【上海】中国最大の経済規模を誇る「魔都」【中国都市総合ランキング】第2位

中国都市総合発展指標2022〉第2位


 上海は7年連続で総合ランキング第2位を獲得した。

 上海の「経済」大項目は7年連続で第1位を保持している。中項目で見ると、「経済品質」「都市影響」の2つが堂々の第1位であった。「発展活力」は第2位であった。小項目では「経済規模」「開放度」「広域中枢機能」の3つが2016年から連続で全国第1位の好成績を収めている。

 「社会」大項目で上海は7年連続で第1位を保持している。「生活品質」「伝統・交流」「ステータス・ガバナンス」の3つの中項目は、2017年から引き続き第2位であった。小項目から見ると、「人的交流」「社会マネジメント」「消費水準」は北京を越え第1位を勝ち取った。「都市地位」「文化娯楽」「居住環境」「生活サービス」の4つの小項目指標では、第2位となっている。

 「環境」大項目で上海は2年連続で第2位を保持している。3つの中項目指標の中で「空間構造」は首位の座を守ったが、「環境品質」「自然生態」は、それぞれ第14位と第123位であった。小項目指標から見ると、「環境努力」「コンパクトシティ」「都市インフラ」は第2位、「交通ネットワーク」は第3位となった。一方で「水土賦存」「気候条件」「自然災害」「汚染負荷」などの小項目のパフォーマンスは芳しくなかった。

 中国都市総合発展指標2022について詳しくは、中心都市がメガロポリスの発展を牽引:中国都市総合発展指標2022を参照。


■ 世界に誇る一大商業都市


 上海市は中国四大直轄市の1つで、長江デルタメガロポリスの中枢都市である。同市の面積は約6,340平方キロメートルで群馬県とほぼ同じ大きさであり、常住人口は約2,489万人と東京都の人口の約1.8倍の規模を誇る。GDPは4.32兆元(約86.4兆円、1元=20円)で中国の地級市以上の297都市の中で堂々第1位、国別で比較すればそのGDP規模は世界25位であるベルギー一国のGDPを超えている。

 世界有数の金融センターに成長した上海浦東エリアは、ほんの20数年前まではのどかな田舎だった。1992年に「浦東新区」に指定されたことを契機として摩天楼が次々と建設され、「中国の奇跡」と讃えられるほど急速に発展していった。

 現在、上海市内には証券取引所、商品先物取引所、そして合計8カ所の国家級開発区と、自由貿易試験区、重点産業基地、市級開発区等が設置されている。〈中国都市総合発展指標2021〉の「金融輻射力」においても、上海市は第2位の座に輝いている。

 同市の広域インフラ機能も突出しており、本指標の「空港利便性」、「コンテナ港利便性」において上海は第1位となっている。上海虹橋国際空港と上海浦東国際空港を合わせた2021年の旅客輸送者数は約6,500万人に達し、航空貨物は約437万トン取り扱われ、いずれも中国随一の処理能力を持つ。港湾機能では、コンテナ取扱量が世界で12年連続第1位に輝き、その規模は4,703万TEU(20フィートコンテナ1個を単位としたコンテナ数量)(2021年)に達している。

 上海市の流動人口(戸籍のない常住人口)は約987.3万人に達し、常住人口の約4割が外からの流入人口となっている。本指標の「人口流動」項目で、上海市は第1位となっている。2015年末時点では、外国人は約17.8万人、日本人は約4.6万人が居留している。短期滞在者も含めると約10万人もの日本人が暮らしており、日系企業も約1万社が上海に居を構えている。

 2018年1月、市政府は「上海市都市総体計画(2017—2035年)」を発表した。計画の特徴の1つに人口抑制政策が挙げられる。人口集中による弊害を懸念する同市政府は人口を厳しく抑制し、2020年までに常住人口を2,500万人にまで抑え、2040年までその水準を保つことを打ち出した。上海市政府は以前から人口抑制政策を進めており、同市政府発表によると、2017年末の市内の常住人口は2016年末に比べ約1万人減少した。

■ ラグジュアリーブランド消費を牽引


 過去20年間、グローバリゼーションは世界の富を急速に増やし、国際的な高級品消費も前例のない成長を遂げた。2022年、世界の個人向け高級品市場は2000年の3倍に膨れ上がった。なかでも中国の経済成長による高級品消費益は際立っている。2019年には、中国が世界の個人向け高級品市場の33%を占めた。新型コロナウイルスのパンデミック下ではそのシェアが若干減少したものの、中国のシェアは2030年までに世界の40%に達すると予測されている。

 中国都市総合発展指標に基づき、雲河都市研究院は毎年、全国297の地級市以上の都市を対象にした「中国都市ラグジュアリーブランド指数」を発表している。この指数は、エルメス、ルイ・ヴィトン、グッチ、カルティエ、プラダ、フェンディ、コーチ、シャネル、ディオール、バーバリー、ブルガリの、世界の11のラグジュアリーブランドをサンプルとし、これらのブランドが中国各都市で持つ店舗数を指数化し分析を行っている。

 「中国都市ラグジュアリーブランド指数2022」のトップ10都市は、上海北京成都杭州西安深圳天津重慶瀋陽武漢で、同10都市の国際的なトップブランド店舗数は全国の53.8%を占める。特に上海と北京の店舗数の多さが目立っている。両都市は中国のラグジュアリーブランド消費を牽引している(詳しくは『【ランキング】誰がラグジュアリーブランドを消費しているのか?』を参照)。

図 中国都市ラグジュアリーブランド指数2022ランキング

■ 映画大国の先頭に立つ


 中国が世界最大の映画市場になる中、上海は映画観客動員数と映画興行収入の先頭を走っている。

 中国都市総合発展指標に基づき、雲河都市研究院は中国全297地級市以上の都市(日本の都道府県に相当)をカバーする「中国都市映画館・劇場消費指数」を毎年モニタリングしている。

 『中国都市総合発展指標2021』で見た「中国都市映画館・劇場消費指数2021」ランキングのトップ10都市は、上海、北京、深圳、成都、広州、重慶、杭州、武漢、蘇州、長沙となっている。長沙が西安を抜いてトップ10入りを遂げた。同ランキングの上位11〜30都市は、西安、南京、鄭州、天津、東莞、仏山、寧波、合肥、無錫、青島、瀋陽、昆明、温州、南通、南昌、福州、済南、金華、南寧、長春となっている。

 ゼロコロナ政策で市民生活を取り戻したおかげで、映画観客動員数において、同トップ30都市は、軒並み2〜3桁台の高い回復力を見せた。結果、映画観客動員数は中国全土で前年度より倍増した。

図 2021中国都市映画館・劇場消費指数ランキング トップ30

 「中国都市映画館・劇場消費指数2021」からは、さらに次のような都市と映画興行の関係が見えてくる。

 中国で映画興行収入の最多都市:映画興行収入のトップ10都市は、上海、北京、深圳、成都、広州、重慶、杭州、武漢、蘇州、長沙である。

 中国で映画鑑賞者数の最多都市:映画鑑賞者数が多いトップ10都市は、上海、北京、成都、深圳、広州、重慶、武漢、杭州、蘇州、西安である(詳しくは『【ランキング】世界で最も稼ぐ映画大国はどこか?』を参照)。

図 2021中国で最も映画好きな都市ランキング トップ30
(一人当たり映画館での鑑賞回数)

2021映画興行収入世界ランキングトップ10入り中国映画

■ エンターテインメント産業が爆発


 所得水準が向上したことにより、中国の消費者の関心はモノ消費からコト消費に向かっている。一例として中国のテーマパーク産業の急激な発展がある。現在、国内には2,500カ所以上のテーマパークがあり、とりわけ5,000万元(約8.5億円)以上を投資したテーマパークは約300カ所もある。2016年6月、中国で初のディズニーパークとなる「上海ディズニーランド」が開園した。総工費は「東京ディズニーシー」の約2倍となる約55億ドル(約6,500億円)、面積は約390ヘクタールで、これも「東京ディズニーランド」(200ヘクタール)の約2倍の広さを誇る。入場者数は開業1年で1,100万人を動員、黒字を実現し、現在も拡張工事が進められている。

■ 自動車産業


 中国は現在、世界最大の自動車生産大国、消費大国、そして輸出大国となっている。上海は中国の自動車大国を牽引している。

 中国都市総合発展指標に基づき、雲河都市研究院は中国全297地級市(地区級市、日本の都道府県に相当)以上の都市をカバーする「中国都市自動車産業輻射力」をモニタリングしている。輻射力とは特定産業における都市の広域影響力を評価する指標である。自動車産業輻射力は都市における自動車産業の従業員・企業集積状況や企業資本・競争力を評価したものである。「2020年中国都市自動車産業輻射力」は、2019年から2020年にかけて中国各都市で公表された「第4回全国経済センサス(第四次全国経済普査)」をベースに算出した。

 中国都市総合発展指標2020で見た「2020年中国都市自動車産業輻射力」ランキングの上位10都市は、上海、長春、重慶、広州、武漢、蘇州、北京、十堰、天津、襄陽となった。特に、トップ3都市の上海、長春、重慶の輻射力は抜きん出ている。

 同ランキングの上位11〜30都市は、瀋陽、柳州、無錫、成都、南京、蕪湖、寧波、南昌、常州、杭州、揚州、長沙、深圳、済南、温州、西安、青島、仏山、合肥、鎮江である。これらの都市には中国自動車メーカの本社機能や主要工場が立地している。

図 2020年中国都市自動車産業輻射力ランキング

 近年、環境問題が世界的な課題となる中で、電気自動車(EV)が注目を集めている。自動車大国となった中国では、猛烈な勢いでEVの普及と生産に官民一体となって取り組んでいる。

 2023年、中国は世界のEV販売台数と生産台数のダントツ1位である。中国の自動車輸出もEVの貢献度が高い。世界的なEV大手テスラの最初のメイン工場も上海にある(詳しくは『【ランキング】自動車大国中国の生産拠点都市はどこか?』を参照)。

■ 世界で最も港湾コンテナ取扱量が多い都市


 2020年世界における都市港湾コンテナ取扱量ランキングのトップ30には、アジアの都市が21も含まれている。特に中国は、香港、高雄を含み12都市もランキングされている。アジアの時代を彷彿とさせる同順位のトップに立つのが上海である。

 ランキングのトップ10は、順に上海、シンガポール、寧波―舟山、深圳、広州、青島、釜山、天津、香港、ロッテルダムとなり、トップ10都市のうち、中国は香港を含み7都市(寧波と舟山をひとつにカウント)がランクインしている。コンテナ輸送における中国の圧倒的なパワーが浮かび上がる。

 同ランキングトップ30の中で、中国以外には唯一アメリカが複数の都市をランクインさせている。それは17位のロサンゼルス、19位のロングビーチ、20位のニューヨーク―ニュージャージーである。なお、日本は21位の京浜港(東京―横浜―川崎をひとつにカウント)だけがランクインした。

図 2020年世界における都市港湾コンテナ取扱量ランキング

 グローバリゼーションが加速する中、サプライチェーンの根幹である港湾機能は、国や都市にとって極めて重要な機能である。中国都市総合発展指標では、港湾機能を評価する「コンテナ港利便性」を採用し、毎年各都市でモニタリングを実施している。

 「コンテナ港利便性」は、都市における港湾へのアクセスおよび港湾処理機能を指数化した指標であり、都市中心部から港湾までの直線距離やコンテナ取扱量等のデータを合成し、独自に利便性を算出している。

 「2020年中国都市コンテナ港利便性」のトップ10都市は、順に、上海、深圳、寧波、青島、天津、広州、廈門、日照、蘇州、舟山となり、第1位の上海の突出ぶりが著しい。

 2020年には、上記トップ30都市で唯一、大連のコンテナ取扱量がマイナス成長に陥った。新型コロナウイルス禍で、中国の大多数の港湾都市がコンテナ取扱量のプラス成長を実現させた背景には、製造業輸出力の強靭さが窺える(詳しくは『【ランキング】世界で最も港湾コンテナ取扱量が多い都市はどこか?』を参照)。

図 2020年中国都市コンテナ港利便性ランキングトップ30都市

■ 中国で最も空港利便性が高い都市


 交通ハブ機能は、都市にとって極めて重要な機能であり、他の中枢機能を強化・増幅する基盤となる。中国都市総合発展指標では、空港機能を評価する「空港利便性」を採用し、例年各都市でモニタリングを実施している。

 「空港利便性」は、その都市における空港のアクセスおよび空港処理機能を指数化した指標であり、都市中心部から空港までの直線距離、空港旅客数、空港貨物取扱量、年間フライト数、遅延率、滑走路距離等のデータを合成し、独自に利便性を算出している。

 「2020年中国都市空港利便性ランキング」上位10都市は、上海、北京、広州、深圳、成都、重慶、昆明、西安、杭州、廈門であり、いずれも中心都市である。同上位10都市の順位は、2019年度から不動であった。

 「2020年中国都市空港利便性ランキング」の11位から30位都市は、鄭州、南京、海口、貴陽、長沙、青島、天津、三亜、瀋陽、武漢、ウルムチ、ハルビン、大連、済南、南昌、太原、寧波、フフホト、蘭州、南寧であり、海南島のリゾート地・三亜を除き、すべて中心都市であった。東京経済大学の周牧之教授は「コロナ禍の影響により国際旅行が中断され、国内旅行が中心となり、観光名所を抱える鄭州、貴陽、長沙、三亜等の都市が順位を上げた」と見ている(詳しくは『【ランキング】中国で最も空港利便性が高い都市はどこか?』を参照)。

図 2020年中国都市空港利便性ランキングトップ30都市

■ G60科学技術イノベーション回廊(G60上海松江科創走廊)で産業振興を


 現在、上海をはじめとした長江デルタエリアでは、G60科学技術イノベーション回廊(G60上海松江科創走廊)という目玉プロジェクトが進行している。2016年に発足した同プロジェクトは、米国ボストン周辺のルート128にハイテク企業を集積させたことに因み、高速道路G60の上海市松江区から浙江省金華市までの区間沿いに、イノベーション関連企業を集積させる試みである。その後、構想はさらに松江区から外側へ延びる他の高速道路や高速鉄道の沿線に広がった。現在、同プロジェクトに参加する都市は、上海(松江)、嘉興、杭州、金華、蘇州、湖州、宣城、蕪湖、合肥の9都市に及ぶ。

 この9都市の人口、GDPの合計は、それぞれ約5,672万人、約7.4兆元(約147.5兆円、2021年)にも達する。同構想は、9都市における環境、ロボット、自動車部品など基幹産業の連帯的な発展を促すために、産業パークの設置や、金融サービスの提携、人材の交流などの施策を打ち出した。また、長江デルタメガロポリスにおける地域協力のモデルとして、9都市間の通勤、通学、物流などを推し進めるインフラ整備や制度整備なども行っている。

 雲河都市研究院は同プロジェクトから要請を受け、「長江デルタG60科学技術イノベーション回廊ハイクオリティ発展指数」、「長江デルタG60科学技術イノベーション回廊一体化発展指数」の両指標を開発、プロジェクトの進捗状況を明らかにすると同時に、その方向性づくりに協力している。

中国各都市の科学技術発展の実態について詳しくは、【ランキング】科学技術大国中国の研究開発拠点都市はどこか?」を参照されたい。

■ 66日間に及んだ長期ロックダウン


 上海にとって2022年は新型コロナウイルスに苦しめられた一年であった。3月28日〜6月1日の間ロックダウン(都市封鎖)が実施され、その封鎖期間は66日間に及んだ。2020年の武漢のロックダウンに11日短いだけの長期戦であった。

 上海は中国最大の経済規模を誇る国際都市である。その上海で新型コロナウイルスの流行は、2022年1月中旬に始まった。最初は毎日数人の新規感染者が出る程度で、それが2月末まで続いた。しかし、3月初めからは、日々の新規感染者が数十人から数百人にまで急増し、3月下旬には1日あたり千人を超えた。ピークに達した4月28日は、1日で5,487人もの新規感染者が出た。

 ロックダウン期間の66日間、上海市でのべ57,486人の陽性感染者が報告され、1日あたり平均871人の新規感染者が出た計算になる。また中国では症状のある新規感染者と別途に、無症状感染者数の集計をしている。上海のロックダウン期間の無症状感染者数は773.7万人に達し、1日あたりでは平均11.7万人となった。

 全域でロックダウンを実施した武漢とは違い、上海のロックダウンは部分的に実施された。3月27日に上海市新型コロナ感染予防抑制活動指導グループ弁公室が通知を発表し、3月28日から4月5日まで、黄浦江を境に地区を分割し、PCRスクリーニング検査を実施するとした。公告によると、最初の封鎖地域には浦東、奉賢、金山、崇明の4地区と、閔行区が管轄する2つの街道、松江区が管轄する4つの町が含まれた。その時点での対象面積は約4,000平方キロメートルで、上海市全体の面積の60%以上を占め、対象人口は800万人まで広がった。

 その後、ロックダウンはさらに2カ月ほど伸び、6月1日まで長期に至った。ロックダウンの実施により新型コロナ感染状況は一時沈静化されたものの、年末のゼロコロナ政策の解除で再び感染が爆発して医療崩壊も起こり、人的損害が膨らんだ。

 結果、新型コロナ感染症は2022年の上海経済に大きな負の影響を及ぼした。

■ 上海自由貿易試験区臨港新片区


 上海で進む1つの目玉プロジェクトは「上海自由貿易試験区臨港新片区」(以下、新片区)開発プロジェクトである。2019年8月に発足した新片区は、上海中心部から南東へ約70キロメートルに位置し、総面積873平方キロメートルの巨大国家プロジェクトである。

 新片区は投資・貿易・資本・輸送・人材の自由化を進め、質の高い外資を誘致し、産業と都市の融合発展を目指す。まずは、スタートエリアとして120平方キロメートルの開発を計画中だ。

 新片区には、すでに、テスラ(Tesla)、シーメンス(Siemens)、キャタピラー(Caterpillar)、そして日本からYKKなどの国際的に名高い企業が進出している。

 なお、新片区は、上海臨港経済発展(集団)有限公司が開発を担っているが、2019年11月下旬、雲河都市研究院は当該集団と戦略提携を結び、同プロジェクトを支援している。

■ 改革開放40周年を迎える中国と上海


 中国は2018年、改革開放40周年を迎えた。この40年間で、中国経済の規模は世界第2位に躍進し、1978年に世界11位だった経済規模が、2009年には日本を抜いて堂々世界第2位に達した。2017年のGDPは12.3兆ドル(約1,381兆円)に膨れ上がり、世界経済全体の約15%を占めるまでに成長した。

 改革開放の象徴的な都市は何と言っても「GDP規模」で全国第1位の上海であろう。その上海の中でもとりわけ経済発展を牽引したのが、上海浦東新区である。

 1990年から建設が始まった浦東新区は、わずか28年間で、何もなかっただだっ広い畑が高層ビルの立ち並ぶ国際金融センターへと様変わりした。また、全国ではじめて保税区、自由貿易試験区、保税港区が設置され、浦東新区の経済規模は設立以来およそ160倍にまで拡大した。

 今後も上海は対外開放拡大の牽引役として、またグローバルシティとして、絶えず新しい活力を放出し続けるだろう。

■ 第15回上海書展(上海ブックフェア)が開催


 上海市民に人気の恒例「第15回上海書展(上海ブックフェア)」が2018年8月、上海市政府主催により「上海展覧中心」で開催された。展示面積2.3万 m2という巨大規模で、参加した出版社は500社以上、15万冊の書籍展示に加えて読書イベントが1,000回以上行われ、展覧会での売上は5,000万元(約8.1億円)を記録した。このブックフェアは年々評判を増し、今年は30万人以上の来場者があった。

 中国の出版産業は好調である。2016年、中国の書籍小売り市場の規模は701億元(約1.1兆円)で前年比12.3%増の成長であった。そのうち、実店舗での販売規模は336億元(約5,438億円)で前年比2.3%減、 オンラインでの販売規模は365億元(約5,907億円)で前年比30%増であった。2016年に、はじめてオンラインでの書籍販売が実店舗での販売額を超え、特に大型サイトでの書籍販売は年々増加の一途をたどっており、今後もこの勢いは続いていくとみられている。

 大手オンライン書籍販売サイト「当当網」の2017年度書籍販売のフィクション部門トップ10には、海外の翻訳書が7作品ランクインした。第1位には太宰治『人間失格』の翻訳本、第2位には東野圭吾『ナミヤ雑貨店の奇蹟』の翻訳本、第10位には同じく東野圭吾の『白夜行』の翻訳本が入り、日本人作家の人気の高さを示した。近年、村上春樹、綾辻行人、新海誠など日本の人気小説が次々と中国語に翻訳され出版されている。中でも東野圭吾は絶大な人気があり、『容疑者Xの献身』『ナミヤ雑貨店の奇蹟』は中国で映画化もされているほどである。マンガやアニメに小説が加わり、日本のコンテンツには中国から熱い視線が送られている。

■ 第1回中国国際輸入博覧会


 2018年11月、第1回中国国際輸入博覧会が上海市政府ほかの主催により市内「国家会展中心」で開催された。この博覧会は習近平国家主席肝煎りの一大イベントであり、貿易の自由化と経済のグローバル化を推進させ、世界各国との経済貿易交流・協力の強化を促進するための見本市と位置づけられている。博覧会には100数カ国・地域から出品され、中国内外から15万社のバイヤーが参加した。

 世界最大の人口を持ち世界第2位の経済体にまで成長した中国は、消費と輸入が急伸し、すでに世界の第2位の輸入と消費を誇るまでに成長している。今後さらに5年間で10兆ドル以上の商品・サービスを輸入する巨大市場にまで成長することが見込まれている。

 その巨大市場の中心地の一つが上海である。上海は世界最大クラスのメガロポリス「長江デルタ」の中心都市であり、巨大な人口と経済規模を兼ね備え、中国国内で最もサービス業が発達している都市の一つであり、いまや世界中の資源が上海に集中していると言っても過言ではない。上海港のコンテナ取扱量は7年連続世界一を記録し、〈中国都市総合発展指標2017〉では「コンテナ港利便性」は全国第1位を獲得。空港の旅客数は1億人を超え、直行便は世界282都市にまで広がり、「空港利便性」も全国第1位を獲得している。内需主導型経済への移行を目指す中国にとって、上海市での同イベントの成功は、今後の中国にとって一つのシンボルとなるだろう。


【対談】小手川大助 vs 周牧之:(Ⅱ)複雑な国際情勢をどう見極めるか?

