2017年の「中心都市発展戦略」というテーマに続き、2018年の報告書は「大都市圏発展戦略」に焦点を絞った。中国の大都市圏の発展の現状、直面している課題を整理し、論じた。

 


<中国都市総合発展指標2018> 都市ランキング発表


中国都市総合発展指標2018総合ランキング
中国都市総合発展指標2018総合ランキング

 報告書によると、〈中国都市総合発展指標2018〉総合ランキングでは、昨年同様、北京、上海、深圳がトップ3となった。4−10位は広州、天津、杭州、重慶、成都、南京、武漢となった。

中国都市総合発展指標2018環境ランキング
中国都市総合発展指標2018環境ランキング

 「環境」大項目のトップ3は、これも昨年同様に深圳、三亜、海口。4−10位は普洱、北京、アモイ、広州、上海、福州、重慶となった。北京はPM2.5の状況改善により順位を上げた。

中国都市総合発展指標2018社会ランキング
中国都市総合発展指標2018社会ランキング

 「社会」大項目のトップ3は、やはり昨年同様北京、上海、広州。4−10位は杭州、天津、重慶、成都、深圳、武漢、南京であった。

中国都市総合発展指標2018経済ランキング
中国都市総合発展指標2018経済ランキング

 「経済」大項目のトップ3も昨年同様で、上海、北京、深圳となった。4−10位は広州、天津、蘇州、成都、杭州、重慶、武漢であった。

 

各機能が高度に大都市に集中


 中国都市総合発展指標専門家委員長の周牧之東京経済大学教授は、報告書を発表するにあたり「各指標を総合的に見ると、中国では、各種機能が大都市に高度に集中する傾向があり、都市の二極化が非常に顕著だ」と指摘した。
 GDP規模で見ると、上位30都市が全国GDPに占める比率は42.5%となっている。メインボード上場企業数を見ると、上位30都市が全国に占める比率は69.7%で、うち上位3都市は全国の39.6%を占めている。製造業輻射力を見ると、上位30都市の貨物輸出が全国に占める比率は74.9%に達している。空港利便性を見ると、上位30都市の旅客取扱量は81.3%にのぼる。コンテナ港利便性を見ると、上位30都市のコンテナ取扱量は97.8%に達した。高等教育輻射力を見ると、上位30都市の“211大学”・“985大学”(中国トップ校)の数は全国の92.8%をも占めている。医療輻射力を見ると、上位30都市の“三甲病院”(トップ級病院)の数は全国の約50.2%にのぼる。

 

中国都市発展の質的向上のキーはDID


 報告書の大きな特色の一つは、「人口集中地区(DID)」という概念を導入し、中国都市発展の質を分析した。報告書は人口が1平方キロメートル当たり5000人以上の地区をDIDと定義し、DID人口と主要指標との相関関係を分析した。その結果、DID人口と都市発展の活力及び品質の間に、極めて高い関連性があることを確認した。
 周牧之氏は「中国では人口規模・密度が都市の環境及びインフラに及ぼす負荷を過度に強調しており、高密度人口が都市発展活力の重要な基礎であるとの認識に欠けている。中国は今後この誤った認識を正し、DIDの規模と質の向上を通じて都市の活力を高めるべきだ」と指摘した。

 

中国では人口の都市化より都市エリアの拡張が速い


 周牧之氏は「中国経済の真の大発展は21世紀以降に起きた。その大発展を促した2つの原動力は、WTO加盟後の国際貿易と都市化だ」と述べた。
 報告書は2000−16年の中国都市化の重要指標を分析した。分析によると、この期間に中国の実質GDPは約4.3倍に、都市部市街地面積は約2.8倍に膨らんだ。しかし、DID人口は僅か20%しか増加しなかった。周牧之氏は「土地の都市化のスピードが人口の都市化のそれをはるかに上回っていた」と説明した。
 またこの期間中、中国の一人当たり実質GDPが約3.9倍になった。GDP単位あたりのエネルギー消費量は40%減少し、GDP単位あたりのCO2排出量は30%減少した。しかし1人あたりのエネルギー消費量が大幅に増加し、1人あたりの電力消費量は4.3倍になった。その結果、CO2排出量が約3.1倍に激増し、中国は世界最大のCO2排出国になった。周牧之氏は「中国は経済発展と都市建設のクオリティを高める必要がある」と指摘した。

 

北京 VS 東京


 報告書は人口、GDP、CO2排出量、PM2.5など指標について、東アジア2大都市圏である北京都市圏(北京)と東京都市圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)を比較分析した。それによると、北京市の面積は東京都市圏の約1.2倍であるが、常住人口とDID人口はいずれも東京都市圏の約60%に留まる。北京のGDP規模は東京都市圏の3割程度で、1人あたりGDPも半分前後となっている。しかし北京のGDPあたりエネルギー消費量は東京都の7.4倍で、単位当たりGDPのCO2排出量は東京都市圏の4.7倍となっている。その結果、人口とGDPの規模で東京都市圏を大きく下回る北京だが、CO2排出量はその1.2倍となっている。
 周牧之氏は「東京都市圏と比べると、北京は都市圏発展戦略の実施を通じ、DID空間構造、経済構造、ライフスタイルを改善し、資源効率を高めるべきである」と話した。