■ 編集ノート: 
 小手川大助氏は財務官僚として、三洋証券、山一證券の整理、長期信用銀行、日本債券信用銀行の公的管理、日本政策投資銀行の再生ファンドの設立、産業再生機構の設立などを担当し、平成時代の金融危機の対応に尽力した。また、優れた国際感覚を持ちIMF日本代表理事を務めるなど世界で活躍している。
 東京経済大学の周牧之教授の教室では、リアルな学びの一環として第一線の経営者や研究者、ジャーナリスト、官僚らをゲスト講師に招き、グローバル経済社会の最新動向を議論している。2023年10月26日、小手川大助氏を迎え、講義していただいた。

※前半の記事はこちらから


■ 米英が絡む中東問題の複雑さ


小手川大助:今回ハマスによるキブツ奇襲を考えるには長い歴史を遡る必要がある。第2次世界大戦まで戻るのでは足りない。16世紀にオスマントルコ帝国の支配下で、パレスチナ地域に主にアラブ人が住んでいた。第一次世界大戦時、イギリスが3枚舌を使い、アラブ人には、アラブ国家の設立を認める「フセイン・マクマホン協定」をした。一方でフランスと合議し「サイクス・ピコ協定」で英仏による中東勢力圏分割をした。ユダヤ人には、ユダヤ人居住地建設に賛成する「バルフォア宣言」を送った。そんな完全に矛盾した内容を約束した。これが今の紛争の根にある。第一世界大戦後しばらくはイギリスが委任統治していたが、ヨーロッパで迫害されたユダヤ人がこの地域に越してきた。1948年にイスラエルが独立宣言し、委任統治が終了するが、第一次から第四次まで中東戦争が起こり、基本的にイスラエルが勝ってきた。

中東戦争の勝利を祝うイスラエル軍兵士たち

小手川:唯一良い方向に行ったのが1993年9月のキャンプデービッド和平合意で、イスラエルと、パレスチナの二つの国家を作ることで合意した。これに反対したのが、今のイスラエル首相のネタニヤフだ。ネタニヤフの祖父はイスラエル建国時のタカ派で、ロシア出身のユダヤ人アドバイザーかつ科学者だったジャボチンスキーのスタッフだった。

1978年9月17日キャンプデービッド和平合意の調印式で、握手を交わすエジプトのサダト大統領、アメリカのカーター大統領、イスラエルのベギン首相

小手川:今回の事件は、ネタニヤフ政権が選挙に敗れ、極右勢力との連立内閣を組織せざるを得なくなり、極右の意見を入れて司法権へ介入する法律案を国会に提出したために、国内で激しい反対運動がおこり、警察も機能しなくなったという状況で起こった。ハマスが事件を起こす3日前、エジプトが、ハマスの計画をイスラエル政府に伝えたのに、イスラエルが全然気がつかなかったという大失敗がある。遡るとハマスを作ったのはイスラエルだ。シャロンという国防大臣とネタニヤエフが、パレスチナの政治勢力を分断させる目的で作ったのがハマスだった。

2017年7月20日ガザで軍事イベントを行うハマス武装勢力

小手川:一番困っているのが中国だ。中国は石油の価格が安定して欲しいのに、中東がおかしくなると石油の価格が上がる為困っている。

 この地域の人口を見ると、イスラエルの人口が900万で、そのうち4分の1ぐらいが1991年のソ連崩壊後ロシアからの移住者だ。ガザの人口は200万だ。アメリカ国内ではユダヤ人が非常に強いと思われるが、米国内全部含めてユダヤ人口は800万。

 1993年9月のキャンプデービッド和平合意の背景については、1991年12月のソ連解体が大きい。ソ連崩壊後はソ連にいたユダヤ人が500万人位来ると予測し、イスラエルが広い土地を準備した。結果、予想の半分の250万人が来た。必要なくなった土地を、パレスチナへの譲歩の材料としたのがキャンプデービッドの合意だった。

 2001年9.11事件と今回のハマスの襲撃は似ている。私のカウンターパートの元アメリカ外務次官は今回の事件はイスラエルの9.11だと言う。その裏には9.11も防ぐことができたのに米国西部内(FBIとCIA)の連絡の失敗で起こり、その失敗を隠すためにアメリカは9.11後、国連を無視しイギリスと組んで本来化学兵器を持たないイラクに侵入するという大失態をした。

 私が4回もアメリカ政府と激しい交渉をしたが、その経験から、アメリカ政府は縦割りで連絡が悪く交渉がまとまっても後に内部の連絡不足で引っ繰り返されたことがあった。合意内容が向こうの関連部署と共有されたことを確認してからでないと危ない。9.11もまさにこの一例だ。

2001年9月11日旅客機の衝突で炎上するワールドトレードセンター

小手川:1975年.エジプトのナセル大統領に近づいていたファイサル国王を、サウジ皇太子のうちの1人が銃で暗殺した。その背景にCIAがいるとされ、それをサウジの人は恨んでいた。アメリカへの報復が9.11として現れた。

 2008年リーマンショック時、私はIMFの理事としてワシントンにいた。当時イギリスが破綻した場合には資金不足が生じるという計算だったことから、私は交渉の議長として、破綻した国にIMFが借金する資金源として新たに60兆円の借り入れの合意に導いた。1956年にエジプトがスエズ運河を国有化させようとした時、運河を作ったフランスと運河を持つイギリスが、イスラエルを焚きつけて戦争を起こした。ところが戦争は西側が負け、イギリスは経済危機になった。それでイギリスがIMFから借金したのが、IMFのメンバーがIMFから借金した最初の例だった。同様なことが起こると大変だとの怖れで、上述の60兆円が用意された。

スエズ運河を航行するコンテナ船

■ オバマ政権の本質


小手川:アラブの春は最初のチュニジアを始めエジプト、リビア、シリアに起こった。これは実際の原因は、リーマンショック後の物価の高騰だ。このときもアメリカが大失敗した。その時はオバマ政権の2度目で、酷い状態だった。オバマ政権内の優秀な人たちは1回目の政権後に皆辞めていたからだ。オバマはひどい恐妻家で、ミッシェル・オバマに頭が上がらない。オバマはハーバードを出てシカゴで州議会議員になろうと思ったが金がなかった。その時ミッシェルと知り合った。結婚後、ミッシェルの友人のヴァレリー・ジャロットというシカゴで有名な黒人女性実業家が、シカゴ最大財閥のハイアットリージェンシーのオーナーファミリーを紹介した。このハイアットリージェンシーがオバマの選挙資金を全部出した。それでオバマは州議会議員から、最後は上院議員になった。

オバマ大統領とミシェル夫人

小手川:オバマはアメリカ初の黒人の大統領でありながら、奴隷制のことは一度も言ってない。それには理由がある。オバマの父親はケニアの少数民族の出身で、この民族は昔、奴隷狩りをし、欧米の奴隷商人に売りさばいていた。それが明るみに出ないようオバマは一切、奴隷制について発言しなかった。これに対してミッシェル・オバマはアメリカに連れてこられた奴隷の子孫であった。

 オバマの大統領選のときの対抗馬はヒラリー・クリントンだった。2008年の選挙の際にヒラリーは、ウォールストリートの金融に対して非常に厳しい態度をとっていた。しかも2008年選挙当時はリーマンショック直前で、ウオールストリートは金融危機が起こると予想しており、ウオールストリートに厳しいヒラリー・クリントンが大統領になるのを防ごうとした。アメリカ初の女性大統領の対抗馬に勝つ為には、初のアフリカンアメリカン大統領だ、として探したところ、当時上院議員で唯一アフリカンアメリカンだったオバマが浮上した。オバマにウオールストリートの金融機関が莫大なお金を注ぎ込んだ。オバマの選挙基金は、草の根募金選挙のイメージだったが、実際はその8割がヘッジファンドからだった。オバマが当選し、そしてリーマン・ショックが起こった。

 私がこの背景を調べたのは、大問題を起こしたウォールストリートの責任をオバマ大統領が全く追求せず、むしろウオールストリートに税金を注ぎ込み、果ては製造業のゼネラルモータースまで全部救済したことに疑問を抱いたからだ。疑問を持って調べることが大変重要だ。

2008年9月15日ニューヨークのニューヨーク証券取引所、メリルリンチがバンク・オブ・アメリカに身売りをするというニュースが流れ、株が急落

周牧之:オバマが大統領選に出たときに私も小手川さんもアメリカにいた。オバマの選挙資金の潤沢さに自分も驚いた。選挙終盤になって相手の共和党マケインは金が無くなり、コマーシャルも流せなくなった。対するオバマ側は本来秒単位のコマーシャルを、10分単位でどんどん流していた。当時私は新華社に頼まれて書いたコラムで、「この候補者は悪魔と手を組んでいる、でなければ、こんなにお金が出るはずはない」と書いた。要するに、金融街とガッチリ手を組んでいたわけだ。

2008年、オバマ大統領選挙広報用コマーシャル「Barack Obama: My Plans for 2008」(https://youtu.be/H5h95s0OuEg?si=bsLkwp5_AeI8jfgs

■ なぜ米の政治は妥協しなくなったのか?


:2016年も一つの転換点だ。トランプとヒラリーの選挙でアメリカは二つに割れた。大都市はヒラリー支持、大都市以外がトランプ支持。今でもこの構図が変わらないばかりか対立が更に激化した。互いに妥協しなくなったという点で、中国の文革に似てきたかなと私は最近思う。文革と選挙はどこが違うか。選挙は妥協があり、選挙後は仲良くやろうよ、ということになるがアメリカは今妥協しなくなった。互いに、相手を倒し切るまでやっている。

2016年米国大統領選挙投票分布図

小手川:今日の学生さんの両親の世代、祖父母の世代は日本が負けた第二次世界大戦後、アメリカの敷いた路線を教科書で勉強してきている。因って基本的にアメリカのやり方は正しいというイメージを持っている。

 私は合計8年アメリカに住んだ。アメリカはイメージと実際が異なるところが随分ある。例えばアメリカの政治は非常に清潔で、アジアは買収された汚い政治だと言う。しかし、ワシントンのロビイストたちは、ローファームという弁護士事務所で働く弁護士だ。ロビイストは、民間会社からお金をもらい国会議員を買収する仕事だ。民間会社が直接国会議員に金を渡せば法律上買収、収賄になるが、間に一つロビイストが挟まると収賄にはならない。これがアメリカの法律だ。

 私は4年前から、アジアの人たちに頼まれ、政治の腐敗にどう戦うかの委員会のメンバーをしている。政治は何らかの手段をもってやる。ルールに則るのか則らないかに違いがある。アメリカの例を出し、ルールを作ってやったらどうかと申し上げている。ワシントンにいた時、東京で言うと中央環状線のような高速道路の分岐点に大きなボードがあり、「このハイウェイは、バージニア州の何々上院議員が作った」と書いてあるので驚いた。それがアメリカでは普通だ。アメリカが言っていることを鵜呑みにし、すべて正しいという前提で日本に押し付ける人がいるがそれは違う。各国にはそれぞれの歴史と国の背景があり、その中でルールが作られていることを皆さんも頭に置いてほしい。

:鵜呑みにして押し付ける人は、どこの国にもいる。

ワシントンの高速道路

小手川:アメリカは、5年に1回国勢調査をし、10年に1回選挙区割りを変える。選挙区割りを変える際、現職議員に有利な選挙区割りをしてしまう。結果、アメリカの全ての選挙区を100とすると約93は共和党が強いか民主党が強いか、完全に決まってしまっている。どちらが議会の選挙、あるいは大統領選挙に勝つかは、残りの7%がどう転ぶかで決まるのが最近の傾向だ。

 すると、共和党か民主党かという最後の本戦より、自分が候補者になれるかどうかの予備選で自分が共和党あるいは民主党の候補になるかが重要になる。93%の選挙区については共和党か民主党が勝つことが間違いないからだ。これらの選挙区では予備選でそれぞれ強い党の候補者になれば間違いなく議員になれる。民主党党員が予備選に勝とうと思えば、急進的な左寄りの主張した方が勝つ。共和党は右寄りの保守的な主張する人が勝つ。従ってアメリカの議員は右と左の両極に主張が分かれ、ワシントンでは主張が離れすぎて、なかなか合意できないという状況になっている。

 加えてオバマがやった二つの大失敗があった。アメリカは世界でナンバー1の国だという自負があるため、本当はアメリカの国民としてはやりたくないと思っても世界の指導者たるアメリカとしてやらざるを得ない政策がある。自分の選挙のためにはならないが賛成してもらわないと困ることがあるときに、伝統的に議員に対しポークバレルをする。ポークは豚肉、バレルは樽。豚の餌箱だ。陣笠議員は日本にもいる。法律に賛成してもらうためポークバレルに予算を振込む。議員が自分の選挙区のために地方に金を引っ張ってきた形にし、地方議員の賛成を取り付けるか或いは黙ってもらう手段だ。これをオバマが止めた為、できなくなった。

 もう一つは、ロビイストの活動だ。確かに問題があるが実際にはロビイストがあちこち根回しをして最終的な合意に到達した案件が多かった。オバマは選挙の公約で、ロビイスト活動を取り締まると言ったため、できなくなった。議会の中が混乱し、各々が勝手なこと言って合意ができなくなった。それが今のアメリカの状況だ。

2005年5月4日ワシントンでの倫理・ロビー活動改革法案に関する記者会見

小手川:2016年トランプが大統領になった時、アメリカの地図で、民主党クリントン支持は国土の両端だった。東海岸のニューヨークとボストン。西海岸はカリフォルニア。沿岸部の大都市が民主党で、あとは全て共和党。理由は、リーマン・ショックだ。ゼネラル・モーターズまで税金を使い救済された。救済された会社は銀行からの借金を棒引きにしてもらうか国がお金を入れて資本を増やし、財務諸表を綺麗にしてもらった。債務超過で破綻するはずの会社が救済され債務超過ではない、となった。

 このように一方で借金の棒引きを大企業にさせながら、例えばゼネラル・モーターズの正規の労働者は首を切られるか正規職員からパートタイムに移された。失業者やパートタイマーになった人たちがトランプを支持した。トランプの選挙公約の第一は、仕事を作り、競争相手の中南米からの移民をシャットアウトすることだった。

 トランプの最重要課題は、従来からアメリカに住む主として白人の生活を守るため仕事を増やすことだった。仕事を増やす観点からトランプは中国企業にもアメリカに来て欲しいと言った。とにかくアメリカで工場を作り、人を雇ってもらえばいい。そういう意味でトランプは完全なビジネスマンで、交渉事、特に一対一の交渉が大好きだ。今までの自分の人生で様々交渉し全部勝ったという自信があるから、中国とも交渉するのも、ロシアとの交渉も好む。そういう意味で非常にわかりやすい人ではある。

 北米自由貿易協NAFTA はメキシコなどと結んだ条約だ。メキシコのアメリカ国境に近い工場で作った製品が非常に低い関税でアメリカに出せるといったメキシコに有利な内容をトランプは見直し、さらに国境に壁を作り移民を排除、財政出動をして公共事業で人を雇おうとした。オバマ前大統領の健康保険の見直し、TPP貿易の問題、CO2環境問題など、自分の支持者の仕事が増えないものには興味がなかった。

2017年1月20日ワシントンで就任演説を行うドナルド・トランプ大統領

■ ドルークになれなかった安倍首相の対ロシア外交


小手川:2012年から安倍首相はロシアとの交渉を様々行ったが、モスクワに長くいる日本人は、「安倍さんではない人が総理大臣だったら2018年に北方領土は日本に帰ってきた」と口を揃える。安倍さんはプーチンと生涯の友人になれなかった。ロシアに「ドルーク」という男性の間しか使えない言葉がある。俺はお前の「ドルーク」だという関係になると、どんな無茶苦茶なことを言ってきても、やらないといけない。逆にこちらがどんな無茶苦茶な要求をしても相手はやってくれる。プーチンは、安倍さんに何度もそういう球を投げた。チェチェンが柔道の熱心な場所で「ぜひ日本からいい柔道の講師を送ってきてほしい」というのを安倍さんは逃げた。何とかやってほしいのでJOCのトップだった山下泰裕さんにお願いした。山下さんは立派な人で、日本でチェチェンは怖いイメージがあり誰も行く人いなかったため、ご自身が行った。チェチェンは最近景気がよい。イスラム教国なためアラブ首長国連邦などからお金がものすごく入り大繁栄している。立派なモールができている。

 安倍さんはプーチンから頼まれた話が5つも6つもあったのを全部断った。プーチンは些細な事さえやらない安倍さんと北方領土の交渉ができるわけないと考えた。   

 2018年にロシアが日本を試そうとボールを投げてきたことがあった。総理のアドバイザーの谷内さんがロシア側から言われたのは、「もし北方領土を日本に返還しアメリカから北方領土に米軍基地を作ると言われたら日米安全保障条約上、日本は拒否できないだろう?」だった。ロシア国防次官が北方領土を初めて口にした大変重要な場面だった。 

 谷内さんは総理のアドバイザーとして、大事な話は自分1人の判断で決まらないから東京に話を持ち帰って総理と相談すると言えばよかった。ところが谷内さんは外務省条約局という自己判断できる立場にいた人だったので、自ら相手側に「条約の解釈をすればそうなる」と返答した。ボールを投げる為にロシア外務省で苦労した人たちが面子を潰され交渉は終わった。領土問題のようなややこしい問題は、双方の政権が安定していないと出来ない。プーチンが安定し、安倍さんも安定していた当時だから出来た。ある意味で北方領土返還の最後のチャンスが失敗したと言っていい。

2019年1月22日クレムリンでの記者会見で握手するロシアのプーチン大統領と日本の安倍首相

■ 中国との関係は岸田政権の大きな課題


小手川:岸田さんは総理になるとき、大きな問題が三つあった。一つは2023年の春の統一地方選挙で、自民党が勝利した。二つ目は、夏の広島のサミットで先進国、特にアメリカは人類最大の戦争犯罪の場の広島行きを嫌がったが、何とか実現した。

 三つ目の課題が最大の課題である原発の処理水だ。岸田さんは対ロシア問題で、アメリカとNATOと離れずにいこうとしてきて、その成果が表れたのが7月末だ。リトアニアでのNATOの会合にNATOメンバーでない岸田さんが参加した会議で、EUが、2011年の3.11以降、日本の水産物に課した輸入制限撤廃を発表した。それで8月末に原発処理水を流す決定をした。

 三課題は全部解決したので、内閣改造し、自分自身の意思で動く。十分注視していく必要があるがマスコミが重要なことを書かない。岸田内閣ほど大臣で英語ができる人が多い内閣は歴史上なかった。岸田さん自身父親が通産省にいた関係で、ワシントンにいた。他に河野太郎さん、林芳正さん、法務大臣の斉藤さん。経産相の西村さん、高市さん、福田康夫さんの息子さんなど全員がワシントンにいてアメリカの生活を経験している。アメリカの私のZOOMの相手方も、ぜひ日本に米中の間をとりもってほしいと最近一生懸命言っている。

:原発処理水を流すことで悪化した中国との関係を、修復するのが大きな課題だ。

2023年9月5日ASEANインド太平洋フォーラムでスピーチする岸田総理

小手川:残念ながら、今の一番問題は日本と中国の間のパイプラインがないことだ。福田康夫さんが中国に行き、民間ベースで一生懸命日本側からアプローチしているが、中国側がまだいわゆるIT監視国家で懸念が残る。

 日本に中国の人を呼びよせ、いろんな話をすることが大切だと私は思う。中国人観光客にどんどん日本に来てもらう。いまは来日する中国観光客数はかなり新型コロナ前に復活している。残念ながら日本から中国に行く人が、昔の6割しかない。本来は10月1日から日本人についてもビザなしになるはずが原発処理水問題の関係で中国側が先延ばししている。それがなくなれば、大勢行くようにはなると思うが、とにかく一般の人の交流が重要だ。

 百貨店に聞いた話だと、関西や福岡はまだそれほどではないが、少なくとも東京は、国慶節の1週間で、百貨店が準備した品物は根こそぎ中国人客が買い在庫がゼロになった。普通のベースで交流をすることが非常に重要だと私は思う。来年にビザが不要になったら、皆さん勇気を出して中国に行ってみていただきたい。中国は南と北の格差があると言う。できれば、上海と北京、大連 など南と北を両方行き、違いを自分の目で確かめことが重要だ。

 今日本には中国以外にも多くの人が来ている。円安のせいでベトナムの留学生も最近はほとんど日本に来なくなった。日本に行ってもいいことはないと彼らはいう。ネパールとかバングラディシュの人が増え、インドネシア、フィリピンの人たちが日本に旅行に来ている。東南アジアの人たちが日本に来るのは5月連休前だ。東南アジアその時期は一番暑く、湿度が高い為東京に避暑に来る。それを念頭に商売上の付き合いや催し物をやるとうまくいく。中国人は、10月の国慶節と、1月から2月の春節に、交流を盛んにしてもらえばと思う。

2023年10月中国の国慶節連休中、銀座の店舗外で列をつくる中国人観光客ら

■ 2024年米大統領選が大きな転機に


学生:中国経済は読者の関心もあるが、報道では中国が世界最大自動車輸出国であることや、中国の人材の厚みを断片的にしか報じていない。

小手川:最近は日本の新聞もテレビも見ない。iPhoneでニュースは見る。さまざまなアプリを使い自分の自由な意見を書いているのを私は読んでいる。

学生:台湾、アメリカで選挙を控える今後、国際的に動きそうなことは?

小手川:一番大きいのは2024年11月のアメリカ大統領選挙だ。バイデンは、この10カ月間、記者会見していない。記者会見する力がない。Zoom会議で私がアメリカ人に聞いたのは、インドのモディ首相とバイデンが久しぶりに記者会見をした際、バイデンの机にプレートが4枚置いてあった。最初の紙に質問するマスコミ名。2枚目に質問をする人の名前、三つ目にはその質問内容、四つ目にはそれに対する答弁が書いてあり、それを読むだけだ。

 インドのモディとのときは、双方で質問が2問と制限された。モディが怒り、意味のない記者会見をキャンセルしそうになったので、慌てて説得し、インド側も一つだけ質問することになった。認識能力が落ちている為、民主党の人たちはバイデンに自ら辞めて欲しい。ところがバイデンは、来年トランプと勝負できるのは自分だとして降りない。

 民主党員だったロバート ケネディ ジュニアは、大統領選挙に出ると言ったところ、一度もバイデンとの討論の機会を民主党が作らないので、第3党から出ると発表した。ロバート ケネディ ジュニアとトランプは、自分が大統領になったらロシアとの戦争をやめると言っている。アメリカの政治は問題も多いが、アメリカをさしおいては動けない。

2024年1月選挙イベントで演説するバイデン大統領

小手川:韓国大統領の任期は5年。再選が禁止で3年半すぎると、誰も言うことを聞かなくなる。韓国は基本的には日韓協定ができたときから国の方針として日本からの賠償金を少数の財閥に集中して渡している。5%の財閥企業が国の経済を引っ張り、日本の大企業とほぼ同じ給与水準だ。残りの95%は、下請け企業で給料が大企業の半分或いは3分の1しかない。経済が財閥企業に引っ張られ生活が良くなった間は、保守政権が続いていたが、経済がうまくいかなくなると保守政権は負ける。 

 今のユン大統領は、1990年代末以来久しぶりに、韓国の最高学府ソウル大学を卒業し検事総長まで行った聡明な人だ。総理大臣のホンさんは三年前まで駐米大使で私も前からよく知っており、私が知る韓国人の中で一番頭のいい人。だから今の大統領と総理の組み合わせは最高だ。失敗しないように日本もアメリカもしっかり支えることが、日中関係で欠かせない。韓国経済がうまくいくかどうかが近場では非常に重要だ。

 アジアで、一番今経済がうまくいっているのはフィリピン。フィリピンの経済成長は今、中国より上を行っている。ベトナムも人口は大体フィリピンと同じで、今年ぐらいに日本の人口を抜く。私もベトナム政府のアドバイザーを何回かやったが、ベトナムは汚職がひどい。

 付き合いにくいが信頼できるのはタイ人だ。タイは伝統があり本音は言わないけれどこちらを観察する。要注意はシンガポールだ。周りの国の人がシンガポールのことをcheerfulな、つまり陽気な北朝鮮と言っている。というのはシンガポールに行くと全部盗撮盗聴され、特に政府の人間と日本の大企業のトップがシンガポールに行ったら、全員盗聴と盗撮されている。

2022年5月10日就任式で宣誓する尹錫烈(ユン・ソクヨル)大統領

■ 生活文化産業で新しい繁栄を


:日本の世界経済におけるシェアを1960年から今日までの60数年のスパンで見ると、1960年が、5.4%、平成初めは10%で、今5.1%に戻った。平成からの30数年をどう評価するか。

日本の政局変化と経済成長分析図

小手川:一言で言えば量から質への転換の時だった。今、世界で一番金融が安定しているのは日本だ。製造業を下支えしていくことが重要だ。今、世界中の人が日本に観光に来るのは世界最高の生活の質があるからだ。量が重要なのではなく、住んでみてどうかの質が重要だ。

 今の日本をどう見るか?みんながどう健康で長生きできるかが、世界中の人々にとっての一番の関心事項。健康で、長生きするには、良いものを食べ、良いものを飲み、良い音楽を聞くなど癒しも必要だ。それを調べていくと全て日本が世界のナンバー1だ。

 東京にはポリスボックス(交番)が826ある。歩いて10分で電車の駅がある。そういうことは世界中にあまりない。自分のうちのすぐ隣に病院があり誰でも行ける。アメリカのように特定の組合に入っていないと病院へいけないことはない。自動車の保険も日本は強制保険だから100%入る。介護保険制度を始めたのは日本が最初だ。人間が気持ちの良い生活をし、長生きしようと思ったら圧倒的に日本だ。自動販売機があるのは日本とロシアくらいだ。治安がいいからだ。歩いて10分で24時間営業のコンビニがある。ここまでになった日本を、おかしくしてはいけない。

周:東京のクオリティは世界一だ。私はアメリカから帰って内閣府と一緒に北京で「生活文化産業交流シンポジウム」を企画し実施した。小手川さんも参加されたこのシンポジウムに、日本企業が何十社も来た。生活文化産業とは生活を支える全ての産業という意味で、日本のクオリティは世界一だと思う。しかし、これらの企業は元々内需型企業で、体質的に海外進出になかなか向かない。だが、海外から日本に来て、楽しむことはできる。これがインバウンドを引き寄せる最大の力だ。

 日中関係も、中国人が毎年3,000万人来日すると変わる。5,000万人くると更によくなる。だから私は長期的に見ると日中関係はあまり心配していない。

2012年3月24日北京で開催の国際シンポジウム「中国の生活革命と日本の魅力の再発見」

小手川:例えば、東京には、寿司屋が5,000軒、中華料理が1万軒、フランス料理が3,621軒、イタリア料理が1,800軒、インド料理屋さんが2,000軒ある。 

:ミシュランのレストランは東京が世界で一番多い。

小手川:高級なものもあれば、5ドルで美味しいものも手っ取り早く食べられる。

:私が暮らす吉祥寺では、駅の500メートル圏内に1,000軒以上のレストランがある。アメリカで住んでいたハーバード大学周辺の集積とは大違いだ。日本のさまざまな魅力が磁力になり、世界中の人が来て金を落とし、交流し、更にいいものが新たに生まれればいい。

(了)

講義をする小手川氏と周牧之教授

プロフィール

小手川 大助(こてがわ だいすけ)
大分県立芸術文化短期大学理事長・学長、IMF元日本代表理事 

 1975年 東京大学法学部卒業、1979年スタンフォード大学大学院経営学修士(MBA)。
 1975年 大蔵省入省、2007年IMF理事、2011年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹、2016年国立モスクワ大学客員教授、2018年国立サンクトペテルブルク大学アジア経済センター所長、2020年から現職。
 IMF日本代表理事時代、リーマンショック以降の世界金融危機に対処し、特に、議長としてIMFの新規借入取り決め(NAB)の最終会合で、6000億ドルの資金増強合意を導いた。
 1997年に大蔵省証券業務課長として、三洋証券、山一證券の整理を担当、1998年には金融監督庁の課長として長期信用銀行、日本債券信用銀行の公的管理を担当、2001年に日本政策投資銀行の再生ファンドの設立、2003年には産業再生機構の設立を行うなど平成時代、日本の金融危機の対応に尽力した。

【対談】小手川大助 vs 周牧之:(Ⅰ)転換点で激動の国際情勢を見つめる

講義をする小手川氏

■ 編集ノート: 
 小手川大助氏は財務官僚として、三洋証券、山一證券の整理、長期信用銀行、日本債券信用銀行の公的管理、日本政策投資銀行の再生ファンドの設立、産業再生機構の設立などを担当し、平成時代の金融危機の対応に尽力した。また、優れた国際感覚を持ちIMF日本代表理事を務めるなど世界で活躍している。
 東京経済大学の周牧之教授の教室では、リアルな学びの一環として第一線の経営者や研究者、ジャーナリスト、官僚らをゲスト講師に招き、グローバル経済社会の最新動向を議論している。2023年10月26日、小手川大助氏を迎え、講義していただいた。


2001年9月11日 旅客機の衝突で炎上するワールドトレードセンター

歴史には転換点がある


周牧之:歴史には転換点がある。今から20年前の2001年は一つの歴史の転換点だった。同年9月、私は上海、広州と立て続けに「中国都市フォーラムーメガロポリス戦略」シンポジウムを中国国家発展改革委員会と合同で開催した。このシンポジウムはまさしく中国都市化の幕開けとなった。

 シンポジウム直後に9.11事件が起こり、それまでアメリカが難色を示していた中国のWTO加盟交渉が一気に進み、同年末に中国はWTOに加盟した。

 その後20年間、輸出と都市化を盾に中国は大成長した。その間、中国の輸出は10倍、都市の人口は2倍、GDPは10倍に膨れ上がり、中国はメガロポリス時代に突入した。

 きょうは小手川さんをお迎えし、最近の歴史のターニングポイントについて解説していただきたい。

小手川大助: 私の人生で3回、日本経済もしくは世界経済が潰れかけた事態に直面した。最初は1997年、日本の全ての金融機関が崩壊寸前になった。2回目は、東京三菱銀行がシティバンクに買収されかけた。3回目は私がアメリカ滞在中で、「あと半日で世界中の銀行が潰れる」と聞いた時だ。

 きょうは、真実はどこにあるのかについて考えるヒントを、以下三つの事件で説明したい。一つは2022年2月24日のロシアのウクライナ侵攻。二つ目は2022年8月のナンシーペロシアメリカ下院議長の台湾訪問と米中の緊迫。三つ目が、2023年10月7日のハマスによる襲撃だ。

2023年10月7日、ハマスによるイスラエル襲撃

■ ロシアのウクライナ侵攻の背後にある史実


小手川:私は学生時代にロシア語の通訳アルバイトで旧ソ連に3度行った。2010年後はロシア政府に頼まれ毎年4〜5回ロシアに行っているので最近の状況はよくわかっている。

 ウクライナはロシアの西南側にあり、ウクライナの北西側はポーランドに接している。第一次世界大戦までウクライナ西側の一部分は、ロシアの領土ではなかった。オーストリアハンガリー帝国の領地だった。第一次世界大戦前独立国ではなかったポーランドの貴族が、このウクライナ西地域の社会構造の一番上にいて大土地を所有していた。ウクライナ人はポーランド貴族の下で農民として搾取されていた。ポーランド人とウクライナ人の間に入ったのがユダヤ人で、ポーランド貴族の番頭的な役割で年貢の取り立てをしていた。

 ウクライナ人は、第一次世界大戦後、西ウクライナ地域を中心に独立する動きを起こしたが、新生ソ連共産軍に鎮圧された。西ウクライナの上層部は西側に亡命した。

 第二次世界大戦ではヒトラーがソビエトに侵攻した際、西ウクライナの出身者が自警団をつくって同調した。キエフのバビ・ヤールという深い谷の崖っぷちに、3日間で3万5000人のユダヤ人、ポーランド人、ロシア人を集めて銃殺し、死体を谷に放り込んだ。当時のリーダーで有名だったバンデラとレベジの2人は第二次世界大戦後、西側に逃げた。バンデラはイギリスのMI6のスパイになり、レベジはCIAに雇われニューヨークに移った。バンドラは1950年、西ドイツにいた時ロシアKGBに暗殺された。 

 海外に逃げた西ウクライナ人は、オーガナイゼーションオフユークレイニアンナショナルズ(OUN)という組織を作り、本部をニューヨークに構え、いまでもロシア政府をひっくり返し、自分たちの国を取り戻したいと活動している。

OUNによる抗議デモ

小手川:東欧にはこのように歴史的にロシアに反感を持つ人々が大勢いる。そうした人たちがアメリカの政府高官になったときに問題が起きる。いまはアメリカのブリンケン国務長官がハンガリー系ユダヤ人で、国務省次官ヴィクトリア ヌーランドは祖父が西ウクライナのユダヤ人、彼女の夫でネオコンの理論的指導者のロバート ケイガンの家族はリトアニア出身のユダヤ人だ。

 他方、ウクライナの東の地域ドネツク、ルガンスクは、ウクライナの工業の中心地で人口の3分の1が住み、旧ソ連時代は宇宙産業で有名だった。石炭も豊富に出るためウクライナでは豊かで人口も多く、経済的にも進んでいた。2014年のキエフのクーデター時には、自治権を求めウクライナから離れたいと分離独立運動を始めた。

 キエフはロシア発祥の地。ロシア語とウクライナ語は東京の言葉と関西弁の違い程しかない。ゼレンスキー大統領自身も元々の母国語はロシア語だ。彼はウクライナ語よりロシア語の方が上手で、大統領になってからウクライナ語を真剣に勉強し始めた。

:要するに、ウクライナの最西地域と最東地域ではロシアとの歴史的な絡みや気持ちがまったく違うことが今日の問題の土台にある。

ウクライナの地理的位置

■ 情報戦がフェイクニュースを生む


小手川:私は週2回、アメリカ政府OB、CIA、軍、国務省、国防省のOBたちとZoom会議を十数年続けている。相手方は二つに割れている。一つは、バイデン賛成派。もう一つはバイデン反対派だ。両方の話があればバランスの取れた生の情報が入る。

 2022年2月28日のロシアのウクライナ侵攻の少し前、バイデンに近い人たちから、ロシアがウクライナを攻めるとの話が出た。彼らは、「ウクライナのために血を流す気はない。ウクライナに欧米のナショナルインタレストはないからだ」とし、欧米は実力行使しないから、全面戦争にはならないと仄めかした。

 戦争が始まり、バレエダンサーや音楽家になるためロシアに留学した日本人のご両親から私に「戦争が始まったが大丈夫か」との問い合わせがあった。外務省が日本人に帰国を促したからだ。私は上記の情報があった為、「ロシアにいる限りは安全だがウクライナにいる人はすぐに逃げなさい」と言った。

 実力行使がない戦争は情報戦争になる。自分たちが勝っていて正義であると主張する。残念ながら、日本のマスコミはこれを検証なしに流している。例えば、ロシアが原発を砲撃したと西側が言ったが、実は砲撃の3日前にロシアが原子力発電所を支配下に置き、原発担当国際機関であるIAEAに状況を日々報告していた。だからIAEAはウクライナの嘘がわかっていたが、国際機関は西側に近いため、ウクライナの言うことをはっきり否定しないでいる。

 二つ目は、南の黒海近くのマリオポリで、ロシア軍が産婦人科病院を砲撃し妊娠中の女性が死亡したと西側マスメディアが流した件だ。数日後亡くなったはずの妊婦がテレビに出て「自分は生きている、実際に病院を爆破したのはウクライナのネオナチの連中だ」と言っていた。

 ブチャの虐殺もでっち上げだ。直前の3月29日にロシアとウクライナで和平合意があった。翌30日、ロシア軍が合意に従って撤退した。翌日ブチャ市長が街に入り、「すべて正常だ」とキエフに報告した。4月1日に、ウクライナ軍がブチャに入り「街中はカラだ」とキエフに報告した。ところが3日後の4月4日、AP通信が虐殺があったと報道し、道路両側に死体が転がっている映像を流した。しかし報道の最後の場面で、車の右サイドミラーに死体として転がっていた人がむっくり起き上がったのが見えて、この報道の嘘が明るみになった。

:情報戦はフェイクニュースを生む。

フェイクニュースは世界を惑わす

■ 報道機関の本質の見極めが必要


小手川:マスコミのことを申し上げると、例えばBBCの国内放送はNHKと同様、基本的に国民の視聴料で経営していて中立だ。しかしながら、BBCというと皆信用しがちだが、BBCの国際放送は100%政府資金で賄われ、政府の言うままに報道している。

 NHKは海外取材の力が無いことを自認し、アメリカのCNNをコピーしている。そのためNHKの海外報道は結果として誤りがあっても、悪いのはCNNだと言える構造になっている。朝日新聞とテレビ朝日は、ニューヨーク・タイムズと契約しており、戦争関連についての記事はニューヨーク・タイムズの翻訳版だ。

 最近、割とバランスが取れた報道をしているのは、アルジャジーラという中東の報道機関だ。実は、アルジャジーラは以前、バランスがとれた報道機関ではなかった。アルジャジーラ職員の大半は昔BBCサウジアラビア支局で働いていた。サウジの王様のファミリーに関する報道してはいけないニュースを流したため全員がサウジアラビアから追放され、やむを得ず隣のカタールに移って始めたのがアルジャジーラだ。カタールのアルジャジーラ本社の同じ街路の左4軒目か5軒目がCIAのカタール本部、道の向かいの右側2軒目あたりがイギリスのMI6本部だ。昔は非常に偏向報道が多かったが、独立して20年経ち、最近割合偏向のないニュースを流すので、私は朝のアルジャジーラは欠かさず聞いている。

アルジャジーラのニュースサイト

■ 対ロシア制裁の実態


小手川:日本には正しいニュースが入ってきてないと思う。例えば、欧米も含めた所謂民主主義国の大多数が「ひどいことをやるロシアをやっつけよう」との構図になっているように見えるが、ロシアに制裁をする国は48カ国しかない。全世界に180ぐらいある国の4分の1に過ぎない。アジアでは日本と韓国、シンガポールしかロシアに制裁していない。

 アメリカのお膝元の中南米で、ロシアに制裁をする国は全くない。9.11後アメリカにひどい目に遭った中東では、制裁に参加する国はない。アフリカでも制裁をする国は半分ぐらいだ。制裁に参加するのはEUとカナダ、オーストラリア、ニュージーランド、日韓、シンガポールだけで実際には圧倒的少数派だ。

 ロシアに制裁をする国にしても、自分の都合のいいように例外や抜け道を作っている。例えば韓国は、金融制裁はやってない。

ロシアのウクライナ侵攻後、ロシアの原油を輸入する国ランキング(出典:ELEMENTS “The Countries Buying Russian Fossil Fuels Since the Invasion”)

小手川:また、天然ガスは制裁の対象外とする国もある。制裁対象にすると自国に天然ガスが入ってこなくなるからだ。イギリスは2022年末までにロシアからの石油の輸入を停止すると言いつつ停止せず、むしろ同年3月のロシアからの石油輸入は前年に比べ増加した。

 現在ロシアの原油を輸入する国は、1位は中国、2位はドイツだ。トルコ、インド、オランダ、イタリアとヨーロッパの国が続き、日本は13位で、韓国のすぐ上ぐらいだ。つまりヨーロッパの国々は事実上制裁はやってない。

 実はアメリカが今でもロシアから輸入するものが三つある。一つはウラニウム、二つ目はディーゼルオイル、三つ目はポタシという化学肥料の原料だ。他国には制裁に加われと言いながら自分はちゃっかりロシアから輸入しているのは、各国共通だ。

 皆さんには様々なニュースを聞く中で、理解できない所に疑問を持ち自分で調べてほしい。携帯電話で検索しても納得いかない場合が相当多いはずだ。そうした時は歴史をさかのぼり、何故今こういうことになっているか調べることが重要だ。

ロシアの天然ガス採掘場

■ ウクライナの経済を見れば、今後がわかる


小手川:経済とは、そこに住んでいる人たちがちゃんと生活をやっていけるかどうかだ。政治や戦争で国が滅ぶことは短期間では起こらない。だが経済は違う。食うものがなかったら即、餓死するしかない。経済がいちばん重要だ。

 今回の件に照らしてみると、ウクライナの貿易額の6割強がロシアと旧ソ連関係だ。アメリカのタカ派が「中国を攻めろ、ロシアを抹殺しろ」等と言う。この人たちに対して、私が申し上げるのは、「そういうことをやった後に、その土地に住む人たちの生活をあなた方は面倒見るのか?」だ。今までの例を見ると、アメリカはイラクに対してもアフガニスタンに対しても、2014年のウクライナクーデター後に対しても、全く援助していない。当時ロシアはウクライナに、175億ドル(約1兆7000億円)の援助を毎年すると約束し、且つ、ロシアからの天然ガスを2割引するとした。ヨーロッパ諸国がクーデター後にウクライナに送った経済援助は5億ドル(約500億円)だった。当然ウクライナの経済は破綻した。

 ソ連崩壊の1992年にウクライナ人口は約5000万あった。5000万というと、ヨーロッパでは大国だ。ヨーロッパで一番人口の多い国はドイツで8500万。イギリス、フランス、イタリアがほぼ一緒で大体5500万から6000万。次がポーランドとスペインで4000万。当時のウクライナはポーランドやスペインよりも人口が多かったが、経済がうまくいかなかった。特に戦争になってウクライナから大勢が海外に逃れた。海外への出国とはいえ、実際は大部分がロシアに行っている。東ウクライナ人はロシアに近く、ロシアに数百万の人が移住した。先月末ウクライナは人口が2000万と、30年間で人口は半分以下になった。人口の数字を見るといかに酷いことになっているかが解る。

ロシアの攻撃から逃れるウクライナ避難民

■ ロシアとウクライナはなぜ今日の状況に?