 

中国の都市を理解する枠組み


 上海浦東新区管理委員会で初の主任を務めた中国国務院新聞弁公室元主任の趙啓正氏はフォーラムへのメッセージの中で、「報告書は都市を理解する新たな理念と枠組みを提供した。これは中国の市長にとって極めて役立つ参考書だ」と指摘した。
 趙啓正氏はまたメッセージの中で、人の健康を多くの重要指標で測るのと同じように、都市という「大きな体」も指標で測るべきだとした。
 趙啓正氏はまた、「今日の中国都市建設は、中国都市総合発展指標が提供する理念、合理性と総合性の枠組みを必要としている。これは時代の呼び声だ」と述べた。
 中国都市総合発展指標専門家委員会の首席専門家、中国共産党中央財経領導小組弁公室元副主任の楊偉民氏がフォーラムに出席した。楊偉民氏は、「報告書は環境・社会・経済という3つの軸から都市の発展を評価し、どの都市が比較的健康で、どの都市がどういった問題を抱えているかが分かる。その意味では指標は、都市の進むべきディレクションを示した」と述べた。
 北京大学教授の周其仁氏、中国国土資源部(省)元副部長の胡存智氏、中国統計局元局長の邱暁華氏中国国家戦略新興産業発展委員会秘書長の杜平氏中米グリーンファンド会長の徐林氏国家統計局社会科学技術文化産業司司長の張仲梁氏中国国家発展改革委員会発展計画司副司長の周南氏など、都市問題専門家及びメディア関係者50人以上がフォーラムに出席した。

 中国都市総合発展指標の2016年版と2017年版の日本語版は、すでに各々中国都市ランキングー中国都市総合発展指標中国都市ランキング2017―中心都市発展戦略のタイトルで、NTT出版から刊行された。


「中国網日本語版(チャイナネット)」2018年12月30日

【書評】全295都市を精査 データ、図解で活況提示

評者 高橋克秀(国学院大学教授)

 中国のおよそ300の都市を独自の「都市総合発展指標」によってランキングし、上位都市の強みと弱みを分析したリポートである。それぞれの都市を環境、社会、経済など27項目のデータから客観的に評価した点に特徴がある。

 総合ランキング1位は北京市。上海市は僅差の2位となった。北京と上海は別格として、3位に食い込んだのは、いま中国で最も勢いがある新興都市である。長い歴史を誇る広州市と天津市を抑えて、深圳市が堂々の上位に進出した。人口3万人の漁村だった深圳は40年足らずで1000万人都市となり、中国のシリコンバレーに変貌した。

 1980年に経済特区に指定された当初は安価で豊富な労働力を利用した輸出加工拠点として成長し、「世界の工場」のモデルとなった。しかし近年はイノベーション都市に進化した。深圳からはテンセント、ZT E、ドローンのDJI、電気自動車のBYDなど世界的企業が生まれている。

 深圳の強みは若さと起業家精神だ。平均年齢は32.5歳。15歳未満人口は13.4%。生産年齢人口である15歳以上65歳未満が83.2%を占め、65歳以上は3.4%にすぎない。起業マインドが旺盛で、1人当たりの新規登録企業数は北京の3倍だ。

 さらに、広州から深圳を経由して香港に至る広深港高速鉄道が今年9月に全線開通したことで、「珠江デルタ」と呼ばれるこの地域が巨大な経済圏として浮上してきた。東莞、仏山、中山など有力都市も含む珠江デルタの域内GDP(国内総生産)は2025年までに310兆円に達するという試算もある。

 上海の西部に位置する6位の蘇州市は風光明媚な観光地のイメージが強かったが、90年代以降は大規模な工業団地を造成して外資系製造業を造成して外資系積極的に呼び込んで急成長した。しかし、古都の風情は失われた。7位の杭州市も古くから栄えた景勝地だが、99年に設立されたアリババ(中国の情報技術企業)がけん引役となってIT都市へと変貌した。

 一方、8位の重慶市は世界最大級の3000万人の人口を擁しながら人口流出が目立つ。ランキング20位入りした都市は西部沿海部と内陸の拠点都市が大半。東北地方からは大連市が19位に入っただけである。

 現代中国の都市間競争のカギはスタートアップ企業の活力とイノベーションのようだ。本書の残念な点は21位以下のランキング表が載っていないことである。地方都市の情報を盛り込んだ改訂版を期待したい。


【掲載】週刊エコノミスト 2018年10月16日号