小手川:最初に西側がウクライナにマスコミを使って横槍を入れたのが2004年12月の大統領選挙だった。東側の国を潰すときに使われるのがNPOだ。NPOは一見格好よく見えるが、NPOほど酷いところはない。NPOが選挙の不正などの問題を最初に報道し、それを西側のマスコミが流す。NPOの問題は活動資金の出どころにある。それは誰も言えない。そのリソースはいろいろある。なかでも有名なのはジョージソロスという大金持ちだと言われている。ハンガリー出身のユダヤ人だ。彼はイギリスポンドの投げ売りで大儲けした。最近はアメリカで大麻が合法化され、ジョージソロスはアメリカ最大のマリファナ販売会社の社長として大儲けした。ワシントンにナショナルエンダウンメント・オフ・デモクラシー(NED)という1960年代にCIAが資金を出して作ったファンドがあり、旧共産主義国に金を入れNPOを作らせて政府への反乱を起こすことを明確に目的にしている。最近では香港騒乱時、学生運動にお金を出したのがNEDだ。尖閣列島に中国人が上陸したのも、NEDが別のNPOにお金を出してやらせたことだ。NPOが自分のバックグラウンドを隠し、世界的なマスコミと組み、情報戦争をしている。

 2004年12月ウクライナの大統領選挙でヤンコビッチが勝った時に、NPOが選挙に関して不正があったと主張し、その結果、再度大統領選挙をやり直したところ最初に負けたユーシェンコが当選した。ユーシェンコは中央銀行に勤め、大学教授時代に毒を盛られ顔が変わったことで有名な人物だ。いまだ毒を盛ったのがロシア側か西側かはっきりしていない。はっきりしているのは、ユーシェンコはウクライナ女性と結婚した後、大学教員を辞めて大統領選に出る時、アメリカから来た亡命ウクライナ人女性と懇意になり、妻と離婚してその新しい女性と結婚した。この女性はOUNの重要人物で、彼女はウクライナに行く前にアメリカのCIAと財務省の秘書をやり勉強を積んだ後、ウクライナに送り込まれてユーシェンコを籠絡し結婚した。ユーシェンコは欧米に接近するが上記の理由で、ウクライナ経済が破綻した。その結果、2010年の大統領選では、前回敗れたヤルコビッチが新しく選ばれた。

2014年2月、ヤヌコーヴィッチ政権を崩壊へと導いたクーデター「マイダン革命」

小手川:これに対して、2014年2月にウクライナでクーデターが起こった。クーデターを仕組んだのはアメリカ国務省の当時局長だったヴィクトリア・ヌーランドという女性だ。昔の名前はヌーデルマン。ヌーデルマンのMANは、ドイツ系の名前で、最後のところがNが二つなのは、普通のドイツ人。Nが一つなのはユダヤ人だ。夫はロバートケイガンというリトアニア出身のユダヤ人で、アメリカの新保守派の理論家でロシアを地上から抹殺しようなどと激しいことを言っている。ビクトリアヌーランドがCIAやMI6と仕組んでやったのが2014年のクーデターだ。結果、2014年にポロシェンコがウクライナの新しい大統領になった。

 これに対して、ロシアが住民投票の形でクリミアを併合した。東ウクライナは独立宣言をし、自治権を主張した。なぜロシアがクリミアを欲しがったかについて、キエフ生まれのロシアの有名な学者グラジエフに聞いたところ、クリミアは暖かいと。その南側に、セバストーポリという街がありロシアの海軍基地がある。セバストーポリの住民の95%は、海軍OBのロシア人で、同地が良い場所だからリタイア後の住処としたそうだ。

 この後ウクライナは内戦状態になった。ウクライナ軍が訓練されていない酷い軍隊だった為、ロシア義勇兵に負けた。2014年9月のミンスク合意前日、4000人のウクライナ部隊がドネツクの飛行場に包囲され、全員殺される直前だった。ロシア大統領プーチンは昔、東ドイツにいた関係で、欧米が好きで完全に敵対したくない為、停戦した。

 ミンスク合意はロシア、ウクライナに加えて、ドイツ、フランスの間で行われた。アメリカは入ってない。最近になって当時のドイツ首相メルケルと、フランス大統領のオランドが、新聞記者会見で公然と「ミンスク合意を守る気は一切なかった、ウクライナ軍が弱く、彼らを再訓練する時間稼ぎのためだけだった」と述べた。合意はあったがウクライナ経済は破綻した。ロシアとうまくやらないとウクライナは経済が立ちいかない。 

 2019年4月にゼレンスキー大統領は、ロシアと仲直りをして、東ウクライナに関しては住民投票で決めようとの選挙公約で、72%の得票で勝った。ところが人口比では3%のネオナチから暗殺するとゼレンスキーは脅された。このためゼレンスキーは180度主張を変え、戦争になった。

 2022年3月29日、ロシアとの対面交渉でウクライナ側が書面で、NATOには入らず中立になると約束した。ロシアはこれを信頼し撤退した。しかし、その後ウクライナ側のこの時の交渉官がネオナチに暗殺され、合意はなかったことになった。

ベルギー・ブリュッセルのNATO本部

■ うまくいった中国と停滞に陥った旧ソ連諸国


:小手川さんのお話をサポートするデータがある。最近私は世界の二酸化炭素排出構造を研究している。2000年から2019年の20年間、世界でメインに二酸化炭素を出している国は79カ国のうち、28カ国は二酸化炭素排出量が減少していると分かった。興味深いのは、二酸化炭素減少国に、旧ソ連の諸国が10カ国入っている。残りは全部先進国だ。二酸化炭素が減少した理由は国によって異なる。先進国は省エネやエネルギーリソースのシフトに資金を投じ、二酸化炭素を減らした。他方、ロシア、ウクライナをはじめ旧ソ連10カ国は、経済が停滞し、二酸化炭素を出す力もないから二酸化炭素排出量が減った。ウクライナ問題の背後に経済問題があるとの小手川さんのお話はまさしくその通りだ。

旧ソ連諸国の二酸化炭素排出量変化分析図(2000〜2019年)

:2009年、私が『ジャパンアズナンバーワン』を書いたハーバード大学のエズラ・ボーゲル教授と対談した。その時、ちょうど中国経済が日本経済を超えた。「ジャパン・アズ・ナンバースリー」と題して『Newsweek』誌に載った対談で、中国の経済成長は、日本の高度成長と同様、輸出拡大が牽引したが、その違いは、日本はフルセット型のサプライチェーンが中心で、中国はグローバルサプライチェーンが中心だ、とした。つまり中国経済は、時代が変わった中で成功した。

日本語版『Newsweek』誌 2010年2月10日号に掲載されたカバーストーリー『ジャパン・アズ・ナンバースリー』

:グローバルサプライチェーンが進んだ結果、今日世界輸出総額の71%は2000年以降に作られた。この中で中国の輸出は最も伸びた。増えた世界輸出総額の内訳を見ると、中国は2割を占めた。次はドイツの6.8%、アメリカが6.1%、日本はわずか1.7%だ。

 中国の急成長に対して、アメリカは2018年頃から貿易戦争を発動し、グローバルサプライチェーンの再構築をしようとしている。中国と反対に、冷戦後、旧ソ連諸国は長い経済停滞に陥っている。これもロシアとウクライナ問題の大きな要因になっている。

世界の輸出総額推移分析図(1948〜2021年)

■ ソ連のアフガニスタン侵攻の遠因にオイルマネー


小手川:疑問点がある時は、歴史を振り返って考えることだ。短期間の歴史でわかることもあるが、長いスパンで見ないとわからないこともある。1975年以降、一番重要な事件は二度のオイルショックだった。石油の値段が上がった結果、ソ連と中東の産油国が当時の石油生産の大半を占めていたため、ソ連と中東に急にお金が流れた。ところが中東は消費能力が非常に低かった。それを見て頭の良いイギリス人がロンドンにユーロ市場を作り、ソ連と中東のお金を受け入れた。ユーロ市場は、それぞれの国の金融市場のいわゆる例外的なマーケットになり、ユーロが全世界で暴れた。これに因って非常に儲かったソ連が調子に乗って、1979年から10年間アフガニスタン戦争に突入した。結果、経済が停滞し、最終的にはソ連崩壊のシナリオにつながった。 

 もう一つ重要なのは、1985年2月にプラザ合意があり、大幅な円高になったこと。当時、1ドルが270円だったものが、プラザ合意の結果、130円へと2倍になった。プラザ合意の円高で二つ大きなことが起こった。一つは日本国内で人件費が高騰し日本の製造業が東南アジア、中国に進出した。1980年代半ばにはアジアが世界の製造業の中心になった。もう一つは、お金を持った日本の金融機関がロンドンに殺到した。その結果、ロンドンの金融機関が儲けていた金利の幅が10分の1になった。SGWarbergなどイギリス王室関連の銀行がバタバタ潰れた。日本の金融機関の進出をストップしようと日本を唯一のターゲットに作られたのが1988年のバーゼル規制だ。

食糧を求めるアフガニスタン難民

■ 米英主導のクーデターが大混乱をもたらす


小手川:遡って1953年には民主的な選挙で選ばれたイランの政府が石油会社を国有化したことに対し、英米がイランにクーデターを仕掛けた。アメリカのCIAと、イギリスのMI6が組んだクーデターが、選挙で選ばれたモサデック総理を失脚させた。モサデック総理がそれまでイランの石油産業を独占的に支配し膨大な利益をあげてきた英国資本のアングロ・イラニアン・オイル会社(現:BP)のイラン国内の資産国有化を断行した為である。

 モサデック総理を退けた後に英米が立てたのがシャーだった。シャーはしばらく国王を務めた。イランの人々はアメリカとイギリスがしたことを覚えていて1979年にイラン革命が起こった。シャーが追放されて、今のようなイランになった。イランはひどい国だと一方的に思いがちだが歴史をさかのぼると、一番悪いのはイギリスだ。選挙で選ばれた人が自分たちの判断で国営化したことに、外国がいろいろ言う権利はない。実はイランの今の状況は、そこからスタートしている。

 アメリカは自分の足元の中南米で、ニカラグアやパナマを始め何回もクーデターを起こしている。中南米以外では1953年のイラン、1986年のフィリピンのクーデターだ。フィリピンのクーデターで、マルコス大統領が失脚した。その後、フィリピン経済はひどいことになった。日本中にフィリピンパブができ、フィリピン人女性が日本中の飲み屋に働きに来たきっかけになった。

 1991年12月ソ連の解体は、本来、ソ連をアメリカ的な民主主義にする最大のチャンスだった。ところがアメリカが教条主義的な学者を送り、自由主義経済、フリートレード、自由化、民営化を主張してソ連経済がおかしくなった。私が学生時代一緒に働いていたバレエダンサーたちと1990年代末に再会した。彼女たちの話によるとロシアの通貨ルーブルは下落、年金は据え置きになり、物価が200倍になったと言う。役人、軍人、教員、科学者だった親たちがもらう年金が、通貨暴落と経済の破綻で一カ月3000円になり、生活できないのが8〜9年続いた。その大変な状況に陥っている時に出てきたのがプーチンだ。ロシア人は1990年代の苦しい時を覚えていてプーチンには頑張ってほしいと願っている。

プーチン大統領を支持する市民デモ

■ ペロシ米下院議長の台湾訪問が問題を激化


小手川:最近の台湾問題は2022年8月のナンシー・ペロシアメリカ下院議長の台湾訪問が発端だ。当時は、彼女はすでに同年11月の中間選挙で負け、11月以降自分が下院議長ではなくなると知っていた。だから、彼女はアメリカ初の女性下院議長として台湾訪問をしたかった。何故かと言うとペロシの選挙区はサンフランシスコで選挙民の3分の1が台湾系の中国人だからである。つまり彼女は自身の選挙運動のために行った。ペロシの出身は東海岸のボルティモアで祖父は有名なマフィアのトップだった。父はボルティモア市長だった。結婚相手がサンフランシスコに住む弁護士だった為同地で立候補した。

 ペロシの台湾訪問は大きな緊張をもたらした。当時もし中国が台湾を攻めるとなれば中国が最初にやることは制空権を取るため沖縄の米軍基地を爆撃するだろうから、日本は米中戦争に巻き込まれると騒ぎになった。ナンシーペロシが台湾に行った当初と比べ、今は米中問題は少しヒートダウンしている。

 当時、もう一つ考えられたシナリオは、中国が台湾と中国本土の間にある金門島と馬祖島を攻めることだ。2島はアメリカと台湾の安全保障条約の対象外だから仮に2島が中国に取られても、アメリカは防衛の義務がない。

 ナンシー・ペロシのような人が出てくるのは、今アメリカは製造業が衰え、役人の天下り先が軍事産業しかないからだ。昔はアメリカにも言うべきことを言う人がいたが今は誰も言わない。自分の再就職先の軍需産業に行けなくなるからだ。

 もっとも心配なのは、米中間には、大臣同士ではなく次官同士のバックチャンネルや民間を使ったサイドチャンネルがない。これらが存在する米露間と異なり、米中間に思わぬ事故が起こる可能性はないとはいえない。

 アメリカは2020年5月に政府全体で米国対中戦略を作った。アメリカ国内には対中関係では三つの勢力がある。一つは中国取り込み派だ。主として金融機関の中国で商売したい人たちだ。次は妨害派だ。アメリカの軍や国防省の人たちで、中国にちょっかいを出し続けている。もう一つが敵対派で、アメリカの上院下院の議員たちだ。

2022年8月、ナンシー・ペロシアメリカ下院議長の台湾訪問

■ 中国そして中国人の本音は何処に?


小手川:2000年には中国に日本人と生活水準が同じ人はいなかったが、2010年に1億人、2020年には日本人の約5倍の7億人が同じ生活水準になった。中国の課題は、一つは2025年からの若年労働者の急激な減少だ。二つ目は、1980年代の半ばから中国が取った一人っ子政策のもと小皇帝と呼ばれた世代が50代になり社会と政治のリーダーシップをとる。彼らは以前の人たちに比べ苦労していない。習近平時代は最後の文化大革命経験世代で、当時ひどい目にあっているから国は安定が一番重要だと信じている。その経験がない人たちがリーダーになる不安定さがある。三つ目は、中国人の投資減。中国でも限界収益比率が下がっており、2025年に日本と同等になる。儲からないから投資をしなくなる。

 私は中国が大好きで何度も行っていた。最近締め付けが厳しくなりシンガポールのように監視カメラを駆使している。2017年の共産党大会前に私は上海へ行った時、党大会直後でお店は再開したのに街中が静かで、運転手さんも全然クラクションを鳴らさない。共産党大会の前後で、上海だけで監視カメラが2億個ついたからだった。クラクションを鳴らすなどの交通違反をすると、監視カメラから判別した車のナンバーが街頭に設置したボードに載り、載ると自動的に銀行から罰金が引き落とされるから、違反がなくなった。新型コロナで監視が更に激化した。

 中国は2022年の北戴河会議で、三つの柔軟と三つの強行という政策を作った。

北戴河会議が行われる河北省秦皇島市北戴河のリゾート地

小手川:柔軟にするのは対米、対西欧、ベトナム、日本と韓国。一方、強行は国内向けで、この中には台湾、香港が入る。そして対外広報。2023年秋の共産党大会で完全に習近平体制になった。

 今週私は北京に行ってきた。同郷の日本大使の垂さんと昼食をした。これからの中国で一番大変なのは共産党の正当性を中国国民にどう認めてもらうかだと垂さんが言ったことに私は共感した。毛沢東はこれを抗日戦争と独立に求めた。鄧小平は共産党と一緒に頑張れば生活は良くなると言った。実際、経済成長したら人々の生活が良くなり安定した。ところが習近平は共産党の元で中国が強くなると言う。生活が良くなることは一般の人たちにもわかるが、中国が強くなることを一般の人にどう感じてもらうのか。そこがうまくいくかどうかにかかっている。

 海外の我々にとって一番重要なことは、中国政府の発表はすべてが国内向けだと知っておくことだ。日本人やアメリカ人が発表を聞いてどう思うかは考えていない。中国の自国民が政府の言うことに同調することだけ考えて発表している。そこは別モノだときちんと整理して認識しておいた方がいい。

 2023年3月頃から日中間の航空便が昔通りになり、私の中国の知り合いが久しぶりに日本に来ている。昔は日本に来るとみんな率直に政府批判もしていたが、いまは率直な話しは、一対一で会った時だけだ。みんな言っていることは同じで、日本の会社を買収したいと言う。昔のように技術が欲しいとかが動機ではない。できる限り早く、自分の会社、自分の工場を中国から日本に移したい。中国政府から接収されるかわからないから日本に移す受け皿として、赤字でもいいから会社を紹介してほしいと言う。東京でマンションを買うのもそれが理由だ。不動産を買ったら妻子を東京に引っ越しさせる。日本の生活の質は最高だからだ。健康保険、交通面で住みやすい国が日本以外ないと、地理的に一番近い中国の人が分かっている。

 私は皆さんに、外国人受け入れに寛容であってほしいと願っている。日本に来た人たちが日本人の考え方に賛成してくれるのは日本が平和、平等、清潔な国だからだ。外国人を日本に取り込み日本の生活が全世界に広まれば戦争もなくなっていく。ぜひとも寛容であってほしい。

※以降、Ⅱに続く

講義をする小手川氏(右)と周牧之教授(左)

プロフィール

小手川 大助(こてがわ だいすけ)
大分県立芸術文化短期大学理事長・学長、IMF元日本代表理事 

 1975年 東京大学法学部卒業、1979年スタンフォード大学大学院経営学修士(MBA)。
 1975年 大蔵省入省、2007年IMF理事、2011年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹、2016年国立モスクワ大学客員教授、2018年国立サンクトペテルブルク大学アジア経済センター所長、2020年から現職。
 IMF日本代表理事時代、リーマンショック以降の世界金融危機に対処し、特に、議長としてIMFの新規借入取り決め(NAB)の最終会合で、6000億ドルの資金増強合意を導いた。
 1997年に大蔵省証券業務課長として、三洋証券、山一證券の整理を担当、1998年には金融監督庁の課長として長期信用銀行、日本債券信用銀行の公的管理を担当、2001年に日本政策投資銀行の再生ファンドの設立、2003年には産業再生機構の設立を行うなど平成時代、日本の金融危機の対応に尽力した。

【北京】政治・文化・科学技術でひときわ輝く「帝都」【中国都市総合ランキング】第1位

中国都市総合発展指標2022〉第1位


 北京は7年連続で総合ランキング第1位を獲得した。 首都としての強みをもつ北京は、「社会」大項目がダントツ全国第1位である。「社会」大項目の「ステータス・ガバナンス」「伝承・交流」「生活品質」の3つの中項目は、北京は他の都市と比べ、 飛び抜けて優れている。

 同大項目の9つの小項目の中で北京は、「都市地位」「人口資質」「歴史遺産」「文化娯楽」「居住環境」「生活サービス」の実に6項目で第1位を獲得している。「社会」大項目では58の指標データを採用しており、北京はそのうち24の指標データにおいて全国第1位であった。

 北京の「経済」大項目は、2020年度と同様、第2位である。中項目で見ると、「発展活力」は第1位を獲得した。「経済品質」「都市影響」ではともに上海に遅れ第2位であった。9つの小項目のうち、「経済構造」「ビジネス環境」「イノベーション・起業」「広域輻射力」の4つが第1位となっている。

 「環境」大項目で北京は2020年度と同様、第9位を獲得している。3つの中項目の中で「空間構造」が第3位、「環境品質」が第37位となったものの「自然生態」が依然として遅れをとり 第235位に甘んじている。これは北京が環境保全においていまだ多くの課題を抱えていることを示している。

 中国都市総合発展指標2022について詳しくは、中心都市がメガロポリスの発展を牽引:中国都市総合発展指標2022を参照。


■ 行政副都心計画と人口抑制政策


 首都・北京市は、中国の政治、経済、教育、文化の中心地であり、四大直轄市の1つである。元、明、清の三大王朝の都として、万里の長城、故宮、頤和園、天壇、明・清王朝の皇帝墓群、周口店の北京原人遺跡、京杭大運河といった7つの世界遺産をもつ北京では、胡同と呼ばれる明・清時代の路地を残した街区等、多くの歴史的建造物が存在している。一方では現代的な高層ビルが次々と建設され、新旧が入り交じった独特の街並みを形成している。2008年には夏季オリンピック、2022年には冬季オリンピックが相次ぎ開催された。北京市の常住人口は2,152万人で、2010年からの4年間で約191万人も増加した。世界屈指のメガシティである。

 世界的に本社機能が最も集中している都市の一つとして北京市は改革開放以降、繁栄を極めてきた。一方で、膨らむ人口が慢性的な交通渋滞や水不足、大気汚染等「大都市病」をもたらした。2017年9月に発表された「北京市総体計画(2016—2035年)」では、人口抑制政策を大々的に打ち出し、市内から一部の人口を市外へ転出させ、同市の常住人口を2,300万人に抑えるとしている。北京市政府は、自ら行政機能を郊外の「行政副都心」に移転させた。

 2017年11月、北京市は、出稼ぎ労働者が多数住むエリアでの火災事件を契機に、違法建築を取り壊すなどして10万人単位の出稼ぎ労働者らを市外へ追い出し、物議を醸した。結果、2017年末の北京市の常住人口は1997年以来、20年ぶりに減少した。その後も北京市の人口抑制政策は引き続いている。

■ 世界三大科学技術クラスターの一つ


 世界知的所有権機関(WIPO)は2022年9月、「グローバル・イノベーション・インデックス(以下、GII)」報告書を公開し、世界の科学技術クラスター(以下、クラスター)のランキングを発表した。これは、各国・地域における技術革新の集積を評価するものである。同年、東京-横浜、広州-深圳-香港、そして北京がこの評価でトップ3に名を連ねたことは、アジア地域の技術革新における力の増大を物語る。

 GIIによる「科学技術クラスター」評価は2017年に始まり、以来、毎年公表されている。東京-横浜、広州-深圳-香港の2つのクラスターは、これまでのランキングでも常に1位と2位を維持してきた。一方、北京は2017年の7位から2021年の3位へと大きく順位を上げている。

 GIIランキングは、PCT出願件数と科学論文出版数という2つの指標に基づいている。

 GIIランキングは、発明者や科学論文著者の所在地情報から各科学技術クラスターを評価しているのが特徴である。具体的には、WIPOの「特許協力条約(PCT)」下の特許出願件数と、クラリベイト・アナリティクスが提供する「Science Citation Index Expanded」ウェブサイトに掲載されている科学論文数が主要な指標として使用されている。

 GII の2017年版では、PCT出願件数のみが評価の基準として採用されていた。2018年から科学論文の指標が追加された。

 首都としての北京は、中国のイノベーションセンターであり、科学論文の発表において圧倒的な強みを持っている。

 2018年には、北京の科学論文発表数が197,175件に達し、2.5%の世界シェアで、東京-横浜の1.4倍であり、世界第1位だった。2022年には、北京の科学論文発表数は2018年に比べて24%増加し、世界シェアを3.7%に伸ばし、世界第1位を維持した。

 これに対して、北京の特許申請はまだ追い上げ途上にある。2018年のPCT出願件数は18,041件で、1.9%の世界シェアで、世界第8位だった。2022年には世界シェアを2.8%に伸ばし、世界第6位に上昇した。

 中国科学院、清華大学、北京大学など一流の大学と研究機関が、北京の科学論文力の強固な基盤となっている。科学論文発表数の持続的な増加が、北京の世界的な科学技術クラスターとしての地位を固めている。

 

■ 研究開発強度は北京が最大


 国や地域の経済規模が異なるため、研究開発費を比較する際、研究開発費とGDPの比率、即ち「研究開発強度」という指標が利用されることが多い。研究開発強度とは、国や企業が研究開発に投じる資金の規模を示す指標である。具体的には、研究開発費をGDPや売上高などの経済指標で割った値として表される。この指標は、研究開発への投資意欲や技術革新への取り組みの度合いを示すものとして、企業の競争力や国の技術力を評価する際の参考とされる。高い研究開発強度を持つ企業や国は、新しい技術や製品の開発に積極的であると言える。

 世界三大科学技術クラスターの中で、北京の研究開発費の総額は最も少ないにも関わらず、その研究開発強度は6.5%と最も高く、東京-横浜をわずかに上回り、広州-深圳-香港を1.2ポイント上回る。

 研究開発を推進する上で、人員の投入は非常に重要な要素である。世界三大科学技術クラスターの中で、広州-深圳-香港と東京-横浜の研究開発人員数はそれぞれ643,000人、629,000人と、大きな差は見られない。北京の同人員数は473,000人で、他の2つのクラスターの四分の三に過ぎない。

 研究開発人員1人当たり研究開発費から見ると、東京-横浜が最も多い1,684万円(約84.2万元)である。広州-深圳-香港の約1,368万円(68.4万元)が続き、北京は約1,112万円(55.6万元)と最も少なく、東京-横浜の66%にすぎない。

図 三大クラスター研究開発人員・研究開発費・研究開発強度比較

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2021』より作成。

■ アジア随一の大学を持ちながら大学数と大学生数は北京が最少


 大学はイノベーション人材を育成する“ゆりかご”であり、同時に研究開発の重要な拠点である。世界三大科学技術クラスターの大学リソースには下記の特色がある。

(1)大学数:東京-横浜が最多
 東京-横浜には、大学が159校あり、世界三大科学技術クラスターの中で大学数が最も多い。次いで広州-深圳-香港が113校、北京は92校で東京-横浜の58%に過ぎない。

(2)大学生数:広州-深圳-香港が最多
 広州-深圳-香港は、在籍する大学生数が170.2万人と最も多い。東京-横浜は85.1万人、北京は59万人で広州-深圳-香港の35%に過ぎない。これは、中国が北京での大学設置と定員数を厳しく制約していることを反映している。

(3)北京:トップ500の大学数は最少 
 タイムズ・ハイアー・エデュケーションが2022年に発表した「世界大学ランキング」によれば、トップ500にランクインした大学数では、東京-横浜が42校で、広州-深圳-香港の16校、北京の14校を圧倒した。

 北京は同ランキング内でアジアトップ10大学第1位の清華大学と第2位の北京大学を有している。東京-横浜は、同アジアトップ10大学に東京大学が第6位と1校がランクインしている。広州-深圳-香港は、第4位に香港大学、第7位に香港中文大学、第9位に香港科技大学の3校が入った。

 すなわちアジアトップ10大学には世界三大科学技術クラスターから6校も占めている。

図 三大クラスター大学数・在籍大学生数・世界トップクラス大学数比較

出典:雲河都市研究院『中国都市総合発展指標2021』等より作成。

■ 北京のフォーチュン・グローバル500企業数:広州-深圳-香港の8倍


 世界三大科学技術クラスターに立地する2022年版「フォーチュン・グローバル500」企業には下記の特色がある。

 フォーチュン・グローバル500の企業数は、北京が最も多く、56社にのぼる。広州-深圳-香港は20社で、二つのクラスターの同企業数は中国全体145社の半分を占めている。

 一方、東京-横浜の同企業数は36社で、日本全体47社の77%を占めている。

 すなわち、三大クラスターの中で、北京のフォーチュン・グローバル500企業数は最多である。

 

■ 北京のユニコーン企業数:東京-横浜の12倍


 ユニコーンとは、企業の評価額が10億ドル以上に達する、上場していないスタートアップ企業を指す。ユニコーン企業の数は、地域が新興企業やベンチャーキャピタルを引き付ける能力を示す指標として注目されている。

 世界三大科学技術クラスターに立地するユニコーン企業には下記の特色がある。

 ユニコーン企業数では、北京が圧倒的に多く、61社に達している。広州-深圳-香港地域は30社である。両クラスターが、中国のユニコーン企業全168社の約54%を占めている。東京-横浜のユニコーン企業は5社にとどまり、北京の8%に過ぎない。


■ 中国で最も映画におカネを掛ける都市


 中国の映画市場は、いま世界最大となっている。〈中国都市総合発展指標〉に基づき、雲河都市研究院は中国全297地級市以上の都市(日本の都道府県に相当)をカバーする「中国都市映画館・劇場消費指数」を毎年モニタリングしている。

 『中国都市総合発展指標2021』で見た「中国都市映画館・劇場消費指数2021」ランキングのトップ10都市は、上海、北京、深圳、成都、広州、重慶、杭州、武漢、蘇州、長沙となっている。長沙が西安を抜いてトップ10入りを遂げた。同ランキングの上位11〜30都市は、西安、南京、鄭州、天津、東莞、仏山、寧波、合肥、無錫、青島、瀋陽、昆明、温州、南通、南昌、福州、済南、金華、南寧、長春となっている。

 なかでも最も映画におカネを掛ける都市、即ち一人当たりの映画興行収入トップ10都市は、北京、上海、深圳、杭州、珠海、南京、武漢、広州、三亜、海口である(詳しくは【ランキング】世界で最も稼ぐ映画大国はどこか?を参照)。

図 2021中国で最も映画におカネを掛ける都市ランキング トップ30
(一人当たり映画興行収入)

■ 中国で最も科学技術輻射力が高い都市・北京


 現在、世界で最も研究者を抱えているのは中国である。中国で最も研究者の多い都市は北京である。〈中国都市総合発展指標〉に基づき、雲河都市研究院は中国全297地級市(地区級市、日本の都道府県に相当)以上の都市をカバーする「中国都市科学技術輻射力」をモニタリングしている。輻射力とは特定産業における都市の広域影響力を評価する指標である。科学技術輻射力は都市における研究者の集積状況や国内外特許出願数、商標取得数などで評価した。

 図より、〈中国都市総合発展指標2020〉で見た「中国都市科学技術輻射力2020」ランキングのトップ10都市は、北京、深圳、上海、広州、蘇州、杭州、東莞、南京、寧波、成都となった。特に、トップ2の北京、深圳両都市の輻射力は抜きん出ている。同ランキングの上位11〜30都市は、天津、仏山、西安、武漢、無錫、合肥、長沙、青島、鄭州、紹興、温州、廈門、済南、嘉興、重慶、福州、台州、南通、大連、珠海である。これらの都市には中国の名門大学、主力研究機関、そしてイノベーションの盛んな企業が立地している(詳しくは『【ランキング】科学技術大国中国の研究開発拠点都市はどこか?』を参照)。

図 中国都市科学技術輻射力ランキング2020 トップ30

■ IT産業スーパーシティ


 IT産業は21世紀のリーディング産業である。世界経済を牽引するだけでなくグローバリゼーションや社会の変革を推し進めている。

 中国でIT産業の輻射力が最も高い都市は北京である。

 〈中国都市総合発展指標〉に基づき、雲河都市研究院は中国全297地級市(地区級市、日本の都道府県に相当)以上の都市をカバーする「中国都市IT産業輻射力」を毎年モニタリングしている。輻射力とは広域影響力の評価指標である。IT産業輻射力は都市におけるIT企業の集積状況や企業力、そして、IT産業の従業者数を評価したものである。

 2020年は、IT業界にとって大発展の年であった。デジタル感染症対策、在宅勤務、オンライン授業、遠隔医療、オンライン会議、オンラインショッピングなどが当たり前になり、新型コロナウイルス禍で産業や生活のあらゆる分野におけるデジタル化が一気に進んだ。

 〈中国都市総合発展指標2020〉で見た「中国都市IT産業輻射力2020」ランキングのトップ10都市は、北京、上海、深圳、杭州、広州、成都、南京、重慶、福州、武漢となった。これら中国のIT産業スーパーシティは、すべて直轄市、省都、計画単列市からなる中心都市である。同ランキングの上位11〜30都市もほとんどが中心都市である(詳しくは『【ランキング】中国IT産業スーパーシティはどこか?』を参照)。

図 2020年中国都市IT産業輻射力ランキングトップ30都市

冬季オリンピック開催により、ウィンタースポーツ人口が3億人に


 2022年冬、ゼロコロナ政策の中で北京冬季オリンピックが開催された。〈中国都市総合発展指標2022〉で「文化・スポーツ・娯楽輻射力」全国第1位に輝く北京市では、市民のウィンタースポーツ熱がさらにヒートアップした。

 北京冬季オリンピックは北京だけでなく中国全土でウィンタースポーツの普及に火をつけた。元々ウィンタースポーツが余り普及されなかった中国で、いまやウィンタースポーツを楽しむ人口が3億を超えた。一度の五輪開催によりこれほど多くのウィンタースポーツ人口を増やしたことはかつてなかっただろう。

 中国のウィンタースポーツ産業の全体的な規模は2015年の2,700億元(約5.4兆円、1元=20円で計算)から2020年には6,000億元(約12兆円)と2倍以上の規模に増加し、2025年には1兆元にまで拡大する見込みである。

 2021年初めの時点で、全国には標準的なスケート場が654箇所あり、2015年に比べて3倍以上増加した。屋内外の様々なスキー場も803箇所に上り、2015年に比べて4割増加している。

北京第二国際空港が竣工


 首都・北京では現在、世界最大級の国際ハブ空港の建設が進められている。新国際空港は「北京大興国際空港」、または「北京第二国際空港」と呼ばれる。2019年7月末に完工し、同年9月末に運営を開始した。

 新国際空港は北京市の大興区と河北省廊坊市広陽区との間に建設され、天安門広場から直線距離で46 km、北京首都国際空港から67 km、天津浜海空港から85 kmの位置にある。総投資額は約800億元(約1.3兆円)にのぼる。

 計画では、2040年には利用客は年間約1億人、発着回数は同80万の規模となり、7本の滑走路と約140万 m2のターミナルビル(羽田国際空港の約6倍)が建設される。2050年には旅客数は年間約1.3億人、発着回数は同103万、滑走路は9本にまで拡大予定である。空港には高速鉄道や地下鉄、都市間鉄道など、5種類の異なる交通ネットワークが乗り入れ、新空港が完成すれば、中国最大規模の交通ターミナルになる。空港の設計は、日本の新国立競技場のコンペティションで話題となったイギリスの世界的建築家、ザハ・ハディド氏(2016年没)が設立したザハ・ハディド・アーキテクツが担当しており、空港の規模だけではなく、ヒトデのような斬新なデザイン案も国内外から大きな注目を集めている。

 新国際空港が建設されたのは、北京の空港の処理能力が限界に達していることが背景にある。中国中心都市総合発展指標2022によれば、現在、北京の「空港利便性」は全国第2位であり、旅客数も第2位である。新空港が完成すれば北京は上海から同首位の奪取も視野に入る。京津冀(北京・天津・河北)エリアの一体化的な発展を推進する起爆剤ともなるだろう。

ユニバーサル北京リゾートが開業


 2021年9月、「ユニバーサル北京リゾート」(Universal Beijing Resort)がオープンした。同リゾートは通州文化観光区の中心部に位置している。中心エリアの面積は120ヘクタール、リゾートエリア全体の面積は280ヘクタールにおよぶ世界最大規模のユニバーサルスタジオである。リゾート内にはテーマパーク、デパートやレストラン、ホテルなどの様々なエンターテインメントコンテンツが整備されている。また、中国の豊かな文化遺産を反映したユニークなテーマパークも設けられている。

 2015年11月に起工式が行われ、新型コロナウイルス禍の影響で工事が一時中断していたものの、2021年のオープンに向け急ピッチで工事が進められた。建設ゴミの削減や中水の再利用など、環境に配慮したインフラが設けられたことも注目を集めている。ユニバーサル北京リゾートに直通する地下鉄2路線も開通し、交通利便性も良い。

 2018 年5月付のウォール・ストリート・ジャーナル紙は、中国のテーマパーク産業が米国を抜いて世界一の市場になる時期を2020年と予測した。実際はまだアメリカに及ばないものの、2021年には中国テーマパーク産業の市場規模は367.1億元(約7,342億円、1元=20円)に達した。

 中国中心都市総合発展指標2022では、「社会」大項目中の中項目「文化娯楽」において北京は全国第1位である。ユニバーサル北京リゾートのオープンによって、その地位は、ますます揺るぎないものとなるだろう。

市庁舎が副都心に正式移転


 2019年1月、北京市政府の庁舎が市の中心部から通州区の行政副都心に正式に移転した。副都心は天安門広場から南西約25キロに位置し、すでに市政府の一部機能が移転を終えており、新たな所在地では、移転した当日に業務が始まった。

 北京では首都機能および市の行政機能の一極集中が課題とされ、その是正が議論されてきたが、この度、副都心の建設によって市政府行政機能の分散化が実現した。河北省で建設が進む「雄安新区」もその流れを後押ししている。北京都心、通州副都心、雄安新区、の3エリアを核とし、京津冀(北京・天津・河北)メガロポリスの一体化的な発展を目指している。

 問題は本来、北京市民のための市政府機能が人口集中地区から離れた遠隔地に移され、大きな弊害が起こり得ることである。また、市政府に勤務する人々も、長い通勤時間を強いられる。

 2019年末には通州副都心に直結する地下鉄も試験営業を開始し、2020年3月には、「2020年北京副都心重大工程行動計画」が発表され、総投資額約5,225億元(約7.8兆円、1元=15円として計算、以下同)を費やし、インフラや生活環境の整備など197の重大プロジェクトを推し進めると発表された。 

 北京では人口抑制政策が行われており、〈中国都市総合発展指標2018〉では、北京の「常住人口規模」は全国第3位であったが、2018年の常住人口データでは、2017年に比べて人口は16.5万人減少した。

 現在、東京、ロンドン、パリ、ニューヨークなど世界の大都市の中心部が、再開発によって大きく変貌し「再都市化」が進む中、北京では逆行するように「反都市化」の動きを見せている。

2018年は227日が青空に


 北京市の大気汚染が改善しつつある。北京市は2018年、年間で計227日、大気質が基準値をクリアし、青天だった。「重度汚染」の基準を超えた日数は15日まで減少し、3日以上連続で「重度汚染」の日が続かなかったのは、大気汚染の悪化が著しくなった2013年以降、初めてのことであった。

 〈中国都市総合発展指標2018〉では、「空気質指数(AQI)」は第50位で前年度から213位上昇、「PM2.5指数」は第42位で前年度から224位上昇した。

 「PM2.5指数」は、2018年度に年平均濃度が減少したトップ20都市のうち、第1位は北京であり、前年比で40.4%濃度が減少した。第5位の天津は濃度が8.3%改善した。北京に隣接する河北省においても同様の傾向がみられ、河北省は10都市中、4都市が20位以内にランクインした。

 北京に大気汚染をもたらす要因の1つは、周辺の工場群や発電所などから発生する大気汚染物質である。中国当局は工場移転を促し取り締まりを強化し、また燃料の石炭から天然ガスへのシフトを進めることで、以上の成果を上げた。ただし、大気汚染のもう1つの原因は自動車の排気ガスである。排気ガス削減の道のりは依然として遠く、問題はまだ解決の途上にある。

京津冀エリアの大動脈「北京大七環」が全線開通


 北京首都エリアの高速環状線、通称「北京大七環(北京七環路)」が2018年に全線開通した。東京の環状七号線は全長約53 kmであるのに対して、「北京大七環」はなんと全長940 kmにものぼる。「北京大七環」の完成によって、北京市内で深刻化する渋滞問題の緩和が期待される。河北省の発表では、全線開通後は、1日あたりの通行量は2.5万台に達した。同環状線の開通は、京津冀エリア、特に北京市の郊外エリアや衛星都市とのネットワークを大いに強化し、物流や人の流れを促進させる。〈中国都市総合発展指標2017〉では、北京市の「道路輸送量指数」は全国第4位であり、「都市幹線道路密度指数」は全国第12位であるが、今後この順位は上がっていくであろう。

京津冀協同発展、新首都経済圏、雄安新区


 中国政府は三大国家戦略のひとつとして「(北京・天津・河北)協同発展」を打ち出している。北京の都市輻射力を発展のエンジンとした「新首都経済圏」の構築を目指す構想である。

 2017年4月、中国政府はその一環として、河北省の雄県、容城県、安新県の3県とその周辺地域に「雄安新区」の設立を決定した。雄安新区は中国における19番目の「国家級新区」となり、「千年の計」と位置づけられた習近平政権肝いりのプロジェクトである。雄安新区は北京市から南西約100km、天津市から西へ約100kmに位置し、その計画範囲は、初期開発エリアが約100km2、最終的には約2,000km2(東京都の面積と同程度)にまで達するとされている。雄安新区は北京市の「非首都機能」を移転することで、同市の人口密度の引き下げ、さらには京津冀地域の産業構造の高度化等を目指している。

北京市の突出した本社機能とスタートアップ機能


 米『フォーチュン』誌が毎年発表する世界企業番付「フォーチュン・グローバル500」の2017年度版によると、500社にランクインした企業のうち、北京市に本社を置いている企業数は56社もあった。

 企業の内訳を見ると、第三次産業の企業が4分の3を占め、そのうち国有企業は52社、民営企業は4社であった。中国全体では前年より7社多い105社がランクインしており、その半数以上が北京市に本社を置いていることになる。第2位の上海市が8社、第3位の深圳市が6社ということからみても、北京市の本社機能は突出している。

 また、中国フォーチュン(財富)が発表した「フォーチュン・チャイナ500(中国500強企業)」ランキングの2017年度版によると、第1位の北京市には100社、第2位の上海市には31社、第3位の深圳市には25社が本社を置いている。北京市政府は2017年に本社機能をより強くする方針を打ち出しており、同市への本社機能の集約は今後さらに進むであろう。

 また、北京市政府はスタートアップ機能の促進にも力を入れており、同市は今や中国最大のベンチャー企業集積地となっている。2017年に市内で新たに上場した企業数は1450社にのぼり、第2位の上海市の878社と第3位の深圳市の686社の合計にほぼ相当する。北京市政府発表によれば、同市内に拠点を構えるネット系ベンチャー企業の数は、中国全土の約40%を占めている。


一国の経済規模に匹敵する中国の都市:「中国都市総合発展指標2022」経済ランキング

雲河都市研究院

編者ノート:
中国の都市が現在、「国家に匹敵する富を持つ」と言われるのはなぜか。なぜメガロポリスの推進を「新型都市化」政策の中核に据えるのか。〈中国都市総合発展指標2022〉の経済ランキングが発表された。雲河都市研究院が一連のデータを用いて経済大項目トップ10都市および一線准一線メガロポリスの実力を解説する。


1.一国の富に匹敵する経済規模を持つトップ10都市


 経済大項目でトップ10にランクインした都市は、「一国の富に匹敵する経済規模」を有している。〈中国都市総合発展指標2022〉(以下、〈指標2022〉)によると、上海、北京、深圳、広州、成都、蘇州、杭州、重慶、天津、南京がトップ10に名を連ねている。2021年と比べ都市そのものの変化はなかったが、成都が第6位から第5位へ、杭州が第8位から第7位へと順位を上げた。蘇州は第5位から第6位、重慶は第7位から第8位へと後退した。

 明暁東中国国家発展和改革委員会発展戦略和計画司元一級巡視員・中国駐日本国大使館元公使参事官は、「〈指標2022〉経済大項目のトップ20にはすべての一線都市と准一線都市そして7つの二線都市が含まれる。これら都市は中国経済の主要な成長極である。経済大項目は、227組のデータから成る経済規模、経済構造、経済効率、ビジネス環境、開放度、イノベーション・起業、都市圏、広域中枢機能、広域輻射力の9つの小項目、そして経済品質、発展活力、都市影響の3つの中項目にもとづいて評価された」と指摘する。

 周牧之東京経済大学教授は「経済規模から見ると、上海はサウジアラビア、深圳はイラン、杭州はノルウェー、成都はコロンビア、蘇州はマレーシア、杭州はチリ、重慶はエジプト、天津はフィンランド、南京はルーマニアに匹敵する。つまり、経済ランキングトップ10都市の経済規模は、世界経済ランキングのトップ20位から47位の国のそれに匹敵するようになった。トップ10都市の合計経済規模は、中国GDPの22.6%、世界GDPの4.7%を占め、世界第4位のドイツを超え第3位の日本に接近している」と語る。

 〈指標2022〉は総合偏差値で、中国の地級市以上の297都市(日本の都道府県に相当)を一線、准一線、二線、三線都市に分類し、19のメガロポリスを一線、准一線、二線、三線メガロポリスに定義した(詳しくは中心都市がメガロポリスの発展を牽引:中国都市総合発展指標2022を参照)。本稿では、〈指標2022〉経済ランキングの発表に合わせて、2022年における一線、准一線メガロポリスの主要な経済パフォーマンスに焦点を当てて分析した。

2.中国の社会経済発展をリードする三大メガロポリス


 北京、上海、深圳、広州の4つの一線都市が牽引する長江デルタ、珠江デルタ、京津冀(北京・天津・河北)の三大一線メガロポリスは、中国社会経済発展の最大のエンジンである。

 2022年、中国GDPに占める長江デルタ、珠江デルタ、京津冀の比重はそれぞれ20%、8.6%、7.5%に達した。三大メガロポリスは中国GDPの36.2%を創出した。名目GDP成長率は2021年に比べ、長江デルタ、珠江デルタ、京津冀はそれぞれ5.1%、4.1%、4.4%であった。

 同年、中国人口に占める長江デルタ、珠江デルタ、京津冀の割合はそれぞれ11.8%、5.5%、6.2%であった。三大メガロポリスには全人口の23.5%が集中している。2021年に比べ、長江デルタの常住人口は0.4%増加したが、珠江デルタ、京津冀はそれぞれ0.4%、0.3%減少した。新型コロナ禍で三大メガロポリスにおける非戸籍常住人口が減少した。

 2022年、中国輸出総額に占める長江デルタ、珠江デルタ、京津冀の比率はそれぞれ35.4%、21.3%、5.2%であった。三大メガロポリスは全国輸出の61.9%を生み出し、特に長江デルタと珠江デルタは中国輸出産業の最大の牽引役となっている。2021年に比べ、長江デルタ、珠江デルタの輸出増加率はそれぞれ10%、5.9%に達したが、京津冀は0.3%減少した。

 同年、中国コンテナ取扱量に占める長江デルタ、珠江デルタ、京津冀の割合はそれぞれ35.4%、22.6%、8.8%であった。三大メガロポリスは全国港湾のコンテナ取扱量の66.8%を占めている。

 三大メガロポリスの活力の源は企業にある。2022年、上海・深圳・香港・北京の四大メインボード上場企業数において、長江デルタ、珠江デルタ、京津冀の全国に占める割合はそれぞれ33.3%、14.2%、13.9%であった。中国メインボード上場企業の61.4%が三大メガロポリスに集中している。

 同年、上海・深圳・香港・北京の四大メインボード上場IT企業数において、長江デルタ、珠江デルタ、京津冀の全国に占める割合はそれぞれ27.4%、19%、30.3%に達した。中国メインボード上場IT企業の76.7%が三大メガロポリス、特に京津冀と長江デルタに集中している。

 2022年、中国特許取得件数に占める長江デルタ、珠江デルタ、京津冀の割合はそれぞれ27.8%、17.9%、8.6%であった。全国の特許取得件数の54.3%が三大メガロポリスで創出されている。

 同年、深圳・香港創業板上場企業数において、長江デルタ、珠江デルタ、京津冀の全国に占める割合はそれぞれ13.9%、37%、19.9%であった。中国創業板上場企業の70.8%が三大メガロポリスに集中している。

 2022年、新三板上場企業数において、長江デルタ、珠江デルタ、京津冀の全国に占める割合はそれぞれ29.6%、13.4%、17.3%であった。中国新三板上場企業の60.3%が三大メガロポリスに集中している。

 同年、ユニコーン企業数において、長江デルタ、珠江デルタ、京津冀の全国に占める割合はそれぞれ40.6%、19.2%、26.5%であった。中国ユニコーン企業の86.3%が三大メガロポリスに集中している。

 周牧之教授は、「三大メガロポリスは、日本のGDPの1.5倍、人口の2.7倍、輸出規模の2.9倍、コンテナ取扱量の8.8倍にまで成長した。巨大化する中国メガロポリスが中国だけでなく世界の経済をも牽引している」と指摘する。

3.キャッチアップする准一線メガロポリス


 成渝(四川・重慶)、長江中游(湖北・湖南・江西)、粤閩浙沿海(広東・福建・浙江)、関中平原(陝西・甘粛)の四つの准一線メガロポリスは、中国社会経済発展の中核を担っている。

 2022年、中国GDPに占める成渝、長江中游、粤閩浙沿海、関中平原の比重はそれぞれ6.6%、9.2%、6.9%、2.2%であった。四つの准一線メガロポリスは、全国GDPの24.9%を創出している。名目GDP成長率は2021年に比べ、成渝、長江中游、粤閩浙沿海、関中平原はそれぞれ5%、7.2%、7.8%、8.9%であった。なかでも関中平原の成長率が最大だった。

 同年、中国人口に占める成渝、長江中游、粤閩浙沿海、関中平原の割合はそれぞれ7.4%、8.8%、6.7%、2.9%であった。四つの准一線メガロポリスに全国25.8%の常住人口が集中している。2021年に比べ、成渝、長江中游、粤閩浙沿海の常住人口はそれぞれ0.9%、0.1%、0.1%増加したが、関中平原は0.6%減少した。

 2022年、中国輸出総額に占める成渝、長江中游、粤閩浙沿海、関中平原の比重はそれぞれ4.7%、5%、7.5%、1.3%であった。四つの准一線メガロポリスは、全国輸出の18.5%を生み出している。2021年に比べ、成渝、長江中游、粤閩浙沿海、関中平原の輸出はそれぞれ5.1%、26.4%、15%、16.4%増加した。

 同年、中国港湾コンテナ取扱量に占める成渝、長江中游、粤閩浙沿海の割合はそれぞれ0.5%、1.8%、7.2%であった。成渝、長江中游は、長江の水運によるもので、関中平原は内陸立地で水運輸送がほとんど無かった。准一線メガロポリスは、全国の港湾コンテナ取扱量の9.5%を担っている。

2022年、上海・深圳・香港・北京の四大メインボード上場企業数に占める成渝、長江中游、粤閩浙沿海、関中平原の全国に占める割合はそれぞれ4.9%、5.5%、6.1%、1.4%であった。准一線メガロポリスには中国メインボード上場企業の17.9%が立地している。

 同年、上海・深圳・香港・北京の四大メインボード上場IT企業数において、成渝、長江中游、粤閩浙沿海、関中平原の全国に占める割合はそれぞれ2.6%、3.6%、6.2%、0.7%であった。准一線メガロポリスには中国メインボード上場IT企業の13.1%が立地している。中でも粤閩浙沿海における上場IT企業の発展ぶりが目立っている。

 2022年、中国特許取得件数に占める成渝、長江中游、粤閩浙沿海、関中平原の割合はそれぞれ4.6%、6.8%、6.9%、1.8%であった。准一線メガロポリスは全国特許取得件数の20.1%を創出している。

 同年、深圳・香港創業板上場企業数において、成渝、長江中游、粤閩浙沿海、関中平原の全国に占める割合はそれぞれ3.9%、6.2%、5.3%、1.6%であった。准一線メガロポリスには中国創業板上場企業の17%が立地している。

 2022年、新三板上場企業数において、成渝、長江中游、粤閩浙沿海、関中平原の全国に占める割合はそれぞれ3.9%、6.3%、6%、1.9%であった。中国新三板上場企業の18.1%が准一線メガロポリスに立地している。

 同年、ユニコーン企業数において、成渝、長江中游、粤閩浙沿海、関中平原の全国に占める割合はそれぞれ3.8%、3.8%、1.6%、0.3%であった。中国ユニコーン企業の9.5%が准一線メガロポリスに立地している。

4.引き続きメガロポリスを主体として推進


 明暁東氏は、「〈指標2022〉は、878のデータセットを駆使した権威性をもって中国の297の地級市以上の都市と19のメガロポリスに「線引き」を行った。これにより中国の都市及びメガロポリスに初めて客観的な分類基準を提供した。一線メガロポリスには、中国の三分の一以上のGDP、四分の一人口、多数の上場企業及びスタートアップ企業が集中している。一線メガロポリスはまさしく人口と経済の集中地域であり、中国の主要な貿易拠点とイノベーションの源泉である。准一線メガロポリスは一線メガロポリスの重要な背後地として、その発展を支えている」と述べている。

 杜平中国国家信息センター元常務副主任は、「〈指標2022〉が7年間継続して中国の都市発展を評価する専門的な報告書として発表されたことで、都市間比較だけでなく、都市自身の時系列比較にも貴重なベンチマークが提供された」とコメントしている。

 楊偉民中国共産党中央財経領導小組弁公室元副主任は、「〈指標2022〉が中国都市を一線、准一線、二線、三線都市に区分したと同時に、中国メガロポリスの発展状況をもクラス分けした。〈指標2022〉経済大項目から見ると、長江デルタ、珠江デルタ、京津冀の三大メガロポリスは持続的な発展を続けており、成渝、長江中游、粤閩浙沿海、関中平原の四つの准一線メガロポリスが追い上げを見せている。これらの「3+4」メガロポリスには、中国経済の60%以上、人口の約50%が集中し、この傾向は将来も続く。第11次五カ年計画で定めた「メガロポリスを都市化推進の主体形態とする」方針の先見性は明らかである。関連部門及び地方政府は、引き続きメガロポリスを主体として推進するべきだ」と総括した。


【中国語版】
中国網『中国城市综合发展指标2022经济大项排名出炉
』(2023年12月15日)

【英語版】
China.org.cnDynamics of strongest Chinese megalopolises: Economic rankings of China Integrated City Index 2022(2023年12月29日)

China Daily「Dynamics of strongest Chinese megalopolises: Economic rankings of China Integrated City Index 2022」(2023年12月29日)

他掲載多数 

合肥:イノベーションで飛躍を遂げる中心都市【中国中心都市&都市圏発展指数2021】第18位

中国中心都市&都市圏発展指数2021
第18位


 合肥市は中国中心都市&都市圏発展指数2021の総合第18位だった。同市は前年度より順位を1位上げた。

 〈中国中心都市&都市圏発展指数は、中国都市総合発展指標の派生指数として、4大直轄市、22省都、5自治区首府、5計画単列市からなる36の中心都市の評価に特化したものである。同指数は、これら中心都市を、全国297の地級市以上の都市の中で評価している。10大項目と30の小項目、116組の指標からなる。包括的かつ詳細に、中国中心都市の発展を総合評価するシステムである。

CCCI2017 | CCCI2018 | CCCI2019 | CCCI2020

 

〈中国中心都市&都市圏発展指数〉:【36中心都市】北京、上海、深圳、広州、成都、天津、杭州、重慶、南京、西安、寧波、武漢、青島、鄭州、長沙、廈門、済南、合肥、福州、瀋陽、大連、昆明、長春、ハルビン、貴陽、南昌、石家荘、南寧、太原、海口、ウルムチ、蘭州、フフホト、ラサ、西寧、銀川


イラク一国に匹敵の経済規模を誇る


 合肥市は安徽省の省都であり、同省の政治、経済、文化の中心であり、また長江メガロポリスの中核都市でもある(長江デルタメガロポリスについて詳しくは中心都市がメガロポリスの発展を牽引:中国都市総合発展指標2022を参照)。

 同市は、4区・4県・1県級市を管轄し、総面積は11,445平方キロメートルに達し、日本の秋田県と同程度である。亜熱帯モンスーン気候で、四季がはっきりし、気候は穏やかである。「気候快適度」は中国第148位である。

 安徽省設立後350年以上の歴史上、省都となった都市は南京、安慶、合肥、蚌埠、蕪湖など多数あった。1949年の新中国成立時の合肥は、面積わずか5平方キロメートル、人口5万人の小さな都市だったが、紆余曲折を経て1952年に安徽省の省都となった後は目覚ましい発展を遂げた。2022年常住人口が963万人で中国第20位、GDPは約12,013億元(約24兆円、1元=20円で換算)で中国第21位にまで成長した。その経済規模は、世界第54位のイラクのGDPに匹敵する(詳しくは【ランキング】世界で最も経済リカバリーの早い国はどこか? 中国で最も経済成長の早い都市はどこか?を参照)。

 外部から人々を引き入れ成長する合肥は、「流動人口(非戸籍常住人口)」が約154万人の大幅プラスで、中国第27位の人口流入都市となっている。

『三国志』ゆかりの都市


 合肥は、秦の時代から約2,100年の歴史を持つ。『三国志』で曹操と孫権が争った激戦地として知られ、市内には三国時代を彷彿とさせる人気の観光歴史スポット「三国遺址公園」が整備されている。合肥の「国内観光客数」は中国第24位、「海外観光客数」は中国第30位と、省内トップの成績である。


中国都市総合発展指標2021
第24位


 合肥は〈中国都市総合発展指標2021〉総合ランキング第24位となり、前年より順位を3つ下げた。

 「経済」大項目は第21位で、前年に比べ順位が2つ上がった。3つの中項目で、「経済品質」「発展活力」は第22位、「都市影響」は第23位と、3中項目でトップ10入りした項目はなかったものの、すべてがトップ30入りを果たした。9つの小項目のうち、「イノベーション・起業」は第14位、「経済効率」は第18位、「広域輻射力」は第20位、「経済規模」は第21位、「経済構造」「広域中枢機能」は第23位、「開放度」は第25位と、7項目がトップ20に入った。なお、「ビジネス環境」は第32位、「都市圏」は第35位だった。

 「社会」大項目は第24位で、前年度より順位を4つ下げた。3つの中項目で、「ステータス・ガバナンス」は第16位で、同1項目がトップ20に入った。「生活品質」「伝承・交流」は第30位だった。小項目で見ると、「都市地位」は第17位、「人口資質」は第18位、「文化娯楽」は第23位、「人的交流」は第29位と、5項目がトップ30に入った。「消費水準」は第32位、「居住環境」は第33位、「生活サービス」は第36位、「社会マネジメント」は第40位、「歴史遺産」は第180位であった。

 「環境」大項目は第53位で、前年に比べ順位が13位上がった。3つの中項目のうち「空間構造」は第35位、「環境品質」は第98位、「自然生態」は第104位であった。9つの小項目のうち、「都市インフラ」は第16位、「自然災害」は第19位と、2項目がトップ20に入った。「環境努力」は第34位、「コンパクトシティ」は第35位、「交通ネットワーク」は第44位、「資源効率」は第47位、「水土賦存」は第72位、「気候条件」は第139位、「汚染負荷」は第180位であった。


 〈中国中心都市総合発展指標2021〉について詳しくは、メガシティの時代:中国都市総合発展指標2021ランキングを参照。

 

CICI2016:第37位  |  CICI2017:第25位  |  CICI2018:第27位
CICI2019:第26位  |  CICI2020:第21位  |  CICI2021:第24位


科学技術力で飛躍


 合肥が急激な発展を遂げた最大の理由は、科学技術力にある。

 中国科学技術大学(中科大)が1970年、北京から合肥に移転したのが契機となった。現在、合肥には19の大学と約200の政府系科学研究機関が立地し、20万人を超える研究開発要員を擁している。同市の「科学技術輻射力」は中国第13位である(詳しくは【ランキング】科学技術大国中国の研究開発拠点都市はどこか?)。

 合肥の「大学生在校生数」は中国第19位、「世界トップ大学指数」は中国第15位、「高等教育輻射力」は中国第14位である。

家電生産からハイテク製造業へ


 新中国成立初期、合肥の工業と言えば小規模な発電所ひとつしか無かった。1980〜90年代に、合肥は家電産業に力を入れ、美菱(MeiLing)や栄事達(Royalstar)など多くの地元ブランドを育成した。

 合肥の冷蔵庫生産量は2011年に、全国の三分の一、洗濯機は全国の四分の一を占め、青島市等を超えて全国最大の家電生産基地となった。現在、合肥の家電産業の年間生産額は1兆元を超えている。

 家電産業で身を起こした合肥は、後にディスプレイと半導体分野に参入した。2008年、BOEテクノロジーグループ(京東方科技集団)と共同で、中国初の第6世代液晶パネル生産ラインを建設した。この生産ラインは、中国初の32インチ液晶画面を生産した。

 BOEはその後も合肥で第8.5世代(2014年稼働)と第10.5世代生産ライン(2018年稼働)を建設し、投資を続けた。

 現在、合肥は世界最大のディスプレイ生産地の一つに数えられている。

半導体生産基地からEV生産基地へ


 ディスプレイ産業の急成長は、半導体産業の発展を促している。2015年、合肥建投は台湾の力晶積成電子製造(PSMC)と合弁で「合肥晶合集成電路」を設立し、半導体ウエハーの受託生産(ファンドリー)を開始した。2017年には、12インチウエハー製造基地が稼働した。

 合肥は2016年、大手ファブレス半導体メーカーの兆易創新科技(ギガデバイス・セミコンダクター)と協力して、1,500億元(約3兆円)を投じて長鑫存儲技術(CXMT)を立ち上げ、中国本土のメモリチップ製造の空白を埋めた。2019年、CXMTの12インチウエハー工場が稼働し、10ナノメートル級の8GB DDR4の製造を開始した。

 現在、晶合集成、CXMTを筆頭に、280社の半導体関連産業が合肥に集まり、同市を一大シリコンシティに押し上げた。

 合肥の躍進はこれに留まらず、近年はEV関連企業を積極的に誘致し、一大EV生産基地が形成されつつある。

 現在同市の「輸出総額」は中国第31位、「製造業輻射力」は中国第32位であるものの今後、順位の上昇が大いに期待される。合肥は、今後もっとも注目すべき都市のひとつである(詳しくは【ランキング】中国で最も輸出力の高い都市はどこか?を参照)。


廈門:魅力あふれる貿易拠点都市【中国中心都市&都市圏発展指数2021】第17位

中国中心都市&都市圏発展指数2021
第17位


 廈門市は中国中心都市&都市圏発展指数2021の総合第17位だった。同市は前年度の順位を維持した。

 〈中国中心都市&都市圏発展指数は、中国都市総合発展指標の派生指数として、4大直轄市、22省都、5自治区首府、5計画単列市からなる36の中心都市の評価に特化したものである。同指数は、これら中心都市を、全国297の地級市以上の都市の中で評価している。10大項目と30の小項目、116組の指標からなる。包括的かつ詳細に、中国中心都市の発展を総合評価するシステムである。

CCCI2017 | CCCI2018 | CCCI2019 | CCCI2020

 

〈中国中心都市&都市圏発展指数〉:【36中心都市】北京、上海、深圳、広州、成都、天津、杭州、重慶、南京、西安、寧波、武漢、青島、鄭州、長沙、廈門、済南、合肥、福州、瀋陽、大連、昆明、長春、ハルビン、貴陽、南昌、石家荘、南寧、太原、海口、ウルムチ、蘭州、フフホト、ラサ、西寧、銀川


■ 小さくても輝く海上の花園


 廈門市は、福建省の東南端に位置する副省級市、計画単列市であり、経済特区に指定された中国南東部沿岸の重要な中心都市である。また、粤閩浙沿海(広東・福建・浙江)メガロポリスの中核都市である(粤閩浙沿海メガロポリスについて詳しくは中心都市がメガロポリスの発展を牽引:中国都市総合発展指標2022を参照)。

 同市の総面積は1,701平方キロメートルに過ぎず、中国297地級及びそれ以上の都市(日本の都道府県に相当)のうち、下から四番目の294位の大きさである。省都の福州市と比較すると、約七分の一の大きさである。なお、47都道府県で最も面積が小さい香川県の面積が1,877平方キロメートルであり、廈門は香川県より1割程度小さい。

 一方、常住人口は約531万人で中国第82位、「人口密度」は1平方キロメートル当たり3,121人で中国第4位の高密度都市である。

 廈門は福建省の沿海部に位置し、漳州市、泉州市と接している。亜熱帯モンスーン気候で、年平均気温が21℃、温和かつ多雨の気候を享受する美しい臨海都市である。「気候快適度」は中国第24位である。

 同市は多くの島嶼を有し、風光明媚な景観に恵まれ、古来より「海上花園」とも呼ばれている。

■ 五口通商から経済特区へ


 廈門は600年以上の歴史を持つ廈門港を有し、宋朝以来、泉州港の補助港口としての役割を果たしていた。元朝で軍港に変貌し、明朝には商業貿易の拠点として躍進を遂げた。鄭成功父子の時代には、海外貿易の中心港となり、茶の輸出で一大拠点となった。1684年には清の海関が設置され、廈門港が正口の一つとされた。康熙年間には、福建出洋の総口となり、福州や泉州を凌ぐ地位を確立した。

 1842年、南京条約の締結により、廈門は広州、福州、寧波、上海と並び「五口通商」の一つに数えられた。貿易の窓口として、教会、病院、学校、外国銀行などが建設され、早くから西洋文化に染められた稀有な都市でもある。

 1980年、厦門は深圳、珠海などと共に経済特区に指定された。以来、急速な発展を続けている。

■ ウズベキスタン一国に匹敵する経済規模


 2022年、廈門のGDPは7,803億元(約15.6兆円、1元=20円換算)に達し、福建省内で福州市、泉州市に次ぐ第三位の経済規模である(詳しくは【ランキング】世界で最も経済リカバリーの早い国はどこか? 中国で最も経済成長の早い都市はどこか?を参照)。

 その経済規模は、中国第31位であり、世界第58位のウズベキスタンのGDPに匹敵する。「一人当たりGDP」の成績はさらに良く、中国第19位と福建省内で最も高い。

 廈門の「人口自然増加率」は中国第4位で、2015〜2022年の平均増加率は12.1‰と極めて高い。非戸籍常住人口を示す「流動人口」では、廈門は約245万人に達し、中国第17位の人口流入都市となっている。結果、同市の「生産年齢人口率」は中国第9位であり、その数値は72.9%と圧倒的であり、若い活力に溢れている。

■ 深水港を盾にしたスーパー製造業都市


 廈門市は深水港を盾に港湾機能を強化してきた。2022年に漳州港を含む廈門港のコンテナ取扱量は1,243.47万TEUを達成し、中国第7位にランクインした(詳しくは、【ランキング】世界で最も港湾コンテナ取扱量が多い都市はどこか?を参照)。同年の貨物取扱量は2.19億トンで、世界第14位である。

 廈門の製造業も高度に発展し、中国第11位の「製造業輻射力」の実力を持つスーパー製造業都市となった(詳しくは【ランキング】中国で最も輸出力の高い都市はどこか?を参照)。

 さらにIT産業も発展を遂げており、「IT産業輻射力」は中国第12位である。

 産業発展の背後には研究開発への投資が欠かせない。廈門の「科学技術輻射力」は中国第20位である(詳しくは【ランキング】科学技術大国中国の研究開発拠点都市はどこか?)。

 現在、同市は中国政府が推進する「一帯一路」における21世紀海上シルクロードの戦略的要衝都市となっている。また同市は、アジアとヨーロッパを結ぶ「中欧班列(ユーラシア横断鉄道)」にも接続している。


中国都市総合発展指標2021
第13位


 廈門は〈中国都市総合発展指標2021〉総合ランキング第13位であり、前年度より順位を1つ下げた。

 「環境」大項目は第6位で、前年度に比べ順位が2つ下がった。3つの中項目のうち「空間構造」は第6位、「環境品質」は第14位、「自然生態」は第72位と、2項目がトップ20に入った。9つの小項目のうち、「コンパクトシティ」は第5位、「交通ネットワーク」は第7位と2項目がトップ10に入った。また、「汚染負荷」は第21位、「環境努力」は第22位、「資源効率」は第30位と、3項目がトップ30に入った。なお、「都市インフラ」は第32位、「気候条件」は第45位、「自然災害」は第229位、「水土賦存」は第294位であった。

 「社会」大項目は第15位で、前年度より順位を2つ下げた。3つの中項目で、「生活品質」は第13位、「伝承・交流」は第15位と、2項目がトップ20に入った。「ステータス・ガバナンス」は第23位だった。小項目で見ると、「人的交流」「消費水準」は第11位、「居住環境」「生活サービス」は第15位、「人口資質」は第16位と、5項目がトップ30に入った。なお、「都市地位」は第34位、「社会マネジメント」は第41位、「歴史遺産」は第43位、「文化娯楽」は第52位であった。

 「経済」大項目は第19位で、前年度に比べ順位が1つ下がった。3つの中項目で、「発展活力」は第16位、「都市影響」は第17位、「経済品質」は第26位と、3中項目のうちトップ10入りした項目はなかったものの、すべてトップ30入りを果たした。9つの小項目のうち、「広域中枢機能」は第9位でトップ10入りした。また、「ビジネス環境」は第11位、「経済効率」は第13位、「開放度」は第15位、「イノベーション・起業」は第22位、「広域輻射力」は第23位、「経済構造」は第25位、「都市圏」は第28位と、7項目がトップ20に入った。なお、「経済規模」は第45位だった。


 〈中国中心都市総合発展指標2021〉について詳しくは、メガシティの時代:中国都市総合発展指標2021ランキングを参照。

CICI2016:第16位  |  CICI2017:第12位  |  CICI2018:第12位
CICI2019:第12位  |  CICI2020:第12位  |  CICI2021:第13位


■ 鼓浪嶼-建築とピアノの島


 鼓浪嶼は廈門市の沖合に浮かぶ面積2平方キロメートル未満の島で、廈門の都市発展をものがたっている。清朝末期には、鼓浪嶼に公共租界が設けられた。その為、多くの西洋建築や「騎楼」と呼ばれる華僑による建築物が残され、「万国建築博物館」と称される。2017年に「鼓浪嶼国際歴史社区」は世界文化遺産に正式登録された。

 建築だけでなく、西洋音楽も植え付けられた。鼓浪嶼には600台を超えるピアノがあり、世界最古のスクエアピアノや最初で最大のアップライトピアノを保有する専門博物館があるだけでなく、数多くのピアノ演奏者や音楽家を輩出している。鼓浪嶼が生んだ音楽家たちは毎年音楽祭で故郷に戻り、各種コンサートを開いている。

■ 華僑文化 – 騎楼


 廈門は西洋の文化を受け入れただけでなく、華僑がもたらした東南アジアの文化も色濃く残している。中でも南洋の風情漂う騎馬楼建築が際立っている。

 騎楼建築は、「南洋貿易」に密接に関連している。近代、南洋貿易の拡大で福建省から多くの人々が「南洋」と呼ばれる東南アジアへ渡った。騎楼は帰郷した華僑によって建設された。騎楼の大規模建設は1920〜30年代に集中している。騎楼は典型的な外廊式建築で、通り側には商店が並び、廊下は日よけと雨避けの機能を果たし、背街側には民家が立ち並ぶ。

 特に旧市街区や中山路には、1920年代の騎楼が多数残り、百年の歴史文化を誇る街として、観光客を魅了している。

■ 観光都市発の新世代コーヒーチェーンブランド – ラッキンコーヒー(瑞幸咖啡)


 廈門の観光業は福建省で最も成功し、国内外からの観光客が、2019年には1億人を超えた。新型コロナウイルスの影響により大きな打撃を受けたものの、2022年の訪問者数は2019年の64.6%まで回復している。

 近年この観光都市から、ラッキンコーヒーという革新性に富んだコーヒーチェーンが生まれた。2023年9月、白酒の茅台とのコラボレーションによる「醤香ラテ」の全国発売が大きな話題を呼んだ。初日に542万杯以上が売れ、売上高は1億元を超えた。廈門に本部を置くこの企業は、2017年に北京銀河SOHOで初の店舗を開業し、その後わずか18カ月でアメリカのナスダック(NASDAQ)に上場した。2020年6月には財務不正問題で退場を余儀なくされたものの、退場から21カ月で黒字化を実現し、逆境を乗り越えた。

 ラッキンコーヒーは、スターバックスと違い、カフェにある社交の場を提供せず、座席もなく、限られた空間で一日に数百杯を売り上げる。ラッキンコーヒーは消費者がアプリやミニプログラムを通じて注文し、店舗で受け取る「インターネットコーヒー」のモデルを確立し、オンラインとオフラインのハイブリッドを実現し、成功している。

 2023年10月末時点で、ラッキンコーヒーの国内店舗数は1万3,000店を超えた。店舗数、営業収入において、20年以上中国市場で事業を展開するスターバックス・チャイナを上回る。

 2023年、ラッキンコーヒーは、全世界のユニコーン企業1,360社の中で130位にランクインし、評価額は400億ドルに達している。

 起業精神旺盛な廈門の「ユニコーン企業」は中国第18位となっている。盛んな飲食業と観光業により、「ホテル飲食業輻射力」は中国第8位と、トップ10入りを果たしている。


中心都市がメガロポリスの発展を牽引:「中国都市総合発展指標2022」

雲河都市研究院

編者ノート:
中国で最も発展している都市はどこか?最も発展しているメガロポリスはどこか?〈中国都市総合発展指標2022〉の総合ランキングが発表された。雲河都市研究院は、この総合ランキングの偏差値を用いて、全297都市を一線都市、准一線都市、二線都市、三線都市に定量的にランク分けし、さらに全19メガロポリスについて総合的な評価と分類を行った。


 〈中国都市総合発展指標2022〉総合ランキングが発表された。北京は7年連続で総合ランキングの首位、上海が第2位、深圳が第3位となった。

 趙啓正中国国務院新聞弁公室元主任は、「2022年、厳しい国際環境と新型コロナウイルス禍の困難な中、中国経済は安定した成長を遂げた。〈中国都市総合発展指標〉は、中国都市の発展成果を国際的に示している」と評価する。

 明暁東中国国家発展和改革委員会発展戦略和計画司元一級巡視員・中国駐日本国大使館元公使参事官は、「2022年は中国にとって非常に特別な年であった。中国の経済は、国際環境と新型コロナウイルスの不利な影響を克服し、安定した成長を実現した。〈中国都市総合発展指標2022〉総合ランキングは、中国経済成長の状況と都市の総合発展状況が反映されている。前年と比較して、北京、上海、深圳、広州、成都、杭州、重慶、南京、蘇州という総合ランキング上位9都市のメンバーと順位に変化はない。これは、中国の経済成長センターに変化がないことを示している。中国経済の中核となるこれらの都市は、2022年にコロナ禍の再燃やサプライチェーンの不安定に耐え、経済社会の持続的な発展を保ち、中国経済の総量を120兆元の新たな高みに押し上げた。総合ランキング上位10都市の中で、唯一新たにランクインした第10位の武漢は、新型コロナウイルス・パンデミック初期の衝撃を克服し、再びトップ10に戻ってきた」と指摘した。

1.中国の一線都市、准一線都市、二線都市はどこか?


 一線都市、二線都市がどこかについては、中国でさまざまな意見や議論があり、きちんとした定義や基準は存在しない。楊偉民中国共産党中央財経領導小組弁公室元副主任は、「現在の一線、二線都市といった言い方には、一定のルールがなく、厳格な定義もなく、主に住宅価格で区分されている」と指摘する。

 この状況を踏まえ、878のデータセットを用いて、全国297の地級以上都市を環境・社会・経済の3つの次元で総合的に定量評価する〈中国都市総合発展指標〉(以下、〈指標〉)は今年、中国全土における都市ランクの分類を試みた。

 〈指標〉は、評価方法に「偏差値」の概念を用いるため、各都市が各指標で全国でどの立ち位置にあるかを相対的に反映できる。統計、衛星解析データ、ビックデータなどさまざまな指標に用いられる異なる単位を、偏差値という統一の尺度に変換したゆえ比較可能となった。

 総合評価の偏差値は、環境・社会・経済の3つの大項目の偏差値を合計し、最大300で、全国平均値は150となる。

 〈指標〉では、合計偏差値200以上の都市を「一線都市」、175〜200の都市を「准一線都市」、150〜175の都市を「二線都市」、150未満の都市を「三線都市」と定義する。

 この基準によると、一線都市は北京、上海、深圳、広州の4都市で、特に北京と上海の2大メガシティの偏差値が際立っている。

 准一線都市には成都、杭州、重慶、南京、蘇州、武漢、天津、廈門、西安の9都市が含まれる。これらの都市は将来、一線都市に昇格する可能性が高い。

 二線都市は、21の地域中心都市を含む43都市で、とくに寧波、長沙、青島、東莞、福州など都市の偏差値が、175に近い。将来、准一線都市に昇格する可能性がある。

 総合評価の偏差値が全国平均値以下の三線都市は合計で241都市ある。このなかにはフフホト、銀川、西寧など3つの省都市が含まれている。

 趙啓正氏は「総合ランキングの偏差値で一線都市、准一線都市、二線都市、三線都市を量的にランク分けすることで、都市の分類基準を明確にし、都市の比較分析にあたっての困難を一気に解消した」と述べる。

2.中国発展の最大エンジンは三大メガロポリス


 メガロポリスは、中国新型都市化の主たる形態である。第14次五カ年計画綱要では、中国全土で19のメガロポリスを計画した。

 「高度化するメガロポリス」として、京津冀(北京・天津・河北)、長江デルタ(上海・江蘇・浙江・安徽)、珠江デルタ(広東)、成渝(四川・重慶)、長江中游(湖北・湖南・江西)の5メガロポリスを取り決めた。

 「発展するメガロポリス」には、山東半島(山東)、粤閩浙沿海(広東・福建・浙江)、中原(山西・安徽・河南)、関中平原(陝西・甘粛)、北部湾(海南・広西)の5メガロポリスを指定した。

 「育成するメガロポリス」としては、哈長(吉林・黒龍江)、遼中南(遼寧)、山西中部(山西)、黔中(貴州)、滇中(雲南)、呼包鄂榆(陝西・内モンゴル)、蘭州—西寧(甘粛・青海)、寧夏沿黄(寧夏)、天山北坡(新疆ウイグル)の9メガロポリスを取り決めた。

 19メガロポリスには、35の国家中心都市や地域中心都市が集中し、中国のGDPの88%、常住人口の81.9%を占めている。

 メガロポリスの発展をいかに評価するか?雲河都市研究院は〈指標2021〉発表時、上位10メガロポリスの評価を試みた。今年はさらに全19メガロポリスの評価を実施した。

 各メガロポリスの発展水準をより直感的に分析するために、本文では、19メガロポリスに属する223の都市の〈指標2022〉総合ランキング偏差値を、メガロポリス別に「箱ひげ図」と「蜂群図」を重ねて分析し、メガロポリスにおける都市総合ランキング偏差値の分布状況と差異を可視化した。

 箱ひげ図中の横線は、サンプルの中央値、箱の上辺は上位四分位点(75%)、箱の下辺は下位四分位点(25%)、箱本体は50%のサンプル分布を示している。蜂群図は、個々のサンプル分布をプロットした図である。箱ひげ図と蜂群図を重ね合わせることで、サンプルのポジションと全体の分布の双方を示せる。

 明暁東氏は「19メガロポリス総合ランキングの箱ひげ蜂群図の分析から、メガロポリスの中心都市の極化が明らかであり、発展地域ほどその中心都市は全国における立ち位置が高い」と指摘する。

 確かに、中心都市はメガロポリスの核である。北京、上海、深圳、広州の4つの一線都市は、すべて長江デルタ、珠江デルタ、京津冀にある。これらの三大メガロポリスを「一線メガロポリス」と称することができる。三大メガロポリスには、中国の36.2%のGDP、23.5%の常住人口が集中している。三大メガロポリスの1人当たりGDPは全国平均の1.54倍に達し、大量の外来人口を引き付け、非戸籍常住人口は7,802万人にのぼる。三大メガロポリスは、中国の経済社会発展を牽引する最大のエンジンであることは疑いようがない。

3.中国の准一線、二線、三線メガロポリス


 准一線都市を地域中心都市として牽引するメガロポリスには、成渝、長江中游、粤閩浙沿海、関中平原があり、「准一線メガロポリス」と称することができる。4つの准一線メガロポリスは、中国のGDPの24.9%を生み出し、常住人口の25.7%が集中、中国の四分の一の経済と人口を有している。しかし、4つの准一線メガロポリスの1人当たりGDPは全国平均の0.97倍に過ぎず、人口流出地域であり、合計で1,801万の人口が流出している。また、関中平原は、西安のみを中心都市とする単一エンジンのメガロポリスである。

 二線都市を地域中心都市として牽引するメガロポリスには、山東半島、北部湾、中原、哈長、遼中南、山西中部、黔中、滇中、蘭州―西寧、天山北坂があり、「二線メガロポリス」と称することができる。10の二線メガロポリスは、中国のGDPの24.8%を生み出し、常住人口の31.4%が集中し、中国の四分の一の経済規模と三分の一の人口を有する。そのうち、遼中南、山西中部、滇中、蘭州―西寧、天山北坂の5つのメガロポリスは、合計で666万人の非戸籍常住人口を吸収している。しかし山東半島、北部湾、中原、哈長、黔中の5つのメガロポリスは合計で3,715万の人口を流出している。二線メガロポリスの中には、中原、山西中部、黔中、滇中、天山北坂などは、単一のエンジンのメガロポリスである。

 呼包鄂榆、寧夏沿黄は、三線都市を地域中心都市として牽引するメガロポリスであり、「三線メガロポリス」と称することができる。2つの三線メガロポリスは、GDPと常住人口の全国での比重はそれぞれ2%と1.3%に過ぎない。規模こそ小さいが、三線メガロポリスの1人当たりGDPは三大メガロポリスに近く、全国平均の1.53倍に達している。故に、合計231万の流動人口を引き寄せている。2つの三線メガロポリスとも、単一エンジンメガロポリスである。

 東京経済大学の周牧之教授は、「総合偏差値を用いて都市ランクを定量的に定義し、それに基づいてメガロポリスの発展状況を分析することは、〈指標〉の新たな試みであり、都市やメガロポリスのポジションをより客観的に理解するための参考になる」と期待している。

 趙啓正氏は、「〈指標〉を用いてメガロポリスを総合的に分類するアプローチは、革新的な視点である」と評価している。

 明暁東氏は、「今回の〈指標2022〉の発表が早まり、隔年ではなく前年の中国都市の総合発展状況を点検することが出来た。特に〈指標〉の適用領域が拡大し、経済社会生活や環境の多くの側面に及ぶことは注目に値する。都市の総合比較からメガロポリスの総合比較分析、国際トップブランドの消費傾向比較から二酸化炭素排出分析、産業構造比較からグローバルイノベーションクラスター分析などに至るまで、〈指標〉は無限の応用可能性を持っている」と述べる。

 趙啓正氏は、「〈指標2022〉は比較研究の特色をさらに発揮し、都市比較だけでなく、メガロポリスの比較も行われ、各メガロポリスのビジョンを考案するための着眼点を提供している」と強調した。

 楊偉民氏は、「中国経済は巨大経済体としての強靭さを持つ。その強靭さの空間的な担い手は、超大都市、特大都市である。雲河都市研究院の〈中国都市総合発展指標2022〉は、この強靭さを裏付けている。特に創造的なのは、〈指標2022〉が、878の指標を「偏差値」で統一された尺度にし、中国の都市を一線、二線、准二線、三線都市に定量的にランク付したことである。これで一気に中国における都市のランク付の混乱を解決した。〈指標2022〉は、「健康診断報告書」として、都市およびメガロポリスの健康状態を「ランク」で明らかにしている」と総括した。


【中国語版】
中国網『
中心城市引领城市群发展:中国城市综合发展指标2022』(2023年11月30日)

【英語版】
China.org.cn「
China Integrated City Index 2022: Core cities lead development of megalopolises」(2023年12月5日)

中国国務院新聞弁公室(SCIO)「China Integrated City Index 2022: Core cities lead development of megalopolises」(2023年12月5日)

China Daily「China Integrated City Index 2022: Core cities lead development of megalopolises」(2023年12月8日)

他掲載多数

鄭州:iPhone生産とEV産業クラスターとしての中原メガシティ【中国中心都市&都市圏発展指数2021】第16位

中国中心都市&都市圏発展指数2021
第16位


 青島市は中国中心都市&都市圏発展指数2021の総合第16位だった。同市は前年度より順位を1つ下げた。

 〈中国中心都市&都市圏発展指数は、中国都市総合発展指標の派生指数として、4大直轄市、22省都、5自治区首府、5計画単列市からなる36の中心都市の評価に特化したものである。同指数は、これら中心都市を、全国297の地級市以上の都市の中で評価している。10大項目と30の小項目、116組の指標からなる。包括的かつ詳細に、中国中心都市の発展を総合評価するシステムである。

CCCI2017 | CCCI2018 | CCCI2019 | CCCI2020

 

〈中国中心都市&都市圏発展指数〉:【36中心都市】北京、上海、深圳、広州、成都、天津、杭州、重慶、南京、西安、寧波、武漢、青島、鄭州、長沙、廈門、済南、合肥、福州、瀋陽、大連、昆明、長春、ハルビン、貴陽、南昌、石家荘、南寧、太原、海口、ウルムチ、蘭州、フフホト、ラサ、西寧、銀川


中原の中核都市


 鄭州は河南省の省都であり、中原メガロポリスの中核都市である(中原メガロポリスについて詳しくは中心都市がメガロポリスの発展を牽引:中国都市総合発展指標2022を参照)。鄭州は河南省の中北部に位置し、北に黄河、西に嵩山がある。東は開封、南は許昌と平頂山、西は洛陽、北は新郷と焦作の各市と接している。市の総面積は7,567平方キロメートル(熊本県と同程度)で、中国人口規模第11位の都市として約1,283万人を抱える。現在、6区5市1県を管轄し、国家級新区1つ、国家級開発区2つ、国家級輸出加工区1つを有している。

 同市は温帯大陸性季節風気候に属し、四季がはっきりしている。年間平均気温は約15.4℃、年間降水量は約630mmである​​​​。市内には大小124の河川があり、多様な自然地形を有している。

■ 由緒ある文明交流の地


 鄭州は中国古代文明・華夏文明の発祥の地として、古来より文明交流の十字路とされてきた。

 夏、商、管、鄭、韓の各王朝が鄭州に都を置き、隋、唐、五代、宋、金、元、明、清の各王朝が州を設置してきた。鄭州の中心市街地には、3,600年前の商朝の城壁遺跡(鄭州商城)全長7キロメートルが今も残る。市内には、世界文化遺産が2項目15カ所あり(中国第5位)、国家重点文化遺産保護施設87カ所(中国第3位)、省レベル文化遺産保護施設97カ所、市レベル文化遺産保護施設208カ所、国家レベル無形文化遺産6カ所を有している。他にも、裴李崗文化遺跡(約8,000年前)、大河村遺跡(約5,000年前)、打虎亭漢墓、黄帝故里など、多くの古代文化遺跡が散在している。少林寺のある嵩山を始め、黄河文化公園などの自然文化景観も多くの観光客を引き付けている。鄭州の「国内観光客数」は中国第21位である。

 豊かな中原文化は、古代において子産、列子、韓非、杜甫など傑出した人物を輩出している。同市は現在なお「傑出文化人指数」で中国第7位と好成績を誇っている。

■ 鉄道が産んだ大都市


 鄭州駅は1904年に設立され、当初はプラットフォーム1つ、平屋2軒、線路4本しかなかった。1953年に鄭州駅が拡張され、鉄道のハブとなった。鉄道の利便性により1954年に河南省の省都が開封から鄭州へ移転された。これが、鄭州が「鉄道が産んだ都市」と言われる由縁である。

 鄭州は、東西南北交通の要衝として、航空・鉄道・道路からなる巨大な交通ハブとなっている。鄭州駅は中国鉄道の最大級の旅客中継駅で「中国鉄道の心臓」と呼ばれている。同市の「空港利便性」と「航空輸送」は共に全国第13位であり、「鉄道利便性」に至っては全国第1位を誇っている。(詳しくは【ランキング】中国で最も空港利便性が高い都市はどこか?を参照)。

 鄭州は一帯一路の重要な結節点都市でもある。2013年に鄭州は中部地区で初めてヨーロッパへ直通する貨物列車―中欧列車を開通させた。過去10年間でユーラシア40カ国の140以上の都市を繋げた中欧列車(中豫号)が、累計750万トンの貨物を輸送した。


中国都市総合発展指標2021
第19位


 鄭州は〈中国都市総合発展指標2021〉総合ランキング第19位であり、前年度より順位を3つ下げた。

 「社会」大項目は第14位で、前年度の順位を維持した。3つの中項目で「ステータス・ガバナンス」「伝承・交流」は第14位、「生活品質」は第21位だった。小項目で見ると、「人口資質」は第6位、「歴史遺産」は第10位と2項目がトップ10に入った。また、「文化娯楽」は第13位、「消費水準」は第18位と2項目がトップ20に入った。なお、「都市地位」「生活サービス」は第22位、「人的交流」「居住環境」は第28位、「社会マネジメント」は第39位であった。

 「経済」大項目は第17位で、前年度に比べ順位が1つ上がった。3つの中項目で「都市影響」は第14位、「経済品質」は第17位、「発展活力」は第19位で、3中項目のうちトップ10入りした項目はなかった。9つの小項目のうち、トップ10入りした項目はなかったものの、「経済規模」「開放度」「広域中枢機能」は第13位、「広域輻射力」は第14位、「イノベーション・起業」は第19位と、5項目がトップ20に入った。また、「経済構造」「都市圏」は第22位の2項目もトップ30に入った。なお、「ビジネス環境」は第33位、「経済効率」は第43位だった。

 「環境」大項目は第107位であった。3つの中項目のうち「空間構造」は第29位、「環境品質」は第163位、「自然生態」は第222位であった。9つの小項目のうち、「環境努力」は第12位、「都市インフラ」は第18位と、2項目がトップ20に入った。なお、「コンパクトシティ」は第29位、「交通ネットワーク」は第32位、「資源効率」は第102位、「自然災害」は第158位、「気候条件」は第187位、「水土賦存」は第210位、「汚染負荷」は第255位であった。


 〈中国中心都市総合発展指標2021〉について詳しくは、メガシティの時代:中国都市総合発展指標2021ランキングを参照。

 

CICI2016:第26位  |  CICI2017:第21位  |  CICI2018:第18位
CICI2019:第16位  |  CICI2020:第16位  |  CICI2021:第19位


■ ギリシャ一国に匹敵する経済規模


 鄭州は中原地区の経済中心地として、2022年のGDPは1兆2,935億元(約25.9兆円、1元=20円換算)に達し、中国第16位の経済規模を誇る。これは世界第54位のイラクのGDPを超え、世界第53位のギリシャのGDPに匹敵する規模である(詳しくは「【ランキング】世界で最も経済リカバリーの早い国はどこか? 中国で最も経済成長の早い都市はどこか?を参照)。

 金融・医療センターとしての機能も高く、鄭州の「金融輻射力」は中国第7位、「医療輻射力」は中国第9位となっている。鄭州には中国初の先物取引所と、中国初の空港経済区がある​。

鄭州は中国の主要な研究都市として、「科学技術輻射力」は中国第19位である。複数の国家重点大学が存在し、「高等教育輻射力」は中国第15位と高水準である。「大学学生数」と「高等教育教師数」はいずれも中国第3位である(詳しくは【ランキング】科学技術大国中国の研究開発拠点都市はどこか?)。

 中心都市としての鄭州は、外部から人々を吸引し成長している。人口の流出入を示す「流動人口(非戸籍常住人口)」では、河南省内17都市のうち16都市は、外へ人口が流出し、その規模は約2,012万人に達している。中でも、周口、信陽、駐馬店の3都市は、中国で最も人口が流出するトップ3都市であり、同3都市だけで約938万人が外部に流出している。これに対して鄭州は、流動人口が約363万人のプラスである。よって鄭州は中国第11位の人口流入都市となっている。

■ iPhone生産とEV産業クラスターの一大拠点


 鄭州は、世界最大のApple製品の生産基地として名高い。最近、EV生産にも力を入れている。

 鄭州はBYDの中高級車種の重要な生産基地であり、2023年11月、BYDの第600万台目のEVが鄭州で生産された(詳しくは【ランキング】自動車大国中国の生産拠点都市はどこか?を参照)。

 内陸都市でありながら、鄭州の「製造業輻射力」は中国第20位で高い(詳しくは【ランキング】中国で最も輸出力の高い都市はどこか?を参照)​。

■ エンタメ都市としての台頭


 鄭州のコンテンツ産業も盛んである。2021年、河南衛星テレビの春晩(旧正月を祝う中国の国民的年越し番組)には、ダンス番組「唐宮夜宴」が全国を席巻した。その後、同テレビ局の「端午の不思議な旅」や、水中ダンス番組「祈」も大ヒットした。

 「唐宮夜宴」は、河南博物院が所蔵する唐代の舞楽佣から着想を得たことで、河南博物院も注目を集め、多くの観光客が訪れている。

 エンタメ都市としても名を上げつつある鄭州は、「文化・スポーツ・娯楽輻射力」で中国第15位であり、「映画館・劇場消費指数」は中国第14位である(詳しくは【ランキング】世界で最も稼ぐ映画大国はどこか?を参照)。

■ 黒川紀章設計の市街地が魅力


 鄭州東部に建設中の150万人都市「鄭東新区」の設計には、日本を代表する建築家・黒川紀章氏の案が採用されている。「鄭東新区」の設計案は2003年に実施された国際設計コンペによって決定されたもので、黒川氏は計画面積1.5万ヘクタールのマスタープランとCBD地区の詳細設計を担当した。生態回廊や水路都市などの人間と自然との共生といった基本コンセプトが、同市の新市街地の魅力を形作っている。


長沙:エンタメ・グルメのニューメガシティ【中国中心都市&都市圏発展指数2021】第15位

中国中心都市&都市圏発展指数2021
第15位


 青島市は中国中心都市&都市圏発展指数2021の総合第15位だった。同市は前年度より順位を1つ上げた。

 〈中国中心都市&都市圏発展指数は、中国都市総合発展指標の派生指数として、4大直轄市、22省都、5自治区首府、5計画単列市からなる36の中心都市の評価に特化したものである。同指数は、これら中心都市を、全国297の地級市以上の都市の中で評価している。10大項目と30の小項目、116組の指標からなる。包括的かつ詳細に、中国中心都市の発展を総合評価するシステムである。

CCCI2017 | CCCI2018 | CCCI2019 | CCCI2020

〈中国中心都市&都市圏発展指数〉:【36中心都市】北京、上海、深圳、広州、成都、天津、杭州、重慶、南京、西安、寧波、武漢、青島、鄭州、長沙、廈門、済南、合肥、福州、瀋陽、大連、昆明、長春、ハルビン、貴陽、南昌、石家荘、南寧、太原、海口、ウルムチ、蘭州、フフホト、ラサ、西寧、銀川


「星城」長沙


 長沙市は湖南省の省都であり、「星城」と称される。同市は東に江西省の宜春、萍郷、西に娄底、益陽、南に株洲、湘潭、北に岳陽と隣接し、長江中流域の重要な地域中心都市である。また、米どころ・魚どころである。北京を始めとする中国の都市は長い歴史の中で、さまざまな理由により都市の中心地が変動してきた。そうした中、長沙は、三千年にわたって都市の位置が変わらない「楚漢名城」である。

 長沙の総面積は11,819平方キロメートルにおよび、15のニューヨーク、11の香港、6つの深圳に相当する広さである。中国国内では第157位の規模であり、日本では秋田県と同等の大きさである。

 2022年末の常住人口は1,042万人で、ニューヨークを上回り、スウェーデンの全人口を超えるメガシティである。中国国内では第16位の人口規模である。

 同年のGDPは1.4兆元(約20.8兆円、1元=20円換算)に達し、中国第15位の経済規模がある。これはスリランカのGDPに匹敵する規模である(詳しくは「【ランキング】世界で最も経済リカバリーの早い国はどこか? 中国で最も経済成長の早い都市はどこか?を参照)。

歴史の深さ、継続する文脈、名人の輩出


 長沙は、その長い歴史と豊かな文化資源で知られる。特に、「岳麓書院」は、宋、元、明、清の四つの王朝を経て、現在の湖南大学につながり、世界で最も古い高等教育機関の一つとして人材を輩出し続けている。毛沢東を始め曽国藩、左宗棠ら中国の近代史を形作った偉人が岳麓書院から大勢出ている。まさに岳麓書院正門に掲げられた「惟楚有才,于斯為盛(楚に人材あり、ここに集まる)」という対聯の通りである。

 現在、長沙には23の大学と37の専門学校から成る60の高等教育機関がある。湖南大学、中南大学、国防科学技術大学、湖南師範大学の4校は、国家重点大学「211大学」に含まれ、うち3校は「985大学」に名を連ねる名門校である。

 現在、同市の高等教育能力の高さを示す「高等教育輻射力」は中国第7位である。

 歴史上、長沙生まれ或いは長沙で活躍した傑出人物は数多い。前漢の思想家・文学家である賈誼、唐代の書家・文学家の欧陽詢。近代では画家・齊白石、辛亥革命先駆者の黄興、蔡鍔、文学者の周立波、周楊ら多くの著名人を生んでいる。

 同市は現在なお「傑出文化人指数」で中国第13位、「傑出人材輩出指数」で中国第22位と、好成績を誇っている。

人 材に活躍の場を与える長沙は、外からも人々を吸引し成長している。人口の流出入を示す「流動人口(非戸籍常住人口)」では、湖南省内13都市のうち12都市は、外へ人口が流出し、その規模は約845万人である。これに対して長沙は、流動人口が約264万人の大幅プラスである。よって長沙は中国第14位の人口流入都市となっている。

 住宅価格を低く抑える政策も独特である。中国の省都の中でも長沙の住宅価格は最も低い水準にある。これも、長沙の人口吸入力になっている。長沙は現在、「幸福感都市認定指数」で、杭州、成都と並び、中国第1位の都市である。


中国都市総合発展指標2021
第15位


 長沙は〈中国都市総合発展指標2021〉総合ランキング第15位であり、前年度の順位を維持した。

 「社会」大項目は第13位で、前年度に比べ順位が1つ下がった。3つの中項目で「生活品質」は第12位、「ステータス・ガバナンス」は第13位、「伝承・交流」は第17位だった。小項目で見ると、「居住環境」は第9位とトップ10に入った。また、「消費水準」は第12位、「生活サービス」は第13位、「文化娯楽」は第14位、「人口資質」は第15位、「人的交流」は第18位、「都市地位」は第19位と、6項目がトップ20に入った。なお、「社会マネジメント」は第26位、「歴史遺産」は第97位であった。

 「経済」大項目は第16位で、前年度に比べ順位が1つ上がった。3つの中項目で「経済品質」は第15位、「発展活力」は第17位、「都市影響」は第18位で、3中項目のうちトップ10入りした項目はなかった。9つの小項目のうち、トップ10入りした項目はなかったものの、「イノベーション・起業」は第13位、「ビジネス環境」「広域輻射力」は第14位、「経済構造」「広域中枢機能」は第17位、「経済規模」は第18位、「開放度」は第20位、と、7項目がトップ20に入った。なお、「経済効率」は第21位、「都市圏」は第25位と2項目もトップ30内に入り、同市の経済力は各指標ともにバランス良かった。

 「環境」大項目は第25位で、前年度より順位を5つ上げた。3つの中項目のうち「空間構造」は第25位、「環境品質」は第26位、「自然生態」は第105位であった。9つの小項目のうち、「資源効率」は第5位と、トップ10入りした。また、「環境努力」は第11位、「都市インフラ」は第15位と、2項目がトップ20に入った。なお、「交通ネットワーク」は第23位、「コンパクトシティ」は第30位、「自然災害」は第35位、「気候条件」は第97位、「水土賦存」は第184位、「汚染負荷」は第193位であった。


 〈中国中心都市総合発展指標2021〉について詳しくは、メガシティの時代:中国都市総合発展指標2021ランキングを参照。

CICI2016:第18位  |  CICI2017:第15位  |  CICI2018:第15位
CICI2019:第15位  |  CICI2020:第15位  |  CICI2021:第15位


バラエティのリーダー・湖南衛星テレビ


 「湖南衛星テレビ」は、もともと「湖南テレビ局」という名称であったが、1997年に衛星放送を開始して以来、「湖南衛星テレビ」として知られるようになった。マンゴーを模したロゴから「マンゴーチャンネル」という愛称で親しまれ、現在では湖南文化や長沙を象徴する存在となっている。

 このテレビ局は、常に新しい分野を切り開き、全国の他のテレビ局の一歩先を進んでいる。番組の視聴率は、省レベルの衛星テレビ局の中で常にトップを走っている。20年以上にわたって人気を博している「快楽大本営」や、オーディション番組の「スーパーガール」など、多数のヒットバラエティ番組やエンターテイメント作品が生まれた。これらの番組は、SNSで話題となり、特に「スーパーガール」や「快楽男声」は、20年前から中国の若い消費層にトップレベルのエンターテイメントを提供している。

 湖南衛星テレビは、人気バラエティ番組を多数製作するだけでなく、優れた司会者、俳優、歌手を輩出している。何炅、汪涵、謝娜、李宇春など人気タレントが名を連ねている。

 エンタメ都市として名高い長沙は、「文化・スポーツ・娯楽輻射力」で中国第12位であり、「映画館・劇場消費指数」は中国第11位である(詳しくは『【ランキング】世界で最も稼ぐ映画大国はどこか?』を参照)。

■ グルメとインフルエンサーの都市


 長沙は現在、「インフルエンサー都市」と呼ばれる。長沙は優れた自然環境と、長い歴史と文化を背負った美食の都市でもある。湖南衛星テレビの積極的な宣伝が功を奏し、湖南料理が、全国的に根を張り巡らせた。SNSの時代となり、大勢のインフルエンサーが長沙の食の魅力を広げている。

 長沙には、小龍蝦(ザリガニ)、臭豆腐、米粉(ビーフン)といった、独特で多様なグルメが存在する。中国一辛いと言われる「湖南料理」が、多くの観光客を魅了している。ミルクティー業界のスタバとも言われる「茶顔悦色」が2013年に設立され、長沙の新しいグルメの象徴的な存在となった。

 長沙は眠らないエンタメ都市としても有名であり、ナイトエコノミーが、多くの観光客を引き寄せている。

 交通の便も観光都市長沙へのアクセスを容易にしている。「鉄道利便性」が中国第7位、「空港利便性」が中国第15位と、交通の便が高いことも魅力のひとつとなっている(詳しくは【ランキング】中国で最も空港利便性が高い都市はどこか?を参照)。

 観光都市・長沙の「卸売・小売輻射力」は中国第13位、「ホテル・レストラン輻射力」は中国第18位である。

■ 強い機械産業を持つ


 長沙はソフトパワーだけでなく、製造業も優れている。長沙には、三一重工、中聯重科、鉄建重工、山河智能といった世界トップクラスの機械製造企業を擁している。長沙の「製造業輻射力」は中国第36位である(詳しくは「【ランキング】中国で最も輸出力の高い都市はどこか?を参照)。

 併せて、研究開発も活発であり、「科学技術輻射力」は、中国第15位である。国家を代表する研究者の排出数を示す「中国科学院・中国工程院院士指数」は第15位と、ここでも人材の豊富さを窺わせる(詳しくは『【ランキング】科学技術大国中国の研究開発拠点都市はどこか?』)。